2010 - 長崎大学熱帯医学研究所

2010
バ ン グ ラ デ シュ
BANGLADESH
Report of the Field Trip
短 期 フィ ー ル ド 研 修 報 告 書
バングラデシュ
短期フィールド研修報告書 2010
852-8523 長崎市坂本 1-12-4
Tel:095-879-7008 Fax:095-879-7892
http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/mph/
長 崎 大 学 大 学 院 国 際 健 康 開 発 研 究 科
長崎大学大学院国際健康開発研究科
文部科学省 組織的な大学院教育改革プログラム(大学院GP)
「国際保健分野特化型の公衆衛生学修士コース」
短期フィールド研修報告書
7月29日 BRAC大学にてオリエンテーション
7月29日 BRAC大学にてオリエンテーション2
8月1日 母子保健研修所にて
8月1日 母子保健研修所での親子
8月1日 母子保健研修所にて
8月2日 リキシャと街
8月2日 BRACのSTUP経験者
8月2日 BRACの貧困対策プログラム
8月2日 水運びをする子供たち
8月3日 スラムにあるBRAC出産センターにて
8月3日 スラム訪問
8月3日 スラムで家庭訪問させていただいた妊婦さん
7月30日 スラムの住居
8月5日 ICDDR,Bのマトラブ訪問
8月5日 マトラブでのワクチン接種の様子
8月5日 マトラブの夕焼け
8月5日 マトラブ夜のミーティング
8月8日 ノルシンディ県におけるJICAのプロジェクトサイト視察
8月8日 家族計画について話し合いをするミーティング
8月8日 池で水浴びをする親子
8月9日 BRAC のミルク工場見学
8月10日 エクマットラにて子どもたちと
8月11日 農村にある竹の橋
8月11日 BRACマイメイシンWASHフィールド訪問で
8月11日 マイメイシンの子どもたち
8月11日 マイメイシンのフィールド訪問で家を見せてくれた家族
8月11日 BRAC小学校にて披露してくれたダンス
8月11日 移動中ガスステーション脇の売店にて
8月11日 町にて
8月13日 入院した学生のお見舞い
地 図
マイメイシン
キショルガンジ
ノルシンディ
ダッカ
マトラブ
目 次
1. 研究科長挨拶… …………………………………………………………… 2
2. 短期フィールド研修の概要… …………………………………………… 3
3. スケジュール… …………………………………………………………… 4
4. 略語表… …………………………………………………………………… 6
5. 訪問機関別記録… ………………………………………………………… 7
6. 学生プレゼンテーション… …………………………………………… 21
7. 学生紹介… ……………………………………………………………… 27
8. 学生レポート
飯島 真紀子(Makiko Iijima)…………………………………… 33
小川 一弥(Kazuya Ogawa)…………………………………… 37
小野 真代(Mayo Ono)………………………………………… 40
上村 知春(Chiharu Kamimura)… …………………………… 43
佐々木 絵里子(Eriko Sasaki)… ……………………………… 47
図司 令子(Reiko Zushi)… …………………………………… 51
高橋 理慧(Rie Takahashi)… ………………………………… 54
野上 ゆき恵(Yukie Nogami)… ……………………………… 57
長谷 直美(Naomi Hase)… …………………………………… 60
星 友矩(Tomonori Hoshi)… ………………………………… 63
9. 番外編レポート… ……………………………………………………… 98
あとがき…………………………………………………………………… 100
1.研究科長挨拶
長崎大学大学院国際健康開発研究科は、地球規模での健康問題、特に開発途上国を中心とした保健医療問題の改善
に貢献できる専門性の高い実践能力を備えた人材を育成することを目的として、平成20年4月に開講しました(入学
定員10名)。課程修了者には、修士(公衆衛生学)(Master of Public Health, MPH)が与えられます。
開発途上国で活躍する国際保健専門家には、母子保健や熱帯病の基礎知識の修得、保健医療問題を複雑にしている
種々の要因の理解、その解決へ向けての学際的アプローチ能力、関係者との信頼関係を構築できる能力など、種々の
知識、技術と能力を備えることが求められます。特に、国際協力の現場で通用する実践能力を有する人材育成をその
目標に掲げる本研究科では、カリキュラムに工夫を凝らし、座学と実習をバランスよく配置し、教室と現場での課題
への取り組みを反復しながら知識をより深く理解し、身につけられるように配慮しています。そのなかで重要な柱と
なっているのが、一年次夏期に行う短期フィールド研修(3週間)と二年次に行う長期インターンシップ(8ヶ月)で
す。このうち短期フィールド研修は、一年次の前期に履修する基礎科目で習得した知識を踏まえて、途上国の現状に
直接触れ、実績のある開発援助組織の活動を視察するだけではなく、意見交換や視察結果の発表などを通じて双方向
的な交流を行うことで学びを深め、再び教室に戻って後期の授業に繋げるという重要な目的があります。
本報告書は、国際健康開発研究科で実施しているこの「短期フィールド研修」の本年度の取り組みに関してまとめ
たものです。本年度で2回目になる短期フィールド研修は、昨年に引き続きバングラデシュで保健医療を含む社会開
発に取り組んでいる世界有数のNGOであるBRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)を中心に、バ
ングラデシュの開発援助関連組織を訪問し、プロジェクト地域を視察しました。研修担当の宮地歌織 助教の指導の
もと、学生が3週間のバングラデシュでの研修中に作成した視察概要、関係諸機関での説明・意見交換の議事録、及
び研修後各学生が作成した研修報告書などから編纂されています。私は、報告書の原稿を読み、当初心配していた言
葉の問題を乗り越え、学生がバングラデシュで受けた講義や説明をかなりしっかり理解したこと、研修は彼らの今後
の勉強意欲をさらに高めたことなどを知り、大変嬉しく思っています。国際保健の分野で活躍していらっしゃる多く
の方々、あるいは国際保健の分野に興味を持っていらっしゃる方々にこの報告書をぜひ読んでいただき、教育改善に
向けてのご意見をいただければ幸いです。
最後になりましたが、学生に有意義な研修の機会を授けていただいたバングラデシュのBRAC大学の先生方、
BRACスタッフ、JICA、UNFPA、その他関係機関の方々に厚く感謝の意を表します。
2
国際健康開発研究科長
青 木
克 己
2.短期フィールド研修の概要
【目的】
長崎大学大学院国際健康開発研究科の短期フィールド研修では、開発途上国に
おける健康改善対策や関連プロジェクト(感染症、母子保健、地域保健医療シ
ステム)などの視察を通して国際保健分野の洞察を深めることを目的として実
施されています。また前期で学んだ基礎知識を実践的にみること、さらに2年
時の長期インターンシップに向けての意欲を高め、調査研究の実施についての
事例を学びます。その他にも、安全対策、訪問先の文化、環境等に対する適切
な基礎知識と滞在時の心構えに関する教育も実施します。
【方法】
研修先はバングラデシュで、世界最大のNGOであるBRAC(Bangladesh
Rural Advancement Committee)
、国際下痢症疾病研究センター(ICDDR,B)
、
JICA、UNFPAなど、国際保健分野で研究・活動を実践している機関やプロ
ジェクト地を視察し、関係者とのディスカッションを行います。また現場での
ファシリテーションやロジスティックスも経験することで、国際協力分野での
実践力を培います。
【主な研修先】
BRAC
ICDDR,B(ダッカ、ならびにマトラブ)
JICA
UNFPA
保健家族福祉省(Ministry of Health and Family Welfare)
3
3.スケジュール
日 付
内 容
7月27日
(火) 福岡発
(10:15)
シンガポール到着
(15:25)
〈6h10〉
(SQ655)
シンガポール発
(20:40)
ダッカ到着
(22:40)
〈4h〉
(SQ436)
7月28日
(水) 研修に向けてのオリエンテーション
ダッカ市内見学
7月29日
(木) 10:00
BRACセンターにて研修オリエンテーション
Dr. Anwar Islam
(BRAC大学JPGSPH研究科長)
よりご挨拶、スタッフ紹介
*JPGSPH:James P. Grant School of Public Health, BRAC University MPH Programme
長崎大学大学院生自己紹介
BRACの活動についての紹介
(
“New Horizon”
DVD観賞)
JPGSPHについての説明
13:00
ランチ
(BRAC内レストラン
「Shuruchi」
にて)
14:00
ICDDR, B訪問
(研究施設、図書館、病院等の視察)
14:30
JPGSPHの学生との交流会
7月30日
(金) 10:00
State University of Bangladesh 訪問。MPH学生との意見交換会。
*午後は縫製工場労働者のデモのため、ホテル内滞在。
7月31日
(土) *縫製工場労働者のデモのため、ホテル内滞在。
8月1日
(日) 09:00-12:00 MCHTI
(Maternal and Child Health Technical Institute, Govt. facility)
訪問
MCHTIについての概要説明
病院視察
質疑応答
14:00
Ministry of Health and Family Welfareのプログラム・サポートオフィス担当者より
プレゼンテーション
8月2日
(月) 09:00
BRAC のプロジェクトサイト訪問
(キショルガンジ)
STUP
(Specially Targeted Ultra Poor)
プログラム経験者の自宅訪問
収入向上の活動視察
村落での貧困対策委員のミーティングの視察
8月3日
(火) 9:00
14:00-16:00
BRACの母子保健プロジェクト訪問
(ダッカ郊外)
プロジェクトの概要
(Maternal & Neonatal Child Health Programme)
出産センター訪問
(Birthing Hut)
妊婦さんのお宅訪問
保健ボランティアやスタッフとの質疑応答
JICA バングラデシュ事務所訪問
事務所次長牧本氏よりバングラデシュの保健システムについての概要説明
質疑応答
8月4日
(水) 08:00
マトラブに向けて出発
14:00-16:00 ICDDR,Bで のオリエンテーション、視察
(病院、カンガルーケア病棟、下痢病棟、DHSS
データ室、研究所等)
8月5日
(木) 08:00-11:00
午後
4
マトラブでのフィールド視察
DHSSデータ収集視察
コミュニティのヘルスセンター等の視察
自由行動
(各自の興味に基づいて活動)
日 付
内 容
8月6日
(金) 09:00
12:00
午後
マトラブからダッカへと移動
ダッカ到着
自由行動
8月7日
(土) 午前
自由行動
JICA専門家との昼食会
午後
自由行動
8月8日
(日) 07:30
09:00
ノルシンディにむけて出発
Visit JICA Project
(Safe Motherhood Promotion with Care)
JICA 専門家によるブリーフィング
フィールド視察
病院その他保健医療施設訪問
8月9日
(月) 10:00
14:00
UNFPA訪問
バングラデシュでの活動についてのプレゼンテーション
質疑応答
BRACのミルク工場見学
8月10日
(火) 10:30
エクマットラ訪問
(バングラデシュのストリートチルドレンをサポートする NGO)
子どもたちとの交流
ランチ
活動についてのブリーフィング
質疑応答
8月11日
(水) 10:00
BRACプロジェクト訪問
(場所:マイメイシン)
Education and Wash Programme
農村でのWASH プログラム
(公衆衛生)
視察
衛生プログラム訪問
(Sanitation Production Centre, Meet with the Wash &
Sanitation Committee)
教育プログラム訪問
(幼稚園および小学校)
子どもたちとの文化交流イベント
8月12日
(木) 09:00
15:00
BRACの結核
(TB)
プログラム訪問
(ダッカ郊外)
国立結核病院医師によるTBに関するプレゼンテーション、質疑応答
8月13日
(金) 最終プレゼンテーション準備
8月14日
(土) 10:00-12:00 長崎大学大学院生による研修の最終プレゼンテーション、質疑応答
8月15日
(日) ダッカ発
(23:55)
シンガポール着
(05:00)
(SQ435)
8月16日
(月) シンガポールでのトランジット
8月17日
(火) シンガポール発
(01:00)
福岡着
(08:00)
(SQ656)
5
4.略 語 表
BRAC
Bangladesh Rural Advancement Committee /バングラデシュ農村向上委員会
CmSS
Community Support System/地域サポートシステム
CRP
Center for the Rehabilitation of the Paralyzed/麻痺性障害者リハビリテーションセンター
EmOC
Emergency Obstetric Care/産科救急ケア
EPI
Expanded Programme on Immunization/拡大予防接種計画
FP
Family Planning/家族計画
HDSS
Health Demographic Surveillance System/人口登録と動態調査システム
HNPSP
Health, Nutrition and Population Sector Program/健康、栄養および人口セクタープ
ログラム
HPSS
Health and Population Sector Strategy/健康および人口セクター戦略
ICDDR,B
International Centre for Diarrheal Disease Control Research, Bangladesh/国際下
痢性疾病研究センター
6
IMR
Infant Mortality Rate/乳児死亡率
JICA
Japan International Cooperation Agency/国際協力機構
JOCV
Japan Overseas Coorporation Volunteers/青年海外協力隊
JPGSPH
James P. Grant School of Public Health/BRACの公衆衛生大学院(修士)
LLDC
Least Less-Developed Countries/後発開発途上国
MCHTI
Maternal and Child Health Training Institute/母子保健研修所
MDGs
Millennium Development Goals/ミレニアム開発目標
MIS
Medical Information System/医療情報システム
MMR
Maternal Mortality Rate/妊産婦死亡率
MOHFW
Ministry of Health and Family Welfare/保健家族福祉省
ORS
Oral Rehydration Salt/経口補水塩
PDA
Personal Digital Assistant/携帯情報端末
PHC
Primary Health Care/プライマリヘルスケア
SK
Shasthya Kormi/シャスト・コルミ(BRACの母子保健スタッフ)
SS
Shasthya Shebika/シャスト・シェビカ(BRACの母子保健ボランティア)
SMPP
Safe Motherhood Promotion Project/JICAの母性保護サービス強化プロジェクト
STUP
Special Targeted Ultra Poor(*BRACが実施する最貧困層に対する活動)
TBA
Traditional Birth Attendant/伝統的産婆
UNICEF
United Nations Children’s Fund/国連児童基金
UNFPA
United Nations Population Fund/国連人口基金
U5MR Under 5 Mortality Rate/5歳未満児死亡率
5. 訪問機関別記録
主要訪問先・面談者リスト
訪問先団体(訪問順)/
面談者所属先
面 談 者
BRAC University, James
Dr. Anwar Islam, Associate Dean and Director
P. Grant School of Public
Dr. Profulla Chandra Sarker, Senior Policy Advisor, Food Security and
Health
Nutrition Surveillance Project
Ms. Sabina Faiz Rashid, Associate Professor and Coordinator, Centre
for Gender Sexuality and HIV/AIDS and Bangladesh Health Watch
ICDDR,B
Dr. M. Mostafa Zaman, National Professional Officer (WHO)
Maternal and Child Health
Dr. Md. Serajul Islam, Superintendant
Training Institute
Mr. Chinmoy K. Das, Assistant Coordinator
Ministry of Health and
Dr. Muhammad Adbus Sabur, Programme Support Officer
Family Welfare
BRAC MANOSHI Project
Mr. Asrakul Alam Cholodhory, BRAC Regional Manager
Ms. Sultana Akter, BRAC Branch Manager
JICAバングラデシュ事務所
牧本小枝氏(バングラデシュ事務所 次長)
石井克美氏(保健分野 企画調査員)
佐藤祥子氏(保健省個別専門家)
ICDDR,B Matlab Hospital
Mr. Md. Taslim Ali, Senior Manager, Matlab HDSS
Mr. Samiran Barua, Programmer, Matlab HDSS
Mr. M.A. Zaman, Field Research Officer, Matlab HDSS
Ms. Suraiya Begum, Senior Research Field Officer
JICA 母性保護サービス強化
吉村幸江氏(チーフアドバイザー)
プロジェクト
横井健二氏(業務調整員)
駒走拓三氏(業務調整員)
Dr. R. R. Milotn
Mr. S. R. Mozumder
流通科学大学
酒井彰教授
UNICEF Bangladesh
佐藤みどり氏(子どもの生存プログラムマネージャー)
UNFPA Bangladesh
末廣有紀氏(Deputy Representative)
Dr. Noor Mohammad, Assistant Representative
Mr. Aminul Arifeen, Technical Officer
Ekmattra
渡辺大樹氏(顧問)
水谷俊亮氏(インターン)
BRAC Education and WASH
Mr. Belayet Hassain, BRAC Educational Program Manager
programme
Mr. Anukul Changrakar, Upazila Manager
Ms. Nasima Khatan, BRAC WASH Programme
BRAC University
Dr. Asif Mujataba Mahmud, Associate Professor, Respiratory Medicine,
Sir Salimullah Medical College and Mitford Hospital
8
2010年7月29日(飯島)
いたが、皆その多様性とレベルに感嘆していた。ま
BRAC大学での研修オリエンテーション
た、文理融合して公衆衛生に取り組む姿勢、フィール
Dr. Anwar Islam (Associate Dean & Director,
ドがすぐ近くにある臨場感、更に国境を感じさせない
JPGSPH), Dr. Profulla Chandra Sarker (Senior
スケールがそこにあった。英語の理解が困難という声
Policy Advisor, Food Security & Nutrition
も多く聞かれたが、事前学習をしっかり行い、また集
surveillance project), Ms. Sabina Faiz Rashid
中力を保ちカバーできるよう心掛けたい。質疑応答の
(Associate Professor & coordinator, Centre for
時間がなく疑問点も残ったが(BRACの政府援助の割合
Gender Sexuality and HIV/AIDS & Bangladesh
等)、時間と出会いはone chanceであることを心に留
Health Watch)
め、積極的に学びたいと感じた。政府との連携をもう
少し聞きたいところであった。
【概要】
・BRAC大学の公衆衛生の研究科長Anwar先生より、
BRAC大学の概要についての説明があった。BRAC
ICDDR, Bの視察、ならびにBRAC大学の授業見学
大学のMPHの特徴は国際色豊かであること(学生の
Dr. M.Mostafa Zaman (National Professional
半分は留学生)、地域に密着した活動であること、
Officer, WHO)、 他
ICDDR,Bとの協力 (研究やインターンシップにおい
て) などがある。
【概要】
・BRAC大学では、継続的教育プログラムの一つと
・病院は、全300床のうち、special(ICU)が20床、
して、Executive Course for Public Health short(12-24時間以内で帰宅可能)が200、長期
Management (ECPHM)を設け、政府役人が公衆
longer(24時間以上の入院+合併症有)が80床、
衛生の研修を受けるよう推奨している。また、マイ
その他HIV/AIDS病棟、低栄養合併の場合のリハビ
クロ・ファイナンスを国外でも実施するなどの協力
リテーション・ユニット、旅行者外来など。55のド
分野にも力を入れている。
ナーがあり、年間予算は2億米ドルとのこと。入院
・研究・サーベイランスなども実施しており、まずは
費は全て無料。患者は呼吸器感染症と下痢がメイン
ジェンダーに関して、transgenderやゲイコミュニ
で、合併症としてマラリアや低栄養、HIV/AIDSがあ
ティーなどでの自己啓発活動がある。次に栄養・食
る。下痢と脱水症への具体的な治療方法についての
の安全に関しては、50のsub-districtで11,000世帯
講義を受けた。
に対し4か月毎のサーベイランスを施行しており、
・病院情報システム:2009年から研修を受けた看護師
既存の制度の改革、人材養成のサポート、サーベイ
が各病棟でPDAを用いた患者データ管理を開始。保
ランスの技術協力を行っている。その他にはPHCが
健省へはリサーチデータのみで通常のデータは送ら
あり、これまでの縦断的アプローチを2008年に見直
ない。監視システム詳細は不明。
し、包括的ケアを目指して20のsub-districtにおい
・各病棟:Special;低血糖、低酸素、重度脱水など
てbest/worst practiceを選出し、その相違と改善
の重症者を診る。Short;入口でプロトコールに従
点を分析中とのこと(サービスの公平性、エンパワ
いトリアージ、診断、治療を行う。建物の外のテン
メントなど量的・質的双方について)。四番目には
トに沢山の患者さんがいた。スタッフの人数やエピ
Pay for performance(PFP)やMaternal health
デミックの際の拡充方法の詳細は不明であったが、
について、需要側と供給側にインセンティブを払う
看護師は3交代、医師は2交代制で患者を診、患者
ことでサービスを拡大する狙いがあり、その一環と
が増えた場合はテントを増設しているとのこと。
してクーポンサービスなども行っている。
Longer;ここのみ6カ月未満の小児病棟を区別(体
温調整と母乳のカウンセリングのため)。JAGORI
【感想】
(HIV/AIDS;6床);AIDSを発症し感染症(皮膚
一日遅れのスタートとなった。大学でのオリエン
感染、結核、口腔内感染、肺炎等)を合併した患者
テーションになったためか、実際のプロジェクトより
治療や、悪性腫瘍の化学療法も行う。入退院の基準
研究の話がメインとなり物足りなさを感じた学生も
等、詳細は時間が取れず質問できなかった。
9
・Library:研究者や学生が研究所から離れた調査地区
産後までの流れが一通り確認できた。母親全員にエ
でも活用できるように電子ジャーナルを多く揃えて
コー検査が実施されるなど進んだ面がある一方で、
おり、幅広い情報量を備えていた。
5人並び(仕切りなし)のプライバシーに乏しい出
・JPGSPH presentation:aging & Non communicable
diseaseを観点に置いた調査の発表。
産が行われていた。このように人やサービスの流れ
はおおむねできたものの、サービスに対する代金や
データの処理(IDの割り当て方)、手術実施の基準
【感想】
MPHのpresentationでは、研究に重点を置き練習
などについては疑問を残した。
・TOTに参加。どのようにTOTが行われているのか
させるという方針が感じられた。その後のお茶会では、
を実際に見学できた。しかしながら、トレーナー研
同じ志を持つMPH学生と皆大いにコミュニケーション
修の後のフォローアップ、TOTをベンガル語でやら
を楽しんでいた。そのためか、見学中には話が聞き辛
ないこと、ファシリテーターがバングラ人ではなく
く質問がし辛い状況の中でも積極性が格段に上がって
WHOの担当者が行っていたことなどに疑問が残っ
おり、病院研修がとても有意義なものになったと思う。
た。
案内と質疑を担当されたDr.Shakilaが非常に親切で大人
気であった。事前講義ではかなり細かい治療方法も教
【感想】
えて下さったが、乳糖不耐症の治療(チキンスープの
病院見学という点では先日のICDDR,Bに続いて2回
ようなもの)や6カ月未満の乳児治療については不明点
目。ICDDR,Bと比べると、建物、機材、スタッフ数な
も残った。又、外来治療は有料ということで、退院後
どの点で全く違う病院だということがわかる(そもそ
のフォローアップ体制や往診の実践等はどの様にして
も病院の目的が違うのだが…)。先日お会いしたState
いるのか、保健省との連携がどの程度あるのかという
Universityのドクターが「ICDDR,Bは特別だ」とおっ
疑問も出た。病院見学の際の姿勢について感じ方の相
しゃっていたが、その意味がよくわかる。2日目とい
違があり、団体研修の上での、人々への配慮や研修の
う早い段階で、MCHTIとICDDR,Bという2つの(病院
意義のバランスについて個人の熟慮とその共有の必要
を見るための)比較対象ができたことは非常に有益で
性を感じた。個人的には実際患者を眼の前にするとや
あったと感じる。
はり早く現場で働きたくなり、残って診療をしたいと
さえ思った。
保健家族福祉省の取り組みについての講義
8月1日(小川)
Dr. Muhammad Adbus Sabur (Ministry of Health
母子保健研修センター(MCHTI)視察
and Family Welfare (MOHFW), Programme
Dr. Md. Serajul Islam (Superintendent, MCHTI)、
Support Office)
Mr. Chinmoy K. Das (Assistant Coordinator,
MCHTI)
【概要】
・MOHFWはバングラデシュにおける37省庁の内、
【概要】
・MCHTI施設には、外来、ワクチン接種、血液検査、
かしながらそのシェアはわずかに6%程度で、予算は
エコー検査室、分娩室、手術室、小児科があり、
37もある省庁に分散してしまっている状況に陥って
TOT(Training of Trainer)なども実施している。
いる様子がうかがわれた。
1953年に20床からスタートし、日本政府の支援な
どを受け2000年までに173床のベッドを持つ病院と
なった。
・MOHFWの予算の7割はドナーの資金ではなく、政
府の資金による。
・今回の説明を聞く前、多くの学生はドナーからの資
・MCHTIは母子保健サービスと家族計画サービスを提
金が大量に流れこんでいること、そしてそ影響でド
供するだけの機関ではなく、母子保健サービス提供
ナーから強いプレッシャーを受けていることを想像
者を養成する機関でもある。
していた。しかしながら実際には政府の自己資金の
・施設見学によってバングラデシュにおける産前から
10
最も大きな省庁の一つであることが確認された。し
比率が高く、ドナーからのプレッシャーはそれほど
強くないことが分かった。ただし、この自己資本比
率には巨大NGOであるBRACなどに流れる資金が
計算されていないというカラクリがあることがリ
キャップミーティングで確認された。
・Community clinicについては国内で必要とされてい
【概要】
1.STUP Programme(Specially Targeted Ultra
Poor)
・Ultra poor 認定の条件:5つの条件のうちの3つ以上
+他のNGO活動などに参加していないこと。
る13,500施設に対して、10,722施設が建設されて
・6カ月のメンバー選定期間、18か月間のモニタリン
おり、目標に対して約80%を達成していることがわ
グ期間、その後3日間のconfidence building期間
かった。しかしながらその施設に対してスタッフが
により構成される計2年間のプログラム。STUP卒業
どの程度充足しているのかについては疑問が残され
後、自動的にMicro Financeに参画。
た。
①メンバー選定期間:PRAメソッドによりUltra Poor
・保健の一部である家族計画が保健省の名前の一部と
の地域を探す→村内で会議がなされて対象者を選出
して表わされているとおり、保健サービスと家族計
→BRACスタッフによる家庭調査等が行われた後に認
画が政府の縦割り体制が明らかとなった。象徴的な
定。
例としては、保健データは保健と家族計画でそれぞ
②モニタリング期間:週1でスタッフによる訪問(通常
れ別に集められ、ストックされているという点を挙
100人当たり1人のスタッフがカバー。現在は200人
げることができる。
の村民を3人でカバー)。健康、識字、出産等に関す
・バングラデシュにおいても公的保険制度が存在する
ことがわかった。しかしながらこの制度は実質機能
る教育を行う。ビジネスに関するトレーニングなど
は行われない。
しておらず、今後拡大していくものであることが確
③confidence building期間:将来Micro financeプロ
認された。バングラデシュにおいて保険が拡大し
グラムに参加するための計画の提案、STUPにおけ
ない理由としては以下の3つが説明された。①イン
るサクセスストーリーの発表などを行うことでメン
フォーマルな就労をしている人が多く、その人口を
バーに自信をつけてもらう。
政府としてカバーできない。②保険への理解が深ま
らない。③保険の掛け金を住民が支払うことができ
ない。
・BRACからヤギやウシを与えられるほか、毎週175タ
カの融資を受ける。返済義務はなし。
ただし、STUP卒業後Micro Financeに昇格した際に
は返済義務が生じる。
【感想】
・2003年以降9030人がメンバーとなり、うち7225人
後半の質問時間では学生それぞれが関心のあること
が卒業した。残りは現在もメンバーとして融資を受
を次々に質問し、非常に実り多い時間であったと思う。
けている。成功率はほぼ100%とのことである。
時間後も何人かが質問するために列を作っていた。自
分の研究サイトや経験のあるフィールドにおける保健
2.Micro Finance
システムと比較したい人が多かったのではないかと推
・段階を踏み、7,000タカから100,000タカの融資を
測する。質問時間がもう少し長く取られていたならば、
もっと実りの大きいものになったのではないかと思う。
受けることが可能。
・受けた融資を46週に分割し、毎週返済。利子率15%。
・ドロップアウト率は20%。ただし、ドロップアウト
のはっきりとした定義はわからなかった。
8月2日(上村)
BRACのプロジェクトサイト訪問〈STUP and Micro
Finance Programme〉
【感想】
実際にプログラムに参加している人々の生活の場を
場所:BRAC Project Site in Kisoreganj (STUP
訪れ、様子を肌で感じることができ、非常に有意義
and Micro Finance Programme) −Home visit of
だった。彼(女)らがあたたかく私たちを迎えて下
graduated STUP (Specially Targeted Ultra Poor)
さったことは本当にうれしかった。しかし、同時に、
members
通訳を通しての対話では、人々がプログラムについて
感じていることや考えていることを十分に理解するこ
11
とができないことも実感した。現地語ができないこと
時はDhaka Medical Collage又は近隣の病院へ搬
によるもどかしさを感じた一日でもあった。
送し、搬送理由は前期破水や遷延分娩が多い。この
センターがカバーしている地区の先月の分娩数は15
〜16件でその内の5件が自宅分娩、搬送件数は3件
8月3日(小野)
であった。住宅が密集しているため住民の自宅から
BRACのプロジェクトサイト訪問〈MANOSHI Project〉
Delivery Centerへの距離は5分程度で、陣痛発来後
場所:Delivery Center, Mohammadpur Project
でもアクセスが比較的容易である。
Site
・スラムに住む妊婦の家庭を訪問したが、BRACが無料
Mr. Asrakul Alam Cholodhory (BRAC Regional
で配布している貯金箱を使ってお金を貯めていた。
manager)、Ms. Sultana Akter (BRAC Branch
SKが月に一度訪問し妊婦健診を行っている。新生児
Manager) and other staffs
のいる母親の家も訪れたが、壁にBRACから配られた
妊娠期の危険兆候を示すポスターと、新生児ケア・
【概要】
・Delivery Centerで施設の概要説明(スタッフ数及び
緊急時の電話番号が書かれたポスターが貼られてい
た。
サービス内容)
・分娩介助の経過のデモンストレーションとリファー
ラルの説明
・スラムでの2件の家庭訪問(妊婦)、近隣の1件の家
庭訪問(出産後)
・MANOSHI プロジェクトの概要説明と質疑応答
【感想】
SS、SK、Delivery Centerが住民にとって身近な存
在であることからMANOSHIプロジェクトが貧困層の
末端までカバーしようと試みている取り組みであるこ
とがよくわかった。一方でNGOのプロジェクトであり、
バングラデシュ全土へ同じサービスが提供できるわけ
【学習点】
ではないなど課題の発見ができた。
・Mohammadpur areaには5つのDelivery Center
があり、その中の一つを見学した。5つのDelivery
Centerを合わせたスタッフ数は以下の通りである。
8月3日(長谷)
Branch Manager 1, Program Officer 3, Shasthya
JICAバングラデシュ事務所訪問
Kormis(SK) 11, Shasthya shebika(SS)71,
牧本小枝氏(JICAバングラデシュ事務所次長〈保健分
Urban Birth Attendant(UBA)10である。見学し
野担当〉)
たDelivery CenterではUBA2人、助産師2人が主に
勤務していた。
・SSが妊婦を発見するとSKに報告し、助産師へとつな
げるプロセスがある。SSは妊婦の発見(30タカ)、
【概要】
・バングラデシュの保健医療セクターの状況
・保健医療セクターでのJICAの協力内容
出産手伝い(100タカ)、新生児ケア緊急産科ケア
のリファーラル時の付き添い(100タカ)、家族計
画(コンドーム販売20タカ)などを行っており、一
・保健医療セクターのJICAの援助重点課題として、
件行うごとにインセンティブがもらえる。一月のSS
母子保健と感染症対策があげられる。保健栄養人口
の収入は800〜1,000タカである。
セクタープログラムでは栄養指標の改善はみられた
・Delivery Centerは2床でマットレスが同じ部屋に
2つある。異常がなければUBAが分娩介助を行い、
12
【学習点】
が、現行の縦割行政での改善は限界にきているそう
である。
難しいケースでは助産師が介助する。出産の体位は
・保健家族局と保健サービス局で、母子保健サービス
座位が最も一般的で、産婦の後ろ側を一人のUBAが
が重複しているが、中央レベルで統合すると既得権
支え、もう一人のUBAが産婦の前側で分娩介助を
益を守りたい政治家からの圧力があること、一度統
行う。感染症の検査は行わないが分娩キットは全て
合したがうまくいかなかった歴史があったことが説
ディスポーザブルで、介助者は手袋をはめる。緊急
明された。中央のトップダウンの保護と、現場のボ
トムアップ、エンパワーメントを組み合わせた双方
8月4日(図司)
からの援助が必要であることがわかった。
ICCDR,B Matlab概要説明、Matlab Hospital見学
・ノルシンディ県における母性保護サービスプロジェ
面談者 :Mr. Md. Taslim Ali (Senior Manager,
クトのNGOパートナー選定理由について学生から
Matlab HDSS)、Mr. Samiran Barua (Programmer,
の質問に対して、他のNGO、例えばBRACはサービ
Matlab HDSS)、Ms. Suraiya Begum (Senior
ス提供まで行うが、CARE Bangladeshはファシリ
Research Field Officer)
テーターという位置付けがJICAの方針に一番近い団
体だったことを理由として挙げられた。またJICAの
【概要】
支援が他のNGOとの競合しないのかという質問に対
1.ICCDR,B Matlabの概要説明
しては、既に他のNGOが活動を行っている場所には
・構成:①Health and Demographic Surveillance
入っていかないことが説明された。
・感染症対策としては、大洋州地域でのフィラリア対
策プロジェクトの成功事例をバングラで活用し改善
(DHS)
②Community Health Research Branch
③Clinical Research Branch(Matlab
を示している。マラリア対策はGlobal Fundが支援
しており、また流行地域もチッタゴン丘陵地域に限
局しているため現在JICAによるプロジェクトは行わ
れていない。
・バングラデシュ政府としては、電子カルテ、遠隔医
Hospital)
・下痢性疾患のリサーチのために設立→現在は下痢以
外のリサーチも実施
・最大かつ最長のコホート研究を実施(1966年から開
始。対象コホート:142村、人口245,000人)
療等が活用できるデジタルバングラデシュを目指し
・コミュニティレベルでの活動の担い手
ているが電力不足であり、実現にはまだまだ時間が
①Community Health Research Worker(データ
かかるようである。
・医師と看護師の割合が2:1と逆転しており、看護師
コレクター)
:38名
内訳 ICDDR,B area(すべてのサービスを
不足解消のために、円借款の利子を帳消しにして、
それを看護学校設立の資金に回す合意がなされてい
提供する地域)担当:19名
Government area(ORSのみ提供する地
る。
前政権ではCommunity clinicの運営をNGOに委託
していたが、現政権では政府主体のサービスとして
行うなど、政権が変わるたびに保健政策も変わって
域)担当:19名
②Community Health Service Worker(サービス
プロバイダー)
:41名
家庭訪問+CHSWの自宅での保健サービス
いる。気候変動、健康転換を見据えた情報収集、案
件形成が今後重要となることが説明された。
提供(41か所のFixed Site Clinic)
・Matlab Hospitalでのサービス提供
①下痢性疾患:すべての地域の人々が対象
【感想】
バングラデシュの概況、複雑な保健行政システム、
地方自治について日本語で説明していただいて理解が
②母子保健:ICCDR,B areaのreproductive ageの
女性と5歳以下の子どものみ対象
・ICDDR,Bの成果:合計特殊出生率7→2.7に低下
深まった。バングラデシュではMDGsを意識して母子
保健に特化した保健システムが組まれているという印
2.Matlab Hospital見学
象をここでも受けた。牧本さんも言われていたが、保
受付、下痢病棟(成人、小児)、母子保健病棟(小児、
健医療サービスを先に着手するべきなのか、道路のア
一般(母親と子ども)、新生児、カンガルーケア)、母
クセスや電力などのインフラの整備が先決なのか、と
子保健・家族計画クリニック、分娩室、Health and
いうこの国の課題を感じた学生も多かったようである。
Demographic Surveillance System(HDSS)、検査
NGOとの関わりが深いバングラデシュでは、NGO等
室、コンピュータ室
の既存のリソースを大いに活用することが、プロジェ
クトを進める上で大切であることがわかった。
【学習点】
・Matlabは、コレラの発生地域、Dhakaに近く研究
13
者とのコミュニケーションが容易、雨季にボートで
との連携という点で違う印象を受けた。
のアクセスが可能といった理由でサイトに選定され
た。
・Matlab Hospitalの患者は、2種類のIDによって管理
【感想】
Matlabは水と緑が豊かな地域で、全員その景色に
される。
癒された様子であった。病院見学時には積極的に質問
①Unique ID(一生変わらない:患者を特定し、診
がなされ、スタッフの方には予定時間を延長して対応
察にもリサーチにも使用)
②Hospital ID(変わる可能性がある:診察用)
していただいた。40年以上に渡るコホート研究がどの
ようなデータ管理の下で実施されているのかを理解す
受付で上記2種類のIDのバーコードと名前のシール
るのと同時に、このような研究が住民にどのように役
を名刺サイズのカードに貼り付け、受診する。バー
立つのかを考える機会を得ることができたのは、今後
コードを読み込むことによって、これまでの既往歴
研究を行う我々にとって非常に有意義なことであった。
が表示される。
明日のコミュニティでの活動見学を通して、各学生が
・下痢症のデータはコホート研究の対象地域から来た
患者のみから収集される(患者全体の10-15%)。
疑問に感じた点を確認し、研究と実践について考えを
深めることができればと思う。
コレラ患者は増加傾向であり、アウトブレイクの際
には20%以上が病院への道程で死亡した。
・母親に対して、ショートステイから自宅へ帰る前に
8月5日(飯島、図司)
ベッドサイドで健康教育を実施する。内容は下痢の
ICDDR,BICDDR,B マトラブフィールド訪問
対処法、母乳の与え方、危険な兆候等である。ま
Mr. Md. Taslim Ali (Senior Manager, Matlab
た、母乳カウンセリングを一人一人個別に実施し、
HDSS), Mr. M.A.Zaman (Field Research Officer,
一日に5〜6人がカウンセリングを受ける。
Matlab HDSS), Ms. Suraiya Begum (Senior
・帝王切開はMatlab Hospitalではできず、他の病院
Research Field Officer),
へリファーする。
・へその緒を切った後の伝統的な習慣は、教育や
ICDDR,Bのおかげで近年減少している。
・カンガルーケアは家族が協力して実施(母親と祖母
が交替でケア)。
前日説明のあったフィールドでの活動の実際について。
1.Community health research worker(CHRW)
の世帯調査見学
・妊婦の感染症チェックはHIV、HBV、HCV、梅毒が
ICDDR,Bのサービスエリアにおいて2カ月毎に行わ
実施される。マラリアのスクリーニングは、輸血が
れる世帯調査に同行。一人のCHRW(終身雇用、60歳
必要な時のみ実施する。
定年)が7000人の人口をカバーするが、実際の調査は
・検査室の顕微鏡は古い機種が一台のみのため、血液
各村の代表者に基礎情報を聞き、Eligible women &
のスライドを使って検査する疾病がこの地域には少
child surveillance record(出産可能年齢の女性と子
ないことが推測される。一方でデータ管理において
ども)の調査は個別に行う。まず各世帯に置かれてい
は最新技術が導入されており、施設全体の技術バラ
る訪問カードに調査日時をチェックする。現在PDAと
ンスは悪い印象である。
質問紙で行われているが、来年度からはPDAのみに移
・医者の勤務体制は3交替で、下痢病棟においては15
名の医師がいる(内 常勤2名)。
・HDSS のデータエントリーシステムは日本のシステ
行するということであった。村人から信頼されている
CHRWが調査を行うことで健康に対するモチベーショ
ンが保たれているという村人の声も聞かれた。
ムと類似している。OCR(光学式文字読取装置)
2.Fixed site clinicでのCHSWの活動見学
を使うことでパソコンへの入力ミスを防止している
以前はCHRWが保健サービスも担当していたが、同
が、来年度から完全PDA(携帯型情報端末)化の予
じ人間がデータ収集とサービスを行うと回答にバイア
定であり、その際にはOCRは使用せずにシステムで
スがかかるという批判があり、2007年からサービス提
ミスを防止する。
供者を分離した。基礎トレーニングと実践トレーニン
・DhakaのICDDR,BとMatlabのICDDR,Bでは、政府
14
【概要】
グを受けたCHSWが一人で3000人をカバーし、41の
ICDDR,B サービスエリアの各村にFixed site clinicを
【概要】
置いて(自宅の一部)、週1日の診療所開放、週4日の
JICAの母性保護サービス強化プロジェクト実施地域
basic primary serviceと家族計画サービスを行う。本
であるノルシンディ県において実際にプロジェクトの
日は、政府と協力してEPIを行っており、人数は平均20
視察を行った。当プロジェクトはJICAから現地NGO
人/日。小さいヘルスセンターのような役割を果たして
であるCareに委託されおり、CareとJICA専門家等が
いる印象であった。サービス内容は母子保健に特化し
協力しながら活動を推進していた。具体的にはCareの
ており、また、全ての妊婦に対して妊娠経過や分娩記
行っているCmSS(Community Support System)
録など細かな情報が記載できるカードを配布している。
とBirth Planning(BP)を視察した。両プログラム
問題がある場合は、このカードを持ってサブセンター
共に、コミュニティ内の妊産婦を守ることを目標とし、
に搬送される。
前者では政府関係者や村の重役などを巻き込みグルー
3.サブセンター見学
プセッションを行っており、後者では妊婦や意思決定
ICDDR,B 4つのサービスエリアに一カ所ずつ配置。
権を持つその夫、姑などの一族ぐるみを対象とし妊産
地域の妊産婦に対するANC,PNCなどの母子保健サー
婦教育を行っていた。また、JICAの介入地域をカバー
ビスとfixed clinicからの搬送受け入れを行う。分娩に
している2つの病院(群レベルとユニオンレベル)の視
関しては月30人程であるが、内15人程度がマトラブ病
察も行った。両病院共に医療従事者の数は少なく、特
院に搬送される。また、ここで月2回のCHRW/CHSW
に医者が少ないとのことだった。
のミーティングが行われ、情報交換と同時にディス
カッションやCHWに対するアドバイスも行っていると
この視察の中で、インセンティブを与えずにどのよ
いうことであった。
うにして住民のモチベーションを保っているのか?と
いう質問に対して、妊婦の死亡という問題を彼ら自身
【感想】
の問題として捉えさせ、それに対しての対策を行った
CHSWが個別にカウンセリングを行うことで、リ
後に、その結果を実感できるようにすることで、モチ
ファラルの重要性、施設が24時間体制で無料で利用で
ベーションを保つことができる、というJICA専門家か
きることを住民が理解し、住民の健康に対する認識・
らの回答があった。また、JICAのプロジェクトが本地
行動が変化して施設分娩の割合が16から80%まで上
区で終了した後に、この地区の住民は現在の取り組み
昇したということであった。保健システムが脆弱な地
を継続するのか?という問いに対しては、「プロジェ
域で医療サービスを行う際には、地域に密着した活動
クトが終了した後に、他の地域で同様のプロジェクト
を行うことが大切であると感じられた。ICDDR,Bでは
を進める予定がある。その際にこの地区をラーニング
施設分娩を推進していたが、先日のJICAでの講義と照
地区として視察を受け入れるなどして住民が現取り組
らし合わせて、自宅分娩と施設分娩の利点について実
みを保つように働きかける。」ということであった。
施機関と研究機関の考え方の相違を感じた学生もいた。
ICDDR,B、特にマトラブ地域の特殊性を実感し、バン
【感想】
グラデシュの保健医療サービスの在り方について各自
本プロジェクトではインセンティブとして何かの見
が考えを深め、議論ができたことは大変有意義であっ
返りを住民に与えておらず、住民の感情に訴えかける
た。
方法でモチベーションを保っている点が特筆すべき点
であった。インセンティブを与えるとどうしてもその
プロジェクトが終わり、支援団体が撤退した際の持続
8月8日(星)
性が問われる。JICAはその点を感情に訴えることで非
母性保護サービス強化プロジェクト(SMPP)実施地
域の視察
常にうまく乗り越えることができるのではないだろう
か。
吉村幸江氏(JICA専門家、プロジェクト・チーフアド
バイザー) Dr. R. R. Milotn(JICAスタッフ)Mr. S.
R. Mozumder(Careバングラデシュスタッフ)
15
8月9日(野上)
オーナーに対するジェンダーの意識付けを行ってい
UNFPA 表敬訪問
る
末廣有紀氏 (Deputy Representative)、Dr. Noor
・女子の若年結婚やダウリーに関する活動
Mohammad (Assistant Representative)、 Mr.
・HIV/AIDSなどのジェンダーに関する健康問題に関し
Aminul Arifeen (Technical Officer)
て情報提供
・MOWCAと、UNFPAを筆頭として9つのUN機
【概要】
UNFPAでは、大きく分けて3つの活動をしている。
1.リプロダクティブ・ヘルスに関する活動
関によるJoint Programme on Gender based
Violenceが3年計画で始まったところである
・IMAGES(intervention of men and gender
・母親と新生児の健康
equality survey):5カ国(中国、インドネシア、
・国のプログラム
カンボジア、パプアニューギニア、バングラ)。各
・SBA(Skilled Birth Attendant)の人数を増加させ
国での暴力の現状を調査。 女性だけでなく男性の声
る活動と共に、助産師の質を国際基準まで上げるた
を聞くというのが特徴。
め3年間の看護教育とそれに加え6カ月の助産師訓練
を実施している。
【質疑応答】
・ジョイント・プログラム
・DVに対して法整備はあるか?
・フィスチュラ対策や、乳癌、子宮頚癌に関するスク
→法案が可決されたところである。
リーニング
・FP啓発活動(特に青少年を対象)
・学校での青少年教育
・青年層 にジェンダーの意識付けを行い、キャパシ
ティ・ビルディングを重要視する理由は?
→若年者は暴力、妊娠、出産すべてに対して脆弱で
あり、かつ今後の人口増加につながる世代である
2.Population and Developmentに関する活動
こと。ゆえにこの年代へのアプローチが重要であ
・目的は人々が人口問題・リプロ問題・ジェンダー問
る。
題をより意識するようになること
・バングラ全地域のセンサスをおこなう
‐2011年3月に次期センサス。デジタルセンサス
を行うための政府サポート
特に、バングラは若年層におけるTFRが世界で2−
3番目に高いことや若年者に対する暴力が多いこと
からジェンダー・バイオレンスにアプローチする
ことでMMRの低下にもつながると考えられる。
‐3フェーズがある(事前センサス、センサス、事
後センサス)
‐GISを使用する
・国会議員のような政策決定者に対するジェンダーの
意識付け
・MOHFWのNational Institute Population
Researchと協力
・Department of Population Scientist:2年修
【感想】
今回の短期フィールド研修ではUNICEFへの表敬が都
合上中止となったが、急遽UNFPAへの表敬する時間を
取って頂いた。今までのようなフィールドレベルの活
動だけではなく、政策決定機関と協力し、プログラム
を計画・実施するレベルの考え方に触れることができ
たことはとても刺激的であった。
士コースと3カ月のディプロマコース、student
また午後には、BRACの乳製品工場で牛乳や粉乳、バ
researchの協力を行っている
ターの加工過程を見学させて頂いた。従業員は500名
おり(400名が終身雇用)、そのうち女性は100名程度
3.Gender equalityに関する活動
ではあるが、バングラではこのような工場が女性の貴
各省庁との協力で以下のプログラムを実施している
重な雇用元であると思った。
・Bangladesh Garment Manufactured and
Exporters Association
会社オーナーがジェンダーを考慮し社訓などを作る
ようにサポート。またSyllet県では、茶畑の労働者と
16
8月1日(佐々木)
・エクマットラを卒業した子どもたちが、将来帰って
設立の経緯、理念、活動内容、子どもたちとの交流
きて引き継ぎ、自分たちだけで運営ができるように
12:00〜16:30
なることが目標。
場所:Ekmattra(バングラデシュにおけるストリート
・子どもたちの親に対する職業訓練(ミシンなど)を
チルドレンをサポートするNGO)
行い、安定した収入源をつくる支援をすることによ
渡辺大樹氏(顧問)、水谷俊亮氏(関西大学大学院
り、ストリートチルドレンを減らす活動も同時に
生・インターン)
行っている。
・3大事業は①農業事業(イチゴ等の農業、酪農)、②
【概要】
メディア事業(他NGO、企業の映像の委託制作、機
・設立の経緯:渡辺氏がタイで見たストリートチルド
材の貸し出し)、③グッズ販売(Tシャツ、ミサン
レンに衝撃を受け、経済的、社会的格差に加え、意
ガ、はがきなど)。将来は焼き鳥屋を展開していく
識の格差(人々の自国への責任の意識)の溝を埋め
予定。
るために、ダッカ大学で知り合った5人とともに、
2003年8月、支援を始めた。エク(ひとつの)マッ
トラ(みなが共有する線)。
【感想】
エネルギッシュな活動を行っている原動力は、かけ
・理念:底辺の子どものボトムアップと富裕層の意識
がえのない仲間の存在であり、また、子どもたちが変
を下に向けるために、社会的弱者への教育、エンパ
わってきているという手ごたえであるとか、バングラ
ワーメントと富裕層への啓発活動を軸に活動を展
デシュ人が映画等を通じて変わってきていることを挙
開。
げておられた。なるべく多くの人を巻き込みながら活
動を行っているということと地道な努力、そして渡辺
【学び】
・第一ステップの青空教室(2か所、週6日)は、情操
氏の情熱が人々の心を動かしているのではないかと感
じた。
教育、識字教育、モラル教育を通して、第二ステッ
追記:流通科学大学、酒井彰教授ら5名と夕食をとり、
プへの導入、また自立への支援の役割を果たしてい
プレゼンテーションをしていただいた。
る。
・第二ステップのシェルターホームは、24時間衣食住
をともにし、規律を守り、社会生活の基礎を学んで
8月11日(高橋)
いく機会となっている。6歳から10歳ぐらいが入所
の目安。6カ月〜1年で卒業し、アカデミーに移動し
BRAC 教育プログラムとWASHプログラムのフィール
ド見学
ていく予定。
11:45〜16:00
・第三ステップのアカデミーは、技術習得と社会復帰
場所:BRAC Education and WASH proramme in
を目標とするが、現在、野球場一つ分程の土地を購
Mymensigh
入し、4000万円程の建設資金を様々なサポートに
Mr. Belayet Hassain (BRAC Educational Program
よりクリア、2010年8月17日に起工式を迎える。
Manager), Mr. Anukul Changrakar (Upazila
2011年完成予定。
Manager), Ms.Nasima Khatan (BRAC WASH プロ
・アカデミーでは、英語、コンピューター、観光ガイ
グラム)
ド、ホスピタリティー&ソーシャルワーク、デザイ
ン、サービスや起業家精神等を学ぶ機会を提供して
いく予定。また、マザーハウスとのコラボレーショ
ンを通じて、バックをブランドとして輸出していく
予定。
・アカデミースタッフの採用は、校長はカレッジ等の
校長の経験を有する人材を採用し、経験を有する教
【概要】
1.BRAC 教育プログラムの一環である小学校の見学、
こどもたちによる歌と踊り
2.WASH プログラムのフィールド訪問(中学校、
BRACが支援しているバリ、村の女性たちに対する
WASH プログラムのトレーニング)
師の採用や、地元の人材を充てていく予定。
17
【学習点】
が組まれていたことが印象的だった。また、生徒たち
1.BRAC 教育プログラム:
の目がキラキラ輝いていて良かったという意見と、あ
プログラムを入れる前にサーベイを行い、政府の
まりにもまとまりすぎていて軍隊的な教育の仕方が気
運営する学校に行けていないこどもが30〜32人い
になったという声もあった。もう少し教育プログラム
て、尚且つ高校卒業程度の学力のある女性が一人
のカリキュラムについても知りたかった。
いる場所を選定。4年間教育を受けるが、その間新
WASH プログラムについて、まず下痢や経口で感
しい生徒の受け入れは行わない。すべての子ども
染するその他の病気を予防するために、手を洗うこと
が卒業し、中学校へ進学している。
を率先して教育していたが、私たちが気になったのは、
2.WASH(Water, Sanitation & Hygiene)プロ
グラム
①トイレ設置とマネージメント
皮膚病のこどもたちの多さであった。もちろん手を洗
うことが、下痢症のこどもたちの罹患率を低下させる
ことはできるだろうが、この地域では特に衛生のプロ
ウルトラ・プアの人へ6209個のトイレ支給、その
グラムで体全体を清潔に保つことの大切さも同時に教
他の人々へはトイレを建設するための物資でのロー
えて行く必要性を感じた。このように、トップダウン
ン、中学校 へ32個の女性用トイレ設置
式でどの地域にも同じプログラムを導入するのではな
⇒ プログラムを初めて三年間で普及率が20%→90%
く、医療系のバックグラウンドを持つスタッフが、草
に改善
の根で働いているスタッフをスーパーバイズし、適宜
②衛生教育
地域ごとに改良していくようにしていくことが提言と
- 衛生教育を住民に直接行っているのは12日間のト
レーニングを受けたプログラム・アシスタント
- 識字率の低い地域の人々へ絵や写真を用いた教育
方法
して挙げられた。
また、研修も後半に入り、フィールドに行った際に
見るべきポイントなどが分かってきたため、スタッフ
の方からの説明では聞き出せないことも見えるように
- 2か月半ごとに村を繰り返し訪問し、知識の定着
なってきたという意見も出た。また、携帯をもってい
を促す。その間、SS(シャストシェビカ)が毎週
るか・一か月以内に病院にいったか・ウシ5頭以上持っ
訪問しフォローアップ
ているかなど全てのサイトで聞いてみれば、貧困度合
- プログラムアシスタントは15日ごとに結果を報告
いの比較などできて面白かっただろうという、反省点
も出てきた。クリティカルな視点が養われてきたこと
〈気づいた点〉
は、この短期研修を通しての実りである。
- 中学校の裏に男性用トイレがあったが、それは校舎
裏に垂れ流しだった
→プログラムでカバーしているのは大便と、女性用の
トイレのみ
- 政府とBRACの管轄が違うだけで、トイレの管理状
8月12日(小野)
国家結核対策プログラム(NTP)についての説明
14:00〜15:00
況に差が生じている。二度手間やロスが見受けられ
場所:BRAC大学
た。
Dr. Asif Mujataba Mahmud (Associate Professor,
- 学校にトイレ係が作られていないので、管理する仕
組みがない
Respiratory Medicine
Sir Salimullah Medical College & Mitford
Hospital)
【感想】
教育プログラムでは、すべての人々へ均等に教育機
【概要】
会を提供することよりも、選抜された30人程度の生
・バングラデシュの結核の現状
徒全員をしっかり教育し、卒業させることを目的とし
・NTPと今後の課題
ているように見受けられた。つまり、プログラムが始
まってから、4年間は生徒の受け入れをしない代わりに、 【学習点】
確実に次世代のリーダーを育成するようなプログラム
18
・バングラデシュの結核に関する主な指標は以下の通
りである。
ARTI:2.14
結核感染人口(成人):50%
全罹患率:223/100,000/年
罹患率(ss+): 100/100,000
22の結核高負担国中第6位
有病割合(smear positive):79.4/100,000
全有病割合:387/100,000
死亡割合:45/100,000
HIVと結核の同時感染率:0.1%(Ref. Global TB
Control WHO Report 2009 and NTP)
・NTPでは患者発見率を少なくとも70%に、DOTS
により治療成功率を85%にすることを目標としてい
る。
・1990年のデータと比較した2007年の途中報告と
2015年までの目標値は以下の通りである。
年 罹患率 死亡率
1990 639 77
2007 387 45
2015 320 39
・NTP Strategyにより85%の治療成功率は2003
年に、70%の患者発見率は2006年に、100%の
DOTSカバー率は2006年に達成された。
・The DOTS-Plus パイロットプロジェクトは多剤耐性
結核菌(MDRTB)のケースに対して実施している。
通常のDOTSを5カ月間実施しても結核菌陽性が続
いた場合に6カ月入院治療(4剤内服、1剤(カナマ
イシン)注射)をし、その後18カ月コミュニティで
DOTSによる内服治療を行う。
・バングラデシュでは薬剤耐性は新規結核患者で
3.6%、治療歴のある患者で20%起こっている。また
XDR-TB(Extensively Drug Resistance 超多剤耐
性結核菌)もバングラデシュで発見されているため
今後の対策が望まれる。
【感想】
午前中にBRACのTBプログラムを見学した後の講義
であったために、体系的にバングラデシュの結核に関
する問題と取り組みを学ぶことができた。
19
6. 学生プレゼンテーション
23
24
25
26
7. 学 生 紹 介
Field Trip Report 2010
学生紹介
飯島 真紀子
神奈川県茅ヶ崎市出身。日本で小児科医として7年間勤務した後、長崎大学へ来ま
した。子ども、特に6ヶ月〜1歳くらいの子どもと戯れるのが好きです。本と音楽と
コーヒーと夜、それに免疫と感染症の話にわくわくします。国際保健も高校の頃から
やりたかったことで、かつ長崎という街で勉強しているということで、わくわくしな
がら毎日を過ごしています。
小川 一弥
千葉生まれ。大学で経済学と人口学を勉強して、メーカーに就職。東京、名古屋、大
阪でサラリーマンを約3年やりました。その後、協力隊に参加。統計隊員として西ア
フリカ・ブルキナファソに赴任。県保健局の統計部門で保健データの品質改善活動を
実施しました。この経験があまりにも楽しくて、ビジネスから国際協力の世界にチャ
レンジすることを決心し、長崎大学大学院に入学しました。
小野 真代
愛犬をこよなく愛し、国際保健を趣味としています。好きな分野はリプロダクティブ
ヘルス、好きな地域はアフリカです。北アメリカ、西アフリカに長期滞在したことがあ
り、2年次の長期インターンシップでは東アフリカのケニアに行きます。実は、旅行で
しか行ったことがないヨーロッパとアジアの日本以外の国に一度長期滞在したいと思っ
ています。異なる地域から日本を眺めると、見えるものが違ってくると思うからです。
将来の夢は愛犬との散歩を毎日楽しくできる生活を送ることです。平凡こそ幸せ…。
上村 知春
学部時代は法律が専門でしたが、それとはまるで異なる分野である国際保健の門をく
ぐり、今ここにいます。国際保健に取り組む際は各々の地域の文化的側面に目を向け
ることが重要だと感じており、そのことから人類学への関心が高まっています。私に
何ができるのかに悩みながら日々奮闘中。4月からはアフリカエチオピアでの初めて
の長期滞在が始まります。これから先どんな道が待ち受けているのか、まだ見えてい
ません。でも、一歩ずつ前進します!
佐々木 絵理子
秋田県秋田市出身で、薬剤師のバックグラウンドがあります。友人の影響を受けて青
年海外協力隊に応募し、2年間、私立の病院で医薬品管理を中心に活動しました。そ
の前は、総合病院等で10年働いていました。帰国後、一旦復職しましたが、どうし
ても国際保健に携わりたい思いがあり、この大学院に入学を決意しました。バングラ
デシュで文化や宗教の違いを肌で感じた経験は、私にもっとたくさんの国についても
知りたい、学びたいという強い思いを与えてくれた貴重な体験でした。
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図司 令子
青年海外協力隊として派遣されたホンジュラスでは、青少年グループを対象に健康教
育を行っていました。慣れない活動の原動力となったのが、自信をつけてコミュニ
ティで啓発活動を始めるようになった青少年たちの姿です。彼らのような人々が健康
問題に取り組み続けることができるよう体系的にサポートしたいと考え、MPHにた
どり着きました。公衆衛生のプロとして、世界のどこに行っても自分らしく仕事をし
たいと思っています。
高橋 理慧
大学で社会科学を勉強した後、すぐにこのMPHコースに入学しました。学部生時代
に色々な学生団体・NGO等で活動してきましたが、このままではできることに限界
があることを痛感し、何か自分の専門を持ちたいと考えるようになりました。人と社
会、特に貧困や格差と健康の問題には常に興味があり、公衆衛生へと導かれていきま
した。今は自分の勉強したいことができていて幸せです。どんなに指導教官にお尻を
叩かれようと。
野上 ゆき恵
兵庫県出身です。高校生の時にJICAの広告をみて、国際協力に関心を持ちました。
救急と脳神経外科の看護師として6年働く間、AMDAのネパールスタディーツアーや
HuMAの国際災害看護研修に参加し、発展途上国での医療を学びました。青年海外協
力隊として参加したガーナでは保健師として、学校保健教育や伝統的産婆の研修に関
わりました。卒業後もアフリカやアジアで働ける人材へと成長していきたいです。
長谷 直美
西アフリカにあるブルキナファソという国に公衆衛生の青年海外協力隊員として赴任
していました。そこでは医者のいない診療所での医療活動や衛生教育に携わり、現地
の人々と過ごした様々なエピソードは、その後の人生においても得難い経験となりま
した。公衆衛生のマスの視点を持って、医療のバックグランドとともに途上国の人々
に寄り添う実践ができるようになればと思います。
星 友矩
1985年生まれの25歳。現在研究は蚊と人間について色々とやろうと迷走中。まだま
だ青二才ですが、蚊を愛して3年になります。蚊が血を吸うのを時にはじっくり眺め
て見るのもいいですよ。吸血後に飛び立った彼女らがどこで休息しているのかを探し
当てるコツを掴むのに一苦労…。まぁ、こんな感じでのんびり楽しく研究をモットー
にやってます。蚊を愛して止まない?いや、病んでますね、よろしく。
29
8. 学生レポート
Field Trip Report 2010
人を活かす力
飯 島
真 紀 子
私にとって初めての途上国、バングラデシュ3週間。
と、言葉があまり通じなかろうと、人間同士のつなが
その経験は、自分の中に深く刻まれることになった。
りは自分の姿勢次第で可能なのだ、ということをひし
全体を通したインパクトの大きさと時間とは完全に反
ひしと感じた。バングラデシュの人々は一見怖い。初
比例したものだった。日本で得た知識の実際、保健シ
日、真夜中の空港の閑散とした様子、銃を担いだ兵士
ステム、母子保健のあり方、各機関の活動と関わり、
たち、そしてバンに乗り込み走り出した途端に見えて
それらを吸収できたという収穫もあったが、私には
きた人の洪水、視線の渦。暗闇の中で何を見ているの
知識よりも大切なものを考えるいい機会になった。短
だろう。フェンスにたくさんの男たち。そこら中に座
かった3週間で学んだこと、そこから私が感じ取った事
り込んで何か話している、やせた人たち。ホテルに向
柄を中心に述べたいと思う。
かう中、23時を過ぎるというのに街中にひしめく車
とリキシャの波、ひっきりなしに鳴るクラクション、
まず何といっても、私が考えた最たるものは、人間
街頭にはやはりたくさんの男たち。短いながら、自分
同士の繋がり方について、であろう。国際協力とはま
はここで暮すのだ。初めのうち、日本で考えてきた自
ず、人々のことを知り、何故そのように行動するのか
己と他者との関わりのあり方が、ここではどの様に存
考えること。その際には自分をフラットにしておくこ
在するのだろうか、といささか期待の混じった不安が
とが重要で、極端に言えば、自分を一旦なくしてもい
あった。しかし、一見怖いバングラデシュの人々への
いと私は考えている。他を受け容れる、ということだ
認識は、日を追う毎にどんどん変化していった。少し
けではなく、人間の気持ちに関して敏感であること、
話してみると、すぐに笑い合える。そのちょっと恥ず
察知する努力。そこから全てが始まる。自分たちに
かしそうな笑顔を見て、同じだ、と思う。いや、日本
一体何ができるだろう。そのように考え始めている今
人よりも付き合い易いかも知れない。その印象は、バ
の私は、殆ど誰にも会いたくない気持ちで引きこもっ
ングラデシュのどこに行っても同様であった。フィー
てしまう。これはバングラデシュへの郷愁なのだろう
ルドに行くと途端によってくる好奇心旺盛な子供たち
か。それとも自分たちに嫌気が差しているのか。バン
を筆頭に、村の人々と関わってみるととても馴染みや
グラデシュの人々に感じた温もりと、自分たちへのさ
すく、皆優しく出迎えてくれた。とりわけ忘れること
めざめとした気持ちが入り混じっている。この違いは
のできなかったのは、スラムの出産センターで逢った
きっと日を追う毎に大きくなるだろう。それぐらい強
シャスト・シェビカのおばあちゃんである。殆ど言葉
烈な矛盾感、これこそが日本で感じることのできな
も通じないのに、彼女は赤ちゃんに対するサービスが
かったことであった。自分たちがここにいる意義、こ
こんな風だ、とベンガル語で一生懸命説明してくれ、
れからやろうとしていること、それに向けた意識の差
しわしわの手で大切そうにオムツをたたみ、その同じ
異。自分の根底を見失わないことや、常に周りを配慮
しわしわの手で私の手を握り、額と額を合わせ、必ず
する大切さ、誰かが違うように辛い時に集団で行動を
また逢いたい、とひどく別れを惜しんでくれた。それ
続けることに対する、焦燥に似た感情。どこにプライ
は決して通り一遍等ではないものに感じられ、本当に
オリティーをおくのか。国際協力とはなんだろうか。
別れ難かった。赤ちゃんに対する気持ちや生命の尊さ
権力には抗えないものなのだろうか。人と人とのコ
が万国共通であることに感動し、私にさえ神のご加護
ミュニケーションのあり方、伝えること、伝わらない
をあんなに一生懸命に祈ってくれる人が存在すること
こと、あえて伝えないこと、暗黙の了解ってなんだろ
に感銘を受けた。バングラデシュではこのような経験
うか。
が幾度もあった。私はきっと、バングラデシュの人々
この3週間、私は人間の温かさと、他国であろう
から見たら、ただのすぐ帰ってしまう外国人で終わっ
33
Field Trip Report 2010
たのかもしれない。しかし、私はどこにいても私であ
研究所を見学する機会に恵まれたが、ここでは臨床家
り、外国人であろうと人間であることに違いは全くな
と研究者は全く離れているものの、研究者たちが自
く、その関わり方は変わらないものなのだ、とも思
国の様々な場所において健康問題に取り組んでいるこ
う。同じ人間同士として付き合うことの重要性を再確
と、それらが非常に地域に密着した実践的な研究であ
認し、人間の感情が柔らかくなる瞬間を改めて尊く感
ることを垣間見ることができた。勿論ICDDR,Bに対す
じる。
る研究寄りの態度に対する批判も聞かれたが、彼らは
私たちは、3週間で本当に様々なバングラデシュで
研究者として外を向くのではなく、如何に自国民に貢
の保健に関する取組について勉強させてもらった。特
献できるか、それを考えている風であった。逆に考え
に自分の興味である母子保健の活動を多く見ることが
させられたのは、そのデータを用いて他国の人間が行
できて非常に有意義であった。異なるレベルで、異な
う研究のあり方についてである。彼ら、つまり私たち
る方法で、しかし同じ目的に向かって活動している
がどこまでバングラデシュの人民の健康改善に着目し
人々。夫々が、自身に誇りを持って活動している様子
て研究を行うのか。どこまで地域の個人に眼を向けて
が印象的だった。人間は自分が正しいと理解する部分
いられるのか。ICDDR,Bの彼らは他国の研究者の採用
がある程度ないと、やっていけない動物なのだ。この
について非常に厳しいという話であるが、それは自国
印象は、最後のプレゼンテーションにおいて集約され
民に対する守りにも似たものなのではないだろうか。
たみなの疑問にも反映された。何を以って自身のモチ
そう考えると、彼らのしたたかにも見えるやり方を応
ベーションを保つのか。地域で雇用されたコミュニ
援したい気持ちにもなってくる。
ティ・ワーカーに対してBRACではインセンティブを渡
特にマトラブでは、自分たちのデータ管理品質につ
し、JICAとCARE Bangladeshが政府と協力して行っ
いて誇りを持っている印象が強く見られた。それは彼
ているCommunity Support SystemやICDDR,Bで
らがバングラデシュの公衆衛生に寄与する一員とし
は全くのボランティア。どのワーカーたちも、同じよ
て、ある意味での理想郷を確立させ、それを他に適用
うにきらきらと仕事をしているように見えた。お金は
することで長期的に全ての人民の健康を改善しようと
大切だ。バングラデシュのような貧困国においては尚
する気概の表れであるように思えた。また、視察の際
更のことだろう。しかし、お金以上の何かが彼らを動
に、Community Health Research Workersの頻回な
かしているようだった。日本では感じることの少なく
各戸訪問によって、またCommunity Health Service
なった、自国民を愛し、ただ自国民のために働こうと
Workersの自宅をFixed clinicとして人々の身近に置
する意欲、だろうか。彼らが本当に考えていることは
くことによって、人々の健康意識が高められていると
私にはまだ計り知ることはできない。
いう話を伺った。それは、自分たちは守られている、
といったある種の安心感が住民にもたらされているこ
34
私が今回のインターンシップで学びたかったことの
とによるのではないかと思われる。様々な試行錯誤が
ひとつに、研究と臨床の実践の関係、というものが
あったであろうが、40年以上にわたる日々の地道な
あった。それは、自分のこれまでの業務の中で、と
努力の積み重ねによりこのような絆が生まれているの
りわけ大学において研究者と臨床家が下手をすると対
だ、と感じた。「彼らは一番のHard workerだ、自分
立する構造に疑問を感じてきたからである。そのた
たちにとっても、住民にとってもなくてはならない存
め、ICDDR,Bの活動については特に関心があった。
在だ。」というHDSSの担当者の話を思い出す。デー
今回のスケジュール内でのダッカの病院見学では主に
タやサンプルではなく、人々に眼を向けている証だと
病院の活動を中心としたものであり、非常に統制の取
感じた。同様のことは、今回訪問した政府やNGOの
れた情報管理に舌を巻いたが、そのデータから得られ
フィールドでのサービスの仕組み全体について感じら
た研究内容の臨床への還元は見えてこなかった。しか
れたことだ。先にも述べたように、地域の人間を登用
しそこからは、彼らが国際研究機関として、その活動
しサービスに当たらせる仕組みである。その雇用の仕
と成果を国内の政策に反映させ、更に世界へも発信し
方は異なるが、その方法はコミュニティのエンパワー
ようとする姿勢が感じられた。ICDDR,Bの理念であ
メントに最も効果的であるように思う。自分の近くに
る、バングラデシュだけでない、“Global Life Saving
相談できる相手がいる、その安心感は今の日本には少
Solution”に向けた心意気が素晴らしかった。その後、
ない。人口の多いバングラデシュの、人の力を利用す
るその作戦には感心するばかりであった。
換を進めていくという話を聞くことができ、少し希望
病院の設備については、例えばマトラブの病院にお
を持つことができた。今後、NGOと政府の間で様々な
いてさえ、蘇生は可能だが小児医療において一番の問
情報と意見交換が行われ、更なるバングラデシュの発
題となる気道確保、呼吸サポートとしての気管内挿管
展につながることを望む。
チューブが置いていないことなど、やはり研究やデー
タ管理の素晴らしさと比較すると、もう少し臨床サー
このように振り返ってみると、私が今回のバングラ
ビスに力を入れたらいいのに、と感じる部分もあっ
デシュで常に考えていたこと、そして今も考え続けて
た。しかしそれは、恐らく自分が日本の病院で勤務し
いることは、人の力、人を活かす力、コミュニケー
てきたから感じることでもあり、その両立を現段階で
ションの大切さ、そして物事を調整することの重要性
どこまで求められるのか、短い訪問期間では私が把握
と難しさであった。どのような局面においても、人間
するには不十分であった。
関係を築く上では、自己と同様に他者のことを考え
非常に特殊性のあるマトラブの管理を他の地域や国
られるか、という姿勢が大前提となる。その姿勢を忘
全体にどの様に適用させていくのか、これから政府と
れてはならないと思う。今回のバングラデシュでの3
の連携をどの様に進めていくのか、彼らがどう考えて
週間で、自分が最も興味を持っているのは個々として
いるのか非常に興味のあるところだ。
の人間なのだ、ということを再認識した。逆に考える
と、それはまだ集団として見る眼を養えていない、と
続いて、政府とNGOの関わりについて述べようと
もいえるだろう。しかし、個人を見ていたい、という
思う。バングラデシュ政府の保健家族福祉省では、ま
想いもまた忘れたくない。国際保健の中で、この自分
ず保健を担う部署が保健サービス局と家族計画局に2
の視線が変化していくのかどうか。他者である自分が
分され、夫々のサービスが重複しながら連携が取れて
どこまで触媒として存在することが可能であり続けら
いない。それに加えてBRACなどのNGOやICDDR,Bの
れるのか、自身の位置をどこに置き、それに固執せず
医療サービスも同地域において重複し、また完全に分
流動性を持って自己を確立でき得るのか。そもそも自
割されており、かなり効率が悪い印象を受けた。JICA
己と他者というくくりで物事を考えることについての
が支援するSafe Motherhood Promotion Projectに
疑問。そういったことについて、非常に考えさせられ
おいてコミュニティの医療施設と政府の郡・県病院を
た。これだけでも、自分にとってはとても有意義な研
訪れたが、特に郡病院ではいかにも政府の病院、とい
修であった。
う印象で、協力すればもっと住民に快適なサービスを
最後に、私は、彼らの中に生きる強い力を感じた。
提供することが可能なのではないかと感じた。国の保
その力はどこから生まれてくるのだろう。今まさしく
健システムを考える際には政府の役割が欠かせない。
発展途上にあるバングラデシュ。今後、その社会の発
いくら巨大なNGOが存在し頑張っていても、根本的に
展と人々の生活の変化が、彼らに何をもたらすのだろ
行政が変化しなければ、全体としてバランスのとれた
うか。人間の幸福とは如何に定義し難いものだろう
発展には結びつかないだろう。個人レベル・地域レベ
か。3週間という短期間では、本当にバングラデシュ
ルでのサービス格差により現在も手の届かない部分が
の一端しか知ることはできなかっただろう。私が見る
あり、既存のシステムをもう少し効率的に統合するだ
ことのできなかった、暗い部分の存在について、そし
けで、その本当に救済の必要な人たちに手を差し伸べ
て、もっともっと、色々な人々の想いを知りたい。
る助けとなり得る。JICAでは、BRACとの連携は困難
人々の健康とは何か、幸福とは何か。今回、私たちの
であるので、取り残された地域に積極的に介入を行っ
中で、この答えの出ない命題が改めて出たことは、非
ていこうとする取組の話を聞いた。それは非常に大切
常に意味のあることであったと思う。今の自分はバン
なことであるが、長期的に考えると、それぞれがいい
グラデシュの人々に何も貢献できないが、このような
サービスを提供しようと頑張っているのだから、その
ことを考えさせてくれた彼らにいつか貢献できる日が
凸凹を均す流れを作ることが重要と思われる。この問
来れば、私は幸せである。
題は研修当初から私たちが抱いてきたものであったた
め、最後のBRACにおけるプレゼンテーションの後で、
これからバングラデシュでも政策強化のための知識交
35
Field Trip Report 2010
36
バングラデシュにおける保健情報システムの一部を視察して
小 川
一 弥
1.はじめに
速に行われているとのことである。しかしながらこ
2010年7月27日から8月17日の3週間をかけて、バ
のシステムもその他の情報システムと統合されていな
ングラデシュの保健医療の現状を視察してきた。政府
い。このようにサービスの重複や独自の情報システム
系の医療施設や現地NGOのBRACが管理する出産セ
の乱立により、それぞれの主体者がそれぞれ独自のレ
ンター、首都ダッカのスラムにおける人々の暮らしや
ジスターを用意し、それぞれ独自のデータを収集し、
村落部におけるウルトラ・プアと呼ばれる人々の暮ら
それぞれ独自のルートを通って国の上位機関へと報告
し、その他にも現地のストリートチルドレンを対象と
されている。この結果、国で収集している保健データ
するNGO組織、牛乳加工工場などを視察した。本レ
はバングラデシュ国内においてさえ有効に活用されて
ポートではそのすべてを網羅的に書くことはできない
いないと言うことである(この国の保健政策を検討す
ので、私の研究のテーマである「保健情報システム」
るときに用いるデータは自国の保健医療施設から上
と「病院情報システム」の面からレポートを書き進め
がってきたデータではなく、Demographic Health
たいと思う。
Survey(DHS)のデータを使用しているとのことであ
る)。このように収集されたデータが最終的に国民の
2.バングラデシュにおける保健情報システム
利益となって返っていくことなく、またMOHFWのど
バングラデシュにおける保健情報システムは「互い
こかで十分に活用されることなくとどまっている現実
に関連し合わない情報システムの乱立」と特徴づけら
がある。各保健医療施設において収集されているデー
れるかもしれない。その保健情報システムは、政府系
タは第一の目的であるはずの国民の健康に裨益するた
保健情報システムと民間系保健情報システムの大きく
めに使われている可能性は低く、むしろ「データを集
二つに分断されている。政府系保健情報システムは、
めるため」もしくは「WHOやその他のドナーに提出す
保健サービス局、家族計画局、EPIプログラム、結核
るため」にデータの収集がなされていると言えなくも
プログラムなどがそれぞれ独自の情報システムを持っ
ない。問題点はデータが活用されていないことだけに
ており、情報が散在している状況である。それだけで
はとどまらない。活用されもしないデータを現場で記
はなく、データの重複も起こっている。例えば、保健
録・収集する現場レベルの医療スタッフの労働負荷も
サービス局と家族計画局はリプロダクティブヘルスの
大きい。バングラデシュにおける医療スタッフの数は
分野において非常に類似したサービスを行っている。
その他の途上国と同じように非常に不足している。医
サービスが類似しているということは、そこで記録さ
師数は約3万4千人。看護師数は約2万人。どの医療施
れるデータも類似もしくは重複してしまっているので
設も不足したスタッフで業務を補っている(バングラ
あるが、これらのデータは保健サービス局と家族計画
デシュではわからないが、多くの途上国ではスタッフ
局において共通化されていない。その結果、それぞれ
数が不足するだけではなく、そのスタッフは首都や大
独自のフォーマットを用いてそれぞれ独自のデータが
都市に偏在するため地方ではより過度なスタッフ不足
記録・収集されている状態である(現在GTZと政府が
となっている)。
データ項目の共通化を実施と聞いている)。そしてこ
また民間系の保健情報システムにおいても、国内最
の2つの保健情報システムの他にも結核プログラムだけ
大(世界最大でもある)のBRACをはじめとするNGO
のバーティカルな保健情報システムが存在している。
などや民間ヘルスセクターが、それぞれの独自の情報
この情報システムは県レベルよりも上位の機関におい
システムを展開している。バングラデシュにおける民
てはコンピュータによるデータ管理が行われており、
間系医療施設数は政府系医療施設数とほぼ同数の3万5
保健サービス部門の保健データよりも集計や分析が迅
千施設である。政府の保健情報システムが民間の情報
37
Field Trip Report 2010
を把握できていないことは、大雑把に言って国の保健
【県病院および郡病院】
情報の半分しか把握できていないことと同じ状態にあ
県病院には通常の電気はなく(ジェネレーターによ
ると想像される。
る発電はできる)、保健情報は手書き入力であった。
一方、県病院の1つ上のレベルにあたる郡病院では電
まとめ
気が確保されており、コンピュータも一台導入されて
・MOHFW内において保健サービス局と家族計画局が
いた。男性の統計担当者が一人配置されており、コン
それぞれ独自の保健情報システムを持っている
ピュータを使って月報を作成しているとのことであっ
・収集されたデータは政策に活かされていない
た。月報は各部門が手書きで記録・収集したデータを
・NGOや民間病院の役割が大きいにも関わらず、それ
統計担当がコンピュータ上で1つにまとめていた。1
らのデータは国の保健情報システムに組み込まれて
つ気になる点を挙げるとすると、レポートの報告項目
いない
がブルキナファソで見てきたものに比べて非常に少な
かったことである。報告書には総数ばかりが記載され
3.バングラデシュにおける病院情報システム
ており、その詳細は記載されていなかった。例えば、
【MCHTI(Mother and Child Health Training
疾病数の欄には総疾病数のみで年齢層別疾病数も年齢
Institute)】
層別入院数などの数も書かれていなかった。
MCHTIは母子保健を専門とする病院であり、かつそ
この月報はCDなどの記録媒体にコピーされ、上位機
の分野の人材を育成するためのトレーニング施設であ
関に報告されるということである。
る。この病院における情報管理は、他の政府系医療施
設と同じように手書き入力で行われている。ただし、
【ICDDR,B】
血液検査室やエコー検査室にはコンピュータが導入さ
この研究機関はダッカとマトラブに病院を持ってい
れており、電子データによる情報管理も実施されてい
る。それぞれに途上国とは思えない病院情報システム
る。しかしながら電子データ化と同時にレジスターに
をもっている。各病棟にはヒューレッドパッカード社
手書きも行われていた。つまり、まず手書きでレジス
の「iPAQ」というPDA端末が配置されていた。レジス
ターに情報を記録し、次に同じデータをコンピュータ
ターやカードなどの記録のための紙媒体は一切なく、
に入力するという作業を実施していた。二度手間と思
情報管理においてはペーパーレス化がなされていた。
えるこの作業の理由は定かではない。ちなみにこの病
このPDA端末導入による主なメリットは、患者のすぐ
院における保健情報の保管方法は下記の写真のように
そばで情報を入力することが可能であることや、入力
棚もしくは棚の上に平積みにレジスターを置くという
された情報は院内のワイヤレスネットワークによって
方法であった。当然ながら日付による分類は一切され
即時にサーバーに上げられるので、記録が更新される
ていなかった。
までに時間がかからず、医者や看護師はいつも最新の
情報を活用することが出来ることである。
また医療者側のメリットのみならず、患者側へのメ
リットも大きいと感じた。上記のようにいつでも最新
の情報が手元にあり、なおかつ簡単にそれを更新でき
ることから、記録の検索や記録の更新時間の節約が出
来るため、1人の患者に対する診療時間を増やすことが
出来る点は、患者にとってもプラスの側面が大きいと
考えられる。しかしこのように患者に対する診察時間
が増やす事が出来る一方で、患者を診るよりも端末を
見る時間が増えてしまうなどの弊害も考えられる。こ
の点に関するフォローも必要ではないかと感じる場面
も見られた。
ちなみにこの病院において最も優れていると感じた
点は、患者に1つのIDが割り当てられている点である。
38
患者1人に1つのIDが付与されていると、その患者の病
まとめ
歴や治療歴を簡易に遡ることができるという点で非常
・ICDDR,Bを除く政府系およびNGO系の医療施設では
に有用である。このように1人の患者に1つのID を割り
どちらも手書きによるデータの記録、コンピュータ
当てていたのは、今回訪問した病院の中ではICDDR,B
によるデータのとりまとめが行われていた
が唯一であった。
・政府系の医療施設ではレジスターが分類されずに平
積で保存されるなど問題点が散見された
4.おわりに
バングラデシュにおける3週間の視察から、この国の
保健情報システムや病院情報システムの問題点の一部
を発見することができた。病院情報システムにおいて
は、私が2年間滞在したブルキナファソと共通の問題点
が見られた。例えば、末端の医療施設においてはノー
トとペンを使って日々のデータを記録しているもの
の、その記録の正確性、検索性や保存方法に問題点を
【BRACの出産センター】
抱えていること。特にレジスターが棚に何の分類もさ
末端のNGO系医療施設においてもデータの記録は手
れずに平積みになって保管されている様子は、ブルキ
書きで実施されていた。レジスターは月末で締められ
ナファソのそれと全く同じであった。一方の保健情報
て、月初めに支部に運ばれる。そこで1ヶ月分のカー
システムにおいては、ブルキナファソよりも大きな問
ドが報告書にまとめられる。支部にはデータマネー
題を抱えているようであった。政府内における保健情
ジャーが1人配置されており、彼が1ヶ月分のデータを
報システムの未統合は早急に対処すべき問題であると
コンピュータに入力していく。その後は、それをCD
想像された。また他国とは異なるこの国の大きな特徴
にコピーし、さらに上位機関へと報告する。訪問した
として、NGOや民間病院の役割の大きさが挙げられる
ときは停電中で、コンピュータの電源は落ちていた。
が、このNGOと民間病院の保健情報システムと政府の
データマネージャーは使えないコンピュータの横で手
システムとの未統合も大きな問題であるように思われ
持ちぶさたにしていた。
た。政府内の縦割りと、政府とNGO・民間の縦割りと
データマネージャーの仕事を観察したところ、デー
いう二重の縦割り構造がこの国の保健情報システムを
タを入力し終える毎にミスをチェックするなど、正確
極めて複雑なものにしているようである。政府内、政
なデータを迅速に上位機関に上げる事に対する意識は
府とNGOのそれぞれの縄張り争いが住民に対する保健
政府系のスタッフよりもBRACのようなNGO系のス
サービス向上の足かせになっているのは非常に腹立た
タッフの方が高いことが伺えた。定期的に指導・管理
しい状況である。しかしながら、まずは政府内の保健
がなされていて、それが機能しているのではないかと
情報システムの統合
想像する。
を目指し、その次に
NGOや民間との統
合を目指すというス
テップを踏んでいく
ことがこの国の保健
サービス向上には非
常に重要であると思
われる。
39
Field Trip Report 2010
バングラデシュにおける健康状況改善の鍵
小 野
真 代
1.はじめに
ICDDR,Bのマトラブ地区における取り組みはコ
バングラデシュは日本の4割程度の国土に人口1億
ミュニティ・ヘルス・リサーチ・ワーカーやコミュ
4000万人以上が住んでいる人口密度の高い国である。
ニティ・ヘルス・サービス・ワーカーを雇い、彼らは
都市では人口の集中がはなはだしく、首都ダッカでは
研究のためのデータ収集を行うと共に家族計画の指導
歩道も車道も人、車、リキシャ(現地の人の交通手段
をするなど健康教育実施者としての役割も果たしてい
となっている人力車)、店であふれかえっていた。物
る。また搬送システム強化のためには、コミュニティ
乞いをするストリートチルドレン、女性、老人を見か
に一番近いクリニックからサブセンター・クリニッ
けることはあったが、多くの人がきびきびと働き国全
ク、マトラブ病院、他の高次機能病院へと一次医療か
体に活気があり未来への希望がみなぎっていた。その
ら三次医療までの医療供給体制を形成している。緊急
光景からバングラデシュがBRICsに続くネクスト11の1
時の搬送にはリキシャを応用した寝台つきの救急車を
つに挙げられていることも頷ける。
作成するなど、現地に既存するものをうまく利用して
この研修では保健指標改善に向けた政府、NGO、国
いる。さらにマトラブ病院ではカンガルーケア病棟が
際機関、二国間援助の様々な取り組みを視察し、異な
あり、低出生体重児に対して母親が我が子を24時間胸
る立場の人から直接話を聞く機会に恵まれた。なかで
元でケアしている。このケアを開始する前は生存率が
も母子保健指標に影響を与える要因への取り組みが多
6.5%であったのが、10〜14%に上昇した。この取り
く、将来の実務に向け大変有意義な研修とすることが
組みは保育器などの医療機器の供給が困難で、技術者
できた。
の不在などにより医療機器の維持管理の難しい途上国
において非常に有用な方法であると言える。
2.母子保健に関する取り組み
JICAが二国間協力により保健家族福祉省と協力して
バングラデシュでは母子保健に関する指標は年々改
ノルシンディ県で実施している母性保護サービス強化
善傾向にはあるが、妊産婦死亡率は出生10万に対し
プロジェクトでは、コミュニティ・サポート・システ
351(2007年)、乳児死亡率は出生1000に対して43
ムが妊産婦と新生児の死亡に関わる3つの遅れを防ぐ
(2007年)と依然として高い。ミレニアム開発目標達
ことに貢献している。コミュニティ・サポート・シス
成に向けた取り組みでは特に妊産婦死亡や医師・助産
テムとは地域住民が主体となり、その地域で暮らす女
師の立ち会いによる出産の割合において達成が困難で
性が貧しくとも妊娠・出産・産褥期に必要なサービス
あると言われている。この現状の中、バングラデシュ
(特に移送の手配、献血、お金など緊急産科ケアに関
政府、NGO(BRAC)、国際下痢性疾病研究センター
わるもの)を得られるようにするシステムである。コ
(ICDDR,B)がそれぞれ多様な取り組みをしている。
ミュニティ・サポート・グループのメンバーは全員自
最も印象に残っていることの1つはBRACやICDDR,B
主参加であり現金や物によるインセンティブをもらう
では独自の人材育成を行い、医療サービス提供者を養
ことはなく、毎月会費を払いさえしている。モチベー
成していることである。BRACはシャスト・シェビカと
ションの源はこの活動を通して近隣住民の人から尊敬
呼ばれるコミュニティ・ヘルス・ボランティアやシャ
される、身近な過去の不幸な死亡例を繰り返したくな
スト・コルミというヘルス・ワーカーを養成し、末端
いという思いなどからによる。
のコミュニティまで医療サービス提供者の手が届くよ
40
うになっている。またボランティアやワーカーには現
3.バングラデシュ政府とNGO、国際機関との連携
金によるインセンティブを供与しており、それが彼ら
政府とNGO(BRAC)や国際機関(ICDDR,B)の
の生活の糧となっている。
連携がうまく機能している例では結核プログラムと
EPIがある。結核プログラムでは政府が薬を供給し、
医療人材の技術力を世界水準に見合う程度まで上げる
BRACはマンパワーを提供する。BRACが養成したシャ
必要が生じる時や、各機関が独自に養成している保健
スト・シェビカは結核患者を発見し、診断がついた
医療人材の統合を図る必要が生じる時などは一体どう
患者は毎朝自宅に来てもらい直接監視下短期化学療法
するのであろうか。
(DOTS)を行うのである。ICDDR,Bのマトラブ地区
バングラデシュでは本来政府が主導で果たすべき保
ではコミュニティヘルスサービスワーカーの自宅で週
健セクターにおける役割を果たしておらず、その多く
に一度EPIを行っている。ここには最低限必要な医薬
の部分をNGOや外部機関が担っている。このNGOや
品や家族計画に必要な物品、使い捨ての分娩キットな
外部機関の活動は成果を挙げているが、一方でNGOや
どが置いてあり住民が容易にアクセスできるようにも
外部機関なしでは保健セクターは機能できない状態に
なっている。
陥ってしまっている。またBRACのシャスト・シェビカ
JICAが支援している母性保護サービス強化プロジェ
やシャスト・コルミは現金供与をもらっているので、
クトでは中央レベル、県レベル、郡レベル、ユニオン
れっきとした職業となっている。もしも保健医療人材
レベルにそれぞれ委員会を設置し横と縦のつながり強
の質の安定化のため公式の資格が必要になる時代が訪
化に努めている。この仕組みによりプロジェクトで得
れた場合やBRACの経営が立ち行かなくなった時、彼女
られた経験や教訓が上位機関にフィードバックされ政
らは職を失うのではないだろうか。BRACは1972年に
策へと活かすことができるとともに、コミュニティレ
創設されて以来、2007年の時点で7万の村と2千のスラ
ベルでも住民と行政とのつながりが濃厚となり必要な
ムをサポートしており、バングラデシュ人口全体の4分
時に行政への支援を求めることが可能となっている。
の3を占めていると言われる。長年の実績はあるが1つ
のNGOとしての規模を超えており、BRACなしでは保
4.潜在する問題と今後の展望
健セクターは立ち行かなくなってしまうという依存状
バングラデシュでは保健家族福祉省が中央レベルで
態に危惧を感じる。今後バングラデシュがどのように
保健サービス局と家族計画局とに分かれており、コ
この現状を解決していくかが課題であると思う。
ミュニティレベルまで二分され両者の連携が欠けた
縦割り行政となっている。保健システムの根本ともい
5.終わりに
える保健家族福祉省内においてこのような事態が起き
今回の研修ではバングラデシュの母子保健に関する
ていることは、予算の効率化や現場での運営において
取り組みを中心に多機関がどう連携しているか、保
様々な弊害を生み出している。本来1つでいいポストが
健システムの現状、問題点、課題を考えることがで
二つあるため役人の人件費に費用がかさみ、現場レベ
きた。プロジェクトの成功例を中心に視察することが
ルでは保健サービス局管轄のヘルスアシスタントと家
できたため効果的なプロジェクト運営の様子はよくわ
族計画局が管轄しているファミリーウェルフェアアシ
かったが、今回の短期フィールドだけでは気付くこと
スタントの仕事内容が重複するなど複雑で非効率な様
のできなかったさらなる潜在的な問題がこの国にはま
相を呈している。
だまだ潜んでいるのではないだろうかと思った。例え
保健医療人材にまつわる問題点としては、BRACの
ばイスラム圏ということで保健医療の介入において宗
シャスト・シェビカやシャスト・コルミ、ICDDR,B
教的な難しさがあるのではないかと想像していたが、
のコミュニティ・ヘルス・リサーチ・ワーカーやコ
訪れた多くのプロジェクトサイトでは非常によく効果
ミュニティ・ヘルス・サービス・ワーカー、政府のヘ
的な介入ができており、宗教的な理由による問題点を
ルス・アシスタントやファミリー・ウェルフェア・ア
耳にすることがほとんどなかった。私たちが視察し
シスタントなどに加え、国家資格を持たない村医者や
た場所はバングラデシュの特に優秀な地域で、現実は
検査技師など多種多様な人材がすでに存在しているこ
もっと悲惨な状況が存在するのでなはないかと疑って
とである。コミュニティの末端まで保健医療サービス
しまう。特にICDDR,Bのサイトであるマトラブ地域は
を提供するためには、短期間での人材育成により保健
人々が着る物もきれいで、町に入り車窓から見た景色
医療人材の数を増やすという試みは確かに必要である
だけで他地区よりも生活水準が高い地域であると思っ
し、それがバングラデシュの保健指標が改善している
た。また忘れてならないのは私たちが訪れたサイトは
成功の秘訣の1つであると思う。しかしながら今後保健
首都ダッカから比較的近く、車で行くことのできるア
41
Field Trip Report 2010
42
クセスしやすい場所であるということである。アクセ
はないかという気付きは、将来国際協力の実務者とし
スの困難な場所の実態を把握することだけでも難し
て働くために忘れてはならない必要な気付きであった
く、そこへも他と平等の保健医療サービスを提供する
ように思う。
というのは一番大切だが一番難しい課題である。
また前期の授業の母子保健学、熱帯医学、文化医療
国際協力においては、外国人という第三者の立場で
人類学などで学んだことを踏まえ実際の現場の様子を
現地語という言葉のバリアーや人はなかなか本音を言
見ることができ、自分に足りないと思う知識や能力が
わないというコミュニケーションの壁を乗り越えなが
わかり今後の自己研鑽の内容や方法を考える上で今回
ら、地域の特徴を踏まえ効果的な働きかけをしていく
の研修は活用できるだろう。今回感じた気付き、疑問
ことが求められる。今回の研修で見聞きしたことがバ
点を忘れず今後の自分の中の課題として残しながらブ
ングラデシュの実態のほんの一部にしかすぎないので
ラッシュアップをしていきたいと思う。
現場経験の出発点に立って
上 村
知 春
1.はじめに
者のデータを入力していたし、マトラブでは村々をま
私にとって最初の途上国となったバングラデシュ。
わって世帯調査を行うCommunity Health Research
頭まで覆う服を身にまとった女性たちや、仲むつまじ
Workerが住民への聞き取り調査結果をPDAに入力して
く手をつないで歩く男性たちなど、視界に飛び込んで
いた。私は、ここを訪れる以前にはPDAという名前す
くるあらゆる光景が初めてで、どこへ行っても新たな
ら聞いたこともなかったのだが、それがデータ管理を
発見の連続だった。
するための最新の端末であると知り、ICDDR,Bにおい
首都ダッカでは、お金を持つ人とそうでない人との
てIT化が進んでいることを実感した。ICDDR,BやBRAC
格差が目に付いた。おしゃれなモールでショッピング
のスタッフの方々の話をうかがっていると、このよう
を楽しんでいる人がいると思えば、外には裸で物乞い
に近代化が急速に進んでいる管理システムや設備、治
をしている人がいる。生活レベルが極端に異なる人々
療方法に、自信と誇り、希望を持っていることが伝
が混在しているこのようなバングラデシュの姿を見な
わってきた。これらの方々の話によると、近代的な施
がら、この国での医療の様子はどうなっていて、病気
設で出産や治療を行うことによって、近年では人々が
になったときに人々はどのような治療法を用いて対処
より一層健康を手に入れやすくなってきており、その
しているのか、ということを知りたいと思う気持ちが
ことがバングラデシュの人々の幸せなのだそうである。
高まった。
ただ、電気も安全な水も十分でない村で最新の端末を
この3週間に、BRAC、ICDDR,B、JICAなどさまざ
用いた聞き取り調査が行われている様子に違和感も覚
まな組織の施設やプロジェクトが実施されている現場
えたことも確かである。
を訪れて、これらの組織が、バングラデシュの貧しい
その一方で、伝統的なしきたりや治療法については、
人々のよりよい暮らしのために努力している様子を見
今やそのような考えや方法をとっている人は数少ない
ることができた。また、各々の組織が独自の方法で
という。伝統的治療者に頼る人はもはや稀であり、ほ
活動を行い、それぞれがバングラデシュの衛生状態や
とんどの人々が近代医療を選択するという。
健康指標、経済状況の改善に大きく貢献していること、
私は、バングラデシュにおいて近代医療が浸透して
さらには医療の近代化がより効率的で安全なお産や治
いるという現実と、これまで本や論文から得てきた途
療を可能にし、たくさんの命を救ってきたことを知っ
上国の伝統的な医療や慣習についての情報やイメージ
た。
とのギャップに混乱していた。というのも、私は、バ
このレポートでは、私が特に関心を持った、バング
ングラデシュにおいて伝統医療に重点を置いている
ラデシュの近代化と伝統的慣習の関係、滞在中に私が
人々は現在も数多く存在し、ICDDR,BやBRACの人た
感じたり直面したりした課題、そして、研修全体を通
ちからもそのような話を聞くことができると期待して
じての感想について報告する。
いたからである。
このような新技術の導入による健康開発は行われて
2.バングラデシュの近代化と伝統
当然であろう。それが古くから続く伝統文化の消滅に
a.近代化と伝統的慣習
つながったとしても、そうした技術がバングラデシュ
3週間の滞在中、バングラデシュは「デジタル・バン
の人々に幸福をもたらすのであればそれを「是」とす
グラデシュ」を目指して努力をしている、という話を
る考え方を批判することは難しい。だが、バングラデ
たびたび耳にした。実際、ICDDR,Bでは情報の収集・
シュの人々はいまでも伝統的な慣習を大切に続けてい
管理のPDA化が進められていた。首都ダッカの病院
ることは明らかである。実際に私たちが訪れた病院や
では看護師が皆PDAを持っており、慣れた手つきで患
村では、邪悪なものを除けると信じられている黒丸印
43
Field Trip Report 2010
を左上側の額に描いたり、ネックレスを身につけたり
ととらえて推し進めてしまうようなことがあった場合、
している幼い子どもたちをよく目にした。これらのも
人々のアイデンティティの喪失を招くなど、精神状態
のを子どもに身につけさせることは、バングラデシュ
等に良くない影響を及ぼす可能性がある。近代医療が
において昔から続く伝統的な慣習なのだそうだ。この
発展し、従来人々が用いてきた方法によっては助から
ような伝統が守られ続けていることから、病気への対
なかった、より多くの命が救われるようになることが
処や考え方についても、人々が古くからあるものを完
重要なことは確かである。だが、支援する側の立場の
全に忘れ去ってしまっているわけではないだろうと思
方々が、人々がもともと持っている考えがあるという
われた。
ことを考慮に入れながら近代的な医療を進めていこう
そのようなときに、実際に現場に出ている青年海外
とする姿勢をもつことも大切なのではないか。近代的
協力隊の隊員の方と話をする機会を得ることができた
な医療と病気への伝統的な対処は、対立することもあ
ことは、大変うれしかった。バングラデシュにおける
るが、必ずしもすべてそうであるわけではない。伝統
伝統的な慣習や病気に対する対処法などについて彼女
的に行われてきた行為が健康に害を与えるものでない
は、ICDDR,BやBRACで耳にしたのとはまた違った話
場合は、その習慣はそのままに、近代的な対処法も認
を聴かせてくれた。彼女は現場で、古くから行われて
知させていくことは可能だと思う。
きた病気への対処法、妊婦の生活に関する慣習などが
また、慣習の中には、それを行うことが人々の健康
依然として人々のあいだで生きていることを感じるこ
を害するようなものもあり、近代医療の側面からする
とがあるという。たとえば、とくに農村地帯では、病
と許しがたい行為もある。だが、この場合においても、
気にかかると、「神から与えられたものであるのだか
伝統を初めから完全に否定して医学的に正しいとされ
ら仕方がない、受け入れるほかない」と信じ、病人を
る方法の導入をするのではなく、住民が理解し納得し
病院へ運ぶことなく見守り続けようとする人々がいる
て新たな方法へ移行できるような教育を行うことが必
地域もあるという。また、「下痢になったときにはパ
要なのではないだろうか。
パイヤを食べると治る」というのは今でもバングラデ
このことに関して、JICAの出産計画 セッションを見
シュで広く信じられている伝統的な下痢の対処法だそ
学できたことは有意義だった。出産計画セッション は、
うだ。
妊婦の家族を対象として、Family Welfare Assistant
今回私たちが訪問したいくつかの地域はすべて機関
と呼ばれる女性が妊娠時の危険な徴候や知っておくべ
が入っている場所であり、人々は近代的な医療に頼っ
き知識などを教育するもので、セッションに参加して
ている傾向があった。しかし、バングラデシュ全体を
いる家族のメンバーがそれぞれ自らの意見を自由に発
みれば、地域によって機関による支援や情報の流入の
言できる環境を作るような工夫がなされている。実際
程度に大きな差があり、それによって人々の考え方に
にセッションが行われている現場を見学すると、妊婦
も差があるだろう。近代医療についての情報が少ない
だけでなく、その夫、舅、姑を含めた家族のメンバー
地域では、隊員の方がおっしゃっていたように、伝統
皆が輪になって教育を受けていた。高齢の舅や姑の中
的な病気への対処法を用いているケースもあるのでは
には、昔から信じられてきた、妊産婦やその子にとっ
ないかと思う。
て良くない影響を及ぼす可能性のある風習や考え方を
守ろうとする者も少なくない。例えば、「妊婦が食べ
44
b.近代医療の浸透と伝統的慣習との関係
物を食べすぎては健康に良くない」という古くからの
バングラデシュで人々の健康や生活状況の改善に大
教えに従おうとする年配者が少なからずおり、それを
きな影響力を持つICDDR,BやBRACのスタッフが、近
忠実に聞き入れた妊婦が栄養失調になるというケース
代的医療を重視する一方で、伝統を古くて意味のない
がある。家族皆が集まり各々が自由に発言できる環境
ものとして顧みなくなっていることは気がかりだった。
を作ることで、健康教育を理解した他の家族のメン
ある地域で古くから受け継がれてきた伝統がある場
バーたちが、そうした健康に良くない慣習を慎むこと
合、それは人々の精神的な安定とアイデンティティを
や、ほかの方法で置き換えることなどを諭す機会が与
維持する役割を果たしていることがある。そのため、
えられ、効果をあげているのである。教育者が強制的
もし、古くからの伝統的な対処法を、近代化を妨げる
に慣習を否定するのではなく、家族間の話し合いを通
ものとして完全に排除し、近代的医療を絶対的なもの
じて行動変容につなげていくという方法は理想的であ
り、健康教育を行う上で価値あるものだと感じた。
の医師に対しても、村を定期的に見回る現地スタッフ
に対しても、現地の伝統的な治療法について聞こうと
3. 課題
する際に「伝統」という言葉を用いると、考える間も
a. 支援の平等性
なく、「今ではそんなものはもうありません」という
様々なプロジェクトの説明を受けたり現場を実際に
答えが返ってくることが多かった。それを、「以前か
訪れるなかで、支援を必要とする全ての分野・人に
ら家庭でおばあちゃんやお母さんが行ってきた方法」
サービスを満遍なく提供することがいかに難しいか、
という言葉に置き換えて質問してみると、もう少し考
ということを強く感じるようになった。あるプロジェ
えて答えてもらえる。近代的なものに憧れを感じてい
クトが一見成功しているように見えても、そのすぐそ
る人たちにとっては、「伝統」という言葉は古くさく
ばにはプロジェクト自体の対象からこぼれ落ちている
聞こえ、「過去のもの」にしたくなるのかもしれな
人々がいる事実が見えてきたり、ある機関によって衛
かった。
生的な設備が整えられているように見えても、その隣
現地の人に聞きたいことがあるときには、どのよう
にはその機関の管轄外の不衛生な設備が放置されてい
な言葉を使ったら答えが返ってきやすいのかというこ
る状況を目にしたりするようなこともあった。
とを考えて質問することも必要だと感じた。
差別なく皆に平等に支援をいきわたらせることが援
助を行う際に考えなくてはならない重要な問題だと
4. おわりに
いうことは以前から認識してはいたが、現実にそれ
この研修中に私たちが訪問したのは、貧しいと言わ
を達成することは難しい。援助機関が平等なサービス
れる地域であっても、機関の援助を受けていて、さら
の分配をしようと努めても、全てをカバーすることは
にプロジェクトが成功している地域だった。そのため、
なかなかできるものではなく、貧しい人々の中でも援
プロジェクトが失敗している地域や援助がほとんど
助を受けられる人と受けられない人との間でも格差が
入っていない地域の様子や人々の様子については、あ
広がってしまうだろう。援助は何をすることで、どの
まり知る機会が得られなかった。援助が入っていない
ような結果が出たら効果があったと本当に言えるのか、
地域に学校での研修で行くことは難しいと思うが、も
という根本的な問題が私に突きつけられたのである。
しそのような地域のことももっとよく知ることができ
今後、私自身が支援する者としてプロジェクトに携
たら、さらなる発見や問題意識を持つことができたと
わる場合にも、この問題はずっと取り組み続けなくて
思う。
はならない課題になるはずである。
これまで途上国や日本の医療現場での経験がなかっ
たこともあってか、バングラデシュの医療施設や管理
b. 質問をするにあたって
システムを見たり病院のスタッフの話を聞いたりして、
多くの場所を訪問し、人々に質問していくなかで直
他のみんなが「バングラデシュは○○の国よりもすご
面したのが、自分が知りたいと思うことを上手く聞き
い!」と言っているときに、私ひとりが、ただ、「そ
出すことができない、という問題であった。
うなのか。」と感心していることも多かった。みんな
英語のできる現地スタッフを通して村の人の意見を
と同じ感動を得られないことを少し残念に思うことも
聞こうとする際に、本当に聞きたい内容が現地スタッ
あった。しかし、バングラデシュにおけるさまざまな
フに上手く伝わらなかったり、あるいは、現地スタッ
機関の活動を見ていくうちに、それまではあまり意識
フが質問の内容を理解しても、明らかにスタッフの主
していなかった問題点や不明な点が徐々に見えてくる
観が入った答えが返ってきたりして、本当の村人の声
ようになった。問題点を解決する方法を考え出すこと
を聞くことがなかなかできなかった。村人たちを目の
は私にはまだ難しいが、途上国においてどのようなと
前にしながら、彼らの思っていることを聴くことがで
ころに問題が隠れている可能性があるのか、というこ
きないのは大変もどかしく、調査において現地語を使
とをこの3週間で少し見つけることができたと思う。今
えることが大切だというのはこのことをいうのだと身
回バングラデシュで見てきたこと、聞いてきたことは、
をもって感じた。
私が来年の長期インターンシップやそれ以降に他の途
また、質問をする際の聞き方についても工夫が必要
上国へ行ってその国の現場を見た際に、きっと新たな
であることにも気付かされた。それは、たとえば病院
発見や学びにつながると思っている。
45
Field Trip Report 2010
46
バングラデシュにおける私の学びと体験
佐 々 木
絵 理 子
シンガポール経由で、日本時間の真夜中、ダッカ空
・ バングラデシュは産業がないため、海外労働から
港に到着した。閑散とした空港を一歩外に出ると、熱
の収入が多く、出稼ぎの人々への対策が必要であ
気に襲われた。猛スピードで道路を突っ走る車や、追
る。
い越しをかける3人乗りのバイク、そして土地特有のに
おい。マラウイに続き二度目の途上国となるこの国は、
・ 発展が首都ダッカに一極集中しており、ダッカ以
外の都市の発展があまりない国である。
一体どんな国なのだろうか、この三週間でどんな学び
が得られるだろうかと、好奇心でいっぱいになった。
保健セクターの状況を見てみると、バングラデシュ
母子保健を中心として組まれたプログラムは、ハー
の出生時平均余命は、インド、パキスタン、ネパール
ドスケジュールではあったもののとても充実した日々
とほぼ同じ63である。乳児死亡率は52で、インドやパ
だった。私個人の目標は、バングラデシュの保健シス
キスタンよりは良いがネパールよりは劣る。しかし問
テムを理解することであった。本報告書では、関心を
題は、有資格者の介助による出産の割合が20%と低い
持って臨んだ保健システムに関する学びを中心に述べ
ことである。人口当たりの保健支出も近郊諸国と比べ
る。そして、この研修を、後期で行われる講義や、将
最下位である。また、近年非感染性疾患が上昇してき
来のこの分野での活動に向けてどのように活かしてい
ている。MDG4の乳幼児死亡率の削減は達成されそう
くかについて思うことを述べる。
だが、MDG5の妊産婦死亡率の削減は困難であり、有
資格者の介助による出産の割合も改善が困難な状況下
バングラデシュとはどういう国で、保健システムは
にある。
どのようになっているかについて事前学習をして臨ん
そのような中、バングラデシュ政府とドナーとの間
だが、現地で多くの情報を得ることができた。
で、セクター・ワイド・アプローチ(SWAPs)として、
「保健・栄養・人口セクター・プログラム(HNPSP:
・ 2大政党で5年ごとに選挙が行われている。
2003〜2011)」が策定され、MDGs関連指標の改善
・ 汚職や政治腐敗が問題になっている。
に向けた取り組みが行われている。しかし、保健セク
・ 自然災害を受けやすく、洪水やサイクロンが多発
ターを挙げると、保健家族福祉省(MOHFW)(37
し、それによりコレラ、赤痢が蔓延する。
ある省のうちの1つ)は保健サービス局(DGHS)と
・ 冬場は田に水をやるために、田舎で電力を多く必
家族計画局(DGFP)という2つの大きな部署が、政策
要とするが、電力などインフラの整備が遅れてい
策定やサービス供給を個別に行っている。いわゆる縦
る。
割り行政である。県レベルでは、DGHS傘下の病院と、
・ 資源に乏しく、唯一豊富に存在する天然ガスにお
いては開発事業が行われている。
DGFP傘下の母子福祉センター(MCWC)が存在し、
別々に重複したケアを行っている。また、コミュニ
・ 都市国家を除くと人口密度が最も高い国である。
ティレベルでは、DGHS傘下のヘルス・アシスタント
・ ミャンマーから国境を越えてバングラデシュに
(HA)を通じて予防接種などが行われており、DGFP
入ってきている難民を抱えており、今後どうして
傘下の家族福祉センター(FWC)及び家族福祉アシス
いくかが問題となっている。
タント(FWA)が家族計画や母子保健サービスを提供
・ 経済成長は過去15年で年間5%以上上昇しており、
活気のある国である。
・ イスラム教徒が多くを占めることによる初等教育
の男女差があるが、次第に解消されてきている。
している。そのため、バーティカルなプログラム、例
えばEPCや家族計画などの活動はこのような縦割り行
政でも問題はないが、包括的なケアが必要な産科ケア
を行う場合などに効率が悪くなっている。ただでさえ
47
Field Trip Report 2010
少ない人材を有効に活かすという点からも、この2局間
メントに使われる仕組みが確立され、重要な収入源に
に連携がないことは非効率に思えた。
なっている。しかし気になるのは、BRACの製品を購
また、保健セクターにおける政府とNGOの関係にお
入できる層の人々が、どれくらい自国の貧困層につい
いても、もう少し連携があればよいのにと感じた。今
ての意識を持っているかである。NGOの本来の目的の
回の研修で訪問したBRACは世界一の規模を持つNGO
1つに、私は、市民への啓蒙活動があると思っている。
であり、独自の人材育成システムを持っている。例え
BRACのコミュニティ・エンパワーメントの手法はすば
ば、シャスト・シェビカと呼ばれるコミュニティのボ
らしい。しかしながら、研修後半で訪れた小さなNGO、
ランティアや、結核に関する技術者の養成である。し
エクマットラで伺った彼らの理念、目的は、底辺にい
かし政府も独自の人材育成システムを持っている。連
る子供のボトムアップと同時に、富裕層の意識を下に
携が強化されることにより、互いのもつ人材を有効に
向けるための啓発活動である。加えて、出来るだけ
活用することができないものだろうか。
多くの人々を巻き込みながら活動を行っており、将来、
BRACとの連携によって行われている結核対策で
ここで育った子供たちが帰ってきて、エクマットラを
は、結核患者の発見率、治療成功率、DOTSの普及率
引き継いでほしいと強く望んでいる。その姿勢と比較
のすべてにおいて成功を収めた。また、EPIにおいても
したとき、私は、BRACに対し、巨大組織だからという
ICDDR,Bとの連携が行われていた。しかし、これらも
ことはあるが、どこか無機質的なものを感じた。シャ
またバーティカルなプログラムである。すなわち縦割
スト・シェビカとは、コミュニティに住む女性がボラ
り行政でも成功が可能であることを意味しているので
ンティアとして起用され、短期間のトレーニングの後、
はないか。一方、妊産婦死亡率の削減が依然困難であ
薬を売ってマージンを得たり、家族計画を行うなどを
ることについては、妊産婦と乳児死亡に関わる3つの遅
するBRACの人材のことをいう。こういった人材が、バ
れに対する取り組みとして、社会・経済・文化的要因、
ングラデシュの農村の隅々に普及し、なおかつ女性の
アクセスの問題、また医療の質に渡る包括的な対策が
エンパワーメントに結びついている。本当に頼もしい
必要であることから、この縦割り行政の弊害が如実に
存在だ。しかし、シャスト・シェビカは、シャスト・
現れていると言えるのかもしれない。
シェビカのままなのである。私の得た情報の範囲では、
保健サービス局と家族計画局を統合することは難し
彼女たちの昇進システムについて伺うことはなかった。
いという。統合することで、そこにいる人にとって良
人々のモチベーションを持続的に高めるものの1つと
いことは何もないのだから。また、中央レベルでの統
して、金銭によるインセンティブのほかに昇進がある
合が上手くいかなかったという歴史的な背景もある。
と私は考えている。将来の持続的な発展を視野に入れ
しかし、ここ数年、MDGsの達成のためには保健シス
た場合、こういった人材をどんどん発掘して、数を増
テム強化が必要であると言われている。政権が変わっ
やしてカバーしていく方法がよいのか、一方、時間と
ても揺らがない基盤となるシステムの確立や、政府、
金はかかっても、学業を積んだ人材を段階を踏んで的
NGO、国際機関の横の連携のさらなる強化、より効果
確に育てていくのがよいのか、私には分からない。確
的な人材育成や配置が必要なのではないかと感じた。
かに、持続性ばかり念頭に置きすぎても、今まさに困
窮している人々に対応しきれないということはいえる。
BRACは1972年に創設され、今や世界一の規模を持
しかし、シャスト・シェビカのような人材が、その力
つNGOである。保健分野に留まらず、経済開発、教育
を十二分に発揮するためには、多岐にわたる、包括的
など、あらゆる長期的、継続的な分野に関するプログ
な教育が必要なのではないかと思える。この研修は私
ラムを展開している。現在は、アフリカやアフガニス
に、NGOとは何かについて考える大きなきっかけを与
タン、パキスタン、スリランカ、ハイチなどの国々に
えてくれた。
おいて、マイクロファイナンス、農業、コミュニティ
48
ヘルスケアなどを展開するに至っている。特にすばら
コミュニティ支援に関して、JICAの、バングラデ
しいと感じた点は、BRACのマネジメント能力である。
シュ母性保護サービス強化プロジェクトについて触れ
80%を独立した資金源から調達しているという。富裕
たい。
層向けの小売店を経営したり、バターや牛乳を製品化
JICAは、ノルシンディ県で妊産婦と新生児の健康改
し、そこで人々が落としたお金が貧困層のエンパワー
善を目標として、国際NGO、CAREと協力しながら、
緊急産科ケア(EmOC)サービスの質の改善と地域支
う。政府においても、「デジタル・バングラデシュ」
援の促進に取り組んでいる。地域支援の促進のツール
を目指しているということだが、電力などのインフラ
として、コミュニティ・サポート・システム(CmSS)
整備の遅れをみると、やや時期尚早ではないかと感じ
を導入している。住民の中から選ばれた、TBA、村
る。
医者、宗教指導者などからなる妊産婦を守るためのグ
BRACのマイクロファイナンスの現場で、1ヶ月前に
ループがミーティングを開き、村の妊婦の数、何人が
支援を受け始めたばかりという女性を紹介された。こ
出産したか等の把握や、危険な兆候についての説明が
れは、STUP(Specially Targeted Ultra Poor)プロ
なされているか、また、輸送のためのリキシャの確保、
グラムという2年間の支援で、週175TKの融資(返済不
次の月の出産予定、事前の血液型の確認、家庭訪問な
要)を受けるもので、マイクロファイナンスへ移行す
どについて話し合う場を設けている。目に見えるもの
る前の段階のステップである。牛1頭と山羊2頭を与え
としてマップを作り、さらにはコミュニティで緊急時
られていた。しかし堂々とした様子で、「私はこれを
に備えて貯金をしているという。JICAの援助はきめ細
全うする自信がある。今はこれが終わったら次に何を
やかさがでていたが、人間の安全保障の考えを取り入
しようかと考えているところだ」と答えてくださった。
れていると伺い納得した。一人ひとりを大切にした視
こういった貧しい中の貧しい人は一緒になって暮らし
点を感じ取ることができた。BRACと異なり、彼ら参加
ているのかと私は想像していたが、普通の住民、と
者には金銭によるインセンティブはなく、むしろ彼ら
いってもその人たちも貧しいことに変わりはないのだ
自身が参加費を払っており、それでもモチベーション
が、そういう人々の中にまぎれているので、なかなか
を維持することは可能であるとのことだった。話し合
目に付くことはないという。このような人が、支援に
いを通して、彼らに妊産婦死亡の問題を身近に感じさ
よって経済力を高め、確実にマイクロファイナンスへ
せることが動機付けにつながり、住民の反応や感謝の
移行していってほしいと願う。そして、女性の地位向
声などに励まされてモチベーションが維持されている
上がバングラデシュの持続的発展につながってほしい。
という。また、今回見学したモデルケースのCmSSのよ
また、マトラブでは、Verbal Autopsy について
うにシステムをうまく回すには、リーダー格になる人
伺った。村落で、医療機関にアクセスできず自宅で亡
の存在が必要だという説明があった。しかし全てがこ
くなった人などの死亡原因を口頭による質疑応答から
のように上手くいっているわけではないようで、ラン
導き出す作業によって、その影にある問題を引き出す
ク分けがなされている。モデルケースをラーニング・
ことができる。質問に行くときは、医療従事者は除か
サイトとし、他のCmSSの研修場所とすることで、見せ
れる。医療者であるが故のバイアスがかかってしまう
る側と学ぶ側双方のモチベーションを高める工夫をし
ことがあるからということであった。死亡原因は、心
ている。
臓発作、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、がん、また小児
各支援機関のコミュニティ支援の方法を比較し、特
では溺死が多いという。前期の授業で初めて耳にした
徴を見ることができ有意義であった。それぞれの手法
言葉だったが、途上国における死亡原因解明の方法の
の良い点を、今後自分が国際保健分野で活動していく
実際を伺うことができた。
上でいかしていけたらよいと思う。
以上、多くの学びを得た3週間はあっという間だった。
ほかにも様々なフィールドを見学した。国際下痢疾
このようなグループで行うフールド研修は私にとって
患研究センターICDDR,Bでは、病棟や村落でも携帯
初めてのことで、集団行動に自信のなかった私は、は
型情報端末(PDA)によるデータ管理が行われてい
たして乗り越えられるのだろうかと不安がなかった
た。最新技術の導入、図書館にある電子ジャーナルの
といえばうそになる。しかし毎晩皆でリキャップ・
充実など、まるで先進国に来たかのようである。しか
ミーティングを開き、それぞれの学びを共有すること
しながら、そういったテクノロジーで先取りする一方
によって、あいまいだった知識をしっかりと自分の中
で、注射器が患者の行き来するところに落ちていたり
に落とし込むことができた。今回の研修は、母子保健
するなど、基本的なことが一体となって進んでいって
や保健システムを学ぶに留まらず、英語の聞き取りや、
いないように感じた。一方が突出して、一方がすかす
人と協力して知識を共有することのすばらしさを体感
か、という印象を受けたのは私だけではなかったと思
できるまたとないよい機会であった。孤軍奮闘も必要
49
Field Trip Report 2010
だが、時には人に頼ったり、教えあったりすることも
与える影響を肌で感じた経験を、今後より広い視点で
また必要ではないか、と気づかされた。また、前期の
国際保健に取り組むという点で活かしていけるのでは
講義で学んだ言葉が数多く出てきたことで、学びを実
ないかと思う。この研修は、後期の授業の土台となる
感するとともに、現地で働く、自分と同じバックグラ
だろう。そして将来自分がフィールドに出る際、ここ
ウンドをもつ人々と出会えたことで、将来、自分もあ
で得たたくさんのヒントは必ず糧になると信じる。
のようになりたいという思いが一層高まった。さらに、
最後に、この実りの多い研修を支えてくださった宮
キリスト教が一般的であったマラウイと違い、イスラ
地先生はじめ、多くの関係者の方々、また同期の皆さ
ム教が主流の国を体感できたことで、文化や宗教につ
ん、本当にありがとうございました。
いてより深く考えるきっかけとなった。文化と宗教が
50
バングラデシュで感じた
コミュニティ・ヘルス・ワーカーの可能性
図 司
令 子
1.はじめに
る、②地域住民はヘルス・ワーカーの訪問によって保
「成長を続ける最貧国」。現代のバングラデシュは
健に関する知識・情報を得て、実際に保健サービスを
しばしばこのように形容される。バングラデシュでは
利用できる状態になる、という共通点を見出すことが
建国当初から40年近くに渡り国際社会による支援を
できた。この過程を経て、サービスから排除されてい
受けてきたが、近年では衣料ビジネスが著しく発展し
た地域住民も保健システムの中に取り込まれ、その一
ていることもあり、国自体が成長の真っただ中にいる。
員となる。ここでは主な3セクターのプロジェクトに従
その成長は、50年後の世界経済において非常に大きな
事するヘルス・ワーカーの活動を報告する。
影響力をもたらす潜在性を秘めた国々とされるネクス
ト11の1つとして採り上げられているほどである。
1)BRAC 都市部における母子保健プロジェクト
短期フィールド研修ではバングラデシュに3週間滞在
(Manoshi : Maternal, Neonatal and Child Health
し、各セクターによる保健医療の取り組みを視察した。
Initiative)
バングラデシュではミレニアム開発目標(MDGs)に
Manoshiプロジェクトは、バングラデシュ最大の
向けた取り組みが進められており、今回の研修先でも
NGOであるBRACが都市部のコミュニティで実施し
「ゴール5:妊産婦の健康の改善」が中核のプログラ
ている母子保健プロジェクトである。今回の研修では
ムとして位置づけられていた。国連開発計画バングラ
ダッカ市内にあるスラムの中に設置されたデリバリー
デシュ事務所によると、ゴール5の指標である妊産婦
センターと妊産婦の家庭を訪問した。
死亡率(出生10万対)は1991年の574に対して2015
プロジェクトの中核を担うのは、保健ボランティア
年目標は144に設定されたが、2007年実績は351で、
として活動しているシャスト・シェビカ(Shasthya
2015年予測値は317とされている。目標達成は厳しい
Shebika, SS)である。SSは家庭訪問を通じて妊産婦を
状況にはあるものの、改善がなされてきたという事実
発見すると、BRACの保健スタッフでSSの監督者でも
は各団体・援助機関の創意工夫により様々な取り組み
あるシャスト・コルミ(Shasthya Kormi, SK)に報告
が行われてきたことを示しており、今後の更なる前進
する。そこから助産師へ連絡がいく体制が取られ、コ
が期待される。
ミュニティの中で妊産婦が適切なケアを受けられるシ
そのような成長を支えてきた鍵は、コミュニティに
ステムが構築されている。SSは妊産婦の発見の他に、
ある。コミュニティからのボトムアップのために行わ
出産の手伝いや必須医薬品・出産キットの販売を行う。
れてきたことは、コミュニティレベルで構築される保
そのような活動の度にインセンティブを得ることがで
健システムの中に地域住民を取り込んでいくことで
き、それによってボランティア活動を継続することが
あった。その過程において、保健システムと地域住民
可能となっている。
との橋渡しとして大きな役割を果たしたのが、末端で
働くヘルス・ワーカーである。その現場を自分の目で
2)ICDDR,B マトラブヘルスリサーチセンター
直接見て確かめることができたことが、本研修におけ
ICCDR,Bのコホート研究のサイトであるマトラブ
る一番の学びである。
を訪問し、コミュニティでの活動を視察した。コミュ
ニティで活動するヘルス・ワーカーには、世帯訪問
2.各セクターにおけるコミュニティレベルでの取り組み
を通してデータ収集を行うワーカー(Community
研修中は母子保健プロジェクトを中心に各セクター
Health Research Worker: CHRW)と、コミュニティ
の取り組みを視察した。その活動からは、①保健シス
の住民に対して保健サービスの提供を行うワーカー
テムの末端で働くヘルス・ワーカーが各世帯を訪問す
(Community Health Service Worker: CHSW)と
51
Field Trip Report 2010
いう2種類の有給の人材がいる。
行っている。彼らの活動に対するモチベーションは高
CHRWは2カ月に一度世帯を訪問し、女性の家族計画
い。「コミュニティの人々のために何かしたかった」
の状況や子どもの予防接種状況を毎回質問票に記入し
「妊婦たちは自分たちのコミュニティの人。アウトサ
ていく。CHRWの訪問は、データ収集だけではなく地
イダー(部外者)ではない」という発言からは、妊産
域住民の意識向上という副産物ももたらしていた。調
婦死亡が個人の問題ではなく、コミュニティ全体の問
査が行われていた世帯で若い主婦に対してCHRWの定
題として捉えられていることが伺えた。
期的な訪問をどう思うか質問したところ、「以前は家
族計画や保健システムについて知らなかったが、ワー
3.ヘルス・ワーカーとソーシャル・キャピタル
カーが来ることによってそれらを知ることができた」
今回視察したヘルス・ワーカーの活動について、研
という回答を得た。CHRW同士も2週間に一度のミー
究テーマであるソーシャル・キャピタルという観点
ティングの場で情報共有をし、自身の質の向上を図っ
から考察したい。ソーシャル・キャピタルは社会関
ている。
係資本とも訳され、社会の信頼関係、規範、ネット
CHSWは母子保健における基本的なプライマリーヘ
ワークといった要素から社会組織の重要性を説く概念
ルスケアを提供している。週1日は自宅の一部をクリ
である。ソーシャル・キャピタルの分類には、①組
ニックとして開放しており、訪問日も政府と共同で予
織・コミュニティ内での協調行動を促す「内部結束型
防接種を行っていた。残りの週4日はコミュニティを回
(bonding)」のソーシャル・キャピタルと、②組
り、サービス提供に加えて妊産婦へのカウンセリング
織・コミュニティと関係機関との水平及び垂直のネッ
や健康に関する啓発活動を行う。このような活動の結
トワークを構築する「橋渡し型(bridging)」ソー
果、施設分娩が16%から80%に向上した。これは、妊
シャル・キャピタルがある(国際協力事業団 2002)。
産婦の意識と行動に変化が起こったことの表れである。
まず、ソーシャル・キャピタルの構成要素である信
頼関係やネットワークは、ヘルス・ワーカーの定期的
52
3)JICA 母性保護サービス強化プロジェクト
なコミュニティ訪問によって構築される。前述のどの
このプロジェクトでは、コミュニティレベルで地域
プロジェクトにおいてもヘルス・ワーカーによる家庭
住民を主体としてコミュニティ・サポート・システム
訪問が行われている。ここではヘルス・ワーカーがコ
(Community Support System: CmSS)が構築され
ミュニティに通い続けることが重要である。例えば、
ている。CmSSのメンバーは行政関係者、実業家、宗教
ICDDR,Bで実際に活動を見学させていただいたCHRW
指導者、伝統的産婆、主婦などと多様である。CmSS
は20年以上の経験の持ち主である。何年にも渡って同
の特徴として、地域のリソースパーソンの活動への参
じ人物から同じ質問を繰り返されることで、地域住民
加や、地方行政とのつながりを重要視したシステム構
たちの間には「自分のことをずっとフォローしてくれ
築の試みが挙げられる。メンバーは毎月ミーティング
ている」という意識が形成されてきたのではないかと
を行い、自分たちのコミュニティのどこに妊産婦が居
推測される。そのような人々との間には、自ずと信頼
住しているかを把握するために地図を作成する。また、
も生まれてくるだろう。
ミーティングに参加する際には、メンバーは無償のボ
信頼している人からの情報は個人の意識の変化を促
ランティアでありながらも少額の参加費を支払う。こ
し、それがコミュニティの中で共有されれば協調行動
れがファンドとなり、妊産婦が必要とする際に貸し付
へとつながっていく。これが内部結束型ソーシャル・
けられる。
キャピタルである。その形成の場の最小単位として家
CmSSのメンバーは妊産婦の家庭を訪問し、自らが
族を考えてみよう。CmSSメンバーは、妊産婦だけでは
ファシリテーターとなって安全なお産に関する啓発活
なくその家族をも対象としたセッションを行うが、こ
動を行う。実際に出産計画(Birth Planning)セッショ
れによって家庭内では妊娠・出産に関する共通認識を
ンを見学させていただいた際には、妊婦とその家族
持つことができるようになる。バングラデシュの妊産
を対象にお産の危険な兆候が描かれたカードを用いて
婦死亡の背景にも「3つの遅れ」の中の第一の遅れであ
セッションを行っていた。
る、家庭内での治療を受けるかどうかの判断の遅れが
このようにCmSSメンバーは妊産婦がコミュニティ
ある。バングラデシュのようなイスラム圏では女性の
や保健医療から排除されることを防ぐために活動を
意思決定権は限られている。妊娠出産に関しても同様
で、妊婦は病院に行きたいと思っても夫や姑の許可が
のだろう。しかし、これに加えて今後重要視されなけ
なければ病院に行くことはできない。それゆえ、家族
ればならないのは、ボランティアが自身の能力を向上
も一緒にセッションに参加し、妊産婦の危険な兆候に
させていくための支援の導入なのではないかと考えら
対する知識が深まっていれば、緊急時に迅速かつ適切
れる。自分自身が向上することによって活動に対する
な判断ができるようになるだろう。
熱意が高まり、継続性が確保されるだろう。そのため
CmSS自体は内部結束型ソーシャル・キャピタルと
にも、例えばCHRW同士のミーティングのような、同
橋渡し型ソーシャル・キャピタル両方の側面を持って
じ活動に従事する者たちの横のつながりの強化や、再
いる。コミュニティの中で妊産婦死亡という問題の共
教育の機会の提供をいった仕組みを検討していく必
通認識こそが、ネットワーク形成の発端である。そし
要がある。このような仕組みを通して形成されるソー
てこのつながりは、妊産婦の死亡を減らすために何か
シャル・キャピタルは、プロジェクトへの貢献が期待
したいという思いと、自分たちの活動によって実際に
できるものであるに違いない。
妊産婦死亡が減ったという誇りによって維持されて
いる。また、CmSSの構築にあたっては、JICAは導
5.おわりに
入前より地方行政とのつながりを重要視していた。こ
様々な課題はありながらも、保健システムと地域住
のため、メンバーの中には保健家族福祉省保健サービ
民の橋渡しとなるヘルス・ワーカーや彼らを含んだシ
ス局のワーカーであるヘルスアシスタント(Health
ステム自体の潜在的可能性を感じることができた研修
Assistant)が参加している。このようにCmSSを媒
であった。研修の中で感じた問題意識を忘れることな
介として地域住民と地方行政がつながることによって、
く、次年度のインターンシップや研究においても考え
住民が保健サービスにアクセスしやすい状況が作られ、
ていきたい。このような経験の積み重ねの結果、実務
それがより多くの人にまで拡大することが期待される。
者として活躍することが今回お世話になったすべての
人々への恩返しになればと思っている。
4.所感
9年振りに訪れたバングラデシュであったが、コミュ
ニティでの活動に対する住民の意識の高さに非常に驚
くとともに、この国が現在著しい成長の中にいること
を実感した3週間であった。経済的に豊かであるとは言
えない状況にある人たちが、自分たちのことだけでは
参考文献
UNDP Bangladesh Development Goals: Bangladesh
Progress Report 2008
国際協力事業団 2002 『ソーシャル・キャピタルと国
際協力 −持続する成果を目指して−』P.21
なく他人のことやコミュニティ全体のことを考えて活
動するようになるまでには、プロジェクトを実施する
側の相当の努力と年月が必要だったに違いない。開発
途上国の人々の間にそのような主体的な姿が見られた
ことを嬉しく思うのと同時に、特にCmSSの活動につい
ては、将来実務者として自分が保健プロジェクトに携
わる際に参考にしたいプロジェクトであると感じた。
コミュニティにおけるプロジェクトでは、住民に一
番近いところで働く保健スタッフやボランティアの役
割が重要であることを再認識したが、一方で活動の継
続性という大きな課題にも気が付くこととなった。特
にボランティアに関しては、インセンティブの提供で
あったり、コミュニティのために貢献したいというモ
チベーションであったりと、プロジェクトによって地
域保健の担い手として活用するための仕組みは異なる。
どちらの方法が優れているということはなく、プロ
ジェクトの性質によって適切な方法を採用すればよい
53
Field Trip Report 2010
クリティカルな視点を通してみた
バングラデシュから学んだ多角的視点の重要性
高 橋
54
理 慧
1.はじめに
2.インセンティブとボランティアの長所と短所
後開発途上国に位置付けられているバングラデシュだ
現場で働いている人々のモチベーションを向上さ
が、この国の経済成長は好調で、1996年から常に5−
せ、維持させることは容易ではない。どのプロジェク
6%の成長率を維持している。つい先日もユニクロとグ
ト/プログラムも、実際に住民にサービスを届けている
ラミン銀行が提携を結び「ユニクロ・ソーシャル・ビジ
末端の人材がしっかりしていないと、効果的な介入は
ネス・バングラデシュ」という新会社を立ち上げ、ソー
できない。今回現場で驚いたのは、BRACとJICAのモ
シャル・ビジネスを本格的にスタートさせた。また、他
チベーションを向上させるためのアプローチの仕方が
の日本の企業も安い労働力を求めてぞくぞくと工場を建
全く異なることだった。BRACでは、住民に一番近いボ
設したり投資をしたりと、BRICsに続くこれからの国と
ランティアスタッフであるシャスト・シェビカに対し
して注目が集まっている。一方で、経済だけでなく、健
て、インセンティブとして多少の現金を渡すやり方を
康指標も徐々に改善されてきている。例えば、5歳児未
採用していた。一方で、JICAのプロジェクトでは現場
満の死亡率は出生1000あたり、1990年で149だった
で妊婦さんのサポートをしているCmSS(Community
のに対して、2008年では43に低下してきているが、こ
Support System)の委員会メンバーはボランティア
れはMDGsの目標値をクリアするまであと一歩であ
で参加し、メンバー料まで払っていた。どちらのやり
る。また、平均寿命は1990年から2008年までの間で
方にも長所と短所がある。
12歳も上昇した。このような健康状態の改善はバング
現場で気づいたインセンティブの長所は、シャス
ラデシュの場合、政府の保健セクターのみの介入で成し
ト・シェビカ自身の生活が改善されていること、妊婦
遂げたものではなく、BRACという世界一の規模を誇る
の発見率や出産介助率の向上、積極的なサービス提供
NGOが政府の肩代わりをして、末端の住民にまでヘル
の態度である。あるシャスト・シェビカの娘の体格が、
スサービスを届けたことが大きな一因となっていると言
周りのこどものそれにくらべてしっかりしていたのが
われている。そのためバングラデシュはしばし、開発援
印象的だった。それだけ栄養のある食事を与えること
助の成功モデルとして取り上げられる。
のできる収入があることが示唆された。
しかし、この短期フィールド研修の3週間色々なレ
一方で、短所としては、ボランティアではなくお金
ベルの援助団体のプログラム/プロジェクトを拝見した
のために働くようになったり、プログラムベースでイ
が、決して「成功」という一言で片づけられない現場が
ンセンティブを渡しているところに関しては持続性が
そこにはあった。私たちが訪問したどの機関も目指して
疑わしいことが挙げられるだろう。BRACのインセン
いるゴール(MDGs)が同じで、介入している領域も
ティブのやり方は、例えばコミュニティ内で妊婦を見
大きくくくれば「保健」と同一であるにも関わらず、介
つけてきて、コンドームを売って、ビタミン剤を売っ
入の仕方、問題解決のプログラムの立て方、各団体との
ていくらかもらえる仕組みになっているため、買う必
連携の仕方などまちまちである。このような違いが国全
要がない薬を買わされている人々も出てくる懸念はあ
体にパッチワークのように偏在しているため、それによ
るだろう。
る弊害も見受けられた。もちろん、各団体のモデルケー
もう1つ、インセンティブを渡さないJICAのプログ
スから学ぶことは多々あったが、今回のレポートでは、
ラムのやり方では、CmSSのような委員会にメンバーは
各々のプログラム/プロジェクトの矛盾点から見えて
ボランティアで参加している。そのため、彼らのモチ
きた3つの点、インセンティブの長所と短所、vertical
ベーションはとても高く、住民が問題を自分たちのも
programmeの問題点、政府とNGOの連携の欠如と今
のと認識し自分たちで動くようになる長所がある。他
後の在り方について私の意見を述べたい。
方しっかりとまとめるリーダーがいない場合、そのよ
うなグループは容易に自然消滅してしまう短所もある。
健康とはもともとが複雑な要因がからみあって成り
両方のやり方とも長所短所があるため、一概にどち
立っている現象であるため、Vertical programme
らが優れているか判断はできない。時と場合、自分た
のような一極集中型の介入ではその効果に限界がある。
ちの介入の期間、資金などを考慮した上での判断が求
このことが、ごく一部ではあるが、はっきりと現場で
められるだろう。
見れたことは、自分にとって収穫であった。
3.Vertical programme
4.政府とNGOの関係性
前期の授業でVertical programmeの問題点から、
今回の研修で感じた一番の問題点と言えば、NGO
Comprehensive approachにシフトしていく必要があ
と政府の連携の欠如であるだろう。もちろん、この連
ることを学んだが、今回実際にバングラデシュで起き
携がうまくいっているプログラムもある。例えばNTP
ているVertical programmeの障害を目の当たりにし
(National TB Programme)だ。このプログラムの
た。
成功ポイントは、政府が全体の指揮を取って、各々の
ダッカ市内は毎日渋滞がひどく、この交通状況だと
団体が収集したデータを管理し、NGOは実際に現場で
緊急搬送に支障をきたすため、まずは道路を整備する
患者を特定し、治療を行う仕組みになっていることが
必要があるのではないかと考えていた。しかし、ノ
挙げられる。一方で、明らかに政府とNGOの連携がう
ルシンディでは高速道路ができたことによりアクセ
まくいっていないプログラムが目立った。JICAの専門
スは良くなったが、逆に交通事故が増えた。そのた
家である佐藤さんは、NGOをバイパスと、政府を心臓
めに、ただでさえ人的資源が不足している病院に、整
と比喩して以下のようなことを言っていた。「バイパ
形外科を設置する必要性が高まった。道が整備されれ
スばっかりでは一時的に末端で成果が上がっても肝心
ばもちろん緊急搬送がスムーズに進み、そこでの遅れ
な心臓がしっかりしていないと持続しない」。つまり、
により死亡する人は減るかもしれないが、一方で交通
今のバングラデシュの現状は、保健セクターを担うは
事故死や、けがをするリスクが高まる負の影響を見
ずの政府が機能していない代わりに、NGOがその肩代
落としてはいけない。ドライバーに対するスピード規
わりをしている状態である。果たして、長期的にこの
制、交通ルールの概念の教育など同時に広めていく、
国の健康改善を考えたとき、このままのシステムでよ
Comprehensive approachを採用し負の影響を最小限
いのか。確かにNGOがこの国の健康レベル向上に果た
に抑える努力をしなければいけない。
した役割は大きい。しかし、政府との連携がないまま、
もう1つ、Vertical programmeで気になったのは
保健セクターにおけるNGOの役割が大きくなったとき、
BRACの行っているWASH programmeである。こ
一国すべての地域に差別なく同じサービスを提供し続
のプログラムでは水、衛生、清潔さについてコミュニ
けることはおそらく不可能であろう。やはり、NTPの
ティの住民に対して教育して、彼らの相談に乗るプロ
ように政府とNGOが連携して、保健サービスを提供し、
グラムアシスタントがいるが、12日間と短いトレー
しっかりとデータを管理し、保健政策に活かしていく
ニング期間で育てられた人材のため、教えられたこと
ような仕組みが、今後この国には必要なのではないか。
以外は基本的に教えられない。例えばマイメイシンで
といっても、非常に複雑な政治形態のため、このよう
は、こどもたちの皮膚病が目立っているのにも関わら
な理想的な連携が達成できるかどうかはまた別の話で
ずその問題は無視され、手を洗うことのみを一生懸命
あるが。
教えていた。衛生という概念自体を住民に教えること
は時間も手間もかかるため、下痢などの病気からまず
5.感想
は守るために、手を洗うことを教育しているとのこと
短期フィールド研修全体を通して、すべてのプロ
だった。しかし、それでは一時的には効果があがるか
ジェクト/プログラムのフィールドにおいて、後もう
もしれないが、根本的な健康レベルの底上げにはつな
少し聞きたかった、見たかったで終わったことは残念
がらないだろう。各地域には特有の健康問題があるた
だった。ダッカ市内を拠点として動くため田舎の方に
め、それに気づくことのできる人材が定期的に指導し、
視察に行くときは遠いところで片道4時間から5時間か
適宜プログラムに修正を加えて行く必要があるように
かった。そのため現場にいることができる時間はごく
感じた。
わずかだったので、もう少し1つのプログラムを集中し
55
Field Trip Report 2010
て見学し、住民の人々の感想なども聞いてみたかった。
色々なプログラムやプロジェクトを見てきた。完結さ
また、彼らの意見を聞くときの大きな壁もあった。
れた団体構成、言語の壁、現地の人々で成り立ってい
通訳である。結局現場のスタッフを通して住民の話を
る援助の現場に、自分の立ち位置が見出せない日々が
聞こうとしても、必ずバイアスがかかり、住民の人が
続いた。「彼らにとって外人である私たちがわざわ
答える前にスタッフが答えているようなこともあった。
ざ介入する意義は何か」そもそもそこから問い直す必
もちろん、今回の3週間で言語が完璧にできるようにな
要性に気がついた。まだその確固たる答えは見つかっ
ることはないし、現地の人々の本音が聞けるようなこ
ていないが、この研修を通してこれから私たちが担う
とはなかったかもしれない。しかし、来年の長期イン
Public practitionerの役割を再確認した。私たちは、
ターンシップでも通訳の問題は必ず浮上するだろうし、
フィールドに出てある1つの問題を解決するために、包
今からどのような対策が取れるか考えていけることは、
括的にその問題を評価し、適切な介入を総合的に判断
これから有利に働くと思う。w言葉が通じても、本音を
し、必要であれば他セクターの連携を促す人材になら
聞き出すことは容易ではないので、それなりの工夫を
なければならない。つまり、物事を多角的に見ること
し、準備をこれから徹底させていきたい。
のできる視点が欠かせないということだ。このことに
気がついたのは、JICAの専門家である吉村さんのお話
6.今後への活かし
を聞いているときだった。この気づきをいつまでも忘
この3週間、常に自分が専門家、もしくはNGOス
れずにいたい。
タッフとして現場に入った時に何ができるかを念頭に
56
バングラデシュでの出産に関する活動を見学して
野 上
ゆ き 恵
1.はじめに
金制度や村の貸付制度などの備えは、妊婦にとって安
2010年7月27日より8月17日まで3週間、バングラ
全なケアを適切な時期に受けるために重要な役割を果
デシュでの短期フィールド研修に参加した。南アジア
たしているに違いない。実際には個人で貯金を行って
の国を訪問するのはネパールに続いて今回が2回目であ
いる人の割合は3割から4割程度と聞いた。バングラ
る。ネパールでは医療費を払えなくなり治療を受けら
デシュでは個人で貯金する余裕の無いウルトラ・プア
れなくなった人が、家に帰るお金もなく、NGOの立て
と呼ばれる貧困層には、病院での出産に関わるケアや
た母子病院の周りに行き場もなくあふれている光景に
食事、交通費が無料になるクーポンが配布されている。
衝撃を受けた。今回のバングラデシュではネパールと
しかし個人で貯金する意思の無い人には、どのように
はまた違う学びを得ることができた。BRACをはじめ
出産のリスク意識を持たせ、効率的に貯蓄していける
NGO活動、ICDDR,B、JICAなどのコミュニティレベ
か、共に考える指導がより一層必要であるとわかった。
ルでの母子保健や結核、公衆衛生、教育などを見学す
CmSSは有意義な活動である。CmSSの介入してい
ることで、それらの機関の連携や役割分担、またそれ
る地域では、その他の地域と比較して産前・産後ケア
ぞれの特徴を垣間見ることができた。今回の研修でた
の受診率、SBAの出産介助率、施設分娩の割合が高く、
くさんの学びがあったが、その中でも出産を取り巻く
成果が上がっている。またユニオン評議会の役人を
環境や活動について特に注目してまとめてみようと思
CmSSメンバーに加え、コミュニティレベルの活動を政
う。
府レベルにつなげており、妊産婦死亡の多い村での状
況に政府の目を向けるよい機会である。このCmSS活動
2.コミュニティレベルでの出産に関する活動
が行われるようになったきっかけは、NGOのサポート
Community Support System(CmSS)
を得て、妊産婦や子供の死亡を減らすためにはどうし
ノルシンディ県のコミュニティレベルの活動とし
たらいいのかという疑問を投げかけたことであるとい
てJICAのSafe Motherhood Promotion Project
う。このことは需要に対するきっかけがあれば住民は
(SMPP)活動のひとつのCmSSという村での組織活動
自主的に活動を展開していくことができるということ
を見学した。
を再認識させてくれた。
バースプランニング指導の場面では、CmSSのメン
バーが妊婦とその夫、姑を含む家族に、CAREという
Traditional Birth Attendants(TBA)に対する活動
NGOが作成したカードを使って、出産に関する危険な
バングラデシュでは自宅出産の割合は85%である。
症状などを指導し、出産場所を計画したり、緊急時の
また訓練を受けたひとに介助された出産の割合は30%
ために貯金したりすることを推進していた。またCmSS
に満たない。またノルシンディ県のコミュニティでは、
の会議では、地図を使い妊婦のいる家の場所や出産前
産前には公式なスタッフに関わることはあっても、実
後の情報を共有している場面を見学した。またCmSSは
際に出産する際には結局7割程度の人が、身近で現金の
村の資金を募金で蓄え、個人の資金が不足している時
支払いが不要なTBAに介助を頼んでいるとも聞いた。
にこのお金を貸し、返済が不可能な時には贈与するこ
SMPPでは、公式なスタッフ(Senior Staff Nursing
ともあるという。
:SSNやFamily Welfare Visitors :FWA)に対して
妊産婦死亡の原因となる「3つの遅れ」のうち、こ
日本での助産の研修を行っている。またそれだけでな
の地域における第1の遅れの原因は、移動費や薬代な
くTBAに対して、新生児の危険な症状や危険な慣習
どに対する住民の心配がおもな原因であるという。そ
についてのオリエンテーションを行っており、その結
れだけに知識不足に対する教育だけでなく、個人の貯
果知識や行動に対しての変化、また私立病院への転送
57
Field Trip Report 2010
などの成果が現れているという。またTBAとFWAや、
段である。
Community Skilled Birth Attendant(C-SBA)との
C-SBAの1人から聞いた話によると、病院出産を勧
連携を促し、ユニオンレベルでの定期的な出産に関す
める段階のひとつ手前として出産センターを利用して
る会議や技術指導を行うSafe Delivery Teamを作る活
もらっているとのことである。今後さらに病院での出
動が進められている。医療施設の面では保健サービス
産を進めていく方針であるような印象を受けたが、私
局と家族計画局の協働によるCommunity Clinicの建設
自身としては住民の生活場所の近くに訓練を受けたス
が再び注目されているという。今後この活動が順調に
タッフが出産介助をしてくれる出産センターを、今後
進められ、TBAや公式なスタッフと医療施設との連携
も十分に活用してもいいのではないかと感じた。
がより強まることで、住民のヘルスサービスの利用が
拡大されるのではないだろうか。
3.病院レベルの出産に関する活動
ノルシンディの郡レベルにおける病院の問題点とし
僻地での活動
て看護師数の少なさと緊急搬送システムの未整備が
ノルシンディ県には、病院到着までに数回の船と徒
挙げられる。この病院における1ヶ月あたりの出産は
歩、リキシャを使う中州地域の僻地があるという。こ
100件以上である。しかしながら看護師数はわずか5名
の地域に対してSMPPでは、中州地域の女性に6ヶ月の
である。入院患者を見ながら、手書きの入院記録を書
研修を行い、P−CSBAという人材を育成している。彼
き、またその他にも出産が始まればその介助に入ると
女たちは産前・産後ケアを行い、出産介助や病院への
いう忙しさを5名で回さなければならない。また救急車
転送を手伝う。僻地での出産に関する対応は課題が多
はコミュニティと病院をつなぐ手段として重要である
いが、このような介助者の訓練は、医療施設やスタッ
が、現在は昨年より故障しており使えない状態であっ
フの配置、より組織的な搬送方法の確保を勧めると共
た。来年には救急車が復帰する予定であるが、それも
に、重要であると感じた。
寄付を待っているという不安定な状況である。
また県レベルの病院では郡レベルの病院とは違う問
58
Monashi programme(母子保健プログラム)
題が見られた。郡レベルでは看護師の人材不足が深刻
BRACによるダッカのスラムにおけるMonashi
であったが、この県レベルにおいてはそもそも、緊急
programmeでは、妊産婦死亡に関する3つの遅れにお
産科ケアに対応できる産科医師と麻酔科医師のチーム
けるはじめの2つを阻止しうる仕組みを見学した。
数も十分でないということに加え、在籍医療者の不在
BRACの出産センターはスラムの中に建てられてい
という問題を知ることができた。この医療施設におけ
る。スラムでの草の根活動を行うShasthya Shebika
る医師は20名である。しかしこの20名は常に県病院に
(SS)は、住民から尊敬を受ける女性であり、妊婦に
常駐しているわけではない。医師たちは午前において
介入することでインセンティブが与えられる。このSS
は病院で勤務するものの、午後には私立病院にアルバ
により、妊婦の早期の認識やリスクのある妊婦に対す
イトに行ってしまうという(バングラデシュでは公立
る対応がスムーズに行われ、住民の教育レベル、出産
病院の医師が私立病院でアルバイトをすることが禁止
センターの利用の意識を高めている(出産センターの
されていない。そのためこの問題はバングラデシュ全
設置により、自宅出産が70%から20%に減少してい
土にわたり起きている)。問題はこれだけにとどまら
る)。また妊婦の家では貯金が勧められ、緊急時には
ず、県病院に入院している患者を自分の利益のために、
妊婦宅に配布されたポスターに書かれた番号に電話す
アルバイト先である私立病院に転院させてしまうこと
ると、C-SBAが訪問するという連携がとられていた。
も発生している。
次に第2の遅れを阻止する仕組みとして、出産セン
ノルシンディ県のコミュニティでは、「お金がたく
ターが各医療施設から近距離に設置されていることが
さんかかった」ことだけでなく、「病院で対応がひど
挙げられる。交通渋滞により、搬送時間がかかること
くつらい目にあった」という話を聞くことから、病院
は考えられるが、緊急産科ケアを受けられるNGO病院
が出産の場所に選ばれることが少ないという。提供す
まで約2Km、ダッカ病院まで10〜15Kmである。ここ
る医療サービスの質を上げる前段階として、備品が整
でも搬送方法として重要な役割を担っているのはリキ
えられていることはもちろん、人材についても常に十
シャや原動機付のオートリキシャなど日常的な搬送手
分な配置が整わなくてはならない。近隣の病院(家族
計画局病院や私立病院)があるにも関わらず、スタッ
て受け入れやすい方法のひとつであると思った。
フの配置はお互い取れていないという。保健省内部で
コミュニティから病院までをつなぐ手段としては、
の連携の強化や、1つの県内の病院を統括する管理能力、
訪問したどの地域でも日常的な搬送方法であるリキ
政府系病院での待遇(特に給料)を良くすることなど
シャやオートリキシャが活用されていた。これはある
の必要性が感じられた。
程度道路整備の整った地域では、第2の遅れを防ぐ有効
このように医療の提供側から見ると病院の問題点が
な手段であると感じた。
目に付くことも多かったが、住民側から見ると評価す
郡や県レベルまでの病院では人材の問題点について
るべき点も見ることができた。その中で最も印象的で
書いた。住民が安心して安全な出産介助、治療を受け
あったのが病院でケアを受ける女性へのインセンティ
られるなど、第3の遅れに対応する基本的な課題として
ブである。産前ケアを受けると400タカ、産後ケアを
も人材の整備は必要であると感じた。
受けると100タカ、病院において出産をするとお金の
バングラデシュでの短期フィールド研修では、政府
他にもサリーなど物品支給があるとのことである。病
のスタッフが十分配置されていない地域があることや、
院出産に力を入れて進める政府の姿勢を見ることがで
NGOや援助機関に一部地域を任せていることなど、政
きた。
府自体の力の弱さも垣間見た。しかしながら、各組織
それぞれの必要性やよい面も知ることができた。各組
4.まとめ
織がそれぞれの利点を強め、十分な協力体制を築いて
コミュニティレベルの活動では政府側のスタッフや、
いくことで出産に関する問題も含め、よりよいヘルス
NGOにより訓練された独自のスタッフが村の基本的な
サービスを提供していけるに違いない。
出産や健康に関する担い手となっていた。しかし住民
この短期フィールド研修は、多くの方の暖かいご協
が中心となり、安全なお産が行われるような活動も展
力をいただいて行われた。このことに感謝し、今回の
開されていた。CmSSでは、危険な症状などの教育のほ
学びを今後の学習、研究につなげて還元していきたい
か、資金集めや家族の理解を得ることなど第1の遅れへ
と思う。
の対応がコミュニティのネットワークを利用して行わ
れていた。ノルシンディの中州の僻地や、Monashi出
産センターでは、住民の生活の場所に訓練された出産
介助者が入り込んで出産を介助しており、女性にとっ
参考文献
国際協力機構 2008『バングラデシュ人民共和国、保健セク
ター、プログラム形成調査報告書』
59
Field Trip Report 2010
バングラデシュにおける保健システムの課題と展望
長 谷
直 美
1.はじめに
送の例のように、この国ならではの特性を活用した方
今回の研修で訪れたバングラデシュの首都ダッカで
策を知ることができた。また搬送の重要性について、
は、人口増加が急速に進み、建設中のビルやコンク
母子保健研修所のTOTトレーニングでも介助するのは
リート内部が剥き出しのまま放置されている建物も目
通常分娩のみであり、異常徴候がみられた際は上位レ
立った。褐色の街並みにクラクションが鳴り響き、ま
ベルの施設へ搬送することを強調されていた。
た移動する際には交通渋滞の渦に巻き込まれる毎日で
私立病院では、一般の公立病院とは比較にならない
あった。資本主義経済の波と共に、急速な発展の途上
ほど立派な医療設備を備える病院もあった。しかし検
にあるバングラデシュの保健システムの課題と展望に
査や投薬などの進捗が遅いことや、検査を中断しイス
ついて報告する。
ラムのお祈りに行くなどのエピソードもあり、たとえ
バングラデシュ政府は、ミレニアム開発目標の達成
搬送されても第三の遅れにつながる要因の1つではない
に向けた母子保健プロジェクトを推進しており、今回
かとも推察された。今後の課題としては医療設備の拡
の短期フィールド研修では母子保健に関するプロジェ
充とともに、医療サービスのスムーズな提供、プライ
クトを中心とした視察を行った。バングラデシュにお
バシーや安楽への配慮、守秘義務の遵守といったソフ
ける母子保健指標は年々改善を示しているが、妊産婦
ト面での医療体制の充実も求められてくるであろう。
死亡率(出生10万件)は、ミレニアム開発目標値144
その他にバングラデシュのサービス提供者として、
に対し351(2007)、乳児死亡率(出生1000人)は
特に重要となるのがNGOの存在である。日本人が代表
ミレニアム開発目標の48に対して60(2007)であり、
を務めるエクマットラは、ストリートチルドレンを対
目標値達成には至っていない。保健プログラムを担う
象に青空教室、シェルターホームを提供するNGOであ
保健家族福祉省内では、保健局と家族計画局の二つの
るが、今年度アカデミーを立ち上げる際に、バングラ
部局が存在し、縦型のシステムによる保健システムで
国内の銀行からその建設費用の7割にもあたる支援金を
運用されている。保健システムを構成する要素である
得られている。それはこのNGOの信念に共鳴する人脈
サービス提供、保健人材、保健情報、保健技術、保健
を現地で培い、その上で粘り強く交渉を重ねた結果で
資金、ガバナンスの枠組みに沿って今回の研修の学び
ある。設立者に話を伺うと自らは去ってゆくべき者と
を述べていきたい。
して位置付け、引き継がれることを念頭において活動
されていた。その志に頭の下がる思いだった。なるべ
2.サービス提供
く多くの人を巻き込み活動に繋げていくこと、数は少
バングラデシュでは一次医療レベルであるウパジラ
なくても次世代のリーダーを育成していくことが、活
と呼ばれる郡の病院から、二次医療施設の県病院、三
動を継続してゆく鍵になることを学んだ。
次医療施設であるダッカ医科大学病院へ搬送するシス
60
テムがとられている。地域に密接した取り組みの1つと
3.保健人材
して、出産を支援する家族プログラムが提供される場
バングラデシュでは保健人材の中でも特に、医師数
を見学した。夫や祖母が自宅から病院へと搬送する決
に対して看護師の絶対数が不足しており、保健局でも
定権を持つことが多いことから、妊産婦だけではなく
看護師育成が急務であることを認識している。しかし
家族全員を巻き込んだセッションを行い、第一の遅れ
ながら育成した人材も国外へ流出し国内に定着しない
を解消する試みが行われている。
現状がある。だが現存のシステムの中でもBRACのシャ
第二の遅れに関してはベンガル地方独特の水源を活
スト・シェビカやシャスト・コルミなどのコミュニ
かした水上ボートでの輸送や、リキシャによる緊急搬
ティ・ヘルス・ワーカー、政府機関のヘルスアシスタ
ントは地域に根付いた存在であることから地域住民か
援があることがあげられている。結核は以前、不治の
らの信頼を得られており、これらの保健人材を活用す
病と言われていたことから就労や子供の将来にもかか
ることで医療者不足を補っている。そのため政府機関
わるスティグマとなっているため、社会的ケアにも目
やNGOなど実施主体ごとに、職種名や職域も異なる保
を向けた啓発活動にも取り組んでいる。
健医療人材を擁し、それぞれの実施機関が短期間のト
スラムの中の母子分娩施設を見学した際には、簡素
レーニングのみで即戦力の人材を養成している状況に
ではあったが想像していたよりも清潔な環境で、地域
ある。統一した教育課程で着実な保健人材の育成をし
のシャスト・シェビカやシャスト・コルミに囲まれて、
ていく段階には、まだ至っていないようである。将来
静かに出産ができる場所が設けられていた。これらの
的にはマンパワーの養成のみではなく、医療従事者の
例のように、医療資源がない中でも工夫して実施でき
質、量双方の拡充を見据えていくことが望まれる。
る試みは、他の途上国でも健康改善に繋がる保健技術
を導入するヒントとなるのではないかと思われる。
4.保健情報
国際下痢疾患研究センター、マトラブ病院は、1966
6.保健資金
年から23万人対象のHDSSによるコホート研究が継
アフリカでもそうであったが、バングラデシュでも
続されている地域内にある。既存のデータを用いるこ
日々の暮らしに精一杯で、声を上げる手段を持たない
とができるため、国内はもとより世界各国から研究者
人達は、貧しい状況を仕方ないと諦め、その一方で富
が集まっている。ここでは世帯毎という単位で管理さ
裕層の人々は、既得権益を保持しイニシアチブをとろ
れ、世帯主が変わった時は書き換え、個人も追跡でき
うとはしない構造がみられる。このことは保健家族福
るデータシステムを構築されている。データ利用と引
祉省内に、保健局と家族計画局が二分されている保健
き換えに、無料で医療を受けることができるモデル地
システムにも表れている。この二局体制は過去、世銀
区への倫理的な是非はあるが、戸籍制度のない国で政
の主導により強制的に部局統合された歴史もあったそ
策提言をしていくためにはデータ収集を行う意義や必
うだが、ポストが削減することによる強い反発やデモ
要性があると言える。
によって、また元の体制に戻った経緯がある。それぞ
また在宅死が85%を占めるこの地域では、死後3カ
れの局によって二次レベルの県病院が近接して建設さ
月以内にVerbal autopsyの手法を用いて死因を検索
れている例もあり、これでは投入によるインパクトが
する方法がとられている。途上国では、先進国のよう
弱く、指揮系統が異なることによるデメリットも多い
に医療施設内で息をひき取るケースは数少ない。その
ように感じられた。
ため遺体を直接解剖できないという制約がある中でも、
またダッカの国際下痢疾患研究センターの病棟では、
Verbal autopsyによって死因の究明に尽くす医師の
男女の別なく入院生活を余儀なくされ、それでも収容
姿勢に感銘を受けた。
しきれない数多くの患者は野外テントに収容されてい
る。その一方で、リサーチ用とはいえ栄養不良スコア
5.保健技術
も自動計算される多機能型 PDAを用いた電子端末管理
見学した保健プロジェクトの中で、地域の人々の
が行われているという、対照的な面もみられた。
視点に沿った効果的と思われる例がいくつかあった。
このようなアンバランスな側面を持っている医療
2,500g以下または37週未満の出生児に施されるカンガ
状況の中で、JICAノルシンディモデルは今回視察し
ルーケアは、日本での母子のアタッチメントを深める
た他のプロジェクトとは趣の異なる試みがなされてい
ため行われるケアとは異なり、ここでは保育器等の高
た。このモデルではNGO、CAREバングラデシュが、
度医療機器がない状況下で、新生児を生存させるため
CmSS(Community Support System)の組織作り
の切実なケアであるということが伺えた。
を支援している。末端のサービス提供者まで供給する
シャスト・シェビカの自宅で行われているDOTS制
バングラ国内最大のNGO、BRACと比較してみると、
度と、入院しカナマイシン注射製剤投与を受けるDOTS
CAREバングラデシュは、ファシリテーターとしての役
PLUSにより結核の塗沫検査陰性率が上昇している。そ
割を担うことが異なる点である。具体的にはケースヒ
の成功の要因として、バングラデシュではHIVとのco-
ストリーを用いて地域住民の感情を想起させることで、
infectionが0.1%と低率であることやNGOの強力な支
ボトムアップを図る手法がとられていた。このモデル
61
Field Trip Report 2010
は現政権の優先課題の1つであるコミュニティクリニッ
伝統医療について、産後水と油を赤ちゃんに撒くこと
クの活性化へと繋がると評価され、コミュニティクリ
で成長を願う風習があることや、臍帯の切断時に牛糞
ニック1施設につき3つのCmSSを配置する政策に採用
を塗布するという習慣があったが、現在は衛生教育の
されている。このように大規模な資金投入をしなくて
普及により減少したことを知った。文化は相対的なも
も、フィールドでの知見が保健政策に反映されるケー
のであり、時代とともに変化していくという文化医療
スも視察することができた。
人類学の講義での学びを、実例を通して深めることが
できた。
7.ガバナンス
しかしながら短期間で問題を抽出することの難しさ
バングラデシュでは1971年の独立直後から援助機関
も感じた三週間であった。マイクロファイナンス導
が介入している歴史があるためか、首都から遠く離れ
入後、前より状況が良くなって幸せと答えるウルト
た農村部まで続く電線や舗装道路など、滞在経験のあ
ラ・プアの人々のように、私達外国人の見学者に囲ま
る西アフリカの国々と比べインフラが整備されている
れて、模範的な答えになるのは無理もないことと思う。
印象を受けた。しかしインフラが整ったことによって
現場を垣間見るということと、本当の意味で現状を知
以前よりも交通事故が多発し外傷患者が急増している
るということには、少なからず乖離があるのではない
ことを耳にして、援助の功罪についても考えさせられ
かと感じる。そのギャップを埋めるためにも、個を対
た。
象とする臨床と、集団として捉える公衆衛生、この両
保健・栄養・人口セクターコンソーシアムにおいて
面から比較検討し、俯瞰する能力を養っていくことが
各国の援助調整が図られる一方で、条件を満たさな
今後の課題である。現場で活躍する様々な専門職の方
いと使えない形式のプールファンドも増えていると
たちに会い、国際開発のどの分野を歩んでゆくのか自
いう話を伺った。そのためバングラデシュに介入する
らの適性を考える上でも有意義な研修であった。短
ドナーは、援助効率の低い政府を通すよりも力のある
期フィールド研修での経験を、今後の長期インターン
NGOへと直接投資する傾向もみられているそうであり、
シップや研究に活かしていきたいと考えている。
政府の援助吸収能力や統治力に期待できない側面も知
ることができた。専門家の方によると他国のドナー会
参考文献
議において「援助プログラムの混在する第二のバング
WHO 2007 Everybody’
s Business-Strengthening
ラにしてはいけない」とされているそうであり、この
health system to improve health outcomes,
ような呼び名を返上できる日が早く訪れてほしいと思
WHO’
s Framework for action. Geneva
う。さらにバングラデシュにおいては近い将来避けら
湯浅資之他 2009『国際保健における保健システム強
れない健康問題として、感染症から慢性疾患へと疾病
化に関する近年の動向』Journal of International
構造が変化していくことが予測される。疾病転換を経
Health, 24:309-314
た他国の知見を取り入れた保健施策を打ち出していく
ことが、今後直面する課題を解決する一助となるであ
ろう。
8.おわりに
発展途上国の現状を学際的にみる視点を養うことの
意味やその重要性を、本研修を通して学ぶことができ
た。今回の研修では学生という立場で、視察という目
的で苦境のただ中にある住民の横を通り過ぎていく申
し訳なさに、胸が痛んだ。それと同時に初めて途上国
を訪れた時のような高揚感からだけではなく、途上国
に暮らす人々の現状を多角的により深く洞察できるよ
うになった自分自身にも気づかされた。
研究テーマである「自己治療と治療選択」に関する
62
フィールドに立つ
星 友 矩
1.研修にむけて
定の効果はあると感じたし、素晴らしい試みであると
今回の研修は僕にとって初めてのスタディーツアー
思った。母子保健に関しては他の人が詳しく書かれて
であり、いくつか気がかりな点はあった。現地での授
いると思うので筆を譲ることとする。
業が英語で行われるということもあり、正しく理解で
きるかどうかなどの不安はあった。しかし、中でも下
3.バングラデシュ国際下痢症研究所の取り組み
記に記したことは特に気がかりであった。
バングラデシュ国際下痢症研究所(ICDDR,B)は病
まず、母子保健やヘルスシステムのメニューが多い
院と研究所が併設してある施設であった。ICDDR,Bの
今回の研修で、私自身のバックグラウンドがそれらと
研究については様々なことが成されていたが、人口調
関係がなく、深い考察ができないのではないだろうか
査やそれを元としたコホート研究などは非常に興味深
という点である。前期に授業は受けてはきたものの、
かった。この研究所ではデジタル化が非常に進んでお
医療系の経歴を持たない全くの初学者の僕ができる考
り、人口調査などは紙ベースの調査ではなく、携帯情
察は大したことはないだろう。
報端末(Personal Digital Assistant: PDA)をフィー
次に勉学以外の点では、3週間という旅をクラスメイ
ルドで用い、フィールド調査員が端末に直にデータを
トと協調して過ごすことができるのだろうか、という
入力していた。この事には非常に驚かされ、ICDDR,B
点である。3週間にわたり部屋では常にルームメイト1
という組織の資金の大きさを感じた瞬間でもあった。
名と生活を共にし、研修の間は常に十人という集団で
同様に併設の病院でもデジタル化は進んでおり、既に
行動を共にしなくてはならないのである。
電子カルテで管理されていた。全ての患者はバーコー
最後に、健康面についてである。今回の研修を無事
ドで管理され、看護師はPDA片手に仕事をしていた。
健康に乗り越えることができるのか、という点である。
私が当研究所をみて感じた印象で最も大きかったの
というのも、2年前にタイを旅した際に体調を崩し嘔吐
は、現場をしっかりと見て問題意識を肌身に感じてい
しながら必死に帰国してきたことが記憶に新しかった
る研究者が研究をしているという点であった。常に
からだ。研修のスケジュールはタイトに組まれており、
フィールドでの疾病を意識して、現場の問題に取り組
体調をきちんと管理しなくては授業に出席できなくな
む姿勢は研究者のあるべき姿を見せられたように感じ
ると考えていた。とにかく、自分のペースを保ち3週間
た。私のような若輩者が言及することは非常に憚られ
しっかりと授業に出ることを目標とした。
るのだが、国際貢献を志す研究者は、特に自らの研究
を現場に還元することを常に念頭において勉学に励む
2.母子保健に注力
べきである。この還元を無視した研究を行い、夢だけ
今回の研修では多くの母子保健についてのプログラ
を与え続け、偽善のように国際貢献を振りかざすこと
ムを見学に行く機会があった。そのいずれにおいても
はやるべきではない。
各団体などが非常によく努力しており、現場でどのよ
このICDDR,Bは正に、現場に目を向けた実践を意識
うなことがなされているのか、など学ばさせられるこ
した研究施設であり、その姿勢には尊敬させられた。
とが多くあった。
その他にICDDR,Bの研究室を訪れる機会があったの
バングラデシュでは母子保健に力を入れ、一人で
でその時に感じたことを記したい。私の訪れた寄生虫
も多くの妊婦や子どもを死や病気から守ろうとする
の研究室では、カラアザールの研究やミャンマー国境
姿勢を感じた。それらはBRACがスラムで展開する
沿いのマラリアに関する研究が成されていた。非常に
Manoshiプロジェクトであったり、JICAの母性保護
親切に対応して頂き、色々な話をすることができてと
プロジェクトから垣間見た。両プロジェクトにより一
ても好奇心が湧いた。中でもマラリアの流行地に、機
63
Field Trip Report 2010
会があれば連れて行って頂けるとのこともおっしゃっ
また、プロジェクトを導入する際に必ず地域の主導
て下さり、非常に勉強の意欲が湧いた。少し恐ろし
的立場にある人物を無視することなく、その人物を巻
かったのはその地域では誘拐が起こるということで
き込んだ形で行うのも重要であると感じた。地域の長
あった。しかし、是非機会があれば行ってみたい。
を無視することはあらゆる場面で無駄な争いを招き兼
ねない。
4.研修を終えて
今回の研修はなんとか無事に終えることができた。
次にルームメイトと協調して過ごすことができるか、
当初の心配事項であった3つのことについてまとめてお
また十人という狭いコミュニティの中で衝突すること
こうと思う。
なく3週間を乗り切ることができるのかについてである。
まず、僕自身のバックグラウンドのために母子保健
この点に関しては、ルームメイトである数少ない男
やヘルスシステムについて深い考察ができないのでは
性の小川さんに感謝しなくてはならない点が多いだろ
ないかという懸念については、的中した。当然ながら
う。全体的にとても円滑に過ごすことができたことに
助産師として働いた経験のある者に比べると弱いとこ
感謝している。個人プレーに走りがちな僕としてはか
ろが目立った。しかし、僕はこれらの対象とは異なる
なり上出来であった。また、十人という狭い集団内の
ところに専門性を絞ろうと考えているので、この点に
ことに関しては短期フィールド中には多少なりとも意
関しては悲観する必要ないだろうし、何事も一通り見
見の衝突が見られた。しかし、それは真剣に学ぼうと
ておくことは重要である。
する姿勢の現れであっただろうし、非常に見ていて熱
今回の研修では現場でどのような目をもって物事を
心だと感心させられた。
観察すればよいのかの練習を「母子保健」という教材
今回感じたことでは、人の意見にじっくり耳を傾け
でやったと捉えることができる。その様に考えると、
て余裕を持って相手を認めるスタンスで議論に挑むこ
母子保健に限らず今回の知見を一般化して捉え直すこ
とが大切であると感じた。否定からは何も産まれない。
とができる。
そう考えると僕が最も重要な要素を含んでいると感
最後に健康面についてであるが、これは非常に気を
じたのが、JICAのノルシンディ県における母性保護プ
使った。スケジュールはかなり密に詰まっているの
ロジェクトにおいてインセンティブを用いずに住民の
で頑張りすぎないことを常に意識していた。もし一
モチベーションを保っていることについてである。該
度、病気になればその後のスケジュールをこなすこと
当のプロジェクトでは、妊産婦死亡という問題を住民
ができなくなる。それだけは最低でも避けたかった。
自身の重大な問題としてコミュニティグループに認識
僕はフィールドでは最後まで一定のペースを保ち乗り
させることを第一の段階としていた。次にそれに対し
切ることを常に目標としている。それは大学の学部時
ての住民の取り組みによって、妊産婦死亡の減少とい
代に行ったフィールド調査の教訓からである。当時ま
う目に見える結果から、住民のモチベーションを刺
だ我武者羅にやる気満々であった僕は過密な調査スケ
激するという手法であった。この手法により、たとえ
ジュールを組んだのだ。その結果、半年が過ぎようと
援助の団体が撤退したとしても、プロジェクトは残り
していた調査の中盤には計画を変更せざるを得なかっ
続けるという訳だ。さらに、人間とは一度何か成功し、
たのだ。それを避けるために常にローペースを保ち、
認められるとそれがきっかけとなり連鎖反応的に次の
何かの時には動けるだけの体力は確保しておくのは僕
問題へと取り組むことを自然と向かわせる。まさにエ
のスタイルである。今回は風邪や発熱といった病気も
ンパワーメントである。人間の持てる素晴らしい潜在
起こすことなく、健康に過ごすことができて何よりで
能力を見せつけられた。
あった。唯一、反省しなくてはならないのは毎度の事
このエンパワーメントによりプロジェクトの持続可
ながら辛いものが大好きな僕はグリーンチリを食べ過
能性という問題の糸口がみえる。持続可能性とは国際
ぎて下痢を起こしてしまったことである。
保健の分野だけではなく、あらゆる分野で鍵となる問
題である。この点を解決するには住民が自ら進んでや
りたいと思うことは最も初歩的であるが、一番の成功
の秘訣であると感じた。
64
今回の研修を踏まえて長期フィールド研修にどのよ
謝辞
うな視点を持って挑めばよいのか非常にためになった。
今回の短期フィールド研修を少しでも有意義なもの
それは現場を見ながら研究をすることである。常に
にするために邁進して下さった宮地先生、並びにお忙
現場を意識することで、ある問題を見つけだしたとし
しい中フィールドに来て下さった富田先生に深く感謝
てもそれだけで完結するのではなく、それが社会のど
いたします。また、我々の研修の準備などを含め様々
のような背景を投影しているのかを必ず推測すること
なサポートを行って下さった青木研究科長、並びにす
である。
べての研究科の先生方、事務の方々には深くお礼申し
次に住民の持っている可能性を信じることである。
上げます。最後になりましたが、バングラデシュでの
人は誰だって人から認められれば自信がつく。それを
様々な情報を提供して下さった、国際健康開発研究科1
信じ、ただただ褒め、認め、住民を信じ自信をつけさ
期生の田口先輩にも感謝いたします。
せることが大切である。
65
Student Reports
Field Trip Report 2010
What I Have Thought in Bangladesh
Makiko Iijima
This three weeksʼ internship was my first visit to
able to protect to the power? What is the unspoken
developing country. The experiences in Bangladesh
assumption? I think a lot about the ideal way of the
were deeply etched in my mind. Compared with study
interpersonal communication, things to tell, things dare
in classroom, the whole impact and the passed time
not to tell, and cannot to tell.
were completely in inverse proportion. It became a
good chance for me to think about more important
Hence, I also realized the communication and
things than the knowledge, even though I gained so
connection was possible depending my ready, even
many living practices that I previously learned as
though in different countries, the word did not so
knowledge in Japan, for example the health system,
much run. People in Bangladesh seemed scary on
maternal and child health, each organizationʼs
the face at a glance. At the first day I saw armys
activities and their relationships. I want to be going to
who had guns on their shoulder in the midnight, quiet
describe my learnings there and my thoughts around
airport. And when the van was running, the whirlpool
in this short three weeks.
of people and the flood of their eyes had jumped into
me. What were they looking in the dark? There were
First of all, the thing what I thought the most is
a lot of men in the fence and lean people sat down
how to connect with each other. The international
around speaking something. Even though it was past
cooperation starts from getting to know people and
23 oʼclock, there were the wave of crowding cars and
their behaviours. That is common step when we have
rikisha, ringing horn and lamplights in the town still.
contact with others. I think it is important being flat,
“I live here though it is short.” I thought. There was a
and to put it in an extreme way, losing myself may
few uneasiness mixed with the expectation whether
be better way to do that. Everything starts by effort
or not I could do well in here, Bangladesh. However,
that not only accept others but also be sensitive for
the recognition of Bangladeshi changed fast whenever
their feelings, and sense them. Otherwise, what on
the day was chased. It was easy to laugh each other
earth we will be able to do? Now I begin to think like
with a little speaking. I thought when I saw their shyly
that and stay indoors in feelings that want hardly
smile for a moment “they are the same, no, it is maybe
to meet anyone. Is this nostalgia for Bangladesh?
easier to associate with than Japanese.” Wherever in
Or, do I averse to us? I confuse between the mixed,
Bangladesh, I felt that. They were very curious people,
opposite feelings to Bangladeshiʼs warmth I felt and
children head of the list, it was easy to become
bitter feelings to us. Whenever the day is chased,
familiar with people in the village, and everyone were
this difference will surely grow. I feel such a strong
very gentle.
contradiction that I could not in Japan. I think about
the meanings we study in Bangladesh, the differences
Being not able to forget especially is an old lady,
of each consciousness to this internship and what
Shasthya Shebika who I encountered with delivery
we wii be able to apply to our future. And I feel
center of the slum. She explained their services to
the importance of not losing own basis and always
the baby in Bengal language to me for all her worth,
worrying to each other. This is like fretfulness I feel
folded the diaper with care sincerely by her wrinkled
that keeping action in group whenever someone has
hands, holded my hands by the same wrinkled hands,
each pain. Where should we put priority on? What
put our foreheads together and hoped next our meet
is the basis of international cooperation? Arenʼt we
some day. It seemed not to be conventional, and I felt
69
Field Trip Report 2010
never to separate on ease. Even though we could not
the university hospital, that the researcher and the
communicate with each languages, I felt her feelings
clinician sometimes have conflict. Therefore, I had
without words. I was so impressed that the feelings to
great interest about the activities of ICDDR,B. Our
the baby and the honourable of the life were common
visit to Dhaka hospital during the schedule was mainly
to all nations, and was moved deeply by the existence
centered on their clinical services in the hospital. I
of the person who prayed even to me, first met person,
was so surprised at their highly managed information
the grace of God like her. Many times I had such an
systems in there. I heard that they used their patientsʼ
experience in Bangladesh. For Bangladeshi, I might
data to research, but I could not view how they
have ended by just a foreigner who returned soon.
feedback their research consequences to the clinical
However, through such experiences, I realized that
division. However, they did research from the data
I was always just me wherever I was, and human
as specific research organization and showed their
relationship did not change even though I and
research data to all of the world by publishing, they
someone was born and lived in different countries. I
tried to reflect not only on the national policy but the
made sure again of the importance of association as
world. The spirit for global lifesaving solution that was
same human, and felt honourable the moment when
the idea of ICDDR,B seemed to be wonderful.
humanʼs feelings became soft.
Afterwards, I had the chance to visit their laboratory
luckily. Though the clinician and the researcher were
We were allowed to study the many kinds of
completely separated here, I could catch a glimpse
health activities in Bangladesh during three weeks.
of their approach in various places on the health
Especially, it was very significant for me that I could
matter in Bangladesh, and the researches stick to the
see a lot of activities of the maternal and child health
region very much. Though I have heard the criticism
that was my interest. At different levels, there were
to the attitude of researching inclined to ICDDR,B, it
so many people in different methods who were acting
seemed to me that they did not turn to the outside as
toward the same purpose. The each appearance of
a researcher but thought about how they contribute
having proud of oneself was impressive. Human is
to the home country people. On the other hand, I felt
such a living thing that cannot do anything if there
doubt about the ideal way of research by researchers
is no part understood that it is correct to some
from another country who use the data. When they, in
degree. This kind of impression reflected in doubts
a word, we research, how much we pay attention to
consolidated in our presentation at the last day, “How
the actually health improvement of Bangladeshi? Can
do they keep motivation?” The community workers who
we think much about the each individual in the region?
were applied in each regions did completely voluntary
They ICDDR,B has very severe applications for the
works in Community Support Systems, which JICA
researcher from another country, is it like the defense
supported the government with CARE Bangladesh and
to the home country people though? When thinking
also workers in ICDDR,B. The incentive was passed
so, I became to have feelings that wanted to assist in
to the community workers in BRAC. Either workers
their way that seemed formidable in some view.
seemed to be working brilliantly similarly. Money is
important. It might be still nature in a poor country like
Their proud of the data management qualities was
Bangladesh. However, something more than money
strongly seen in especially Matlab. It was possible
seemed to move them. Was it a kind of love to the
to think it to be appearance of the spirit that they
home country and people, desire of working only for
contributed to the public health in Bangladesh and
people which decreased to be seemed in Japan? I still
also all peopleʼs health by applying their activities to
cannot measure and understand what they think really.
other developing countries as members of international
health. During the field trip, I heard that peopleʼs
70
One of the things that I had wanted to learn at
healthy consideration had been improved by frequently
this internship was the relationship between the
home visits of Community Health Research Workers
practice and the research in Bangladesh. That was
and putting house of Community Health Service
because I have felt the doubt in Japan, especially at
Workers as Fixed clinic near the people. It seemed
that it depended on a certain kind of sense of security
When we visited to government hospitals in Safe
that residents were defended. It was felt that such
Motherhood Promotion Project supported by JICA
bonds arose by piling an honest effort of every day for
and CARE Bangladesh, I thought about the quality of
over 40 years though there would have been various
services especially in district hospital. It provided very
trial and error. “They are the hardest worker. They are
good community health support systems and I felt that
indispensable existence for the resident, and for us.”
the government also tried to improve their services.
The story of the person in charge of HDSS is recalled.
Hence, when thinking about the entire health system
I felt that it was proof that they thought about not data
in the country, what is the role of the government?
and sample but each person.
Even if very huge NGO exists and works hard, if the
I had similar feelings to all the mechanism of service
administration doesnʼt change fundamentally it is likely
of the government and other NGO in the field.
not to lead to the well-balanced development as a
As previously described, that was a mechanism
whole. There is a far-off part by the service difference
that people in the region were appointed and they
at an individual level and a regional level now, and if
undertaken services. I thought this method was the
existing systems are integrated a little more efficiently,
most effective way of empowerment in community.
it is possible to become help to the people for whom
The sense of security is few in Japan today, that
the relief is really necessary. I heard that cooperation
someone exists we can talk and consult near us. I just
with BRAC was difficult and the government tried to
felt admiration for the strategy that used the power of
intervene the left region. Off course it is important,
people in populous Bangladesh.
but for the long term, more important thing is to
make efforts to cooperate and make a better system
About the equipment of the hospital, I felt it was
because their aim is exactly same, which is to improve
better if it made efforts to clinical service compared
public health. This subject was what we held from the
with qualities of the research and data management.
start of our internship, so we could have some hope to
For instance, in Matlab hospital, the resuscitation
hear the story of advancing the knowledge translation
was possible but the trachea interpolation tube as
among each organizations for the policy strengthening
the airway management and the breath support that
in the future. I hope various information and the
was essential in the pediatric care was not available.
opinion exchange between NGO and the government
This feeling might arise because I had worked in
lead to the further development of Bangladesh in the
the hospital in Japan, and it was insufficient so that
future.
I might understand whether such kind of coexisting
was possible by the present stage for the short visit. I
Turning around like this, my thoughts having always
am interested very much how they apply their specific
in Bangladesh and keeping now were personʼs power,
management in Matlab to other regions and the entire
power to make the best of the personnel, importance
countries, advance cooperation with the government
of communication each other and importance or
and how they think about that.
the difficulties of the adjustment. In any phase,
attitude that others are regarded as well as the self
Next, I would like to describe relations of the
becomes a major premise in building the interpersonal
government and NGO. In the ministry of health
relationship. We must not forget that attitude. During
and family welfare, it was divided into the health
three weeks in Bangladesh, I recognized again my
service bureau and the family planning bureau
interest was each individual. It might be said that I
and each service overlapped and cooperation was
cannot see people as a group yet. However, on the
not taken sufficiently. Additionally, there existed
other hand, I do not want to forget this point of view to
duplicated health service provided by NGO such as
the individual. Whether my way of thinking changes or
BRAC, ICDDR,B in the same region and completely
not in the future during involving international health?
separated. I felt it was considerably inefficient and if
Does it possible that I who is others keep being able
they had close connection, residents could take more
to exist as a catalyst? Where can I put myself and
comfortable services.
establish the self with liquidity, without persistence in
71
Field Trip Report 2010
it? To begin with, is it suitable that thinking separate
self and others? This kinds of idea arose one after
another. Because of only even this, it was a significant
internship for me, I think.
Finally, I felt strong power to live in people of
Bangladesh. From where the power might arise? Now
Bangladesh is exactly on the way in development.
What will the development of the society and the
change in the life of people bring to them in the
future? How much is human happiness difficult to
define?
I might have been able to know only a small part
of Bangladesh in this short visit. I want to know a
dark partʼs existing I could not see and the desire of
various people more and more. “What is being healthy
and what is happiness for people?” I think it is very
significant that this proposition came out again in us
during this internship, which answer cannot derived
easily. In the present myself I cannot do anything
for Bangladeshi, but I hope the day will come I can
contribute in some way to them who had me think
about various kinds of meaningful ideas.
72
The Health Information System in Bangladesh
Kazuya Ogawa
Introduction
I went to Bangladesh on a field trip with Master of
Main points
Public Health (MPH) classmates from July 27th to
➢ Too many HISs exist in Bangladesh.
August 17th, 2010. We visited some government
➢ The health data the government collects is not
and NGO medical facilities, a Japan International
used to formulate policy.
Cooperation Association (JICA) project and the
➢ HIS of NGOs and private hospitals are not
Bangladesh Rural Advancement Committee (BRAC)
integrated with that of the government though
programs. Out of all I learned there, I would like to
these sectors play an important role in
focus particularly on the Health Information System
Bangladesh.
(HIS) and the Hospital Information System in
Bangladesh.
The Hospital Information System
MCHTI (Mother and Child Health Training Institute
The Health Information System in Bangladesh
is a hospital specializing in mother and child care.
The HIS in Bangladesh is very complicated. The
It is also an institution for human resource training.
Ministry of Health and Family Welfare (MOHFW) has
The health data in this hospital is basically recorded
many HISs including that of health services, family
by hand, like other government hospitals. However,
planning, the Expanded Program Immunization (EPI)
the laboratory has a computer to record and store the
program, and the tuberculosis program, among others.
data on blood tests and echo graphs. One problem I
Each HIS is completely independent. In other words,
found in this hospital is the way of filing registers. As
they are not integrated at the national government
the picture below shows, registers are piled on top of
level that is responsible for policy planning and
each other without being classified according to date.
decision-making. As a result, the health data collected
It probably leads to trouble when searching for past
by the government is not analyzed and used to
patients or prescriptions.
make policy. Health data was originally collected to
improve the health situation in Bangladesh. However,
it seems the data is collected for donors like WHO
and UNICEF. Instead, the government uses the data
collected by the Demographic Health Survey (DHS) to
make policy.
In addition, NGOs such as BRAC and private hospitals
have their own HIS, which have no connection with
the government. The number of NGOs and private
health facilities is about thirty-five thousand. This
is the same number as that of government health
facilities. In other words, NGOs and private health
hospitals play an important role in Bangladesh, even if
the HIS of these sectors are not integrated with that of
the government.
73
Field Trip Report 2010
Upazila and District Hospitals
BRACʼs birth center is a community level medical
Upazila is the lower unit under District and Division.
facility. All data is recorded by hand in notebooks
There is no electricity in Upazila hospitals. The health
or cards and submitted to a branch office at the
data is also recorded by hand there. In comparison, the
beginning of the month. There is a data manager
District hospital has electricity and a computer. They
who enters the data into a computer to make monthly
also have a data manager. The data manager collects
reports. After that, he copies it to CD-ROM and
the data recorded by hand from each department and
submits it to the upper organization. When I observed
makes monthly reports with the computer. After that,
the work the data manager did, I found he had much
the report is copied into CD-ROM and submitted to
more motivation than the government staff because
the upper levels such as Division government and
he often checked the accuracy of the data he entered
MOHFW.
into the computer. Supervision from the upper level
might be giving him such a motivation.
ICDDR, B (International Center for Diarrheal
Disease Research, Bangladesh) has two hospitals in
Dhaka and Matlab. Each hospital has an advanced
information system. These systems are completely
integrated with each other. Each department, such
as out-patient and in-patient has Personal Digital
Assistants (PDAs) called “iPAQ” made by HewlettPackard. All data is managed with iPAQ and uses no
paper like registers or record cards. The advantages of
the PDA are as follows:
➢ Doctors and Nurses can immediately enter the
data of the patients at their bedside.
➢ The data entered into the PDA is uploaded on the
spot by wireless network. That is why doctors and
nurses can easily access the latest data such as
the test results and prescriptions.
Main points
➢ Almost all data is recorded by hand in government
and NGO hospitals, except at ICDDR, B.
➢ In a government hospital, registers are stored
without arrangement or classification.
➢ The data manager of BRAC manages data more
carefully than government staff.
However, the most important thing I found in this
hospital is not the PDA but the electronic ID that is
Conclusion
given to each patient. Doctors and nurses can easily
There are two big problems in the HIS of Bangladesh.
find medical or treatment history of the patients
One problem is the existence of too many HISs in
through this ID. ICDDR, B is the only hospital that
MOHFW that have no relation with each other. The
gives patients this unique ID, among the hospitals I
other problem is the lack of integration among HIS of
visited.
the government, NGOs, and private hospitals. First of
all, the integration of HIS in MOHFW among health
service, family planning, EPI program and tuberculosis
program is needed. And then, the integration of HIS
among the government, NGOs, and private hospitals
is also needed. Complete and accurate health data
is necessary to make policy and improve the health
situation in Bangladesh.
74
The Keys to Improving Health Conditions in Bangladesh
Mayo Ono
1. Introduction
who are called Shasthya Shebika (SS), and health
Over 140 million people are living in Bangladesh
workers who are called Shasthya Kormi (SK). This
whose land area is around 40% of Japan’s. The
helps to provide health services for poor people. In
population is concentrated in the urban areas,
addition, it gives SS and SK money as incentives and
especially in Dhaka, where there are so many
they live on this money.
automobiles, three-wheeled cycles like Japanese
rickshaw on the streets, and many shops on the
Research Workers(CHRW) and Community Health
sidewalks. I saw street children, women, and old
Service Workers(CHSW). They do research and also
people begging. However, most of the people work
provide consultation for people on family planning as
very hard and I saw a lot of energy and desire from
health service providers. I also observed the referral
them for a better future. Because of this tremendous
system from primary health care to tertiary medical
energy and desire, I understand that Bangladesh is
care such as clinics near the community, sub-center
one of the Next 11 countries following Brazil, Russia,
clinics, Matlab Hospital and other tertiary hospitals.
India, and China (BRICs).
For Emergency Obstetric Care (EmOC), they use
Through this field trip, I saw the ways of
rickshaw as ambulances. I found they made good
Government, NGOs, international institutions, and the
use of the resources at hand. Moreover, there is the
bilateral aid of Japan to enhance health conditions. I
Kangaroo Care Ward at Matlab Hospital. The way
also heard the different opinions of people who work in
mothers held their babies to their chest for 24 hours
the health sector. I saw clear challenges for the future
increased the survival rate of low birth-weight infants
in my education, especially about Maternal, Neonatal,
from 6.5% to 10~14%. This practice is very useful in
and Child Health.
developing countries which lack medical equipment
Next, in Matlab, ICDDR,B hires Community Health
such as infant warmers and the human resources to
2. About Maternal, Neonatal, and Child Health
maintain them.
In Bangladesh, both the Maternal Mortality
In Narsingdi, a project of the Ministry of Health
Rate (MMR) and the Infant Mortality Rate (IMR) are
and Family Welfare (MOHFW), supported by Japan
declining year by year, but they remain high compared
International Cooperation Agency (JICA), there is a
to other countries. MMR is 351 (per 100,000 live
keen interest in maternal health issues. We observed
births) and IME is 43 (per 1,000 live births) in 2007.
a Community Support System (CmSS) activity and
The MMR and the proportion of women who receive
understood how it does a lot to deal with the three
skilled assistance during delivery have not yet
delays: the delay for seeking care, the delay for
improved based on the Millennium Development Goals
reaching health care, and the delay for receiving
(MDGs). The Government, NGOs and international
appropriate care. Community Support System (CmSS)
institutions are trying to solve this situation.
is a mechanism of establishing a support system in
One of the things that impressed me is that the
the community through the active participation and
Bangladesh Rural Advancement Committee (BRAC)
collaboration of the community itself. It provides the
and the International Centre for Diarrhoeal Disease
necessary logistic support, such as arrangement of
Research, Bangladesh (ICDDR,B) have original
transport, blood donors, cash and others, to the poor
training systems. They train health workers in their
pregnant women during obstetric complications. The
own way. BRAC trains community health volunteers
CmSS group members are volunteers who are not
75
Field Trip Report 2010
given any form of monetary support; on the contrary,
under the BRAC, CHRW/CHSW under the ICDDR,B,
they even pay a monthly membership fee. What
the HA /FWA under the Government, there are also
motivates them is the respect of their neighbors and
village doctors and laboratory technicians, all of
their desire to prevent a repeat of unfortunate deaths.
whom do not have licenses. One of the key points of
success that is improving medical health indicators in
76
3. Collaboration between the Government and NGOs,
Bangladesh is an experiment which increased health
International Institutions
service providers in a short time. This experiment
The TB Program and the Expanded Program on
provided health services at the grass-roots level.
Immunization (EPI) are examples of the Government
However, if the technical competence of health
working in collaboration with NGOs (BRAC) or
service providers is to be improved to world standards,
international institutions (ICCDR,B). In the TB
or if health service providers from several institutions
Program, the Government supplies drugs and BRAC
must be integrated, how will this country manage it?
provides human resources. For instance, SS who
BRAC have trained identify tuberculosis patients. They
health sector. NGOs or international institutions
provide them with Directly Observed Therapy Short-
take its role as substitutes and they contribute well
course (DOTS) at the SS’s home every morning after
to the health sector. But without these institutions,
diagnosis. CHSW who ICCDR,B hired conduct EPI at
the health system will not work. In addition, SS/SK
their own home once a week. In addition, the CHSW
under the BRAC receive money for their work. These
have some drugs, materials for family planning, and
have obviously become occupations. If they are
disposable delivery kits at hand. It makes access easy
required to have licenses to provide a stable quality
for people in the community.
of health service, or if BRAC is in financial difficulties
Next, the Safe Motherhood Promotion Project
in the future, they might lose their jobs. BRAC was
(SMPP), supported by JICA strengthens both
established in 1972. It has supported 70,000 villages
horizontal and vertical cooperation at a central level,
and 2,000 slums and has given services to three-
a district level, and an Upazila level with committees
quarters of the population. BRAC has had significant
at each level. This system gives policy-makers some
achievements in this field for a long time. On the other
feedback of the project’s findings. At the community
hand, I am afraid that the government cannot deal with
level, local people and administration officers become
health services without BRAC. It is too dependent on
close. As a result, the local people can demand help
BRAC. How Bangladesh solves this situation is a key
from them.
to its full development.
4. Potential Problems and Prospects
5. Conclusion
The Ministry of Health and Family Welfare
The government is not pulling its weight in the
In this field trip, I learned how several
(MOHFW), which operates not only on the central
organizations collaborate and their problems and
level, but also at the community level, is divided
prospects especially in Maternal, Neonatal, and
into two sections: the Directorate General of Health
Child health. I observed successful projects, and
Services (DGHS) and the Directorate General of
understood how they are efficiently organized.
Family Planning (DGFP). The health system has
However, this country has problems which I did not
problems with budget and management. For instance,
foresee. I imagined that there were some difficulties
personnel expenditure doubles because of two similar
about intervention in medical health because of Islam,
posts, one of which is not necessary. In addition, the
whereas I hardly heard about relative religion problems
tasks of the Health Assistant (HA) under the DGHS
as most projects were conducted effectively. I doubt
and the Family Welfare Assistant (FWA) under the
that the places I visited are particularly excellent about
DGFP are quite similar resulting in disorder at the
providing health care. There might be more miserable
local level.
places which cannot be reached by aid. When I went
The next problem is human resource. Besides
to Matlab, I immediately thought that the standard of
having several health service providers, such as SS
living there was higher than others in the area while
looking through the car window. Moreover, we could
not forget that we only visited Dhaka and surrounding
districts which are easy to access by car. It is difficult
to know the real situation in isolated areas; but, it
would be more difficult to provide the people there
with the same quality of health services.
As for international cooperation, I was a third
party, being a foreigner, and had to deal with
complications such as the language barrier and the
communication barrier in which people do not disclose
their real intentions. I have to break these barriers
to improve the present situation. I realized I only
saw part of Bangladesh in this trip, but this is quite
important for my future work as an international health
practitioner.
Furthermore, I learned Maternal and Child Health,
Tropical Medicine, and Cultural-Medical Anthropology
and others in the first semester. I observed the real
situation in a developing country armed with these
learnings. As a result, I also realized what I lacked in
knowledge and skills. Now I can consider how I can
learn more and better. I will continue giving serious
consideration to all that I have seen and learned.
77
Field Trip Report 2010
At the Starting Point of Public Health in the Field
Chiharu Kamimura
1.Introduction
to the staff of ICDDR,B or BRAC, I could tell that
This field trip to Bangladesh was my first visit to a
they had confidence and hope for their modernized
developing country. Women whose dresses covered
system management, facilities, and the improvement
whole body and men, walked hand in hand, everything
of biomedicine. According to them, people are happy
I saw was different. Some people were enjoying
as they can easily get up-to-date treatment at the new
shopping at the neat shopping center while others
facilities.
were begging for money outside. Seeing both the
However, I also felt there was something strange
very rich and the very poor living in the same city, I
seeing that surveys were conducted, via PDA at
wondered about the medical situation and how people
a place where there was no sufficient safe water
treat sickness in this country.
or electricity. On the other hand, as I asked about
During those three weeks, we visited some
customs and traditional medicine, they said very little
organizations such as BRAC, ICDDR,B and JICA, and
about it They said that only a few people seemed to
saw the facilities and sites where they carried out their
be using traditional treatments, and depending on
projects. They were making efforts for people to live
the traditional healer. Most people depend on the
more comfortably. I learned that each organization
biomedicine.
has largely contributed to promote sanitary conditions,
I was confused by the gap between the spread of
the health indexes, and the economy of Bangladesh
biomedicine and the existence of traditional medicine.
through their own activities, and the expansion of
I had expected that there would still be many people
biomedicine has enabled more efficient and safer
who depend on traditional medicine, and that I would
delivery and treatments for diseases. Many lives
be able to hear about it more at ICDDR,B and BRAC.
have been saved as a result. First, I will discuss the
Health development by introducing new technology
relationship between modernization and the traditional
is the normal trend. Even though technology leads to
customs in Bangladesh. Secondly I will narrate the
the loss of tradition, if they bring happiness to people,
challenges I faced during those three weeks. Lastly, I
it cannot be denied. Yet, it is clear that people in
will give my impressions about the whole field trip.
Bangladesh still hold on to tradition. At the hospitals or
villages where we visited, I saw many young children
2. Modernization and tradition in Bangladesh
who had a black spot on the left side of the forehead
a.Expansion of biomedicine and existence of
or who had a charm to protect them from evil. I was
traditional medicine
In Bangladesh, I often heard that they had been
endeavoring to achieve “Digital Bangladesh”. Indeed,
78
told that these are old practices. Because of this, I
expected that people still observe some traditional
treatments for sickness.
ICDDR,B has been promoting the use of PDA.for
I was fortunate to talk to a woman who was a
example, at the hospital in Dhaka, all nurses had their
JOCV, because she had visited villages and people
own PDA where they entered the patients’ data, In
there. When I asked her about customs or traditional
Matlab, a community health worker who conducted
medicine in Bangladesh, she told me things which
household survey entered the results into it. I did not
were different from what I had heard before. She
know what a PDA was before that but now I know it is
said that she sometimes felt that traditional customs,
the latest terminal for data management. I realized how
special treatments for pregnant women or sick people
quickly modernization had been expanding. Listening
in villages was still practiced. Particularly, in the rural
areas, there are people who believe that sickness
anything they want at the session. At the site where
is given by God and that it cannot be helped. Such
the session was held, a pregnant woman and her
people would not take a sick person to a hospital.
family, including her mother, her husband, and her
Instead, they will try to treat the patient by themselves.
parents-in-law attended. They all sat in a circle. Many
Then papaya for diarrhea seems to be one of the old
elderly people believe in old customs which may
methods widely-believed by the people of Bangladesh.
have bad effects on a pregnant woman. For example,
She also said that information about biomedicine had
some elderly people believe that eating a lot is not
been widely spread even in small villages, and people
good for pregnant women, and some pregnant women
had welcomed it.
who follow become malnourished. In an environment
The places we visited were all project sites so
where family members can talk freely, some members
people tended to depend on biomedicine. However, if
who understand what they have learned through
I saw the whole of Bangladesh, I would see different
health education have a chance to talk about how to
ways of thinking towards sickness and different
avoid sickness without using old but harmful practices.
treatments for them. In the areas biomedicine has not
The teacher does not reject the tradition outright.
reached, people might tend to depend on traditional
but through talks among family members, significant
ways of treatment.
behavior change is brought about..
b.Relationship between spread of biomedicine and
3.Challenges
tradition
a.Equity of Help
Many staff at ICDDR,B or BRAC focused on
I realized how difficult it is to distribute services
biomedicine but they look to tradition as old and
to all people who need help by visiting them or by
meaningless, I was concerned about this point of view.
learning about various projects. For instance, even
People’s identity is shaped by their tradition.
though a project apparently succeeded in one village,
But, if traditional treatments are not set aside to
there were also people who failed to receive the
give way to modernization, and biomedicine is
services there. In another variations, where, a sanitary
regarded as superior, there might be bad effects on
facility such as toilets had been built and kept clean
people’s mental condition, such as loss of identity.
by an organization, unsanitary materials which are out
It is obvious that many lives have been saved by
of their control were left next to that sanitary facility.
progress of biomedicine. But I think it is important
While I knew that equity was important when
to consider traditional treatment. Biomedicine and
projects were carried out, I again realized that to
traditional treatments can co-exist; they are not
achieve it is never easy. Though some organizations
always incompatible. If traditional treatment is not
try to distribute services equally, to cover all areas is
harmful to people’s health, it can be used even with
really difficult. As a result, the gaps in poverty level
the knowledge of biomedicine. Traditional treatments
even among poor people become wider. Then I started
which are harmful to people’s health are unacceptable
thinking what the real meaningful activity what the
from the biomedical standpoint. However, even such
people really need.
harmful treatments cannot be denied completely
This will be a lasting challenge to work on
because of their importance as tradition. In that case,
especially when I get involved in this kind of project in
health education which makes people understand
the future.
their health is needed. Through the education, people
understand what is good for health, then, new ways
should be introduced.
b.Challenges related to questions
A problem I faced during this field trip was that
Related to this, it was useful to see the Birth
I could not obtain the information I wanted to know.
Planning Session by JICA. Birth Planning Session is
For example, as I tried to ask something from the
one of the education programs about pregnancy and
people living in the village through the staff who spoke
delivery. It is not only for pregnant women but also
English, I could not make them understand what I
for her family members. All attendants can express
really wanted to ask. Or even though they understood
79
Field Trip Report 2010
my questions, the answer contained a lot of their
4.Conclusion
personal opinions and not the real voice of the people
The places we visited during this field trip had all
in the field. There were people who were living in
received aid, and where projects had succeeded. I did
the real field in front of me, but I often failed to know
not have opportunities to learn about places which did
what they really think. It was disappointing. I felt the
not receive aid or where projects failed. To go to such
importance of language which is spoken in the field so
areas in a school trip may be difficult, but if I were
I will do research based on this experience.
able to, I would find another issue to think about.
I also realized I have to consider how to ask
Because I had not had any experiences in other
questions. When I tried to ask doctors at hospitals
developing countries or medical fields in Japan, I
or staff who regularly observed the villages about
could not compare the situation of Bangladesh with
traditional treatments in Bangladesh, I usually failed
other countries’ medical situations. While other
to get enough information. They seemed to regard
students were moved by the developed management
the word “traditional” as something out of date, and
system or medical facilities of Bangladesh, because
wanted to think that such an old thing does not exist
they had visited another developing country before, I
anymore. On the other hand, when I paraphrased the
was often just looking at them. However, visiting and
word and used phrases such as “the way grandmother
observing various kinds of organizations and seeing
or mother have done at home”, they often thought
their activities, I found problems and questions that I
more and answered well.
had not been conscious of. To find the way to resolve
Through this experience, I learned it is necessary
the problems is too difficult for me up to now, but at
to consider what words I should use when I have
least I found clues to vague issues in those three
questions about sensitive issues
weeks. What I have seen and heard in Bangladesh will
have to be the bases of new findings when I go to the
field study next year.
80
My Learning and Experience in Bangladesh
Eriko Sasaki
We arrived at Dhaka Airport at midnight Japan
time via Singapore. One foot out the quiet airport and
per year in the past 15 years. Bangladesh is an
energetic country.
the equatorial heat hit me. Cars run at a breakneck
・・There is a difference between men and women with
speed; motorbikes, which take on three people,
regard to elementary education because of Islam,
overtake cars; and I smell locality-specific odor. This is
the main religion. However, this is slowly being
my second visit to a developing country, after Malawi.
resolved.
What is Bangladesh like? What will I learn during this
three-week field internship? I was full of wonder.
・・There is no industry, so income is mainly from
nationals working overseas. The government needs
This field internship centered mainly on Maternal
to take care of those who work outside the country.
and Child Health. The schedule was hectic. However,
・・Development is over-concentrated in the capital
I had such productive days. My personal aim was to
city, Dhaka. Development is low outside Dhaka.
understand the health system in Bangladesh. In this
Life expectancy in Bangladesh is 63, almost
report, I will discuss mainly my learnings about their
the same as India and Pakistan. Infant mortality
health system which I approached with much curiosity.
rate is 52, better than India and Pakistan, but less
I will also talk about how I would take advantage
than Nepal. However, the problem is the percentage
of this internship for the coming latter half of the
of live births under skilled birth attendants, which
academic year, and my work in this field in the future.
is 20%. This is extremely low. Health expenditure
per capita is at bottom compared with neighboring
I made a study prior to the internship, especially
countries. Furthermore, non-communicable diseases
on how Bangladesh is like and their health system.
have increased recently. MDG4, the reduction of
Fortunately, I got a lot of information on the spot:
infant mortality rate, may be achieved. However,
MDG5, the reduction of maternal mortality rate, may
・・It has a two-party system and quinquennial
elections.
・・Corruption or political decay is a big problem.
be impossible. The rate of birth under skilled birth
attendants is difficult to improve.
Because of this situation, the Health, Nutrition,
・・It is a high-risk area from natural disasters. Flood,
and Population Sector Program (HNPSP:2003-2011)
cyclone, cholera and dysentery outbreaks occur
was worked out as sector-wide approaches (SWAPs)
frequently.
between the government and donors. The effort is
・・In winter, they need a lot of electric power,
underway to improve the index of MDGs. However,
especially in rural areas, to supply water to rice
in the Ministry of Health and Family Welfare
fields. However, preparation of infrastructure is
(MOHFW), one of the 37 ministries, there are two
delayed.
big department, the Directorate General of Health
・・It lacks of natural resources. Natural gas, the only
Service (DGHS) and the Directorate General of Family
an abundant resource, is under development work.
Planning (DGFP).They do policy-making and supply
・・Population density is the highest in the world,
services separately. The government has a vertical
except in city-states.
・・There are management problems related to
Myanmar refugees.
・・ Economic growth has been increasing five percent
administrative structure. In the district level, hospitals
under DGHS and Maternal and Child Welfare Centers
(MCWC) under DGFP are doing the same thing.
Furthermore, in the community level, Health Assistants
81
Field Trip Report 2010
(HA) under DGHS provide vaccination. On the other
the government changes. This will strengthen
hand, Family Welfare Centers(FWC)and Family
horizontal cooperation among NGOs and international
Welfare Assistants(FWA) under DGFP provide family
organizations, and help train and distribute human
planning(FP) and Maternal and Child Health(MCH)
resources effectively.
services. Because of that, the vertical program, such
82
as Expanded Program on Immunization (EPI) and
BRAC was established in 1972. It is the biggest
FP is not a problem under the government’s vertical
NGO in the world right now. It promotes all kinds of
administrative structure. However, obstetric care,
long-term and continuous programs not only in the
which must be comprehensive, is ineffective. In terms
health sector but also in business and education. They
of using already-scarce human resources effectively,
promote microfinance, agriculture, and community
the lack of cooperation between DGHS and DGFP
health care in Africa, Afghanistan, Pakistan, Sri Lanka,
does not help.
Haiti, etc. I can say that BRAC’s management skill is
I think the government and NGOs in the health
great. They produce 80% of capital on their own. For
sector should have more cooperation. The Bangladesh
example, they run retail shops for the wealthy, selling
Rural Advancement Committee (BRAC) which we
commercial butter and milk. The money they earn is
visited is the biggest NGO in the world. It has its own
used for empowerment of the poor. It is an important
system of human resource development. For instance,
income source for BRAC. However, what concerns
the Shasthya Shebika (SS), who is a community
me is how many people who buy BRAC’s products are
health volunteer, and a technician for Tuberculosis
aware of their own country’s poverty. I think that one
(Tb). However, the government also has its own
of the NGO’s aims should be advocacy for citizens.
human resource development system. Isn’t it possible
BRAC’s methods of community empowerment are
to make use of their human resources effectively by
undoubtedly great. However, Ekmattra, which is a
strengthening their cooperation?
small NGO, has principles such as helping improve
In the Tb program which works through the
children’s lives and simultaneously, helping the
cooperation between the government and BRAC,
wealthy class be aware of the problem. They involve
succeeded in all measures such as detection rate,
many citizens as much as possible. They hope that
success rate, and coverage of Directly observed
the children they helped will come back and take
Treatment, Short course (DOTS). Likewise, in EPI,
over Ekmattra in the future. When I compare BRAC
there was cooperation between the government and
with Ekmattra, I feel that BRAC somehow does things
International Center for Diarrhoeal Disease Research,
mechanically because it is a huge organization.
Bangladesh (ICDDR,B). These are vertical programs
SS is a human resource who is a woman village
which mean it is possible to succeed under the
volunteer. They undergo a short training course. They
government’s vertical administrative structure. On
sell medicine and promote FP from which they get
the other hand, the reduction of Maternal Mortality
cash incentives. Those human resources are assigned
Rate (MMR) is still difficult. It gives evidence of
to the boundaries of the villages in Bangladesh. It
the disadvantage of the government’s vertical
is also linked with women’s empowerment. It is a
administrative structure because the three delays
dependable resource. However, a SS will remain
according to Maternal and Child death is related to
a SS. I could not find any information about their
social, economic, and cultural causes, access issue,
promotion. I think promotion is one of the things
and quality of medication.
needed to improve motivation continuously in addition
It is said that the integration of DGHS and DGFP
to financial incentives. For sustainable development,
is difficult. There is nothing good to be said about
would it not be good for them to look for this kind of
those who work there. They have a history of failure
human resource more, then increase the number and
to integrate. However, in the past few years, it has
cover all villages? On the other hand, wouldn’t it be
become clear that health system strengthening is
good for them to train human resources who have an
needed to achieve MDGs. The government should
educational background systematically? I am not sure
establish a system which will be stable even if
which is better. I know they can’t afford to help the
poor right now if they only think about sustainability.
The SS fully show their ability, but they need a
I learned many other things. For instance, in
comprehensive training. This internship prompted me
ICDDR,B, they administered their data with a Personal
to think about what a NGO is.
Data Assistant (PDA) in hospitals and villages. In
addition, they imported the latest technology and many
I would like to mention JICA’s Safe Motherhood
electronic journals in their library. It was as if I came
Promotion Project (SMPP) for community support.
to visit a modern center. They are ahead of the times
JICA tackles the improvement of Emergency Obstetric
through the use of updated technology. On the other
Care (EmOC) service and the promotion of community
hand, there was a syringe on the floor in the hospital
support with international NGO, CARE in Narsingdi.
filled with patients. I felt that the basic things were
The aim is Maternal and Child Health improvement.
still not alright. One aspect stands out while another is
JICA introduced Community Support System (CmSS)
inadequate. The Bangladesh government has the goal
as a tool for promotion of community support.
of being “Digital Bangladesh”, but the time might not
Traditional Birth Attendant (TBA), doctor, religious
be ripe due to the delay in improving electric power
leader, among others, are chosen from a community to
infrastructure.
protect pregnant women. Then, they have a meeting
and discuss many things such as
I was introduced to a woman who started
・・The number of pregnant women in the community
receiving support from BRAC one month before in
・・How many women have given birth
a microfinance project site. This is called Specially
・・The explanation of danger signs to pregnant women
Targeted Ultra Poor (STUP) program. The poor receive
・・Ensure Rickshaw transport for emergency situations
175 taka monthly for two years and they do not have
・・Birth schedule of the following month
to pay it back. It is the first step for microfinance. The
・・Confirm blood type in advance
woman was also given one cow and two goats at first.
・・Home visits
She was dignified and said, “I have confidence to finish
They make a map as a visual aid so they can
this program, and now I will think what to do next
identify where pregnant women live. They also save
after this.” I had imagined that those who were ultra
money for emergencies. I was surprised that JICA’
poor lived together in the same place. However, they
s support had pin-point precision. I understood it
disappear among the residents who are not ultra poor
because JICA adopted the idea of Human Security.
and do not attract attention. I hope that these poor
I felt that JICA took care of people individually. JICA
people get economic assistance through STUP, and
was different from BRAC. Their CmSS members do
switch to microfinance smoothly. In addition, I hope
not receive financial incentives. Instead, they pay
that the advancement of women will be connected
for the community. But they are able to sustain their
with sustainable development in Bangladesh.
motivation because they are focusing on the problem
In Matlab, I got information about verbal autopsy.
of MMR through their meetings. They are motivated
The cause of death of those who died at home due
by the residents’ positive reaction and gratitude. JICA
to lack of access to a hospital can be ascertained
explained that CmSS should have a leader to run it
through oral questionnaire. Health personnel are not
well like the model case we visited. However, in does
included in the questionnaire to avoid bias because
not mean that all CmSS succeed. JICA ranks them
they could assume they know the cause already. The
and assigns the model CmSS to a learning site. Then
main causes of death are heart attack, stroke, Chronic
JICA tries to improve the motivation of both learners
Obstructive Pulmonary Disease (COPD), cancer, and
and teachers.
drowning among children. Verbal autopsy was the term
It was meaningful to compare both organizations’
which I heard first in the previous semester. This time,
methods of community support and see their
I learned the actual condition of how to clarify the
characteristics. I would like to share all their good
cause of death through this method in a developing
methods when I work in the field of international
country.
health.
83
Field Trip Report 2010
Those three weeks in which I learned many things
background. I was more motivated to work like those
passed so quickly. This type of field internship was
people in the future. And unlike Malawi, where
a first for me. I was not confident in working within
Christianity is widespread, Bangladesh is an Islamic
a group, so I would be lying if I say I had no anxiety.
country. This experience made me think of culture
However, we carried out a recap meeting every
and religion more deeply. I think the experience of
evening, so I was able to learn sufficiently through
the influence of culture and religion will be involved
sharing. This internship was a good opportunity
in my future as I work in the international field with
not only for studying MCH and health systems but
a wholistic viewpoint. This internship will be the
also for understanding spoken English and knowing
foundation of the second semester. I believe what I
more about the dignity of working with people and
learned in this internship will be beneficial to my future
sharing knowledge. I realized that individual struggle
work.
is necessary, but there are times when relying on
Finally, I would like to thank to Ms. Miyachi, all
somebody or teaching others is also needed. I heard
the other people involved, and my classmates, for
many terms which I encountered in the first semester,
making this field internship fruitful.
so I had first-hand confirmation of my learning. I also
met some people who have the same academic
84
Potential Role of Community
Health Workers in Bangladesh
Reiko Zushi
1. Preface
I learned from this field trip is the community health
Bangladesh is often referred to as “the fastest growing
workersʼ activities.
least developed country”. Development assistance
from the international community and the recent
2. Various approaches in the community health system
apparel business expansion have brought Bangladesh
Some projects have two things in common: (1)
rapid economic growth. The international market
Community health workers make house visits in their
expects Bangladesh to be one of the Next Eleven,
communities, and (2) Community members can have
which are identified by Goldman Sachs as having
access to health services in the village through the
a high potential of becoming the worldʼs largest
community health workersʼ visit. Access to health
economies in the 21st century along with the BRICs.
systems means that they can gain health education
and utilize health services. Three examples are shown
The three-week field trip in Bangladesh gave me
here.
opportunities to observe health projects carried out
by various entities, such as NGOs, a development
1) Bangladesh Rural Advanced Committee (BRAC)
assistance agency, and a research institute.
Manoshi : Maternal, Neonatal, and Child Health
Bangladesh has pushed forward to achieve the
Initiative
Millennium Development Goals (MDGs). Goal 5:
BRAC, the worldʼs largest non-governmental
Improve Maternal Health is the top priority among
development organization, implements the Manoshi
the health and medical service projects. Below is
project in the urban slums of Dhaka. The project runs
the Maternal Mortality Ratio (MMR) per 100,000 live
five delivery centers in the slums.
births, the indicator of MDG 5. While the target is
still far from being reached, the situation has been
Shasthya Shebika (SS), a health volunteer, is a key
improving through more than three decades of effort
person in this project. They make house visits in their
by various institutions which will surely lead to a
communities. If they find a pregnant woman, they
reduction in the MMR.
report her to a Shasthya Kormi (SK), a paid health
worker and supervisor, and then this report goes to
Indicator
5.1: Maternal
Mortality Ratio
(per 100,000 live births)
Base
Year
1991
Current
Status
2007
Est_
2015
Target
2015
574
(1990)
351
317
144
(Source: UNDP Bangladesh)
The development is attributed to community activities,
that is, a bottom-up approach from the community
level. Community health workers play an important role
in mediating between community members and the
health system. They encourage the residents to use
the health services whenever they are needed. What
birth attendants. In this system, SS makes home visits,
identifies pregnant women, sell essential medicines,
and assists during delivery. Through these, the SS
earns money incentives which allow them to continue
as volunteers.
2) International Centre for Diarrhoeal Disease
Research, Bangladesh (ICDDR,B) Matlab Health
Research Centre
ICDDR,B has done research for over 40 years in
Matlab. There are two types of paid community health
workers in the research areas: Community Health
Research Worker (CHRW) as data collector and
85
Field Trip Report 2010
Community Health Service Worker (CHSW) as service
illustrated flipchart.
provider.
Thus, CmSS members work in their community in
CHRWs make house visits once every two months and
order to prevent vulnerable pregnant women form
collect data about reproductive and child health by
exclusion from the health system. They are highly-
using questionnaires. CHRWʼs visit also contributes to
motivated and see maternal mortality problem as a
raising awareness of community members about health
community issue and not an individual issue. One of
services available to them. A young housewife said, “I
the members said, “We wanted to do something for the
had not known about family planning and health care
community members.” Another member said, “Pregnant
before CHRW came, but now I do.” CHRWs have a
women live in our community. They are not outsiders.”
peer meeting every other week and share information
to improve their skills.
3. Health workers and social capital
I would like to consider health workersʼ activities
CHSWs offer basic primary health care to pregnant
from the point of view of social capital that is my
women, mothers, and children under age five.
research concern. Social capital consists of elements
They open their house as a fixed site clinic once a
such as trust, norms of reciprocity, network of civic
week. For example, they implement immunization
engagement, and so on. It is classified as (1) bonding
in cooperation with the government. They go to the
social capital: it promotes cooperative behavior in the
communities to provide consultation for pregnant
community or organization, and (2) bridging social
women and engage in educational activities on
capital: it makes vertical and horizontal networks
health in the other four days of week. As a result,
between community/organization and relevant
the percentage of deliveries at facilities increased
authorities (Japan International Cooperation Agency
from 16% to 80%. It shows that changes in pregnant
2002).
womenʼs attitudes had occurred.
Periodic community visits by health workers build trust
3) Japan International Cooperation Agency (JICA)
Safe Motherhood Promotion Project
and a network as in the three projects above. It is
essential for the same worker to continue visiting the
This project promotes utilization of health service by
same community. For instance, the CHRW I observed
organizing Community Support System (CmSS). It is a
has over 20 years of experience. It is assumed that
community member-centered system which introduced
community members have developed a positive
the mutual aid system. CmSS has a committee which
consciousness because of the repetition of the same
is composed of government staff, businessmen, a
question about health issues by the same worker. A
religious leader, Traditional Birth Attendants, and
housewife feels that the CHRW takes care of her.
housewives, among others. CmSS has two features:
Thus, they can build a personal relationship.
(1) a community resource person participates in the
activity, (2) it emphasizes the relationship between the
Trust and information bring about changes in
community and the local government. CmSS members
individual attitudes. If community members share
have a meeting once a month and make a map that
these attitudes, they could collaborate. It is a bonding
shows where pregnant women live in the community.
social capital. The family is the smallest unit in
They pay participation fees when they attend the
creating social capital. CmSS members have a
meeting although they are unpaid volunteers. These
session for a pregnant woman and her family so that
fees go to a fund for pregnant women who need
they could share a common understanding of safe
financial support for their delivery.
pregnancy and delivery. The underlying reason for
MMR in Bangladesh are the “Three Delays.” The first
86
A CmSS member visits a pregnant womanʼs house
delay occurs at the community level when a decision
for a birth planning session with her and her family.
has to be made to seek appropriate medical help
She facilitates a session on safe delivery using an
for an obstetric emergency. In Muslim countries like
Bangladesh, a married woman has no right to make
volunteers, differ from one project to another such as
that decision. She needs permission from her mother-
monetary incentives and strong motivation. There can
in-law and/or her husband when they want to go to the
be no definite answer to the best way to keep them
hospital during emergency situations. Therefore, the
as volunteers who will continue doing their activities,
birth planning session with the family has enormous
so it would be better to choose an appropriate way
significance in understanding the situation of pregnant
depending on the project. Nevertheless, I think
women. The family can make quick and appropriate
that new approaches are needed to support the
decisions to support the pregnant woman once they
improvement of volunteersʼ skill which will motivate
are properly educated.
them more. They will then contribute to ensure
the continuity of projects and their own work. New
CmSS has both dimensions of social capital: bonding
approaches would include the following: enhanced
social capital and bridging social capital. The
horizontal networks among health volunteers like a
beginning of a network is a shared understanding
CHRWʼs meeting and opportunities for retraining.
that pregnant women can die in the community if not
These challenges also create social capital which is
properly cared for. Community members are motivated
helpful in conducting projects.
to work on this issue and later they can be proud of
what they have done for pregnant women. They can
5. Conclusion
continue doing their job with this motivation. These
I could see massive potential in health workers/
concerns keep their network intact. In addition, JICA
volunteers as mediators between community members
emphasized the network with local government, so
and community health systems. I will heighten my
a health assistant from the Department of Health
awareness of the issue and keep thinking about
Service of the Ministry of Health and Family Welfare
it during next yearʼs internship and research. As a
joins CmSS. In short, the linkage between community
consequence of these experiences, I would like to
members and local government mediated by CmSS
work as a practitioner and someday repay everyone
provide the opportunity for community members to
who supported me during the field trip.
have access to health care service.
References:
4. Impressions
UNDP Bangladesh Development Goals: Bangladesh
This was my third visit to Bangladesh. I was really
Progress Report 2008
surprised with the highly-motivated people compared
http://www.undp.org.bd/mdgs/goals/goal%205.pdf
to nine years ago. I also realized that Bangladesh is
JICA 2002 Social Capital and International
enjoying remarkable economic growth. There is no
development (in Japanese) p21
doubt that long-term effort was needed to change
the community membersʼ awareness. In difficult
economic conditions, people normally worry only
about themselves. However, they now work not
only for themselves but also for other people and
their community. The independent-minded stance of
developing countries made me happy and I thought I
would draw on CmSSʼs experience when I engage in
health projects as a practitioner in the future.
I had a renewed sense of the importance of community
health workers through the observation of the projects
we visited. On the other hand, I found that the
continuity of the projects is a challenge. Mechanisms
of the continuity of health workers, especially
87
Field Trip Report 2010
The Importance of a Multi-dimensional View through
a Critical Observation of the Field in Bangladesh
Rie Takahashi
1. Introduction
government and NGOs.
Though Bangladesh is a country which is ranked
as a Low Developed Country (LDC), its recent
economic development is remarkable. Since 1996,
2.Different approaches to motivate people working in
the field
it has kept a continuous annual economic growth
It is not easy to raise and maintain the motivation
rate of 5-6%. As evidence, UNIQLO, one of the
of the people who are working in the field. However,
biggest clothing companies in Japan, recently tied
they are the key to effective intervention. I found the
up with Grameen Bank in Bangladesh, establishing
different motivational approaches by BRAC and JICA
a new company called “UNIQLO Social Business
very interesting. BRAC gives incentives to volunteer
Bangladesh”. In addition, many other Japanese
staff (called Shasthya Shebika) who are working with
companies looking for a cheap labor force have been
local people. On the other hand, JICA established
constructing factories and investing in Bangladesh.
Community Support System (CmSS) but does not offer
Aside from economic improvement, some health
incentives to their volunteers. In fact, the volunteers
indicators have also improved. For example, the under-
pay a membership fee. The two approaches have both
five-years-old mortality rate per 1,000 live births which
merits and demerits.
was 149 in 1990, declined to 43 in 2008. At this
rate, it will hit the MDGs’ target soon. Moreover, life
Giving incentives to Shasthya Shebika improves
expectancy has increased by 12 years from 1998 to
their lives and encourages an active attitude as a
2008. But in Bangladesh, these improvements were
service provider for pregnant mother detection and
not accomplished by the government. They were
delivery support rate. It was impressive to see a
mostly owed to BRAC, one of the biggest NGOs in
Shasthya Shebika’s daughter growing better than the
the world, which distributes health services to the
other children in the slum. By contrast, the volunteer
people at the bottom of society. Thanks to BRAC,
staff may only work for money making its sustainability
Bangladesh is often considered as a model country for
doubtful if the incentives come from programme-based
development.
funds.
In the JICA approach, in which volunteers are
However, during this three-week field trip, I saw
not given incentives, the participants’ motivation to
some realities at various levels of different projects
consider problems as their own is very high. However,
that cannot easily be called a model for development.
if no one can take a leadership position, the group
BRAC, JICA, Ministry of Health and Family Welfare
might easily fall apart.
(MOHFW), all have the same goals (MDGs) and their
It is impossible to decide which approach is
main focus is health, but the methods of intervention,
better, but it is clear that the decision must be based
problem-solving, and communication with other
on several different factors: time and place, project
institutions are different. Of course, there were a lot
duration, and the availability of funds.
of things I learned from each project model case,
but I would like to emphasize three things where
88
3.Vertical Programme
I found contradictions. These are the merits and
In the first semester, we studied the shift from the
demerits of incentives, the problems regarding vertical
vertical approach to the comprehensive approach.
programmes, and the lack of coordination between
Actually, we saw some vertical programme obstacles
in Bangladesh.
in next year’s field research, translation will be a big
For example, after a highway was constructed
challenge. From now on, I will think about translation
in Norsindi, the access to hospitals became better.
more carefully in order to get accurate information
However, car accidents in the area have increased.
when I have to conduct my research.
What we should consider here is not only the positive
aspects such as saving people from referral delay, but
6.Things I want to apply in the future
also the negative aspects like increased risk of injury
Whenever we observed a project, I always thought
or death due to car accidents. What was missing
about what I could do as a specialist or as NGO staff
was the comprehensive approach to minimizing the
intervening in the field. There were days I could not
negative influence on people by enforcing traffic rules
find my own standpoint because of the independent
and disseminating traffic education at the same time.
nature of institutions, the language barrier, and the
Health is a complex phenomenon composed of
local people’s self-reliance. On those days, I found
intertwining factors, thus the vertical programme has
that I had to ask myself again and again, “What does
its limitations. It was a great opportunity for me to see
it mean for us, strangers, intervening in the field?” I
those aspects in the field.
can’t say I have a concrete answer, but I was able
to reaffirm the role of a public health practitioner and
4.Government and NGOs’ relationship
what we will contribute in the future. We need to
Throughout the three weeks, I realized that
become experts, professionals who have the capacity
the biggest problem for Bangladesh is the lack of
to comprehensively evaluate a problem, decide on the
coordination between NGOs and the government. Of
best intervention, and enhance coordination among
course, there are programmes in which cooperation is
different sectors. To put it simply, it is essential to see
well-managed, such as the National TB Programme
a thing from a multi-dimensional viewpoint. I realized
(NTP). This programme’s strong point is a well-
this when I was listening to the presentation of a JICA
organized system in which the government takes
professional, Ms Yoshimura. When I, myself, am taking
overall leadership and manages all TB data while
an active role in the future I want to remember the
NGOs detect the TB patients and provide treatment.
importance of a multi-dimensional point of view.
However, on the whole there are more projects which
lack the necessary communication between NGOs
and Government.
Currently, Government’s role in the health sector
is smaller than the NGOs’. However, it is worth
discussing whether NGOs can provide health services
equally to all regions of the country in the long run.
To prevent a gap among regions, they need a system
based on good coordination of health services, data
management, and health policy. That said, the political
structure is too complicated, meaning the government’
s effectiveness and efficiency is another problem.
5.Overall feedback
It was a little disappointing to have to end every
day with frustration; we wanted to see and hear more.
I would have liked to look into and analyze a single
project more deeply by hearing the voices of the local
people. Translation, however, was a huge wall, too.
Through local staff’s translation, a bias always existed.
But still, this experience is beneficial for me because
89
Field Trip Report 2010
Activities on Child-Birth-Related Health Care From
Community Level to Hospital Level in Bangladesh
Yukie Nogami
1. Introduction
this community is not having money for transportation
I went to Bangladesh on a three-week field trip from
and medical care. Therefore, this community fund is
27th July to 17th August. This was my second visit
very important when the time comes to seek medical
to a country in south Asia, after Nepal. In Nepal, I
services. I heard that only 30% to 40% of the people
was shocked by the scene of many people just sitting
in Bangladesh have personal funds for medical care.
around a NGO hospital because they didnʼt have
The people who are recognized as ultra poor are given
any money, not only for medical treatment but also
coupons. With these coupons, they are entitled to free
for transportation to go back home. In this field trip, I
antenatal and postnatal care, child-birth, transport fee
learned many things different from my trip to Nepal.
to the hospital, and food during their stay there. But I
We observed NGO activities, specially by BRAC,
thought that teaching people who have no idea about
ICDDR,B, and JICA, among others. I learned about
saving money is also important.
them by observing maternal and child health, Tb
program, public health activities, and education at the
CmSS has effective activities. In the area where
community level. I learned many things in this field
CmSS intervened, a higher proportion received
trip, but I would like to write about the situation and
antenatal and postnatal care, babies were delivered
activities related to child-birth.
by skilled birth attendants (SBA), and were delivered
in a hospital. Union conference workers coordinate
2.Activities on child-birth-related care at community
with CmSS members, and this is an opportunity to
level
connect community level and governmental activities.
Through this link, the government learns about the
Community Support System (CmSS)
high maternal and child mortality situation in the
At the community in Narsingdi, I learned about a
community. These CmSS activities were started with
systematic community activity called Safe Motherhood
the support of NGOs by taking on the challenge of
Promotion Project (SMPP) by JICA. Firstly, in the
how the villagers can reduce the maternal and child
birth planning session, a CmSS member talked to a
mortality. This success shows us that given the right
pregnant woman and her family about the danger signs
opportunity and proper means, villagers will respond
during pregnancy. The CmSS also recommended that
positively.
they decide on the child-birth place and save money
90
for obstetric emergency. Secondly, at the monthly
Activities for traditional birth attendants (TBAs)
meeting of CmSS, I saw the members utilize the
In Bangladesh child-birth at home is about 85% and
community map to share information on the location
child-birth by SBA is less than 30%. In the Narsingdi
of the houses of pregnant women and on the health
region, about 70% of pregnant women ask TBAs to
situation of mothers and their new-born infants. I
attend deliveries even if they receive antenatal care
heard that these CmSS members and villagers donate
from medical staff. This is because TBAs are familiar
money for a community fund. When villagers do not
to the pregnant women and there is no need to pay
have personal funds, they can borrow from it. In cases
them in cash. SMPP conducts midwifery training in
when the loan cannot be repaid, the loan is donated.
Japan for official staff (Senior Staff Nursing: SSN
Out of the three delays model leading to maternity
and Family Welfare Visitors: FWV). Moreover, SMPP
deaths, the most common reason for the first delay in
organized one-day orientation sessions for TBAs. The
orientationʼs main aims are to make TBAs understand
pregnant women at an early stage. When the pregnant
new-born infantʼs danger signs and harmful practices.
women have problems, the Shasthya Cormis and
As a result of this orientation, there were some positive
C-SBA deal with them. Moreover, SS improve
changes in the TBAsʼ knowledge and practices. On
educational levels and pregnant womenʼs utilization
the other hand, there is also a strong referral linkage
of the birth center. Home delivery decreased from
between TBAs and private clinics. SMPP had made
70% to 20% through the Monashi program. By this
efforts to strengthen the relationship between TBA and
intervention, pregnant women try to save personal
formal health care providers (Family Welfare Assistant:
funds for emergency. When pregnant women are in
FWA and Community Skilled Birth Attendants: C-SBA)
need of the center staff, they simply have to call the
at union level. SMPP also formed a Safe Delivery
numbers on the poster distributed to them.
Team which includes formal and informal health care
providers. It then organized regular team meetings to
Secondly, the birth center is constructed close to the
discuss child-birth-related issues. In addition, FWVs
hospital providing emergency obstetric care. Due to
have started providing technical sessions for the
traffic congestion, travel time may be long, but it is
TBAs attending Safe Delivery Team meetings. On the
only two kilometers from the birth center to the NGO
facilities side, building additional Community Clinics
Hospital and from there 10 to 15 kilometers to Dhaka
through the collaboration of the Director General,
Medical Hospital. The riksha and motor riksha are also
Health Services (DGHS) with the Director General,
the main means of transportation there.
Family Planning (DGFP) has attracted great attention.
I think by strengthening the relationship of the TBAs
One of the C-SBA told me that they recommend to
and formal health care providers, villagers will receive
pregnant women to deliver at the birth center as a
more and better health care.
pre-stage of complete hospital delivery. I think the
utilization of this birth center will not be any trouble
Activities in isolated areas
if the referral system is prepared and skilled birth
In the Narsingdi region, there are some isolated areas
attendants are always presents because then pregnant
located in sandbanks. From there, people need to
women can deliver safely near their homes.
take boats and riksha, and then go on foot to reach
the nearest hospital. SMPP provides a six-month
3. Activities on delivery- related care in hospital
training for its staff there. These trained lady health
There are two problems in Narsingdi Upazila Hospital.
care providers are called P-CSBA. They provide
One is the lack of nurses and another is the lack of
antenatal care, postnatal care, child-birth assistance,
an emergency transportation system. In this hospital
and refer pregnant women to a hospital. There are
there are about 100 deliveries a month but there are
many problems in providing child-birth-related care
only five nurses. They have to take care of in-patients
in isolated areas. Therefore, I thought the training
and write reports by hand. When there is a delivery,
of personnel is as important as posting of health
they have to assist. Ambulances are important as
staff, construction of health facilities, and securing
transportation between communities and hospitals.
systematic transport methods.
Currently, the hospitalʼs lone ambulance cannot be
used after it broke down last year. It is possible for
Monashi program
the ambulance to be usable again next year, but it is
At a slum in Dhaka, the Monashi program prepared
uncertain because they are waiting for donations to
a system to counter -act the second of the three
have it fixed.
delays to prevent maternal death. Firstly, the Monashi
Birth Center was constructed. In the slum area,
At the district level hospital there are different
the Shasthya shebika (SS), the grass-roots health
problems compared to the Upazila level Hospital.
providers, are respected by villagers and receive
In a district hospital there is a lack of Emergency
money incentives for their intervention in womenʼs
Obstetrics Care teams with obstetricians and
health in this system. In the system the SS identify
anesthesiologists. There is also a problem of
91
Field Trip Report 2010
absenteeism among the medical staff. There are 20
accept SBAs and facility deliveries.
medical doctors in this hospital. But these doctors
are not always in the hospital during their duty hours.
The riksha and motor riksha are practical means
In the morning, they work in the district hospital, but
of transport between communities and hospitals,
in the afternoon some of them go to work for private
especially where roads are not good. In the Upazila
hospitals. In Bangladesh, medical doctors are allowed
and District Hospitals, it is necessary to improve
to work in two places. Therefore, this problem is
services to provide women with proper care and safe
experienced in the whole country. A related problem
delivery. This is connected to the prevention of the
is sometimes doctors refer their patients to the private
third delay.
hospital where they can receive higher fees.
Through this field tour, I discovered the weaknesses of
In a community of the Narsingdi district, villagers
the Bangladesh government. In some areas, there was
choose not to deliver in a hospital not only because it
not enough health staff. NGO and other associations
is expensive but also because services are poor. To
are depended on to provide health services. But
improve health services, there must be enough human
these organizations also have strengths. When these
resources. There are two hospitals, (DGFP hospital
organizations use their strong points and cooperate
and a private hospital) near the district hospital, but
with each other, they can provide better health
there is not enough staff in either of them. There is a
services, including child-birth-related care.
need to strengthen the cooperation between DGHS
and DGFP, and the management ability to combine
5. Acknowledgement
hospitals in a district, improve working conditions, and
Finally, I would like to express my appreciation for the
increase the pay for medical staff.
many supporters for this field trip in Japan Nagasaki
University International Health Development, in
However, on the patientsʼ side there are some
Bangladesh BRAC, Ministry of health and Family
advantages. I was impressed with the incentives given
Welfare, Mother and Child Health Training, ICDDR,B,
to women who receive health care in the hospital.
JICA, UNFPA, Ekmattra. I would like utilize what I
They are given 400 taka for antenatal care and 100
learned in Bangladesh for studies and research in the
taka for postnatal care. Aside from the allowance,
near future.
women are also given things, like a sari. I could see
the governmentʼs strong drive to encourage women to
deliver in a hospital.
4. Conclusion
In community level activities, health care providers
are trained by the government and NGOs. They bear
the responsibility of primary health and child-birth
-related care. But in some communities, villagers
themselves take responsibility for safe child-birthrelated care. CmSS staff provides mothers with
education on pregnancy danger signs and preparation
for delivery. Staff teaches pregnant women how to
prepare personal funds and get the cooperation of
their family. By using the community network, the first
delay is prevented. At the sandbanks in the Narsingdi
and Monashi programs, child-births were attended
by skilled birth attendants near the womenʼs homes.
This is one method to encourage pregnant women to
92
Health Systems in Bangladesh:
Problems and Prospects
Hase Naomi
Introduction
are used as transportation during emergencies. These
In Dhaka, rapid population growth is reflected
means of transport are unique to Bangladesh and they
in the many buildings under construction although
have proved to be practical and useful. Staff with TOT
some are left with bare concrete in their interior.
(Training of Trainers) provide obstetric assistance in
Horns sound in streets all the time. Riding the
normal deliveries particularly when abnormal signs are
wave of economic expansion, the developing
observed.
country of Bangladesh is rapidly evolving.
Private hospitals have excellent medical facilities
The Bangladeshi government has been promoting
and there is no comparison with the public hospitals
a maternal and child health project aimed at achieving
we visited. But the pace of work is slow; for example,
the Millennium Development Goals (MDGs). We visited
when lab technicians go to pray, they have to stop
the project with a focus on short-term field training in
what they are doing several times a day. Perhaps, this
maternal and child health. Maternal and child health
factor leads to the third delay. I also hope health care
indicators improve in Bangladesh every year but the
workers will give attention to the confidentiality of
maternal mortality rate is 351(per 100,000 live births)
patients’ information. Patients will keep their privacy
to the MDGs’ 144 (2007); the infant mortality rate is
and this will enhance communication.
60 (1,000 births) to the MDGs’ 48 (2007).
In Bangladesh, the presence of NGO service
The Ministry of Health and Family Welfare
providers is indispensable. Ekumattora provides
is responsible for health programs. There are
open-air classes and shelter for street children. They
two departments within it: the Department
launched an academy this year and 70% of the
of Health and the Family Planning Bureau,
construction cost was shouldered by domestic banks.
which are operated in a vertical system.
This is the result of the networking of contacts and
In this report, I will describe the health system
tenacious negotiation. I admire the founder of this
composed of health services, human resources,
NGO for its accomplishments.
information technology, financing, governance, along
with the training framework.
I learned some key points in this area. For the
activities to succeed, many people should be involved
and cooperate with each other. It is also important to
1. Services
In Bangladesh, the primary health care level
train a few of them as future leaders.
2. Human Health
can be found in the hospitals called Upajira. The
In Bangladesh, there are several health workers
secondary health care facilities are in the district
with different designations and functions employed by
hospitals. The tertiary care facilities are at Dhaka
the NGOs and the government. After a short training
Medical College Hospital. One of the initiatives being
period, these workers are ready for the field. However,
pushed is the community program for families of
there is no program in place to update and upgrade
pregnant women. In Bangladesh, the husband or the
their competence. More trained health workers are
grandmother decides if the pregnant woman should
needed so that this issue could be addressed soon.
go to a hospital. To resolve the first delay, the whole
The Ministry of Health recognizes the lack of nurses
family is included in the orientation for pregnant
and one reason is migration for work abroad. In spite
women.
of this situation there are still effective personnel who
To resolve the second delay, boats and rikshas
have years of experience in their localities and the
93
Field Trip Report 2010
trust of the community. These are the health workers
of BRAC such as the Shasthya Shebika and the
Poor people are resigned to the fact that their daily
Shasthya Colmi who themselves are residents of the
life will always be hard. On the other hand, wealthy
communities they serve.
people want to preserve their vested interests and
3. Health Information
do not take the initiative to listen to the voice of the
Matlab Hospital is the location of the International
poor. This is true in Africa as well as in Bangladesh. It
Diarrhea Research Center. It started in 1966 and
is reflected in their health system. Since the Ministry
has done studies on 230,000 people. It uses
of Health and Family Welfare is divided into two
the Holographic Data Storage System (HDSS).
overlapping sections, there are cases where two
Researchers come here from around the world to use
district hospitals are built very near each other. The
the existing data. In their data system, each family
impact of the investment is weak. There are many
is registered in units per household. When there are
disadvantages due to the divisions. In the past, these
changes in personal data in the household, they are
two bureaus were integrated by the World Bank. There
updated in the system. It might be an ethical problem
was strong opposition that led to demonstrations so
for people to receive free medical care in exchange
the original structure was retained.
for information, but it is not possible to make policy
In the wards of the International Diarrhea Research
proposals in the absence of household data collection.
Center, patients are confined without distinction of
85% of home deaths in this region undergo verbal
gender. Patients who cannot be accommodated in the
autopsy if the death is reported within three months.
wards are placed in outdoor tents. In contrast, the staff
Due to lack of medical facilities, it is not possible
used multi-functional PDAs to calculate malnutrition
to know the direct cause of death. The desire of the
levels.
doctors to discover the causes using verbal autopsy is
On the other hand, we visited a project that did
impressive.
not need a large investment. In the Narsingdi project
4. Health Technology
of JICA, CARE Bangladesh has sustainable activities.
There were several examples of local people
But the biggest NGO in Bangladesh is BRAC. It is a
helping out in health services in the projects we
self-contained service provider. The NGO promoted
visited. Kangaroo care of newborns less than 2500
the Community Support System (CmSS). It is likely
kgs. or less than 37 weeks old is undertaken for
to continue its bottom-up approach that promotes
their survival in the absence of necessary medical
participation using case histories in this area. They
equipment like incubators. In Japan, kangaroo care is
adopted the government policy of three CMSS for
done to initiate the attachment between mothers and
each community clinic. Next year, the Narsingdi
their babies.
project will enter its second phase and will be scaled
The tuberculosis rate has declined. The testing
up to five provinces. The project found life as reflected
is done in the Shasthya Shebika’s home through the
in the field situation.
Directly Observed Treatment Short-course (DOTS)
6. Governance
system. DOTS -Plus patients receive kanamycin
After its independence in 1971, Bangladesh has
injection in the hospital. Previously, TB cases were
been supported by many countries. Electricity and
considered incurable. That stigma affected their
paved roads in rural areas far from the capital continue
work and their children’s future. Now they are being
to improve. Their infrastructure seems to be better than
educated about TB and its cure.
West Africa’s. When I heard that traffic accidents were
We visited the delivery facilities in the slums.
They were simple and cleaner than I had expected.
94
5. Health Funds
caused by the expansion of infrastructure, it made me
think about the merits and demerits of foreign aid.
Women give birth with the assistance of Shasthya
More and more it seems that pooled funds meet
Shebika and Colmi. With these examples, we learned
the requirements of health, nutrition, and population.
that health services are possible even with limited
Donors to Bangladesh tend to invest directly on an
medical resources. This idea could lead to improved
influential NGO than to an inefficient government.
health systems in other developing countries.
According to experts, foreign donors say, “the
uncoordinated aid programs in Bangladesh should
not happen in other developing counties.” They are
expected to limit the government’s role as supervisor.
as I passed as a visitor in the midst of their hardships.
During those three weeks I also felt the difficulty of
getting information readily. For example, when people
In the near future, infectious diseases will become
say the situation is getting better after the introduction
chronic diseases. The government of Bangladesh
of microfinance, I feel it is a standard answer in the
should adopt the health policy of developed countries
presence of foreign visitors.
on chronic diseases to be prepared for this eventuality.
Conclusion
I noticed some discrepancy between glimpses
of what is going on and the actual situation. The
Through this program I learned the current
challenge is to bridge the gap between my individualist
status of developing countries from multilateral
clinical background and the idea of public health for
and interdisciplinary perspectives. My theme of
the masses. It was also a good opportunity to consider
self-medication and treatment selection is part of
my suitability to the international health development
postpartum treatment. Babies are sprinkled with water
field. I hope to be able to participate in long-term
and oil which is a custom that is supposed to help
internships and research in the future.
them grow. The practice of applying cow dung on
Reference
the umbilical cord after it is cut has decreased due
1) WHO. Everybody’s Business-Strengthening health
to health education. We were able to relate what
system to improve health outcomes, WHO’s
we learned in medical anthropology to actual cases.
Framework for action. Geneva, 2007.
Culture is relative and changes with the times.
I was neither surprised nor excited to see cultural
differences in this first visit of mine to a developing
2) Motoyuki Yuasa et al , Recent world activities
for health system strengthening: Journal of
International Health 2009;24:309-314.
country. However, I felt sad and sorry for the people
95
Field Trip Report 2010
Standing in the Field
Tomonori Hoshi
Towards training
This was my first study tour, so there were some
points of concern. There were also classes taught
the details.
International Center for Diarrhoeal Disease Research,
Bangladesh
in English in the field, so I was anxious whether or
The International Center for Diarrhoeal Disease
not I could understand them correctly. However, the
Research, Bangladesh (ICDDR, B) has hospitals and
following are particular concerns.
research institutes. ICDDR, B has been conducting
First, we had many opportunities to learn about
many kinds of research such as the cohort study
maternal and child health and health systems as well.
based on the census they have been collecting. The
They are not related to my background, so I was afraid
institute has very advanced digital and census surveys
whether I could comprehend well or not. In the first
using PDA (Personal Digital Assistant) in the field
term, I learned a lot of things about those subjects.
rather than pen and paper, and the data is entered
But I am just a beginner, so I thought I could not
directly into them by the field inspectors. I was very
properly learn.
surprised at these things, and I felt ICDDR, B has
Other than the study, I was worried whether I
enormous funding from organizations. In the hospital,
would be able to cooperate with my classmates during
patients’ data is stored through electronic medical
three weeks of travel. It was three weeks with a
records. All patients are managed by bar code; the
roommate and always having to go together in groups
nurse has a PDA at hand while on duty.
of ten people.
The most impressive aspect was that researchers
Finally, I was concerned about my health. I was
have been studying the actual situation in the field.
anxious whether I could stay healthy during the trip.
They have been intently observing the disease
When I traveled to Thailand two years ago, I got sick
and trying to solve the problems. This is the ideal
and vomited several times. That experience was the
researcher. If I may say so, a researcher who is
cause of my apprehension. The training schedule was
aspiring for international contributions should always
well-managed but tight. If I got sick, I would not be
keep in mind the feedback from the field. A researcher
able to attend the activities. Anyway, I made it my
who ignores feedback and relies only on his own ideas
goal to attend all of the classes at my own pace.
is not a true researcher.
ICDDR, B is very much aware of the practice
Focus on Maternal and Child Health
In this training internship I had the opportunity to
chance to visit one of their laboratories. I also had the
visit the many programs in maternal and child health.
opportunity to talk to a professor about their malaria
Every program had been working very well and I
and kala-azar research. I really appreciate their kind
learned what had been accomplished in the field.
hospitality from the bottom of my heart. I was so
In Bangladesh, with the government focusing
happy to have a very interesting conversation with
on maternal and child health, I felt a great desire to
them, especially about the malaria endemic area. They
protect many children and pregnant women from death
said we are very welcome to visit the area if there is a
and disease. I saw the success in the Manoshi slum
chance in the future. This stimulated my heart. I was
projects through BRAC and JICA’s Safe Motherhood
a little scared about kidnapping in the field; however, I
Promotion Project (SMPP). I think these projects are
want to go if I have the opportunity.
very helpful to the people. I will not touch on maternal
After the training
and child health because my classmates will be giving
96
in the field, so I really respect their work. I had a
This training went well without any big problems.
As I mentioned at the beginning of this report, I would
that. I tend to go solo, but this time it was different,
review the three concerns.
so it was pretty good. In the field, our small group
First of all, I was worried that my lack of
had different opinions, but it is a manifestation of
background in health systems and maternal and
willingness to learn seriously, so it was very admirable.
child health would be an obstacle to my appreciation
I felt it was very important to talk calmly and listen
of the trip. Conspicuously, my understanding was
carefully to what others say and never to deny others’
weak compared to someone who has worked as a
opinions. Nothing gets resolved by rejecting outright
midwife, for example. However, I believe it is beyond
what others think.
my expertise to target, so in this respect I am not so
pessimistic. But I think it is important to see all things
once even if they are not related to my field.
I was very careful with my health. Our schedule
was so hectic that I always kept in mind not to
In this trip I learned how to observe the things in
work too hard. If I become sick, I will not be able to
the field using materials such as “Maternal and Child
complete the subsequent schedule. I wanted to avoid
Health”. From this point of view, I was able to make
that, at least. My goal in the field was always to keep
conclusions and redefine our findings, not only in
a constant pace to get through to the end. I learned
maternal and child health but also in health systems.
this in the field research conducted in my university
I felt that the most important elements were those
as an undergraduate student. I was very eager at the
shown in the Norsingdi province by JICA’s SMPP.
time, so I made a very demanding study schedule. As
This project has been nourishing the residents’
a result, in the middle of the survey after six months
motivation without using money incentives. As the
had passed, I had to modify the plans. This big
first step in the project, JICA makes the residents
mistake taught me to keep a moderate pace and store
recognize maternal and child health as serious
my stamina so I can react quickly when something
problems of their own community. In the next step,
unexpected happens. This is my style. This time, I was
JICA encourages them to tackle those problems
able to stay healthy. All I regret was I ate too much of
themselves. Due to the residents’ efforts, there was a
my favorite spicy food which triggered diarrhea.
reduction in maternal mortality rate in their community.
It was a very good opportunity for me to acquire
This reduction inspired the residents continue
some ideas for the long-term internship in a developing
working on the problem. In this approach, even if aid
country. It is important for a practitioner to watch the
groups withdraw, the project will be continued by the
field, always pay attention, and find out the reasons
residents. Moreover, if people succeed once, they will
based on the background of that society.
start tackling other issues like a chain reaction. This is
Believing in people is also important. People
what empowerment is. I was shown the great potential
will be confident if they get approval. Believing,
human beings have even in adverse conditions.
encouraging, and praising people will lead them to
Evidence can be seen that the problem of
success.
sustainability can be resolved by this empowerment.
Sustainability is not only important in the field of global
Acknowledgments
health but it is also the key stone in all disciplines.
Many thanks to the kind Ms. Miyachi who tried
I felt that to resolve sustainability, it is basic but
to make the short-term training meaningful. I am also
essential that the residents are willing to do things
grateful to Dr. Tomita who came to the field in spite
themselves. It is also important not to ignore the local
of her busy schedule. Also, I am really grateful to Dr.
leader and to involve him/her when implementing
Aoki, all teachers and business people who support
a project. To ignore the regional head will trigger
a variety of training including the preparation for this
unnecessary conflict.
trip. Lastly, thanks to our senior Miss Taguchi, who
The second point is whether I can have
provided a variety of information on Bangladesh.
coordination with my roommate for three weeks and
no misunderstandings in a small community of ten. In
this regard, I have to thank my only male classmate,
Mr. Ogawa, for many things. I really appreciate him for
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9.番外編
レポート
今回は、研修報告書の番外編として、学生編集担当者から、アンケートを実施しました!
質問 1:ずばり、バングラデシュでおいしかったものは何ですか?
●カレーやカレー味のものすべてがおいしかったです!
●マンゴなどの果物。
●チャパティ。
●なんでもおいしかったです!(西アフリカと違って野菜が豊富)。
●病院で食べたチキンスープ(重湯に入っていました)。
●ダル(豆)。
●青唐辛子など辛いもの!
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質問 2:バングラでみつけた、おすすめの○○は?
●風景(移動中の車から見える街並み・農村地帯の様子や、マトラブの大自然、壮大な夕暮れ。小鳥
のさえずり。)
●ヘナ(染料)。その染料を用いて手などに芸術的
な模様を描いてもらえる。
●ORS!さすが本場とあって、おいしく、安い
Tasty Salineがありました。
●グルシャン2というエリアにおいしいコーヒー屋
さんを見つけました!
●ピンクシティというショッピングモール。洋服屋
が多く、ヘナのお店もありました。
●Rash Kadamというお菓子。
質問 3:持参してよかったな〜と思ったグッズは?
●サンダル(クロックスのようなものも便利)。
●電気製品を使うこともあるので(充電など)、電源コネクター。
●ネックピロー(長時間車に乗ることが多いので)。
●酔い止め(やはり車に乗ることが長いので、揺れる車中に弱い方は必要です)。
●デジカメ(一眼レフ)。
質問 4:お土産はどんなものを買いました?
●素焼きの置物。デザインが素敵。
●木製の彫り物。額など。
●刺繍。いいものは値が張るが。
●石鹸(アーロンというBRACが手掛けている雑
貨・洋服などのショップ)。軽くて小さくて安く
て香りがよい。
●バングラ紅茶。喜ばれます。
●リキシャ(人力車)のミニチュア模型。
●買わなかったが、インド刺繍の大判ストールが良
かった。高い!
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あ と が き
本研究科が始まって3年がたちました。卒業生も国際保健の分野で活躍しはじめており、九州、そして長崎から学
生が巣立つのを見て、入学時を思い出し、たくましくなったなあとうれしく思っています。2年という長いようで短
い学びの時間。学生の年齢や経歴は様々であるが、彼ら・彼女らはともに学び、ともに苦労を味わってきました。そ
の姿をそばで見てきただけに、その成長ぶりには盛大な拍手を送りたいと思います。
この短期フィールド研修は毎年8月に実施してきましたが、1年生にとっては座学で4カ月間学び、そろそろ現場を
見たい、と思い始める時期かと思います。この国際健康開発研究科で学んだことは、実践とつなげることに大きな意
義があります。そのような意味で、この時期に途上国で様々な組織の活動を包括的に見たり、現地の訪問することは
重要だと思います。
学生の中には、初めての海外、途上国訪問という人もいて、不安に思っている部分もあるようでした。しかし逆を
いえば、それら純粋な目で見ることの大切さ、なぜそこに援助が必要なのかという疑問や、「日本」「日本人」とし
ての立ち位置など、いろんなことを考える場面に出会い、思いをめぐらし、そして多くのことを吸収してくれまし
た。もちろんアフリカや中南米ですでに経験を積んだ学生もいて、それぞれの経験とも照らし合わせて、互いに自分
の経験や考えなどをシェアしたり、ディスカッションしたり、と学生が互いに学び合う場でもありました。このよう
なチームワークや相手を思いやる心が2年次の長期インターンシップ、調査に大いにつながると思います。
短期フィールド研修の3週間は、怒涛のような毎日でした。朝7時には宿を出発し、フィールドに行って、現地の昼
食を食べ、質疑応答をしたあとに、また車で何時間も揺られての移動。体調を壊す人、車酔いする人、様々でした。
さらに夜は学びや疑問点を解消する「反省会」。ハードスケジュールに耐えているなと思います。学びに対する意欲
があり、こちらもそれに負けじと、学びのチャンスを最大限に活かしたいと思い、現場で出た要望にあったコーディ
ネートを心掛けました(この学生のニーズに合った対応、というのも、本研究科の特徴でもあると思います)。
そしてこちらの様々な要望に現地の機関の方々は本当によく対応してくださって、大変感謝しています。まずは
バングラデシュで受入団体であるBRACでは、研究科長のアンワール先生を始め、コーディネートをしてくださった
ファラ先生、そして通訳などのロジを担当してくれたウマリさんに大変お世話になりました。ドライバーの二人やホ
テルのスタッフも、とっても私たちに親切にしてくれて、バングラデシュの印象が素晴らしいものになりました。ま
た8月からBRAC大学に赴任されたティム研究科長も、お忙しい中私たちの最後のプレゼンテーションにかけつけて
くださいました。BRAC大学の皆さんに大変感謝いたします。
またBRACとも関係が深いICDDR,Bでもモハメド・タスリム・アリさん、M.A.ザマンさん、スライヤ・ベグムさん
に大変お世話になりました。世界有数のHDSSの拠点であり、病院、フィールド、研究機関を有する組織だけに、多
くのことを見て学ばせて頂きました。マトラブでは、のどかな田園風景や家畜たち、水浴びをする子ども達、そんな
風景が、ダッカの喧騒から抜け出てきた私たちに、安らぎをあたえてくれました。安全に快適に滞在できたのも、ス
タッフの方々のおかげです。
さらに感謝したいのは、バングラデシュで活躍されているJICA関係者のみなさんです。多忙を極めている方々か
らのプレゼンテーション、ブリーフィングなどは、大変有り難い貴重な情報でありました。特にJICAバングラデシュ
事務所次長の牧本小枝さん、JICAバングラデシュ国母性保護サービス強化プロジェクトのチーフアドバイザーの吉村
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幸江さん、現地で受入をサポートしてくださった横井健二さんには、現地での様々な細かい活動まで見させていただ
き、日本ならではのきめ細かさ、人々と顔の見える援助のあり方に学生も大変感銘を受けました。また保健省で個別
専門家として活躍なさっている佐藤祥子さんは、急なお願いにも関わらず、ご自身のキャリアや現在のお仕事など詳
細にわたって教えて頂きました。学生にとって、大変すばらしいロールモデルでした。また薬剤師としてのキャリア
について個別にお話し頂いた石井克美さん、現地での視察に同行してくださってJOCVの方々とのコンタクトなどを
サポートしてくださった駒走拓三さん、ありがとうございました。
バングラデシュでは多くの日本人の方が国連機関で活躍されていて、昨年度に引き続き、UNICEFの佐藤みどりさ
んには準備の段階から色々お世話になりました。またUNFPAに赴任されて間もないのに、急きょ表敬訪問を受け入
れてくださった、末廣有紀さん、そしてヌール・モハマドさんにも大変感謝します。
私たちの訪問では、国際保健を行っている援助組織、国連など比較的大きな団体が多い中、バングラデシュのスト
リートチルドレンをサポートしているエクマットラへの訪問も、バングラデシュの別の側面を見る大変よい機会とな
りました。特にストリートチルドレンの中から素質のある子どもをリーダーとして養成しようという考え方や、エク
マットラ・アカデミーという構想、そして様々なビジネスを展開されていて、これまで「援助」という発想が主だっ
た私たちに、ファンド・レイジングの重要さやおもしろさを教えて頂きました。代表の渡辺大樹さんのいつもの熱い
まなざしとハート、インターンをされている関西大学大学院の水谷俊亮さんや他のボランティアの方々など子どもへ
の厳しくも温かい対応、日本の若者が政府や援助に頼らずに活動を展開している姿を見て自分たちを振り返るきっか
けになりました。
またバングラデシュで研究を続けられている流通科学大学の酒井彰先生が急きょプレゼンテーションをやってくだ
さいました。実はバングラデシュはNGOの宝庫とも言われるくらいたくさんのNGOや援助機関がありますが、日
本人研究者も多いところでもあります。しかしながら、なかなか他の日本人研究者の方と接する機会もこれまではな
かったのですが、長崎大学工学部の坂本麻衣子先生のご紹介で、このような形で他の大学の先生のご研究とも接点が
でき、大変うれしく思います。
みなさんそれぞれがお忙しい方ばかりなのですが、毎年長崎大学を快く受け入れてくださって、お一人お一人に感
謝いたします。この研修でそれぞれの学生がさらに意欲を高め、この経験を糧に長期インターンシップにつながって
いることを言うまでもありません。また今後もバングラデシュでお世話になるかもしれませんが、また皆さんとお会
いできる機会を楽しみにしています。
最後になりますが、青木克己研究科長を始め他の先生方、特に今回同行して下さった富田明子先生、また事務の皆
様のおかげで、研修が滞りなく実施できました。事務の方には準備を始め、私たちがバングラデシュにいる間のサ
ポートなど色んな面でお世話になりました。また、今回報告書を作成するにあたって、写真や原稿の調整などをサ
ポートしてくれた学生の飯島真紀子さん、上村千春さんにも感謝いたします。どうもありがとうございました。
国際健康開発研究科 助教
宮 地
歌 織
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短期フィールド研修報告書2010©
編 集
長崎大学大学院国際健康開発研究科 宮地歌織 他
発 行
国立大学法人長崎大学
発行日
2011年3月31日
印 刷
株式会社 インテックス
*無断転用・転載を禁ず
2010
バ ン グ ラ デ シュ
BANGLADESH
Report of the Field Trip
短 期 フィ ー ル ド 研 修 報 告 書
バングラデシュ
短期フィールド研修報告書 2010
852-8523 長崎市坂本 1-12-4
Tel:095-879-7008 Fax:095-879-7892
http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/mph/
長 崎 大 学 大 学 院 国 際 健 康 開 発 研 究 科
長崎大学大学院国際健康開発研究科
文部科学省 組織的な大学院教育改革プログラム(大学院GP)
「国際保健分野特化型の公衆衛生学修士コース」