Twitterを利用した印象に基づくインストゥルメンタル楽曲検索手法の提案

Twitter を利用した印象に基づくインスト ゥルメンタル楽曲検索手法の提案
Proposal of a New Instrumental-Music Retrieval System Based on Impression from Twitter
知識情報学講座 0312010013 伊藤大貴
指導教員: 松原雅文 Goutam Chakraborty 馬淵浩司
1.
はじめに
現在,世界の楽曲数は 4,300 万曲以上にものぼり,
その中からユーザの嗜好や気分などに合致する楽曲
を見つけることは困難である.このような問題を解
決するため,印象に基づく楽曲検索手法 1) が提案さ
れている.
近年の音楽市場における注目点として, Electro
Dance Music(EDM) と呼ばれる音楽ジャンルの世
界的な流行がある.2012 年には,主要音楽ジャンル
のシングル売上げ 成長率の調査において 35.6 %の
上昇と最も高い数値を記録しており,最も勢いのあ
るビジネスチャンスとも言われている.
Twitter は,手軽な情報発信とリアルタイム性を
実現しており,多くのユーザが自分の現在の状況な
どを発信している.その一例として,ユーザが聴い
ている音楽に関する情報も投稿されており,書誌情
報とともに楽曲に対する印象を投稿するツイートも
少なくない.しかし ,Twitter に投稿される楽曲は
世界の楽曲の一部に過ぎず,EDM などのインストゥ
ルメンタル楽曲は一般的な音楽ジャンルよりも投稿
される機会が少ないため,検索が困難となっている.
そこで,本研究では Twitter における楽曲情報と
楽曲間類似度を用いてインストゥルメンタル楽曲を
検索する.Twitter で検索された楽曲を基にインス
トゥルメンタル楽曲との楽曲間類似度を求めること
で,Twitter のみでは検索が難しいユーザの求める
インストゥルメンタル楽曲の発見が期待される.
2.
楽曲検索手法
楽曲の書誌情報(アーティスト名や楽曲名,歌詞
など )を用いた検索手法は,古くから商用音楽サー
ビス等で一般的であった.しかし,このような検索
手法で イン ストゥル メンタル楽曲を検索する場合,
検索の際に使用される情報の一つである歌詞情報が
無いこと,アーティスト自体の知名度が高くないこ
とから,検索が困難となっている.
また近年では,ユーザが メロディを歌うなどして
検索するハミング検索,楽曲間の類似度に基づいて
楽曲を検索する類似楽曲検索 2) 等といった内容に基
づく音楽情報検索が提案されている.類似楽曲検索
では,メル周波数ケプストラム (MFCC),周波数ス
ペクトルなどといった楽曲の音響的特徴量から距離
計算を行い,楽曲間の類似度を算出している.人が
楽曲を聴取することで受ける感性評価と楽曲の音響
的特徴量を対応付ける先行研究 3) においては,音
響的特徴量として周波数スペクトルが用いられてお
り,その有効性が示されている.そのため,本研究
では周波数スペクトルを用いて,楽曲間の類似度算
出を行う.
3.
3.1.
提案手法
概要
本提案手法では,Twitter 検索と楽曲の類似度算
出を用いてイン ストゥル メンタル楽曲を検索する.
本提案手法における処理手順を図 1 に示す.
図 1 処理手順
ユーザは自分の求める楽曲を「 明るい 」や「 悲
し い」など の楽曲に対する印象を イメージし ,ハ
ッシュタグ「 #nowplaying 」とともに入力すること
で,Twitter 上に投稿された楽曲を検索する.次に,
Twitter で検索された楽曲の周波数解析を行い,周
波数スペクトルから抽出したパワースペクトルを用
いて楽曲間の類似度算出を行うことで,インストゥ
ルメンタル楽曲を検索する.
3.2.
Twitter における楽曲検索
Twitter には,1 つのテーマ,話題をまとめること
の出来るハッシュタグという機能がある.ハッシュ
タグの一つである「 #nowplaying 」では,自分が現
在聴いている音楽を他のユーザに共有することや,
他のユーザが聴いている楽曲を検索することが可能
となっている.しかし ,Twitter に投稿される楽曲
は世界の楽曲の一部に過ぎないため,ユーザの趣味
嗜好に合致する楽曲が発見出来るとは限らない.
また,Twitter において楽曲情報が投稿される際
には,楽曲の書誌情報とともに「明るい」や「悲し
い」などといったユーザが楽曲を聴いた際の印象も
投稿されることがある.
本研究では,このように印象を表現する単語を
印象表現語として定義し ,
「 #nowplaying 」とともに
Twitter での楽曲情報を検索する際に使用する.なお,
Twitter において検索する楽曲は,一般にはヴォー
カルの入った楽曲であることから,本稿ではこれを
歌詞あり楽曲と呼ぶ.
3.3.
周波数スペクト ルを用いた類似楽曲算出
類似楽曲の算出には,楽曲の音響的特徴量として
周波数スペクトルを用いる.周波数スペクトルの形
状からは,音の高低やシャープネス (音の鋭さ),エ
ネルギー分配状況 (音色) を読み取ることが出来る.
これらの情報は,楽曲の印象に大きく影響を与える
と考えられる.
本提案手法では,楽曲に対して高速フーリエ変換
(FFT) を行い,楽曲の周波数分析を行う.周波数分
析におけるサンプ リング周波数は 44.1kHz,データ
数は 4,096 とする.
FFT によって得られた周波数スペクトルから一定
の周波数におけるパワースペクトルを抽出し,ユー
クリッド 距離を用いて歌詞あり楽曲とインストゥル
メンタル楽曲の距離計算を行う.ユークリッド 距離
による楽曲間の距離 distance(p, q) は,歌詞あり楽
曲とインストゥルメンタル楽曲のパワースペクトル
をそれぞれ p,q ,パワースペクトルを抽出する周
波数設定箇所を i とするとき,式 (1) により求めら
れる.
v
u n
uX
(1)
distance(p, q) = t (pi − qi )2
i=1
本提案手法では,パワースペクトルを用いて算出
されたユークリッド 距離を楽曲間の音響的類似度と
して用いる.Twitter において検索された歌詞あり
楽曲を基に,インストゥルメンタル楽曲との楽曲間
類似度を算出し,類似度の高いインストゥルメンタ
ル楽曲をユーザに適した楽曲として出力する.
4.
4.1.
評価実験
実験概要
上記の手法によって楽曲の類似度を算出し,被験
者の主観評価を指標とした評価実験を行った.実験
には,Twitter において検索された歌詞あり楽曲 2
曲 (Music1,2) と,独自に用意したインストゥルメ
ンタル楽曲 100 曲 (Inst1 ∼ 100) を使用する.
それぞれの歌詞あり楽曲について類似しているイ
ンストゥルメンタル楽曲を算出し,上位 5 曲を出力
した.出力されたインストゥルメンタル楽曲 5 曲に
対して,被験者 10 名による 5 段階主観評価を行う.
主観評価における評価段階は,
「 満足でない= 1 点」
「やや満足でない= 2 点」
「ど ちらとも言えない= 3
点」
「やや満足= 4 点」
「満足= 5 点」となっている.
4.2.
特徴量抽出における周波数の設定
本研究では,周波数スペクトルから特徴量を抽出
する周波数を 20,100,200,250,400,800,1200,
1600,2000,4000,8000,16000Hz の計 12 箇所と
定めた.
実験結果及び考察
4.3.
それぞれの歌詞あり楽曲を基に算出された類似イ
ンストゥルメンタル楽曲と,それらに対する被験者
評価を表 1 に示す.表 1 における平均評価値とは,
算出された類似楽曲に対して被験者 10 名が 5 段階
主観評価を行った結果の平均値である.
順位
1位
2位
3位
4位
5位
表 1 評価結果
Music1
Music2
類似楽曲 平均評価値 類似楽曲 平均評価値
Inst96
3.4
Inst26
3.4
Inst97
2.4
Inst13
4.1
Inst67
3.9
Inst46
4.0
Inst92
4.2
Inst3
3.3
Inst94
4.0
Inst24
3.9
それぞれの歌詞あり楽曲を基に算出された類似楽
曲計 10 曲中 9 曲に対する被験者満足度が中間値で
ある 3 を越えており,10 曲中 6 曲に対しておよそ 4
以上という高い評価が得られた.このような結果か
ら,印象表現語による Twitter 検索と音響的特徴量
による楽曲間類似度算出を用いたインストゥルメン
タル楽曲検索は有効であると言える.
今回の実験において,被験者満足度が最も低い値
となったのは,Music1 の類似楽曲 2 位「 Inst97 」に
対する満足度 2.4 であった.このような被験者満足度
の低い楽曲が検索上位にあがった要因としては,周
波数以外の音響的特徴量が影響していると考えられ
る.今回は,音の高低を主として類似度算出を行っ
ているため,楽曲のテンポの違いなどから,このよ
うな結果が得られたと推測される.
5.
おわりに
本稿では,Twitter 検索と楽曲の類似度算出を用
いたインストゥルメンタル楽曲検索手法を提案した.
実験結果から,本提案手法において算出されたイ
ンストゥルメンタル楽曲が被験者から高い満足度を
得られていることがわかり,本提案手法の有効性が
確認できた.
今後は,Twitter で検索する歌詞あり楽曲と被験
者を増加させ,評価結果を検証する予定である.ま
た,周波数以外の音響的特徴量を追加することで,
さらなる精度向上を目指す.
参考文献
1 )熊本忠彦,太田公子:印象に基づく楽曲検索シス
テムの設計・構築・公開.独立行政法人情報通信
研究機構.人工知能学会論文誌.Vol.21,No.3,
pp.310-318,2006
2 )大野和久,鈴木優,川越恭二:楽曲全体における
特徴量の傾向に基づいた類似検索手法.日本デー
タベース学会論文誌.Vol.7,No.1,pp.233-238,
2008
3 )伊藤雄哉,山西良典,加藤昇平,伊藤英則:楽曲
に対する感性評価と音響ゆらぎ特徴の対応付け.
名古屋工業大学大学院工学研究所.日本感性工
学会論文誌.Vol.11,No.3,pp.341-348,2011