イーモバ、要る? - 経済新人会マーケティング研究部

イーモバ、要る?
経済新人会マーケティング研究部門
イー・モバイル班
三田祭論文
坂井健治・井上理恵・蔭木達也
島川桂太郎・相良昌彰
高橋航大・鶴岡奏太朗・中村梓
水野俊祐・矢島淳太郎
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INDEX
0.はじめに
1.フローチャート
2.イー・モバイルの概要
3.携帯電話市場分析
3-1.携帯電話市場の現状と展望
3-2.携帯電話各社のシェア
3-3.通信環境
3-4.2年間契約の囲い込み
4.自社分析
4-1.契約状況
4-2.自社のサービス
4-3.自社の機種
4-4.自社のプロモーション
5.他社分析
5-1.他社のサービス
5-2.他社の機種
5-3.他社のプロモーション
5-4.現状分析からわかるイー・モバイルのとるべき方針
6.スマートフォン分析
6-1.市場分析
6-2.機能比較
7.顧客分析
7-1.スマートフォンに対するニーズの有無
7-2.ビジネスパーソンの法人向け
7-3.携帯電話の2台目所有
8.目標設定
2
8-1.SWOT 分析
8-2.目標
9.問題提起
9-1.料金比較
9-1-1.イー・モバイルの料金面での問題点
9-1-2.イー・モバイルの端末を所有した場合の追加負担額
9-2.プロモーションの問題
9-3.ニーズの見直しの必要性
9-3-1.学生のニーズに合うモバイルの必要性
9-3-2.スマートフォンが満たすニーズの再確認
10.政策提言
10-1.高性能な携帯という概念からの脱却
10-1-1.モバイルとしての再定義の必要性
10-1-2. 従来のスマートフォンの機能の再検討とターゲットの拡張
10-2.具体的な手法
11.おわりに
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0.はじめに
街角には公衆電話があり、彼女との連絡は家の電話、朝の新聞とテレビが唯一の情報源
という時代はもはや過去のこととなった。今日では小学生からお年寄りまでが携帯電話を
持ち、電車の中でパソコンを開いて作業するビジネスマンの姿も珍しくない。私たちも暇
があれば携帯電話を確認し、パソコンで宿題の提出まで済ませている。通信端末を持ち歩
くことは必須となり、図書館や大学、会社には必ずパソコンが設置してある。
人々は端末に対し、軽さ、頑丈さ、使いやすさを常に追い求めており、技術はそれに応
えてきた。当初アタッシェケースのようだった携帯電話はシガレットケースよりも小さく
なり、魔法の箱といわれたパソコンは今やノートサイズである。
そして今日では、パソコンと携帯を統合させた、スマートフォンという端末が登場し、
注目を集めている。
私たちは、イー・モバイルという会社についてのマーケティング戦略に取り組んだ。日
本初のモバイルでの 7.2Mbps 高速通信を可能にし、EM・ONE などのスマートフォンをいち早
く発売した会社である。
頭打ちの感がある携帯市場を尻目に、順調に契約者数を伸ばすこの会社。多様な魅力が
新しい顧客を引き寄せている。しかし、その魅力は市場に十分に認識されているのだろう
か。皆さんはその魅力を知っているだろうか。知らないとすればそれはなぜだろうか。
今、私たちは、慎重に、かつ大胆に、こう断言しよう。この論文を読んだ後、あなたは
イー・モバイルの顧客にならずにはいられない、と。
1.フローチャート
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2.イー・モバイル概要
始めに私たちが取り上げたイー・モバイルの簡単な概要について説明したい。
2-1.沿革
・2005年1月
イー・アクセスの完全子会社のモバイルブロードバンド事業の準備・
企画会社としてイー・モバイル株式会社を設立。
・2005年11月
イー・モバイルが総務省より携帯電話事業者として認可される。
・2006年5月
イー・モバイル、3600億円超の事業資金確保。
・2006年9月
2008年の音声サービス開始時から2010年10月まで、NTT ドコ
モ通信網のローミング利用に合意。
(2011年半ばまでは NTT ドコモとのローミングを継
続)
・2007年3月 東京23区、名古屋市、京都市、大阪市で HSDPA 通信サービス「EM モ
バイルブロードバンド」を開始。
・2008年3月
音声通話サービスを開始。
・2008年4月
50万ユーザーを突破。
2-2.事業・サービス概要
サービス開始以来、高速パケット伝送技術「HSDPA」や IP ネットワーク技術を活かし、高
速データ通信分野をリードする存在としてモバイルブロードバンドサービスを提供し、ス
マートフォン、データカードの市場でシェア拡大を図っている。スマートフォンはモデム
としても使用でき、データ通信の速さが活かされている。
イー・モバイルが提供する「EM モバイルブロードバンドサービス」の特徴は主に
1 料金(定額制で使い放題)
2 スピード(最新通信技術 HSDPA を採用、下りスピード最大 7.2Mbps)
3 ADSL とのセットサービス(最大 12Mbps の ADSL で快適ブロードバンド)
の3点である。
また、今秋には Touch Diamond(HTC)というスマートフォンの新商品を発売。
料金体系面ではイー・モバイル同士の通話無料にしたり、U-29プランという料金プラ
ンを施行し、若い世代もターゲットにしている。法人向けのサービスも実施されていて銀
行、監査法人、出版、総合商社、建設業者等、広く対応している。
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まず、携帯電話市場、自社、他社 3 つの視点からイー・モバイルがとるべき方針を分析し
たい。
3.携帯電話市場分析
ここで携帯電話市場について分析したい。
3-1.携帯電話市場の現状及び展望分析
野村総研によれば、携帯電話の契約回線数は微増傾向で、2008 年の初めには 1 億回線を
超え(2008 年 10 月現在、既に超えている)、2011 年度末には 1 億 826 万回線まで増加する
見込みである。だがこれは、携帯電話業界としては市場が停滞していることと同義となる。
なぜならば、数値上はおよそ 3 年間で 800 万回線が新規に開設される訳だが、その割合
は市場の規模からすると極小であるからだ。以下に、その理由が明白となる様に、2 つのグ
ラフを載せる。
以下が、2005 年から 2008 年までの携帯電話契約者数、市場規模推移(2005〜08)のグラ
フになる。
このグラフから分かる様に、契約者数は微増であるが、市場規模は大幅にのびている事
が分かる。
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では次に 2008〜2012 年までの携帯電話契約者数、市場規模推移予測(2005〜12)のグラ
フを載せる。
このグラフを見れば明らかだが、契約者数の伸びは見られるものの、市場規模は衰退し
ていく見込みだ。つまり市場の成長はこれ以上見こめず、停滞していく、という事が分か
る。即ち市場は既に飽和状態にある、と言っても良い。
この様な端末を殆どの国民が持つ様な状況にあれば一般には更なる、若しくは新たな携
帯電話事業の拡大が見込める、と考えるのが定石である。しかし、同研究所発表によれば、
ARPU(1 契約当たり平均利用料)の下落を年率 2%とする楽観的な予測においても、2009 年
度の 7 兆 2,624 億円を境に減少していくものと推計されている。この数値をベースに考え
ると、2011 年には、市場規模は 7 兆 2000 億円を割る。この事は、上記のグラフにも数値が
大きいため微妙ではあるが、表れている。
かつては着メロ先行配信、動画配信、ショッピングモールなどのサービスで市場の拡大
を行ってきた携帯電話市場も、既に競争過多に陥っている状況である、といっても過言で
はなかろう。
以上から、残された、或は、新規の顧客を獲得するために、これから先、携帯電話事業
において、他社との更なる競争激化、サービスの差別化が避けられない状況に陥る事は、
明白である。
しかし、これに拍車をかける急速な技術発展も忘れてはならない。
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2G(第二世代携帯電話)から 3G(第三世代携帯電話)への移行も、現在、ほぼ完了した。
しかし、2010 年には、4G(第四世代携帯電話)への移行を各社が開始する。この事で、従
来の通信速度が飛躍的に向上すると言われている。各社が 3G の市場でシェア争いにしのぎ
を削り合うなか、この様な状況を目前に控えているのである。
技術革新による回線の高速化を迎えつつも、市場自体の飽和状況を同時に迎え、他社よ
り前に行くには、消費者分析、ニーズの取捨選択が慎重精緻であり、それらを十二分に勘
案した政策が必要である、と考えられる。
3-2.携帯電話各社のシェア
以下は 2008 年現在の携帯電話のシェアのグラフである。
上記のグラフは、全台数が凡そ1億 960 万台である。台数に換算すると、EM は 92 万台(電
通調べ)。1%に若干届いてない。
docomo、au、SoftBank の 3 社が大部分のシェアを占めており、イー・モバイルのシェア
は小さいものとなっている。
3-3.通信環境
3-3-1..通信速度について
以下では、各社が提供するサービスにおいて最高速度、品質のものについてのみ取り扱
うこととし、旧仕様などについては文章の煩雑さを控えるため割愛する。
イー・モバイルを始めとした au を除く携帯各社は、IMT-DS(W-CDMA)という通信規
格を採用している。au は IMT-MC(CDMA2000)という規格を採用している。
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3-3-2.自社通信環境
イー・モバイルが現在サービス提供している規格は、W-CDMA のパケット通信において
改良を加えた規格である HSPA で規定された HSDPA である。HSPA は 3.5G と呼ばれる
規格で、W-CDMA 方式を 3G と呼ぶのに対応させたものである。HSPA 系の規格の特徴は、
通信の最適化とデータの符号化における高規格化により高速通信を可能にすることと、簡
単な基地局の改良によりこのシステムを導入できることである。HSDPA 方式を用いた場合
の規格上の最高通信速度は 1 から 10 まであるカテゴリのカテゴリ 10 における 14.4Mbps
である。これは、端末と基地局の改良により理論的には可能であるが、現在提供されてい
るサービスではカテゴリ 7 の受信能力である 7.2Mbps が最高速度である。広告などで宣伝
されている 7.2 という速度はこれを指している。HSDPA は下り通信速度を改良させる規格
であるが、同じ HSPA の中の HSUPA という 2006 年に生まれた規格があり、これは上り
通信速度を改良する規格である。イー・モバイルは携帯各社に先立って今年 11 月末にこの
規格を導入し、国内携帯端末の上り最高速度 1.4Mbps のサービスを提供する予定である。
この速度は、映像通話システム Skype!をストレスなく利用できる速度である。
3-3-3..他社通信環境
a. docomo
docomo がサービス提供しているシステムはイー・モバイルが採用している規格と同様の
HSDPA のカテゴリ 6 で 3.6Mbps であった。今冬からはイー・モバイルのカテゴリと同様、
カテゴリ 7 で 7.2Mbps の下り通信速度のサービスを提供すると発表している。上りは
W-CDMA の最高速度 384Kbps のままである。
b SoftBank
docomo と同じく HSDPA のカテゴリ 6 の下り 3.6Mbps が最速であるが、基地局の改良に
より 11 月末から順次 7.2Mbps に対応する予定である。上りは 384Kbps。
c. au
CDMA2000 の中の CDMA2000 1x をパケット通信に特化して改良した CDMA2000
1xEV-DO Rel.0 を WIN シリーズに適用、下り最高速度の計測推定値 2.4Mbps、上り
154Kbps である。ただしこれはあくまで 1 ユーザが独占した場合の推定値であり、
CDMA2000 は 1 帯域を 3 分割する 3 セクタ方式を採用しているため、一般的な環境での最
高速度はこの 1/3 程度である。W46T、W47T 以降の多くの機種では CDMA2000 1xEV-DO
Rev.A を採用し、通信最高速度が下り 3.1Mbps、上り 1.8Mbps まで高められた。速度が出
にくい状況は同様である。CDMA2000 1xEV-DO の特徴は、端末にこまめに通信状況を送
信させ、状況の良い端末と優先的にタイムスロットを配分することで、効率的な通信を達
成することである。Rev.A では小さなパケットの送信遅延を防ぐ改良がなされている。
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d.WILLCOM
PHS で一般的な PIAFS ではなく、独自の仕様である W-OEM を採用している。PHS は
データ通信とは根本的に異なるため、他社のような高速化通信は現状では可能となってい
ない。現状では、最高速の W-OEMtypeG で採用している QAM(直行振幅変調:ASK と
いう値を送る方式を同時に多数組み合わせる)という変調方式を同時に多数リンクさせる
方式を用いることによって、上下最高通信速度 800Kbps まで引き上げることが可能である。
3-3-4 未来における通信規格
2010 年頃からサービス開始が見込まれている LTE などの規格は 3.9G といわれる。
OFDMA という周波数帯を無駄なくデータ通信に利用できるシステムを採用し、下り
70Mbps から 100Mbps の通信を可能にする。さらに 4G と呼ばれる規格では、IPv6 に対応
させる規格とし、無線 LAN や Bluetooth などと連携し、横断的な通信網の構築を目指して
いる。最高速度は下り 1Gbps ほどになるとされるが、技術的な開発が待たれ、実現はまだ
先のことである。
3-3-5.通信エリア
人口カバー率は他社がすべて 99%以上を達成しているのに対し、イー・モバイルは現在約
85%と低いが、イー・モバイルの通信エリアは急速に拡大しており、他社に追いつくのは時
間の問題である。しかし、地域エリアをみると、エリアは首都圏や都市しかカバーしてお
らず、他社の比べるととても狭いものとなっている。
3-4.2 年間契約の囲い込み
イー・モバイルがシェアを増やしていく上で問題となるのが、携帯電話の年契約の定着
である。2006 年時点で年契約者数の割合は 70 パーセントを超えている。現在ではこの割合
はさらに高まっていると見てよいだろう。
この傾向の原因は主にナンバーポータビリティー制度である。これは他社へと機種変更
をする際に従来の電話番号を引き継げる制度で、他社への機種変更が容易になった。他社
への顧客流出を阻止するために、長期契約を条件に基本使用料などを半額ほどに引き下げ
るサービスを打ち出している。具体的には docomo、au が個人、家族、学生などのくくりで
長期契約を行うことで基本使用料を半額にしており、SoftBank とイー・モバイルは機種料
金を割り引く方式を採用している途中解約の場合は高額な解約料が発生する。
このことから現在の状況においては、一台目の機種を他社に乗り換えることは難しくな
っている。実際にナンバーポータビリティー制度が導入された後の他社への機種変更の割
合は市場の予測を大きく下回るものであった。
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このように長期契約の浸透は新たに顧客を獲得する上で大きな障害となりうるだろう。
4.自社分析
ここではイー・モバイル(自社)に焦点を当てて分析する。
4-1.契約状況
以下はイー・モバイルの契約者数の推移のグラフである。
グラフを見ればあらかであるが、急速な伸びを見せる時期がある。2007 年 4 月から同年
11 月、2007 年 11 月から 2008 年 8 月までだ。その理由について述べる。
まず、前者の要因として携帯市場への新規参入、ライトデータプランの導入、新機種の
投入が考えられる。尤も、新規参入の会社の製品なので興味本位で購入した顧客の存在も
考えられる。
後者の要因としては、ギガデータプラン、新 2 年契約プラン(どちらも 12 月開始)
、ラ
イトデータプラン値下げ、新生活応援キャンペーン実施(どちらも 2008 年 2 月)
、電話サ
ービス開始、
「EMONSTER」同時利用キャンペーン実施(いずれも 3 月)がある。価格戦略が
大成功した、という好例の一つに数える事が出来るであろう。
しかし、2008 年 8 月までの増加数は前半期を下回ってしまっている。この要因としては、
販路拡大プロモーションの失敗、他社との技術面での格差が、知名度の高さに伴って露呈
したこと、などが考えられる。今後の企業努力で、十分に修正、改善可能な事柄である。
以下のグラフは、イー・モバイルも含めた、他社の半期の契約者数推移である。
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累計の契約者数では、他社に圧倒されているイー・モバイルだが、半期別の契約者数だ
と、圧倒されるどころか、他社と十分に健闘していることがよくわかると思う。2008 年 10
月の契約者数の大幅の増加の要因は新機種「Touch Diamond」の発売であると考えられる。
しかし、最近では docomo が新シリーズを発表するなど新たな動きがあった。競争はより激
化していくと考えられる。
一方で、au、特に WILLCOM は契約者数の減少は著しい。WILLCOM の契約者数の減少の原因
は、データ通信速度の遅さが際立ってきたことと電話定額制を強調したプロモーションが
失敗したことが考えられる。
4-2.サービス
自社についてサービスという観点から分析する。携帯電話、データカード、サービスエ
リアの 3 つの観点から説明する。データカードは本論ではあまり取り上げないが、会社の
サービスとして補足で取り上げておく
a.携帯電話でのサービス
以下の図は、携帯電話のサービスを表にまとめたものである。
サービスの種類
その内容
U-29 応援キャンペーン
29 歳以下の顧客限定で、月額 980 円で同社同士の通話を
無料にする。他社の携帯電話での通話でも 9.45 円/30s
と、非常に安価である。これは、カップル・グループで
の電話の普及を目的に行われている。
EMnet サービス
Web に接続するためのサービス。DoCoMo で例えると
imode。月額 315 円で提供している。
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EMnet 同時加入キャンペーン
新 2 年プラン、アシスト 1600、EMnet に同時加入する事
で、TouchDiamond 購入の初期費用が 100 円になるという
キャンペーン。この方式で加入すれば、2 年間の月額料
金に 1600 円が上乗せされ、本来 6 万円程する本体が3
万円強で購入できる。
MNP サービス
要するにナンバーポータビリティ。他社との差は特には
ない。
b.データカードでのサービス
データカードのサービスは以下のとおりである。
サービスの種類
その内容
EM チャージ
このサービスは使いたい分の利用料を予め支払った上で利用す
るデータ通信サービスである。これは、利用頻度の低いユーザー
や、出張や旅行時のみ使いたいユーザーを対象にしたサービスで
ある。主なプランとして。スタンダード(63 円/MB で一定)があ
る。定額プランでは、申し込んだ時から契約期間内では使い放題
になる。ちなみに、販売促進のため。EM チャージ 30 日定額デビ
ューキャンペーンとして、使用料が 5250 円から 4200 円に割引さ
れる政策を実施している。
データカード乗り換え
他社のデータカードから emobile に乗り換えた場合、端末価格が
キャンペーン
一円で済む。
この他にも、法人向けのサービスとして、デモ機の無料貸し出しサービスを行っている。
また、モニターキャンペーンとして契約事務手数料を無料にする、契約解除料の免除など
も行っている。
この場合、対象となるプランはデータプラン、ギガデータプランの2つのみになってい
る。
以上のことからわかるのはイー・モバイルは定額制のプランなど魅力的なサービスを行
ってはいるが、サービスの種類は限られている。
4-3.機種
この項目では現在、音声端末の H シリーズ、スマートフォンタイプの S シリーズの2種
が発売中であるイー・モバイルの携帯電話について、現状分析を行う。
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a.Hシリーズ
2008 年 2 月 25 日の音声通話サービスの開始とともに、イー・モバイルで初めての音声端
末・H シリーズが発売された。11 月では H11T、H11W の二種類が発売中で、H12HW の発売が
予定されている。
デザインはシンプルで特徴がない。最初に発売された H11T こそ 4 種類のカラーバリエー
ションがあるものの、続く 2 種は 2 色展開である。全体的に一昔前のケータイ、といった
印象で、何か工夫が必要である。
機能もワンセグ、テレビ電話など、高性能ケータイに慣れている日本人にとっては特に
インパクトはなく、ターゲットもはっきりとわからない。発売予定の H12HW は3ヶ国語表
示が可能であるが、これもインパクトに欠ける。
b.S シリーズ
イー・モバイル初の
スマートフォンとな
った EMonster は、そ
の多彩な機能でユー
ザーから高い評価を
得た(右図参照)。特に
GPS が Google Map や
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NAVITIME と連動して活用できること、またモデムとして利用する際も定額データ通信サー
ビスが利用できることが好評だった。
一般携帯電話というよりはパソコンよりで、コアなスマートフォン・ファンやビジネス
マンに人気の機種であるため、より一般的なユーザーを獲得するためには NAVITIME 連動な
ど好評だった機能をわかりやすく説明するプロモーションが必要だろう。
3 台目となった TouchDiamond は、
「タッチパネル」の採用をした機種で、そのコンパクト
さは好評であった。しかし Softbank ではデザイン性に富んだ同機種が発売され(さらに
docomo でも発売が決定した-詳細は以下参照)、サービス面や料金での差別化がより重要と
なってくることが考えられる。
S シリーズのどの機種にも言えることはカラーバリエーションがないことで、全て黒1色
展開である。
4-4.プロモーション
ここではイー・モバイルが行っているプロモーション活動について「キャッチフレーズ」、
「CM」、「WEB」、「その他の広告」の 4 つの観点から分析する。
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a.キャッチフレーズ
以下はイー・モバイルが最近のプロモーション
で用いるキャッチフレーズの一部である。
「ありえない!?イー・モバイル」
「仕事最速
遊び最高」
「月々千円からはじめられる」
「毎日がダイヤモンド、タッチダイヤモンド」
この文字情報だけをみて何が読み取れるだろうか。「月々千円からはじめられる」は安
さをアピールしたいことがわかるが、他のフレーズはいったい何が伝えたいのかはっきり
しない。イメージを重視しているのかもしれないが、漠然としすぎていて理解しにくい。
「仕
事最速、遊び最高」もいったいどちらを優先したいのかわからず中途半端なものとなって
いる。
b.CM
メインキャラクターはサルである。当初は白い犬を使用して SoftBank を意識したり、米
大統領選を意識して「イー・モバイルに CHANGE」というキャッチフレーズを用いるなどパ
ロディ CM を行っていたが、多くの抗議が寄せられたためこれらの CM は打ち切りとなった。
新商品である「TouchDiamond」の CM はメインキャラクターは今までと同様にサルで、サ
ルが歌を歌って商品を説明している。ちなみにその声はケミストリーが担当している。操
作の簡易性をアピールしたものだが、他社と比べると圧倒的に CM 本数が少ない。
c.WEB
赤と白を基調としたメインページは docomo と同じだが、コンテンツは少なく中には更新
されていないものもある。また商品にもカラーバリエーションが少ない。HP 製作に力を入
れているとはいい難いだろう。
WEB 上の CM では商品の機能について詳しい説明がされている。
また、イー・モバイルスクエアとよばれるイー・モバイルのファンサイトを運営している。
そこでは編集部のブログ、スペシャルインタビューという有名人(勝間和代など)のブロ
グが公開されている。しかし、イー・モバイルのサイトの片隅に目立たないリンクが張っ
てあるだけであり、ここ最近は更新もされていない。
d.その他のプロモーション
全体的に数が少なく、抽象的である。と同様に「TouchDiamond」の広告は高級指向を打
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ち出そうとしている一方で、メインターゲットであるビジネスマンに具体的な利用用途を
提示していないため、訴求力が低い。
以上のことからイー・モバイルはプロモーション面でいくつかの問題があることがわか
る。
まず1つ目は抽象的すぎて何が言いたいのか分からないという問題である。コンセプト
がはっきりとせず、機能、メリットが伝わってこないし、イメージが改善できているとは
言い難い。ターゲットも絞りきれていない。
2 つ目は WEB サイトの工夫のなさである。視覚的な工夫がほとんど施されておらず、商品
が魅力的に見えるとは言い難い。
3 つ目はキャラクターである。サルを使う意図が見えてこない。スペシャルインタビュー
で有名人を取り上げているものの、内容はイー・モバイルに関係のないものであったりと
それらを生かし切れていない。
以上 3 点がプロモーションの分析から見えてくる問題点である。
5.他社分析
前の項では自社という視点から分析をした。次は他社という視点から分析をしたい。携
帯電話市場で他社として上がるのは docomo、au、SoftBank、WILLCOM の4社である。
5-1.他社のサービス
この項では、各社の料金サービスを中心に表で説明していくが、各社似た様なサービス
が多い。
a.au
au では、様々な料金割引サービスを展開している。現在の代表的なサービスとしては、
以下に内容と共に表に記す。
サービスの種類
サービスの内容
誰でも割
2 年契約を結ぶ事で基本使用料を半額に出来る。途中解約時の違
約金有り。
家族割
家族申請により、基本料、家族間通話などの割引がある。
学割
学生であれば基本料半額、通話料の割引がある。単年契約。
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無期限繰り越し
料金プランでの無料通話分を、無期限に繰り越せる。通信上限有
り。
指定割り
指定した番号への通話料が半額に。他社の電話でも可。
ダブル定額
パケット通信の定額サービス。4200 円以上の通信をするとここで
定額になる。
この他にも、ショッピング時のクレジットカード会社のポイントを au ポイントに移行で
きたり、電話 100 円ごとに2ポイントたまったり、キャンペーンでためられる。たまった
ポイントを使うときは、500 ポイントごとの(1ポイント1円)機種変更の金額を割引、新
規加入家族の契約金を安くすることが出来る。
また、法人向けのサービスとしては以下のようなものがある。
サービスの種類
サービスの内容
シンプル 980
シンプルコース、シンプル SS プラン、誰でも割り同時加入で
基本使用料が
980 円になる。
法人割
基本使用料 25%OFF
誰でも割
上部記載
法人割+誰でも割り
社員の通話料が無料になる。
法人向けでも、個人向けと同様に、2年契約をサービス適用条件としたサービスが多い。
b.SoftBank
同社でのサービスは、代表的な例を以下の表である。
サービスの種類
サービスの内容
新スーパーボーナス
指定割、パケット定額など。契約時に割賦払いにする事で適
用できる。
ホワイト家族 24
家族間通話が完全無料に。
ホワイト学割
基本使用料無料。パケット定額サービスも付く。3 年契約
ブループラン
無料通話の繰越、基本料の割引。2 年契約だとサービスの幅が
広がる。
オレンジプラン
基本的にはブループランと同じ。先のプランよりも割引率が
高い。
ゴールドプラン
基本料 9600 円でのサービス。大幅な通信料割引がある。
ホワイトプラン
同社電話どうしでの通話が日中無料に。深夜の時間帯安めに。
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更に、同社では以下の様なキャンペーンも実施している。
・「ただとも」キャンペーン
2 名以上(家族や友だち)で新規加入する顧客、あるいは家族の紹介で新規加入する顧客
に、5.000 円分の商品券をプレゼントするキャンペーン。対象となる客層は、期間中に家族
や友人と 2 人以上で SoftBank に新規加入し、更にホワイトプランにも加入する全員。また
は、SoftBank に新規で加入し、ホワイト家族 24 に加入する客層が対象である。
c.docomo
自社で全ての技術を開発し、利用しているために性能自体は非常に優れている。しかし、
その反面、価格に影響が出てしまったので、料金サービスは他社に追随する形となってい
る。以下が、サービスの一覧となる。
サービスの種類
サービスの内容
パケ放題
上記のサービスとほぼ一致。上限が 4410 円
一人でも割
家族割とは対照的なサービス。個人での契約でも割引の対象になる。
一年割
年々割引率が増えていく。最大で 25%の基本使用料が割り引かれる。
携帯電話に多少の興味のある方は既に知っているかもしれないが、やはり他社のサービ
スを模倣した物が目立つ。
また、法人向けのサービスとしては次のようなものがある。
サービスの種類
サービスの内容
オフィス割
基本使用料 25%OFF、ただし 2 年間の継続利用の契約で 50%OFF に
いちねん割
1 年契約すると、利用年数ごとに基本料が最大 25%まで割引される。
ビジネス割
利用回線ごとに最大 25%まで基本料が割り引かれる。
いちねん割+ビ
上記の 2 サービス利用で基本料が最大 50%OFF
ジネス割
明らかに長期契約を狙ったサービスが散見される。
d.WILLCOM
PHS 市場では絶大なシェア率を持つ。データカードでの展開も本格的であり、他社とは少
し異質なサービスもある。
サービスの種類
サービスの内容
長期割引
下記の一年割とは逆のサービス。複数年以上の契約で割引に
なる。
一年割引
上記の長期割とは逆のサービス。単年契約での契約で割引に。
WILLCOM 定額プラン
一家庭で同時に3回線以上の同時加入で割引。
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データセット割引
PHS、データカードと同時に契約する事で割引。
また、法人向けサービスとしては次のようなものがある。
サービスの種類
サービスの内容
法人割引
3 回線以上の加入で、基本料が 2,200 円になる
新つなぎ放題
2 年契約で月額使用料 3880 円でデータ通信し放題に。
以上のことから、どこのキャリアも豊富なサービスを行っていることがわかる。しかし、
一社が優れたサービスを行うと、他者も追随する傾向があり、同じようなサービスになっ
てしまい違いがわかりにくい。さらに、いろいろなサービスを組み合わるためサービスは
複雑なものになっている。また、どのキャリアも個人サービスでも法人向けサービスでも 2
年単位の契約による割引サービスを行っており、顧客の囲い込みをしていることがわかる。
5-2.機能
この項目では各携帯電話会社が発売している機種・機能について説明し、現在の携帯電
話の外観・コンテンツのニーズについて分析する。
a. docomo
NTTdocomo は、これまで「90Xi」および「70Xi」などで展開してきた端末シリーズを刷新
し、2008 年 11 月から新たな 4 つのシリーズを展開する。
各シリーズのコンセプトおよび特長
「“自分らしい”がきっと見つかる。選べるファッショナブルケータ
イ。」
docomo STYLE series 様々なデザインやカラーから選べるファッション性の高いシリーズ
となっており、ケータイをファッションアイテムの一つとして楽しめ
る。
「フルに楽しむ。先取りする。新世代エンタテインメントケータイ。」
docomo PRIME series 映像やゲームなど、エンタメ機能が充実したシリーズとなっており、
旬のケータイエンタメを存分に楽しめる・。
docomo SMART series
「ON も OFF もマネジメントする。大人のインテリジェントケータイ。」
ビジネスとプライベートを両立させたい大人のためのシリーズとな
っており、ビジネスツールとして役立つ機能を搭載するとともに、上
20
質感のあるデザインを採用。
「先進テクノロジーを自在に操る。デジタルマスターケータイ。」
docomo PRO series
最新技術を搭載した、デジタルツールの先端をいくシリーズとなって
おり、パソコンに近い操作感により、自分仕様のデジタルツールとし
て快適に使える。
また、2008 年夏に LG エレクトロニクスからファッションブランド PRADA とのコラボレー
ション商品が発売され、10 月には SamanthaThavasa やデザイン家電 amadana、Francfrank
とのコラボレーションモデルも発売された。
「i モード」という携帯電話上でウェブページの閲覧やオリジナルゲームが楽しめる WEB
コンテンツサービスがある。他に特徴的な機能として、最大 5 人(追加料金で最大 20 人)ま
でのトランシーバ機能「プッシュトーク」、1台の携帯電話で2つの番号とメールアドレス
を取得できる「2in1」、体を動かしたり声を出したりすることでゲームの操作をする「直感
ゲーム」がある。
b.au
CDMA 1X とその上位サービスである CDMA 1X WIN の二つのシリーズがあり、WIN シリーズ
は一般客層向け、CDMA 1X シリーズは主に児童や高齢者向けの操作が容易な携帯電話という
棲み分けがなされていたが、2008 年の夏モデルより簡単ケータイシリーズが WIN シリーズ
でも発売され、実質 CDMA 1X シリーズは淘汰されたといってもよい。
また、2008 年6月からコンテンツと外観をまるごと交換出来る「フルチェンケータイ」を
SONY から発売し、コミックのキャラクターや野球チームの読売ジャイアンツや阪神タイガ
ースなどとコラボレーション商品を展開している。
WEB コンテンツサービスとしては「i モード」とほぼ同じコンテンツ内容の「EZweb」があ
り、他には音楽や映像配信を行う「LISMO!」や 11 月から開始される「au Smart Sports」
など独自のコンテンツが特徴。
c.SoftBank
通常の携帯電話である SoftBank3G シリーズとスマートフォンである SoftBankX シリーズ
がる。2008 年 6 月に apple 社と契約し 7 月に iPhone3G を発売。
また、2008 年 1 月にはウォルト・ディズニー・ジャパンと協業し、
「ディズニーモバイル」
の発売を発表。3 月にサービスを開始した。9 月には NEC から女性雑誌「GLAMOROUS」とコ
ラボレーションした商品が数量限定で発売された。
WEB コンテンツサービスとしては YahooJapan に接続できる「Yahoo!ケータイ」が特徴的。
他には docomo の「2in1」と同じサービスである「ダブルナンバー」がある。
21
d.WILLCOM
2005 年から発売されている WX 型版のシリーズと W-SIM 対応型の WS シリーズが発売されて
いる。W-SIM とは PHS の通信機能だけを独立させた多機能モジュール。パソコンと互換性が
あり専用の携帯端末につなげて使用することできる。
特徴的な WEB コンテンツサービスとして w+blog という SNS に近いサービスがある。
それぞれの携帯電話を見比べると次のような共通項目が挙げられる。
・ デザインの良さ
・ カラーパターンの豊富さ
・ 防水加工
・ ワンセグ
・ コラボレーション商品の展開
・ キャッシュカード機能
・ 赤外線通信
・ PC ブラウザ搭載
・ 何かの機能に特化した携帯を消費者にアピールし、それぞれのライフスタイルに合わせ
て提供していく(カメラ機能、簡易性、イルミネーションなど)
・ 児童用携帯、高齢者用携帯の発売
以上のことから言えるのは、各キャリアの携帯電話の機能には大きな違いはないという
ことである。外見上明確な違いが見えてこないということは、重要となってくるのは携帯
電話をどのように売り出すかということ、つまりプロモーションである。
ただ、バッテリーの長さ、ユーザーインターフェースの改善など端末に対する細かなニ
ーズも当然ある。顧客のニーズにうまく対応しより良い端末を開発していくことも重要で
あるといえる。
5-3.他社のプロモーション
この項目では他社が行っているプロモーション活動について、
「キャッチフレーズ」、
「CM」、
「WEB」、「その他のプロモーション」の 4 つの観点から分析する。
a.docomo
22
a-1.キャッチフレーズ、コンセプト
「手のひらに明日をのせて」「ひとりひとりにこたえを」などがある。具体的な機能等、
サービスなどはこれからは漠然としてわからない。しかし、このキャッチフレーズからは
docomo の企業コンセプトを伝えることに重点を置いており、企業イメージの改善を狙った
ものだと思われる。
a-2.CM
《Answer》をキーワードに新しい CM シリーズが始まった。
「ひとりひとりにこたえを」
をキャッチフレーズとしている。
1つが「STYLE」「PRIME」
「SMART」「PRO」といった4つのコンセプトの新シリーズの製品
が発売することを伝えている CM である。4つの異なる出演者が4つの異なるシリーズの携
帯電話を選ぶことで、多様なニーズに応えていることを強調している。幅広い年齢層に強
く訴求するために様々な出演者を起用している(成海 璃子、堀北 真希、山崎努、松山 ケ
ンイチ、堤 真一さん、劇団ひとり)。
また「あしたにつながる品質リポート」という CM も行っている。親しみやすい出演者(爆
笑問題)を起用して、サービスの品質をつたえることとイメージを改善することを狙った
ものと思われる。
他にも家族間通話が無料ということをアピールするなどさまざまな CM を行っており、ど
れもサービス、製品など、どのようなことを伝えたいかがわかりやすく、これも企業イメ
ージの改善につながるような CM である。
a-3.WEB
赤と白を基調としたホームページ。すぐに目に入る「目的から探す」という項目がは、
初めて WEB ページに来る人でもたくさんの中から自分の好みに合った携帯電話を選ぶこと
ができるよう工夫されている。新シリーズの製品や新サービスの紹介の WEB ページには映
像を使うなど随所に工夫が見られ、見やすくデザインも良いものになっている。
23
a-4.その他プロモーション
雑誌・新聞・交通機関などさまざまな媒体に広告をだしている。CM と同様に《Answer》
をキーワードにしたものが多い。多くのバリエーションがあり、「個性派スリム
スリム
なボディに大きなこだわりを」など「富士山で使える」「ワンセグ!」などコンセプトが
はっきりしており、どんな機能、サービスを重視したものかわかりやすい。
b.au
b-1.キャッチフレーズ、コンセプト
「au の庭で。」というキャッチフレーズを利用している。
au は自由で好きなものをいつでも楽しめる庭のようであること、au が人々の生活に寄り
添って進化するプラットホーム(場所)を提供して新たな価値を創造していくことをコン
セプトにしたものである。しかし、「au の庭で。」の意味がよくわからないという声が多
くあり、そのコンセプトが伝わるかは疑問であるが、多様で大量の宣伝を行っていること
で一定の効果はあると考えられる。
b-2.CM
サービスを紹介する CM とコンテンツを紹介する CM の 2 種類がある。
前者は「au の庭で。」をコンセプトに若者・ファミリー向けの CM を展開している。スト
ーリー性を持たせたり、面白さを出したりしている。CM 出演者は仲間由紀江と嵐。
24
後者は多くの企業とコラボレーションをすることで消費者の興味を引き、新たなライフ
スタイルを提案していくというものである。イメージが先行してはいるが、《au smart
sports》
(adidas とのコラボレーション)では街を爽快に走り抜ける女性の姿が描かれるな
ど、ランナーたちに携帯電話を使った新たなランスタイルを提案していることが読み取れ
る。《LISMO》では人気アーティストの音楽を先行配信や限定配信することで注目を集め、
携帯で音楽を聴くといったようなライフスタイルを提案している。
b-3.WEB
KDDI のイメージカラーであるオレンジを配色し、豊富なコンテンツとサイトデザインで
おしゃれなイメージを出している。また、新シリーズの製品の紹介の WEB ページでは、映
像などにも随所に工夫がみられ、デザイン性を意識したものとなっている。
b-4.その他のプロモーション
雑誌、新聞、交通機関など様々な媒体に広告を出している。CM と同様、「au の庭で。」を
全体的にはコンセプトにしている。
「映画館に行くか?映画館を持ち出すか?」と高画質の
機能を主張したものや「シンプル980」といった料金プランのシンプルさを主張するも
のがある。CM と比べて、具体的ではっきりしているといえる。
c.SoftBank
25
c-1.キャッチフレーズ、コンセプト
具体的なキャッチフレーズはないものの、サービス名に「ホワイト」という言葉を多用
することでイメージの統一を狙っている。また、「ただとも」など「ただ」という言葉をつ
かっており、
「料金が安い」ということを特に強調していると。
c-2.CM
「ホワイト家族 24」の CM は父役に犬のカイ、長男役に黒人のダンテ・カーヴァーなどを
起用し徹底的なキャラ付けを行い、ストーリー性を重視した CM を展開した。その CM は大
ヒットを記録し、シリーズ化された。ストーリー性・面白さを重視しつつも、ストーリー
は宣伝したいサービス・製品の内容に即したものになっており、わかりやすいものになっ
ている。
またビジネスマン向けの CM では、キャメロン・ディアスやブラッド・ピットといった大
物女優・俳優を起用し、ファッション性の高さをアピールしている。
c-3.WEB
シルバー&ホワイトでベーシックかつ高級なイメージを出している。お客様サポートの
ページが大きく出ていて信頼性を高めている。話題になったホワイト家族の CM の専用ペー
ジもあり、興味の対象となっている。また、新シリーズの製品サービスの紹介、ホワイト
家族のなどの WEB ページには web 専用映像に有名俳優を使うなど随所に工夫が見られる。
c-4.その他のプロモーション
雑誌、新聞、交通機関など様々な媒体に広告を出している。CM 同様のキャラクターを利
用し、サービス、製品などを紹介している。
d.WILLCOM
d-1.キャッチフレーズ、コンセプト
「もう一つの未来。」をキャッチフレーズとしている。このキャッチフレーズに沿った内
容の広告を展開している。イメージの改善をはかっているものと思われるが企業の方向性
を示しているとはいい難い。
d-2.CM
2008 年の 6 月までクレイアニメーションを使った CM で「無料通話」を強調した CM を展
26
開していたが、2008 年の夏モデルの発売を機に「もう一つの未来へ」というコンセプトの
もと、スマートフォンのスタイリッシュさを前面に打ち出した CM を公開した。「スマート
を楽しむ、そんな未来が始まった」と CM では音声が入るが、商品の具体的なことは示され
ていない。
d-3.WEB
青と白を基調としている。清潔なイメージでわかりやすくまとめられている。新商品の
紹介ページなどは映像に工夫がほどこされている。ただ一つ一つの見出しは小さいため、
見つけづらくせっかくのプロモーションページを見逃してしまう場合もあるだろう。
d-4.その他のプロモーション
WILLCOM は学生に向けてのプロモーションを積極的に行っている。学生、特に大学生にス
マートフォンを普及させる目的で企画、宣伝がなされている。
「キャンパスライフ 24 時」という企画はスマートフォン普及のための企画である。ある
大学生の一日というコンセプトで、授業のノートをスマートフォンでとったり、電子辞書
を引いたり、サークルの仲間と連携をとったりする大学生の姿が掲載され、スマートフォ
ンの長所が宣伝されている。多機能過ぎていまいち使い方がわからないという学生のため
に、使い方のモデルを示しすることが目的である。
また、アカデミックパックという学生向けサービスを行っていて、学生、教職員のサポ
ートと銘打って、スマートフォン(WILCOM03)を通常より安価で提供している。
まとめとして、他社のプロモーションへの評価の参考として、以下のグラフをのせる。
27
このグラフは「CM の印象の最もいいと思う携帯電話会社はどこですか?」という質問に
ついてのグラフである。このグラフから 2007 年 2 月から 2008 年 2 月にかけて大きな変化
があったことがわかる。SoftBank の CM の印象が最もいいと思う人は大幅に増加し、一方で
au の CM の印象がもっともいいと思う人は大幅に減少した。
SoftBank は 2007 年 6 月から「ホ
ワイト家族24」の CM を開始し、au は 2008 年 1 月に「au の庭で。」をコンセプトの CM を
開始した。この事が大きく影響しているものと考えられる。
以上のことから、各社ともプロモーションに様々な工夫を凝らしていているとわかる。
狙いは「会社のイメージの向上」「ストーリー性」「料金の安さ」「機能」はさまざまである
と考えられる。docomo、SoftBank の広告はコンセプトがはっきりとしていて、伝えたいこ
とがよくわかる公告であった。au、WILLCOM の一部の広告はストーリー性を持たせたせるな
ど工夫を凝らしているが、コンセプトがはっきりせず伝えたいことがよくわからない広告
であった。これは au、WILLCOM の低迷の理由の一つになっていると考えられる。
Web については各社とも力の入れ方に違いはあったが、新製品などにはフラッシュページ
を使うなど随所に工夫が見られた。
また、上位 3 社は CM、WEB 以外にも雑誌などのメディアへの露出が多く、また TVCM は大
きな番組のスポンサーにもなっているので本数も多い。この点はイー・モバイル WILLCOM
との企業規模差がはっきりみてとれた。
28
5-4.
現状分析からとるべきイー・モバイルの方針
ここでは、現状分析の結果をサービス、機能、プロモーションの観点から整理し、イー・
モバイルのとるべき方針について述べる。
a.サービス
以下はサービスの多様性(主に料金)と通信環境について他社と自社を比較した表であ
る。
イー・モバイル
他社
サービス(主に料金)
少ない
豊富
通信エリア
狭い
広い
通信速度
速い
現状では劣るがいずれ追いつく
サービスについてはイー・モバイルが少なく、他社は豊富となっている。他社の方が優
位に思えるが、他社は複雑でわかりにくく、イー・モバイルは少ない分かえってわかりや
すいものになっている。よって、サービスについては改善する必要はないだろう。
通信エリアはイー・モバイルはまだまだ狭く改善に取り組んでいる。現状では他社より
劣っておりイー・モバイルの弱みである。
通信速度については3-1-3の通信環境で述べたが現状ではイー・モバイルが総合的
には最も早いので強みといえる。
しかし docomo は今冬にイーモバイルに追いつく予定であるなど、今後スマートフォン市場
の拡大に伴う設備投資により、追いつかれるのは時間の問題である。
b.機能
機能についてはイー・モバイルはこれといった特徴のない H シリーズより、機能面で高
い評価を得た S シリーズを伸ばしていくべきである。さらに「通信速度の高さ」という強
みをより活かせるのも S シリーズであろう。
また、他社分析の結果から各キャリアの携帯電話の機能には大きな違いはない。ただ、
端末に対する細かなニーズはあるので、顧客のニーズにうまく対応して行くことも無視は
できない。
c.プロモーション
以下はプロモーションを比較した表である。
プロモーション全体
イー・モバイル
他社
抽象的
具体的
数が少ない
数が多い
ターゲットがはっきりしな
29
い
キャッチフレーズ・CM
コンセプトが曖昧
コンセプトがはっきりして
伝えたいこと(機能、メリッ
いる(docomo,SoftBank)
ト、サービス)が分かりにく
伝えたいこと(機能、メリッ
い
ト、サービス)がわかりやす
い
ス
ト
ー
リ
ー
性
(docomo,au,Softbank)
WEB
視覚的な工夫がない
映像などの視覚的工夫
デザインが悪い
デザインが良い
他社と比較するとイー・モバイルのプロモーション面での問題がきわだってくる。まず、
全体としてはプロモーションが抽象的というのが最大の問題である。キャッチフレーズ、
CM についてはコンセプトがはっきりせず、どんな人に使ってほしいのか、どんなメリット
があるのか等の情報が伝えきれていないことが問題である。また、WEB については視覚的、
デザイン的な工夫が乏しいことが問題である。
プロモーション面ではこれらの問題を解決することが重要であるといえる。
これらのことから、イー・モバイルは通信速度の速さを活かせて、機能的にも評価の高い S
シリーズに力を入れ、プロモーション面での問題を解決していくことが重要であることが
わかる。
6.スマートフォン分析
前項で焦点を当てることにしたスマートフォン(S シリーズ)について詳しく分析したい。
6-1.スマートフォン市場
2005 年に WILLCOM から発売された W-ZERO が日本でスマートフォンを知らしめるきっかけ
となって以降、docomo、SoftBank でも台湾 HTC 社製のスマートフォンの販売を開始した。
この HTC 社は 2006 年には日本支社を設立。更なるスマートフォンの普及を目指している。
一方で、フィンランドの Nokia も SoftBank にスマートフォンの供給を行い始め、DoCoMo で
はアメリカのビジネス層に支持を受ける BlackBerry を、特定のサービスとともに導入した。
一方、携帯電話は機能の多様化、高度化に伴い、更なる高性能 OS に対するニーズが高ま
っている。電話端末購入のサイクルも短縮され、高性能機種の販売価格の下落も、これに
30
拍車をかけている。
In-Stat 社発表の統計によれば、出張の多いビジネスマンは、一般的な携帯電話利用者の、
おおよそ 2 倍程度の割合でスマートフォンを所有するという。
このことからも明らかだが、求めるだけの性能を満たす可能性が大いにあるスマートフ
ォン市場は現在非常に隆盛している。
現在、日本におけるスマートフォンの市場規模は、出荷台数およそ 200 万台と、携帯電
話の 3%程である。しかし、2010 年には約 600 万台を集荷すると予測されており、携帯電
話市場の 13%程に成長する見込みである。
以下のグラフは、2005 年から 2010 年までの集荷台数の推移である。
スマートフォン出荷台数推移予想(2005〜2010 年)
上記のグラフから分かる様に、大幅な集荷台数の増加の見込みがわかる。この成長率は、
年平均で 80%程になる。
市場が既に飽和状態を迎え、成長率がほぼ横ばいの携帯電話市場の中ではこの成長率は
特筆すべき点である。
上に記したが、日本にも近年、多数のスマートフォンがメジャーなキャリアから次々に
発売される状況が見られる様になった。この市場の成長率をふまえれば明らなことではあ
るが、携帯電話市場と比較した時に更に、この状況はチャンスと考えることが出来る。
6-2.機種、機能の比較
dcomo、au、Softbank、WILLCOM の各携帯電話会社が発売しているスマートフォンの機種・
機能について、各社の傾向を分析し、今後イー・モバイルが注力していくべき機種・機能
31
を考える。
a.他社概要
現在イー・モバイルの他にスマートフォンを発売している(または発売予定の)各社につ
いて、以下の表にまとめた。
docomo、Softbank、WILLCOM の三社は、スマートフォン市場へ積極的に進出している。特に
Softbank の iPhone や WILLCOM の ULTRA MOBILE などは、従来のスマートフォン像に囚われ
ない次世代モバイルとして、新たな市場を切り開いている。
また、「スマートフォンはすきま産業である」との考えからスマートフォンを取り扱う予
定はないとしていた KDDI(au)も、2008 年 9 月の発表で台湾の HTC 社製スマートフォン「Touch
Pro」をようやく投入することが明らかとなった。
b.docomo のスマートフォン
これまで docomo はビジネスコンシューマー向けとして「スマートフォン」を発売してい
たが、2008 年 11 月、「docomo PRO series(docomo プロシリーズ、発売予定)」を発表した。
あえて”スマートフォン”という言葉を用いず(機能的にはスマートフォン)、”ケータイ”
の延長線上にある高性能携帯電話という位置づけでの発表である。
STYLE・PRIME・SMART・PRO という 4 つのタイプに合わせ、多種多様な携帯電話を発表す
る中の一つとしてスマートフォンを提供する、という点で docomo のプロモーションは的確
にターゲットを絞ること、またそれによってスマートフォンの需要を作り出すことに成功
した。
海外で大人気の BlackBerry、Nokia の投入により話題性を持たせることも達成した。機
能面では他社と差別化できる点はあまり見当たらないが、これらの積極的なプロモーショ
ンによって、スマートフォンの認知度上昇に一役買っている。
「スマートフォン」(発売中)
32
「docomo PRO series(docomo プロシリーズ)」(発売予定)
c.Softbank のスマートフォン
Softbank では「SoftbankX」シリーズ・第 3.5 世代携帯電話サービスとして、スマートフ
33
ォン(及び Pocket PC)が発売されている。使用 OS は Windows Mobile と Symbian OS S60 に
分かれる。多様な機種、カラフルなカラーバリエーションも魅力である。
◆iPhone 3G
スマートフォン販売に力を注ぐ Softbank がの iPhone は、日本では 2008 年 7 月 11 日に
発売された。キーパッドを廃しタッチパネル主体としたデザインが特徴的で、大きな話題
となった。また 11 月現在は iPhone のみを宣伝する CM(下図参照)が印象的で、iPhone の積
極的なプロモーションを行っている。
d.WILLCOM のスマートフォン
2005 年 12 月 14 日発売された初代 W-ZERO3 は、
キーボード搭載のスマートフォンとして、
34
その発表と同時に注目を集めた。予約受付開始日には店頭に 200 人以上が並び、予約で初
回出荷分が満了するなど、発売即日に完売する店舗が続出した。長らく低迷が伝えられて
いた PDA 業界において久々のスマッシュヒットとなる機種となり、累計で 15 万台を出荷し
たとされる。
日本の中で先駆けてスマートフォンをヒットさせた WILLCOM は、続々と新機能を付けた
機種を発売した。初代は Windows Mobile を搭載した PDA 兼、通信機能を内蔵したスマート
フォン(また E メールの送受信も可能)という位置づけのシンプルな機種であったが、その
後新機種が出るたびに機能の追加がされていった。最新機種である WS020SH では、従来の
製品の良い点に加え、イルミネーションキーやワンセグチューナー、インターネットラジ
オなどの新機能が追加された。
WILLCOM スマートフォンの動向としては、初期の PDA 的なイメージが強かった機種から、
デザイン・機能共に「一般携帯電話+パソコン」の要素が強い機種へと変化し、ユーザー
のニーズに応えている様子が伺える。
◆ULTRA MOBILE
2008 年 7 月 11 日発売。ノートパソコンと PDA との中間に位置づけられる Ultra-Mobile PC、
またインテル Centrino Atom プロセッサを搭載した世界初の UMPC であり、さらに PHS と
して利用可能な次世代モバイルである。
スマートフォンではないものの、機能的にはスマートフォンとかぶる部分が非常に多く、
スマートフォン市場に少なからず影響を与えると考えられる。
35
e.au
「スマートフォンはすきま産業である」との考えからスマ
ートフォンを取り扱う予定はないとしていたが、2008 年 9
月 11 日、高機能携帯電話スマートフォン「E30HT」を来春発
売することを正式発表した。 スマートフォンメーカーの台
湾 HTC が 6 月に発表した最新機種「タッチ
プロ(Touch Pro)」
を au 向けに「E30HT」として来春発売する。当面は法人向け
販売だが、個人でも購入できるようになる。
au の参入によって、スマートフォン市場の更なる激化が予
測される。
以上のことから言えることは、各社とも新機能開発やユーザビリティーの向上に鎬を削
っているものの、いずれも高機能な仕事の作業ができる携帯であり機能にはあまり差がな
いということである。ユーザーの不満点として挙げられる「バッテリー駆動時間」や「端
36
末の大きさ」の改善をすることで他社と差別化できるかが、重要になってくると考えられ
る。また既に高性能な日本の一般携帯電話の機能(例:おサイフケータイ 等)を、上手く取
り込んでいくことも重要である。
しかしより根本的なこととして多機能化の中で機能が複雑化し、スマートフォン自体の
概念があまり浸透していないという問題がある。ライフスライルに合わせたより具体的な
機能・使い方の明示が必要になってくる。
イー・モバイルのスマートフォンは、その高い機能性と手ごろな料金でコアなファンを
獲得している。しかし他社との比較(各表参照)でもわかる通り、機種のカラーバリエーシ
ョンとデザイン性にかける点が問題である。コアなファンだけでなく、一般的なユーザー
を獲得するためには、デザイン性の向上が必要不可欠である。また実際に使用している人
から高い評価を得ているため、機能面/料金面の良さを最大限にアピールできるプロモーシ
ョンの施策が、今後の課題である。
7.顧客分析
ここでは、学生、ビジネスパーソン、主婦、高齢者それぞれの層についてスマートフォ
ンを使う可能性があるのかについて検討したい。
7-1.スマートフォンに対するニーズの有無
a.学生
まずは学生についてスマートフォンを使う可能性があるのか検討する。
37
図1、2から携帯電話で i モードなどのサイトを毎日利用する人は 10 代男性で 43.2%、10
女性で 55.6%と最も高くなっていることがわかる。全体的にみて、男女ともに若い世代ほ
ど、携帯電話で i モードなどのサイトを利用する頻度が高い。
38
図3、4から、携帯電話で 1 日あたりに i モードなどのサイトを 30 分以上利用している
人は男性で 50%、女性で 51.5%であることがわかる。全体的にみて、男女ともに若い世代
ほど 1 日当たりの i モードなどのサイトの利用時間が長い。
図1~4から、若い世代ほど携帯電話で i モードなどのサイトを利用する頻度が高く、
しかも利用する時間が長いことがわかる。つまり、若者は携帯電話で i モードなどのサイ
トを最も多く、しかも長い時間利用していることがわかる。
39
図5から 10 代は「スケジュール機能」「携帯アプリのゲーム」「着うた、着メロ、待ち受
け画面などのダウンロード」など多くの機能を他の世代に比べて利用していることがわか
る。若い世代ほどメールの送受信、音声通話以外の機能を多く利用しているのである。つ
まり、学生は最も多くの機能を日常的に利用しているのである。
40
図6からここでも若い世代のほうがパソコンや携帯電話など情報通信機器に関心がある
人の割合が高いことがわかる。図7からは 10 代が他の世代よりインターネットやパソコン
41
の知識が豊富で、使いこなしていることがわかる。また、図8から 10 代は他の世代よりパ
ソコンや携帯電話などの情報通信機器について人より詳しいと思っていることがわかる。
以上より図6~8から若い世代ほどパソコンや携帯電話などに関心があり、知識が豊富
で使いこなしており、人より詳しいと思っていることがわかる。つまり学生は最もパソコ
ンや携帯電話やインターネットへの関心が高く、知識が豊富で使いこなしているのである。
今までに述べた、他の世代と比べたときの学生層の特徴は
・携帯電話で i モードなどのサイトを最も多く、しかも長時間利用する。
・携帯電話で最も多くの機能を日常的に利用している
・パソコンや携帯電話やインターネットへの関心が高く、知識が豊富で使いこなしている。
以上 3 点である。これらのことから、携帯電話やパソコンといった情報通信端末に最も
深く関わっているのは学生であることがわかる。
以上の分析からでは、学生にはどのような用途でスマートフォンを利用するかといった
ような直接的なニーズが見当たらない。しかし、学生は携帯電話やパソコンといった情報
端末に最も深くかかわっているので潜在的なニーズはあるといえる。したがって潜在的な
ニーズを掘り起こすことができれば、学生がスマートフォンを使ってくれる可能性は高い。
つまり、学生のライフスタイルに合わせた機能やサービスを提供することができれば、ス
マートフォンで学生をターゲットに新たな利用者を獲得することは可能である。
b.ビジネスパーソン
ここではビジネスパーソンがスマートフォンを使う可能性があるのか検討したい。
図6~8から男性の 20~50 代は学生ほどではないが、ある程度パソコンや携帯電話など
の通信機器に関心を持っており、知識もありそれらをつかいこなしていることがわかる。
また、ビジネスウーマンが多い 20 代女性(図6~8の調査の 20 代女性のうち約 40%が独
立した社会人である)も他の女性の世代に比べて学生ほどではないがある程度パソコンや
携帯電話などの通信機器に関心を持っており、知識もありそれらを使いこなしていること
がわかる。
42
図9から、ビジネスマンのうち 66.7%と多くの人が仕事に携帯電話を利用していること、
図10から、20~50 代の男性は約 7 割の人が仕事でパソコンを活用していること、図11
から、20~50 代の男性は約 6 割の人が仕事でインターネットはなくてはならないと思って
いること、20~50 代の男性は図 12 から、約 6 割の人が仕事でインターネットを活用してい
ることがわかる。
また、ビジネスウーマンが多い 20 代女性(図 10~12 の調査の 20 代女性のうち約 40%が独
立した社会人である)も図 10~12 から、主婦や学生の多い他の世代に比べて仕事でパソコ
ンをインターネットを活用し、インターネットをなくてはならないと思っていることがわ
かる。
43
つまり、ビジネスマン、ビジネスウーマンは多くの人が、仕事でパソコンや携帯電話や
インターネットを活用しているのである。
今までに述べたビジネスパーソンの特徴は
・仕事でパソコンや携帯電話やインターネットを活用している。
・学生ほどではないがパソコンや携帯電話やインターネットへの関心が高く、知識が豊富
で使いこなしている。
の以上 2 点である。これらのことからビジネスパーソンは仕事をする上でパソコンや携帯
電話やインターネットと深くかかわっていることがわかる。
スマートフォンは Word や Excel の利用、スケジュール管理、パソコン向けサイトの閲覧
ができる。これらの機能は仕事をする上で役に立つ機能である。よって、ビジネスパーソ
ンにスマートフォンを売り込んでいけば、彼らに普及する。
c.高齢者
ここでは高齢者についてスマートフォンを使う可能性があるか検討する。
図1より 60 代は男性、女性共には他の世代に比べて携帯電話で i モードなどのサイトを
利用する頻度が低い。図3,4より 60 代は男性女性共に i モードなどのサイトを 10 分未
満しか利用していないことがわかる。つまり、高齢者は i モードなどのサイトを利用する
頻度が少なく、利用する時間が短いのである。
図5より 60 代は「メールの送受信」「通常の音声電話」は他の世代と同じように多くの
人が日常的に利用するが、他の機能についてはほとんどの人が利用しないことがわかる。
図 13 高齢者の携帯電話での通話内容(n=780)
44
図13から、高齢者の携帯電話での通話内容では、「必要なら連絡」「待ち合わせ時の連絡」
「帰宅連絡・確認」「居場所の確認」の順で多いことが分かる。このうち「待ち合わせ時の
連絡」
「帰宅連絡・確認」
「居場所の確認」について考えてみると、高齢者は携帯電話を「外
出先での要件の連絡、確認」に使用していることが推測される。
今まで述べた高齢者の特徴は
・i モードなどのサイトを利用する頻度が少なく、利用時間も短い。
・通話、メール以外の機能を使用しない
・外出先での要件の連絡、確認のために通話をする
の以上3点である。
「通話、メール以外の機能を利用しない」理由として考えられるのが、「通話、メール
以外の機能をそもそも利用する必要がない」あるいは「通話、メール以外の機能を利用し
たくてもできない」ということである。前者の理由である場合は、既存のスマートフォン
の機能では参入のしようがないのは明らかであるが、後者の理由である場合は利用しやす
いように改良すればいいことになる。「らくらくフォン」がのいい例である。
そこで、イー・モバイルが機能を利用しやすくしたスマートフォンを発売するとする。
高齢者が 1 台目所有の場合は、通信エリアが狭いため外出先での要件の連絡確認には不便
であるため、利用しないと考えられる。2 台目所有の場合では、そもそも高齢者が 2 台目の
携帯電話をもつかということが疑問である。2 台目携帯には 1 台目と使い分けるようなメリ
ットがなくてはならないわけである。しかし、高齢者の場合はビジネスとプライベートで
の使い分けなどが存在しない。つまり、1 台目を機能が利用しやすい携帯電話にすればいい
だけのことである。よって、イー・モバイルが機能を利用しやすくしたスマートフォンを
45
発売しても、顧客は獲得できないということになる。
さらに、高齢者には携帯電話で i モードなどのあまりサイトをあまり利用しない。これ
ではスマートフォンの特徴である、パソコン向けのサイトが閲覧できるということが意味
を成さない。
したがって、高齢者がスマートフォンを利用する可能性は低く、ターゲットにするのは
適切ではない。
d.主婦
最後に主婦について検討したい。
図 14 から主婦のうち 75%以上の人がパソコン以外では携帯電話でインターネットを利用し
ていることがわかる。
46
図15からほとんどの主婦が平日にインターネットを利用していることがわかる。図 16
から、昼間、夜間といった時間にインターネットを利用していることが分かる。つまり、
主婦はインターネットを平日の昼間、夜間に利用していることがわかる。
今まで述べた主婦の特徴は
・パソコン以外では携帯電話を使ってインターネットを利用する。
・インターネットを平日の昼間、夜間に利用する。
以上の 2 点である。
主婦はパソコン以外では携帯電話を使ってインターネットを利用することから、主婦は
スマートフォンを利用する可能性が高いと思われるかもしれない。しかし、主婦はインタ
ーネットを平日の昼間、夜間に利用している。平日の昼間、夜間という時間帯には主婦は
自宅にいると考えられる。在宅中にはパソコンを使えばいいのでわざわざ在宅中にスマー
トフォンを使うメリットは少ない。たとえ外出中であっても、わざわざ外出中にインター
ネットを頻繁にしかも長時間利用する必要はない。
インターネット以外のスマートフォンの機能の可能性を考えると、ニンテンドーDS にみ
られるような「家事や料理のレシピの機能」が考えられる。しかし、そのような機能を使
うと考えられるのは在宅中であるので、やはりパソコンを使えばいいということになる。
パソコンの起動時間が長くて面倒であったとしても、すでに任天堂 DS などが存在するし、
それだけの機能の魅力でわざわざ高価なスマートフォンを買うとは考えにくい。
したがって、主婦がスマートフォンを利用する可能性は低く、ターゲットにするのは適
切ではない
47
以上のことから、ターゲットにするのが可能であるのは「学生」「ビジネスマン」の二つ
の層であることがわかる。
7-2.ビジネスパーソンの法人向け
ここではイー・モバイルがスマートフォンで 2 台目所有のビジネスパーソンをターゲッ
トとする際に法人の顧客を獲得できるのかについて検証したい。
a.法人向け携帯市場の現状
a-1.シェア
法人向け携帯電話の端末台数は 2006 年度で 900 万台弱といわれており携帯電話市場の全
体の9%である。
キャリア別のシェアについては docomo が 2006 年度の時点で docomo が 64.4%、au が 25.1%
でこれに次いでいる。あとは SoftBank が 6%、WILLCOM が 4.5%となっている。
a-2.法人契約をしている法人の割合
【図 1:法人の携帯電話や PHS(通話タイプ)の契約状況】
また、図1からわかるように通話タイプの携帯電話や PHS を利用している法人のうち、
法人契約をしている法人は約 4 割であり、法人契約はせずに個人所有の携帯電話を利用し
ている法人は約 6 割である。
a-3.法人が利用する通信回線
法人が通信に使っている主な通信回線(単一回答)は「光ファイバー」が 48.5%、「ADSL」
が 26.3%「デジタル専用線」が 8.3%の順である。「PHS、携帯電話本体及びデータ通信カー
48
ドに用データ通信回線は 0.4%と少なくなっている
さらに法人が今後採用したい通信回線(単一回答)は「追加、変更する予定がない」が
68.3%光ファイバーが 12.0%の順になっている。「PHS、携帯電話本体及びデータ通信カー
ド」は 1.0%である。
b.自社分析
3-2の他社分析にあるようにイー・モバイルは法人向けに特別なサービスの提供はあ
まり行っておらず、法人をターゲットとするなら改善が不可欠である。
c.他社分析
3-3の他社分析にあるように各社 2 年間契約による囲い込みをしており、それは障害と
なると考えられる。また、docomo、au の法人向けサービスが充実しているといえる。
d.分析
ビジネスマンの法人向けをターゲットにしたとき次の二つに分けられる。
・すでに他のキャリアと法人契約している法人
・どこのキャリアとも法人契約をしていない法人
以上の二つについて政策を検討したい
d-1.法人契約をしている法人
法人契約をしている法人をターゲットにした場合、他のキャリアから顧客を奪うにこと
なる。docomo、au のシェアは圧倒的であり、そこから顧客を奪うことになる。しかし、他
社は2年間契約による囲い込みを行っているので、他社から顧客を奪うのは難しい。
さらに、多くの法人が通信回線を追加変更する予定はなく、追加変更する場合でも「PHS、
携帯電話本体及びデータ通信カード」に追加変更する法人は1%と少ない。この面から考
えても他社から顧客を奪うのは難しいことがわかる。
したがって法人契約をしている法人をターゲットにするのは難しい。
49
d-2.法人契約をしていない法人
法人契約をしていない法人をターゲットにした場合、通信回線を追加あるいは変更した
い法人を狙うことになる。しかし、66.3%もの法人が追加変更する予定はなく、変えると
しても光ファイバーが12%と多い。「PHS、携帯電話本体及びデータ通信カード」は1%
ととても少なくなっている。この1%を他社と奪い合うとなると激戦になるうえ、サービ
ス面で劣っているイー・モバイルには docomo、AU に勝てる可能性は低い。
したがって、法人契約をしていない法人をターゲットにするのは難しい。
これらことをまとめると、イー・モバイルはこれ以上法人の顧客を獲得するのは難しいこ
とになる。
だから、イー・モバイルはビジネスマンの個人向けと学生だけをターゲットにすべきであ
る。
7-3.携帯電話の2台目所有
ここでは携帯電話の2台目所有について分析する。
複数台利用パターンの分布
50
複数台の利用法
以上のグラフから携帯電話・PHS の利用者のうち、携帯電話を複数併用している人は 5.0%、
携帯電話と PHS を複数併用している人は 3.9%であることがわかる。複数台の利用法につい
ては図 2 から、「プライベート用と仕事用で使い分け」が最も多く、次に「プライベートで
よく話す相手用とそれ以外の用途で使い分け」が多いことがわかる。
「プライベート用とで仕事用で使い分け」をしている人は、個人で仕事用に携帯電話を
買った人と会社から携帯電話が支給されている人に分けられると考えられる。
「プライベー
トでよく話す相手用とそれ以外の用途で使い分け」をしている人は、同社間の電話料が定
額のサービスを利用していると考えられる。
今後の複数台利用意向
51
複数台の今後の利用意向についてみてみると、全体で 13.5%が複数台の利用意向を示し
ていることがわかる。若い層の方がやや利用意向が高いことがわかる。
また、最近では iPhone が発売されたが iPhone 購入者のうち約 7 割が iPhone 以外の携帯
電話を所有をしている。データでは複数台の利用意向は決して多いとはいえないが、iPhone
など新たな端末の登場により、携帯電話の複数台利用は広まっていくと考えられる。
以上のことをまとめると携帯電話の 2 台目所有については
・ 仕事用とプライベートで使い分けている人が最も多い。
・ 携帯電話の 2 台目所有は広まっていくと推測できる。
これら2つが分かる。
8.目標設定
ここでは今までの分析から見えてきたことをふまえて目標を設定したい。
8-1.SWOT 分析
ここではいままでの分析結果をふまえて、イー・モバイルが携帯電話市場で力を入れてい
くべきなのかを分析する。
Strength
データ通信の高速化に力を入れていた docomo のデータ受信速度は圧倒的といわれてきた
イー・モバイルの速度に追いついた。しかも、2010年には4G という新たな通信方針が
52
導入され、データ通信は今までとは比べ物にならないくらい高速化するはずである。しか
し、docomo がイー・モバイルの通信速度に追いついたのは一部の最新機種だけであり、
WILLCOM は言うまでもなく SoftBank、au はまだイー・モバイルの通信速度に追いついてい
ない。よってまだまだイー・モバイルの通信速度は強みになり得る。
「9-1 料金比較」でも述べるが、データ通信料においては WILLCOM が最も安く、イー・モ
バイルが2番手となっている。しかし、WILLCOM は通信料こそ安いがデータ速度は他社に比
べ圧倒的に遅い。高速かつ安価なデータ通信サービスを提供しているのはイー・モバイル
だけである。よって、イー・モバイルの通信料金の安さは大きな強みである。
Weakness
他社の通信エリアがほぼ全国をカバーしているのにもかかわらず、近年サービスを開始
したイー・モバイルの通信エリアは、首都圏や一部の都市に限られ狭くなっている。エリ
アの狭さを補うために docomo の通信エリアでも利用が可能な国内ローミングというサービ
スを行っているが、そのサービスは有料であり、通話、通信料がとても高額になってしま
うため有効に働いてはいない。よって通信エリアの狭さはイー・モバイルの決定的な弱み
であるといえる。
「9-1 料金比較」でも述べるが、通話料金についてはイー・モバイルは月額980円でイ
ー・モバイル間の通話が無料のプランを行っている。しかし、他社に通話する場合の料金
は高く、docomo、au、SoftBank の一部プランの方が他社間で通話する場合は安くなる。イ
ー・モバイル間で通話を多く行わないなら、イー・モバイルの通話にメリットは感じられ
ない。よってイー・モバイルの通話料金は弱みであるといえる。
Opportunity
近年になってスマートフォンに多くの関心が集まるようになった。SoftBank が iPhone
を発売するなど、各社が海外端末の導入に積極的に取り組み、スマート市場は急激に拡大
しているといえる。
その一方で iPhone は多くの関心を集めたものの、操作や機能などに問題点を抱えていた
ため、SoftBank が予想していたほど顧客を獲得することはできなかった。各社は海外端末
を導入しているものの、スマートフォンはまだ日本に完全に浸透おらず、安定的に顧客を
獲得できてはいない。いまだに各社は試行錯誤の段階である。
Threat
現在、各社が多く行っているのが、2年間契約すれば、携帯電話の利用料金、端末価格
を割り引くというプランである。これは顧客にとって魅力的に思えるかもしれないが、契
約してから2年間経たないうちに解約してしまうと高額な解約金を要求されてしまう。つ
まり、顧客はいったんキャリアと契約してしまうと、事実上同じ端末を同じキャリアで携
53
帯電話2年間使い続けなければならないことになる。このプランで囲い込みを行うことよ
り、各社は同じ利用者から長期にわたって安定的な収益を得ることを狙っているのである。
以上にあげた SWOT から分析を行う。
まず、Strength と Opportunity に着目をする。現在イー・モバイルが携帯電話で力を入
れているのはスマートフォンである。スマートフォンは主にデータ通信のために使われる
ことから考えて、Strangth としてあげられるデータ通信料の安さのデータ通信の速さを最
大限に生かすことができる。また、Opprtunity としてスマートフォン市場は成長している
が、他社が参入しきれていないことがあげられている。これにより、スマートフォン市場
にはイー・モバイルが入り込む隙があることがわかる。つまり、イー・モバイルはスマー
トフォンに一層力を入れていけばいいことがわかる。
次に Weakness と Opportunity に着目する。Weakness にあげれているのが通信エリアが狭
いことと通話料金が高いことである。1台目としてイー・モバイルを利用するとしたなら、
通話料金が高く、エリアが狭いということは明らかに不便である。だから、1台目として
イー・モバイルの携帯電話を買う人がいるということは考えにくい。さらに Threat として
あげられているのが各社が二年間契約により囲い込みを行っていることである。現在、ほ
とんどの人が最低一台は携帯電話を所有しているので、2年間も同じキャリアを使われて
しまっては、1台目の携帯電話としてイー・モバイルが入り込む隙はない。つまり、イー・
モバイルが顧客を増やすために携帯電話の 2 台目所有を狙うしかない。
さらに携帯電話の 2 台目所有の顧客をターゲットにしたとき「2 台目をすでに持っている
人」「2 台目をまだ持っていない人」に分けられる。2 年間契約による囲い込みが存在する
という理由から、「2 台目をまだ持っていない人」をターゲットにする。
したがって、イー・モバイルは2台目の携帯電話をまだ持っていない人ターゲットに携
帯電話の 2 台目所有を狙って新規の顧客を獲得をすればいいことがわかる。
8-2.目標
これまで分析したことから
・イー・モバイルは2台目の携帯電話をまだ持っていない人をターゲットに携帯電話の 2
台目所有を狙って新規の顧客を目指すべきである。
・スマートフォンのターゲットとなるのは「学生」と「ビジネスパーソン」である。
・ビジネスパーソンの法人向けはターゲットとして適切ではない
の3点がわかる。
これらの3つのことをふまえて新規顧客を獲得していくことをイー・モバイルの目標と
54
する。
9.問題分析
ここではイー・モバイルがスマートフォンを売り込む際に問題になることについて分析し
たい。
9-1.料金比較
ここではイー・モバイルの料金プランの特徴とその比較、分析考察を行う。携帯の料金
プランは各社さまざまなニーズに応えるべく多様化かつ複雑化しており、料金だけの単純
比較は難しい。各社のプランをすべて紹介するだけで一つの論文が作成できるだろう。
そこでどんな条件ならイー・モバイルは有利なのか、不利について焦点を絞り、おおま
かな分野の料金を比較した後、現状のイー・モバイルの料金プランについて考察を行いた
い。
9-1-1.イー・モバイルの料金面での問題点
a.データ通信料金
イー・モバイルの料金の特徴としては通信料の安さである。
以下の表はイー・モバイルと他キャリアのデータ通信量を比較したものである。携帯のデ
ータの単位はパケットというものであり、1 パケット=128 バイトとされている。半角 1 文
字は 1 バイトで全角文字は 2 バイトに相当する。
図①携帯のデータ通信(二段階定額制)料金のキャリア別表
定額最低
料金
定額最高
料金
PCビュ
ア使用時
料金上限
料金/1パ
ケット
e-mobile※2
1050
docomo
1029
au
1050
Softbank
1029
WILLCOM
1050
4980(115000)
4410(52500)
4410(52500)
4410(52500)
3800(360000)
4980
5985
5985
5985
3800
0.042
0.084
0.084
0.084
0.015
55
そのた(※
1)
315
315
※ 1:メール、ウェブ利用などについての月額基本使用量。
※ 2:長期契約時の場合。通常はそれぞれに+1000円となるが、長期契約者が大半な
ことから金額に加算しなかった。
注
括弧内はその料金時のパケット数を表す。
docomo,au,Softbank の三社のプランに大きな違いは見られない。最低金額が1000円
で上限がおよそ4000円といったところだ。
イー・モバイルは1パケット当りの料金がこの docomo,au,Softbank と比較して半分であ
る。
またイー・モバイルのみにあるサービスとしては、他者に見られるPCサイトを携帯電
話で閲覧する際の定額料金の上限引き上げが発生しないこと、携帯とPCとを接続してイ
ンターネットを行う場合の通信がすべてこの料金プランの範囲内に収まること、などがあ
る。
一方 WILLCOM は1パケット当りの料金、定額上限ともにイー・モバイルより安い。ただ
し、WILLCOM はデータ通信速度がイー・モバイルに比べてかなり遅く、実際には多くのデー
タを必要とする通信では他社に比べて大きく見劣りする。
以上よりデータ通信面での料金の特徴としては
1イー・モバイルは大手三社と比較して全般的に安い(特にPC閲覧時に強い)
2WILLCOM と比較するとイー・モバイルの通信料金は高いが通信速度などは WILLCOM が劣る。
b.通話料金
56
茶:基本的なイー・モバ
イルの通話プラン
赤:月980円の通話オ
プション選択時の他社
との通話のみ
灰:SoftBank ホワイト
プラン他社間通話のみ
オレンジ点線:イー・モ
バイル、SoftBank のホ
ワイトプラン同社間通
話のみ
青:docomo の通話プラ
ン
ピンク:WILLCOM の
基本料と他社への通話
の場合(点線は同社間の
み)
上の図は一ヶ月の通話時間にかかる通話料をグラフに示したものである。縦軸が料金で
横軸が通話時間(分)である。黒の線が通常のイー・モバイルの料金ラインである。これを
見ると全く通話しないとゼロ円で住む代わりに通話を続けると高額になる。注目したいの
が月額980円で追加できるイー・モバイル通しでの24時間無料サービスである(オレン
ジのライン)。この手のサービスは SoftBank のホワイトプラン(一部時間帯に制限あり)の
サービスとよく似ている、又 WILLCOM も月額基本料を支払えば同社間通話が無料(法人向け
は 1900 円)である。イー・モバイルは他社よりも 1000 円は安くこのプランに加入できる。
特に他社間でも通常の半額になる。
このプランを前提として docomo のプランと比較すると、一ヶ月当り80分以上話す場合
は docomo の方が安くなる。しかし、SoftBank、WILLCOM、イー・モバイル三者は定額プラ
ンを採用した場合、同社間通話が増えるほど上のグラフの傾きは小さくなっていく。概算
したところ、イー・モバイル同士の通話が全体の50%を越えれば、docomo のどのプラン
よりも安くなる。なお au については docomo と料金プランが類似していたため割愛した。
以上よりまとめるとイー・モバイルの通話料の特徴は以下のとおりである
1 月額980円でイー・モバイル間での通話が無料だが、他社携帯への通話も安くなる。
2 まったく使わない場合電話の通話基本料は0円となる
57
c.イー・モバイルの通信通話料金から見た優れた点と問題点
携帯各社の料金のマトリックス
データ速度
docom
o
イ
ー・モ
au(w
in)
SoftBan
k
WIL
LCO
データ通信料の安さ
これは単純な通信料金におけるポジショニングである。docomo と au はデータの安さにお
いて SoftBank を上回っているが、SoftBank は他社と比べデータ面で比較するとやや見劣り
する。
各社とも最近データの高速化に力を入れていて docomo の受信速度はとイー・モバイルの
速度に近づいていた。しかし通信料の安さにおいてはまだイー・モバイルが上を行く。
WILLCOM は通信料こそは安いがデータ速度は他社に比べかなり遅い。したがって携帯でイン
ターネットを積極的に利用する層にとってイー・モバイルの料金プランは魅力である。
しかしイー・モバイルの問題点は通話にある。イー・モバイルは SoftBank と同様に月額
980 円で同社間通話無料の通話サービスを発表している。このサービスを最大限活用し、最
も安く通話料抑えることの出来る顧客は、同社間で利用する顧客である。これは例えば、
親しい友人や恋人、同じ会社間での通話に通話時間の比重が大きい顧客である。このプラ
ンを使えば、月額 980 円で他社よりも大幅に通話料を抑えられるだろう。しかし、イー・
モバイルの現状のシェアは SoftBank と比べると少なく、シェアが低すぎ同じキャリアを持
っている人が少ないために顧客に対して魅力がかなり薄れてしまう。そうなると docomo な
どのプランのほうが料金面で魅力的なプランであるということになる。
ヤフーバリューインサイトの調査によると、一般的な携帯電話の使用時間は一日 7.5 分、
月 225 分である。年代別に見ると30代が最も多く一日 10.5 分、月 315 分、20代が 8.1
分、つき 243 分である。もっとも少なかったのが 40 代で一日 5.5 分、月 165 分である。こ
58
のデータからも先ほどの通話料金のグラフを見れば、docomo や au の方が通話料金面では優
れていることがわかる。
いずれにしてもイー・モバイルの現状のプランは問題である。
9-1-2.イー・モバイルの端末を所有した場合の追加負担額
次にイー・モバイルを購入した際に負担する料金を考えてみる。まずイー・モバイルで
最近売り出される touch diamond の機種を購入した際にかかる料金を算定してみる。1台
目の携帯は docomo、au,SoftBank、イー・モバイルの契約は 2 年契約と仮定する。
・初期費用
機器購入料金
:100 円
初期購入手数料 :2835 円
合計
:2935 円
・月額料金
データ通信料
:1,000~4,980 円/月
通話料
:0~
アシスト 1600(割賦):1,600 円/月(24 ヵ月)
EMnet 使用料
:315 円/月
合計
:2915 円~6895 円(データ上限で通話はゼロとする)
オプション
:定額 1000 円/月
次に一般的な携帯料金を算定する。
機種は docomo を想定し、通話時間は日本人の平均の月 200 分の条件とする。そしてその
最も安いと思われる通話プランを選択し、二年契約割引に加入している。パケットは定額
を採用、その他オプションはつけない。docomo の料金の算定は上記の条件を携帯料金診断
サイトに入力して算定したところ・・・
合計は 8925 円(通信料金はこのうち 4410 円)となる。
つまり単純に合算すると
6985 円+8925 円=15910 円
と、なり非常に高額となる。ただ、一台目でウェブを使わなくなる場合、最低料金は、二
段階制定額なら 1000 円ですむため最低…
59
15910-3410=12500 円
にまで抑えることが可能である。1台目でも携帯を使用する場合はあるだろうが、基本
的には最低料金の 1000 円の範囲に納まるであろう。
この場合二台目購入によって追加される負担料金は 12500-8925=3575 円となる。二台
目購入によって一台目の通信料金が抑えられた場合は負担額は多少軽くなっている。
機種本体料金を一括で支払った場合は月額料金はさらに安くなるのだが、分割を利用し
た場合通常 63980 円かかる携帯電話本体の購入料金が一括で支払った場合より約 24000 円
安くなっている。この割引額はかなり大きいため、多くの人は機種料金を月額で分割する
二年契約を利用すると考えられる。
以上より、二台目をした場合、手の届かないといえる金額ではなくなっているが、それ
でも二大合計月額 12500 円はまだ学生が購入しやすい金額ではない。
従って学生においては料金プランの優遇または改定を行う必要があるだろう。
9-2.プロモーションの問題
ここではイー・モバイルが抱えているプロモーションの問題点について分析する。
9-2-1.携帯市場におけるプロモーションの重要性
まず、携帯市場でのブランドイメージ、プロモーションの重要性について述べたい。
現在の携帯市場は既に成熟期にさしかかり、これ以上の拡大は期待できない。限られた
市場を競合他社と争う段階に達している。この場合重要とされてくるのが他社との差別化、
言い換えればマーケティングセグメンテーションである。
現在の携帯電話市場においては docomo、au、Softbank の三社で市場の 9 割を占める寡占
市場となっている。一般に寡占市場はひとつの企業が価格帯を上下させると他社が追随す
る傾向があり、携帯市場も例外ではない。事実、二段階のパケット料金の定額制は一社が
導入すると他社が追随してパケットのサービスに差異が見られなくなっている。また、携
帯電話の料金体系は複雑多岐にわたり、比較することが困難である。
各社の最新端末同士の間では機能にほとんど差がないなど、機能面にも同様のことが言
える。
そのため、現在の携帯電話市場は、複雑な料金体系の中で他社との優位性をどのように
アピールするかということ、あるいは、実際は機能に大差のない端末が多い中でいかに自
社の端末が他社より魅力的であるかをアピールすることに重点を置くようになった。その
ためのプロモーションが非常に重要になってくる。
9-2-2.イー・モバイルのプロモーション
60
現状分析でも述べたように、イー・モバイルのプロモーションの問題点として、イー・
モバイルのプロモーションの方法がターゲットを絞れていないことも挙げられる。現在イ
ー・モバイルのキャラクターはサルであるが、これはイー・モバイルのターゲットとして
いる顧客のイメージと合わない。
小島外弘氏によると、キャラクターを用いて宣伝を行う効果としては、以下の六点が挙
げられる。
1
有名なタレント/キャラクターを”attention getter”として用いることにより、当
該広告に対する注意や関心を高める狙い
2
他の類似する商品ブランドとの差別化の手段としてタレント/キャラクターを使用
する狙い
3 タレント/キャラクターに対する関心を利用して、広告や広告商品に対する関心を高
めようとする狙い。
4 タレント/キャラクターに対する関心を利用して、商品/ブランド/キャラクターを利
用する狙い
5
商品の効果や用途に関する説明に有名タレントの説得力を利用する狙い
6 タレント/キャラクターをシンボルとして用いることにより、ブランドイメージの確
立や強化を図る狙い。
さらに有名タレントを用いる、有名なアニメのキャラクターを用いるなどの既存のキャ
ラクターを用いるか、単純な動物、自社で作り出したキャラクターを用いるかによっても
効果が変わってくる。Rossiter and Percy は情報モデルによる効果の違いを表す基準とし
て「VisCap モデル」を提唱している。これによると広告におけるプレゼンター(タレントな
どの広告媒体)の適切性を判断する基準として下の 4 つの基準を設定している。
プレゼンターの
特質
有名タレ
ント
専門家
キャラクター
キャラクター(オリジ
(有名)
ナル)
1、視認性
◎
△
◎
○
2、信用度
△
◎
―
―
a,専門性
△
◎
―
―
b,客観性
△
◎
―
―
◎
△
◎
○
a.好意度
◎
△
◎
○
b,類似度
○
△
○
○
○
◎
○
△
3、魅力度
4パワー
61
視認性は注目度をあらわす。信用度はそのプレゼンターが顧客に与える説得性であり、
さらに専門知識に対する信用度をあらわす専門性、誠実さをあらわす客観性にわかれてい
る。魅力度はそのプレゼンターが与える魅力の度合いであり、これも好感を与える好意度、
そのプレゼンターが自分の生活とどこまで同じかを表す類似性がある。パワーはそのプレ
ゼンターの持つ権威性をあらわす。
イー・モバイルのケースを考える場合、キャラクターとしてサルを用いて、サルを擬人
化した広告を行っている。これには先のキャラクターによる宣伝効果の条件のうち1、2、
3を狙ったものではないかと考える。通常サルというと「サルでもわかる」などの表現に
用いられるように「簡単」「手軽」といったイメージを持たせやすい。しかし、高性能が特
徴であるスマートフォンを仕事で使える機能を宣伝文句に謳っているイーモバイルの広告
にはミスマッチである。
また、若者向けに狙った雑誌にはサルの絵は載せずにタッチダイヤモンドの高級感をア
ピールした仕様になっている。しかし、若者で二台目携帯を持つだけの経済力を持ってい
る人の割合は多くない。にもかかわらず高級志向を打ち出すことは結果として二台目携帯
の導入可能性の敷居をあげている結果になっている。サルを用いた広告も Viscap モデルの
条件と照らし合わせても本来必要である信用度が高まらないオリジナルのキャラクターを
使用しているので、不適切である。
したがってイー・モバイルの現状のプロモーションは、ターゲットに対する効果的な広
告ではない。
以上のことを改善させるプロモーションを行うことで、認知度をさらに拡大させ、イー・
モバイル独自の機能、サービス、また求められる顧客層への的確なプロモーションを出来
るだろう。
9-3.ニーズの見直しの必要性
9-3-1.学生のニーズに合うモバイルの必要性
イー・モバイルは現在、携帯電話の複数所有を求める顧客によって契約者数を伸ばして
いる。これは市場やシェア、他社の規模さを考慮すると適切な狙いであると判断できる。
しかし、先の顧客分析でも述べたが、学生にスマートフォンの複数所有を求める明確なニ
ーズは存在しないように見える。
したがって、学生の求めているモバイルのニーズを見直し、それに適合したモバイルを
提供し、プロモーションを行わなければならない。
9-3-2.スマートフォンが満たすニーズの再確認
62
2008 年 9 月にネットエイジアが発表したスマートフォンの認知度調査では、スマートフ
ォンの認知率自体は、iphone の登場もあり、約 70%と大きく向上した。しかし内訳をみる
と、名前は知っているが実際にスマートフォンは何をするのかがわからないと応えた人が
50%にのぼる。つまり、確かに「認知」は上昇しているが実質スマートフォンの理解度は
20%でしかいないことになる。つまり多くの人が、全くスマートフォン知らないあるい
は名前のみの情報しか持っていないということになる。
しかし、スマートフォンを知らないということは、本当にスマートフォンのニーズがな
いということと同義ではない。ニーズはあるのだけれど、知られていないから購入に至ら
ない場合があると考えられる。したがってこの端末に満たすことのできるニーズが何なの
かを検討する必要性がある。
スマートフォンに対する理解があるユーザーがスマートフォンを購入していると考える
と、現在のイー・モバイルの顧客は PC やモバイル事情に対するある程度の知識と関心があ
るユーザーであると想定できる。これらのユーザーは PC の代替機としてスマートフォンを
利用している。しかし、PC を普段から使いこなしている彼らがスマートフォンに求める代
替機としてのパフォーマンスというのは一般の人々よりも高い。そこで、スマートフォン
の機能と彼らの要求が一致しているかを考察してみる。
現在のスマートフォンはネットなどの通信環境は改善されているが、処理能力はノート
PC に比べると圧倒的に劣っている。つまり現状の機能では、その代替機としてのニーズは
十分には満たすことができない。高度な要求をする彼らはむしろノート PC やミニノート PC
のほうが魅力的に見えることが多いだろう。
つまり、現在のスマートフォンのスペックではスマートフォンに対する理解があるユー
ザーの要求を十分に満たすことはできない。
63
10.政策提言
ここでは、これまで述べてきたことをふまえて政策提言を行いたい。
10-1.高性能な携帯という概念からの脱却
我々は主にプロモーションの改善を政策として提言したい。
10-1-1.モバイルとしての再定義の必要性
まず、イー・モバイルはこれまでのスマートフォンという概念を改める、つまりスマート
フォンというブランドから脱却することから始めるべきである。
なぜなら、「スマート」「フォン」という概念だけでは、ノート PC、既存の携帯との差別
化が十分に図れていないし、イー・モバイルの携帯の機能のポジションを表していないた
めである。
「スマート」という概念では「高性能な機器」というイメージを伝えるだけである。こ
の言葉から連想されるイメージのみではデスクトップ PC、ノート PC などの高性能処理が可
能な端末と比べると見劣りする。
一方で「フォン」という携帯電話の概念に入れられることで、携帯電話で PC のように使
えるという現状の PC ウェブ付携帯と比較すると明確な優位性は保てない。価格や利便性の
面でも携帯電話のカテゴリの中では競争に勝ち残れない。
「フォン」というには敷居が高く、
「スマート」という言葉で高性能と謳う割にはノート
PC 程の機能は有していない。この二つだけを組み合わせると「携帯にしては手を出しにく
い」「PC の代わりにしては物足りない」というイメージがつくのである。
つまり、これらの言葉を知識のない一般のユーザーが聞いたときに、
「明確なメリットや
使用目的が思い浮かばない、よくわからない端末」としての認識しか持てず、興味を持つ
ことはないのである。先にも述べたように、大半のユーザーが、スマートフォンという言
葉は知っているにもかかわらず意味がわからないということからも、この分析は裏付けら
れる。
そうして、現状ではスマートフォンは一部のモバイルに詳しく関心のあるユーザー、つ
まりビジネスパーソンのみに理解されている。
しかし、一般のユーザーのスマートフォンに対する理解度が低いからといって、高関心
のユーザーのみをターゲットにすることは、そのスマートフォンの機能が最大限に生かさ
れるということと同義ではない。また、高関心のユーザーをターゲットにするだけでは新
規顧客の獲得にも限界がある。
64
そこで、従来のスマートフォンの機能を見直し、イー・モバイルのモバイルとしての再
定義を行うことが必要である、と判断した。そしてイー・モバイル端末のポジションをは
っきりと表現できるようなプロモーション内容を「具体的手法」の項目で説明する。
10-1-2.従来のスマートフォンの機能の再検討とターゲットの拡張
ここでは従来のスマートフォンの機能のメリット再検討し、そのメリットがどのような
顧客に適しているのかを述べたい。
従来のスマートフォンというくくりにおいては、PCの操作も出来る携帯電話、高性能
な携帯電話、まさにスマートなフォンというイメージを持たれていることがほとんどであ
る。ネットエイジアの調査によるとスマートフォンを説明できると答えた人のうち、複数
回答で「小さなパソコンのような携帯電話・PHS」が 55.3%、次に「高機能な携帯電話・PHS」
が 30.4%だった。
先にも述べた通り、このようなイメージのままでは、一般のユーザーがスマートフォン
を利用することは少ない。そこで一端従来のスマートフォンのイメージを捨て、機能面に
おいて何のメリットがあるだろうかと以下で考察した。
今の人々がデスクトップ、又はノートパソコンで利用するということは一言でいって情
報収集がほとんどである。下のグラフは価格.com リサーチが 2008 年 10 月に発表したノー
トPCの利用用途である。このグラフを見てもらうとわかるように、今の主なノートPC
ユーザーでさえ、使うことといったらメールをしたり、人のブログやホームページを訪れ
たり、ある事柄についてネットで調べたり、動画を見たりすることが大半である。あまり
高性能なビジネスツールはそれほど求められていないのである。
65
つまり、汎用性に富んだノートPCを利用しているにもかかわらず、多くの人々にとっ
てのノート PC の利用目的は「インターネットが利用できれば事足りること」ばかりなので
ある。現時点でノートPCで利用できるすべての機能をフルに活かしたいというニーズと
いうものは少ないのである。そのことを考えたとき、イー・モバイルの携帯はノートPC
並みのスペックは確かに無いものの、多くの人がPCで利用するニーズは満たしていて、
ユーザーは安価に利用できるといえる。
次にスマートフォンは PC モバイルとしては片手で持ち歩けるコンパクトなサイズである
ことが強みである。Touch diamond で言えば、10 センチ×5 センチ×1.2 センチでなおかつ
電池装着時でも 100 グラムに満たない軽さである。両手で持つ必要がある他のモバイル PC
に比べ、片手で持っても疲れることもないため、満員電車でも楽に操作が出来るだろう。
この点においては携帯電話の特性が生かされている。
最後にいつでも使うことが出来るということだ。起動やシャットダウンを必要とするノ
ート PC と違いほんのちょっとしたことでも気軽に調べられることが強みである。
以上のことから、スマートフォンの強みは「多くの人が利用するPCの機能を、片手
で持てるコンパクトなサイズで、いつでも利用できること」であるということに結論に達
した。
このことからも、イー・モバイル端末はPCを使いこなせて PC について高度な知識を持
っている人々を満足させるには不十分な端末であることよくわかる。むしろ、PCに詳し
くはないが、手軽に日常生活でネットを楽しみたいというライトなユーザーに対してのほ
うがよりニーズがあると考えられる。
以上、これらのことからわれわれは従来の
PCに詳しいビジネスパーソン
に限られて使用されてきたイー・モバイルの携帯電話を
ライトにネットを楽しみたいPCに低関心の人々
にターゲットを拡張することがこのモバイルには適切であると結論付けた。そしてこのタ
ーゲットとして最もふさわしいのが、ある程度外出をし、ノートPCほどの学生なのであ
る。
今まで支持を受けてきた一部のビジネス層の顧客を維持しながらも学生という新しい層
にターゲットを絞ることでイー・モバイルは更なる市場拡大を図れるのである。
66
10-2.具体的な手法
スマートフォンに対する今の高性能の携帯、ビジネスだけに使えるというブランド認識
を改めることが必要であるとのべた。この考え方を根幹において、主にプロモーションの
変更を考えてみたい。
ここでの要点は
1
理解の低い学生にわかりやすいようにイー・モバイルのモバイル端末の用途を説明す
ること
2 ライトなユーザーはPCを利用するとき、イー・モバイルのモバイル端末の範囲内で納
まる機能しか利用していないことを気づかせる
3
ノートPCは高額なので買えないし、そこまで高性能なPCは必要ないけれど気軽に
ネットを楽しみたいというニーズを呼び起こす
である。いかにすれば既存のイメージを改めることが出来るかを考えると、ネーミングの
変更がまず第一であろう。
「スマートフォン」という言葉は機能面から考えて適切ではないことは先に述べた。現
在のイー・モバイルは「タッチケータイ」というネーミングで広告を行っているが「ケー
タイ」とつけている時点で、これがケータイの一種であり、購入する際には携帯電話を買
い足す、というイメージがついてしまうのである。そうではなく「ケータイ」というイメ
ージ脱却し、PCとして機能を必要最小限に絞ったモバイルというアプローチの仕方をす
るのが適切である。我々が考えたのは、スモール、スピーディー、スマートなPCモバイ
ルという定義づけが正しいものであると考えるが、学生に受け入れやすいように新しいブ
ランド名を立ち上げてもよいであろう。以下4Pを用いて具体的に説明していく。
4P
・product
形状、外観
サイズは片手で持てて、手のひらに収まるほどである touch diamond をベースにする。
また、インターネットを利用する人をターゲットにしているので、PCウェブが見やすい
ように回転式の横長モデルが適当である。
ユーザーインターフェースについてはすべてをタッチパネルによる操作にすると、現状
としては文字入力において不便な点が多いのでボタンを設置したものにする。ただし、学
生向けの機種ではキーボードの縮小版ではなくよりなじみの深い 10 キーを採用する。ビジ
ネスマンにはキーボードなどの使い分けをさせる。
67
また、デザインを学生に受け入れやすいスタイリッシュなデザインで統一させることが
大切である。ipod のようにカラーバリエーションのあるカバーをつけるなどで対応しても
よい。
機能
ウェブ機能に関しては主に学生が特に利用するサイトについては表示方法や操作方法に
工夫を加えるなど使いやすさを追求する。とにかくパソコン触ったことない人でも誘導で
簡単に有名サイトが閲覧できる程度のものにする。
通常の携帯やポータブルオーディオで十分な音楽機能やワンセグ機能、など一台目携帯
で十分なされる機能は搭載せず、その分料金と電池の持続時間を優先する手ごろで実用性
を訴えるものにする。
電話機能はビジネスマンの使い分けのニーズ、電話定額制に対するニーズがあるため、
残しておく。
ワードエクセルの処理が可能でパワーポイントもデータを閲覧して修正を行えるように
する。(現状ではパワーポイントが修正できる携帯電話は存在しない)また、ペンを使って
手書きで書き込んだ図をネットを通じてワードに貼り付ける機能をつけることでタッチパ
ネルの長所を生かし、処理や入力で他のモバイルに劣るデメリットを補う、タッチパネル
の長所を生かすことでメリットを与える。
・price
端末価格
現在の touch diamond と同価格とする。理由としてはほかのスマートフォンと比較して
も安価であることである。さらに、ミニノートPCと比べても比較的安価であるので、端
末価格を変更する必要はない。
通信料金
学生をターゲットとして、新規2年契約の場合に通信料を2ヶ月無料とする。これは学
生に通信を思いっきり使ってもらうことで、ネットの利用頻度を増やし、その後のイー・
モバイル端末の利用恒常化や新たな利用用途開発を狙うためである。また、「2 か月通信料
が 0 円」というように」
「0」という数字を強調して、宣伝することにより、安いというイ
メージを植え付けることが可能となる。さらに金額の上でも通信料は2ヶ月でも 10000 円
弱であり、キャンペーンとして行える額でもある。10000 円万以内で費用対効果がより高い
政策を考えたときにこのキャンペーンを行うことが得策だと考える。
・promotion
WEB
まずホームページを改定する。現状ではすでに更新されなくなったブログなどが放置さ
れている状態で悪印象を与えるので、そのようなものは絶えずチェックして排除し、サイ
68
トデザインをスタイリッシュなものに変更する。また、最新機種のページには映像を使う
など視覚的な工夫を用いることにする。
CM等の広告
次に広告であるが、学生の利用している機能がほとんどすべて網羅していることを気づ
かせる、つまりニーズを喚起することが必須となるので、必要以上に機能はいらない、と
いうコンセプトで広告を行う。現在の抽象的なキャッチコピーも改善したい。そしてイー・
モバイルのモバイル端末がノート PC より手軽に手頃に持ち歩けることをアピールした広告
を展開する。初期段階においては特にその説明に重点を置く。
広告キャラクターはサルをやめ、若手俳優など学生や若者と同じ年齢層のキャラクター
が上記の点を説明した広告を行う。同じような世代のキャラクターを使うことで共感を与
えることができる。
またビジネス雑誌などには、専門家などのより製品に信頼性と説得性を与えることでき
る人物を起用する。具体例としては勝間和代氏が今ビジネス業界で女性など幅広い層から
支持をうけているので適任かと思われる。(勝間和代氏は、イーモバイルのWEBページに
スペシャルインタビューという形で起用されているので実現可能性としては十分にある。)
社会人は携帯ではなく、ネットの情報を最も重要視するデータ(「ニッポン人の暮らしの統
計 2005」より)がある。ネットの情報をいつでもどこでも仕入れられるということがビジ
ネスマンには必要だと説くことでアピールを行う。また今までニーズがあったビジネス用
との使い分けの利用用途は引き続き宣伝していく。
・place
販売チャネルを維持していく。
現状としてイー・モバイルは家電量販店などで他社と同じようなチャネルで販売してい
る。キャリア専門ショップについてはイーモバイルは他社に圧倒的に数が劣る。しかし、
現状として最も重要であるのは先にも述べたようにプロモーションである。したがって、
新たなチャネルを増やすことに力を注ぐことは現段階では重要ではない。
・4Pモデル
69
Product
Promotion
形状・外観
利用ニーズを喚起するプロモーション
スタイリッシュなカラーバリエーションを増
共感を得られるように若い人を広告に起用
やす
する。
ビジネス向けには業界で活躍するビジネス
機能
パーソンや評論家の起用(例)勝間和代
word exile にタッチペンで絵、図の入力。
←説得力がある。ターゲットを確実に絞れ
パワポの修正。
る。具体的な使い方の示唆が可能
パソコンで実際に使うツールは限られている
(ネット、メール、元書編集)ため機能を絞る。
→わざわざ高いノート PC を買う必要はない
代替品としての必要性を提唱
Place
Price
携帯電話の販売チャネルを継続利用
既存と同じ(多機能化をやめ、価格を抑え
る)
2ヶ月間無料キャンペーン
←比較的低目の費用でスマートフォン
のある生活を体感してもらえる(費用対効
果が高い)
11.おわりに
イー・モバイル班では、イー・モバイルがこの先市場で勝ち抜いていくためにどのよう
な手段が必要かを分析してきた。当初は他社の携帯電話を持っている人にどうすればもう
一台イー・モバイルの携帯電話を持ってもらえるのだろうか、ということに注目して進め
てきた。しかし、分析を進めれば進めるほど他者との競合に勝ち残ることに不利な結果が
積み重なり、一時は論文完成そのものが危ぶまれた。
一通り分析が終了し論文の方向性を見失ったとき、本来イー・モバイルの端末が持って
いる機能そのものを見直してみようという考えが生まれた。そして携帯電話という固定観
念にとらわれずに話し合いを進めたとき、この端末を新たな位置づけをすることが有効で
あるという方向性が生まれた。マーケティングに必要なニーズを把握し、それに対応した
政策という形にまとまることが出来た。
ITモバイルの性能は日に日に向上し、数年後にはまた今とまったく異なる市場状況が
生まれていると思われる。その中で今後もイー・モバイルが生き残れていることを願って
70
この論文をしめたいと思う。
71
参考文献一覧
「インターネット白書2008」インプレス R&D
「ケータイ白書2007」インプレス R&D
「ニッポン人の生活時間データ総監
2005」(ハーストーリィ「インターネットの利用状況
について」)
「若者ライフスタイル資料集 2008 年度版」アーカイブズ出版
「ネットユーザー白書2008」ビジネスコンサルティング株式会社
「Mobile2.0 ポスト Web2.0 時代のケータイビジネス宮沢」宮沢弦ほか 東京インプレス
ジャパンコミュニケーション
「ブランド構築と広告戦略」青木幸弘
岸志津仁
田中洋編著
東京日経広告研究所日本
経済新聞社
「ニッポン人の暮らし統計2005」生活者アンケート編
イー・モバイルhttp://emobile.jp/
イーアクセスhttp://www.eaccess.net/
NTTdocomohttp://www.nttdocomo.co.jp/
SoftBank http://mb.softbank.jp/mb/
au http://www.au.kddi.com/
WILLCOM http://www.WILLCOM-inc.com/ja/index.html
WILLCOM HappyCampus http://www.WILLCOM-inc.com/ja/ad/campus/index.html
Impress R&D http://www.impressrd.jp/news/080306/keitai8
CNET JAPAN
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20360231,00.htm
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20339958,00.htm
野村総合研究所
http://www.nri.co.jp/news/2006/061221.html
ITmedia
72
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0408/11/news055.html
株式会社データリソース http://www.dri.co.jp/auto/report/roa/roa0709207.htm
BizMarketing http://surveyreport.livedoor.biz/archives/50627617.html
http://www.dreamnews.jp/?action_press=1&pid=0000000608
http://www.ssk21.co.jp/repo/PDF/sample04K0006.pdf
http://www.ssk21.co.jp/repo/R_R04K0006.html
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0709/13/news117.html
http://research.rakuten.co.jp/report/20070913/
http://ichigaya.keizai.biz/headline/397/
http://mmd.up-date.ne.jp/news/detail.php?news_id=156
http://www.geocities.jp/m0m0n0k1/
http://www.mobile-research.jp/investigation/research_date_080415.html
http://www.keitaifans.com
http://research.goo.ne.jp/database/data/000674/
http://www.e-research.biz/statistics/003883.html
http://www.itmedia.co.jp/survey/articles/0408/02/news002.html
http://www.myvoice.co.jp/biz/surveys/11501/index.html
http://life-cdn.oricon.co.jp/59279/full
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