有価証券報告書における 地球温暖化問題に関する開示事例

研究所活動状況
有価証券報告書における
地球温暖化問題に関する開示事例
松苗 茂樹
総合ディスクロージャー研究所 黒須 悠子
総合ディスクロージャー研究所 主任研究員 総合ディスクロージャー研究所では、平成22年2月より「気候変動に関するディスクロージャー研究会」
を開催し、気候変動に関連する制度開示、任意開示のあり方を議論しているところです。
本稿は、当研究所の松苗主任研究員から同研究会に対する報告を基に、「有価証券報告書における地球温
暖化問題に関する開示事例」の要約を取りまとめ、改めて執筆したものです。
-動向と課題-」
(平成22年3月24日)など、有
1.はじめに
地球温暖化 問題 が会社にとって重要なリスク、
1
2
経営上の課題等として認識されつつあるなか、これ
らが将来の財政状態、経営成績、キャッシュ・フ
価証券報告書において、地球温暖化問題に関する情
報開示を促す報告書が公表されています。
最近の地球温暖化問題に対する関心の高まりや、
ローに重要な影響を与えることになると、投資家向
上述の報告書の影響もあり、現行の金融商品取引法
け開示である有価証券報告書において開示されるこ
の枠内で地球温暖化問題に関する情報を有価証券報
とになることも想定されます。この点については、
告書において開示している、もしくは、開示を考え
日本公認会計士協会からは、
「我が国における気候
て い る 会 社 も 多 く あ る と 思 わ れ ま す。 そ こ で、
変動リスクに関わる投資家向け情報開示― 現状と
2010年3月期の上場会社の有価証券報告書の中か
課題 ―」
(平成19年5月16日)
、
「投資家向け制度
ら、地球温暖化問題に関する具体的な記載事例をい
開示書類における気候変動情報の開示に関する提
くつかご紹介したいと思います。
言」
(平成21年1月14日)
、
「気候変動情報開示に
なお、本稿のなかで、意見にわたる部分について
関するQ&A」
(平成21年5月19日)、「投資家向け
は、筆者の私見であることを最初にお断りしておき
制度開示におけるサステナビリティ情報の位置付け
ます。
図 有価証券報告書における地球温暖化問題に関する情報開示の必要性のイメージ
温暖化等の気候変動の脅威は消えず、世界で被害が拡大
世界の流れとして、CO2をはじめとする温室効果ガス削減は必須
会社はCO2削減に対応しないと中長期的には存続できないかもしれない?
もしくは、中長期的には、企業価値が下がる可能性がある? CO2削減義務化の可能性がある
会社の将来の財政状態、経営成績、キャッシュ・フローに与える影響が大きい
CO2削減には多大なコストがかかることが予想される
もしくは、将来のビジネスチャンスになる 投資家は、
地球温暖化問題に
対応している会社を
評価し投資する?
投資家は会社に重要な影響がある場合、情報を知りたい
情報の非対称性を解消する必要性
温暖化への各社の
対応が株価に影響?
地球温暖化とは、地球表面の大気等の平均温度が長期的に見て上昇する現象を言います。地球温暖化の主たる原因は、人為的な
1
温室効果ガスであると考えられています(国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発行した第4次評価報告書(AR4)
参照)。温室効果ガスの代表的なものが二酸化炭素(CO2)です。
本稿において地球温暖化問題という言葉は、気候変動問題と同一の意味で使用しています。
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2.開示事例の調査方法
(1)対象会社、キーワード
2010年3月期の上場会社の有価証券報告書について、以下のキーワードをEDINETで検索し、該当した
箇所を基に、地球温暖化問題に関する記載がなされているか否かを調査しました。
①排出 ②温暖化 ③地球 ④温室効果 ⑤CO2 ⑥二酸化 ⑦環境 ⑧京都議定書 ⑨COP15 ⑩気
候変動 ⑪カーボン ⑫低炭素 ⑬エコ ⑭ECO ⑮省エネ ⑯省電力 ⑰再生可能エネルギー ⑱石油
代替エネルギー ⑲スマートグリッド ⑳LED グリーン リチウム モーダルシフト クリー
ンエネルギー エネルギー使用の合理化に関する法律 自然エネルギー バイオマス フロン 太陽光 LPガス バッテリー 風力発電 リサイクル
(2)調査項目
有価証券報告書における、
「対処すべき課題」
「事業等のリスク」
「研究開発活動」の各項目を調査しました。
3.各記載項目別の記載事例3の紹介
ア.対処すべき課題
(1)
「対処すべき課題」の記載上の注意と考えられる記載内容
企業内容等の開示に関する
内閣府令の記載上の注意
最近日現在における連結会社(連結財務諸表を作成していな
い場合には提出会社)の事業上及び財務上の対処すべき課題
について、その内容、対処方針等を具体的に記載すること。
記載上の注意に基づいて
考えられる記載内容
①地 球温暖化の防止や気候変動に対応するため、会社とし
て行っていく方針、体制
②温 室効果ガス、CO2削減のための課題、実施していくこ
と、投資内容
対処すべき課題
(2)具体的な記載事例
① CO2排出量削減目標を具体的に記載
A社(東証1部:電機機器)
[SEC基準]〈生物多様性もあり〉
気候変動について、エネルギーの使用を削減し、温室効果ガスの排出ゼロをめざす。
(略)
生物多様性について、事業活動と地域社会貢献活動を通じて、生物多様性の維持・回復を推進する。
上記目標のうち、気候変動については、具体的には下記を含む中期目標を設定しています。
○○グループ全体の事業所から排出されるCO2換算温室効果ガスの絶対量を、2015年度までに2000年
度比で30%削減をめざす。
製品の消費電力を2015年度までに2008年度比で一台当たり30%削減をめざす。
B社(東証1部:海運業)
(2)環境問題への取組み
当社グループは、環境保全を経営の最重要課題のひとつとして捉え、平成25年までに平成18年度比原単
位で最低10%のCO2削減を目標とし、平成20年に環境特命プロジェクト"○○○"を発足しました。
CSR(企業の社会的責任)経営は中期経営計画の基本戦略を支える基盤であり、「健全で透明性の高い企業
経営」
・
「安全の確保と環境活動」
・
「誇りを持って働ける職場づくり」が柱です。
「健全で透明性の高い企業
経営」については、内部統制及びコンプライアンス遵守体制の強化に努めます。
「安全の確保と環境活動」
は最重要課題であり、安全面では船舶の安全運航のための意識向上及び事故防止手順の確立、環境面では
船舶・非船舶を問わず地球温暖化ガス排出削減に取り組みます。
本稿において転記した記載事例は、各項目から必要と思われる部分を抜粋したもので、具体的な社名が分かる部分等は○○とい
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った表現に改めています。また、下線は筆者が加筆したものです。
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C社(東証1部:その他製品)
(3)会社の支配に関する基本姿勢
② 取り組みの具体的内容
・CSR活動の強化
当社グループでは、環境マネジメントの強化を目指し、中期的なグループ環境目標として、グループの各
事業所から排出する二酸化炭素(CO2)を平成24年3月期までに5.4%削減(平成21年3月期比)する
ことを目指しております。
D社(東証1部:食料品)
(5)企業の社会的責任への取組み
地球温暖化の防止に向けたCO2排出量削減につきましては、「京都議定書目標達成計画」に沿い、平成22
年度までに平成2年度比で8.6%削減する自主目標を設定しております。また、その目標達成に向けて当社
グループのCO2削減を効果的に進める仕組みとしてグループ内排出権取引を平成20年度から開始しまし
た。さらに、当初、事業場ごとに取得していた環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001認証を、
一昨年9月に当社グループとして一括取得しました。
E社(東証1部:陸運業)
① 「環境保全」のための取組み強化
「鉄道でエコキャンペーン」をはじめとする各種キャンペーンやPR活動を強化するとともに~など、引き
続き自家用車から環境に優しい鉄道・バス利用への転換を促進してまいります。また、護摩壇山における森
林育成事業(なんかいの森づくり)の推進や沿線エリアにおける緑化事業の支援を通じて、地域社会と協働
で環境保全活動に取り組むほか、太陽光発電システムの設置駅の拡充や省エネ型鉄道車両及び低公害バス
の導入を進めるなど、すべての事業活動において「環境負荷の軽減」をはかると同時に、CO2排出量を平
成19年度比で3%削減することを目標としております。
② 自社の製造プロセスと販売する製品についてのCO2削減を両方記載
F社(東証1部:電気機器)
環境対応においては、製造プロセスでのCO2排出量削減に加えて、当社商品の販売を通じてCO2削減への
貢献を進めてまいります。
③ CDMについて記載
G社(東証1部:建設業)
環境への取り組みにつきましては、植林や森林管理、CDM(※)事業に関する独自のノウハウやネットワー
クを最大限に活用し、新たな環境ビジネスモデルの構築に取り組んでまいります。
(※)CDM(Clean Development Mechanism)
先進国の資金と技術を利用して途上国において温室効果ガス排出量削減事業を実施し、その削減量を先進
国の削減量としてカウントする方法。
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(3)
「対処すべき課題」に関する調査コメント
であったか、目標達成するための見通し等の具体
調査の結果、
「対処すべき課題」では、CO2削
的な分析の記載はありませんでした。現行の金融
減目標を具体的に記載している事例が見られまし
商品取引法の枠組みではCO2削減目標に対する
た。ただし、CSR報告書、環境報告書等の任意
詳細な分析を記載することは困難と考えられま
開示で見られるような、目標に対して実績がどう
す。
イ.事業等のリスク
(1)
「事業等のリスク」の記載上の注意と考えられる記載内容
企業内容等の開示に関する
内閣府令の記載上の注意
a届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事
項のうち、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状
況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、
特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等
の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、
投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一
括して具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載するこ
と。
記載上の注意に基づいて
考えられる記載内容
①地 球温暖化、CO2排出に関する規制や気候変動が、会社
の経営成績や財政状態に重要な影響を与えるといった規
制等リスク
②地 球温暖化によって、事業所等が物理的な損害を受ける
といった物的リスク
③地 球温暖化問題に適切に対応しないことにより、社会か
ら会社、商品の評判が悪くなるといったレピュテーショ
ン・リスク
事業等のリスク
(2)具体的な記載事例
① 改正東京都環境確保条例等の規制リスクについて記載
H社(ジャスダック:サービス業)
(2)経営成績の変動要因について
① ビルメンテナンス業界の市場環境について
(略)一方、世界規模での環境負荷低減が求められ、日本国内においても、2009年に施行された改正省エ
ネ法や2010年4月施行の改正東京都環境確保条例などの規制が強化され、これに対応できないビルメン
テナンス業者は淘汰されかねません。
I社(東証1部:電機機器)
[SEC基準]〈レピュテーション・リスクあり〉
○○は、気候変動問題は適切な対応や環境活動などが行われなかった場合において、経営に対する潜在
的なリスクを有すると考えています。気候変動問題は、温室効果ガス排出量に関する開示、温室効果ガス排
出削減、炭素税や電気製品の省エネなどに関する新しい法規制や政策による追加的な費用増に結びつく可
能性があると認識しています。また、既に日本においては物流におけるエネルギー消費量と二酸化炭素排出
量の合理化に努める義務を一定の荷主に負わせる法規制が導入されており、他国でも近い将来において類
似した法規制が導入される可能性があります。さらに、排出量のキャップ&トレード制度(例えば、東京都
の「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」など)が今後○○の事業所に適用され、それにとも
なって対応コストが増加する可能性があります。これは東京都にとどまらず、近い将来、他の地域又は国に
おいても新たに同様のキャップ&トレード制度が設けられる可能性があり、さらなるコスト増が見込まれ
ます。加えて、消費者の関心が高まっている気候変動問題に対して、適切な対応を取ることができなかった
場合、○○の評判が傷つけられ、消費者が製品の購入にあたって、○○製品ではなく、他社製品を選択す
るリスクがあります。
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② レピュテーション・リスクについて記載
J社(東証1部:電機機器)
⑬ 環境問題に関するリスク
当社グループは、地球温暖化、大気汚染、産業廃棄物、有害物質の規制強化、土壌汚染等、多様化・複合
化する環境問題に対して、環境負荷の低減に努めておりますが、今後、当社グループの事業活動に関連し
て、過失の有無にかかわらず環境問題に対して法的、もしくは社会的責任を負う可能性があり、そのよう
な事態が生じた場合、その対応のために多額の費用負担が発生する可能性や、当社グループの社会的信用
の低下を招く可能性があります。
③ 物的リスクについて記載
K社(東証1部:電気機器)
[SEC基準]
災害等による影響
当社グループの本社および製造、販売、研究開発等の主要な拠点は日本にあるほか、調達、製造、物流、
販売、研究開発拠点等は世界中に展開しています。地震、火災、洪水等の災害(気候変動の進行によって発
生するものも含む)や戦争、テロ行為、コンピューターウイルスによる攻撃等が起こった場合やそれにより
情報システムおよび通信ネットワークの停止または誤動作などが発生した場合に、当社グループの拠点の
設備が大きな損害を被り、その一部の操業が中断し、生産・出荷が遅延する可能性および損害を被った設
備の修復費用が発生する可能性があります。
④ 地球温暖化の影響に伴う異常気象や自然災害等による業績への影響を記載
L社(東証1部:食料品)
(7)原材料価格変動の影響
当社グループの使用する主要な原材料ならびに重油等のエネルギー原料には、その価格が市場の状況によ
り変動するものがあります。地球温暖化に伴う天候不順による農作物の不作やエタノール需要拡大による穀
物価格の上昇などに加えて、これらが投機的取引の対象となることもあり、従来に比べて原材料価格変動
要因が増加してきております。
M社(東証1部:保険業)
(2)自然災害の発生による多額の保険金支払のリスク
台風や地震等の自然災害による損害はときに巨額になることから、当社グループでは、再保険の利用や異
常危険準備金の積み立てによってこれらの損害に備えておりますが、地球温暖化の影響等に伴う異常気象
やその他予想を超える巨大な自然災害が発生する可能性があり、これらに係る多額の保険金の支払いによ
り業績が悪化するリスクがあります。
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⑤ 排出量取引制度に言及
N社(東証1部:卸売業)
(20)気候変動は当社及び連結子会社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
京都議定書が発効していることなど、気候変動や地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの削減を目的と
した取組みが世界的に進められています。こうした取組みのうち、環境税やキャップ・アンド・トレード型
の排出権取引制度に代表される温室効果ガス排出規制は当社及び連結子会社が出資する海外発電事業など
化石燃料を使用し、温室効果ガス排出量が多い事業の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
O社(東証1部:空運業)
(10)環境規制に関わるリスク
近年、地球環境保全の一環として、航空機による温暖化ガスの排出量、環境汚染物質の使用ならびに処理、
主な事業所におけるエネルギー使用等にかかわる数多くの法規制が導入、または強化されつつある。当社グ
ループは、これらの法規制を遵守するための多額のコストを負担しているが、現状の規制のさらなる強化、
EU域内排出量取引制度、環境税等の新たな規制が導入された際には、さらに多額の追加的費用を負担し
なければならない可能性がある。
⑥ 京都メカニズム活用における排出クレジット価格の変動リスクを記載
P社(東証1部:電機・ガス業)
(5)環境問題への対応
当社グループは、環境問題への取り組みを経営の最重要課題の一つと捉え、環境行動計画を策定し、積極
的に取り組んでいる。特に、地球温暖化問題については、温暖化防止に向けた枠組み等に関する議論が国内
外で活発化しているが、当社グループは、CO2排出原単位の低減等に向け、電源のベストミックスを目指
した原子力発電の開発を推進するとともに、京都メカニズムの活用等により、目標の達成に取り組んでい
る。
しかし、今後の国内外の議論の動向や、京都メカニズム活用における排出クレジット価格、外国為替相場
の変動により、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。
(3)
「事業等のリスク」に関する調査コメント
調査の結果、規制等リスク、物的リスク、レピ
ュテーション・リスクの全ての記載事例を確認で
きました。記載の中心は規制等リスクです。
ウ.研究開発活動
(1)
「研究開発活動」の記載上の注意と考えられる記載内容
企業内容等の開示に関する
内閣府令の記載上の注意
最近連結会計年度等(連結財務諸表を作成していない場合に
は最近事業年度等)における研究開発活動の状況(例えば、
研究の目的、主要課題、研究成果、研究体制等)及び研究開
発費の金額を、セグメント情報に関連付けて記載すること。
記載上の注意に基づいて
考えられる記載内容
地球温暖化、気候変動問題を念頭に置いているのではない
かと考えられる以下のような研究開発の状況及び成果の記
載
・温室効果ガス、CO2削減
・自然エネルギー
・省エネに貢献する製品
・LED製品の開発
・植林、緑化
・リサイクル
研究開発活動
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(2)具体的な記載事例
① 製品使用時、生産過程のCO2排出量削減の目標、効果、実績等の定量的情報を記載
Q社(東証1部:輸送用機器)
「環境への貢献」として、2009年に発表した「環境ビジョン2020」に掲げた目標である製品使用時の
CO2排出量の半減(2005年比)を実現すべく、環境対応技術を重視した開発を進めている。特にパワー
エレクトロニクス技術に関しては積極的な開発を行っており、2009年7月には他社に先駆けて新世代電気
自動車『△△』を市場投入した。走行中のCO2排出量がゼロである電気自動車は究極の環境対応車と位置
づけており、グローバルに展開拡大を図る考えである。また、
『△△』の技術を活用して、長距離走行と環
境性能を両立させたプラグインハイブリッド車の開発も進めている。
R社(東証1部:機械)
(1)新機種開発
また、
「□□コンセプト」適用により、環境室温が8℃変化しても、経時熱変位を20μm以下に抑制して、
普通の工場環境で、クラス最小の経時熱変位を実現いたします。電力消費量が大きい恒温室が不要となるこ
とにより、
「○○」を2台設置した小規模な工場で試算した場合、年間約340万円のコスト削減、約
130tonのCO2削減というエコノミー、エコロジー効果も発揮いたします。
S社(東証1部:鉄鋼)
(4)エンジニアリング
・自動車業界向け真空浸炭設備のエコ性能実証
当社は、平成21年3月に自動車メーカーに真空浸炭炉「△△」の第1号機を納入し、約1年間にわたる操
業実績の結果、ガス浸炭炉から「△△」への更新により、CO2排出量約50%削減と要員1人あたり約3倍
の生産性向上が実証されました。本性能から試算すると、国内に存在するガス浸炭炉(連続炉 約250基、
バッチ炉 約1600基)を「△△」へ更新した場合には、年間約43万トンのCO2排出量削減という非常に
高い効果が見込めます。
T社(東証1部:建設業)
(1)環境エネルギー関連
②当社新本社に採用する最新環境技術の開発・実用化
現在建設中の当社新本社ビルに,全面輻射天井パネルなどを使った空調システム,太陽光を最大限に利用す
る照明システムなどの最新環境技術を採用することで,運用段階のビルのCO2排出量を50%以下に削減す
る「カーボンハーフ」を実現し、国内最高クラスの環境対応オフィスとする。また,これらの最新環境技術
を体感できる施設として「超環境型オフィス・ラボ」を開設し公開している。
(3)
「研究開発活動」に関する調査コメント
「対処すべき課題」と同様に、CO2削減に関す
において、地球温暖化問題に関して、具体的にどの
ような情報が開示されているかを調査しました。
る定量的な記載が見られました。ただし、研究開
当該調査はキーワードに基づいて行いましたが、
発におけるCO2削減の定量的な記載は、会社グ
「事業等のリスク」
「対処すべき課題」
「研究開発活動」
ループ全体の削減といったものではなく、個別の
以外の記載箇所、例えば、
「業績等の概要」「コーポ
製品、技術に関するものが目立ちました。
レート・ガバナンスの状況」等においても地球温暖
化問題に関する記載が見られました。ただ、それら
4.むすび
2010年3月期の上場会社の有価証券報告書の
「事業等のリスク」
「対処すべき課題」
「研究開発活動」
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の記載は「事業等のリスク」
「対処すべき課題」「研
究開発活動」に集中しています。
記載箇所はさておき、地球温暖化問題が会社にと
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って重要なリスク、課題となっているのであれば、
けた活動をしていると読むのは困難と考えられま
適切な箇所で投資家等に情報提供されるべきと考え
す。もし、一般投資家等に対して、会社が地球温暖
られます。
化防止に貢献していることを伝えたいのであれば、
記載事例の中には、
「環境問題へ対応するため」
例えば、「環境関連は成長分野であり、LED製品の
といった漠然とした記載で、地球温暖化問題に関す
販売を増大し収益改善を図るとともに、これを通じ
る記述なのかが不明なものや、
「省エネ、省電力、
て地球温暖化を防止し持続可能な社会に貢献する」
低燃費に貢献する製品を開発」といった間接的、結
といった記載にすることが必要と考えます。
果的に地球温暖化問題について記載しているのでは
ないかと考えられる事例も見られました。
なお、記載事例の中にはCO2の削減目標の記載
など、具体的に定量的な情報を記載している事例も
また、地球温暖化問題に対する記載をしているか
見られました。しかし、現行の開示のレベルでは、
否かの判断がし難い記載も見られました。これは、
投資家等が将来、会社にどのような財務的な影響が
一般投資家から見れば地球温暖化問題に関する記述
あるかどうかなどを判断することは不可能です。こ
とは思えませんが、作成者の立場からすれば地球温
の点については、CO2排出量の算出方法、集計範
暖化の視点から書いている可能性がある記載です。
囲の決定、財務的な影響を算出するための指標の開
例えば「今後環境事業は成長分野であり、LED関
発、虚偽記載との関係など課題は山積みです。
連の環境製品の拡販に力を入れる」といった記載が
最後に、有価証券報告書における地球温暖化問題
あります。作成者の立場からすれば環境事業はそも
に関する開示は、実際に事例として存在するもの
そも、収益面だけではなく、地球環境保全を前提と
の、開示レベルは様々であり、実務慣行として十分
した事業であり、LEDは省エネに貢献するのであ
定着している状況ではないと思われます。地球温暖
るから、その販売を拡大することにより、結果とし
化問題に関する開示をより充実させていくために
て、地球温暖化防止に貢献していることを記載して
は、企業内容等の開示に関する内閣府令の各項目の
いるという意識があるかもしれません。しかし、当
記載上の注意において、ルールを定めこれらに係る
該事例から、一般投資家等が、地球温暖化防止に向
記載を促すような改正が必要と考えます。
〈参考資料等〉
「我が国における気候変動リスクに関わる投資家向け情報開示― 現状と課題 ―」(平成19年5月16日 日本公認会計士協会)
「投資家向け制度開示書類における気候変動情報の開示に関する提言」
(平成21年1月14日 日本公認会計士協会)
「気候変動情報開示に関するQ&A」(平成21年5月19日 日本公認会計士協会)
「投資家向け制度開示におけるサステナビリティ情報の位置付け-動向と課題-」(平成22年3月24日 日本公認会計士協会)
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