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第12回 Mindsセミナー
臨床現場における診療ガイドラインの活用と
その法的位置づけ
(平成26年10月18日)
診療ガイドラインの
法的位置づけ
仁邦法律事務所
弁護士/医学博士 桑 原 博 道
裁判例の抽出
【キーワード】ガイドライン
◎判例秘書(裁判例検索システム)
内,医療訴訟において医療に関するガイドラインが
取り上げられたもの:137件
※判決例のみ掲載される(和解例は掲載されない)
※医療側敗訴判決が掲載されやすい傾向
医療訴訟判決の終了数
(件)
ガイドラインが取り上げられた判決の判決時期
◎ 法的過失の判断
医療行為
過失の立証責任は
原 告(患者側)
←当時の医療水準
医療行為
過失
(S57.3.30 最高裁判決)
=ガイドライン?
事例1
【事 案】 Pt:70(M) Hsp:一般病院
H18(2006)
01.13 脳梗塞⇒入院
01.28 38.6℃
01.29 抗生剤A開始
01.30 WBC11900/µl,CRP22.4mg/dl,Bil2.4mg/dl,ALP307IU/l,
Alb2.9g/dl
消化器科医師コンサルト,診察:「胆嚢炎の可能性は低い」
02.01 WBC6400/µl,CRP11.1mg/dl,Bil2.1mg/dl
02.04 CRP6.2mg/dl,Bil1.9mg/dl,Alb2.9g/dl
02.09 WBC9900/µl,CRP1.9mg/dl,Bil1.1mg/dl,ALP408IU/l,
Alb3.0g/dl,GOT41IU/l,GPT62IU/l,γ-GTP155
事例1
02.16 WBC15900/µl,CRP13.8mg/dl,Bil6.7mg/dl,
ALP1689IU/l, Alb2.4g/dl ,γ-GTP206IU/l,BUN28.8mg/dl
腹部X-p,Echo
裁判所「急性胆管炎」
02.17 消化器科医師コンサルト,診察⇒CT,MRCP
【CT所見】
・胆嚢は著明に腫大し,壁肥厚を認める
・総胆管の拡張は指摘できないが,肝内胆管は拡張している
【MRCP所見】
・肝内胆管,上部胆管,胆嚢の拡張を認める
・胆嚢管合流部以下の胆嚢影は不明瞭である 前倒しで実
施すべき?
02.18 消化器科・外科医師:相談⇒抗生剤Bに変更
02.21 ERCP,内視鏡的逆行性ドレナージ
03.02 死 亡
軽症~中等症の急性胆管炎においては,初期治
療に反応するかどうか12~24時間慎重に経過観
察を行い,抗菌薬投与などによる保存的治療が奏
功せず,状態に改善が認められなかった段階で可
及的速やかに胆管ドレナージを行う
「科学的根拠に基づく胆嚢炎・
胆管炎の診療ガイドライン」
02.16 WBC15900/µl,CRP13.8mg/dl,Bil6.7mg/dl,ALP1689,
γ-GTP206
X-p,Echo 裁判所「急性胆管炎」 前倒しで実
02.17 CT,MRCP
施すべき?
02.18 抗生剤Bに変更
02.21 ERCP,内視鏡的逆行性ドレナージ
H21.1.27仙台地裁判決
H21.1.27仙台地裁判決
原則
GL
患者側に
証明責任
過 失
合理的な理由
医療側に
証明責任?
「医療訴訟の実務」(2013.7高橋譲)
H21.1.27仙台地裁判決
02.16 WBC15900/µl,CRP13.8mg/dl,Bil6.7mg/dl,ALP1689,
γ-GTP206
X-p,Echo 裁判所「急性胆管炎」
02.17 CT,MRCP
【被告の主張】
前倒しで実
02.18 抗生剤Bに変更
急性胆管炎と
施すべき
02.21 ERCP,内視鏡的逆行性ドレナージ
いえるか?
330万円の賠償命令
∵)前倒しで治療をしても予後は厳しい
事例2
患者:58歳(男性) 医療機関:大学病院
H8(1996)
05.02 初診 主訴)発熱,咳,痰等
05.09 受診 主訴)発熱,咳,腹痛,下痢等
05.14 救急車で来院
主訴)発熱(39℃),呼吸困難(一睡もできず),尿失禁
バイタル・サイン)血圧100/70,脈拍102,頻呼吸,37.7℃
血液ガス)PO231.5mmHg, SaO277.4%
胸部レントゲン)両中下肺野に気管支透亮像,粒状影
診断)重症呼吸不全
(後日,シェーグレン症候群⇒膠原病性間質性肺炎)
⇒緊急入院,人工呼吸器装着
事例2
05.14 緊急入院,人工呼吸器装着
栄養管理:点滴←下痢,誤嚥のおそれ
05.17 経管栄養開始
褥瘡(仙骨部,発赤) ・・・フローテションパット
※左踵にも褥瘡 ・・・足を持ち上げる
05.19 褥瘡(仙骨部)は水疱に
・・・消毒+被覆剤で覆う
05.22 人工呼吸器設定:自発呼吸可能
05.24 皮膚科医診察
・・・デブリドマン+消毒+軟膏塗布
05.26,29 体位交換時にSpO2低下
06.02 意識状態回復,褥瘡による激痛
事例2
06.24 人工呼吸器離脱⇒酸素吸入
06.28 デブリドマン(退院までに8回)
09.18 退院
【看護プラン】
・体位交換前にSpO2を確認
・ SpO294%~ ⇒実施
・ SpO2~90% ⇒絶対に実施しない
・ SpO291~93% ⇒様子を見ながら試行
【P/F比(基準値450~500mmHg】
・5.14~5.19:100mmHg前後
・5.19~5.30:次第に200mmHg前後まで上昇
1)臥床している時
■体位交換
a.基本は体位交換
体位交換により,一定の骨突起部上の圧を完
全に取り除く。
原則として2時間に1回の体位交換を行なうよ
うにする。
「褥瘡の予防・治療ガイドライン〔H10.10.20〕
(監修:厚生省老人保健福祉局老人保健課)」
H14.7.16横浜地裁判決
【結 論】請求棄却
【理 由】
≪体位交換について≫
①5.14~5.19 ・・・差し控える必要
②5.19~5.30 ・・・注意深く行う必要
⇒機械的に2時間おきの体位交換を行うの
は慎むべき
【看護師の判断】
・SpO2を確認⇒数値に応じて対応
=正しい判断
事例3
【事 案】 Pt:77(M) Hsp:一般病院
H16(2004)
10.13 入院 ∵)肝門部癌疑い⇒ERCP,生検
【ERCP(10.14)】
・原発巣:右肝内胆管
・3管合流部に水平に浸潤
10.19 発熱
10.20 39.5℃,嘔吐 ⇒血液培養・胆汁培養
10.22 【培養検査結果】 多剤耐性緑膿菌
・・・その後,DIC⇒MOF
12.05 死亡
「内視鏡の洗浄消毒に関するガイドライン」
・周辺環境に関する適切な処置(清潔を保つ)
・内視鏡検査の従事者に対する適正な処置(1回ごと
に手袋を交換するなど)
・内視鏡洗浄消毒器のメンテナンス
原告の
主張①
【X総合病院ファイバー洗浄手順】
(記述なし)
①ガス滅菌せず
②滅菌水を使用せず
原告の
主張②
事例3
・周辺環境に関する適切な処置(清潔を保つ)
・内視鏡検査の従事者に対する適正な処置(1回ごと
に手袋を交換するなど)
内視鏡の洗浄消
毒のマニュアル
・内視鏡洗浄消毒器のメンテナンス
=記述がないのは
当然
原告の
主張①
「ガイドライン」で
要求されていると
解釈できない
【X総合病院ファイバー洗浄手順】
(記述なし)
①ガス滅菌せず
②滅菌水を使用せず
原告の
主張②
H24.5.24広島高裁判決
請求を棄却
事例4
≪裁判上の争点≫
統合失調症の治療開始初期は,非定型抗精神病
薬を単独投与すべきか?(H19.6)
・抗精神病薬の選択として単剤が原則
・従来型の抗精神病薬が第一選択となるのは,従来
型抗精神病薬がそれまでの治療で有効で副作用
がなく,患者が服薬を希望する場合
「統合失調症治療ガイドライン 第2版(H20.9)」
H24.12.27東京地裁判決
・激越や攻撃性が強い急性期患者には,従来型を第
一選択とする
「統合失調症治療ガイドライン 第1版(H16.1)」
・治療計画は個々の患者の医学的な所見を総合判
断して主治医が決定するのが原則であり推奨はそ
の参照とすべきものである
「統合失調症治療ガイドライン 第2版(H20.9)」
≪結 論≫過失を否定(他の過失肯定→一部認容)
検討課題
1.ガイドラインと現状のギャップ
2.ガイドラインの併存
3.刑事責任とガイドライン
4.ガイドライン自体の信用性?
事例5
【事 案】 Pt:新生児 Hsp:総合病院
H22(2010)
04.24 初診(母体にリスクなし)
→母親学級のパンフレット:カンガルーケアの記述あり
12.12 出生(37w6d,2825g,Apg8/9)→臍帯切断
温めたバスタオルにくるみ,母体の胸の上に
肌と肌が密着する形で乗せ,母体の寝衣で包む
適宜
・・・全身の色:ピンク,呼吸状態安定,
観察
カンガル
体動あり等
ーケア
モニター
→母体:右側臥位,児:左側臥位→授乳
(-)
母:「こんなに密着しても大丈夫ですか?」
A助産師:「大丈夫ですよ」
事例5
A助産師:リネン庫に布団を取りに行く→布団をもって戻る
→ナースコールの位置を教え,「何かあったら呼んでください」
→夜勤スタッフの引継へ(17:00)
B助産師:引継後,①電子カルテの記録確認,②他妊婦の対応,
③面会者への対応(マニュアル:30分ごとの観察)
17:00過ぎ 動かなくなる
→寝てると思う,手は温かい,頬をつつく(乳首は含んだまま)
17:25 C助産師:分娩後に撮影した写真を持参→観察
乳首から口が外れ,顔色蒼白
医師,助産師を集める→心肺蘇生
→重度の脳障害(窒息)
H25.9.11大阪地裁判決
【請求金額】約2億8000万円
【争 点】
カンガルーケア(早期母児接触)時における
①常時観察義務の有無
②パルスオキシメータ装着義務の有無
③説明義務の有無
根拠と総意に基づくカンガ 出生直後に行う 早期母子接触の
ルーケアガイドライン
「カンガルーケ 留意点
ア」について
新生児医療に従事する医 日本産婦人科 学会(複数),医
師ら
医会
会,助産師会等
「このガイドラインは決して守らな
合同
ければならない規則ではない」
H21.11
H24.1
H24.10
機械を用いたモニタリング 必ず医療側も十 パルスオキシ
AND医療者による観察な 分な観察を行う メータの装着OR
ど安全性を確保(※今後さ
担当者の実施中
付添いを推奨
らなる研究、基準の策定
が必要)
本件(H22.12)
H25.9.11大阪地裁判決
・・・決して守らなければならない規則ではない旨の注
記がされていたこと、平成22年1月に行われた日本
周産期・新生児医学会のシンポジウムにおける報告
によれば、STSの実情は、SpO2の測定はSTSを実
施している施設の8%で行われているにすぎず、約70
%の施設は、スタッフが常時、側にいるとは限らないと
いう状況であるなどというものであったこと・・・
カンガルーケア(早期母児接触)児における
①常時観察義務の有無,②パルスオキシメータ装
着義務の有無,等を否定
検討課題
1.ガイドラインと現状のギャップ
2.ガイドラインの併存
3.刑事責任とガイドライン
4.ガイドライン自体の信用性?
ガイドラインの併存
【感染症】
・日本版敗血症治療ガイドライン
・サンフォード感染症治療ガイド
【乳癌領域】
・科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン
・ザンクトガレン乳癌カンファレンス
・NCCNガイドライン
事例6
Pt:78(F,DM・HBP・HL) Hsp:市立病院
H15(2003)
04.21 初診 cc)労作時胸部不快感 →EKG,X-p
05.08 〔CAG〕♯1:75%狭窄,♯6~7:75~90%狭窄,
♯9: 75%狭窄
05.23 PTCA+ステント留置術(♯6~7)
→冠動脈破裂,心タンポナーデ
05.26 死亡
PCI? CABG? F/W?
H17.7.6大阪地裁判決
◎ACC/AHA・PCIガイドライン
検討課題
1.ガイドラインと現状のギャップ
2.ガイドラインの併存
3.刑事責任とガイドライン
4.ガイドライン自体の信用性?
H25.9.17横浜地裁判決
【事案(麻酔科医)】
乳癌患者の術中,
手術室から離れる
→酸素吸入管が
外れる
→脳障害残存
H25.9.17横浜地裁判決
≪検察側の主張≫
手術室に居て絶え間なく,観察すべき(過失あり)
≪裁判所の判断≫
無 罪
∵)①指針は学会としての望ましい姿勢を示すもの
→検察側の主張は論理が飛躍している
②国内の麻酔担当医が,絶え間なく観察している
とは言えない
刑事事件のほうが,
有責にはなりにくい
検討課題
1.ガイドラインと現状のギャップ
2.ガイドラインの併存
3.刑事責任とガイドライン
4.ガイドライン自体の信用性?
ま と め
1.GL≠医療水準,従わないこと≠「過失」
2.GLどおりに治療を行っている
⇒「過失」とはされにくい
3.GLどおりに治療を行わない場合,
①当該GLの想定外の症例・医療機関
②当該GLと現実とのギャップ
⇒「過失」とはされにくい
4.刑事責任,GLの併存 ⇒余り問題ない
5.GL自体の信用性が問われる時代になる?