COP21 から見るこれからの NGO と企業の課題

第 41 回定例会 議事録
2016 年 3 月 15 日(火) 14:00~17:00
場所:SDA 原宿クリスチャンセンター 1 階 集会室
COP21 から見るこれからの NGO と企業の課題
司会:(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 兵頭康二(コアメンバー)
Ⅰ.はじめに (10 分)
14:00~14:10
開会あいさつ
[進行]司会
新規メンバー自己紹介
[進行]司会
Ⅱ.コアメンバーについて(15 分)
14:10~14:25
コアメンバーについて
事務局
コアメンバーあいさつ
Ⅲ.基調講演(60 分)
14:25~15:25
「COP21 から見るこれからの NGO と企業の課題」(50 分)
足立 直樹氏
質疑応答(10 分)
株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役
休 憩 (10 分)
Ⅳ.NGO と企業の取り組み発表(50 分)
【企業】
「トヨタ環境チャレンジ 2050」(20 分)
質疑応答 5 分
【NGO】
15:35~16:25
藤井 英夫氏
トヨタ自動車株式会社
環境部 コミュニケーション室
ブランド企画グループ 主幹
戸田 裕子氏
「環境と貧困~開発の現場から~」(20 分)
認定 NPO 法人 ヒマラヤ保全協会
質疑応答 5 分
事務局長
Ⅴ.感想・意見交換会 (30 分)
本日の講演・事例発表を聞き、感想や意見などをグループで
自由に話し合う。
16:25~16:55
[進行]司会
Ⅵ.おわりに(5 分)
16:55~17:00
・メンバーからの報告と事務連絡
[進行]司会
会場協力:(特活)ADRA Japan
以上
Ⅲ.基調講演
足立 直樹氏 株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役
「COP21 から見るこれからの NGO と企業の課題」
昨年 12 月に COP21、気候変動枠組条約第 21 回締約国会議が行われ、パリ協定が採択された結果を踏まえ、
これからどういった取り組みを企業が行っていかなければならないのか、また NGO/NPO がどういった形で共に
取り組んでいくのかについて話したい。
気候変動枠組条約 COP21「パリ協定」採択
2015 年は 9 月の国連総会で SDGs が、12 月には COP21 でパリ協定が採択され、これからの世界の流れが
決まった年となった。2016 年以降はこれらをどう実行していくかを考え、実際に取り組んでいくことになる。しかし
その前に、それらの中身をきちんと理解しておかなければならない。
パリ協定の内容として注目すべき点としては、まず「気温上昇を産業革命前に比べて 2℃未満に抑える」に加
え、「できれば 1.5℃未満に抑える努力をする」としたことである。さらに「今世紀の後半には CO₂の発生を実質ゼ
ロにする」ことも掲げている。これまで気候変動に関しては途上国と先進国との対立構造があったが、今回初め
て「共に削減義務がある」ことを合意にした。また、「2020 年以降、5 年ごとに国連に削減計画を提出すること」、
「先進国は資金支援を 2 年ごとに報告すること」、「適応策も提出すること」、「損失と損害への救済」、「吸収源で
ある森林の減少や劣化の防止」なども注目点として挙げられる。
ただし、一番重要なことは日本ではあまり報道されていない。パリ協定採択の翌日に日本の新聞に掲載され
たのは、「低炭素社会を目指す」という内容であったが、本来目指すべきは“ゼロ”である。そもそも日本政府も
“脱炭素”と言わず、“低炭素”社会を目指していこうとしか発言していない。日本の報道は、パリ協定の意味をミ
スリードをしている。
いつまでに?
このまま何もしないでいると、21 世紀の終わりには地球の気温が 4~6℃上昇することになる。1℃上昇しただ
けでも大変な気候災害が起きているにもかかわらず、今まで以上のスピードで気温が上昇し続ければさらに大
変なことになるのは目に見えている。ではどういうシナリオを描けばいいのか。気温上昇を 1.5℃未満に抑えるに
は、今年中に CO₂の排出量をゼロにしなければならない。それ程 1.5℃を目指すというのは難しいことであるが、
すでに途上国では海面上昇などの被害が起こっており、悠長なことをいっている場合ではない。
残念ながら今年 CO₂の排出量をゼロにすることは不可能だが、2℃未満を目指す場合には、CO₂の排出量を
ゼロにするまでに 11 年ぐらい(2027 年まで)の猶予が生まれる。とはいえ、難しいことには変わりはない。
再生可能エネルギー100%を目指す企業が増加
再生可能エネルギーを使用すると宣言している企業は既にたくさんある。RE(Renewable energy)100 という再
生可能エネルギーへの転換を推進するイニシアティブには、ユニリーバやマークス&スペンサー、スターバック
ス、マイクロソフト、グーグルなどが参加している。このうちいくつかの企業は既に再生可能エネルギー使用率
100%を達成しており、アメリカでは電力センターで多大な電力を消費(アメリカ全体の 3%程度と言われる)して
いる IT 企業のほとんどが達成している。
米国では既に 736 以上の組織が RE にシフト
アメリカでは、国内で使用している電力を再生可能エネルギーにシフトしようという動きがあり、既に 100%を達
成している企業や自治体もある。日本の企業よりはるかに電力消費が大きい企業が再生可能エネルギーに
100%転換できている。アメリカでも再生可能エネルギーはコストがかかるが、お金の問題ではなく、企業の生き
残りをかけてやっている。
日本ではアメリカや中国の CO₂排出量を問題視しているが、実は日本よりもアメリカの方がはるかにこの問題
に積極的に対応している。日本で再生可能エネルギーの使用率 100%の企業のリストを作ろう思うが、おそらく
両手で数えられるほどしかないだろう。
ユニリーバ:カーボン・ポジティブを宣言
ユニリーバは 2030 年までに「カーボン・ポジティブ(排出される CO₂の量が吸収される CO₂の量より少ないこと)」
を目指すと宣言した。その間にも、2020 年までにエネルギーミックスから石炭を排除し、送電網から購入するエ
ネルギーの全てを再生可能エネルギーに切替えるとしている。
実は、ユニリーバの日本法人は、同社の中で世界で最初に再生可能エネルギー100%を達成した。日本には
工場がなく、生産は全て OEM であるためやりやすかったこともあるが、国内のパーソナルケア業界でも最大規
模の取り組みである。
機関投資家も脱炭素化
海外の投資家は日本に比べて脱炭素化に熱心である。例えば 2014 年に立ち上がった「PRI Montréal Pledge」
では、投資家がポートフォリオのカーボンフットプリントを測定し、開示している。自分たちが投資した結果、間接
的に発生した CO₂は自分たちに責任があり、それを世の中に見せていこうという動きである。現在 120 以上の機
関が署名し、その運用資産総額は 10 兆ドルになっている。
またこれよりさらに一歩進んだ、Portfolio Decarbonization Coalition という団体もできた。ポートフォリオの脱炭
素化を進めることを目的とし、測定、開示だけでなくさらに削減もしている。COP21 の時点で資産総額は 1000 億
ドルであったが、現在(2016/3/15)では 6000 億ドルである。
こうした動きはつまり、機関投資家は CO₂排出量の多い企業の株を売却、あるいは今後そうした企業へは投
資をしない、ということである。
加速するダイベストメント
投資を引き揚げることを「ダイベストメント」というが、少なくとも 436 機関がダイベストメントを行っており、ファン
ド、企業年金、大学の年金や個人投資家が資金を引き揚げ、その総額は 2.6 兆ドルを上回っている。鉱山、石油
会社、電力会社など再生可能なエネルギーへの切り替えに積極的でない組織が対象となっている。日本の商社
なども一部ダイベストメントの対象となっている。
ビジネス上のリスク
投資家がダイベストメントを行う理由は大きく 2 つある。ひとつは、地球環境に良くないなど、機関投資家として
の社会的責任を果たすための倫理的な理由である。もうひとつは、CO₂を多く排出している企業に投資をすると
いうことは、自分たちの金融資産を傷つける恐れがある=ビジネス上のリスクと捉える実務的な理由である。
「Unburnable Carbon」というレポートがある。パリ協定で定められた「気温上昇を産業革命前に比べて 2℃未満
に抑える」を達成するためには、採掘可能な石油、石炭のうち 2 割しか使用することが出来ず、残り 8 割は採掘
は出来ても使用することが出来ない。これらを座礁資産と呼ぶが、鉱山会社や石油会社の貸借対照表に資産
の欄にこれから採掘できる鉱脈の権益がありますと書いてあっても使うことが出来ないのならば、資産としては
過大評価である。
炭素の排出量を減らすためには「カーボン・プライシング(炭素価格制度)」が有用であるといわれており、CO₂
排出量によりお金を払おうということである。分かり易く言えば「排出権取引制度」や「炭素税」である。現時点で
導入している国は少ないが、これからかなり増えていくだろう。石炭や石油を多く使用している会社はコストが増
えていくということであり、カーボンフットプリントが大きい会社に投資をするということはリスクがあるということで
ある。
気候変動の影響
気候変動が進むと、干ばつや森林火災、集中豪雨、海面上昇など様々な自然災害が起こる。その影響はビジ
ネスにとっても都合が悪く、CO₂を出せば出すほど経済損失につながり、このままでいくと今世紀末には気候変
動による経済損失が GDP の 20%に達すると予想されている。
例えばアメリカの場合、同じ西海岸でも地域によってますます乾燥する場所と大雨が頻繁に降る場所に分か
れてきている。日本では、九州や関西などで明らかに豪雨災害の規模や頻度が増えている。こうした気象災害
は世界中で起こっており、ビジネスへ多大な影響を及ぼしている。
経済に与える影響:アメリカの場合
「RISKY BUSINESS」というレポートがある。これは NGO ではなくアメリカの超党派議員や経済界のリーダーが
リーダーシップをとって、この先気候変動が進むとどうなるかを調べたものだ。アメリカの大統領行政府も、気候
変動への対応を遅らせたときに、どれほどコストがかかるのかを試算している。他にも、将来の猛暑日の日数を
予測したり、気温の上昇に伴う主要な影響を測ったりしている。気候変動対策をとらなかった場合、2100 年には
57,000 人が大気汚染により死亡し、主要な 49 都市で 12,000 人が異常な高温で死亡する。異常な高温による被
害は 1,100 億ドルに達し、海面上昇や暴風の被害や対応費用は 3.1 兆ドル、農作物への被害額は 66~110 億ド
ル、林業への被害額は最大 15 億ドルになる。
企業にとっても気候変動によるリスクは大きい。原材料価格などの上昇や原材料調達の不安定化、異常気象
による物理的な損害(洪水など)、製造に使う水の不足、操業地域の社会情勢の変化、炭素税の導入や炭素排
出規制によるコストアップなど、いろいろな形で企業に影響がでる。
気候変動枠組条約 COP21 「パリ協定」採択
パリ協定には「CO₂の吸収源である森林の減少や劣化の防止」も含まれている。途上国の森林は CO₂を吸収す
る吸収源としても重要であり、森林保全に力を入れて取り組まなければならない。
2015 年インドネシアで起こった森林大火災のせいで、2.6 万平方キロメートルの森林が焼け、16 億トン以上の
CO₂が排出された。日本の年間の CO₂排出量(13 億トン前後)をはるかに超える量である。さらに、このインドネ
シアの森林火災は単純な自然現象ではなく、同国で植林をしている製紙業者やプランテーション業者が火をつ
けたのではないかと言われている。国際的にも問題視されており、インドネシア政府も天然林を開発できる免許
を取り消すなど対策を講じている。また国際的にはそういうことが疑われるような企業の製品をボイコットする動
きも起きている。
こういった議論はパリ協定ではじまったことではない。2014 年には国連総会で「森林に関するニューヨーク宣
言」が採択されている。ここでは 2020 年までに森林破壊を半減し、さらに 2030 年までにゼロにすることを掲げて
いる。政府、企業、NGO など世界の 175 の国、自治体、組織が賛同しており、日本企業は花王が署名している。
「The Consumer Goods Forum」は消費材を作る、または販売・流通している企業の世界的な集まりで、森林破
壊に関わるような原材料は使わないようにし、森林破壊ゼロを宣言している。現在は理事 50 社が誓約している
が、日本からは味の素やキリン、花王などが誓約している。
SDGs の特徴
SDGs はご承知の通り、17 のゴールに 169 のターゲットがあり、2016 年から 2030 年までの間にそのゴールを
達成しようというものである。MDGs はあくまで先進国が途上国を支援するという色が強かったが、SDGs は
「Leave no one behind」という言葉に象徴されるように、先進国も途上国もすべての人が例外なく貧困から脱出で
きるように、あるいは飢餓から脱出できるように、ゼロを目指すとしているところに大きな違いがある。また、今ま
でやってきたことを改善(reform)するのではなく、変革(transform)するとしているのも、重要なキーワードである。
また SDGs に関連して、We are all developing countries now.という言葉もよく使われるが、先進国・途上国に限ら
ずどこの社会も持続可能になっていないのであるから、全ての国は持続可能性に関して途上国であり、これから
発展していかなければならないという意味で普遍的(universality)な目標と言える。そしてこの SDGs を達成する
には、マルチステークホルダーでの連携が重要になる。そもそもこの目標は策定過程から行政だけではなく市民
社会、企業、学術関係者などあらゆるセクターが関わる形でスタートしている。達成に向けてもマルチステークホ
ルダーの力が必要としている。
企業との関係性は?
特に企業は、社会に対して影響力の大きな組織としての責任がある。また、事業によって様々な目標と関係
性があることから、SDGs 達成への取り組みに企業も参画する必要がある。例えば、目標 12「持続可能な生産と
消費(SCP)」や目標 13「気候変動に対する行動」、目標 17「グローバルパートナーシップ」などが特に関係してく
る目標だろう。この 3 つの目標プラス自分たちの事業と関係の深い目標から取り組んでいかなければならないし、
これに取り組まなければ自分たちのビジネスも成り立たなくなってしまう。またビジネスの在り方も「business as
usual」ではなく「持続可能なビジネス」へ変革していかなければ、今後訪れる持続可能な社会の中で生き残るこ
とは難しくなる。
持続可能なビジネスの要素
どんなに商品・サービスの販売に力を入れたとしても、原材料がなければ成り立たず、調達した原材料でもっ
て良い製品を作ることができなければ、ビジネスにはならない。調達から製造、販売までつながるサプライチェー
ンが重要な鍵になる。まず、高品質の原材料が入手できなければ、製品は作れない。そのサプライチェーン上に
は、環境負荷や人権リスクが潜んでいることが分かっており、国際社会からも取り組みが求められている。そし
て、このサプライチェーンはどこにあるのかというと、圧倒的に途上国が多い。その途上国はどのような問題があ
り、どのような状況にあるのか、日本の企業は把握できていないというのが現状である。
もっとも被害を受けるのは途上国
気候変動の影響を一番に受けるのは途上国である。また気候変動に対応する能力も未発達である。サプライ
チェーンの大部分を途上国に委ねている今、途上国の問題は自分たちには関係ないと言っている場合ではなく、
きちんと対応していかなければ自分たちのビジネスに影響が出てしまう。
途上国で活動する NGO が問題であると感じているのは、サプライチェーンを通じて実際に日本企業の事業活
動が途上国に影響を与えているということである。企業も真剣に取り組みをしていかなければ持続可能なビジネ
スはできないし、社会からの信頼と良い評判を得られないと将来的にビジネスの広がりもなくなってしまう。
まとめにかえて
これからは“No Poverty, No Carbon”がキーワードになるだろう。つまり持続可能な社会をどう実現するか、ま
た CO₂をどうやって出さないようにするかの二つを同時に考えていかなくてはならない。企業にとって「持続可能
なビジネスモデル」をどう作っていくかということと、社会にとって「持続可能な社会」をどう作っていくかは表裏一
体であるし、それを実現するためにパートナーシップが重要となる。
【質疑応答】
Q:米国では既に 736 以上の組織が再生可能エネルギーにシフトしているとあるが、米国の場合は広大な土地に
太陽光パネルを設置することが出来ると思うが、日本の場合はどういった方法が適切か。
A:日本の場合、地熱がポテンシャルとしては大きいと言われているが、まだまだ未開発な分野である。最近は
バイオマスも増えてきているが、量的には不足している。地域ごとに事情が異なってくるため、その地域ごとに最
適な方法を考えていくことが必要である。
Q:ユニリーバは 100%再生可能性エネルギーに切り替えているというが、それは本社だけではないか。OEM を
含めず 100%と言ってもいいのか。
A:第一段階としては本社だけで良いと思うが、次の段階としてサプライチェーン全体でとらえなければならない。
アパレル産業などでは工場は OEM が中心であるため、OEM 先も再生可能エネルギーに切り替え始めている。
例えばアップルは工場を持っていないが、中国にある最大の委託先であるフォックスコンの工場に対して太陽光
エネルギーを導入するために莫大な投資をしている。
Q:COP21 では先進国も途上国も共に削減義務とあるが、それぞれで事情が異なると思う。それぞれの状況に
合わせた目標になっているのか。
A:ゴールが“ゼロ”であるため、先進国も途上国も“ゼロ”になるよう CO₂排出量を削減していくことが目標になる。
もちろん先進国と途上国の資金的な差や、既に途上国は気候変動の被害を受けていることを考慮し、先進国が
途上国をサポートする必要はある。
今回パリ協定では“ゼロ”を目標にするというところだけ合意した。どうそれを実現していくかという具体的な細
かい部分は COP22 以降で議論されていく。
Q:合意したとあるが、具体的な目標がなければ本当に合意はできないのではないか。
A:「先進国も途上国も削減義務があり、気温上昇を 2 度に抑え、CO₂の排出量を“ゼロ”にする」というところが合
意された。具体的に各国がどう取り組むかに関しては、2020 年までに計画を出すことになっている。その目標と
進捗を 5 年毎にレポートを出すことも決められている。進捗の早い国、遅い国はあるかと思うが、もう後戻りは許
されず、5 年後に目標を出して少しずつでも進まなければならないというところまで合意された。
ひとつだけここで申し上げたいことがある。よく企業の方からいつまでに何をすればいいのかという質問をされ
る。企業経営の立場から考えて頂きたいのは、最終的に“ゼロ”を目指すということは決まっており、それを目指
す宣言をしている企業も既にいる。ゆっくり進んでも法律違反にはならないけれども、企業の評判への影響や、
CO₂を排出することにより今後お金を払わなければならない、となると投資家が逃げていくリスクがある。いかに
早く“脱カーボン”化を達成するかを変えた方がいいのではないかと思う。
Q:温室効果ガスといえば、メタンや亜酸化窒素など複数あるが、今回削減義務となるのは CO₂だけなのか。
A:すべての温室効果ガスが対象である。
Q:投資家の動きについて、米国の企業は成功しているようだが、ある日本の大きなアセットオーナーの企業にイ
ンタビューした際に「収益をだすことが第一であるため、ESG 投資については聞いたことはあるし参考にはする
が、本当にそうなのか確信が持てない」という答えが返ってきた。日本では随分トーンが違うようであるが、その
点はどうお考えか。
A:おっしゃる通り日本の投資家はまだ控えめである。企業の方からも同じような質問を受けるが、日本では ESG
投資の質問を投資家から受けたことがないという話を聞くことが多い。しかしこの 1~2 年で大きく変わってきてい
る。企業も 2 年前までは ESG や環境に関する質問を投資家から受けることはほとんどなかったが、この1年で急
速に増えてきたと言っている。たとえば味の素は昨年から投資家に向けた ESG の説明会をして大盛況であった
と聞いている。
世界の投資家がカーボンを大量に排出する企業は危険だと投資をしなくなり、実際に株価が下がっている。そ
こに果たして投資をするということで得るものがあるのか、リスクとなるのではないか。そこを理解すれば日本の
投資家の動きも変わってくるはずである。
ESG 投資をどれだけしたらどれくらい効果があるのかを証明することはなかなか難しいが、いくつかの論文で
はボラティリティ(株価の変動)が減るといわれている。価格変動が減るということはそれだけでも投資家にとって
は嬉しいことである。もう一つは、環境省が ESG 投資に関する検討会を昨年から開いているが、その中で、ファ
ンドマネージャーがアセットオーナーに対する忠実義務があるので ESG 投資はできないという考え方がかつては
あったが、最近は ESG のリスクを考えないで投資をするということはむしろ忠実義務違反であると、考え方が 180
度変わってきたという指摘があった。日本国内でも変わってきているため、もう時間の問題である。
Q:例えば私の会社が再生可能エネルギーにしたいと思った時に、それぞれの会社が自分で太陽光パネルを設
置して発電しましょうということなのか、それとも電力会社から再生可能エネルギーを購入できるしくみがアメリカ
や日本でできているのか。
A:両方ありだが、一般的には後者(グリーン電力証書を購入する)の方が簡単だろう。しかし最近は日本の企業
でも自前で電力を発電するところが出てきている。たとえば大和ハウスでは今までは顧客である個人住宅に太
陽光パネルの導入率を増やしていたが、最近は自社が保有している土地に太陽光パネルを設置し、昨年自社
でも 100%再生可能エネルギー使用を達成している。日本でもそういった企業が今後増えてくるであろう。
Ⅳ.NGO と企業の取り組み発表
「トヨタ環境チャレンジ2050」
藤井 英夫氏
トヨタ自動車株式会社 環境部 コミュニケーション室 ブランド企画グループ 主幹
トヨタこれまでのチャレンジ
日本の多くの企業は単に利益をあげることだけではなく、社会に貢献することを社是とし、取り組んでいると思
うが、トヨタも技術で社会に貢献し、変化を作り出してきた。そのひとつとして、ハイブリッド車のプリウスがある。
COP3 直前の 1997 年 12 月、当時の社長が開発を急がせ、21 世紀に間に合う形で発売された。初めてのハイブ
リッドということで、お客様にもいろいろとご迷惑をお掛けしたが、お客様のご意見を聞いて改善を続け、現在は 4
代目となっている。そして 2014 年 12 月には走行時の CO₂がゼロ(燃料電池自動車)の「ミライ」を量産化した。実
はこれも 20 年かけて開発してきた車である。
新たなチャレンジの必要性
トヨタはプリウスやミライといった CO₂排出量の少ない車を販売するなど、CO₂削減に十分取り組んできたので
はないかという意見もある。しかし、今地球で起こっているあらゆる気候変動を考えると、まだまだ開発スピード
が足りないと感じている。
例えば、2015 年の世界の年平均気温は統計開始以降、最も高い数値を観測した。気温上昇を 2℃未満に抑
えるためには、将来的に CO₂の排出をゼロにする必要があり、自動車業界では一刻の猶予もないと考えている。
というのも、車の開発には 4~8 年、市場に出ると日本の平均で約 15 年、さらに海外で 10~20 年とその車は走
り続ける=CO₂を排出し続けることになる。相当のペースで対応していかないと、この累積での CO₂は下がってい
かないだろう。
CO₂だけではなく資源枯渇リスクもある。例えば銅は車のワイヤーハーネスに使われているが、数十年後には
枯渇するといわれている。レアアースも同様であり、自動車を作る側としては CO₂を含めこういった資源枯渇リス
クにも対応する必要がある。
またある調査では、1 年間で日本の国土の 14%にあたる面積の森林が喪失しており、それに伴い生物の生息
域の分断化が進行しているとある。CO₂を吸収してくれる森林が失われていることになり、CO₂排出ゼロと合わせ
て自然環境の問題も同時に考えなければならない。
「トヨタ環境チャレンジ 2050」
そうした様々な経緯を経て、トヨタは 2015 年 10 月「ゼロの世界にとどまらない“プラスの世界”を目指して」
~Challenge to Zero & Beyond~、「トヨタ環境チャレンジ 2050」として 6 つのチャレンジを公表した。次世代の子ども
たちの為にも、20 年・30 年先を見据えた長期的視点の新たなチャレンジとして打ち出している。
6 つのチャレンジの概要
「トヨタ環境チャレンジ 2050」は、3 つの『CO₂ゼロチャレンジ』と 3 つの『プラスを目指すチャレンジ』で構成され
ている。CO₂排出ゼロだけでなく、自然環境の保護も合わせて目指したものである。
*チャレンジ 1 新車 CO₂ゼロチャレンジ
2010 年に比べて 2050 年までに新車から排出される CO₂の 90%削減を目指すものである。現在はエンジン車
が主流であるが、将来的にハイブリッド(HV)からプラグインハイブリッド(PHV)、燃料電池自動車(FCV)、電気
自動車(EV)に移行し、2050 年までにはエンジンだけで走る車をゼロに近い値にまで持っていこうとしている。
これはトヨタの社員にとっても衝撃的なことであった。つまり、次世代車の開発・販売を一気に進めていくことを
社内へ宣言したものであり、これからそこに人・モノ・金を集中させていくということである。
ただし、このようなことはトヨタ 1 社だけでは到底できることではない。CO₂の少ない車をお客様に選んで頂かな
ければならないし、政府には水素ステーションに関する規制緩和や支援をお願いし、また水素ステーションを作
るインフラ企業や、自動車業界が揃って連携していかないと成り立たない。
これまでハイブリッド車を 2015 年までに累計 800 万台販売してきたが、2020 年までには 1,500 万台販売を達
成したい。燃料電池自動車については、2020 年頃以降、年間 3 万台以上をグローバルで販売すること、また燃
料電池バスについては 2020 年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて 100 台以上を導入していきたい。
*チャレンジ 2 ライフサイクル CO₂ゼロチャレンジ
次世代車は走行時の CO₂排出量はゼロに向かうが、次世代車の材料の製造、部品・車両製造時の CO₂排出
量は増えているのが実態である。すぐには難しいが、将来的にこれも“ゼロ”にしていくことを目標にしている。
具体的には、材料製造時に CO₂の排出量の多い鉄、アルミニウム、ポリプロピレンをできるだけ CO₂の排出量
の少ない材料や作り方へ切り替え、廃棄・リサイクル時には、例えば、新しいアルミよりも CO₂排出量の少ない再
生材のアルミの使用量を増やしていく。しかしこれもトヨタだけでは不可能であり、仕入れ先様の協力を仰いでラ
イフサイクルにおける CO₂ゼロを達成したい。そして、街中から山間部、工事現場、暑い地域、寒い地域、世界中
のあらゆる場所で使われる全ての車でゼロを目指している。
*チャレンジ 3 工場CO2 ゼロチャレンジ
工場の CO₂排出量をゼロにするため、低 CO₂生産技術の導入と日常のカイゼンだけでなく再生可能エネルギ
ーと水素利用も合わせて、製造時の CO₂ゼロを目指していきたい。またこれから新設する工場及び大規模更新
していくラインについては、2001 年に比べ CO₂の排出量を 2030 年までに 1/3 に削減することを目指していく。
それらに加えて太陽光や風力発電による再生可能エネルギーや水素エネルギーを工場で利用することを検
討している。
*チャレンジ 4 水環境インパクト最小化チャレンジ
自動車工場は CO₂を出すとともに水を多量に使用している。これについても使用量を徹底的に削減していく。
雨水を利用して地域の水資源への影響を最小化し、また徹底的に再利用する。また取水した水を地域に還す際
には、徹底的にきれいにして還すことで、環境にプラスのインパクトをもたらしたい。
具体的には、フランス工場では雨水貯留により工業用水利用量を約 45%削減し、ろ過装置により塗装工程で
使用される水の約 60%を再利用可能とし、さらに排水リサイクルにより約 20%の水を再利用している。もちろん
厳しい自主基準で排水も管理し、各工程で水使用量削減と再利用の技術を導入している。
こうしたことをグローバルに展開していくことにより、地域の水事情(質・量)に合わせ“少しでもプラス”になる
チャレンジを加速させていきたいと考えている。
*チャレンジ 5 循環型社会・システム構築チャレンジ
まず、バイオ素材や再生材などエコな資源でクルマを作る。部品は長く使い、資源の長寿命化による資源効
率向上にもチャレンジする。そして自動車産業全体で資源循環のために、リサイクルに関する技術開発や仕組
みや仕掛けをつくり、廃棄後回収されたクルマの素材からクルマをつくる(不足分はエコな素材で補う)ことにより、
循環型社会・システムの構築にチャレンジしていく。
日本では、燃料として使われる部分も含めて 99%がリサイクルされている。「Toyota Global 100 Dismantlers
Project」では、原料を新たなクルマ作りに使えるよう、回収されたクルマの部品を精密に分別できる解体事業者
を世界に 100 箇所設置することを目指す。「Toyota Global Car to Car Recycle Project」では、例えばバンパーの
プラスチックを車のプラスチック部品に使う、ハイブリッドのニッケル水素バッテリーから取り出したニッケルをハ
イブリッドのバッテリーに使うなど、“Car to Car ”のリサイクルを、世界で進めていきたい。
*チャレンジ 6 人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ
これまで自然との共生に関して、3 つの取り組みをしてきた。「森づくり」、「環境活動助成」、「環境教育貢献」
である。これまで進めてきた活動を、さらにグループ・地域・団体と連携して活動をつなぎ、活動の輪をさらに世
界へ拡げていきたい。
「Toyota Green Wave Project」では植林活動を行なっているが、これをトヨタだけでなく仕入れ先様や地域の皆
様と連携し、世界に展開していきたい。
「Toyota Today for Tomorrow Project」では、様々な NGO と一緒に取り組んできた活動をさらに進め、新しい価
値を共同で生み出すプロジェクトを立ち上げたいと考えている。「トヨタ環境活動助成プロジェクト」として今まで世
界 53 の国と地域で累計 304 件のプロジェクトを支援してきた。その経験の中で、活動の成果を評価できる KPI
の開発や、活動内容の広報活動、科学的知見・データ蓄積に対する支援などを行っていきたい。そしてトヨタが
NGOなどの団体と先導することで、人と自然が共生する社会づくりに貢献していきたいと考えている。
「Toyota ESD Project」では、地域に適したサステナブルな人材育成を促進してきた。「トヨタ白川郷自然學校」
や「トヨタ タイランド 新エコラーニングセンター」、「新研究開発施設」など一般の方が環境について学べる施設
の運営を通じて自然共生の分野での人材育成に取り組んでいる。
最後に
“チャレンジ”と打ち出しているが、これを具体化していくのはまさにこれからである。そしてこれはトヨタ 1 社だ
けでできるものではなく、同じ志を持つ全てのステークホルダーの皆様との連携があってこそできることだと考え
ている。引き続き皆様からご支援を頂ける会社を目指し、環境面への取り組みをさらに強化していきたい。
【質疑応答】
Q:CO₂を出さない車を販売しても、消費者は車の充電を行う際に CO₂を出してしまう。消費者は CO₂を出さなけ
れば車を使用できないが、その点についてはどう考えているか。
A:トヨタにできることは CO₂を出さない自動車を作り、提供することである。トヨタは発電事業には進出しない予定
のため、インフラ系メーカーの努力や、それに対する政府の規制緩和や支援をどうするかを考えなければならな
い。水素も同様で、トヨタ自体はCO2 フリー水素は作ることができない。このように、トヨタ 1 社ではトータルでの
CO₂ゼロを実現することはできないし、志を共にする他のステークホルダーの協力が不可欠と考えている。
Q:今後の次世代車開発に一層注力するというのは社員も驚くチャレンジとあったが、こういった動きはトップダウ
ンなのか、それとも現場の声を吸い上げたボトムアップであったのか。
A:この「トヨタ環境チャレンジ 2050」はトップダウン、ボトムアップ両方でできたものである。われわれ環境部はこ
のままのスピードでは CO₂ゼロの達成は不可能であると認識し、トップと現場の開発者にそれぞれに説明し、合
意を得ることができた。合意は得られたが、どう進めていくかはこれからである。
Q:「Toyota Global Car to Car Recycle Project」の取り組みは素晴らしいと思うが、この取り組みにおいて将来目
指しているリサイクル率はどれくらいなのか。
A:将来的には日本のような形を全世界に展開し、日本と同じく 99%を目指している。日本での内訳としては、材
料としてリサイクルされるものは約 80%、残りの 17~18%は燃料としてリサイクルされている。こうしたことが海
外でもできればと考えている。
Q:「ライフサイクル CO₂ゼロチャレンジ」において、ライフサイクル上で CO₂排出量を削減する取り組みの説明が
あったが、自動車業界の場合サプライチェーン上でいろいろな協力会社があると思うがどこまでが対象なのか。
A:理論的には全てが対象である。トヨタがすべての仕入れ先を把握して管理することはできないため、まずトヨ
タが 1 次仕入れ先に CO₂の削減をお願いする。その仕入れ先が 2 次仕入れ先にお願いし、2 次仕入れ先が 3
次仕入れ先へお願いする、といった流れを作っていきたい。仕入れ先に対して「グリーン調達ガイドライン」を出し
ており、それを踏まえた材料、原料の調達をまずは 1 次仕入れ先に対してお願いしている。今後それが 2 次、3
次と広がっていくことを期待している。
「環境と貧困~開発の現場から~」
戸田 裕子氏
認定 NPO 法人 ヒマラヤ保全協会 事務局長
はじめに
これまで CO₂削減の話が多く出ていたが、果たして環境というのは企業が CO2 を削減すれば保てるのだろう
か。地球上の森林面積は陸地面積の 30%を占めているが、その多くは途上国にあるといわれている。私たちは
その途上国で植林活動をしているが、現地では CO₂を吸収してくれる森林の伐採が進んでいる状況がある。そ
の伐採を止めずに、CO₂排出を削減するだけでいいのだろうか。そうしたことも踏まえて、今日は私たちがどのよ
うな活動をしているかについてお話させて頂きたい。
ヒマラヤ保全協会とは?
創立者は文化人類学者であり KJ 法の生みの親として知られる川喜田二郎である。敗戦 8 年後に第一次マナ
スル登山隊の科学班員として調査に訪れたネパールで、世界平和の鍵を見つけられるのではないかと思い立ち、
この地を研究の対象としたことが始まりである。彼のアクション・リサーチの姿勢を受け継いで、私たちは「草の
根の聞き取り」を一番大切にして活動している。
1974 年にヒマラヤ保全協会の前進である「ヒマラヤ技術協力会」が発足した頃は現地の方々の生活改善のた
めの活動を行なっていた。森林保全活動は 1996 年頃から行っている。森林保全は、人育てでもある。森を育て
るということは、そこにいる人たちが森の恩恵を受け、そこで生活をしていくことであり、森とともに生きる意味や
必要性を現地にいる人々に伝えている。
SDGs との関係と活動の目的
森林保全活動を SDGs に照らし合わせると、ゴール 13 の「気候変動への対策」にあたると考えている。ゴール
11「持続可能な社会づくり」とゴール 1「貧困の撲滅」にもつながるだろう。森林は資源という意味で注目されるが、
私たちは資源だけではなく例えば壮大な自然を目の当たりにした時の心が洗われるような経験も含めて、森林
(環境)と考えている。みんなで協力し合ってその土地の価値を高め、持続可能なコミュニティ(社会)をつくる。そ
れは貧困の撲滅にもつながるだろう。また、ゴール 7「再生可能エネルギー」やゴール 15「陸上の資源を守る(生
物多様性)」についても考慮しながら活動している。そして、ゴール 17「パートナーシップ」にあるように、マルチス
テークホルダーで取り組む必要があると考えている。
私たちの事業の基盤は植林である。植林を行い、森を守ることで人々の生活がよりよくなり、さらには収入を向
上させていくことを目指している。ネパールの人たちは残念ながら CO₂の吸収源である森林を伐採した後に“植
える”ということを知らない。そのため、まずは人々の意識改善のための啓発や植林のための研修などを行って
いる。
ネパールの森林地帯において、男性は出稼ぎで村を不在にしているため、森を育てるのは女性たちになる。
女性たちと理解し合い、協力し合いながら行っていかなければ、SDGs に掲げられている地球規模の課題も解決
できないと思っている。
活動地とこれまでの実績
私たちの活動しているダウラギリとアンナプルナという地域は、世界 16 億人の気候に関わる地域だと言われ
ており、日本も関わっている。そこに住む人々は、ガスも電気もなく焚き木を燃料にして生活している。人々が食
べる家畜も、この地域の森林の葉などをエサにしている。しかし今では、生活に必要な木をとりに行くために片
道 2 時間もかかってしまうほど、集落の周辺の森林が伐採されてしまっている。私たちは、ネパールの美しい自
然林がこれ以上なくならないよう、そこに住む人たちの生活がよりよくなるよう、必要性を伝えながら伐採されて
しまった地域で植林活動を行っている。
私たちの植林活動は標高 2,200mのヒマラヤ山麓の村で苗畑作りから始める。(外来種がなるべく入ってこな
いように)森の中に落ちている種をいつ、どこで集めればいいのか、どの木にどれだけの種が落ちてくるのかを、
一緒に学びながら活動している。作った苗を見せながら、現金収入のない農民に対して、私たちの目標がどこな
のか、その目標に対して今はどこまで達成できているのかをミーティングを通して説明している。そして自分たち
の村ではどういう種が作られ、将来はたくさんの種がとれるようになるだろうと、お互いに情報交換をしている。
その結果、農民たちも自分たちの子どもや孫の世代でどれだけ豊かな森にできるのかといったことを真剣に考
えてくれるようになってきている。今では全世帯で必ず一人は植林活動に参加するまでになっている。
2014 年に、累計 100 万本の植林を達成した。改めて地球の抱えている問題に対して、植林活動がいかに重要
なのかを一緒に考えるミーティングを日本、ネパール各地で行っている。
実際に植林活動を行なったシーカ村の植林前と植林後の写真を比べてみると、伐採されてしまった土地が復
活する様子がよくわかる。青々とした森を目の当たりにすると、自分たちの村に対する誇りが戻ってきたと感じる
人もいる。
また植林活動だけでなく、収入向上事業としてヒマラヤイラクサを苗畑から育て、収穫し、繊維からバックを作
って販売している。現金収入のなかった人たちが、現金収入を得ることで、自分たちの生活を自分たちで作って
いるという意識が芽生え、非常に意欲的に活動するようになった。また、私たちの教えた技術が製品となったこと
で、周辺の村からも興味を持って人が集まってくるようになった。現在では7つの村で収入向上事業が行われて
いる。これは、たった 7%の経費で 93%の利益を生み出す事業となっている。
現状と課題
持続可能な開発を達成するためには、環境・社会・経済の 3 つの柱が重要だと言われているが、これらを別々
で考えるのではなく、重層構造によって統合的に考えていくべきである。
私たちの 20 年間の植林活動によって数千万トンの CO₂が吸収されているのではないかと予想をしながら、現
在分析を進めているところである。企業の方々が自分たちの事業で排出した CO₂に注目し、削減に尽力されて
いることは大変ありがたいことではあるが、途上国の森林が一刻一刻と喪失している、という現状をどうか忘れ
ないで欲しい。また、企業の皆様とも積極的に連携していきたいと思っている。私たちはこれからも現場を重視し
て活動していく。
最後に
2015 年 8 月、100m余り続く並木道に樹齢 200 年の美しい木々が並んでいたのだが、インドの経済制裁により
燃料が足りなくなったため、ネパール政府が代替燃料としてこの木を伐採するという決断が下されてしまった。
200 年木が、今後どれだけ見られるかわからない貴重な財産であることを知らないで倒されるということが私たち
の目の前で行われている。この資源だけでなく精神的にも豊かさを与えてくれる環境というものを守るために一
緒に取り組んでいって頂きたいと思っている。
【質疑応答】
Q:植樹への理解が高まってきていると言いながらも、最後の写真のようなことも起こっているようだが、全体的
にはネパールで植樹の理解は深まっているのかどうか。
A:ポカラのような都市部では森林に対する意識、環境保全といった意識は低く、刻一刻と乏しくなってきている。
逆に私たちの活動を行っている地域では、私たちがびっくりするくらいに森の重要性や森のポテンシャルを感じ
てくれている。活動を通じて 200~300 世帯でアンケートをとった結果、「この活動を今後も続けていきたい」、「こ
の活動には意義がある」と思ってくれている人が 97%にも達している。
Q:村の人々が生活の為に森林を切って薪にしているために森林が後退しているという話があったが、実際のと
ころは自分たちの生活のためなのか、それとも都市部の人たちの材木として伐採されているのか?
A:地域によって状況が違う。ヒマラヤ保全協会の活動する地域は都市部でも大きな道路が整備されておらず物
流が寸断されているため、この地域では生活の為に必要な伐採をしていると思う。実際に伐採された木が運ば
れているようなことは見たことはない。場所によっては、地元の住民にも内緒で闇業者が伐採しているケースも
散見される。
以上