vol.10 - 京都ノートルダム女子大学

第10号
2015年3月発行
ISSN 1880-165X
京 都ノートルダム女 子 大 学
司書・司書教諭課程
ニューズレター
目 次
巻頭言
図書館で時空を超えて/須川いずみ
1
司書課程から
情報サービス演習Ⅰ/鎌田均
図書館サービス特論/田尻彰
2
2
卒業研究から
クレヨンしんちゃんに対する社会的評価/西本果代
3
修士論文から
学校図書館を活用した表現活動の充実について/八木和栄
3
現場の先輩、
先輩の現場
図書館の楽しさ/久重薫乃
書架から書庫から/堀端沙知 小山みちる
4
5
実践報告
国際子ども図書館実習報告/山田友香
ライブラリー・メイト活動報告/舌間倫香
日々往来
図書館で時空を超えて
6
7
8
話は伝説になっています。彼は自転車レースで全
国優勝できるスポーツマンで、その上、語学もジョ
イス以上に堪能で、「君はギリシャ語を学ばない
須川いずみ
といけない。」と『ユリシーズ』のマリガンの台
詞を通して言っています。その上、ハンサムでユー
図書館の楽しみはなんと言っても、実際に話す
モアがあり、詩も書けたので、ゴガティ自身も詩
こともこれから知り合うことも叶わない天才たち
集を出版しています。(もちろん文学者としての
に出会えることです。私が遭遇した天才は20世
勝敗は言うまでもありませんが。)ジョイスとゴ
紀最大の小説家と言われるジェイムズ・ジョイス
ガティの丁々発止の会話と二人のライバルとして
でした。彼はイギリスの圧政に苦しんでいた植民
の屈折した心理戦が『ユリシーズ』の魅力のひと
地時代のアイルランドに生まれ、若くして祖国を
つです。
離れ、トリエステ、パリ、チューリッヒ等ヨーロッ
今の時代に彼らのような人たちは存在するので
パを転々と移り住み、ラテン語はもちろんのこと、
しょうか?細かいジャンルでは恐ろしく優秀で
イタリア語、ドイツ語、フランス語、ノルウェー
も、オールラウンドに強い人材はなかなか現れま
語をマスターし、文系の教養だけでは飽き足らず、
せん。私の人生はこの本との出会いから始まりま
パリで医学を目指します。
す。この二人の会話の断片で見せる途方もない教
このジョイスが絶対に超えられなかった天才が
養、その頭脳に魅せられ、ジョイス研究に没頭し
いました。オリバー・セント・ジョン・ゴガティ
ました。本の世界はドラえもんの「どこでもドア」
という彼の友人で、『ユリシーズ』に登場するマ
のように、国だけではなく、時代を超えて人の心
リガンという男のモデルになっています。ゴガ
の奥深くまで自由にワープできます。図書館は古
ティはジョイスと同じアイルランドのカトリック
くからある施設ですが、時空を超えてあなたをト
の家族のもとに生まれ、名門トリニティ大学で医
ランスポートしてくれるでしょう。新しくなった
学を学び、有名な外科医になり祖国で生涯活躍し
図書館であなたにもよりよい出会いがあることを
ました。アイルランドにとって英雄の革命家マイ
祈念しています。
ケル・コリンズが暗殺された時、彼も一緒に狙わ
れ冬のリフィー川に飛び込み九死に一生を得た逸
(本学図書館情報センター館長・英語英文学科教授)
1
司書課程から
情報サービス演習Ⅰ
図書館サービス特論
情報サービス演習 I では、様々なデータベースの検索法
私が夏期集中講義でお世話になるようになってから早
について実践的に学んでいます。初めは情報検索の基本
10 年が経過しました。全盲の視覚障害者です。私は、社
的な考え方、論理演算子などの利用法などについて講義
会福祉施設の職員としての経験はありますが、図書館の
し、その後、各種データベースの検索を実践しています。
専門家ではありません。ただ、視覚障害を持つ読者とし
利用するデータベースは、主に本学図書館から利用可能な
て限りなく少ない情報環境に立ち向かってきた情報ユーザ
ものを中心に、本学図書館目録、国立国会図書館サーチ、
ーの一人です。それだけに、視覚障害者の読書環境につ
CiNii、マガジンプラス、J-Stage、朝日新聞、読売新聞
いては、これからの図書館を担う若者には是非知っておい
記事データベースなどです。その他、外国書籍検索のた
て欲しいと言う強い願いから授業を持たせてもらっていま
めの WorldCat、インターネット上にある、特許電子図書館、
す。
法令データベース、各種画像データベース、デジタルアー
授業のモットーは、私たちの情報環境がなんたるかを
カイブなどの検索も取り入れています。そして、Google を
伝えることから始めます。点字はあるけれども、点字も墨
主としたインターネットサーチエンジンの検索も取り上げ、
字(点字に対する文字の総称)も読み書きできない視覚
授業全般を通して、これらのサーチエンジンの仕組みを
障害者の存在 = 情報障害者の実情を伝えることに主眼を
理解してもらい、他のデータベースとの仕組み、検索方法
おきます。また、弱視者のユーザーの存在についてあえて
の違いを理解してもらえるようにしています。
触れるようにしています。保有視力を活用した拡大文字
授業では、個々のデータベースの機能について詳しく触
の大切さについての理解があれば、一般の公共図書館の
れるよりもむしろ、それらデータベースの特徴や検索方法
利用可能な対象者にも成りうるからです。それにも増して、
を、インターフェイスにある内容から理解できるようにある
アナログからデジタル化への急速な変化によって、その情
こと、検索ニーズに適したデータベースを選択でき、その
報環境が一変してきたことをむしろこれからの学生には伝
データベースの機能、性質を理解して検索を行えるように
えなければ、と思っています。
なることを目標にしています。授業では、その回のテーマ
平成 26 年度の授業では、京都ライトハウス情報ステー
に関するデータベースについて講義で簡単に説明し、その
ション(点字図書館)の見学も含めて、最新の図書館シス
後の授業時間は、学生に複数の問題からなる課題を渡し、
テム ( サピエ図書館)について学びました。
データベースを実際に検索していく作業を中心としていま
そして、これからのサピエ図書館への期待をしながら、
す。問題が解けるごとに教員に持ってきてもらい、解答を
以下の説明をした次第です。
チェックし、適宜フィードバックを与えていく形をとってい
『「サピエ」は、視覚障害者及び視覚による表現の認識
ます。
に障害のある方々に対して点字、デイジーデータをはじめ、
問題を見てデータベースをうまく検索すれば回答が出る
暮らしに密着した地域・生活情報などさまざまな情報を提
ような問題もありますが、あるテーマについての情報を調
供するネットワークです。「サピエ」は、日本点字図書館が
べるために、そこからデータベース検索語を自分で考え、
システムを管理し、全国視覚障害者情報提供施設協会が
組み合わせるような問題、検索結果の中から情報資源を
運営を行っています。…(以下略)」』
(引用部分)
評価して適切なものを選び出す問題を多く含むようにして
当日は、教室内に音声対応のパソコンを持ち込んで学
います。さらに、実際に情報を見つけ出さないといけない
生には画面を通じて図書検索システムや検索した図書の
架空のシナリオのもとで、情報を検索する問題もあり、日
閲覧を音声で実演しました。それでも、溢れる情報量に
常生活、仕事、勉学などにおいて実際に応用できるように
はまだまだ太刀打ちできないこと、蔵書構成にばらつきが
なってもらうよう配慮しています。このように、この授業で
あることなどを付け加えました。
は、検索の細かいテクニックだけではなく、それよりも重
共に学び合う中で私も日々成長できる喜びを味わいなが
要な、情報を検索するときに必要な、考える力を実践的に
ら暑さの中、来年度もお世話になろうと思っています。
つけてもらうことを重視しています。
(鎌田 均 本学人間文化学科講師)
2
司書課程から
(田尻 彰 本学非常勤講師・
元京都ライトハウス点字図書館長)
卒業研究から
クレヨンしんちゃんに対する
社会的評価
修士論文から
学校図書館を利用した
表現活動の充実について
『クレヨンしんちゃん』と言えば、主人公のしんちゃんが
本研究の目的は、学童期における表現力の向上のために
人前ですぐにお尻を出したり、母親のことを呼び捨てにし
は読書力が必要で、その方策の一つとして、学校図書館と
たりと、子どもの教育上、悪影響を与える作品であるイメ
の連携が有効であることを明らかにすることである。
ージが強い。実際に、日本 PTA 協議会による「子どもに
現在の学習指導要領では、児童の思考力・判断力・表現
見せたくないテレビ番組」でも毎年 TOP10 入りしており、
力を育てる表現活動や言語活動の充実のための横断的な学
子どもを持つ保護者からは特に評価が低いと考えられる。
習活動が求められており、そのために学校図書館の利活用
しかしその反面、現在放送中のアニメの視聴率や、映画
の重要性が示唆されているものの、具体的な学習方法は、
の興行収入は非常に高い数字を誇っている。それは何故
いまだ十分には提示されていない。
なのか?実際に『クレヨンしんちゃん』に対してはどのよう
学童期の「読書力」の向上は「言葉の力」と「イメージ
な評価があるのか?それらの疑問を明らかにするために、
する力」の向上につながり、その結果表現力が豊かになる
『クレヨンしんちゃん』に対する社会的評価を研究した。
のではないかと考え、
「読書力」と表現活動の関連性を調べ、
学童期の子どもたちを対象に、学校図書館を活用した支援
実際にアニメと原作を通して、子どもの教育に良い面と悪
のあり方について考察した。この目的を検証するため、以
い面を細かく分析した。また、第 3 節では劇場版につい
下の仮説を立てた。
ても触れ、映画ならではの世界観と興行成績について分
第 1 の仮説では、「読書力」は「言葉の力」と「イメー
析した。
ジする力」によって成り立っていて、その力があれば、表
その結果、
『クレヨンしんちゃん』とは良い面と悪い面の
現力が豊かになると考え、文献で検証した。読書は、子ど
両方を備えている作品であり、下品であるなどの悪い面に
もの成長に不可欠であるといえる。また、
「言葉の力」と「イ
目を奪われがちであるが、同時に、しんちゃんの人間性の
メージする力」の二つの力は、
「読書力」の土台である。「言
良さ、家族愛のあたたかさなど、良い面も多数存在するこ
葉の力」を育み、「イメージする力」を高めることは、「読
とが分かった。
書力」をつけることである。「読書力」がつくことで、豊
Ⅱ章では、社会的背景の検証を行った。第1節では、
かな「表現力」がつくことにつながる。
アニメファンと保護者向けの 2 つのサイト、そして新聞記
第 2 の仮説では、表現力を豊かにするために「言葉の力」
事を通して、高評価と低評価の分析をした。また、第2
と「イメージする力」は土台であり、それらを向上させる
節では、
『クレヨンしんちゃん』と同時期に放送された『ド
ための支援には多様な方策があるが、その方策の 1 つとし
ラえもん』、
『名探偵コナン』、
『ポケットモンスター』の 3
て「読書へのアニマシオン」が有効ではないかと考えた。
つの作品の評価の比較をした。
本の扉
Ⅰ章では、作品分析を行った。第1節と第2節では、
「読書へのアニマシオン」に関する先行研究によると、「読
その結果、インターネットと新聞記事、どの情報源を通
書へのアニマシオン」の手法を取り入れた学習活動により、
しても高評価が 7 割を占め、他の 3 つの作品と比べても
読書を楽しむ力、読書量、読解力、読書の幅を広げること、
全体的に高い評価であった。しかも、実際に子を持つ保
以上 4 項目のいずれにおいても読書力の向上がみられるこ
護者からの評価も非常に良いことが検証の結果明らかに
とがわかった。
なり、PTA 協議会での「子どもに見せたくないテレビ番組」
その結果「読書力」とは、
「言葉の力」と「イメージする力」
で何故 TOP10 入りしているかのはっきりとした理由が検
によって成り立っていて、同時に「言葉の力」と「イメー
証できなかった。
ジする力」の二つの力は、「読書力」の土台であることが
よって、今後の課題としては、このアンケートがどのよう
わかった。さらに、「読書へのアニマシオン」の手法によ
な保護者に対して実施されていたかや、具体的にどういっ
って(1)読書力向上に役立つこと、(2)小学生を対象に、
た理由で『クレヨンしんちゃん』が上位に挙がっているの
ワークシートも活用した調査の結果、豊かな「表現力」が
かを検証していきたい。
つくことがわかり、「読書へのアニマシオン」が表現力の
向上にとって有効であることが検証できた。
(西本果代 人間文化学科卒業生)
(八木和栄 人間文化研究科人間文化専攻修了生)
3
図書館の楽しさ
香川県 まんのう町立図書館勤務 久重薫乃
はじめに
図書館司書になって2年が経とうとしている。私は
卒業後、神戸市立新長田図書館で1年勤め、現在は
香川県のまんのう町立図書館に勤務している。まだま
だ図書館司書という仕事について、自分の可能性につ
いて模索している只中である。在学中も毎日のように図
書館を利用していたが、私はこの2年で図書館が、そ
して本がさらに好きになったと実感している。
図書館と子どもたち
私が幼い頃は、近場に公共図書館がなく、学校の
図書室が唯一本のある場所だった。本は好きだったが、
外で遊ぶ方がもっと好きだった。初めて友だちと公共
図書館に行った小学生の時、館内でお菓子を食べて司
書の人に怒られた。そんな思い出しかない。だから来
館する子どもたちを見ると羨ましい気持ちになる。図書
館に来館するのは、本の好きな人が多い。しかし、私
は幼少期の思い出から学校の図書室も利用しない、本
なんか読まないという子どもたちに、本の楽しさを伝え
る仕事がしたいといつの間にか思うようになった。学校
との連携を深めれば不可能なことではない、図書館に
は読み物以外にも伝記や図鑑も紙芝居もたくさんある
のだから興味をもたれる可能性は無限であり、重要な
のは出会うタイミングだと思う。
この一年で母校の小学校や町内の小学校の図書室
の現状について先生とお話をすることができ、実際に
いくつかの図書室を見学させていただいた。授業で活
用していただく資料の団体貸出や、授業で詠んだ子供
たちの俳句作品を館内に展示するなど少しずつではあ
るが遠方の子
どもたちにも
図書館が認知
さ れ て い る。
図書館では人
と人、人と未
来を繋ぐ活動
が行われてい
る。
子どもたちと
図書館には個性がある
図書館が、地域や利用者層によってその特色が大き
く異なることは、司書資格の勉強を始めてから、そし
て司書になって一番衝撃を受けたことである。今では、
各地の図書館を訪ねては、館内案内図を片手にウロウ
4
ロする習慣がついてしまった。図書館に行くと、その土
地のことが良くわかる。郷土資料等から土地の歴史や
情報を得るだけではなく、所蔵されている資料、利用
している人、返却ラックに並べられている資料、特設
コーナー、配布物などから地域の特性を感じ取るので
ある。
良い所があるとすぐに真似をしたくなる性分の私は、
いつも利用者目線であることを大切にしている。先日、
ある図書館に行くと児童書架が低く子どもたちの頭が
ぴょこぴょこ見えるのが可愛らしかった。母親が探すと
小さな手を振り答えていた。ふと、自館の日常を思い
浮かべた。児童書架は低く設置されているが、頭が見
えることはない。一番上の棚に並べられている本は低
学年の子どもたちには高く、保護者の方に取り出しても
らっていた。書架を一段下げるだけで、自分で手に取
ることができ、借りる本が1冊増えるかもしれない。ま
た、図鑑など大きな本が上段にあると取り出すときに危
ない。そこで、大きさで分けて下段にまとめることにし
た。利用者から不便さを直接言葉にされることは少な
い。 し か し、
小さな気づき
が、相手にも
気づかれない
快適さに繋が
るのではない
かと思う。
館内で
おわりに
図書館に限らず、仕事で生かせることは日常の中に
転がっている。図書館ではカウンターで貸出返却する
だけが業務ではない。選書・ワークショップ・コーナー
設置・お話会・学校支援・レファレンスサービスなどの
他にも事務作業や準備があり、毎日が慌ただしく過ぎ
ていく。例えば、ワークショップのチラシを作成するの
に、スーパーのチラシを応用し、展示に欠かせない小
道具を家から引っ張り出し、朝の連続ドラマや映画化
の原作、子どもたちのアニメやゲームにも敏感になり、
中高生のテスト時期まで把握している。司書の仕事は
楽しい。現状に満足することはなく、最善を尽くすこと
が求められる為、日々新しい発見がある。新しい出会
いがある。そこが何よりも楽しく、大変なことだと思う。
(人間文化学科卒業生)
ちいさなあなたへ someday
アリスン・マギー文、ピーター・レイノルズ絵、
なかがわちひろ やく
主婦の友社 2008 年
あなたにとって母親とはどんな存在ですか?少し
の間一緒に考えてみてください。幼い時であれば、
「お
母さん、お母さん」とよく母親を追いかけたものだと
思います。そして、母親と一緒にいることで自分の
心が満たされたと思います。また、成長するにつれ
て母親を邪険に扱ってしまった経験をした方も中に
はいらっしゃると思います。このように、人は成長す
ることにより、母親の存在の捉え方が変化していき
ます。しかし、私たち子どもからすれば母親の捉え
方は変化しますが、母親から子どもを見ればいつま
でたっても心配の種だと思います。
私がこの絵本と出会ったのは、親元から離れて一
人暮らしを始めた時でした。一人暮らしを始めた時
は、母親のありがたみが痛く身に染みたものです。
今まで母親に頼り切っていた自分。素直に「ありが
とう」と言わなかった自分。反抗していた自分に対
してその当時は深く反省しました。そんな時に、本
屋でたまたま手に取ったのがこの絵本でした。
主婦の友社編
主婦の友社 2011 年
私には 4 歳の子供がおり、その子にできるだけ毎日
何か本を読んであげようと色々な本を見ていました。しか
し私が選ぶ本はどうしてもかわいらしい絵本や、子ども
が好きな同じシリーズの本に偏る傾向がありました。何
かおもしろい本はないかなと思っているときに、この本
を手にとって、中身をぱらぱらとめくってみました。子ど
もが好きな童話もあるし、私なら絶対に選ばないと思う
タイトルもありました。また「一日 1 話 3 分で読める。」
と書いてあるのも、毎日 3 分間ぐらいならずっと続けら
れるかもと思ったのが最初の印象でした。
366 日のおはなしの内容は、1 月 1 日から 12 月 31 日
まで一日 1 話として合計 366 話あります。その中に日本
の名作として、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』、夏目漱石の『吾
輩は猫である』や太宰治の『走れメロス』、なかには落
語や怪談や金子みすずの詩もあります。日本の昔話とし
て『舌切り雀』
『桃太郎』、また伝記としては、ナイチン
ゲールや野口英世が紹介されており、世界の名作『不思
議の国なアリス』もあれば世界の童話として『長靴をは
いた猫』
『はだかの王様』など、計8つのジャンルに分
かれています。挿絵はどのおはなしにも 1 つだけ入って
います。
(堀端 沙知 心理学研究科
発達・学校心理学専攻修士課程)
本の扉
頭のいい子を育てるおはなし 366 「あのひ、わたしは あなたの ちい
さな ゆびを かぞえ、そのいっぽん
いっぽんに キスを した」という一文
からこの絵本の物語は始まります。
“わ
たし”の赤ちゃんの“あなた”が誕生し、喜びに満
ち溢れている“わたし”。そして、
“あなた”が成長し
ていく過程で待ち受けているであろう様々な出来事
が“わたし”の視点から表現されています。この絵
本を読んで“わたし”がどのような気持ちで、
“あなた”
を育てているのかを知ることができました。その愛
情深さに自然と涙があふれ、いつの間にか自分自身
を“あなた”へと投影していました。そして、母親に
対して心から大切に育ててくれてありがとうと言う感
謝の気持ちでいっぱいになりました。
私たちは、母親の愛情によってすくすくと成長して
きました。しかし、大人になると、母親の愛情に気
づきにくくなると思います。今一度、
“あなた”になっ
て、母親の愛情を思い出してみてはいかがでしょう
か。そして、母親に対して「ありがとう」の気持ちを
忘れないでください。
子どもとこの本を読む約束は、その日の本は必ず読む
こと、挿絵をみることはいいけれど、まだ一回も読んで
ないおはなしはその日が来るまで読まないこと、と決め
ました。すると興味深い挿絵にはその本を読む日をとて
も楽しみにするようになりました。中には子どもが知って
いる話もあります。知っている話が近づくと内容を話し
たくて、その日が来るのを楽しみに待っています。そして
一日 1 話だけでなく以前に読んだ本の中でもう一度聞き
たい話を読むことにしました。366 話の中には 4 歳児に
はわかりづらい話もありますし、不幸な結果の話もあり
ます。でもそのような話の方が想像が膨らんでいるよう
に思えます。子どもは一度読んだ話の内容をよく覚えて
います。最初に読んだときと 2 度目に読んだときでは違
う感想を話すときもあります。またそれぞれの話にはコ
メントがあり、続きが読みたかったら原作を読んでくだ
さいと書いてあるときもあります。
実は子供より私の方が毎日この本を読むことを楽しみに
しているのかもしれません。私は、それほど本をよく読む
方ではありません。ですが昔読んだはずだったのに、こ
の話はこんな内容だったかと改めて感動をする話もあり、
原作を読むことにした話もあります。今、読書離れがすす
んでいるかもしれません。この本は子どもがおられる方だ
けでなく、本を読むことが少し苦手で、でも名作などを
読んでみたいなと思っている方にもお勧めですよ。
(小山みちる 本学図書館情報センター
研究・情報推進課長)
5
実践報告
国際子ども図書館実習報告 (2014.09.02〜09.12)
私は 2014 年 9 月に国立国会図書館が主催する
「図
書館情報学実習」に参加し、国際子ども図書館の
実習生として 8 日間、貴重な経験をさせていただき
ました。東京都上野に拠点を置くこの図書館は、日
本で唯一、国立の児童図書専門図書館として資料
数およそ 45 万点を所蔵しています。年間の来館者
数は 1 万人超で、東京都在住の人に限らず、全国か
らの利用や問い合わせに応じていることが国立機関
であることの特色だということを実際に見て取れまし
た。主なサービスは子ども(0 歳から 18 歳)を中心
とした読書支援の展開ですが、国際理解にも重きを
置いているため多言語の原書や翻訳書の収集もし、
題材『おじいさんならできる』
研究機関としての位置付けもあって、児童書の研究
に親しむきっかけを提供できるよう、多少不得意な
資料も数多く提供しています。
分野があったとしても(見学会や本格的なおはなし
今回の実習では、オリエンテーション(館の概要
会など)果敢に挑戦されているそうです。私は今回
説明と見学)を受けたあと、企画協力課・資料情
の実習に参加したことによって、短時間の業務で行
報課・児童サービス課の 3 課を巡回式に回らせてい
なう手作業の小物作りが苦手だということを痛感し
ただき、業務にあたらせていただきました。職員の
ました。実際に児童図書館員として働けるようになる
方から座学でご教授いただく他、選書・分類の演習、
までに、何としても克服したいと思います。
閉館後の配架整頓、実際にリクエストのあった図書
また、業務の中で特に楽しかったことは閲覧資
の書架出納、おはなし会の見学・読み聞かせ実演、
料室で利用者がリクエストした図書を、書庫から出
カウンター業務、本館への資料受取作業 ・・・ 等々、
納する作業です。書庫内は室温が 22 度、湿度が
本当に沢山のことに携わらせていただくことができま
50% に保たれており、猛暑と呼ばれる東京の夏、書
した。そのため実習期間中は毎日が忙しく、また充
庫での業務はとても快適でした。そしてその集密書
実していました。
架(手動式)の中には、5 ヵ国以上の翻訳が並んで
国際子ども図書館では、
「児童書の専門図書館」、
いるシリーズ絵本の人気作や、自分の知らない図書
「子どもと本のふれあいの場」、
「子どもと本のミュー
が山のように並んでおり、思わずここに居住したい
ジアム」の 3 点を基本的役割として挙げています。
と考えるほど夢のような時間でした。その時の書庫
そのため実習生は業務を通して、この基本的役割を
は既に 98% の集密率だったらしく、隣の敷地では
理解することが最大の課題でした。東京本館では
増築工事がされていました。新たに増築することで、
800 人、関西館では 100 人の職員がいる中、国際
新たに 65 万冊以上の追加が可能となる「100 万冊
子ども図書館は 40 名弱の職員と数名の派遣人員で
規模の書庫」を地下階に設けることが決定していま
業務にあたっています。特に児童サービス課は、趣
した。同時に閲覧資料室も既設から幾つか移動し、
向を凝らして本格的なおはなし会を定期的に開催す
新しい機能を持った中高生向けの資料室も増やすと
る他、季節に合わせた小窓ディスプレイ作り、児童
のことだったので、工事終了
(2015 年春)後にリニュー
書の内容に関係するクイズを提供するなど子どもに
アルした国際子ども図書館を訪れるのが今から楽し
直接サービスを提供する機会が多く、非常に参考に
みです。皆さんも機会があればぜひ、足を運んでみ
なりました。
てください。
(なお、今回の実習先で配布されたレジュ
職員の方々は本館や関西館に配属経験のある方
メや詳細な報告書類は、司書課程資料室に保管さ
が多数おられましたが、この館では子どもや児童書
せていただいています。)
好きな方が全体的に多く、すべての子どもに、読書
6
9 月分小窓ディスプレイ作り:
(山田友香 人間文化学科)
実践報告
ライブラリー・メイト活動報告
ング・コモンズの見学をさせていただいた。大学自体の規
ることをきっかけに、「図書館を学生の目線から活発にして
模が違うという事もあり、図書館やラーニング・コモンズに
いきたい」という思いから、2013年の10月、当時3回
は多くの学生がいた。図書館では、職員の方が図書館の
生の司書課程履修生4名で立ち上げた。現在は4回生4名、
設備や機能などについて説明して下さり、私たちの質問に
3回生2名、1回生3名の計9名で活動を行っている。皆
も答えてくださった。ラーニング・コモンズでは、土曜日と
が自分の得意分野をいかし、自由に活動できるよう部長や
いう事もあり、職員の数はそれほど多くなかったが、先生
リーダーというものは定めていない。
方や学生による積極的な活用を実際に見ることができた。
ライブラリー・メイトは週に1度のメンバーのみのミーティ
ラーニング・コモンズは私たちの大学でも導入されたが、
ングと、月に1度の図書館の司書の方々、人間文化学科の
先生方や学生が十分に活用出来ていない面もある。ラー
岩崎先生、鎌田先生、司書課程室職員の加藤さん、メンバー
ニング・コモンズをもっと活用しやすくするためにはどのよ
合同ミーティングを軸に活動を行っている。主な活動として
うに工夫すればよいか、どのように学生や先生方に働きか
は本の紹介カード(ポップ)づくり、新図書館イメージムー
ければよいか、という事を考える良い機会になった。
ビーの作成、オープンキャンパスでの図書館案内である。
8月6日に掲載された京都新聞「@キャンパス」では私
本の紹介カードはメンバーが実際に作ったものを司書の
たちの学校のラーニング・コモンズを取り上げ、ラーニング・
方に見ていただき、評価・アドバイスをいただいた。授業
コモンズの意義、今後の課題などについて記事を書いた。
で紹介カードの書き方などについて教わっていたのだが、
同志社大学の見学の後に私たちの学校のラーニング・コモ
多くの指摘を受けまだまだ経験が足りないという事を感じ
ンズを見つめ直すことで、一層良いものにしていきたいとい
させられた。
う思いが募ってきたと思う。
11月には、図書館のためのブックフェア2014大阪会
土台のないところから作ったボランティア・グループのた
場に司書の方々と共にメンバー3人が参加した。その中で
め、結成当初は理想や希望の具現化のために週3回ほど
行われた 片山茂先生の「POP は楽しい〜手づくり POP の
ミーティングを行っていたそうだ。教職員の先生方の協力
魅力と作り方教室〜」に司書の方々と共にメンバー3名が
もあり、今は3回生や1回生も増え、少しずつではあるが
参加させていただいた。どうすれば本を魅力的にみせる
軌道に乗ってきていると感じる。ただ、企画出来ていても
ことができるか、ポップ作りのコツなどを教わったそうだ。
実際に行動出来ていないものも数多くある。
本の扉
ライブラリー・メイトは2014年4月に図書館が新しくな
そのほか、旧図書館お別れ会の際のミュージックビデオの
作成、8月6日に掲載された京都新聞「@キャンパス」の
立ち上げに関わった 4 回生の先輩方は2015年3月を
もってほぼ引退されるが、私たち下回生が「学生の目線か
記事作成、他大学の図書館、ラーニング・コモンズの見学、
ら図書館を活発にする」という当初の思いを引きついで今
図書館研究会との交流などを行った。
後も積極的に活動の幅を広げていきたい。
6月に同志社大学図書館情報学研究会 DUALIS さんか
ら誘っていただき、立命館大学図書館研究会のみなさんと
共に同志社大学の今出川キャンパスにある図書館、ラーニ
(舌間倫香 人間文化学科)
7
11 月 22 日 司書・司書教諭課程室 ソフィア館 3F へ引越
4 月 5 日 新規履修予定者オリエンテーション
新入生を中心に参加者は 49 名であった。司書
課程の授業や講習会の概要、卒業後の進 路など
について説明した。
6 月~ 7 月
「児童サービス論」読書プログラム実習
ペープサート、紙芝居、ブックトーク、読み聞か
せを実習。
6 月 17 日~ 7 月 15 日
「図書館サービス概論」展示実習
テーマ:
「世界にほこるめづめづ京都」
めづとは感動する、珍しい、めでたい、愛しいと
いう意味の古語。受講生がお薦めする京都のめづ
(建築・祭り・食・文学・伝統工芸・伝統芸能)に
関する書籍を、新しくなった図書館の 1 階に展示。
8 月 22 日 京都ライトハウス見学
夏期集中講義「図書館サービス特論」の最終日
に視覚障がい者情報提供施設「京都ライトハウス」
を見学。情報ステーション(点字図書館)の役割
やサービスの実情を学習した。
11 月 15 日・22 日 製本技術講習会
製本技術の基礎を洋綴じ、和綴じ(四つ目綴じ)、
帖装本(朱印帳)の実習を通じて学んだ。慣れな
いドリルでの穴あけや、糸綴じに苦戦しながらも全
員 3 冊を完成させた。希望者による修理講習では、
傷んだ文庫本などを補強し、美しいハードカバー
の表紙を付けた。
11 月~ 12 月
「読書と豊かな人間性」読書プログラム実習
読み聞かせ、紙芝居、ペープサート、ビブリオ
バトルの実習。
編集後記
ライブラリー・メイトの活動も始まって1年が経
ちました。学生の主体的な活動は、学生自身にとっ
ても図書館にとってもプラスになる部分が多いので
はないかと思います。
来年度からは、図書館実習も新しく科目に加わり
ます。図書館の現場を体験することは、有益かつ楽
しいことですが、初めてのことなので、ちょっとど
きどきしています。 (零)
本学に勤務して 2 年になろうとしています。授業
もまだまだ試行錯誤で、なかなか慣れないのですが、
色々と学生からも勉強しています。とりわけ、今年
は学生の「ライブラリー・メイト」の活動を一年間
フルに見ることができ、簡単な手伝いくらいしかで
きませんでしたが、利用者である学生が図書館に積
極的に関わることで見いだせる可能性を多く感じま
した。(H)
司書・司書教諭課程室が新しくなりました。課題
や実習の準備等に大いに活用していただきたいと
思います。記念すべき第 10 号に快く協力してくだ
さった執筆者の皆様、ありがとうございました。
(あ)
京都ノートルダム女子大学司書・司書教諭課程
ニューズレター 「本の扉」
第10号 2015年3月31日
編集・発行
印 刷
用 紙
題字デザイン
8
京都ノートルダム女子大学
司書・司書教諭課程
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