5 vol.625 2012 since 1960 毎月1回発行 ■ 発行:伊藤忠商事株式会社 繊維経営企画部 大阪市北区梅田3-1-3 ■ TEL:06-7638-2027 ■ FAX:06-7638-2008 ■ URL:http://www.itochu-tex.net 本紙に関するご意見・ご感想をお寄せ下さい。[email protected] Vol.625 CONTENTS ─ ITOCHU Mission ─ Committed to the global good 豊 か さ を 担 う 責 任 Special Feature / クール・ジャパン 世界に発信 Topics / ニュース・クリッピング 4面 World Report / 英国 夏季五輪と即位60周年に沸く 5面 Fashion Report / 出版メディアを生かしたブランディングとは 6面 1-3面 繊維・ファッション企業の挑戦と戦略 クール・ジャパン 世界に発信 S pecial Feature フランス・パリで開かれる世界最高峰のテキスタイル見本市、プルミエール・ヴィジョン(PV)への出展などを通じ、欧州メゾンに対して自慢のテキ スタイルを提案し、ビジネスの実績を積み上げる企業が増えてきました。また、経済産業省は、 「クール・ジャパン」戦略を打ち出し、それをけん引するクー ル・ジャパン室が「クリエイティブ産業課」に格上げになりました。このクール・ジャパン戦略を繊維のメーカー、アパレルはどのようにとらえているのか。 地道なモノ作りと海外需要の掘り起こしを通じて、世界への発信に取り組むテキスタイルメーカーを招き、クール・ジャパンの核心をうかがいました。 出席者 (社名50音順) 伊藤忠ファッションシステム株式会社 クリエイティブディレクター 株式会社エイガールズ 専務取締役 ぶれないモノ作り 新谷 わたしは日本ファッション・ウィーク推 進機構(JFWO)の事務局支援の仕事をし ているほか、経済産業省が進める「クール・ ジャパン」の仕事にも関わっています。これら は官民一体となって取り組まなければ前に進 まない事業ですが、ここにご出席のテキスタ イルメーカーの皆さんは、トップランナーとして 独自に市場を切り開いてこられました。まず海 外向けにどういうワークをされてきたのか。エ イガールズの山下さんからご紹介ください。 山下 日本のテキスタイルを世界に売って いきたい、というのが弊社のポリシーとして以 前からありました。トライ&エラーの繰り返しで したが、2004年に初めてPVに出展し、思わ ぬ高い評価を得ることができました。ジャージ の生地はTシャツなどに使われるイメージか ら、どうしても安価でカジュアルな素材として 見られてしまうわけですが、ニット生地でも繊 細なラグジュアリーファブリックとして通用する んだという信念で取り組んだ結果と自負してい ます。当時はイタリア製の高密度の素材が注 目を浴びていましたが、弊社が出展した素材 はコシがない、ゆるい素材で、それが逆に目 を引いたようでした。 しかし、順調に輸出が伸びたわけではあり ません。苦労は最初からありました。モノは 評価されても売り方が分からない。まずスタッ フは英語がしゃべれないといけない。貿易の 仕方にも慣れないといけない。それに売掛金 の回収……。それらの問題を解決するのに3 年くらいかかりましたね。皆さん通られてきた 問題だったと思います。 当社の生地が評価されてきたのは、時代の トレンドを尊重しながらも、ぶれないモノ作りを 一貫して進めてきたから、と受け止めています。 「エイガールズ」という和歌山産地の一企業が それなりにブランディングを意識して、世界に認 めてもらえるテキスタイルメーカーへ、という意 山下 智広氏 カイハラ株式会社 常務取締役 貝原 淳之氏 佐藤繊維株式会社 代表取締役 佐藤 正樹氏 テキスタイルデザイナー 海外への発信 池西 美知子氏 司 会 伊藤忠ファッションシステム株式会社 ブランディング第一グループ長 新谷 誠氏 梶原 加奈子氏 気込みを忘れずモノ作りに取り組んできたこと が、欧州などのメゾンの皆さんに一定の評価 をいただけたのかな、と考えています。 「…だから」の独自性 新谷 佐藤繊維さんは素材から製品まで ブランドを立ち上げながら輸出に取り組んでお られます。 佐藤 山形で横編み用の糸を作り、それ なりに評価されてきましたが、海外ではまずア パレル製品で挑戦しました。2001年にニュー ヨークで自社ブランド「M.&KYOKO」がデ ビュー、現在ではニットアクセサリーを中心とし た「Masaki Kyoko」 、布 帛のオリジナルテ キスタイルに力を注ぐ「FUGA FUGA」 、より デイリーに佐藤繊維の素材を楽しんでいただ くライン「noeud」など自社ブランドの展開に 力を入れています。この米国デビューのあと 日本市場に投入し、素材については2007年 から海外市場に挑戦しています。 最初にニューヨークに上陸を、と考えたとき、 現地で売れているものを作ろうとしました。と ころが日本でモノ作りするとどうしても価格が 高くなって合わない。マーケットに合わせるの ではなく、「日本だから」「佐藤繊維だから」 生産できる商品を売ろうと方向転換しました。 より個性的なもの、ということで糸の番手も例 えば通常なら20、30番手が普通のモヘアで 50番手の細い糸を使った商品などを投入し、 さらに展示会でのビジュアルも奇抜なものを意 識して、まずはバイヤーに目に留めてもらおう としました。 そうこうしているうちに「あのメーカーの商 品を見ておかなければならない」「あそこは 高いけれど面白いものを作る」という評価が 得られるようになってきました。しかし、2008 年9月のリーマン・ショックではひどい目にあい ました(苦笑) 。とくに欧州市場向けでユーロ が下落したため、価格を上方改定したところ 全量キャンセル。世界一高い糸メーカーになっ てしまいました(笑)。 写真 (下段左から) 佐藤正樹氏、梶原加奈子氏、 貝原淳之氏、 (上段左から) 新谷誠氏、山下智広氏、池西美知子氏 たとき、販売員さんが「これは広島のカイハ メードイン・ジャパンにこだわってモノ作りし ラ製のデニムです」をセールストークにされて てきましたが、先ほど山下さんも指摘されまし いました。「へー、そうなんですか」と知らな た売り方の問題は、当社でもさんざん苦労し いふりをしたのですが(笑)。 ました。海外市場における営業・販売・回 貝原 当社製品をお買い上げいただきあり 収の問題はやってみないと分からない部分が がとうございます(笑)。 大きい。販売促進活動にしても、中小企業 当 社 がデニムの輸 出に取り組んだのは の資金力では自ずと限界があります。 1973年からです。その時からのポリシーは そこで考えたのは「工場としてよりもクリエ イターとして発信していく」ということでした。 「我々の素材を使ってもらいたいブランドに販 売したい」というものです。当社はあまり展示 現在、日本経済は新興国に追い上げられ苦 会には出ていません。それはダイレクト・マー 戦していますが、日本の文化への評価は逆 ケティングへのこだわりからです。あくまでも個 に高まっている、と肌身に感じます。アパレル 別にわたしたちの商品をお見せし、納得して ブランドとして11年、糸の販売で5年の海外 購入いただきたいからです。商品を売るとい での経験がありますが、 当初は日本のファッショ うよりも自分の会社を売る、ということをブラン ンに対する評価は今ほどではなかった。日本 ディングの基本に置いています。 の文化、日本のファッションが純粋に受け入れ 当社が出展している数少ない展示会のな られる今こそ、もっと大胆に攻めるべきではな かで、「インターテキスタイル上海」には第1 いでしょうか。 回目から出展しています。同展には中国をは じめ新興国の企業が数多く出展しています 商品よりも企業を売る が、最新鋭の設備で生産された新興国の商 品に触れることで刺激を受けたいと考えるから 新谷 カイハラさんは「カイハラデニム」と です。モノ作りに伝統のある日本素材に自信 いう素材のブランディングに成功された代表的 は持っていますが、出展を通じて肌で彼らの 企業です。きょうわたしがはいているジーンズ モノ作りに触れたい、と。 は欧州ブランドですが、さる百貨店で購入し 2 2012年5月号 クール・ジャパン 世界に発信 モノ作りの背景にあるストーリーが付加価値に なるはずで、現に欧州のメゾンはそれを評価し ています。 テキスタイルに「コレクション」 銀座ランウェイでは、ジーンズだけでなく着物や小物など、 デニムの新たな可能性を感じさせた カイハラ株式会社 常務取締役 貝原 淳之氏 新谷 PVからも過去、度々出展を誘われ ながら断られているとか。 貝 原 PVは世 界 最 高 峰のテキスタイル 展 示 会 で す から、変な形 で出たくないと … …。デニム・バイPVにお誘いいただき、 何度か視察に訪れました。トルコなど新興国 の企業も出展していますが、その見せ方が 非常に洗練されており、感心しました。当社 の場 合、愚直にモノ作りに取り組み、その 面では自信があるのですが、ファッション的な 見せ方とか、いわゆるビジュアル・マーチャ ンダイジング(VMD)といったものに後れて います。日本のメーカー全体にいえるかもし れませんが、バイヤーの皆さんにうまく伝えら れないもどかしさ、と言いますか、逆に出展 することで企業価値を損ないかねないとみて いるわけです。今後はそこをクリアして、しっ かりとしたイメージ戦略を持ってファッションの 中心地パリにも進出していきたいですね。 海外で知る日本の良さ 新谷 梶原さんは日本でアパレルメーカー に勤務後、英国に渡りテキスタイルデザイン を学ばれ、現在、日本でライフスタイルブラ ンド「グリデカナ」を立ち上げておられます。 日本のテキスタイルというものをどのようにご 覧でしょうか。 梶原 2001年に勉強しなおそうと渡英し、 Royal College of Art(RCA)に 入 学、 2003年には大学院へ進み、卒業と同時にフ リーランステキスタイルデザイナーとなりヨーロッ パで制作活動を続けてきました。2005年に帰 国、テキスタイルディレクターとして、日本の 産地の皆さんと共に服地の開発に取り組み、 国内外のファッションとインテリアマーケット にテキスタイルを提案しています。2008年に は自身 のデ ザイン事 務 所、KAJIHARA DESIGN STUDIOを設立し、ファッション小 物やインテリアの分野でも様々なデザイナーや 企業とコラボしています。 英国の学校には多くの国の人たちが留学 していました。彼らは日本のデザインに対して 大きな関心を寄せ、モノ作りへのユニークな 視点、構築的なデザインなどに対して高い評 価を寄せていました。わたしはそうした彼らの 日本のモノ作りに対する見方に啓発されまし た。恥ずかしながら海外に出て初めて自分の 国のモノ作りの技術や歴史の奥深さを知った 次第です。 日本のテキスタイルについては様々な評価 があります。 PVにもいろんな素材が提案され ていますが、残念ながらいまだにカラー提案 の弱さが克服されていません。帰国して産地 の皆さんと服地作りに取り組んできましたが、 欧州のトレンドを、日本の特徴を生かしたモノ 作りに落とし込む作業がわたしの仕事の一つ だと思っています。 欧州では素材からトレンドが生まれてくる気 がします。極論を言ってしまえばライフスタイ ル提案の源に素材がある。アイデアのかけら を素材に求める空気もあります。いくつかの日 本のテキスタイルメーカーや加工場さんとお付 き合いし、彼らと共にテキスタイルのコレクショ ンを作りPV等で発 表してきました。織 物や ジャージ、プリントなどに日本の技術力を込め て発信し、そのオリジナリティーは評価される レベルにあると考えています。 ところが、せっかくバラエティーに富んだその テキスタイルの良さが日本のアパレルさんや一 般の消費者の方々にはあまり伝わっていないよ うな気がします。産地の職人気質にあふれる 人たちが丹精込めて作ったテキスタイルがその 本家本元で評価されないのは悲しいことです。 テキスタイルデザイナー 梶原 加奈子氏 産地の残布を合わせて作った「グリデカナ」のall for one bag。一つひとつが違う柄になる 新谷 池西さんは1986 ∼ 2007年、仏・ パリで結成されたインターナショナルなトレンド・ セッター集団TREND UNIONにメンバーとし て参画し、トレンドの構築・発信に携ってこら れました。1999年 からJFK(Japan Fabric Knowledge)プロジェクトを通して、先端を ゆく優れた日本素材をヨーロッパの著名デザイ ナー・ブランドに提案。日本発のトレンド・クリ エイティビティーとともにジャパン・テキスタイル を海外に発信されています。また、2007年 10月からPVのトレンド委員に就任し、日本の 代表としてPVトレンド協議会に参画しておら 株式会社エイガールズ れます。この間の日本のテキスタイル発信の 専務取締役 流れについて発言ください。 氏 池西 古い話で恐縮ですが、1990年代 のテキスタイル輸出は円高が続いていたため 壊滅的と言ってもいい状況でした。カイハラさ んはそうした中を踏ん張ってこられたわけです が、多くの企業が輸出から離れていました。 そんな時代でしたが、私はフランスの情報会 社TREND UNIONから日本の素材のトレンド ブックを欧米に向けて発刊していました。輸 出ビジネス復活に向けて日本素材の魅力を発 信し続けたかったからです。 このトレンドブックに掲載された日本のテキス タイルを買いたいという欧州のメゾンが現れ始 めたのが1990年代後半からです。こうしたメ ゾンを日本のメーカーにつなぎ、日本のテキス 2011年イタリアのベニス近郊の古城にて タイルを提案する仕事を始めました。これが エイガールズ個展を開く JFKのきっかけになりました。 その当時、テキスタイルに「コレクション」 そのジャパン・カルチャーの土台としたのは、 という概念はありませんでしたが、私はオリジ 江 戸 時 代 の 禅 僧・画 家、仙 厓 の 代 表 作 ナルトレンドを軸に一連のテキスタイルを構成し て「JFKコレクション」として提案しました。 「○△□図」です。○△□の意 図は今でも 謎ですが、一説には宇宙や禅の基本原理を メゾンにピックアップされた素材は、実際にき 表すとも言われています。究極の探究心から ちんと納品できるよう伊藤忠商事とコラボレー 創造されるジャパン・ファブリックの宇宙を、 ションして対応していただきました。 この○△□図に託して提案し、またブースの 当初メゾン側は天然繊維の提案は期待し シンボルロゴとしました。この打ち出しは日本 ていませんでしたが、最初にオーダーをくれた 以上に禅に関心が深い欧州で強い関心を持 のは意外にもウールでした。欧州にない仕上 たれました。 げ加工のウールに「これがウール100%? ウ ソでしょ」と彼らは驚き、創作意欲を刺激され、 使ってみたい、と思ったようです。 アジアマーケット 高度な技術をクリエイションの土台に独自の 個性を表現し、世界的に評価されているの 中国、面白い市場に が日本のファブリックです。エコトレンドが浮上 新谷 欧米向けにクール・ジャパンを発信 した時、 PVで取り上げられるのは、オーガニッ し、アジアで刈り取るという図式がビジネス上 クコットンばかりでした。ハイテクで作られた日 本のエコ素材を紹介すると驚いていましたが、 の図式としてあると思います。昨年来、仕事 でインドを5回訪れましたが、そのダイナミック 結果的にこれらを提案するエココーナーがトレ な成長ぶりを訪問するごとに感じました。中国 ンドフォーラムに初めて設けられました。 をはじめとするアジアの市場にどのように対応 日本の独自性を発揮した魅力が評価された するか、その点はいかがでしょう。 のです。機能素材もその一つです。数年前 山下 当社はまだ本格的な取り組みまでは にダウンウエア素材として織物のようなニット素 至っていません。素材によって異なるかもしれ 材を提案すると、最初は皆目を丸くしていまし ません。当社が展 開 するラグジュアリーな たが、その後、大きなトレンドになったのは周 ジャージに対する意識というか、その点で中 知のとおりです。 国はまだ欧米日とはギャップがあるように思い 今年2月、日本ファッション・ウィーク推進 ます。ファッションに対する感度で、時間がか 機構(JFWO)が経産省クリエイティブ産 かるというふうに見ています。 業課から受託し、 PVにオフィシャル・プロモー 佐藤 2010年から取り組みを始めました。 ションブース「METI クリエイティブジャパン」 2011年秋には上海のスピンエキスポに出展し を出展しました。わたしはクリエイティブディ 中国国内販売のブランドをターゲットに販促活 レクターとして日本出展社の素材紹介・提 動を進めています。 案を手掛けました。日本独自のテキスタイル 結論から申し上げると、面白い市場になり 提案にあたり、日本独自のコンセプトで発信 ますね。コストが高くてもついてくる、そんな したいと考え、アニメなどクール・ジャパン 企業がどんどん増えています。その意味では 要素と絡めてテキスタイルをプレゼンテーショ 欧州とさほど変わらない市場になってきました。 ンしました。 山下 智広 クール・ジャパン 世界に発信 2012年5月号 3 統的な芸術文化があります。一方で最近で 2007年より毎年出展している “Pitti Filati”で 佐藤繊維株式会社 代表取締役 佐藤 正樹氏 わたしたちはデザイナーに直接提案する形を とっています。彼らは欧州の素材や製品をよ く観察していますから、日本の素材はここが 違うんだ、というアピールが必要です。例え ば“かわいらしさ” といったふうな。 展示会に出展するよりも今はブランドごとの 各個撃破の戦術です。当社の素材がマッチ しそうなブランド、デザイナーを10社なら10社 選び、そこへ「お宅にはこの素材がいい」と 提案する。100の素材がカバンの中にあって も5つ、6つしか見せない。「これがお宅には いちばん合っている」と提案すると、向こうも 前のめりになってきます。ブランドに飽き足らな い消費者が生まれてきましたから、デザイナー もそうした消費者を意識せざるを得ない。何 か違ったもの、何か変わった魅力ある素材を 必死に探しています。 貝原 われわれ東洋人は西洋に対する共 通のあこがれがあります。コンプレックスの裏 返しかもしれませんが、中国も欧米ブランド至 上主義でこれまできたと思います。百貨店に しろ路面店にしろ欧米のスーパーブランドが一 等地に店舗を構える。そういう状況をみてい ると、欧米ブランドに販売して、あのブランド の素材は実は日本の「カイハラ」だというの が大きな効果を生む。その意味では欧米に 発信してアジアで刈り取るということになりま す。実際、香港や中国大陸に欧米ストア、 アパレルの買い付け事務所がたくさんあります から、そのあたりからの問い合わせが格段に 増えていますね。 池西 経済産業省の支援により2010年12 月に中国での素材展を開催するにあたり、中 国市場をリサーチしました。日本の高感度で上 質なテキスタイルを提案するには、南部の方が 良いと判断し、広州で初の素材展を開催しま した。3日間の会期中に、その場で発注するア パレルメーカーもあって、日本の出展メーカーの 皆さんが驚かれていました。日本では展示会 場での発注はまずありませんので。しかも受注 数量が数千メートルではなく万単位と規模が1 ケタ違うわけですから。ピックアップされる素材 はトレンド性が強く、付加価値の高い差別化素 材ばかりでした。中国ファッションは、ものすご いスピードでレベルアップしていることを実感しま した。テキスタイルを選ぶ目利きも増えています ので、中国市場をなめてはいけません。 梶原 中国を訪問する機会が増えてきまし たが、デザイナーの成長が著しいと感じます。 当初はファッションの感度に対する偏見のよう なものがありましたが、2カ月ごとに訪問してい ると、その都度、向上しているような印象を 受けます。日本のプリント、ジャカード、先染 めなどに対する関心も高まっており、提案のし がいのあるマーケットになってきました。欧米 で先行してプレゼンテーションし、その後、中 国で同じ内容のものを見せると、同じ傾向の 素材をピックアップされますね。 こうした傾向は中国にとどまりません。台湾 でもそうですし、韓国はとくに勢いを感じます。 ラグジュアリー素材も受け入れる環境に育って きたように感じます。 佐藤 これも売り方の問題なんですが、産 地企業はいろんな問題を抱えています。後継 者難は昔も今も変わりません。ソフトウェアや 販促活動に力を入れられる経費構造にはなっ ていません。当社の場合、自ら最終製品を 作り、その作った人間が売りに行く。2001年 から11年、手がけたうちの90%が失敗し残り 10%の大きな成功で企業が保っているようなも のです。 中小企業が海外にフロンティアを求めると き、「誰か売り方を知っている人はいないか」 「誰か市場や顧客を知っている人はいない か」と他人に頼るようではだめなような気がし ます。自分でやってみて初めて分かることが 多い。やってみて失敗しないと学べないと思 います。山形県の小さな企業ではありますが、 そうした意気込みでやってきました。 クール・ジャパン 文化の融合と異業種連携 新谷 なるほど。やってみなければ分から ないことは多いですよね。 ここで少し話題を変えて、クール・ジャパン の一環として3月に銀座で開かれた「銀座ラ ンウェイ」が話題を呼びました。多くの外国 人を招きジャパン・デニムを発信したわけで すが、貝原さんはそれに取り組まれ、ご苦労 も多かったと思いますが。 貝原 日本を活性化するという目的で、取 り組みました。製造業がないところに文化は 育たないと言います。ソフトウェアも大事でしょ うが、メーカーの一員として製造業を守り続け なければならないと考えています。多くのマス コミで報道され、海外のお客さんからも反響 がありました。ジャパン・デニムは業界でこそ 知られていますが、一般の消費者の方には どうか。その意味では銀座ランウェイは活性 化のよいきっかけになったように思います。 新谷 銀座のど真ん中にデニムのランウェ イですから度胆を抜かれました。 貝原 なんでも東京マラソンで銀座をコー スに取り入れるのに7年かかったと聞きます。 準備期間半年で、初めて公道でファッション ショーを開催できたのですから大変なことです よね。もちろん経産省をはじめ官と民が一体 となって取り組んだ成果でもありますが。 日本には茶道や華道、陶芸など様々な伝 はアニメなどが世界の注目を浴びている。こ の日本独特の文化を組み合わせることで、ク リエイティブな世界が築けないか。繊維だけ でなく、異業種とのコラボを通じて可能性を 探っています。 商品開発の現場で当社は「繊維にこだわ るな」ということを言っています。市場にない ものを生み出そう、と。しかも二番手ではだめ、 一番に出さないといけない。ひところ「ニーズ への対応」と言われましたが「シーズ」を大 事にしていこうとしています。 トップランナーの使命 山下 現場の仕事にはいろんなものがあり ます。わたしは営業で飛び回っていますが、 確かにクール・ジャパンで対外的にアピール する必要があっても、日常の仕事との間に ギャップを感じることが正直あります。産地メー カーのトップランナーとしての使命感は当然あ りますが、単にお祭りに終わらせず、実ビジ ネスにつなげていかなければならない。 佐藤 そうですね。中小企業はオヤジが 自ら足を運んで売るほかない。国の支援はあ りがたいですが。 山下 クール・ジャパンで海外市場へのフ ロンティアが語られるわけですが、わたしは、 主戦場は日本にあると思っています。その日 本市場は言うと、ひところの勢いは失せまし たが、まだまだファストファッションが幅を利か せています。 持論ですが、ファストファッションは「チープ・ クオリティー・ファッション」であると考えていま す。わたしはそこにクオリティーを感じません。 それでよいという人にはいいでしょう。しかし、 クオリティー・マーケットが沈むと、そこに向かっ てモノ作りをしているわたしたち産地メーカー も沈没してしまう。ですからなんとしても「クオ リティーを上げたい」と言ってきました。服地 問屋さんもアパレルさんも賛同してくれる方が 増えてきましたね。 紡績から縫製までの一気通貫のサプライ チェーンの構築を通じてクオリティー・マーケッ トを再生したい、その思いで頑張っているの ですが。 国内生産0.7%の世界 佐藤 それはわたしも同じです。国内市 場がなければ存続できません。 ニットの業界は長く輸入に浸食されてきまし た。セーター&カーディガンは、国内市場の 流通量の99.3%が輸入製品です。わたしの 会社は、残り0.7%の世界で食っているわけで す(苦笑) 。99.3%なんて異常な数字ですよ。 残り0.7%のうちの半分は中国で生産された糸 を日本 で 編 んでいる。糸に限って言えば 0.35%の世界です。染工場さんの廃業が相 次ぎましたが、0.35%しかなければ彼らに頑 張ろうよ、とはなかなか言えません。もし中国 に何かあって、向こうから商品が出てこなくな るとどうなるか、心配になります。 梶原 産地のメーカーさんはどの地域でも 同じ問題を抱えていらっしゃいます。わたしは 産地へうかがう一方で、学校や消費者の皆 さんの前で講演を行うことも少なくないのです が、日本のモノ作りの実態を伝え、何を守り、 何を引き継いでいくべきか、皆さんに考えて いただく。このような「知る」教育の在り方も 大事だと感じています。これはなにもテキスタ イルだけでなく、各地に残る伝統工芸全般に ついても言えることです。 そのためにも「ブランディング」という概念 伊藤忠ファッションシステム株式会社 クリエイティブディレクター 池西 美知子氏 2013年春夏PV展に出展した 日本のオフィシャルプロモーションブース がメーカーの特徴を伝える手段として改めて 重視されるべきだと考えます。産地がこれ以 上危機的状況に陥る前に、果たすべきことが 見えてきたように思います。 新谷 テキスタイルに関わる皆さんの思い を将来の世代へ引き継いでいかねばなりませ ん。クール・ジャパンとして日本のモノ作りを 世界に発信しながら、ブランディングを通じて メーカーの基盤を確立することが重要です。 これからの皆さんの奮闘をお祈りしながら座 談会を終わりたいと思います。本日はありがと うございました。 伊藤忠ファッションシステム株式会社 ブランディング第一グループ長 新谷 誠氏 4 ニュース・クリッピング 2012年5月号 N ews Clipping レスポートサック、女性誌『ミーナ』と共同販促 伊藤忠商事は、主婦の友社が発行する女 性誌『mina(ミーナ)』と共同で、全世界の 商標・販売権をもつ米国カジュアルバッグブ ランド「LeSportsac(レスポートサック) 」の アジア・プロモーション・プロジェクトを開始し ました。 上段左から:台湾版、中国版、 日本版、 日 本 版 付 録『LeSportsac Book In Book』 下 段 左から:タイ版(S Cawaii ! ) 、 マレーシア/シンガポール版、香港版 このプロモーションは、アジアマーケット(日 本・中国・香港・台湾・マレーシア・シンガポー ル・タイの7カ国・地域)を一括りに、同地 域で展開するミーナとタイアップで作成した ブックインブック『mina / LeSportsac Book In Book』を通じて各国・地域で一斉にプロ モーション促進を図ることが最大の特徴で、 伊藤忠として、また主婦の友社として初の試 みとなります。 今 回 作 成 するmina / LeSportsac Book In Bookは、2012年春夏に全世界で発売さ れる新作コレクションの紹介とともに、各国・ 地域の店舗や限定商品の紹介で構成され、 いわゆる「グローバル」と「ローカル」の両 面にフォーカスした切り口となっています。そ して、3月19日発売の日本のミーナ5月号を皮 切りに、日本で作成したものと同内容の誌面 を各エリアの言語に翻訳して、中国(3月23 日発売) 、香港(同) 、マレーシア/シンガポー ル(4月1日発売) 、台湾(4月5日発売)、タ イ(3月29日発 売=タイのみ『S Cawaii!』 ) で順次発売されています。 ミーナ(2001年3月創刊、印刷証明部数 23万1367部)は、2002年に台湾で創刊後、 中国(105万部) 、香港(7万部) 、台湾(12 万部)、マレーシア/シンガポール(5万部)、 タイ(近日創刊予定)とアジアでの展開を広 げており、アジアの若い女性から支持される 女性誌へと成長してきました。伊藤忠としても、 今回のミーナとのタイアップにより、アジアの若 い女性へのレスポートサックブランドの知名度 向上を図るとともに、主婦の友社と共同でア ジアマーケットを一括りにした新たなプロモー ションモデルを構築していきます。 本件に関するお問い合わせ先 伊藤忠商事㈱ ブランドマーケティング第三部 ブランドマーケティング第十二課 課長:武井克磨 担当:天野義朗 電話:06-7638-2359 豪州「スキンズ/ SKINS」の商標権取得 デサントと伊藤忠商事は、SKINS Global Holding AG社とその子会社(以下、スキン ズグループ)の保有するコンプレッションウエ アブランド「スキンズ/ SKINS」のアジア5 地域(日本、中国、韓国、台湾、香港)に おける商標権を取得しました。併せて、伊藤 忠はスキンズグループと上記5地域での独占 販売契約を結び、同契約の下、デサントとそ の子会社(以下、デサントグループ)は、ス キンズグループが製造するコンプレッションウ エアブランド、 スキンズの総販売代理店として、 5地域における同ブランド製品の販売を開始 します。 2012 年 秋 冬 から韓 国で先 行 販 売を開 始、2013 年春夏から日本、香港の販売も 開 始し、その他の地 域についても順 次 発 売します。また、スキンズのノンコンプレッショ ンカテゴリーの製造、販売についても検討 しています。5年後(2017年度)の全 5地 域での売り上げは小売価格で100 億円を目 指します。 スキンズは1996年、スポーツ医学の最先 端国である豪州で生まれました。運動中に最 適で正確な圧力を与えることによる「動的段 階的着圧」はスキンズ独自の最先端技術で、 豪州理学治療協会(*)から唯一、 「コンプレッ ションアンダーウェア」の承認を受けています。 為替(円/US$) Data 製品が完成するまでに、実に6年もの開発年 月を費やしました。今日では、ハイパフォーマ ンスアスリートに圧倒的な支持を受ける一方、 健康という観点から日常の様々なシーンでも支 持されており、現在、豪州、日本、英国を 中心に、世 界 約30カ国、約5500店 舗で販 売中です。 デサントグループは、展開するそれぞれの ブランドが独自性のあるマーケティング活動を 行い、アジアにおけるリーディングスポーツカン パニーとして認められることをゴールビジョンと し、アスレチック、ゴルフ、アウトドアの3つを 事業領域と設定して、さらなる成長、拡大を 目指しています。今回のスキンズの導入により、 すべての事業領域において日本はもとよりアジ ア地域での戦略的ブランドとして販売拡充を 図っていきます。 伊藤忠は、スキンズの展開に関し、デサン トグループのアジア5地域での販売を物流面 でサポートしていくほか、スキンズグループに 百貨店衣料品売上高の推移(億円) 3,000 3,000 80.00 2,000 2,000 85.00 1,000 1,000 1/23 2/13 3/5 3/26 4/16 0 2010.3 2011.3 (*)豪州理学治療協会:1906年設立。11,000人もの 理学治療士が所属し、リハビリテーションやケガ予防などを 研究する協会 本件に関するお問い合わせ先 伊藤忠商事㈱ ブランドマーケティング第二部 ブランドマーケティング第三課 課長:市原良市 課長代行:元砂洋志樹 電話:03-3497-2139 チェーン店衣料品売上高の推移(億円) 75.00 90.00 対しては、生産・物流面でのグローバルで 効率の良いビジネススキームの構築に貢献し ていきます。伊藤忠の保有するグローバルな ネットワークを生かしながら、スキンズの世界 観をさらに強固に打ち出し、同ブランドの価 値向上とアジア5地域における取り扱いの拡 大に貢献していきます。 2012.3 0 2010.3 2011.3 2012.3 出所:日本百貨店協会 出所:日本チェーンストア協会 ドル/円は、日銀による追加金融緩和期待や堅調な米国経済指標等を背景として底堅 全体では14.1%増と3カ月ぶりに前年同月を上回った。前年に東日本大震 前年の震災の反動などから衣料品が前年を上回ったものの、食料品、住関品が前 く推移し、3月27日に83円39銭まで上昇。 しかし、中国経済の成長鈍化やスペイン財政に 災の影響を受けたことが反動要因。店舗の被災や計画停電で臨時の営業体 年を下回ったことから、総販売額の前年同月比は2カ月ぶりのマイナスとなった。衣料 対する懸念を背景にリスク回避の流れが強まると、4月16日に80円29銭まで下落。その後 制を強いられた東北と関東地区が伸びをけん引した。復興ムードや消費マイン 品は1022億円で前年同月比5.9%増。紳士衣料はスーツ、 ジャンパー、ハーフコート、 はスペイン財政に対する懸念が後退したことなどから81円台後半まで反発した。目先のド ドの好転もあって高級時計、宝飾品、輸入特選雑貨などの高額商材が好調に カットソーは好調も半袖シャツなどの春物商材が不調。婦人衣料はセーター、アウター ル/円は、日銀による追加金融緩期待を背景にドルの底堅い展開を予想する。一方で、米 推移した。衣料品売り上げは1928億円で19.0%増と3カ月ぶりに前年比プ スーツ、 ジーンズ、パンツ、スカートや入卒関連のフォーマルは好調だがブラウスは不 国の経済指標の中にも景気減速を示すものが出てきていることから、量的緩和策第三弾 ラス。紳士服・洋品23.5%増(4カ月連続プラス)、婦人服・洋品は22.1%増 調。その他衣料・洋品は機能性肌着が好調もベビー用品が不調。雨傘、 レイングッズ (QE3)への思惑が強まる局面ではドル安に振れるリスクには注意が必要。 ( 4/23) (3カ月ぶりプラス)、子供服・洋品8.8%増(2カ月ぶりプラス) となった。 は良かった。衣料品以外では敷ふとん、羽毛ふとん、カーペットが好調だった。 海外報告 orld RW eport 英国 夏季五輪と即位60周年に沸く 5 松原 陵太 伊藤忠欧州会社(ロンドン駐在)欧州繊維グループ 一都市で3回目の夏季オリンピック開催は初めて Twenty Twelve 2012年5月号 女王に次ぎ2回目となる。この一大イベントに 際しビッグベンの愛称で知られる国会議事堂 の時計塔を「エリザベス塔」と名称変更す るよう超 党 派の下 院 議 員が動 議を提 出し た。来る6月3日にはテムズ川に1000隻以上 の船を浮かべるThames Diamond Jubilee Pageantが予定されており100万人の観客動 員が予想されている。このイベントに向けロ ンドン市内のホテルは早くも予約一杯となっ ている。この2つの大イベントが重なり合い、 英国住民にとてつもない喜びを与えている。 巨額のソブリン債を抱える欧州連合(EU) 諸国から派生した欧州金融危機は未だ出口 の見えないトンネルの中、英国には一寸の光 が差している。英国はEU加盟27ヵ国中、ユー ロ通貨を導入していない10ヵ国の一国。英 国がユーロを導入しない背景には諸説ある が、紙幣からエリザベス女王が消えることに 対する抵抗との一説もあり、国民の女王に対 する敬意を改めて認識することができる。 イソップ童話の「アリとキリギリス」 に今のヨー ロッパの状況を置き換えた例があるが、 ドイツ、 極度乾燥しなさい スウェーデン、デンマーク、スイスの北部の歴 英国における日本の衣料用品店と言えば 史的に新しい国々が「アリ」でイタリア、スペ ユニクロ(現13店舗)や無印良品(現14 イン、ポルトガル、ギリシャの古い歴史を有し 店 舗)がメジャーである。そこで 今 回 は ている国々が「キリギリス」とされている。意 Superdryというブランドを紹介したい。私を 味合いは違うがあえて英国を昆虫に例えるな 含め日本人がスーパードライと聞いて即頭に ら「ハチ」、エリザベス女王がまさに女王蜂 浮かぶのはビールであろうが英国では必ずし で国民が働き蜂といった構図である。 もそうではない。アサヒビールは一般スーパー 財務省が発表したGDP成長率は0.5%、イ (Tesco、Sainsbury’ s)でも取り扱われてい ンフレを表すCPI(消費者物価指数)は2%と近 るほどシェアを拡大しているが、今日の英国 年でも最も低水準で推移し、失業者数も未だ 人にとってSuperdryは大流行カジュアルブラ 180万人を数えているが、2012年は英国史に ンド、「Superdry∼極 度 乾 燥(しなさい) 」 残る1年となる。その理由は2つ。一つは7∼ を指す。 8月に開催される夏季五輪。同都市で3回開 1985年にCult Clothingから始ったSuper 催されるのはオリンピック史上初となる快挙と Group社 が、2004年に「Superdry極 度 乾 あって市民の盛り上がりもひとしおだ。二つ目 燥(しなさい)」というブランド名でコベントガー は今年2月に迎えたエリザベス女王即位60周 デンに第1店舗をオープンして以来急成長を 年記念である。 遂げ、2010年5月期の売り上げ£1.4億(約 今回のオリンピックが英国にもたらす経済効 178億円)、2011年5月期の売り上げ£2.4億 果は、2015年までに£51億(約6477億円)と 想定されている。オリンピック、パラリンピック競 (約305億円)とこの1年でも売上高が2倍近 技期間中の一般消費は£7.5億(約952億円) くに膨らんだ。昨年12月にはロンドン一格式 の高いリージェントストリートの一等地に880平 と言われ通常の18.5%増。セクターで大別す 米の巨大な旗艦店をオープンした。 るとスーパーマーケットで£8000万(約102億 円) 、リテイラー、百貨店で£1.8億(約229億) 、 エンターテインメント(Food & Drink)で£ 8200万(約104億円) 、ホテルで£1.2億(約 152億円) 、トラベル(飛行機、レンタカー)で £4000万(約51億円) 。ポンド安の影響もあり 海外客の消費に期待が高まる。 Diamond Jubileeと言う言葉にピンとくる日 本人は多くないであろう。かくいう私も昨年ロ ンドンに転勤して初めて耳にする言葉だった。 Diamond Jubileeとは即位60周年を意味し、 日本でも1986年に昭和天皇御在位60年記念 が行われたが、英国では1897年のビクトリア 「極度乾燥しなさい」のブランドで急成長を見せる ブランドの特徴はアメリカンビンテージ生地 に日本のグラフィックデザインと英国テーラーの 三つ巴を取り入れた非常にユニークなブランド である。2007年には有名サッカー選手、デビッ ド・ベッカムが着ていたジャケットが7万着も売 れるなどセレブも御用達のブランドとなった。 街でも良く目にするがトレードマークに右肩背 部に「SUPER DRYJPN極度乾燥」と刺繍 されており際立っている。一世を風靡したアメ リカンカジュアル、Abercrombie & Fitchの 全盛期を思わせるがやはり一味も二味も違う。 日本文化の浸透という観点からすると2009 年以降、毎年恒例開催しているジャパン祭り は当社もスポンサーする大規模野外イベント で、昨年は一日で5万人を超える集客力。ロ ンドン在住の英国人が日本の文化に触れる絶 好の機会であり、和食、文化(武道、活花、 太鼓) 、ファッションを披露している。 Hyper Japanイベントも2010年から毎年開 催され、3日間 にわ たって 食 文 化(Eat Japan Sushi Awards) 、芸 術(日本 舞 踊、 三味線) 、ファッション(ストリート、コスプレ・ ロリータ等)まで幅広く紹介されている。こち らも3日間で1万3000人以上を集める大きなイ ベントとなっている。 日本のサブカルチャーが欧州に浸透してき た一例として、2012年春夏のファッションショー でMiu Miuがパッチワーク付きA-lineスカート にクロップトップに肩掛けケープといった日本の ロリータファッションを取り入れたり、新鋭デザ イナー Meadham Kirchhoffはフリルブラウス にテディベア、ニーハイソックスと下駄といった 原宿ファッションがテーマとなっていた。 ロンドン店スタッフと (右から2人目が筆者) はちょうど良い。内容も時事ニュースからアー ト、 スポーツと幅広くトピックスをカバーしている。 読み終わったらゴミ箱に捨てるのではなく電車 内の座席の後ろのスペースに置くのが常識。 それを次の読者が拾って読む仕組みになって おり、リサイクルと効率と手間が非常に良くで きていることに関心する。 Small Government, Big Society 鉄の女、マーガレット・サッチャー元首相 が掲げたSmall Government(小さな政府) とデーヴィッド・キャメロン首相が提唱するBig Society(大きな社会)。これがまさに今の英 国政治を象徴する言葉である。サッチャーの 功績は今でも賛否両論あるが、英国を不況 から脱出させ磐石な財政基盤を作り上げた 立役者であることは間違いない。モノポリーを 撤廃し、競争を自由化し、Consumerism(消 費者チョイス)を導入した。 一方、キャメロンは貧困や失業などの課 題に対応していく社会を作り上げるために 「Big Society」を掲げボランティア団体、コ Fish&Chips → Sushi? ミュニティーグループ、地方政府などに権限 を与えてきた。Big Society Bank(大きな せっかくなので英国における和食文化につ 社会銀行)では既存の銀行の休眠口座か いても簡単に触れておく。 ら資 金を集 めて 基 金を作り、Voluntary 英国と言うとまず聞かれるのが食事は美味 Sector(ボランティア部門)の資金調達に しくないでしょ ?の愚問。確かに英国料理で思 役立てている。事業仕分けやら消費税増税 い浮かぶのはFish&Chips(鱈とポテトのフラ 問題が取りざたされている日本には大変参 イ)かローストビーフ。どれも日本人にとって 考になる政府施策である。 毎日食べられる料理ではない。そんな英国に 3月にジョージ・オズボーン財務相が公表し も寿司は上述したHyper JapanのEat Japan た2012年度予算案の中に法人税の削減があ Sushi Awardsでもあるようにヘルシー食と し て 英 国 人 に は 好 ま れ、 「Yo!Sushi」 り、予定されていた25%からさらに1%削減さ 「Wagamama」「Moshi Moshi」「Wasabi」 れ、この4月より現行の26%から24%に変更さ れた。法人税はその後も毎年1%ずつ引き下 といったベタなネーミングの大衆寿司屋で、ファ ストフード感覚で寿司を堪能することができる。 げられ2014年に22%になるまで続けられる予 定。これらの税率引き下げは英国進出日系 それまではフライで揚げてきた魚を生で食すこ 企業の税引後利益に恩恵をもたらすもので、 とに対する抵抗は緩和されているようだ。美味 是非これを機に心地良い気分、喜びを共有 か否かは是非御自身でお試しいただきたい。 するためにも一社でも多くの日系企業が英国 進出を検討されることを願う。 フリーペーパー ロンドンでは無料新聞が配布されている。 厳密に言うとすべてが無料ではないが、地 下鉄駅構内に平日毎朝積まれているMetroを はじめ、夕 刊 のEvening Standard、街 頭 で毎朝配布されているCity AM、毎金曜日 にはSport、London Weeklyと多数のフリー ペーパーが存在する。Metroを発行している Associated Newspapers Ltd.は1999年か らスタートし現在では14都市で発行している。 Metro紙はタブロイド式で通常20分で読了 できる設定になっており通勤電車内で読むに ゴミ箱に捨ててはいけません。回し読みするフリーペーパー 6 2012年5月号 ファッションリポート F ashion Report 業界を育てて生かす No.581 出版メディアを生かしたブランディングとは 田島 淑江 伊藤忠ファッションシステム株式会社 ブランディング第2グループ ブランドアライアンスBU [email protected] 2011年の雑誌市場が27年ぶりに1兆円を割り込んだ。出版科学研究所の調べによると、 年間の推定販売金額は前年比6∼7%減の9850億円前後になり減少幅は過去最大。休廃刊 が相次ぎタイトル数が減ったことに加え、スマートフォンの普及が若者らの雑誌離れに拍車をか けたとみられる。出版社も、あの手この手で打開策を打っているがなかなかその動きはコンサバ で従来の出版業界の枠を越えられてはいない。ただ一方で、最近他業界が仕掛ける “出版メディ ア”の動きが面白い。本の枠を飛び出た新たな発想が人々の価値観を変え、本のカタチ、そし てそれに付随するブランドの価値を高めている。出版メディアを用いたブランディングとは、業界 の新たな動きに注目したい。 本屋を超えた編集力 4月18日 東 急 プラザ 表 参 道 原 宿5Fに 『Tokyo’ s Tokyo(トーキョーズトーキョー)』 がオープンした。空港オリジナル編集型店舗 として「東京発の旅」をコンセプトに羽田空 港第2旅客ターミナルに1号店がオープンして から約3年、東京のカルチャー発信地である 原宿表参道を舞台にした第2号店のコンセプ トは日本が世界へ誇る文化、マンガ・アニメ である。本棚も平台も、お店全体が徹底して マンガ仕様。「漫画の中にいるような感覚を体 感できる空間」をコンセプトにした店内にはマ ンガ本を開いたようなコマ割りや、吹き出し、 効果線などを用いて空間がつくられている。 空間デザインは建築家・松井亮さん、店 員のユニホームは「アンリアレイジ」、漫画の セレクションはブックディレクター幅允孝さん (BACH)、そしてそれらの環境をつなぎ合わ せる雑貨セレクションは「method」山田遊さ ん。ファッション、プロダクト業界の若き精鋭た ちが集結し、“本”の枠を飛び出て “本”の価 値を高めている。 「魔女の宅急便」の横には主人公キキが 頭に付けた赤いリボンのイメージのポーチ、 「ワ ンピース」の横には、ルフィの帽子を彷彿とさ せる麦わら帽子…そんなマンガとファッションの 関係図を店内で表現している。 彼らがこの店を通して願うことは1冊のマン ガ本を入口に、未知なるモノや本に出くわし てもらいたいということ。それこそがネットショッ プにも電子書籍にも出来ない“書店”のあるべ き姿だったのではないだろうか。手に取ってと きめく本とその本の横でときめく雑貨たち。今 までにない出会いがある本屋さんが出版業界 の外から誕生した。 表紙のメディア力 本の枠までは越えないが、書籍の内容とは 別に、表紙という場所を一つのメディアとして 考える仕掛けも広まってきた。今文庫、書籍 ジャンルで人気が高いのは「ライトノベル」と 呼ばれるイラストなどを挿入した小説のことで、 「となりの801 (やおい)ちゃん」 著者/小島アジコ 表紙だけ見ればマンガと勘違いするようなポッ プさと軽さが感じられ、活字離れした若者で もつい手に取ってみたくなる新感覚の書籍に 人気が集中している。 ただ、キャッチーな表紙、豪華な付録も 日々、形を変え進化し、とくに付録は付いて いることが当たり前となってしまった今、今後 は希少価値の創造がマーケティングポイントと なるだろう。 日本国内、そして海外で大人気のキャラク ターを使ったキャラクタービジネスを行うサンリ オは、書籍の表紙を新たなブランディングの 場所として考えている。今年3月に宙出版発 行の小島アジコさん著書の最新刊『となりの 801ちゃん 6 限定版』でその主役キャラクター の801ちゃんとキティちゃんのコラボレーション 企画を発表した。 『となりの801ちゃん』は、 小島アジコさんが2006年4月に自身のブログ で展開し、じわじわと人気となったことで書籍 化されたシリーズもので第5巻までで70万部を 超えるヒット作である。ただ、その第6巻の発 売にあたって話題性の限界を感じていたとこ ろにサンリオからの企画の持ちかけがあった。 このコラボは書籍上でしか起こらない希少価 値の高いキャラクターとして注目が高まり、互 いにファン層の拡大につながった。 サンリオはこの801ちゃん×キティちゃんキャ ラクターの作成によるロイヤルティー収益と購 入者特典付録としての「ハローキティ×801 特製コラボクリアファイル」の制作費収益の2 つを得る。他の書籍との差別化を持てる話題 性を作りたい出版 側にとっても、付 録カル チャーが根付いた消費者にとってもうれしい出 版形態であり、双方のキャラクターの価値を 高める新しいアイデアの一つとして業界でも注 目されている。 ブランディング視点の 出版のカタチ 伊藤忠ファッションシステムは消費者マーケ ティングを基盤としたブランディング事業をビジ ネスの主軸に置いているが、弊社も今、出 版メディア流通を用いたブランディングのあり 方について注目している。 今年3月初旬に大人気ブランドレスポート サックの春夏コレクションを特集したブランドブッ ク『LeSportsac Special Magazine 2012 Spring-Summer』が発売となった。これは 当社が出版元となり発行している。発行を手 掛けるにあたり、ブランディングの視点で今ま での付録ありきのものではなく、本来の“ブラ ンド価値と売り上げへの貢献” というブランド ブックのあるべき論を振り返ったコンテンツ作り TSUTAYA六本木店 店頭プロモーションの 様子 「LeSportsac Special Magazine」 表紙と特別企画2Wayナノポーチは 2柄展開 にこだわり、ファッション性を高めることでブラ ンド価値向上と新規顧客の獲得も図っている。 今やブランドムックは、単なる付録の域を越 えて、バッグに付録の雑誌がついてくるという 発想に変化しつつあり、肝心の雑誌の中身 の方が薄っぺらいという意見が高まっている。 また付録で満足してしまい、実際の店頭商品 の売り上げを食いあうという事態を引き起こし ているケースもある。本来共存共栄であるべ き出版社とブランドとの関係を立て直し、レス ポートサックのブランドホルダーである伊藤忠 商事と、レスポートサックジャパンとともに企画 立案から制作まで手掛けたものが今回のレス ポマガジンである。ブランドホルダーとしてブラ ンド価値向上という命題を持つ、伊藤忠のグ ローバルな視点と、日本マーケットにおけるレ スポ顧客のニーズを熟知しているレスポート サックジャパンの視点を汲み取りつつマーケッ トニーズに則したブランディングにつながるコン テンツを提供している。 また、弊社は取次大手の日販と提携するこ とで過去のデータを最大限に生かしながら、 効率的な流通ルートの選択を行い、売り場の 優先的確保と主要店頭でのプロモーションを 木下優希菜さんを起用したディズニーコレクションページの 掲載商品はすべてにお客様からの注文が殺到 実施、また代理店を通さないことでトータルコ スト削減を図っている。 発売から本誌の売り上げはもちろんのこと、 本誌で掲載されていた商品の店頭での動きも 期待以上だった。本誌で大きく取り上げられ ていた商品の発売日には公式WEBサイトへ のアクセスが集中し回線がつながりにくくなる 事態も起こり、マガジン限定のキャンペーンを 店頭と連動させたことで来店客数や問い合わ せ数も急増するなど効果が発揮された。そ れだけ読者が本誌の内容にまで関心を寄せ ていたということであろう。 変化し始めている出版業界にあって、ブラ ンディングメディアとしての可能性が広がる。実 は表現の可能性は無限大であり、本もショップ もこれまでの受け身な存在から、仕掛けて応 えを得る「場」 、そして異なるジャンルが自由 に交われる場として変化してきている。アップ デートできない普遍的な部分は本の良さであ り、つまりネットのような瞬間的な儚さとは逆の、 いつまでもそこにある、じっくりと伝わっていく機 能を、単なる読み物としてではなく、改めてひ とつのメディアとして意識していただきたい。 ブランド情報だけでなくハワイのお勧めスポットも紹介
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