扁平上皮化生をともなった下部胆管腺扁平上皮癌の 1例

日消外会誌 20(12)12782∼
2785,1987年
扁平上皮化生を ともなった下部胆管腺扁平上皮癌 の 1例
名古屋投済会病院外科 り, 消 化器科り, 病 理め
湯浅 典 博 中 井 発 雄 大 場 清
松浦 豊
宮 崎 芳機 加 藤 岳 人
1)林
上床 邦 彦
繁 和 江 崎 正則
2)佐
山田 昌 広
竹 立 成3)
奥 村 武 夫
佐 藤 達 郎
小 嶋 洋二
A CASE OF ADENOSQUAMOUS CARCINOMA OF THE LOWER BILE DUCT
WITH SQUAMOUS METAPLASIA IN NON‐
CANCEROUS EPITHERIUM
Norihiro YUASA,Takao NAKAI,Kiyoshi OHBA,
Takeo OKUMURA,Yutaka MATSUURA,Yoshiki MIYAZAKI,
TakehitO KATOH,Tatsuro SATOH,Kunihiko UWATOK01),
Shigekazu HAYASHI,Masanori ESAKI,Yoji KOJIMA,
Masahiro YAMADAa and Tatsunari SATAKE。
Department of Surgeryl),Gastroenterology2)and Pathology3),
Nagoya Ekisaikai Hospital
索引用語 :胆 管癌,胆 管 の腺扁平上皮癌,胆 管 の扁平上皮化生
I . 結 言
一
腺扁平 上 皮癌 は 同 癌病巣 に腺痛 と痛 平上皮癌 が存
もに異常 を認 め な い。腹部 は平担 で肝 を右季肋下 に二
横指触知 し, 右 上腹部 に圧痛 を認 め る。
入院 時検査成績 i末 浦 血 液 で は 自血 球数5,400/
_3,赤 血球数469×104/1111n3,ヘ
モグロビン14。
3g/dl,
ヘマ トクリット43.3%,血 小板数18×104/_3と 異常
在す るもので あ るが,胆 管原発 の腺扁平上皮癌 の報告
は少 な く,そ の組織発生 につ いては諸説 が あ るがなお
不 明 な点が多 い。最近われわれ は,非 癌部胆管上皮 に
を認めなかった。肝機能検査では総 ビリルビン9.4mg/
dl,直 接 ビ リル ビン7.3mg/dl,ア ルカ リフォスファ
ターゼ37.8KA,COT 1861U/′,GPT 3711U/′と閉塞
性黄疸のパ ターンを示 し,空 腹時血糖289mg/dl,尿糖
扁平上皮化生 を ともな った下部胆管 に原発す る腺扁平
上皮 癌 の 1例 を経験 した ので,そ の組織発生 につ き若
子 の考察 を加 えて報告す る.
H.症
例
患者 :68歳 ,男 性.
主訴 :黄 疸.
強陽性と著明な耐糖能の低下を認めた。腫瘍 マーカー
は,CEA 5.8ng/ml,CA 19,954U/mlと 高値を示 し
既往歴 :昭 和 50年 糖 尿病 を指 摘 された。
た (表1).
家族歴 !特記すべ きことなし。
入
現病歴 t昭和60年7月 下旬, 日渇,俗 怠感 があ り,
徐 々に黄疸が出現 したため 8月 12日当院を受診,同 日
入院 となった。
月
入院時現症 :身長 167cm,体 重64kg,栄 養良,脈 拍
66整,血 圧 130/78,皮膚,眼 球強膜 に強 い黄染をみ と
める。表在 リンパ節 に腫脹 な く,胸 部所見では心肺 と
管
で
院後検査経過 :腹部超音波検査 にて肝内,肝 外胆
の拡張を認め,腹 部 computed tomography(CT)
も同様 の所見を認めたため閉塞性黄疸 と診断 し, 8
22日経皮経肝胆管 ドレナージ (PTCD)を 施行 した。
PTCD造
鏡
に
影では下部胆管の閉塞を認めた (図 1).内 視
的逆行性際胆管造影 (ERCP)と PTCD造 影を同時
行 うと,下 部胆管 の閉塞 に くわ え主解管の膵頭部で
の狭 窄 が 明 らか とな った (図 2).PTCDか
ら採取 した
<1987年 7月 8日 受理>別 刷請求先 t湯 浅 典 博
〒454 名 古屋市中川 区松年 町 4-66 名 古屋絞 済会
胆汁細胞診 にて,腺 癌細胞 のほか に扁平上皮癌細胞 ,
病院外科
非腫瘍 性 の扁平上皮細胞 を認 めた (図 3)。PTCD慶
孔
1987年
12月
95(2783)
表1
コンホテスト
ト
,00 %
へ′
`
プラステン
テスト18B
%
APTT
26 1 '
PT
l1 4″(対
照129')
nogen
305唯/dt
F bⅢ
FDP
10-40″glm`
入院時検査成績
TP
TB
D3
dl
FBS
70 g′
9 4 me/dlH b A i
73m3/81 C E A
可T
21 単 位
2「
1 0 。68 単 位
ALP
378 KA
LAP
1401 6RU
1550 1UIゼ
γ6TP
60T
18S IUれ
6PF
371 lU/,
LDH
358 1UIゼ
B Amyase
S6 Urdl
T Cho ester。
214m8111
BUN
19 5 nBI胡
C r e a S n n e 0 9dmlゴ
UA
3 3 m8/dl
AFP
CA19 9
289 ng/dl
17 3 %
5 8 ngl超
下)
(25以
50以 下ng/nt
下
│
(0以
54 Ulnゼ
検尿
曇白
図 3 胆 汁細胞診 !(上 )扁 平上皮癌細胞.(下 )異 型
のない扁平上皮細胞
鼓
一↓
鵬
一一
WSC
5,400 /ma
RBC
469X10.hm3
Hb
14 3 ゴ dl
Ht
43 3 %
P
a t e
e t l m n1 g8 X
(土 )
槍
( ‖)
滑血
ケトン
(=)
(■ )
ノーケン (+)
ウロビリ
ビリルビン ( + )
便溝血
(■ )
図 l PTCD造
影 !肝 内,肝 外胆管 は著明に拡張 し下
部胆管 に閉基 を認め る.
図 4 経 皮経肝胆道鏡検査 (PTCS).A,B:肝 内胆管,
上部肝外胆管 の粘膜 は 自色平滑.C,D:下 部胆管 に
血管 の拡張を伴 う隆起性病変を認 め る.
図 2 ERCP,PTCD造
影同時撮影 !下部胆管 の閉塞
と主麻管の際頭部での狭窄を認める。
D ) . 下 部 胆管 の隆 起性病 変 の生 検 にて腺 癌 と診 断 さ
れ, 手 術 の際切 除断端癌陰性 を確保す るため行 った 肉
眼的 には正 常 とお もわれ る上部胆管 の生検 にて, 異 型
を漸次拡張 し, 9月 13日 (PTCD施 行後22日日)経 皮
上 皮 と扁 平上皮化生 を認 めた 。
経肝胆道鏡検査 (PTCS)を 行 った。肝内胆管,総 肝管
以上 に よ り上部胆管 に扁 平上皮化生 を ともな った下
の粘膜 は 自色平滑 で異常を認めず (図4A,B),総 胆管
下部 に血管 の拡張を伴 う隆起性病変を認めた (図 4C‐
部胆管癌 の診断で1 0 月1 4 日手術 を施行 した。
手術所 見 : 肝 転移, 腹 膜播種 を認 め ず, 腫 瘤 は直径
96(2784)
扁
平上皮化生を ともな った下部胆管腺扁平上皮癌 の 1 例
図 5 切 除標本肉眼所見 とその シ ェーマ
図
日
消外会誌 2 0 巻 1 2 号
7 扁 平上皮癌 の組織像 : 角 化 を ともなっている。
図 8 非 癌部胆管上皮 の痛平上皮化生
M P D : 主 障害 ■ , 腺 用平上度窟
B D i 藤 内胆管 c i 十 二指ほと 内の言胞
腺 癌 の 組 織 像 :癌 細 胞 は PAS陽 性 類 粒 を も
図 9 腺 扁平上皮癌 と痛平上皮化生の分布
約2cmで 超 担 指 頭 大 で膵 頭 部 に 限局 してお り門脈 浸
潤 も認 め なか った,胆 管 を総肝管 で切離 し,膵 頭十 二
指腸切除, リ ンパ節郭清 (R3)を 施 行 し Chnd法 にて
再建 した.
切 除標 本 肉眼所 見 :切 除標 本 の 害」
面 に て,腫 瘍 は
25×20mmで 灰 自色 を呈 し,胆 管 を中心 に漫 潤性 に発
育 してお り際 に も浸潤 を認 めた。十 二 指腸壁 には嚢胞
│■
多多
腺 扁 平 上 茂お
扁 平 上 皮化 生
が 多発 していた (図 5).
病理組織学的所見 :腫 瘍 は 印環型 お よび腺管形成 の
み られ る腺癌 の部 分 と,角 化 を ともな った扁 平 上 皮癌
の部 分 とか らな る腺扁平 上 皮癌 で あ った (図 6, 7).
傾 向 は なか った。 また ,癌 の肝側近傍 胆管上皮 (癌巣
癌 は胆管 に原発 し麻 実質,主 際管 に浸潤 してお り,十
二 指腸壁 の嚢胞性病変 は腺癌 が裏胞状 を呈 した もので
かに非連続 的)に は扁平上皮化生 を呈 した
巣 とは FIBら
浸潤 と考 え られた。腺癌 と扁 平上皮癌 は全 く混在 して
存在 しどち らが優勢 とも言 えず ,そ の 分布 に も一 定 の
との連続性 は不 明)と,上 部胆管 の非癌部胆管上皮 (癌
胆管粘膜 が散在性 に存在 した (図 8).胆 管 の切 除断端
は癌陰性 で, リ ンパ節転移 は12bに 認 め られ 腺癌 の転
移 で あ った ,胆 嚢 には著変 を認 め なか った。
97(2785)
1987年12月
胆道癌取 扱 い規 約 に よれ ば1)pat Bi Ph Dcrc,乳
頭
これ らは悪性胆道疾患 におけ る胆管粘膜 の扁平上皮化
浸潤型,2.5X2.Ocm,s(一 ),hinfo,Ho,ginfo,panc2,
生 の存在 を示 してい る。
d2,VO,Po,n2(十 )(12b転 移陽性),M(一 ),St(一),
は,下 部胆管 の腺扁平 上 皮癌 に癌組織近傍
本症4/Fllで
と癌組織 と離れた肝側胆管粘膜 に扁 平 上皮化生 を認 め
hwO,ewOで あ った。
切除標本 の害J面の組織所見 よ り腺扁平上皮癌 と扁 平
上皮化生 の分布 の再構築 図を図 9に 示す。
術後経過 は 良好 で,術 後 1年 4カ 月 目の現在,再 発
た。こ れ は,胆 管 の腺扁平 上皮癌 の組織発生 において
化生性扁平 上皮 の癌化す る場合 が あ る こ とを示唆す る
もので あ り,そ の意味 において非常 に興 味深 い。
最後 に,術 前 の胆汁細胞診 な らびに PTCSの 生検 に
の兆 はない。
III.考
察
胆管原発 の腺用平 上皮癌 の報告 は少 な く,剖 検例 で
も肝外胆管癌 の1.1%を 占め るのみであ るの.
胆管 に原発す る腺扁平上皮癌 の組織発生 については
従来 いろいろの仮説が提唱 されてお り,① 未分化基底
細胞 出来,② 果所性扁平上皮 由来,③ 腺組織 の化生性
扁平上皮 由来,④ 腺癌 の扁平上皮癌化 の 4つ の説 に大
別 され るが。つ,一 般的には腺癌 の扁平上皮癌化 が臨床
的 に妥当 とす る意見が多い。
そ の理 由 として武藤 ら。は,胆 道 の異所性扁平上皮
の報告 がないこと,良 性胆道疾患 における粘膜 の扁平
上皮化生が きわめてまれ と考 えられ ること,微 小あ る
いは早期 の腺痛平上皮癌症例がない こ と,腺 扁平上皮
組織像 に腺癌 と扁平上皮癌 の移行像 がみ られ
癌症711の
ることを挙げている。
一 方,高 橋 ら511ま
先天性胆道拡張症 に合併 した胆管
の腺扁平上皮癌を報告 しているが, この症例 では拡張
胆管 の内腔 が重層扁平上皮 に置換 されていた とい う.
また武藤611ま
下部胆管 の腺癌 に癌巣 と分離 して胆管粘
膜 の扁平上皮化生を ともなった症例を報告 している。
て胆管癌 と扁平上皮化生 を診断で き,そ れ らが診 断治
療 上有 用 で あ った ことを強調 した い.
IV.結
語
下部 胆管原発 の腺扁平 上 皮癌 で,非 癌部胆管 上皮 に
扁平上皮化生 を伴 った 1例 を報告 した。
文 献
1)日 本胆道外科研究会編 :胆道癌取扱 い規約.第 2
版。東京,金 原出版,1986
2)日 本病理学会編 1日 本病理剖検 輯報 (昭和59年
度)。東京, 日本病理剖検報報刊行会,1986
3)早 淵尚文,加藤允義 :胆嚢,胆管 の扁平上皮癌及 び
症例報告並 びにそ
腺表皮癌 (adenoacanthoma)一
の組織発生 についての考察―。九州厚年病年報
3: 11--16, 1975
4)武 藤良弘,内村正幸,脇 慎 治ほか :胆道の腺扁平
上皮癌症例 の臨床病理学 的検討.癌 の臨 28:
440--444, 1982
下部胆管
5 ) 高 橋 侃 , 河 田憲幸, 村 松友義 ほか 1 中 ・
癌 の 発 育 進 展 形 式 の 検 討. 広 島 医 3 8 : 1 3 6 0
--1364, 1985
6)武 藤良弘 :胆嚢疾患の臨床病理.東京,医学図書 出
版,1985,p28-29