No.63-4 VARDEX TMコースピッチとスタンダード

「TM コースピッチとスタンダードについて」
News No. 63-4
VARDEX ミリング用ねじ切り工具の中で従来のスタンダードシリーズにのみ、
「コースピッチ」 と 「スタンダード」の2種類のホルダとインサートが存在しています。
これらはソリッド品や MiTM などのミリング用の他の工具や
旋盤用のインサートにはありません。
いったいこれは何を表わし、区別しているのでしょうか?
語句の基本的な意味
コースピッチ ・・・ 並目ねじを表わします。各規格のねじ寸法の基本となるものです。
例えば M6x1.0P は並目ねじ、M20x1.0P は細目(ファインピッチ)になります。
※ ISO ねじ M6 のピッチは 規格上 1.0 と定められ、M6 以上の呼び径に対する
1.0P の適用は全て細目(ファインピッチ)となります。
では同じ 1.0P で、ねじ山に何か違いがあるのかというと実は何も変わりません。
ねじ山形状、各部の寸法は全く同じです。
しかし、ねじれ角には大きな違いが出ます。M6x1.0P のねじれ角は 3.405°
対して M20x1.0P の場合 0.942°ですので旋盤加工の場合インサートは同じで
構いませんが敷板の交換は必須となります。
M6x1.0P
3.405°
M20x1.0P
0.942°
スタンダード ・・・ 直訳すれば 「規格」 となりますが、対コースピッチとなると意味合いが変わります。
VARDEX のTMカタログを見てみましょう。
「スタンダード 」 と 「コースピッチ」 インサートアイテムの表に注目してください。
「コースピッチ」 には有って 「スタンダード」 には無い項目、それは 「下穴範囲」 です。
下穴範囲の指定があるということは・・・・・
そうです、加工可能なねじ呼び径に明確な範囲があることを示しているのです。
これは ISO ねじに限ったものではなく、UN や BSW などにも存在します。
では、「コースピッチ」 と 「スタンダード」 インサートやホルダは設計上どのような
違いがあるのでしょうか?
具体的な使い分け(ホルダ)
旋盤加工であれば呼び径が小さくなったり大きくなったりしてねじれ角が変わっても敷板を交換すれば
殆んどの場合対応することが出来ます。
しかしミリング加工に於いては工具が回転する為、基本的に刃先は同一円周上を回っています。
下図は両者はピッチは同じですが呼び径が違います。
右側の呼び径が大きなねじの場合ねじれ角が小さく、工具がその場所で
回転しても刃先のねじ山への干渉はありません。
しかし左側の呼び径が小さくねじれ角が大きい場合、呼び径が大きなものを
加工するインサートと同じではねじ山に刃先が干渉してねじの形になりません。
従って工具側の刃径とインサートサイズを小さくして干渉しないようにする
必要があります。
ねじ呼び径 : 大
ねじれ角 : 小
ねじ呼び径 : 小
ねじれ角 : 大
一刃(一回転)あたりに削り取る面積
下図は主軸上部からの加工の様子です。同じ下穴寸法に対して工具刃径が小さい場合と大きい場合
との比較で青い部分がワークに接触している長さになります。
下穴内壁
下穴内壁
工具
工具
接触長さ
接触長さ
同じ径の下穴に対して工具刃径が大きい場合にはワークへの接触長さは長くなりますが
工具刃径を小さくすれば接触長さを短くすることが出来ます。
従ってねじれ角が大きな場合には工具径が小さい(接触長さが短い)とねじ山に干渉しにくくなります。
そのためコースピッチ用のホルダの刃径はスタンダードタイプに比べ小さく設定されているのです。
ではインサート自体もサイズを小さくすれば良いのでしょうか?
具体的な使い分け(インサート)
下穴内壁
基本的に工具は右回転しながら下穴の内壁に沿って左回り一公転で
1ピッチ分緩やかに上に上がってきます。
一刃又は一回転あたりに削り取る量が
とするとプログラムで
連続して加工した場合を平面に展開すると下図のようになります。
工具
f
コースピッチ用のホルダの刃径はスタンダードに比べ細くなっていますが、インサートを小さくすると
いっても剛性面での問題もあり限界があります。
そこでコースピッチ用インサートの刃先の山形状はスタンダードと違い、山形状そのものや山の角度、
高さ等が設計的に変更してあります。
これは加工するねじ山に刃そのものが干渉しないようにしながら正規のねじ山形状と寸法を確保できる
ように特別に設計されたものです。
従ってスタンダードで加工するべきねじをコースピッチ用のインサートで加工するとねじ山形状や寸法に
異常をきたす危険性がありますので注意が必要です。
正しい選択の方法
VARDEX TM Generator を使って選定する方法が最良です。
新規では問題なく選定出来ますし、既にホルダやインサートを保有されて
いる場合でも適用できるか否かの確認も簡単に行うことが出来ます。
内径ねじ切り加工は単なるボーリング加工とは大きく異なります。
ボーリング加工の場合は最小加工径さえクリアすれば何とか加工に使用
することが出来ます。
しかし、ねじきり加工の場合はピッチによるねじれが絡んできますので
単純に最小加工径だけで使用可否を判断出来ないのです。
【工具選定に入る前の必須確認項目】
● ねじの規格、呼び径、ピッチ(mm、tpi)
● 内径の場合、特にねじ長さは重要
● ワーク材質、硬度
※ ねじの加工図面の入手と加工に使用する設備(コントローラ)がわかればベストです。