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特許とMA(医薬品市場販売認可)の相互影響について
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特許によって与えられる工業所有権、特に(第三者が特許権者の許可を得ず)製造、提供、商品化、使用、輸入、あるい
は特許製品の保有等を禁止する権利と医薬品市場販売認可(MA)との間には様々な相互影響が見られる。大きく分けて特
許医薬品と特許医薬品について申請する市場販売認可(MA)の間の相互影響、特許医薬品と特許切れ(あるいは特許切れ
となる)医薬品について申請するMAとの間の相互影響、の2つの問題を取り上げることができる。
特許とMA(医薬品市場販売認可)との間の相互影響
a) 補足保護証明(SCP)
フランス特許権及び欧州特許権の存続期間は出願日より数えて20年である。
一方MA(医薬品市場販売認可)取得には多大の時間が必要であり、特許製品がMAを得て市場流通するまでの期間、特許権
行使期間が短縮される。
MA申請期間中は薬品販売ができず、特許権を全期間にわたって享受できない不利を補う為、特許期間の延長がまず米国
で、ついで日本で認められた。またヨーロッパではフランスとイタリアでまず補足保護証明(SPC)が設定され、ついで欧
州連合の規模でも補足保護証明(SPC)が設定された。
仏国法律90-510条によるフランス補足保護証明(SPC)の有効期間
仏国1990年6月25日付法律90-510条によれば、薬品に関する特許、その薬品の製造法、その薬品製造に必要な成分、ま
たは同成分の製造方法は補足保護証明(SPC)申請の対象となり得る。
この法律によればフランス補足保護証明(SPC)の有効期間は特許有効期限終了時から7年を超えてはならず、またMA(医
薬品市場販売認可)取得時から数えて17年を超えてはならない。但しこの法律は(欧州SPCを導入した欧州政令発効時か
ら)無効となった。
同法律には、SPC(補足保護証明)申請にあたっては第1回目のMA(医薬品市場販売認可)取得年月日を計算の基礎とする
事と明文化されていない。この点を利用し、フランスでのSPC申請は最新のMA(医薬品市場販売認可)取得日を基になさ
れることが多かった。
いずれのMA(医薬品市場販売認可)取得日が採用されるのか?
パリ大審院(第一審)は専門薬Becotideの主要薬効を保護するSCP(補足保護証明)に関する幾つかの紛争において以下の
如くの判断を下している。
1/Glaxo対Promedical Chisei、1996年6月18日急速審理判決及び1998年2月18日パリ大審院本判決
2/Allen and Hanburys 対SCAT 及びAllen and Hanburys 対Pharmafarm パリ大審院1998年1月30日判決
上記判決で大審院は、SPC(補足保護証明)92C0211の有効期限が第2回目のMA(医薬品市場販売認可)取得年月日を基に
申請されているという理由で異論の余地があるとの判断はできない、と結論した。 判決文以下の通り:
“SPC(補足保護証明)はMA(医薬品市場販売認可)の2回目の取得年月日を基に申請されている。
工業所有権法第611―3条にはSPC(補足保護証明)交付にあたっての条件が規定されているが、条件の中に第1回目MA取
得年月日を基にすべきであるとは明記されていない事を当裁判所は確認する。
1992年6月18日の欧州政令はその第3条に、薬品のSPC(補足保護証明)交付について上記(第1回目販売認可の取得年月日
を基とすること)に相当する条件を明記しているが、対象は1993年1月2日以降に交付されたSPC(補足保護証明)だけであ
り本件はこれに該当しない。
更に1990年6月25日法の制定準備の国会で既に議員たちは、フランスの補足保護証明(SPC)制定法案とEEC(欧州共同
体)が準備していたSPCに関する政令との間に見解の相違があることを承知しており、補足保護証明の有効期限出発点を
厳しく解釈する欧州共同体案を敢えてフランス国会は採用しなかった点に注意すべきである。
当裁判所が補足保護証明(SPC)申請にあたっては、第1回目の医薬品市場販売認可(MA)取得年月日とすべきであると判決
することは工業所有権法L611―3条に変更を加えることになる。
よって工業所有権法611―3条の条件が満たされているからにはSPC92C0211の有効期限に異議を唱えることはできない
と判決する”。
上記フランス法が曖昧な為に過度の独占権が薬品に与えられ、同法設定が意図していた目的、即ち、MA(医薬品市場販売
認可)取得にかかる時間が長すぎ、特許権が全期間享受できない不便を補う目的でSPC(補足保護証明)が創設された本来
の目的、を逸脱したとの意見を我々は持っている。
但しパリ大審院は、欧州SPCを制定した欧州政令に従って販売認可の手続きがとられた医薬品に対しては、本当の(第1
回目の)MA取得年月日を採用するよう判決している。
1.
2.
Fisons対Europhta 1997年7月4日パリ大審院急速審理
Glaxo対Flavelab研究所、1998年10月30日パリ大審院急速審理
Glaxo社がFlavelab研究所を侵害の疑いで仮判決(急速審理)に訴えていた件は98年10月30日の同判決で訴えの内容に十
分な裏付けがないと言う理由で訴訟不受理が言い渡されている。同判決は99年3月26日パリ控訴院で再確認された。同事
件で取り上げられたSPC(補足保護証明)は第二回目(1983年)のMA(医薬品市場販売認可)を基に交付されていた。第1
回目のMA(医薬品市場販売認可)取得日は1979年であった。本件にあっては、SCP(補足保護証明)の有効期限には異論の
余地があり、Glaxo社の起こした本訴訟には十分な裏付けがないと判断された。
欧州政令1768/92による欧州SPC(補足保護証明書)の有効期限
薬品関係の特許にSPC(補足保護証明)の交付を可能にした1992年6月18日付欧州政令1768/92は、薬品(主要薬効、主
要薬効構成物質)を保護する特許、薬品製造法、同薬品の応用製品はSPC(補足保護証明)申請の対象になると規定してい
る。
欧州連合SPC(補足保護証明)有効期限は特許出願日とEUでの第1回目MA(医薬品市場販売認可)取得年月日の期間から5年
を引いた期間である。SPC(補足保護証明)が有効となってから最長でも5年で期限は終了する。また第1回目のMA(医薬品
販売認可)取得日から最長で15年間有効である。
b) SPC(補足保護証明)の保護範囲
フランスSPCの保護範囲
仏国法律90-510の第3条bisにはSPC(補足保護証明)はMA(医薬品市場販売認可)申請文の中に見つけられる特許部分を保
護すると明記されている。また仏国政令79-822の第93.2条を変更した1991年11月19日付政令91-1180は、「基とな
る特許の請求項のどの部分がMA申請の際とりあげられたのかをSCP(補足保護認可)申請の際に今一度明記しなければな
らない」としている。
上記法律(90―510条)の意味するところが曖昧なため、SPC(補足保護証明)はMA(医薬品市場販売認可)申請の際定義さ
れた薬品だけ、即ちある一定の形状の主要薬効で一定の薬量のもの、あるいは請求項で請求された薬品でMA記載の主要
薬効となるもの、だけを保護するのかどうかの問題が提起された。
パリ控訴院の1994年7月7日の判決は、この問題に明確な判断を下した。同判決はFisons社が同じ主要薬効だが異なった
形状のもの(異なった薬量の目薬、鼻薬、アンプル形状のもの)に関し申請した5つのSPC(補足保護証明)申請に関する
ものであった。
フランス特許庁長官は、同5つのSCP(補足保護証明)申請のうち4つは受理不可能であると判断した。理由は、同じ特許を
基にするSCP(補足保護証明)申請1つが既に特許と同じ保護をしているからと言うものであった。
控訴院は、“特許部分”と言う法律の定義を請求項の保護している範囲よりもっと狭い範囲に適用する狭義解釈をしてはな
らないとした。
判決文以下の通り:
“SPC(補足保護証明)の保護範囲をMA(医薬品市場販売認可)が特別に対象としているものに限ろうとする主張に反対し
たフランス特許庁長官の態度は正当である。そのような主張を支持し得る法律の文章はどこにもみつからない。フランス
工業所有権法第611―3条は、補足保護証明SPCは医薬品市場販売認可(MA)の“特許部分”について与えられる、とあ
る。本法律制定準備段階でも、“特許部分”を請求項よりもっと狭い範囲に狭義解釈することを認めるような解釈はされな
かったし、特許部分にみつからないものに保護を与えることは、特許権に照らし奇妙な発想である。フランス工業所有権
法611-2によるSPC(補足保護証明)に適用できる特許の対象(フランス工業所有権法612―6条)、特許の保護範囲(フラ
ンス工業所有権法第613―2条)を定義するのは特許請求項である”。
更に控訴院は上記の狭義解釈の主張は、既に交付されたSPCと同じ保護を求める別のSPC交付を禁じる政令79-822の第
93―4条の規定を踏みにじるものである、とも述べた。
判決文次の通り:
“保護範囲をMA(医薬品市場販売認可)で狙っている主要薬効の特別の形態にだけ狭めて解釈するのは、同じ特許について
SPC(補足保護証明)が既に交付されているならば別のSPCは交付できないとした1979年9月19日付け政令第93―4条
(政令文発令1981年11月19日)に反する”。
この判決は、SPC(補足保護証明)は特許の主要薬効そのものに対して交付されるものであり、この主要薬効の特別の形態
に対しては交付され得ない事を明確にした。
よって、フランス法によれば、SPC(補足保護証明)申請の対象となっている特許請求項が同じ物であれば、同じ主要薬効
について複数のSPC申請をしても不受理とされた。
これに反し同じ薬品について複数の特許が存在する場合、フランス法90-510に従い複数のSPC取得が可能だった例はあ
る。
欧州補足保護証明(SPC)の保護範囲について
1992年6月18日付け欧州政令1768/92の第4条には、SPC(補足保護証明)の保護はこれと相応する医薬品市場販売認可
(MA)が指している医薬製品でSPC(補足保護証明)の有効期限終了前に認可されていた該当医薬品の薬品としての使用
だけに及ぶ、としている。
ここでSPC(補足保護証明)の保護範囲は主要薬効だけなのか、塩やエステールといった副次成分も含むのかと言う問題が
提起された。
EU各国特許庁は、いろいろ異なった見解を出した。が、1996年7月23日の欧州政令1610/96の(農薬学関係製品のSPC
設定に関するもの)前文13 及び14、《注:これは同時に欧州政令1768/92の解釈としても通用する》にて以下のよう
な判断が行われた。
“基となる特許が主要薬効成分だけでなく(塩やエステルのような)副次成分も保護しているとき、SPC(補足保護証明)は
特許と同じ保護を(副次成分にも)与える。
主要薬効成分に対しSPC(補足保護証明)が既に交付されたからと言って、副次成分に対し(塩又はエステール)別の
SPC(補足保護証明)交付が妨げられる理由にはならない。但し、それら副次成分が基の特許において特別に請求されてい
る場合に限る。”
欧州政令1610/96 第3条では、《注:同条文はまた欧州政令1768/92 第3条の解釈文としても通用する》、同じ製品
に複数の特許を持つものでも複数のSPC(補足保護証明)交付を受けることはできない。これに反し同じ製品に複数の特許
があってそれらの所有者が異なる場合はそれぞれの所有権者がSPC(補足保護証明)申請を行うことは可能である。
特許と特許薬品のgeneric drugs=特許切れあるいは特許切れとなる医薬品=の市場販売認可(MA)との相互影響
特許医薬品期限終了前に第三者が、特許と同じ医薬品の市場販売(特許期限終了後は普通医薬となるのであらかじめその
商品化を準備する)の準備をする行為は特許侵害行為かどうか。
a) 臨床試験
特許権は一連の第三者の行為を禁止するが、(禁止行為に含まれない)一定の行為を可能にする為ある制限が設けられて
いる。
フランス特許法613―5条では特許付与された発明に関する実験的行為は特許権を理由にこれを禁止することはできない
としている。
同様の法律がヨーロッパ、特に英国とドイツに存在する。
ここで、MA(医薬品市場販売認可)取得にあたって必要となる臨床試験のどの範囲までが実験的行為として特許権除外範
囲に入るのかという点を巡って問題が提起された。
裁判所の一般的な判断はMA(医薬品市場販売認可)取得の為にもっぱら行われる臨床試験は侵害行為に相当し上記の実験
的行為の範疇からは除外されると言うものである。
例えば、1984年11月27日付けのパリ控訴院判決は、 フランスにおいて市場販売認可取得を目的に薬品を準備する行為は
非商業的な目的を持った行為とはみなされない、とした。
上記の如くフランスの法廷は市場販売認可取得が目的の行為は実験的行為とみなされないばかりか、非商業的目的を持つ
行為ともみなすことはできないとの判断を明らかにした。
しかしながら、上記判決においては、フランスのMA(医薬品販売認可)は平均して特許期限切れの約8年前に出されるのが
一般であること、また上記判例の侵害者が該当特許薬品の期限切れより約8年前に商業化を狙った真剣な試験をしていた
ことに注意する必要がある。
最近、特許薬品を試験する目的を持った臨床試験でも工業所有権法第613―5条に照らして実験的行為であると判断され
た判決が出た。
1999年1月27日付けパリ控訴院判決を以下に紹介する。 Wellcome対Parexel International及びFlamel Technologies
本事件でWellcome社は同社特許製品のaciclovirの薬効時間を長引かせることのできるマイクロカプセル技術を試そうと
したParexel International社とFlamel Technologies社の臨床試験を禁止させるよう裁判所に訴えた。
Wellcome社のこの訴えはまずパリ大審院によって(1998年3月6日仮判決)次に大審院によっても退けられた。 判決文
次の通り、
“工業所有権法613―5条は特許発明についての実験的行為について特許権を理由にこれを禁止することはできないとして
いる。
Flamel社が行った薬品alciclovirの一日の薬剤量適量に関する一連の比較テストは効力持続の為の技術テストであり特許
発明そのものを試験の対象にしていないので、実験行為ではないとするWellcome社の訴えは真剣な裏付けに欠ける。
さらにFlamel社が行った臨床試験はいわゆる第3段階に相当し、実験的性格を逸しており上記613―3条に規定されてい
る禁止行為の範疇に入るので臨床試験を中止させるべきであるというWellcome社の主張は受け入れ難い。
一連の臨床試験がうまくいったと仮定し、またその目的が、例えば将来の商品化を狙っての試験であるとしても、この試
験自体は実験的性格をはっきり有している。さらには商品化に備えMA(医薬品市場販売認可)を後者が準備したとして
も、準備行為は侵害行為ではないことが既に判例で明らかにされている。
第一審の判決はよって正当であり控訴院もWellcome社の訴えをここに退けることを判決する.”
本判決はドイツ最高裁の1995年7月11日付判決(臨床試験に関するもの)及び1997年4月17日(臨床試験第2段階)と同
じ方向づけをしている。
1995年7月11日判決でドイツ最高裁は、販売認可取得が目的で行われた臨床試験であっても特許薬品の新しい応用範囲
を求めての試験であるときは実験的行為として認められる場合があると判断した。
1997年4月17日にも上記の実験的行為に含まれる行為範疇を明らかにする判決を行っている。
事件はKirin-Amgen社の特許ライセンス実施者であるOrtho製薬会社が特許侵害の疑いでMerckle社を訴えたものであ
る。訴えは欧州特許148605が開示している遺伝子工学により得ることのできるerythoropoietineを使って後者が臨床試
験を行ったのは特許侵害にあたるというものであった。
同上臨床試験の目的はMerckle社が開発した製品は本当に商品化できるものかどうかまた特許権者及びライセンス実施者
の製品に比べての薬効と副作用が違うかどうかを試験するものであった。
一審及び二審はこの臨床試験は特許侵害にあたると判断した。
最高裁は、同臨床試験は特許薬品についての未知の情報、特にその薬効と副作用についての情報、を得る為行われたので
あるから実験的行為の範疇に入り、特許権は及ばないと下級裁判所の判決を覆す判断を行った。
但し、パリ控訴院判決及びドイツ最高裁の2つの判決のみをもって、MA(医薬品市場販売認可取得)を目的に行われる全て
の臨床試験は今後実験的行為とみなされると判断してはならないことを付け加える。
特許発明をコピーすることのみが目的の臨床試験や該当特許薬品の特許権社による商品化を妨害することのみを目的とし
た臨床試験はもちろん今後も特許侵害と判断される。
また特許薬品のバイオ均等物の臨床試験も実験的行為の範疇には入らない。
b) サンプル提供
オランダ裁判所は何度かにわたって有効特許によって保護されている薬品と同じ薬品の市場販売認可取得を目的で第三者
が行う試験行為への罰則を判決したことがある。
例としてここで、TAGAMETの名前で商品化されている専門薬品の主要薬効成分cimetidineの製造方法を保護する特許を
巡っての侵害紛争を取り上げる。
1993年8月6日、SmithKline社とFrench Laboratories社はGenerics社を相手取って後者がGenfarma社を通して取
得した、cimetidineを基礎とした専門薬品の市場販売認可の件で暫定禁止命令を伴う次の要求を掲げて訴訟に入った:
Generics社がオランダ国内でcimetidineを提案したり供給したり、第三者に Generics社が取得した販売認可権
を委譲したりすることを禁止する事を判決すべきである、
この禁止期間は、特許権終了後14ヶ月目にあたる(注:これはオランダでの薬品市場販売認可取得に要する平均期
間に相当する)、1994年11月5日 とするべきである。
仮判決でも控訴審でもオランダ法廷はこの訴えを認め暫定禁止命令が下された。
Generics社はこれを不服として破毀院に訴えた。
Generics社はオランダ法廷が上記の判決を出す根拠としたオランダ国内法、及びGenerics社に言い渡された判決に見出
される罰則内容はローマ条約第30条で規定されている禁止措置に相当し、同条約第36条の例外適用の範囲に上述の罰則
措置が入る根拠はないと訴えた。
欧州共同体発足を規定したローマ条約第30条の内容は手短かに説明すると全ての商品は欧州共同体圏内を自由に流通でき
る。というものである。
従って、欧州共同体加盟国間で輸入量の規制やその他の商品の自由流通を妨げるような措置は禁止されるとされている。
ところが、特許権は一種の独占権である為、同条文内容と矛盾して特許権が商品の自由流通を妨げる事実が存在する。
よって36条で、工業所有権行使を理由とする自由流通の規制は例外的に認められると規定されている。但し、その行使が
共同体参加国間の商品の自由流通を妨げる事のみを目的になされたり、相手方の流通規制に対抗する差別的報復として行
使された時にはこの限りではないと規定されている。
オランダ破毀院は事件の判断を欧州裁判所に仰いだ。
1997年7月9日欧州裁判所は次のように判断した。
薬品の製造方法についての特許を持つ特許権者が、第三者が同じ製造法によって製造された薬品サンプルを医薬品
販売認可取得が目的で提出する行為を発見したときその行為を法的に禁止することが国内法により可能ならば、こ
の国内法はローマ条約30条の商品の自由流通を妨げる規制に相当するが、同時に36条の例外適用の範疇にもこの
法的規制は入る。
また、特許有効期限終了後一定の期間、侵害者に該当薬品を販売することを禁じる国内法が存在して、その国内法
の目的が侵害者に不当な利益を与えない事にあるのなら、この国内法はローマ条約30条の商品の自由流通を妨げ
る規制に相当するが、同時に36条の例外適用の範疇にもこの法的規制は入る。
更に、国内法を適用した裁判官が侵害者に、薬品販売認可について欧州政令が定めている最大期間を超える期間そ
の薬品の販売を禁止したとしても、その国内法の存在する欧州連合加盟国内の薬品販売認可にかかる期間がそれだ
け余計に必要なら、裁判官が適用した侵害者への罰則はローマ条約第36条と矛盾しない。
c) 行政手続き
(第三者が行う特許薬品と同じ薬品の)市場販売認可申請手続き及び手続きにあたって必要となる健康保険で払い戻しが可
能な薬品リストへの登録手続きは工業所有権法613―3条の侵害行為に相当するとはみなされない。
1997年7月4日パリ大審院急速審理仮判決(Fisons Plc対Europhta)を以下に抜粋する:
“該当市場販売認可申請がある薬品販売の事前準備に相当しても、申請者はただ、その薬品を商品化したいと望んでいる
だけで、直ちに特許侵害であるとは判断できない。何故なら、この申請でもって(第三者が)該当特許薬品を一般の興味
のある人々に提供する行為を犯した事にはならないからである。
また本件MA(医薬品市場販売認可)が官報に掲載された事実また侵害嫌疑製品が健康保険の払い戻しリストに掲載された
事実があるとしても、これらの行政手続きは、法律でいう、特許権者が侵害行為を認知した出発時点として考慮すること
はできない”とした。
上記と同様の判断が下された判例をもう一つ紹介する(Glaxo対SCAT及びPharmafarm) 1998年1月30日パリ大審院
判決次の通り:
“医薬品市場販売認可取得と該当薬品を健康保険払い戻し可能な薬品リストに登録する手続きは薬品の市場販売にあたっ
て必要不可欠な準備手続きである。
とはいえ、上記手続きはあくまで販売前の準備行為にすぎない。上記手続き申請をしたからと言って申請者が実際に市場
販売を実施しなければならない義務はない。販売開始を遅らせたり、販売放棄を決定したりすることもできる。本件に関
して言えば、申請者はBECOTIDE250の特許期限が終了するまで申請薬品の市場販売開始を待つことができる。
特許薬品の所有者がその競争相手に特許期限あるいはSPC(補足保護証明)が終了するまで市場販売認可申請を禁止する
行為は市場自由競争の原理に反する行為である。競争相手が該当薬品の特許期限終了と同時に同じ薬品の自社ブランド薬
を発売できるようにあらかじめ市場販売認可等必要な手続きを完了したいと希望するのは当然の行為である”。
本判決においてパリ大審院は、SCAT社が該当薬品の製造を開始したり保管したりの事実が一切確認されないのであるか
らSCAT社を侵害者であるとは言えない。また該当侵害嫌疑薬品の提供あるいは販売の事実が欠如しているからに
は、MA(医薬品市場販売認可)および健康保険払い戻し可能な薬品として登録する手続きをしたという事実だけでSCAT社
が特許侵害を侵したと断定することは不可能である事を明確にした。
また別の事件で破毀院も1998年3月24日判決でMA(医薬品市場販売認可)の官報掲載は特許侵害行為に相当しないと断言
している。
本事件では、Allen&Hanburys Ltd.は、専門薬BECLOJET250に関し、Promedica社が取得したMA(医薬品市場販売
認可)が、1994年11月5日の官報に掲載されたことを知り、後者に対し同薬品開発と該当専門薬の製造を中止するよう求
めて裁判に入った。
大審院は1996年6月18日付仮判決で告訴側の訴えを認めた。
控訴院は、Allen&Hanburys社は侵害行為を知った時点で速やかに侵害本訴訟に訴えなければならないという工業所有権
法615―3条の規定を尊重しなかったという理由で仮判決を覆す判断を行った。控訴院は、615―3条に照らして告訴側は
1994年11月5日のMA取得の官報掲載日をもって侵害を知るに至った日として裁判を開始しているべきで、告訴側が侵害
差押さえを行った1996年3月5日をもって侵害事実を認知したとは主張できないとした。
判決文抜粋次の通り:
“MA(医薬品市場販売認可)は薬品の市場販売を認可するものであるが、それだけでは実際の市場販売行為とはみなされな
い。しかしながら同認可がなければ薬品の市場販売は不可能な訳であり、販売開始に先立って必要不可欠なものであ
る”。
上記控訴院判決は破毀院により破毀された。MA(医薬品市場販売認可)の官報掲載は工業所有権法第613―3条,613―4
条に照らして侵害行為にはあたらない、という理由による。
判決文抜粋次の通り
“上記法律の規定に照らしてMA(医薬品市場販売認可)の官報掲載は特許侵害行為には相当しないのであるから、またその
他の事項からも確認される如くAllen社が相手側の侵害行為を(同じく工業所有権法にある法律の規定に従ってAllen社の
請求により行われた)侵害差押さえの時点より前に認知していたとは断定できない。よって控訴院は同法律規定を誤って
解釈した、と判決する。”
特許権者側が、侵害行為の暫定禁止措置をとらせる為の条件である、“侵害事実を知った時点で速やかに暫定禁止要求を
行っていなければならない”という工業所有権法の規定に照らし、MA(医薬品市場販売認可)の官報掲載が侵害認知出発時
点と成り得るかどうかの問題は本判決で、“不可能である”と判断された。
結論
MA(医薬品市場販売認可)を利用して特許所有権者は、一定の条件のもとMA(医薬品市場販売認可)で申請されている薬品
の主要薬効につき特許独占権の延長を得ることができる。
特許侵害とみなされる行為はフランス工業所有権法613―3条と613―4条に規定されている。
特許薬品の特許期限終了前に同じ薬品を第三者が将来の商品化のため準備する一定の行為は上記613―3条、613―4条に
照らして侵害行為だとはみなされない。その行為とはMA(医薬品市場販売認可)申請、MA(医薬品市場販売認可)取得事実
の官報掲載、及び健康保険払い戻し可能薬品としての登録のことである。
但し、MA(医薬品市場販売認可)取得にサンプル提出が必要な場合は侵害行為とみなされる。何故なら特許薬品の期限が
終了する前に、同じ薬品をサンプルとして提供できるということは侵害薬品が存在する証拠を示しているのと同じだから
である。
オランダが、MA取得にあたって提出されたサンプルを理由に侵害者に罰則を課した判決を出したことにより、欧州連合
加盟国によってMA手続き内容にばらつきがあることが明らかになった。
但しオランダのMA規則は最近変更となり、1998年からオランダでもMA取得にあたってサンプル提出は要求されなく
なったことを付け加える。
臨床試験が、特許製品の実験的行為であるときは、その実験の目的が商品化を狙っているものであっても613―5条を適
用して特許権が及ばない行為と判断される。
これに対し特許薬品をそのままコピーする目的で行われる臨床試験はもちろん613−5条に規定される例外適用は受け
ず、侵害行為とみなされる。
侵害疑義者に暫定禁止命令が出されて臨床試験の継続が禁止された時、(そして判決が確定したとき)はオランダにおけ
るGenerics社の例のようにMA取得にかかる期間に相当する期間、特許薬品の有効期限終了後も侵害製品の商品化が禁止
される罰則を受けることになろう。
米国、オーストラリア、日本などでは特許薬品の特許期限終了前でも第三者が、特許薬品と同じ医薬を市場販売する目的
で臨床試験をすることが許されている。臨床試験禁止命令を受けるのを避ける為、ジェネリック薬品(特許切れあるいは
特許切れになる薬品)を製造する薬品会社は臨床試験禁止のない国あるいは保護のない国で臨床試験をし、その後各国で
行政上必要な届けを出すのが一般である。
© Cabinet Beau de Lomenie 1999年 - Marie-Louise Gillard 翻訳渡辺恵子
**
CCP(Certificat Complementaire de Protection)英語ではSPC(Supplementary Protection Certificate):補
足保護証明 AMM (Autorisation de Mise sur le Marche)英語ではMA(Marketing Authorisations):医薬品市場
販売認可
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