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No.
117
January 2004
■新春のごあいさつ
理事長、学長、病院長
■学事
平成16年度特別推薦入学試験(AO入試)・推薦
入学試験・編入学試験終わる
平成15年度遺骨返還式
平成16年度附属看護専門学校推薦入試など終わる
■学生のページ
第3 回バーモント大学医学部での夏期医学研修報告
学生クラブハウス完成披露
シリーズ: 私が医師になりたい理由・なった理由
「ヒポクラテスの木」の碑について
禁煙キャンペーン: タバコについての意識調査結果
と学生禁煙支援について
■学術
総合医学研究所市民公開セミナー: 肝臓を守ろう
非電離線曝露による眼障害に関するワークショップ
第5回耳鼻咽喉科ナビゲーション研究会
三浦克之助教授 長寿科学振興財団奨励賞受賞
■病院
病院新館での外来診療スタート
〈看護部から〉新館病棟の案内、看護指導室
金沢医科大学病院 睡眠障害センター
平成16年度研修医マッチングの実施
第9回地域医療懇談会
■管理・運営
平成15年度石川県私立学校教育功労者 知事表彰
平成15年度永年勤続表彰
互助会: 秋のバス旅行、第29回ボウリング大会、
第23回文化祭
■後援会
金沢医科大学北斗会 懇親・懇談会
■随想・報告
ミシガン大学留学記
20年の勤続に思う
黒部峡谷露天風呂めぐり
中央手術部引越し顛末記
■教室紹介
衛生学、薬理学、総医研細胞医学研究部門、数学
□金沢医科大学創立30周年記念事業 募金
□金沢医科大学学術振興基金 募金
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新春のごあいさつ
大学の制度改革による経営への転換
理事長
小田島 粛夫
明けましておめでとうございます。穏やかな新年で皆さんも良い年を迎えられたことと思います。
昨年はアメリカのイラク攻撃にはじまり、年末にはフセイン大統領が拘束されるというニュースを映像で見
ることになりました。大統領の拘束という現実と過去の栄華? を対比しながら、改めて人の生き方を考えさ
せられました。フセイン大統領は常に毒薬と拳銃を持っていたと言われ、場合によってはアラブの歴史、世界
の情勢が変わったかも知れません。今では「フセインは国家元首でもなく、政党の党首でもない。単なるギャ
ングに過ぎない」という意見を重く受け止めざるを得ません。
本学では創立30周年記念行事が行われ、また、記念事業としては病院新館やクラブハウスなどが竣工し、肩
の荷が降りた感じですが、一方、今年は国立大学の法人化が実施される年で、本学もその対応に追われ、慌た
だしい1年になります。
30周年行事および事業について
昨年9月には本学の 30周年記念行事が盛大に行われ、また、記念事業もほぼ計画どおりに完了することが出
来ました。改めて皆さんのご協力に感謝申し上げます。最初の計画は免震構造を取り入れた病棟の改築でした
が、設計を検討するうちに、各部局の要求が次第にエスカレートし、最終的には当初の予算の約2倍、大学の
年間総収入を遙かに超えるほど大型化しました。この設計では免震構造も導入できないということもあって、
設計の見直しをせざるを得ませんでした。設計見直しに当たっては免震構造の導入を第一に、将来的な人口の
減少や医療制度の改正などを考慮し、全体の規模も縮小されました。免震構造を取り入れるために、Ⅰ期工事
から除外した部分もあり、皆さんにご迷惑をおかけしていると思います。除外した部分とⅡ期工事については、
将来構想委員会の原案を中心に検討し、早期の着工を目標としております。病院を中心とした施設整備はⅣ期
まで計画されておりますが、資金計画は必ずしも万全ではなく、以前から計画している学納金値下げによる大
学の競争力の強化や、要求のある教職員の待遇改善の目処はついておりません。何れにしても30 周年記念事
業を総括し、学報を通じて詳細に公開する予定ですので、是非、ご覧になっていただきたいと思います。
記念事業の一つである学生のクラブハウスの再建について、是非皆さんにご理解をいただきたいと思います。
昭和58 年11月 26日、今から丁度、20 年前、クラブハウスが失火によって焼失いたしました。当時、本学およ
び本学の学生に対する地元の評価が低く、入学志願者も年々減少し、300人を下回る状況でした。石崎学長は
この失火によって、さらに大学の評価が低下することを心配され、倉庫が失火によって焼失したことにし、ま
た、理事長にはクラブハウスの再建を求めないことで了解していただき、この事件を処理されました。当時、
私も若く、入試実施委員の走り使いをしておりましたが、石崎学長から何度か直接、意見を聞かれました。20
年を経過し、今は知る人もなく、歴史を伝達するという意味でお話を申し上げました。
このような事情もあり、学生のクラブハウスの建設を30 周年記念事業の一つに選び、20 年振りにクラブハ
ウスが完成することになり、私にとっては感無量の思いです。20年間クラブハウスの建設を待っていただいた
こともあって、少し贅沢と思いましたが、学生の要望をすべて取り入れた立派なクラブハウスが出来上がりま
この年頭挨拶は、イントラネットを通じてビデオ・オン・デマンド(各端末で随時再生可能)で3月31日までご覧になれます。
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した。
本来、学生は大学の重要な構成員と考えるべきですが、これは学生を甘やかし、優遇することではなく、学
生を大学の一員として、むしろ厳しく、社会人としてのマナーやルールを身につけさせるためであり、この点、
誤解のないようにお願いいたします。クラブハウスの引き渡し式の際に、不祥事を起こした場合には、クラブ
ハウスを直ちに閉鎖することを申し渡しました。昔と違って現在は、大学の評価は高く、学生の不祥事に対し
て厳しい処置をとることが大学の信頼を維持する上で重要であると思っております。
大学の歴史と国立大学の法人化
ご承知のように平成16年度から国立大学の法人化がはじまりますが、この法人化は大学制度の抜本的な改
正であり、私どもはその趣旨を十分に理解し、対応すべきであると思っております。
最近、トム・クルーズ主演の明治維新をテーマにしたラスト・サムライという映画が上映され、高い評価を
得ていると聞いております。明治維新は色々の角度から評価されておりますが、私はその一つが教育制度の導
入であると思っております。例えば岩手県の小さな村にも明治7年に小学校が開設されました。校舎もなく、
先生はおらず、現在の感覚では到底、開設は無理であると思いますが、このようなことからも明治維新の心意
気を感ずることが出来ます。やがてヨーロッパの大学をモデルに、国づくりに必要な人材、エリートを育成す
るために大学が創立されました。大学が国づくりのエリートの集まりということもあって、社会は大学、そし
て大学生に対して敬意を払うようになり、次第に大学は社会から隔離され、
「象牙の塔」としての性格を持つ
ようになりました。
終戦後、昭和25 年にアメリカの占領政策として、教育制度は大きく変わりました。その一つは大学の大衆
化で、駅弁大学と言われた国立大学もまた、それ以上に私立大学が急増いたしました。当時、マルクス・レー
ニン主義のイデオロギーを基にした平等主義思想の影響もあり、大学は次第にエリートを育成する「象牙の塔」
としての性格を失い、ヨーロッパの大学に見られる「人材育成は国家の責任」という原則が崩れ、また、社会
の大学に対する信頼感が失われているのが現状です。近年の大学病院における医療事故多発は、社会の大学に
対する信頼感の喪失を直接的ではありませんが、さらに助長するものと思っております。
また、大学は許認可制で、細部にわたって厳しく規制されており、日本では他の国に見られるような特色あ
る私立大学を創設することが難しいのが現状です。最近、国家レベルの評価システムが導入され、大学の均質
化と大学間の格付け、さらに、私立大学では国立大学の模倣化が加速しており、特色ある大学づくりが非常に
難しくなっております。私立大学にとっては大きな痛手であると思っております。
これまで大学は教育・研究の場であるということから、
「管理・運営」という言葉が使われ、経営という言
葉は使うことはありませんでした。国立大学のみならず私立大学でも、
「大学には教育・研究推進のための予
算の管理と業務運営があれば良いのであり、金儲け的なニュアンスの経営という言葉は馴染まない」と考えて
おり、経営という言葉に対してアレルギーになっていることは事実です。
最近、国立大学の決算が公表されるようになりましたが、比較的分かり易い病院収支を見ると、すべての大
学病院は赤字決算になっており、このような杜撰な大学の経営を根本的に改善するためには、単に経理上の問
題としては処理することは出来ず、大学の制度改革が必要であると思われます。特に、グローバル化が進み、
市場原理に基づく競争の時代になれば、大学制度改革は必要不可欠であると思います。
このような大学の歴史的流れ、大学を取り巻く環境を考えると、管理・運営から経営への転換を目標とし
た、大学の抜本的な制度改革を基調とした国立大学の法人化は必然であると考えられます。
大学制度改革による管理・運営から経営への転換
本学においても大学の制度改革が必要であると同時に、今後の市場原理に基づく大学間の競合にも的確に対
応できる体質作りが求められることになります。
私立大学は学校法人であり、形式的には法人化されておりますが、国立大学と同様に、管理・運営が実体で
あり、経営からはほど遠いと感じております。かつて大学の競争力を高めるために学納金の値下げや教職員の
待遇改善を考えていましたが、これらは一度実施すれば後戻り出来ない性質のもので、なかなか踏み切ること
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新春のごあいさつ
が出来ず、極めて初歩的な経常経費の削減が精一杯の経営努力でした。
ご理解いただけると思いますが、管理・運営と経営の違いは財務管理や管理会計などの経理上の問題ではな
く、大学の制度上の問題であり、経営に転換するためには、大学の制度改革が必要不可欠で、皆さんのご協力
を心からお願いいたします。
私は国立大学法人化の大学の制度改革は極めて優れた改革案で、私どもはこれをモデルにすべきであると思
っております。
国立大学法人化の基本となる制度改革は学長のリーダーシップの確立と教授会の権限の大幅な削減で、これ
に伴って、講座が改組され、Parkinsonの法則による部局拡大主義が排除されることになり、これが大学の管
理・運営から経営へのキーポイントになります。
本学でも国立大学の制度改革をモデルに、将来構想委員会を中心に制度改革を検討していただきましたが、
1)大学制度改革による経営への転換と、2)教職員が本来の仕事に専念できる組織体制をつくることを基本
理念にしております。
本学の制度改革では学長・病院長のリーダーシップを確立すること、それによって、講座再編などの組織改
革の方向性が自ずから決まってまいります。基本部分についてはすでに合意が得られており、学長や病院長の
リーダ−シップの確立と学長や病院長の方針を着実に実行するための支援体制づくりも終わりました。これに
よって講座制度の再編、部局拡大主義の排除や教職員が本来の仕事に専念出来る体制に変わることになります。
皆さんもお察しのとおり、学長や病院長のリーダーシップの確立ということは、言葉を換えれば、大学の運
命を学長や病院長に託すことで、学長・病院長の選考が非常に重要になります。また、一方では学長・病院長
のリコール制度も必要で、この点は国立大学法人化の考えをそのまま導入すべきであると思っております。
次に、大学間の競合についてお話をいたします。
アメリカの大学の総予算に占める学生納付金の割合は10 %未満であると言われておりますが、本学と姉妹
提携の関係にあるマーサ大学はジョージア州から多額の補助を受け、学生の負担は州立大学と同じ程度に抑制
されております。日本の国立大学の総予算に占める学生納付金の割合は12%前後でアメリカとほぼ同様です。
私立大学においては一般に、総予算の72 %が学生の学納金ですが、本学の授業料は国立大学の 12.5 倍以上で
あり、このような授業料の格差では優秀な学生を集めることはもちろん、少子化ややがて医師過剰時代になれ
ば私立医科大学への志願者が激減する可能性があります。この点については本学は早くから入学センターを開
設して、可能な限りの努力をしておりますが、さらに、情報の発信基地としての広報部の一元化と強化を考え
ております。
これからは市場原理の基に大学間の競争が激しくなると思いますが、教育・研究と診療について特色ある大
学づくりに尽きると思っております。今後、学長、病院長さらには総医研所長の責任は非常に重いと考えてお
りますが、幸い、国立大学の評価は研究に重点が置かれる可能性が高く、本学の「良医の育成」や「患者本位
の医療」はそのまま本学の特色になります。しかし、これに満足しているとやがて研究レベルや診療レベルが
問われることになります。
先日、学長、病院長とも話をいたしましたが、本学の特色として、診療に直結した研究の活性化、例えば、
ゲノムセンター、がんセンターや再生医療センターなど、基礎と臨床の合同の研究チームの結成などによって、
本学の特色を明確にすることも一つの方法であると思っております。経営的に見れば新たな投資ということに
なり、これまでと違ってプロジェクトとして、その将来性を十分に検討しなければなりません(経営)
。何れ
にしても大学制度の改革が順調に進めば、私自身は本学の将来は明るいと思っております。
20世紀はマルクス・レーニン主義のイデオロギーを基本とした、魅惑的な平等思想の影響を強く受け、日本
は近代的な社会主義国家とまで言われ、大学も均質化し、同時に特色が失われることになりました。私どもは
すでに平等思想は否定し、21世紀のグローバル化の波の中で、市場原理を中心とした自由競争社会を乗り越え
るために、大学は一層の努力をしなければなりません。
この現状を全教職員は認識し、十分に理解し、ご協力下さるよう心からお願いして、年頭の挨拶とさせてい
ただきます。
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学 長
竹 越 襄
皆様、新年あけましておめでとうございます。本年も
り、こういった世界の現状をよく考えて、この日本とい
宜しくお願いいたします。例年、正月を過ごした話をし
う国の役割がひとつ大事ではなかろうかと思います。日
ておりますが、今年は非常に長かったということで、の
本は不景気だとは言いますが、それでも今の話から考え
んびりさせていただきました。皆さんもおそらくゆっく
てみましても、非常に幸せな国でございます。それを感
りと過ごされたことと思います。去年も少しお話しいた
謝し、国に感謝し、やはり自分の属する組織に感謝する
しましたが、正月に門前の総持寺へ行って参りました。
ということが、大切なことではないかと思います。日本
総持寺はご存知のように、板橋興宗先生という住職がい
人というのは、戦後の教育の影響もありまして、帰属意
らっしゃいまして、この方は昔大乗寺の住職で、それか
識が非常に薄れてきております。国に対し、あるいは組
ら横浜の鶴見の本山の管長をされ、今度門前の方に来ら
織に対して帰属意識を持つという、そういった教育を将
れた方でございます。門前の総持寺というのは、元々祖
来していく必要があるのではないかと思っております。
院といって、鶴見へ移る前の曹洞宗の本山でありました
また、私は石井英夫さんが書かれている産經新聞の産
が、それが鶴見の方へ移ってからさびれて、少し寂しい
經抄を毎日読ませていただいております。この方は、ス
お寺になったらしく、それをこれではいけないというの
ライスボールと申しますか、右傾化していると言われて
で、長い間そのままになっていたのを、板橋先生が行っ
いますが、非常に常識人で、日本あるいは日本人にとっ
て立て直すという、そういった意気込みで来られたそう
て当然の事を言われる方で私は大好きであります。今朝
であります。その話をお聞きしまして、なるほどと感心
も産經抄を読んでまいりましたが、日露戦争に勝ったの
いたしました。総持寺は非常に佇まいが良く、永平寺の
は江戸時代の教育であり、江戸時代の教育が日露戦争に
ように決して豪壮ではありませんが、のんびりとした非
勝ったという、そして実を結んだということであります。
常にいいお寺でございました。是非皆さんも一度訪れら
日露戦争の乃木将軍はじめ素晴らしい方々が、すべて江
れたらと思います。
戸時代からの教育を受けてきており、孔孟の教えと申し
今ほど理事長先生からいろいろお話しをいただきまし
ますか、そういったことが精神の土台にあったというこ
たけれども、その中にイラクの話が出てまいりました。
とでございました。なるほどと思い感心いたしました。
去年から自衛隊の派遣の話をはじめ、いろいろと国内外
は騒々しく、大変だと思いますが、日本という国はそう
これから本論に入りますが、理事長先生からは、総論
いう意味では、非常にハッピーな国ではなかろうかと思
的と申しますか、大学の大きな方針をお話いただきまし
います。というのは、先日米国の前大統領クリントン氏
て身の引き締まる思いでございますけれども、私は立場
が来日された際、お話された抄録を少し拝見させていた
上、教育、研究、そしてこれは病院長の分野ではござい
だきましたが、世界には63 億の人口があり、そのうち10
ますけれども診療について、少し各論ということで将来
億の人が1日1ドル以下の生活をしており、そしてさら
の考えを含めてお話させていただきたいと思います。
にその内の5億の方がコップ一杯の真水を飲めないとい
医学教育の将来
う、そういうことだそうです。これをどういうふうに捉
まず教育のことでございますが、医学教育というの
えるかは、非常に難しいところではございますが、やは
は、現在転換期を迎えて非常に難しく、大事な時期では
この年頭挨拶は、イントラネットを通じてビデオ・オン・デマンド(各端末で随時再生可能)で3月31日までご覧になれます。
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新春のごあいさつ
ありますが、2、3年前から始まりましたコアカリキュラ
て富山大学、そういったところの医学部の有名な先生
ムを中心とした PBL 方式、そして共用試験、あるいは
の、また、自分の興味のある講義を聴きに行くとか、お
CCS の問題がほぼ軌道に乗りまして、今うまく作動して
互いに行ったり来たりできるという、そういった形態の
いる状態でございますが、私は将来、医学教育学、医学
教育方法も将来必要ではないかと思います。ですから教
情報学、そして教務部を併せた医学教育センターという
員も教育に力を入れる必要がありますし、学生諸君もい
ものを構築し、そこで教育全体をみるという、そういう
ろんな先生の話を聞いて勉強するという、そういうシス
システムが良いのではないかと考えております。問題は
テムが将来考えられるのではないかと思っております。
今の教育のBeyond PBL、Beyond tutorial ということです
教育については、他にいろいろと考えがございますけれ
が、その後に何が来るかということを常に頭に置きなが
ども、こういったBeyond ということを常に頭に置きな
ら、そして、現在の教育をやりながら、将来の教育を考
がら前に進むという、それが一つ大事なことではないか
えていくべきであろうかと思います。というのは、現在
と思っております。
の教育法は必ずしも理想的な教育ではないと思います。
研究の活性化に向けて
私は毎年6年生と昼食会をもうけ、いろいろ話しをして
それから研究でございますが、当然のことながら研究
おりますが、PBL をした学生で、非常に優秀な学生はう
というのが大学の評価の上では非常に重要になっており
まく受け入れて勉強しているようですが、学力の劣ると
ます。大学基準協会からも研究業績が少し足りないとい
申しますか、あまり勉強しない学生は、ほとんど予習を
うチェックが入りましたけれども、そういった意味では、
してこない、やる気が無いという状態であると、その差
研究の活性化というのは非常に大事なことで、21 世紀
が非常に顕著であると話しておりました。これはどうい
COEプログラムに採択されるような、そういったことを
うことかと思い、踏み込んで聞きましたところ、やはり
目指して、一つ目標を持って、それぞれの医局なり講座
このPBL システムそのものに問題があり、できる学生は
で頑張る必要があると思っております。それには産学共
それを非常にうまく活用して自分のものにするけれど
同といった共同研究が必要であります。その点に関して
も、少し学力の劣る学生はそれについていけず、課題の
いろいろ調査いたしましたが、まだまだ不十分でござい
ディスカッションに入り込めないという、そして勉強し
まして、そういった意味では、さらに今年度は頑張って
ていないからだんだん学力が低下してますます差が広が
産学共同の研究を推し進めていく必要があると思ってお
ってくるとのことでございました。これはPBLを始める
ります。しかし、一つ二つそういうseedsが出てまいり
前からそういう懸念はありましたが、学生諸君に直接聞
まして、寄附講座を中心として、先ほど理事長が言われ
きまして、やはりそうかと納得させられました。そうい
ましたゲノムの研究、あるいは癌、再生医療、遺伝子治
うことを踏まえていきますと、将来考え直す時期が来る
療などを中心とした講座を寄附講座として立ち上げる、
と思います。今医療の世界でありますindividualization、
将来そういう可能性が出てきておりますので、大いにバ
いわゆる個別化という観点から見まして、そういった人
ックアップをして、時限かもしれませんが、そういった
らを別の形の教育方法で鍛え直すという、そういう個別
形でプロジェクトを進め、研究の活性化に結び付けたい
化ということが非常に大事ではないかと考えておりま
と考えております。研究に関してはいろいろ問題はござ
す。これは教員にとっては大変な労力でありますが、そ
いますが、資金面も非常に大事なことですので、そうい
ういった学力の劣っている学生には、個別化したキメの
った財政的な支援も増やして、大いに活性化していただ
細かい教育方法が必要ではないかと思っております。教
きたいと思います。
育というのは、そういう意味ではどこのレベルに合わせ
先ほど少し言い落としましたが、21 世紀COE プログ
るかというのは非常に難しい問題で、私どもは教育学部
ラム、これは研究の方ですが、教育の方では再チャレン
を出ておりませんし、そういうことは分かりませんので、
ジ、再挑戦したいと思っておりますので、その点もひと
試行錯誤を重ねながら、いろいろな情報を集めて勉強し
つご協力いただきたいと思います。去年の場合はやり方
ていく必要があると思っております。
が少し良くなかったかなと思っております。確かに電子
もう一つは、外国ではポピュラーでございますが、
カルテによる教育というのは、非常にユニークで新しく
Beyond PBL、Beyond tutorial といいますか、その後に来
て誰もやっていない方法ですが、全体的な教育方式の中
るものの一つは、恐らく大学間の問題、すなわち、各大
の占める位置というのをもっと強調して、はっきりと打
学の学生が自由に往き来できることであります。例え
ち出すべきであったかなと反省しております。今年はも
ば、北陸3県で申しますと、金沢大学、福井大学、そし
う遮二無二それに向かって、どうしても勝負したいと思
7
っておりますので、ひとつよろしくお願いしたいと思い
できると思いますが、またいろいろとご批判いただきた
ます。
いと存じます。しかし、事は急いでおり、4月からスタ
アゲンストウインドの医療費
ートしたいと思っておりますので、作業を急ぎ、また皆
診療に関しましては、内田病院長が日夜苦労して大変
な目にあっておられまして、本当にご苦労なことで、私
さんとご相談したいと思っております。
教職員の評価
も力一杯応援したいと思っております。何を申しまして
やるべきことは沢山ございますが、最後に一言付け加
も、医療費はアゲンストウインドでございまして、これ
えたいのは評価についてです。評価認証というのは、今
は財政的に非常に難しいことには間違いありません。で
はもう世界的には当たり前のことで、日本国内でも評価
も私の恩師の村上先生がゴルフが大好きで、私もよくお
認証が各方面で進んでおります。それは、ひとつには去
供させていただきましたが、
「お前、アゲンストウイン
年から講座費の配分を、業績を中心とした配分の方法で
ドの時はどうやって打つか分かるか、ティーを低くして
行っております。来年度もそれでお認めいただきました
コンパクトに振り抜いて低い球を打て、頭を使わんとア
が、そういった形で評価を中心とした運営、今度は各個
ゲンストウインドには勝てんぞ」ということをいつも言
人に対する評価ということがございます。これはなかな
われておりました。恐らく、今ご存命でしたらそういう
か日本人には難しいことですが、しかし、これをしない
風に頭を使えと、アゲンストウインドの時は頭を使えと
と先ほどありましたように、将来は無いと思っておりま
いう風に言われると思います。そういった気持ちでひと
すので、やはり教職員の評価を行うということが、非常
つ病院、医療の方を頑張っていただきたいと思います。
に大事であろうかと思います。要するに契約制と申しま
もちろん私共も一緒になってやることですが、病院は今
すか、任期制の問題が入ってくるわけです。これは少し
度新しく人事の方も優秀な人が配置されたようでござい
遅れるかもしれませんが、必ず実行する必要があると思
ますので、ひとつ張り切っていただきたいと思います。
っております。
臨床研修の必修化に向けて
それから問題の臨床研修の必修化でございますが、こ
ということで、6つほどいろいろお話させていただき
ました。皆さんご存じかと思いますが、小説家の武者小
れはまだはっきりしておりませんが、57 名という大勢の
路実篤が「仲良きことは良きことかな」ということで、
研修医が今年4月から入るわけで、それをめぐっての対
新しい村を、理想郷を作りました。
「仲良きことは良き
応というのは非常に大変だろうと思いますが、教員の
ことかな」と、新しい組織作りのためには、やはりみん
方、あるいは事務の方も共同して、ひとつ頑張って研修
な仲良く頑張ってやっていきたいと、そういう風に思い
医のために骨を折っていただきたいと思います。そのた
ますので、ひとつ今年一年気合をかけて、前向きで精進
めには、理事長先生とこの間話をしておりましたが、患
していただきたいと思います。
者様のため、研修医のために、臨床業績の上がっている
人に教授職についていただき、診療活動を中心に活動し
てもらおうと考えております。
講座の改組・改編について
5つ目は先ほど少し話がありましたように、講座制の
ことでございますが、私の頭の中では大体固まってきて
おりまして、教授の先生方に部屋にお越しいただきまし
て、縷々お話をさせていただきましたが、これは人的、
経済的、財政的な面、あるいは研究、教育の活性化とい
うことで、こういった改革をするわけで、決して皆さん
が働きにくくするわけではございません。特に臨床など
は有機的な連携ということで、ひとつ同じ臓器の人は一
緒になってやっていただきたいと、それは経済的なマン
パワーも、それからエコノミカルにも、非常に有効なこ
とですので、そういうところをご理解いただきたいと思
います。また、研究が進むように大学院の要素もそれを
組み入れて構築いたしました。そのうち皆さんにご披露
以上、年の始めの挨拶とさせていただきます。本日は
どうもありがとうございました。
8
新春のごあいさつ
病院長
内 田 健 三
明けましておめでとうございます。今年のお正月は雪
下回っておりますが、診療単価は共に上昇しておりま
もなく、皆様には穏やかな新年を迎えられたことと思い
す。収入は入院が微増ですが、外来は前年実績を下回っ
ます。
ており、合計では1億円強減少しています。最近は移転
昨年、前半は入院医療への診断群別包括評価( DPC:
の影響も落ち着いたようですので、3月までには何とか
Diagnosis Procedure Combination)の導入に向けた準備作
前年実績をクリアできるのではないかと思っておりま
業や新館の完成に向けた機器備品の整備・選定作業と運
す。入院収入は DPC と出来高請求との割合がほぼ半々
営の検討に始まり、後半は新館落成に伴う病棟、中央診
となっておりますが、DPCを出来高に換算した場合、月
療部門、外来などの移転準備作業や新館での運用試行等
数千万円程度DPCの方が高くなっております。包括点数
であっという間の1年でしたが、皆さんには大変ご苦労
や病院係数は毎年見直されることになっており、今後、
をおかけしました。DPC の方は6月から導入いたしまし
一般病院の入院医療にも導入される可能性が示唆されて
たが、ようやく日常診療に定着したようですし、新館へ
いることから、DPCが出来高よりプラスになるという現
の患者さんの移転作業もお蔭様で事故もなく作業が完了
象は、今後は余り期待できないと思います。このため診
できましたことを改めて感謝いたします。
療に当たっては診断群分類の選択や所定の在院日数に十
新館への移転後の運用や本館、別館との連携等で問題
のある箇所については、緊急度の高いものから順次、で
分注意して、DPCに準拠した効率の良い医療の実施を心
がけていただくようお願いいたします。
きる限りの改善を行っておりますが、いくつかの指摘を
今年は4月に診療報酬の改訂がありますが、昨年12 月
いただいておりますので、早々に各部門長から運用状況
には厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協
についてヒヤリングを行い、改善すべきものを取り纏め
議会(中医協)が、医療行為や技術料などの本体部分は
たいと考えております。
据え置き、薬価と医療材料については医療費ベースで
今年は新館と本館との距離的な問題を解決すべく中央
1.05%引き下げの方向で厚労相に報告しており、前回に
放射線部を核としたアネックス棟の建設計画が具体化す
続いて引き下げは確実で、今年は臨床研修の義務化によ
る年として期待しておりますが、地方の特定機能病院と
る研修医・指導医の給与・手当の財源確保の問題も含め
しての特性を配慮した総合的な医療提供体制について検
病院予算はさらに厳しさを増すことになります。
討していただくことになると思いますので、その節はご
選ばれる病院に
協力の程よろしくお願いします。
このような経営状況の中では、当然、収入の減少に見
本日は年の初めでありますが、今年度実務的なことで
合う支出の抑制が必要なことは言うまでもありません
病院全体として取り組むべき項目についてスライドでお
が、医療機関が一定の収益を維持確保していくには、新
示ししながら年頭の挨拶といたします。
患の患者さんを確保していくことが医療経営の基本であ
DPCと医療収入
ると思います。現在、
「石川中央」という二次医療圏の
はじめにDPC が導入された昨年の診療収入について少
中に大学病院が2つと国立と県立の基幹病院が2つ、合
しお話をしたいと思います。昨年11月まででは、移転作
わせて4つの大病院があり、限られた人口のこの供給過
業の影響で入院、外来ともに患者数が大幅に前年実績を
剰地域の中で、ハードとソフト面の改善を重ねながら
この年頭挨拶は、イントラネットを通じてビデオ・オン・デマンド(各端末で随時再生可能)で3月31日までご覧になれます。
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「如何にわが病院を選択していただけるか」と常に努力
病床利用率と平均在院日数
していかねばなりません。入院患者さん増加の基盤とな
話を新館の病床運用に移しますが、新棟建設に伴う補
る外来患者さんをいかに増加させていくかは、医師の診
助金の関係から一般病床が 75 床減り、許可病床(実働
療レベルや医療者の患者サービス、アメニティ等のソフ
病床数)が938 床となりました。昨年はDPC導入により
トとハードの両面を充実して他の医療機関との差別化を
平均在院日数が大幅に短縮いたしましたが、新館への病
図って優位に立つことが最善の策と考えております。
棟移動のため入院患者の抑制が働いたこともあって病床
さらに、特定機能病院である大学病院は一般の基幹病
利用率が 70%台にまで低下し、当院の予約入院患者の
院と同じ診療内容では、特徴もなく患者さん同士の口コ
少ないことが露呈された格好になりました。厚労省が発
ミによる新患の開拓・増加にはつながりません。患者さ
表したDPC導入後の国公私立大学の本院 82病院の昨年
んが安心して受診できるような高い医療レベルとインフ
7月から 10 月の3カ月の平均在院日数を見ると、当院は
ォームド・コンセントや接遇応対、さらに癒しのアメニ
18.23 日で短い方から 26 位で、金沢大学は 27位の 18.31
ティなど環境の充実が病院選択の重要な要素で、決して
日となっております。因みに最も短い在院日数は、14.80
疎かにできない部分です。患者さんの要望に対してタイ
日、一番長いのは 2 4 . 2 5 日となっており、全国的にも
ムリーにきちんと対応していくことが「選ばれる病院」
DPC の導入が在院日数の短縮化に拍車をかけ病床利用率
の基本的条件であり他医療機関からの新規紹介にもつな
も非常に低下していることから、医療の量から質への転
がるものと考えています。
換と効率的な医療の展開という医療費抑制策に端を発し
幸いにして当院は、老朽化したハードの改修が新館建
た国の医療構造改革の目的の一端が明確に現れてきてい
設という形で完成しました。新館ではいくつかの新しい
ると感じます。病床利用率は12月に入りようやく82 ∼
システムが稼動していますが、中で働く私たち自身も従
84%台までに回復してきましたが、まだ目標の 90%台
来の形式に捉われず、原点に戻り「医療とは何か」を問
に到達しておりません。特に新館は個室の増加により、
い直しながら、安全確保を第一義に新たな気持ちで診療
診療科によっては多人数病床の不足も否めない状況にあ
体制を再構築していかなければなりません。
ります。このため、従来と同じ入退院方法では、病床が
新医療技術の開発と応用
減少した分だけ入院患者数が減ることは目に見えており
先程、他の医療機関以上の評価を得るためには「一般
ます。また、特別個室フロアーの稼働率が極端に低いた
病院に優る診療レベルを示さなければならない」と言い
め、もう少し稼働状況を見ながら、個室全体の室料差額
ましたが、昨年から関連病院会議や地域医療懇談会で各
の設定金額も再検討すべきでないかと考えています。
診療科の専門外来を紹介してそれぞれの特徴を他医療機
今後の病床運用
関の先生方に知ってもらうようにしております。患者紹
これまでの病床運用は、患者さんの都合に合わせて入
介率への効果はどうなのかまだ検証はしていませんが、
院日を設定しておりましたが、これからは計画的に入・
今後も新しい医療技術の開発やそれを応用したユニーク
退院日を合わせるいわゆる「午前退院、午後入院」によっ
な診療に力を入れていただき、患者さん自身による口コ
て病床を1日に2回転させて利用率を向上させていく努
ミやマスメディア等を利用したPRにより、他医療機関
力が必要となります。さらにまた、患者さんの自己負担
からの紹介による新規の外来・入院患者さんの確保と増
を軽減するため、術前検査や化学療法の外来実施や診断
加に努力をお願いいたします。
群別の在院日数を基本にしたパスによる入院治療・退院
今年度から DPC における病院の評価係数に、外来機
指導計画の策定、実施や退院後のフォローとしてケース
能の評価として専門外来患者数が明確化されましたの
ワーカーを利用した他医療機関への逆紹介転院や療養病
で、特定機能病院として特殊で高度な外来診療機能の充
床、回復期リハ病床への転棟など、きめの細かい患者管
実も急務です。現在の医学では高度な医療技術の開発に
理と病棟運営に積極的に取り組んでいただき、入院期間
は、最新の高度医療機器の購入が必要不可欠になりつつ
の短縮と効率的な医療の展開、そして病床の有効利用に
ありますが、限られた予算の中で要望どおりの機器購入
努力していただきたいと思います。また、新棟は完成し
は非常に難しく毎年苦慮しております。しかし、医療に
ましたが、本館と別館と新館の三ヵ所に分散した診療機
も先行投資は当然必要であり、新技術の開発、実用化に
能を今後どのように再整備していくのかアネックスの建
より医療収入の増加に直結していくもので、正確な収支
設計画に含めて早急に検討しなければなりません。現
見通しに立った要望書の提出があれば検討の上、鋭意、
在、厚生労働省が中医協に対して新たな病棟機能とし
法人当局と交渉をしていきたいと思います。
て、集中治療室と一般病床の間に位置して重症度や看護
10
新春のごあいさつ
必要度が高い患者を受け入れ、密度の高い医療や手厚い
から多く聞かれ、患者さんからのクレームも多々ありま
看護を提供する「ハイケア病棟」や回復期医療を行う新た
す。臨床医全員ではないと思いますが、診療行為はすべ
な病棟として、急性期から回復期そして慢性期へと移行
て医師の指示から発生するわけで、この指示時間が勤務
する途上の患者や慢性期疾患の急性増悪などで一時的に
時間内に終了する形でないと(原則的には午後3時まで)
医療必要度が高まる状態の患者を想定した「亜急性期病
周辺の関連業務量が一定せず、適正な人員配置や業務の
棟」の診療報酬上の評価について提案しています。具体
効率化も図れず、さらには「確認・指示受け・確認」と
的な実施時期や一般病床との関係などは明確でありませ
いう安全確保の基本原則すら医師不在によってタイミン
んが、今後、入院診療機能を再整備していく上で重点項
グよく受けられないという事態が生じているようです。
目になると思います。
当然、緊急時の体制は確保されているようですが、極論
職員数と安全管理体制
さて、平成 16 年度は、新館の運営を中心に今までお
すれば通常業務が緊急時の対応になっている様な部署も
見られ、極めて不安定な状況にあるといえます。また、
話した内容を具体的に実行していくことになるわけです
主治医一人の受け持ち患者数が多く、インフォームド・
が、平均在院日数を短縮して病床利用率を上げ、且つ、
コンセントが十分になされず、トラブルや事故に繋がっ
医療の安全体制を確保していくには、的確な入院時治療
たり、指導医不在で経験の浅い医師がそれらトラブルの
計画の策定や患者さんの QOL向上のための援助、指導
矢面に立たされるケースが散見されるようになっていま
のほか、医療の安全確保に立脚したインフォームド・コ
す。
ンセントの徹底など医師と看護師、看護助手その他の医
医師の外勤については、昨年の厚生労働省の医療監視
療関係者間の連携の強化と業務量の増加に伴う人員の整
でも勤務時間数について指摘があり、特に診療報酬上の
備、充実が不可欠であることは言うまでもありません。
基本診療料において施設基準申請に係る届出医師の勤務
外来診療においてもDPCの効率的な推進のため、従来入
時間が就業規則上の所定勤務時間を大幅に下回ってお
院で行っていた術前検査や化学療法を外来通院で実施す
り、常勤と認められないとされ、早急な改善を指摘され
るケースが増加しており、今後はそれらが主流になって
ました。これは当然のことであり、施設申請が認められ
いくことを考えれば、当然、外来での医師や看護師、看
ないと年間数億円収入が減る計算になるため、現在、勤
護助手の人的な体制の整備が必要になってきます。新館
務計画表の作成による改善策を検討しています。
への移動にあたってもお願いしましたが、今年は患者教
一方、今年から臨床研修が義務化されます。各診療科
育も含め、外来の予約診療をより正確な時間で実施する
では指名された何人かの指導医が、本来業務の8割近く
ことを徹底すると共に、午後3時までの診療時間と診察
の時間を院内での研修医指導に費やすことが義務付けら
室を有効に使っていただくことで配置人員に対する時間
れますので、院内での医師不足に拍車がかかる事は明白
当たりの業務量を均等化していきたいと考えています。
となっています。
この業務量の均等化は、診療の周辺業務に配置する人数
以上の状況に鑑みて、従来より1週間に原則 1.5 日の
や機器台数などの作業効率に大きな意味を持っており、
外勤が容認されてきましたが、これを週 1.0 日に戻し、
今後効率的で適正な配置を行っていく上でその根本にか
さらに派遣先病院数を絞り込むことで医師の内勤時間数
かわる問題ですので、時間予約診療の完全実施を是非実
を増やして医師数の確保を図っていく対策を考えており
現していきたいと考えています。
ます。現在内科系を中心とした検討案を骨子にして、病
平成 16年度の看護師数については、昨年10 月の常任
院案ができておりますが、早々に外科系を交えて検討を
役員会で、定数に約43名を増員していただきました。適
行い、4月からの具体化に向けて作業を進めたいと思い
正な数の看護者の確保により、特に夜間や重症病棟の医
ます。医療事故の防止や医療の質の向上を実行するため
療の安全の確保と手厚い看護体制による患者さんのQOL
の平成16 年の一大プロジェクトとしてご理解いただき、
向上と在院日数の短縮などで病棟及び外来での患者さん
ご協力の程をよろしくお願いいたします。
周辺の業務量が著しく増大してきていることへの対応で
昨年からの積み残し事項を含め、今年も課題が山積し
す。
ておりますが、この1年間ご協力の程よろしくお願いい
医師派遣の制限
たします。
一方、医師数につきましては、外勤の都合等に合わせ
て院内での本業務のスケジュールを決めるというような
ことは主客転倒でないか、という苦情が周辺業務関係者
11
学 事
平成16年度
特別推薦入学試験 (AO入試)・推薦入学試験・
編入学試験終わる
◇特別推薦入学試験(AO入試)
本学の特別推薦入学試験(AO入試)は、医師となる者の
倫理性、人間性が一層強く求められる時代にあって、従来
の学力を中心とした入学試験では評価が困難であった学習
本学の推薦入学試験制度は、目的意識を持ち個性豊かで
優秀な人材を見出し、ゆとりを持って学習を進めてもらう
ことを目的として、昭和61年度入試から実施されている。
今年度は、募集人員約20 名に対して全国各地から64名が
意欲、使命感、人間性の評価に重点をおいて選考すること
を主旨として設けられた入試である。建学の精神に沿った
出願し、欠席者2名を除く62名が「基礎学力テスト」・「小
論文」・「面接」の各試験に取り組んだ。
人間性豊かな活力のある人材を求めるために、平成13 年度
入試から実施されている。
合格者は20 名で、11 月28 日(金)午後1時に本部棟正面
玄関ならびに本学HP上に公示された。
募集人員約10名に対して全国から134名の出願があった。
第1次選考は書類選考であって、内申書とともに、本人、教
師、家族のそれぞれによって書かれた推薦書について選考
が行われ、10月28日(火)に第1次選考合格者 27名が発表
◇編入学試験
第2次選考合格者は 11名で、11月28 日(金)午後1時に
本部棟正面玄関ならびに本学HP上に公示された。
平成16 年度編入学試験は、11月23 日(日)
、本学で行わ
れた。
本学の編入学試験制度は、医学以外の分野を修学した者
に医学を学ぶ道を開き、すでに履修している教養科目の重
複履修を省いて効率的に医学の専門教育を実施し、医学の
研究及び医療の実践に貢献する有為な人材を育成すること
を目的として、平成3年度入試から実施されている。
今年度は、募集人員約5名に対して81 名が出願し、欠席
者3名を除く 78名が「英語」・「小論文」・「面接」の各試
験に取り組んだ。
◇推薦入学試験
合格者は5名で、11 月 28日(金)午後1時に本部棟正面
玄関ならびに本学HP上に公示された。
された。
第2次選考は、11月16日(日)に本学にて上記27 名につ
いて「個人面接」・「小論文」・「集団面接」が行われた。
またこの27 名については、試験委員が全国に出向いて推薦
書を書いてくださった教師とも面接を行い選考の参考とし
た。
平成16年度推薦入学試験は、11月 16日(日)
、本学で行
われた。
(入学センター村井幸美記)
一般入学試験の日程は以下のとおり
一般入試は第1次試験で学力試験が行われ、その合格者に第2次試験として面接試験を課して最終判定が行わ
れる。
1. 募集人員:約65名
2. 出願期間:平成15年12月15日(月)から平成16年1月13日(火)まで
3. 試験期日:第1次試験
第2次試験
平成16年1月21日(水)
平成16年1月27日(火)28日(水)のうち希望する日
4. 試験科目: 第1次試験
外国語(英語Ⅰ・Ⅱ)
、数学、小論文
選択科目(物理・化学・生物から2科目選択)
面接
第2次試験
5. 試験会場:第1次試験
第2次試験
本学、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡
本学
6. 合格者発表日: 第1次試験
第2次試験
平成16年1月24日(土)午前11時
平成16年1月30日(金)午後1時
12
平成15年度
遺骨返還式
平成15年11 月29日(土)午後2時から、本部棟2階会議
室において平成15年度遺骨返還式が行われた。式には献体
者ご遺族、解剖学教職員ら約40名が出席した。
開式の後、医学部第2学年生を代表して森近大介君がお
礼の言葉を述べた。次いで、解剖学講座教授、ご遺族の
方々、森近君ならびに本学教職員が、献体者の尊いご意志
を偲びつつ献花を行った。その後、ご遺骨が解剖学Ⅱ講座
篠原治道教授から遺族代表一人一人に手渡された。最後に、
解剖学Ⅰ講座平井圭一教授から、長い間ご遺体をお預かり
お礼の言葉を述べる第2学年学生代表の森近大介君
させていただいたことについて改めて謝辞が述べられ、厳
粛なうちに式を終了した。
文部科学大臣感謝状贈呈
遺骨返還式に先立ち、本部棟2階会議室において文部科
学大臣感謝状贈呈式が行われ、天寿会会員で献体された次
の方々のご遺族に対し、大原義朗教務部副部長から感謝状
が贈呈された。
故番場清春殿 故加藤志づ殿 故国田昌子殿
故岩田良太殿 故三宮菊代殿 故中山幸造殿
(解剖学Ⅱ谷口豊記)
平成16年度
大学院医学研究科選抜試験(第1次・第2次募集)
平成16 年度大学院医学研究科第1次募集選抜試験が平成15年9月 24日(水)に実施され、5名が受験、5名が合
格し、4名が入学手続きを完了し、入学を許可された。
また、第2次募集選抜試験が平成15 年12 月24日(水)に実施され、2名が受験した。平成 16 年1月 13日(火)
に合格者が発表される。
なお、第3次募集は、平成 16年2月2日(月)から 13日(金)まで出願書類を受け付け、2月25日(水)に選抜
試験を実施し、3月15日(月)に合格者が発表される予定である。
(大学院課林秀樹記)
13
平成16年度 看護専門学校
推薦入学試験・社会人特別推薦入学試験
終わる
◇推薦入学試験
平成16年度の金沢医科大学附属看護専門学校推薦入学試
◇社会人特別推薦入学試験
平成 14年度より高等学校卒業後3年以上を経過し、社会
人(就業)の経験がある方を対象とした社会人特別推薦入
学試験を行っており、今年度は12月7日(日)午前9時から
同校で実施した。募集人員は若干名(推薦入学の募集人員
枠)に対して22名の出願があった。
試験当日は、午前8時に受付を開始し、1 9 名が「小論
文」・「面接」の各試験に取り組んだ。選考は志願理由書・
験は、12月7日(日)午前9時から同校で実施された。
募集人員約20名に対して石川県内の各高等学校から平成
高等学校調査書・小論文・面接を総合的に判定して行われ、
合格者の発表が12月12日(金)午後1時看護専門学校正面
16年3月卒業見込みの高校3年生53名が出願した。
試験当日は、欠席者なしの53名が「小論文」・「面接」の
玄関に公示された。
なお、今年度より合格発表は本学ホームページでも公示
各試験に取り組んだ。
審査の結果、合格者は12月12 日(金)午後1時に看護専
される。また、平成16年度一般入試は、平成16年1月 14日
(水)に行われる予定である。 (入学センター村井幸美記)
門学校正面玄関に公示された。
第5回
看護学生スポーツ交流会
平成 15年 10 月 22 日(水)あいにくの雨模様の中、平成
15年度「第5回看護学生スポーツ交流会」が、本学体育館
で開催された。このスポーツ交流会は石川県私立看護学校
連絡会の主催で、各学校の1学年を対象に毎年行われてい
る。参加校は、石川医療技術専門学校、こまつ看護学校、
七尾看護専門学校、そして本校である。
開会式ではまず松原純一学校長よりあいさつがあった。
こまつ看護学校から昨年度優勝トロフィーの返還があり、
各学校の趣向を凝らした学校紹介が行われた。その後、待
ちに待った各学校対抗のバレーボールの試合で熱戦の火蓋
がきって落とされた。圧倒的大差がついた試合、手に汗握
る白熱した試合が繰り広げられ、声を嗄らし、鳴り物入り
各学校対抗のバレーボールの試合
の応援合戦が行われた。午後からは、学校の垣根を越えて
交流を深めようと企画した各学校混成チームによる“大縄
跳び”や“4人5脚”、そして、勇ましい“騎馬戦”が行われ
た。初対面の学生同士が力を合わせ、息を合わせて取り組
む姿は微笑ましい限りであった。4人5脚に特別参加した各
学校混成教員チームは、学生との年齢差を感じさせない迫
力で堂々3位に入賞した。
フィナーレを飾るのは、当然のことながら“学校対抗リ
レー”である。選手たちは各学校の名誉を背負い、優勝を
かけ、力の限り疾走した。本校は、障害物競走以外のバレ
ーボール、バトンリレーの2種目で1位を勝ち取り、念願の
「総合優勝」を果たした。入学後間もない6月、スポーツ交
流会実行委員会を立ち上げ、企画・運営に汗を流した実行
委員たちの苦労も報われた一日となった。
(看護専門学校1年担任山口由利子記)
14
学生のページ
第3回
バーモント大学夏期医学研修報告
米国バーモント大学医学部での夏期医学研修報告(期間: 2003年7月 19日∼8月2日)
岡部 瞳(第4学年)
2002 年4月 16日、祖父が亡くなったことによって私の生
き方に小さな変化が起きました。祖父は胆嚢癌が原発で脳
に転移し、病気がわかってからすぐに亡くなってしまいま
した。死を身近に経験したことがきっかけとなり、医療に
ついて、死について、QOL について、そしてこれからの自
分自身について真剣に考えることができました。そして、世
の中には生きたくても生きられない人もいるのに、なんと
なく成り行き任せに生きるのは失礼だと思い、祖父の死以
来一日一つ以上「何か」を学び、毎日を大切に生きようと
思ったのです。今年の春、SARSが大流行し、またテロが心
配されていたにもかかわらず、バーモントに行きたいと思
った理由は、このような体験からでした。
バーモント大学の実習は2週間でしたが、病理学助教授で
ある木田正俊先生によって非常に充実したプログラムが用
意されていて、数え切れないほどの「何か」を学びました。
私の学んだ「何か」について最も印象に残ったのは、Dr.
Neil Hymanとの出会いでした。この病院システムは、外来
では日本のように患者さんが医師のいる診察室に入って行
くのではなく、診察室もカーテンで仕切られてはおらず、プ
ライバシーの保たれるしっかりとした扉が付いた個室に患
者さんが通され、そこに医師が入って行くものでした。Dr.
Neil は診察室に入ると、患者さんが望むような医師に変身
する感じを受けました。というのは、違う部屋でカルテを
読む時は難しい顔をしているのですが、一旦患者さんのい
る診察室に入ると表情が明るくなり、患者さんを安心させ
ていました。先生は嫌な顔一つしないで、患者さんが納得
するまで十分に時間を取って説明し、患者さんの経過が良
い時は抱き合って喜んでいました。先生はプロ意識・職業
意識が高く、素晴らしい医師だと思いました。医療が発展
するに従って、医師と患者さんの関係が希薄になりつつあ
ると感じます。これからの医療に求められるのは、このよ
うな患者さんとの信頼関係、快い会話や明るい表情などハ
ートをもった医師だと思います。そして、このようなハー
トをもった医師に私はなりたいと心から思いました。木田
先生のおかげで、Dr. Neilのほか20 人以上の医療スタッフに
出会い、貴重な経験をさせていただきました。思い切って
バーモントに行って本当に良かったと思います。
最後に、航空券の手配をはじめ、いろいろな援助をして
くださった解剖学Ⅰの上田先生、企画をしてくださった耳
鼻科教授の友田先生、体験談に基づく多くのアドバイスを
してくれた先輩方、ありがとうございました。
高田 早苗(第5学年)
7月 21日から8月2日の2週間、Vermont 州Burlingtonにあ
るThe University of VermontとFletcher Allen Health Careにて
研修をしました。私がこの研修を志願した理由は、
“アメリ
カの医療”とはどんなものであるかを実際に自分の目で確
かめてみたいと思っていたためです。英語力に自信はなか
ったのですが、このプログラムでは木田正俊先生にある程
度サポートしていただけると聞いていたので思い切って志
願したのです。
今回の研修では医療現場のほんの一部を垣間見ただけに
過ぎませんが、多くのことを得ることができました。日本と
アメリカの医療において特に違いがあると感じたのは診察の
様子でした。診察室はプライバシーが守れる個室で、最低
30分間はじっくりと患者さんと医師が話し合っていました。
患者さんがどんどん質問し、患者さんの質問に対して医師
が一つ一つ丁寧に答えていました。現在の日本では医師に
対して質問をされる患者さんは少ないですが、患者さんが自
分自身の病気について医師に説明を求めることは社会の大
きな流れであり、将来は日本も米国の診察形式に変わるの
ではないかと思います。患者さんの質問に答えるには正確な
知識が必要です。もちろん知識だけではなく、コミュニケー
ション能力、患者さんが質問しやすい雰囲気づくりといっ
泌尿器科Dr. Mark Plantsによる前立腺・膀胱癌手術見学(左が岡部)。 本プログラムのハイライトの、Dr. Neil Hyman(右から2人目)の一
般外科クリニック訪問(右端が高田)
。
15
バーモント大学夏期医学研修報告
た気配りも必要であり、これらが総合されて患者さんとの信
頼関係につながるのだと思いました。この体験は、私が目指
す医師像を考える上でとても勉強になりました。木田先生
はとても明るく、前向きな方です。米国での経験が裏打ち
された言葉には重みがあり、説得力があります。私は木田
先生にお会いすることができて、とても良かったと思いま
す。夏休みに何かにチャレンジしたいと考えている方は、ぜ
ひこのプログラムに参加することをお勧めします。
最後になりましたが、木田先生とご家族の方々、耳鼻咽
喉科学の友田教授、解剖学Iの上田先生をはじめ、多くの
方々に大変お世話になりました。ありがとうございました。
小緑 彩(第4学年)
去年のハワイ大学に続き、今年の夏はアメリカ本土のバ
ーモント大学で医学研修を体験してきた。5年生で行うBSL
を先に体験してみたかったということもあるが、正直に言
うと海外に行きたかったというのが本心である。単に旅行
で行くのならこの先きっと何度か機会があるだろうけれど、
海外の病院を見て、しかも実際に実習を体験するチャンス
は今後ないかもしれないと思っていたから。こういう思い
から私のアメリカ3週間(研修2週間+プライベート旅行1
週間)の旅が決まった。
バーモント州という所に初めて足を踏み入れた私たちは、
まずお世話になる木田先生に研修のオリエンテーションを
していただいた。それはとても充実した内容になっていて、
実際私は膀胱癌の手術を見たり骨髄穿刺を見たり、とにか
く色々な科を回って見たり聞いたりした。しかしその研修
内容を初めて聞いた時、私の体は一瞬硬直した。当然私達
3人が同じグループで行うと思っていた臨床実習は、担当し
てくださる先生と1対1だったからだ。英語云々より、果た
して私の医学知識で話しについていけるかどうかの方が不
安だった。
しかし、まさに「案ずるより産むが易し」で実際はあま
り問題を感じなかった。というのも、解らない時は「解ら
ない」とはっきり言えば、嫌な顔一つせずに繰り返して教
えてくださる。
「聞きとれなかった」と言えば簡単な単語で
Milton Family Medical Clinicにて研修医とチームを組み、患者を診
る(右端が小緑)。
学生のページ
説明してくださる。日本から来た、たどたどしい英語しか
しゃべれない私に、バーモントの人々はとても親切に接し
てくれたのだ。これはミルトンという病院での研修でも感
じられた。そこは研修病院で、私が最も貴重な体験のでき
た病院である。
私は研修医のクリスと組み、2人で患者さんの待つ診察室
へ向かった(日本では患者さんが医師のいる診察室へ入る
が、むこうでは逆なのだ)
。そしてクリスが一通り診察をし
てから私にこう言った。
「じゃあ次はアヤが診てみて!」と。
あまりにも驚いたので返事もできなかった。私はまだ聴診
器の使い方も、ペンライトや耳鏡を使った診察法も習った
ことがなかったからだ。しかしどんな場合も経験が重要、今
習いたいという切実な思いが勇気につながった。診察室に
座っていた女性の患者さんは、私の診察を快く引き受けて
くれた。診察中に何度かクリスが席を立つことがあった。
クリスもまだ研修医なので、カルテを持って医師のところ
に確認に行ったり、本を取りに行ったりするのだ。クリス
が部屋を出ると、私は患者さんと2人きりになった。すると
たいてい患者さんの方から話しかけてくれる。最初のおば
あさんには「あなたは中国人?」と質問された。彼女は指
輪を見せてくれたり、自分はスイスから来たから英語が訛
ってるのだなどと話してくれた。また、掘り当てたと言う
金をいつも持ち歩いているおじいさんもいた。彼は私にも
その箱の中の金を見せてくれた。
私が言いたいのは、もちろん訛りや金の話ではない。初
対面で、しかも日本から来た学生の私に、こんなに親密に
接してくれるのだ。そして快く自分の体を診させてくれる
のだ。私は人々の優しさに本当に感動した。そして、この
患者さんたちの協力的な姿勢や医学生・研修医の積極性を
サポートする体制が、より良い医師を生み出し、医療先進
国アメリカをつくっているのだと感じた。来年BSL をひか
えた今の私には、これらの病院の雰囲気や医療体制を味わ
えただけでも十分充実した経験だった。こんな価値のある
体験は、ぜひ多くの学生に経験してもらいたいと思う。
最初から最後まで、本当にお世話になった木田先生、あ
りがとうございました! また、この体験の機会を与えてい
ただいた本学の先生方に、心からお礼を申し上げます。
ミルトン病院の前で(左から小緑、高田、岡部)
。
16
学生のページ
学生クラブハウス完成披露
開学 30周年記念事業の一環として建設中であった学
生クラブハウスが完成し、平成15年11月22日(土)
、晩
秋の冷たい小雨が降りしきる中で、その完成披露式が午
前 10時 30分から新クラブハウス内で開催された。外の
天候とはうってかわり、クラブハウス内は小田島粛夫理
事長、山下公一副理事長、竹越 襄学長、姫野洋一橘会
副会長をはじめ、学生、教職員ら数多くの参加者で溢れ
かえり、熱気に満ちていた。
式ではまず小田島理事長が、本学の学生クラブハウス
に関する過去の歴史をお話になり、学生諸君がクラブハ
ウスの運営を立派に行ってほしいとの強い期待を表明さ
れた。
次いで竹越学長は、本学クラブ活動を人間形成の場と
位置づけ、立派な医師として活躍できるように成長して
ほしい旨の話しをされた。来賓として出席いただいた姫
野橘会副会長からは、クラブ活動だけでなく勉強も頑張
ってほしいとの辛口のコメントをいただいた。これに対
し、学生を代表して加藤謙典学友会執行委員長からは、
立派なクラブハウスを作っていただいたことに対する謝
辞と、管理運営をきちんと行う決意が明らかにされた。
引き続いて小田島理事長より、病院新館の小児待合室
の見事な絵を制作した美術部と、開学 30 周年記念式典
で演奏を披露したクラシック音楽同好会に対し、感謝状
と記念品の贈呈が行われた。最後に小田島理事長から竹
越学長へクラブハウスの鍵の授与式が行われ、式典は無
事終了した。
本クラブハウスは旧機械棟を改造して完成したもの
で、鉄筋コンクリート一部3階建て、床面積は1,215 m2
に達する。1階には各クラブの部室が14 室と軽音楽部の
部室を兼ねたステージ(防音壁使用)
、ラウンジ、男女
トイレおよびシャワールーム、洗濯機3台を備えたクリ
ーニングルームなどがある。ラウンジからはグラウンド
が広く見渡せるようになっているばかりか、壁には50 イ
美術部に感謝状と記念品の贈呈
ンチのプラズマテレビが設置され、試合中などに撮影し
たビデオをみんなで鑑賞することもできる。この他にも
32インチのテレビ、ビデオ、DVDなどが備わっている。
2階には部室が4室と男子トイレ、3階にも部室が2室と
写真部用の暗室、美術部用の作業スペース、女子トイレ
などがある。なお、トイレと廊下以外はすべて冷暖房完
備である。また、ラウンジに隣接してクラブハウスの外
に喫煙室を設けてあり、クラブハウス内はすべて禁煙と
している。
本クラブハウスを建設するにあたり、多くの方々から
かけがえのないご寄付をいただいたことを忘れるわけに
はいかない。また、内部の備品に関しても、本学後援会
組織である橘会から再び多くのご寄付を頂戴した。この
場をお借りして厚くお礼を申し上げたい。多くの方々が
指摘されているように、このクラブハウスをどのように
利用していくかは、すべて学生たちの双肩にかかってい
る。立派に完成したクラブハウスが、それに見合うだけ
の成果をあげることができるよう心から祈ってやまな
い。
(学生部副部長土田英昭記)
謝辞を述べる学友会執行委員長の加藤謙典君
17
学生のページ
新クラブハウス完成を喜ぶ
サッカー部主将 伊集院真一(第3学年)
この度、このように立派なクラ
ブハウスを建設して下さった大学
に対して、部員一同、喜びと感謝
の気持ちでいっぱいです。
このクラブハウスには部室だけ
でなく、ミーティングが可能な大
きなラウンジやシャワールーム等
もあり、大いに活用させていただ
こうと思います。さらにクラブハウスだけでなく、グラウ
ンドと病院新館の間に非常に高い防球ネットを設けていた
だき、これからは心おきなく練習に専念することができま
す。本当にありがとうございました。
日没が早くなったため、我がサッカー部は現在、体育館
で練習しています。夏の西医体以降、新チームとなって新
たなスタートを切り今まで以上の練習を重ねて、昨年10月
中旬に開催された北陸医科学生サッカートーナメントでは
優勝を勝ち取る事ができました。この勢いを維持し、春の
関西医科学生サッカー大会では三連覇を、そして今年こそ
は夏の西医体での優勝を目指して、部員一同、一丸となっ
て日々の練習に励んでいます。
我々部員一同は、部活動を通してより緊密な人間関係を
築き部員一人一人が充実した学生生活を過ごすこと、各種
大会で好成績を収めることが、このクラブハウス建設にご
尽力いただいた方々への恩返しと考えています。今後とも
精進を重ねてまいりますので、どうぞよろしくお願いいた
します。
軽音楽部部長 村田 一弘(第2学年)
クラブハウスの新設について、
想像していた以上のすばらしい環
境を提供していただき、私たち軽
音楽部部員一同、心から御礼申し
上げます。ありがとうございまし
た。
体育館柔剣道場の一角にあった
これまでの部室は、空調設備がな
く夏は暑すぎ冬は寒すぎ、防音設備もないため他の部活の
人達に気を遣いながら練習をして、演奏をする上であまり
よい環境とは言えませんでした。
今回移転した新部室は、冷暖房完備で、素晴らしい照明
設備や防音設備を設置していただき、おかげ様で活発な練
習ができるようになります。さらに、オートロックや監視
カメラなど厳重な防犯体制によって盗難の心配もなくなり、
安心して高額な機材も管理、保管できます。また、壁を開
くとステージになるという部室の構造は、学内イベントで
も手軽に演奏会を開催することができ、西日本医学生音楽
祭や学園祭などしかなかった軽音楽部の発表の場もより広
がり、日頃の練習にも力が入ります。
新クラブハウス移転を機に、今後ますます軽音楽部を活
性化させ、楽しい部活にしていけるよう部員一同がんばっ
て行きます。
写真部部長 高橋 貞佳(第4学年)
平成15年11 月22日、本学の30
周年記念事業の一環としてクラブ
ハウスが完成しました。ラウンジ
やシャワー室などの設備が充実し
た大変に素晴らしい施設です。各
クラブには部室として一部屋ずつ
立派な室名札が付いた個室が与え
られ、私たちが想像した以上のす
ばらしい施設となり感激しています。
3階には文化部の共有スペースとそれぞれの部室がありま
すが、我々の写真部には部室の他にもう一部屋、特別にい
ただいた部屋があります。写真部の活動になくてはならな
い暗室です。写真部はクラブハウス完成以前にも文化部共
同部室という共同スペースをいただき、その一部を暗室と
して使用させてもらっていましたが、あくまで文化部共同
のスペースの一部であり、部員が3名ぐらい入ると少々手
狭に感じる広さでした。今回完成したクラブハウスの暗室
はかなり広く、5名入って作業しても余裕のスペースが確保
されています。また、ステンレス加工の作業台も広く、か
なり大きな写真も焼くことができます。感光を防ぐために
入り口を覆うカーテン、作業しやすい位置にスイッチが取
り付けられた赤色灯など、きめ細やかな配慮がなされてい
ます。収納スペースも多く、非常に使い勝手のよい部屋に
なっています。
我が金沢医科大学写真部は西日本医科学生写真連盟展で
の優秀賞など、数々の輝かしい成績をおさめてきましたが、
白黒写真部門においては少し力が及ばないところがありま
した。しかし、このように素晴らしい暗室を使うことがで
きるのですから、これまで以上に熱意をもって取り組み、心
に残る作品を製作して行きたいと思います。
最後になりましたが、昨年度まで写真部に医局の暗室を
開放して下さった形成外科学教室の川上教授、また、クラ
ブハウス建設にご尽力くださった皆様方に厚くお礼を申し
上げます。ありがとうございました。
広々として使いやすい写真部暗室
18
学生のページ
学生クラブハウス完成披露に思う
―教学課の立場から―
学生クラブハウス完成披露式典が、平成 15年11 月 22 日
(土)10時30分から、小田島粛夫理事長、竹越襄学長をはじ
めとして、役員、役職教員、橘会役員、学友会役員及び各
クラブ代表の学生約70名の出席を得て挙行されました。式
典に出席した学生達からは、若干緊張している様子も見受
けられましたが、新クラブハウスの完成を待ち望んでいただ
けに、真新しくかつ最新の設備を備えた各施設を目の当た
りにして、目を見張り、驚きの声を上げ、今日からはここを
拠点として活動できる喜びがひしひしと伝わってきました。
私も学生達と同様に、新クラブハウスの完成には私なり
の特別の思いがあります。ちょうど 20年前になりますが、
私は昭和58 年4月に学生課に配置換えとなり、学生の課外
活動等も担当することになりました。当時は、現在の内灘
町役場の敷地に大学の第1グラウンドがあり、そこに旧クラ
ブハウスが仮設にて設置されていました。仮設とはいえ、か
なり大規模な建物であり、そこには、開学以来の課外活動
に関する全ての資料や作品、物品等も保管されていました。
それらが同年 11月、一夜にして灰になってしまいました。
そこから、私と、なかなか終わりが見えない、長期間にわ
たるクラブハウス再建に関する業務との関わりが始まりま
した。
クラブハウス完成披露の式次第が進むにつれて、私の脳
裏には、20 年前の忌まわしい火災から今年度完成に至るま
での様々な出来事が次々と浮かんできました。
・火災から一夜明け、全焼したクラブハウスを前に警察
と消防の現場検証に立ち会ったこと。
・煤で真っ黒になった、罹災物品を学生達と一緒に運び
出したこと。
・課外活動の場や物品保管場所を求めて、学内各課に交
渉、依頼したこと。
・学友会総代会(学生の会議)で、出席していた学生全
員からクラブハウスはいつ、どこに建ててもらえるの
かと詰め寄られたこと。
・各年度の学友会執行部の学生達と、クラブハウス新築
各部室内
計画案を何度も何度も練り直したこと。
十年一昔といいますが、学生を取り巻く本学の環境も、
学生気質もかなり変化してきました。過去10年を振り返っ
てみても、クラブハウス再建に関する事業以外にも学生関
連施設、設備の改善、学生への支援活動も積極的になされ
ています。主なものをあげると次のようになります。
〔平成6年度〕
グラウンドの新設:内灘町役場の移転に伴い、従来の第
1、第2、第3グラウンドを体育館裏に移し多目的グラウン
ドとした。
臨床研究棟1階学生ラウンジの全面改修:改修及び什器
類の選定にあたり学生の意見を全面的に取り入れ、カレー、
ラーメン、各種セットメニューも追加。名称も学生から公
募し「マリンスクエア」とした。座席数80席。
〔平成7年度〕
女子トイレの増設:学生代表との懇談会にて提出された
要望に基づき、本部棟3階及び4階の女子トイレを増設(女
子学生数の増加による)
。
〔平成8年度〕
西日本医科学生総合体育大会及び全日本医科学生体育大
会王座決定戦代表主管に対する支援:大学として開催2年
前から西医体準備室を開設、専任職員2名を配置し支援活
動を行う。平成8年(開催年)には、事務職による支援プロ
ジェクトを結成し、各主管競技会場に派遣し、現地での支
援活動を行う。その他、大学として医師の派遣、補助金の
交付、部屋の貸与等最大限の支援を行った。
〔平成9年度〕
アーチェリーレンジ、テニスコートの整備:石川県及び
内灘町の道路整備事業に伴い、旧第3グラウンド跡地に、テ
ニスコート4面、アーチェリーレンジを整備(ほかに慰霊碑
〈納骨堂〉も移転)
。
本部棟1階学生ラウンジの全面改修:改修及び什器類の
選定にあたり学生の意見を全面的に取り入れ、コンビニ形
式の売店を設置。座席数80席。
〔平成10年度〕
学生食堂の全面改修:学生代表との懇談会にて提出され
た要望に基づき、学生食堂の内装及び什器類を一新し、メ
ニューも改善した。
19
学生のページ
小田島理事長から竹越学長へクラブハウスの鍵が手渡される。
体育館2階フロア全面張替え:体育館2階フロアの老朽化
に伴い全面張替え工事を実施、同時に床養生マットを購入。
グラウンド防球ネット取替え:ハマナス町側のグラウン
ド防球ネットの高さが低いため、高さのある防球ネッ
トに交換した。
〔平成11年度〕
体育館床一部補修:体育館の各入り口付近の床を補修し
た。
〔平成12年度〕
多目的ホール、和室、学生自習室7室新設:学生食堂2階
のスペースに、学生が自由に使用できる多目的ホール、和室、
申請によりどの学年でも利用できる学生自習室7室を新設。
〔平成13年度〕
クラブハウス建設計画(素案)の作成:クラブハウス早
期建設に向けて学友会執行部と建設計画(素案)を作成。
学友会室の移転:教養棟2階の学友会室及び内灘祭実行
委員会室を、学生食堂2階の多目的ホールに移転。移転に際
し、パーティション間仕切り工事を実施。
〔平成14年度〕
クラブハウス建設計画(案):学友会執行部及び各クラ
ブから選出されたクラブハウス委員と共に、前年度の
建設計画(素案)をより具体的に検討、調整し、クラブハ
ウス建設計画(案)として大学当局に提出。
〔平成15年度〕
病院新館側に防球ネット増設:病院新棟建設に伴い増設。
学生専用駐車場の設置:学生代表との懇談会にて提出さ
れた要望に基づき、基礎研究棟前駐車場及び本部棟前駐車
場の一部を学生専用とした。
クラブハウス建設:学生の意見や要望が全面的に取り入
れられたクラブハウス建設計画(案)に基づき完成。
今年度実施されたクラブハウスの建設は、開学から現在
に至るまで、課外活動関連のいろいろな施設、設備が整備
されてきた中でも、まさに大学創立30周年記念事業の名に
相応しいプロジェクトであり、学生達にとっても、課外活
動のために重要な牙城が完成したとの位置づけがなされて
います。
今私は、クラブハウス完成披露式典に出席させていただ
き、心地よい達成感に浸っている反面、これで業務完了で
はなく、今後は学生達が、このすばらしい新クラブハウス
を十分に活用し、本来の課外活動の目的を見失うことなく、
充実した学生生活を謳歌していただきたい。そのためにも、
力及びませんができる限りの支援活動を継続していきたい
と考えています。
(教学課山本健司記)
《本学スタッフ新刊著書 ③》
板東武彦、小山省三 監訳
バーン/レヴィ:カラー 基本生理学
芝本利重 分担訳
(心血管系、p151-254)
西村書店
B5判、609頁
定価:本体4,900円+税
2003年5月30日発行
ISBN 4-89013-306-2
本書はあらゆる生理学テキストに引用され、版を重
ねるBerne & Levyの『Physiology』のカラー・コンパク
ト版『Principles of Physiology』を翻訳したものである。
最低限必要な生理学の知識を初歩から書き起こし、丁
寧に解説してある。また、臨床医学への関連づけもあ
り臨床現場にも直結している。特に、カラーのすばら
しいイラストをふんだんに使用し、生理作用のメカニ
ズムや組織像を視覚的に解説し、図を見ているだけで
も楽しくなる。さらに巻末にはケーススタディの MCQ
もあり知識の確認に役立つものと思われる。
(生理学Ⅱ芝本利重記)
20
学生のページ
シリーズ: 私が 医師になりたい理由・ 医師になった理由 ⑨
私が医師になりたい理由
私が医師になりたい理由
ひろわたり
福原 学(第1学年)
私が医師になろうと思ったの
は高校2年生の時で、医師の家
系に育った者にしては決断が遅
いのかもしれない。父は大学勤
務医であるが、祖父は曾祖父か
ら続く病院の開業医であった。
祖父は診察している姿を一度も
見せてくれなかったので、どの
ような医師であったかわからないが、受付を手伝ってい
た母の話を聞いたり、病院の待合室にはいつも人が溢れ、
診療終了時間を何時間過ぎても一人一人丁寧に診察して
いたことから、祖父がどの様な医師であったか容易に想
像できた。一方、父は朝早く出勤し帰って来るのは毎日
午後9時以降で、大学から連絡があれば深夜でも飛び起
きて出て行った。家に居る時はいつも論文を書いていた
ので、父は医師というよりむしろ科学者のようであった。
このように全く違ったスタイルを持つ2人の医師を見
て育ったが、2人ともろくに仕事姿を私に見せてくれな
かったので、医師という仕事の忙しい面しか私の印象に
はない。
そんな私が医師を目指そうと思った直接のきっかけは、
高校2年の秋に起きた出来事である。祖父がいつものよ
うに診察を終えて自宅に帰った晩、突然に倒れたのだ。
父は即座に家を飛び出し祖父を診に行った。病院に祖父
が搬送された後も、父は他の医師や看護師とともに祖父
の治療に専念していた。それが私の見た初めての父の仕
事姿であった。その時の医療現場では、患者である祖父
を含めて医師としての父や他の医師、看護師たちの世界
が展開されたが、その中で私は祖父の手を握ることしか
できず、自分が無力であることを痛感した。それととも
に、今までずっと見えなかった父や祖父が生きてきた世
界に強い憧れをもつようになった。結局、父たちの処置
もむなしく祖父は帰らぬ人となったが、祖父が自分の命
を通して私に医師の世界を見せてくれたような気がして
ならない。
ついこの間金沢医科大学に入学したと思っていたが、
もう12月になり1年生としての勉強も佳境に入ってきた。
大学の授業は医療入門や医学総論など、1年生のうちか
らでもモチベーションが高まる授業が豊富にあり、私も
父や祖父が通って来た道を歩いているという実感をひし
ひしと感じている。これからの6年間、様々なことが私
を待ち受けているであろうが、初心を忘れず一つ一つ乗
り越えて行きたい。
廣渡
さ
き
咲紀(第1学年)
私は幼い頃から「将来何にな
りたいの?」と聞かれることが
嫌でしかたありませんでした。
父が開業医であったためか、そ
の質問のあとに必ずと言ってい
いほど、
「お医者さんでしょ?」
、
「えっ?お医者さんじゃないの」
というセリフがつけ加えられた
からです。自他共に認めるひねくれた少女であった私は、
自分の将来が決めつけられたような気がしてそのたびに
気分を害し、また一方で胸を張って「違うよ、私は○○
になりたいんだ」とそれを否定できるような将来の夢や
目標を持てない自分に苛立ちを感じていました。
そういう自分を変え、人生に対する視野をもっと広げ
てみたいと思い進学した高校で、勉強の意義について友
達と頭を悩ませつつ、私は徐々に将来就きたい職業につ
いて真剣に考えるようになりました。幸い、母からは
「医師はあくまで選択肢のひとつ。本当に自分がやりたい
と思うことを見つけなさい」と言われていたので、医療
という狭い範囲にとどまらず、工学や芸術、文系の分野
の本や大学案内をも読みふける日が続きました。
でもそんな時、私はあることに気がついたのです。ど
んな分野の資料を読んでいる時よりも医療についての資
料を目にしている時、他人から見てもわかるくらい自分
自身が興味に満ちあふれていると。自分を冷静に見つめ
た結果、私は医療の道に進むことを決意しました。そし
て初めて両親の前で、
「私は医者になりたい」とはっきり
口にしました。高校3年の夏ももう終わりに近づいた頃
だったと思います。
そして今、私は医学部1年生として医療の分野に足を
踏み入れています。私がこれから一人の人間として、ま
た一人の医師を目指すものとして大きく成長できるかど
うかは、紛れもなく自分自身の努力次第です。6年後大
学を卒業するときも、何十年もたっておばあさんの医者
になったとしても、医師になることを決意した時の新鮮
な気持ちを忘れることなく、患者さん一人一人に思いや
りを持って接することのできる温かみのある医師を目指
そうと思います。そしてなぜ医師になったのかと聞かれ
た時に、
「父の影響です」などという言葉で済ませるので
はなく、
「自分で悩みぬいた結果、傷ついた人を救うこと
に生涯を通じて携われる仕事に就きたかった」と胸を張
って答えられるように、医師としての確固たる自分をつ
くっていきたいと思います。
21
学生のページ
私が医師になった理由
柿沼 宏明(小児科学助教授)
半袖の清潔な白衣から逞しい
前腕を突き出し、聴診器を私の
胸にあてたまま、時は静かに流
れた。長い沈黙の後、聴診器を
胸から離し、医師はその浅黒い
顔を上げた。眉の太い、真っ直
ぐな眼差しを幾分和らげ、私と
両親に向かい静かに話し出し
た。
「まず心配されないでよいでしょう」
。
大学受験の夏、信州の山深い山村で1カ月をひとり過
ごした。何かの集まりの後、夏の早い夜は明けていた。
宿にある自転車に乗り、その夏知り合ったばかりの高校
生と険しい山道を競い合い走った。宿に戻ると、動悸と
息苦しさに横になることすら困難だった。私の訴えに、
宿の小太りの女主人は直ぐに私を車に乗せ、町の小さな
診療所に向かった。日曜日であったように記憶している。
人影の無い殺風景な外来の一室でしばらく待つと、白衣
を着た色白で白髪の大柄な老医が現れた。検査と治療の
後、動悸と息苦しさに心細い思いの私は両親の家に帰り
たいと訴えた。
「今無理をすると命の保証はないよ・・・」
。
幼い頃、
「どうして生まれてきたのだろう」という言い
ようの無い不安と恐怖に、私はしばしば悩まされた。学
校に上がるといつしか発作は消えていたが、この老医師
の言葉に反応するように、その頃と同じ発作がこの時私
を捉え始めた。動悸は落ち着いたように感じたが、息苦
しさはずっと続いていた。夜半に父親が現れ明るく話し
かけられたが、私はほとんど返事をしなかったように思
う。翌日、父親の運転する車に乗って山道を走り川を越
えた。見慣れた風景が目に飛び込んで来た時、心の暗雲
が少し取り除かれたように思った。
「生きて帰れたのだ」
。
次の朝、両親とともに叔父の主治医である心臓外科医
を訪ねた。この心臓外科医が冒頭の医師である。知的で
精悍な顔を持つ医師は、私が想像していたより年若い印
象であった。両親と和やかに談笑した後、私の訴えにじ
っと耳を傾けた。この時、慣れ親しんだかかりつけ医と
はまったく異なる雰囲気を私はこの医師に感じたのであ
る。
「まず心配されないでよいでしょう」
。この言葉は私
の心の襞に浸透し、ゆっくりと広がっていった。暗雲が
晴れていくような気がした。
その夏の終わり、私は高校の恩師に長い手紙を書いた。
「来年は医学部を受験することに決めました・・・」
。こうし
て私は医学部に入学したのである。
「ヒポクラテスの木」の碑について
キャンパス中央の橘の校章をかたどった噴水のある中庭の一角に、一
本のプラタナス(すずかけの木)が立っている。この木は1986年に秋
田県本荘市の菅原和夫先生から、当時医学概論を担当しておられた寺
畑喜朔教授を経由して本学に贈られた株で、当時は茎の径が1cmにも
満たない苗だったものが年月を経て、今では大木に育っている。
ヒポクラテスの木と呼ばれるのは、医聖ヒポクラテスが紀元前400年
の頃、生誕地ギリシャのコス島のプラタナスの樹下で弟子たちに医学
を説いたと伝えられ、その木の正統を継いだ種子や若木が、日本でも
栽培され、篠田株、蒲原株、緒
方株、赤十字株などとして今で
は百数十株が育てられている。
この株は篠田株の一株である。
この度、大きく育ったこの木
の根元に「ヒポクラテスの木」
の由来を記載した碑が設置され
た。〔関連学報記事:第 4 5 号、
28頁、1987年〕
(学報編集部)
22
学生のページ
禁煙キャンペーン
タバコについての意識調査結果と
学生禁煙支援について
〈タバコについての意識調査〉
先般、本学全学生 645 名を対象に「タバコに関する意
識」調査を行い、教職員の方々の協力を得て562名(87 %)
という高い回収率を得ることができました。学年別内訳は
1学年 96%、2学年 90 %、3学年 100 %、4学年 88 %、5学
年95%、6学年 61%でした。6学年での回収率が低かった
のは、卒後研修制度の関連で学生たちが学内にいないこと
が多かったためです。今回の意識調査の結果は無記名方式
で行いましたので、学生たちの率直な意見が反映されてい
ると思います。詳細は本学のホームページ(*1)を見て
いただくことにして、ここでは主な結果のみお知らせいた
します。
また受動喫煙について、
「大変迷惑である」
、
「少々迷惑
である」と答えた学生はいずれも37 %と、喫煙に対して
嫌悪感を抱いている学生は 74 %にのぼっています。自由
記載欄にも多くの回答者が受動喫煙について書いていまし
た。
1)喫煙状況
喫煙者は、設問に回答した 535名中 139 名(26%)で、
男子が317名中114名(36%)
、女子が218名中25名(12%)
でした。喫煙者総数の割合は、1993年∼2000 年に在学生
を対象に行った調査結果と比較すると減少傾向にはありま
すが、他大学の医学生と比較すると高い喫煙率です。
さらに注目すべきことは、学内分煙のための喫煙所が設
けられた後にこの調査を実施したにもかかわらず、学内で
の受動喫煙に暴露されていることが「ほとんど毎日」と答
えた学生は回答者535名中224 名(42%)
、
「時々」と答え
た学生が249名(46%)と、約90%の学生が受動喫煙を訴
えていることです。このことは、分煙が徹底されていない
ということを示しています。
2)喫煙に対する対策
「学内におけるタバコ対策はなぜ必要だとお考えです
か?」の問に対しては、
「他の学生に良い学習環境を提供
喫煙者 139名に「タバコをやめたいとお考えですか?」 するために必要」と答えた学生が回答者の76%を占めまし
と尋ねたところ、その62%が「やめたい、減らしたい」と た。さらに59%の学生は「医学部がタバコ対策に取り組
答えています。
むことは当然」と答えています。つまり過半数以上の学生
が、非喫煙を環境保全や社会的責任と関連づけて考えてい
るということになります。
「学内では、どの程度のタバコ対策が必要だとお考えで
すか?」の問いには、全面禁煙と答えた学生が33%、完全
分煙と答えた学生が54%おり、学生たちは喫煙に対するな
んらかの規制を望んでいます。
また「医学部教職員の喫煙についてどう思いますか?」
の問いに対しては、
「教員に限らず、模範を示すべき医学
部教職員の喫煙は好ましくない」との回答が39%を占め、
多くの学生が教職員の禁煙を要望していると言えます。こ
れについては環境の共有という観点から、自由記載の欄に
も多く書かれていました。
23
学生のページ
〈学生に対する禁煙支援〉
上記の結果を受けて学生保健室では、平成15年1月5日
から禁煙を希望する学生に禁煙支援を始めました。これは
文部科学省がバックアップしている「大学禁煙化プロジェ
クト(*2)
」の一環として位置づけられています。
《第一弾》
希望者にはニコチンパッチを使用していただき、以下の
2種類のコースがありますが、いずれも大学禁煙化プロジ
ェクトへの登録が必要です。登録は随時保健室で受け付け
ていますが、定員がありますので早期の登録をお願いしま
す。登録をすると無料でニコチンパッチが渡され、大学生
用無料携帯メールでの支援も付いています。ただし、支援
を受けた学生はアンケートの回答と簡単な結果報告が義務
づけられています。
トライアルコース:とりあえずニコチンパッチを試した
い学生に3枚を無料でお渡しします。
レギュラーコース:ニコチンパッチ3枚では完全な禁煙
に至らない場合もあり、トライアルコースの追加として保
健室でニコチンパッチを約2週間分(実費計算で約5千円)
の自費購入ができます。この場合、校医の問診があります
が時間はかかりません。このコースにも大学生用無料携帯
メールでの支援が付いています。
(学生保健室中島素子記)
(*1)実際のデータにアクセスするには、次の順序でクリックしてください。
本学ホームページの「イントラネット」→「医学部事務部」の中の「教学課」→「学生支援センター」→「学生
保健室」
(*2)大学禁煙化プロジェクト:大学生を非喫煙者として社会に送るという趣旨で進められているプロジェクト。
その一部は文部科学省科学研究費の助成を受けており、奈良女子大学禁煙プロジェクト研究室が中心となって全
国的に運動を展開しています。当大学も学長の認可を受けて、大学単位でこれに参加することになりました。
北國新聞夕刊のコラムに本学の津川龍三名誉教授が禁煙キャンペーンに関するこのような小文を寄
せておられたので紹介します。
(編集部)
2003年11月29日 北國新聞(夕刊)
24
学 術
金沢医科大学総合医学研究所 市民公開セミナー
肝臓を守ろう
生活習慣と肝臓病
日 時 : 平成15年10月26日(日)13:00∼16:15
本学総合医学研究所市民公開セミナーはめざましい医学
場 所: 金沢市文化ホール
イトルで、本学の堤 幹宏助教授が詳しく話しをされた。お
の進展を広く、また分かりやすく市民に知っていただくと
いう趣旨で総合医学研究所設立以来14 年間、毎年テーマを
酒を控えれば寿命も伸びると聞かされ、そうかと思う反面、
なかなか難しいという声が洩れてきた。
変え継続して行っている重要な事業である。
平成15 年度の本セミナーは10月26日(日)に金沢市文化
本学の高瀬修二郎教授にはウイルス肝炎対策について幅
広く関連講演をしていただいた。腸管感染するA型、E型及
ホールにて行われた。本セミナーは「総合医学研究所・春
のセミナー」としてこれまで3月に行われていたのである
が、市民が参加しやすいようにと気候の良い10月に開催す
ることになり、また併せて今年度から「市民公開セミナー」
と名称を変更している。本年のセミナーのテーマは「肝臓
を守ろう」で、副題に「生活習慣と肝臓病」を掲げ、肝臓
び血液感染のB型、C型の各ウイルスについて話しをされ
た。特に最近のグルメブームとの関わりか、E型肝炎の症例
について報告されていることが紹介された。シカ肉、イノ
シシ肉等の獣肉に注意ということであろう。また、血液感
染の肝炎ウイルスについてはB型肝炎ウイルスの遺伝子型A
の感染では約20 %が慢性化すること、また、性行為を介す
病に対する日ごろの注意点、アルコールやウイルスへの対
策等の内容で今回は特別講演1題、講演2題で構成された。
る感染経路が濃厚であることが明らかにされ、改めて注意
が喚起されている現状が指摘された。
特別講演は富山医科薬科大学の渡邊明治教授に依頼し、
これまで先生が啓蒙活動を長年実践されている「肝臓病に
今回の市民公開セミナーは開催時期が春から秋に変更さ
れたばかりであり、また宣伝が少なかったようでもあり、参
おける食事と生活習慣」について大変分かりやすく講演し
ていただいた。脂肪肝の人にはカロリーを減らす、甘いもの
加者が約 90 名と若干少なかった点はコーディネーターの1
人として反省するものである。しかし、参加された市民の
や油っこいものを減らす、そして黄疸のある場合は脂肪の量
を減らす必要などを指摘されたが、通常の生活をしている
方々が肝臓障害に高い関心を持ち、活発な質疑応答があっ
たことなどで本セミナーは引き締まったものとなり、盛会
人にとっては、要はバランスのとれた食事を規則正しく摂っ
ていればよいということになるようで、聴衆の方々は納得し
た様子であった。ただ、酒、タバコは要注意ということで、
タバコを吸っている人にとっては耳の痛い話であった。
アルコールによる弊害については「お酒と肝障害」のタ
裡に終わった。
特別講演を引き受けていただいた渡邊教授はじめ講演の
先生方、また座長の先生方に感謝いたします。最後に、こ
のセミナーの企画運営にご協力いただいた総合医学研究所
の皆様に深謝いたします。 (総合医学研究所竹上勉記)
特別講演:
講演1:
講演2:
肝臓病における食事と生活習慣
お酒と肝障害
知っておきたい肝炎ウイルス対策
渡邊明治教授(富山医科薬科大学内科学第3) 堤 幹宏助教授(本学消化器内科学)
高瀬修二郎教授(本学消化器内科学)
25
非電離線曝露による眼障害に
関するワークショップ
オーガナイザー: 眼科学 佐々木一之名誉教授、
小島正美講師、佐々木洋講師
日時:平成15年11月6(木)
、7日(金)
会場:金沢医科大学図書館2階大会議室
ICNIRP の新たな防護指針の裏付けとなる研究を行ってい
る。また、佐々木名誉教授、佐々木洋、小島両講師は環境
省委託研究「紫外線が眼に及ぼす影響の検討」
、小島講師は
厚生労働省研究所と「赤外線が眼に及ぼす研究」を続けて
いる。これらの話題にかかわっている内外の研究者が一同
に会して現時点での知見を交換することを目的に本ワーク
ショップは企画された。
話題提供者は、米国3名、ドイツ、スウェーデン、中国か
ら各1名で、日本からは 18 名、ほか自由聴講者数名と小さ
な集まりではあったが、ICNIRP委員(Dr. Sliney〔米陸軍研
究所〕
、多気昌生教授〔都立大〕
、Prof. Söderberg〔カロリン
スカ大〕
)
、ICNIRPメンバー奥野勉博士〔厚労研〕
、ICNIRP
「非電離線曝露による眼障害に関するワークショップ」
国際コンサルティングメンバー佐々木名誉教授、小島講師
が平成15年11月6、7日の2日間本学図書館大会議室で開催
された。本ワークショップの母体はInternational Commission
等が参加者であったため、ICNIRP会議の本番さながらの白
熱した討議がなされた。
on Non-Ionizing Radiation Protection(ICNIRP: 国際非電離線
防御委員会)で、この組織は紫外線、赤外線、電磁界等に
本ワークショップ初日は紫外線、赤外線の話題を、2日目
は電波曝露による眼部障害の話題で意見交換が行われた。
よる人体への防護指針を提示する世界保健機構(WHO)認
知の国際協力団体である。
佐々木一之名誉教授、小島正美講師は現在、総務省委託
事業である「電磁波曝露による眼への影響」について、
国際的にも特殊な領域でのワークショップで参加者からは
喜ばれた。本ワークショップの詳細な報告は数日後には
Sliney 博士を介して全世界の関係者に伝えられたことも付記
しておく。
(眼科学小島正美記)
中庭にて記念撮影
26
第5回
耳鼻咽喉科ナビゲーション研究会
会長:耳鼻咽喉科学 友田幸一教授
日時:平成15年11月22日(土)
会場:金沢市文化ホール
第5回研究会が平成 15年11月22日(土)に金沢市文化ホ
ールにて開催された。コンピュータを応用した手術支援装
置(ナビゲーションシステム)は、リアルタイムに手術部
会場風景
位の確認ができ、安全で確実な手術が行えることから医療
事故防止や今後の手術革新への応用が期待されている。最
近多くの外科系の手術に応用され、耳鼻咽喉科領域でも私
どもの施設を含め 30を超える施設で使用されてきている。
その現状報告として、会に先立ち全国204施設に行ったアン
ケート調査の結果を報告した。詳細は省くが7割以上の施設
がナビゲーション手術の有用性を認めた結果となった。
今回は2つのパネルディスカッションを企画した。その一
つは「ナビゲーション機器のより良い使用をめざして」と
題して、システムに注目し、ユーザーの立場から各機種の
使用、問題点などを機器メーカーと共に検討した。現在、
光学式が主流であるが、磁気式などの利点を生かした新機
種の開発が強く望まれた。またソフトのバージョンアップ
やレンタル契約などサービス面での改善を希望する意見も
多く出された。もう一つは「バーチャル手術と手術教育の
将来」と題して、cadaver による教育ではなくバーチャルを
応用した教育の中で、新しいテクノロジーをどのように取
り入れていくかについて検討がなされた。その中で特に評
価法について、実際の手術現場での評価が難しくなってき
ている今日、工学系から発表された新しいバーチャルによ
る教育、指導の評価法が注目された。その他16題の一般講
演も行われた。最近、頭頸部・頭蓋底領域の手術でナビゲ
ハンズオン・デモンストレーションの光景
ーションが有用であるとの報告が増えてきている印象を持
った。またいつも好評であるが新しい機器のハンズオン・
デモンストレーションも会場内で行われ、参加者は実際に
手に触れ、テクノロジーの進歩とメーカーの開発の熱意を
感じていた。
今回は過去最多の 100 名を超える参加者が集まり、会場
は朝から熱のこもった活発な討議が行われ盛会であった。
第6回研究会は、平成 16 年に再度私どもの担当で周辺機器
も含めた新しい研究会としてスタートすることに決まった。
(耳鼻咽喉科学友田幸一記)
人物往来
□Leland G. Dobbs 教授/カリフォルニア大学サンフランシスコ校の内科・小児科教授/世界的な肺胞上皮細胞の第
一人者/Dobbs 先生は、肺胞中の分化可能細胞であると考えられている肺胞Ⅱ型上皮細胞の分野の第一人者で、彼が
確立したⅡ型細胞の分離同定法はあまりにも有名である。/平成 15年 11月4日呼吸器内科学特別セミナーにおいて
「Alveolar epithelial Differentiation」と題して講演。十分な実績と重厚な経験にもとづく確かな話題の中からGRO 等の
最新の話題を盛り込んで、細胞の再分化について話していただいた。/呼吸器内科学教室
□梅崎直彦先生 /和歌山県立医科大学産科婦人科学教授/ 1968 年大阪市立大学医学部卒業/ 1969年 ECFMG 合格、
Frannklin Square Hospital(U.S.A.)にてインターン/ 1975 年医学博士号取得/ 1991年大阪市立大学助教授(医学
部)/1998年大阪市長賞受賞/2000 年和歌山県立医科大学教授(医学部)/2003年8月 23日金沢都ホテルにて行わ
れた金沢 CPT-11 研究会第5回記念講演会(当番幹事当教室)において「婦人科悪性腫瘍に対する化学療法における
CPT-11の位置付け」と題して講演/婦人科腫瘍学(産科婦人科学教室)
27
する事業で、本年度は5名が受賞した。三浦助教授は平成
公衆衛生学 三浦克之 助教授
長寿科学振興財団奨励賞を受賞
11、12年度厚生労働科学研究健康科学総合研究事業「青・
壮年者を対象とした生活習慣病予防のための長期介入研究」
に研究協力者として従事した実績から、研究班長である滋賀
医科大学上島弘嗣教授より奨励賞へのご推薦をいただいた。
本研究は、生活習慣病危険因子である高血圧、高脂血症、
耐糖能異常、喫煙に対する個人(ハイリスク者)と集団全
体の両方における生活習慣改善介入の長期効果を明らかに
するための大規模な比較対照研究である。職域集団を対象
として、介入6事業所、対照6事業所で計約7,000人に対す
る研究が継続中である。特に生活習慣病危険因子に対する
集団全体への介入(population strategy)の手法の開
発と評価を行っている点が
画期的であり、栄養、身体
活動、喫煙の全体介入が実
施されている。三浦助教授
当公衆衛生学教室の三浦克之助教授が、平成15年度の長
寿科学振興財団奨励賞を受賞した。授与式は去る10月23日
あいち健康プラザで開催された第16回国際長寿科学シンポジ
ウムにおいて坂口力厚生労働大臣も出席のもとで行われた。
本賞は長寿科学振興財団が厚生労働科学研究に従事して
いる若手研究者の中から優れた研究成果を上げたものを表彰
は身体活動量増加の面での
全体介入手法の開発と評
価において大きな役割を果
たしたことが受賞理由とな
った。今後もより一層の活
躍を期待したい。
(公衆衛生学中川秀昭記)
国際医学雑誌 Brain Research の表紙に
口腔科学 吉村 弘 講師らの研究写真が掲載される
平成15年11月14日発
行 の Brain Research誌
(vol.990:p172-181, 2003)
に、口腔科学教室(講
座主任 瀬上夏樹教授)
の吉村 弘講師らによる
研究論文が掲載され、
さらにその論文中の図
が同誌の表紙を飾った。
この雑誌は、発刊巻数
から分かるように歴史
と伝統を有する脳科学
分野の核をなす雑誌で
あり、全国の医学部図書館では必ず購読されている。
多くの研究者は、自分の論文の図が主要学術雑誌の
表紙を飾ることを夢見ており、私もその一人であるが、
未だその夢を果たせずに居る。今回、吉村講師の図が
Brain Research 誌の表紙を飾ったことはすばらしい快挙
である。
さまざまな外界の情報を脳がいかにして統合し認知し
ているのかという、いわゆる「結合問題」を解明するこ
とは、21世紀脳科学の最大目標と言っても過言ではな
い。吉村講師らは、視覚情報の統合認知に関わる階層構
造の中心的役割を演じている大脳皮質一次視覚野と二
次視覚野間における神経情報伝播の振る舞いが生後発
達過程で変化していることを動的に示し、さらに、二次
視覚野が一次視覚野と異なり、約10Hzの振動性ニュー
ロン活動の発信源となっていることを証明した。このこ
とは「結合問題」解明に向けての重要な発見である。
このような視覚情報処理課程における一次視覚野と二
次視覚野の機能差に関して、ともすると忘れがちな古典
的手法を用いて細胞構築学的な差を示すことによって、
形態と機能の対応づけをおこなったことが編集者に重要
な意味をなすと評価され、吉村講師の論文の組織写真図
が表紙に採択されたと考えられる。
これを励みとして、脳科学の研究に邁進し、さらなる
発展に寄与することを吉村講師に大いに期待している。
最後に、組織切片の作製にあたり、本学生理学Ⅰの村本
進司氏の一助が陽の目を見たことを祝したい。
(生理学I 小野田法彦記)
28
大学院医学研究セミナー
ウイルス肝炎の病態と治療
Editorial Concept in the New Journal;
e CAM(新国際紙e CAMの編集方針)
講 師 高瀬修二郎教授(金沢医科大学大学院
講 師 Edwin L. Cooper先生(米国カリフォルニア
大学 神経精神免疫学教授)
医学研究科消化器機能治療学)
日 時 平成15年10月24日(金)18:00∼19:30
場 所 病院4階C42講義室
担 当 消化器機能治療学 高瀬修二郎教授
〔セミナーの内容〕
肝障害は多種多様なウイルスによ
って惹起されるが、肝炎ウイルスと
呼ばれるものはA型・B型・C型・
D型・E型・F型・G型および TT型
で、なかでも本邦ではA・B・C型
による肝炎が多く認められる。
A型とE型急性肝炎の一部は劇症
肝炎に進展するが、慢性肝炎に移行
することはない。近年ではA型抗体保有者が高齢化してい
るので、感染蔓延地域に旅行する際にはワクチン接種が推
奨される。一方、E型はインドや東南アジアのみに分布して
いるとされていたが、最近日本にも特有のウイルス株が存
在し、猪や鹿の生肉摂取による感染例が報告されている。
肝炎ウイルスの持続感染により、慢性進行性の肝病態か
ら肝硬変や肝癌に進展するのは、B型とC型の感染である。
B型が母子感染以外で持続感染者となることはきわめて稀
で、特に母子感染対策が開始された昭和61年以降に生まれ
た世代での持続感染者はほとんど認められない。しかし、
最近B型肝炎ウイルスの遺伝子型Aの感染では約20%が慢
性化すること、また、性行為を介する感染経路が濃厚であ
ることが明らかにされ、改めて注意が喚起されてきている。
新しい治療として、ラミブジン投与の有効性が確認されて
いるが、投薬中止後ならびに耐性株の出現に伴う肝炎再燃
を防止できないので、その適応には限界がある。
本邦における当面の肝炎対策の中心は、C型肝炎ウイル
ス感染で、インターフェロン投与を中心とした適切な治療
により、血中ウイルスの完全駆除や、病気の進展を遅らせ
ることができるようになってきた。したがって、先ず検査
をして病気を早期に発見することが重要である。平成14 年
から、市町村が実施する基本健康審査に肝炎ウイルス検診
が導入され、潜在する肝炎ウイルス保有者の確認と、精査
ならびに治療対策が開始された。この事業の継続によって
ウイルス性肝炎撲滅に向けたプロジェクトが大きく前進す
るものと期待される。
(消化器内科学高瀬修二郎記)
日 時 平成15年10月28日(火)18:00∼19:30
場 所 病院4階C42講義室
担 当 代替基礎医学 山口宣夫教授
我が国では、新聞、雑誌、テレビ、
インターネット等が普及して、代替
医療への関心が急速に広がりを見せ
始めています。今日では、日本人の
2人に1人が各自の判断の下に何らか
の補完代替療法を行っていることが
判明しています。なかでも健康補助
食品をはじめ各種の健康増進を齎す
とされる食品を摂取している愛好者
が多いという特徴が捉えられていま
す。一方、他の先進国においてもほぼ同様な状況が窺われ、
代替医療が世界的に新しい医学の潮流となっています。
この潮流を支持する考えの中心をなすのは、代替医療を正
しく評価しようとする科学的な思考であると思われます。こ
のような世界的な動向に呼応して、新国際誌の企画が数年前
より、欧米や東アジアの国々から自然発生的に立ち上がって
まいりました。今回このような運動の中核をなす U C L A
Neurobiology教授 Cooper 先生が来日し、金沢医科大学大学
院代替基礎医学講座との共同作業に立ち寄りました。また、
新雑誌の編集方針について、大学院生、教員に向けてアナウ
ンスを行いました。
21 世紀に残された難病である、癌、エイズ、アレルギー、
自己免疫病などの多くが、西洋医学の一元的対応では完治せ
ず、それ故、西洋医学以外の症状緩和医療や自覚的な改善方
法が模索されています。20 世紀において西洋医学の恩恵を受
けた我が国は、そのポテンシャルを維持したまま、古来より
伝承されてきた東洋医学の新たな展開を可能にする東西補完
折衷医療実践の最適地であるといえましょう。
代替医療が欧米諸国を中心に見直されている背景には、現
代西洋医学そのものの行き詰まり状況への反省が窺えます。
治療の限界という現実、これまでの近代西洋科学を基礎とし
た西洋医学の構築のあり方への疑問ともいうべき要因が考え
られます。また、現代文明の発展に対する反作用として、自
然回帰傾向が強まっていることもその背景にあると思います。
最近明らかにされつつある免疫系・内分泌系・神経系の相
互作用などは、代替医療に大切な理論的根拠を与えるものと
思われます。こうした最新の考え方も取り込みながら、薬効
の基準を確立してゆくことが必要なのでしょう。
特に免疫学的要素を中心に共通の尺度により世界各地の医
療を評価する試みを提案されました。(血清学山口宣夫記)
29
大学院医学研究セミナー
片肺換気に関する話題
長期透析合併症
講 師 槇田浩史先生(東京医科歯科大学大学院
講 師 石川 勲教授(金沢医科大学大学院医学
医歯学総合研究科心肺統御麻酔学教授)
日 時 平成15年11月7日(金)18:00∼19:00
研究科腎機能治療学)
日 時 平成15年12月2日(火)18:00∼19:30
場 所 病院4階C41講義室
担 当 侵襲制御学 土田英昭教授
場 所 病院4階C42講義室
担 当 腎機能治療学 石川 勲教授
〔セミナーの内容〕
2001年から肺癌は全癌死亡中、男性では22%と1位であ
り、女性でも胃がんに次いで2位を占める疾患である。また
内視鏡をはじめとする手術器具や技術の進歩に伴い、肺切
除手術は近年増加している。肺切除術における術中麻酔管
理の最重要課題は片肺換気(分離肺換気)時における安全
確実な気道確保と動脈血酸素分圧の改善である。更に術後
の肺水腫も周術期の課題の一つである。先生はこれらを、
Postpneumonectomy pulmonary edema (PPE)、Postpneumonectomy
syndrome、Tracheal bronchusの3つの大きなテーマに分けてご
講演された。
最初に低酸素症の改善法について、側臥位での両肺換気
と片肺換気での換気血流分布について非常に分かりやすく
説明された後に7つの方法を提示された。麻酔専門医ではな
い大学院生にも理解しやすい一般的な方法からAlmitrineの
静脈内投与や患側肺へのPGF2 の注入等の最近の知見、更に
患側肺の圧迫による酸素化が改善するという教室の研究に
も言及された。PPEに関しては概略、リスクファクターや血
管内皮障害との関連について解説され、輸液管理の重要性
と実際の方法を説明頂いた。Postpneumonectomy syndrome
については実際の術前後の胸部レントゲン写真を提示され、
成因と治療をまとめられた。
Tracheal bronchusでは気道確保の実際と挿管困難時の対
応をダブルルーメンチューブと気管支ブロッカーに分け、こ
れも写真を挿入して解説された。そして術前の呼吸機能の
周術期に及ぼす影響と片肺換気に推奨される管理法を提示
され、片肺換気に関する最近の話題の全てを網羅した講演
を終了された。
セミナーの参加者は病院引越しの真最中という悪条件な
がらほぼ通常のセミナーの参加人数と同様であったが、更
に医学生が5名出席していたことである。それも3名が率先
して質問したことを特筆したい。内容も医学生らしい純粋
な疑問であり、応える槇田先生の笑顔とともに非常に印象
に残る質疑応答の時間であった。 (麻酔学門田和気記)
〔セミナーの内容〕
わが国では末期腎不全の治療法と
して、腎移植とCAPD が少ないため、
血液透析療法が主体となっている。
この血液透析療法は近年目覚ましい
進歩をとげ、最長36年8カ月の生存
患者も存在する( 2002年 12月 31日
現在)。しかしそれでも血液透析は
正常な腎臓のせいぜい10∼20%の働
きしか補えないので、長期透析患者には種々の合併症が出
現してくる。その主なものに心血管系、脳血管系の合併症
である動脈硬化、透析アミロイドーシス、透析骨症、病腎
の多嚢胞化萎縮腎と腎細胞癌の発生がある。そのため血液
透析患者には、QOL の著しい低下とともにこれら合併症に
よる生命の危険が絶えず存在する。
本セミナーでは、私どもが23年間にわたり世界に発信し
ている、長期透析合併症である多嚢胞化萎縮腎と腎細胞癌
の発生について、解説した。
この研究は、1978年12月本学を訪れた一人の患者から研
究が始まり、その後経験した症例や文献、さらには我々が
20 年間にわたって行ってきた全国アンケート調査結果をも
とにまとめられ、次のことが分かった。まず慢性糸球体腎
炎が原因で透析に入った患者では透析導入後、病腎はさら
に萎縮し小さくなる。しかし透析3年を過ぎると、病腎には
後天性の嚢胞が発生し腫大するものが出てくるほか、腎細
胞癌の発生まで見られるものがある。また多嚢胞化萎縮腎
は透析3年未満の44%、透析3年以上の79%、透析10年以上
の90%に発生する。多嚢胞化萎縮腎は男性で発生頻度が高
く、程度も著しい。さらに、腎移植が成功し、尿毒症の環
境が無くなるとこの嚢胞は退縮する。嚢胞と癌の発生には
多段階的な発生機序が推定される。腎腫瘍は透析患者の5%
に、腎細胞癌は1.5%に発生する。一般人にくらべ標準化発
生比は10 ∼15と多く、45 歳以下の若年者では100∼300 と
著しく高くなる。組織学的にも一般人の腎細胞癌と異なり、
乳頭状細胞癌が多く、トリソミーを呈するものがみられる。
以上、多嚢胞化萎縮腎と腎癌について次第に明らかにさ
れてきた。今後はこれらの発生機序の解明が注目され、待
たれるところである。
(腎臓内科学石川勲記)
30
大学院特別講義
ATS・ERS(American Thoracic Society/European
Respiratory Society)分類に沿った間質性肺炎
の病理学的分類
講 師
湊 宏先生(金沢大学医学部附属病院
病理部助教授)
日 時 平成15年11月4日(火)18:30∼19:30
場 所 病院4階C41講義室
担 当 病態診断医学 野島孝之教授
〔講師紹介〕
湊宏先生は米国AFIP でDr. Travis,
Mayo ClinicでDr. Tazelaarのもと、
デキストランマグネタイトを用いる温
熱療法の開発 −金沢大学工学部との共同研究
を通して
講 師 田澤賢次先生(富山医科薬科大学医学部
看護学科教授)
日 時 平成15年11月18日(火)17:30∼18:30
場 所 病院4階C41講義室
担 当 消化器外科治療学 高島茂樹教授
〔講師紹介〕
田澤賢次教授は 1 9 6 5 年新潟大学
医学部を卒業後第一外科学講座に入
呼吸器病理学の研鑽を積まれ、今春
帰国された若手肺病理学者である。
これまでにも多数の業績を報告さ
れ、日本における肺病理学の指導者
として、今後のご活躍が期待される。
〔特別講義の内容〕
今回、セミナーには大学院生をはじめ多数の医師、検査
技師、医学生が参加し、演題への関心の高さが示された。
局され、1977年には富山医科薬科大
学外科学第二講座に赴任され、1995
年からは富山医科薬科大学医学部看
護学科の教授に就任されている。先
生の業績は、温熱療法をはじめとし、
ストーマリハビリテーションでは草
分け的存在で2003年からは理事長を務められている。また
大腸癌発生予防についての研究では多くの受賞歴があり、
講演の冒頭に先生は、間質性肺炎を診断するにあたり、病
理医と臨床医、放射線医との連携が非常に重要となること
2002 年には書物も著された。さらに、バイオテラピーの分
野でも2003 年の同学会会長を務められるなど枚挙にいとま
を強調された。
通常肺炎は肺胞腔内への線維素、炎症細胞などの滲出を
がない。しかしなかでも特筆すべきは、スキー指導員を指
導するほどの腕前といわれる先生のスキー技術で、2002 年
特徴とするのに対し、肺胞内の変化は軽微で、肺胞中隔を
炎症の場とするものを間質性肺炎という。間質性肺炎の組
織分類は、時として肺病理学者間ですら、意見の一致が得
られず、その組織像は難解かつ多彩・多様である。しかし、
各々の分類の過去から現在に至る歴史的変遷を順序だてて
解説することで、聴衆に新たな理解の道を与えた。また、
臨床症状や検査データ、治療法、予後、画像診断といった、
臨床的、放射線学的解説のほか、肉眼診断、病理組織の特
徴的なポイントも簡潔・明瞭に提示され、呼吸器病理学の
奥深さを感じた。講演終了後、間質性肺炎における肺生検
診断の限界点や、生検検体の取り扱い方法などについて、
活発な質疑応答が交わされ、参加者にとって非常に有意義
なセミナーとなった。
(臨床病理学黒瀬望記)
ソルトレーク冬季オリンピックでは強化スタッフとして参
加された。
〔特別講義の内容〕
放射線治療、温熱治療、あるいは抗癌剤、さらに手術で
さえも癌組織だけを選択的に治療することはかなわない。
今回のテーマ<デキストランマグネタイト(DM)を用いた
温熱治療>は、腫瘍を選択的に加温し治療するという、い
わば夢のような発想だが、多くの基礎的実験から最近の臨
床応用に向けてのプロジェクトチームの活動にまで広く丁
寧にご講演いただいた。
DMは酸化鉄粒子の表面にデキストラン分子が化学結合し
ているもので、生体に対する毒性はない。まず、誘導加温
法における磁性体の発熱メカニズムが説明された。加温法
には(1)細胞内(2)組織内と(3)管腔内がある。細胞内
加温の原理は、DM 粒子が腫瘍細胞に貪食されることから、
腫瘍細胞のみの超選択的加温法が可能となる。田澤教授は
金大大学院の研究グループや複数の企業などとプロジェク
トチームを組み、臨床の電磁誘導加温装置を試作し、動物
実験に入っている。試作品は小型化し使いやすく3cm程度
の生体深部に誘導・加温できるとの説明があった。基礎的
研究から臨床応用まで幅広く夢のあるご講演で、参加者一
同深く感銘を受けた。
(一般外科・消化器外科学小坂健夫記)
31
大学院特別講義
心肥大ならびに心不全の病態と分
子機構
講 師 堀 正二先生(大阪大学大学院医学系研
すく話された。高血圧が原因で拡張障害型心不全が、更に
拡張障害型心不全が原因で収縮能障害が起こり、収縮障害
型心不全が生じることを、食塩感受性ラットを用いた動物
実験モデルより得られた結果を話された。特に心筋のgelatinolytic activitiesの分布に違いがあるという非常に興味深い
内容を示された。そして、心筋の収縮と弛緩は心筋細胞内
究科病態情報内科学教授)
日 時 平成15年11月26日(水)18:00∼19:00
のCa イオン濃度の変化で調節され、心筋は筋小胞体に貯蔵
されているCaイオンが筋小胞体に再吸収されることで弛緩
場 所 病院4階C42講義室
担 当 循環器内科学 竹越 襄教授
するという基本的な考え方を概説されてから、細胞内には、
Caイオン濃度を調節する数多くの分子が存在し、拡張障害
を呈した心不全状態では、筋小胞体/滑面小胞体のカルシ
ウムATPase(SERCA)の活性化が低下していることを動物
〔講師紹介〕
実験の結果から提示され、更にこの低下がアンギオテンシ
堀 正二教授は、昭和 45 年大阪大
学医学部を卒業し、大阪大学医学部
ン変換酵素阻害剤投与で改善するということも示された。
また同様に食塩感受性ラットモデルで、全周性肥厚を示す
内科学第一講座に入局した。昭和53
年には、Visiting Assistant Professor
として、Albert Einstein College of
Medicineの心臓部門に留学し、平成
11年に大阪大学大学院医学系研究科
病態情報内科学教授に就任された。
日本循環器学会、日本心臓病学会など循環器領域における
主な学会の理事をされており、また、Circulation Research,
機序にレニンーアンギオテンシン系の関与が大きいことを
強調された。そしてこのモデルにおいて血管周囲の繊維化
の増大やANP, BNPの mRNAの発現をアンギオテンシン変
換酵素阻害剤が抑制することも提示された。また、extracellular matrixのリモデリングは左室リモデリングの進展に関
与し、matrix metalloproteinase(MMP)がこのextracellular
matrixの調節に非常に大事であることを示され、加えて収縮
障害型心不全による左室リモデリングの機序には、MMP-2
Journal of Molecular Cellular Cardiologyをはじめとする数々
の国際学術誌のeditorial board memberにもなっておられる。
よりむしろMMP-9 が関与しているという非常に興味がもた
れる結果を示され、特に左室リモデリングの予防のターゲ
〔特別講演の内容〕
堀教授は、専門が心不全の病態生理であることから、心
不全における病態ならびにその分子機構についてわかりや
ットになりえる可能性を示された。講演終了後の質疑応答
では、活発なdiscussionが行われ、非常に実りある大学院セ
ミナーであった。
(循環器内科学大久保信司記)
総合診療科 伊藤 透 助教授の論文写真が
英文雑誌の表紙を飾る
総合診療科伊藤 透助教授の論文写真が、英文雑誌「Gastroenterology and
Hepatology Vol.18 (12) 2003」の表紙を飾った。論文は「Herpes simplex esophagitis from 1307 autopsy cases」であり、1,307 件という膨大な剖検数からヘルペス食
道炎を検討したものである。
伊藤助教授は、これまで病理、消化器外科、消化器内科と多岐に渡る面から
消化器病、内視鏡の診療、研究、教育に取り組んできており、今回の論文は病
理学大学院生時から長年手がけている、熱い思いのこもった研究を更に発展さ
せたものである。ヘルペス食道炎は比較的まれな疾患であるが、近年、ウィル
ス感染、担癌患者などのcompromised hostの合併症として注目されており、トピ
ックであったと思われる。これまでヘルペス食道炎に関する論文は国内外とも
少なく、今回、伊藤分類として病変肉眼像を3型に分類し、それぞれを詳細に免
疫組織学的に検討しており、その組織写真も鮮明であったことが評価され、表
紙を飾ったものと考える。
(総合診療科日下一也記)
32
病 院
病院新館での
外来診療スタート
金沢医科大学創立30 周年記念式典等が9月 13日(土)に行われ、病
院新館への移転が10月より病棟部門から順次開始された。外来診療部
門は11 月22日(土)を休診として、23(日)
、24日(月)の3日間を
利用して移転し、11月25日(火)から病院新館での外来診療が開始さ
れた。
新館における外来診療の特徴をまとめると次のようになる。①臓器
別診療体制として内科・外科の枠を取り払い、関連する診療科を同じ
ブロックに集め、診療科間の連係を密にすることにより患者中心の医
療を効率的に提供できるようにした。② 診療科をA∼Eの5つのブロ
ックに区分し、ブロック受付体制が導入された。③全ての診察室の前
に「診察順表示盤」を設置し、医師の予約患者一覧画面と連動した診
各ブロック受付(上)
、ブロック別待合(下)
察順表示システムが導入された。これまでのように患者様の氏名を呼
んで診察室へ呼び入れるのではなく、受付番号の表示により診察室へ
入室していただくシステムとなっており、診察室の個室化とともに患
者様のプライバシーに配慮した診療環境となっている。また、医師の
予約患者一覧画面では、受付後の患者様の所在(診察室前・採血・X
線等)が表示されるシステムとした。④自動再来受付機を導入し、患
者様が自分で受付をして予約診療科に直行できるとともに、受付票に
当日の予約時間、採血や心電図等を含めた予約内容が表示されるシス
テムとした。
外来中央ホールをはじめとして新館には大きな壁画が多く、各所に
美術館のような絵画が展示され、診療待ち時間をリラックスして過ご
せるような環境となっている。
新館への外来移転に際し、新しい診療システムになることから、事
前に各部署間の協議や個別説明会、各診療科の医師、看護部、薬剤部、
中央臨床検査部、中央放射線部、事務部等各部門の協力により模擬患
者による診療シミュレーション等を実施した。新館での診療オープン
当初は、職員・患者様の新診療システムへの不慣れや診察順表示シス
テムの不具合等から一部患者様の診療待ち時間が長くなるなどのトラ
ブルが生じたが、現在、診療側スタッフのシステム習熟度の向上と新
館各所に配置した職員による誘導・案内、患者様の診療システム・新
館への慣れ等により比較的スムーズに診療が運用されている。患者様
からの新館の評価としては、施設面がすばらしいとの評価をいただく
反面、本館1階受付やレントゲン検査等との導線が長くて大変、場所
が分かりにくいという意見が聞かれる。
新館での診療を契機として、今後職員が一体となって、さらに安全
で質の高い医療の提供と予約診療の充実による診療待ち時間の短縮、
接遇等のサービス向上等のソフト面を充実させ、地域における基幹病
院として、また、高度な医療を提供する特定機能病院としての機能を
向上させ、さらに患者様に信頼される病院としていかなければならな
いと考えている。
(医事課今村吉克記)
各診察室前の診察順表示盤
診察室
自動再来受付機
33
看護部から発信* **
**
*看護部から発信
われています。眺めのよいダイニングルームは歩行可能な
新館病棟の案内
方の食事や、そのほか随時デイルームとして利用していた
だけます。また、管理が必要な部屋への出入りはカードキ
ーを使用するなど、セキュリティに配慮されています。
〔エレベーター〕
本学創立 30周年記念事業の一環として新館が平成15 年
エレベーターは一般用が建物の南側に4基あります。そ
8月に完成し、10月から11 月の約1カ月半をかけて全フロ
アの引越しを無事終えました。新館へ入院された患者の皆
のほかに業務用エレベーターが一般用エレベーターの反対
側の北側に6基あり、また非常階段と非常用エレベーター
様は快適な環境に本館とは「天国と地獄の差」と口をそろ が2カ所ずつ建物の南側と北側にあります。
えて話されます。
〔各階の診療科別配置〕
新館に移った機会に看護部から、新館フロアの各機能に 4階:
ついてご紹介します。
東病棟は「小児センター」
(小児内科19 床、小児外科15
〔新館は4階から 11 階までが病棟で、各階に東病棟
と西病棟があります〕
4基ある一般用エレベーターで目的階に着くと、廊下は
左右に分かれ、左へ行けば東病棟、右に行けば西病棟で
す。足元を見てピンクの水玉をたどると東病棟のスタッフ
ステーションへ、ブルーの水玉に従えば西病棟のスタッフ
ステーションに行くことができます。
床、形成外科3床、合計 37床)と「新生児特定集中治療
室」
(13 床)で構成され、病態に適した治療ができるよう
にGCU・HCU・陰陽圧室などが完備されています。
西病棟は、
「女性・周産母子センター」で女性専用の病棟
です。病床は産科婦人科28 床と新生児室、分娩室などの
設備で構成されています。
5階:
東病棟は「腎総合センター」で、腎臓内科24 床、麻酔
科1床の一般病床と血液透析室(血液浄化装置 22 台)が
従来のナースセンターの名称を「スタッフステーショ 隣接しており、1日1人当たり平均4∼5時間の血液浄化を
ン」と呼び方を変えました。ここは病棟機能の中枢となる 週2∼3回実施する継続治療が行われ、月・水・金は通院者
場所で、ナースばかりではなく、医師、研修医、看護助 に対する夜間透析を実施しています。
手、薬剤師などの医療スタッフが集まり、チーム医療を円
西病棟には、臓器移植等免疫力低下に対応できるバイオ
滑に行うための基地となるところです。みんなの意見でス クリーン2室、セミクリーン4室が設置されている他、
「泌
タッフステーションという名称に決定しました。しかし、 尿器科」20床、
「血液・リュウマチ膠原病科」23床、
「腎臓
新館披露のときに見学に回られたマーサ大学の Jobe医学 内科」3床の合計46床の一般病床で構成されています。
部長ご一行にスタッフステーションの意味が良く分かって 6階:
もらえなかったという一幕もありました。
東病棟は「脳脊髄神経センター」で、脳神経外科21床、
〔スタッフステーション〕
〔各階の設備について〕
神経内科9床の一般病床と神経集中治療室(15 床)で構成
各階には4人室と個室があります。各部屋とも窓は広く され、高度な意識障害レベルの患者さんに専門的医療が展
て明るく、堅固な二重ガラスを使用してあるので、寒い日 開されています。
も暑い日も水滴が付いて曇ることはなく、強風の日も音も
西病棟は内科系の混合病棟で、
「内分泌・代謝科」28 床、
無くびくともしません。廊下はストレッチャーで仰臥位で 「神経内科」11床、
「血液・リウマチ膠原病科」4床、
「放射
運ばれる患者さんがまぶしくないよう明るい間接照明が使 線科」2床で合計45床の一般病棟で構成されています。
スタッフステーション
ダイニング・デイルーム
34
看護部から発信* * *
7階: 東病棟は「呼吸器センター」で、呼吸器内科 25 床
と、呼吸器集中治療室(9床)で構成されています。呼吸
器外科の術後患者さんは安全上先ず呼吸器集中治療室に
収容され、症状に応じて同センター内の一般病室に転室す
ることになります。
西病棟は「消化器科」・「呼吸器科」の病床が入り、消
化器内科32床、呼吸器科19床(呼吸器外科11床、呼吸器
内科8床)が割り当てられています。消化器内科は8階消
化器科病棟の一部として構成されています。
8階:
「消化器科」の病棟で本館 10 階が移転しました。東病
棟50床、西病棟48 床ともに消化器外科に割り当てられて
います。
中等度以上の重症の術後患者さんは3階の中央手術部に
隣接した集中治療センターで加療の後、重傷度を考慮して
この病棟に転棟となります。既にベッド稼働率は90 %以
上になっています。
9階:
東病棟は「整形外科」49床がはいっています。
整形外科病床は本館8階にも12 床あり、新館には急性期
の患者さんを優先している状況ですが、旧舘入院患者さん
の方々から「同じ入院料なのになぜ?」という、同じサー
ビスを受けていても部屋の新旧の格差に対する不満が多い
ようです。ベッド稼働率は90%以上となっています。
西病棟は「耳鼻咽喉・頭頚科」28床、
「高齢医学科」15
床、
「総合診療科」4床で構成されています。
10階:
「循環器科」の病棟で東・西合わせて 101床あります。
従来の循環器内科、胸部外科が入っており、東病棟は内科
系53床、西病棟は外科系38床と内科系10床が割り当てら
れています。
東病棟、西病棟いずれも、ハートセンター(循環器系集
中治療室)と連携して重症度に応じた段階的な患者さんの
管理が行われています。
11階:
この階は「各科共用の全室個室」で、34床あります。
本館 13 階の個室専用フロアが移動しました。グレード別
室料差額は、特A: 25,000 円、特B: 18,000円、特C: 12,000
円です。今のところ特Cは満床ですが、特A、特Bの予約
希望には順調に応じられる状況です。
以上が新館における病床のフロア別案内です。
開設以来2カ月余りが過ぎ、スタッフにとってようやく
建物の構造が理解できた状況ですが、病床利用状況は一般
病床では90%以上と順調に稼働しています。
(看護部辻口徹子記)
小児センター 新生児室(4階)
腎総合センター 血液透析室(5階)
呼吸器センター(7階)
12階レストランからの展望
35
看護部から発信* **
**
*看護部から発信
「看護指導室」
新館の外来部門の1階と2階に1室ずつ、「看護指導室」
と標榜された部屋があります。この部屋は看護師が患者さ
まとご家族を対象に種々の疾患の看護についての指導を行
う部屋で、今回の新館建設にともなって新しく設置されま
した。
ご存知のように、高齢者比率の増加で医療自体も大きく
変化し、厚生労働省の方針も在宅医療に向けられるように
なっています。かつては病院で病気を治すということは、
ごく当然と受け取られましたが、在院日数を短縮する施策 〔指導内容〕
や高齢者疾患の特徴から、病気を病院だけで治すというこ
(1) 指導申込/依頼
病棟主治医、看護師から患者の退院時に指導担当看護
とが難しくなる一方、治療には患者の満足度という評価が
要求されるようになりました。満足度には治療結果だけで
はなく、治癒までの医療従事者との関わりのプロセスが大
きく関係します。そのため糖尿病や慢性呼吸不全などで
は、一人30 分以上の療養指導を実施した場合は診療報酬
で評価されるようになってきました。もちろん収入に結び
つかない場合もありますが、患者の高い満足度により当病
院が評価されることを目標に看護指導を続けてきました。
このように、患者さまやその家族の方々が在宅で病気と共
存しながら日常生活をしていくのをフォローし、それぞれ
の病態に合った療養生活指導を、落ち着いた環境でできる
部屋として、
「看護指導室」を作っていただきました。
現在、糖尿病、慢性呼吸不全、ストーマケア、化学療法
に対する薬の飲み方など、それぞれ専門の看護師が担当し
て看護指導にあたっています。以下、糖尿病療養指導を例
にとって内容を紹介します。
糖尿病療養指導について
1.今までの取り組みの経過
平成 12年に内科外来で、主に在宅療養指導料が算定できる
疾患(インスリン在宅注射実施患者、在宅酸素療法患者)を
中心に外来看護指導を開始しました。電子カルテが導入され
業務改善の過程で、看護師が診療介助中心の業務実態から解
放され、看護本来の業務に目を向けることができるようにな
ったことがこの指導業務を促進しました。
2.具体的な取組状況
糖尿病患者に対しては内科外来看護師4名(学会認定糖尿
病療養指導士)が、在宅酸素療法患者に対しては呼吸器内科
担当看護師2名が療養の指導を実施しています。
3.糖尿病療養指導の概要
〔指導実施時間帯〕
午前8時 45分から午後5時まで。1患者約30 分の個別指導
をします。
担当看護師は診療補助業務と兼務で、患者さんの待ち時
間を利用して実施しています。
師に依頼する。外来担当医が指導担当看護師に直接指
示。または、外来看護師から医師に指示を依頼する。
(2) 指導依頼内容
入院看護サマリーから退院後に引き継ぐ継続看護を実
施すること。
外来インスリン導入およびインスリン自己注射患者の管理。
生活指導と糖尿病教室への連携。
(3) 指導依頼から指導実施まで
指導を依頼すると同時に指導担当看護師と相談して、
指導日時を調整し決定する。
患者に対して、在宅療養指導の目的、役割を説明する。
在宅療養指導料保険適用患者の場合は、患者の了解を
得てオーダー入力し、指導を実施する。
指導内容は電子カルテの外来看護記録に記入し、記録
内容を医師が確認する。
以後の指導も、患者・家族の意向を確認して決定し、
必要に応じて指導の予約を入れる。
個々の指導内容、目標、改善点などは糖尿病療養手帳
にも記入する。
看護カンファレンスで生活指導状況を発表し、指導計
画の検討を行う。
(4) 結果の評価
指導日ごとに目標達成度をチェックし、生活状況、体
重、血液検査データを評価する。
(5) 指導の効果
血糖コントロールが不良な患者さんには、自ら目標を
設定することにより、血糖のコントロールができるよう
になり、達成感が得られている。
指導により、患者のHbA1cの改善を認めた。
外来診療でも、安全にインスリン導入を行うことがで
きている。
医師からも、患者の病態改善(とくに糖尿病腎症の悪
化防止)を認めていると評価されている。
看護師による業務として保険点数を算定できることに
なったことは、看護師の日常業務に対する充実感、やり
甲斐となり意義は大きい。
(看護部辻口徹子記)
36
紹 介
金沢医科大学病院
睡眠障害センター
昨年、山陽新幹線での居眠り運転がマスメディアに大きく取り上げられ、その原因が睡眠時無呼吸症候群(Sleep
Apnea Syndrome: SAS)であったことが判明して、社会的関心が非常に高まった。これまでいびきは身近な存在であるこ
とから熟睡のしるしとさえ考えられ、夜間就寝中のことだけに、症候に対する本人の自覚がなく、また家族などによる
十分な観察や関心を得ることも困難で、本疾患への根本的なアプローチがなされないままとなってきた。近年、徐々に
雑誌やテレビなどでも取り上げられるようになったが、前述のエピソードを契機に爆発的に社会の関心が高まったこと
は事実で、全国的にSAS治療を行っている施設がその体制を強化し、需要への対応がなされてきている。
当院でも昨春来、いびき、無呼吸を主訴に受診された患者数はこれまでになく増加し、診断に至るまでの諸検査の予
約はパンク状態となった。このような状況と社会的背景を基盤に、当院における睡眠障害センター設立に関する構想が
立ち上がり開設に至った。丁度時期を同じくして、日本睡眠学会において睡眠医療に対する専門機関の第1回施設認定
が行われ、全国で22カ所が認定され、これに伴って当センターは北陸では唯一の認定施設として認定され、診療サービ
スにあたっている。この認定には主にSASを診療対象とするタイプと、SAS のみならず睡眠障害全般を扱うタイプがあ
るが、当センターが特徴とするのは後者の各専門領域の医師が対応できる施設認定を取得している点である。呼吸器内
科、耳鼻咽喉科がSASなどの睡眠呼吸障害を主に、神経内科、神経精神科がそれ以外の睡眠障害を担当している。本邦
では単一診療科で睡眠医療を行っている施設が多い中、当センターはこのような複数科が診療科の垣根を取り除いて個々
の患者に適した治療法を選択できるよう対処している。以下、各専門領域の担当者から各分野の状況について説明いた
だく。
睡眠障害センターについて
呼吸器内科学助教授 栂 博久
SAS には閉塞型(OSAS)と中枢型(CSAS)があるが9
割はOSASであり、ひどいいびきと日中の眠気が大きな問
題である。OSASの原因としては肥満による上気道の狭さ
と睡眠時の同部位の閉塞が最も重要である。
当院では平成8年から「いびき外来」を新設し、いびき
やSAS 患者の診療を行ってきた。来院患者数は年々増加
し、現在 900名を超える患者を登録している。SAS はま
た、高血圧、糖尿病、脳卒中、虚血性心疾患などの生活
習慣病の危険因子となっていることも明らかにされてい
る。また、原因不明の夜間睡眠中の突然死の原因としても
SASは重要であると考えられている。
終夜ポリグラフ検査
SASは1泊ないし2泊の睡眠呼吸モニター(ポリグラフ)
により正確に診断できる。無呼吸とは10秒以上口、鼻の
気流が停止することを言う。この無呼吸が睡眠時1時間あ
たり4回までは正常範囲、5∼14回は軽症、15∼29 回は中
等症、30回以上は重症のSASと分類される。一般に15 ∼
20回/時以上の SASは治療を要する。最も重要な基本的
治療は肥満の解消(減量)であり、食事制限、運動療法に
加え、当院では入院の上徹底した食事、減量療法も行うこ
とがある。ただし、中等症以上のOSASでは減量だけでは
なかなか改善しないこともあり、その場合は睡眠時鼻
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure: 持続的陽圧呼
吸)を付ける必要がある。CPAPで日中すっきりすると、
食事療法などにも意欲がわき減量に有利である。歯科装具
(マウスピース)を装着して眠る方法や手術でのどを広げ
る方法(UPPP、LAUP)も行うことがある。
CPAP治療
37
当院における SASに関する研究は、上気道の形態、機
能を明らかにすることにより病態を解明し、新しい治療法
を開発することに焦点を当てている。音波を用いた気道断
面積測定法(acoustic reflection, AR)により上気道の大き
さとつぶれやすさ(コンプライアンス)を測定する方法を
独自に開発し、SAS患者の上気道特性を測定している。従
来、上気道が狭いことがOSASの最も大きな原因と考えら
れてきたが、それよりも上気道がつぶれやすいことの方が
より閉塞の原因として重要であることを初めて示してき
た。さらに、正常では睡眠時に吸気時上気道を開大する筋
群の反射機構があることが知られているが、SAS患者はこ
のメカニズムが減弱ないし消失していることも明らかにし
てきた。したがって、OSASの治療はCPAP や手術で上気
耳鼻咽喉・頭頸科の立場から
耳鼻咽喉科学助手 高島 雅之
耳鼻咽喉・頭頸科に求められるもの
耳鼻咽喉・頭頸科が主に担当するのはSASの原因部位に
ついての診断と手術治療となる。当科の立場で治療を行う
対象となるのは、SASの中でも閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸
症候群(Obstructive Sleep Apnea Hypopnea Syndrome:
OSAHS)である。鼻腔、鼻咽腔、咽頭、喉頭の上気道の
どの部位に睡眠時に閉塞が起こり無呼吸の原因となるかを
診断し、重症度については終夜ポリグラフ検査
(Polysomnography: PSG)を行い、治療方針、治療法の選
択、手術法および適応について検討して、患者さんのイン
フォームドコンセントを得て治療を実施する。
実際の診療では、日中の眠気に対する指標として
Epworthの眠気スコア(Epworth Sleepiness Scale)をアン
ケート形式で行い、これが10 点以上の場合SASの存在を
強く疑う。そして、口腔内、鼻腔、咽頭、喉頭の形態の評
価を外来診療でファイバースコープを用い行う。鼻腔内の
評価は、SASの治療としては現在ゴールデンスタンダード
である鼻CPAP(nCPAP)治療をおこなう上でも、また鼻
呼吸障害によるnCPAP の使用困難を回避するためにも重
要である。アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎により鼻呼吸
内視鏡で無呼吸の原因部位を検査する
道を広くするばかりでなく、上気道の閉塞を防止するこれ
らの神経・筋活動を刺激して正常化する手段が有用である
可能性があり、この視点からの新しい治療開発の可能性が
あると思われる。
近年、生活パターンの変化から、夜間よく眠れない、日
中眠くてたまらないといった睡眠障害が増加している。
SAS はそのうちで最も多いものであるが、睡眠障害にはナ
ルコレプシーなど他にも種々のものがあることが知られて
いる。このような社会的な要請という点からも、当院にお
いて従来の「いびき外来」から発展して「睡眠障害センタ
ー」として診療にあたることはますます重要になってくる
ものと考えられる。
障害が疑われる症例では鼻腔通気度検査により鼻腔抵抗値
を測定し、治療の適応および治療効果の判定を行う。咽喉
頭の評価は覚醒時と睡眠時ではその形態が非常に異なるこ
とから、薬物下睡眠ファイバースコピーやdynamic MRI撮
影(睡眠下に同一部位を何十枚も撮影し、それをコンピュ
ーター処理をして動画として観察する検査)を行い閉塞部
位診断に役立てる。
治療としては、副鼻腔炎や鼻中隔彎曲症などの鼻疾患が
原因となっていると判断される場合は手術的に治療して鼻
腔容積の拡大により鼻呼吸の改善をはかる。また、アレル
ギー性鼻炎などにより通年性の鼻閉を認める場合、外来手
術として高周波焼灼法を用いた粘膜腫脹の改善療法を行
う。咽頭に対しては、古くから行われている口蓋垂軟口蓋
咽頭形成術(口蓋扁桃を摘出し口蓋垂など振動する範囲
を縮小する手術)や、軽症SASもしくはいびき症の患者で
は軟口蓋の高周波治療を外来で行っている。
SASの治療にあたっては単独の治療により改善がはかれ
る場合とそうでない場合があり、患者ごとに無呼吸の改善
度や満足度に応じて幾つかの治療を組み合わせる c o mbined therapyが必要になってくることもある。またSAS に
他の睡眠障害を併発しておりそのため日中の眠気が改善し
ない場合は、その治療も並行して行う。
当センターの各領域の専門医が症例検討に積極的に関与
する方式は、片寄った考えに陥るのを避けることができ、
高周波治療
38
理想的なスタイルで運営されている。
SAS患者では高血圧や虚血性心疾患などの発症率が明
らかに高いことも解明されてきており、医療経済に係る
本邦では、睡眠障害を扱う施設が増えてきてはいるも
費用負担の大きさからも今後、本邦における政府関係省
のの、その数はまだ十分に満たされるものではなく、施
庁をあげての睡眠医療に対する一層の深い取り組みが期
設内のマンパワーや設備などに問題を内蔵している施設
待される。既に冒頭で述べた新幹線の事故の後、昨年3月
も多いと思われる。当センターでも同様の問題は全てク
に国土交通省から「SAS に係る事業用自動車の運転者の
リアされてはいないので、今後、コストパフォーマンス
健康管理について」という内容の通達が出され、今後、
など医療経済面の問題を含めて、効率的な運用を確立し
睡眠センターでのSASの企業検診などが求められてくる
て行きたい。
可能性がある。従来のような単に受診される患者さんだ
米国では1989年に「WAKE UP AMERICA」と称し、国
けではなく、睡眠医療の観点から見直す必要がある問題
をあげて睡眠障害の啓蒙にあたり睡眠医学の普及を進め
がいろいろと提示されてくるものと思われる。
てきた。そして現在500以上の睡眠医療専門施設が存在し 〔関連学報記事:学報第114号(2003 年5月)14-15頁「ト
ており、認定医師、認定検査技師が業務に従事している。 ピックス:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療」
〕
現状と将来への展望
とは、本人は眠っていると自覚しない程度ですが、stage
2は明らかな睡眠状態です)くらいの完全な睡眠状態にな
―あなたは、十分眠っていますか―
っているでしょう。この睡眠時間が、幸い極めて短けれ
ば冷や汗ですみますが、少しでも長くなれば、ガードレ
神経内科学講師 堀 有行
ールに傷跡をつけるだけではすまなくなるのです。この
睡眠障害には様々なものがあります。睡眠時無呼吸症候 様な短い睡眠nap を日中に何度もとり、足りない睡眠を補
群やいびきの他には、眠る時間はあるのだが眠れないいわ っている人は大勢いるはずです。
「あんな、まじめな人が
ゆる不眠症、無呼吸もなく適切な睡眠がとれているのに昼 会議中に居眠りしている」というのは、会議の内容によ
間眠くて居眠りしてしまう過眠症(ナルコレプシーや特発 るのかも知れませんが「睡眠時間を十分に取れていない
性過眠症など)
、眠っている間に体に異常が生ずる睡眠時
のだろうか」の方が正しいかもしれません。
随伴症候群(夢遊病、むずむず脚症候群、レム関連行動異
最近、昼間の眠気を訴える健康感あふれる20 歳の女性
常など)
、交代勤務や、時差ぼけなどにより、昼夜のリズ が受診されました。十分な睡眠時間をとっているが、昼
ムが乱れて眠るべき時眠れなくなる概日リズムの障害など 間に眠り込んでしまう ということで、近くの病院で睡眠
です。これらの睡眠障害の中で最も多いのが不眠症です。 時無呼吸の検査を受けたが異常がなかったとのことでし
昼間に眠気があるとき、睡眠時間は十分であるか、眠る た。よく、話を伺うと、午前1から2時頃に眠り5時には
べき時間帯に眠っているか、職場や家庭の問題などで気に 目が覚め、しばらく床の中にいて、6時には起床するとい
なることがあって寝つけないことはないか、眠るためにお う睡眠習慣を3年以上続けていて、長い間、自分はそれで
酒を飲んでいないか、眠気の生ずる薬を飲んでいないか、 睡眠が十分であったと思っていたとのことでした。診察
など様々な要因を確認しなければなりません.眠るべき時 では、気分の高揚と軽度の甲状腺腫があり、検査の結果、
に必要な睡眠時間が得られているか、その眠りを妨げてい 軽度の甲状腺機能亢進症が確認されました。甲状腺機能
ることがないかなど、あなたの眠りについて是非一度考え 亢進症による軽い躁状態のための、自覚のない長期間に
てみてください。
わたる睡眠不足のために生じた昼間の「眠気」でした。
肉食獣から身を守らなければならないキリンやシマウマ
先に紹介のあった、新幹線の事故でクローズアップさ
は数時間しか眠りませんが、隠れるのが得意な(?)コウ れた睡眠時無呼吸症候群。ところが便乗するかのように、
モリは20時間近く眠ります。ヒトは平均8時間、動物の中 スリーマイル島の原子力発電所事故やスペースシャト
では中間的な時間を睡眠に費やしています。ヒトによって ル・チャレンジャー号の事故などまでもが、睡眠時無呼
は、10時間以上の睡眠の必要な長時間睡眠者long sleeper、 吸が原因と説明されているものを時々見受けます。しか
6時間も必要でない短時間睡眠者short sleeperなど個人差
し、これらは事実誤認です。事故を公式に報告してある
があり、時間そのものは重要ではありません。大切なこと ものによれば、過酷な労働条件による睡眠不足などが原
は、本来その人に必要な睡眠時間を、何時間もすり減らし 因で、睡眠時無呼吸症候群の関与については触れていま
て、あるいは一睡もできずに働かなければならない人、夜 せん。「眠気=睡眠時無呼吸」といった誤った認識によ
勤のある人などがいることです。雇用者は不足している睡 り、睡眠時無呼吸のスクリーニングが先行してしまう危
眠をとる時間を与え、本人も睡眠の重要性を認識し、深夜 険性が高い中、企業などに対して健全な睡眠を得られる
までの飲食などを避けるようにしなければなりません。
ように指導を行うことも私たちの仕事と考えます。
睡眠不足は、思わぬところで補われています。高速道路
睡眠についての正しい医学知識で、眠い、眠れないと
を運転中、耐えられない眠気に襲われた経験はありません いった一見ありふれた症状に隠されたさまざまな問題点
か。そんな時、あなたの脳はおそらくはノンレム睡眠の
を見出し、解決するために、私たち、睡眠障害センター
stage 2(ノンレム睡眠はstage 1∼4まであります。Stage 1 のスタッフが協力して診療に携わりたいと思っています。
神経学の立場から
39
新臨床研修制度にむけた
試験でした。
平成16年度
研修医マッチングは、研修希望者(参加者)と研修プロ
グラム(参加病院)とを、効率的かつ透明性を確保して、
研修医マッチングの実施
組み合わせるためのシステムでありますが、当初10 月に結
果が出るはずでありましたが、初めてでもあり1カ月遅れて
11月13日の発表となりました。
マッチングのやり方は研修希望者が個々に希望の研修病
平成16年度から必修化される卒後初期臨床研修の研修先
院の試験(通常は面接と書類選考および筆記試験)を受け
を決めるための全国的なマッチングが行われました。金沢
医科大学病院は定員 5 8 名のところ 5 5 名がマッチングし、
ます。各病院は試験結果をもとに学生を成績順にならべ、
財団法人医療研修推進財団に報告し、学生は、研修病院を
95%の充足率でありました。全国の大学としては13番目に
高い充足率で、大学附属病院全体では1,669名分が空席とな
希望順に申請します。以上の結果をコンピューターで処理
し、1学生1病院の割り付けを決めるもので、米国ではすで
り、定員の20%にも満たない大学も2校ありました。まだ
私達にも全貌が解らない点もあり、誌面をかりて第1回研修
にこのマッチングによってスムーズに病院が決定されてい
ます。
医マッチングの結果について報告します。
本制度の発端は、従来の日本の医師養成が専門医指向に
発表では、研修医マッチング研修希望者と研修プログラ
ムとの組み合わせが公表されました。財団法人医療推進財
片寄っており、全人医療のできない医師が多くなって来て
いることと、研修医が当直業務や外の病院でアルバイトを
団によりますと、加入者数8,283名、希望順位表を登録した
参加者数8,109 名で、希望順位表を登録しなかった参加者数
させられるなど、激務のためミスをおかしやすい状況であ
り、また過労死などの社会問題があったことによるものと
は174 名でした。研修プログラム1,076プログラム、
(参加病
院数851病院)
、募集定員10,870名でした。研修医マッチン
考えられます。この度の新研修システムでは、労働時間の
厳守やアルバイトの禁止を盛り込み、研修内容はプライマ
グの結果の概要、組み合わせが決まった参加者数(マッチ
者数)7,756名、組み合わせが決まらなかった参加者数(ア
リー・ケアを主体にしています。
私達の金沢医科大学病院でも給与や研修施設など多くの
ンマッチ者数)353名、マッチ率95.6%でした。しかし、大
学での研修に限ってみると、27%が空席の状況です。マッ
改善を致しました。プログラム内容は学生の選択希望も取
り入れられた充実したものを検討準備して来ました。
チングによって学生が自由に選択出来る幅が広がったため
に、母校で研修しない道を選ぶことが容易になっていると
本学病院でも従来からローテーションシステムを採用し
ており、新しい研修制度になってもさほど改正する制度問
題はないはずでした。しかし、プライマリー・ケアのでき
る医師の養成という目的から、全科を選択出来るプログラ
ムをつくるというコンセプトに作製しました。すべての臨
床科がプログラムに加わっており、他の大学にはないシス
テムとなっています。また、原則として大学内でほとんど
の研修が行われ、関連病院での研修は入れない方針から、
研修医が慣れない外の病院での研修はありません。以上の
特徴からか、定員58 名のところ 118 名の応募があったもの
と考えています。
採用試験は平成15 年8月 31日(日)に行い、プログラム
委員と研修指導医の職員による面接試験を行いました。第
一希望で本学を希望する学生が多く、彼らの熱意が伝わる
理解できます。
本学病院は新館と本館との併用での運用ですが、本館の
4階または3階に暫定的に新しい研修医のためのフロアを改
修中で、カンファランスや相談窓口、自習などに利用出来
る空間となる予定です。各診療科の指導医と研修医が臨床
の問題を含めて熱く語れる場所となるよう整えてゆくつも
りです。
以上、まだ実施にむけて、指導医の研修や研修内容の吟
味、研修終了を判定する規定の整備など通らねばならない
問題が山積みしています。質のよい研修医の獲得が今まで
以上に競争になってきています。したがって、本学のプロ
グラムや実施内容が問われることになります。少しずつで
すが確実に前進させたいと思っています。ご協力を切にお
願いする次第です。
(臨床研修センター長神田享勉記)
40
第9回 金沢医科大学病院
地域医療懇談会
副院長と各科診療科長・医局長が出席し、医療連携の推進
などについて意見交換を行った。
内田病院長の挨拶に引き続き、竹越学長から「医学教育
における最近の動向」についての報告と挨拶があった。本
院の新診療科である乳腺・甲状腺外科及び各専門外来の紹
介の後、本院の現況報告として、①患者紹介・逆紹介状況、
②地域医療連携部の活動などの報告があった。
続いて、内田病院長から、予め各医療機関からお寄せい
ただいた当院に対する意見、要望事項についての回答が行
われた。
懇談会終了後の懇親会では、和やかな雰囲気の中で参加
者同士活発な意見交換が行われ盛会裡に終了した。
(地域医療連携事務課中新茂記)
竹越襄学長の報告と挨拶
第9回地域医療懇談会が、平成15年11月22日(土)午後
6時から金沢ニューグランドホテルにおいて開催された。
この懇談会は、本学病院が地域の開業医の先生方との連
携を深め、それぞれの機能に応じて患者さんの紹介・逆紹
介の推進を図り、地域と密着した特定機能病院として、そ
の使命と責任を果たしつつ、より一層地域医療の発展・充
実に貢献することを目的として毎年開催されている。懇談
会には、石川県内及び富山県高岡・砺波医療圏の医院の院
長、本学出身の開業医の先生など47医療機関より49名が出
席され、本学からは竹越襄学長・内田健三病院長をはじめ、
平成15年度 石川県民大学校
健康管理講座 閉講
健康管理講座の閉講式が、10月25日(土)の午後4時 30
分より、石川県立生涯学習センターの斉藤真一郎館長、内
灘町教育委員会生涯学習課の吉野純吾課長補佐、本学病院
からは、中農理博病院事務長、疋田勉管理課長の出席のも
とに行われた。11 回の開催のうち8回以上出席された方は
受講生の約4割の 44名にも及び、斉藤館長より修了証書が
渡された。健康管理講座を担当する施設としても出席率が
このように高いことは大変うれしく、受講生の方々の熱意
に敬服するばかりである。
「健康管理講座」は、7月5日から「生活習慣病」をテー
マにして、11回にわたり開講され、10月25日の内分泌内科
学の中川淳助教授による「糖尿病と言われたら?(糖尿病
と言われる前に)
」と題した講演を最後に閉講した。大変わ
かりやすい内容で、糖尿病への関心が一層深まったものと
思われる。
出席した地域医療機関の院長との意見交換
今年度は111名の申込があり、毎回60 名前後(前年70名)
の方が受講された。地域別では、金沢市在住の受講者が増
加した。年齢別では、60 歳代の方の出席が最も多く、半数
近くを占めている。また、ご夫妻での参加が9組もあり、お
互いの健康管理に役立てられたのではないかと思われる。
今後も、毎回のアンケートによる皆様のご意見を参考に
し、新しい企画も盛り込みながら、当講座を通して地域に
開かれた金沢医科大学病院として活動していきたい。
(管理課島幸枝記)
41
管理・運営
表 彰
平成15年度石川県私立学校教職員教育功労者
知事表彰
平成15年度石川県私立学校教職員教育功労者の知事表彰
が11月 26日(水)午前 11 時に石川県庁特別会議室におい
て行われた。今年度の被表彰者は67 名であり、そのうち本
学職員は24名であった。
表彰式では、県内の私立学校の振興・発展に長年貢献し
てきた大学・短大関係者49名とその他18名の計67名に対し
て谷本正憲石川県知事より表彰状と記念品が贈呈された。
本学の受賞者は以下のとおり。
(敬称略)
伊達 孝保 石倉 直敬 久原とみ子 津川 博一
斎藤 人志
新家 敏弘
北山 道彦
宮内 英二
井上 義人
宮越 稔
木南利栄子
宮口 和彦
市川 秀隆
干場 良広
上田 忠司
笠間 孝一
杉田 順一
米沢 昭美
昔農 好子
釣見 尚美
新沢 泰子
根布長久江
上埜やすこ
中川美枝子
(人事厚生課石田豊司記)
平成15年11月26日 知事と記念撮影
表 彰
平成15年度
永年勤続表彰
平成15年度本学教職員の永年勤続(20年)表彰式が11月
14日(金)午後3時 30分から病院新館12階レストランにお
いて行われた。今年の被表彰者は38名であり、表彰式では、
山下公一副理事長より表彰状と記念品が受賞者を代表して新
家敏弘助教授(人類遺伝学研究部門生化学)に贈呈された。
続いて山下副理事長から20年を振り返りながら永年勤続
の労へのねぎらいとお祝いの言葉があり、記念撮影を行っ
た。その後、新館12階からの景色を眺望しながら軽食をい
ただき、なごやかに歓談の時間をすごした。
今年度の受賞者は以下のとおり。
(敬称略)
伊達 孝保
久原とみ子
石倉 直敬
新家 敏弘
井上 義人
宮内 英二
北山 道彦
市川 秀隆
上田 忠司
門田 和気
玉村 裕保
坂田 真一
村井 幸美
島 幸枝
林 由美子
中川 明彦
寺内 利恵
小池田玲子
中井 士郎
山崎 桂子
畑中 裕子
松本 正美
村山 智子
庄野 浩史
荒木 忠
中川 透
松本 圭司
荒木 洋美
高瀬 悦子
田中 澄子
水本百合子
田畑 晴美
高畠 礼子
田中 和代
星野由美子
東井 成子
山田貴美子
本 雅乃
(人事厚生課石田豊司記)
42
謹んでご逝去をお悔やみ申し上げます。
須佐美隆三 名誉教授 ご逝去
り行われました。
金沢医科大学名誉教授須
先生は昭和 50年から平成6年まで、金沢医科大学医学
部矯正歯科学教室教授として、矯正歯科治療の先進的治
佐美隆三先生は、かねてから
病気療養中のところ、平成
療と普及にご尽力されました。日本人における下顎前突
者の骨格的特徴の研究では国内の第一人者で、いまなお
1 5 年 1 2 月7日に東大病院で
逝去されました。享年 7 7 歳
先生の論文が、多くの研究者の論文に引用されています。
誠実、謙虚、礼節を重んじる先生のお人柄は多くの
でした。
12月 11 日に東京都四谷の
人々から慕われ、現在数多くの門下生が大学研究者とし
て、また臨床家として第一線で活躍しています。
たちばな会館にて、生前先生
と親交の深かった多くの人々
最後に改めて先生のご業績に対し、深くお礼を申し上
げるとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
(口腔科学出村昇記)
のご会葬、ご弔辞を得て葬儀が、しめやかにも盛儀に執
塩田 覚 前教授 ご逝去
塩田 覚前教授は、平成 15
年11月13日、午前8時 40 分、
急性心不全にて逝去されまし
た。享年69歳でした。
先生は、1 9 7 5 年(昭和 5 0
年)9月、金沢医科大学歯学
研究所開設と同時に京都大
学(医学部口腔外科学講座
講師)から教授として就任さ
れました。その後、歯科口腔外科学教室の開講にご尽力
され、1982 年金沢医科大学大学院教授(口腔科学講座主
任)として北陸地域の歯科学の卒後教育の振興にご尽力
され、現在の教室の基盤を築かれました。1993年12月に
退職されるまでの18年間、温厚な先生のお人柄に接した
職員も多かったと思います。
診療では北陸における先端歯科医療の普及に貢献され
る一方で、研究では高度歯科医学の開発に努力され、抜
歯後歯槽堤への骨軟骨移植に関する実験的研究をはじめ、
口腔腫瘍の増殖浸潤様相に関する実験的研究、顎関節損
傷の病態並びに修復機転に関する研究、口腔粘膜疾患の
病態に関する研究などを精力的に進められ、その独創的
な成果は国内外から高い評価を受けました。
退職後は香川県でご尊父の医院のあとを継がれて実地
診療に当たられ、また、金沢医科大学客員教授として、
亡くなられる直前まで多くの教室員の指導に力を注がれ
ました。
先生の功績を称えますとともに、心よりご冥福をお祈
り致します。
(口腔科学藤村和麿記)
《本学スタッフ新刊著書 ②》
佐藤和雄、藤本征一郎 編
臨床エビデンス婦人科学
牧野田知・大島恵二 分担執筆
(婦人科治療学1手術療法3 外陰、膣の手術、p552-565)
本書は、Evidence-based Medicine(EBM)に考慮した
婦人科教科書であり、各章に執筆者のコメント、引用文
献、推薦文献などを入れEBMの出所とそれらの綜合と解
説が行われるように工夫してある。外陰・膣の手術を本
学の牧野田教授、大島助手が分担執筆している。
医学部学生、研修医、臨床医にとって大変参考になる
図書である。
(産科婦人科学大島恵二記)
A4判、699頁
定価:本体13,000円+税
2003年4月1日発行
ISBN 4-7583-0508-0 C3347
43
互助会
秋のバス旅行
下呂温泉のバイキングと深山幽谷の旅
り、一番下の不動滝まで下るわずか15分ぐらいの間に十分
に深山幽谷の気配を堪能できた。そこからは登りに転じる
が、何本もの吊り橋をおっかなびっくり渡ったり、木々の
間から渓谷の眺望が堪能できたりと変化に富んだコースで
楽しめたが、日ごろの運動不足が祟り、約1時間のコースを
踏破して駐車場に戻るころには足が棒のようになっていた。
紅葉はまだ時期が早く、あまり進んではいなかったが、最
盛期は素晴らしいだろうと思われ、ぜひ個人でもう一度訪
れてみたい場所である。
その後、1回の休憩を挟んで、午後8時、予定どおりに金
沢医科大学に帰着した。バスの乗車時間が長く、途中、山
歩き(?)もあり、やや疲れ気味であったが、素晴らしい
天候にも恵まれ、楽しく印象深い旅行となった。
(人事厚生課坂尾光一記)
10月26日(日)午前7時30 分、我々一行38名は、予定時
刻どおり本部棟前を出発し、最初の目的地である下呂温泉
「水明館」に向け出発した。天候は、前日降っていた雨の影
響が残り、朝のうちは曇りがちであまり良くはなかったが、
途中、高山の近くの「道の駅」での休憩をはさみ、下呂温
泉に到着する11時40分ごろまでには空は晴れ上がり、気温
もぐんぐんと上がって最高の一日となった。
水明館に到着し、案内されてバイキングの会
場に向うころには、ちょうど空腹になる時間帯
で、
「どんなものが食べられるんだろう」との
期待でいっぱいであった。
会場には期待に違わず和・洋・中のいろんな料
理が並べられており、皆、思い思いの料理を心
ゆくまで堪能した。その後は入浴したり、付近
を散策したり、お土産を物色したりと、出発時
間まで各自思い思いの過ごし方をした。折から
の上天気も手伝って、皆、満足げだった。
午後2時に、第2の目的地である紅葉の名所
付知峡(つくちきょう)へと出発した。国道か
ら外れると道はだんだん狭くなり、最後の九十
九折れの道の先に駐車場があった。バスを降り
て、狭くて急な坂を手すりにつかまりながら下
不動滝にて記念撮影
る。周りはうっそうと茂った木々が光をさえぎ
第29回 互助会ボウリング大会
毎年恒例のボウリング大会が、11月26日(水)金沢市高
柳町の「ルネス・ボウルサンサーカス」において、33 チー
ム128名が参加して開催された。
会場内は、ストライクやスペアのたびに歓声があがり、終
始熱気に溢れ会員相互の親睦が十分深められた大会であっ
た。
(人事厚生課石田豊司記)
成績は次のとおり。
《団体の部》
優 勝 スタークラブ
1,063ピン
(耳鼻咽喉科学、消化器内科学/石政、高島、根布
長、柴山)
準優勝 中放レボリューションズ
1,047ピン
(中央放射線部/八木、北本、殿田、奥)
第3位 アイリス
987ピン
(細胞医学研究部門、生理学Ⅰ、病理学Ⅰ/宮越、
山田、安達、前田)
第4位 医科大花子さん
987ピン
(図書館事務課、診療支援課、薬剤部、栄養部/辺
本、諸江、斉藤、伴)
第5位 ワンゲルズ
972ピン
(経理管財部、看護専門学校事務課、中央臨床検査
部、総合医学研究所事務課/尾張、山田、喜多、
坂元)
《個人の部》2ゲーム合計点
優 勝
新沢泰子(薬理学)
準優勝
石政 寛(耳鼻咽喉科学)
第3位
島 智一(経理課)
417ピン
412ピン
387ピン
《ハイゲーム》 新沢泰子(薬理学)
224ピン
44
第23回
理事長賞を受ける下川雅世さん
恒例の互助会文化祭が、 11 月5日(水)から 10 日(月)
までの6日間にわたって開催され、会場となった病院本館1
階及び2階外来ロビーには、職員と患者さん45 名から出展
された67 点の作品が展示された。作品の中には、手間隙が
かかったであろう細かな細工による「労作」や作者のセン
スが光る「秀作」が多くあり、期間中、職員のほか患者さ
んや来院者の方の目を楽しませてくれた。
11 月 10 日(月)には表彰式が行われ、理事長賞、学長
賞、病院長賞、優秀賞、特別賞の入賞者に表彰状と記念品
が贈呈された。来年も多数の皆さんの出品を期待したい。
(人事厚生課石田豊司記)
入賞者の皆さんは次のとおり。
理事長賞 下川 雅世(庶務課講師控室)手工芸
学長賞 冨田 晃子(看護部)写真
病院長賞 西村 栄子(看護部)陶芸
優秀賞 中谷 渉(フォトセンター)写真
寺井 明夫(総合医学研究所事務課)写真
宮下多佳子(一般外科・消化器外科学)手工芸
木下 恵子(教育研究事業推進室)陶芸
後藤 知子(管理課)生け花
生野 順子(看護部)生け花
荒木きみ枝(看護部)生け花
中越 滋子(看護部)生け花
特別賞 田畑 道子(職員OG)写真
柴田 朋子(外来患者)写真
上田 久子(職員家族)手工芸
石川 りつ(入院患者)手工芸
理事長賞: 手工芸(下川雅世)
学長賞: 写真(冨田晃子)
病院長賞: 陶芸(西村栄子)
生け花展示会場
45
後援会
金沢医科大学
北斗会 懇親・懇談会
本学の教員以外の職員で組織されている団体「金沢医科
大学北斗会」の平成15年懇親・懇談会が去る12月5日(金)
午後7時からホテルイン金沢で開催された。先ず、奥名洋明
会長の挨拶、来賓代表として竹越襄学長の挨拶の後、秋の
叙勲で瑞宝単光章を受章された金丸菊枝さんに宮本孝子さ
んから花束贈呈が行われた。引き続き新谷喜美子幹事によ
る乾杯で開宴となった。
これまで「金沢医科大学北斗会」の懇親会は3年に1度開
催されていたが、毎年開催したいとの要望が強く今年から
企画されたものである。約60名の会員が出席し久しぶりに
会う姿に感嘆の声をあげる人、挨拶を交わす姿が随所に見
奥名洋明会長の挨拶
竹越襄学長の挨拶
川伴次副会長の万歳三唱のあと水株正紀副会長のことばで
閉会した。
(教育研究事業推進室中山正喜記)
受けられた。途中退職された会員の現況報告等があり、北
《本学スタッフ新刊著書 ①》
泉 孝英監修、石垣昌伸 共著
びまん性肺疾患の臨床
−診断・管理・治療と症例−
分担執筆:
石垣昌伸、南部静洋
(肺水腫/ARDSびまん性肺疾
患の臨床、187-196p, 2003)
柳下雅美、南部静洋、石垣昌伸
(症例12 気胸にて発見され多
発性薄壁空洞を呈した悪性
乳房葉状腫瘍の肺転移例、
287-289p, 2003)
金芳堂
B5判、320頁
定価:本体10,000円+税
2003年3月20日発行
ISBN 4-7653-1098-1
呼吸器疾患をになう内科・外科・放射線科・病理医
必携の一冊である。ふんだんなレントゲン、CTと病理
写真と最新の知見が盛り込まれた一冊で、この領域を
学んでいる学生の理解のためにも大いに参考となる一
冊である。監修は、世界的な呼吸器領域の重鎮の泉孝
英先生で当科の O B の長坂行雄教授、岸本伸人先生、
南部静洋助教授や柳下雅美先生を含む日本の呼吸器疾
患を担っている方々の共著による意欲的な一冊である。
(呼吸器内科学 石垣昌伸記)
46
随想・報告
報 告
ミシガン大学留学記
耳鼻咽喉科学 大学院生
中 泉 俊 彦
2 0 0 1 年9月より 2 0 0 3 年の9月までの2年
間、私はミシガン大学に留学させていただ
きました。
ミシガン大学は1817年創立の伝統のある
名門大学であり「State Ivy」とも呼ばれるそ
うで、日本でこそさほど名を知られていませ
んが、毎年大学ランキングの最上位グルー
プに名を連ねる、全米屈指の名門大学です。
20 を超える学部に3万人以上の学生が勉強
するマンモス大学でもあります。キャンパス
は文科系の学部・学校を中心とするセント
ラルキャンパスと工学部を中心とするノー
スキャンパスに分かれており、2つのキャン
パス間をブルーバスが走っています。大学の
施設はかなり充実していて、キャンパス内
の無料のバス、2つの図書館(グラジュエー
トとアンダーグラジュエート)
、パソコンル
フロリダの学会会場にて。友田教授、Dr.Raphaelと共に
ーム、ライティングアシスタントなどが深夜
まで使えるようになっています。
ミシガン大学のいいところは、他の名門大学が都市部に
あるのに対して、田舎町アナーバーにあるため、遊びを楽
しむような魅力的なところが少なくて、留学中は本当に勉
強に集中できることです。冬はマイナス10 度以下の日が続
きますので、学生は自然と図書館で勉強せざるをえなくな
ります。これも勉強に集中する意味では、良いことではな
いでしょうか。また、アナーバーは治安が良く、全米の安
全な町ランキングでも上位にランクされています。
その中で、私が所属していたのはミシガン大学の耳鼻咽
喉科学教室クレスゲ聴覚研究所に属するYehoash Raphael,
Ph.D.をボスとするRaphael Labで、内耳への遺伝子導入の研
究で有名な研究所です。1996 年にDr Raphaelがアデノウイ
ルスベクターを内耳に発現させる研究を発表して以来内耳
への遺伝子導入の発表が見られるようになりましたが、い
まだ耳鼻咽喉科領域においての遺伝子導入に力を入れてい
るラボは少なく、世界各国より研究者が集まります。常に
ポスドクが3∼4人、アシスタントが2人、学生が3∼4人と
いった人員で、おもにポスドクは自分の研究は出来る範囲
すべて自分自身で行うといった体制をとっておりました。
そのため留学するまでに研究というものに一度もたずさわ
ったことがありませんでしたので、始めの数カ月はこの未
知の分野でいったい何をしたらよいのか途方にくれるだけ
の日々を過ごしていたものでした。クレスゲ聴覚研究所に
は他にもいくつかラボがあり、日本からも何人かの先生が
留学されていましたが、
“何時もラボにいるのは、日本人だ”
と言われるくらいによく休日に研究所内でお会いしました。
特に自分はなぜか行かないといけない状況に陥っているこ
とがよくありましたが、ただ始めの頃はまったくアメリカ
の休日がわかっていなかったという落ちもありました。そ
の中で私がさせていただいた研究の中から少し内容を書か
せていただきたいと思います。
有毛細胞の減少を伴う感音性難聴では、ラセン神経節細
胞の減少も二次的に引き起こされます。これは、言い換え
れば上位神経を保護する何らかの作用因子が有毛細胞より
伝達されている可能性があり、この因子としては、音刺激
により有毛細胞より発生している活動電位や、有毛細胞あ
るいは神経接合部より分泌される神経栄養因子が考えられ
ています。神経栄養因子は、内耳において初期発生、形態
維持、細胞死などに重要な役割を担っているということが
解明されてきました。これまでに浸透圧ポンプまたは遺伝
子治療によって外リンパ腔にBrain-derived neurotrophic factor (BDNF) 、Neurotrophin-3 ( NT-3)、Glial cell-line derived
neurotrophic factor (GDNF)などといった神経栄養因子を投与
することにより、有毛細胞減少後に起こるラセン神経節細
胞の変性を阻止できるということが報告されています。そ
47
の中のBDNF はニューロトロフィンファミリーに属
し、1998 年に入ってからブタの脳から精製された知
覚ニューロンに作用する神経栄養因子で、他の因子
に比べて脳での局在性が高く、さまざまなニューロ
ンに作用します。私の行った実験は、耳毒性薬剤に
よりモルモットの有毛細胞に障害を加え、それによ
り引き起こされる有毛細胞の減少からラセン神経節
細胞を保護するために、アデノウイルスベクターに
よる遺伝子導入を用いBDNFが有効であるかどうか
を評価することを目的としました。
これが自分にとって初めての研究課題でもあり、
わからないことばかりなので不安で落ち着かなかっ
た反面、ひそかに自分にどれだけのことをここで成
し遂げることが出来るのかといった期待感というか
ポジテイブな気持にもなっていました。実際に研究
が始まってみると、あるときは朝から夜まで2畳ほ
どの窓もない部屋に一人こもり、ずっとモルモット
クレスゲ聴覚研究所
の聴性脳幹反応を測定し続けたり、あるときは他のポスド
クと手術日が重なってしまい、自分は夜中に手術を開始す
ることとなったり、また、注文してあったモルモットが届
かないこともたまにあり、大幅に研究の予定が狂ってしま
ったりなど、まだまだ書ききれないくらいいろいろな出来
事を経験しながら一つ一つ結果を得ることが出来ました。
今となってみればそういう出来事があってこそ達成感が得
られたのではないかと思います。
その実験の結果として、アデノウイルスベクターを外リ
ンパ腔に投与することにより、基底板下の外リンパ腔を裏
打ちしているmesothelial cellに強い遺伝子発現を認めたので
すが、血管条やコルチ器内の有毛細胞、支持細胞およびラ
セン神経節細胞には遺伝子発現は見られなかったというこ
とより、外リンパ腔に注入されたアデノウイルスは、
Mesothelial 細胞より蝸牛に感染し、BDNF の遺伝子情報が
組み込まれ過剰産生を促すことにより、ラセン神経節細胞
を保護すると考えられるという結果を得ることが出来まし
た。
今回の留学によって学ぶことが出来た遺伝子療法は、現
ホームパーティーにてアシスタント。学生と共に
在ヒトにおいていろいろな分野で効果が報告されています。
遺伝子療法とは、病気の治療を目的とし、遺伝子または遺
伝子を導入した細胞を人の体内に投与することと定義され
ており、単一遺伝子異常疾患の異常遺伝子または欠損遺伝
子を修復、補完することにより疾患を治癒させようという
ことを目的としています。しかし内耳への遺伝子治療はま
だ始まったばかりで、現在、内耳疾患の治療はメニエール
病に対する内リンパ嚢開放術や高度感音性難聴に対する人
工内耳埋め込み術など、ごく限られた外科的治療以外は、
経口、経静脈的薬物療法がそのほとんどとなっております。
今後遺伝子治療は現在治療法のない疾患に対し予防もしく
は治療の手段を供給し、また治療の質の向上も期待され、
難聴やめまいなど内耳疾患の治療法の発展に大きな可能性
を与えると思われ、またラセン神経節細胞を保護し神経終
末と電極との接合部の状態を維持することが出来れば、人
工内耳がより効果的なものになると予測されます。
もう一つ自分なりに学ぶことが出来て、良かったと実感
していることは、視野を広く持つことの重要性であり、留
学中に知り合った他大学の先生方より、普段とはまた違っ
た刺激や情報を得ることができるということです。この留
学が無ければこういったものはなかなか得ることが出来る
ものではなく、大切にしていきたいと思っております。
最後になりましたが、2年間このような貴重な経験をさせ
てくださった本学耳鼻咽喉科学教室友田幸一教授にこの場
をお借りして深くお礼を申し上げます。また、留守中にご
迷惑をおかけした耳鼻咽喉科学教室の先生方に深謝いたし
ます。
48
随 想
2 0 年の勤続に思う
総合医学研究所
人類遺伝学研究部門生化学教授
久原とみ子
メタボローム研究までの道
20 年前、久留米大学医学部の質量
分析医学応用研究施設から金沢医科
大に新設の人類遺伝学研究所に移っ
た。当時、アジアで唯一の質量分析
による有機酸血症の化学診断施設で
あった久留米大学には全国の主要医
療機関から研究材料の検体が来てい
たので、我々が移ることになれば、
検体は1∼2カ月で完全に金沢医大に流れるし、また、私に
は診断チームの中で私独自の役割があると信じていたので
移ることにした。それから20年後、ポストゲノムの21世紀
はプロテオームとメタボロームの科学が、生命科学の中心
課題となる。10月の日本生化学会大会で「メタボローム研
究の最前線」というシンポジウムで私も講演の機会を得た。
医学の分野で実際にメタボロームの応用研究を進めている
のは金沢医大だけのようである。これには1970 年代に我が
国で最初に質量分析法による化学診断の立ち上げに参加で
き、1990 年代の前半にメタボローム研究にシフトし得たの
が幸いしている。
ドイツではメタボロームを国家プロジェクトに据え、
Max-Plank研究所を中心にその基礎研究を強化した。我が国
では本年2月、蛋白の質量分析でノーベル賞受賞者を出した
島津製作所がプロテオームの真っ只中、早くもメタボロー
ム寄付講座を東大に開設した。この 1 1 月には S p r i n g e r
Verlag Tokyo社から「メタボローム研究の最前線」
(私も2
つの章を執筆した)が出版された。編者の一人、慶応義塾
大の冨田 勝氏の序言によればメタボロームでは日本が世界
をリードしているとのこと。この冨田グループにはCOE、
NEDO の支援も加わり、本年7月、同大学にヒューマン・メ
タボローム・テクノロジー(株)が設立された。質量分析
装置14台、キャピラリー電気泳動15台、HPLC6台で、当面
はヒトの全代謝物の同定に集中するそうである。7年前の本
学の第1回のハイテクリサーチセンタープロジェクト構想で
1台の GC/MS 装置を取得したが、金沢医大が世界でもユニ
ークなメタボローム研究の発進地であり続けるために、私
たちが解決すべき課題は少なくない。
1975年、質量分析法の目的指向型の医学応用研究を推進
するために、松本勇金沢医科大学名誉教授のご尽力で、阪
大名誉教授、故山村雄一先生を会長として日本医用マスス
ペクトル学会が設立された。今も本学の研究室の一角に学
会事務局がある。昨年は学会からノーベル賞受賞者が出た。
学会の事務局を維持するのは単なる道楽ではない。三木清
は「哲学入門」で哲学は現実から出立すると書いている。
学会の裏方で喜び、怒り、悩み、そして人に学びながら哲
学している。それは私の研究にも影響する。そして今日、
プロテオーム、メタボロームの両分野で主役を演ずる質量
分析法と共にある喜びを噛みしめている。
今後、メタボローム科学によって、医学も様変わりする
だろう。約30 年続いた現行の新生児マススクリーニングに
代る次世代のスクリーニングのあり方が現在学会で検討さ
れている。金沢医大が中心に進めている試験研究はメタボ
ロームを先取りしているだけに、理解する人は少ない。し
かし、
「もし、あなたの子どもが今は治療不可能な遺伝性疾
患を有していたとして、その事実を知りたいですか?」と
米国でアンケート調査したところ、予想以上にYesと答えた
人が多かったそうである。勤続21 年目を10年後に振り返っ
て、転機の年だったと言えるよう願う。
形成外科学教授
石倉 直敬
昭和 58年4月に出向先の病院から
大学に戻って早 20 年が経ちました。
大学の医局というものは人の入れ替
わりが激しく、この20 年でも多くの
同僚の方々の出入りを見てきました。
当初は、まさか自分が大学に残るこ
とになるとは思ってもいませんでし
たので、この機会に改めて振り返っ
てみますと、今ここにこうしているのが実に不思議に感じ
られます。ましてや、人前で話しをするのが決して得意で
はなかった自分が医師になり、形成外科のことは何も知ら
ずに形成外科に入局し、そして今、立場が変わって医学生
はおろか若い医師にも形成外科を教える立場になっていた
のですから、20 年というのは実に意味深い年月であると思
っています。
ただ、この20 年という長さについては、ずいぶん前に塚
田名誉教授が20 年勤続のお話しをされていた時には自分に
は全く縁の無いものであったものが、とうとう自分にもそ
の年齢が来てしまったのか、というくらいであるのが正直
な実感です。
肉体的には老化が進んでいることは実感と申すより痛感
しておりますが、不思議なことかどうかはわかりませんが、
精神的には自分自身では歳をとったという自覚はそれほど
ありませんし、多くの同年代の方々と同様であると思うの
ですが、過去よりも未来に目が向いているのは以前と同様
です。20 年の間に学んできた多くのことを教訓として生か
しながら、常に前進を続けるという気持ちに変わりはあり
49
ません。今後もいろいろな事に興味を持って、波乱万丈と
いうのは無理でも、平平凡凡ではない日々を送れるように
残された人生を歩んでいきたいと思います。
最後に、これまでの長きにわたりご指導ご支援いただい
た皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。
総合医学研究所
人類遺伝学研究部門生化学助教授
新家 敏弘
この度、勤続20年の表彰をいただ
きましたこと、大変嬉しくお礼申し上
げます。表彰の日に新病棟から眺め
た北アルプスの山々は、20年前に本
学にお世話になることになった時と同
じで、白く輝く峰々の大パノラマに感
動したことが思い出されました。
20年は長いようですが非常に短く
も思えます。この間、中国友好使節団、UCSF留学、Thai
JICA派遣専門員、国際学会への出席など与えられた機会を
有効に経験できましたことも、また、これまでの研究も本学
をはじめとした全ての周りの方々のご協力をいただけたこと
が大きな力となりました。人の和(輪)の大切さを強く感
じております。何かを成し遂げた時、それは自分だけの力で
は決して無く、常に誰かの手助けが入っていたことを痛感
しております。この場をお借りしまして関係の皆様に深く感
謝申し上げます。
研究内容は病気の原因を解明するため体液中の異常代謝
物を質量分析計(田中耕一博士のノーベル賞受賞でご存じ
の方も多いと思います)で分析、解析する代謝生化学的研
究ですが、常に広く社会に貢献出来る研究をと心掛けてま
いりました。我々の研究グループの研究成果が幸いにも高
度先進医療の一環に組み入れられ、医療現場で実践されて
おります。また、国内外で代謝疾患の研究に応用されてお
ります。微力ながらもその研究の一端に関わった者として、
研究成果の有効性が証明されたことが誇りです。異分野の
研究者が協力して病気に対するアプローチを開拓すること
の重要性が切に感じられるこの頃です。
総合医学研究所
人類遺伝学研究部門生化学講師
「石川県人」
20年前に内灘に来るまで、私は石
川県とほとんど無縁であった。その
前に、ただ2つだけ係わりがあった。
ひとつは大学時代の同級生で、下宿
の部屋が隣同士であったT君の郷里
が鳥越村釜清水であったこと。もう
ひとつは、久留米大学に勤務してい
た頃、撚糸業者の調査で津幡町や小
井上 義人
松市を訪れ、砂丘上に建つ金沢医科大学を遠望したことで
あった。
当時の西東利男学長、吉田清三病院長から前教授の松本
勇先生が呼ばれて、私たちも一緒に金沢に来ることになっ
た。まさか、T君の郷里に住み付くようになるとは思っても
みなかった。時の経つのは早いもので、T君が郷里で過ごし
た時間より長い時間を私はこの内灘の地で過ごしているの
だ。現在、私は自身が石川県人と思っている。
雪は風で吹き飛んで積もらないと聞かされて、内灘に引
っ越して来た初めての冬は、56豪雪に続く58豪雪の洗礼を
受けて雪国の生活を学んだ。しかし、九州から来た我々家
族は地元の方々と違って雪を楽しんだ。今でも楽しんでい
るので、雪は全く苦にならない。この辺は、一般の石川県
人とは違うのかもしれないが。駐車場の雪掻きがなつかし
い。また、夏も内灘海岸で海水浴、貝掘りと十分に楽しま
せてもらった。
自然に恵まれたこんな環境の中で気分転換ができ、学内
では多くの方々に支えられて、ここまで仕事が続けられた
ことに感謝です。
解剖学Ⅰ助手
上田 忠司
勤続 20年と言われてもピンとこな
いのが素直な感想である。成人式を
迎えたようなものだが、果たして成
人しているのであろうか。縁あって
この大学に赴任したことが昨日のよ
うに思われる。その間いろいろなこ
とがあった。多くの人と出会い、ま
た、多くの人が去っていった。その
出会いは私にとってはとてもかけがえのないもので、私の
宝である。そのなかで、志半ばにして大学を去らなければ
いけなかった学生のことが唯一気がかりである。大学時代
とても慕っていた文学の先生から亀井勝一郎の「人生の宝、
それは邂逅である」と教わった。確かにそのとおりだと思
う。いろいろな人の支えがあって今日までなんとかやって
これたんだなーとつくづく思う。その文学の先生からいろ
んな事を教わった。学生が心の底から共感を覚えるような
授業を毎回して下さった。その熱意は私にはとうてい及ば
ない。また、もう一人、どうしても私には忘れられない先
生がおられる。その先生は学生を愛し、とても一人ひとり
を大事にして下さった。学生の境遇などをつぶさに覚えて
おられ、君の出身地はどこそこでと言われ、思わず学生同
士で顔を見合わせたことがしばしばあった。その先生は実
に実直で、心の豊かさを教わった。
ああいう先生になれたらいいなーと熱望しているが、現
実に至っていない。京都で職を得たときも本当に立派な先
生と巡り会えた。その先生は私のメモを大事にとっておい
て下さっていた。そして、この地でも実に立派な先生方に
巡り会えた。学生時代から多くの立派な先生方と知り合い
になれ、また、愛されたことを誇りに思う。このような恩
50
恵は少しずつでもいいから還元しなければいけないと思っ
ている。故山村雄一先生が「夢見て行い、考えて祈る」と
研究者の気持ちを述べておられるが、ふらふらと研究とい
う深い谷間に足を踏み入れた者にとってはその言葉は痛い
ほどよくわかる。また、励みにもなる。数限りない道の中
を彷徨う時、ちょっとした励ましや、学生の笑顔が心を救
ってくれる。
「さあ、がんばろう」という気にさせてくれる。
大学は組織でつくるものではなく、私たち一人ひとりがつ
くりあげていくものだと思っている。立派なブランドをつ
くるのは私たちの熱意と創意なのだと思う。
サントリーのキャッチコピーに「なにもたさず、なにも
ひかず」というフレーズがある。好きな言葉である。先ほ
ど述べた母校の教養の文学の先生が、
「年をとってからもう
一度方丈記を読んでみたらいいよ」とおっしゃられたが、今
あらためて、読んでみようと思っている。
最後にこの紙面を与えて下さった皆様に感謝申し上げます。
放射線医学講師
玉村 裕保
がんばっています
金沢医科大学を卒業し、働き出し
てもう20年が過ぎた。放射線医学教
室に入局して、あっという間の20年、
時にはもがき苦しんだ20年だったが、
医局生活は研究や発表を自由にさせ
ていただいた楽しい20 年でもあった。
ご存知の方も多いかも知れないが、
放射線科は診断学・核医学・放射線
治療学からできている。当然各分野で世界のナンバーワン
の学会があるわけで、診断学のRSNA ・核医学のSNM・放
射線治療学のASTORO がそれにあたり、日本の学会からも
ツアーが多く出るほど、世界の兵どもが目指す学会である。
自分もこの3部門を研修させてもらったので、何とか憧れの
学会で1つくらい発表したいものだと考えていたところ、運
良く全ての学会に採用され舞い上がってしまったのを思い
出す。
「全部門を制覇した人は、日本にはいないかもしれな
い」と言われ、少し恥ずかしいが、本当に仕事や研究を十
分させていただける医局で良かったと思っている。
1999 年に開催されたヨーロッパ放射線学会(ECR)では、
1,000題以上発表された中から「CUMLAUDE」の賞をいた
だいた。その時に、ウイーンへ一緒に出席されていた山本
達教授が、宿泊先のホテルから私のところへお電話をして
いただいたり、自分が出席した表彰式が新聞に掲載された
りと、二度と体験することのない貴重な経験もさせていた
だいた。
現在私は、福井県立病院へ出向し、主に放射線治療の仕
事を行っていますが、そこでは日本海側で最大規模といわ
れるほどの病院の建設計画が進められている。私は金沢医
科大学で20 年間にわたって教えていただいたことを生かし
て、昨年9月に完成した金沢医大病院に負けないような新病
院づくりに貢献したいと放射線治療部門の構築計画に参画
しています。
新病院は、平成16 年5月に完成が予定されており、完成
後には、IMRTや動態追跡照射などの最先端の放射線治療を
開始することになります。
平成15 年11月に他界された放射線治療の恩師、力丸茂穂
先生に笑われないように、そして、これまでいろいろとご
指導していただいた諸先輩方に負けないように頑張らなけ
ればと思う毎日です。
入学センター
村井 幸美
このたび、勤続20年の表彰をいた
だきありがとうございます。
まず、これまで仕事を続けてこら
れたのは今までの部署での上司や先
輩・同僚はもちろん私の家族の支え
や協力があったからと心から感謝し
ています。
結婚後すぐ本学に就職し、病院へ
配属されました。病院では人間ドック担当と耳鼻科外来担
当で 10 年、大学では学生課と現在の入学センターで 10 年
と、それぞれの部署で貴重な経験をさせていただきました。
病院で8年間担当した耳鼻科外来では、医師と看護師、パラ
メディカルスタッフが理想的に近い形でコミュニケーショ
ンがとれていた環境でした。その頃の毎日は日々仕事に追
われながらも互いに切磋琢磨し合い、今思えば充実した
日々であり、自分にとって貴重な期間だった気がします。
大学へ異動になった当初は、全く違う業務内容と組織の中
で戸惑い、不安を感じながら仕事をしていました。しかし、
現在では大学の学事の仕事に携わることが出来たことは私に
とってとてもプラスになっていると実感しています。病院で
は経験出来なかったデスクワークやその技術を習得したこ
と、また現在の職場においては学生募集活動の内容を課内で
話し合う機会が多いのですが、私ごときの提案が実現した時
は何ともいえない達成感を感じることができます。
まだまだ勉強不足で学ぶべき事が多くありますが、これ
からも常に大学の窓口であることを忘れずに本学職員とし
て責務の大きさを感じながら前向きに努力していきたいと
思っています。
管理課
このたび、勤続20年の表彰をいた
だき、誠にありがとうございました。
今は月日の流れの早さに、ただただ
驚くばかりです。
20年前、耳鼻咽喉科学の医局に配
属され、山下公一先生、佐藤喜一先
生のご指導の下、大変多くのことを
勉強させていただきました。セロイ
島 幸枝
51
ジンやパラフィンの標本作りという仕事をしたこともあり
ましたし、フォトセンターに弟子入りして、医学写真の仕
事をしていた時期もありました。
医局恒例のスキーツアーでは、生まれて初めて行った八
方尾根スキー場で、真っ暗な林道コースをやっとの思いで
降りてきたこともありました。また、当時、耳鼻咽喉科学
は留学生の受け入れが盛んで、中国やタイ、ブラジルなど
いろいろな国の先生方との出会いもありました。留学生の
宿舎でお国料理をご馳走になったりしたことなど・・・とても
懐かしく思い出されます。
次女の出産を間近に控えた8年前、主人がくも膜下出血で
倒れてしまったことは、今考えても神様から与えられた何
とも厳しい試練でしたが、家族や職場の皆様に支えられた
おかげで、ここまでやってくることができたと感謝の気持
ちでいっぱいです。
新館への移転も無事に終えたとはいえ、まだまだ課題も
多数残されていると思います。管理課の一員として、常に
思いやりの気持ちを忘れずに、病院の発展のために微力な
がらもお役に立てるようこれからも努力していきたいと思
います。
栄養課課長
中川 明彦
理事長先生をはじめ、大学、病院
の皆様、退職された先輩の方々から
ご指導をたまわり、20 年を迎えられ
ることができ、ここに感謝の意を申
し上げます。
「たかが栄養、されど栄養」
。私の
課題は、いまだに続いております。
食は、だれもが簡単に営むことが
できますが、その栄養のバランスは、本能だけで計算する
ことはできません。食の満腹感があっても「その時の栄養
素は、どのようになっているのか」
。それが栄養学の原点で
あります。
人類の食の追求は、紀元前より始まっています。紀元前
600年、中国、五行説に食事療法が記載され、また紀元前
460年、アナクサゴラス(Anaxagoras 500-428BC)はヒトは
食物を摂取して、それにより皮膚、筋肉、血液などをつく
っていることを予測いたしました。
今日の栄養学の理論体系は、フランスのラボアジェ
(Lavoisier A. L, 1743-94)が酸素の消費によりエネルギーを
産出することを測定したことにより始まりました。
私たちの先祖は、進化の過程で、体内で合成できない栄
養素を体外から摂取し、そしてその営みを脈々と受け継い
できました。食材に調理・味付けを施し、調理後の形態、
食器、色合い等が融合され、その時代の食文化ができてき
たのです。
臨床栄養学は、栄養素の必要量を確保し、過剰と不足を
回避することにあります。今日の臨床栄養学は、日々進歩
をとげてきて、クローン病食、潰瘍性大腸炎食、神経障害
拒食症改善食、嚥下障害訓練食など、病院食はこの20年間
に大きく変貌いたしました。治療を目的とした病院食は、味
付けの薄い・濃い、量の多い・少ない等の個人の食習慣か
らかけ離れることがあります。そしてその結果、提供した食
事が全量摂取されない場合は、栄養アセスメント上、問題
点として捉え、改善しなければなりません。これからも臨床
栄養学と調理学が互いにバランスを保ち、個々の患者様に
受けいれられるよう、更に精進していきたいと存じます。
思い返すとこの20 年、多くの方々にめぐり会い、いろい
ろ体験して来ました。松尾芭蕉の「奥の細道」の冒頭にあ
はくたい
る「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也」を
自分自身の思いに重ねつつ筆を置きます。
中央臨床検査部
松本 正美
先日は永年勤続の表彰を受け、皆
様に感謝しております。人生の半分
近くをこの金沢医科大学病院と共に
歩んだということは、大変感慨深い
ことです。
私が中央臨床検査部に就職したの
は昭和58 年のことでした。就職して
一番驚いたのは、検査部に当直があ
ったことでした。当時、検査を24時間体制で実施していた
病院はごく少数であったと思います。その頃当直時に使用
していた分析器は、電解質用、酵素測定用の半自動機器ぐ
らいで、BUN、クレアチニン、ビリルビンなどはガラスピ
ペットと試験管を使って1本ずつ測定していました。
(検体
数は今と比べものになりませんが…)もちろん検査結果は
全て電話報告です。このような当直をしていたことを知る
人も私達の年代ぐらいまでで、その後急速に自動分析機は
進歩し、今は多項目多検体をリアルタイムに測定するのが
あたりまえのような時代になりました。しかし、分析機器
が出した結果をうのみにはできません。微量のフィブリン
が析出するだけでとんでもない結果が出てきたり、日々の
メンテナンスを怠ると、途端に分析できなくなります。正
しい結果を速く正確に提供するには、技師の手が必要であ
ることは今も変わりません。
私は数年前から、午前中は外来の採血業務を担当するよ
うになりました。改めて検査は検体採取から始まることを
感じています。検体凝固や溶血、量不足などのない適切な
採血が検査の前提条件だからです。午後は顕微鏡を使って
検査をすることが多く、まだまだ技師の目と手が必要とさ
れています。医学検査が日進月歩の今日、大学病院の検査
部として臨床側の要望にこたえようと数々の新たな検査に
取り組んでいます。
金沢医科大学病院のかかげるモット−、
“1日 24 時間1週
7日間 いつでも誰でも 安心してかかれる病院”を目指しこ
れからも協力していきたいと思います(実は私の家族も何
回かお世話になりました。やはり近郊の住民にとって力強
い味方、金沢医科大学病院なのです)
。
52
健康管理センター保健師
高瀬 悦子
このたび、勤続 20年の表彰をして
いただきありがとうございました。
私は、本学の看護学校を卒業し、1年
間神奈川県立看護教育大学校の保健
学科へ進みました。全国から集まっ
た仲間達に多くの刺激を受け、いか
に自分が井の中の蛙だったかを知ら
されました。保健婦をやるにも看護
の実践を積んでからだと思い、楽しい学生時代を過ごした
内灘に戻り、金沢医科大学病院に就職させていただきまし
た。まず小児科病棟に勤務しましたが、1年半ぐらい過ぎた
昭和59 年8月に大学の付属研究施設として人類遺伝学研究
所が設立され、臨床部門の遺伝外来に保健師が一人必要と
いうことで、保健師免許があった私にお話があり配置換え
になりました。兵庫医大から来られた千代豪昭先生には、
「遺伝医療サ−ビス」について何も知らない、何もできない
保健師の私を一からご指導いただきました。今では「遺伝
子診断」や「遺伝カウンセリング」といった「遺伝」に関
する言葉があたりまえに使われる時代となりましたが、そ
の頃はまだ一般的ではなく、難しくて特殊なところで、ど
のような仕事になるのか不安な思いがありました。そして
私自身の中に「遺伝」に対する悪いイメ−ジや、自分の中
の偏見や差別の気持ちがあることに気づき、出会った子供
たちや遺伝性疾患に深く悩まれている方々にどのように接
していいのかわからず自分の未熟さに悩みました。それで
も、いろいろな先生方によるご指導や、遺伝相談研究会で
の先輩保健師さんたちのご指導、そして何よりも遺伝外来
で出会った方々から多くのことを学ばせていただきました。
細々でも続けてきたことで、今では「命をつなぐ大切なし
くみである遺伝を学べて本当によかった!」
、
「まず話がき
ける保健師に!」
、
「障害をもった子供たちがかわいい、ふ
れあうことがとてもうれしい!」という自分に変化しまし
た。遺伝外来で学ばせていただいたことは、私が保健師と
して仕事をしていく上で基本的な姿勢というか、思いを学
ばせていただいたと思っています(現在、人類遺伝研・臨
床は高橋弘昭先生のご指導のもと併任させていただいてい
ます)
。
平成元年から健康管理センターへの配置換えがあり、公
衆衛生学、衛生学の先生方のご指導をいただき、
「働く人々
の健康管理」について考える機会をいただきました。平成8
年からは、病院の別館7階へ勤務場所が移り、健康管理セン
タ−として松田芳郎先生のご指導のもとで、外来ドックで
の仕事を担当させていただいています。ドックは院内の多
くの部署、スタッフの方々の協力のもとに行われるチ−ム
医療です。私もその一員として、受診者の方のためにより
よいドックを行っていきたいと思っております。対象者の
方々の「生活」をいかにイメ−ジできるか、予防的な視点
で、どのような関わりができるか・・・課題は多いです。
今、こうして20年間を振り返ってみますと、無我夢中で
過ごして来たように思いますが、上司、先輩、同僚や友人、
家族と、私はなんて人的環境に恵まれていたのだろう、金
沢医科大学病院に就職できて本当によかったと思わずには
いられません。心身が疲れた時にも、いつも見守って下さ
り、励まして下さった方々のおかげで続けてこられたと思
います。多くの方に深く感謝致します。私は大学病院に働
く保健師として、少し個性的な道を歩かせていただいてお
りますが、今後も受診者の方々にいろいろ教えていただき
ながら、この仕事を続けていけたらいいなと思っています。
新館7階西病棟看護師
田畑 晴美
このたび、20 年勤続の表彰をいた
だきありがとうございました。私は、
本学の看護学校(5期生)を卒業し、
そのまま就職しましたが、2年後の結
婚により遠方となり通勤が困難で、
その年の12月に退職しました。他院
で就職しましたが何か物足りなく、
やはり働くなら医科大学病院が一番
と感じ一年後に当院に再就職しました。20 年間にはいろい
ろな出来事がたくさんあり、仕事、家事・育児の両立はと
ても大変でした(2人の子供の育児は、ほとんど保育園で保
母さんに育ててもらったようなもので、保母さんにはとても
感謝しています)
。仕事、育児とどれも中途半端な生活で両
立できず、このままで良いのかと思い、悩み、何度も仕事を
辞めようかと思うことがありました。でも仕事を辞めること
が出来なかったのは、
「看護婦という仕事が好き」という思
いが強かったからだと思います。たくさんの患者様のお世話
をし、辛いことがあっても「ありがとうという一言」や「笑
顔」に心が和まされました。ここまで勤続できたのは、上
司、スタッフの皆様、患者様、家族の協力のおかげと感謝
しています。また、何よりも一番の支えとなっているのは、
当院に働いている同級生の仲間たちです。同じように仕事、
家事・育児とがんばっている姿を見ると私も頑張ろうとい
う意欲が湧いてきます(これからも頑張りましょう)
。
今年、4月より臨床指導者となり看護学生と接する機会を
得ました。どのように教育的かかわりを持てば良いのか?
育てるとはどういうことなのか? など悩み、上司のアドバ
イスを受けながら指導を行っています。何事も、自分に与
えられた仕事をきちんとこなし、日々学ぶ姿勢を忘れず努
力していきたいと思います。最後に、いろいろお世話にな
った方々に感謝し、何か恩返しが出来るよう何事も積極的
に行動し、いろいろな方々との関わりを得て、自分自身も
っと成長しなければいけないと思っています。
53
新館9階西病棟看護師
星野由美子
就職して20年、はじめの10年は長
かったように感じましたが、後半の
10年は短かったように思います。
最初に配属されたのはNICUで4年
間、次に別館8階で4年、9階B呼吸
器内科で5年、9階A耳鼻科・皮膚科
で3年弱、13階個室病棟で4年弱、再
び9階Aに戻り、新棟西耳鼻科・高
齢科に異動し現在に至っています。特に希望したわけでは
ないのですが4年程で異動命令があり、異動毎にかなりスト
レスで体重が約3㎏づつ減っていたのですがここ4年は反対
に増えるようになってきました。異動に慣れたのと、中年太
りが重なったようです。体力低下も自覚してきたため、今後
は体力づくりも考慮しなければならないと思い始めている今
日このごろです。異動は辛かったのですが、今から思えば、
様々な方々にめぐり会うことが出来て、私にとってはとても
良い経験となりました。異動の度に気持ちが引き締まり、初
心に返り、自分への新しい発見があったように思います。そ
れも、皆さんが助けてくれたおかげだと感謝しているので
す。しかし、時々、いいえ、たびたびですが、その気持ちを
忘れてしまうのも事実で、困ったものです。
最近、月日の経過が早く感じ、一年があっという間に過
ぎ去るのです。ぼうっとしていてはいけないと焦りつつ、結
局なにもしていないことに気付き、このままでは、無趣味
なつまらない人間で終わりそうです。今からでも遅くない、
自分の好きなことを見つけたいと思います。私生活が充実
していないと、仕事も充実しないから。
本館6階A看護師
田中 和代
この度、永年勤続の表彰をしてい
ただき、有り難うございました。
20 年という年月は、私にとって今
までの人生の半分になります。小学
生の頃から、看護師になりたいと思
っており、1980年、金沢医科大学病
院付属看護学校を受験しました。面
接のとき「あなたは海が見たくてこ
こを受験したの?」と聞かれて、
「あー、はい」と答えたこ
とを覚えています。岐阜の山に囲まれた土地で生まれ育っ
た私にとって、ここ内灘の海は広く、どこか淋しさを感じ
るものでした。3年間の学生生活を経て、金沢医科大学病院
に就職しました。
最初、内科系病棟に勤務し、いつか岐阜へ帰るんだろう
なと思っていたとき、縁あって結婚、そのころ病院別館が
オープンし、私は別館6階で勤務することになり病棟を立ち
上げる大変さを実感しました。そんな中で出産。子供が大
きくなるにつれて、病棟での勤務が大変になり、外来勤務
に変わりました。2年間外来勤務をした頃、もう一度病棟で
患者さんと深く関わった看護がしたいと思い、病棟勤務を
希望し、外科系病棟に変わりました。どちらかというと不
器用で動きも鈍い私に、外科病棟は辛いものでしたが、先
輩や同僚に支えられ何とか続けることができました。そん
な中、臨床指導者を命ぜられました。学生と関わることは
それまで漫然と捉えていた自分の看護を振り返るとてもい
い機会になりました。そして3年前、療養型病棟に変わり、
同時に訪問看護もするようになりました。私は、この20年
で同じ病院の中でありながら本当に多くの部署で勤務する
ことができ、それによって多くの上司、同僚と出会うこと
ができました。おかげで自分の看護に対する姿勢など考え
させられ、また、患者さんからも多くのことを教えられま
した。
私はよく学生たちに「結婚しても看護師は続けた方がい
いよ。子供を持つと人が愛しくなるよ」と話します。私は3
人の子供に恵まれ、夫や義母の協力のおかげでこの仕事を
続けることができ、家族あっての自分だと思っています。
今、20年を振り返り、多くの人たちに支えられていたこ
とを深く感謝しています。今後も、人と人との関わりを大
切にして、看護師の仕事を続けたいと思います。
血液センター
本 雅乃
このたび、20年勤続の表彰を受け、
大変有り難く思っております。そし
て、記念すべき開院30周年と新病院
完成の節目に20年を迎えられたこと
を嬉しく思います。
20年を振り返ってみますと、毎日
が緊張の連続だったと思います。間
違いはなかっただろうか、伝票の書
き損じはなかっただろうかと心配になり、一旦は自宅に帰
ったものの、また仕事場へ戻り再確認するということも
度々ありました。また、最近ではコンピューターを導入し、
在庫などを管理していますが、どの患者様にどんな血液を
準備したか、有効期限は何時までだったかなど、すべて頭
に叩き込み、効率良く血液を回転できるよう努めてきまし
た。そうしたピンと張り詰めた緊張の中でも、心休まる時
もありました。血液センターは患者様と接する機会も少な
く、唯一、自己血採血においでる患者様とだけお話が出来
ました。そのわずかな採血中の患者様とのふれあいで私の
心もリフレッシュさせて頂きました。大変な手術の前だと
いうのに、採血に来られる大部分の患者様は、とても明る
くふるまわれ、強い心をお持ちだと感心致しました。
20 年間いろいろなことがありましたが、今まで勤めてこ
られましたのも厳しくご指導して下さった諸先輩方、理解
ある上司や同僚、また私を支えて下さった多くの方々のお
かげと、心から感謝申し上げます。これからも、初心を忘
れず、自己啓発に励み業務に邁進したいと思います。
54
随 想
黒部峡谷露天風呂めぐり
名誉教授・泌尿器科学
津 川 龍 三
私の黒部峡谷温泉めぐりは、1954年から2003年までの約
50年かけて全部入ったもので大した話ではない。まず1954
年の10 月中旬、宇奈月からトロッコに乗って欅平、高熱ト
ンネルを特別許可でトロッコで抜け、黒部上流(後年黒四
ダムができる)の阿曽原温泉小屋に泊まり、翌日、坊主山
を数時間かけて登った。登り終えて、峠から正面の眺めは
剣岳の岩肌と紅葉で圧倒的な素晴らしさであった。その日
は峠から下りた池の平小屋に泊った。翌朝は全くの静寂、
しかし何かおかしい。何と外は雪、これはヤバイ。装備の
ない私たちは、生きた心地もなくすぐ帰路についた。小屋
の外の雪は約20センチ、約30分で峠に立つ。昨日の景色と
はすっかり違った銀世界、雪は約30センチ。剣岳を振り返
った時間は1分もなかった。小屋も見えなかった。昨日の登
山路を急いで下る。約20 分で霙に変り、やがて雨、これで
助かったと思った。今でも怖い思い出だ。
今回の宇奈月は温泉学会北陸部会主催の「温泉入浴とレ
ジオネラ感染」に出席のためである。要は源泉の湧出量が
少なく、一度使った湯を再利用している循環型の施設では
パイプの中、タンク、湯槽底の部分にレジオネラ菌がバイ
オフィルムに包まれて存在、増殖しやすいので、2回目の湯
はシャワーや打たせ湯には使わないことが強調された。こ
の場合、跳ねた湯が霧状になって吸い込まれる可能性が高
く、免疫力の低下した高齢者ではレジオネラ肺炎になるの
で注意すべきというのだ。お湯の出てくるところに「この
お湯は飲めません」とあるのは温泉とはいえ循環システム
の湯が使われており塩素系の消毒剤が入っていると考えて
よい。上記の理由でシャワーは新湯であるべきこと。以上
が私の理解したところである。
翌日久し振りにトロッコに乗ることにした。駅の売店で
は「中島みゆきのCD、地上の星」があと1枚になっている。
とりあえず買う。
「宇奈月に何故中島みゆきなのか?」これ
はNHKの「プロジェクトX」をみた人ならすぐわかる。
「黒
四ダム」がテーマになったからである。工事に関係した人
たちのご苦労に思いを馳せる。ちなみに彼女は、1980年代、
本学内灘祭の時、山崎ハコと共に体育館で熱唱、またスロ
ーテンポの弾き語りも楽しかった。読者の中には、あの日
のステージを覚えている人もおられるだろう。
さて、宇奈月から欅平までのトロッコ電車は4輌から 10
輌前後の編成まであり、初めて乗った1950 年代とはすっか
り変わっていた。普通車のほかに特別、リラックス、パノ
ラマ車輌で編成されている。私どもは普通車で十分、首を
左右に振るだけで両方眺められる。線路の山側に小さなト
ンネルが続いている。厚さ10センチのコンクリート造りで
鉄橋を渡るトロッコ電車(パンフレットより引用)
。
ある。冬期、黒部の発電所職員に必要物資を運ぶためとの
説明、ところどころに20センチ四方の窓がある。外界から
の光や新鮮な空気の取込み用か。約1時間で「鐘釣」に着い
た。下車したのは3∼4人。
川の音を聴きながら約50メートル歩くと鐘釣小屋があり、
岩魚、山菜料理とある。おばさんがいて、
「さっき団体さん
が帰っていかれたし今は下の露天風呂には誰もいない筈、
ゆっくりしていって下さい」という。それではと崖道を下
りて川原に下りる。青いビニールテントで脱衣所が造られ
ている。川の中の石を積み上げ湯槽を造り川底からの湯と
川の水を適当に混ぜて入るのだが、今日は昨日の雨のため
川は増水傾向で、少し温かいだけ、とても全身湯に浸る状
況ではない。しかし青いテントはもう一つあった。川より
も崖に近い大きな岩のそばにある。岩かげに近く、下から
声が聞こえる。湯槽へは岩の下約2メートルのハシゴで下り
るようになっている。ここでの湯の温度は増水とは無関係
のようである。
声の主は4人、水着を着た女性たち、すなわち恐いものな
しの五十代のオバサン軍団、
「マ、いいか」という気持ちで
当方は裸となり、ハシゴを下りた。湯槽に突き出た岩の上
55
奥鐘橋を渡り人食い岩を過ぎると屋根が見
えてくる。欅平駅から徒歩15 分、シーズンオ
フのせいか宿泊客は少ない。露天風呂から下
をみると昨夜の雨で川は濁り轟音を立ててい
る。湯量は豊富、湯槽に入ると身体の分を超
えて勢いよく溢れる。レジオネラはあり得な
い。風呂を囲む木々は紅葉にはまだ早いが、
葉先が少し色づいている。思いきり手足を伸
ばし湯槽に沈めば、これぞ温泉、しかも秘湯
だなあと思う。夕食は岩魚の塩焼きをはじめ
いろいろ、絶品だったのは、すべて山菜の天
ぷら。天つゆも素晴らしく思わず三口ほど飲
んでしまった。テレビはなし。寝る前に内湯
へ入る。湯からあがって階段を上ると入口、
鐘釣、川原の湯。画面中央下部の石積み。増水のため湯温低く入浴はあきらめる。
にアサヒビールのロング缶三本、ツマミもある。湯槽は崖
の中の洞窟へ続き首までの深さになる。底は砂地。私は洞
窟内から彼女達の宴のおしゃべりを聴くことになったが、
昨夜来の増水で話しもとぎれとぎれに聞こえるのみ。約10
分の入浴でハシゴを登り下着を着たころ、下から声あり、
「ますずしはどうですカア」
「いただきマース」ハシゴの上下
から手が伸びる。ますずしは美味であった。
「ごちそ
うさまでした」「どういたしまして」。また崖道を登
る。上から人がくる。
「露天風呂ありますか」と問わ
れる。
「水着の女性らが入っていますが、生まれたと
きの姿でかまいませんよ」その人は一瞬、どうしよう
六畳間に机があって、感想文などを書くため
の和紙を綴じたノートがある。
「よかったら一
言書いて下さい」との求めに応じ、「素晴ら
しいところ、帰ったら皆さんに伝えたい」と書いた。ふと
横をみると最近書かれたと思われる一文が目にはいった。
失礼して読ませて貰う。
「今年の春、定年となった主人と二
人で名古屋から2泊3日の日程で出てきました。おかげさま
で心身ともに楽しい旅となりました。ありがとうございま
した」とあった。
かというためらい顔、それをあとに小屋へ戻る。
「いい湯でした。岩魚で昼ご飯お願いします」しば
らくして荒塩多めに焼かれた岩魚がでてきた。野性的
で美味。鐘釣駅へ戻ると10分で次のトロッコがきた。
欅平までは20分、駅のすぐ下には猿飛温泉、これは
明日にしよう。
黒部川はここで白馬、唐松岳からの流れを受ける。
なお祖母谷温泉は 1950年代、唐松岳からの下山の途
中で入り、さらに黒薙温泉にも入っている。
今回は駅に隣接したビジターセンターで黒部峡谷に
関するビデオを2本ゆっくり観て、名剣温泉に向か
う。
名剣温泉の露天風呂。遠くに見える道(写真中央上)は唐松岳への登山道。
56
随 想
中央手術部引越し顛末記
麻酔学講師
門 田 和 気
雪おこしの季節である。一昨日は初雪も降っ
た。手術室が新館3階へ移転して1カ月、まだ
記憶に新しい現在、3日間にわたった移転作業、
その後の模擬手術訓練を中心に「お引越し」を
記しておくことにする。
年度の改まった4月以降、各病棟や外来と同
様に種々の委員会や会議で具体的な移転計画
が検討された。しかし入念ではあるが抜かりの
多い想定であったり、中央診療部門の各科との
調整不足等から 10 月に入っての実質移転モー
ドでは、数々のシミュレーションや緊急手術へ
の対応が移転開始前日の金曜日深夜まで続い
た。また廃棄物品の確認や移転機材の梱包、新
棟手術室患者移送装置の始業点検等、様々な
場面で悲喜劇が繰り広げられたが「新しいお家
新手術室にて無事手術開始
だもの気分」で、まだ余裕の見られた旧手術室
での作業であった。11月1日午前9時、揃いの法被ならぬ作
業着や気合の入った背中の「俄引越し屋ども」が集結した。
作業着は、日通社員に同業者と勘違いされる程のものもあ
ったが、要介護者風!や偽自衛隊員?もあり、今後の課題
である。力任せに怒涛のように搬入した初日はともかく、
翌日からは患者入退室方法、清潔区域確保のための気の遠
くなる動線や機材の配置等、多くの問題が模擬訓練で明ら
かになり、前多一美師長と土田英昭教授の表情には戸惑い
と苦悩が認められた。しかし、賢者の知恵と愚者の努力、
そしてスタッフの合宿生活の結果、11月10日から予定どお
り新手術室はスタートし、現在までいずれの週も旧手術室
よりも平均20例多い手術を旧手術室と同じマンパワーで稼
動している。このような状況下で12 月6日の中央手術部忘
年会で恒例の劇を披露した手術部スタッフには、腰の奥か
俄引越し屋の集結も
ら「へぇ∼」であった。
来年度、新制度の下で手術室で研修を開始する卒業生、
他大学からの研修医は必ずや「素晴らしい設備ですね」と
の感想を口にすることであろう。外科系各先生には、移転
時の中央手術部看護師全員の血? と汗! と涙!! で新手
術室は立ち上がったことを伝承していただきたい。そして
この設備をより機能的に運用するために、今後とも一層の
ご理解とご協力をお願いしたい。
最後に、2003年の手術部流行語大賞に「ハッチウェイ!」
が選ばれたことと、
「お引越し」の最終日に自分への褒美に
旧手術室麻酔科室の表示プレートを頂戴したことを報告す
る。
(門田和気記/写真:大作清子)
戸惑いと苦悩の表情
59
《本学スタッフ新刊著書 ④》
外池光雄、渋谷達明 編著
においと脳・行動
分担執筆:
小野田法彦
(脳内嗅覚経路とにおい応答
特性、p74-82)
須貝外喜夫
(嗅球と副嗅球の光学的計測、
p55-72)
フレグランスジャーナル社
定価:本体5,400円+税
B5判、336頁
2003年9月10日発行
ISBN 4-89479-071-8
「におい」や「香り」に関する基礎から応用までの研
究成果を幅広く、ホットな話題も含め、できるだけわか
りやすく解説した全9巻にわたる「アロマサイエンスシ
リーズ21」のこの第2巻には、脳の嗅覚系の構造を中心
に、嗅球レベルのにおい識別機構からより高次の嗅覚中
枢の機能について、行動との関連を含め広範囲にわたっ
て詳しく解説されている。嗅覚中枢におけるにおい情報
処理の研究は最近ではいくつかの非侵襲的計測法の発展
に伴い、新しい側面から脳の「におい」応答が捉えられ
つつあり、今後注目されるであろう。
(生理学Ⅰ須貝外喜夫記)
冨田 勝、西岡孝明 編
タボローム解析」が非常に重要となる。本書は、我が
国におけるメタボローム研究の解説と応用を示すこと
に重点をおく内容・構成とし、読者が広い視野でメタ
ボローム研究を展望できるように配慮している。基礎
から測定技術、バイオサイエンスへの応用、インフォ
マティクスまで、メタボローム研究をいち早く紹介す
る待望のレビュー集である。
(総医研・人類遺伝学研究部門生化学 久原とみ子記)
下条文武、齋藤 康 監修
辻 省次 ほか 編集
ダイナミック メディシン 5
廣瀬源二郎 分担執筆
(ダイナミックメディシン5 第18章 神経疾患: 機能性疾患、
p18-167∼177)
西村書店
定価:本体4,200円+税
A5判
2003年8月26日発行
ISBN 4-89013-315-1
メタボローム研究の最前線
久原とみ子 分担執筆
(GC-MS によるメタボローム測
定法、p47-58)
(メタボローム解析による先天
性代謝異常診断、p153-165)
Springer Verlag Tokyo社
B5判、222頁
定価:本体4,600円+税
2003年11月30日発行
ISBN 4-431-71063-9
生命の理解には、D N Aの網羅的解析(ゲノム解析)
やタンパク質の網羅的解析(プロテオーム解析)に加
えて細胞内の低分子代謝物質を網羅的に解析する「メ
本書は、8 0 0 余名のエキスパートの執筆により完結
した全7巻からなる、最新の臨床医学に即応したチー
ム医療時代に必携の実践医学書である。局所解剖図、
MRI、CT、X線画像や病理組織など豊富なカラーイラ
スト、写真が随所に配置され、1、2巻ではプライマリ
ケアの基本、「診断の実際」「症候論」「主な検査」「画
像診断」などをコンパクトに収録し、3∼7巻では「循
環器疾患」「神経疾患」「呼吸器疾患」など、各専門分
野について詳述している。特に神経疾患の分野でも多
くのカラーイラスト、診断に必須の MRI 画像やカラー
病理組織像が沢山盛り込まれ学習者の勉強意欲を駆り
立てている。また、チーム医療、インフォームドコン
セントのポイントや最新のトピックスなども収録され
ており、医学生、研修医、一般臨床医、コメディカル
スタッフの生涯学習にも役立つハンディな1冊である。
(神経内科学廣瀬源二郎記)
60
伊藤正男、井村裕夫、高久史麿 総編集
医学書院
医学大辞典
医学書院
B5変判、3,062頁
定価:本体20,000円+税
2003年3月発行
ISBN 4-260-13651-8
骨端壊死、巨細胞性修復性肉芽腫、結節性腱鞘炎、硬
性線維腫、骨異栄養症、骨化性線維粘液性腫瘍、骨ゴ
ム腫、骨腫瘍の組織型分類、骨線維性異形成、骨表在
性骨肉腫、色素性絨毛結節性滑膜炎、出血性関節症、
長管骨アダマンチノーマ)
早瀬 満(ライター株蛋白質補体結合試験、ガラス板
法、カルジオリピン試験、ザックス-ゲオルギ反応、梅
毒凝集反応、梅毒血清反応、梅毒トレポネーマ運動抑
制試験、梅毒トレポネーマ感作赤血球凝集試験、梅毒
トレポネーマ蛍光抗体吸収法、梅毒トレポネーマ蛍光
抗体試験、梅毒トレポネーマ補体結合反応、梅毒トレ
ポネーマ免疫付着試験、村田反応、レプトスピラ凝集
反応、ワッセルマン反応)
廣瀬源二郎(家族性ジストニー、特発性ジスキネジー)
福永壽晴(運動試験、ATPS、基礎代謝検査、検流計、
生体電気現象計測機器、生理機能検査、マノメトリー)
CD-ROM ハイブリッド版
本書は医学・医療のあらゆる領域から解説語約5万語、
検索語約10 万語が集められ、カラー写真および色図も約
2万5千枚に及ぶ、最新の知識と歴史を網羅した大辞典で
ある。CD-ROM版では動画や音声データも収録されてい
る。
(総合医学研究所西川克三記)
定価:本体20,000円+税
ISBN 4 -260-19838-6
2003年10月発行
分担執筆:
浅地孝能(一酸化窒素合成酵素、ウアバイン様ナトリウ
ム利尿因子、うっ血性心不全、急性心不全、後負荷不
適合、低心拍出症候群、難治性心不全、慢性心不全、
腕舌時間、腕肺時間)
小野田法彦(嗅覚、嗅覚中枢、嗅球、嗅球誘起脳波、嗅
細胞、嗅受容蛋白質、嗅上皮、嗅電図、嗅標識蛋白
質、嗅毛、におい、副嗅覚系)
梶波康二(アテローム硬化性動脈瘤、アテローム症、ア
テローム性動脈硬化症、異常βリポ蛋白血症、LDL 受
容体関連蛋白、高血圧性動脈硬化、脂肪心、粥腫崩
壊、粥状硬化性壊疽、硝子様細動脈硬化、前粥状硬化
病変、増殖性細動脈硬化、動脈硬化性高血圧症、動脈
硬化性心血管性疾患、動脈壁の硬化度、軟性粥腫、非
アテローム硬化性動脈瘤)
金光政右(高拍出性心不全、左心補助循環装置、デコリ
ン法、慢性心臓除神経)
瀧野昌也(アカエイ刺症、イエダニ吸血毒、イモガイ刺
症、ウニ刺症、オニオコゼ刺症、オニヒトデ刺症、吸
血毒《有毒動物の》
、クラゲ刺症、ゴケグモ咬症、コマ
チグモ咬症、ゴンズイ刺症、サソリ刺症、刺毒、ヒル
症、ムカデ咬症、ヤブカ刺症)
津川博一(NYHA 心機能分類、キリップ分類、高心拍出
量状態、ベルンハイム症候群)
西川克三(インスリン様成長因子、血管新生因子、コー
エン、線維芽細胞増殖因子、増殖抑制因子)
野島孝之(オリエ病、顆粒細胞腫、偽可動関節、虚血性
村上 泰 監修
イラスト手術手技のコツ
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 耳・鼻編
分担執筆:
山下公一
(前頭洞底部の取り扱い、
p.351-353
村田英之
(篩骨洞・蝶形骨洞のナビゲー
ション手術、p.399-402)
発行:東京医学社
B5判、511頁
定価:15,000円(税含)
2003年11月25日発行
ISBN4-88563-144-0 C3047
手術を安全に行い患者に信頼される結果をもたらすに
は、手術の目的と意義の十分な理解と経験の積み重ねが
大切である。この本は全国の大学および病院の184名に
のぼる手術のエキスパートが耳鼻咽喉科の各種手術の難
しい部分についてのポイントとコツをイラストを使って
解説したユニークな書である。手術による医療ミスが問
題とされる今、座右に置いて参照すべき書であろう。
(山下公一記)
61
教室紹介
29
衛生学教室
後列左から釣谷伊希子講師、水越久美子事務員
前列左から石崎昌夫助教授、山田裕一教授、本多隆文講師
山田裕一教授が衛生学教室第三代教授として就任して13
年半となります。その間若いスタッフの入れ替わりはあり
ましたが、現在の教室員は、教授以下、石崎昌夫助教授
(健康管理科併任)
、本多隆文講師、スウェーデンに留学中
の登坂由香講師、鈴木比佐大学院生、水越久美子事務員と
わたくし釣谷伊希子(講師)
、そして昨年山口宏美協力研究
員を迎え、併せて8名となりました
“衛生学と公衆衛生学ってどう違うの?”という質問を
受けることがあります。当教室では開設当初から環境カド
ミウムによる健康影響に関する研究が中心的課題であった
ことから、衛生学ではより環境衛生的なテーマを取り扱う
といった返答をしたりしていました。しかし、いまや衛生
学といった講座名にとらわれることはなく、我々衛生学教
室でも、地域住民あるいは産業労働者の健康を守(衛)る
という共通したゴールを認識しながら、教室員それぞれが
社会医学に関する独自の課題で研究活動をしています。具
体的には、山田、石崎両先生は、産業医として産業現場で
の健康問題に取り組みながら、労働者の職場環境や飲酒や
肥満などのライフスタイルと循環器疾患などの健康障害の
関係に関する研究、労働者の身体的、精神的ストレスが労
働者の健康に与える影響についての研究などを行っていま
す。カドミウム慢性暴露による健康影響に関する研究は本
多先生を中心に継続していますが、医学統計学に通ずる本
多先生は、学内他科との研究協力も多くみられます。釣谷
は、主に地域高齢者を対象にした骨粗鬆症予防に関する研
究に取り組み、登坂先生は現在、留学先の G a v l e 大学
Muskuloskeletal 研究センターにおいて労働作業環境に関わ
る筋骨格系の障害についての研究プロジェクトに参加して
います。また、事務員の水越さんが、データ入力や実験室
の雑用など教室員の研究活動を補佐する役目も担ってくれ
ています。
教育活動については、衛生学の講義実習を教員4名が分担
しておこない、学生が社会医学、予防医学の分野に興味を
示し、理解を深めてくれるような教材を工夫しています。
特に実習については、学生3人一組のグループが自主的にテ
ーマを選び、調査研究をして報告書にまとめるといった過
程を教員が支援していくといった方法をとることで、学生
とのコミュニケーションを大切にしながら、学生が意欲と
責任感をもって自主的に学ぶ態度を育てるよう配慮してい
ます。
細かいことにはこだわらず、それぞれが自立して活動す
ることを重んじるという山田教授の方針のもと、普段はお
互いに協力しながらも自由な雰囲気の教室ですが、年に1度
か2度は教室員が一堂に集まり、親睦を深めながらも自立し
た研究者の責務を自覚するべく合宿ミーティングを行った
りしています。また閉鎖的になりがちな研究環境を活性化
するために、外部からの講師を迎えた教室セミナーを積極
的に開催しています。皆さまもどうぞご参加ください。
(衛生学釣谷伊希子記)
62
薬理学教室
後列左から三輪知子研究員、新沢泰子事務員、今泉範子助手(内分泌内科学)、
中西禎乃研究補助員(内分泌内科学)
前列左から吉田純子講師、西尾眞友教授、石橋隆治助教授
当教室は初代吉村政弘教授、第2代鈴木史郎教授を経て
平成6年に西尾が講座主任を引き継ぎました。平成10年1月
には新潟大学から石橋が助教授として加わり、現在教室に
所属しているのは教授西尾眞友、助教授石橋隆治、講師吉
田純子、研究員三輪知子、事務員新沢泰子の5名が教育、
研究に従事しており、この他に臨床科所属の教員が共同研
究者として研究に参画しています。
現在の研究の主なテーマは、正常時および病態時におけ
る心血管系の機能を、薬理学的、生化学的また電気生理学
的手法を駆使して解明することにあります。電気生理学的
手法を用いる研究として、パッチクランプ法という手法を
用いた細胞膜イオンチャネル機能の解析に細胞内 Ca2 +測定
法を組み合わせての研究を行っており、主に心筋細胞を用
いて細胞・組織機能制御機構の解明に取り組んでいます。
これらの手法は基本的にあらゆる種類の単離細胞、培養細
胞に適用可能であり、培養がん細胞を用いて、細胞増殖の
制御におけるイオンチャネルの役割についての研究も手掛
けています。研究のもう一方の柱としては、一酸化窒素
(NO)の生体内動態を独自の精度の高い測定法を用いて検
討しており、正常時および病態時の心血行動態とNO関連物
質動態との関係を追求しています。石橋の「循環器薬理学」
、
吉田の「生化学・薬理学」
、西尾の「電気薬理学」
、そして
三輪および新沢の全般への貢献を最大限に活かして研究に
取り組んでいます。
他教室との共同研究も活発に行っており、臨床教室から
の教員や大学院生が、当教室にさらなる活気をもたらして
くれています。これからも薬理学に、また当教室の仕事に
興味を持たれた学内外の方々が、研究に参加していただけ
ることを期待しています。
教育面では、3学年は平成16 年度からの、また、4学年は
平成17年度からの新カリキュラムへの移行が予定され、そ
の内容が大きく変わろうとしています。3,4学年を一体化
しての、problem-based learning(PBL)を中心としたユニッ
ト制(臓器別)統合型カリキュラムが組まれます。薬理学
としては臓器別ユニットへの導入と位置付けられる「臨床
総論Ⅰ」
(3学年初めの7週間)の中で、薬理学総論と普遍
的薬物(抗感染症薬や抗腫瘍薬等)の作用機序の解説を中
心とした講義と実習を行います。その後に続く臓器別ユニ
ット内でもそのユニットに特有の薬物についての講義・実
習を行い、さらに、ユニットの総括と位置付けられる「臨
床総論Ⅱ」
(第4学年3学期の2週間)においてここまでで不
十分な部分をカバーする講義を行います。PBL を中心に自
学自習を基本とするカリキュラムですが、これを側面から
援助し、生体に対する薬の基本的な作用が理解できるよう
講義・実習を行いたいと考えています。
分子生物学に基づく新しい手法や疾患モデル動物の開発、
創薬科学の発展、患者の遺伝的体質や病態に合わせた「個
別薬物治療」の考え方の進展等により、薬理学のカバーす
べき分野も飛躍的に拡大しています。また、医学教育も大
きな変革期にさしかかっている状況の中で、医師となるた
めの基礎として、薬理学を理解することの重要性も増して
います。このような時代の要請に応えるべく、教室員一同
研究と教育に一層力を注いでゆこうと考えています。
(薬理学西尾眞友記)
63
総合医学研究所細胞医学研究部門
左から山岸裕子技術員、藤川孝三郎教授、宮越稔助手
細胞医学研究部門は 2003 年1月1日に、基礎医科学研究
部門から名称が変更されました。構成員は藤川孝三郎(教
授)
、宮越稔(助手)
、山岸裕子(技術員)の3名です。
細胞医学研究部門の現在の研究テーマは「哺乳類培養細
胞の倍数性変換についての研究」になると思います。研究
テーマは年々少しずつ変化しているのです。倍数性変化に
関する研究はおよそ14年前から始めました。きっかけは紡
錘糸形成阻害剤であるデメコルチン(商品名コルセミド)
に対する応答が培養細胞の種類によって異なったことでし
た。HeLa細胞はM期で止まるのに V79細胞や Meth-A 細胞
は多倍体化したのです。その後多倍体化の研究に入り、多
倍体化した細胞の多くはアポトーシスで死ぬことがわかり、
制がんに使えるのではないかと考えました。1998年に4倍体
細胞が樹立できたことで研究の方向がまた少し変化しまし
た。その後の6, 8, 12, 16, 18倍体Meth-A細胞及び3, 4, 6倍体
V79 細胞の樹立をもって確信を深めました。我々の体を構
成している細胞の多くは2倍体ですが、
「なぜ2倍体なのか、
4倍体ではだめなのか?」などの2倍体の合目的性を議論す
る素地が得られたと思いました。
現時点で我々は染色体を含め全てのDNAは連結している
という、少し大胆な仮説を採用しております。2の冪乗以外
の多倍体細胞が比較的容易に樹立できたことを容易に説明
できるのです。それだけでなく、この仮説に従えば、減数
分裂における全ての染色体の対合という確率的に神秘性さ
え感じられる現象が説明でき、1重鎖 DNA生物から2重鎖
DNA生物までの進化の過程が納得でき、そして遺伝学にお
ける優性劣性遺伝子の発現の問題も説明できると思われま
す。陰陽2要素の対称的フラクタル配置構成は仏教における
曼陀羅の配置構成と同じだそうです。
部門内のセミナーは2002年11月から2週に1回3名で行っ
ております。実験の打ち合わせ、重要論文の紹介、そして
大学院講義の練習をかねての藤川の講義がその内容となっ
ております。 1.「フラクタル次元」、2.「ゲノム構成」、3.
「多倍体細胞のDNA 構造」
、4.「細胞周期解析」が講義の題
名です。
「ゲノム構成」ではヒト2倍体ゲノムはヌクレオソ
ームを最低階層にDNAロゼットループ、レプリコン、染色
体バンド、染色体、そしてゲノムの6階層のフラクタル構造
で構成されるとする仮説を証拠も交えて解説しております。
重要論文とは仮説を展開する上での証拠論文のことであり、
宮越と山岸が紹介を担当しております。
本研究部門は総員3名の弱小部門であり、人手と研究費
を必要とする研究分野では世界に太刀打ちできません。研
究の過程でおもしろそうな研究課題が生じても、それは捨
てざるを得ません。この分野では(誰もやらないから)最
先端を競っていると思いますが、論文が通りにくいのが難
点です。今後の研究を通し、金沢医科大学の名に多少なり
とも栄誉を加えることができれば良いと考えております。
(細胞医学研究部門藤川孝三郎記)
64
数学教室
左から松田博男助教授、吉野健一助教授
金沢医科大学の創立と同時に数学教室が発足して30年に
なりますが、この間、教室の教員数は、2−3−1−3と変化
し、現在は、吉野健一助教授と松田博男助教授の二人とな
り、創立時と同じ人数になりました。教員の担当科目は、
「数学、統計学」―「数学、統計学、教養セミナー」―「数
理科学、統計学、情報処理入門、テュートリアル」―「総
合人間科学、情報の科学、医学総論」と変遷してきました。
平成14年度からのカリキュラムの改定で、いわゆる「数
学」という科目はなくなりました。現在は、「総合人間科
学」という科目の中での選択授業として、数学的な内容の
ものが各学期完結する形で行われています。平成15 年度は、
吉野助教授が「パズルやゲームにひそむ数理」
、
「数理によ
る生態モデルづくり」
、
「暗号とセキュリティの科学」
、松田
助教授は「具象から抽象へ」
、
「階層分析法による意思決定」
の授業を行っています。現実の問題や現象を数学的な問題
に作り変えて、それに数学的な考察を加え、その結果を現
実の問題に適用するという方法を、具体例を通して学ぶよ
うに工夫しています。数学的な問題に作り変える過程で、
具体的な問題から本質的な部分を抽出し、抽象的な概念を
見出すことが必要となります。また、数学的な考察の結果
を現実の問題にフィードバックする過程で、適用の適否、
部分的な修正の必要性、適用の限界などがあることも認識
することになります。このような過程を通して、学生がも
のの考え方の一つを学習してくれるよう願っています。
また、教室員二人は、上記の「総合人間科学」のほかに、
「医学総論」と、平成14年度までの「統計学」と「情報処理
入門」が統合されて出来た科目「情報の科学」の一部を担
当しています。
「統計学」というと、学生は高等学校で数学
の内容の一部として学習するので、拒否反応を起こしがち
です。しかし、医科大学での「統計学」は、
「数理統計学」
ではなく、主にツールとして必要なものです。ただし、統
計学の概念と論理を理解しておかないと、誤った使い方を
する可能性があります。したがって、
「情報の科学」に統合
されて、一般教養・基礎・臨床の教員が担当していること
は、大変良いことだと思います。
研究活動については、吉野助教授は「円分体の類数の決
定」、松田助教授は「ユークリッド空間の特殊曲線と線織
面」を主テーマにしています。
創立以来、教室単位での教育から教室を横断した教育へ
と変化してきました。今後とも、数学に関する側面からの
学生の教育と良医の育成のために努めていきたいと思って
います。
(数学松田博男記)
65
金沢医科大学創立 30周年記念事業募金のお願い
趣意書
金沢医科大学は、昭和 47年に日本海側でただ一つの私立医科大学として金沢市に隣接する内灘の地に開学し
ました。「良医を育てる、知識と技術を極める、社会に貢献する」という建学の精神のもと、優れた教員を確
保し、最先端の教育、研究、医療設備を充実させ、次世代の医療の良き担い手の育成に努力してまいり、開学
以来29年を経て約2,400名の卒業生を世に送り出しました。
本学が、来る平成 14 年には創立 30周年を迎えるのにあたって、21 世紀の社会が求める医育、医療に応える
ために、教育・研究施設のさらなる整備充実が必要となっており、また年月の経過に伴い、病院の建造物の老
朽化も目立っております。さらに患者さんの療養環境の改善、特定機能病院および教育病院として社会からの
負託に応え得る診療機能と教育機能の改善が、現場からの強い要望として出されるようになりました。
約 10年にわたる検討を経て、この度、病院新棟の建設と教育施設の整備充実を、創立30 周年記念事業とし
て計画いたしました。病院新棟については、平成12年12月に着工し、平成15年の完成を予定しております。
これらの計画の実現には多額の資金を必要とします。本学では鋭意、自己資金の確保、経営の合理化などの
努力を行っておりますが、関係各位の格段のご支援を仰がねば、この計画を達成することは困難であります。
つきましては、経済情勢も大変厳しき折から誠に恐縮に存じますが、医学、医療の果たすべき役割、私学教
育の育成という観点から、何卒これらの趣旨をご理解いただき、格別のご協力を賜りたく心からお願い申し上
げます。
学校法人 金沢医科大学
理事長 小田島 粛夫
学 長 竹 越
襄
募集要項
寄付金の性格により手続上、個人対象の場合と法人対象の場合に区別されております。
1. 金 額
特定公益増進法人寄付金(個人対象)
10億円
受配者指定寄付金(法人対象)
7億5000万円
2. 募集期間
平成13年7月1日∼ 平成16年6月30日
3. 申込方法
個人用、法人用、それぞれの寄付申込書の所定の欄に必要事項をご記入の上、教育研究事業推
進室へご提出願います。
4. 税制上の特典 特定公益増進法人寄付金制度と受配者指定寄付金制度により、税制面での優遇があります。
詳細については、金沢医科大学教育研究事業推進室へお問い合わせください。
TEL 076(286)2211
内線 2720∼2724
FAX 076(286)8214
創立30周年記念事業募金寄付者ご芳名(敬称略) No.9(H15.10.22∼12.22
〈個 人〉
杉沢 幸恵(石川県)
中村ひろみ(石川県)
竹野 茂生(石川県)
田中 達朗(石川県)
米地 稔(宮城県)
森山 学(石川県)
桜井 眞一(宮城県)
下野 広美(石川県)
北川 浩幸(石川県)
高橋由美子(石川県)
金光 政右(石川県)
吉竹 佳の(石川県)
小倉 敏嗣(東京都)
中山 治樹(京都府)
山野 朋江(石川県)
荻野 法之(石川県)
佐々木周興(宮城県)
北川 義展(石川県)
蔵西志津子(石川県)
山崎 輝美(石川県)
東 由佳(石川県)
高道美智子(石川県)
川村 研二(石川県)
山田 聖(兵庫県)
角野恵美子(石川県)
鴨下 泉(東京都)
福村 敦(石川県)
河
昌子(石川県)
南 光代(石川県)
浅地 孝能(石川県)
受付順)
山本 博之(石川県)
浅香 充宏(富山県)
鳥居 方策(石川県)
小豆沢定秀(石川県)
角野 守(石川県)
奥名美由紀(石川県)
小野寺道子(宮城県)
大野 泰子(石川県)
長 久代(石川県)
真下 栄子(石川県)
個人寄付金累計 1,232件 629,322,452円
〈法 人〉
ゼリア新薬工業㈱
㈲八田物産
㈱アクト
コダック㈱
(医)杉浦クリニック(杉浦 幸一)
日本メジフィジックス㈱ (医)わかさ内科クリニック(若狭 豊)
法人寄付金累計
339件 556,060,000円
66
金沢医科大学学術振興基金募金について
募集要項
学術振興基金の募金も従来どおり受け付けています。
1. 目標額:10億円
2. 寄付方法:寄付申込書等を本学教育研究事業推進室にご
請求ください。(TEL 076-286-2211 内線 2720∼ 2724、
FAX 076-286-8214)折返し、寄付方法、税務に関するこ
となどをご連絡致します。
3. 本学は、平成15年9月1日付で文部科学大臣より特定公益
増進法人であることの証明を受けております。
金沢医科大学学術振興基金への寄付者ご芳名(過去1年間の分、敬称略)
清水 伸一(愛媛県)
村上 哲志(福岡県)
高村 敬一(福井県)
辻 外幸(富山県)
曽根 節子(石川県)
三治 秀哉(石川県)
小嶋昭次郎(岐阜県)
稲尾 次郎(富山県)
鈴木 昌和(長野県)
山田 真樹(富山県)
医療法人社団順和会(富山県)柴原 義博(宮城県)
小田 政行(岐阜県)
小林 睦(東京都)
由木 邦夫(栃木県)
花田 紘一(福岡県)
鈴木 桂子(長野県)
鈴鹿 正剛(奈良県)
仲里 博彦(沖縄県)
板垣 和夫(東京都)
http://www.kanazawa-med.ac.jp/
金沢医科大学のホームページです
本学では、多くの分野でインターネットが利用されています。Web、Mail、ライブや VOD(ビデ
オ・オン・デマンド)はもとより、文献検索、地域の医療機関や全国の同窓生との連携、各種事業の
公示に利用されているほか、学内イントラネットも拡充されています。教育・研究・医療の分野で
大いに活用されることを期待します。
(広報委員会)
表紙写真
加賀鳶のはしご登り 中谷 渉
金沢医科大学報 第117号
平成16年1月15日発行
伝統の加賀鳶の「はしご登り」を披露する金沢
発行者 金沢医科大学理事長 小田島 粛 夫
市消防出初め式は、新春の金沢の風物詩である。
編 集 金沢医科大学概要・学報編集委員会
加賀鳶は江戸本郷加賀藩邸お抱えの大名火消しで、
事あるごとに勇名をはせ江戸随一と言われた。そ
の伝統を守って今年も雪が舞う中、消防士たちが
鴬の谷渡りなどの得意の技を見せていた。
あやまちて雪をこぼしぬ鳶の空 富安風生
(富安風生、とみやすふうせい、1885-1979、愛知県生まれ。東
大在学中に山口静邨らと「東大俳句会」を興し高浜虚子の門下
に入る。「若葉」主宰。貯金局長、逓信次官。退職後は NHK 協
会理事、逓信協会会長などを歴任。著書「草の花」「十三夜」
「村住」「晩涼」「喜寿以後」など。)
山下公一 西川克三 廣瀬源二郎
平井圭一 伊川廣道 川上重彦
木越俊和 朝井悦夫 谷口 豊 相野田紀子 太田隆英 國府克己
大石勝昭 坂井輝夫 木村晴夫
小平俊行 中谷 渉 寺井明夫
野沢幸雄 丸谷 良 中嶋秀夫
中川美枝子 青木孝太 平光志麻
発行所 金沢医科大学出版局
〒920-0293 石川県河北郡内灘町大学1−1
TEL 076 ( 2 8 6 ) 2 2 1 1
印刷 能登印刷株式会社