IT を活用した日米交流の状況 インターネットを介する国際交流は、1990 年代半ばに着目されて以来、さまざまな試み が行われている。初期段階では、イーメール、BBS(Bulletin Board System、電子掲示 板)、チャットによるやり取りが主流だったが、1990 年代後半には画像やビデオ動画の投稿 が台頭し、その後はインターネットを使ったテレビ会議も行われるようになった。さらに、 テレビ会議システムには翻訳機能を備えているものもあり、言語翻訳の煩わしさを回避し た交流の可能性も高まっている。当初、二カ所だけでしか通話できなかったテレビ電話 も、複数の場所を同時につなげるようになった。現在では Skype と呼ばれるインターネ ット上の無料ソフトによるテレビ電話が人気を呼び、個人レベルでの国際的な通信や交流 に大きな影響を与えている。 日本、米国ともそれぞれ高度な科学技術を誇り、国内に広くブロードバンドが導入され ており、日米の草の根レベルでのインターネットによる交流実現の可能性は極めて高いと 思われる。 しかしながら、現実には日米の草の根レベルでそうした IT を活用した交流手段が十分に 活用されているとは必ずしもいえない。この章では、さまざまな団体のインターネットを 通じた日米交流の事例を通して、将来の日米交流発展のためにどのような IT 利用が考えら れるのか、現在の活用状況と課題とともに検討を加えたい。 インターネットを使った国際交流は、おおまかに分けて、6 つに分類することができる。 (1) 大学における学術教育交流 (2) 初等・中等・高等学校における国際理解を目的とした交流 (3) シニアのための国際交流 (4) 地方自治体による市民のための交流 (5) イベントなどの遠隔地交流 (6) 市民個人の自発的交流 以下にそれぞれについて交流の実態を記述する。 1.大学における教育交流 6つに分類を行ったインターネット交流において、最も広範な交流が行われているのが、 大学における授業の中で活用されている交流であろう。この取り組みの先駆的事例として、 「インターネットを介した対話学習 : 日米交流文化学習プロジェクトの運営」が上げ られる。この事業は 2000 年に東京工芸大学の大久保真道准教授によって行われた。 学びのコミュニケーションをいかにインターネットを通じて樹立できるかをテーマ として日米交流文化学習プロジェクトが行われた。この事業では(1)学生同士のパ 1 ーソナルな関係の樹立(2)学びの関係の樹立(3)学生の国際理解の変化について 焦点を当てた実験的な取り組みであった。 日本側では東京工芸大学芸術学部の3年生および4年生の25名、米国側はテキサス州 Baylor Universityの学生29名が参加して行われた。双方の学生によるBBSを通じた掲 示板によるコメントのやりとりと計2回にわたるインターネット上のテレビ会議を行 うことで交流が実施された。 テレビ会議は日本時間午前10時、アメリカでは午後8時より開始された。その際、日 本側はノートパソコンにCCDカメラを装着して画像を送り、音声に関してはパソコ ンに内蔵しているマイクを通じて転送された。アメリカ側からの映像はプロジェクタ で大型スクリーンに映し出され、また個々のPCのモニターにも写された。最初に、 簡単な挨拶と個々の質疑応答が行われた。 第一回目のテレビ会議を行った後、学生たちは共同学習を進めていった。テーマは、 アメリカ人学生はカウボーイ、日本人学生は武士について調べることとし、 (1)歴史 (2)仕事、役割 (3)衣装と道具(4)家庭生活と社会生活(5)文化(6)精 神活動・思想をとりあげ、それぞれグループ分けが行われた。 アメリカ人学生、日本人学生それぞれ4~5人ずつが一グループとなり、双方で約 10名で交流が行われた。使用言語は、日本人は英語、アメリカ人は日本語を使い、 レポートは相手の言語能力を考えて提出することとされた。 2回目の会議では総括の議論が行われた。40分間にわたって行われた会議では、相 手の顔が見えるため相手の存在感を強く感じることができた。実際に外国に行かずと もアメリカ人学生とともに学習しているという意識を日本人学生は強く感じることが できる結果となった。 しかし、システムの一部の不備や言語の障壁によって、学生相互のパーソナルな関 係を樹立するところまでコミュニケーションは進まず、学びだけの関係に留まった。 しかし、この学習を通じて、カウボーイ、侍という相手の文化に関するステレオタイ プの除去が行われ、異文化への理解が深まったと考えられる。 こ の よ う な 取 り 組 み を さ ら に 発 展 さ せ た も の が 、 CCDL ( 異 文 化 交 流 授 業 Cross-Cultural Distance Learning)である。CCDL は外国の大学と共同で行う遠隔教 育であり、次第に活発化している。チャット、BBS、そしてテレビ会議を駆使した教育交 流といえる。 早稲田大学においては CCDL の先進的な取り組みがなされている。一例として、海外の学 生とチャットによるリアルタイムでの文字ベースの会話を週に一度実施し、クラス単位で のテレビ会議を半期に数回、そして必要に応じて、BBS(電子掲示板)でのディスカッション を行う。また、同じ知識を共有できるように、オンデマンド授業が展開されており、PC さ えあればいつ・どこにいても全員が同じビデオ授業を受けることが可能である。 早稲田大学の実施している CCDL の参加校は、2001 年には 16 カ国 30 大学であったが、 2 2008 年には 24 カ国 86 大学になっている。その中で、アメリカの参加大学はオレゴン 州立大学、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校、コロラド大学、コロンビア大学、 シラキュース大学、ハーバード大学、ハワイ大学ヒロ校、ハワイ大学マノア校、フロ リダ国際大学、ペンシルバニア大学、ポートランド州立大学、ユタ大学、ラファヤッ ト大学、ワシントン大学である。 同様の交流が琉球大学、ハワイ大学・法政大学・大阪大学、千葉大学とチューリッ ヒ工科大学・北京大学・ミュンヘン工科大学・ニューヨーク工科大学で行われている ほか、また筑波大学もタイやマレーシアの大学と遠隔授業を行っている。一年に一度、 どちらかが相手校に赴くケースもあり、活発な交流が継続的に行われている。 外国語習得を目的とした遠隔地教育も行われ始めている。2009 年には、Moodle を使 った国際交流が始まった。Moodle とは、授業科目の中で教師と学生の活動を支援するため のソフトウェアの名称である。講義資料の配布やテスト、課題提出ができるだけではなく、 教師が学生の学習履歴を調べたり、教師と学生が、また学生同士がコミュニケーションを とったり、共同で調査をすることもできる。教室で行われている活動をコンピューターと ネットワークの力で支援することによって、対面授業を補完・補強するためのシステムで ある。 ジョージア大学で日本語を教えているクラスと、三重大学の「メディアリテラシーと情 報表現2」のクラスでは Moodle を使った交流が行われている。使用言語は日本語で、初 めはひらがなだけで日本人学生は自己紹介を書いていたが、アメリカ側からの要望で、感 じを交えた日本語と時には英語で交流をしている。 現在は両校の間での共同のプロジェクトとして「CMプロジェクト」が実施されており、 三重県の学生が紹介した日本のCMにアメリカの学生が字幕をつける作業を行っている。 このような大学における IT を使った取り組みはインフラが整っていることと、それ を指導する教師がいるため、安定的に実施されやすい。大学生にとっては留学をせず とも、海外の学生とディスカッションのできる機会や語学を活用できる機会となり、 今後、一層の広範な活用が行われると思われる。 2.学校・学生の教育のためのインターネット交流 異文化理解や地球的視野の育成という意味で最も効果があり、可能性が高いのが初等・ 中等・高等教育での交流である。地方自治体の助成、市民団体、財団法人や基金、アメリ カ大使館など様々な団体が、学生の国際交流を促進しようと支援している。 国際交流に潜在的な関心を持つ学校に対して、具体的な活動を展開を促進するため、財 団法人コンピューター教育開発センターがITを使った学校間交流を促進するための実験 を行った。国際交流につきまとう言語という障壁を解決する手段として、翻訳機能つきの 掲示板・チャット機能と、相手の顔を見ながら交流できるテレビ電話を使った実験が行わ れた。対象として選ばれたのは、もともと手紙や作品の交換を通じて交流のあった日米の 3 小学校である。 淵野辺小学校(神奈川県相模原市)と Eugene Field 小学校(ミズリー州・ハンニバル市) では、実験により、翻訳機能つきの掲示板交流を始めて取り入れた。子供たちは自動翻訳 機の支援により、自ら直接コミュニケーションを行うことができたため、言葉の問題に対 する心理的な障壁が低められ、積極的なコミュニケーションが行われた。 同様に、時津東小学校 ( 長崎県西彼杵郡 )と Staten Island Academy (米国・ニューヨ ーク市)は、翻訳機能つきの掲示板とテレビ電話を通じて交流した。小グループに分けて、 テレビゲーム、ファーストフード、祝日・行事、事故・災害、映画、スポーツなどのテー マを決めて議論を行った。翻訳文の意味が通らないこともあり、教員の手助けが必要では あったが、明確なテーマがあったため内容的にかなりかみ合った交流が行われた。テレビ 電話に関しては、教員の指導のもとで、相手の顔の見える交流をすることができ、海外の 生徒たちとの親近感を増大させる効果があった。 こうしたプログラムの中で、最も大きな成果を生み出したと考えられるのが、1997 年か ら 2007 年まで行われていたフルブライト基金マスターティーチャーズプログラムである。 同基金の助成により、日米双方の教員が相手国を訪問し、二週間の研修を受けたあと、自 分の学校の生徒とともに環境学習に取り組むものである。日米のそれぞれの学校がまとめ た情報を両国間で交換し合い、国際交流を行うというプログラムである。 交流の手段としてBBSを使い、写真や文章をアップロードするものと、インターネッ トによるテレビ会議を介したリアルタイムの議論の2つが実施された。このプログラムは 約半年間実施されその間、定期的に交流が行われる。日米の両校が深い結びつきを持つこ とが可能となり、気仙沼市の面瀬小学校などはプログラム後もアメリカの小学校と交流を 続けている。しかし、教員の研修に多額の費用がかかることもあり、財源の縮小によって、 2004 年には、日米各 30 校あった参加校も 2007 年には各 10 校まで縮減され、さらに現在で はこのプログラムは行われていない。 公的な財団がこうした活動を助成する一方で、企業財団が新たな日米交流に助成を行い 新しい IT 交流の道を切り開くケースもある。2008 年度から東芝国際交流財団によって実施 されている東芝地球未来会議は、日本、米国、タイ、ポーランド(2009 年度から参加)の 高校生と教員が夏休みに一週間、日本で合宿をしながら環境問題について話しあう事業で あるが、訪日前および訪日後の交流をインターネットのサイトを介して行っている。自己 紹介や事後の活動報告がネットを通して共有され、2010 年からは参加学生は動画による事 後活動の報告をネット上で行っている。 また 2008 年に米アトランタ市のロン・クラーク・アカデミーがパナソニック製の赤外線 ワイヤレスマイクを導入したことをきっかけに、日本の学校との交流の希望をパナソニッ ク教育財団に打診した。和歌山大学教育学部付属中学校が選ばれ、同財団の助成事業とし て交流が実現した。当初、ビデオレターやテレビ電話を使って交流を続け、2009 年 6 月に はアメリカ人中学生 24 人が和歌山県の同中学校に 3 日間訪問した。これらは企業財団の助 4 成でインターネットの交流から実際に来日が実現した貴重な事例である。 アメリカ大使館は学校の枠組みにとらわれない学生間のテレビ会議を主催した。2007 年 11 月に行われた、アメリカ大使館広報・文化交流部主催の日米高校生/大学生テレビ会議で、 ワシントン D.C.東京、名古屋、那覇を結んで、日米の学生が教育、文化、環境問題、政治 などについて、テレビ会議システムを利用して、意見交換を行った。東京の学生は公募で 選ばれ、早朝の6時40分集合にも関わらず、約 100 名を超える学生が参加した。 このように、学校間・学生間交流は活発に行われ始めているが、問題点も少なくない。 資金難に加え、言語・時差・カリキュラムの問題がある。アメリカとの間には東海岸で1 4時間、西海岸で17時間の差があり、小学生の児童がリアルタイムで交流するには不適 切なケースもある。また、学校での正規のカリキュラムに入れた場合、カリキュラムの時 間の制約のため、年に何度もテレビ電話をすることもできない。さらに、言語に不安を持 つことから、テレビ電話でつないでも、通訳者(教師)に依存するコミュニケーションに なりがちである。 一方、音楽や文化による交流は言語の違いが大きな制約要因とはなりにくく、そうした 活動を行う学校間の交流もある。2010 年1月に日米高校生ジャズバンドによるインターネ ット交流が行われた。兵庫県立高砂高校ジャズバンド部とニューヨーク州のビーバー・ リバー・セントラル高校のジャズバンド部が実施したリアルタイムのインターネットテ レビ中継で、メンバー紹介を交えながら、双方が4曲を演奏した。 同校ジャズバンド部顧問の米田忠雄教諭は「音楽という共通項があるため、生徒も自信 を持ってコミュニケーションが取れていた。今後、こうした試みが広がってほしい」と話 したように、言語が通じなくてもコミュニケーションが行えるのは、文化交流の強みであ る。数年前では音声がうまく届かないことも多かったが、テクノロジーの進歩により、高 校同士の交流でインターネットコンサートが開けるまでになった。 また、時差やカリキュラム、資金難に対応した先進的な取り組みを行う民間団体もある。 2001 年に日本を中心として、教育コミュニティ e-village が岡山県津山市でサイトを立ち 上げた。e-village は世界の様々な文化が出合う場所を提供することで、子供たちの地球 的視野を育てるために設立された。 e-village はインターネット上の教育コミュニティで、世界の子供たちが気軽に参加でき る。学校単位での参加も多いが、個人での参加も可能である。英語を母国語としない子供 たちも、絵や音楽などで自分たちの文化を紹介できるので、現在42カ国、110団体及 び個人の参加があり、画像数も約12,000点集まっている。住んでいる町の様子や名 所・食べ物・学校生活を絵に描き、e-village に投稿したり、写真を投稿したりと活発な交 流が行われている。 同様に、2005年に発足されたJapan Art Mileアートマイル壁画プロジェクトも芸術を通 じた国際的な学校間交流を促進している。世界の学校同士がパートナーを組み、一つの絵 を完成させるプロジェクトがあり、日本からもこれまでに36クラスが参加してきた。Web上 5 に、バーチャル美術館として絵とビデオが掲載されており、世界中の子供たちが完成させ た絵を見ることができる。 これらの絵画や写真、音楽を通じた交流では、必ずしも言語は必要不可欠ではない。さ らに、掲示板に投稿するだけであれば、時差・言語に関係なく行うことが可能であり、コ ストもほとんどかからないため、普及も容易である。 3.シニアのための日米交流 国際交流に携わる主体として今後、可能性が広がるのがシニア世代である。シニア世代 に向けた国際交流の場も広がりが生まれている。米国のSenior NetがGlobal Expansion Programの一環として日本のNPOシニアネット仙台とインターネットを通じた協働実験を 1999年にスタートした。日本と米国のシニアがそれぞれの言葉で電子メールを書き、翻訳 ボランティアがそれを翻訳して、ウェブサイトに掲載する。その翻訳を見てそれぞれが返 信を行う、というプロセスで実験された。高齢者の国際交流と同時に、デジタル格差を防 ぐことを目的とし、実際に普及させるためにボランティアの作業量や維持費、コミュニケ ーションフローの確認をすることを主目的として行われた。 一方、現在のシニアネット仙台は、日本在住の日本人シニアと米国在住の日本人シニア との「日米シニア井戸端会議」を中心に活動している。こちらの活動はすべて日本語で、 アメリカに在住しているシニアが近況報告として一ヶ月に一度程度、文章をインターネッ トに載せている。 しかし、シニア自身が IT を活用したシニアのための国際交流の会を立ち上げた例がある。 津市在住の 89 歳、富田清さんは「インターネット無料電話で国際交流を広める会」のリー ダーとして活躍している。定年退職後、英会話を習い始めたが、英語を話す機会に恵まれ ず、悩んでいたときに Skype と出会った。Skype ではインターネットを通じて無料で世界に 電話をかけられ、ビデオカメラを持っていれば、テレビ電話もできるソフトである。富田 さんは地元でも Skype 仲間を広げようと会を結成した。メンバーは最年長の冨田さん、元 中部電力社員の長谷弘さん(74)など60~80歳代の総勢10人。現在外国の友人が 100人以上でき、毎日、Skype を利用した国際交流を行っている(2009年5月現在) 。 英語の練習の機会して Skype を使った国際交流を行っているが、こうしたニーズは大きい と思われる。 4.地方自治体による市民のためのインターネット交流 学生やシニアによる活動が活発化・多様化している一方で、一般市民を対象とするイン ターネットを利用した国際交流はそれほど活発には行われていない。 姉妹都市におけるインターネット交流の事例は必ずしも多くない。1998 年に国際テレビ 会議システムを使った広島県の甘日市中学校とニュージーランドのワイララパカレッジの 学校間交流とそれに伴う姉妹都市調印式の提携がウェブ上に公開されている最初の記録に 6 なっている。同年、下関市とピッツバーグ市も締結式をインターネット上で中継した。姉 妹都市交流の事業として調印式や記念式典の際に、インターネット交流が活用され始めて いる。 また2010年3月に実施した(財)日本国際交流センターの姉妹都市に対するアンケ ートの結果においても、IT を使った交流活動は極めて限られており、その一方で導入に対 する関心も高いことから、今後、大いに活用されうる分野といえる。 一方、自治体が設立した国際交流協会が、広く市民に開かれたインターネット国際交流 事業を展開している例がある。仙台のメディアテックで開かれている 「Café ぐろーかる」 は、 (財)仙台国際交流協会が、JICA 東北支部と(特活)国際ボランティアセンター山形(IVY) と一緒に主催している事業である。月に一度、国際協力や国際交流の現場で活動する人た ちや、地域に住む外国籍市民の方を招いて、世界の問題を一緒に考えるほか、 毎回 Skype を使い海外の地域と対話する試みを行っている。仙台の姉妹都市であるアメリカのリバー サイド市とつなぎ、経済問題について話し合いが行われた。またエチオピアとの対話では 技術的な障害によって成功しなかったが、途上国との対話をする試みも行われている。こ の事業は、現在も月に一度定期的に行われており、参加費無料で誰でもが参加でき毎回定 員20名で実施されている。 5.イベントにおける遠隔地交流 「国際交流」それ自体を目的としたものだけでなく、海外との連携による事業強化や、 イベントの盛り上げに IT 交流が促進されているケースも多い。市民団体のキャンペー ンや、様々なイベントで有効活用されている。 2002 年にはナノテク総合展示会において、 「日米テレビパネルディスカッション」が開か れ た 。 米 国 Texas 州 で 開 か れ て い る ナ ノ テ ク 分 野 へ の 投 資 家 向 け イ ベ ン ト で あ る 「nanoventures2002」の会場とテレビ会議でつながれ、 米国側にはベンチャー投資家 4 人、 日本側にはナノテクに詳しい企業関係者が参加して、日英同時通訳で進められた。 2004 年に行われた ポケモンイベント 『ザッツ・ポケモン☆エンターテイメント~世界 の国からピッ!ピカチュウ~』では、日本の子供たちがアメリカのポケモンファンの子供 たちとテレビ電話により交流した。イベントは国内数カ所から中継を結ぶテレビ番組のよ うな設定で行われた。その中に、アメリカからの中継もあり、アメリカの子供たちと会場 の子供たちが国際交流を行う試みもあった。 広島市では、2009 年に被爆者がインディアナ州インディアナポリスの大学との間で テレビ会議を使って交流する試みが行われた。爆心地から約1キロの自宅で被爆した寺 本貴司さんが参加し、原爆資料館東館(中区)と米国を結んで、広島平和文化センターの スティーブン・リーパー理事長の通訳で、米国の学生たちに被爆の惨状についてスピーチ を行った。被爆者の高齢化によって、米穀での被爆体験を語ることが難しくなるケース が増えており、インターネットを通じて原体験をライブで米国側が話を聞けることは 7 有意義であると考えられる。寺本さん自身も「米国を訪れた時と同じように伝えること ができる」と手応えを感じていた。 さらに広島では 2010 年 1 月には、社会変革に向けた国際的デモンストレーションと して米国に向けた中継が使われた。核拡散防止条約(NPT)再検討会議の100日前 にあたる1月23日に日米の市民団体が広島市中区の原爆資料館と、会議の舞台となる 米ニューヨークをテレビ会議システムで結んで交流した。2020年までに核兵器廃絶 を目標とするヒロシマ・ナガサキ議定書への賛同を呼びかける「Yes!キャンペーン 実行委員会」主催で行われたこの催しでは、日本側が議定書をテーマにした絵本を朗読 し、ニューヨークの参加者は英語版を読んでそれに応えた。現地の様子はステージ上の 大型モニターに映し出された。 このように、ビジネス、エンターテイメント、キャンペーンなど様々な分野でイン ターネットによる国際的な連携が各地で行われ始めている。 6.個人レベルでの IT の活用 インターネットツールの進展により、老若男女問わず、個人レベルでも以前よりも容易 に海外との交流が行うことが可能となり、個人レベルで交流を始める人が増えている。 2007 年頃より米国、カナダと日本人とを結びつけるソーシャルネットワーキングサービ スが設立された。「Style-JP SNS」という名称で、留学情報の交換、地域情報、日米交流な どを目的としている。現在は 300 名ほどの参加者がいる。参加者の多くは日本人のようで、 Youtube に投稿された動画の共有、シカゴやロスの地域情報共有、また Skype で のランゲ ージ・エクスチェンジを求めるグループなどがある。必ずしも活発に交流されているとは 言えないが、市民から始まった新しい国際交流の場として面白いアイデアではある。 また個人レベルの交流では「国際交流をしよう」という特別の意識を持たずに、身近に なった IT を使って、日本人以外の人々に対しても情報発信し、そのリスポンスを海外から うけるという自然発生的に国際交流が行われている。動画投稿サイト Youtube やオンライ ンゲームでは国境の壁が低く、そうした気軽な交流を行う土台になっている。 Youtube では、日本の番組に「この俳優は誰?」というアメリカ人からの質問が投稿され、 それに日本人が答える。そこから Youtube 内のメッセージ機能を使い、個人的な交流が始 まることも行われている。また、日本好きなアメリカ人が、日本のアイドルや歌手のまね をしたビデオに、日本人がコメントを投稿するなどの対話もみられる。日本人が日本語で 書いたコメントもあれば、英語で書いたコメントもあり、外国人が日本語を使う場面も多 く見られ、国際交流という国境を超える壁を意識することがほとんどない多種多様な気軽 な情報交換の場が生まれている。自分の気に入ったものにコメントすることが、気がつく と一種の国際交流をするきっかけになっている。 また、オンラインゲームでも、世界中の関心を持つ人々が気軽に参加し、意図しない「国 8 際交流」が常に起こっている。Final Fantasy というゲームでは、同じ時間にプレイしてい る人とゲーム上で知り合いになることができる。ゲームのファンは世界中にたくさんいる ことから、様々な国籍に人が同じゲームをしていることになる。アメリカ人と日本人が一 緒にチームを組んで闘ったりすることも多く、そこからゲームを離れてもやり取りするこ とがあるという。特に国際交流を意識しなくとも、インターネット活動の延長線上に国際 交流がある。 7.今後の課題 IT を活用した日米の国際交流は様々な分野で有効活用され始めている一方、利用が一般 化して10年ほどが過ぎた程度で、必ずしも広く普及し活用されているとはいえない状況 にある。姉妹都市のアンケートを見ると、利用に関心を持っていても利用の仕方がわから ないという意見が極めて多く、現時点では活用は極めて限られたものであるといえる。 さらに、IT を使った交流は試みられているものの、その多くは継続的な交流につながっ ていない場合が多い。その理由の一つとして、大掛かりなイベントなどでは、同時通訳な どの設営が必要であったり、大型のスクリーンや IT の技術者を必要とする場合もあり、気 軽な交流が行われてこなかったことがある。しかし、技術の進歩とともに、PC だけではな く携帯電話を利用した活用も今後、一層浸透していくと考えられ、その意味で大きな可能 性が広がっているといえる。 また IT を使った交流では、どのようなテーマをもとに交流するかが重要であり、学校間 交流にしろ、イベントやキャンペーンにしろ、交流が一度で終わってしまうケースはテー マ設定や交流の進行に一層の工夫が必要であるといえる。 IT の活用としてテレビ電話だけではなく、Facebook のグループ機能や、Twitter などが 若者の間で広く活用され始めており、個人レベルで時間や場所を気にせずに、気軽に交流 できるツールが広がっている。今後、姉妹都市における市民交流においてこうしたツール の活用や姉妹都市 SNS の設立なども効果的と考えられる。 Facebook のグループ機能を使うと、興味のあるテーマや特定の団体に所属している人が、 グループを作り、話題を共有したり、写真を投稿しあったりできる。例えば、学校間交流 であれば、双方のクラスの生徒が Facebook でグループを作り、個人レベルでの交流も可能 であり、また姉妹都市の間で Facebook を作るれば、双方の市民がそれに参加することもで きよう。 岩手県花巻市では姉妹都市のオーストリアのベルンドルフとの交流で Facebook のグルー プ機能が活用されている。このグループには 49 人のメンバーが所属しており、1 人の日本 人を除いて後はベルンドルフの市民である。このサイトにはベルンドルフに訪問した花巻 市の日本人団の写真や、自分の姉妹都市経験を共有するページが日本語・ドイツ語で書か れている。 ベルンドルフ出身の女性 Theodora K. E. Höger が自作をしたもので、 花巻市に 2002 年と 2004 年に訪れホームステイをした経験がある。花巻市では、ベルンドルフからの来訪 9 を記念した大きな事業があり、市内でベルンドルフに興味のある市民が参加できるような 工夫があったという。 一方、ベルンドルフ側では姉妹都市に対する市民の理解が十分でないため、ベルンドル フの市民に花巻市との友好関係を知らせ、参加を呼びかけるために facebook にグループを 作った。彼女は「姉妹都市は、違う文化を知る大事な機会で、異文化の人の生き方や新し い言語も学べる。地域をオープンマインドにする力もある。 」と語った。グループを作って 一ヶ月後に 30 人だったメンバーは、二ヶ月後には 20 名近く新たなメンバーが加わった。 また、同氏は姉妹都市を強化するために、Twitter、Skype を使った交流を深めていければ、 と将来の構想も持っている。これは日本の姉妹都市の相手先市民の発意であるが、日本側 もこれに答えていくことで日本側との交流の拡大も期待できよう。 本調査の一環として行った姉妹都市アンケートでは、交流の不活発化の原因、今後の課 題は市民の参加が不十分であることや、高齢化であるということが明らかになった。交流 事業は、特定の市民のみが参加する傾向があり、市全体に広がる交流の難しい点が課題と なっている。その課題を克服する方法として交流への市民参加の拡大する手段として IT が あげられる。 一例として姉妹都市間や地域の学校間における SNS の立ち上げが考えられる。現在、日 本で主流な SNS に mixi や facebook がある。SNS では、登録した個人が、自分の関心分野・ 趣味などを書き込んだページを持っている。そのページで、日記を書いたり、写真をアッ プロードしたりすることができる。同じ趣味を持つ人とのグループを使い、情報をシェア する活動は盛んに行われている。また、SNS 上のメッセージ機能を使い、特定の個人にメ ールを送ることができる。グループ内で話が弾んだ人や、同じ年代の人、興味関心が同じ である人にメッセージを送り、友人になることができる。実際に、インターネットを離れ、 直接会う機会をもつこともある。 この機能を姉妹都市交流のような国際交流で活用し、特定の地域間で行うことが考えら れる。インターネット上にページをつくり、市民や生徒に登録してもらう。自治体が行う 場合は、適正な利用を担保する目的で、利用届けを提出してもらうことの考慮も考えるべ きである。学校間で行う場合も同様で、同じ年代の子供たちが安心して利用できる環境整 備が必要である。ウイルスの監視、ID やパスワードの管理を自治体・教育委員会が行い、 あとは市民の自発的な交流に任せる。派遣事業とは違い、市民全員に開かれたコミュニテ ィとして、姉妹都市の結びつきを強めることができると期待される。 SNS が難しい場合は、既存のコミュニティを利用することも可能だ。例えば、Facebook に姉妹都市グループ・学校間グループを作り、互いの都市でのお祭りや記念事業などの模 様を写真やビデオで伝えることができる。そのグループから地域ベースの個人的な交流が 強まるだろうと考えられる。 これらの活動は、市民の草の根参加を促すだけではない。派遣事業など、一度交流した 人々とのつながりを保つこともできる。その年度に派遣された人々同士だけでなく、年度 10 間の交流もおこり、そこから地域交流の更なる発展のアイデアが出くる可能性もある。 また、Twitter による交流活動を促進につながる情報発信も可能だ。市がどのような姉妹 都市事業を行っているか、Twitter を通じて発信できる。イベントなどの参加も、インター ネットを通じて青少年層に呼びかけることができる。今までは、回覧板や地方新聞、自治 体の HP でしか情報を発信していず、高齢者や主婦層のみに情報が共有されがちだった。し かし、新しいインターネットツールを駆使することが、若者の参加を促すと期待される。 国際交流では市レベルや学校単位など、大きな単位を想定して交流が行われがちである が、最近のインターネットツールは個人や少数のグループとの親和性が高い。グループ内 の個人同士の交流を積極的に行う仕組みを姉妹都市交流の枠組みの中に組み込み、それを インターネットを介して行うことも今後、日米の草の根交流の活性化につながると考えら れる。 インターネットを介した交流はさまざまなツールがありそれぞれ利用の上での特徴があ る。そうしたツールの特徴をつかみながら、目的に即したツールを活用し、また個人が気 軽に参加できる仕組みを作ること、またそれを実現するために、インターネットの活用に ついての具体的なノウハウを全国に広げていくことが、財政難で交流の停滞が不安視され る時代においては極めて重要な役割を果たし得るものと思われる。 11
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