1 ベッドの背上げ軸・足上げ軸の位置からみたポジショニング ~経管栄養

ベッドの背上げ軸・足上げ軸の位置からみたポジショニング
~経管栄養剤投与時の安楽・安全を考えて~
生活支援員 西舘 裕子
I.
はじめに
経管栄養剤使用者にとって投与時に背上げ・足上げの体位をとるのは毎食のことであり、その標準的な
投与時間は、利用者の疾患・身体状況・栄養剤の形状等にもよるが、栄養剤と水分を合わせ1回当たり1
~1時間半の時間を要する。当施設での平均的な栄養剤投与時間は 1 回当たり 1 時間と比較的短いが、麻
痺や関節の拘縮、その他の身体的な要因により自分の手足を自然な形状や状態に維持・調整することが難
しい利用者にとっては、動きが制限された体位で過ごさなければならず違和感や苦痛を伴うことが考えら
れる。その為、介護者側が他動的に個々の利用者に合わせたポジショニングの工夫を行う必要がある。ま
た、ベッドにより異なる背上げ軸、足上げ軸の位置を考慮した背上げ・足上げ、臥床位置も重要となる。
II.
目的
栄養剤投与には90度坐位を保持することが望ましいとされるが、障害等により90度坐位がとれない
場合、ずれによる褥瘡の予防、嘔吐や胃食道逆流・誤嚥性肺炎の予防を考慮し、30度の背上げと栄養剤
注入後30~60分は注入時の体位を保つ1)ことが適切とされる。その間、枕やタオルを用いて体位を整
える2)ことはもちろんだが、本研究ではベッドの背上げ軸、足上げ軸に着目し、個々の利用者が安全で安
楽な体位を保てるようなポジショニング、背上げ・足上げ法および臥床位置、ポジショニング枕の使用法
を検討した。
III. 体位変換とポジショニングの目的の違い
1)体位変換の目的3)
・ 安楽な体位をとる
・ 同一体位での圧迫による障害を避ける
・ 同一体位による筋の萎縮・機能低下を予防する
・ 循環器を刺激し、静脈血栓症や褥瘡あるいは四肢の浮腫を予防したり、症状を軽減する
・ 肺の拡張を促進する
・ 気道の分泌物を排出しやすくする
・ 看護や診察・治療・検査に必要な体位をとる
2)ポジショニングの目的4)
・ 動けないことにより起こる様々な悪影響に対して予防策をたてる
・ 自然な体軸の流れを整える
・ 安全・安楽の観点から体位を評価し、現状維持から改善に役立つよう体位づけの管理を行う
介護介入分類5)のラベルと定義では、ポジショニングを「体位づけ」とし、生理的安寧、心理的安寧を
促進するために、患者または身体部分を熟考のうえ位置づけることとしている6)。
1
IV.
対象者および方法
1) 対象者
① I・S 様,54歳,男性,身長:170cm,体型:やせ気味.
胃瘻栄養法。半固形栄養食摂取。脊髄小脳変性症。硬膜下血腫による両上下肢機能の全廃及び体幹機能
の障害あり。随意運動なし。両膝関節屈曲拘縮、両足関節に内反拘縮みられる。褥瘡はないが発汗多く四
肢末端に浮腫も見られ、褥瘡発生リスクあり。気管カニューレ造設。唾液の分泌量多く、肺炎や低酸素状
態・窒息予防・流涎を促すため、左右の30度側臥位、常時15度の背上げを行っている。坐骨結節~膝
関節の長さは51cm、頭頂部~坐骨結節の長さは82cmである。
体位変換は、左右の30度側臥位のみ。栄養剤投与時の姿位は背上げ角度30度、30度右側臥位。
② S・T 様,78歳,男性,身長:161cm,体型:標準.
胃瘻栄養法。半固形栄養食摂取。胸部脊髄症による両下肢機能の全廃により体幹と両下肢の随意運動な
し。膀胱留置カテーテル挿入。首と両上肢は自由に動かせるが、体位変換できるほどの筋力はない。粘稠
性の痰絡みあり、常時15度の背上げを行っている。坐骨結節~膝関節の長さは45cm、頭頂部~坐骨
結節の長さは79cmである。
体位変換は、左右の30度側臥位と仰臥位で行われている。栄養剤投与時の姿位は背上げ角度30度、
仰臥位。
③ O・J 様,61歳,女性,身長:142.5cm,体型:やせ過ぎ.
経鼻栄養法。高栄養流動食(液体)摂取。低酸素脳症による両下肢機能の全廃及び体幹機能の障害と診
断されているが、右下肢、両肘に随意運動あり、特に左肘の動きが大きい。両上肢・両手指・左股関節に
拘縮・左膝に伸展、右膝に屈曲拘縮、両足関節に内反尖足みられる。坐骨結節~膝関節の長さは33cm、
頭頂部~坐骨結節の長さは73cmである。
体位変換は、左右の30度側臥位と仰臥位で行われている。栄養剤投与時の姿位は背上げ角度30度、
仰臥位。
④ O・M 様,60歳,女性,身長:155cm,体型:やせ過ぎ.
経鼻栄養法。高栄養流動食(液体)摂取。脳炎による両上下肢機能の障害、骨粗しょう症あり。両上肢・
両手指・両下肢の拘縮・両足の内反みられる。首と左肘に随意運動はあるが、他動的に動かそうとすると
抵抗運運動みられる。外部刺激(音や接触など)に敏感な様子あり、刺激により全身の屈曲パターンが著
名に認められる。坐骨結節~膝関節の長さは35cm、頭頂部~坐骨結節の長さは77cmである。
体位変換は、左右の30度側臥位のみ。栄養剤投与時の姿位は背上げ角度30度、30度右側臥位。
2) ポジショニングの進め方および方法
褥瘡予防のためのポジショニング7)を参考に独自のアセスメント表を作成し、ポジショニング施行前(表
1-1~4)に客観的情報の収集をした。ポジショニング施行時(表2-1~4)は収集した情報を元に、
最適なポジショニングを実際に体位づけを行いながら検討・評価をした。ポジショニング施行後(表3-
1~4)にはポジショニングにより目標に到達しているか否か評価をした。また、対象者と同様のポジシ
ョニングを職員に体験してもらい、客観的な感想の聞き取りをした。
対象者の使用しているベッドは背上げ・足上げ連動式モーターベッドであり機能上、背上げ・足上げを
別に行えないため、ポジショニングは背上げの角度を基準とし、足上げの角度は連動して上がった状態で
ポジショニングを施行した。角度はゴニオメーターを用い計測。リハビリスタッフに対象者ごとの麻痺・
拘縮・関節可動域・変形・体幹の歪み・浮腫について確認してもらいポジショニングの選択をした。
対象者①~③の使用ベッドは2段階で背上げが行われるタイプのもので、背上げ角度30度では頭側か
ら61cmの位置(図1-①)で折れ曲がり、足上げ角度は5度上がる(図1-③)程度である。背上げ
2
角度45度では83cmの位置(図2-④)で折れ曲がり、足上げ角度は15度である(図2-⑤)
。背上
げ軸~足上げ軸間距離は57cm(図1-②~③、図2-④~⑤)
。
対象者④の使用ベッドは角度を上げるにつれて背ボトムが伸びる(図4-②)タイプのもので、背上げ
角度30度では頭側から85cmの位置(図3-①)で折れ曲がり、足上げ角度は静止状態で確認できな
い程度である。背上げ角度45度でも折れ曲がる位置(図4-③)は変わらず、足上げ角度は15度(図
4-④)である。背上げ軸~足上げ軸間距離は50cm(図4-③~④)
。
V.
結果
≪対象者①≫
・ ポジショニング施行前のアセスメント(表1-1)の情報を元に、ポジショニングの選択をした。
頭頂部~坐骨結節までの長さが82cmある為、ベッドの構造上、背上げ角度は30度の状態で4
5度の折れ曲がり位置である83cmに坐骨結節がくるよう臥床位置をとる必要あり。45度の折
れ曲がり位置に坐骨結節を合わせた場合、頭側から61cmで1段階目の背上げが行われるがエア
マットを使用している為、胸部周辺が不自然に曲がることはなかった。
・ ポジショニング施行時のアセスメント(表2-1)
、ポジショニング施行後のアセスメント(表3-
1)の項目をチェックした。
【△:どちらともいえない】の項目について
・ 時間経過に伴い、体軸が歪まないか:随意運動は見られないが、痰絡みの際の強い咳き込みにより
上下肢に反射運動あり、時間経過による体軸の歪みが無いとは言えない。
・ ベッドの背上げ軸、足上げ軸が体に合っているか:背上げ軸はエアマットレスを使用しているおり、
不自然な箇所で曲がることはない。ベッドの足上げ軸は対象者の坐骨結節~膝関節の長さより7c
m長いが、背上げ角度30度では5度上がる程度の為、ポジショニング枕の使用法を工夫すること
で対応可能。
・ マットレス、ポジショニング枕はどうか:体幹に使用している長方形の枕は長さ・柔らかさ・厚さ
ともに丁度良いが、下肢に使用している枕の大きさが若干小さく、中の綿が重みで潰れている。
* その他注意点:30度側臥位では、頭部のポジションにも配慮が必要である。枕の下にも枕全体が3
0度の角度を保てるようタオルやポジショニング枕を入れ、頭頚部が脊柱に対して回旋にひねりつつ
伸展することを防ぎ、自然な対軸を保つようにする。
・ 両上下肢・体幹共に随意運動は見られない。
・ 両上肢は関節可動域に制限は認められない。
・ 左上肢を体幹から外側に広げることにより排痰を促す。
・
・ 両膝関節は屈曲拘縮あり、
大腿部内側に枕を入れることで
内転防止を行う。
・ 右膝下に枕を置き、膝を安定させる。
・ 左膝は軽度屈曲位を保ち、
右下肢と垂直な位置を保つよう
に左足部に枕を置く。
・ 四肢末端に浮腫見られる為、枕やタオルで挙上行う。
3
《ポジショニング体験モデルの感想》
頭部~臀部に入れた枕により身体が安定している。左上肢を胸部や腹部に乗せた状態より、外側に広げ
た状態の方が圧迫感がなく楽である。右膝下の枕は入れる位置により違和感があるが、膝を支えられるこ
とによって股関節が楽である。左足部の枕により、足がずれず安定感がある。ベッドがフラットな状態よ
り、背上げをした状態の方が安定感が増す。
≪対象者②≫
・ ポジショニング施行前のアセスメント(表1-2)の情報を元に、ポジショニングの選択をした。
頭頂部~坐骨結節までの長さが79cmある為、対象者①と同様の臥床位置、背上げ法をとる。
・ ポジショニング施行時のアセスメント(表2-2)
、ポジショニング施行後のアセスメント(表3-
2)の項目をチェックした。
【△:どちらともいえない】の項目について
・ ベッドの背上げ軸、足上げ軸が体に合っているか:背上げ軸はエアマットレスを使用しているおり、
不自然な箇所で曲がることはない。ベッドの足上げ軸は対象者の坐骨結節~膝関節の長さより12
cm長いが、背上げ角度30度では5度上がる程度の為、ポジショニング枕の使用法を工夫するこ
とで対応可能。
・ マットレス、ポジショニング枕はどうか:両大腿部、下腿部後面に使用している長方形の枕は若干
柔らかいが、立てるように2個使用し足底にタオルを置くことで膝関節の屈曲位を保つことができ
る。
*その他注意点:膀胱留置カテーテルを挿入している為、ポジショニング施行時はカテーテルの位置に注
意する。現在、褥瘡はないが踵部に褥瘡暦あり。足底全体をベッドに接地するか、踵部を浮かせるような
ポジショニング枕の使用が必要である
・両上肢は随意運動見られるため、フリー状態とする。
・両下肢においては随意運動見られず、また、関節可動域制
限も認められず。
・両大腿部、下腿部後面に枕を置き、股・膝関節の軽度屈曲
位を保つ。また、内転防止の為に膝関節の間に丸めたタオル
を入れる。
両足底部は全体的に接地するよう、タオルを置いた。
《ポジショニング体験モデルの感想》
大腿の付け根から下腿がしっかりと支えられている為、安定感がある。膝関節の間の丸めたタオルは若
干違和感がある。足底のタオルにより足のずれがない。
≪対象者③≫
・ ポジショニング施行前のアセスメント(表1-3)の情報を元に、ポジショニングの選択をした。
4
頭頂部~坐骨結節までの長さが73cmある為、対象者①と同様の臥床位置、背上げ法をとる。
・ ポジショニング施行時のアセスメント(表2-3)
、ポジショニング施行後のアセスメント(表3-
3)の項目をチェックした。
【△:どちらともいえない】の項目について
・ 時間経過に伴い、体軸が歪まないか:右下肢の屈曲運動により背上げ時ずり落ち気味になり、ポジ
ショニング枕が意味をなしていない時がある為、時間経過による体軸の歪みが無いとは言えない。
・ ベッドの背上げ軸、足上げ軸が体に合っているか:背上げ軸はエアマットレスを使用しているおり、
不自然な箇所で曲がることはない。ベッドの足上げ軸は対象者の坐骨結節~膝関節の長さより24
cm長いが、背上げ角度30度では5度上がる程度の為、ポジショニング枕の使用法を工夫するこ
とで対応可能。
・ マットレス、ポジショニング枕はどうか:そば殻・綿・ビーズと多種類の枕が計8個あるが、ビー
ズは時間経過に伴い変形する為、ポジショニング枕には向かない。モデル写真では下肢にタオルを
使用しているが、タオルも時間経過に伴い変形する為、適度な硬さと大きさのポジショニング枕が
必要である。
・ 寝具や寝衣に不要なよれがないか:両上肢・右下肢に随意運動あり、ずり落ちによる寝具や寝衣に
よれが生じることあり。
・ 体位に慣れていけそうか:ずり落ちによる嘔吐や胃食道逆流・誤嚥性肺炎の予防の為、腰部から下
肢にこれまでより固定力を高めたポジショニングを行っており、体位に慣れていけるか現時点では
不明。
・両肘関節屈曲位の為、枕を両脇に入れ拘縮予防を行う。両
肘関節は随意運動(屈曲運動)可能であるが、枕を入れたこ
とによる随意運動の妨げには至らない。
・右膝関節に屈曲拘縮あり、伸展への動きを出し両股関節左
右対姿位になるようにする。
・右膝関節は随意運動(屈曲運動)により 30 度背上げ中、徐々
に足元方向へのずり落ち見られるため、大腿部、下腿部後面
に枕を置き、膝関節外側に丸めたタオルを入れることで、や
や固定力を高めずり落ち防止を行う。
・左股関節に拘縮・膝に伸展拘縮あり。大腿部、下腿部後面
に枕を置くことにより、屈曲方向への動きを出す。
・両足関節に内反尖足あり。右足は膝関節の屈曲拘縮により、
仰臥位では足底がベッドに接地しない為、外踝を浮かせ部分
圧迫の防止を行う。左足底は丸めたタオルを置くことにより
尖足の防止を行う。
《ポジショニング体験モデルの感想》
腰の両側に丸めたタオル、大腿の付け根から下腿がしっかりと支えられている為、安定感がある。右足
の屈曲運動にやや制限を感じる。両脇の枕は胸部を圧迫しない大きさのものがよい。肘関節の屈曲運動は
自由にできる。
5
≪対象者④≫
・ ポジショニング施行前のアセスメント(表1-4)の情報を元に、ポジショニングの選択をした。
・ 普段は全身屈曲パターンが見られる為、栄養剤投与時の姿位は背上げ角度30度、30度右側臥位
であるが、痩せが著明で30度側臥位をとっても、臀部にかかる圧の移動が上手くいかず、仙骨と
腸骨端の2箇所に圧がかかり褥瘡発生部位を増加させることになる。また、股関節の変形・拘縮に
より体幹から臀部にかけて自然な斜め傾斜が維持できず、関節の形状に合わせ、部分圧迫を強めて
しまう10)ため、看護師に仰臥位での経管栄養剤投与が可能か確認の上、仰臥位でのポジショニン
グを検討し試行した。
・ 背上げ角度30度の折れ曲がり位置である85cmに坐骨結節がくるよう臥床位置をとる。背上げ
30度での足上げ角度は静止状態で確認できない程度である為、ベッドの足上げ軸はポジショニン
グ枕にて調整を行う。
・ ポジショニング施行時のアセスメント(表2-4)
、ポジショニング施行後のアセスメント(表3-
4)の項目をチェックした。
【△:どちらともいえない】の項目について
・ 時間経過に伴い、体軸が歪まないか:外部刺激による筋緊張時の全身屈曲パターンが見られる為、
弛緩したあと体軸が歪むことが考えられる。
・ ベッドの背上げ軸、足上げ軸が体に合っているか:対象者①~③のベッドと異なり、背上げ軸が1
箇所に固定されている為、対象者④の坐骨結節に合わせることが可能。足上げ軸は合ってはいない
が、背上げ30度での足上げ角度は静止状態で確認できない程度であり、ポジショニング枕にて調
整可能。
・ マットレス、ポジショニング枕はどうか:ウレタンマットレス使用の為、栄養剤投与時の安楽・安
全だけでなく褥瘡予防も考慮した体圧分散のポジショニングおよび枕の使用法を考える必要あり。
ポジショニング枕は綿クッション4個あるが、仰臥位保持には大きさ厚さが足りない。
・ 寝具や寝衣に不要なよれがないか:外部刺激による筋緊張時の全身屈曲パターンが見られる為、寝
衣によれが生じることあり。
・ 体位に慣れていけそうか:普段は左右30度側臥位のみの体位変換対応の為、ポジショニング試行
時は特に変わった様子見られなかったが、体位に慣れていけるか現時点では不明。
・筋緊張時の全身屈曲パターンが著明。
・両上肢屈曲位、肘関節に屈曲拘縮見られる。両側肩甲骨後
背部に隙間が見られる為、肩甲骨に沿うようにタオルを置い
た。
・脇拘縮により、両上肢が胸に置かれることで起こる胸部へ
の部分圧迫や拘縮進行も考えたが、左上肢は随意運動あり、
また、外部刺激により両上肢の屈曲位が強くなり、胸部圧迫・
拘縮の増強が考えられる為、あえて枕やタオルの使用を避け
た。
・両股関節は屈曲位、膝関節は屈曲拘縮見られる為、大腿部、
膝後面に枕を置いた。又、内転拘縮見られる為、丸めたタオ
ルを入れた。
・両足関節に尖足見られる為、丸めたタオルを入れ尖足防止
を行った。
6
《ポジショニング体験モデルの感想》
肩甲骨の後ろにタオルがあることで、胸部が開く感じがして楽である。腰から下はしっかりと固定され
ており動けないが、股関節・膝関節ともに苦痛は感じない。
対象者②~④では、背上げを行うことにより、仙骨部への圧迫が強くなる。部分圧迫を軽減させる為、
両側腸骨周辺に丸めたタオルを入れ体圧分散を行った。
対象者①~④のポジショニングを行ってみた結果、使用しているベッドは背上げ角度30度では足上げ
角度が5~15度であり、個々の対象者に合わせた枕を使用することで、下肢のポジショニングに対応す
ることが可能であった。
VI.
考察
対象者①では発汗が多く四肢末端の浮腫が見られるため、褥瘡の発生予防が必要である。しかし、気管
カニューレを造設しているが、血中酸素飽和度 90%前後であり、唾液の分泌量も多く、肺炎や低酸素状態・
窒息予防を考慮した上で呼吸の安楽を最優先としたポジショニングを行う必要があった。対象者②では現
在、褥瘡はないが踵部に褥瘡暦あり。褥瘡の発生予防を優先したポジショニング、および、膀胱留置カテ
ーテルを挿入しているため、カテーテルの折れ曲がりに注意したポジショニングを行う必要があった。対
象者③では関節の拘縮・伸展の部位が多く、進行予防のポジショニングを行う必要があるが、経管栄養剤
投与時、徐々に足元側へずり落ち気味になっていることがあり、嘔吐や胃食道逆流・誤嚥性肺炎が考えら
れるため、まずは、生理的な安全性を優先し、次に関節拘縮・伸展の進行予防を考えたポジショニングを
行う必要があった。対象者④では現在、右30度側臥位・30度背上げで経管栄養剤の投与を行っている
が、痩せが著明で30度側臥位では臀部にかかる圧の分散が上手くいかず、仙骨と腸骨端の2箇所に圧が
かかり褥瘡発生部位を増加させる事が考えられるため、仰臥位でのポジショニングを試みた。
今回、4名の対象者をモデルに背上げ軸・足上げ軸の位置に着目したポジショニングの検討をおこなっ
たが、ポジショニング施行前アセスメントの段階で、ベッドの種類によって背上げ・足上げ軸間距離が異
なるだけではなく、背上げ角度によって背上げ軸が移動するベッドがあることや、背上げ角度30度では
足上げ角度の変化が少ない事が明らかになった。ベッドの構造を知ることで、背上げの際に、腹腔や胸腔
が押しつぶされた状態にならないような臥床位置をとることができ、お腹や胸が、すっきり伸びた状態に
近づけることができた。下肢のポジショニングについても、ベッドの足上げ機能だけに頼らないポジショ
ニング枕の使用法の工夫をすることができ、他利用者への応用範囲が広がったと考えられる。
利用者が安全で安楽な体位を保てるようなポジショニングを選択するには、個々の疾患や身体状況その
他、動きの癖などの要因により一人一人が違う姿位となり、同じような身体的特徴の方であっても全く同
じポジショニングとはならない。以上より、ポジショニングを選択するには、施行前のアセスメントが重
要になると考えられる。ポジショニングは単に体位づけを行う事が目的ではなく、安全・安楽のために、
まずは何を最優先するかを考えなくてはならない。また、ポジショニング施行時・施行後のアセスメント
項目には含まれていないが、ポジショニングを行った際には掛け布団をかける前に背上げ・足上げを行い、
姿位の崩れがないか、また、腹腔・胸腔が押しつぶされた状態になっていないかを見て確認することも利
用者の安全・安楽につながると考えられる。
VII. 結論
麻痺や拘縮、その他の身体的要因により自分の意思で自由に身体を動かせず、言葉にできない利用者に
とって、ポジショニングは安楽に過ごせるか苦痛を我慢して過ごすか自ら選択することが難しいことの一
つではないだろうか。自由に寝返りをうち、長時間同じ姿勢でいることの苦痛を回避するために自然と身
体を動かすことの出来る人では、自らの意思で自由に身体を動かせない状態は想像でしかない。見た目が
7
良いポジショニング、アセスメントに沿ったポジショニングであっても、本人の関節可動域や随意運動を
無視したものでは安楽とは限らず、また、障害の進行状況や、それに伴う制限によりポジショニングは変
化させていく必要があると考える。ポジショニングのアセスメントは、一度やったら終わりではなく、常
に互いにフィードバックされることにより、より望ましいポジショニングケアとなる。
VIII. 謝辞
本事例研究を遂行するにあたり、こころよく研究を承諾してくださったご家族、ご協力いただいた八太
郎山療護園職員のみなさまに感謝申し上げます。
参考文献
1) 岡田晋吾監修:胃ろう(PEG)のケア Q&A.照林社,東京,2005:p.42-65
2) 西口幸雄・矢吹浩子編集:エキスパートナースガイド 胃ろう(PEG)ケアと栄養剤投与法.照林社,
東京,2009:p.131-134
3) 氏家幸子ほか:基礎看護技術.第 6 版.医学書院:2005:p.57-58
4) グロリア M.ブレチェク,ジョアン C マクロスキー編,早川和生監訳:介護介入-NIC から精選した
43 の介護介入.第 2 版.医学書院:2004:p.95
5) 前掲4)
,p.598
6) 田中マキコ編著:動画でわかる褥瘡予防のためのポジショニング.中山書店,2006:p.2
7) 前掲6)
,p.6-11
8) 前傾6)p36
9) 前傾6)p37
10)
前傾6)p61
8