「コウワ工法」によるコンクリート製方式の検討 1.はじめに コウワ工法によるコンクリート製小型立坑構築は、平成17年11月のMM1号の施工に始まり、 平成18年には中川ヒューム管工業と広和により新材料「MMホールS」を実用化、平成19年3月 には、(財)下水道新技術推進機構から建設技術審査証明を取得した。 近年の鋼材価格の急騰や狭隘な施工場所の増加などにより、立坑兼用マンホールへのニーズはます ます高まると予想される。 コウワ工法は、小型立坑コンクリート製方式圧入式の標準工法としての位置を確立するとともに、 新材料「MMホールS」の活用で、さらに経済性を追求する。 2.鋼製とコンクリート製(以下「RC製」という)の比較 工 法 用 途 鋼 製 方 形 状 コ ン ク リ ケーシング式 圧入構築式 仮設 本体 : 立坑 機械設備 対象土質 式 : ー ト 製 方 式 沈下構築式 マンホール(立坑兼用) 大型の圧入機が必要 大型の圧入機不要 ( 標準)砂質土N≦ 50、粘性土N≦ 30、礫質土N≦ 50( 礫径≦ 200mm) 全周回転式は岩盤対応 硬質土、岩盤には非対応 円形(機種により楕円) 円形 呼び径(内径) 【注−1】 1500,1800,2000,2500,3000 900,12001500,1800,2000 (3500,4000,4500,5000) ( 1700,2200) 900,12001500,1800,200 0,2500 圧入(沈下)方式 圧入機(揺動、回転)による動的圧入 自重、補助ジャッキ による静的圧入 底盤の止水方法 施工工期 占用面積 底盤コンクリート 底盤コンクリート 底盤ブロック (ケーシング引上げ) (引上げなし) (引上げなし) 短い(人孔設置は別途) 短い(人孔設置不要) 中 小 発生土・埋戻土 多 少 レイタンス量 多 立坑の浮上 施工中の沈下 人孔完成後の沈下 人孔設置精度 人孔内面 少 なし 危険がある【注−2】 安全【注−3】 ケーシング引上げ直後が危険 掘削完了後が危険 超軟弱地盤では危険大 超軟弱地盤でも比較的危険小 後施工のため良好 圧入(沈下)施工のため劣る 後施工のためきれい 掘削土、立坑内水のため汚れている 経済性(立坑) ◎ ○ 【注−4】 経済性(人孔) ○ ◎ 【注−5】 【注−1】( )内数値は、標準設計以外で実用化されているもの 【注−2】自重が同容量の水の重量より軽いため、周面摩擦力が小さい場合、浮上の危険がある。 【注−3】自重が同容量の水の重量より重く、浮上しない 。(一部例外がある) 【注−4】発進立坑のように、必要立坑内径が人孔外径より大きい場合には、立坑を鋼製として中に 人孔を作るほうが経済的となることが多い 【注−5】立坑内径が人孔外径から決まる場合(マンホールポンプ室)や、到達立坑を人孔到達とし た場合にはRC製のほうが経済的となることが多い。 - コウ ワ ( R C ) 1 - 3.設計資料 鋼製、コンクリート製とも標準設計化されており、以下の資料を使って設計積算が可能である。 積 算 基 準 積 算 価 格 損 料 (率) 下水道工事積算基準 (国土交通省下水道部監修) 推進工法用設計積算要領立坑編 (日本下水道管渠推進技術協会) 推進工事用機械器具等基礎価格表 (建設物価調査会、経済調査会) 積算資料 (経済調査会) 建設機械等損料算定表 (日本機械化協会) 推進工事用機械器具損料参考資料 (日本下水道管渠推進技術協会) 鋼製方式 コンクリート製方式 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 4.新材料「MMホールS」とは (1)概要 適用条件を限定することにより、躯体の厚さを従来のMMホールより薄くした。これにより、作業 性と経済性が大幅に向上した。 (2)適用条件と仕様比較 適用土質 MMホール 浅型MMホール 砂 質 土 N≦50 N≦30 粘 性 土 N≦30 N≦10 礫質土(礫径≦ 200mm) N≦50 − 施工可能深さ(m) MMホール 浅型MMホール 10∼15 − − 5 最大掘削深さ 最大立坑深さ 種別と躯体壁厚(mm) MMホール 浅型MMホール 1号(内径 900mm) 132 75 2号(内径 1200mm) 135 100 3号(内径 1500mm) 140 125 L3号( 内径 1700mm) 150 − 4号(内径 1800mm) 170 − L4号( 内径 2000mm) 175 − 5号(内径 2200mm) 180 − 底盤コンクリートなど 底盤コンクリート厚 その他 MMホール 0.95m 必要に応じ砕石 - コウ ワ ( R C ) 2 - 浅型MMホール 内径× 1/2 必要に応じ 底盤ブロック 5.「MMホールS」による経済設計 (1)はじめに 「 MM ホールS」の設計積算資料として平成19年4月に「コウワ工法 コンクリート製(圧入構 築式 技術積算資料(平成19年度版 )」を作成した。 なお、MM ホールの設計積算資料としては、MMホール協会から「 MM ホール技術資料」「MM ホ ール積算資料」(第5版)が発行されている。 ここでは 、「コウワ工法 コンクリート製(圧入構築式 技術積算資料(平成19年度版 )」によ り、「MMホールS」の設計積算を行った場合の鋼製ケーシング立坑との経済比較を行う。 (2)材料価格 鋼材価格の急騰により、内径1500までは鋼製よりRCのほうが安くなっている。 今後も鋼材価格の上昇は続くとみられ、この価格差はさらに広がる傾向にある。 (円/m) 鋼製ケーシング 呼び径 備考 価 格 MMホール 種別(内径) MM ホール S 価 格 種別(内径) 価 格 900 133,000 1号 900mm 123,000 1号 900mm 95,000 1200 160,000 2号 1200mm 148,000 2号 1200mm 122,000 1500 182,000 3号 1500mm 179,000 3号 1500mm 156,000 1.鋼製ケーシング呼び径 1500:「推進工事用機械器具等基礎価格表 」(平成 20 年 度版『建設物価』) 呼び径 900、 1200 は呼び径 1500 の重量比例× 1.1(特殊サイズ分) 2.MM ホール2号、3号:積算資料( 2008 年 6 月)L=1.5m の価格を1m換算 MM ホール1号、MM ホール S は調査価格がないため、MM ホール協会価格 を85%した。(これは、MMホール2号の協会価格と調査価格との比率) (3)施工費 鋼製とRC製(圧入構築式)とは、施工方法がほぼ同様であるが、日進量に大きな差があるため施 工費用は、同一内径では鋼製のほうが安い。 MMホールとMMホールSについては、施工方法および日進量ともにほぼ同様であるため、同一内 径の施工費もほぼ同様である。従って、工事費(材料費+施工費)はMMホールSのほうが安い。 (3)経済比較 鋼製の立坑構築とMMホールSによる人孔築造の経済比較を行う。 (設計条件) 立坑深さ5m 土質:砂質土(N≦30) 鋼製ケーシング価格:「推進工事用機械器具等基礎価格表 」(平成 20 年度版『建設物価』) MMホールS価格 :MMホール協会価格× 0.85 (上部二次製品価格も同様) 圧入機基礎価格 :鋼製は、「推進工事用機械器具等基礎価格表」 (平成 20 年度版『建設物価』) MMホールSは、コウワ工法技術協会価格× 0.85 (積算結果) 鋼製ケーシング 種 別 金 MMホールS 額 種 別 金 額 呼び径1500 1,572,384 MMホールS1号 1,395,972 呼び径1800 1,751,648 MMホールS2号 1,790,956 呼び径2000 1,880,542 MMホールS3号 2,459,338 - コウ ワ ( R C ) 3 - (考察) ① ② ③ ④ 鋼製呼び径1500(到達立坑)と MM ホール S 1号(立坑兼用人孔) 立坑と人孔の比較においても、 MM ホール S が安い。 立坑内に人孔を築造する場合、価格差はさらに広がる。 鋼製呼び径1500(到達立坑)と MM ホール S 2号(立坑兼用人孔) 副管が必要な場合、 MM ホール S では内副管となるため2号となる。 立坑と人孔の比較では鋼製が安いが 、立坑内に人孔を築造する場合 、MM ホール S が安い。 鋼製呼び径1800(到達立坑)と MM ホール S 2号(立坑兼用人孔) マンホールポンプ室などの場合。 立坑と人孔の比較では鋼製と MM ホール S は同程度。 立坑内に人孔を築造する場合、 MM ホール S のほうが安い。 鋼製呼び径2000(到達立坑)と MM ホール S 3号(立坑兼用人孔) マンホールポンプ室などの場合。 立坑と人孔の比較では鋼製が安い。 立坑内に人孔を築造する場合、 MM ホール S のほうが安くなる可能性が高い。 6.人孔到達の問題点 人孔到達は、立坑到達と比べるといくつか問題点がある。 そのため、これまでも経済性では優れていたRC製の実績が少ない。 ここでは、それらについて検討する。 (1)材料の信頼性 本体構造物であるマンホールでは、材料の信頼性が最も大切である。 MM ホール、MM ホール S はいずれも技術審査証明により、従来品と同等以上の品質を持つこと が確認されている。 (2)RC製は特定の工法に限定される 鋼製には多くの工法や実績(年間2万基程度)があるが、RC製では沈下構築式(沈設立坑)と圧 入構築式(MMホール)の2工法で年間数百基の実績である。 しかし、圧入構築式は鋼製の施工機械(回転方式)一般で施工可能である。実際にMMホールは、 アート工法、 L-mole 工法、PIT工法、コウワ工法で施工されており、ケコム工法でも別のRC製 ブロックを圧入している。実績は、設計採用とともに増加する。設計採用が増えれば、これまで鋼製 しか施工していなかった業者も参入してくる。 従って、圧入構築式に関しては、工法の制限とはならない。 (3)推進工法が制限され、推進工事費が高くなる 「推進工法用設計積算要領 小口径管推進工法 低耐荷力編 」(日本下水道管渠推進技術協会)で は、低耐荷力方式すべての分類で、既設マンホール到達を記載している。 このうち圧入二工程式では、立坑到達と既設マンホール到達とで日進量を変えている 。(既設マン ホール到達のほうが遅い) しかし、圧入二工程式の代表的な工法の一つであるパイパー工法では、日進量は立坑でも人孔でも 同じである。(変える必要はないと考えている) また、今年度から同じ設計積算要領の立坑編でも、RC製の1号、2号マンホールを到達用として 記載している。 以上により、低耐荷力方式に関して言えば、工法の制限や工事費の増加はない。 (4)適用土質、立坑深さに制限がある 立坑到達では止水器を設置したままであるのに対して、人孔到達では坑口仕上げの際に坑口を撤去 しなければならない。 このとき、地下水位が高いと漏水により坑口仕上げが困難となる。実施工では薬液の補足注入を行 うなどして対応しているが、問題は残る。 圧入作業でも、鋼製より耐荷力の小さなRC製では土質が制限され、壁厚の薄いMMホールSでは 適用土質はさらに狭くなる。 - コウ ワ ( R C ) 4 - 立坑深さについても、鋼製とRC製およびRC製でもMMホールとMMホールSとでは差がある。 (5)耐震坑口の設置 従来の耐震坑口は、マンホール外側から設置していたため、RC製では設置が困難であった。 しかし、近年では既設マンホールの内側から設置可能な耐震継手が商品かされている。 (6)作業性に差が大きい 圧入構築式の場合、作業方法は鋼製とほぼ同様であるが、施工性には大きな差があるが、コウワ工 法+ MM ホール S の組み合わせでは、以下のように解決している 。。 ① 材料の取り扱い 鋼製より重く、破損しやすいRC製は取り扱いに注意を要する。 MMホールSは、MMホールより大幅に軽量化されている。 ② 精度 本体構造物であるマンホールでは、施工精度が要求されている。 コウワ工法は、技術審査証明により± 30mm の精度を確認されている。 ③ 底盤の止水 本体構造物であるマンホールでは、完全止水が要求されている。 地下水位が高い場合には、従来の底盤コンクリート硬化後に排水し、プレキャスト底盤 を設置する。(あるいは二次コンクリートを打設する 。) 7.終わりに MM ホール S を使用した既設マンホール到達は 、鋼材高騰の現状では経済性で非常に優れている 。 環境に関しても、鋼材の存置がなく、発生土、埋戻土およびレイタンスが少なく、優れている。 これまでは、適用土質や施工性などから使用が限られていたが、もっと広く使われても良いと思わ れる。 本検討書が、使用拡大の一助になれば幸いである。 - コウ ワ ( R C ) 5 -
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