ー話題のアルゴリズム、 通信について概説ー

量子コンピュータ
ー話題のアルゴリズム、
通信について概説ー
㈱アーク情報システム 一橋 修二
JSIA技術調査研究会 2007年9月18日
目次
•量子コンピュータ誕生
•量子の性質
•量子ビット、ゲート
•量子コンピュータ実現の条件
•量子アルゴリズム
•量子鍵配布
•量子テレポーテーション
•まとめ
Copyright © 2007 ARK Information Systems. All Rights Reserved.
1
量子コンピュータ誕生(1)
•シリコンデバイスの微細化は限界に近づいている。
量子効果が出てきて既存の物理(古典物理)で対
応できない。
•量子を積極的に利用し、新しい原理(量子力学)
に基づく コンピュータを作ることが出来るか
•1985年ファインマン(Feynman) により量子力学
に基づくコンピュータ(量子コンピュータ)に関する
講義( Feynman lectures on computaion)が行わ
れた。
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2
量子コンピュータ誕生(2)
•1985年ドイチュ(Deutch) は量子の重ね
合わせ状態を用いることにより莫大な並列
計算が可能なのではないかと気づいた。
•1992年ドイチュとジョサ(Jozsa)は量子計
算(量子アルゴリズム)が通常の計算より
早いという問題を発見した。
(ドイチュ−ジョサのアルゴリズム )
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量子の性質
○粒子と波の性質を併せ持つ
○重ね合わせの状態
・複数の異なるエネルギー状態を同時にもつ
・観測するとそのうちの一つの状態になる
○絡み合い状態(エンタングルメント)
・どんなに離れていても一方の状態を決めと
瞬時に他方の状態が決まる(非局所性)
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量子ビット(キュービット)(1)
•ビットの代わりに量子ビット(Quantum Bit:
Qubit)を使う。
•0と1の重ね合わせ状態(ψ)が表現できる。
|ψ> = α|0> +β|1>
|・>は量子状態
α、βは複素数で振幅の二乗は確率を表す。
|α|2 + |β| 2 = 1
つまり、 |0> と|1> が位相差がなく等割合の重
ね合わせであれば
|ψ> = (1/2)1/2|0> + (1/2) 1/2|1>
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量子ビット(2)
•量子ビットの状態は図のように球上の
点で表される。
|0>
z
y
2-1/2(|0>+|1>)
x
|1>
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量子ゲート(1)
•論理回路に対応して量子論理回路(ゲート)
を考える。
•任意の回路が構成できる基本ゲートとして
以下のものがある。
①回転ゲート
②制御NOTゲート
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量子ゲート(2)
•回転ゲート
下図はy軸周り180度回転(NOTゲート)
z
z
|0>
y
x
y
x
|1>
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量子ゲート(3)
•制御NOTゲート
重ね合わせ状態を別の重ね合わせ状態にする。
ー> 絡み合い状態となる
制御ビットが|1>のとき標的ビットを反転
制御ビット |a>
標的ビット |b>
|a’
> |b’
>
|a’
>
|a> |b>
|0> |0>
|0> |0>
|b’
>
|0> |1>
|1> |0>
|1> |1>
|0> |1>
|1> |1>
|1> |0>
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量子コンピュータ実現の条件
①量子ビットを初期化可能であること
②量子ビットの観測(読み出し)ができること
③基本ゲートを構成できること
回転ゲート、制御NOTゲート
④量子ビット数が増えたとき規模や動作回数が
急速に増大しないこと
⑤コヒーレンス時間が十分長いこと
重ね合わせ状態が演算中維持できること Copyright © 2007 ARK Information Systems. All Rights Reserved.
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量子アルゴリズム
•重ね合わせによる超並列計算が可能という量子
コンピュータの特性を生かすアルゴリズムが必要。
•量子アルゴリズムは以下のステップをふむ。
①重ね合わせ状態を作る。
②重ね合わせ状態を維持したまま量子ビット操作。
③観測
•現在知られているアルゴリズムは
①ドイチュージョサ(D-J)のアルゴリズム
②グローバー(Grover)のアルゴリズム
③ショア(Shor)のアルゴリズム
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D-Jのアルゴリズム(1)
•与えられたビット列N (= 2n )が等分(1と0の
数が同じ)か均一(全部0か全部1)である場
合それを調べるアルゴリズム。
•N (= 2n )ビットだと通常(2n-1+1)回のチェック
が必要だが(2n+3)回で済むというもの。
•重ね合わせ状態を利用して各ビットを並列
チェックする。
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D-Jのアルゴリズム(2)
•n=3の場合、アドレスビット(|a2>,|a1>,|a0>)でビット列N
(01001101)の位置を与え、そこが1であれば結果ビット
(|b>)を反転させる。
|a2a1a0>=|010>
|b>=|0>
|b>=|1>
|a2a1a0>=|101>
|b>=|0>
|b>=|1>
(01001101)
(01001101)
|b>=|1>
|b>=|0>
(01001101)
(01001101)
|b>=|0>
|b>=|1>
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D-Jのアルゴリズム(3)
H
アドレス
|a1> |0>
ビット
H
|a0>
|0>
H
|b>
|0>
結果
ビット
チェック回路
|0>
チェック回路
|a2>
H
観
H
測
H
-1
|0>
観測した|a2>,|a1>,|a0>がすべて0なら均一そうでなければ等分
•Hはアダマールゲート。
|0>に作用させると|0> と |1>の重ね合わせ状態に、
|1>に作用させると |0> と −|1>の重ね合わせ状態
になる。
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D-Jのアルゴリズム(4)
•チェックビット列を(01001101)(等分)とするとアド
レスビット、結果ビットは以下のように変遷する。
|0001>
|0010>
|0101>
|0111>
|1000>
|1010>
|1101>
|1110>
-1
-|0001>
|0010>
-|0101>
-|0111>
|1000>
|1010>
-|1101>
|1110>
|b>にビット |b>が1のとき
列を抽出
位相反転
チェック回路
重ね合わ
せ状態
|a2a1a0b>
チェック回路
|a2a1a0b>
|0000>
|0010>
|0100>
|0110>
|1000>
|1010>
|1100>
|1110>
-|0000>
|0010>
-|0100>
-|0110>
|1000>
|1010>
-|1100>
|1110>
各アドレスビッ
トをアダマール
変換
|0> -> |0>+ |1>
|1> -> |0>- |1>
|b>は0に
もどる
アドレスビット|a2a1a0>は
non-zeroの重ね合わせ状態
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観測結果は100%
non-zero
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グローバーのアルゴリズム(1)
•DB検索が早くなるアルゴリズム
•nビットの異なるビット列がN=2n個あるとき
特定のビット列を検索することを考える。
•大体N1/2回で検索できる。
•nビット列がN個の重ね合わせ状態を作り
特定のビット列と合致したものを観測でき
るようその確率を上げる。
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グローバーのアルゴリズム(2)
• アドレスビットを用意し、特定のビット列(アドレス)と合致し
たものの位相を反転させ、全体の平均でまた反転させる。
これを繰り返すことにより観測したとき合致したものが出現
しやすくなる。
|a2>
・
・
・
|an>
|0>
・
・
・
|0>
アドレスビット
H
H
H
・・・
比較反転回路
|0>
比較反転回路
|a1>
H
観
H
測
H
特定のビット列とアド
レスビットを比較
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グローバーのアルゴリズム(3)
•nビット列N(=2n)個の重ね合わせ状態ψは
アドレスビットとみなして値で表現すると
|ψ> = (1/N)1/2 { |0>+|1>+|2> ・・・ +|N-1>}
•一致したビット列の位相を反転するごとに
大体係数が(1/N)1/2程度増えるので大体
N1/2回繰り返すとそのビット列の係数が1に近
づく。
•係数の二乗が確率であることを利用したアル
ゴリズム
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グローバーのアルゴリズム(4)
•比較、反転操作を大体N1/2回繰り返すとターゲット
の確率振幅が1に近づく。
確率振幅
確率振幅
反転
(1/N)1/2
1
(1/N)1/2
平均
1
N
N
≒3/ N1/2
平均で反転
確率振幅
(1/N)1/2
平均
1
このアドレス
が一致
N
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ショアのアルゴリズム(1)
•因数分解が高速に出来る。
•公開鍵など現在の暗号システムの安全性は大
きな桁の因数分解に大変な時間がかかるとい
うことに拠っている。
•1994年ショア(Shor)により素因数分解の量子
アルゴリズムが発見されて、量子コンピュータ
が俄然注目を浴びるようになった。
•基本的にはフーリエ変換が高速に出来ることを
示した。
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ショアのアルゴリズム(2)
•因数分解する数をNとし、ある数aのx乗をNで割っ
た余りをf(x)とする。
f(x)=ax mod N (a<N)
•xを増やしていったとき余りf(x)は周期的になるが
その周期rが求まればNの素数が求まることがわかっ
ている。
•ショアは周期rを求めるための効率的な量子フーリ
エ変換を発見した。
•1万桁の因数分解は現在1000億年以上かかると
されているが、量子コンピュータだと数時間で可能。
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ショアのアルゴリズム(3)
•レジスタを2つ(xとf(x))用意する。
•xは0∼q-1まで値を取りうる。 q-1
q-1
Σ |x> |0>
Σ |x> |f(x)>
重ね合わせ状態
f(x)=ax mod N
|0> |0>
x=0
x=0
x0+kr<q
k/r<1
k=0
k=0
Σ |x0 + kr > |f0>
余りf0に対応したx
のみの重ね合わせ
(周期はr)
Σ |kq/r > |f0>
余り(f(x))レジスタ
のみ観測
観測
k0q/r
量子フーリエ変換結果
qは与えられているのでk0/rを約分等してrを求める
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ショアのアルゴリズム(4)
•N=15、a=7,q=420とすると
x f(x) =ax mod N
0
1
1
7
2
4
3
13
4
1
5
7
ax
1
7
49
343
2401
16807
x
6
f(x) ax
4
117649
7
8
9
・・・
420
13 823543
1
5764801
7
40353607
・・・
・・・
13
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ショアのアルゴリズム(5)
•f(x)レジスタを観測して13を得たとすると
x
3
7
11
15
・・・
419
f(x)
13
13
13
13
・・・
13
kq/r
0
xレジスタ
105
フーリエ
210
変換
315
観測 kq/r=315
k/r=315/420
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約分
k/r=3/4
r=4
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量子鍵配布(1)
•1984年光量子(光子)ビットによる通信
(鍵配布)のアイデアがベネットとブラッサー
ドにより提案された。
•現状の技術で実現可能な技術
•データと同じ長さの乱数列を共有する。
(バーナム暗号)
=
データ
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乱数列
XOR
暗号
暗号
乱数列
XOR
データ
=
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量子鍵配布(2)
•例えば光子の偏向を利用する。
•垂直、水平偏向(あるいは斜め2方向)に0,1
を対応させる。
水平偏向
偏向ビームスプリッター
透過
反射
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量子鍵配布(3)
•斜め偏向の光を垂直(水平)ビームスプリッター
で受取る(検出)と強度1/2の光が垂直(水平)
方向に分解されて出てくる。
•同じことを光子で行うと確率1/2でどちらかの
方向に出てくる。(検出される。 )
斜め偏向光子
垂直水平ビームスプリッター
確率1/2
確率1/2
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量子鍵配布(4)
☆鍵(乱数列)配布の手順は以下の通り
①送信側は光子ビットを鉛直水平偏向と斜
め偏向のどちらかを使って送信。
②受信側はどちらかの偏向を仮定して受信。
③適当なビット送受信後、送信側と受信側
でどちらの偏向を使用したか情報交換する。
④双方の偏向が同じときのビットを共有する。
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量子鍵配布(5)
•送受信後、偏向情報のみ交換
送信側
1
0
1
0
受信側
0
1
0
0
1
0
1
0
1
0
1
1
0
0
0
0
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量子テレポーテーション(1)
○量子のもつれ合い(エンタングルメント)を利
用した情報送信
①送信側、受信側でもつれ合った量子を持つ
②送信側で別の量子(情報)ともつれ合わせる
③送信側でそのもつれ合いの関係を測定
④受信側にその関係を通知(古典的方法で)
⑤受信側でその関係を使って情報を取り出す
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量子テレポーテーション(2)
•例えば次のように絡み合った1対の量子ビット
(|ξ>AB )を送信者(A)と受信者(B)が1つづつ
持つ。 (以下係数省略)
•送信する情報を |ψ> = α|0> +β|1> とする。
送信A
A
|ξ>AB
|0A1B> + |1A0B>
受信B
B
絡み合わせる
情報 ψ
状態を通知
ψ
α|0> +β|1>
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量子テレポーテーション(3)
•3つの量子ビット(ψ,A,B)のとりうる状態は |ψ> × |ξ>AB となる。 (× は直積) つまり
(α|0> +β|1>) × (|0A1B> + |1A0B>)
=α|0 0A1B > +α|0 1A0B >
+β|1 0A1B > +β|1 1A0B > Copyright © 2007 ARK Information Systems. All Rights Reserved.
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量子テレポーテーション(4)
•3量子ビット(ψ、A、B)の状態は場所Aの2
量子ビットと場所Bの1量子ビットに分解して
表せる。
Φ1(α|1>B+β|0>B) + Φ2 (α|1>B-β|0>B)
+ Ψ1(α|0>B+β|1>B) + Ψ2 (α|0>B-β|1>B)
Φ1 = |00A> + |11A> , Φ2 = |00A> - |11A>
Ψ1 = |01A> + |01A> , Ψ2 = |01A> - |01A>
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量子テレポーテーション(5)
•ψとAの絡み合い状態がΦ1 ,Φ2 ,Ψ1 , Ψ2のどの
状態かを測定(ベル状態測定)し、その情報をB
へ知らせる。
•Aの状態情報を用いてBの状態を変換するとψが
再現(転送)される。
•例えばψとAが Φ2状態であればBの状態は
α|1>B-β|0>B となり、符号を変換して情報が取
り出せる。
•測定によりAでの情報は壊れBに現れるのでテレ
ポーテーションという。
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研究動向(1993年 NTT 高柳)
• アメリカ 国防省、科学財団、国家安全保障局、標準技術局
• EU EUおよび各国のプロジェクトが存在
QIPC(Quantum Information Processing & Computation) 20億円
Super-IP(案) 100億円(10年)
• シンガポール 政府 3.5億円
• オーストラリア
情報通信文化省(MCITA) 7億円
量子コンピューターセンター: 研究者100名
• 日本 国家プロジェクトは無く予算、研究者とも小
• カナダ
D-Wave System(ベンチャー) Draper Fisher等のファンドが出資
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量子コンピュータの候補と現状
•固体デバイス量子コンピュータの候補
候補
Q値 現状
核磁気共鳴(NMR) 109
イオントラップ
1012
超伝導(電荷)
104
超伝導(磁束)
103
半導体(励起子)
103
半導体(電荷)
105
半導体(電子スピン) 104
半導体(核スピン) 109
7量子ビット(アルゴリズム)
2量子ビット(アルゴリズム)
2量子ビット(CNOTゲート)
1量子ビット(ユニタリ変換)
2量子ビット(回転制御ゲート)
1量子ビット(ユニタリ変換)
研究機関
大阪大、近畿大
NEC
NEC,NTT
NTT
NTT
東大
慶応大、新潟大
NRI Research Report,Vol1.1,article #3(2004) 川畑史郎
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まとめ
•情報単位として量子状態を用い、量子の性質を利用し
たコンピュータを量子コンピュータという。
•量子の重ね合わせ状態を利用した超並列計算が可能。
•実現には20、30年かかる。?
現状実験レベルで数ビットのものがある。
•量子暗号(鍵配布)については実用前段階にある。
(注)発表者の能力不足により記述が不正確(あるいは間
違っている)可能性があります。
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参考図書
•「量子コンピュータ」(BLUE BACKS)
著者 竹内繁樹
•「量子コンピュータへの誘い」(日経BP)
著者 石井茂
•「図解雑学/量子コンピュータ」(ナツメ社)
著者 西野哲朗
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