カジノ合法化に対する住民意識とカジノ普及に向けて ∼1,000名を対象

カジノ合法化に対する住民意識とカジノ普及に向けて
〜1,000名を対象に行ったアンケート結果より〜
木村知恵 15
1.はじめに
日本には、パチンコ・パチスロ、競馬・競輪・競艇等、数多くのギャンブルが存在する。
自由時間デザイン協会発行のレジャー白書によると、昨年 1 年間における公営ギャンブル
市場は約7兆円であり、パチンコの 28 兆 7000 億円を合わせると 35 兆円を超える経済効果
がもたらされている。
しかしながら海外におけるギャンブルの代表格「カジノ」は日本では認可されておらず、
主要先進国はもちろん、人口が 3000 万人を超える国でカジノを有していないのは日本だけ
となっている。
昨年の石原都知事の「お台場カジノ化構想」発言は、多くの観光地が客不足のため頭を
悩ませているという現状のもと、経済不況好転と地域活性化を兼ね備えた有意義なアイデ
ィアとして数多くの人々から支持された。この発言はそのまま日本における「カジノ合法
化」運動に拍車をかけることになり、各地域がこぞってカジノ建設計画を提唱し、古くか
ら提唱していた地域はその考えをより具現化させるに至った。
ほとんどの地域は地元活性化・財源確保という目的のためか、都道府県(知事)が先頭
に立って訴えている。県知事の声はよく聞かれるが、実際にカジノ建設計画が起こってい
る地域の住民はどう思っているのか?秋田県、東京都、石川県、静岡県、愛知県、大阪府、
兵庫県、大分県、宮崎県、沖縄県(2002 年 2 月時点)について、その都府県内に居住する
住民のカジノに対する意識・意見を探るとともに、国内におけるカジノ普及のための視点
を考察した。
<調査概要>
調査方法
:小社「J‑FAX リサーチシステム」によるFAXアンケート調査
調査エリア:2002 年 2 月時点でカジノ設置運動が起こっている都府県
→秋田県、東京都、石川県、静岡県、愛知県、大阪府、兵庫県、大分県、宮崎県、沖縄県
調査対象者:J‑FAX リサーチモニター世帯の 20 代〜60 代男女
サンプル数:707 サンプル(調査数 1,000、有効回答数 707、回収率 70.7%)
調査期間
15
:2002 年 2 月 13 日〜19 日
マーケティング・データ・バンク
マーケティングリサーチ部
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情報企画室
2.カジノ合法化に関する調査結果
(1)「カジノ合法化への動き」の認知状況
「日本におけるカジノ合法化への動き」の認知(「確かに知っている」と「聞いた覚えが
ある」を合わせた回答)は 61%と総じて高く、過半数の人に合法化の動きが知られている。
しかし、自分の居住県内で計画があることの認知は、平均して 21%と低い。国内での動き
に対する認知(6 割)とは大きな隔たりがあるが、
「宮崎」
「沖縄」
「東京」の 3 都県につい
ては地元計画の認知も、順に 60%、56%、48%と高い。
(2)カジノ合法化への賛否、訪問意向
90%が賛成の意を示している。ただし、日本全国どこでもということでなく、限られた
場所のみにカジノができるという状態を望む人が、賛成者全体のうち 82%を占めている。
都府県別に見ると、『東京都』『石川県』『静岡県』の「反対」との回答は、それぞれ 4%で
あり、カジノ賛成派が 95%以上を占めた。
国内のカジノへの訪問意向も高い。66%の人に訪問意向があることが分かった。全体的
に訪問意向が高いなか、
『東京都』および『石川県』が 73%、
『静岡県』が 72%、
『宮崎県』
が 70%と、この 4 都県については 7 割を超えている。
(3)カジノのイメージと理解程度
カジノに対するイメージでは、多くあがった順に「ギャンブル」91%、「損をしそう
な」54%、「危険な」46%、「エンターテイメント」41%である。マイナスイメージが中
心である中、「エンターテイメント」というイメージが 4 割と貢献している。また、「世
界主要国の大多数(7 割近い主要国)がカジノを合法化している」という事実は 11%の
認知率であり、あまり知られていないようだ。「ほとんどの国が入場に年齢制限を設け
ている」の認知は 44%と半数近くを占め、「ヨーロッパでは上流階級の社交場となって
いる」が 33%の認知であった。
<まとめ>
・国内における「カジノの合法化への動き」は 6 割が認知。また、
「地域限定型」ではある
が、多くの人がカジノの合法化に賛意を示し、訪問意向も 6 割以上と高い。
・しかしカジノのイメージはマイナスイメージが中心である。世界でのカジノの位置付け
を知り得ている人も少ない。
・全体的に、居住地域による大きな差は見られない。
3.国内におけるカジノ普及のための考察
今までのところから、国内でのカジノに対する意向は高いということが分かった。しか
し、カジノに魅力を感じない(賛成しない/訪問したいと思わない)層も確かに存在する
し、悪いイメージもまだまだつきまとっている。推察するに、カジノへの賛否や訪問意向
はカジノに対する好意度・許容度と密接に関係するものであり、つきつめたところ各自の
持つカジノへのイメージや認識内容に大きく左右されるのではないだろうか。以降では、
更に、各々の持つカジノへの知識・イメージにより回答者を分類し、国内におけるカジノ
普及策を検討していく。
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(1)
カジノに対する意識による回答者の分類(クラスター)
カジノに対する認知事項やカジノへのイメージによって、回答者を以下のような 4 つの
クラスターに分類した。その特徴を述べる。
カジノほどほど興味層 :ひょっとしたら得するかも?と思ってしまうような、一般的
な人。カジノに対して良いイメージも悪いイメージも持っている。
カジノ警戒層 :カジノに対する警戒心が強い。カジノは行けば損するような危険な場
所だと思っている。海外カジノ未経験者が多く普段のパチンコ・競馬参加率・頻度も低い。
楽しいことなら大歓迎層 :カジノをエンターテイメントとしてとらえている。開放的
で楽しい場所というイメージを持っており危機感も薄い。カジノ経験者の比率も高く、特
にラスベガスでの経験者が多い。
カジノセレブイメージ層 :カジノに対して、
「高級」
「伝統」というキーワードをあげており、上流階級の人たちの社交場というイメー
ジが高い。高年齢層に多く、カジノ経験率もやや高い。
これら4つのクラスターの構成比は下記図表1の円グラフの通りであり、各クラスターが
同等の比率になっているというのは興味深い。
図表1
クラスター構成
カジノセ
レブ層
21%
ほどほど
層
25%
歓迎層
27%
警戒層
27%
これらのクラスター別に認知・賛否・訪問意向がどのくらいかを表したのが次の
図表2であり、ふさわしいと思う遊び・施設の回答比率を表したのが図表3である。
図表2 クラスター別カジノへの認知・賛否・訪問意向率
国内カジノ認可活 カジノ認可自体の 地域を選ばない 国内カジノ訪問意
動の認知率
賛成率
カジノの賛成率
向
全体
61%
90%
13%
66%
ほどほど層
57%
95%
15%
65%
警戒層
55%
75%
11%
48%
歓迎層
66%
99%
18%
86%
カジノセレブ層
68%
95%
8%
65%
※地域を選ばないカジノの賛成率:日本中どこでもカジノができるという、
「全面解禁型カジノ」に賛成する比率
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図表3 クラスター別カジノにふさわしい遊び・施設
賭け事
エンタ−テイメント
65%
67%
51%
77%
66%
46%
37%
30%
67%
49%
35%
31%
30%
43%
37%
39%
35%
31%
47%
45%
海外のカジノでよく
見かけるもの
15%
13%
11%
20%
17%
展
示
会
トコ
ホン
サ
ル
ー
68%
68%
53%
78%
72%
博美
物術
館館
ー
81%
81%
73%
88%
82%
映
画
館
︑
ムド
︑
全体
ほどほど層
警戒層
歓迎層
カジノセレブ層
ッ
ー
ト
マ ス シ レ ダ オ演
シロ
ビ ン ペ劇
ス ラ
ント
・
ュー
ョー
ー
ー
ー
ッ
レル ゲカ
18%
17%
13%
21%
22%
34%
31%
26%
46%
35%
パ
チ
ン
コ
パ
チ
ス
ロ
麻
雀
20%
19%
25%
23%
13%
23%
23%
25%
25%
18%
10%
8%
11%
12%
8%
海外のカジノでは
あまり見られないもの
◆注目すべきクラスターは、賛成率が高く訪問意向も高い
楽しいことなら大歓迎層 だ。
賛成率はどの層も高い結果であるが、 歓迎層 は合法化の形式にかかわらず(限られた場
所であろうとなかろうと)、全面解禁で賛成する比率が高いのが目立つ。4 つの中で一番カ
ジノに積極的な層だといえる(図表2参照)。ふさわしい施設として、ダンス・レビューシ
ョーはもちろん、演劇・オペラやコンサートホールなど、通常のカジノにはないが日本に
は馴染みの深いエンターテイメントを多数あげている(図表3)。
◆一方、カジノにマイナスイメージを抱く
カジノ警戒層
は、訪問意向や賛成比率も他
の層に比べるとやはり極端に低い。カジノに最も消極的・否定的な層である。ふさわしい
ものとして
警戒層
が全体より高い回答を示したのはパチンコ、パチスロ、マージャン
である。「カジノ=賭け事」というイメージが根強いことがうかがえる。
◆
カジノセレブイメージ層
の全面解禁型カジノへの賛成率が低いのは、ある特定の地
域のみでカジノを体験できた方が希少感を得られるためか。ふさわしいものとして
層
歓迎
同様、
「映画館」をあげる比率が高いほか、やはりエンターテイメントをあげる比率が
全体を上回っている。
4.総括〜今後の国内におけるカジノ普及のために〜
カジノ合法化に賛成している層は 9 割以上、カジノを訪問したい層も 7 割近くなってお
り、日本におけるカジノの受容性は非常に高いと考えられる。但し、「カジノ」にマイナス
イメージを持つ
警戒層
も全体の 4 分の 1 程度存在する。この層への方策として「カジ
ノ=賭け事」ではなく「カジノ=エンターテイメント」というイメージを持たせること。
これは最もカジノに積極的な
歓迎層
や 2 番目に積極的な
カジノセレブ層
へのアピ
ールにもなり効果的である。今後はカジノの世界的位置付けを流布するとともに、欧米型
のカジノのスタイルに捕われない、文化的な施設も含めた日本型のカジノのスタイルを打
ち出すことが重要と考えられる。カジノが合法化された場合、ギャンブルの枠を超えた新
しいエンターテイメントとして、経済・地域の活性のみならず人々の意識を活性化させる
発奮剤となるかもしれない。
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