イメージフォーラム付属映像研究所 第 4 期アニメーションコース

イメージフォーラム付属映像研究所
第 4 期アニメーションコース
<卒業制作講評コメント>
映像制作コースで毎年行われている、専任講師かわなかのぶひろ氏に
よる「卒業制作全講評」。僭越ながら僕もかわなかさんに習ってトラ
イしてみました。ホント難しいですね。
闇と溢れ出す閃光
荒牧裕一朗/ビデオ/4 分
とある町のコンビニ。ATM からお金を引出し、売買されるのは人間達だった。モ
ニター画面を描線に重ねた効果はおもしろい。静止画として魅力があるので、動画
としての魅力も追求しましょう。いつも画面に複数の動きが加わっていると、画面
全体に動きがつくと思います。
white boy slave song
石田真太郎/ビデオ/2 分
youtube 、 ubuweb、ニ コニコ動画。 ダラ見 して るのっ ていい よね。 なか には
「youtube を見る会」なんてあったりする。僕は行きませんが。この作品もそのダ
ラ見感覚は良くでてると思います。でもね。その投稿者本人は超本気で作ってて、
其処が笑いドコロなんですよ。
メブキ
大西久仁子/ビデオ/4 分
鹿から鳥へのメタモルフォーズ。面白いイマジネーションだと思います。全体の柔
らかいトーンとカタカタしたコマ数が少々ミスマッチかもしれない。でも照明ムラ
で画面がチカチカしているところが、陽光みたいに見えて効果的でした。怪我の功
名というやつ。大事な事です。
花の森
奥山美由紀/ビデオ/1 分
プランの時からペイズリー柄に固執してましたね。手のひらとのメタモルフォーズ
や青い柄の上昇シーンは作者のはっきりとした意図が感じられました。ところどこ
ろピントがずれるのが惜しいです。スキャナでもう1度撮り直してみたら? かわ
なかさん曰く、「根気も才能」!
ラクガリズム
熊坂百恵/ビデオ/4 分
思いのまま絵具を塗り、偶然できた形が次の作画の元になる。気持ち良さが伝わっ
てきます。選曲も Good。タイトルは疑問。これを 1 時間やれば何かが起こるかも。
そんなあなたに今年の IFF がおすすめ。キリアン・デラーズの絵具ぶちまけペイン
ティング 4/30、5/4 です!!!
青の夜
北脇史恵/ビデオ/3 分
これまたキリアン・デラーズ風のぶちまけアニメーションか。と思いきや、突如リ
アルな肖像画が表れ、次々に変わっていく。このリズムは新鮮でした。カメラでい
うフォーカス送りの働き。この唐突のリズムがストーリーに関連してくれば傑作に
なりそう。再構成してみては?
Maria
古川実来/ビデオ/2 分
何よりもまずサウンドありき、というより<Gackt、ガクト、神威楽斗>ありきとい
う動機の純粋さに心を打たれます。もう少しボリュームを持って伝わるとよかった
ね。Gackt に共感できない人は多いかも知れないけど、「○○が好きでたまらな
い」という人には共感が持てるから。
暗暗と列ぶ隙
茂木麻子/ビデオ/4 分
4 分間画面の四隅に緊張感を持たせる画力は単純にすごいなと思いました。サウン
ドも必要充分でしょう。黒地に白という画面を生かして、この際、夜間のライブ・
プロジェクションを提案します。車やバイクなどで移動しながら、夜景に見え隠れ
する狐火のイメージ。どうすか?
おさるのせんたくもの
菅原舞絵/ビデオ/3 分
本来水分が去る(猿?)ものである洗濯物の「な・か・に」大海が潜んでいるという
イメージの跳躍、イケるモチーフじゃないですか! 日光が絡んでくるとまた違う
印象。今回のはスケッチということで、2,3 年このことだけ考えて過ごしてみてく
ださい。新作できたらご一報を。
履歴書
齋藤明日香/ビデオ/4 分
履歴書の「自己アピール」の空々しさ。共感を誘う題材だと思います。そのマイナ
スの虚構空間が黒いドロドロに代表される。もっと悪ノリして「特技」とか「通勤
時間」とかそれぞれの欄の特性がもっとでてもいいかも。音も現実の面接の嘘くさ
ーいナレーションにしてもいいかも。
まほうのかばんのうみ
柴田麻由/ビデオ/2 分
ドラえもんに「瞬間移動潜水艦」ってありましたよね? 水の入った物の大きさに合
わせて潜水艦が伸び縮みする。近くの水をたどって野比家から東京湾まで冒険の旅
にでる…。 カバンってスケールを無視した何かが中にあるイメージなのでもっと
飛躍してもいいかもしれません。
ネバーギブアップ
信耕ミミ/ビデオ/4 分
赤と黒のドミノ兵による 1 直線の戦い。実は、映像制作コースでもドミノのモチー
フがあって(高橋幸太郎『R』) 彼は実写とドミノを話しの中で混ぜている。ここで
は黒い 1 兵卒の「何が何でも隊列に加わる」アクションがメインだと思うので、ひ
たすら黒列の話でもいいのでは?
とんぼうや
高岸綾乃/ビデオ/2 分
「トンボーヤーの冒険」 当初はぼうやが沢山出てくる予定だったと思ったのです
が、無い。いつの間にか増えているワタボコリのように気がつけば増殖している、
なんて遊びがいろいろ試せそうなのに。再編集を期待。バッファロー・ドーターは
以外と映像に合ってましたね。
愛について
田中靖子/ビデオ/2 分
作家がテーマを大きな物にした場合は、あくまでもその大風呂敷を広げ続けなくて
はなりません。48 手が 48 都道府県? なのかは分からないまま終わってしまった
ので責任持って残りを作りましょう。乱れ牡丹は? 岩清水は? などと訊かれる前
に。(参考図書「体位の文化史」作品社)
だるまさんがころんだ
津山洋輔/ビデオ/3 分
プレゼン時の様に、案外 iPod 再生が最適なのかもね。画面の大きさだけでなく、
PLAY/PAUSE の操作に連動して気持ち悪いイスとか猫とかが近づいてくる、と結
構中毒性を持ちそうです。PAUSE するまで動き続けてる。それを学生やサラリー
マンが毎朝ホームで操作してる。
千鶴の千年
藤田円/ビデオ/3 分
この作品の場合は、折り紙の要素だけではなくて柄を持った「千代紙」の要素もあ
るので複雑ですよね。異なる時代の女達がその異なる柄に対応して、折り込まれて
1羽の鳥になっていく。壮大なテーマなのでロング版も作ってみては? まだ未消
化の部分がありそうです。
イッツ
槙野智子/ビデオ/1 分
この作品の驚異は、合成すれば簡単なのに1枚ずつ手書きでやり遂げた事。いやす
ごいですよ。回転と色の流れについて蓄積をもてば、口のイラストが無くでもサイ
ケデリックな作品になりそうなのに。M・デュシャンのロトレリーフを越える作品
はまだ表れていないのです。
シンプルライフ
八木澤里志/ビデオ/5 分
アニメ? かは置いといて、97 年以降の伊藤高志の映画のような緊張した雰囲気が
印象的。進んでいるのか戻っているのか分からない永遠の反復。でもネタが単調だ
ったかも。それこそ伊藤高志の様に動画のコマ全てを再撮影して痙攣した動作を構
成してもいいと思いますよ。
そうかもしれない不確かなもの
渡辺麻美/ビデオ/3 分
窓辺でふり返る男と女、留守電音声と電線、そして唐突に鳥。途中段階を見ていな
いのでコンセプトの見えない部分もありますが、一番気になるのは実写パートで出
てくる足の女は誰か? なんです。きちんと整理されているように見えるのだけど、
「不確か」なのです。ゴメン。
HIKANKEI
川口典峰/ビデオ/3 分
画像と意味の非-関係が連続すること、その快感がうまく出ていると思います。セ
クシャルなイメージと都市のモチーフが荒牧君の作品と比較されますが、この作品
でも、次のアクションを 待つ 動作がところどころ見えて惜しいです。途切れな
いジャブの連打を体得してください。
現在 IFF の原稿を書きながら、20 作品を少しずつ頭の中で反芻して何とか書き終え
ました。とりとめのない事ばかりですが、強調したかったのは、本当に気になる作
品は何だかたどたどしい姿をしているということです。良かれと思うイメージに隠
れていないからです。どんなに馬鹿馬鹿しい事でも、むしろ日常生活では馬鹿馬鹿
しくてあまり話題にできないようなことを、映像作家は嬉々として扱います。それ
も執拗に。
昨今は技術の進歩も手伝って、眼や耳に心地よい、それでいて心地よく印象から消
えてしまうような無味無臭の存在感の作品が大量に増えていて、なんだか街の様子
とすっかり同じ印象になりました。(歌人の穂村弘はこの空気を「若冷房車と抗菌
マグロ」に代表しています)
最近何となくその心地よさに飽きてきたので、IFF でもすこしアジって見ようと思
い、「Goodbye stylish 」なんてタイトルをつけてみました。何か引っ掛かるこ
と、それを恥ずかしいと思わすに良ネタだと自信を持って世の中に出してみてくだ
さい。シネマテークではいつでも新作、企画展の相談を待ってます。気軽にメール
してください。アニメ 2 年目や映像コース入学も受付しています。
2007 年 3 月 24 日
澤隆志