大阪大学 工学部 応用理工学科 機械工学科目 ガイドブック 2010 本ガイドブックの使い方 本ガイドブックは,高校生や大学生の皆様が進路を選ぶ上での参考となる ように大阪大学工学部応用理工学科機械工学科目(大学院は機械工学専攻 と知能・機能創成工学専攻から構成されます)の教育,研究活動について,わ かりやすく紹介したものです.応用理工学科に入学以降の進路を下図に示し ます.教育,研究に対応したページを参照して下さい. 大阪大学工学部 1年次 2年次 大阪大学大学院工学研究科 3年次 4年次 博士前期課程 博士後期課程 応用理工学科 入学試験 オープンキャンパス 機械工学専攻(4部門+協力講座) 応用理工学科 機械工学科目 (120名) 知能・機能創成工学専攻 応用理工学科 マテリアル生産科学科目 (250名) マテリアル生産科学専攻 (130名) 学科目の分属 研究室配属 大学院入試 目 次 1 機械工学科目の教育・研究····································································1-4 2 機械工学専攻·····························································································5-44 3 知能・機能創成工学専攻···································································· 45-54 M1棟 GSEコモンイースト M3棟 M2棟 M4棟 表紙の写真: 機械系の建物群 機械工学科目の教育・研究 1 機械工学科目・専攻の魅力ある教育・研究 • 学部カリキュラムの特徴 – – • コア科目+コア演習による機械工学専門基礎力の習得 豊富な専門科目による深い機械工学専門基礎知識の獲得 大学院カリキュラムの特徴 – – – 基盤科目による高度な基礎力の習得 8つの科目類によるオーダーメードな専門知識の習得 PBL科目によるシンセシス系問題設定・解決能力の実践 機械工学科目のカリキュラムの特徴は、機械工学の中核をなすコア科目群とモノづくりの基礎を学ぶ創成科目群を 二本柱として、専門科目群などがタイミングよく配されていることです。 2年次 3年次 4年次 基礎科目群(数学・情報系) コア科目群 「材料力学」 「機械力学」 「流れ学」 「熱力学」 「動的システムの モデリングと制御」 専門科目群 卒業研究 創成科目群 「機械のしくみ」 「機械創成工学実習Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」 「機械工学実験」 【新たな機械のしくみを創造する】 • 固体力学:機械材料の強度や変形挙動 • 流体力学:気体や液体の流れの現象 • 熱 力 学 :熱とエネルギーの変換 • 機械力学:機械の運動と力の伝達 【機械システムを作って機能させる】 • 制御:機械システムを自在に動かす理論 • 情報:機械を活かす五感と神経 • 設計:ライフサイクルを考慮したシステム設計 • 生産:計画から加工および計測 PBL (Project Based Learning): 総合力の時代を先取りした授業 機械工学科目のユニークな授業として「機械創成工学実習」があります。これは、機械工学の基礎を有機的に 結びつけるための設計・製作・試験からプレゼンテーションを含んだ総合的な実習型授業です。 この成果により、2004年度日本機械学会教育賞を受賞しています。 自力で階段を登るマシンを設計する 与えられた距離に正確にピンポン球を飛ばすためのメカニズムは? 機械創成工学Ⅰの授業風景(階段登りマシン/ピッチングマシンの設計・製作・試験とプレゼンテーション) 2 学部:卒業研究〜大学院への進学 ・4年次の特別研究(卒業研究)は、機械工学専攻か知能・機能創成工学専攻のいずれかの研究グ ループに所属して行います。 ・3分の2以上の学生が大学院へ進学しています。 実践力UP!:学部・大学院教育カリキュラムのシステム化 による「実質化」 キャンパスを飛び出して多彩な活動が展開されています 自主的な課外活動として学生フォーミュラに参戦 阪大・機械が世界をリードする分野の国際会議を開催 3 4 機 械 工 学 専 攻 5 機械工学専攻長メッセージ 久保 司郎 教授 (機械工学専攻) 機械工学は,ジェームスワットの蒸気機関から最近のガスタービン,ロボットに代表されるように, 産業革命以来,その時代時代の人類社会の要請に応え,問題を解決し,人類社会の発展に大きく貢献し てきました.しかし最近では,地球温暖化をはじめとする地球環境問題,エネルギーの枯渇と有効利用 にからむエネルギー問題,人と社会の安全・安心を確保する問題,少子高齢化社会により促進される医 療・福祉の問題が,相互に絡み合いながら,大きな問題として浮上してきています.これらの問題の解 決は,急務となっています.一方で,資源をもたない日本が,世界の中で発展し,その地位を高めてい くには,新技術の開発にささえられた“ものづくり”をさらに推し進めていくことが必要です.私たち の生活様式を変革し,生活をより豊かにするような革新的な設計,製品開発も大きな課題としてあげら れています. これらの現実にある重要課題を正面から解決するには,科学技術の役割は欠かせません.特に機械工 学は,その中核的技術として,これまで重要な役割を演じてきており,今後もその大きな貢献をするこ とが期待されています. 大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻は,上記の社会的重要課題の解決を視野に,力学を中核にす え,周辺の科学と技術を取り込みながら,基礎から応用にまたがる領域の研究を推進してきました.す なわち,固体力学,流体力学,熱力学といった基礎的力学分野に,制御・情報の理論,設計・生産・シス テムなどの技術を含めた教育と研究を行っています. 機械工学専攻では,複合メカニクス部門,マイクロ機械科学部門,知能機械学部門,統合デザイン工 学部門からなる4つの部門の有機的連携に基礎を置いています.機械工学の基礎となる,固体力学,流 体力学,熱力学を進化させ,それらの複合した,いわゆる連成問題としての現象解明を進めています. エネルギーに深く関与する燃焼や流動現象を,ナノ,マイクロの領域で把握するとともに,微小な要素 の特性・機能に出現に関する研究を行っています.また,機械の高度化,知能化に関する研究,さらに は,設計や生産を統合化し,より価値の高い製品を生み出すとともに,地球規模のような高い視点から の設計に関する研究を進めています. これらの成果は,地球温暖化防止・エネルギー有効利用問題につながる各種プラントの高効率化と機 器の安全性確保,次世代の航空宇宙技術,少子高齢化・医療・福祉に貢献する各種ロボット,マイクロ マシン,新製品デザイン,ライフサイクル設計等にもつながっています. 6 Complex Mechanics 複合メカニクス部門 基礎となる力学の深化と複合化から新たな機械システムを創造します. ■固体力学領域 渋谷・垂水研究室 ■ナノ工学領域 中山研究室 ■複合流動工学領域 田中・川口研究室 ■非線形非平衡流体力学領域 矢野研究室 ■複雑流体工学領域 山本研究室 ■熱流動工学領域 片岡・吉田研究室 ■界面移動現象学領域 大川研究室 ■熱工学領域 武石・小宮山研究室 ■レーザ接合機構学分野 片山研究室(接合科学研究所) 注:メールアドレスの@以下は mech.eng.osaka-u.ac.jp を付けてください. 7 複合メカニクス部門 固体力学領域 (渋谷・垂水研究室) ■固体力学現象のマルチスケールモデリング ■コンピュテーショナルテクノロジーによる薄膜創製プ ロセスデザイン ■バルク金属ガラスの内部構造・ガラス転移現象の解析 と高塑性変形能化 ■集束イオン支援デポジションによるナノ構造体の創製 と評価 ■電子線誘起超音波顕微システム(SEAM)によるメゾス ケール非破壊欠陥場評価 ■共鳴超音波スペクトロスコピー法による固体材料の力 学特性評価 教 授 渋谷 陽二 ( sibutani@ ) 准教授 垂水 竜一 ( tarumi@ ) 助 教 松中 大介 ( matsunaka@ ) 教員室・研究室 M1-636,635,634(教員室) M1-633,632,124(研究室) M1-123(実験室) HP http://www-comec.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ 我々が日常的に目にするマクロな材料や構造体と,それを構 ために,第一原理計算に基づいた材料スクリーニングから成長 成するミクロな原子や分子では,その変形や運動を特徴づける プロセスの最適化,および理想強度評価まで,計算科学によっ 時空間のスケールに極めて大きな隔たりがある.当研究室では, て支援された新しい薄膜創製プロセスデザインを行っている. 固体材料の示す力学現象の中でも,特に時空間スケールの拡が 材料評価の観点からは,バルク金属ガラスと呼ばれる原子配 りと,格子欠陥の発展挙動に代表されるような,材料の変形応 置がランダムな構造体の内部構造,ガラス転移機構,および 答がミクロ⇔マクロの双方向に関連する集団化現象に着目し, 弾・塑性変形機構の解析を原子シミュレーションから進めてい これらを階層的に取り扱うマルチスケールの観点から,理論計 る.また,非破壊的な欠陥評価法の開発を目指して,電子線照 算と実験による研究を進めている. 射を利用した超音波顕微システムの開発も進めている.共鳴超 具体的には,ナノスケールでの塑性現象の開始機構を解明す 音波スペクトロスコピー法を用いた研究では,固体材料の音色 るために,ナノインデンテーション法を用いた直接実験と,第 とも言うべき共鳴周波数を精密計測し,その逆解析から全弾性 一原理計算・原子シミュレーション等を用いた理論計算を進め 定数の決定と,その理論解析による基礎物性の評価を進めてい ている.また,構造体の大変形機構やそのサイズ依存性を解明 る. するために,集束イオンビームを用いたナノ構造体の創製と, その機械的特性評価を電子顕微鏡の中で行っている. 一方,従来にない特性や機能を持つ材料や構造体を創製する この他の研究として,機械工学と歯学の融合をめざしたオー ラルエンジニアリングを立ち上げ,噛み合わせに関する力学的 研究を通じて 8020 運動に貢献している. 8 複合メカニクス部門 ナノ工学領域 (中山研究室) 教 授 中山 喜萬 ( nakayama@ ) 教員室 M1-712 研究室 M1-716, U1w-B112 HP http://www-ne.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ ■ナノカーボン材料の合成プロセスに関する研究 ■ナノカーボンや生体高分子を対象としたナノマニピュレ ーション技術・加工技術の研究 ■ナノおよびマイクロ領域における物理・化学・機械現象 の探究 ■新規な機構で動作する電子機械デバイスの探索とその製 造基盤技術の開発 人類はナノ領域の観察やマニピュレーションの手だてを獲得 過電子顕微鏡の中で,サブナノメートル精度で自在に操作でき して, 「原子や分子を設計指針通りに組み上げてサイズ特有の性 るマニピュレータが“手”として組み込まれている.たとえば, 質をもつ構造物を作り上げる」という新しいパラダイムへの挑 一本のカーボンナノチューブを様々な形へと変形させながらそ 戦が可能になった.そこでは,ナノサイズの材料物質の開発と の構造変化をリアルタイムに原子レベルで観察することができ, ナノレベルの加工技術の確立が重要な鍵を握ることになる.し それと同時に,電気特性・力学特性を計測できる.また,切断, かし,体積のきわめて小さいナノ物質では,原子レベルの構造 接合,融合,組み立てなどのナノ加工も行える. 不整や表面構造によって物質全体の特性が大きく変調を受ける. ナノエンジニアリングの成果は,ナノサイズのデバイス構築 また,電子的・力学的特性もサイズによる効果が支配的になる. を可能にするだけでなく,ナノチューブやナノコイルを用いた したがって,そのエンジニアリングもナノの世界独特のものに 高機能性部材,たとえば超高強度繊維や高強度制振素材などの なると予想できる.本研究室では,多様な結合形態を取りうる 開発の基礎を築く. カーボン原子を骨格とするカーボンナノチューブやらせん構造 また,走査型プローブ顕微鏡の中でタンパク質一分子を対称 をもつカーボンナノコイルなどのナノカーボンさらにタンパク としたダイナミクス計測を可能にする,ナノチューブを用いた 質などの生体高分子に着目し,これらナノ材料の「ナノエンジ センサデバイスの開発を行っている. ニアリングの体系化」を研究の中心課題に掲げている. 主力装置は,本学で独自に開発した「スーパーナノファクト リ」で,これを用いてナノワールドを探求している.そこは透 触媒を用いた化学気相法によるカーボンナノチューブおよび カーボンナノコイルの合成プロセスと成長機構解明に関する研 究にも取り組んでいる. 9 複合メカニクス部門 複合流動工学領域 (田中・川口研究室) 教 授 田中 敏嗣 ( tanaka@ ) 准教授 川口 寿裕 ( kawa@ ) (兼)准教授 辻 拓也 ( tak@ ) 教員室・研究室 M1-724,725,726,M3-113 HP http://www-cf.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ ■固体分散相を含む流れの物理機構解明と予測・制御技術 の構築 ■離散粒子法に基づく高濃度粒子流れの数値解析 ■各スケールにおける粒子群の自己組織化・構造化現象の 解明 ■MRI による複雑流れの非接触計測 ■光学計測手法に基づく流れ場計測 固体粒子と流体が強い相互 開発,また,それに基づく現 ノスケール流れまで広範なス 不可欠である.しかし,粒子 作用を及ぼし合いながら流動 象の制御や各種応用に関する ケール領域にわたって存在す 分散相が存在すると,外部か する固体・流体混相流は,様々 研究を行っている. る.本研究グループではこれ らの直接観察ができないため, な工業装置内や自然現象にお このような流れは火砕流に らすべてのスケール領域にお これは容易なことではない. いて広範に現れる重要な現象 代表されるマクロスケール流 ける粒子系の流れを研究対象 本研究グループでは,従来の である. れから,流動層などの各種工 としている. 光学的な計測手法に加えて, 本グループでは,このよう 業装置内で発生するメゾスケ 高精度な数値シミュレーシ 核磁気共鳴画像計測装置 な固体・流体混相流の計測, ール流れ,ナノ構造体を構築 ョンモデルの構築およびその (MRI)を用いた,複雑な流れ場 複雑な振る舞いを予測するた する上で極めて重要なナノ粒 検証を行うには,内部構造も の非接触可視化・計測手法の めのモデル構築と予測手法の 子の自己組織化現象などのナ 含んだ流れの詳細なデータが 開発も行っている. 10 複合メカニクス部門 非線形非平衡流体力学領域(矢野研究室) 教 授 矢野 猛 ( yano@ ) 教員室・研究室 M4-401∼405 HP http://nnfm.mech.eng.osaka-u.ac.jp ■ 波と流れと熱の非線形現象の理論解析と数値シミュレ ーション ■ 連続体の仮定に拠らない非平衡流体力学とその分子論 的基礎づけ ■ 混相流における相間輸送モデルの分子レベルからの構 築 ■ 巨視的な運動量輸送とエネルギー輸送の脂質分子膜透 過過程に対する微視的レベルの数値解析 流体力学とは,空気や水の運動を「流れ」としてとらえて, います.そのように小さい世界では,上で述べた2つの事実が 数理的および実験的研究によってその詳細を明らかにするこ 当てはまらなくなり,新たに「非平衡」というキーワードが重 とを目的とする学問です. 要性を増してきます.また,そのような小さい世界で流体を運 元をたどれば不規則に運動している分子の集合体である空 んだり,流体に仕事をさせたりするためには,「非線形」性を 気や水の運動を「流れ」としてとらえることは,2つの事実に うまく活用することが本質的となります.小さい世界以外で 基づいています.ひとつは,空気や水を構成する分子の数が大 「非平衡」で「非線形」な流体力学がとくに重要となる領域は きくなればなるほど,分子集団の振る舞いを少数個の変数で記 希薄な気体で満たされている宇宙空間でしょう.これまでの宇 述できるようになることです.少数個の変数とは,流体の密度, 宙開発はロケットの打ち上げが主たる作業でしたが,将来は, 流体の速度,流体の圧力などのことです.ふたつめは,私たち 宇宙での居住を目指すものとなるはずです.そのときには機械 が,空気や水を多数の分子の集合体として見るような立場にあ 工学の全分野が中心的役割を担うようになると思いますが, るということです.話は飛びますが,宇宙空間には,水素分子 『非線形非平衡流体力学』の役割もさらに重要となるでしょう. あるいは電離した水素が 1 cm3 あたり数個程度の割合で存在し 『非線形非平衡流体力学』という言葉は造語であって確立さ ます.そのような状況を,私たちが身の丈程度の尺度でながめ れた術語ではありません.そもそも現状では,このような問題 ても,とても「流れ」があるとは認識できません.しかしなが を取り扱う理論体系が確立されていないのです.これを基礎づ ら,1 光年程度の尺度でながめることによって,銀河形成の過 ける新しい理論の創成が本研究室の究極の目標です. 程を流体力学で記述できるようになるのです.銀河形成は機械 研究室における教育に関しては,数学と物理学を中心とする 工学では扱いません.機械工学は,私たち人間が利用するため 基礎力の充実,論理思考力の鍛錬,常に物事の本質を追い求め の技術に関わるものであり,それゆえに,私たちが見たりさわ る姿勢,の3つを柱としています.本研究室で学ぶ学生の皆さ ったりできる程度の大きさで特徴づけられます.そのような大 んには,この3つを自らの基盤として,将来の機械工学を切り きさの尺度では,空気や水を構成する分子の数は 1023 個程度 拓いて行ってもらいたいと願っています. です.このために,私たちは,空気や水の運動を「流れ」とし て認識するように,自然に導かれてきたのです. 近年では,見たりさわったりできない程に小さい技術を利用 したくなったり,一部では既に利用できるようになったりして 本研究室の現在の研究トピックスは,本ページの右上部分に 要約しました.また,それらに関わるいくつかの図を下に掲載 していますが,その内容の詳細は紙数の都合により割愛するこ ととします. 11 複合メカニクス部門 複雑流体工学領域 ■ 複雑流体の流動に関する基礎的研究 ■ 複雑流体の流動誘起構造形成メカニズムの数値解析 ■ 流体内部構造を考慮した複雑流体のミクロ−マクロ 数値流動解析 ■ 界面活性剤水溶液の流動誘起構造とレオロジー特性 ■ サスペンション系の流動解析 ■ ポリマー系ナノコンポジットの流動解析 ■ 複雑流体の数理モデルに関する研究 (山本研究室) 准教授 山本 剛宏 ( take@ ) 教員室・研究室 M1-714,M1-711 HP http://www-rheol.mech.eng.osaka-u.ac.jp/rheol-j.html 当研究室では,複雑流体の 流動メカニズムを研究してい る.複雑流体とは,流体内部 に分子レベルよりも大きなス ケールの内部構造(図1)を 有する流体のことで,水や空 気などのニュートン流体には 見られない特異な流動挙動を 示す.高分子流体,界面活性 剤溶液,サスペンション系(懸 濁液) ,エマルション,液晶な ップリングによる数値解析に 起構造のメカニズムの解明は, 度の成形品に利用されている. より,複雑流体の流動メカニ 新しい機能性流体(機能性材 これらの製品は,複雑流体 ズムと流体内部構造の関係の 料)の創成に貢献することが の内部構造に起因する種々の 解明を目指している.また, 期待される. 我々の研究室では,流動に 機能性を活用したものである. 解析のためのモデリング手法 よる流体内部構造の変化をキ についても研究を行っている. 複雑流体の特異な流動挙動や このような研究の成果は複 ーワードに,様々な複雑流体 レオロジー特性,様々な機能 の流動メカニズムの解明を目 雑流体を原料とする種々の工 性は,流動中の流体内部構造 指した研究を進めている. 業製品の製造プロセスの効率 の変化と密接な関係があるた め,製造プロセスや製品の使 化や製品の品質・機能性の向 用時に現れる複雑な流れ場に 上に役立つ.さらに,流動誘 分子の液晶は,高強度・高精 おける複雑流体の流動メカニ ズムを解明することが大切に 雑流体は,決して珍しいもの なる. ではなく,身の回りの種々の 我々の研究室では,実験お 製品に利用されている(図2) . よび数値解析の両面からのア 例えば,高分子流体を原料と プローチにより,複雑流体の するプラスチック成形品は身 流動メカニズムの解明に取り .具体的に の回りの様々なところで使わ 組んでいる(図3) れているし,食品や化粧品, は,流体の基本物性を調べる レオロジー測定,流れの可視 医用品には,多くの(コロイ 化や流動複屈折測定・光散乱 ド)サスペンションやエマル 測定による分子配向の解析な ションがある.また,界面活 どの実験,有限要素法解析や 性剤は,洗剤としての利用の 有限体積法を用いたマクロ流 ほかに,分散剤,乳化剤とし 動解析,ブラウン動力学法な て幅広い分野で使用されてい どのミクロシミュレーション, る.低分子の液晶はディスプ あるいは,ミクロシミュレー レイに応用されているし,高 ションとマクロ流動解析のカ どが複雑流体の例である.複 LIQUID LIQUIDCRYSTAL CRYSTAL POLYMER POLYMER 身の回りの複雑流体 高分子流体 プラスチック成形品 繊維,フィルム 複合材料 エマルション 食品,化粧品, サスペンション(懸濁液) 塗料,化粧品, 複合材料 液晶,液晶高分子 ディスプレイ, 各種成形品 界面活性剤 洗剤,化粧品,添加剤 図2 身の回りの複雑流体 流体内部構造 特異な 特異な レオロジー特性 レオロジー特性 高分子 高分子の ネットワーク 変形 特異な流動挙動 特異な流動挙動 秩序構造 液晶分子 複雑流体の内部構造 複雑流体の内部構造 流動による内部構造の変化 界面活性剤分子 疎水基 球状粒子 球状ミセル ひも状ミセル 親水基 棒状粒子 ディスク状粒子 SUSPENSION SUSPENSION SURFACTANT SURFACTANT(MICELL) (MICELL) 実 実験 験 図1 複雑流体の内部構造の概略図 数値シミュレーション 数値シミュレーション 図3 研究アプローチの概要 12 複合メカニクス部門 熱流動工学領域 (片岡・吉田研究室) 教 授 片岡 勲 ( kataoka@ ) 准教授 吉田 憲司 ( yoshida@ ) 助 教 松本 忠義 ( t_matumoto@ ) 教員室・研究室 M1-626∼628,M3-124 HP ■ 過渡現象、非定常挙動、相変化 ■ 超高速二相流の可視化とその解析 ■ 環境機器における気液二相流の流動現象 ■ 微小流路内の気液二相流現象 http://www-thd.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ 本研究室では,熱・流体力 学現象に関する実験的研究な らびに解析的研究を幅広く行 っている.熱と流れが関係す る現象は,ヒートポンプ・エ アコンなどの空調環境関連機 器や原子炉・ボイラ・燃料電 池などのエネルギー関連機器 など幅広く応用され,熱と流 れが関係しないものは無いと 言っても過言ではない. また産学連携プロジェクト に積極的に取り組んでおり, 電力,重工,自動車,建設機 械,電機,機械,建設等のメ ーカー各社とも多くの共同研 究・開発を行っている.また, 他研究室とも協力して分野横 断的に新技術や新加工法を導 入し,熱流体力学分野でのブ レイクスルーを目指して研究 を行っている. 近年の研究テーマ 微細加工技術を応用した高性 能伝熱面の開発 ■ 気泡流、スラグ流、環状流、液滴流等の気液二相流 ■ 混相乱流、気泡や液滴の動的挙動、界面現象 ■ ミクロな表面構造上の着霜現象 本研究ではナノならびにミ クロンオーダの超微細加工を 施した伝熱面を作成し,高性 能化・高機能化を目的として 沸騰実験ならびに着霜実験を 行っている.特に最近の研究 では,ヒートポンプシステム の室外熱交換器における着霜 現象に着目し,伝熱性能を低 下させないために霜の着かな い伝熱面,あるいは着霜して も容易に除霜できる伝熱面を 目指して,伝熱面表面への微 細加工技術や表面処理技術を 駆使して研究を行っている. 固体高分子形燃料電池内部の 気液二相流の研究 燃料電池セル内部における 気液二相流動の流動様式なら びに圧力損失特性について, 詳細な研究を行っている.多 数の分岐や曲がりを有する燃 料電池内部の狭隘流路内を流 動する二相流の状況が燃料電 池の性能を大きく左右し,分 岐流量の不均一やそれに起因 する流れのチョーキングの問 題が,その実用化において解 決すべき最重要課題であるこ とから本研究の成果が期待さ れている. 超高速大流量ウォータージェ ットの構造解明 近年,超高速大流量のウォ ータージェットが,地盤改良 や浚渫,また老朽原子炉の解 体などで用いられている.こ のウォータージェットは超高 速で微細な気液界面構造や微 小な液滴発生を伴う気液二相 混相流であり,その流動構造 の詳細は未だ明らかになって いない.本研究ではナノ秒の 瞬間画像を切り取り撮影が可 能な超高速計測システムを開 発し,ジェットの瞬時可視化 ならびに速度分布計測により 未知の構造を明らかにする. また得られた結果を設計レベ ルにフィードバックすること により,噴出ノズル形状や噴 出方法の改良に役立てる. キャビテーション気泡,壁面 極近傍の流れ場のミクロ構造 キャビテーション気泡は直 径数十∼数百μm の微細な気 泡であり流路内やプロペラ周 囲の高速減圧状況下で発生す る.また流れ加速型腐食(FAC, Flow Accelerated Corrosion)は キャビテーション気泡とあわ せてプラント配管減肉の主要 因と考えられており,原子力 プラントの健全性維持の観点 から重要な研究課題であるが, その発生メカニズムや現象に ついて明らかになっていない. 本研究では顕微鏡と高速度カ メラ,また連続発振 Nd:YAG レーザを用いてマイクロ LIF-PIV 法によりキャビテー ション気泡ならびに壁面極近 傍の流れ場のミクロ構造の解 明を行っている. 複合メカニクス部門 500μm 燃料電池内部狭隘流路における気液二相流動 微細人工溝加工面における沸騰現象と着霜現象 キャビテーション気泡発生のミクロ構造 超高速大流量ウォータージェットの巨視的・微視的構造 13 複合メカニクス部門 マイクロ機械科学部門 界面移動現象学領域 (大川研究室) 准教授 大川 富雄 ( t-okawa@ ) 教員室・研究室 M1-625,M3-124 研究室 HP: http://www-ihmt.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ ■ 概要 石油・石炭に代表される化石燃料の枯渇および温室効果ガ ス排出量削減の要請から、環境負荷の小さいエネルギー源が 求められています。本研究室では、高い信頼性を有する次世 代のエネルギーシステムの構築、環境工学・宇宙工学の発展 に資するための基盤技術として、相界面が関係する熱・質量 移動プロセスおよび界面構造の時間発展を支配する物理メカ ニズムの解明に取り組んでいます。また、界面移動現象に関 する知見を応用して、エネルギー機器の高性能化を目的とし た研究も実施しています。 ■ 主要テーマ ・ 機構論的サブクール沸騰モデルの開発 飽和温度未満の低温の液体中に高温の加熱面を配置したと きに生じる沸騰をサブクール沸騰と呼びます。サブクール沸 騰は、高い熱交換性能を有するため、例えば高熱負荷となる 核融合炉での除熱源として有力視されています。本研究では、 高速度カメラを用いてサブクール沸騰を支配する現象素過程 である蒸気泡の挙動を詳細に観察し(図 1)、機構論に立脚し たサブクール沸騰モデルの開発を目指します。また、ナノフ ルイドを用いた高性能除熱技術の開発にもとり組みます。 ・ 限界熱流束予測技術の高度化 火力・原子力発電は、燃料燃焼および核分裂により発生す る熱エネルギーを、「沸騰熱伝達」を介して電気エネルギーに 変換する技術といえます。発電炉で見られる沸騰流では、多 くの場合、加熱面が液膜で覆われています(図 2)。そして、 液膜が消失(ドライアウト)した場合には、熱交換性能の急低 下が生じます。本研究課題では、流量や発熱量が時間的に変 化する過渡的な状態も含めて、液膜ドライアウトの発生を統 一的に予測可能なモデルを開発します。 ・ 液滴衝突プロセスに関する研究 液滴が固体面や液膜と衝突するプロセスは、流体工学およ び熱工学分野における科学的な興味の対象であり、特に液 滴・液膜衝突の後にミルククラウンと呼ばれる王冠状の気液 ■ 気液界面構造の時間発展を支配する物理メカニズムの解 明とエネルギー機器の高性能化 ■ 機構論的サブクール沸騰モデルの開発 ■ 限界熱流束予測技術の高度化 ■ 液滴衝突プロセスに関する研究 ■ ナノフルイドを用いた高性能伝熱面の成立性評価 界面構造が形成されることは広く知られています(図 3)。本 研究では、液滴衝突による高温面の冷却特性を実験的に検討 します。また、液滴・液膜衝突を特徴付ける基本量である二 次液滴生成量を計測し、詳細な数値シミュレーションの結果 も用いて液滴衝突に関わる物理現象の解明を目指します。 ■ 研究の進め方など 気液界面を含む熱流動現象は、一般にきわめて複雑となる ため、よく制御された環境下で、現象をありのままに観察す ることが重要です。さらに、計測困難な物理量の変化を調べ る、実験に基づいて開発したモデルの妥当性を検証するなど の目的意識をもって、数値シミュレーションも行います。ま た、研究成果の発信とプレゼンテーション能力の向上を目的 として、学生による研究発表を積極的に推進しています。 図 2 相変化熱伝達試験ループの試験部と環状液膜 図 1 強制対流サブクール沸騰の可視化 図 3 液滴・流下液膜衝突後の気液界面構造 14 複合メカニクス部門 熱工学領域 ■ 省エネ ルギ ーおよび CO2 排 出抑 制に資 する 次世代 1700℃級・超高効率ガスタービンを実用化するための革新 的翼冷却技術の提案と基礎熱流動現象の解明と制御 (武石・小宮山研究室) 教 授 武石 賢一郎 ( takeishi@ ) 准教授 小宮山 正治 ( komiyama@ ) 助 教 小田 豊 ( oda@ ) 教員室・研究室 M1-721,722,723, M3-122 HP http://www-tran.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ ■航空宇宙分野におけるジェット推進・熱防御に関わる遷 音速∼超音速流域での空力・燃焼現象の解明と制御 ■NOx(窒素酸化物)の排出低減と安定燃焼を可能にする 希薄予混合燃焼技術の開発と基礎現象の解明と制御 当研究室では,人類社会が直 耐熱温度をはるかに超えている の混合方法や,ものが燃えるとい 見られる音速よりも速い流れ(超 面する地球温暖化問題,エネル ため,タービン翼には乱流・伝熱 う現象のメカニズムについても基 音速流)における伝熱・燃焼現象 ギー問題の解決に貢献することを 工学など機械工学の粋を集めた 礎的研究を行っている. 目的として,各種エネルギー・動 冷却技術が使用されている.当 や,それに伴って発生する衝撃 また,航空宇宙分野の研究とし 波がこれらの機器の性能に及ぼ 力機器(例えば,発電所で活躍 研 究 室 で は , さ ら に 高 温 の ては,衛星打ち上げ用ロケット(下 す影響の研究なども関係機関と するガスタービン発電機や航空 1700℃で作動するガスタービンを の写真)や超音速旅客機などに の協力の下で実施している. 用ジェットエンジン,空調機器な 実現するため,最先端のレーザ ど)の高性能化,省エネルギー化, ー計測技術や熱流体シミュレー 環境負荷低減に関わる研究を, ション技術を駆使して,実験と解 主に熱流体工学,燃焼工学的な 析の両面から新たな翼冷却技術 観点から行っている. 例えば,ガスタービンでは天然 の開発に取り組んでいる. このほか,ガスタービンでは燃 ガスを燃焼させて得た『熱エネル 焼で生じる有害な窒素酸化物の ギー』を如何に効率よく発電機を 生成をできるだけ抑える燃焼法の 駆動するための『力学エネルギ 開発が重要であるが,このために ー』に変換するかが高性能・省エ は燃料と空気を燃焼前に十分に LE-7Aエンジン ネルギーを実現するための鍵とな 混合させる必要がある.これは予 (写真提供:JAXA) るが,このためにはできる限り高 混合燃焼と呼ばれ,燃焼器内の 温・高圧の燃焼ガスでタービンと 限られた空間の中で,安全かつ 呼ばれる羽根車(右下写真)を回 安定に進行させることが非常に困 す必要がある.現在,この温度は 難であることが知られており,そ 1500℃にも達していて翼材料の れを実現するための燃料と空気 衝撃風洞内の超音速ノズルの始動過程 に関する非定常数値シミュレーション 国産H-IIAロケットの打ち上げ 翼表面を高温ガスから保護する冷却空気 の流れ解析・実験計測 (膜冷却技術) x/d=2 y/d 2 翼前縁底面の熱流束分布(左:実験,右:解析) 1 y/d -2 翼断面 2 1 00 5 -1 x/d 0 z/d 10 1 2 15 レーザーを利用した火炎構造の光学計測(上図) とその計測結果(下図) タービン翼周りの複雑な流れ(右)と熱流動のシミュレーション(左) タービン翼列 予混合燃焼器内の瞬時燃料濃度分布 タービン翼前縁内部の多孔衝突噴流冷却(左:実験,右:解析) 1500℃級 発電用ガスタービン(提供:三菱重工) 15 複合メカニクス部門 レーザ接合機構学分野 (片山研究室) (接合科学研究所) ■各種材料におけるレーザ溶接性,ハイブリッド溶接性, およびレーザブレージング性の評価 ■レーザ溶接現象,ハイブリッド溶接現象,レーザブレー 教 授 片山 聖二 ( katayama@jwri.) 助 教 川人 洋介 ( kawahito@jwri. ) 教員室・研究室 接合科学研究所,スマプロ1号館 ジング現象および欠陥形成機構の解明と防止法の開発 ■レーザ溶接時のインプロセスモニタリングと適応制御 ■レーザ異材溶接(金属とプラスチックの接合)法の開発 HP http://www.jwri.osaka-u.ac.jp/division/mjm-cbp.htm ■レーザプロトタイピング・補修法の開発 本研究分野は,レーザを高度 レーザブレージング現象,クラ 溶 接 性 の 評 に活用した接合加工法,表面改 ッデイング現象,ハイブリッド 価,インプロ 質加工法,分離・除去加工法な 溶接現象などについて光学的手 セ ス モ ニ タ Laser head Interference filter Notch filter どの材料加工法の開発と各加工 法,X線透視法等により高速度 リング,セン Dichroic mirror 2 機構の解明に関する基礎研究を に観測・計測し,レーザと物質と シ ン グ お よ Dichroic mirror 1 行うことを目的に設立された. の相互作用,溶融溶接現象およ び適応制御, Light source: He-Ne laser 最先端のレーザ材料加工法の び溶接欠陥発生機構の解明と防 レ ー ザ 異 材 反射光センサー [sampling:1μs] ファイバー(レーザ伝送) High speed camera 1 [sampling:111μs] Adaptable control system 150 μs Adaptively controllable High speed camera 2 pulsed YAG laser [sampling:111μs] (λ : 1,064nm) Sample x,y table 開発において,各種加工現象の 止法の開発などの基礎的な研究 接合,レーザ 解明に関する研究を行っている.を行っている.また,連続また ブ レ ー ジ ン 熱放射光センサー λ : 1,300nm sampling:1μs レーザ溶接時のモニタリング・適応制御装置 特に,レーザ溶接・接合現象, はパルスレーザ溶接時における グ,レーザプ ロトタイ CO2 laser High speed camera CCD camera ピング,レ Synchronized unit Laser beam 2nd image intensifier Shielding gas ーザ補修 Welding direction 法の開発 など,高品 100 mm X-ray tube Work table 1st image intensifier High speed camera 8-10 mm X線透視法による溶融池内部の撮影装置(模式図) 質・高機能 SUS 304 レーザ溶接時の X線透視像 16 接合部の作 (PA) 30 mm 70 mm (SUS304) 金属と樹脂のレーザ直接接合 製に関する研究も行っている. Micromechanical Science マイクロ機械科学部門 ミクロなダイナミクスから新たな機能を創出する原理を探求します. ■マイクロマテリアル工学領域 箕島・平方研究室 ■ナノ加工計測学領域 高谷研究室 ■流体物理学領域 梶島研究室 ■マルチスケール輸送現象領域 山口研究室 ■燃焼工学領域 赤松研究室 ■マイクロ熱工学領域 芝原研究室 ■複合化機構学分野 近藤研究室(接合科学研究所) 注:メールアドレスの@以下は mech.eng.osaka-u.ac.jp を付けてください. 17 マイクロ機械科学部門 ■マイクロマシン用微小機械要素の創製と機械特性評価 ■先進電子デバイス用ナノ・マイクロ薄膜およびその界面 の力学・強度特性 ■ナノ変形特性解析による先端機械材料の変形解析と水 素ぜい化感受性評価法の開発 ■高強度鋼の動的環境ぜい化特性に及ぼす水素吸蔵状態 の影響 マイクロマテリアル工学領域(箕島・平方研究室) 教 授 箕島 弘二 ( minoshima@ ) 准教授 平方 寛之 ( hirakata@ ) 助 教 米津 明生 ( yonezu@ ) 技術専門職員 﨑原 雅之 ( sakihara@ ) 教員室・研究室 M1-221,M1-222,M1-223 HP http://www-micro.mech.eng.osaka-u.ac.jp/home.html 電子デバイスやマイクロマ したがって,その体系的な理 シンに象徴されるように,複 解にはナノ・マイクロの視点 雑な構造を持った微小構造物 からのアプローチが必要であ の開発が活発に行われている. る.当研究室では,微視的な これらの構造物は寸法がナノ 観点からの新たな変形と破壊 からマイクロメートルオーダ の力学の構築を目指し,マイ ーの材料(マイクロマテリア クロマテリアルおよびその界 ル)を組み合わせることによ 面の力学挙動についての実験 って構成されている.様々な および解析を行っている.ま 環境下において長期にわたっ た,実際の使用環境を考慮し て壊れない構造物を開発する て,水素の材料に及ぼす影響, には,材料の変形と破壊につ 疲労や腐食環境下における破 いての深い理解が不可欠であ 壊メカニズムの解明とそれら る.特に,材料は原子,転位 の強度特性改善に取り組んで や格子欠陥,析出物,結晶粒 いる. 結晶粒の生成 マイクロ試験片 マイクロマシン用微小機械 要素の力学特性評価 などの特徴的な内部構造を有 しており,力学特性はこれら の内部構造に強く依存する. 構造解析 下部構造を考慮した機械的特性シミュレーション 負荷 マイクロ構造体機械特性評価装置 界面き裂発生 200 nm その場観察実験 水素ぜい化き裂のナノ観察 ナノ・マイクロの視点からの 変形と破壊の力学 水素存在状態の解析と有害水素の同定 ナノ変形実験装置 Applied load P, μN 15 荷重, μN Force mN 0.2 200 0.1 100 5 0 -5 0 0 0 20 40 20 40 Penetration depth nm 変位, nm き裂発生荷重 10 0 4 6 8 10 Time t, s 応力解析 負荷曲線 荷重―変位関係 ナノ変形特性解析 2 ナノ構造体のその場観察界面破壊実験 18 材料中の水素存在状態解析装置 環境ぜい化機構の解明と 余寿命評価手法の確立 マイクロ機械科学部門 ナノ加工計測学領域 (高谷研究室) 教 授 高谷 裕浩 ( takaya@ ) 助 教 林 照剛 ( hayashi@ ) 教員室・研究室 M4-502,504 ■光放射圧プローブ式ナノ CMM(ナノ3次元座標計測装置)の 開発 ■フェムト秒レーザを用いた超時間分解能計測の研究 ■フラーレンを用いた超精密研磨加工システムの開発 ■マイクロ光造形法による微粒子組み立てに関する研究 ■DNA 自律ジョイントを用いた自動組み立てに関する研究 HP http://www-optim.mech.eng.osaka-u.ac.jp/index.html 常に大きな志を抱き,未開拓の 分類される. 領 域 に 果 敢 に 挑 む ” Boys be ナノ計測の分野では,ナノス ambitious”のフロンティア精神が,ケールものづくりの基盤をなす 当研究室の全ての活動の原点と 基準計測技術の開発を目指し, して息づいている.そして,フロン nano-CMM(ナノ3次元座標計 ティア精神の種は,「地域に生き 測機)の開発に関する研究を 世界に伸びる」大阪大学という土 行っている. nano-CMM では, 壌で,常に新たな成長と変化を 測定精度の向上のため,測定力 続けている.当研究室の研究フィ ロ ソ フ ィ は ひ と こ と で 表 現 す れ の低減が課題となるが,我々は, ば,”ものづくりオリエンテッド”の 光放射圧と呼ばれる光から生み 研究である.すなわち,ものづくり 出される力を利用して,空気中に の本質を追究することを最終的 浮かべた微粒子をプローブとし な目的として,異分野との融合や 新分野の開拓・展開を指向し, 基礎現象の深い探求とそれに立 脚した高度な技術の創造を行う ことである.それによって,高い 独創性と柔軟な発想に基づいた 究極の加工計測技術を実現でき るものと考えている.現在,ナノメ ートル領域のものづくりの本質を 加工=計測と捉え,高度な光技 術(シミュレーション解析,光学設 計,オリジナル装置開発)をベー スとした,ものづくりの基本となる 加工および計測に関する新技術 の開拓に向けて,これからの未 来をつくる加工計測技術に関す る研究を進めている. 図 4 フラーーレンを研磨砥粒とし,研磨した時の加工面の初期状 態(左)および研磨後の状態(右)RMS(二乗平均平方根粗さ)が, 16nm から 1nm に大きく改善されていることがわかる. 粒子を利用した加工技術の開 発に取り組んでおり,これまで てその加工メカニズムの解明に 向けて,加工方法の確立と加 工原理の解明,さらに,加工シ て3次元形状を計測する技術の ステムの開発に向けた研究を 開発(図 1)など,次世代のものづ 実施している.(図 4,5) くり計測の確立に向けた精力的 な研究を行っている. また,ナノスケール組み立て 技術に関する研究では,DNA 図 5 水酸化フラーレン C60OH36 の構造推定式 ナノスケールのものづくりでは, の相補的結合を利用した位置 次元組み立てに関する研究では, 加工・計測融合システムが不可 決め技術をもとにマイクロシステ 微粒子を含んだマイクロ3次元樹 欠である.その観点から,計測技 ムの自動組み立て技術に関する 脂部品から,金属などの微粒子 術との親和性の良い新しい原理 研究を行っている他,マイクロ光 からなる3次元構造を形成するた に基づいた光加工技術の開発を 光造形(図 6)を用いた微粒子 3 めの研究を実施している. めざしている.現在,「光放射 圧を利用したマイクロ/ナノマ シニングに関する基礎研究」 (図 2,3)では,加工位置を計 測しながら,ナノオーダの局所 微細加工を実現するためのナ ノ加工システムの開発に向け 本研究室の研究内容はおおき た研究を行っている. くナノ計測,超精密加工,ナノス また,超精密加工の分野では, ケール組み立ての3つの領域に 直径 0.71nm のフラーレンナノ 図1 左上は対物レンズによって集光され たレーザビームによって,空気に浮揚して いる直径 8μm の微小球プローブ.写真は その微小球プローブを用いた nano-CMM で直径 168μm の真球の形状を計測してい る様子 図 6 マイクロ光造形システムと,設計された CAD データおよび 作製された樹脂部品 図 2 レーザトラッピングプローブ を用いたナノ表面加工の加工モデ ル.シリコン表面などを nm の精度で 加工できる.レーザによる光照射や, プローブによる機械的な作用など が,加工因子として考えられる. 19 図 3 レーザトラップによって加工用微粒子プローブ を制御するナノ表面加工システム.図中の青い光は, レーザトラップ光源となる Ar イオンレーザ(波長 488nm).シリコンの表面に,レーザトラップされたプ ローブ微粒子を近づけることによって,nm 精度の加工 が行える. マイクロ機械科学部門 流体物理学領域 (梶島研究室) 教 授 梶島 岳夫 ( kajisima@ ) 助 教 大森 健史 ( t.omori@ ) 技術専門職員 北田 義一 ( kitada@ ) 教員室・研究室 M1-629∼631,M3-121 HP http://www-fluid.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ 現象を乱すことなく,四次 遺伝子の解読が直ちに生命の ■数値シミュレーションによる流れの諸現象の解明 ■乱流の渦構造の解析とモデリング ■流動抵抗や空力騒音の抑制技術への応用 ■非定常キャビテーション流れの解析 ■固体粒子や気泡などを含む乱流現象の解明 ■水棲生物に学ぶ推進機構の開発 ■新しい計算アルゴリズムの研究 当研究室では,乱流を代表 応用を目指しています. そのために,高効率・高精 元(時間と三次元空間)場の 理解を意味しないことと同様, とする流動現象,多相の連成 データを求めることは実験で 流れのあらゆる情報が得られ 問題,騒音や伝熱に関連する は不可能です.支配方程式が ることと流れを理解すること 複合問題を主要な課題として, 方法,現象の解明と数式表現 確立されており,正確な計算 の間には大きな隔たりがあり 流れを in silico(コンピュー (モデリング)に関する研究 が可能であれば,数値シミュ ます.情報を知識に変えるた ターの中)で限りなく in situ を行っています. レーションは実験にまさる研 めには,流体力学と数理が不 (自然のまま)に扱う「数値 究手段となります.しかし, 可欠です. 実験」手法の確立と工学的な キャビテーション流れ解法の確立 と宇宙工学への応用 生物機能(推進,抵抗・騒音低減)の研究 度な数値シミュレーションの 粒子状物質,バイオリアクター,生体流れなどに 共通な,乱流中での粒子群のふるまいの解析 ロケットエンジンポンプ (インデューサー)の流れ 遺伝的アルゴリズムによる遊泳の最適化 猛禽類の翼端形状による消音機構の解明 弾性構造物と高速流れとの干渉 可変形粒子の集団挙動と渦 イタリア,リド島(ベネチア国際映画祭会場)で開催された計算力学に関する 国際会議で発表を終えた4名の大学院生とアドリア海を背景に(2008 年 7 月) 20 マイクロ機械科学部門 ■自由表面を有する液体の衝突,分裂過程を伴う動的現象 のシミュレーション ■分子スケールの流動における固液界面相互作用の影響 の解析 ■ナノ粒子の超高速衝突に関する分子シミュレーション ■多重曲がり管による伝熱・攪拌促進に関する数値解析 ■フラーレン,カーボンナノチューブなど炭素系物質の構 造形成メカニズムの解明 マルチスケール輸送現象領域 (山口研究室) 准教授 山口 康隆 教員室・研究室 ( yamaguchi@ ) 総合研究棟(AR)G2-606,G2-607 HP http://www-gcom.mech.eng.osaka-u.ac.jp 本研究室では,熱流体の運動,力が低下し,表面が「動く」と のダイナミクスが,その 100 このような背景を念頭に置き, 特に相界面,表面張力効果,化 いうことは以前から良く知ら 万倍の大きさを持つ「目に見え SPH 法を中心としたマクロス 学反応,衝突過程を含む動的現 れているが,分子の世界,いわ る」マクロスケールの挙動を支 ケールの計算手法と分子動力 象について,「目に見える」マ ゆるナノスケールから見て,水 配するということはそれ自体, 学法を中心としたナノスケー クロスケール(巨視的)解析に 分子や界面活性剤の分子が実 驚くべきことであるが,実際に ル計算手法を併用したマルチ 加えて,「目では見えない」ナ 際にどのように「向きを変え」 , は産業界においても,半導体製 スケールの輸送現象の解析を ノ・マイクロメートルスケール あるいは「手を結んで」,結果 造,製膜・塗布プロセスなどの 進めている.これに加えて「動 の分子論的解析の両面から計 的に巨視的な値である表面張 更なる高密度化,高精細化に際 きを見る」ことによって理解を 算機シミュレーションを行っ 力が低下することになるかは し,ナノスケールのダイナミク 深めるため,計算結果の可視化, ている. 明確には分かっていない.この スの本質的な理解を踏まえた 提示技術の開発にも力を入れ 例えば水の表面に界面活性剤 ように「目では見えない」ナ マクロスケール現象の制御が ている. を入れると,巨視的には表面張 ノ・マイクロメートルスケール 不可欠となってきている. マクロスケールのダイナミクス マルチスケール 輸送現象 ナノスケールのダイナミクス 液体ナノジェット噴射のシミュレーション 0.3 (ps) 「水しぶき」形成の数値計算 液滴の衝突分離過程 0.7 (ps) ダイヤモンド表面へのナノ微粒子の超高速衝突 21 1.5 (ps) マイクロ機械科学部門 燃焼工学領域 (赤松研究室) 教 授 赤松 史光 ( akamatsu@ ) 助 教 林 潤 ( j.hayashi@ ) 教員室・研究室 M1-421, 422, M3-123 研究室 HP: http://www-combu.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ 近年,開発途上国における 急激な人口増加と経済発展に より,世界的にエネルギー需 要は増加し続けており,また, 地球温暖化等の地球規模の環 境問題が顕在化するなど,今 後はエネルギーの供給と利用 にして,環境問題への配慮が さらに求められる時代となっ ていくことは必至である.し かし,全世界で使用されてい るエネルギーの内,約 90%が 化石燃料の燃焼から生み出さ れているのが現状であり,環 境負荷の低減,省エネルギー の要求に応えるには,クリー ンかつ高効率な燃焼機器に関 する研究開発が急務である. 一方,化石燃料は有限の資源 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 噴霧火炎中の油滴群燃焼挙動に関する研究 燃焼流の光学計測 燃焼流の数値シミュレーション 木質バイオマスの部分燃焼によるガス化 レーザ誘起ブレークダウンによる着火現象の解明 ラジカル自発光による燃焼診断 高圧純酸素燃焼火炎の燃焼特性 金属微粒子の燃焼合成 であり,近い将来,枯渇する ことは避けられず,燃焼機器 の高効率化・クリーン化に関 する研究開発と並行して,現 在の化石燃料依存型の社会か ら脱却するために,化石燃料 代替エネルギーに関する研究 を早急に進めることが必要不 可欠である.本研究室では, レーザ応用計測と詳細数値シ ミュレーションを駆使して燃 焼現象を根本的に解明するこ とにより,自動車用エンジン, ガスタービン等の燃焼機器の 高効率化・クリーン化,次世 代新エネルギーの開発,燃焼 合成に関する基礎研究を行な っている. 可視化窓付き高圧燃焼容器 高圧純酸素火炎 乱流予混合火炎 レーザ応用計測システム 層流対向場に形成される噴霧火炎 火炎中の液体噴霧燃料の可視化 22 マイクロ機械科学部門 マイクロ機械科学部門 マイクロ熱工学領域 (芝原研究室) ■ナノ構造と伝熱工学・燃焼工学の関係の学理の確立 ■ナノ構造やナノ構造間隔が固液界面熱抵抗や熱伝導率 に及ぼす影響の学理の解明と利用 ■燃焼生成ナノ粒子の流動・堆積過程のモデリング ■低圧燃焼場におけるフラーレン・すすの生成機構解明 ■マイクロ触媒燃焼器を用いた小型発電システムの開発 ■量子スケールのエネルギー伝達過程の定式化 准教授 芝原 正彦 ( siba@ ) 教員室・研究室 M1-423,M3-123 研究室 HP: http://www-combu.mech.eng.osaka-u.ac.jp/mpe06999/microt/index.htm が熱伝導率を大幅に低下させることが知られている.本研究 室では,ナノ構造ならびにその間隔と熱伝導率の関係に関し て分子動力学解析とフォノン解析を行って,その最適な構造 について研究を行っている. また,微小触媒球を用いて微小空間での燃焼状態を実現す る触媒燃焼器を開発し,そこから放射される近赤外線を利用 して発電が可能な熱光発電素子と組み合わせることによって, 小型発電システムの開発を行っている. ②巨視的な熱物質移動が超微小構造の生成・流動に与える影 響の評価 燃焼場中で生成される有害微小粒子を低減しつつ,ナノテ ク材料として有用なフラーレン類を生成するために,低圧燃 焼場におけるフラーレン・すすの生成機構の実験的研究を行 っている.また,燃焼場で生成されたナノ粒子がフィルター 表面でどのように流動・堆積を行うかについて,分子動力学 シミュレーションによってモデリングを行っている. また,量子スケールのエネルギー伝達過程の定式化にも取 り組んでいる. 本研究室ではナノ・マイクロメートルでの微小な現象・構 造がどのように積み重なって巨視的な熱流動ができていくの かを実験および解析で研究することによって,そのような微 小な現象や構造を使って巨視的なエネルギー伝達特性をコン トロールするための新しい学理と技術,逆に巨視的な熱流動 を使って微小な現象や構造をコントロールするための新しい 学理と技術を創出することを研究の目的としている. ①超微細構造の相互作用が巨視的な熱物質移動に与える影響 の利用 高効率な固液間のエネルギー伝達システムを開発するため に,ナノ粒子を用いた表面化学処理によって,金属界面にナ ノ・マイクロ多重多孔質構造を形成し,その構造によって, 固液界面の熱抵抗を低減するための技術を研究している.同 時に,界面の微細構造や微細構造間隔がどのようなメカニズ ムで固液界面熱抵抗を低減しているのか,さらに,元来存在 する固液界面熱抵抗を極小とするためにはどのようなことを 考えればよいのかについて研究を行っている. 一方で,材料中のナノメートルスケールの空孔やナノ粒子 界面熱抵抗と微細構造の関係 さらに近づい てみると ナノ多孔質 マイクロ多孔質 C60の凝集体 反応・熱放射と微細構造の関係 ナノ・マイクロ多重多孔質構造 通常銅板上の水滴 ナノ構造面上の水滴 熱抵抗変化の メカニズム C60 超微小構造の相互作用が 巨視的な熱物質移動に 与える影響の利用 小型触媒燃焼器 低圧場でフラーレン(C60)・すすを 生成するトルエン・酸素予混合火炎 微視的にみた 固液界面 熱伝導と微細構造の関係 触媒球 巨視的な熱物質移動が超微小構造の 生成・流動に与える影響の評価 触媒球からの近赤外線放射 さらに近づい てみると フォノン散乱 液体分子 ディーゼル 粒子フィルター ナノ構造 光熱発電セル(TPV) マイクロ触媒燃焼器と近赤外 光を用いた小型発電システム フィルター壁面 固体原子 炭素ナノ粒子 ナノ構造が界面熱抵抗に与える影響の 分子シミュレーション ナノ構造による熱伝導率低減 機構のシミュレーション 炭素ナノ粒子の壁面堆積挙動のモデリング 23 マイクロ機械科学部門 複合化機構学分野 (近藤研究室) (接合科学研究所) ■単分散カーボンナノチューブの真の機能発現に向けた複 合強化材料設計の構築 ■高温濡れ現象解析による分散強化相の最適設計 ■走査型原子間力顕微鏡 SKPFM による界面構造解析とガ ルバニック腐食に及ぼす第2相の仕事関数の影響解析 ■非食部バイオマスの高度再資源化:籾殻由来高純度・非晶 質シリカの生成と3次元多孔質構造の利活用 教 授 近藤 勝義 ([email protected]) 特任研究員 梅田 純子 ([email protected]) 特任研究員 今井 久志 ([email protected]) HP http://www.jwri.osaka-u.ac.jp/index.jsp 資源・エネルギーの有効利用 伴う.他方,化石資源の枯渇を から資源・エネルギーの効率的 的マルチスケール設計による は,省エネとしての直接的効果 考えると,再生可能エネルギー 活用を支援・促進する素形材の 材料の複合化・高機能化に関す の他,地球温暖化防止や環境負 の積極的な利活用の必要性も 実現を目指し,粉体プロセスを る基礎学理の構築と実用化研 荷削減,さらには人体・生命へ 明らかである.そこで,本分野 基調にナノ∼ミクロンの階層 究を遂行する. の負荷軽減などの波及効果を では材料・プロセス設計の観点 マイクロ機械科学部門 マイクロ機械科学部門 図 2(a). 両性イオン界面活性剤を用いた CNT の単分散化プロセ 図 1(a). 静滴法を用いた純チタン(Ti)と純 Mg および Mg 合金 AZ80 (Mg-8%Al)の高温濡れ性解析⇒界面での Ti-Al 化合物生成 による界面反応挙動解析と化合物の生成が及ぼす Ti 粒子分散 Mg 基複合材料の力学特性とガルバニック腐食(電位差腐食)への 走査型 KFM による 複合材料における 界面構造解析と表 面電位測定により分 散第2相を選択 SKPFM 図 2(b). MWCNT 被覆金属粉末を用いた固相焼結複合材の応力- 歪線図:純チタン粉末(a),AZ31B(Mg-3Al-1Zn-0.2Mn)粉末(b)を用 いた CNT 分散複合材⇒CNT 単分散化により引張耐力 30~110%の 図 1(b). SKPFM を用いた純 Ti-純 Mg および純 Ti-Mg-Al 合金 の界面における表面電位変化に関する測定結果⇒電位差⊿V の 低減によるガルバニック腐食の抑制(各種分散化合物の表面電位 と仕事関数に関するデータベースの構築) 図 2(c). Mg-CNT 界面における HR-TEM 観察結果:酸化マグネシウ ム MgO 皮膜(膜厚 2~5nm)による CNT/素地間の応力伝達と MgO の脆性に起因する Mg 基複合材料全体の延性低下 24 Intelligent Machines 知能機械学部門 複雑で動的な環境に適応する知的な機械システムを追究します. ■制御工学領域 池田・浅井研究室 ■人間機械学領域 古荘研究室 ■ハイパーヒューマン工学領域 金子・東森研究室 ■動的システム制御学領域 大須賀研究室 注:メールアドレスの@以下は mech.eng.osaka-u.ac.jp を付けてください. 25 知能機械学部門 知能機械学部門 制御工学領域 (池田・浅井研究室) ■ロバスト制御系・切替制御系の解析・制御系設計 ■大型宇宙構造物の振動抑制制御 ■達成可能な目標値追従性能の解析 ■PWM 型制御入力に基づく安定化制御 ■非ホロノミックシステムの解析と制御 ■微分幾何学に基づく非線形制御理論 ■非線形システム・力学システムにおける離散構造 ■拘束システムの低計算量制御 教 授 准教授 助 教 池田 雅夫 ( ikeda@ ) 浅井 徹 ( tasai@ ) 甲斐 健也 ( kai@ ) Ravi Gondhalekar ( ravi@ ) 教員室・研究室 M1-736, 734, 227, 228 HP http://www-watt.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ ロバスト制御系・切替制御系 ■制御って何? 「制御」とはシステムを自 の解析・制御系設計 在に操ることを言う. 「システ 正確なモデルを得ることが ム制御」,「自動制御」などと 困難な制御対象に対して,高 言われることもある.高校迄 精度な制御を行えるコントロ では全く扱われていない学問 ーラ,切換を積極的に活用し なのであまり馴染みがないか て柔軟な制御を行えるコント もしれないが,制御は様々な ローラをシステマティックに 分野で必要な技術であり,実 設計する手法の開発を目指し 際に様々なところで利用され て研究を行っている. ている. 振動を抑制する制御 あたりまえのことだが,モ 「大型宇宙構造物の太陽電 ノが自然に人間の都合のいい 池パネル」から「電子顕微鏡」 ように動くことはありえない. などの精密機器に至るまで, モノが人間の役に立つような 振動の抑制は機械を正常に機 動作をするならば,それは必 能させるために避けられない ず制御されているはずである. 重要な課題である.そうした 例えば,ロケットや人工衛星 振動を抑制するために,振動 などでは,それらを目標の軌 抑制制御系の設計を行ってい 道にのせるための制御が必要 る.さらに,初めから振動が になるし,飛行機のオートパ 発生しにくいように構造を設 イロットは目標のコースに沿 計する方法もあわせて考えて って飛行するように飛行機を いる. 制御している.他にも,マス コミで頻繁に取り上げられる ロボット,ハードディスクド ライブ,自動改札機,エアコ ン,コピー機,街でよく見る 自動ドアやエスカレータ,エ レベータ,工場の生産機械な ど,これらすべてのものは制 御があってはじめて実生活で 役立つ道具になる. 人工衛星 目標値追従制御のための入力 ■研究内容 設計と達成可能な性能 本研究室では「制御」をキ 高い目標値追従性能を得る ーワードに,様々な研究を行 ためにはフィードフォワード っている.その内容は,基礎 制御を活用することが効果的 理論の研究から,実際に装置 である.そこで,フィードフ を作成して実験を行う応用ま ォワード制御を利用した場合 で,多岐に渡っている.それ に達成できる性能の限界を解 では,その中からいくつかの 析する研究を行っている.ま 具体的な研究テーマについて た,できる限り限界に近い性 紹介する. 能を実現する実用的なフィー ドフォワード制御入力を設計 離散構造を考慮した非線形制 する手法についての研究も行 御理論 っている. 複雑かつ大規模なシステム 現実の制約を陽に考慮した制 を,高精度に制御するにはコ ンピュータが必要不可欠であ 御系設計法 人工衛星のガスジェットス る.そのため,システムの離 ラスタは数種類(ON/OFF) 散構造を考慮することがより の制御入力値しか与えること 良い制御に繋がると考えられ, ができない,一つのセンサー 離散構造に焦点を当てた研究 では計測可能な周波数帯域が を行っている.特に,力学シ 限られている,通信容量の制 ステムの新しい離散化手法で 限によって制御に用いること ある「離散時間力学」を用い のできる情報量が制約される て,コンピュータとの親和性 など,現実の制御対象を制御 の高い非線形制御理論の構築 する際にはアクチュエータ, を行っている. センサーなどに関するさまざ まな制約が存在する.そのよ うな状況を考慮して,より現 実的な制御系を系統的に設計 するための制御系設計理論を 考えている. 非ホロノミックシステム・非 台車型倒立振子 線形システムの制御 車両システム・蛇型ロボッ ト・宇宙ロボット・劣駆動マ 拘束システムの低計算量制御 世の中に有るほとんどのシ ニピュレータなどに代表され る「非ホロノミックシステム」 ステムは,なんらかの拘束を は,非線形システムの中でも 守らなければならない.その 制御するのが難しいことが良 ような拘束システムに対して, く知られており,非常にチャ モデル予測制御法はとても有 レンジングな問題といえる. 効な手法であるが,計算量が このようなシステムに対して, 多くなってしまい,実際に適 モ デ リ ン グ 方 法 ・ 理 論 的 解 用しにくいという欠点がある. 析・制御系設計など,あらゆ そこで,計算量の低いモデル る角度から研究を行っている. 予測制御系の設計について研 そして,より一般的な非線形 究を行っている. システムのふるまいを思い通 りに制御することも,工学に おいてはとても重要な課題で ある.そのために,微分幾何 学・非線形力学などのツール を用いて,非線形制御理論の さらなる発展を目指して研究 航空機 (X-29) を進めている. 26 知能機械学部門 人間機械学領域 (古荘研究室) 教 授 古荘 純次 ( furusho@ ) 助 教 菊池 武士 ( kikuchi@ ) 教員室・研究室 M1-731, M1-732, M1-733・M3-112 HP http://www-dyna.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ 古荘研究室では、医工連携 領域(医学と工学の融合領域) においてロボット技術の応用 を目指し,様々なロボットの 研究開発を行なっている. 右上段の写真は古荘研究室 で開発された上肢(肩,肘, 手首)リハビリロボットであ る.バーチャルリアリティ技 術を用いて,様々な力覚(仮 想空間における力感覚)を提 示することが出来る.右中段 のような様々なソフトを開発 することで楽しくリハビリを 行なうことが出来る.現在, 右下段の写真のように,リハ ビリ中の脳機能計測も行なっ ている. ■研究テーマ リハビリテーションロボティクス,手術支援ロボット メカトロシステムの機構・力学・制御 ■研究内容 上肢リハビリ支援システム インテリジェント義足・下肢装具 多重曲がり針デバイスを用いた手術支援システム 右上段の写真は制御型下肢 装具である.足関節部にコン パクトなブレーキを搭載する ことによって,歩行のタイミ 上肢リハビリロボット ングにあわせて適切にブレー キ力を発揮し,スムーズな歩 行をアシストする.脳卒中片 制御型下肢装具 麻痺等の患者を対象. 右下段の写真は手術支援シ ステムである.先端に多重曲 バーチャルホッケー がり針を装着し,その針先を 制御することによって穿刺 (針を刺す行為)の支援を行 なう.制御・計測・画像処理 等の技術を用いて超音波画像 上の目標に的確に針を穿刺す 脳機能計測 ることが可能である. ★ 文部科学省は,日本の大学院に世界最高水準の研究拠点をつくろうとし て,グローバル COE をスタートさせました.その初年度にあたる平成19年 度に, 【学際・複合・新領域】で,大阪大学臨床医工学融合研究教育センター を核とする「医・工・情報学融合による予測医学基盤創成」が採択されました. ハイパーヒューマン工学領域(金子・東森研究室) ,人間機械学領域(古荘研 究室)は,そのメンバーとして研究を推進しています. 27 手術支援システム 知能機械学部門 ハイパーヒューマン工学領域(金子・東森研究室) ■ハイパーロボティクス:高速ビジョンと高速アクチュエ 教 授 金子 真 ( mk@ ) ■ハイパーセンシング:非接触プローブを利用した生体の 准教授 東森 充 ( higashi@ ) ータを駆使したヒトの能力を超えたロボットの開発 動特性のセンシング及びそのモデリング ■ヒューマンミステリー:ヒトの感覚器の神秘を解明 教員室・研究室 M4-409,408, 407, 406 ■メディカル応用:硬さというキーワードでヒトの病巣診 断,再生医療に迫る HP http://www-hh.mech.eng.osaka-u.ac.jp/home.html 本研究室では,ヒトの能力を 診断,再生医療分野では欠かせ ダ)の非接触硬さセンシング法 診断にまで展開できるようなセ 超越した超高速センシング技術 ない.組織レベル(ミリオーダ) を確立することによって,臓器 ンシング技術の枠組みを構築し と超高速アクチュエータ技術を から細胞レベル(ミクロンオー レベルの診断から細胞レベルの ていきたい. ベースに,ヒトには到底できな い作業が実行できるハイパーロ ボティクス,ヒトの動体視力が ネックになって肉眼で観察でき ない現象にスポットを当てたハ イパーセンシング,ヒトの感覚 器に潜むなぞを解き明かすヒュ ーマンミステリー,ハイパーヒ ューマンプローブを用いたメデ ィカル応用に関する研究を行っ ている.特に,硬さ情報は医療 28 知能機械学部門 動的システム制御学領域(大須賀研究室) ■非線形力学の基礎と制御 ■ダイナミクスの特性を活かした制御 ■受動的動歩行 教 授 大須賀 公一 ( osuka@ ) 助 教 杉本 靖博 ■知的機械システムの設計論 ( yas@ ) ■フィールドロボティクス 招聘助教 木山 健 ( kiyama@ ) ■レスキューロボットシステム 教員室・研究室 M4-105 HP http://www-dsc.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ ■研究の柱 ■受動的動歩行の研究 受動的動歩行とは,アクチュ エータ等の駆動機構を持たな ムの制御」に対する科学的観 い歩行機械が,適切な 初期条 点からの研究で,もう一本は 件を与えられると,重力場を利 実学的観点からの研究であ 用して緩やかな坂道を歩き下 る.そして,最終的にはそれ るという現象のことをいう. らの両極端をおさえた上で 1990 年に T. McGeer が実験 「中庸」を狙っていく. 的に実現可能性を示したのが 科学的観点からの研究では, 学術的には最初だが,その後多 例えば,動的システムの非線形 くの研究がなされ,「引き込み 力学的特性を活かした制御の 現象」や「分岐現象」といった 本質を理解することを徹底的 非常に興味深い現象を示すこ に目指している.最近では,生 とが知られている. 物制御と人工物制御との類似 本研究室では,受動的動歩行 点と相違点に注目し,特に生物 が示す興味深い現象に着目し, 制御独特の興味深い考え方 IFS 科学的側面(力学的現象として (Impricit Feedback Structure)を のおもしろさ),工学的側面(よ 提案し注目を集めている. りなめらかでよりエネルギー 一方,実学的観点からの研究 的に効率の良い歩行ロボット の例としては,機械システムに 実現に向けた応用)の両面から とっては最悪劣悪の環境であ 研究が行われている. る災害現場で活躍できるシス 最近では,その運動の理論的 テム(レスキューロボットシス テム)の構築が挙げられる. このような両極端な研究を 端点とし,その間のさまざまな レベルの研究が行われている. 実際問題に対する適切な解は その部分にあると考えており. それがすなわち「中庸」となる. その際の研究分野的基軸にな るのは,ダイナミクス,制御理 論,メカニズムであり,これら 3領域の色々な組み合わせに よって,その研究テーマは広い 領域へと展開している. なお,本研究室の精神的基軸 は「おもしろくてカッコいい! を目指せ」である. 本研究室の研究の柱は二 本あり,一本は「動的システ 解析の研究に特に力を入れら れ,前述の IFS のような興味深 い構造を持つことを明らかに している一方で,数値シミュレ ーションだけではなく,受動的 動歩行ロボット「Quartet シリ ーズ」を実際に作成し,様々な 現象を実機にて確認すること も行われている. ■レスキューロボットシス テムの研究 災害現場で行うべきレス キュー活動には「探索」「掘 削」 「搬送」の3種類があり. 本研究室ではこれら3つに ついての研究が行われてい る. (a)探索:MOIRA シリーズ 特に倒壊家屋内に取り残さ れた要救助者の位置を同定 するためのロボットシステ ムの開発が行われている.こ れらには「二重クローラ方 29 式」と呼ばれる推進機構や, ケーブルの外側に外骨格方 式の多関節チューブを被せ ることでケーブル自体を形 状 セ ン サ ー 化 さ せ た FST(Flexible Sensor Tube) といった本研究室独自の機 構が採用されている. (b)掘削:Robotic Follower シ リーズ 要救助者を瓦礫内 から掘り出すロボットとし て,(i)セルフロック機構付掘 削用マニピュレータ,(ii)パワ ーアシスト型掘削用マニピ ュレータが提案されている. (c)搬送:DUCKS シリーズ 要救助者をロボットが自分 で自分の体の中に収容して 安全な場所に運ぶことがで きるロボットの開発が行わ れている.特に,小型の移動 ロボットを複数合体させる ことで,小型軽量化が図られ ている. Design and Integration 統合デザイン工学部門 設計や生産におけるさまざまなプロセスと統合化の方法論を構築します. ■設計工学領域 藤田研究室 ■生産加工システム工学領域 竹内・石田研究室 ■評価デザイン領域 久保研究室 ■ライフサイクル工学領域 梅田研究室 ■加工機構学領域 藤原研究室 ■構造安全評価学領域 阪上研究室 ■精密加工学領域 榎本研究室 注:メールアドレスの@以下は mech.eng.osaka-u.ac.jp を付けてください. 30 統合デザイン工学部門 設計工学領域 ■ 設計のための理論と体系的な方法論の構築 ■ プロダクトアーキテクチャデザインのためのモデリン グと設計支援手法 ■ 製品開発プロセスのモデリングと計画評価法 ■ 製品開発のためのナレッジマネージメント手法 ■ 大規模で複雑な製品のための階層的な設計最適化法 ■ 製品ファミリーにおける共通化・共有化・モジュール化 のための最適設計法 (藤田研究室) 教 授 藤田 喜久雄 ( fujita@ ) 助 教 野間口 大 ( noma@ ) 教員室・研究室 M1-727∼730,125,115 HP http://syd.mech.eng.osaka-u.ac.jp/index-jp.html 本研究室では,優れたデザインを創出することを目指して,製品(プロダクト)の設計や開発を価値・コスト・時間などにつ いての様々な要因を総合的かつ系統的に考えつつ合理的に進めていくための理論や方法論,コンピュータ援用技術に関する教 育と研究を行っています. 研究展開 の局面 事 例 方法・ツール 理 論 設計の プロセス 実 践 企 画 設計工学の展開方法 処 理 ・ 能 知 法 計 画 技 解 析 ン グ 術 理 数 価 ・ 学 テ グ ス リ 評 ・ 出 ズ ン 対 の ウ ・ へ ・ 性 創 化 能 モ デ 向 機 の 値 シ 方 高 価 ダ ト ー ニ ス ・ ・ ・ ・ 応 ・ ・ 基盤として用いる手法 ・ 化 な コ プ ロ 能 性 い ミ ン ・・・ : 様 ラ 詳細設計 多 グ 配置設計 し 新 ム 工 人 工 知 認 ・ 経 済 学 科 学 情 報 ・ ・ 知 識 営 学 機能設計 高 経 概念設計 ・設計方法論 ・設計支援システム ・製品企画/製品開発 ・ナレッジマネージメント ・最適設計 ・評価方法 ・発想支援 : 具体的には,設計対象のモデリングや課題設定・課題解決プロセスについての考察を基盤として,知識情報処理などの人工知 能技術や数理計画法などのシステム工学の見地から,各種の高度な設計支援シ 共通化・カスタマイゼーション・ラインナップ 調整を総合的に考えた製品系列の設計法 ステムや設計自動化システムを構築する一方,社会や経済との関連のもとでの 製品の価値や多様性を向上させるための設計方法論について研究しています. 知識管理型概念設計支援手法 アーキテク チャの設計 共通化部分 の先行設計 階層型最適配置設計法 自動的に生成された 試行錯誤のプロセス 受注の応じた カスタマイゼーション 採用された案 密度 破棄された案 携帯電話の顧客ニーズに関して 議論された2つの案 到達度と協調構造に着目した 設計プロセスの計画評価 製品系列のための共通部品群の最適設計 エアコン室内機 31 熱交換器 遺伝的アルゴリズムによる 最適化計算の履歴 性能の最悪値を最適化する 統合デザイン工学部門 生産加工システム工学領域(竹内・石田研究室) 教 授 竹内 芳美 ( takeuchi@ ) 准教授 石田 徹 ( ishidat@ ) 助 教 中本 圭一 ( nakamoto@ ) 教員室・研究室 M4-509,506,507,104 HP http://www-cape.mech.eng.osaka-u.ac.jp/index-jp.html 研究室の特徴 現代人の生活には人工物が もはや不可欠である.現在,人 工物の設計は,3次元CAD (Computer Aided Design)シ ステムを利用して,コンピュー タ内に構築された言わば仮想 の3次元空間で行われること が主流になってきている.しか し,設計したモノを実際に利用 できるようにするためには,そ のモノを現実の3次元空間で 具体的なカタチにしなければ ならない.本研究室では,この バーチャルワールド ような「 仮 想 世界にあるモノ リ ア ル ワールド を現実世界で具現化する技術」 について研究開発することを 目的としている. 研究開発の中心は,3次元C ADの情報をもとに工作機械 を賢くかつ効率的に動かすた めのCAM(Computer Aided Manufacturing)システムの開 発である.したがって,ソフト ウエアとハードウエアのどち ■超精密マイクロ切削加工 応用分野:マイクロマシン,マイクロバイオデバイス,微 小微細光学部品などの創成 ■多軸制御切削加工 応用分野:インペラやタービンブレードなどの複雑形状を 有する部品の高精度高能率加工 ■複雑穴形状放電加工 応用分野:油空圧機器などの複雑管路の形成 らにも携わりたいと考える意 めが可能な多軸(5軸/6軸) タやパラレルメカニズム型マ 欲的な諸君,あるいは,理論や 制御超精密切削加工機を自由 シニングセンタなどを利用し 頭脳だけでなく手や体を動か 自在に活用するためのCAM て,3次元CADで定義された し,実際にモノをカタチにする システムを開発し,切削による 複雑形状を効率よく精密に加 ことすなわち作ることに感動 微小複雑形状の高品位加工を 工するためのCAMシステム を覚える諸君の興味を刺激す 実現している.加工例として, を独自に開発し,研究を行って 5軸制御加工による微小弥勒 いる.例えば,ターボチャージ る研究に従事している. 研究室の方針は「よく学び, 菩薩や6軸制御加工による高 ャに組み込まれるインペラな どの複雑形状部品の加工を例 よく遊べ」であり,具体的には, 自由度微細溝などがある. これらの技術は,バイオデバ 題として,提案した手法の評価 卒論では基礎を習得し,修士で は我が国だけでなく世界の先 イスの形成,マイクロマシンを と機能拡張を行っている. 端に立ち,博士では世界をリー 構成するマイクロ機能部品や ③複雑穴形状放電加工分野 最も一般的な穴加工法であ ドできる研究者・技術者を育て 次世代光学部品の創成などに 展開している. ることが目標である. るドリル加工では,直線状で断 研究内容(最近の研究成果) ②多軸制御切削加工分野 面が円形の穴が加工されるが, 日本の工作機械技術は世界 もっと複雑な穴形状の形成が ①超精密マイクロ切削加工分野 最近の傾向として,人工物も 最先端の水準にあり,さらに高 多方面で求められている. 小型化が要求されている.そこ 性能化,高機能化されつつある. そこで,放電加工を用いた曲 で,超精密工作機械を用いたマ しかし,このような工作機械を がり穴や断面変化穴の加工法 イクロ切削加工技術を適応し 使いこなすための汎用的で実 を開発してきた.曲がり穴/断 て,微小で微細かつ超高精度の 用可能なCAMシステムは開 面変化穴加工装置の考案,設計, 加工技術について研究開発を 発されていない. 製作を行い,実験により有効性 行っている. そこで,多くの制御軸数をも の検証を行っている.加工例と 具体的には,並進軸 1.0nm, ち,工具の位置と姿勢を制御で して,U字形曲がり穴や半円形 回転軸 0.00001°単位で位置決 きる5軸制御マシニングセン 断面変化穴などがある. 32 統合デザイン工学部門 評価デザイン領域 (久保研究室) 教 授 久保司郎 ( kubo@ ) 助 教 辻 昌宏 ( mtsuji@ ) 助 教 井岡 誠司 ( ioka@ ) 教員室・研究室 M1-224,M1-226, M1-112, M1-114 HP http://www-saos.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ ■破壊力学とナノ・メゾ解析・計測に基づいた材料・構造 物の強度評価 ■逆問題解析を用いた情報シンセシス手法による境界値 ・物性値・支配方程式の同定,および計測・評価・診 断の高精度化 ■特異応力場に着目した異種接合材・複合材の安全性評価 と最適化 ■マルチフィジックス逆問題の解析と設計 現代社会は多くの機械・構 造物によって支えられていま す.その中で,発電プラント や工場など大型構造物は社会 的役割が大きいのですが,当 初の設計寿命を過ぎてもその まま使用され続けているもの が少なくありません.このよ うな機械・構造物を安全に使 用していくためには,構造物 に生じた欠陥を精度よく検出 すること,検出された欠陥か らその構造物の余寿命を精度 よく評価する必要があり,モ ニタリングの重要性が高くな っています. 本研究室では,「大切な人 命・財産を破壊事故から守る」 をキーワードに,(1)き裂の力 学,進展挙動,新材料の力学 に関する研究,(2)破壊の原因と なる構造物中の欠陥・損傷検出 方法の開発,および(1)(2)に必 要な逆問題解析手法の研究な ど,機械・構造物の健全性維 持・安全性確保に関する研究を 行っています. 用した損傷状態等の推定,欠陥 を接合すると,それぞれの材料 造物の強度評価 検出に関する研究を行い,直接 定数の違いから,接合界面の端 構造物を長期にわたり安全 見ることのできない構造物中 では理論上応力が無限大とな に使用することを保障するた の欠陥,直接測定できない材料 る,応力特異性と呼ばれる現象 めには,き裂や欠陥が存在して 定数分布,接触圧力分布を逆問 が生じ,接合材の破壊の大きな も,疲労き裂が進展しない,い 題解析手法を用いた測定・診断 原因となります.本研究室では,わゆる下限界が重要となりま するシステムの開発と高精度 この自由縁応力特異性に着目 す.また,高温環境下では,室 化について研究を行っていま して,異種接合材料の強度評価,温で使用した場合とは異なる 具体的な研究内容として, す.さらに,自己損傷検出機能 形状設計手法に関する研究を 現象が生じることがあります. ① 逆問題解析を用いた構造物 をもつスマートストラクチャ 行っています. 本研究室では,下限界に影響を 中の損傷・欠陥,材料物性値, の構築を目指しています. ③ 熱伝達,熱伝導,熱変形な 与えると考えられている環境 接触圧力分布等の計測・評価・ ② 異種接合材・複合材料の接 ど複雑な現象が絡み合ったマ に着目して,大気中と真空中に 診断手法の開発と高精度化 合界面端に生じる特異応力場 ルチフィジックス逆問題の解 おいて高温疲労試験を行い,高 私たちの健康診断と同じよ を対象とした力学解析および 析手法の開発 温疲労き裂進展の下限界特性 うに,機械・構造物の健康(健 強度評価に関する研究 実際の問題では種々の現象 を調べています. 全性)を診断することは,構造 現在使われている機械・構造 が複雑に絡み合っています.そ 物の健康(健全性)を維持し, 物では強度以外に耐熱性,耐摩 のため,複雑な現象が絡み合っ 寿命を延ばすことに非常に役 耗性,さらには美観など異なる たマルチフィジックスの問題 立ちます.このため,観察結果 特性を同時に求められること を,効率的に解く必要がありま から構造物の健康状態を推定 が多くなってきています.一方,す.本研究室では,高温流体が することが必要になります.こ 携帯電話や携帯音響機器など パイプに流入した時の過渡的 のように,観察結果からその原 では限られた寸法の中に多く 熱応力の低減問題を対象とし 因となる構造物の損傷状態を の機能を実現することが求め てマルチフィジックス逆問題 推定することは,結果から原因 られます.以上のことを実現す の効率的な解析手法の開発に を推定する,いわゆる逆問題と るために,異なる材料を接合し 関する研究を行っています. なっています.本研究室では世 て使用するということが多く ④ 高温疲労き裂の下限界挙動 界に先駆けて,逆問題解析を適 なってきています.異なる材料 に関する実験および材料と構 33 統合デザイン工学部門 ライフサイクル工学領域 (梅田研究室) 教 授 梅田 靖 ( umeda@ ) 助 教 福重 真一 ( fukushige@ ) 教員室・研究室 M1-521,M1-811A HP http://www-lce.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ ■製品ライフサイクル・シミュレーションに関する研究 ■持続可能社会シナリオ・シミュレーションの研究 ■ライフサイクル戦略決定支援手法の研究 ■ライフサイクル CAD システムの開発 ■ライフサイクルシナリオに基づくモジュール設計の研究 ■使用済み製品のアジア循環モデルの構築 本研究室のテーマは, 「環境 低炭素社会の下での将来の製 問題を解決するものづくり」 造業の姿を探る「持続可能社 である.地球環境問題の重大 会シナリオ・シミュレータ」 性が認識されつつあるが,そ の構築を試みている. このほか,製品の一生に渡 の原因の多くは大量生産・大 量廃棄型のものづくりにある. る環境負荷やコストをシミュ そこで,この問題を解決する レーションするための「ライ ような循環型のものづくりの フサイクル・シミュレーター」 方法論を研究することが社会 の開発,環境に配慮したビジ 的に重要な課題となっている. ネス事例の収集・分析を行い 本研究室では,環境負荷, 新規ビジネス設計を支援する 資源・エネルギー消費,廃棄 「環境ビジネス構想支援シス 物量の大幅な削減と,市民生 テム」の構築,3 次元 CAD モ 活・企業の経済性の向上とを デルを利用して環境に配慮し 両 立 す る 製 品 ラ イ フ サ イ ク た製品構造の設計を行う「ラ ル・システムの実現のための イフサイクル CAD システム」 ,使用済み 設計理論,設計方法論を研究 の開発(図 4 参照) している(図 1,図 2 参照). 製品のアジア循環モデルの構 研究の方法としては,現実 築を行う「アジア資源循環シ の循環型社会の問題,リサイ ミュレーション」などの研究 クル問題などを分析し,これ に取り組んでいる.例えば、 を理論化,モデル化すること 図 3 は、使用済み製品を解体 を通じて,問題の解決方法を し,リユースやリサイクルを 探り,計算機上でのシミュレ 容易にするためにはどのよう ーションや製品の試作・解体 にすればよいか分析している などによって理論の妥当性を ところであり,図 4 は,製品 に使用する資源の量や部品の 検討している. 主な研究課題としては,設 数を減らし環境への影響を最 計者のライフサイクル設計を 小限に抑える製品構造を検討 支援する「統合型ライフサイ するためのシステムの例であ クル設計支援環境」,および, る. 図 2 試作したサービス指向製品 図 3 使用済み製品を解体して分析 図 1 製品ライフサイクル設計の課題 図 4 環境に配慮した製品設計を行う CAD システム 34 統合デザイン工学部門 加工機構学領域 (藤原研究室) ■難削金属(ニッケル合金,チタン合金,超硬合金),先 進複合材料の切削機構の解析 ■快削鋼の切削機構 ■画像処理技術による切削機構の解明,先進複合材料の切 削加工のシミュレーション ■高能率穴あけ加工の研究 ■繊維強化熱可塑性樹脂シートの成形加工 准教授 藤原 順介 (fujiwara@) 教員室・研究室 M1-523,M3-111 HP http://www-mapro.mech.eng.osaka-u.ac.jp さらに新しく開発された繊 高強度・高機能材料が新し 仕上げ面などに問題がある場 く開発されると,切削加工で 合が多く,高品位な加工を行 維強化プラスチック成形材料 の現象が大きく変わる.これ うためには,切削機構の解明 を用いて,成形加工特性を調 は加工能率だけでなく,加工 が必要である.そこで,画像 べ,生産コストを削減できる 精度にも大きな影響を及ぼし, 処理を用いて切削機構を解析 新しい加工法を開発している. 製品のコスト増大へとつなが する手法を提案している.具 る.そこで高精度・高能率で 体的には,走査型電子顕微鏡 加工することを目的として, (SEM)内に設置した微小切削 その材料の加工現象(切削機 装置より得られた画像を解析 構)を解明するための研究を し,切削過程における応力と 行っている.特に削りにくい ひずみの分布を計算して,切 材料に対して,工具の摩耗が 削機構の解明を行っている. 数値制御工作機械 金型加工の際には,多くの 増加する要因についても調べ 穴あけ加工がなされているが, ている. また近年,環境に優しい材 高能率で穴明け加工ができる 料の開発が求められているが, 工具や新しい加工法の開発を 切削工具と工具磨耗 そのような材料の切削では, 行っている. ★ SEM 内切削装置 SEM 内切削における切りくず 機械工学専攻では,文部科学省による「魅力ある大学院教育」イニシアティブと題した補助事業に採 択された『統合デザイン力教育プログラム』のもと,2005 年度から 2006 年度に渡り,大学院教育の実質 化に向けた取り組みを進めました.写真はその一環として新たに導入した授業科目「プロダクトデザイン」 でのプロジェクト演習の実施風景です.各学生は,産業界から提供された実践的な設計開発課題にチーム 活動として取り組むことを通じて,課題設定や課題解決のための総合的な方法論や創造的な能力を獲得し ていきます. 35 統合デザイン工学部門 構造安全評価学領域 (阪上研究室) 准教授 阪上 隆英 (sakagami@) 教員室・研究室 M1-225, M1-226, M1-112 ■赤外線計測に基づく新しい非破壊評価手法の開発 ■赤外線サーモグラフィによる機械・構造物の非破壊試験 技術の開発 ■赤外線応力測定法の高度化に関する研究 HP http://www-saos.mech.eng.osaka-u.ac.jp/ 本研究室では,材料・構造物の非破壊評価手法の開発と構造健全性評価に関する研究を行って いる.特に,赤外線計測および赤外線サーモグラフィによる温度分布計測に基づく非破壊評価 法の開発を中心課題としており,その応用は,機械構造物をはじめ,土木・建築構造物,航空 宇宙構造物から生体材料に至るまで幅広い分野に及んでいる. 36 統合デザイン工学部門 精密加工学領域 ■ナノ-マイクロ表面構造を有する切削工具技術 ■構造制御形固定砥粒研磨パッド ■超高平坦形状を実現する研磨パッド ■潤滑状態を考慮した高能率加工を実現する研磨パッド ■次世代大口径シリコンウェーハ加工用装置 ■光と水を用いたサブナノメータ超平滑加工 ■環境低負荷加工液 (榎本研究室) 准教授 榎本 俊之 ( enomoto@ ) 教員室・研究室 M4-508,M4-507,M3-111 本研究室では「究極のものづくり」・ 「新しい付加価値の創 造」をキーワードに,超精密・極微細・超平滑な表面を高能 率に創るための加工技術,またそれをコアにした生産システ ムの構築に取り組んでいる.研究分野としては,超精密加工, 砥粒加工(研磨加工・研削加工) ,切削加工そしてトライボケ ミストリとなる.そして展開・産業分野としては光学分野, 半導体分野,輸送機器分野,医用分野,バイオ化学分野等が 挙げられる. 具体的には,次世代さらには次々世代に必要とされる超高 平坦なシリコンウェーハ(LSI やメモリの基板)やガラスデ ィスク(ハードディスクや液晶ガラスの基板)の実現,また 加工における環境負荷を劇的に低減することを目的に,これ までにはない 全く新しい加工技術の研究開発を行っている. さらには切削工具の寿命を飛躍的に延ばすことを目的に,フ ェムト秒レーザなどにより極微細溝を表面に形成した切削工 具の開発も実施している. これら革新的加工技術を,本研究室を中心とし,様々な研 究機関・民間企業と連携をとりながらダイナミックに研究を 推進している.そしてこうした研究を効果的に研究室内の教 育に導入することにより,学生による海外での国際会議発表 を毎年実施(写真参照)するとともに,学会などから授賞さ れる(写真参照)など 高い評価を受けている. ミセルを利用した高潤滑加工 液の開発に関する研究 Sheet metal blank ナノ-マイクロ構造を表 面に有する切削工具の 開発に関する研究 Cutting tool 超高潤滑性・耐凝着性 を発現する切削工具 構造制御形固定砥粒研磨 パッドの開発に関する研究 砥粒保持層 研磨剤を使うことなく研磨 仕 上 げ相 当 の 高品 位 な 加工面を高能率に得るこ とのできる研磨工具 0.25mm 高 平 坦 エ ッ ジ 形状 を 実現する研磨パッド の開発に関する研究 市販の研磨パッドを用いた場合 次世代・次々世代シリコ ンウェーハ(LSI基板)に も適用可能! 新規開発研磨パッドを用いた場合 次世代大 口径シ リコン ウェーハの高平坦両面 研磨加工に 関する研究 DI lubricant Die 光と水を用いたサブナノメータ 超平滑加工に関する研究 Micelle 砥粒(放出)層 Polishing fluid Blank holder O3 + H2O ⇒ OH- + HO3+ OH- + HO3+ ⇒ 2HO*2 HO*2 + O3 ⇒ 2O2 + OH* OH* + HO*2 ⇒ O2 + H2O VUV Cu2+ Workpiece (Cu) OH- - OH- OH OHOH- Cu2+ Cu2+ Cu2+ Cu2+ Cu 2+ Cu 2+ Cu 研磨パッドの粘弾性特性評価 に関する研究 Polishing pad 37 VUV light Polishing pad 協 力 講 座 ■コマツ共同研究講座 動力機械システム工学領域 高山・辻研究室 ■コミュニケーションデザインセンター 川崎和男先端デザイン研究室 ■フロンティア研究センター グローバル若手研究者 環境熱流体工学研究室 フロンティア研究拠点 ■フロンティア研究センター グローバル若手研究者 ナノ構造工学研究室 フロンティア研究拠点 注:メールアドレスの@以下は mech.eng.osaka-u.ac.jp を付けてください. 38 協 力 講 動力機械システム工学領域 (高山・辻研究室) 座 ■ 油圧システム最適化の研究 ■ 教 授 高山武盛 ([email protected]. ) 准教授 辻 拓也 (tak@) 助 教 谷村利伸 ([email protected]. ) 助 教 野村 和史 ([email protected].) 教授(兼)片岡 勲 ([email protected]) 教員室・研究室 F1-203,M3-124 次世代ディーゼルエンジン燃焼の研究 ■ ディーゼルエンジンの排ガス浄化技術の研究 ■ ヒートパイプの熱流動力学的研究と性能評価 HP http://www.mech.eng.osaka-u.ac.jp/cooperative.php 研究室のめざすところ ュレーションにより燃焼現 コマツ共同研究講座(動力 象の詳細な解析と最適燃焼 機械システム工学領域)は新 アームシリンダ バケット シリンダ しい産学連携システムとし て 2006 年に大阪大学とコマ 旋回モータ ブーム シリンダ ツ((株)小松製作所)が共同 で作った研究室である. 条件を明らかにしている. ヒートパイプの熱流動力 学的研究と性能評価 ヒートパイプは容器内に 封入された動作流体の蒸 建設機械や大型輸送機械 発・凝縮の相変化に伴う伝熱 は今後ますます全世界で需 流動現象利用して熱を輸送 要が拡大し,我が国の重要な 走行モータ(左・右) 産業として位置付けられて いる.一方で地球温暖化や環 動力エネルギシステムとしての油圧ショベル する装置である.わずかな温 度差で大量の熱を輸送する ことができ,内圧を調節する 境汚染物質低減などの地球 ことにより動作温度が比較 環境保全や省エネルギ化は, 的容易に設定できる等の利 人類にとって早急に解決し なければならない課題である. このような背景のなか,本研究 室では伝熱・流動工学の観点か ら建設機械に対する社会の具 体的なニーズを見据えた基礎 研究を行い,「産業の持続的発 展」と「地球環境保全」の両立 を実現するためのイノベーシ ョンを目指している. 点があり,熱輸送システムの 油圧システム最適化の研究 次世代ディーゼルエンジン 高性能化や高効率化には有望 建設機械はディーゼルエン 燃焼の研究 次世代ディーゼルエンジン ジンで油圧システムを動作さ せることにより仕事を行って の燃焼方式として,従来のディ いる.この油圧システムで発生 ー セ ル 燃 焼 方 式 と は 異 な り するエネルギロスは多大で,油 NOx,PM を燃焼レベルで低減 圧システムの最適化は省燃費 でき高効率低公害を実現する や高効率化には必要不可欠な 画期的な新しい燃焼方式が期 技術である.本研究では,油圧 待されているが,着火制御が困 システムの最適化を図り,高効 難など多くの課題がある.本研 率化を目指すための基礎研究 究では新しい燃焼の実用化の および実証テストを行なって 可能性を探るため,素反応動力 いる. 学を考慮した燃焼の数値シミ なデバイスとして注目されて いる.しかしながら建設機械な どの動力機械システムへの導 入に向けた問題点や課題点が 指摘されており,本研究ではヒ ートパイプ内部の相変化を伴 う流動ならびに熱輸送現象を 明らかにすることにより,実用 化への問題点解決や設計指針 を得るために研究をおこなっ ている. 入熱 (蒸発部) Heat In 放熱 (凝縮部) Heat Out 容器 Container 蒸気の流れ 凝縮液(動作液)の還流 Vapor Flow Liquid Return 内部に蒸気と凝縮液に気液二相流が形成 ヒートパイプの構造と動作原理 ディーゼルエンジンの様々な技術(コマツ HP より) 39 協 協 力 力 講 講 座 座 コミュニケーションデザインセンター 川崎和男先端デザイン研究室 教 授 川崎 和男 准教授 金谷 一朗 教員室・研究室 U4 ([email protected].) ■ ■ ■ ■ ([email protected].) HP http:// www.kazuokawasaki.jp 40 デザイン理工学 デザイン医工学 デザイン文理学 デザイン政経学 協 力 グローバル若手研究者フロンティア研究拠点 講 座 ■燃焼排ガスに含まれる粒子状物質の生成メカニズム解 明,粒子解析手法の開発 ■燃焼器内部に見られる高圧下での燃焼現象の解明,高圧 燃焼場の数値シミュレーション手法の開発 (環境熱流体工学研究室) 特任講師 中村 摩理子 ( m.nakamura@ ) 教員室・研究室 M1-713,U6 HP http://www.wakate.frc.eng.osaka-u.ac.jp/nakamura/ 近年,環境・エネルギー問 霧の燃焼(噴霧燃焼)につい 現在は,ミクロな視点で粒子 与える影響を調べたり,気候 て研究を行っている.さらに, などの各種燃焼装置のエネル の凝集や運動を捉えた新しい の予測に使用する物理的サブ 実験とシミュレーションを連 ギー変換効率向上や温室効果 粒子解析手法の開発を行って モデルを開発したりすること 携させながら,高圧下におけ ガス,大気汚染物質の低減が おり,将来的には,すすなど も目標にしている.このほか, る噴霧燃焼現象をシミュレー 求められている.当研究室で の粒子状物質の生成・排出挙 高圧環境下で連続燃焼実験を ションするための新たな解析 は,ミクロな物理現象や化学 動の予測を行うことを目標に 行うことができる特殊な高圧 モデルの構築を進めている. 反応に影響を受ける熱や流体 している.また,ミクロな凝 燃焼実験炉を使用して, の流れを予測,あるいは制御 集体の解析手法を応用して, 航空機エンジンなどで し,燃焼装置の環境性能を向 すすとして放出されたエアロ 用いられる液体燃料噴 Flame length mm 上させることを目指している. ゾル粒子が大気中の熱輸送に 題に対応するため,エンジン 噴流噴霧の数値解析例 (左:燃料蒸気濃度分布, 右:噴霧の分布) 高圧噴霧火炎の光学計測システム例 圧力による噴霧火炎形状の変化 高圧噴霧燃焼実験の様子 レーザーシート法による噴霧断面の可視化画像 3000 ℃ 1600℃ すすの顕微鏡写真 (「燃焼生成物の発生と抑制技術」よ り) 40 mm 0 mm 0.1 MPa 0.5 MPa 1.0 MPa 高圧噴霧火炎の高速度撮影と温度計測 粒子の凝集シミュレーション例 41 協 力 グローバル若手研究者フロンティア研究拠点 (附属高度人材育成センター若手研究者育成部門) (ナノ構造工学研究室) 講 師 平原 佳織 ( hirahara@ ) 教員室・研究室 M1-716,GSE U1w-B112 講 座 ■ 電子顕微鏡を用いた原子レベルダイナミクス評価技 術の開発 ■ ナノ物質構造変化過程のその場観察 ■ ナノ物質の電子顕微鏡内非破壊強度測定 ■ カーボンナノチューブ強度の局所構造依存性 よって電気的性質が変わってしまうことを意味し、CNT をナ 物質の特性は原子種とその配列(結晶構造)によっておお よそが決まる。ナノメートルサイズの物質(ナノ物質)の場 合、物質を構成する原子数が少ないために、欠陥、転移など の局所的な構造変調や二次構造、表面状態などが物質全体の 特性にきわめて敏感に反映される。このことから、ナノ物質 の性質を調べるための基盤的な研究として、原子レベルでの 構造解析を行い、構造と特性の相関を解明することが重要で ある。当研究室では、カーボンナノチューブ(CNT)をはじ めとするナノ物質を 1 個レベルで加工し、構造と特性の相関 を解明することを主テーマとしている。さらに、加工条件と 構造変化の関係も相補的に調べることにより、最終的には原 子レベルでの構造制御によるナノ物性制御を目指している。 量を同定する測定・解析手法(2)非破壊で強度が計測でき CNT は、局所構造変調と物性の相関を調べる対象として興 ナノ物質(特に単体)を操作したり、加工などによってそ ノデバイス配線材料として用いるには重要な課題とされる。 また、別の視点から見れば、原子レベルで CNT の構造が制 御できれば、力学・電気特性の制御が可能となる。これらの 背景から、 (1)あらかじめ個々の CNT のらせん構造、欠陥 る技術(3)単一物質を精度良く操作する技術(4)通電加 工、機械加工、昇温、などにより欠陥の消失・導入など任意 の局所領域での構造制御技術(5)構造変化過程でのリアル タイム構造解析手法を、同一個体に対して原子レベルの精度 で行える環境の確立に取り組んでいる。 味深い材料である。CNT は完全結晶であれば非常に優れた機 の構造を制御するためには、対象物質を操作するための「手」 械特性を示すが、実際に得られる CNT には必ず欠陥構造が が必要だが、それとともに、その過程を観察するための「目」 存在しており、原子 1〜数個分の空孔でも強度には敏感に反 をどのように配置するかが重要な鍵を握る。構造制御技術の 映される。このような、機械強度の欠陥量依存性を実験によ 精度向上のためだけでなく、対象物質そのものの構造変化を って調べるには、1 本レベルでの構造解析と力学測定が同時 詳細に追うことが重要だからである。サブナノメートルオー に行える環境が必要である。また、個々の CNT は多彩なら ダーの空間分解能を持つ透過電子顕微鏡(TEM)は、ナノ領 せん構造をもち、らせん角によって電気特性(半導体的もし 域、ナノ物質の構造をとらえるにはきわめて威力を発揮する くは金属的)が決まることも、CNT 特有の興味深い性質であ 観察装置である。当研究室では、TEM 内で温度を変化させた る。そして、CNT を変形させたり加熱すると、CNT 中の欠 り、専用に開発されたマニピュレータを使った物質操作を行 陥構造が移動し、らせん構造が変化する。このことは、マク ったりすることにより、それらにともなう構造変化,化学的 ロスケールの物質とは異なり、CNT では加工中の構造変化に 反応,変形挙動などを原子レベルで実時間観察(その場観察) している。 左上:昨年度卒業研究実験の模式図。電子顕微鏡のなかで一本のカーボンナノチューブ を選び、両端に電極をつけて通電加熱しながら引っ張った。イラストでは均質な物体が 一様に伸びたような絵が描かれているが、実際には炭素原子からなる六角網目の組み替 え(=塑性変形)が起こる。(a)塑性変形前 (b)変形後の構造解析を像観察および電子回折 により行った。右上:(15, 10)と(16, 11)ナノチューブの模式図。わずかに直径とらせん 角が異なる。 右 :一本のカーボンナノチューブの約 10 ナノメートル領域から得られた (c) 電子回折 図形と (d) そのシミュレーション(昨年度の卒業論文から) 。現れた点の形状や位置から 構造解析ができる。その結果、右上図の 2 本のナノチューブのような電子顕微鏡像観察 だけでは分からない程のわずかな構造の違いを、ナノチューブ加工前後でとらえること ができる。 42 (c) (d 在学生の声 き,非常にやりがいを感じて います. 研究成果を学会などで発表 博士前期課程2年 新貝 雅紀さん する機会も多くあり,私も国 私 は 集 束 イ オ ン ビ ー ム μm の円柱状の部材,ナノピラ 際会議に参加しました.その (FIB)装置によって作製し ーです.このナノピラーに対 ような場で自分の研究を発表 たナノ構造体に関する研究を して電子顕微鏡内で引っ張り, することは大変なことも多い しています. FIB 装置はその 曲げなどの試験を行っていま ですが,プレゼンテーション 能力の向上などそれ以上に得 名前の通りイオンビームを照 す. るものは多いと思いますし, 射する装置です.このイオン 自らの研究成果を人に見ても ビームをガス雰囲気中で照射 らうことはモチベーションに することによりナノ・マイク も繋がります.また自分以外 ロサイズの複雑な形状の立体 の研究や他の研究者の方との 構造物を作ることができ,ナ 議論から研究に関して新しい ノ・マイクロマシンへの応用 着想を得ることもあります. が期待されています.しかし, ■FIB-CVD によるナノ構造体に関する研究 作製された構造物の力学的特 性はまだ明らかになっておら ず,実用化には至っていませ ん.私の研究は実験によりそ れら FIB 装置により作製され たナノ構造体の機械的特性を 評価することを目的にしてい ます. 現在私が研究対象としてい るのは直径数百 nm,長さ数十 実験の電子顕微鏡画像 またこの研究の成果により FIB によるナノ構造体作製の 技術が確立されれば,そのナ ノ・マイクロマシンは工学分 野にとどまらず医療やバイオ など他分野での活躍も期待で 主性に任せられているため, 時間を自由に作ることも可能 で,私は時々学部で所属して いた弓道部の道場で気分転換 も兼ねて弓を引いています. 研究環境に関しても研究室 ごとに実験装置を所有してお り,また大規模シミュレーシ ョンに対応可能な大型計算機 もあり非常に整っています. やる気しだいで様々なことに 挑戦でき,貴重な経験を得る ことのできる場所であると思 います. 研究室での生活は学部と大 きく異なり,研究室が生活の 中心になり,先輩や後輩,先 生との結びつきが非常に強く なります.研究に関する議論 が行われるほか,飲み会やバ ーベキュー,スポーツイベン トや研究室旅行といった研究 室ならではの楽しみもありま す.また,研究は基本的に自 ■キャビテーション流れの数値解析 りの苦労があります.設定し ことができました.自分の研 た条件が合わなかったり,プ 究成果を世界に発信すること ログラムが正しくなかったり ができるなんて,阪大に入る 博士後期課程2年 岡林 希依さん すると,計算が止まってしま 前は思ってもみなかったこと います.以前には2ヶ月間計 です. 私は機械工学の中でも特に このように,阪大の機械工 算が動かず,苦労したことも 流体力学を専門にしています. あったのですが,興味深い結 学専攻は,やる気さえあれば, これから私の研究テーマと研 果が得られたときの感動は, いくらでも貴重な経験や知識 究室での生活について紹介し 他ではなかなか味わうことの を得ることができる環境だと たいと思います. 計算結果 できないものです.未知のこ 思います. 私の研究テーマはキャビテ とを研究しているわけですか ーション現象の数値解析です. の両面で困難であり,数値シ ら,日々試行錯誤の連続です 沸騰が温度変化によって液体 ミュレーションが有効な解析 が,それが研究の醍醐味とも から気体に変化する現象であ 手段となります.私はそのた 言えると思っています. るのに対し,キャビテーショ めの新しい数値解析法の開発 阪大には,大規模な計算に ンは圧力の低下によって気体 を目指しています. 対応できるスーパーコンピュ が発生する現象を指します. 研究している時間のほとん ータなどがあり,計算機資源 キャビテーションは流体機械 どは,パソコンに向かい,プ は豊富です.研究環境として の性能低下、騒音、振動、壊 ログラムを書くことに費やさ はかなりのレベルにあります. 食などの悪影響を及ぼすこと れます.プログラムができた また,学生であっても,国内 ベネチアでの発表直後 があり,いくつかの重大事故 ら,計算機に投入して計算し, 外で開催される学会で発表す の原因であることも知られて 結果はデータ処理の後,グラ る機会が与えられる他,学術 います.そのため,液体を用 フ,図または動画にして現象 論文を発表することも可能で いる機器の設計の際には,キ を解析します.上の図はキャ す.私も昨年,イタリアとイ ャビテーションを考慮しなけ ビテーションと渦の相互作用 ギリスの国際会議において研 ればならないことが多々あり 現象を可視化したものです. 究発表(もちろん英語です) ます.しかし,多くの場合, 実験も大変だと思いますが, を行い,海外の研究者とのデ 実験での測定が技術・コスト シミュレーションにもそれな ィスカッションの機会を得る 43 在学生の声 振動の様子をとらえることが できないのですが,この振動 に対して少し低い周波数の光 を点滅させながら照射してや 博士前期課程1年 舩井 皓平さん ると,振動があたかもスロー 私の研究や研究室での生活 モーションをかけたような, について紹介してみたいと思 ゆっくりとした振動として観 います. 察できるようになります.実 私の研究テーマは皮膚など 際に硬さ分布が異なる物質で の軟組織の硬さを実時間で視 は変形の違いが肉眼でもとら 覚的に評価するというもので えることができます.実験装 す.硬さというのは医療診断 置にはいくつかのパラメータ において,腫瘍の有無を調べ があり,その組み合わせによ 実験の様子 る際の指標として用いられて って観察される振動の様子は よって,私の研究では力を います.通常,硬さを評価す 異なります.実験前に結果を る場合にはある大きさの力を 加えたときの変形の様子から, 予想しても,実験を行ってみ 加えて,そのときの変位を測 硬さを視覚的に評価すること ると予想に反する結果が出る 定します.対象が金属材料の を目的としています.しかし, ことがあります.このように 場合は,その結果から硬さを 皮膚の変形速度は肉眼でとら 思った通りにならないところ 数値として算出することがで えるには速過ぎます.そこで, に研究の面白さがあると思い きますが,軟組織の場合はそ ストロボスコープの原理を用 ます.また,研究成果を学会 の特性上,具体的な数値を与 いて振動の様子を肉眼でとら で発表する機会も与えられま えるのが難しくなります.ま えられる速度に落とします. す.準備はかなり大変ですが, た,医療現場では腫瘍の硬さ 具体的には,まず空気噴流に その分,得られるものは大き の数値よりも,そこに腫瘍が よる力を一秒間に何十回も皮 いです. あるかどうかが重要になりま 膚に加えて皮膚を振動させま 最後に研究室での生活につ す.もちろん,そのままでは す. ■ 周期的高速現象の実時間可視化による 硬さ測定 ■ 熱疲労寿命評価のための研究 研究室旅行の様子 いて述べたいと思います.研 究室に所属してからの生活は それまでの座学中心の大学生 活とは大きく異なります.ま た同回生だけでなく,先輩や 後輩といった研究室メンバー と過ごす時間ができ,研究に ついて議論したり,飲み会を したり,スポーツ大会に参加 したり,旅行に行ったりもし ます. このように研究室は勉強だ けでなく,多くのことを経験 し,人として成長できる場で す. 皆さんも,阪大の機械工学専 攻で貴重な大学生活を過ごし てみませんか. ます.そして,自分で作った をしたり,飲み会をしたりと プログラムによって,内面の いった研究室ならではの楽し 温度を推定し,シミュレーシ みがあります.また,ある程 博士前期課程2年 恩地 紗弥子さん ョン結果と比較しています. 度,自主性に任せられること 研究というものは,そのまま が多くなるので,時間を自由 機械工学専攻では大学1年 答えが教科書に載っていると に作れます.工夫しだいで, で数学や力学などの一般的な いうものではありませんので, いろいろなものを吸収できる 知識を身に付けた後,2・3 失敗の連続です.そこが大変 貴重な期間とすることができ 年で機械工学に必要な専門的 でもありますし,やりがいで ます. な講義を受けます.座学,問 もあると思います. みなさんも是非,有意義な 題演習,実験を並行して行う 学生生活を送ってください. 次に研究室での生活につい ので,知識も深まります.4 て述べたいと思います.研究 年,大学院では研究室に所属 室に配属されると,1∼3年 して,研究を行うことになり 研究でのモデル 生までの生活と大きく変わり ます. 私は現在材料力学という分 寿命を評価するという逆問題 ます.今までは期末試験で成 野の研究室で, 「非定常内面温 解析の手法について研究して 果が評価されていましたが, 度変動条件の外面からの推定 います.この逆問題とは原因 研究室に入ると,月々の報告 とそれに基づく熱疲労寿命評 から結果を導く順問題と逆に, 会や国内外の学会で評価され 価」という研究を行っていま 結果から原因を推定するもの ます.自分の研究成果を発表 す.パイプは,中を流れる流 で,私の研究室で盛んにおこ するためには,準備がかなり 研究風景 必要ですが,それによって卒 体が高温ならば膨張,低温な なわれているものです. 業してからも必要な発表の能 らば圧縮されます.したがっ 実際の研究では,基本的に て流体が温度変動すると,膨 パソコンを用いた解析をして 力が養われると思います.ま 張や圧縮が繰り返され,破断 います.研究室では大型の実 た,生活の面でも学部時代は, の原因となります.そこで, 験ができないので,ソフトを 授業を受けて帰るといった生 私はパイプの外面温度から内 用いて図に示したモデルを考 活だったのが,先輩や後輩, 面の温度を推定し,パイプの え,シミュレーションしてい 先生との結びつきが非常に強 くなります.一緒にスポーツ 44 知能・機能創成工学専攻 45 知能・機能創成工学専攻長メッセージ 平田 勝弘 教授 (知能・機能創成工学専攻) 科学技術の著しい進歩は、研究分野の深化と細分化により実現されてきました。更なる進化を遂げて いくためには、研究の深化とともに、深化した研究の融合により、新しい知を創造していくことが必要 であります。 知能・機能創成工学専攻は、応用理工系における機械工学専攻、マテリアル生産科学専攻と連携しな がら、工学研究の未来を開拓する最先端の融合研究を推進する役割を担う専攻として、平成9年に設立 されました。 当専攻は、応用理工系の各分野に関連する11研究室で構成されており、それぞれの研究室が機械工 学学科目ならびにマテリアル生産工学科目の学部教育にも携わっています。また、各学科目の4年生は、 当専攻の研究室にも配属され、卒業研究を熱心に行っています。機械工学科目の教育を担当している研 究室には、創発ロボティクス研究室、知能ロボット学研究室、マイクロダイナミクス研究室、共生メデ ィア学研究室、適応ロボティクス研究室、生体模倣ロボティクス研究室の6研究室があり、相互に連携 しながら研究を進めています。 この6研究室では、ミクロな現象とマクロな特性を連成させるマルチスケール動力学の構築、知能的 な行動を表出する身体設計と制御を融合させたロボット工学、人間と豊かに関わる人間型ロボットによ る知的システムの開発、ロボットを通した知能の創発・発達メカニズムの解明、ユビキタス環境技術を 用いた知的システムの構築、生体システムの機能発現を取り入れたロボットシステムの開発など、先進 的研究を進めています。これらの研究成果は、マスメディアを通じて世界に紹介されています。 教育面では、大学院教育の改革に取り組み、座学による知識の習得だけでなく、産業界とも連携した 実践型演習を通じて、高い研究能力、リーダーシップ、責任感を持った世界の第一線で活躍できる技術 者・研究者の育成を目指しています。 46 Adaptive Machine Systems 知能・機能創成工学専攻 先導的融合工学講座(機械系) 工学研究の未来を開拓する新しい融合領域分野を創出する。 知能・機能創成工学専攻は機械工学・マテリアル生産科学・生産科学を基盤とし、融合された工学領域 の創造を目指して研究・教育を行っています。専攻は各分野に関連する12研究室で構成されており、 それぞれの研究室が機械工学学科目・マテリアル生産工学科目の学部教育に携わっています。機械工学 科目の教育を担当しているのは下記の6研究室です。 ■創発ロボティクス研究室 浅田研究室 ■マイクロダイナミクス研究室 中谷研究室 ■共生メディア学研究室 中西研究室 ■適応ロボティクス研究室 細田研究室 ■知能ロボット学研究室 石黒研究室 (協力講座: 基礎工学研究科 システム創成専攻) ■生体模倣ロボティクス研究室 松本研究室 (文部科学省・科学技術振興調整費 生体ゆらぎプロジェクト) 注:メールアドレスの@以下は ams.eng.osaka-u.ac.jp を付けてください. 47 知能・機能創成工学専攻 創発ロボティクス研究室(浅田研究室) 教 授 浅田 稔 ( asada@ ) 教員室・研究室 FRC1-4F, U1W-B112, M4-202 研究室 HP: http://www.er.ams.eng.osaka-u.ac.jp/ 浅田研究室では,知能の創発・発 ことができるようになります. ■ 複数ロボットの協調行動の獲得 ■ サッカーを通したロボットの運動知能. ■コミュニケーションを通じた発達的知能獲得モデルの 提案. ■ 音声模倣を通したロボットの言語獲得 ■ ロボットと人の情動的コミュニケーション ■ 赤ちゃんロボットの共同注意の獲得 (3) 認知発達(身体表現) そこで乳児の発達メカニズムの理 達のメカニズムをロボットを使って 解と人と適切にかかわれるロボッ 明らかにすることを目的としていま (2) 認知発達(音声ロボット) トの実現を目指して,共同注意の す.知能には様々な定義がありま 獲得を可能にする因果関係をロ すが,最も重要なものの一つは環 ボット自身が発見する仕組みや, 境への適応性です.あらかじめ設 共同注意と語彙理解の共発達を 計者がトップダウン的に環境をす 可能にする仕組みについて研究 べてモデル化してロボットの行動 複雑な身体を有するロボットが, を行っています.また,共同注意 や反応を決定するのではなく,環 実環境において適応的な行動を を通じて,どのように他者の意図 境の変化に対してロボット自身が 実現するためには,自身の身体 理解が起こりうるのかを知るため 柔軟に適切な行動を適応していく について理解しておく必要があり に,人とロボットの視線によるやり システムを探ることは,従来とは異 人間とロボット間のコミュニケーシ ます.人間の身体表現は身体図 とりを題材とした心理学的研究も なる工学的な視点が必要となりま ョンをより自然なものにする上で, 式や身体像と呼ばれており,視 行っています。 す. 音声言語は欠かせません.人間 覚・触覚・体性感覚などのあらゆ 浅田研究室では,「ロボカップグ の幼児の場合,言語は養育者と る感覚を時間的にも空間的にも ル−プ」において,サッカーを題材 の相互作用を通して自然に獲得 統合することで表現されていると (5)認知発達(情動コミュニケーシ として複数のロボットの協調行動 されていると考えられます.浅田 考えられます.身体表現チーム ョン) の獲得,運動知能の創発,「認知 研究室はこれまで,幼児の言語 では,障害物回避や道具使用と 発達グループ」においてコミュニ 獲得過程を参考にし,ロボットに いったタスクの効率的な実現を可 ケーションに関わる知能発達の研 は様々な無意味な音を発する機 能とするため,ロボットに身体表 究が行われています. 能を埋め込み,養育者がロボット 現を獲得するメカニズムの提案と, の発話に意味づけをしてオウム それを通しての人間の発達過程 (1) ロボカップ(ヒューマノイド) 返しをするというモデルを用いて, の理解を目標としています. 人工喉頭ロボットに発話を獲得さ せる研究を行なってきました.ま (4) 認知発達(共同注意) 人間は情動を相手に伝達してコミ た,ロボットの模倣能力の発達に ュニケーションを行う.ロボットも, 伴い,養育者による模倣の仕方も 人間と同様の情動の表現系とダイ 変化していくことに注目し,移りゆ ナミクスを持ち情動表出をするこ く相互模倣のやりとりを通じて,よ とができれば,より自然なコミュニ ケーションを実現することができる ロボカップのヒューマノイドリーグ り自然な発話をロボットに獲得さ では,歩行速度やキックの精度な せる研究も行っています。現在は, でしょう.我々は,発達心理学や 脳科学の知見をもとに,人間の表 ど個々のロボットの運動能力が競 これらの研究を拡張し,モノや動 共同注意とは「相手が見ているも 現系や情動ダイナミクス,乳児の 作の名前などの単語を含む,より われます.浅田研究室ではロボカ ップにヒューマノイドリーグが設立 自然なやり取りにおいて,他者の のを見ること」であり,人同士のコ 頃の学習をモデル化し,ロボット された当初から参加してきました. 行動が理解・模倣されていく仕組 ミュニケーションだけでなく,人と が人間と同様のコミュニケーショ 研究としては,人間ならあたりまえ み に つ い て 研究を 進め て い ま ロボットのコミュニケーションにお ン能力を獲得することを目指して いても基礎となる行動です.共同 います.またそれと同時に,情動 のようにできてしまう歩行やキック す. などの基本動作をどのようにして 注意は,他者の意図理解など,よ コミュニケーションが人間の様々 ヒューマノイドが学習できるのかに り高次の認知発達につながるもの な認知能力の発達において果た ついての研究をしています.例え として発達心理学でも注目されて している役割を,ロボットを利用し ば,キックするときの運動情報と, いますが,乳児がこの能力自体を 構成論的に明らかにすることも目 カメラで捉えたボールの行方の関 どのように獲得しているか、あるい 的としています. 係を学習させることで,ロボットは は他の能力の発達にどのように 好きな方向にボールを蹴り分ける 関わるのかは未解明です. 48 知能・機能創成工学専攻 マイクロダイナミクス研究室(中谷研究室) 教 授 中谷 彰宏 ( nakatani@ ) 助 教 土井 祐介 ( doi@ ) 教員室・研究室 M4-303,304,305,104 ■ナノマシン設計の為のナノメカニズムの基礎的研究 ■微細構造を有する変形体の力学理論の探究 ■ソフトマテリアルの変形理論に関する研究. ■環境調和型システム設計の為の開放系力学モデルの研究 ■形態と機能発現に関する力学モデルの構築とシミュレー ション 研究室 HP: http://www.md.ams.eng.osaka-u.ac.jp/ マイクロダイナミクス研究室 では,物体の変形を取り扱う変 形体の力学をベースとして,固 体力学における変形理論の定式 化,シミュレーション技法の開 発およびこれらの理論・技法の 現実の問題へ応用に関する研究 を行っています. 私たちの周りに存在する様々 な物体は自然物・人工物を問わ ず,様々なスケール・構造・機 能を持った多様な要素で構成さ れています.これらの物体のダ イナミクスは,物体を構成する 多様な要素の個々の運動の集合 と見ることができます.しかし ながら,これら要素の運動はそ れぞれに独立ではなく,要素と 要素の間の相互作用によりそれ ぞれの運動が影響を受けたり, 複数の要素が協調的に運動した りすることによって,物体全体 の運動に大きな影響を与えるこ とが考えられます. このような複雑なダイナミク スを詳細に解析するためには, 個々の要素の運動をすべて追跡 して,これを集約することによ って物体の振る舞いを知るとい うボトムアップ的手法が思い浮 かびますが,非常に多数の要素 のダイナミクスを解析すること は数式を用いた理論解析はもち ろん,コンピュータを用いた大 規模数値シミュレーションによ っても事実上不可能です.例え ば数グラムの固体の変形を原子 レベルでシミュレーションしよ うとするとアボガドロ数のオー ダの原子の挙動を追跡する必要 があることを考えるとその困難 さが想像できるでしょう. したがって,すべての要素を 追跡するのではなく,ある種の 情報の圧縮を行う必要がありま す.この作業を行う際に,でき る限り自然な仮定を行い,元の 物体の複雑なダイナミクスを記 述することができるようにする 必要があります.この工夫(モデ ル化)について,数学・力学を駆 使して,より自然で効率のよい 理論およびモデル化手法を構築 することが求められています. 一方,力学モデルによる解析 やシミュレーションによって, 現実の現象や実験では見出せな かった特異なダイナミクスが発 ■生体力学におけるモデル化 生体膜などの生物中に存在す る構造は非常に柔軟でり,また 構成分子が保ちながらもその内 部における配置が刻一刻と変化 する流動性をもつなど,従来の 変形体の理論では記述できない 多様なダイナミクスを示すこと が知られています.このような 生体力学における変形の理論の 定式化およびその応用として, ■変形体の力学モデルの開発 物体を構成する原子・分子の動 赤血球などの微小膜小胞,人脳 きを直接追跡することによって の変形解析などを行っています. 物体の原子スケールのダイナミ クスを解析する分子動力学シミ ■応用力学・数学による解析 ュレーション,マクロな物体変 物体のダイナミクスに関して 形のシミュレーション法として 応用力学・数学に基づいた基礎 定式化されている有限要素法な 的な立場からの理論構築・モデ どを用いて,物体の変形,破壊 ル解析を行っています.マクロ などのダイナミクスを解析して 法則が明らかになっていない場 います.また,様々なスケール 合に,ミクロ法則からマクロな のダイナミクスが連成している ダイナミクスを記述する方法論 力学現象の解析を行うためのマ である Equation Free 法の変形 ルチスケール解析手法である 体の力学への応用,非線形相互 X-FEM やフェーズフィールド 作用による格子の特異な振動現 法を用いて,これまでにない新 象・局在現象の数値シミュレー しいモデル化手法の開発を行っ ション,原子スケールのダイナ ミクスへの応用に関する研究が ています. 行われています. 見されることもあります.この ようなシミュレーション結果に 基づいて新しい力学現象や,こ れらを応用した新しい機構やメ カニズム,デバイスを提案する ことも目指しています. 以下に,マイクロダイナミク ス研究室で行われている具体的 な研究を示します. 49 マイクロ機械科学部門 知能・機能創成工学専攻 ■遠隔操作ロボットによるコミュニケーション支援 ■テレプレゼンスの心理学的分析 ■存在感を伝えるユーザインタフェースの開発 ■メディアのロボット化によるテレプレゼンスの向上 ■身体性をともなうビデオ会議システムの開発 ■存在感伝達メカニズムの解明 共生メディア学研究室(中西研究室) 准教授 中西 英之 ( nakanishi@ ) 教員室・研究室 U1w-411 研究室 HP: http://smg.ams.eng.osaka-u.ac.jp/ 本研究室では人と共生するメディアの実現に向けて,テレ プレゼンス技術を研究しています.テレプレゼンスは存在感 を遠隔地に伝達するという概念で, 「テレ」はテレフォンやテ レビの「テレ」と同じで遠隔地への伝達を, 「プレゼンス」は 存在感を意味します.テレプレゼンス技術とは,同じ部屋の 中で相手と向かい合っている対面状況を仮想的に作り出す技 術です.テレプレゼンスの研究が必要な理由は,それが人の 物理的な移動を代替できるからです.具体的には,ミーティ ングのための出張を無くすことで,時間と費用を抑えること ができます.時間や費用の問題のためにこれまでは困難であ ったようなミーティングを行えるようになることで,機会損 失を抑えることにもなります. 現在最新のテレプレゼンス技術は高品位ビデオ会議システ ムです.従来のビデオ会議システムやテレビ電話には,画面 が小さい,画像が粗い,映像のフレームレートが低い,とい った問題がありました.高品位ビデオ会議システムは高速コ ンピュータネットワーク・大型フラットパネルディスプレ イ・ハイディフィニション規格を用いることによって,高精 細かつ等身大で滑らかに動く相手の映像を表示できるように なっています.また,各地点の会議室に同一のデザインを採 用し,自分のいる部屋の風景と相手の背後に映る部屋の風景 を一致させています.このような高品位ビデオ会議システム と従来のビデオ会議システムとの違いは,テレプレゼンスの 強弱です.従来のビデオ会議システムでも音声会話が可能で, 相手の表情や視線を読み取ることができましたが,対面状況 には程遠いものでした.高品位ビデオ会議システムは対面状 況をリアルに再現することに成功しています. テレプレゼンスは,ディスプレイ・スピーカ・ネットワー ク接続などのメディアの介在を忘れさせることで向上します. 対面状況では起こらない現象をユーザが目の当たりにすると, メディアの介在を意識するようになり,テレプレゼンスが低 下します.従来のビデオ会議システムでは,相手が小さく見 える,相手の動きがぎこちない,部屋の風景が違う,といっ たような対面状況との相違によってテレプレゼンスが低下し ていました.高品位ビデオ会議システムではこれらの相違は 払拭されていますが,他にいくつも相違が残っています.そ のような相違の一つは,運動視差の欠如です.運動視差とは 視点の移動によって生じる見え方の変化です.例えば,座っ ている相手に歩いて近づくと,視界に映る相手の像が大きく なるだけではなく,徐々に相手の頭頂部が見えてくるなど, 見え方も変化します.ビデオ会議の場合,ディスプレイに映 っている相手に近づいても見え方は変化しません.これがデ ィスプレイというメディアの介在を意識させ,テレプレゼン スを低下させることになります. 本研究室では,運動視差がテレプレゼンスを向上させるこ とを世界で初めて明らかにしました.遠隔操作ロボットを用 いた遠隔対話実験においてロボットを,1)動かさない,2) 50 回転させる,3)前進させる,4)回転かつ前進させる,の 四つの条件の比較を行い,ロボットのカメラを通して見る相 手の存在感を調査しました.下図はこの実験の様子です.こ の比較の結果,運動視差を生じる「前進」には存在感を増幅 する効果のあることを発見しました.一方,運動視差を生じ ない「回転」には効果が見られませんでした.また,ロボッ トが自動的に移動し,被験者が操作しない場合は,増幅効果 が消えることも発見しました.この理由は,ロボットの移動 を自分の移動と感じられなくなるためと思われます. 前進 本研究室ではさらに,上記の実験結果にもとづいて,運動 視差を生じさせるビデオ会議システムを開発しました.この システムでは下図に示すように,ユーザが遠隔地にいる相手 に話しかけようとしてディスプレイに近付くと,その相手の 目の前に設置された可動式カメラが相手に向かって前進しま す.可動式カメラは位置決めテーブルにカメラを取り付けた もので,距離センサで検出されるユーザの接近に合わせて自 動的に前進します.このシステムを用いた実験では,カメラ を被験者が操作していないにもかかわらず,相手の存在感が 増幅されました.これは,被験者の前進にカメラの前進を同 期させることで,自分の前進が運動視差を生んでいる感覚を 与えることができたためと思われます.相手がリモコンでカ メラを前進させる条件では,この感覚が無くなるため,増幅 効果が消えました. 前進 上記の実験では,カメラを前進させる代わりにズームイン で相手の映像を拡大する条件との比較も行いました.この比 較は,遠隔操作ロボットのように被験者に操作を要求するシ ステムでは無いために可能となったことです.この比較では, ズームインに増幅効果は見られませんでした.この理由は下 図に示すように,ズームインでは運動視差が生じないためと 思われます. 前進 ズーム 知能・機能創成工学専攻 ■ 拮抗型空気圧アクチュエータを持つ脚ロボットの設計と 制御 ■ 二足歩行の創発 ■ 人間型拮抗駆動ロボットアームの開発と制御 ■ 人間型バイオニックハンドの開発と適応的マニピュレー ションの実現 適応ロボティクス研究室(細田研究室) 准教授 細田 耕 ( hosoda@ ) 教員室・研究室 M4-202 研究室 HP: http://www.robot.ams.eng.osaka-u.ac.jp/ 最後に人間の手について考え 人間,あるいはもっと一般的 ず,人間はさまざまな適応的な するために,空気圧で駆動され に生物の知能はどのように実現 ロコモーションを実現していま る人工筋肉を用い,これまでに てみましょう.人間の手は非常 されているのでしょうか?生物 す.ではこのギャップは,ロボ ないタイプのロボットを開発す に柔らかく,さまざまな物体に の知能は,その脳の機能を調べ ットと人間を含めた生物のどの ることによって,生物が持つよ なじんで,適応的にこれらを持 るだけで理解できるのでしょう 部分で埋められているのでしょ うな適応的なロコモーションを つことができます.また,皮膚 実現しようと考えています. の内部にはさまざまなセンサが か?人間の知能はそっくりその うか? 人間の腕も,その構造はロボ 存在し,物体を握る・持ち上げ この疑問に単純に答えること ままコンピュータにコピーする ことができるのでしょうか?わ は非常に難しいですが,われわ ットのそれとは違い,非常に複 ることによってそれに関するさ れわれの研究室では,このよう れの研究室では,その鍵が身体 雑な筋肉と骨格の構造になって まざまな情報を得ることができ な知能に関するなぞを,ロボッ の柔軟性にあるのではないかと います.これらの構造は,もち ます. 一方で,これまで作られてき トを創ることによって解き明か 考えています.たとえば走行の ろん人間のさまざまな知能的な 場合を考えてみましょう.従来 動きを実現するために非常に重 たロボットハンドのほとんどは すことを目的としています. 生物の歩行・走行といった移 考えられてきた走行制御を用い 要な役割をしていると考えられ 金属でできており,しかもセン 動(一般的にロコモーションと る場合,ロボットは着地の瞬間 ますが,これまでのロボットは サはその表面に貼られているだ 呼ばれます)は,われわれ生物 をセンサで捉え,その情報をも このような構造に関する考察を けでした.このようなロボット にとっては何の苦労もないよう とに,ロボット全体をうまく動 あまりしてきませんでした.わ ハンドは人間に比べて物体に関 に思われますが,これをロボッ かすようにコンピュータが全て れわれが持つ筋肉・骨格構造は, する情報を得にくいということ トで実現しようとすると,そこ の関節を制御する必要がありま 進化の末に獲得されたものであ がこれまでの研究でわかってい に存在するさまざまな問題点が した.しかし,人間の場合,先 り,これらの構造が持つ意味が ます. われわれの研究室では,人間 浮き彫りになってきます.たと に述べたように神経伝達速度が 理解できれば,たとえばわれわ 遅いので,ロボットと同じよう の実現する適応的な把握行動な れが自然にコップを取るために えば,これまでの研究では,ロ ボットで二足歩行を実現するた な方法を取っていたとしたら, 腕を伸ばす行動が,どうしてそ どを実現するために,人間型バ めには,それを制御するコンピ 適応的なロコモーションを実現 のようであるかを理解できるこ イオニックハンドを開発し,こ ュータは千分の一秒という非常 することはできません.しかし, とにつながるかもしれません. れを用いた適応的マニピュレー 人間の腕の構造が持つ知能的 ションに関する研究をすすめて に速い速度で,しかも複雑な計 人間には柔軟な筋肉と腱からな 算を必要としてきました.それ る構造があり,たとえば地面に な意味を調べるために,われわ います. ゆえにロボットには大きなコン 対する瞬時の応答は,このよう れの研究室では,人間の筋肉・ ピュータを搭載する必要性があ な筋肉の持つ柔軟性によって生 骨格構造を模したロボットアー ったのです.一方で人間の場合, み出されていると考えられます.ムを開発し,適応的な行動を生 このような考え方に基づき, み出す手法について研究を進め 神経の伝達速度はおよそ 0.1 秒 程度にしか過ぎません.このよ われわれの研究室では,人間に ています. うな遅い伝達速度にもかかわら 類似した柔軟な筋肉構造を模擬 51 マイクロ機械科学部門 知能・機能創成工学専攻 知能ロボット学研究室(石黒研究室) (協力講座: 基礎工学研究科 システム創成専攻) 教授 石黒 浩 ([email protected]) 助教 中村 泰 ([email protected]) 教員室・研究室 基礎工棟 D456 (豊中キャンパス) 研究室 HP: http://www.is.sys.es.osaka-u.ac.jp ■日常生活において人にサービスを提供する人間型ロボ ットとセンサネットワークの研究 ■人間と酷似したアンドロイドの開発と対人関係・社会関 係の原理探求 ■人間型ロボットの開発と人間の認知プロセスの研究 ■小型高性能の完全自律型ヒューマヒューマノイドの開 発と産官学連携チーム Team Osaka への参加 知能ロボット学研究室では, 実験を通して,ロボットの新 センサネットワーク 未来の人間社会を支える知的 たな可能性を探索しています. センサネットワークの研究 システムの研究開発に取り組 人間酷似型ロボットは,現存 では,全方位カメラや床セン んでいます.特に,人間と豊 するロボットの中でも最も複 サ等のセンサの研究開発,多 かに関わる人間型ロボット・ 雑な機構を有するクラスのロ 数のセンサからの情報を処理 アンドロイド・学習発達ロボ ボットで,見かけだけでなく, し,人間の行動を認識する分 ット・生体摸倣型ロボット(生 動作も人間に近づけるための 散視覚,分散聴覚,分散触覚 体摸倣ロボティクス研究室) 研究を行っています. の研究開発に取り組んでいま またこれらのロボットを開 す. の研究開発と,人間やロボッ トの活動をサポートする知的 発すると同時に,人がどのよ なセンサネットワークの研究 うにロボットと関わるかとい う,認知の研究にも取り組ん 開発に力を注いでいます. 人間と関わるための理想的 でいます.すなわち,ロボッ な機械が人間型ロボットです. トは人間を理解するテストベ 人間型ロボットを実現するに ットになるわけです. は,機械的な仕組みだけでな く,制御や情報処理の仕組み, 小型自律人間型ロボット ロボットの持つ可能性を, さらには人間そのものを研究 する必要があります.また, ロボット競技を通じて徹底的 人間が知的な情報システムの に追求する研究活動です.こ 恩恵を受けて生活しているよ こでは,コンピュータボード うに,ロボットにもその行動 の設計・製作から,ロボットの を支援し,ロボットの真に知 機構設計・製作,ソフトウェア 的な動作をもたらすための, 開発の全てに取り組み,ロボ 環境側の仕組み,すなわち, ットの未知なる可能性を探究 人間やロボットの行動を認識 しています. 特に今後は,飛んだりはね する多数のセンサからなるセ ンサネットワークを研究する たり,人間並みの運動能力を 持つロボットの研究開発や, 必要があります. 人間のように “はいはい” か ら歩行へと,徐々に運動能力 人間型ロボット 人間型ロボットの研究では, を発達させる赤ちゃんロボッ 人間社会で人間のパートナー トの開発に力を入れていきま として働く日常活動型ロボッ す. 人間型ロボットは環境に設 トの研究,人間のような高感 度で柔らかい皮膚で全身を覆 置されたセンサネットワーク われたロボットの研究,人間 と連動することによって,人 とは何か,人間とロボットの 間と関わるために必要な情報 関わりにおける本質とは何か を得ることができます.また を探求するために開発した, このセンサネットワークは, 人間酷似型ロボット(アンド ロボットだけでなく,ユビキ ロイド)の研究を行っていま タス社会における人間の活動 支援にも大きな役割をもちま す. 日常活動型ロボットの研究 す.センサネットワークと人 は,ロボットのハードウェア 間型ロボットはどちらも,近 及びソフトウェアの開発だけ 未来の知能化社会を支える重 でなく,実際の社会での実証 要な技術です. 52 また研究室内におけるセン サネットワークだけでなく, 実際の街や公共施設にセンサ ネットワークを張り巡らし, 現実の場で人の行動を認識し, ロボットの活動を支援する研 究も行っています. 知能・機能創成工学専攻 ■生体模倣型超多自由度腕型ロボットのゆらぎ探索に基 生体模倣ロボティクス研究室(松本研究室) づく制御手法の研究 ■生体ゆらぎに基づく細胞分化メカニズムを用いた複数 招聘教授 松本 吉央 ( matsumoto@ ) 教員室・研究室 ナノバイオロジー棟 D808 ロボットによる役割分化の研究 ■その他,“ゆらぎ”に基づく“環境の変化にロバスト” 研究室 HP: //www.yuragi.osaka-u.ac.jp/index.html で“人に優しい”“自然な”生体模倣型ロボットシステム の研究 近年,分子生物学などの分 野における研究より,環境の 変化に頑強で,またエネルギ ー効率のよい生体システム の機能発現には「生体ゆら ぎ」が重要な役割を果たして いることが分かってきまし た.我々はその知見をロボッ ト工学へ取り入れ,これまで の“硬い制御”とは異なる新 たな仕組みで動くロボット システムを実現することを 目指しています. 具体的には,まず「生体ゆ らぎ」を活かした適応・頑強 システムの原理を構成的に 理解します.そして,それを もとに「生体ゆらぎ」を模擬 する材料やデバイス,制御ア ルゴリズム等を組み込んだ 知的なロボットシステムを 構築することで,環境の変化 にロバストで,また人に優し い生体模倣・生体適応ロボッ トを実現する「生体ゆらぎ」 技術を開発します.現在の主 な研究テーマは以下の4つ です. 1.超多自由度の生体模倣型 ロボティックアーム 人間の上肢を模倣した骨格 構造と筋肉(マッキベン型空 気アクチュエータ)配置を持 つ 26 自由度のロボットアー ムは,冗長で非線形な性質を 持つためモデル化が困難で す.このようなアームを,生 体ゆらぎをモデル化した“ア トラクタ選択モデル”に基づ き制御する研究を行ってい ます.アトラクタ選択モデル とは,ロボットの行動に相当 するアトラクタの集合で表 現された解空間の中をノイ ズにより探索するという探 索手法で,ロボットの状態が よい場合はアクティビティ が上がりその行動を取り続 けるが,都合が悪くなったら アクティビティが下がり行 動をノイズによりランダム に変化させるという方法を 取ります.これは,まだ身体 モデルを獲得できていない 赤ちゃんが,試行錯誤しなが ら目標に手を伸ばすのとも 似ています.このような腕の 構造モデルがない状態から スタートして,人間の腕と同 様な柔軟な動きを実現する ことを目標としています. 2.超単純な1自由度移動ロ ボット 大腸菌は1自由度の鞭毛ア クチュエータと1つのセン サというきわめて単純な構 造でありながら走化性(誘引 物質へ近づく性質)を実現し ています.その動きには直進 と方向転換の2つのモード があり,センサの値の増減に より行動選択の頻度を変化 させており,また方向転換に は環境のノイズ(水分子のブ ラウン運動)を利用している ことが分かっています.我々 はその仕組みをヒントに,1 自由度のアクチュエータだ けの単純な構造のロボット に目標(光源)へ近づく機能 を実現させる研究を行って います. 3.細胞分化モデルに基づく 複数ロボットの役割分化 万能細胞が生物の体の組織 に分化していく様子は,複数 のロボットが特定のタスク を自律的に行うように変化 することと似ています.我々 は細胞分化モデルに基づき, ロボットの役割を分化させ る研究を行っています. 最終的には複数台のワカマ ルを用いた案内システムを 実現することを目指してい ます. 53 4.アンドロイドの自然なふ るまいの生成 人間に酷似した外観を持つ アンドロイドは,動作も人間 に酷似させないとより不気 味な存在になってしまうと 考えられます.そこで,人の 身体のゆらぎ,視線のゆらぎ, 役割のゆらぎなどを調べ,ロ ボットに実装することで,従 来よりも自然な存在感を持 つアンドロイドを実現する ための研究を行っています. また実現されたロボットの 動きが人にどのように受け 入れられるかと調べるため, 阪大病院の診察室での実証 実験も行っており,診察に陪 席するアンドロイドに適切 な動きをさせると,患者さん を癒しコミュニケーション を円滑にする効果があるこ とが分かってきています. (本研究室は文部科学省・科 学技術振興調整費プロジェ クト『生体ゆらぎに学ぶ知的 人工物と情報システム』の研 究推進のために設置された 研究室です) 在学生の声 伝達できるようなシステムを 開発しました.具体的には, ロボットの頭にカメラを取り 博士前期課程2年 村上 友樹さん 付けて自由に視点を変化させ 私の所属する研究室では, 人の「存在感」がどうすれば ることの出来るシステムや, テレビ電話のような映像を用 テレビ電話を通してでも伝わ 人がディスプレイ近づくとそ いたコミュニケーションシス るかということです.このよ れに合わせて可動カメラが自 テムについての研究を行って うにテレビ電話などを通して 動的に動くような仕掛けを付 います.遠くの人に会うため 遠隔地から存在感が伝わるこ けたテレビ電話を開発しまし に交通手段などを用いて移動 とをテレプレゼンス(存在感 た.研究ではシステムの開発 することは,とても時間的, 伝達)と呼んでいます.テレ に加え,被験者の方にシステ エネルギー的なコストがかか プレゼンスを強化する手法と ムを使ってもらうことで開発 ります.そこで,最近ではカ して,私は特に視点の移動に したシステムが実際に効果的 メラと大型ディスプレイを用 着目しています.私たちは普 であることを示すこともして いて,遠隔会議を行うことも 段人と会話するときでも無意 います. 増えてきました.しかしなが 識的に頭や体を動かしており, 研究室の生活ついても触れ ら,やはり実際に対面して話 その結果,視点の位置は刻一 ておきます.私たちの研究室 をする場合の方が,テレビ電 刻と変化しています.その視 では,他の研究室も交えて歓 話を通して話をする場合より 点の移動による見え方の変化 送迎会やバーベキューなどの ■テレプレゼンスの研究 もコミュニケーションが活発 (運動視差)によって人は立 であることが分かっています. 体的な奥行きを感じること そこで,テレビ電話と対面環 ができます.ところがテレビ 境では何が違うのか,どうす 電話の場合カメラは常に固 ればテレビ電話を対面環境に 定されているので映像の視 近づけることができるのかと 点は変化しません.そこで, いったことを調べています. 私は適切にカメラの位置を 言い換えると,遠隔地にいる 動かすことで,視点の変化を 通信 可動カメラ付きテレビ電話 ■愉快な仲間と研究生活 博士前期課程2年 私は繊毛運動や大玉送りな どの現象を工学的に応用した システムの一例として、揺動 スライダ・クランク機構(モ ータとレバーから構成され、 直線運動を回転運動に変換で きる機構)を並列配置した物 体輸送システムの仕組みや特 徴について基礎研究を行って います。 実験の様子 イベントをよく開催していま す.研究活動,ミーティング に加えて,そのようなイベン トや研究室旅行などを通して 親睦を深めることもしていま す. 最後に,研究以外の活動に ついて述べます.私は自身の 提案が情報処理推進機構の未 踏ソフトウェア創造事業に採 択され,ソフトウェアの開発 を行いました.作りたいもの をチームで一丸となって開発 し,形にすることができ,大 きな達成感を得ました. 以上のように,研究やその 他の活動に関しても,とても 充実した日々を送っています. 岸田 宏治さん 私は以前から生体模倣工学 に興味がありました。生体模 倣工学とは、自然界に存在す る生命体は多様な環境に適応 しており、この適応により生 じた特性を工学分野の問題に 応用するということです。こ のような背景があったので、 繊毛運動や大玉送りなどを既 に研究されていた先輩と共同 研究することになりました。 研究では、実験とシミュレー ションをそれぞれ行い、比較 検討することもあります。現 在はこの輸送システムにおい て、並列配置された機構間の 関係(間隔や位相差)が輸送 される物体の挙動にどのよう に影響しているのかというこ とを調べるために、輸送シス テムを定式化し、シミュレー ションすることで全体の挙 動の解析をしています。 所属している研究室は、主 にシミュレーションを活用す クでは、研究の相談とともに る研究を行うということもあ とりとめのない話で盛り上が ってコンピュータ環境が充実 ったりしています。野球やサ しています。コンピュータの ッカーなどのスポーツを盛ん 管理は学生が主体的に行うた に行っています。また、夏に め、コンピュータに関する幅 は一大イベントの研究室旅行 広い知識と経験を得ることが があり、メンバーの普段とは できるのもこの研究室の特色 違う一面を見ることができま であると思います。この恵ま す。 このように私は愉快な仲間 れた環境の下で精力的に研究 し、残り半年の研究室生活を とともに充実した研究室生活 有意義に過ごしたいと思いま を送っています。 す。 次に、日常生活の大半を過 ごす研究室の様子を紹介しま す。自由な雰囲気の研究室な ので、様々なキャラクターの 人達がいて、日々いい刺激を 受けています。メンバーの中 には朝早くから研究する朝型 の人もいれば、午後から本領 研究室旅行 を発揮する夜型の人もいます。 同期だけでなく、先輩後輩 間の仲がとても良いです。新 歓や忘年会の飲み会では、賑 やかに酒を酌み交わしたり、 研究の合間のコーヒーブレイ 54 大阪大学 工学部 応用理工学科 機械工学科目 大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻,知能・機能創成工学専攻 大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 Tel. 06-6879-4486(事務室) 大阪大学 大学院工学研究科 知能・機能創成工学専攻 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 Tel. 06-6879-7540(事務室)
© Copyright 2024 Paperzz