第27号

vol.27
2008.3.24
―目次―
1.
亀崎博専門家
(マレーシア)
APPROACHは、海外各国で専門家として活躍されている方々
の指導現場での貴重な体験談を掲載しております。
専門家の声
亀崎博専門家
2.
長谷川綾子氏
協力企業関係者
3.
武田正也専門家
(モンゴル)
4.
足立正弘専門家
(マレーシア)
JODC からのお知らせ
理事長からのエール
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Mr. Hiroshi Kamezaki
マレーシア・シャーラム
派遣期間:2006/9~2007/9
指導内容:IC リードフレーム製造における設備技術
に関する技術指導
ほめてやることが大切
今回、私は設備技術に関する技術指導をし
てきました。現地スタッフの心をつかむ方法
としてまず大切なことは、この派遣技術者は
とても優秀な人だと認めてもらうこと。たとえ
ば、彼らがとても困っていること、どうしたら
いいのか分からないことを技術者が実際に
やって見せ、簡単に解決することです。そう
すれば彼らに認めてもらえます。
その次に大切なことは、いろいろなことを
やらせること。但し、失敗したときは何故失
敗したのかをしっかりと説明し、どうすれば
よかったかを教えることです。決して、その
人をなじったり、馬鹿にしないこと。また、う
まくいったときはほめてやることが大切で
す。この二つのことに注意して指導してい
けば、現地スタッフは技術者の指導につい
てきてくれます。
現地の食べ物事情
休日は近くの野外レストラン(レストラン
とは呼べないかも)で、現地で有名なロ
ティチャナイとテタレの朝食で始まります。
ロティチャナイは、小麦粉をバターで捏
ね、鉄板で焼いたものにカレーをつけて
食べる料理です。テタレはあまいコンデ
ンスミルクを使った紅茶です。ロティチャ
ナイがとてもスパイシーなので、飲み物
は甘いものをとる習慣があるようで、私
もどっぷりとマレーシアの食生活にはま
ってしまいました。その後、朝市での買
い物に出かけます。朝市では新鮮な野
菜・果物などを買っています。特に果物
は豊富で安く、マンゴー・パパイヤなどを
買っていましたが、ドリアンだけはにお
いがすごい為、なかなか買えません。車
に乗せて帰ると(たとえトランクに入れて
いても)、一週間くらい、においが車の中
に籠もってしまいます。こちらのタクシー
でも”ドリアンお断り”のステッカーが貼っ
てあるくらいです。せっかく南国にきてい
るのだから、日本ではなかなか味わえな
いものを食べていました(ドリアン以外)。
おいしいものをたくさん食べて、翌日の
仕事のパワーへと役立ててきました。
▲指導中の亀崎専門家
▲ロティチャナイとテタレ
1
協力企業担当者の声
東芝エレベーター(株) 長谷川 綾子氏
Ms. Ayako HASEGAWA
ご担当の派遣案件について
派遣専門家:西口克幸専門家
中華人民共和国・上海
派遣期間:2007/2~2008/2
大型超高層物件へのエレベーター据付に関する現場工程管理指導
及び人材育成。エレベーター据付工法(ゴンドラ工法)の技術指導
電梯=エレベーター
私が協力企業側の窓口として担当致しました西口専
門家をご紹介させて頂きます。
彼は、豊富な経験と実力を生かし、JODC 専門家として
受入企業の「東芝電梯(上海)有限公司」や付加指導
先の「北京東方橋機電設備有限公司」の方々に大型
超高層ビル用最高級エレベーターの据付に関する現
場工程管理の指導と人材育成を行いました。私は、
「上海環球金融中心」という、上海の浦東新区に現在
建設中の超高層ビルへのエレベーター納入プロジェク
トに属しており、専門家の指導期間中計4回現場を訪
問し、指導場面を見聞きする機会を得ました。
日々の作業と結果で実証
コミュニケーションは、重要な打合せや指導では通訳を
介して行っていましたが、ちょっとした指導や日常生活
のやりとりは中国語で全く問題なく、専門家の適応能力
の早さに驚かされました。写真でもご覧の通り、指導は
もっぱら現場での OJT が中心ですが、技術移転の確実
性と、指導終了後の自立性を向上させるために、図や
写真入りの「作業手順書」を作成し、折に触れて集合教
育を実施することを心がけていました。
今回の指導対象者は、それなりに実務経験の有る
技術者たちで、彼らに改めて安全徹底や納期厳守
西口専門家
を再徹底すること、更なるレベルアップを目指して指
導することは困難を伴うものであったと思います。し
かし、計画を立て、これを守ることによって得られる
効率向上や費用削減の重要さ、またこれらの前提
があってこそ初めて「最高品質」と言えるのだ、とい
う基本原則をとことん、粘り強く繰り返し繰り返し、
日々の作業と結果で実証して見せることを大切にし
ていました。専門家が指導を始めると、周りの空気
にある種の緊張感が伝わるのを肌で感じ、彼らとの
信頼関係の強さを実感する場面が多々有りました。
垂直の複合都市
さて、当社の最高級エレベーターを納入する「上海
環球金融中心」は、完成すると地上 101 階、高さ
492m になる、世界一の高さの展望台、最新鋭のオフ
ィス、カンファレンス施設や商業施設、そしてパーク
ハイアット上海を擁する「垂直の複合都市」です。
昨年までは、浦東国際空港から現場へ向かうタクシ
ーで運転手さんに行き先を「上海環球金融中心ま
で」と告げると、「それはどこ?」「グランドハイアット
ホテルの向かいで・・」と少々説明を要したのですが、
今年の 1 月に訪れた際は「そのビル、知っているよ、
一番高いビルだろう!」とすぐに誇らしげな答えが返
ってきました。ビルが完成に近づくにつれて、早くも
上海市民のみなさんに親しまれ、自慢の存在となっ
ていることを知りました。JODC の派遣制度を通じて、
このような素晴らしいビルに納入するエレベーター
据付に関する指導を行ったことが、指導対象国の発
展に大きく貢献していることを何より実感できる場面
に遭遇することが出来ました。
皆様も春以降に上海を訪れる機会がございましたら
是非、世界一の展望台から日々進化し続ける上海
の眺望をご堪能されてはいかがでしょう。
←「エレベーター施工
中進入禁止」
長谷川氏
西口専門家
受入企業、
付加指導先
の皆さん
▲建設中の現場(43 階部分)で専門家と搬入資材の確認。
写真は中国人マネージャーが撮影してくれていたもの
長谷川氏
▲指導先の皆さんが作業用ゴンドラに乗って上下しなが
ら、ダブルデッキ(二階建て)エレベーター設置工事指導
中
2
専門家の声
武田正也専門家 Mr. Masaya TAKEDA
モンゴル・ウランバートル
派遣期間:2007/3~2008/3
指導内容:自動車部品プレス成形用金型の 3 次元ソリッド設計及び同
3D-CAD 操作に関する技術指導
モンゴル人の国民性
モンゴルの新年のお祝い
モンゴルの新年のお祝いは 2 度あります。日本で旧正
月と呼ばれる太陰暦によるもの(2 月中旬)と、一般的な
太陽暦(1 月 1 日)の 2 回です。太陰暦によるものは、こ
ちらの言葉で「サガンサル」と呼ばれ、昔からの伝統に
則り、静かに家族と過ごすものだそうです。が、今回は
太陽暦によるものに関してご紹介したいと思います。
モンゴルの人々は一般的に(全員ではありません
が)、自己中心、独善的、短絡的、刹那主義で、計
画性が無く、堪え性がありません。その反面、行動
力には目を見張るものがあります。その様な性格
でなければ、この厳しい環境で生存できなかった、
とも考えられますが・・・。
モンゴルでは 12 月 20 日ごろから 31 日までが新年を祝
う期間です。あちらこちらで盛装した男女(男性はほぼ
スーツですが、女性はここぞとばかりに華やかなドレス
を身に纏います)が集まり、パーティが催されます。年
末になりますと毎晩毎晩、あちらこちらで花火が打ち上
げられ、夜中まで大騒ぎです。法律では 24:00 以降の
その様な性格の人々が大半を占めますので、我々
酒類の販売が禁止されておりますが、この期間は大目
が満足できる物を作る、という事が非常に困難です。 に見てもらえる様です。大いに酒を飲み、歌い、踊りま
私が指導しておりますのは、主に 3D-CAD を使用し
す。
た自動車用板金金型の設計です。製造業(特に設
ところがこの大騒ぎも、1 月 1 日を迎えた瞬間、一気に
計)の場合、機能を満たしているのは当然の事で、
終わります。まるで何事も無かった様に、街は静寂な時
そこからの+α(如何に使いやすく、作りやすく、さ
を迎えます。
らにコストをどこまで抑えることが可能か等)が要
求されます。しかし彼らは「自分さえよければ」とい このモンゴルの人々の、後に引きずらないさっぱりした
う気持ちですので、なかなか「良い」仕事ができま
性格には驚かされました。この気質は、留まる事を許さ
せん。また、計画性も無い為、納期当日になって投
れず、次から次へと草原を求めて移動した放牧によっ
げ出す事も度々ありました。
て育まれたのでしょうか。
そこで、業務内容のマニュアル化を図りました。作
考えますと、日常にも、彼らの「さっぱりした性格」という
業手順のフロー図を作成し、設計・製作基準を設け
ものは現れていました。仕事上のトラブルで大声で討論
る事により、BEST では無いにしても BETTER な物を
(ケンカ?)しても、翌日には普段と変わらない態度で接
作る事が可能になる様にします。現在、骨組みは
して来ます。ただ、仕事の失敗を引きずらない(反省し
できましたが、実作業とのギャップが発生しないよ
ない)為、同じ失敗を繰り返す、という点には閉口させら
うに内容を詰めている最中です。
れますが・・・。
また、納期厳守の対策として、数箇所のチェックポ
イントを設ける事にしました。中間目標を設定し、そ
れをクリアして次の目標へと・・・。彼らは、計画性と
いうものは持ち合わせていませんが、思考を行動
に移す力は素晴らしいものがあります。短期的な
スパンで仕事を進める、というのは彼らの性に合っ
ている様で、予想以上の効果を上げています。
今回の指導を通じ、他国で仕事をする場合、まず
その国民性を勉強し、そこからそれに合う方法を構
築する事が大切だと思うようになりました。
この気質が、良くも悪くも彼らの持ち味です。この気質
を最大限に活かす指導が今まで出来ていたか、甚だ不
安ですが、知った以上はそれを意識し、残りの指導期
間を有意義に活用したいと思います。
▲2008 年の新年パーティ
3
専門家の声
たな「人生観・仕事観」が得られたと思います。
足立正広専門家 Mr. Masahiro ADACHI
マレーシア・クアラルンプール
派遣期間:2007/5~2007/8
指導内容:自動車プレス部品の製造及び同成形用金型に関する技術指導
飲みニュケーションは使えない
今回、私が指導した自動車プレス部品の金型補正とは
いわゆる「カン、コツ」を必要としており、言葉だけでは
どうしても伝わらない部分がありました。また、お互い気
心が通じていないとどうしても時間がかかってしまいま
す。これが、日本ではお互いを知る為に「お酒を一杯共
にする」ことで親近感が増し、急速に円滑な関係を結ぶ
ことができるのですが、ここマレーシアはイスラム教の
戒律にのっとり、現地スタッフはお酒を口にすることが
できません。残念ながら私の得意とする「飲みニュケー
ション」が使えないのです。
そこで、マレーシアの人はスポーツが好きなので、皆で
楽しめるようボーリング大会を主催しました。賞品を設
けて、各チームの対抗戦を実施。賞品がかかっている
せいもあるのか、根っからのスポーツ好きが手伝ってか
現地スタッフは大盛り上がり。私を含め不思議とチーム
ワークができあがってきたのです。赴任の間、定期的に
開催しスタッフとの親近感を培いました。
▲同時期の JODC 派遣の小野氏とローカル
スタッフとともに果物狩りへ
JODC からのお知らせ
■ 3 月 7 日、フィリピン JODC 派遣専門家の労働許
可証取得の迅速化を図るため、フィリピン労働雇用
省(DOLE)と、JODC 派遣専門家の労働許可書取得に
係る協定(MOA)を締結いたしました。
この MOA を活用することにより、フィリピン JODC 派遣
専門家は、DOLE に申請後、72 時間以内に労働許可
証を取得することが可能となります。
ご活用の際は、派遣担当者までご連絡ください。
理事長からのエール
~専門家の皆様へ
←足立専門家
▲毎朝定例のセーフティミーティング
また、現地スタッフはイスラムの教えを深く信仰していま
す。どうも話をしていると、彼らの中では「日本人はみん
な無神論だ」との認識があったようですが、私が「正月
は必ず初詣に出掛け、困ったことやお願い事があると
きは神社に出向いてお願い事をする。もともと日本人は
古来、万の神に祈りを捧げ、神に対して畏敬の念を抱
いている」との話をしたところ、日本人もマレーシア人も
拠り所は同じなんだと納得をして心が通じ合えた気がし
ました。指導する側、指導される側と線をひくのではなく、
同じ土俵で同じ価値観を見出し、お互いを尊重しあうこ
とが一番大切なんだと感じることができた赴任であり、
自分自身が違う文化に触れ、共に仕事をすることで新
小林 惇
福田総理が中国を訪問して孔子廟を訪問し、温故
知新を一文字変えて温故創新という書を書きまし
た。論語の温故知新からもじって「ふるきをたずね
て新しきを創る」ということを、今後の日中関係を
展望して書いたのでしょうか。
論語で、弟子が「教育はどうしたらうまくいくだろ
う」と尋ね、孔子は「憤せざれば啓せず」と答えま
す。「わかりたくてうずうずしているのでなければ、
教えてやろうとは思わない」という意味です。
皆さんが、技術を教えるときにうずうずしていない
人も現地には大勢いるでしょう。そのときに「憤せ
ざれば啓せず」で済むのでしょうか。
燃えている人にものを教えるのは簡単です。燃え
ていない人にどう教えるかが、難しいところなので
しょう。皆さんがうずうずした気持ちにさせないとい
けないのです。
その方法は論語にもないのですから大変苦労す
ると思いますが、がんばってください。
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