2016 年 3 月 グローバル債券市場レポート 本書はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル債券運用部門が作成したレポートを邦訳したものです。また、2016 年 2 月現在の 筆者の見通しおよび見解に基づくものであり、市場および経済状況の変化により必ずしも実現されるとは限りません。また、特に断りのない限り時点は 2016 年 2 月末現在です。 二極化した 2 月の市場 1.アウトルック 景気後退に対する不安に原油価格下落を巡る懸念が拍車をかけ、2 月のリスク資産のパフォー マンスは低迷した。株式とハイイールド債を筆頭に、リスク・プレミアムが大幅に上昇した。しかし 2 月後半に原油価格が落ち着きを取り戻すにつれ、市場は反発した。確信を持って市場が底入れ したと判断するのは時期尚早ながらも、今後数カ月にわたり、経済指標は徐々に改善するとみて いる。その背景には、ドル高、原油価格の下落、中国の成長鈍化といった逆風が和らぐことがあ る。足元、ボラティリティが解消するとは限らないが、ハイイールド(HY)市場や新興国(EM)市場 をはじめ、多くのリスク資産の利回りは、今や一段の悪材料に対しても大幅な安全余裕度が見込 める水準にあると考える。これらの資産クラスが抱える更なるリスクにも動揺しない、忍耐強いバリ ュー投資家には、機会が見込めよう。 2 月は国債が好パフォーマンスを記録した。米連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げの 可能性は、今や国債市場にほとんど織り込まれていない。このため、経済指標が 1 月や 2 月初 めの様相から一変すれば、失望が広がる可能性がある。とはいえ、経済見通しに関わる不透明 感と、とりわけ新興国に関る様々な問題を踏まえるならば、デュレーション・エクスポージャーの引 き下げはお勧めしない。我々の見解では、国債の潜在的な安定性の高さに着目することで、なお 大きな機会が見出せよう。以上により、新興国国債市場へのさらなる資金配分を検討する。例え ば、好パフォーマンスを上げている東欧諸国の国債市場は、引き続き堅調な相対パフォーマンス が予想される。さらに、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、インドの投資機会も、通貨と利回りのバリ ュエーションが「フェアバリュー」内で魅力的な水準となりつつあるのに伴い、改善傾向にある。 クレジット市場は魅力的な機会を提供しているとの考えに変化はない。焦点は、バリュエーショ ンの妙味が際立っているとみられる金融機関の劣後債に置く。米国投資適格(IG)市場と HY 市場は、マクロとクレジット市場双方のファンダメンタルズの非現実的なまでの悪化を織り込んで おり、投資家に報いつつあると思われる。 全体として、エージェンシー・モーゲージ担保証券(MBS)はそれ自体、妙味があると言える が、モーゲージ MBS はよりクレジットへの感応度の高いポートフォリオを補完することができる。 現在の環境において、このことは貴重である。欧州では、2015 年から 2016 年初頭にかけて、 英国および欧州周縁国のスプレッドがワイド化した。このことが魅力的な買い機会を表していると 受け止めたい。欧州不動産市場は引き続き回復基調にある。とりわけ欧州周縁国は、ピーク水 準を依然として大幅に下回ったままであることに留意したい。加えて、欧州中央銀行(ECB)に よる経済刺激策の導入が、不動産価格を下支えすると期待される。 1 アウト ル ック 金利および為替見通し 新興国市場見通し クレジット市場見通し 証券化商品市場見通し 2 市場サマリー 先進国債券市場 新興国債券市場 1)米ドル建て新興国債券 2)現地通貨建て新興国債券 3)新興国社債 社債市場 証券化商品市場 1 グローバル債券市場レポート 2016 年 3 月 2 月のリスク市場は前半と後半で様相が一変した。月初は 1 月 向と極めて密接に連動していることからすれば、リスク・セン のネガティブな方向性をそのまま引継いで、困難な展開を見せ チメントは現在の過度に弱気な水準から回復することとなろう。 た。市場の焦点は引き続き中国の成長減速に対する懸念と、原 油価格の容赦ない下落に向けられた。加えて、銀行部門に対す る懸念も改めてぶり返した。中国では、政策当局が割高感のあ る人民元(CNY)に対処しつつ、経済を消費主導の成長へと秩 序だった転換に導いていけるかに、依然注目が集まっている。 実力以上に評価されている可能性のある人民元は、生産コスト の低い他の諸国に対する中国の競争力低下を招いている。さら に、イラン原油が国際取引市場に復帰するに伴い、生産能力が 一段と拡大するとの見通しに市場が注目するにつれ、原油価格 は続落した。原油価格が数年ぶりの安値を付ける中にあっても、 センチメントが回復すれば、リスク資産の一角はアウトパフォ ームする公算が大きい。例えば、新興国の現地通貨建て債券と 通貨は、過去 3 年にわたりアンダーパフォームした結果、多少 の価値が浮上している。2008 年の危機の局面を除き、新興国の 現地通貨建て債券のスプレッドは過去 11 年間で最も高い水準 に達している。ファンダメンタルズが相対的に堅調で、新興国 が直面している現在の逆風を耐え凌ぐことができるとみられる 国やセクターは、このところの市場の調整を経て、機会が浮上 していよう。これらの資産の多くは現在、魅力的な利回りを提 供していると考える。 OPEC(石油輸出国機構)は市場介入を行なわないとの決定を 下した。このことも、原油価格の下落を増幅した。とりわけ米 他方、一部の地域ではデフレ/景気後退の流れが執拗に続いて 国や欧州で軟弱な経済指標の発表が相次ぎ、新興国の成長低迷 いる。日本では、日銀は一段と強力な景気刺激策を打ち出して が先進国市場に影響を及ぼしている可能性が懸念され、市場セ いるにもかかわらず、市場はその効果に懐疑的で、特にマイナ ンチメントが冷え込んだ。こうした中、米国を中心に景気後退 ス金利の効果を疑問視している。欧州では、マイナス金利政策 のリスクが一段と意識された。米国ではクレジット・サイクル が銀行の収益を圧迫し、主要行のスプレッド急拡大を招いてい が後半に入った兆しが浮上、一時は FRB も引き締めスタンス る。加えて、1 月のユーロ圏のインフレ率はマイナスに転じ、 を強めた。 成長への懸念が改めて高まった。中央銀行は、3 月の会合では その決意と力を市場に証明すべき、との圧力にさらされている。 しかしながら、2 月第 2 週に市場センチメントは底入れし、多 米国の製造業は引き続き後退局面にある。 くの市場が 2 月末に向けて反発に転じた。原油価格は相変わら ず乱高下を続けたものの、月間安値からは 18%程度上げ戻して 政策が市場の変動性を高める傾向も一層強まっている。ポルト 2 月を終えた。我々は 2016 年に米国が景気後退局面に入るとは ガル、スペイン、アイルランドでは数年にわたり緊縮策を導入、 みていないし、2017 年についても同様だが、この予測に対する 一定の成果を上げてきたにもかかわらず、反緊縮を掲げるポピ 確信はやや揺らいでいる。全体として状況は、市場が過度に弱 ュリスト周辺政党が支持を集め、政治的な手詰まり状態に陥っ 気になっていることを示唆していると思われ、2 月後半に起き ている。そうでなくとも高まっていた政治的な緊張を難民危機 たリスク・ラリーが、少なくとも当面は継続する公算が高い。 が増幅し、2017 年の独仏の総選挙や 2016 年 6 月の英国の EU 長期的には、クレジット市場と資産担保市場には割安感がある 離脱(Brexit)を問う国民投票の行方に影を投げかけている。 と考えられ、リスク・プレミアムが大幅に縮小することとなろ 米国でさえ、政治家ですらないポピュリストの台頭が明らかだ。 う。 国民の恐怖を掻き立てようとする言動が、世界的なリスクの源 となり始めている。 原油価格が 2 月半ばに新たな安値を付けるなか、株式とハイイ ールド債を筆頭に、リスク資産は原油価格の変動に対する連動 性を大きく高めた。一方、米国の経済見通しは幾分、不透明感 が薄れ、足元の景気後退懸念は行き過ぎだった可能性が確認さ れた。コア個人消費支出(PCE)は着実に上昇基調をたどり、 前年比 1.7%に達した。このことも、総合インフレ率の低下は 国内経済の構造的な低迷が原因ではなく、原油価格の大幅下落 の副次効果であるとの見方を後押しした。したがって、原油価 格が多少なりとも反発すれば、ベース効果により総合インフレ 率が回復することもあり得る。原油価格は引き続き変動性の高 い展開を見せようが、需給バランスは改善し、2016 年の原油価 格安定につながるとみている。現在の市場心理は原油価格の動 金利および為替見通し FRB は今回の利上げサイクルは「緩やかなペース」になると約 束している。最近の市場の乱高下に照らしても、恐らくこのこ とは確実だろう。だが市場は米国経済について悲観的過ぎる一 方、利上げについては過度に楽観的に受け止め、この「緩やか なペース」という表現が、利上げが一切ないことを意味すると 捉えている節がある。2016 年に、市場が現在織り込んでいる以 上の追加利上げが行なわれる可能性は十分にある。他方、世界 経済の相対的な低迷と金融情勢の引き締まりを踏まえるならば、 FRB はあらゆる手段を用い、金利がハト派的な利上げの道筋を 2 グローバル債券市場レポート 2016 年 3 月 たどるよう誘導すると思われる。つまり、市場が積極的に米短 で大規模な景気刺激策が導入されることが引き続き予想される。 期債の再評価を進めた場合には、実際の利上げの道筋が失望を 製造業購買担当者指数(PMI)は安定的ながら低水準での推移 呼びかねない。こうした動向に照らして、米国のデュレーショ が続いているため、今後追加的に、おそらくは四半期ごとに、 ンを引き続き小幅アンダーウェイトとする。さらに、TIPS を通 金利または預金準備率(RRR)の一段の引き下げ、インフラ支 じた現在の市場のインフレのプライシングは、インフレ上昇の 出、そして信用状況の緩和などの政策が打ち出されよう。不動 可能性を過小評価していると考えられるため、インフレ連動債 産価格には引き続き安定もしくは回復の兆候が見られ、今後と をオーバーウェイトとする。 も成長を下支えすると思われる。中国の経済政策担当者は向こ ECB による継続的な資産買い入れにより、ユーロ周縁国の実質 利回りは低下に向かうと予想される。ECB の目的は、インフレ 期待を上向かせるべく、金融および経済のリバランスを実現す ることにある。以上の観点から、イタリアとスペインのインフ レ連動債をこれまで通りオーバーウェイトとし、ユーロ圏のデ ュレーションを概ね引き続きニュートラルとする。 オーストラリアとニュージーランドは、中国関連コモディティ の低迷を主因とする景気減速と成長鈍化への配慮から、金融緩 和を維持すると考える。両国の国債は、今後 1、2 年は米国債 をアウトパフォームするだろう。オーストラリアとニュージー ランドの国債はオーバーウェイトを維持する。 う 6-9 カ月間、対通貨バスケットで人民元の取引バンドを拡 大するとも考えられるが、中国が「通貨戦争」を仕掛けるとの 憶測を避けるために、人民元の急激な動きは避けるだろう。9 月の G20 サミット、さらには 10 月に国際通貨基金(IMF)の 特別引出権(SDR)に実際に採用された後は、人民元急落のリ スクが見込まれる。 新興国では、ソブリン格付けの引下げリスクが高まっている。 とりわけブラジルは、ムーディーズも格付けを非投資適格級に 引き下げた。南アフリカは、12 月にフィッチが BBB から BBB -にソブリン格付けを引下げており、ムーディーズがこれに続 くとみられる。さらに、スタンダード・アンド・プアーズは 1 月、ポーランドの格付けを引き下げて市場を驚かせた。これら 新興国資産は、大幅な下落を経て投資価値が浮上し始めている。 の動きは、格付け機関がこれまでの格下げサイクルよりも、先 中国の成長と密接に結びついている他の多くの新興国と対照的 回りして対処する傾向を強めていることを浮き彫りにしている。 に、メキシコは米国経済の回復に伴ってファンダメンタルズの トルコについては、総選挙の結果を受けて投資適格を維持でき 改善が見込まれる。この点を考慮し、新興国の中ではメキシ ると予想している。だが、それには同国が財務規律に再び取り コ・ペソと同国国債を強気にみている。中欧の債券も魅力的だ 組み、中央銀行の独立性が疑問視されるような言動を改めて慎 が、最近のアウトパフォーマンスに鑑み、他の市場へのポジシ むことが前提となる。一方、格下げ基調に逆行して格上げの候 ョンのシフトを検討する可能性もある。 補となっている新興国もある。例えば、ハンガリーは今年前半 通貨ポジションについては、FRB が年内の追加利上げに向けて にも 5 年ぶりに投資適格級に復帰するとみている。またフィリ 準備を整えるに伴い、いずれ米ドル高基調が再来するとみてい ピンも格上げとなろう。 るものの、目先、ドルが反発する公算は小さいだろう。一方、 新興国市場は、先進国市場との成長較差が縮小し、グローバル 世界経済の緩やかな成長、中国経済の減速、ハト派色を強める 金融危機以降、ファンダメンタルズも弱まっているとはいえ、 中央銀行の政策を勘案し、コモディティ通貨およびアジアの通 経済は 10-15 年前に比べて依然健全な状態にある。ただ、バ 貨をアンダーウェイトとする。 リュエーションが極めて魅力的とは言えず、ファンダメンタル ズの改善見通しも明確ではない中で、新興国が経済的課題に対 新興国市場見通し 今後数カ月にわたり注視を続ける最大のリスクとしては、米金 処し、投資家の幅広い信頼を取り戻すには、構造改革に改めて 取り組む必要がある。この点に関し、注目されるのがインドネ シア、インド、そして最近ではアルゼンチンである。これらの 利上昇の可能性、中国経済の成長の道筋、為替および金融政策、 国は、改革派の指導者が選出され、経済がしかるべき方向に向 コモディティ価格の動向が挙げられる。 かう第一歩を踏み出した。ベネズエラでは、先の議会選挙にお 全般的には、2016 年から 2017 年にかけてブラジルとロシアの ける野党の勝利を受けて、政治的改革の余地さえ視野に入って ネガティブな影響が弱まれば、新興国の成長は緩やかに回復す きたとも思える。長期投資家にとって、平均的に見て新興国の ると予想している。中国については、ハードランディングを回 債券は、投資適格資産としては相変わらず魅力的な実質利回り 避するとの見方を変えていない。しかし、今年の中国の「実際 を提供している。さらに、従来よりも程度は薄れているとはい の」経済成長率は、政府が目標とする 6.5%には遠く及ばず、 え、キャリーとスプレッド縮小の可能性を提供している。 5.5%近くにとどまろう。このような環境下、財政と金融の両方 3 グローバル債券市場レポート クレジット市場見通し エネルギー市場では乱高下が続き、主要リスク市場すべてに下 げ圧力を及ぼしている。原油価格と株式、クレジット、インフ レ期待の間の相関が極端に高まっており、国債利回りとの相関 さえ例外ではない。原油市場の低迷は、主に供給サイドに起因 している。すなわち、サウジアラビアとクウェートが供給を拡 大している一方、最近の制裁緩和を背景にイラン原油が大量に 2016 年 3 月 に回った。金融機関が発行したハイブリッド・ノートの取引に 関わる資本コストの上昇を受けて、マーケット・メーキング能 力が限定されたところに、これらの債券に対する新規需要の落 ち込みが重なって、2 月初めの急落につながった。しかしなが ら、大幅に売られたことでバリュエーションが極めて魅力的に なったため、若干の新規投資家が市場に参入した結果、月末に 価格が急回復した。 市場に供給されるとの思惑が高まっている。供給拡大を受けて クレジット市場全般にわたり、バリュエーションは極めて魅力 一時的に需給バランスが崩れ、在庫が歴史的な高水準に膨れ上 的な水準に達していると思われる。とりわけ米国投資適格クレ がって、価格の乱高下を引き起こしている。しかしながら、市 ジット市場とハイイールド市場は、非現実的なまでのファンダ 場には通常、自己調整機能が備わっている。投資の経済性が厳 メンタルズの悪化を織り込んでおり、投資家に報いつつあるよ しさを増すに伴い、すでに高コスト・プロジェクトは大幅に縮 うだ。景気後退期やシステミック・ストレスがかかった時期を 小されている。原油市場の需給サイドを見ると、新興国の消費 除けば、スプレッドがこれほどワイドになったことはない。現 が引き続き伸長していることに加えて、価格下落に伴って需要 在のリスク・プレミアムは、デフォルトの極端な上昇に対して が拡大するなど、かなり明るい状況が続いている。原油価格回 も報いる水準にある。米国クレジット市場は、数年にわたるポ 復のタイミングを予測するのは極めて困難だが、2015 年と比較 ジションのテクニカル的な巻き戻しが逆風となっている。量的 して、2016 年はかなり安定を取り戻すと思われる。1 バレル当 緩和の局面においてポートフォリオのリバランスが行なわれた たり 30-40 ドルのレンジに落ち着けば、まずまずと言えそう 影響で、これらのポジションは人為的に嵩上げされていた。 だ。 2013 年に初めて資産購入の順次縮小(テーパリング)について さらに、原油価格の下落が、世界経済にとって必ずしもマイナ スとも言い切れない。エネルギー価格の下落によって恩恵を享 受する消費者や企業は、ネガティブな影響を受ける消費者や企 業よりはるかに多い。原油価格の調整のテンポは極めて急速で、 原油輸出国や、原油の探査・生産(E&P)、石油サービス・装置 のプロバイダーに直ちに顕著な影響を及ぼしているが、石油の 消費者への影響ははるかに緩慢だ。消費者の購買力押し上げ効 果や、産業への投入価格の低下は、自ずからさほど劇的なもの ではないが、今後数四半期にわたり、消費動向へのポジティブ な影響が顕在化すると我々はみている。 言及して以降、FRB は金融を引き締め始めている。クレジット 市場への「イールド・ツーリスト」の動きに加えて、企業が低 金利を確定すべく起債を急いだことが、相場軟調を招いた。需 要減退と供給増加が相まって価格が下落、スプレッドが拡大し たのだ。しかしながらスプレッドはすでに、極端と思える水準 にまで拡大している。経済成長は緩やかながら依然プラス圏で の推移が見込まれ、デフォルトが引き続き抑制された水準にと どまると予想されることを考えれば、なおさらそのように言え る。欧州の状況はこれとは対照的なもようで、ECB は資産購入 プログラムを拡大する公算が大きいうえ、年初来の起債額も極 めてタイトである。とは言え、金融機関により発行された一部 最後に、規制当局が銀行に一段の資本増強を求めているのみな の劣後債を除けば、欧州のバリュエーションは米国ほど魅力的 らず、銀行がそうした資本で十分なリターンを上げる余地が小 だとは思われない。 さくなっている点を踏まえるならば、銀行株への投資環境は引 き続き厳しい状況が続くだろう。しかしながら、コア資本比率 の引上げに伴って、予想外の損失に対するバッファーが厚みを 増していることは確かだ。そしてバランスシートの流動性が高 まり、リスクの取得が抑制されているといった要因は、すべて 銀行のクレジット・クオリティの改善に間違いなく寄与してお り、長期的に銀行のクレジット・リスク低下につながることは 論を待たないだろう。劣後債は株式リスク・プレミアムとある 程度の相関を持つものの、長期的なリスク低減トレンドは劣後 クレジット市場は魅力的な機会を示しているとの見解は変わら ず、こうした状況から恩恵を享受すべく、ポートフォリオのポ ジションを構築している。ポートフォリオでは引き続きクレジ ット・リスクをオーバーウェイトし、エクスポージャーの焦点 をバリュエーションの割安感が極めて強いとみられる金融部門 の劣後債に置く。さらに、卓越した妙味を提供し、今後数カ月 にわたり力強い超過リターンをもたらす可能性がある米国のク レジット市場に軸足を傾ける。 債の追い風になるはずだ。2 月に価格が急落したのは、劣後債 の投資家が一様にロング・ポジションを取っていたことが一因 だと思われる。株価急落が資本ストラクチャーのより劣後な部 分に対する投資家の需要に影響を及ぼし、一部の投資家が売り 4 グローバル債券市場レポート 証券化商品市場見通し エージェンシーMBS は引き続き割高感が消えないため、他の 債券セクターに対してアンダーウェイトを維持する。現在の市 場ボラティリティとクレジットのリスク・プレミアムの上昇は、 エージェンシーMBS が持つ安定化効果の価値を高めていると 考えて良いだろう。全体として、エージェンシーMBS は、信 用状況に対する感応度の高いポートフォリオを補完することが できよう。このことは現在の市場環境において高い価値がある。 2016 年 3 月 欧州では、2015 年に英国と欧州周縁国でスプレッドが拡大した ことが、2016 年に魅力的な投資機会を提供しているとみている。 ECB は金利を低位に据え置くことと、さらなる景気刺激策の導 入にコミットしているもようである。イングランド銀行(BoE) も、2016 年の利上げ計画を先送りする意向を固めたと見受けら れる。欧州の不動産市場は依然回復途上にある。とりわけ、不 動産価格が今でもピークから大幅に下げた水準にとどまってい る欧州周縁国については、そのように言える。ECB の刺激策は、 不動産価格上昇を後押しすると期待される。原油価格の下落は、 我々の見解では、非エージェンシーMBS は、依然として安定 大半の欧州市場にとって下支え要因となるはずだ。借り手の住 的かつ魅力的な債券クラスの 1 つである。魅力的なキャリー、 宅ローンを組む余裕が拡大することによる。ファンダメンタル ファンダメンタルズの改善、供給額の減少(ネットでの)を背 ズの改善とスプレッド水準の拡大を勘案し、引き続き欧州の住 景に、非エージェンシーMBS のオーバーウェイトを維持する。 宅ローン債権担保証券(RMBS)と CMBS 市場を選好する。 非エージェンシーMBS の損失調整後スプレッドは、米国債利 回りに対して投資適格級で 250bps 超、非投資適格級で 350- 図表 1:資産別 年初来リターン(%) 400bps に達している。米国経済が堅調で、住宅ローン金利が依 金 然として低く、住宅取得能力が過去平均を上回っている状況な 円(対米ドル) どから判断し、住宅市場の見通しは引き続き明るいとみている。 供給面では、2016 年に非エージェンシーMBS の残高は 600 億 -700 億米ドル減少すると予想される。また新規発行額は 300 億-400 億米ドル前後にとどまる見通しである。 16.7 6.6 5.8 5.8 5.1 3.3 2.6 2.0 1.8 1.8 1.6 1.2 1.1 0.1 0.0 英国10年国債 ドイツ10年国債 米国10年国債 日本10年国債 スペイン10年国債 イタリア10年国債 商業用不動産ローン担保証券(CMBS)については慎重ながら JPM米ドル建てEM国債 もオーバーウェイトとしている。商業用不動産のファンダメン JPM現地通貨建てEM国債 タルズは米国経済の堅調さと足並みを揃えて改善を続け、 BofA ML米国モーゲージ・マスター CMBS も好パフォーマンスが期待される。だが、最近のスプレ ッドのボラティリティや、今後、新規オリジネーションや発行 バークレイズ米国投資適格社債 バークレイズ欧州投資適格社債 ユーロ(対米ドル) がなお増加する見通しを踏まえると、需給ダイナミクスに幾分 銅 の懸念が残る。さらに、2015 年から 2016 年にかけてオリジネ 米ドル指数 ーションされた CMBS については、ここ数年にわたる不動産価 BofA ML米国ハイイールド S&P/LSTA レバレッジド・ローン 格の高騰が懸念要因となる。したがって、発行後時間が経過し BofA ML欧州ハイイールド(コンストレインド) ている CMBS を、新発案件よりも選好する。前者は直近の不動 ブレント原油 産価格上昇の恩恵を享受しているのに対し、後者は組み入れ物 S&P500 MSCI新興国株式 件のバリュエーションがかなり高くなっている恐れがあること MSCI先進国株式 による。より直近に発行された CMBS については、資本ストラ GSCIソフト・コモディティ クチャーの上方に(高格付け方向)を選好する。最近のスプレ ッドのワイド化に基づき、魅力的なスプレッドを引き続き受け 取れると同時に、一層の構造的信用補完の恩恵を享受できると みられるためである。2016 年は CMBS 市場のボラティリティ は高止まりしようが、CMBS は魅力的な利回りを提供するだけ ユーロ・ストックス(米ドル) ユーロ・ストックス(ユーロ) -0.4 -1.1 -1.2 -2.0 -3.5 -5.1 -5.1 -6.6 -8.4 -9.5 -9.6 日経225 -15.7 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 上記は米ドル・ベース。出所:トムソン・ロイター、データストリーム でなく、市場ファンダメンタルズの改善からメリットを受ける との考えは変わらない。以上により、CMBS のオーバーウェイ トを堅持する。但し、オーバーウェイト幅はポートフォリオの リスク・プロフィールに応じて、管理可能な水準にとどめる。 市場のボラティリティが高まっていることと、同セクターには 時価への値洗いリスクがあることを考慮しての判断である。 5 グローバル債券市場レポート 2.市場サマリー 2 月はリスクオフ・センチメントの高まりが追い風となり、世 界の債券市場が幅広く上昇した。当月、米国、ユーロ圏、英国 の債券利回りはいずれも低下した。米国の景気後退入り懸念が 高まり、FRB の利上げ観測が後退するに伴い、円やユーロをは じめ多数の通貨に対して、米ドル高にはブレーキがかかった。 2016 年 3 月 ユーロ圏では、ECB が 1 月の政策理事会の議事録を公表した。 理事会は、原油価格やインフレ期待低下の副次効果との関連で、 5 年/5 年インフレ・スワップ金利1が低下していることを強調し、 経済の下振れリスクが強まっているとの認識を示した。その結 果、3 月の政策理事会で政策を見直すことで幅広い支持が得ら れた。理事会では、昨年 12 月の理事会前のように、緩和に対 する過度な期待の醸成を回避する必要があるとの議論が行なわ 2 月に米 10 年債利回りは 19bps 低下、2 年債-10 年債のイール れた。経済指標を見ると、2 月のユーロ圏製造業 PMI は 51.0 と ドカーブは 19bps フラット化した。ユーロ圏の債券も値上がり なり、1 月の 52.3、コンセンサス予想の 52.0 をともに下回った。 し、独 10 年債利回りは 52bps 低下、独 2 年債利回りは 23bps 低 第 4 四半期のユーロ圏 GDP 成長率は前期比 0.3%となり、コン 下して一層のマイナス圏に突入した。アイルランド、イタリア、 センサス予想と一致した。2015 年通年の成長率は 1.5%だった。 スペインの 10 年債利回りは 8-24bps 低下した。一方、リスク 2 月のユーロ圏インフレ率は-0.2%となり、1 月の 0.3%から低 資産が売られるなか、ポルトガルの 10 年債利回りは 47bps 上昇、 下した。 ギリシャの 10 年債利回りも 64bps 上昇した。日本の 10 年債利 英国では、イングランド銀行(BoE)が賛成 8、反対 0 で金融 回り(JGB)は 16bps 低下した。 政策の維持を決定した。ハト派的な動きとして、直ちに利上げ 2 月には米ドルは幅広い通貨に対して下落し、ユーロは 0.4%上 に動くべきとする異議は取り下げられた。金融政策決定会合 昇した。円は 7.5%上昇し、最も大幅な値上がりを記録した。 (MPC)は 2 月のインフレ報告を発表した。MPC は、今では 一方、英国の EU 離脱(Brexit)を問う国民投票の結果、離脱の インフレ率の回復はより穏やかなペースになるとみており、物 判断が下されるとの不安を背景に、ポンドは対米ドルで 2.3% 価低迷の二次的な影響を注視する意向である。2016 年の成長見 下落した。原油(ブレント)はまたもや月半ばに急落後、回復 通しも 2.5%から 2.2%に下方修正された。経済指標については、 した。この結果、月末の水準は 36 米ドルとなり、前月末の 35 1 月の総合 CPI は 0.3 となり、12 月の 0.2 から上昇、コンセンサ 米ドルからわずかに上昇した。過去数カ月間にわたり大幅に下 スと一致した。失業率(3 カ月平均)は、12 月に 5.1%となり前 落していたカナダ・ドルは幾分上げ戻し、3.2%値上がりした。 月の水準から横ばいとなった。第 4 四半期の GDP 成長率は前 期比 0.5%となり、コンセンサスと一致、速報値が据え置かれ 先進国債券市場 米国では、1 月の FOMC(連邦公開市場委員会)の議事録要旨 はややハト派的だった。FRB は国内経済の動向については引き 続きポジティブにみているものの、金融情勢と国際経済への波 及効果を注意深く見守りながら、政策判断を下す意向である。 見通しの不透明感が強まるなか、さらなる兆候の収集が求めら れる。経済指標については、1 月の非農業部門雇用者数は予想 の 19 万 5,000 人増加に対して 15 万 1,000 人増加にとどまった。 12 月の数値も 29 万 2,000 人から 26 万 2,000 人に下方修正され た。失業率は 4.9%に低下し、コンセンサスと一致した。時間 当たり平均賃金は+2.5%となり、前月の数値は+2.7%に 0.2% 上方修正された。ISM(サプライマネジメント協会)発表の 1 月の製造業指数は 48.2 となり、コンセンサス予想 48.4 を下回 った。第 4 四半期の GDP 成長率は前期比 1.0%に上方修正され、 た。この結果、2015 年通年の GDP 成長率は前年比 1.9%となっ た。1 月の英国の製造業 PMI は、12 月の 51.8 から 52.9 に上昇 し、コンセンサス予想の 51.6 を上回った。 日本では、2 月には日本銀行(BOJ)の会合は開催されなかっ た。日銀が 3 段階に分けてマイナス金利を導入したことを、市 場は政策の手詰まり感を示すものと受け止めたものの、日銀は あらゆる可能な手段を活用する意向で、市場が考えている以上 の措置を講ずることができると日銀関係者は繰り返した。経済 指標では、2 月の製造業 PMI は 50.2 となり、1 月の 52.3 から低 下した。2015 年第 4 四半期の GDP は前期比-1.4%にとどまり、 第 3 四半期の 0.3%、コンセンサスの-0.2%をともに下回った。 2015 年の成長率は 0.5%となった。1 月の全国コア CPI(食品と エネルギーを除く)は 12 月の 0.8%から 0.7%に低下し、コンセ ンサスと一致した。 コンセンサス予想の 0.4%を上回った。この結果、2015 年の成 長率は前年比 1.9%増となった。1 月の総合 CPI は 1.4%、コア CPI は 2.2%だった。 1 5 年/5 年インフレ・スワップは 5 年先にスタートする 5 年満期のスワップ契約で、カウンタ ーパーティが固定金利を支払い、相手方が実際のインフレ率を支払う。 6 グローバル債券市場レポート 2016 年 3 月 新興国債券市場 図表 2:主要国の国債利回り 新興国国債市場は困難な 2016 年のスタートとなった 1 月とは 2年債 当月 変化 5年債 当月 変化 10年債 当月 変化 利回り ( %) ( bps) 利回り ( %) ( bps) 利回り ( %) ( bps) 対照的に、2 月はバリュエーションが魅力的な水準になったこ オーストラリア 1.77 -12 1.91 -16 2.40 -24 とや、リスク・センチメントの改善が相まって反発を見せた。 ベルギー -0.33 8 0.03 -34 0.97 -38 エネルギー価格とコモディティ価格の下げ止まり、中国人民銀 カナダ 0.52 10 0.67 -1 1.19 -3 行による政策の後押し、FRB の相対的にハト派的な発言などが、 デンマーク -0.31 -7 -0.08 -11 0.46 -16 新興国国債資産に明るい環境を用意した。新規供給が一服した フランス -0.31 -14 0.08 -32 0.99 -52 ことや、中国が春節の連休に入り経済指標の発表がなかったこ ドイツ -0.35 -23 -0.05 -36 0.63 -52 とも、2 月の相場環境の安定に寄与した。米ドル建て新興国債 アイルランド -0.31 3 0.04 2 0.88 -8 券が現地通貨建て債券をアウトパフォームし、現地通貨建て債 イタリア -0.03 0 0.50 -11 1.60 -17 券が社債をアウトパフォームした。国債と社債のスプレッドが 日本 -0.24 -16 -0.22 -16 -0.06 -16 10bps タイト化したことが牽引役となった。現地通貨建て債利 オランダ -0.37 -12 -0.04 -36 0.79 -54 回りは 3bps 低下した。 ニュージーランド 2.22 -19 2.47 -26 2.97 -25 ノルウェー 0.62 -39 0.68 1 1.48 -13 ムーディーズがブラジルの外貨建て債務の格付けを Ba2 から ポルトガル 0.11 57 1.06 82 2.52 47 Baa3 に 2 段階引き下げ、ついに投資適格級から投機的水準に格 スペイン 0.01 2 0.67 -19 1.77 -24 下げし、アウトルックをネガティブに据え置いた。これによっ スウェーデン -0.61 -5 -0.14 -10 0.47 -14 てブラジルの格付けは 7 年ぶりに、大手格付け機関 3 社すべて スイス -1.08 -16 -0.89 -15 -0.44 -19 により投資適格級から投機的等級に陥落した。アウトルックが 英国 0.38 4 0.74 -15 1.34 -22 ネガティブとされたことは、この先更なる格下げが起こり得る 米国 0.77 0 1.21 -12 1.73 -19 ことを示唆している。ソブリン債の格下げは、ブラジル企業の 国 格付けにも影響を及ぼす。ソブリン格付けは非公式に格付けの 出所:Bloomberg 天井となるからだ。2 月に、南アフリカのプラビン・ゴーダン 財務相は来年度の政府予算案を発表した。市場は予算案を若干 図表 3:対米ドルでの月次為替変化 の悪材料と受け止めたため、同月の南アフリカ資産の重石とな (プラス:上昇、マイナス:下落) った。経済面での想定は相対的に信頼に足るものだったが、必 日本 要なだけの財政再建措置が十分講じられていなかったためであ 7.5 カナダ 3.2 インドネシア る。南アフリカ政府は、ズマ大統領が思いがけなくも 2015 年 3.0 スイス に財務相を 2 度も交代させたことにより喪った信頼を、取り戻 2.5 チリ すべく試みている。同政府はさらに、コモディティ価格が低迷 2.3 ポーランド する環境下で、苦境に陥っている経済の立て直しを図らなけれ 2.0 ニュージーランド 1.6 シンガポール ばならない。 1.3 オーストラリア 0.8 ウクライナでは、腐敗を巡り政権内部の対立が深刻化した。連 ハンガリー 0.7 立政権が崩壊するに伴って、政治的な不透明感が高まり、国債 ロシア 0.5 ユーロ 0.4 スウェーデン 南アフリカ メキシコ -0.2 ノルウェー -0.2 コロンビア -0.3 ブラジル -0.4 マレーシア 価格に下げ圧力が及んでいる。対立が続くなか、アルセニー・ 0.1 ヤツェニュク首相が辞任し、実務家内閣を指名するとの噂が流 0.1 れた。分裂した連立与党にとっては、これは早期選挙を避ける ために受け入れ可能なシナリオであろう。ウクライナはまた、 ロシアとの訴訟に直面している。ウクライナは前政権時代にロ シアから受けた 30 億ドルの融資の返済ができなかったため、 ロシアから提訴されている。さらに、アンカラの自動車爆弾テ -1.6 英国 -2.3 ロ事件を巡り、トルコとロシアの間の緊張も高まっている。ア 韓国 -3.0 -4 出所:Bloomberg -2 0 2 4 6 月次変化率( %) 8 10 ルメット・ダウトオール首相はクルド系組織を非難し、NATO 加盟国に同組織との繋がりを断ち切るよう訴えた。米国はシリ アのイスラム国との戦いにおいて、この訴えを支持している。 7 グローバル債券市場レポート 非難の応酬が激しさを増すにつれ、ロシアの指導者は、仮にト ルコがシリアに軍事侵攻すれば、シリア内のクルド人部隊を含 めて、シリアの主権および領土の一体性を守ると約束した。 2016 年 3 月 2)現地通貨建て新興国債券 現地通貨建て新興国国債の 2 月のリターンは、JP モルガン GBI -EM グローバル・ディバーシファイド・インデックスで メキシコ、インド、アルゼンチンのポジティブな展開は、一部 1.44%となった。新興国通貨は対米ドルで 0.67%上昇、新興国 の政府が、彼らが直面している新たな経済の現実に前向きに立 債券のリターンは現地通貨建てで 0.78%となった。2 月にイン ち向かう機運が出てきていることを、浮き彫りにしている。メ ドネシア、チリ、ポーランドは、それぞれの通貨の反発を背景 キシコの指導者は緊急会合でペソ防衛に向けて行動を起こした。 に、新興国債券全体をアウトパフォームし、ロシア国債もアウ 中央銀行が 50bps の利上げに踏み切り、通貨が下支えを必要と トパフォームした。現地通貨建て国債がパフォーマンスを牽引 する場合にはいつでも、日々のドルの入札に代えて、米ドルを した。マレーシア、コロンビア、ペルーは新興国債券全体をア 銀行に売却する計画を発表したのだ。足並みを揃えて、ルイ ンダーパフォームした。これらの国の通貨が対米ドルで下落し、 ス・ビデガライ財務公債相は、原油価格の下落に伴う歳入の減 主にパフォーマンスの足枷となった。加えて、現地通貨建て債 少を補うため、歳出を GDP 比 0.7%削減する計画を発表した。 のパフォーマンスが低迷したことから、南アフリカとメキシコ インド政府は来年度予算案を発表し、財政目標を堅持した。財 もアンダーパフォームとなった。 政規律が奏功して、インド中央銀行は政策措置を講ずるだけの 余地を有しており、経済成長の伸び悩みに対処すべく、インフ 3)新興国社債 レ高騰を引き起こすことなく利下げを実施可能な立場にある。 新興国社債の 2 月のリターンは、JP モルガン CEMBI ブロー アルゼンチンでは、政府とホールドアウト債権者(債務再編を ド・ディバーシファイド・インデックスで 1.03%となった。ハ 拒否した債権者)との交渉が進展を見せている。合意成立が視 イイールド社債は、当月、投資適格債をアンダーパフォームし 野に入ってきたことで、アルゼンチン政府がホールドアウト債 た。地域別では、アフリカ(南アフリカ)、中東(カタール、 権者に対する支払いを許可するための措置を講ずるとの条件付 UAE)、ラテンアメリカ(アルゼンチン、ペルー、グアテマラ) で、グリーサ判事は、債務再編に応じた債権者への利払いを阻 の社債が新興国社債全体をアウトパフォームした。アジア(中 止する差し止め命令を解除することに合意した。グリーサ判事 国、香港、シンガポール)および欧州(トルコ)の社債は出遅 はこの係争の解決を監督している。アルゼンチンはホールドア れた。 ウト債権者への支払いを行い、国際資本市場に復帰するために、 最大 150 億ドルの起債を行なう可能性がある。 図表 4:新興国国債のスプレッド変化 1)米ドル建て新興国債券 国 2 月の米ドル建て新興国国債・準国債市場のリターンは JP モル 米ド ル 建て 債券 当月変化 ス プレッド (bps) (bps) 現地通貨 建て 債券 利回り (%) 当月変化 (bps) ガン EMBI グローバル・インデックスで 2.02%となり、1 月の ブラジル 530 -10 14.8 -30 マイナスを帳消しにした。米国債利回りの低下とスプレッドの コロンビア 368 -10 8.6 7 タイト化が、ハイイールド市場と投資適格市場のリターンをと ハンガリー 228 10 2.4 -11 インドネシア 345 -3 8.5 -8 マレーシア 266 19 3.8 9 メキシコ 353 -9 6.1 12 ペルー 260 -13 7.3 -25 フィリピン 133 5 5.2 0 ポーランド 128 -18 2.2 -14 たのは、ベリーズ、モンゴル、ウクライナ、マレーシアだけだ ロシア 306 -19 9.4 -58 った。トルコ、セルビア、ハンガリーなどの欧州の一部諸国は 南アフリカ 443 10 9.7 26 市場全体に出遅れた。 トルコ 329 19 10.4 -17 ベネズエラ 3255 -305 – – もに牽引した。また、2 月にはラテンアメリカとアフリカの堅 調なパフォーマンスを受けて、利回りの高い債券がアウトパフ ォームした。エネルギーおよびコモディティ価格の下げ止まり を受けて、ベネズエラ、ガボン、エクアドル、ザンビア、ガー ナなどの国々がアウトパフォームした。さらに 2 月には、国際 資本市場への復帰に向けて進捗が見られたことが、アルゼンチ ンの追い風となった。2 月にパフォーマンスがマイナスになっ 出所:JP モルガン 8 グローバル債券市場レポート 社債市場 2 月もすべてのリスク市場が原油と極めて高い相関を見せた。 同月、株式市場とクレジット市場が反発した。株式は好調のう ちに 2 月を終え、S&P500 は月間ベースで小幅上昇した。 S&P500 の月間安値からの上昇率は 6.5%に達した。欧州市場は 幾分値下がりしたものの、月間安値からは 11%超値上がりした。 世界のクレジット市場は同月の最もワイドな水準から 14bps タ イト化し、スプレッドは約 7%タイト化した。 2 月末の資本市場の超過リターンは-0.43%とマイナス圏に沈ん だ。リターンの月間ボラティリティは極めて高かった。スプレ ッドが引き続き圧力にさらされ、トータル・リターンは 3 カ月 連続でマイナスとなった。米国クレジット市場と欧州クレジッ ト市場のリターンはそれぞれ 0.31%と 0.33%となり、米国クレ ジット市場が欧州クレジット市場を小幅アンダーパフォームし た。 2016 年 3 月 でこれらの要因が重なり合い、銀行株は年初来急落した。この 結果、株式リスク・プレミアムと密接に相関する劣後債のリス ク・プレミアムが急騰した。これに伴い、銀行債のリターンは -1.06%となり、事業法人が発行する債券のリターン-0.04%を アンダーパフォームした。信用力のより劣るティア 2(LT2)3 債は優先債をアンダーパフォームした。そしてより劣後な債券 が、LT2 債を大幅にアンダーパフォームした。 欧州の発行市場は極めて静かな状況が続いている。米国の新発 債市場は、とりわけ市場の地合いが改善した 2 月後半に活況を 呈し、コンセンサスを大幅に下回った 1 月の水準から反転した。 しかしながら、2 月の起債活動はクオリティの高いセクターに 集中、市場よりもベータの高いセクターでの起債活動は限定的 だった。欧州では、新規起債活動は全般的に低調で、とりわけ 高リスク・セクターにおける起債活動は低迷した。年初 2 カ月 間の劣後銀行債の起債額は 95%減少、ハイイールド債は 89%減 少した。事業法人のハイブリッド債に至っては、起債額はゼロ 金融機関を発行体とする債券、とりわけ金融機関の劣後債の超 に落ち込んだ。起債額が増加したのは、カバードボンドだけで 過リターンは-1.06%にとどまり、同セクターが直面している ある。同分野は ECB のカバードボンド・プログラムが追い風 困難な状況を反映して、市場全体を大幅にアンダーパフォーム になった。いかなる債券の発行についても、投資家の需要を確 した。この 1 年間に、幾つかの面で規制リスクが一段と鮮明に 実に喚起するために、大幅な新発プレミアムが必要だった。翻 なった。2015 年末、ポルトガル中銀はエスピリト・サント銀行 ってこのことが、流通市場に圧力を及ぼしている。 を清算、一部の債券をグッドバンクからバッドバンク(不良債 権の受け皿銀行)に移管して、市場を驚かせた。ECB は欧州銀 行セクター全体の不良債権の処理の標準化について、より詳細 図表 5:社債セクター別スプレッド変化 米ド ル ス プレッド 水準 (bps) (bps) ユーロ ス プレッド 水準 (bps) インデックス水準 197 +4 156 +6 産業(素材) 290 -81 213 -109 リスクに焦点を合わせ始めた。とりわけドイツ銀行は、規制当 産業(資本財) 134 +3 120 -2 局の介入を引き起こすことなく、今後 2 年にわたりクーポンを 産業(消費財[市況])) 171 +6 150 +1 支払い続けるのに十分な資本を有しているとの発表を行なって、 産業(消費財[非市況]) 147 +4 125 +1 産業(エネルギー) 407 -7 177 +6 産業(テクノロジー) 159 +1 107 +9 後退の不安が高まるなか、投資家は銀行の資産のクオリティと、 産業(運輸) 174 +3 131 +6 景気がさらに大幅に悪化した場合に備えて、不良債権に対する 産業(通信) 227 +5 154 +8 更なる引当金の積み増しを要請されるかという点に目を向け始 産業(その他産業) 130 -4 190 -9 公益(電力) 161 +3 170 +9 +6 144 +5 に監視すると発表した。このことはイタリアの銀行システムを 中心に、資本に大幅なインパクトを及ぼす可能性がある。加え て、市場は AT1(Additional Tier 1)銀行債2のクーポン繰り延べ 投資家を安心させる以外にない状況に追い込まれている。景気 めている。銀行がエネルギー企業にどの程度のエクスポージャ セ クター 当月 変化 当月 変化 (bps) 公益(ガス) 181 ーを有しているかも注視されており、このエクスポージャーの 公益(その他公益) 175 +4 131 +4 結果、銀行が資産クオリティの問題を抱えるリスクがあるか否 金融(銀行) 169 +21 144 +21 かが新たな懸念として浮上している。加えて、マイナス金利政 金融(証券) 194 +22 149 +15 金融(金融会社) 217 +27 112 +7 金融(保険) 199 +20 319 +25 の能力が著しく制約され、セカンダリー・ライツ・イシュー 金融(REIT) 205 +25 186 +5 (新株予約権無償割当)が中核的自己資本(コアティア 1 資本) 金融(その他金融) 133 +17 185 +10 策の意図せぬ結果の 1 つとして、有機的に資本を生み出す銀行 の唯一の代替的な源泉となる事態が生じている。投資家の脳裏 出所:バークレイズ 3 2 Additional Tier 1 債はバーゼル III の下で中核的自己資本への参入が認められている。損失吸 収機能を備えており、銀行の資本が一定の閾値を下回った場合、しばしば自動的にトリガー が引かれる。 ティア 2 資本(補完的自己資本)は銀行の自己資本を 2 つのカテゴリーに分けたものの 1 つである。ティア 2 資本はティア 1 資本よりも信頼性が低いと考えられているため、自己資 本の計算に際して課せられるリスクウェートがティア 1 資本よりも高い。低位のティア 2 資 本には繰り延べられるとデフォルトになるクーポンが含まれる。 9 グローバル債券市場レポート 証券化商品市場 2016 年は証券化商品市場では引き続き二極化の傾向が鮮明にな っており、エージェンシーMBS が極めて好調に推移している 一方で、クレジット動向に対する感応度の高い MBS はすべて 極端に低迷している。バークレイズ米 MBS インデックスは 2016 年の年初 2 カ月で約 1.7%上昇し、今年、最も高いパフォ ーマンスを記録しているセクターの 1 つとなっている。2 月に エージェンシーMBS は米国債を小幅アンダーパフォームした が、すべての MBS クレジット・セクターをアウトパフォームし た。2 月に米国債のカーブは反発し、イールドカーブがフラッ 2016 年 3 月 出した全米不動産協会(NAR)の住宅取得能力指数によれば、 住宅の購入しやすさ(アフォーダビリティ)は、過去 20 年間 の平均をほぼ 10%上回った。住宅ローンのパフォーマンスも依 然堅調である。12 月の新規デフォルト発生率は年率 0.8%と前 月比ほぼ横ばいとなり、1 年前の水準と比較して 0.2%低下、ピ ークとなった 2009 年の水準を約 5%下回った。失業率が低く、 経済が改善を続けており、住宅価格がおよそ 10 年前の住宅ロ ーン危機からなお回復途上にある今、モーゲージ関連クレジッ トは引き続き安定したパフォーマンスが期待できると考える。 2 月も CMBS のスプレッドは大幅に拡大した。AAA 格 CMBS ト化した。歴史的に、イールドカーブがフラット化することは、 のスプレッドは 2 月におよそ 15bps 拡大、年初来ではほぼ エージェンシーMBS にとって有利な状況ではない。住宅ロー 30bps 拡大した。BBB 格は 2 月に 50-100bps 拡大、年初来では ン金利の低下は期限前償還を加速させるためだ。だが、エージ 250-300bps 拡大した。年初 2 カ月間の CMBS の新規発行額は ェンシーMBS のバリュエーションはこのカーブ・シフトを受け 100 億米ドル近辺となり、引き続き予想を下回る水準にとどま て、予想以上に好調を維持している。カレントクーポン物(新 っている。2006 年に発行された CMBS が償還期限を迎え、借 発物)エージェンシーMBS の対米国債名目スプレッド(線形 り換えの必要があることから、2016 年の発行額はおよそ 1,000 補完後)は 3bps ワイド化して 105bps となった。30 年物住宅ロ 億-1,200 億米ドルに達すると予想されているものの、スプレ ーン金利は 7bps 低下して 3.69%となり、2 月中に一時、3.53% ッドが大幅にワイド化しているという市場状況により、多数の と 2013 年 5 月以来の最低水準をつけた。FRB は引き続きエー 新発案件が先送りされている公算が大きい。だが基本的に、 ジェンシーMBS ポートフォリオからの償還金を再投資し、同 CMBS のパフォーマンスは引き続き健全だ。1 月に商業用不動 ポートフォリオの規模を 1.75 兆米ドルに維持した。 産価格は 0.2%値上がりし、過去 12 カ月間では 8.8%値上がりし 非エージェンシーMBS は 2 月も引き続きアンダーパフォーム し、スプレッドはさらに 25-50bps ワイド化した。今年、投資 適格非エージェンシーMBS のスプレッドは 50bps ワイド化し、 非投資適格 MBS のスプレッドは 75-100bps ワイドになってい る。非エージェンシーMBS のスプレッドは 2013 年以来最もワ イドになっている。スプレッドの拡大は米国の住宅市場および モーゲージ市場における信用リスク拡大を映しているというよ りも、世界的なリスク・プレミアムの上昇を主に反映している とみられる。非エージェンシーMBS の価格動向と対照的に、 住宅ローン市場のファンダメンタルズは依然として明るい。12 た。商業用不動産価格は過去 3 年にわたり年間 10%近い上昇を 記録、今や 2007 年 8 月のピークを 23%上回っている。2015 年 のホテルの客室稼働率は平均 65.6%という高水準に達し、2014 年の 64.4%を凌ぎ、前回のサイクルの天井である 2005 年の 63.2%も上回った。同様に、全米のオフィス空室率は 2015 年第 4 四半期に 8 年ぶりの水準に低下した。複数世帯用住宅の空室 率も引き続き低水準にとどまっており、産業用スペースに対す る需要も根強い。価格の変動性が高まっていることや、需給ダ イナミクスは引き続き懸念されるとはいえ、CMBS 市場のファ ンダメンタルズは安定しているように見受けられる。 月には、住宅価格が前月比 0.1%(季節要因を調整すれば 0.8%) 2 月に欧州の ABS スプレッドは、とりわけ英国と欧州非中核国 上昇し、2015 年の水準からは 5.4%上昇した。全米の住宅価格 で大幅に拡大した。ギリシャおよびポルトガルの MBS は約 は 2012 年の底から 38%値上がりしたものの、2006 年のピーク 50bps ワイド化した。イタリア、スペイン、英国の MBS も 10 水準は未だ 11%下回っている。サンフランシスコ、デンバー、 -15bps ワイド化した。1 月、ECB は欧州 ABS を 23 億ユーロ買 ダラス、ポートランドなど一部地域では、住宅価格は過去最高 い入れた。これは月間購入額としては過去最大級。現在、ECB を更新している。とはいえ、米国の大半の地域はインフレ調整 の保有残高は 176 億ユーロに達している。2 月の欧州の ABS 発 前でも、依然として 2006 年の水準を下回っている。中古住宅 行額は依然低調で、合計で 50 億ユーロ近辺の水準にとどまっ 販売は引き続き堅調で、1 月に 0.4%上昇し、年率ベースで過去 た。2016 年初来の新発債の発行額は合計 107 億ユーロにすぎず、 6 カ月間で最高を記録、年率 547 万戸に達した。住宅販売も 2 2015 年のペース(年間 784 億ユーロ)を下回った。欧州の 月に 11.0 %増加した。今や失業率が 5%を割り込み、GDP が緩 ABS 発行額は、引き続き規制問題が足枷となった。 やかに伸びている現状を踏まえるならば、米国では過去と比べ て、依然として住宅を極めて購入し易い状況が続いていると言 える。家計所得(中央値)に対する住宅コスト(中央値)を算 10 グローバル債券市場レポート 2016 年 3 月 当資料の複製、公衆への提示・引用および販売用資料への利用はご遠慮ください。当資料はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントが海外で発行し たレポートを邦訳したもので、すべてのデータはモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル債券運用部門によるものです。邦訳に際してその 解釈や表現に細心の注意を払っておりますが、邦訳による解釈や表現の違いが生じる場合は英文が優先し、我々は一切の責任を負いません。当資料に含ま れる情報等の著作権その他のあらゆる知的財産権は我々に帰属します。我々からの事前の書面による承諾なしに、当該情報を商業目的に利用することを禁 止します。 当資料の予想や見解は、必ずしもモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの会社としての予想や見解ではありません。また予想や見解が実際に実現 するとは限らず、将来のパフォーマンスを示唆するものではないことにご留意ください。当資料の情報はモルガン・スタンレーの金融商品にかかわるものではなく、 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