ダウンロード - The Japanese Society for Aesthetico

日本美容医療テクノロジー学会誌
Journal of the Japanese Society for Aesthetico-Medical Technology
目 次
編集者から................................................................................................................................................................................................................ 4
LifeLog と QOL の向上.................................................................................................................................................................................... 5
上岡玲子(東京大学インテリジェントモデリングラボラトリー)
ヒアルロン酸の副作用とその対処法...................................................................................................................................................10
征矢野進一(神田美容外科形成外科医院)
低侵襲的な近赤外線治療器による dermal heating の効果と有用性...........................................................................15
クリストファー・ジョン・ウエスト,宇田川晃俊(キュテラ株式会社)
RF による皮膚の形状修復—シワ・タルミ治療—.....................................................................................................................21
西村浩之,森下真知子,高谷聡(株式会社ジェイメック)
GentleYAG によるスキンタイトニング・リフティング......................................................................................................27
米国キャンデラ株式会社
Soft tissue augmentation における注入剤の変遷......................................................................................................................31
ルネ・デュ・クロー(東京スキンクリニック)
エボレンスとエボレンス・ブリーズ—新世代真皮フィラー.............................................................................................37
小菅正和(ガデリウス株式会社)
ヒトコラーゲン注入剤製品情報..............................................................................................................................................................41
アラガン株式会社
ヒアルロン酸注入剤製品情報...................................................................................................................................................................45
アラガン株式会社
皮膚若返り治療概説.........................................................................................................................................................................................48
岡部夕里(東京スキンクリニック)
IPL の進化...............................................................................................................................................................................................................53
ジョアン・ソートバーグ(デンマーク・ダーマトロジック・デベロップメント株式会社)
第 4 回東方美容外科学会・第 91 回日本美容外科学会
(中華人民共和国重慶,2006 年 9 月 22 日~ 24 日)参加報告...................................................................................56
上野正樹(上野医院)
日本美容医療テクノロジー学会第 2 回学術集会案内.............................................................................................................59
CONTENTS
From the editor.................................................................................................................................................................. 4
LifeLog and improvement of quality of life (QOL)......................................................................................................... 5
Ryoko Ueoka, Ph.D., Intelligent Modeling Laboratory, the University of Tokyo
Side effects of injectable hyaluronic acid and their treatment.................................................................................... 10
Shinichi Soyano, M.D., Kanda Aesthetic Surgery Clinic
Effect and efficacy of dermal heating with a near-infrared device............................................................................. 15
Christopher John West, Terutoshi Udagawa, Cutera K.K.
Skin reshaping by RF—treatment of wrinkling and sagging...................................................................................... 21
Hiroyuki Nishimura, Ph.D., Machiko Morishita, Satoshi Takaya, JMEC Co., Ltd.
Skin tightening and lifting with GentleYAG.................................................................................................................. 27
Candela Corporation, U.S.A.
Transition of filling materials in soft tissue augmentation.......................................................................................... 31
René du Cloo, M.D., Tokyo Skin Clinic
Evolence & Evolence Breeze—New generation of dermal fillers.............................................................................. 37
Masakazu Kosuga, Gadelius, K.K.
Information on human collagen implants...................................................................................................................... 41
Allergan, Inc.
Information on hyaluronic acid implants....................................................................................................................... 45
Allergan, Inc.
Outline of treatment modalities for skin rejuvenation................................................................................................. 48
Yuri Okabe, M.D., Tokyo Skin Clinic
Evolution of IPL................................................................................................................................................................ 53
Joan Sortberg, Danish Dermatologic Development A/S
A participant’s report of the 4th Congress of Eastern Cosmetic Surgery/the 91th Congress of the Japan
Society of Aesthetic Surgery (Chonqing, PRC, September 22nd–24th, 2006).......................................................... 56
Masaki Ueno, M.D., Ueno Clinic
Announcement of the second scientific meeting of the Japanese Society for Aesthetico-Medical Technology....... 59
編集者から
去る 10 月 22 日に開催された日本美容医療テクノロジー学会第 1 回学術集会では,先端テクノロジー
に関する講演,美容医療技術関連の基礎・特別講義と共に,注入剤と光学・電気機器によるリフティ
ング・タイトニングをテーマとする二つのシンポジウムで各製品の専門の方に最新製品情報のご発表
をお願い致しました。本号では,各発表者の方に発表内容についてご投稿願いました。
工学博士の上岡玲子先生にはウェアラブルコンピュータを利用したライフログの研究についてご執
筆いただきました。講演の際に埋め込みチップほどの超小型ウェアラブルコンピュータが開発される
のも数年先のようなことを言われていました。人間の体験をコンピュータにすべて記憶,分析させる
ことによって,未来の予測が可能になるのもそう遠い話ではなさそうです。いわば建設的な未来予知
に基づく生活の向上は現代人の大きな関心事といえましょう。
注入療法のパイオニアである征矢野進一先生には,注入用ヒアルロン酸の副作用と対処法について
豊富なご経験に基づく貴重な情報を明解な論文にまとめていただきました。一般的に簡単に入手でき
る情報では利点が強調され,副作用が論じられることが少ないようです。ヒアルロン酸を使用する上
でヒアルロニダーゼによる副作用の対処は必須な知識となるでしょう。
低侵襲のタルミ治療は今後が期待される分野です。キュテラ株式会社からは近赤外線治療器の病理
学的,臨床的効果を裏付ける論文をご提出いただきました。JMEC とキャンデラ社からご提供いただ
いた,それぞれ RF とヤグレーザーに関する製品説明と共に,必読の情報です。製品説明はシンポジ
ウム主催者側の質問に対する答えとして情報を整理されているため比較がしやすい形になっています。
自家組織を用いた注入療法にも詳しいルネ・デュ・クロー先生に書き下ろしていただいた注入剤の
歴史的変遷は,この治療法に対する理解を深めるのに非常に有用です。ガデリウス社とアラガン社よ
りご提供いただいたブタコラーゲン,ヒトコラーゲン,各種ヒアルロン酸注入剤に関する製品情報は,
最新注入剤の概説としてユーザーの役に立つでしょう。特に注入後の病理像の比較やコラーゲン・ヒ
アルロン酸分解酵素に作用するサプリメントの一覧など,有益な情報が載っています。
ジョアン・ソートバーグ氏にお書きいただいた最新 IPL 機器の説明には豊富な文献が添付され,
IPL のユーザー・取り扱い企業および導入をお考えの先生方に興味深い内容です。
上野正樹先生には昨年 9 月に重慶で開催された日本美容外科学会のご報告をしていただきました。
中国は必ずしも行きやすい場所ではありません。参加できなかった方にとって大変参考になります。
最後に,私自身は皮膚若返り治療を概説させていただきました。十分教育を受ける場が無い美容医
療の世界で暗中模索される先生の助けに少しでもなればと思った次第です。締めくくりの技術導入の
ポイントは,美容医療の発展を願うすべての方へ発したいと思っているメッセージです。
平成 19 年 2 月 26 日
日本美容医療テクノロジー学会
会長 岡部夕里
LifeLog と QOL の向上
LifeLog and improvement of QOL
上岡玲子(東京大学インテリジェントモデリングラボラトリー)
Ryoko Ueoka, Intelligent Modeling Laboratory, the University of Tokyo
Abstract
This paper introduces two latest research fields of computer science called “wearable computer” and
“life log”. These topics are related to each other in the sense that they deal with a person’s everyday
life: The structure of a person’s behavior is studied in both fields with the objective of understanding
the characteristics of a human being. In this paper, recent studies on and experiments with wearable
computers and life logs are presented. The author developed two types of wearable computers for
recording personal experience and performed some case studies to analyze the recorded data. Longterm experience was also recorded with simple sensors to discover behavioral patterns. Finally,
the author refers to the potential of these studies to improve the quality of life especially from the
perspective of health monitoring.
キーワード : LifeLog,wearable computer,computer science
1.はじめに
ンピュータが人間の日常生活空間に浸透する
昨今のコンピュータの小型化や情報化社会の
ことで,これまで客観的に観察することので
発展により,コンピュータの応用シーンがこれ
きなかった人の行動パターンの可視化が可能
までのそれとは異なり,日常生活の中に浸透す
になる。一つの応用事例として,ライフログ
るようになるだろう。こうした「いつでも,ど
(LifeLog)の可能性が挙げられる。ライフログ
こでも,だれでも」使用可能なコンピュータの
とは,日常生活の環境で,時系列に記録される
台頭は,これまでの生活を大きく変えることに
情報と定義する 1)。「ライフログ」は,アメリ
なる。
カの米国国防総省高等研究計画局(DARPA)
筆者は携帯型端末の発展型として,ウェアラ
が 2003 年 5 月に計画したプロジェクトの名称
ブルコンピュータの研究を行っている。文字通
が始まりである 2)。時系列に情報が記録される
り,「着ることのできるコンピュータ」を利用
ことで,過去から現在に至る個人の大量の情報
することで,装着者自身の情報や状況などを
のデータベースの構築が可能になる。そうした
コンピュータ側で知ることが可能になる。コ
データベースの利用により,起こりうる未来に
ついてのシミュレーションが将来的に可能にな
連絡先:上岡玲子,東京大学インテリジェントモデリン
グラボラトリー
〒 113-8656 東京都文京区弥生 2-11-16
[email protected]
るかもしれない。人間が日常生活の中で無意識
に行ってきた行為をコンピュータが記録するこ
とにより,生活パターンの時系列確認や悪習慣
見を実現するために役立つと考えられる。
の発見など,予防医療的行為の実現とともに,
3.2.体験記録のためのウェアラブルコンピュータ
Quality of Life(生活の質)の向上が可能にな
人の体験を記録するため,2 種類のウェアラ
るだろう。
ブルコンピュータの試作を行いケーススタディ
本論文では,ウェアラブルコンピュータとラ
を行った。図 1 の左のウェアラブルコンピュー
イフログの研究について,特に健康応用に重点
タは,7 種類のセンサーを実装し,装着者の
をおいた関連研究の紹介と筆者のこれまでの研
体験を記録する。図 1 右のウェアラブルコン
究内容について紹介する。
ピュータは装着者の視覚的体験に重視して記録
を行うシステムで,装着者の視野角範囲をパノ
2.関連研究
ラマ画像として記録するとともに,頭部の動き
装着型コンピュータを利用し,日常生活の記
に追随した視野の記録も可能である。
録を積極的に活用する研究分野として,健康分
ケーススタディとして,図 1 左の試作機を用
野の応用領域が挙げられる。例えば,ヨーロッ
い,実際に清掃ボランティアと調理体験(プロ
パでは,欧州で死因原因の 45%にあたる心臓
とアマチュアに同じ料理を作ってもらう)を
血管疾患を予防するための MyHeartProject が
行った(図 2)。また,図 1 の右の試作機を用い,
2003 年より EU のプロジェクトとして開始さ
街頭散策を行った。図 3 は清掃体験中の被験者
れた 3)。具体的な内容は,心疾患予防のための,
の心拍変動量から算出したストレス指標(RRV)
心拍計測の常時モニタリングシステムの開発や
と温度・湿度記録から算出した不快指数(THI)
ダイエットモニタリングのための食事の内容
のグラフ結果である。グラフから,体験の文脈
4)
や咀嚼を記録するためのシステムの研究 であ
(ここでは,清掃中と休憩中)が変化した時に,
る。
生体,環境情報とも大きく変化していることが
また,日本では,生活習慣病の予防のための
わかる。図 4 は調理体験の時のプロとアマチュ
研究として,自らの健康に関心や不安のある人
アの調理時間(横軸)と歩行データ(黒が歩行,
を対象に,日常的に健康のモニタリングがで
白が停止)を示す。同じ料理の調理時間に違い
き,そのデータを解析して健康度を推定できる
ような健康情報解析システムの技術の開発など
が NEDO の研究開発プロジェクトの支援を受
け 2005 年より始められ,利用者の生活改善意
欲の動機づけとして,客観的なデータの有効性
が実証実験により示されている 5)。
3.ウェアラブルコンピュータとライフログ
3.1. はじめに
筆者は,日常体験の記録を行うためのウェア
ラブルコンピュータの試作や日常行動記録(ラ
イフログ)の実験を行ってきた。こうした研究
は,人が日常生活の中で習慣として行っている
こと,意識しないで行っている行動の意味の発
図 1 ウェアラブルコンピュータプロトタイプ
が大きくあることや一つ場所に滞留する時間が
街頭散策では,体験者の注意と視覚情報の関
プロは長くメリハリがあるのに対し,アマチュ
係を検討した。図 5 は,装着者の頭部の動きを
アは常時細かく動いている。
示している。これは,装着者が進行方向右方向
こうした結果から,体験時には意識しなかっ
に注意を向けながら歩行する行動の特性が見ら
た自身の行動や,生体情報から推測される装着
れることがわかる。矢印の部分は短期間左方向
者の状態など,体験のコンテキスト(文脈)の
に頭部向きが変化している。これは,新しく建
再現が可能であることがわかった。またこうし
築された高層ビルに関心を寄せたことが記録か
た体験の記録全体を俯瞰的にとらえることで,
ら解釈できる。
作業状況や労働量などの客観情報に変換可能で
3.3. ライフログ
あることが判明した。
ライフログ実験では,シンプルなデバイス構
成で長期間日常生活の中で記録を行うことを目
的として行った。実際には,1 年間の日常生活
図 2 ケーススタディ(上:清掃,下:調理体験)
図 4 調理体験時の歩行状態(上:プロ,下:アマチュア)
図 3 清掃体験中の RRV(ストレス指標)の変化と不快
図 5 街頭散策体験の時の頭部の動きと記録画像(左:
指数(THI)の変化
空間情報,右:注意方向)
下の位置情報と 3 ヵ月の発話情報を記録した。
を示す(図中②)。就寝時間にばらつきがある
位置情報のライフログから,出現頻度と時間に
が,睡眠時間については大きなばらつきはなく,
より 8 つのカテゴリを日常的に出現する場所と
平均して約 8 時間の睡眠時間であることがわか
して定義した。カテゴリは,
「自宅 」,
「自宅 (夜
る。こうした結果から,位置情報から生活パター
間)」,
「駒場研究室」,
「本郷研究室」,
「最寄駅」,
ンの俯瞰が可能であることがわかる。
「部活」,
「アルバイト」,
「霞ヶ関エリア」である。
次に発話情報のライフログの結果を示した図
カテゴリの定義は,エリア内に位置する建物や
を示す。図 7 は縦軸が時刻,横軸が日にちを示
場所の名称を使用した。自宅のカテゴリでは,
している。 時間ごとに発話量を測り,グラデー
夜間に自宅にいる場合,就寝しているケースが
ションの色が暖色に近いほど, 時間あたりの
多いので,自宅を カテゴリに分類し,就寝と
発話量が多く,赤色で 00%( 時間中の発話
それ以外とを明確に分類した。上記カテゴリの
時間が 時間)の状態を示す。平均して一日に
範囲外の位置情報については,「その他」とし
時 間 56 分 55 秒 の 発 話( 最 大 時 間:5 時 間
て分類することで,日常と非日常の分類を行っ
53 分 4 秒,最小時間:6 秒)していることが
た。図 6 に 年間のライフログを,各カテゴリ
統計処理により明らかになった。図中①の部分
を色別に識別し表示したものを示す。この図か
は他と比べ夜間の発話量が増加しているが,こ
ら,一年間の単位で行動パターンが識別できる。
れは,年末の行事が重なったため,夜遅くまで
ほとんどの時間(全体の約 80%)をカテゴリ内
起きて人と話をしていたためである。
の場所で生活していたことがわかる。図をより
また,発話の傾向として,午後の 時と 8 時
詳細に見ると,実験者は,日中,
「研究室(駒場)」
台に発話量が増えている(図 8)。これは,実
で過ごすことが最も多いが,6 月頃は色の変化
験者自身の評価により,食事の時間に重なって
から「霞ヶ関エリア」の頻度が増加している(図
いることが報告された。
中①)。これは就職活動のため,一定の期間上
記エリアに毎日通っていたため,日中の生活パ
ターンが変化したことを示す。また,「自宅 (夜間)」は,実験者のおおよその就寝パターン
図 7 3 ヶ月ライフログ(発話)
図 6 1 年間のライフログ(位置)
図 8 発話の時間帯傾向
8
4.まとめと今後の課題
しながら,自らの QOL を向上させ健やかな人
コンピュータの小型化により,生活のあらゆ
生を送ることが近い将来可能になるだろう。
る場面にコンピュータが利用されることは必至
である。例えば,コンピュータの生活シーンで
参考文献
の浸透の一例として携帯電話が挙げられる。携
1) 上岡玲子,曳野健,廣瀬.LifeLog 情報の記録・
帯電話の加入者数は,固定電話の加入者数を大
要約についての研究.日本バーチャルリアリ
きく上回り,「特定の場所での通話」という概
ティ学会第 10 回大会論文集 2005; 241-244.
念を覆し,いつでもどこでも必要な時に通話す
2) http://www.darpa.mil/ipto/solicitations/
ることが当たり前になった。最近では,iPod と
closed/03-30_PIP.htm
ナイキのコラボレーションによる機器開発によ
3) http://embc2006.njit.edu/pdf/2112_Habetha.
り,ジョギング中の走行記録を記録し,インター
pdf
ネット上で速度・距離・消費カロリーを計算し,
4) Oliver Amft, Mathias Stager, et al. Analysis
指定した時間単位で表示することでジョギング
of Chewing Sound for Dietary Monitoring.
6)
記録の俯瞰が可能になっている 。今後,日常
Proc. of 7th Int’l Conference on Ubiquitous
生活中の記録とその活用については様々な場面
Computing 2005; 56-72.
で利用されるようになるだろう。今後は,記録
5) http://www.sice.or.jp/~si-ae/SI-Forum.pdf
された情報からどのように未来の予測を行うか
6) http://www.apple.com/jp/ipod/nike/
が重要な課題となる。予測された未来を参考に
ヒアルロン酸の副作用とその対処法
Side effects of injectable hyaluronic acid and their treatment
征矢野進一(神田美容外科形成外科医院)
Soyano, Shinichi, M.D., Kanda Aesthetic Surgery Clinic
Abstract
Hyaluronic acid injection is now a popular method for the treatment of wrinkles. A skin test is not
required prior to injecting hyaluronic acid into facial skin. In some cases lumps and blue deposits are
observed at injected sites after hyaluronic acid treatment. The author has treated these side effects
with hyaluronidase (Amphadase™). Two cases, a lumpy line on the forehead and blue deposits on
the nasolabial lines, are presented. After the injection of hyaluronidase, both side effects disappeared.
A skin test is recommended before injecting hyaluronidase because it sometimes causes a
hypersensitivity reaction.
キーワード : hyaluronic acid,side effects,treatment,hyaluronidase
はじめに
社から Esthelis®,フランスの Corneal 社から
著者は 1985 年よりシワや陥凹の注入治療を
Juvederm®,Surgiderm® ま た Mentor 社 か ら
おこなってきた 1)。使用した製剤はコラーゲン
は Puragen® などが新たに注入用ヒアルロン酸
製剤やヒアルロン酸製剤,ポリ乳酸製剤などで
製剤として販売されている。今回ヒアルロン酸
ある。1977 年よりウシ由来コラーゲン製剤が 2),
製剤を使用した場合の副作用とその対処法に関
また 1996 年からはヒアルロン酸製剤が,2003
して報告する。
年よりはヒト由来コラーゲン製剤などが開発販
使用した注入材料
売されている。
ヒアルロン酸製剤の中で早くに市場に出現し
®
使用した注入用ヒアルロン酸製剤は表 1 に示
®
たのは Restylane と Hylaform であるが,微
した通りである。注入用ヒアルロン酸製剤は各
量のタンパクの混入によりたまにアレルギー
社が数種類ずつの濃度や架橋の異なる製品を販
3)
反応を起こすことがあった 。また両者ともに
売している。アレルギー反応の起こりやすさや,
粒子の状態で存在している注入剤のため注入
注入後の凹凸の程度,組織内での分解までの期
後に凹凸などの症状が注入部位にみられるこ
間などはそれぞれの製品で異なっている。
3)
とがあった 。それ以降にはスイスの Anteis
治療方法
連絡先:征矢野進一,神田美容外科形成外科医院
〒 101-0044 東京都千代田区鍛冶町 2-7-2
[email protected]
顔面や頚などのシワや陥凹に対して治療を希
望した患者に上記注入用ヒアルロン酸製剤を用
10
Restylane Touch®, Restylane®, Perlane®, Restylane Vital®, Restylane SubQ®
Hylaform Fineline®, Hylaform®, Hylaform Plus®
Captique®
Esthelis Soft®, Esthelis Basic®, Esthelis Men®, Esthelis Duo®
Juvederm® 30, Jevederm® 24 HV
Surgiderm® 18, Surgiderm® 30 XP
Puragen®, Puragen Plus®
表 1 現在著者が使用中のヒアルロン酸注入材料
図 1 上:症例 1,51 歳男性。治療前。眉間のシワに
対して Surgiderm® を注入した。下:症例 1 の治
療後。5 日後には眉間左側のシワがほとんど目立
たなくなっているのが認められる。凹凸は特に見
られない。
図 2 上:症例 2,55 歳男性。治療前。左下瞼のシワ
にのみ Esthelis Soft® を注入した。下:症例 2 の
治療後。7 日後には左下瞼のみのシワの改善が認
められる。注入後数日は腫れがあったが,1 週間
以内に消失した。凹凸や色素沈着など認められな
い。左半分のみシワが薄くなっている。
いて治療を行った 4)。希望者には事前に皮内テ
期待される通常の結果
症例 1〜 3 は期待される通常の結果である。
ストもおこなった。治療後 1 ~ 2 週後に診察を
行い,治療効果の程度の評価と副作用の有無を
症 例 1 は 51 歳 男 性 で, 眉 間 の 皺 に 対 し て
調べた。その際に治療部位の改善が少ないとき
Surgiderm® を注入した(図 1)。5 日後には眉
はさらに追加注入をおこなった。
間左側のシワがほとんど目立たなくなっている
11
針を刺入時の疼痛
皮膚の色素沈着
アレルギー反応
注入直後の針跡
注入部位の凹凸
表 2 ヒアルロン酸の副作用・合併症
Amphadase ™ , Ampastar Pharm
Vitrase®, ISTA Pharms
Hydase®, PrimaPharm
Hylenex®, Halozyme Therapeutics
Hyaluronidaze®, Cosmo France
表 3 ヒアルロニダーゼの種類と製造会社
図 3 上:症例 3,40 歳女性。治療前。施術の 1 年前
にアテロコラーゲンにて下眼瞼の涙袋(下眼瞼縁
の隆起)を作成した。気に入っていたが,数ヵ月
前より消失してきたため,ヒアルロン酸製剤の注
入を希望した。両方の下眼瞼縁に Esthelis Soft®
を注入した。下:症例 3 の治療後。3 日後はまだ
腫れがあるが,隆起は作成された。アテロコラー
ゲンよりも膨らみが強かった。また色調はアテロ
コラーゲンのような白色にはならずに若干水を含
んだような色合いとなった。
らみが強かった。また色調はアテロコラーゲン
のような白色にはならずに若干水を含んだよう
な色合いとなった。
副作用とその対処
表 2 に示したように,注入に伴う副作用や合
併症があるが,この中でヒアルロン酸製剤に特
異的なのは皮膚の色素沈着と注入後の凹凸の出
現であろう。これは真皮内に注入したヒアルロ
のが認められる。凹凸は特に見られない。
ン酸製剤が引き起こすもので,この製剤が吸収
症例 2 は 55 歳男性で,左下瞼にのみ Esthelis
されるまではこれらの症状は軽快しない。ヒア
Soft® を注入した(図 2)。7 日後には左下瞼の
ルロン酸製剤の中には 1 年以上存在するものが
みのシワの改善が認められる。注入後数日は腫
あり,効果が続くことは良いがこれら症状が長
れがあったが,1 週間以内に消失した。凹凸や
引くことは望ましくない。そこでヒアルロン酸
色素沈着など認められない。
分解酵素を使用して,これら症状の軽快を図っ
症例 3 は 40 歳女性で,施術の 1 年前にアテ
た。
ロコラーゲンにて下眼瞼の涙袋(下眼瞼縁の隆
表 3 にあるのは各社が製造しているヒアル
起)を作成した(図 3)。気に入っていたが,数ヵ
ロン酸分解酵素製剤である。著者が使用した
月前より消失してきたため,ヒアルロン酸製剤
の は こ の う ち の Amphadase ™ で あ る。 図 4
の注入を希望した。両方の下眼瞼縁に Esthelis
は 33 歳 男 性 で, ヒ ア ル ロ ン 酸 製 剤 の う ち の
Soft® を注入した。3 日後はまだ腫れがあるが,
Restylane Touch® を皮内に注入して,2 週後に
隆起は作成された。アテロコラーゲンよりも膨
Amphadase ™を皮内,皮下,皮内注射後ステ
12
図 4 33 歳男性。ヒアルロン酸製剤のうちの Restylane
Touch® を皮内に注入して,2 週後に Amphadase ™
を皮内,皮下,皮内注射後ステロイド外用,および
ステロイド混合注入の 4 種類の方法で投与し,そ
の効果確認を行ったものである。上は投与前,下は
12 日後の状態。Amphadase ™を注射した部分は凸
が消失した。皮膚の色調に異常はみられなかった。
また触った際のシコリなども認められなかった。
図 6 上:症例 6,44 歳女性。凹凸の修正前。3 ヵ月前
に他院にて額に Restylane® を注入したが,横に
一本の凸の部分ができた(2 つの↓印の間)。同
部位に Amphadase ™を 0.3ml 注射した。下:症
例 6 の治療 1 週後。額の凸のあった部位は平坦に
なった。
ロイド外用,およびステロイド混合注入の 4 種
類の方法で投与し,その効果確認を行ったもの
である。上は投与前,下は 12 日後の状態であ
る。Amphadase ™を注射した部分は凸が消失
した。Amphadase ™自体の副作用として,ア
レルギー反応を起こすことがある。図 5 は 5 ヵ
所に Amphadase ™を注射して 24 時間後に発赤
と腫脹と掻痒感を生じた症例である。
症 例 4 は, ヒ ア ル ロ ン 酸 分 解 酵 素
(Amphadase ™)を使用してヒアルロン酸の凹
凸を修正した 44 歳女性である(図 6)。3 ヵ月
図 5 53 歳男性。2 週前に左前腕の Evolence®,Zyplast®,
Restylane SubQ®,Esthelis Basic®,Captique®
の部位に Amphadase ™ 0.03 ml ずつ皮内注射し
た。その 5 ヵ所に,注射をして 24 時間後に発赤
と腫脹と掻痒感を生じた症例である。
前に額に Restylane® を注入したが,横に一本
の凸の部分ができた。同部位に Amphadase ™
を注射して 1 週後は平坦になった。
13
凹凸の発生が目立つことがある。皮膚には 70%
程度のコラーゲンが含まれ,ヒアルロン酸は 1%
未満しか含有されていないため,ヒアルロン酸
の注入治療を行うと,皮膚本来の色調や硬さな
どが変化するためだと著者は思っている。
適した部位に適した材料を注入することが肝
要である。ヒアルロン酸を注入して色素沈着や
凹凸が目立った場合は,上記のようにヒアルロ
ン酸分解酵素を用いてそれらの副作用を改善す
ることができた。ヒアルロン酸分解酵素自体に
もアレルギー反応を起こす患者も存在するた
め,事前に皮内テストが必要と考えている。
文献
1) 征矢野進一,福田修.ZCI(コラーゲン注入剤)
による皮膚陥凹の治療経験.日本美容外科学
会会報 1986; 8: 147-154.
2) K n a p p T P , K a p l a n , E N , D a n i e l s J R .
Injectable collagen for soft tissue
図 7 上:症例 5,46 歳女性。治療前。他院にて鼻唇溝
に Juvederm® を注入した。シワは改善したが,注
入部位に青い色調の硬いシコリが残った(2 つの
↓印の間)
。同部位のシコリと色素沈着の改善を
希望したため,Amphadase ™を注射した。下:症
例 5 の治療約 3 週後。鼻唇溝のシコリは消失した。
しかし,鼻唇溝のシワはまた目立つようになった。
augmentation. Plast Reconstr Surg 1977; 60:
398.
3) P a t e l V J , B r u c k M C , K a t z B E .
Hypersensitivity reaction to hyaluronic acid
with negative skin testing. Plast. Reconstr
Surg 2006; 117: 92-94.
症例 5 は 46 歳女性で,鼻唇溝に Juvederm®
4) 征矢野進一.皺や陥凹の治療に用いたコラー
を注入した(図 7)。シワは改善したが,注入
ゲンとヒアルロン酸の差異について.日本美
部位に青い色調の硬いシコリが残った。同部位
容外科学会会報 2001; 23: 20-27.
に Amphadase ™を注射して約 3 週後にはその
5) 征矢野進一,菅原康志.ヒアルロン酸を用
シコリは消失した。
いた皺の治療経験.日本美容外科学会会報
2000; 22: 1-7.
考察
6) 征矢野進一.コラーゲン,ヒアルロン酸など.
ヒアルロン酸製剤は皮内テストが原則不要と
葛西健一郎,宮地良樹,瀧川雅浩編.皮膚科
いうことで,コラーゲン製剤と比べ容易に臨床
診療プラクティス 17.東京 : 文光堂,2004:
応用が行われているが,色素沈着や注入部位の
207-213.
14
低侵襲的な近赤外線治療器による
dermal heating の効果と有用性
Effect and efficacy of dermal heating with a less invasive near-infrared device
クリストファー・ジョン・ウエスト,宇田川晃俊(キュテラ株式会社)
Christopher John West, Terutoshi Udagawa. Cutera K.K.
Abstract
Since Cutera Inc.’s product Titan was cleared by the FDA for dermal heating in 2004, many physicians
have explored how Titan interacts with collagen. Pioneering work performed by Zelickson, Ross, et
al., demonstrated that infrared light irradiation with Titan caused immediate collagen fibril contraction
and denaturation in abdominal skin from a live patient treated in vivo. Further histological analysis
on animal skin was carried out by Koike and other physicians of Nippon Medical School. Rats were
treated with Titan at 15, 35 and 50 J/cm2 and changes in collagen were examined at 3 hours, 1 day and
3 months post-treatment. The 35- and 50-J/cm2 treatments showed increased growth in the thickness
of collagen fibers. The growth in collagen fiber thickness correlated highly with the fluence used in
each treatment; higher-fluence treatments resulted in thicker fibers. In 2005–2006, three American
dermatologists performed a multi-center study with the objective of obser ving how the effect of
Titan on collagen would macroscopically tighten patients’ skin. Taub, Battle, and Nikolaidis treated
42 patients twice at one-month intervals over an 18-month period and reported that 90% of patients
showed visible skin tightening. Also Ruiz-Esparza has followed up 25 patients up to 12 months after
the procedure. Immediate changes were seen in 22 of 25 patients (88%) and also improvement of skin
laxity was found after up to 12 months with a mean of four months.
キーワード :Titan®(タイタン),dermal heating,近赤外線ランプ,non-ablative,トータル
スキンセラピー
はじめに
ablative な治療により,シワ・タルミなどの加
加齢による代表的な顔面症状であるタルミ
齢皮膚症状の改善を目指す動きがあるのもまた
に対する治療において,最も効果が高いもの
社会的な傾向である。
は,疑いなく外科的手術である。しかしながら,
外科的な処置に比べ低侵襲的な炭酸ガスレー
レーザー・光装置を使用することによる non-
ザー,ErYAG レーザー等を使用して皮膚表面
を剥離する ablative な resurfacing 治療も行わ
連絡先:宇田川晃俊,キュテラ株式会社
〒 150-0012 東京都渋谷区広尾 1-6-10
ジラッファ 11 階
[email protected]
れている。しかし,近年 bulk dermal heating
により,軽度の熱傷を引き起こし,コラーゲン
15
の収縮や新生を促し,タルミ・シワの軽減を可
能にする装置が登場してきた 1)。この考えに基
づ き,2002 年 に radiofrequency(RF) を 用 い
て真皮内を加熱しコラーゲンの収縮,再生を
図 る ThermaCool(Thermage, Inc., Hayward,
米国カリフォルニア州)2) が発売され,その後
フラッシュランプまたはダイオードレーザー
と RF の併用による装置などが登場している。
2004 年 米 国 で 発 売 さ れ た,Titan®(Cutera,
Inc., Brisbane, 米国カリフォルニア州)は,近
赤外線ランプを使用し,広帯域近赤外線波長
(1100 nm ~ 1800 nm)を皮膚に照射すること
で,真皮乳頭層から網状層を加熱する治療装置
である。本稿は,Titan®(タイタン)を用いて
の dermal heating の効果とその有効性につい
図 1 Xeo(ゼオ)プラットフォーム
て報告する。
Titan® について
Titan® は,non-coherent 近 赤 外 線 を 用 い た
dermal heating を目的とした装置で,ゼオ Xeo
(ゼオ)(図 1)と SoleraTitan(ソレラタイタ
ン)(図 2)の二つのプラットフォームに搭載
可能なハンドピースである。スポットサイズは
TitanS & V(10 × 15 mm)と TitanXL(10 ×
30 mm)の 2 種が存在し,照射出力は TitanS
図 2 SoleraTitan(ソレラタイタン)
プラットフォーム
& V に お い て 5 ~ 65 J/cm2,TitanXL で 5 ~
50 J/cm2 である(図 3)。近赤外線波長(1100
nm ~ 1800 nm)を使用することで,その光は
主に水に吸収され 3)(図 4),真皮乳頭層から網
らに近赤外線ランプの緩やかに発光するという
状層を加熱することが可能である。真皮層全体
特徴を利用し,キセノンランプのようなフラッ
を加熱することで,間接的に膠原線維を熱変
シュ発光形式ではなく,緩やかな温度上昇と適
化(収縮)させる。また創傷治癒機序による真
度な近赤外線の照射時間による dermal heating
皮内での膠原線維の新生,増生を促すことが推
を実現している。その結果,Titan® は真皮内を
測される 4)。また本治療器は,光治療の主流で
約 50℃~ 60℃程度に加熱し,膠原線維の熱変
あるキセノンランプを光源として使用せず,近
化を引き起こす(動物性コラーゲンの熱変性温
赤外線ランプをその光源とすることで,主な波
度は約 45℃~ 60℃ほどといわれている 5))。し
長域を 1100 nm ~ 1800 nm に集中させ,余分
かしながら,チップ先端が照射前(1 秒),照射中,
な光を極力排除するように設計されている。さ
照射後(2 秒)と,常に 20℃にクーリングされ
16
Titan ™ 仕様
機器名称
TitanS
TitanV
光源種類
近赤外線ランプ
波長
1100 ~ 1800 nm
パルス幅
TitanXL
自動調節
照射パワー
5 ~ 65 J/cm
スポットサイズ
繰り返し頻度
冷却装置
10 × 15 mm
2
5 ~ 50 J/cm2
10 × 15 × 5 mm
10 × 30 × 5 mm
シングルショット
水冷コンタクトクーリング 20℃
キャリブレーション
プラットフォーム
リアルタイムキャリブレーション
SoleraTitan プラットフォーム
Xeo プラットフォーム
寸法
34.3 × 38.1 × 50.8 cm
30 × 48 × 88 cm
重量
22.7 kg
61 kg
電源
115V/20A または 230V/20A
図 3 Titan®(タイタン)近赤外線装置の仕様(Cutera Inc. 社内資料より)
図 4 近赤外線帯域の水による吸収曲線(Cutera Inc. 社内資料より)
ミネソタ大学の Zelickson らは pre-abdomino­
ていることで,表皮の安全が保たれようになっ
plasty の患者に対し,30 J/cm2,45 J/cm2,65
ている(図 5)。
J/cm2 の 出 力 設 定 で 4 パ ス 照 射, 深 さ 0 ~ 1 病理学的変化について
mm と 1 ~ 2 mm での処置部位および対照部位
®
Titan 照射後の真皮内変化を,病理レベルで
(非照射部位)におけるコラーゲン線維の直径
観察した報告がいくつかあるので,ここで紹介
の変化を透過型電子顕微鏡下で観察した 6)。そ
したい。
の結果,対照部位においてコラーゲン線維の
17
図 5 Titan ™近赤外線装置の照射模式図(Cutera Inc. 社内資料より)
変化は確認できなかったが,処置部位の深さ 0
腫が観察され,3 ヵ月後では,コラーゲン線維
~ 1 mm と 1 ~ 2 mm のそれぞれにおいて線
が太く変化しているのが観察された。また,そ
維束の収縮と肥厚が観察されている。深さ 0 ~
の変化は出力が高いほうがより大きな変化を起
2
1mm では,30 J/cm で不可逆的変化による無
こしていた。
2
定形のコラーゲン線維が,45 J/cm で全体的
Zelickson らと小池らの報告より,Titan® を
にコラーゲン線維の断面の直径の変化が観察さ
照射することで広範囲における dermal heating
2
れ,65 J/cm で多くのコラーゲン線維が収縮し,
により真皮層内でコラーゲン線維に熱変性が起
断面の直径が数倍になっているのが認められ
こっていることが確認できる。しかし,残念な
2
2
がら,ヒトの真皮組織における Titan® 照射後
で不可逆的変化による無定形のコラーゲン線維
の長期的な経過を観察したものはまだ報告され
た。深さ 1 ~ 2mm では,30 J/cm と 45 J/cm
2
が観察され,65 J/cm で多くのコラーゲン線維
ておらず,また,2 mm より深部における組織
が収縮し,断面の直径が数倍になっているのが
的変化の観察報告は無い。
認められた。
治療方法と効果持続について
さらに,日本医科大学付属病院形成外科の小
2
2
池らはラットの背部に 15 J/cm ,35 J/cm ,50
2
実際の患者に対する治療における出力の設
®
J/cm の出力で Titan を照射し,真皮内の組
定,ショット数,パス数,治療間隔に関しては,
織レベルでの変化を照射後 3 時間,1 日,3 ヵ
Taub らが多施設における治療パラメータの報
月において皮膚サンプルを採取し,観察を行っ
告として行っている 1)。それによると,出力設
ている 4)。15 J/cm2 の出力設定では,直後に線
定は 30 ~ 40 J/cm2,ショット数は照射部位に
維芽細胞の肥大化が見られたが,コラーゲン
もよるが 100 ~ 250 ショット,パス数は 2 パス
の線維に大きな変化は無かった。しかし,35
(部分的に追加照射),治療間隔は平均 4 週間,
J/cm2(図 6),50 J/cm2(図 7)の設定において,
治療回数は 2 ~ 3 回となっている。治療効果は
直後に線維芽細胞の肥大化が見られ,細胞間浮
1 ~ 3 ヵ月後の経過観察時点で,85 ~ 90%の
18
図 6 照射設定 35 J/cm2 におけるコラーゲン線維の変化
写真提供:小池幸子先生(日本医科大学形成外科・美容外科)
図 7 照射設定 50 J/cm2 におけるコラーゲン線維の変化
写真提供:小池幸子先生(日本医科大学形成外科・美容外科)
患者において他覚的な変化を認めている。
dermal heating を実現した装置である。様々な
Titan® 照 射 後 の 効 果 持 続 に 関 し て は,
報告より,真皮内におけるコラーゲン線維の変
化も病理レベルで観察されており,その変化の
Esparza が 25 名の患者における最長 1 年の経
7)
過観察の結果を報告している 。年齢 44 ~ 75
持続時間も比較的長期的なものであることがわ
歳の 25 名の患者(男性 2 名,女性 23 名)に対し,
かっている。以上のように,その効果は外科的
治療前,数日後,2 ~ 3 週間後,2〜12 ヵ月後
な手術を上回ることはできないが,その有用性
の状態を写真で記録し,フォローアップを行っ
が確認できる。さらに Titan® は Nd:YAG レー
ている 7)。結果は,25 名中 22 名(88%)にお
ザーとの複合機である Xeo システムと組み合
いて治療直後の変化を認め,その効果持続期間
わせることで,複合的なトータルスキンセラ
は最大で 12 ヵ月(2 名 8%)であり,平均する
ピー治療の 1 つの選択肢として位置付けること
と約 4 ヵ月であった。
ができる 8)。
まとめ
参考文献
Titan® は近赤外線ランプを使用し,広帯域
1)Taub AM, et al. Multicenter clinical
近赤外線波長(1100 nm ~ 1800 nm)を皮膚に
perspectives on a broadband infrared light
照射することで,非常に安全に,痛みが少なく
device for skin tightening. J Drugs Dermatol
19
2006; 5(8): 771-778.
28(4): 7.
2)Thermage, Inc. (2004). Thermage, Inc. Web.
6)Zelickson B, et al. Ultrastructural effects
http://www.thermage.com/index.cfm (16
of an infrared handpiece on forehead and
Dec. 2006).
abdominal skin, Dermatol Surg 2006; 32: 897
3)Hale GM, Querry MR. Optical constants of
–901.
water in the 200nm to 200 µ m wavelength
7)Ruiz-Esparza J. Near painless, nonablative,
region. Appl Opt 1973; 12(3): 555-563.
immediate skin contraction induced by low-
4)小池幸子,小川令,青木律,百束比古.広帯
fluence Irradiation with new infrared device:
域赤外線ライト(Titan®)照射による真皮内
a report of 25 patients, Dermatol Surg 2006;
変化-動物実験-.日本美容外科学会会報
32: 601–610.
2006; 28(2): 39-41.
8)新橋武.赤外線による Photo tightening の治
5)吉田昌充.熱分析による天然高分子の熱変性
療経験.日本美容外科学会会報 2006; 28(2): 30-38.
温度の測定.北海道立工業試験場技術情報 ;
編集者注:本稿は日本美容医療テクノロジー学会第 1 回学術集会で行われたシンポジウム「光学・電
気機器によるタイトニング・リフティング」でのご発表内容をもとにご執筆された論文です。
20
RF による皮膚の形状修復 —シワ・タルミ治療—
Skin reshaping by RF—treatment of wrinkling and sagging
西村浩之,森下真知子,高谷 聡(株式会社ジェイメック)
Hiroyuki Nishimura, Ph.D., Machiko Morishita, Satoshi Takaya, JMEC Co., Ltd.
現在,RF エネルギーを使用して,シワやタ
一方,2003 年頃に発表された RF エネルギー
ルミといった皮膚の形状修復を目的とした治療
は光と異なり,電極の形状で決まる深度まで減
を行うための装置はいくつか挙げられる。代表
衰せずに到達する。この特性を利用して,真皮
的なモノポーラ型およびバイポーラ型の RF 治
層に炎症を起こさせるだけでなく,部分的にタ
療装置について,本学会から提示された共通質
ンパク変性を起こさせ,真皮の熱収縮とより強
問に沿ってそれぞれの装置の特徴を解説する。
力な創傷治癒反応を起こさせることで臨床効果
を向上させようと考えたのである。代表的なバ
1.製品紹介
イポーラ / モノポーラ型の RF 装置のシェーマ
モノポーラ型 RF 装置として,ThermaCool
を図 3 に示す。組織学的研究から RF によって
TC(Thermage, Inc., 米国カリフォルニア州),
5 mm の深度のコラーゲン変性と収縮が認めら
バイポーラ型として,IPL と RF を同時照射す
れ,そのタンパク変性領域は治療を繰り返すこ
る e-light, ダイオードレーザーと RF を同時照
とにより,
累積増加することが確認されている 3)。
射する e-laser,及び,その複合機である e-max
従って,RF を繰り返し照射した部位は図 4 の
(Syneron Medical, Inc., イスラエル)について
ように立体的に少しだけ収縮すると考えている。
述べる。各製品の概観および仕様を図 1 に示す。
3.適応と禁忌,施術後の経時的変化,施術前
2.作用機序に関する理論とエビデンス
後の注意点
Non-ablative なアプローチでコジワ等の皮膚
RF 治療器の適応は,タルミ・コジワ・skin
の形状修復を行うとする試みは,1999 年頃に
texture の改善,毛孔縮小,張り感の改善,ボ
1)
盛んに行われた 。この当時の作用機序は,表
リュームダウン等が挙げられる。禁忌は,微
皮を冷却して保護しながら,レーザーやパルス
弱な高周波電流が通電することを考慮すると,
ライト光を使用して真皮層に炎症を起こさせ,
ペースメーカー・埋め込み型除細動器を使用し
一連の創傷治癒反応によって,線維芽細胞を活
ている場合や金属のプレートの入っている場合
性化してコラーゲン産生を促すものであった。
等が挙げられる。また,レーザー治療と同様に,
しかしながら,光は図 2 のように皮膚深部に達
創傷治癒に問題のある疾患や精神的なストレス
すると指数関数的に減衰するため,これらの治
が影響を与える妊娠や心臓疾患も禁忌とされ
2)
療による効果は限定的なものであった 。
る。
施術後,経時的変化として,図 5 のように軽
連絡先:盛 良幸,株式会社ジェイメック
〒 113-0034 東京都文京区湯島 3-31-3
[email protected]
度な浮腫や紅斑が観察されることが多い。いず
れも一過性であり,数日で軽快する。
21
図 1 代表的な RF 装置の外観および仕様
図 2 照射エネルギーの減衰(概念図)
図 3 バ イ ポ ー ラ お よ び モ ノ ポ ー ラ 型 の RF 装 置 の
シェーマ
施 術 前 の 注 意 点 と し て, 確 実 な 洗 顔 と 金
属 性 の ア ク セ サ リ ー 等 を 外 す こ と, ま た,
ThermaCool TC は マ ー キ ン グ を 施 す こ と,
e-laser 等のバイポーラ RF はジェルを塗布する
ことが必要である。施術後は洗顔のほか,浮腫
や紅斑の程度によってはアイスパック等で冷却
すること,保湿剤を処方することが望ましい。
図 4 RF による組織収縮効果
22
図 5 RF 治療後における経時的変化(44 歳日本人女性)
:左から術前・術直後・術後 3 ヵ月
4.痛みに対する対策,冷却装置
痛みや熱感は出力設定限界点のメルクマール
とするため,基本的に麻酔は施行しない。痛
みを感じやすい患者,不安が強い患者には,
ElaMax 等の表面麻酔,経口鎮痛剤,追加冷却
などを行なう。施設によっては神経ブロックや
セデーションを組み合わせる場合もある。
紹介したすべての RF 装置には,図 6 のよう
に接触型の冷却装置が装備されている。
図 6 RF 装置の接触型冷却(接触部)
5.セッティング,治療プログラム
RF 装 置 の セ ッ テ ィ ン グ と し て は, 出 力
の 設 定 の み で あ る。 モ ノ ポ ー ラ RF で あ る
クに従って設定する。治療時にはどちらも,通
ThermaCool TC の場合は,図 7 のようにマー
常複数パスを行い,目視でわずかに変化が現れ
キングを行なった後,ガイドラインを参考に部
たところをエンドポイントとする。
位によって出力を変更し,患者が痛がらないレ
モノポーラ RF は通常 1 回,バイポーラ RF
ベルで最大の出力を選択する。バイポーラ RF
の場合は,月に 1 回,4 ~ 6 回を 1 クールとし
も基本は同じように患者の痛みのフィードバッ
ている。長期的には 1 クールを終了した後,3
図 7 ThermaCool TC 治療のマーキング
23
図 8 ThermaCool TC 治療例:(左)術前・(右)2 回施術 2 ヵ月後
写真提供:Bob Weiss, M.D.
~ 6 ヵ月おきにメンテナンス治療を行う。
痛みの度合いをモニターしながら,低出力から
治療を開始することが必要である。
6.効果の発現時期と持続期間
性能を引き出す施術中の工夫として,RF が
通常,治療直後から視覚的変化を実感する。
皮膚に適正に通電されるようにハンドピース先
これは主に一過性の浮腫によるものと考えられ
端をこまめに清掃することが重要である。
ている。もう一つはコラーゲン収縮による直後
9.他の治療法との併用に関する注意点
のタイトニング効果がある。持続期間は最低で
4)
も約 6 ヵ月までは継続すると報告されている 。
まず,ボトックス注射やヒアルロン酸等の注
入療法は,RF の熱によって変質する恐れがあ
7.副作用
るため,RF 治療の後に行うようにする。また,
考えられる副作用としては,1 ~ 2 度の熱傷
金の糸等によるスレッドリフトの施術後は,電
とその後の炎症性色素沈着や瘢痕形成が挙げら
流が均一に流れずに集中する可能性があるた
れる。また,RF 出力の設定が極端に高すぎた
め,RF を基本的に禁忌とすることが望ましい。
場合,皮下組織の萎縮も可能性としてありうる
パルスライトやフラクセルのように皮膚表面を
が,いずれにしてもこれらは手技や設定の問題
治療するレーザーと併用する場合,RF を先に
によるもので,治療技術の向上と共に副作用の
施行することが一般的である。
発生率は著しく減少する。
10.症例写真,まとめ
8.安全性と性能を高めるための工夫
図 8 ~ 11 に機種ごとの代表的な症例を示す。
RF 治療器の副作用の多くは,治療時に電極
これまで述べてきたように,従来のレーザー・
が浮くことで RF 電流が集中することによる熱
光治療に比べ,RF の利点は,皮膚の一定の深
エネルギーの局在によって起こる。従って,ジェ
度まで減衰せずに均一な熱エネルギーを送り込
ルを多く使用したり,電極が均一に接触するよ
むことができることである。これによりより強
うに注意して施術することで,発生を防止する
力な組織収縮と創傷治癒反応を生じさせ,皮膚
ことができる。また,何といっても過度に高出
の形状修復を no down time で行う可能性が開
力で治療してしまうことがないように,患者の
けたことは,non-ablative skin rejuvenation の
24
図 9 e-light(ST ハンドピース)治療例:(左)術前・(右)術直後
図 10 e-laser(DSL ハンドピース:旧コメット)治療例:(左)術前・(右)5 回施術後
図 11 e-max(SR ハンドピース+ WRA ハンドピース:旧ポラリス)治療例:(左)術前・(右)
4 回施術後
写真提供:Dr. Stephen Mulholland
分野におけるエポックメーキングであったと言
今後,新しい電極の開発や冷却装置の改良等に
える。しかしながら,RF 治療装置による形状
よって,治療効果が向上していくことを期待し
修復治療の効果は,まだまだ手術には及ばない。
ている。
25
参考文献
3) Zelickson BD, Kist BA, Bernstain E, et al.
1) David J. Goldberg. Non-ablative subsurface
Histological and ultrastructural evaluation
remodeling: Clinical and histologic evaluation
of the effects of a radiofrequency-based
of a 1320 nm Nd:YAG laser. J Curtan Laser
nonablative dermal remodeling. Arch
Ther 1999; 1: 152-157.
Dermatol 2004; 140: 204-209.
2) G r e m a H , G r e v e B , R u b i n C . F a c i a l
4) 櫛方暢晴,根岸圭,竹内かおり,手塚弓紀
rhytides—subsurfacing or resurfacing?
子,若松信吾.Radio frequency(RF)によ
A review. Lasers Surg Med 2003; 32(5):
る skin tightening 治療の経験.日本美容外
405-412.
科学会報 2004; 26(3): 50-57.
編集者注:本稿では日本美容医療テクノロジー学会第 1 回学術集会で行われたシンポジウム「光学・電
気機器によるタイトニング・リフティング」でのご発表内容をまとめていただきました。
26
GentleYAG によるスキンタイトニング・リフティング
Skin tightening and lifting with GentleYAG
米国キャンデラ株式会社
Candela Corporation, U.S.A.
1.製品紹介
持続が認められたと報告されている )。同様に
ロ ン グ パ ル ス ヤ グ レ ー ザ ー GentleYAG
GentleYAG とラジオ波治療器を比較した Key
(Candela. Corporation,. Wayland, 米 国 マ サ
チューセッツ州)は,波長 ,064. nm のパルス
Nd:YAG レ ー ザ ー で, パ ル ス 幅 を 0.5 ~ 300.
msec の範囲で任意に可変できる。本体設計は
コンパクトで,幅 45.cm ×奥行 7.cm のスペー
スに設置可能で,キャスターが付いており容易
に移動できる(図 )。
2.作用機序に関する理論とエビデンス
GentleYAG の 発 振 す る 波 長(,064. nm) の
光は,メラニンや酸化ヘモグロビン以外に皮
膚の水分にも吸収されやすい特性を有してい
る。また,スキンタイトニング・リフティング
図 1 GentleYAG 本体
ではレーザー光の皮膚深達性が臨床効果に影響
するため,GentleYAG は長波長,大口径のス
ポットサイズを採用している(図 ))。本体
に内蔵された Dynamic. Cooling. Device(以下
DCD)により表皮が保護され,安全な直接的ス
キンタイトニング効果,真皮リモデリング効果
が期待できる。臨床的なエビデンスとしては,
Taylor ら に よ る GentleYAG と ラ ジ オ 波 治 療
器とを比較した split-face. study が挙げられる。
GentleYAG とラジオ波治療器を片側ずつ 回
照射した後のシワ・タルミ改善度を評価した結
果では GentleYAG 側の方に効果が高く,また
治療効果は少なくとも ヵ月以上 6 ヵ月までの
連絡先:.岩下和彦,キャンデラ株式会社
.
〒 30-006 東京都墨田区両国 -9-5
.
[email protected]
図 2 各スポットサイズの皮膚深達性
7
の報告では,片側ずつ 回照射した後の全顔タ
照 射 出 力 0-4. J/cm に 設 定。 こ の 設 定 で は
ルミ改善度は 例中 0 例で GentleYAG 側の
DCD を必要としない。
治療プログラムは, ヵ月おきの治療を 4 ~
方が効果が高く,患者アンケートも同様の結果
5 回繰り返し,その後は患者の希望に応じて半
3)
を示した 。
年から 年ごとの治療とする。
3.適応と禁忌,施術後の経時的変化,施術前
6.効果の発現時期と持続期間
後の注意点
本器は顔のタルミ,コジワ,肌質改善を適応
効果は直後より反応が見られ,過去の学術報
とする。一般的な禁忌事項ではあるが,入れ墨・
告により最長で 6 ヵ月間の効果持続が確認され
アートメークがある場合の照射は避ける。
ている。経時的な効果減少のメカニズムについ
てはまだ十分な検証がなされていない。
レーザー照射直後には紅斑,腫脹が見られる
が,遷延反応は特に見られない。
7.副作用
レーザー施術前は照射出力の度合いの検討
予想される反応ではあるが,レーザー照射直
(額など骨に近い部位等)を行う。日焼け直後
でないか,これから日焼けする予定はないか,
後は紅斑,腫脹が見られる。また,レーザー照
光過敏症を起こす薬剤を使用中でないか,光過
射スポットの重なりが大きい場合は,部分的な
敏症でないか等に注意する。サンスクリーン,
水疱形成が生じることがある。皮膚の反応が強
化粧をよく落とす。眼球を保護し,眼窩への照
い場合は炎症による色素沈着の可能性もありう
射は避ける。レーザー施術後は照射部位に水疱
るが,一過性であり,スキンタイトニングでの
がないかどうか確認し,熱効果を損わないため
瘢痕形成の報告はない。
なるべくクーリングしないようにする。炎症反
8.安全性と性能を高めるための工夫
応が強い部位のみクーリングを行うが,特に必
器械的性能を上げ,安全性を高めるための構
要がない限り,外用剤は塗布しない。
造上の工夫は,サブパルス集合型のパルス波形
であること(図 3),DCD を採用し,表皮を確
4.痛みに対する対策,冷却装置
実に冷却できることである。
一般的な疼痛対策として表面麻酔(リドカイ
また,使いやすさをよくするための工夫とし
ン等)による ODT を 時間程度行なう。
ては,照射スピードが速いこと(最高 0. Hz),
冷却装置は本体内蔵の DCD を併用し,マイ
ナス 6℃の寒剤をレーザー照射前に噴霧し,皮
膚表面(~ 0..mm)のみを保護している。
5.セッティング,治療プログラム
レーザーのセッティングはレーザー照射パ
ス数により異なる。 ~ 3 パス照射する場合,
0 または . mm スポットを使用,パルス幅
50msec, 照 射 出 力 40-50. J/cm に 設 定。DCD
は 40. msec。一方,3 ~ 8 パスの場合,0 また
は . mm スポットを使用,パルス幅 50. msec,
図 3 長パルス設定時のパルス波形
8
図 4 症例 1:(左)術前,(右)術後
図 5 症例 2(64 歳女性):
(左)術前,(右)1 回施術 6 ヵ月後
図 6 症例 3(62 歳女性):
(左)術前,(右)2 回施術 1 ヵ月後
図 7 症例 4:(左)術前,(右)1 回施術 1 ヵ月後
スポットサイズが大きく,直径 .5 ~ 8. mm
こを避けて照射し,また,併用治療の希望があ
のあいだで選択できること,ジェルが不要であ
る場合は,レーザー治療後に行うことが望まし
ること,ディスタンスゲージの交換が可能で,
い。
衛生的であることが挙げられる。
10.症例写真,まとめ
9.他の治療法との併用に関する注意点
図 4 ~ 7 は治療例である。
フィラーの併用に関してはレーザーとの副作
GentleYAG の利点としては
用例の報告はないが,フィラー自体の持続期間
①.タイトニング・リフティング以外の使い方
に影響が出る可能性がある。スレッドリフトに
が多い
関しては糸が染色されている場合があるため,
..•.医療レーザー脱毛(最大 8. mm スポット
レーザーの照射は避ける。同様に,インプラン
で照射可能,dark. skin や tanned. skin に
トについてもリスクを考え,なるべく照射は避
も可)
..•.毛細血管拡張症の治療 4)(.5. mm/3. mm
ける。事前に治療部位がわかっている場合,そ
9
スポットで照射,顔面・下肢の毛細血管
参考文献
が適応)
1) Ross EV, Domankevitz Y. Laser treatment
•中空照射によるリフティング効果(無麻
of leg veins: Physical mechanisms and
酔,ダウンタイムがない,直後から改善
theoretical considerations. Lasers Surg Med
が見られるが可逆的)
2005; 36: 105-116.
②治療時間が短くて済む(コンタクト照射で 2 2) T a y l o r M B , P r o k o p e n k o I . S p l i t - f a c e
Hz,ディフォーカス照射で 10 Hz のスピー
comparison of radiofrequency versus long-
ド)
pulse Nd-YAG treatment of facial laxity. J
③ランニングコストがほとんどかからない
Cosmet Laser Ther 2006; 8: 17-22.
が挙げられる。
3) K e y D J . L o n g p u l s e d N d : Y A G l a s e r
GentleYAG に るスキンタイトニング・リフ
enhances skin lifting and tightening over
ティングの問題点としては,レーザー照射時の
Thermage RF treatment. Lasers Surg Med
疼痛コントロールと,男性の髭や毛の生え際で
2006; supp. 18: 94.
は脱毛されてしまうことが挙げられる。
4) Bevin AA, Parlette EC, Domankevitz Y,
Ross EV. Variable-pulsed Nd:YAG laser
in the treatment of facial telangiectasias.
Dermatol Surg 2006; 32: 7-12.
編集者注:本稿では日本美容医療テクノロジー学会第 1 回学術集会で行われたシンポジウム「光学・
電気機器によるタイトニング・リフティング」でのご発表内容をまとめていただきました。
30
Soft tissue augmentation における注入剤の変遷
Transition of filling materials in soft tissue augmentation
ルネ・デュ・クロー(東京スキンクリニック)
René du Cloo, M.D., Tokyo Skin Clinic
Abstract
Soft tissue augmentation is a cosmetic procedure with a fairly long history, starting with the injection
of paraffin at the end of the 19th century. In this article the history of soft tissue augmentation will
be reviewed so that we can learn from the mistakes of the past and can gain a better understanding
of the events that led to the development of the currently available products. The author will then
present an overview of these products after classifying them into three categories, namely, absorbable,
non-absorbable and autologous fillers. Some advice will be given as to the criteria to be applied for
introducing a new product into cosmetic practice.
キーワード : collagen, hyaluronic acid, filler injection, non-absorbable fillers, autologous fillers
過去の教訓
発された液体シリコンを電気変圧器の絶縁に
医療における補充剤の注入歴は既に長い。よ
使った。戦後米軍の需品係が横浜港の倉庫から
く知られている最初の注入物はパラフィンであ
大量の絶縁液がなくなっていることに気が付い
る。1899 年にチェコの外科医 Gersuny が癌の
た。この液は米国兵士の客を増やす目的で売春
治療で睾丸を摘出後,陰嚢にパラフィンを注入
婦の胸を大きくするのに注入された。米軍の一
した。それから数年以内に顔の注射も多く行わ
等軍曹が金銭と引き換えに現地女性の胸に注射
れるようになった。しかし,パラフィンは激し
したとの目撃者からの報告もある 2)。
い異物反応を起こしやすいため,早くから合
シリコン液注射はパラフィンなどの注入液と
併症が出現した。既に 1906 年に合併症が報告
比べて危険が少ないとされたため,他のアジア
されているにもかかわらず,パラフィン注射
諸国にすぐに広がった。1950 年代にアジアか
は 1960 年代まで特にアジアで頻繁に行われた。
らシリコン注射を受けた患者が渡米すると,米
最近でも東欧や韓国で未だに行われているとの
国でも行われるようになった。主に娯楽産業で
報告がある 1)。
働いていた女性のために「クレオパトラの針」
シリコン注射の初期の歴史についてはあまり
と呼ばれるシリコン注射による豊胸術が盛んに
知られていない。第二次大戦中米軍が新しく開
行われた。医者でない注入専門家によって行わ
れたことがほとんどで,当時の医学文献は無い。
連絡先:ルネ・デュ・クロー,東京スキンクリニック
〒 106-0032 東京都港区六本木 3-1-24-2F
[email protected]
1961 年に初めて日本の内田がシリコン注射に
ついて形成学会誌で報告した 3)。
31
しかし,シリコンも異物反応を起こす性質が
あるので,胸にしこりができたり,胸全体が硬
く痛くなったりするような副作用が頻繁にみら
れた。その上,注射したシリコンは隣接部位に
移動する傾向がある。局所的に炎症反応を起こ
す物質をシリコン液に添加し,カプセル形成を
促進することによってこの移動の予防を試みた
注入者も多くいた。特にベバリーヒルズに引っ
越した日本の医師桜井がオリーブオイル配合
の注入液を考案すると,これが大人気を呼び,
1964 年まで数十万人の女性に注入された。現
在ではこうした不純物の混入により合併症が深
刻化したことが知られている。1964 年 Cronin
図 1 シリコン注入の合併症
によるシリコンプロテーゼの発表と共に,胸の
シリコン注入の時代は終わりとなった。
シリコン注射による皮膚のへこみやシワの
治療のパイオニアの一人はニューヨークの
Orentreich である。皮膚のシリコン注射は注入
部位に見られる硬結,紅斑などの合併症がよく
知られているので,ほとんど使われなくなって
きた(図 1)。しかし,Orentreich らは独自の
micro-droplet technique が安全であることを訴
え,今でもシリコン注射を行っている 4)。
図 2 2005 年米国注入剤使用件数(ASAPS のデータ
をもとに作成)
新しい時代:安全な注入剤の登場
1976 年 に 米 国 の Knapp が 抗 原 性 の 低 い コ
ラーゲンの精製に成功し,シワなどの治療に皮
ラストが BSE 問題の影響を受けて,その使用
内注入することが可能となった。1981 年米国コ
が大幅に減少した。
2005 年米国内でのコラーゲン注入は 22 万件,
ラーゲン社の Zyderm に FDA 認可が下り,初
めて安全が確認された注入剤が登場した 。そ
その内 3 割が牛皮由来コラーゲンで,残りの 7
の後 Zyderm II および深いシワに使う Zyplast
割は新しいヒトコラーゲンであったことが報告
も発売された。コラーゲンは大流行した商品で,
されている(図 2)。
5)
スエーデン Q-Med 社の設立者 Bengt Ågerup
1998 年だけで 90 万件位の治療が行われたとの
は,非動物由来安定化ヒアルロン酸(NASHA)
報告がある。
しかし,1995 年頃新しい注入剤ヒアルロン
の 開 発 に 成 功 し た。 こ の 製 品 は 1996 年 よ り
酸が美容医療市場に登場した。スキンテストが
Restylane として販売されてきた。今でも最も
不要で,治療がすぐにできるという大きな利点
使われているヒアルロン酸の一つで,発売以降
がある。その後牛皮由来のザイダーム・ザイプ
全世界で 400 万件以上の治療が行われた。コ
32
吸収性注入剤
コラーゲン(ウシ,ブタ,ヒト由来)
ヒアルロン酸(粒子含有タイプ,ゲルタイプ)
その他
非吸収性注入剤
粒子含有タイプ
ゲルタイプ
自家組織注入剤
自家脂肪組織
自家コラーゲン
PRP
表 1 注入剤の分類
ラーゲンとボトックスに続き,2003 年に 3 番
輸入によってそのほとんどが日本でも簡単に
目のシワ治療薬として Restylane が FDA に認
手に入るようになった。わかりやすいように,
可された。
注入剤をまず 3 つの大きなグループに分ける
(表 1)。
2000 年 に 同 じ く 非 動 物 由 来 の フ ラ ン ス 製
Juvéderm が登場した。単相性のゲルであるた
め異物反応による肉芽種型炎症のリスクが軽減
1.吸収性注入剤
代表的な吸収性注入剤はヒアルロン酸および
された。2006 年 Juvéderm も FDA に認可された。
コラーゲン製剤で,効果の持続期間は数週間か
現在:注入剤の豊富な時代
ら 1 年以上のものまでいろいろある。
今まで主な注入剤の歴史的背景について述べ
注入用ヒアルロン酸は実に製品の数が多
たが,注入剤のニーズが増えると共に,特に最
い( 図 3)。 現 在, 鶏 の と さ か か ら 作 ら れ る
近の数年間多数の新製品が登場した。代行個人
Hylaform を除き,ほとんどの製品が微生物発
図 3 ヒアルロン酸の豊富な種類
33
商品名
有効物質
Sculptra
ポリL-乳酸
(旧名 New-Fill)
Radiesse
合成カルシウム・ヒドロキシアパタイ
ト・マイクロスフェア・ゲル懸濁液
Bioinblue
ポリビニルアルコール
特徴
効果持続時間 *
皮内コラーゲン.
産生の促進
動物・ヒト由来の
物質を含まない
非動物性・非生物
工学的生産方法
3 年間以上持続
することがある
18 〜24 ヵ月
12〜18 ヵ月
* 主にメーカー提供のデータに基づく
表 2 その他の吸収性注入剤
酵によって産生されている。
を使用することによって経済的の負担が減るだ
ヒ ア ル ロ ン 酸 注 入 剤 も ま た Restylane の
けではなく,からだに対する負担(痛み,炎症
ようにヒアルロン酸粒子が含まれる製品と
など)または社会的な負担(治療後のダウンタ
Juvéderm のような単相性の製品と 2 つのタイ
イム)が少なくなる。それにもかかわらず,非
プに分けることができる。理論的に粒子を含ま
吸収性注入剤はあまり好まれていないようであ
ないものは異物反応を起こしにくい。最近発売
る。理由はいくつか考えられる。注入物が永久
されたスイス製の Teosyal・Esthelis は蛋白残
に残っても効果は永久に続かないことがある。
留物およびエンドトキシンの含有量を減らした
注入部位からの拡散または移動がありうる。ま
5)
製品である 。
た,短期的な結果が良くても,時間の経過と共
牛由来コラーゲンに対してアレルギー反応を
に皮膚が自然に変化することにより改善が失わ
示す人は人口の 3%に達するとの報告があり,
れていくこともある。最後に,注入後副作用が
注入前にスキンテストを行う必要がある。その
出現した場合永久に消失しない可能性がある。
ため実際の治療まで 4 週間以上待たなければ
シリコン注射後の問題を考えると,非吸収性注
ならない。新しく開発されたヒトコラーゲン
入剤の使用には慎重にならざるをえず,限られ
6)
(Cosmoderm, Cosmoplast) およびブタコラー
た症例にしか使うべきでないと思われる。参考
7)
ゲン(Evolence, Evolence Breeze) はアレル
までに現在主に使われている非吸収性注入剤を
ギーの発生率が低く,スキンテストが不要とさ
表 3 にまとめた。
れている。さらにウシコラーゲンより効果の持
続期間が大分長くなった。
3.自家組織注入剤
現在日本であまり普及していないその他の吸
自家組織注入剤は患者自身の組織を採取して
収性注入剤については,代表的製品を表 2 にま
作成し,代表的なものは脂肪,自家コラーゲン,
とめた。
最近話題になった PRP(platelet-rich plasma)
である。利点はアレルギーの危険が皆無に近い
ことである。
2.非吸収性注入剤
非吸収性注入剤は人体に分解されない注入剤
脂肪注入では脂肪吸引で採取した患者の脂肪
で,効果は長く続き,ものによって「永久的」
を別の場所に注入する。移植した脂肪の大部分
である。ほとんどの患者が長持ちする注入剤を
が生着するので,効果も半永久的である。顔面
望んでいると言えるであろう。長く残る注入剤
にはもちろん,乳房などに注入することも可能
34
商品名
粒子含有タイプ
Artecoll
Dermalive, Dermadeep
Matridur
ゲルタイプ
Bio-Alcamid
Aquamid
有効物質
特徴
牛皮由来コラーゲンに
PMMA粒子を混合
NASHA60%,アクリル系ハ
イドロゲル粒子40%
架橋性ヒアルロン酸に非吸収
性のデキストラン粒子を混合
アルキルイミド・ポリマーの
ゲル
架橋ポリアクリアミド・ゲル
2〜 3% を含有,残りは水分
治療例は全世界で 20 万件以上
ヒアルロン酸使用により皮内テスト
が不要
同上
注入剤は生体内で薄いコラーゲンの
被膜に覆われる(endoprothesis)
大量の水分を結合する分子を使用
表 3 非吸収性注入剤
である。脂肪組織を壊さないよう 18G 以上の太
い針でしか注入できないのが不利な点である。
脂肪は皮下に注入するので深い溝,特に鼻唇溝,
その他の顔面の深めの陥凹部に適している 8)。
自家コラーゲンの注入では,遠心分離によっ
て患者の脂肪細胞を壊し,水分と油の部分を
捨てた後の残りを注入剤として用いる(図 4)。
その名称に相反して,この注入剤にはほとんど
コラーゲンが含まれていないことが著者の調べ
でわかった 9)。脂肪と比べて細い針も使用でき
るので,皮内注入も可能である。効果の持続は
手技,注入部位・深さ,患者によって異なるが,
市販されているコラーゲンと同等またはそれ以
上と言われる。しかし,注入剤の作成に時間と
図 4 脂肪吸引にて採取した脂肪組
織を遠心分離した後のもの。一
番上の部分が油,下の部分が水
分で,真ん中の部分のみ自家コ
ラーゲンとして注入する。
手間がかかるので,最近ほとんど使用されなく
なった。
PRP 療法では患者から採った血液を遠心分
離し,血小板の濃度を高くする。得られた注入
剤には成長因子も多量に含まれる。そのため効
果が長く続くと言われている。この治療法はま
アルロン酸はアレルギーを起こさないと言われ
だ実験段階にあり,特に長期フォローアップの
る。確かに治療件数の割に極めて少なく,初登
データがない。
場から現在までの 10 年余で全世界で 17 例が報
告されている 10)。全例で抗ヒアルロン酸抗体が
注入剤の選択について
認められた。コラーゲンに対するアレルギーに
最近広く使われている吸収性注入剤は,使い
ついては前述の通りである。
方が適切であれば,副作用が大変少ない。ヒ
アレルギーなどの危険が無いとされている自
35
家組織注入剤も全く危険がないとは言えない。
of breast, cheeks, atrophy of infantile
例えば,まれではあるが,脂肪注入後に嚢胞形
paralysis, funnel-shaped chest. Jap J Plast
成がみられることがある。
Reconstr Surg 1961; 4: 303.
それでは,新しい注入剤を導入する際どの
4) h t t p : / / w w w . o r e n t r e i c h . c o m /
ように選択すべきであろうか。著者は SCARE
という略語を参照することにしている—Safety
silicone_injections.htm
5) M i c h e e l s P . E s t h é l i s , s e s n o u v e l l e s
(患者のための安全性),Constant supply(使
indications. J Méd Esth et Chir Derm 2006;
われる注入剤の供給が安定しているかどうか),
33(132): 175-183.
Affordability(患者にとって治療費が適当であ
6) アラルガン株式会社.ヒトコラーゲン注入
り,医者も充分な収入が得られる),Reliability
剤 製 品 情 報.J Jap Soc Aesth Med Tech
(メーカーの信頼性),Efficacy(注入剤の効果)。
2007; 2.
理想的な注入剤が存在しない限り,上記を判断
7) 小菅正和.コラーゲンの糖架橋を実現した
基準として各クリニックに適した注入剤を選ぶ
グライマトリックス技術.J Jap Soc Aesth
ことができると思う。
Med Tech 2006; 1: 11-15.
8) ルネ・デュ・クロー.美容皮膚科における
参考文献
liposurgery の 応 用.Aesth Derm 1997; 7:
1) Santos P, Chaveiro A, Nunes G, et al.
113-118.
Penile paraffinoma. J Eur Acad Derm
9) ルネ・デュ・クロー,岡部夕里,勝間田宏,
Venereol 2003; 17 (5): 583–584.
et al. 自家コラーゲン注入物に含まれるコ
2) Webb MS. (1997). Cleopatra’s needle. The
ラーゲン量の測定.日美外会誌.1992; 29:
65-68.
history and legacy of silicone injections.
Legal Education Document Archive at
10) Micheels P, Terrani C, Martin Cl. L’acide
Harvard Law School. http://leda.law.
hyaluronique injectable en esthétique: dix
ans déjà! Etude comparative. J Méd Esth
harvard.edu/leda/data/197/mwebb.html.
et Chir Derm 2005; 32(127): 175-183.
3) Uchida J. Clinical applications of crosslinked dimethylpolysiloxane; restoration
36
エボレンスとエボレンス・ブリーズ—新世代真皮フィラー
Evolence & Evolence Breeze—New generation of dermal fillers
小菅正和(ガデリウス株式会社)
Masakazu Kosuga, Gadelius K.K.
エボレンスとは?
安全性について
2005 年 に 10 月 に 日 本 に 上 市 し た 皮 内 注 入
エボレンスは,触感や見た目などコラーゲン
剤 エ ボ レ ン ス Evolence(Colbar LifeScience,
の特徴を持ちながら,アレルギーテストが不要
Ltd.,イスラエル)は,ウシ由来コラーゲン・
な注入剤である。これは,エボレンスがブタ由
ヒト由来コラーゲン・ヒアルロン酸に続く「第
来であるためもともと親和性が高いということ
三のフィラー」と認識されている。エボレンス
に加えて,抗原性であるテロペプチドの除去を
は,3.5% の Type 1 ブタコラーゲンフィブリル
行っていることと,架橋剤に天然の糖を使用し
で,硬さの違う 2 種類がある(2006 年 12 月現在)。
ていることが理由であると考えられる。
CE マークは取得済みで,数万症例の実績を
販売開始前のテストでは,760 人中アレルギー
持ち,FDA 取得は 2007 年 9 月を見込んでいる。
反応はゼロであった。また,2006 年 12 月現在,
アレルギー反応および過敏反応の報告は無い。
エボレンスの特徴は以下の通りである(表 1)。
表 2 にエボレンス注入後の反応をヒアルロン
• 効果の持続が 12 ヵ月以上。
酸との比較において示す。
• アレルギーテスト不要。
• 糖(D-リボース)による架橋。
使用上の注意点
• 室温で保存可能(15℃~ 30℃)。
糖で架橋をしているだめ,架橋の度合いを強
① 麻酔
くできることが効果の持続に大変大きな影響を
エボレンスは麻酔を含んでいない。通常は注
与えており,また,架橋剤によるアレルギー反
入前の麻酔を必要としないが,ペンレスなどの
応が起きる確率は低いといえる。
表皮麻酔,またはデンタルブロックなどの局所
糖による架橋は,「グライマトリックス ™ 技
麻酔の使用が必要な場合もある。
術」と呼ばれるコルバー社の特許技術であり,
② 過矯正
エボレンスを他の注入剤から差別化する源泉と
注入後に水を含んで腫れるヒアルロン酸と
なっている。なお,グライマトリックス ™ 技
違って,エボレンスは注入時の持ち上げがそ
術 Glymatrix™ technology については,本学会
のまま維持される。よって過矯正は禁忌であ
誌第 1 号に掲載された論文「コラーゲンの糖に
る。エボレンスは,コラーゲンといえども持
よる架橋を実現したグライマトリックス ™ 技
ち上げる力が強く(特にクラシック),tissue
術」(p.11—15)に詳述されているので,参照
augmentation や陥没の矯正にも適する。
されたい。
③ マッサージ
連絡先:小菅正和,ガデリウス株式会社
〒 130-0021 東京都墨田区緑 1-19-9
[email protected]
る必要がある。
注入直後にマッサージをし,その形状を整え
37
アレルギー
製品の特徴
持続期間
テスト
Evolence
Classic.
ブタコラーゲン.
(かため)
.
エボレンス・
クラシック
Glymatrix.
による架橋
Evolence
Breeze.
ブタコラーゲン.
(やわらかめ)
.
エボレンス・
ブリーズ
Glymatrix.
による架橋
不要
不要
推奨.
保存適応.
使用針
温度
少なくとも
15℃~
27G
12 ヵ月
少なくとも
30℃
15℃~
30G
12 ヵ月
30℃
濃度
適応部位
3.5%
鼻唇溝など
3.5%
目じりなど
注入の.
深さ
真皮中層・.
深層部
真皮中層・.
深層部
表 1 エボレンスおよびエボレンス・ブリーズの製品特性一覧
n = 69
30 分後
エボレンス
スキンテスト
ヒアルロン酸
60 分後
エボレンス
反応なし
6 時間後
ヒアルロン酸
反応なし
紅斑
顕著
24(35%)
26(38%)
2(3%)
3(4%)
軽微
23(33%)
20(29%)
5(7%)
5(7%)
なし
22(31%)
23(33%)
62(90%)
61(89%)
顕著
4(6%)
4(6%)
0(0%)
0(0%)
軽微
16(22%)
17(24%)
6(8%)
6(8%)
なし
49(72%)
50(73%)
63(92%)
63(92%)
浮腫
潰瘍化
紅斑・浮腫.
共になし
なし
表 2 エボレンスとヒアルロン酸の注入後の反応
注入効果について
④ その他
• クラシックとブリーズをレイヤー状に使用
図 1 にエボレンス,他の架橋コラーゲン,非
することが可能。
架橋コラーゲンを注入後の病理像の経時的変化
• 針が詰まることがあるので,その際は即座に
を,図 2 にエボレンスとヒアルロン酸注入後の
針を交換する必要がある。
病理像の違いを示す。エボレンスは真皮組織と
一体化し,長く存続することがわかる。
• 保存時は遮光。
• シリンジは使い切り。
まとめ
• IPL 併用は不可。
エボレンスは,12 ヵ月以上効果が持続する
注入剤で,仕上がりは柔らかく親和性が高い。
38
図 1 エボレンス,他の架橋コラーゲン,非架橋コラーゲン注入後の経時的変化:上から 1 ヵ月後,6 ヵ
月後,12 ヵ月後,24 ヵ月後
図 2 エボレンスとヒアルロン酸注入 1 ヵ月後の病理像
39
また,アレルギーテストが不要で,糖で架橋し
いエボレンス・ブリーズがあり,使い分け可能
ているため安全性が高い。持ち上げる力が強い
である。今後,注入療法における主要な材料と
エボレンス・クラシックと,使いやすく柔らか
なっていくことが期待されている。
編集者注:本稿では日本美容医療テクノロジー学会第 1 回学術集会で行われたシンポジウム「注入剤
の選び方」でのご発表内容をまとめていただきました。
40
ヒトコラーゲン注入剤製品情報
Information on human-based collagen implants
アラガン株式会社
Allergan, Inc.
の持続が期待される。それらの製品特性を表 1
コラーゲンは皮膚,血管,角膜,腱等の軟組
織,また骨,歯等の硬組織に含まれる結合組織
に示す。
の主要タンパク質である。体内ではほとんど線
2.アレルギーについて
維の状態で存在し,体の型を一定に保つ役割は
大きく,その特性を生かして生体材料として広
患者 407 例を対象としたコスモダーム,コス
く利用されている。
モプラストの皮内反応検査の臨床試験の結果,
1976 年米国スタンフォード大学でコラーゲ
1 例で注入 1 週間後に注入部位に発赤,疼痛,
ンを皮下,皮内に注入することによりヒトの軟
硬結および腫脹が発現し,10 日後に消失した。
組織陥凹および変形の修復に成功した。米国コ
この発現例では血清中のヒトコラーゲン抗体は
ラーゲン社(現アラガン社)は,スタンフォー
陰性であった。ウシコラーゲンにおける皮内反
ド大学との共同研究により牛皮由来コラーゲン
応陽性率(3.0%)とアレルギー反応発現率(1.3
注入剤(ザイダーム,ザイプラスト)を開発した。
–1.5%)の文献値に比し,コスモダーム,コス
しかしながら,ザイダーム,ザイプラストは
モプラストの発現率は 0.2%と低値を示したこ
アミノ酸組成がヒトと近似した牛皮由来の異種
とから皮内反応検査は不要とされた。しかしな
タンパクであり,皮内反応検査陽性患者には使
がら,表 2 に示すように,市販後の 2003 年 3
用できないこと,また,BSE の問題からヒト由
月から 2004 年 10 月の間にアラガン社で集積し
来コラーゲン注入剤の開発が望まれた。
たコスモダーム,コスモプラスの有害事象のう
以下に,ヒトコラーゲンについて使用上の注
意を中心に製品の適正使用情報を提供する。
1.製品特性について
コスモダーム,コスモプラスト(図 1)は,
ヒトの皮膚の線維芽細胞を培養し,その線維芽
細胞が産生するコラーゲンを主成分とする皮内
注入剤で,コスモプラストは架橋結合によりコ
ラーゲン線維の安定化を図ったものでより効果
連絡先:窪田博明,コラーゲン株式会社
〒 105-0001 東京都港区虎ノ門 5-1-5
虎ノ門 45MT ビル
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図 1 CosmoDerm, CosmoPlast
41
製品名
コラーゲン濃度
pH
架橋剤
遊離アルデヒド濃度
リドカイン濃度
色調・形状
III 型コラーゲン量
IV 型コラーゲン量注 1
不透明度注 2
ウシ血清アルブミン
使用注射針
CosmoDerm1
3.5%
-
-
30G/32G
CosmoDerm2
CosmoPlast
6.5%
3.5%
7.0 ~ 7.4%
-
グルタルアルデヒド
-
7ppm 未満
3.0%
乳白色・粘性・ゲル状
≦ 20%(実測値 10%未満)
検出されない
OD ≧ 1.0
検出されない
30G/32G
30G
注 1:IV 型コラーゲンは後天性自己免疫疾患であるグッドパスチャー症候群と強い関連があるため,IV 型コラーゲンが注入剤中
に存在しないことを確認する。
注 2:透明度はコラーゲン線維の直径と関係があるので,不透明度を調べることにより,線維の直径を間接的に確認する。
表 1 CosmoDerm, CosmoPlast の製品特性一覧
ちアレルギー反応の発現率は 0.047%であった。
に吸収され組織中で減量すること。
したがって,コスモダーム,コスモプラストは
②2 週間以上にわたり徐々にコラーゲンが吸
皮内反応検査が不要ではあるが,アレルギー反
収分解されるため,期待する修復効果を得
応が全く発現しないことを示すものではない。
るためには,2 週間以上の間隔で通常数回
コスモダーム,コスモプラストはコラーゲン
の注入を行うこと。
分子のなかで抗原性の高いテロペプチドは完全
③注射部位に一過性の発赤,内出血,圧痛等
に除去し,また異種タンパク質の混入を認めて
が現れることがあるが数日で消失すること。
いない。さらに,近年問題となっている注射シ
表 3 に示すように,コスモダームでは過矯正,
リンジの吸子先端のゴムによるラテックスアレ
コスモプラストでは施術後のマッサージを行う
ルギー対策としてラテックスフリー化を図って
ことを勧める。
いる。また,添付文書においてコラーゲンやア
長期的な経過としては,体内のコラーゲンの
ニリド系局所麻酔剤に対する過敏症既往の患者
代謝酵素であるコラゲナーゼによって減量し,
への使用は禁忌とし,自己免疫疾患患者や結合
効果が減少していくことから,修復効果を保持
組織病患者でのコラーゲンに対する細胞免疫・
するため 6 ~ 18 ヵ月間隔で再注入を行うこと
体液性免疫の増強の可能性が高いことから警告
を推奨する。なお,表 4 に示すようにサプリメ
として記載しており,これらの患者に対して十
ントにはコラゲナーゼの活性を高めたり産生を
分な注意が必要である。
促進したりする成分が含まれているので,長期
的な効果を期待する場合には,注入後のサプリ
3.使用上の注意
メントの使用に注意する必要がある。また,コ
コスモダーム,コスモプラストの注入直後の
ラゲナーゼの活性を抑制したり,産生を抑制す
反応として,以下の通り添付文書に使用上の注
るサプリメントの使用も有用と思われる。
意として記載してある。
また,注射部位で硬結や色素沈着等が見られ
ることがあることから注入時には可能な限り細
①注入剤の生理食塩水が 24 時間以内に速やか
42
有害事象
紅斑
修復不足
注入部位の浮腫
アレルギー反応
掻痒
修復の消失
過修正
硬結
数珠玉状
注入部位疼痛
単純疱疹
過敏反応
不満足な結果
注入部位膿瘍
水泡
発疹
斑状出血
注入部位肉芽腫
注入部位炎症
注入剤に関連のない紅斑
皮膚結節
挫傷
注入部位腫瘤
注入部位壊死
皮膚変色
血管障害
関節痛
注入剤に関連のない浮腫
関節腫脹
毛細管拡張症
蕁麻疹
にきび
注入剤に関連のない不均整
皮膚炎
インフルエンザ・インフルエンザ様症状
注入部位感染
他の合併症(衰弱)
触知・可視
リウマチ性多筋痛
皮膚過敏
皮膚剥脱
嘔吐
膨疹
事象合計
事象数
124
56
45
39
35
22
19
17
16
13
11
11
9
7
6
6
5
5
5
4
4
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
497
シリンジ数に対する割合
0.0601%
0.0271%
0.0218%
0.0189%
0.0170%
0.0107%
0.0092%
0.0082%
0.0078%
0.0063%
0.0053%
0.0053%
0.0044%
0.0034%
0.0029%
0.0029%
0.0024%
0.0024%
0.0024%
0.0019%
0.0019%
0.0015%
0.0015%
0.0015%
0.0015%
0.0015%
0.0010%
0.0010%
0.0010%
0.0010%
0.0010%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.0005%
0.2408%
表2 CosmoDerm, CosmoPlast による有害事象発現頻度(市販後)
43
推定患者数に対する割合
0.1497%
0.0676%
0.0543%
0.0471%
0.0423%
0.0266%
0.0229%
0.0205%
0.0193%
0.0157%
0.0133%
0.0133%
0.0109%
0.0085%
0.0072%
0.0072%
0.0060%
0.0060%
0.0060%
0.0048%
0.0048%
0.0036%
0.0036%
0.0036%
0.0036%
0.0036%
0.0024%
0.0024%
0.0024%
0.0024%
0.0024%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.0012%
0.6000%
製品名
麻酔
過矯正
投与部位
注入後のマッサージ
施術後の注意
(24 時間以内)
CosmoDerm1
CosmoDerm2
CosmoPlast
不要(リドカイン入り)
要
要
不要
真皮表層部
真皮表層部
真皮深層部
不要
不要
要
・施術後数時間化粧をしない ・激しい運動をしない
・直射日光や飲酒を避ける
表3 使用上の注意一覧
コラゲナーゼに対する作用
サプリメント等
コラゲナーゼ活性・産生促進作用 プラセンタエキス,ブタ膵臓酵素エキス,圧迫療法
(コラーゲン産生抑制作用を含む)
コラゲナーゼ活性・産生抑制作用 CoQ10,月桃葉エキス,スターフルーツ,ソウハクエキス,パフィア,
(コラーゲン産生促進作用を含む) ピクノジェノール,ブドウ種子エキス,ライチ種子エキス,アスコルビン酸
表4 各種サプリメントのコラゲナーゼに対する作用
本注入剤の使用にあたっては,これらの使用
い注射針や肉厚が極薄の注射針の使用を推奨す
上の注意に十分な配慮を図ることが必要であ
る。
る。
その他の使用上の注意として,以下の点が挙
げられる。
4.他の注入剤・治療法との併用に関する注意点
①注射部位において白い数珠玉状になる可能
本注入剤の特性から他の注入剤との併用に関
性があるため下眼瞼への使用は避けること。
②目尻,口唇部等は,皮膚が薄く緊張が弱い
する注意は,前述したようにコラゲナーゼ活性
ため過修正の状態が長く続くので,注入に
調節やコラーゲン代謝に影響を及ぼす物質の混
際しては過修正にならないように注意する
入に配慮することが必要である。他の治療法と
こと。
の併用は,注射部位の炎症等が治まるまで数日
③0.1%未満の確率で壊死が発現するため眉間
~ 1 週間程度あけることが感染防御や炎症症状
部への注入は真皮の浅いところに限定する
の発現を防ぐのに望まれる。また,コラーゲン
こと。
は 50℃以上でゼラチン化を起こすため皮内温
度の上昇を伴う超音波治療器等の治療機器の使
④ice pick 型のニキビ痕,水痘後瘢痕のように,
硬化し,辺縁部がシャープな瘢痕では,伸展
用は避けるか出力を下げて使用することが必要
することが難しく,修復は困難であること。
である。
編集者注:本稿では日本美容医療テクノロジー学会第 1 回学術集会で行われたシンポジウム「注入剤
の選び方」でのご発表内容をまとめていただきました。
44
ヒアルロン酸注入剤製品情報
Information on hyaluronic acid implants
アラガン株式会社
Allergan, Inc.
間以上の間隔でさらに 1〜2 回の注入を行
ヒアルロン酸はすべての脊椎動物やある種の
連鎖球菌の莢膜に存在し,細胞外マトリックス
うこと。
の必須成分の一つで,ヒトの場合皮膚に最も多
表 4 に示すように過矯正は行わず,施術後の
く含まれる。1950 年代後半に眼科手術時にお
マッサージを勧める。特に患部が白色を呈した
ける硝子体の補充および置換療法に用いられ,
場合は,正常な色になるまでマッサージをする。
当初はヒトのさい帯から,その後鶏冠から単離
また,過矯正になった場合には,注入部位を指
し高度精製したヒアルロン酸が生体材料として
の間に挟むようにしたり,皮膚直下の骨に向
広く利用されている。近年,連鎖球菌から抽出
かって押すようにマッサージする。
精製したヒアルロン酸が用いられるようになっ
長期的な経過としては,体内のヒアルロン酸
た。
の代謝酵素であるヒアルロニダーゼによって減
以下にヒアルロン酸について使用上の注意を
量し,効果が減少していくことから,修復効果
中心に製品の適正使用情報を提供する。
を保持するため 5 ~ 12 ヵ月間隔で再注入を行
うことを推奨する。なお,表 5 に示すようにサ
1.製品特性について
プリメントにはヒアルロニダーゼの活性を高め
アラガン社が販売しているヒアルロン酸の製
たり産生を促進したりする成分が含まれている
品特性を表 1 に示す。さらに,各製品シリーズ
ので,長期的な効果を期待する場合には注入後
ごとの詳細な製品特性を表 2,3 に示す。
のサプリメントの使用に注意する必要がある。
また,ヒアルロニダーゼの活性を抑制したり,
2.使用上の注意
産生を抑制するサプリメントの使用も有用と思
ヒアルロン酸の使用上の注意については,次
われる。
の点を添付文書に記載し,推奨している。
また,注射部位で硬結や色素沈着等が見られ
①注入直後の一般的な反応として注射部位に
ることがあることから,注入時には可能な限り
一過性の発赤,腫脹等が現れることがある
細い注射針や肉厚が極薄の注射針の使用を推奨
が数日で消失する。注入直後に患部が腫れ
する。
た場合にはアイスパックなどを当てておく。
3.他の注入剤・治療法との併用に関する注意点
②期待する修復効果を得るためには 1〜2 週
ヒアルロニダーゼ活性調節やヒアルロン酸代
謝に影響を及ぼす物質の混入に配慮することが
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必要である。また,塩化ベンザルコニウムのよ
うな 4 級アンモニウム塩と配合禁忌であること
45
製品名
起源
ヒアルロン酸濃度
架橋剤
架橋剤の安全性
リドカイン濃度
色調・形状
使用注射針
製品構成
副作用
保管条件
Hylaform
動物性
0.55%
Divinyl Sulfone
○
27G/30G
Hylaform Fineline
Hylaform
Hylaform Plus
・局所腫脹 1.0% 強
・掻痒を伴う腫脹 0.5% 未満
・紅斑 2% 未満
・腫脹・紅斑を伴わない掻痒
1.4%
・にきび様病変 5%
2℃~ 30℃
凍結を避ける
Captique
非動物性
0.55%
Divinyl Sulfone
○
—
無色・粘性・ゲル状
30G
Captique
Hylaform と同様
2℃~ 30℃
凍結を避ける
Juvederm
非動物性
1.8–2.4%
Butanediol Diglycidyl Ether
◎
27G
Juvederm 24
Juvederm Ultra
Juvederm 30
Juvederm UltraPlus
・注射後の掻痒,圧痛を伴う
炎症反応
・注入部位の硬化または結節
・注入部位の変色
・眉間部壊死,膿瘍形成,肉
芽腫,過敏
2℃~ 25℃
凍結・加熱を避ける
光・衝撃を避ける
表 1 ヒアルロン酸の各製品特性一覧
製品名
適応部位
注入部位
禁忌
Hylaform Fineline
Hylaform
眼 窩 周 囲, 口 周 囲, シワ,溝,瘢痕によ
前額部,笑顔による る皮膚の変形修復
細い浅い表面のシワ
Hylaform Plus
シワ,溝,瘢痕によ
る皮膚の変形修復,
口唇の増量による輪
郭形成
真皮の表層部
真皮の表層・中層・ 真皮の深層部
深層部
ニワトリ由来物質にアレルギーを示す患者
注入上の注意
過矯正
1 シリンジの容量
・皮下投与は効果が持続しない
・点状に連続して注入
・トンネル注入
Captique
鼻唇溝のような中程度
から重度の顔面のシワ
や溝
真皮の中層・深層部
グラム陽性細菌由来物
質にアレルギーを示す
患者
・線状に注入
・点状に連続して注入
・上記 2 種の組み合わ
せ注入
不要
0.4 ml
0.75 ml
表 2 Hylaform および Captique の製品特性一覧
46
0.75 ml
0.75 ml
製品名
ヒアルロン酸含有量
適応部位
注入部位
禁忌
注入上の注意
注射針
1 シリンジの容量
Juvederm 24
Juvederm Ultra
Juvederm 30
Juvederm UltraPlus
24 mg/ml
中程度および深い顔のシワ
鼻唇溝・口唇
真皮の中層部
連鎖球菌感染症の既往歴のある患者および肥厚性瘢痕を生じやすい患者
目の輪郭部(カラスの足跡,下眼瞼)に注入しないこと
30G
30G
27G
27G
0.6 ml
0.4 ml・0.8 ml
0.6 ml・0.8 ml
0.8 ml
表 3 Juvederm の製品特性一覧
製品名
麻酔
過修正
注入後のマッサージ
施術後の注意
(24 時間以内)
Hylaform
Captique
Juvederm
必要に応じて表面麻酔または局所麻酔
不要
要
・術後数時間お化粧しない
・激しい運動をしない
・直射日光や飲酒を避ける
表 4 使用上の注意一覧
ヒアルロニダーゼに対する作用
ヒアルロニダーゼ活性・産生促進作用
(ヒアルロン酸産生抑制作用を含む)
ヒアルロニダーゼ活性・産生抑制作用
(ヒアルロン酸産生促進作用を含む)
サプリメント等
プラセンタエキス,モリンカ
エキナセア,シソの葉・種子のエキス,シャベウ・デ・コウロ(CDC),
醤油多糖類(SPS),甜茶,ブドウ種子エキス,松の樹皮(オリゴメ
トリックプロアントシアニジン(OPC))
表 5 各種サプリメントのヒアルロニダーゼに対する作用
からこれらによる患部の消毒や器具の滅菌は避
た,レーザー治療,ケミカルピーリング,他の
けるようにしなければならない。
皮膚反応を伴う処置は炎症を引き起こすリスク
他の治療法との併用は,注射部位の炎症等が
があることから,使用に際しては注意する必要
がある。
治まるまで数日~ 1 週間程度あけることが感染
防御や炎症症状の発現を防ぐのに望まれる。ま
編集者注:本稿では日本美容医療テクノロジー学会第 1 回学術集会で行われたシンポジウム「注入剤
の選び方」でのご発表内容をまとめていただきました。
47
皮膚若返り治療概説
Outline of treatment modalities for skin rejuvenation
岡部夕里(東京スキンクリニック)
Yuri Okabe, M.D., Tokyo Skin Clinic
Abstract
There are different aspects to skin aging: morphological changes resulting in lines, wrinkles and
sagging, color anomalies including hyper- and hypopigmentation and irregular pigmentation, and
reduced skin quality responsible for lackluster and flaccid skin. Accordingly, there are different
approaches to skin rejuvenation, ranging from skin care regimen to surgery. Newer procedures such
as chemical peels, laser treatment, and filler and Botox® injection have all been designed to achieve
maximal effect with minimal risk. In a clinic that offers treatment for skin rejuvenation, rationally
selected therapeutic modalities should be at the treating physician’s disposal so as to address the
problem of skin aging adequately. A selection should be made in such a way as to cover the whole
range of indications. With pros and cons of each modality, such a selection is also to be based on the
target group and the physician’s clinical experience.
キーワード : skin rejuvenation, chemical peel, laser, filler injection, Botox®, lifting
今はやりの皮膚若返り治療を医師として適切
るわけである。この際,老化が自然現象である
に行いたいのであれば,医療と美容の二つの観
ために特に注意すべき点がいくつかある。
点を分けて考えることが大切と思われる。本稿
最初に,老化は病気ではないため,何をもっ
ではこの二つの観点からの考察に基づき,実際
て「問題」とするかの判断基準は主観的で曖昧
の診療における技術導入のポイントが提示され
とならざるをえない。したがって,問診のポイ
る。
ントとして,患者による問題定義,患者が問題
解決へ向けて行動を起こす動機の強さ,改善の
医療としての皮膚若返り治療
程度・速度に対する期待を評価することが挙げ
医療は診察・診断・治療という三つの段階を
られる。問題自体がまともでない場合,動機が
経て問題解決に至る。これを皮膚若返り治療に
しっかりしていない場合,非現実的な期待を抱
当てはめれば,まず問診・視触診によって問題
いている場合は,患者に起因する理由により「禁
の分析を行い,次に患者と個々の問題について
忌」とすべきである。
適応を判断し,最後に問題別に方法の選択をす
医学的に問題を分析する上で老化徴候を皮膚
の形状変化・色の異常・質の低下に分類すると
連絡先:岡部夕里,東京スキンクリニック
〒 106-0032 東京都港区六本木 3-1-24-2F
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わかりやすい。そのうち皮膚の形状変化として
は,シワ,タルミ,皮膚老化によって出現する
48
脂漏性疣贅等の皮膚小腫瘍,座瘡痕等陳旧性瘢
種類
痕の顕在化による表面不整が挙げられる。皮膚
主な部位
コジワ fine lines
シワ lines
表情ジワ wrinkles
深いシワ folds
タルミ sagging
色の異常は,いわゆる「シミ」として一括され
る色素過剰症,色素低下症または老人性白斑,
色調不均一,血管拡張症に分けられる。皮膚質
の低下により引き起こされる老化徴候には,主
下眼瞼
目・口の周り
額・眉間・目尻
鼻唇溝
頬・首・上眼瞼
表 1 シワ・タルミの種類と主にみられる部位
に不規則な表皮構造が原因のつやのなさ,真皮
の菲薄化による張りのなさ,毛孔開大によるき
めの粗さがある。シワ・タルミは適応を決定す
皮膚形状の変化
る上でさらに表 1 のように分類するとよい。
前述の多岐に渡る老化徴候の中で,臨床で一
般的に遭遇するものは—患者が老化現象として
受け止めて「気にする」ものは—皮膚の形状変
皮膚色の異常
化としてシワ・タルミ,皮膚色の異常としてシ
皮膚質の低下
ミおよび色の不均一,皮膚質の低下としてつや・
張りのなさである。したがって,皮膚老化外来
コジワ
シワ
表情ジワ
深いシワ
タルミ
「シミ」
色の不均一
つや・張りのなさ
表 2 適応としての老化徴候
における診断は通常,表 2 に挙げる 8 の適応の
組み合わせとして記述することができる。
適応が決定すれば,治療法の選択肢は自ずか
らに解剖学的な位置関係が乱されてしまうた
ら限られてくる。コジワは,トレチノインに代
め,フェースリフトも理想的な治療法とは言い
表される外用剤,グリコール酸ピール 1),IPL
がたい。RF5)・近赤外線・ヤグレーザーを用い
やヤグレーザーの中空照射等,光線療法の適応
たリフティングやスレッドリフトのように,特
となる。シワはコラーゲンやヒアルロン酸によ
定の方向に真皮深層・皮下組織を短縮させてリ
る注入療法,レーザーピール ,medium-depth
フティング効果をもたらす原理の方が理にか
(中くらいの深さ)・深いケミカルピールで改善
なっているように思われる。効果についてまだ
®
不明な点が残っていることはさておき,新しい
注射 のみである。注入剤で一時的効果が得ら
治療法の登場により患者にとってのリスクが大
れても,表情筋を抑制しないと,すぐ再発した
幅に減少したことは事実である。しかし,実際
り,別のシワが隣りにできたりする。深いシワ
の導入に当たっては,コストの問題が立ちはだ
に対しては,各種注入剤のほかに脂肪などの自
かっている。それに対して,注入剤や自家脂肪
家組織の注入も行われる。
の注入によるタルミの相対的軽減は,間接的な
2)
される。表情ジワに真に有効であるのは Botox
3)
タルミの改善には,今のところフェースリフ
効果にとどまるとしても,特に複数の適応に対
トの効果のみが実証されているように思われて
する有効性を考慮すれば,実用性の観点から選
いるが,実際には鼻唇溝外側に位置する頬中央
択肢に加えることができる。
部分の顕著なタルミは位置的に矯正できない
シミはグリコール酸やハイドロキノンの外用
上,フェースリフトに最適の顎から首にかけて
剤,グリコール酸ピール,IPL および色素選択
のタルミでも脂肪吸引・脂肪切除を組み合わせ
性レーザー,レーザーピールの適応である。色
の不均一はもとの肌色が白ければ美白により改
4)
て効果を増大することが推奨されている 。さ
49
善されるものの,限局病変であるシミと異なり,
ハイドロキノンのような脱色剤の使用やレー
ザーピールには適さない。つや・張りのなさも,
色の不均一と同様の治療法で改善される。一般
的にグリコール酸とトレチノインの外用により
皮膚の色と質の全体的改善が可能である。両剤
共皮膚の再構築をもたらす長期的効果に関して
実証済みであるが,トレチノインの方が炎症を
起こしやすい反面,コラーゲン合成促進作用も
強く,表皮再生の加速により効果発現が比較的
図 1 グリコール酸外用の若返り効果
速い。また,両剤共脱色作用があるが,この点
ではグリコール酸の方が強力である(図 1)。
表 3 は皮膚若返り治療における各適応に対す
コジワ
シミ
色の.
不均一
つや・張
りのなさ
外用剤注1
4
4
4
4
グリコール酸ピール
4
4
4
4
caustic agent による
ケミカルピール
4
シワ
表情ジワ
深いシワ
(4)
4
4
注入剤注 2
4
脂肪・その他の.
自家組織の注入
4
Botox® 注射
IPL(=intense .
pulsed light)
非手術用,非色素.
選択性レーザー
非手術用,色素.
選択性レーザー
手術用レーザー
(レーザーピール)
リフティング用.
電気・光学機器
フェースリフト・.
スレッドリフト
タルミ
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4注3
4
注1:トレチノイン,グリコール酸他。
注2:コラーゲン,ヒアルロン酸他。
注 3:RF,近赤外線機器,Nd:YAG レーザーが含まれる。
表 3 皮膚若返り治療における適応と治療法
50
る治療法をまとめたものである。なお,上眼瞼
のタルミに関しては,余剰皮膚切除術が通常第
First comes logic,
一選択となり,ケミカルピールとレーザーピー
then experience,
ルも選択肢に含まれるが,いずれにしろ美容外
last and least evidence.
科の範疇に入り,他の適応と性質を異にする問
題であるので,表からは割愛した。
表 4 技術導入のポイント
美容としての皮膚若返り治療
美容の観点からは,皮膚若返り治療の相談か
述べて,本稿を終らせることにしたい。
ら治療に至るまでの過程を通じて,サービスを
実用的なアドバイスとしては,表 3 に既に導
受ける消費者としての患者が主体となる。医師
入している技術を記入してみて,すべての適応
は治療の希望に対して,方法選択の段階でサー
に対して十分な治療を提供できるか確認し,弱
ビス提供者として関わりを持つことになる。方
点の強化を図るとよい。例えば,皮膚若返り治
法の選択には,患者側と医師側の両方の要因が
療をこれから始める者にとって,Botox® 注射
関与してくる。
は他の方法で代替できないため,習得すること
患者側の要因としては,時間的,金銭的余裕
が必須と言える。しかし,鼻唇溝の脂肪注入が
の問題,流行・宣伝広告・メディアでの取り上
できなくても注入剤を導入すれば通常は事が足
げ方など社会的要因,これまでの自分の経験や
りる。外用剤・グリコール酸ピール・IPL の適
人に聞いた話など心理的要因に大きく左右され
応範囲は類似しているので,最初は施術を望む
ることがあり,医学的判断と不一致な治療を希
患者のために外用剤と二つの技術のいずれかを
望する患者が多い。したがって,誤った方法の
導入するとよい。一度にいろいろな技術を導入
選択によるトラブルを未然に防ぐには,標的患
しても上達しないので,限った方がよい。しか
者層を絞る,トレンドを上手に利用する,患者
し,既に使用している技術で物足りなくなると
の予備知識に注意するといった点に留意すると
(必ず効果が不十分な症例が出てくるため),ど
よい。また,美容医療において消費者としての
の技術の導入が望ましいか自ずとはっきりして
患者は,ときとして最小限のコストで最大限の
くる。つまり,皮膚若返り治療では,適応の網
利益を得ようとすることもある。それゆえ,患
羅を選択肢の多様性に優先すべきと言えよう。
者に負けない,利用されない,だまされないと
若返り治療を含めて一般に美容医療では,従
いう心構えも必要である。
来存在しなかった全く新しい技術をどの時点で
治療方法の選択における医師側の要因は設備
導入するかという問題に頻繁に遭遇する。この
とノウハウの有無に尽きる。しかしながら,日
意味での技術導入のポイントを表 4 に示した。
進月歩の美容医療テクノロジーの世界で,設備
近年,本来の医療においても実証医学の限界は
の改善とノウハウの向上は決して生易しいもの
ますます明らかになってきている。この傾向は
ではない。
美容医療でさらに顕著である。美容医学は論理
を操り,経験に学んで,発達させていくしかない。
技術導入のポイント
統計では測り知れず,数字では割り切れない。
私見になってしまうが,新しい技術を導入す
る際のポイント—導入する技術の選択方法—を
51
参考文献
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1) 岡部夕里.31.5 ケミカルピール.漆畑修,宮
Wheeland RG, ed. Cutaneous Laser Surgery.
地良樹,本田光芳編.美容皮膚科プラクティ
Philadelphia, PA: W.B. Saunders Company,
ス.東京:南山堂,1999: 346-351.
1994: 600-601.
2) 岡部夕里,ルネ・デュ・クロー.炭酸ガス
5) Fitzpatrick R, Geronemus R, Goldberg D,
レーザーを用いた皮膚外科の基本.Aesth
et al. Multicenter study of moninvasive
Dermatol 1997; 7(3): 109-110.
Radiofrequency for periorbital tissue
3) ルネ・デュ・クロー,岡部夕里,A 型ボツリ
tightening. Lasers Surg Med 2003; 33:
ヌス毒素を用いたシワ治療.Aesth Dermatol
232-242.
1998; 8(3): 77-81.
52
IPL の進化
Evolution of IPL
ジョアン・ソートバーグ(デンマーク・ダーマトロジック・デベロップメント株式会社)
Joan Sortberg, Danish Dermatologic Development A/S
キーワード:dual mode filtering,square pulse tchnology,programmable pulse technology,Photo
Spray,wrinkle reduction
長のみが皮膚に吸収されるようになっている。
Intense pulsed light は,どの美容皮膚科クリ
ニックにおいても,重要な治療方法になってき
主に組織内の水分に吸収される赤外線は除去
ている。広域スペクトル光の独自の使用により,
されており,治療の際に皮膚内の水分が「沸騰」
IPL は一台の機械で多くの治療選択肢を提供す
することがない。結果として,エリプスでは治
る。これはレーザー治療器が単一の波長のみを
療前の局所麻酔なしに治療することができる。
用いるのと大きく異なる。
その上,IPL 治療で問題となりうる冷却のし過
その作用の原理は,選択的光熱融解理論に基
ぎや冷却不足により,追加の治療が必要になる
1)
づくものである 。エリプスフレックス・シス
ことがない。
他の IPL 治療器に比べると,エリプスでの治
テムは第 2 世代の intense pulsed light システム
で,使用目的は,永久脱毛
2, 3, 4)
,血管病変
5, 6)
や
色素性病変 7 の治療,光若返り療法(皮膚若返
り)8, 9, 10, 11),ニキビ治療,光線力学療法(PDT)12),
シワ軽減である。
1990 年代初期に初めて IPL 技術が紹介され
たとき,一般的に使用されていた波長帯は 500
nm か ら 1200 nm で あ っ た。 し か し な が ら,
1998 年 に Danish Dermatologic Development
( デ ン マ ー ク DDD 社 ) は 第 2 世 代 の intense
pulsed light を Ellipse™(エリプス)という商
標で紹介した。エリプスに装着されたデュアル
モード・フィルタリング技術(特許出願中)は,
950 nm を越える波長をカットする。この技術
により,二つの主な標的発色団であるメラニン
と酸化ヘモグロビンに吸収される使用可能な波
連絡先:小菅正和,ガデリウス株式会社
〒 130-0021 東京都墨田区緑 1-19-9
[email protected]
Ellipse Flex PPT の本体図
53
期に渡るシワの軽減をもたらす。
療に使われるフルエンスは大変低い。これは,
発光波長域を狭めることにより,水分のように
最近行われた多施設共同研究によると,3 人
有用でない発色団を熱するフルエンスの無駄が
中 2 人の患者が Fitzpatrick のシワ軽減 9 ポイ
ないからである。
ント評価法で少なくとも 1 ポイントの軽減を認
めた(査読・出版に入っているためデータの引
す べ て の intense pulsed light シ ス テ ム は,
強い光を短いパルスで発することによって働
用不可)。写真評価では,新しいノンアブレイ
く。しかしエリプスフレックスの square pulse
ティブなレーザーやフラクセルの技術による治
technology(方形パルス技術,SPT)は,照射
療結果に完全に同等な結果と言えそうである。
後即座にエネルギーが必要なレベルに達し,パ
このほかにもシワの軽減および他の治療に関
ルス持続時間中同じレベルを保ち,即座に終了
する臨床試験がアジアとヨーロッパで現在進行
する。その結果,エリプスフレックスでは,最
中である。
エリプスフレックスは,1〜 4 のスキンタイ
適な治療を最小限の副作用のリスクで行うこと
プでどれも臨床的に証明された,安全で効果的
な皮膚治療のための機器である—脱毛はスキン
ができる。
エリプスフレックスには予め設定された治
タイプを問わない。
療パラメータがあり,これは文献一覧に載っ
ている査読済み臨床研究の結果に基づく設定で
ある。したがって,術者は簡単なエネルギーの
文献
調整のみで最適な器械の操作を行うことができ
1)Anderson RR, Parrish JA. Selective
る。いわゆる「ノーマルモード」と呼ばれるこ
photothermolysis: precise microsurgery
れらの操作のほかに,エリプスフレックスでは
by selective absorption of pulsed radiation.
Science 1983; 220: 524-527.
「エキスパートモード」を設け,「融通性」に配
慮している。「エキスパートモード」ではパル
2)Bjerring P et al. Hair removal using a
ス幅(標的の熱緩和時間に関係する)をフル
new intense pulsed light irradiator and a
エンスに関係なく調節することができる。新
normal mode ruby laser. J Cutan Laser
しいエリプスフレックス PPT(programmable
Ther 2000; 2: 63-71.
3)Troilius A, Troilius C. Hair removal with a
pulse technology プログラマブルパルス技術)
により,ドクターの研究心を満足するよう,最
second generation broad spectrum intense
大 4 つまで自由な長さ・フルエンス・間隔でパ
pulsed light source—a long-term follow-up.
ルスをカスタムメイドすることができる。加え
J Cutan Laser Ther 1999; 1: 173-178.
て,プログラマブルパルス技術はカスタムメイ
4)Hee Lee J, Huh CH, Yoon HJ, Cho KH,
ドのパルスを保存し,他のドクターと共用する
Chung JH. Photo-epilation results of
ことを可能にしている。
axillary hair in dark-skinned patients by
intense pulsed light: comparison between
エリプスによる最新の治療はノンアブレイ
ティブなシワの軽減である。I PL 治療の前に,
different wavelengths and pulse width.
開発されたばかりである Intense by Ellipse フォ
Dermatol Surg 2006; 32(2): 234-240.
2
トスプレーを 2 時間に渡って 15 分間隔で皮膚
5)Bjerring P, Christiansen K, Troilius
に当てる。プロトポルフィリンに吸収される短
A. Intense pulsed light source for the
い波長の使用により光化学作用が惹起され,長
treatment of dye laser resistant port-wine
54
stains. J Cosmet Laser Ther 2003; 5: 7-13.
34: 120-126.
6)Bjerring P, Christiansen K, Troilius A.
10) N e g i s h i K , e t a l . P h o t o r e j u v e n a t i o n
Intense pulsed light source for treatment
by intense pulsed light with objective
of facial telangiectasias. J Cosmet Laser
measurement of skin color in Japanese
Ther 2001; 3: 169-173.
patients. Dermatol Surg 2006; 32(11):
7)Bjerring P, Christiansen K. Intense
1380-1387.
pulsed light source for treatment of small
11) Hedelund L, et al. Skin rejuvenation
melanocytic nevi and solar lentigenes. J
using intense pulsed light: a randomized
Cutan Laser Ther 2000; 2: 177-181.
controlled split-face trial with blinded
8)N e g i s h i K , e t a l . N o n - a b l a t i v e s k i n
response evaluation. Arch Dermatol. 2006;
rejuvenation using second-generation IPL
142: 985-990.
Ellipse Flex. J Jap Soc Aesthetic Plast
12) Kim HS, et al. Topical photodynamic
Surg 2004; 26(3): 63-71.
therapy using intense pulsed light for
9)Bjerring P, Christiansen K, Troilius A,
treatment of actinic keratosis: clinical and
Dierickx C. Facial photo rejuvenation
histopathologic evaluation. Dermatol Surg
using two different intense pulsed light
2005; 31: 33-37.
wavelength bands. Lasers Surg Med 2004;
55
第 4 回東方美容外科学会・第 91 回日本美容外科学会
(中華人民共和国重慶,2006 年 9 月 22 日~ 24 日)参加報告
A participant’s report of the 4th Congress of Eastern Cosmetic Surgery/
the 91th Congress of Japan Society of Aesthetic Surgery
(Chonqing, PRC, September 22nd–24th, 2006)
上野正樹(上野医院)
Masaki Ueno, M.D., Ueno Clinic
重慶市は北京市,上海市,大連市と同様,中
を展示するブースが 7 割,パルスライトや RF 機
国政府の直轄市であり,都市部で 1300 万人,
器など,ハイテクな部品を組み込んだ製品展示
周辺人口を含めると 3000 万を超える大都市で
ブースが 3 割であった。中国は国産人工衛星を
ある。市内を散策すると,大連市同様,核戦争
飛ばし,核ミサイルを持ち,原子炉を制御でき
を想定した地下街が整備されている。軍関係の
るハイテク国家でもある。世界 3 大発明(羅針盤,
病院では形成外科手術や美容外科手術を行う専
火薬,印刷機)の起源は中国である。3000 年前
用病棟があり,市内には民間の大きな美容クリ
につくられた青銅器には現在の技術でも製作困
ニックがある。4 回目の東方美容外科学会は中国
難な物もある。台湾の故宮美術館を訪れたとき,
内陸部の大都市,重慶市の金源大飯店で 4 つの
精緻なひすいの美術工芸品などを見て,彼らの
学会が共同開催された。4 つの学会とは第 4 回
手先の器用さに絶句させられた記憶がある。そ
東方美容外科学会・第 3 回中国美容形成外科学
んな職人さん達により精巧に加工された多種多
会・第 91 回日本美容外科学会・第 12 回韓国美
様な中国製の手術器具は,手にとってみると使
容外科学会である。中国各地,日本,韓国,タイ,
いやすそうで,値段を尋ねると意外に安価であっ
ベトナム,アメリカなどから多数の医師が参加
た。手術器具も精密手工芸品と言える。上海の
した。展示ブースは 32 を数えた。その展示ブー
スと印象を報告する。
日本の学会場の展示ブースでお目にかかるも
のは大抵あった。手術器具やインプラントなど,
ローテクである職人技(ローテクとは技術力が
低いという意味でなく,プレス加工,旋盤加工
など基礎的な科学技術を指す)で作られた器機
連絡先:上野正樹,上野医院
〒 380-0803 長野県長野市三輪 4-6-2
[email protected]
重慶市内
56
ホテルの学会場
展示会場
業者が多かった。中国の外科医たちもマイクロ
サージャリーの器具を慎重に吟味して購入して
いた。下顎骨切り術の発表が多数あっただけに,
オステオトミーの機器も数多く展示されていた。
電動カッターはアメリカ製の半値であるので,
故障時の予備用に備えておく価値はあると思っ
た。
韓国のブースでは,韓国製のヒトプラセンタ
注射剤,韓国製のボツリヌストキシン注射剤(ボ
韓国のブース
トックスと同等製品とパンフレットに記載され
ていた)
,韓国製のアプトス・ワプトス同等製品
などが展示されていた。今回,韓国からは 28 名
スが交換できる RF 機器や RF とパルスライトの
の医師達の参加があった。韓国でも中国同様,
複合機を展示していたブースがいくつかあり賑
下顎骨の骨形成術が盛んだ。顎を細く,すっき
わっていた。値段は 500 万円台なのできちんと
りさせ,切った骨を細工して隆鼻した症例を見
保守のできる日本の代理店が扱えば日本でも売
たが,みごとな出来であった。我が日本の美容
れるかもしれない。アメリカに輸出しているそ
外科医師達の独創的な報告,発表の数々にも会
うだ。Q スイッチを備えたレーザーの中国国産
場から盛大な拍手があったことを付け加えてお
製品は無かった。海外のレーザーメーカーのブー
く。
ス,パンフレットがあったが,あまり賑わいは
中国製の乳房インプラントや各種インプラン
無かった。
トの展示も多かった。中国製のパルスライト(イ
中国の美容医療はどのくらいの規模で行われ
エロー,ホワイト,近遠赤など 3 種の波長帯と
ているのだろうか?中国はアメリカ以上に貧富
6 種の異なるハンドピースが備わっている)や
の格差が大きい。それを,今ここで論じるつも
表面冷却の備わった 4 種の大きさのハンドピー
りではないが,中国の人口は統計上で 13 億人(戸
57
籍が無いものが更に 1 億人いるとの説がある)
外科学会に出席した時と比較しても,瞠目せざ
と多い。エリート階級である共産党員は 6600
るを得ない。美容医療(若さを保つ医療=一般
万人(日本の人口の半分くらい)いるので,美
ではできない特別な医療行為)を享受できる人々
容医療のマーケットは大きいと言える。臓器移
の数は,その人々が属する国のステータス(国
植のマーケットも大きいのは最近のニュースを
民の人的資質,マンパワー,国家の社会資本整
見ても明らかである。
備環境,インフラ),により変化する。世界の注
重慶の学会に参加したが,中国の目覚しい発
目を浴びている中華文化(中国パワー)が美容
展ぶりは,2001 年に大連で開催された東方美容
医療にも影響を及ぼし始めているのだ。
58
日本美容医療テクノロジー学会
第 2 回学術集会のご案内・演題募集
下記の通り,日本美容医療テクノロジー学会第 2 回学術集会を開催致します。
本学会の趣旨は,美容医療テクノロジーのユーザーである医師とその開発・普及を担う企業が,学術情
報から臨床経験に至るデータの蓄積・集成を共通の目的として,対等な立場で情報を交換し,議論し合う
機会を提供することです。この観点から,今回は学術集会と出展会を同一会場で一体化したいと考えてお
ります。学術集会は 1 時間〜1 時間半のセッション 4 〜 5 つで構成し,各方面のトピックを扱う予定です。
セッションの内容(予定)
○シンポジウム「注入剤」:注入用ヒアルロン酸—製品の特徴に基づく治療法の最適化
○シンポジウム「光学機器」:IPL 機器—製品情報と美容医療における位置付け
○メソセラピーの理論と実際
○スレッドリフトの理論と実際
○自由演題
トピックに関する発表および自由演題を募集しております。発表ご希望の方は下記の登録事項と共に演
題名および 200 〜 400 字の抄録をメールとファックスの両方で学会事務局宛にお送りいただくようお願い
致します。到着後 2 週間以内に採用の可否についてご連絡致します。
皆様の積極的なご参加お待ちしております。
会長 岡部 夕里
記
開催日時:2007 年 6 月 24 日(日) 午前 9 時〜午後 7 時頃(予定)
会 場:六本木ヒルズ森タワー 49 階アカデミーヒルズ・タワーホール
〒 106-6149 東京都港区六本木 6-10-1
tel 03-6406-6220 ウェブサイト www.academyhills.com
参加費用:医師および同伴者 1 名につき 15,000 円(当日登録 25,000 円)
美容医療関連企業の参加については,原則として出展をお願いしております。
※ 学術集会・展示会参加,ランチ,飲み物サービスが含まれます。
登録方法:
「第 2 回学術集会登録希望」と明記の上,1. 氏名(漢字・ローマ字),2. 所属機関名,
3. 郵送先住所,4. 連絡先電話番号,5. 連絡先ファックス番号,6. メールアドレス,.
7. 振込人名義・振込予定日をメールまたはファックスでお送りいただき,下記口座に
参加費用をお振込ください。入金が確認できた時点で登録手続きの完了となります。
登録期限:6 月 10 日(日)必着
※ 登録期限を過ぎると当日登録扱いとなります。
連 絡 先 :日本美容医療テクノロジー学会事務局 〒 106-0032 東京都港区六本木 3-1-24-4F
メール [email protected] fax 03-3560-0799 ウェブサイト www.amtech.jp
振 込 先:東京都民銀行 本店営業部(001) 普通預金 4058728
日本美容医療テクノロジー学会(ニホンビヨウイリヨウテクノロジーガツカイ)
59
日本美容医療テクノロジー学会誌 第 2 号
平成 19 年 2 月 26 日発行
発行所 日本美容医療テクノロジー学会
〒 106-0032
東京都港区六本木 3-1-24-4F
www.amtech.jp
[email protected]
印刷所 有限会社アイペック
〒 170-0002
東京都豊島区巣鴨 1-24-12
tel 03(5978)4067
fax 03(5978)4068
(非売品)
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