建設コンサルタントの新しいビジネスモデルに対する報酬に関する考察

建設コンサルタントの新しいビジネスモデルに
対する報酬に関する考察
竹林弘晃1・高橋富美1・阿部正太朗1・五艘隆志2・宮崎康平3
1株式会社建設技術研究所
2博士(工学)
高知工科大学
大阪本社道路交通部(〒541-0045大阪府大阪市中央区道修町1-6-7)
E-mail: [email protected]
3高知工科大学
システム工学群(〒782-0032 高知県香美市土佐山田町宮の口185)
E-mail: [email protected]
システム工学群(〒782-0032 高知県香美市土佐山田町宮の口185)
E-mail: [email protected]
近年,我が国の建設コンサルタント企業は,国内インフラの一定充足や将来の人口減少といった状況か
ら,新しいビジネスモデルを模索している.ビジネスモデルの構築においては業務内容,報酬基準に加え
て事業リスクの負担に関する検討が不可欠となる.本稿では他産業における報酬実態に関する調査を行っ
た。また,建設コンサルタントが今後取り組むべき新しいビジネスモデルを検討するためには各業務フェ
ーズにおけるリスク分析が必要であることを考察した.
Key Words : consulting service, contract, remuneration, risk management
1. はじめに
その前提で策定され,報酬と業務リスク分担の関係が組
み立てられ,業務慣行として深く根付いている.
事業領域(事業エリアと事業フェーズ)を拡大する
近年,我が国の建設コンサルタント企業は,国内イ
ことに伴い,提供するサービスの内容や性質も変わって
ンフラの一定充足や将来の人口減少といった状況から,
これまで主力としていた国内公共事業の設計案件に加え, くる.同時に,前述の“公共発注機関の職員が本来自身
で行うべき業務であり,その能力も十分有しているが,
民間や海外案件の開拓,さらにはプロジェクトの企画段
人手不足のため外部委託する”という前提がなじまない
階から運営段階まで事業領域を拡大することを意図した
種類の業務も発生することが考えられる.この種の業務
活動を行うようになってきている.
に参画する際,これまでの業務慣行などに基づく報酬と
建設コンサルタント企業がこれまで主力としていた
リスク分担の関係も再考することが必要となる.もちろ
国内公共事業の設計案件は,その業態の成立経緯から公
ん,契約内容も再考する必要が生じる.
共発注機関が行っていた業務のアウトソーシングであっ
本稿は,他業種の動向も参考にしつつ,建設コンサ
たといえる.その際,公共発注機関はアウトソース先の
ルタントが取り組む新たなビジネスモデルに対する報酬
能力によって業務成果の品質が変動することを避けるた
とリスクについて考察を行ったものである.
め,アウトソースする業務の内容を最大限定型化した.
同時に,業務報酬については公共発注機関の職員が直接
行っていた際の業務量(作業歩掛)を基準値として金額
2. 建設コンサルタントが取り組む新たなビジネス
を設定することとした.このように,国内公共事業の設
モデルとその課題
計案件は“公共発注機関の職員が本来自身で行うべき業
務であり,その能力も十分有しているが,人手不足のた
(1) 海外における PPP/PFI 事業への参画
め外部委託する”といったことが前提となってアウトソ
宗広ら 1)は,国内公共事業への依存には今後限界が
ースされているといえる.契約約款(公共土木設計業務
あり,海外案件を中心とした PPP/PFI 事業への参画推進
等標準委託契約約款 1995年5月制定)や共通仕様書も
の必要性を主張した.その際,参画の形態を「委託/請
3
モデル
EPCモデル
事業一括受
注モデル
主な対象企業
PPP事業モデル
本邦建設企業
調査
計画
設計
・調査・計画・設計:コンサル
・請負:建設会社
韓国企業等
調査
計画
設計
欧州系企業等
調査
計画
設計
PM/CM
Finance
EPC
請負
O&M
PM/CM
Finance
EPC
維持管理・運営
(O&M)
プロジェクト実行フェーズ
(
サービス領域の拡大)
委託/請負
モデル
O&M
資金調達
(Finance)
プロジェクト・マネジメント
(PM)
施工監理
(CM)
PM/CM
Finance
EPC
PPPが主体となる市場
EPC
O&M
調査・計画・設計
(Survey, Planning, Design)
PMモデル
米国系企業等
調査
計画
設計
PM/CM
Finance
図-1 PPP の事業形態
EPC
ODAが主体となる市場
現在の
主戦場
日本
東南アジア
西南アジア
中南米
O&M
アフリカ
(先進国)
エリアの拡大
図-2 建設コンサルタントのビジネス拡大・成長イメージ 1)
1)
1)
表-1 途上国で取り組む小水力発電事業における建設コンサルタントのリスクマネジメント例
表 5 途上国で取り組む小水力発電事業における建設
サ タ ト リ ク ネ メ ト例
主なリスク
政治・
政策
行為
に起
因す
るリスク
小水力発電事業におけるリスク分析
PB IP RL
内容
RC
建設コンサルタントによるリスクマネジメント
対策例
外為取引リスク
事業会社の外為取引が円滑にできなく
なる
1
5
5
4.転嫁
現状、海外送金可能であり禁止政策の可能性
は低い
資産接収リスク
事業資産が相手国政府に接収され、事業
継続が困難
1
5
5
4.転嫁
事業会社を国外で設立・登記、国際開発金融
機関の参画による抑止力、貿易保険加入によ
る軽減
制度・許認可
変更リスク
関連制度や許認可が変更され、事業遂行
に支障
1
5
5
4.転嫁
現地パートナーの政治力による他、国際開発金融
機関の参画による抑止力、貿易保険加入によ
る軽減
政治暴力リスク
ストライキ・テロ・暴動・内乱・戦争等が影響し
て事業遂行に支障
1
5
5
4.転嫁
同上
契約違反リスク
政府が事業会社との契約を約定通りに
履行せず、事業遂行に支障
2
4
8
4.転嫁
同上
3
3
9
2.軽減
SPC設立による事業本体からの切り離し。SPC
の経営監視
3
3
9
2.軽減
高信頼性の調査・計画・設計の実施と実現性
の高い施工監理計画の策定及びその実施。信
用力の高いEPCコントラクターの選定とその監理
事業会社に十分な操業・保守能力がな
操業・保守リスク い、必要資金の不足等により事業遂行に
支障
3
3
9
2.軽減
実現性の高いO&M計画の策定とその実施
燃料供給リスク
流量が計画通り確保できず、発電量が不
足
4
3
12
2.軽減
調査時点で適切な流量調査を実施
マーケット・リスク
電力需要が計画通り確保できず、収入が
不足
1
4
4
4.転嫁
FIT又は個別PPA(Power Purchase Agreement)
によるオフテイク契約の締結
ユーティリティ・リスク
送電線等の必要インフラが整備されず事業
遂行に支障
2
4
8
4.転嫁
FIT又は個別PPA内で対応
土地収用リスク
必要な土地を計画通り取得できず事業
遂行に支障
2
4
8
4.転嫁
現地パートナーの政治力による他、地元自治体に
よる支援
社会・自然環境に悪影響を及ぼす、住民
の反発を招くことで許認可が得られな
い
2
4
8
4.転嫁
地元住民とのコミュニケーション構築、現地パートナーの政
治力による他、地元自治体による支援
必要資金を計画通り調達できず事業遂
行に支障
3
3
9
2.軽減
低利な日系の公的金融機関資金の活用
2
4
8
4.転嫁
準拠法に精通した現地法律事務所の選定
商業
スポンサーの経営・財務能力の問題により事
スポンサー・リスク
行為
業遂行に支障
に起
低信頼性の調査・計画・設計の結果,プ
因す 完工・技術リスク ロジェクトが計画通り完成しないことによ
るリスク
り事業遂行に支障
環境リスク
資金調達リスク
ドキュメンテーション・ 関連契約書に不備があり、契約先が義務
リスク
履行しないことで支障
地震・台風・洪水・噴火のほか、火災・
自然現象に起因するリ
危険箇所の事前確認と予防対策の実施、損害
4.転嫁
落雷・地滑り・陥没等により事業遂行に 2 4 8
スク
保険による対応
支障
注1)PB:発生確率,IP:リスクインパクト,RL:リスクレベル(RL=PB×IP),RC:リスクマネジメント区分
注2)PB,IPは各々5段階分析(1:Very Low,,2:Low,,3:Intermediate,,4:High, 5:Very High)
注3)RCは5段階区分(1:受容,2:軽減,3:配分,4:転嫁,5:回避
負モデル(本邦建設企業,建設コンサルタント企業)」,
「EPC モデル(韓国企業等)」,「事業一括受注モデル
(欧州系企業等)」,「PM モデル(米国系企業等)」
の形に分類(図-1)し,我が国の建設コンサルタントは
狭い業務領域での参画にとどまっていることを指摘した.
また,建設コンサルタントのビジネス拡大・成長にはエ
リアの拡大だけでなく,ODA 案件では参画機会の少ない
プロジェクトマネジメント(PM),資金調達,EPC,O&M
といったサービス領域の拡大が必要であることも示した
(図-2).そのうえで,途上国の小水力事業への出資と
技術サービスを行っている事例を複数提示し,リスクマ
ネジメントの重要性とその具体的方策を提示している
(表-1).
この分析は,設計や維持管理等に関する技術サービス
業務の委託(請負契約)だけでなく,小水力発電事業の
4
事業主体である SPC(Special Purpose Company)へ出資す
ることを契機として,事業者側の事業リスク全般に対し
て当事者意識を持って分析したものであり,コンサルタ
ントが取り組まなけれなばならないリスクマネジメント
も併せて示している.なお,事例として挙げられた事業
は進行中であり,事業参画によって利益をどのように確
保してゆくかについては課題を残している段階である.
ここで示されているリスクマネジメントの例は国内公
共事業でも適用しうるものであり,事業主体である公共
発注機関によってマネジメントされているといえる.
(2) 国内における PPP/PFI 事業への参画
地方自治体を中心として,国内でも PPP/PFI 事業への
取り組みが増えてきている.事業形態は多様であるが,
民間の技術力を取りこむ際,我が国の公的発注機関が担
わされていた無謬性との整合を取る際に課題が生じてい
る.この点につき,大阪大学大学院講義資料 2)では PPP
業務案件への参画体験から以下の旨を述べている.
① (これまでの)発注者責任とは,インフラの計画,
建設,運用に係る事業実施の責任が全て一元的に
発注者にあり,その他のプレイヤーにはリスクが
及ばなかった
② 国民は何が起きても役所が責任を取ってくれるか
ら事前にリスクのことを考える必要はなかったし,
業者も業務の配分や受注業務が赤字になってもま
じめに働いていれば何らかの面倒を見てもらえる
など,安心して仕事に取り組むことができた
③ 国民の信託のもと役所は事業遂行がスムースであ
り,業者は仕事を保証されることで将来に向けて
自ら準備し,予算が間に合わないときも役所を応
援した
④ このような安心社会が揺らぎ始めると発注者は全
知全能でないことを認め,業者も駆けつけない
⑤ 安心社会の崩壊は政府自らによる破産宣言,能力
有限性(無謬の否定)宣言で始まった
⑥ 公共事業は将来,民間が参入する仕組みに変化し
ていく.そのための CM や PPP の理論
⑦ NPM(New Public Management)は民間化ではなく,
発注者の体制・機能を民間を使って強化する方式
⑧ 今まで役所は一人数役をこなしてきた.というよ
り,陰に隠れた多くのプレイヤーが支えることに
よって数役をやってきた.この数役を民間に開放
しリスク分担させる NPM へ移行中
⑨ PPP の代表的な形態として,(1)人(技術)と時間
が不足する場合にこれを民間から調達する CM,技
術顧問方式,(2)人(技術)と時間と金が不足する
場合の PFI,(3)発注者と市民の役割分担,合意形
成 がある
⑩ CM,技術顧問は,これまで相互に補完されてきた発
注者責任と受注者責任の間のグレー領域を正業化
するもの
⑪ 職業として成立するための 3 条件(資格,契約書,
法風基準)のうち,報酬基準は全く検討されてい
ない
⑫ 仕様書は書かれているが,発注者が従来やってき
たことを外部に商取引するための予定価格,コス
ト構造が分かっていない
⑬ 委託や請負にできない役割が発注者に残っている
のであるからその役割を商取引することは容易で
はない
⑭ 商取引のための計量化議論が遅れている
5
⑮ 我が国では代理人のことを「先生」と呼ぶ.坊主,
医者,弁護士,やーさん,家庭教師など
⑯ 代理の対価は自分の満足度を基準にしており,委
託契約,請負契約のように受注者の生活費(コス
ト)を積み上げたものではない
⑰ 発注者は国民に対してはアウトカムを約束してい
るが,受注者に対しては積算できる範囲(アウト
プット)までしか発注できない
⑱ 役所はコスト取引(積算基準で価格が決まる)と
価値取引(購買者の価値:フィーで取引)の2つ
を取引している
前節(1)の小水力事業などのように企画,設計,施
工,運営維持管理まで全ての業務に SPC として参画す
る PFI の形であれば,従来型公共事業による公的財政
負担の見込額である PSC(Public Sector Comparator)
との比較で VFM(Value for Money)を計測することは
技術的に可能である.この場合,従来型公共事業と
PFI 方式の両ケースにおいても内部的な技術的検討業
務が発生するが,その直接的費用(コスト)はプロジ
ェクト全体費用に比べて小さく,外形的には経費や
種々の資機材等の単価に織り込まれる形で整理される
ためその価値は表面化しにくい.
一方で,定形化が難しく,高い技術水準が要求され
るこういった種類の技術サービス業務を公的発注機関
から取り出して民間に行わせる際,その業務仕様策定,
リスク分担,報酬設定,アウトソース効果の計測とい
ったことが課題となってくる.
3.各種産業における報酬形態の調査分析
(1) 医療,法律,会計業界等の状況
大阪大学大学院講義資料 2)は“公共発注機関の職員が
本来自身で行うべき業務であり,その能力も十分有して
いるが,人手不足のため外部委託する”とは違う種類の
業務を担う受注側主体を「先生(2 章(2)の箇条書 No.
⑮)」と称したが,このような性格を有する他業界での
報酬形態とリスク分担について整理を行った.その結果
を表-2 に示す.
日本の医療業界は厚生労働大臣告示による診療報酬
制度において,医業行為に対して原則一律の報酬が医療
機関や薬局等に支払われる.この点は具体的な標準設計
と標準積算基準によって規定された我が国の建設産業に
近い.また,入札等の価格競争がなく,医療行為に応じ
た費用が一律に支払われるという点では公共事業に比べ
ても政府の保護が極めて強い産業である.建設産業で例
えるならば,明治期の官直営時代に近い形態と理解する
6
一般
消費者
民間
企業
官公庁
顧客
種別
弁護士事務所
会計士事務所
葬祭業界
医療業界
葬祭事業者
僧侶・寺院
米国の医療
日本の医療
(診療報酬制度)
タレント業界 声優
法律業界
会計業界
随意契約
競争入札(プロポーザル)
デザインコンペ
競争入札
(価格and/or技術)
業界(日弁連)
決まった金額はないが,協会毎に設
業界
定の場合がある。(08)
通夜,寺院への支払,
葬儀
-
-
厚生労働省
(政策官庁として)
「布施」という形で支払われる。宗派
ごとの目安はあるが,決まった金額
はない。
決まった金額はない。(07)
医科診療報酬点数表
(出来高払いと包括払い)(06)
●アニメーション作品出演規定
●外画動画出演実務運用表(ランク 業界(日俳連)
に応じた単価)(05)
●(旧)日本弁護士連合会報酬等基
準 H16.4.1廃止(03)
●弁護士の報酬に関する規定
H16.2.26~(04)
随意契約
●業:作業ミス、顧客指示による
違反行為に伴う手戻りやペナル 監査業務は準委任。善
管注意義務を怠れば
ティ
●顧:情報隠匿や不適切会計の 損害賠償請求あり
指示
●業:顧客指示による違反行為に
顧客の資金(自己資金+
伴う手戻りやペナルティ
委任事務による経済的利
委任(法律行為)
●顧:情報隠匿や不法行為の指
益)
示
顧客の自己資金
総価一式契約
報酬= cost+f ee +prof it
顧客との直接交渉
顧客の自己資金
●業:手配の手違いに伴う賠償責
任
●顧:不明確な指示に伴う費用増 葬儀・永代供養は準委
総価一式契約
大
任
●両:火葬場,墓地の空き、葬儀
時の来客トラブル
顧客の資金(自己資金+
請負(演技指導にもと ●総価一式契約(転用一
番組製作による収入(転用 ●業:手配の手違いに伴う追加コ づき、期待通りの演技 括処理方式)
に伴う印税も含む場合が ストの発生
をするという結果を求め ●転用部分を印税方式と
ある)
られる)
するのもあり
●業:検査・治療ミスに伴うペナル
自己負担+公的保険料+
厚生労働省の基準による
単価数量精算契約
ティと賠償
税金
●顧:症状と期待の適切な伝達, 医療契約は準委任(治
癒の責任は負わない)
高額な自己負担を払えない
surgeon's fee(手術料)と
●両:依頼時点で治癒しえない症
自己負担+民間保険料
総価一式契約
して各院が設定
状
顧客との直接交渉
顧客との直接交渉
請負
準委任/請負
随意契約の制限価格範囲 顧問弁護士は議会費から ●業:アドバイスのみであり基本
内で顧客との直接交渉? (四日市市)
的にリスクは負わない
顧客には「お気持ちで結構
顧客または葬祭事業者と
です」。葬祭事業者への請
の随意契約
求は不明
同上
随意契約
(患者の自由)
請負
顧客との契約種別
(リスク分担)
請負
オーデション(審査),製作 業界の基準に基づく
側からの特命
(ランク×時間割増率)
随意契約
想定されるリスク
(業: 業界側責任,顧:顧客側
責任,両: 両当事者とも責任な
し)
●業:作業ミス,工数読み違え,
契約外の作業を請けてしまう
請負(2009年4月23日
●顧:不十分な条件提示,契約外
●顧客の資金(税金:事前 の作業発生に伴う費用増大,設 東京高裁)
に予算措置が必要)
計成果に基づく事業費の増加(不
●県は国からの補助あり 十分な設計業務監理)
●市は県・国からの補助 ●両:法制や上位計画変更
あり
報酬支払の原資
土木,建築設計・計画と同じと想
定
業務内容も含めて顧客と
の直接交渉
顧客との直接交渉
応札単価・総額を基準
業務従事者の決定方法 単価・総額の決定方法
●標準監査報酬規程(01)
●報酬算定のためのガイドライン(日
業界(日本公認会計
随意契約
本公認会計士協会)(02)
士協会)
●会長声明「適切な監査時間及び監
査報酬について」
読経,戒名,供養
医療,投薬
出演
一般民事
財務,税務,会計監査
等
会計制度への助言,法
特に決まったものはない
律行為への助言
-
会計士事務所,法
律事務所
会計・法律業
界(顧問)
特にない。「事業費の3%,5%」などを目
安。
基本的には土木設計と同じ
官庁施設の設計業務等積算要領
(延べ面積や図面枚数から人・時間
を算出)
顧客
(公共発注機関)
標準値の設定者
-
建築設計監修
実施設計・施工の内容
が自身のデザインに適
合するかチェック
プロジェクトより異なる
土木CM
(公共案件)
建築CM
(公共案件)
基本計画
基本設計
実施設計
建築計画・設計
(公共案件)
●設計業務委託等技術者単価
●設計業務委託等技術者単価
●設計業務等標準積算基準書
概略設計
予備設計
詳細設計
土木設計
(公共案件)
土木計画系
(公共案件)
単価・総額の標準値
業務内容
業務種別
経営戦略,人材システ
経営・ITコンサ 経営/ITコンサル(自
ム等への助言,場合に 特に決まったものはない
ル業界
治体への助言)
よっては構築業務
建設業界
業界
表-2 各種業界における報酬形態とリスク分担 3)~13)に基づき筆者作成
こともできる.報酬の原資は顧客(患者)の自己負担
(70 歳未満は 3 割)と保険者(健保組合等)の資金と
なる.国民皆保険制度のもとで,実質的には公的な資金
が原資となっている点も公共事業と近い性質を持ってい
るように見受けられる.こういった特殊な市場が形成さ
れた背景には,医療行為に対する社会的ニーズと併せて,
医療従事者の育成・雇用,薬剤や医療機械の開発・製作・
運用などに多額のコストを要する産業であるという背景
があるためと考えられる.この点は建設コンサルタント
よりも建設業に近い要素であるといえる.また,医療行
為は準委任契約として位置づけられており,医療機関に
対して症状の治癒を義務付けるものではないということ
ことも特徴である.一方で,米国の医療制度は我が国と
全く異なり,地域や医療機関,加入している医療保険に
よって医療費が異なるなど,自由競争的な側面が強い.
法律業界は医療業界とは大きく異なり,着手金や裁
判手数料,裁判外手数料といったコストとフィー的な要
素に加えて,報酬金(成功報酬)という概念があること
が特徴的である.裁判などの紛争案件を抱えた民間企業
や一般消費者といった当該業務に関する知識を持たない
“素人”が顧客となり,医療行為のように業務内容も定
型化されていない状況においては顧客側への説得性が高
い形態と考えられる.法律行為の代行をする委任契約で
はあるが,成功報酬については法律事務所側がリスクを
担う形態となっている.
会計業界は医療業界や法律業界と異なり,業務成果
そのものに対するリスクは善管注意義務を果たす程度で
ある.しかしながら,その業務内容は必ずしも委嘱者が
期待する無限定適正意見の監査報告書が提出されるだけ
ではない 14)とのことから準委任契約と解されている.こ
の点は建設技術を基盤とし,顧客に対しても是々非々で
臨むべき建設コンサルタント業務と近い要素である.ま
た,監査法人の顧客は会社法第 2 条に示される「大会社
(資本金 5 億円以上,または負債合計 200 億円以上)」
であることから,顧客側担当者も会計事務に関して一定
の知識を有していると考えられ,この点も公的発注機関
の技術職員をカウンターパートとする建設コンサルタン
ト企業職員の業務環境と近い.ただし,顧客の多くが民
間企業であり,顧客側が組織化されている状況にないこ
とから報酬基準については業界団体(日本公認会計士協
会)が主導権をもって定められる市場環境にある.この
点は土木案件よりも建築案件のコンサルティング業務に
近いものと考えられる.
その他,タレント業界は業界団体(協同組合日本俳
優連合)が定めたランク別単価によって報酬が定められ
ているほか,葬祭業界は宗派ごとの大まかな目安はある
ものの標準的な報酬基準はないなど,産業ごとに状況は
7
異なっている.
(2) 建設コンサルタントの新しいビジネスモデルに対す
る報酬とリスク
本節では第 2 章で紹介した大阪大学大学院講義資料 2)
が主張するような建設コンサルタントの理想像を実現す
るためのビジネスモデルと報酬形態について考察する.
医療業界については準委任契約に基づいた高いレベ
ルの技術提供という点でビジネスモデルとしては魅力的
な側面はあるが,先に述べた通り建設業に近い要素があ
ること,政府の保護政策の極めて強いこの方面を志向す
ることは官から民へという現在の動きと逆行する側面が
あることから,建設コンサルタントの将来的なビジネス
モデルとは方向性が異なるものと考えられる.
法律業界は顧客が一般的に法律分野の“素人”であ
ることは建設コンサルタントの状況と異なるが,業務の
リスクと成果を“成功報酬”の形で簡潔に整理している
点は参考になるものと考えられる.
会計業界は医療,法律業界と比べて業務の公的性や
顧客との関係性は最も建設コンサルタントと近い.その
反面,会計監査業務そのものは具体的な価値創造を伴わ
ない種類の業務であることは否めず,また監査法人は基
本的に顧客の事業リスクとは切り離された位置にいる.
インフラ整備において有形無形の価値を生み出し,その
成果を問われ,場合によっては設計委託費用を上回る瑕
疵担保責任を負っている我が国の建設コンサルタント業
務とは業務内容が根本的に異なるといえる.
このように考えると,建設コンサルタントの新しい
ビジネスモデルは,どのような技術サービスを提供する
かという業務内容の議論と,その報酬に対する議論に加
えて,参画する事業のリスクをどのように取って行くか,
あるいは取らないかを判断し,契約や業務仕様書に位置
づけていくことが重要であることが理解できる.当たり
前の議論ではあるが,このような議論が国内の建設コン
サルタント業務において十分行われてきたかどうかはか
なり疑問である.
4.まとめ
本稿では,建設コンサルタントが取り組む新たなビ
ジネスモデルに対する報酬について他産業の状況も考慮
した考察を行った.政府の保護が極めて強い医療業界を
除けば,報酬体系とリスク負担はバランスしており,建
設コンサルタントが今後取り組むことになる新たなビジ
ネスモデルにもこの原則は適用されることになるものと
考えられる.
参考文献
1)
2)
3)
4)
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減とインセンティブ付与に関する一考察,土木学会
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FEE OF THE NEW BUSINESS MODEL
FOR CONSTRUCTION CONSULTANTS
Hiroaki TAKEBAYASHI Fumi TAKAHASHI Syotaro ABE
Takashi GOSO Kouhei MIYAZAKI
Construction consultants in Japan are now exploring new business models to cope with the new
environment brought about by the saturation of national infrastructure needs and the prospective decline
of population size in Japan. To restructure business models, one needs to examine business contents and
fee schedules as well as how risks are borne. In this report, we investigated how fee schedules are set in
other industries.
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