ドイツ先端モノづくり技術調査視察団報告

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平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
ドイツ先端モノづくり技術調査視察団報告
神奈川県産業技術センター 機械・材料技術部
横内 正洋
1. はじめに
中小企業の経営には、競争力の核となる技術開発、それを製品化し量産していくための設備や品質管理システム、
さらに販路開拓や販売促進といった全体的視点での経営的戦略が不可欠である。
本派遣事業は、経営と技術開発の一体的な運用をさらに高めていく戦略づくりを支援するため、経営支援を主な業
務としている産業振興センターと技術支援を主な業務としている産業技術センターとが共同で企画した事業である。
特にものつくり分野で世界をリードしているドイツの技術開発現場を視察し、先進的な取組事例を県内中小企業の
方々と学ぶことをねらいとした。本事業の主な目的を以下に示す。
(1)産学連携を具体的な成果としているフラウンホーファー研究機構のスキームの一端を学ぶ。
(2)海外への販路開拓に成功する優秀な技術力を持つドイツ企業の取り組みを視察調査する。
(3)参加企業にドイツの仕組みを知ってもらい、将来的に技術連携につながる情報を提供する。
2. 視察内容と感想
視察の技術分野としてはドイツが得意としている機械加工分野を選定した。視察団の構成は機械加工を主な業務と
している県内中小企業4社と産業技術センター1名と産業振興センター1名の合計6名である。
視察日程を表1に示す。
平成 28 年 2 月 14 日~2 月 20 日までの1週間でシュツットガルト、アーヘン、フェアル、ベルリンを周り、現地企業
3 社、財団 1 社、フラウンホーファー研究機構 2 所の合計 6 箇所の視察を行った。
表 1 視察日程表
日程
視察機関名
業務内容
2/16
ハームレ社
2/17
フラウンホーファー研究機構
IPT(生産技術研究所)
旋盤やマシニングセンタ用の各種チャック・
クランプ治具の製造
大学・公的研究機関が有する研究成果の
民間企業への技術移転
人造石一体型フレームを採用した
5 軸マシニングセンタ
精密・超精密加工技術の開発
Industry 4.0
2/18
ベッコフオートメーション社
PC による IoT のための制御機器
ハインブッフ社
2/15
シュタインバイス財団
フラウンホーファー研究機構
生産技術
IPK(生産システム・デザイン研究所)
ロボットマシニング
ハードなスケジュールであったが、
予定を変更することなく視察をすることができた。
ドイツのモノづくりに関し、
今回の視察全般を通した感想を以下に示す。
・ものづくりに対して誇りを持っていること。
・家族経営の会社が多く 2 代目、3 代目まで上手く技術継承ができている。
・ドイツ流の職業教育システム(Dual System)が有効に機能している。
・創業者の理念を大切にしている(未だに創業の地でものづくりをしている)
。
・視察先では短い時間にもかかわらず、熱心に説明して頂き、質問にも誠意を持って答えて頂いた。
・日本の企業に対して興味があるようで非常に好意的であった。
・日本と比較してドイツの国がものづくりに対して力を入れていること(職業教育制度やフラウンホーファーの予算・
人員規模から予想して)
。
・”Dual System”や”マイスター制度”などの職業教育訓練がしっかりとしている。
今回の視察では大企業の部類に入る企業について視察を行ったが、
ドイツの中小企業の状況は異なると考えられる。
特に、少子高齢化に伴う人材の確保、技術の伝承、経営方針等について視察できれば日本の中小企業の支援に参考に
なるものと考えられる。
2/19
謝辞
最後にこの視察事業を進めるため、企画・計画、視察先との調整等にご助力頂いた神奈川県の関係者の方々および
視察を受け入れていただいた企業・機関の皆様に厚く御礼申し上げます。
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平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
シュタインバイス・モデルによるイノベーション推進
株式会社シュタインバイスジャパン
小堀
幸彦
1. シュタインバイスとは
シュタインバイス財団は、中小企業への技術ノウハウ提供を目的に 1971 年にドイツに設立された公益財
団で、その後の完全民営化を経て現在では世界 47 ヵ国で 6,000 人以上の大学教授、研究者等のスタッフを擁
する産学連携型企業支援機関となっています。工科大学や総合大学、その他研究機関の研究者が、特定企業
のビジネス上の「技術やマネジメントに関する実践的な問題解決を行う」ことを可能とする独特の仕組みに
より、年間 10 千社以上の企業に対して、14 千件以上のプロジェクトを手掛け、中堅・中小企業を中心に、
コンサルティング及び研究開発業務を有償で受託し、産学官連携をサポートしています。
「シュタインバイ
ス・モデル」と呼ばれるこのドイツ型の技術移転支援の特徴は、企業の個別・特定のニーズに基づき、世界
中の大学・研究機関・企業等から最適の技術を紹介、コンサルティングや受託 R&D プロジェクト等を通じ
て委託元企業の事業化を推進する点にあり、フラウンホーファー協会とともにドイツの競争力の源泉となっ
ていると言われています。
2. シュタインバイス・モデルの特徴
特徴は顧客企業の競争的分野での問題解決のために、以下の通りとなっています。
(1) ニーズ指向型
(2) 産学間の橋渡し機能を持つが、産からも学からも独立した組織として独自に法的責任を持つ
(3) 組織への補助金なし(市場原則に基づき存在し、独立採算)
(4) マッチングとプロジェクトマネジメント機能(技術融合、マーケティング、エンジニアリング能力)
3. 日本におけるシュタインバイスの活動とイノベーション・プロジェクト事例紹介
日本における実際のビジネスモデルと中小企業とのプロジェクト事例を講演で詳しくご紹介します。
また、その中で地域支援機関との連携による地域中小・中堅企業支援モデルと最新事例・今後の展望等を
ご紹介します。
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平成28年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
「独り勝ち」のドイツから日本の「地方・中小企業」への示唆
経済産業研究所 Research Institute of Economy, Trade and Industry RIETI 上席研究員
1. はじめに
ドイツは日本と同様、製造業を主力産業とし、人口
減少・少子高齢化が進んでいる。合計特殊出生率は2012
年1.38 であり、
日本の1.43(2013 年)
より低い。
1989 年、
東西独統一が行われ、西独に比べて生産性が約1/3 の東
独2 千万人を抱え込むこととなった。西独マルクの約1
割の価値しかなかった東独マルクを等価交換した。景気
が大きく落ち込み、「欧州の病人」と呼ばれた。だが今
やユーロ圏で最強の経済力を有し、「欧州経済のエンジ
ン」「独り勝ちのドイツ」と呼ばれるまでに経済再生に
成功した。もし、ドイツが採用した手法が日本にも導入
可能なら、日本もドイツのように、再び力強い産業競争
力が可能になるのではないか、との問題意識でこれまで
調査分析を行ってきた。
2. ドイツの強い「隠れたチャンピオン」
ドイツの中小企業は、大企業を凌ぐペースで成長し、
欧州の他国と比べてもドイツの中小企業は付加価値及び
雇用者数の双方で大きく伸びている。雇用を吸収し、失
業率低下に大きく貢献したのも大企業よりむしろ中小企
業である。このためドイツにおいて中小企業は国の経済
の屋台骨を支えるという意味を込めて「ミッテルシュタ
ンド(Mittelstand)」と呼ばれている。ドイツの中小企業
の特徴は、
①外国指向が強い隠れたチャンピオン
(Hidden
Champion)が圧倒的に多いこと、②それが大都市に集中
せずに全国各地に点在していること、③それのROA が
高いこと、④Family ownedcompany (家族経営、同族経
営)が95%と多いことである。
3. ドイツの産業クラスター
ドイツの産業クラスターが目指すものは、
中小企業は1
社だけでは弱い存在であるため、自社の得意な機能に特
化し、他の機能は、それが得意な企業・機関と一緒に組
めば擬似的に大企業と同等の競争力を得ることができる。
クラスターは、そのための場所を与えるところ、との考
えである。全ての工程を自社内でやるものだと思い込ん
でいる日本企業との違いが見て取れる。例えば、中小企
業は通常、研究開発機能は持っていない。新しい製品を
開発するために地方政府は、多くの研究機関・大学を用
意している。それは擬似的に、フラウンホーファー研究
所などという研究開発部門を持っていることと同じであ
る。例えば、ドイツ国内は、人口減少・少子高齢化で市
場が広がらないため、外国市場に進出しないと生きてい
けないとの意識が強い。州政府の経済振興公社が多くの
外国に代表部を設置し、人を派遣しており、ここが外国
岩本晃一
の展示会でブースを確保し、地元の中小企業が出展でき
るよう支援している。これは、擬似的に多くの外国に支
店を持っているのと同じような外国販路開拓が可能にな
っている。例えば、たこつぼ化を避けるため、会員企業
に多くの周辺情報を与え、世界全体の大きな経済の動き
を知ってもらい、経営方針に活かしてもらっている。最
新の技術動向やBRICS など新興国の市場動向などのセ
ミナーを頻繁に開催したり、国内や外国の現地視察ツア
ーを実施したり、クラスター事務局どうしが定期的に交
流会を開くことで1ヶ所の成功体験が各地に広まる。こ
うしたクラスター間の交流会は日本では行われておらず、
日本のある産業クラスターの成功体験が他地域に広まら
なかった背景とされている。ここにも日本のクラスター
との大きな違いが見て取れる。なお、こうした活動を行
うことで、擬似的に調査部を持っているのと同じ機能を
発揮できる。日本の多くの中小企業が、他の企業や研究
機関と協力連携のネットワークを持たずに1 社のみで親
会社からの注文をさばくことに多忙な姿とはかなり異な
っている。
4. ドイツの中小企業のグローバル展開
グローバル化に関する日独中小企業のパフォーマンス
には、差がある。その要因を分解すると、人的要因、構
造要因、制度・政策要因の3 つに分解されよう。人的要
因には、先天的に持って生まれたドイツ人の優秀さと、
後天的に学習により身についた能力がある。先天的なド
イツ人の優秀さのなかには、「マインドセット」「アン
トレプレナー精神」「リスクをとる覚悟」と呼ばれるも
のが含まれよう。後天的なものには、教育(特に英語教
育)と社会に出てからのOJT による訓練がある。社会構
造や経済構造といった構造的要因としては、
ドイツには、
系列構造が存在しないため、中小企業であっても、マー
ケテイング、企画、開発、営業、販売といった機能を保
有しなければならない点が挙げられる。その能力が自力
によるグローバル化を可能にしている。系列下の日本の
中小企業では、自らマーケテイング、企画、開発、営業、
販売を行う必要がないので、職人だけの製造機能だけを
有しているだけで企業として機能する。そのため、ドイ
ツの中小企業は数百人以上の規模になり、日本のような
数十人規模の中小企業はほとんど存在しない。また、ド
イツ国内に存在する空気、雰囲気といったものが挙げら
れる。あそこも外国に行ったのなら、自分の会社も早く
いかなきゃ、という心理に訴える構造要因である。制度・
政策要因としては、クラスター、経済振興公社、商工会
議所などの存在がある。それら人的要因、構造要因、政
策要因の3つの要因の合計として、
日独間でパフォーマン
スの違いが生じていると考えられる。