ブレグジットが示唆するもの:米国への影響を検証(PDF/245KB)

ブレグジットが示唆するもの:米国への影響を検証
2016年 7月25日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
EU 離脱を決定した英国国民投票によって米国経済と市場は大きな影響を受けることになる
のでしょうか?
要旨
英国の欧州連合(EU)からの離脱の決定―「ブレグジット」-は英国経済を景気後退へと押しや
る可能性が高いと見られます。一方で米国へのブレグジットによる影響は以下の点が挙げられま
す。
1.
全般的に見て米国経済と米国株式への影響はごくわずかであると予想されます。
2.
英ポンド下落がもたらす製造業の競争上の優位性は、米国輸出企業の世界市場での
売上げに影響を与える可能性があります。
3.
ブレグジットによって促進される経済、金融政策の動向は、米国の銀行の収益を圧迫
する恐れがあります。
4.
ブレグジットがもたらす不透明感に対する中央銀行各行の防衛姿勢は、金利をマイナ
スの領域にまで押し下げる可能性があり、米国の株式、債券双方にとり良好な環境の
構築に寄与すると見られます。
鍵となる論旨:消費者主導経済である米国では、雇用の拡大と賃金の伸びに後押しされる形で、
ブレグジットによる負の影響をある程度免れると予想されます。
「ブレグジット」以前の時代の最も偉大な劇作家は「別れはなんと甘い悲しみであるか」とつづって
います。「甘い」を取り除くと、英国の EU 離脱決定の経済面での影響が見えてきます。ブレグジッ
ト-そしてそれがもたらす、最大の輸出市場である EU と英国との貿易協定についての不確実性
は、英国経済を景気後退へと押しやる可能性が非常に高いと考えられます。 そして EU としては、
英国経済の低迷が他国に波及することを恐れています。
前回のレポートで我々はブレグジットが英国、EU 双方にもたらす影響について検証しました。し
かし米国についてはどうなのでしょうか? 国際通貨基金(IMF)は、2016 年 7 月に発表した米国
経済についての年次レポートの中で、ブレグジットは米国経済成長に「ごくわずかな」影響しかも
たらさないとしています。同時に、英国国民投票の 2 週間半後に米国の株式指数が過去最高の
水準にまで回復したことは、ブレグジットによる負の影響が全くないことを示唆しています。
しかし、目先の市場の反応以外にも目を向けると、大西洋を挟んだ米国にもある程度の影響が
及ぶ可能性があります。例えば、ドル高は輸出企業の一部に打撃を与える恐れがあります。また
低金利は米国の銀行収益を損なう可能性があります。ブレグジットがもたらす世界市場での不透
明感によって米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを先送りするでしょう。投資家もまた、ブレ
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グジット国民投票後数週間で米国債利回りを大きく押し下げた急激な「質への逃避」取引の影響
を吸収し始めています。
とはいえ、ブレグジットが米国の経済成長と株式価値に大きな影響をもたらさないと見られる一方
で、投資家が離脱決定による影響に気付いているとするなら、それは投資家がより良い投資判
断をし、より思慮深くポートフォリオを構築する方法に寄与するはずです。以下において 4 つの重
要なカテゴリーについて検証していきます。
1) 米国経済と株式市場
マクロ的観点から言えば、英国との貿易は米国経済に影響を与える重要な要因ではありません。
米国勢調査局によれば、英国は 2015 年の米国輸出全体の 3.7%を占めるに過ぎません。輸出は
米国国内総生産(GDP)の 12.6%を占めますが(世界銀行による)、英国への輸出総額は米国の
生産高の 0.5%未満を占めるに過ぎません。英国が景気後退に陥ったとしても、輸出がゼロにま
で落ち込む可能性は低いでしょう。実際、英国と EU との難しい貿易交渉により、英国、EU の双
方から米国輸出がより大きな恩恵を受ける可能性があります。
同様に、英国への米企業の売上げもほとんど取るに足らないものです。S&P ダウ・ジョーンズ・イ
ンデックスのデータによれば、2014 年(取得可能な最新のデータ)の S&P500 種株価指数構成企
業の英国への売上げは全体の 0.89%を占めるに過ぎません。ブレグジットによって英国が深刻な
景気低迷に陥ったとしても、米国経済と米国株式への直接的な影響はごくわずかだと見込まれ
ます。
2) 通貨による影響
ブレグジットによる米国への総合的かつ直接的な影響がわずかとなると見込まれる一方で、一部
の米国企業の利益は英国経済の低迷と英国、EU 企業に恩恵をもたらす通貨動向によって影響
を受けると見られます。英ポンドが大幅に下落した場合、歴史的に英国最大の輸出セクターであ
る機械、自動車、製薬、石油といった英国輸出企業に大きな競走上の優位性をもたらすことにな
ります。こうした競争力のある価格設定は米国の一部企業の世界市場での売上げに打撃を与え
るとともに、米国が割安な英国製品を輸入することで、米国内での競争が進むことになります。
しかしながら、こうした動きを相殺する材料も存在します。英国と EU との間の貿易障壁を高める
と見られる貿易交渉によって、一部米国企業は英国か EU での売上げ拡大の新たな機会を獲得
できるでしょう。繰り返しになりますが、マクロ的に見れば、ドルは英ポンドに対し上昇しています
が、ドル指数(DXY)のようなより広範な指数(広く注目されている、ドル以外の主要通貨バスケッ
トに対するドルの価値の尺度)はブルームバーグによれば 1 年前とほとんど変化は見られず、通
貨動向に起因した純ベースの負の影響はほとんど見られないのです。したがって、米国輸出業
者に打撃を与え海外収益の落ち込みをもたらした 2014 年から 2015 年にかけての大幅なドル高
は、2016 年には繰り返されていないのです。実際 2014 から 2015 暦年に 22%上昇したのに対し、
過去 12 ヵ月ではほとんど上昇は見られていません。
3) 不透明感と金利
米国経済と米国企業に影響を与えるブレグジット関連の最大の要因は、不透明感という間接的
な影響と低金利でしょう。貿易交渉、潜在的に見込まれる余波、そして英国に端を発する景気低
迷に関する不透明感は米国企業経営者たちの警戒感を高め、それによって彼らは投資や他の
決定を先送りする可能性があります。とりわけ、米国の銀行は、企業活動が減速し収益が落ち込
むと見られる中、不安定な状態にあると見られます。企業の警戒感自体が、買収や事業拡大の
先送り、投資銀行の収入の減少、融資への需要の抑制によって、米国経済成長の鈍化の一因と
なりかねないのです。FRB や他の中央銀行によるブレグジットに対応するためのハト派的金融政
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策がもたらす低金利と平坦なイールドカーブ(利回り曲線)もまた、銀行の融資収益を押し下げる
ものと見込まれます。
これらを総合すると、こうした間接的な影響は銀行のビジネスモデルの鍵となる支柱をむしばん
でいると見られます。米国の銀行のロンドン支店が金融商品やサービスを欧州全体に販売でき
るという「パスポート」権を保持できるかに関する不透明感次第では、最悪の事態になると見られ
ます。こうした障害を相殺するひとつの材料は、低金利が融資の伸びを促進することであり、借
入れと住宅ローンの需要が引き続き拡大している米国では少なくとも、融資の増加が進むことで
しょう。
4) 投資概観
ブレグジットの行く末が特定の米国企業に影響を与えるとみられる一方で、米国内経済への広範
な影響はほとんどないと見られます。 イングランド銀行と欧州中央銀行(ECB)による緩和的金融
政策がより強い警戒心を有する FRB によってさらに強化されるなか、「より低い金利を、より長期
に」というスローガンは引き続き債券市場全般において繰り返し唱えられるでしょう。ECB による
債券買い入れを通じた積極的な量的緩和措置が続くことで、魅力的な価格で提供される欧州債
券は少なくなっており、それが米国でのあらゆる信用力の債券をより魅力的なものとしています。
低金利は通常相対的な株式価値を高める方向で作用し、それが米国の株式、債券双方にとり前
向きな環境の形成の一因となっています。消費に大きく左右される米国経済は、雇用の拡大と賃
金の上昇によって支えられる形で、ブレグジットによる負の影響をある程度免れており、それは、
避難先と投資機会を模索する世界中の投資家により理解されていることでしょう。
見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想を保
証ととらえるべきではありません。
金融市場のトレンドに関する記述は現在の市場情勢を基にしたものでありこの先変動する可能性が
あります。市場が将来同様の状況下で同じようなパフォーマンスを生む保証は一切ありません。
国内総生産(GDP)は特定の期間内に国内で生産された製品及びサービスすべての貨幣価値であり、
通常年率ベースで算出されます。GDP には個人消費、公共消費、政府支出、投資、限定された地域
内で発生する輸出から輸入を差し引いた額全てを含みます。
前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可能性
があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または一般的な
市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておらず、また法的・
税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思われる情報に基づい
て作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証するものではありません。
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