「メリー・ウィドー」の鑑賞

38.喜歌劇「メリー・ウィドウ」を観る、聴く、歌う
(感想文の筆者:林
久治、記載:2015 年6月 19 日)
(1)前書き
最近、私(筆者の林)は喜歌劇「メリー・ウィドウ」に嵌まっている。まず、私
が本喜歌劇を好きになった経緯を簡単に説明する。私は、1942 年に徳島市に生まれ、
地元の小学・中学・高校を卒業し、1960 年に東京の大学に入学した。それから現在
までの五十数年、私は東京に住んでいる。そのような事情で、私は少年時代からの
親友が東京にいない。
私の数少ない親友の一人は水沢市在住(現在の奥州市)のS君である。彼とは小
学・中学・高校が同じで、中学・高校では同じクラスであった。2013 年5月に、中
学の同窓会が徳島で久しぶりにあった。この同窓会の後で、私はS君と眉山の山頂
に行って、モラエス館を見学した。この時が、私のモラエス研究の契機となった。
本感想文の8回/fから34 回/fまでに、私のモラエス研究の成果を記載した。なお、
私は今後も、モラエス研究の続編を発表する予定ですので、ご期待下さい。
私の別の親友・K君は、大阪府寝屋川市在住である。彼とも小学・中学・高校が
同じであったが、同じクラスであったのは中学だけであった。中学の私たちクラス
では、天文、登山、自転車が盛んであった。私はこれらの総てを級友たちと楽しん
だが、私は総てが中途半端であった。天文学は夜の仕事なので私は深入りをしなか
ったが、S君は天文学者になった。私は本来、「宇宙や生命の起源」に興味があっ
た。しかし、そのような難しい問題を研究する職業に就く自信がなかったので、自
然の一端に触れようと思い化学者になる選択をした。
私は登山や自転車にも深入りをしなかったが、K君は中学時代に徳島から室戸岬
まで自転車で行ったそうである。気の毒にも、K君は高校時代に腎臓を悪くして、
現在まで治療が続いている。不幸中の幸いで、彼は未だ人工透析には至っていない。
このような病気を持ちながらK君は、大阪で就職していた間、琵琶湖を自転車で廻
ることを趣味としていた。定年退職後も、K君は毎日夜明け前に起きて、淀川のサ
イクリングコースを自転車で廻っていた。このようなK君のもう一つの趣味が、オ
ペラ鑑賞である。彼がオペラを好きになったのは、中学時代に学校から団体で「カ
ルメン」を見に行った時であった。私もその時を憶えている。オペラに直接触れる
機会がなかった地方都市・徳島の体育館で、彼の感じた感激は想像できる。
K君によれば「最近は、よいオペラは東京でしか見えない」そうで、彼はどこか
のオペラ会員になって、一年に2-3回、東京にオペラを観に来ている。年金が少
ない彼は、大阪-東京間の交通にバスを利用している。私は 2002 年3月に理研を定
年退職したが、それ以来はK君が東京に来る時にはいつも、私は彼と会ってよもや
ま話をしている。文系のK君は科学にも興味があり、私に色々と質問をして呉れる
し、大阪では私の娘の講演会にも聞きに来て呉れた。
そのようなK君は、NHK衛星放送で色々なオペラを観て、そのコピーを何枚か
を私に送って呉れた。私はオペラも一応は好きであるが、例によって深入りをして
いない。大概のオペラは何を歌っているか分からないし、長くて退屈であるからで
ある。しかし、喜歌劇「メリー・ウィドウ」(2005 年メルビッシュ音楽祭で収録)
だけは例外で、楽しく鑑賞している。今回は、私の鑑賞の一端を紹介してみよう。
(2)喜歌劇「メリー・ウィドウ」の紹介
喜 歌 劇 「 メ リ ー ・ ウ ィ ド ウ 」 (原題: Die lustige Witwe 、 英語: The Merry
Widow)は、オーストリア・ハンガリー帝国に生まれたフランツ・レハール(Franz
1
Lehár, 1870.4.30-1948.10.24)が 1905 年に作曲した3幕からなるオペレッタであ
る。(なお、1905 年は丁度、ポルトガル人モラエスが日本人妻・ヨネと神戸で幸せ
に暮らしていた時期である。)
本オペレッタの全編を「You Tube」で鑑賞しようとすると、まともなのは英語版
しかない。(ドイツ語の歌詞は韻を踏んでいて心地よいが、英訳には韻がないので
つまらない。)私が調べた「You Tube」上での動画は以下の通りである。
①全編:英語/8(1996 年3月 27 日公演:New York City Opera、ハンナは美人)
②全編:英語/U(2011 年2月12日公演:Wichita Grand Opera、ハンナはデブ)
③全編:英語/8(1968 年製作:Jeremy Brett が美声で歌うが画像が悪い)
④全編:ルーマニア語/c (歌詞の意味は不明であるが、ハンナは美人で美声)
⑤全編:ドイツ語/8(変わった演出で、私には理解不能)
⑥全編:英語/M(音声のみ)
⑦映画:ドイツ語/U(1962 年製作で、オペレッタを原作とした映画)
ドイツ語の歌詞で、喜歌劇「メリー・ウィドウ」を観て、聞いて、歌うためには、
私がK君から貰った「NHK・2005 年版」(以後、動画Ⅰと記載する)が最善であ
る。これは、彼からの最高の贈物である。彼に感謝しよう。残念ながら、読者の皆
様はこの動画の全体を見ることは出来ない。
次善の策として、私は「魅惑のオペラ 16 巻:メリー・ウィドウ」(小学館 DVD
BOOK、2008 年発行、価格:3800 円+税)を推薦する。この DVD(以後、動画Ⅱと記
載する)も、メルビッシュ音楽祭での収録であるが、1993 年版なので私の 2005 年
版より録音技術が劣っており、アリアや重唱の発音が不明瞭である。しかし、1993
年版の録画でも画面は綺麗で、本オペレッタを堪能するには充分である。しかも、
各種の解説やアリア・重唱の対訳が付いているので、本オペレッタを観て、聞いて、
歌うために便利である。
なお、喜歌劇「メリー・ウィドウ」の抜粋としては、「You Tube」上の次ぎの動
画が優れている(抜粋:ドイツ語/8)。この動画は音声だけであるが、本オペレッ
タの序曲や有名なアリアや重唱を、聞いて歌うためには重宝である。ただし、歌詞
が記載されていないので、一緒に歌うためには対訳を用意する必要がある。
喜歌劇「メリー・ウィドウ」の場所と時代の設定は 1890 年代のパリである。主要
な登場人物は以下の通りである。
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ポンテヴェドロ王国(東欧にあるとされる架空の小
国)のパリ公使館に勤務する書記官。退役近衛兵中尉。かつてハンナと恋愛にあっ
たが、身分違いということで結婚できなかったという経緯がある。以後、パリで独
身生活を楽しんでいる。
ハンナ・グラヴァリ:大富豪の未亡人。ダニロとの恋の後、ポンテヴェドロ王国の
経済を左右する大銀行家グラヴァリと結婚する。しかし、老齢のグラヴァリは結婚
8日後に死亡し、ハンナは慣れないパリで暮らしている。
ミルコ・ツェータ男爵:パリ駐在のポンテヴェドロ公使。
ヴァランシェンヌ:ツェータ男爵の若い妻。
カミール・ド・ロシェン:パリの伊達男で、ヴァランシェンヌを恋慕している。
クロモウ:パリのポンテヴェドロ公使館の参事官。
オルガ:クロモウの夫人。
ラウル・ド・サン=プリオッシュ:財産目当てにハンアとの結婚をもくろむ。
2
カスカーダ子爵:財産目当てにハンアとの結婚をもくろむ。
ニェグーシ:公使館の書記。台詞役。
それでは、喜歌劇「メリー・ウィドウ」の3幕を以下に紹介する。なお、私(筆
者の林)の意見を緑文字で記載する。
(3)第一幕:ポンテヴェドロ王国のパリ公使館
序曲
①全編:英語/8や②全編:英語/Uの最初の部分でご鑑賞下さい。(この序曲は、
「オペレッタ・こうもり」より芸術性は劣るが、「メリー・ウィドウ」の全編に使
われる旋律が乱舞して、大変楽しい序曲である。)
第 1 曲 「 導 入 曲 」 ( ツ ェ ー タ 男 爵 ら ) : Introduktion “Verehrteste Damen und
Herren”
ポンテヴェドロ国王の誕生日パーティが同国のパリ公使館で開かれている。一同
がポンテヴェドロを称える中、公使のミルコ・ツェータ男爵の挨拶が歌われる。実
はツェータ男爵には心配事がある。それは、大富豪の未亡人・ハンナ・グラヴァリ
が、他の男性と再婚してしまわないかということである。彼女も今パリに住んでお
り、彼女が再婚すれば、その莫大な財産はすべてその男の者になってしまう。しか
し、その相手が外国人であれば、小国ポンテヴェドロの財産を持ち逃げされてしま
うようなものである。
愛国者のツェータ公使にとってはこれを何としても阻止しなければならない。そ
のために今日の夜会に彼女を招待し、ダニロ・ダニロヴィッチに彼女を誘惑させよ
うという算段をしているのである。
第2曲「私は貞淑な人妻」(二重唱:ヴァランシェンヌとカミール):Duett ”Ich
bin eine anständ'ge Frau.”
ツェータ達の退場後、うら若いツェータ夫人・ヴァランシェンヌと恋人のフラン
ス男・カミーユが登場。カミーユはヴァランシェンヌの扇子に「Ich liebe dich.」と
書いて言い寄るが、彼女は「私は貞淑な人妻です」と一応答える。
図1.Melanie Holliday (S):彼女の年齢は不詳である
が(多分、1951 年生まれ)、いつも若作りである。
整形美人であろう。さて、本曲は準主役のヴァラン
シェンヌとカミールとが歌う有名な曲である。若手
のソプラノが溌剌と歌うと気持ちがいい。本曲を歌
っている次のサイトのソプラノは若くて可愛い(若
いソプラノ/E)。しかし、私が「永遠の美女」と憧れ
ているメラニー・ホリディはもう決して若くない
が、次ぎの動画で本曲を素敵に歌っている(メラニ
ーの歌/k)。
第3曲「ハンナ登場の歌」(ハンナの独唱と男達のアンサンブル):Entrée-Lied
von Hanna “Hab' in Paris mich noch nicht ganz so aklimatisiert,----“
3
そこへ、ハンナ到着の知らせが入る。彼女は周りをたくさんの男達に取り囲まれ
ながら、登場。彼女は「パリの甘いお世辞にはまだよく慣れておりませんの。殿方
が親切なのは、私の人柄のため?私の巨万の富がお目当でしょう。」と歌う、男達
は彼女の財産のことを当然知っているので、言い寄る言い寄る。
ハンナは本オペレッタの主役であるので、観客は「どんなハンナが登場する
か?」と固唾を呑んで待ち受ける。私は若々しい美人で声の通るソプラノが登場す
ることを期待する。②全編:英語/Uの 16:40 に登場するハンナはデブで年増なので、
いくら歌が上手くても興ざめである。動画Ⅱのハンナは美人であるが、録音が下手
で声が通らない。動画Ⅰ(Margarita/Y)のハンナは少々年増で歌もマアマアである
が、彼女の胸が豊かなので私は一応満足している。抜粋:ドイツ語/8のハンナは画
像がないので美人かどうか不明であるが、歌唱力は抜群。Rita Zorn/cの歌は、よく
通って張りがある。
第4曲「ダニロ登場の歌」(ダニロの独唱):Auftrittslied von Danilo
“O Vaterland, Da geh ich in's Maxim, “
ダニロが酔っ払って登場。「祖国よ!昼間は、お前のために苦労している。だか
ら、夜になって骨休みをするのは無理もないこと。だから僕はマキシムに行く。そ
こは、とても居心地がよい。総ての女達を愛称で呼ぶ。ロロ、ドド、ジュジュ、ク
ロクロ、マルゴ、フルフルと。彼女らは僕に大切な祖国を忘れさせてくれる」と歌
う。貴族階級のダニロは庶民のハンナと恋に落ちたが、家族に反対されて結婚を断
念した。ハンナはそんなダニロに当てつけて、大富豪の老人と結婚した。失恋した
ダニロは祖国の近衛兵中尉を退役して、パリに来て公使館に勤めている。傷心のダ
ニロは公務を疎かにして、マキシムの女達に入れあげているのである。
図2.Johannes Heesters (1903.12.5-2011.12.24)はオ
ランダ生まれのテナー。彼は 1992 年に次ぎのサイト
で本曲を歌っている(1992 年/8)。彼の老人力は日
本の田谷力三(1899.1.13-1988.3.30)以上である。彼
が 1961 年に本曲を歌っている動画も次ぎのサイトに
ある(1961 年/U)。色男のダニロとしては大幅に年
を取り過ぎているが、本動画の彼の歌は上手いし、
説明にドイツ語の歌詞があるので一緒に歌うことが
できる。本曲は「メリー・ウィドウ」の中で最も有
名な曲の一つであるので、「You Tube」では多くの
動画が掲載されている。その中で、Simon/IQは一緒
に歌いやすい。異色なのは宝塚・月組/oで、日本語
で歌っているので内容が分かりやすい。
第5曲「家庭という魔法」(二重唱:ヴァランシェンヌとカミール):Duett “Ja
was? ein trautes Zimmerlein, Zauber der Häuslichkeit“
動画Ⅰでは「ダニロ登場の歌」の後に、ハンナとダニロの二重唱で「間抜けな騎
兵の歌」の曲が来る。しかし、動画Ⅱでは本曲は第二幕の「ヴィリアの歌」の後に
来る。従って、本紹介ではこの曲を第二幕で紹介する。動画Ⅰでは、二重唱「間抜
けな騎兵の歌」の後で、再びヴァランシエンヌとカミーユが登場して、第2曲の
「愛の二重唱」の続きを歌う。これが「家庭という魔法」である。多くの公演では、
本曲は多少くどいので省略される場合がある。動画Ⅱでは本曲は省略されている。
4
「You Tube」では、2012 年に米国の Indiana University Opera Theater で収録された
本曲の動画が次ぎのサイトにある(Christa Ruiz/k)。この動画のソプラノは若い美
人で可愛らしいが、テノールは太ったオジサンでいやらしい。
第6曲「第一幕のフィナーレ」(全員):Finale I
“Damenwahl“
動画Ⅱでは、「ダニロ登場の歌」の後に、徹夜で遊び疲れたダニロは寝てしまう。
そこへ、ハンナが登場し、ダニロがイビキをかいているのを見て驚く。いまでも惹
かれあっている二人だが、昔のことを互いに非難しているうちに、ダニロはハンナ
に「僕は君に、愛しているとは絶対に言わない」と誓ってしまう。
ハンナが去った後、ツェータ公使が登場してダニロに「祖国を救えるのは君しか
いない。ハンナと結婚してくれないか」と説得する。ダニロは「僕はハンナと結婚
する気持ちはないが、結婚目的で彼女に近寄る男共を蹴散らしてやります」と言う。
そこへ、全員が登場して「Damenwahl(女性が相手を選ぶ舞踏会)」が始まる。
男達はハンナと踊りたがるが、ハンナは「私が踊りたいのは、私に無関心を装う
方」とダニロに言う。ダニロが「この権利を慈善事業に1万フランで売る」と言う
と、それまでハンナに群がっていた男達はクモの子を散らすように立ち去る。
カミーユが「私が買いましょう」と言うと、ヴァランシエンヌが「彼女に恋した
の?」と詰る。カミーユは「あなたが彼女と結婚しろと言ったじゃないか」と言い
争いながら、二人は立ち去る。ダニロはハンナに「最後の男も行ってしまった。さ
あ踊りましょう」と誘う。ハンナは言葉では拒絶するが、ダニロの甘い誘いに抗う
ことができなくなり、二人でワルツを踊り始める。本場面の舞台動画は少なく、不
鮮明なものが次ぎのサイトにある(Damenwahl/W4)。歌唱のみなら、次ぎのサイト
が優れている(Damenwahl/0)。
(4)第二幕:パリのハンナ・グラヴァリ邸
第7曲「舞踏会とヴィリアの歌」(独唱:ハンナと男女の合唱):Introduktion,
Tanz und Vilja-Lied “Ich bitte, hier jetzt zu verweilen, Es lebt eine Vilja.”
次の日。舞台は、パリのハンナ・グラヴァリ邸。導入曲は民族色豊かなポロネー
ズ。昨日の答礼のポンテヴェドロ風の夜会が開かれている。しばらく民族的な音楽
が演奏されたあと、ハンナ登場。森の妖精の伝説にまつわる歌。「ヴィリアの歌」
を歌う。
図3.Elisabeth Schwarzkopf (1915.12.9-2006.8.3)は
ドイツ生まれで、美貌のソプラノであった。「ヴィ
リアの歌」は「メリー・ウィドウ」の中で最も有名
な歌曲であるので、多くのソプラノが歌っている。
彼女が 1953 年に歌った動画が次ぎのサイトにある
(1953/c)。動画Ⅰにおける第二幕の最初の部分
は、次ぎのサイトにある(動画Ⅰ:Vilja/lQ)。私
はこの導入曲のポロネーズが大好きである。動画Ⅱ
では、第二幕の最初からハンナが登場して、いきな
り本曲を歌い始めるので興ざめである。
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ハンナは「ヴィリアの歌」で次ぎのように歌う。「昔、ヴィリアという妖精が森
にいました。若い狩人が岩山で彼女を見つけました。狩人は森の精をじっと見つめ
ると、激しい身震いに襲われ、憧れいっぱいにため息をつきました。『ヴィリアよ、
ヴィリアよ、森の精、僕を捕まえて、君の恋人にしておくれ。』森の精は恋に病む
若者を岩屋に引き入れ、キスの雨を降らし、すぐに消えてしまいました。もう一度、
彼は別れの挨拶をしました。『ヴィリアよ、ヴィリアよ、森の精、僕を捕まえて、
君の恋人にしておくれ。』」
「ヴィリアの歌」は、かつてハンナとダニロとが恋愛中であった時の二人の気持
ちを歌ったものである。オペレッタでは、このような挿入歌を主役のソプラノに歌
わせることが定番である。ヨハン・シュトラウスの「こうもり」では、主役のロザ
リンデが歌う「チャルダッシュ・Klänge der Heimat」が挿入されている。次ぎのサイ
トの2番目の歌が「Klänge der Heimat」である(Heimat/w)。「Klänge der Heimat」
と「ヴィリアの歌」とを比較すると、前者は芸術性が高いが劇中の必然性が希薄で、
取って付けたような違和感ある。一方、後者は娯楽的であるが、劇中の意味が大き
く、粋な演出である。
第8曲「間抜けな騎士の歌」(二重唱:ハンナとダニロ):Duett ” Lied vom
dummen dummen Reitersmann ”
本曲は、第一幕で第4曲の後で歌われる場合もある。動画Ⅰではそのような演出
である。動画Ⅱでは第7曲の後で歌われるので、本解説ではここで紹介する。「ヴ
ィリアの歌」後で、ダニロがハンナ邸に現れる。ハンナは「娘は口に出さずとも、
恋が始まったことを示すのよ。間抜けな騎士さんは私の気持ちが分からないのね。
間抜けな騎士さんは馬に乗って遠くに行ってしまった。」とダニロに歌いかける。
ダニロは「騎士は笑った。君が望まないならそれまでさ。僕は二度と来ないから」
と答える。
二人はお互いの過去を軽快なやり取りで揶揄しあっている。本曲はコミカルな掛
け合いが面白い。本曲の動画としては、黒人が二重唱で歌っている珍しいサイトが
あった(黒人/I)。これも一興である。歌のみであれば、Rita Zorn/4や抜粋:ドイツ
語/8の5番目の歌が優れている。
第9曲「女、女、女の行進曲」(男性七重唱):Marsch-Septett ” Wie die Weiber
man behandelt“
ハンナは退席し、ダニロが残っているとクロモウ夫人オルガがやってくる。ダニ
ロは、彼女がサン=プリオッシュの愛人であることを聞き出す。続いて、ボグダノ
ヴィッ夫人シルヴィアースが現れる。ダニロは、彼女がカスカーダの愛人であるこ
とを聞き出す。次に、サン=プリオッシュとカスカーダが現れて、ハンナを巡って
争っている。ダニロは二人に「それぞれの浮気相手がオルガとシルヴィアースであ
ることを知っているぞ」と言う。そこに、クロモウとボグダノヴィッが現れたので、
サン=プリオッシュとカスカーダは恐れをなす。
更に、ツェータ公使が加わって、男性七人で有名な「女、女、女の行進曲」を踊
りながら歌う。本曲は「女というものを、男はどう扱うべきか?」と、差別的な男
の本心を歌ったものである。やがて、男性が全員出てきて、「女達の研究は難し
い」と本曲を歌い踊る。なお、七重唱の動画は次ぎのサイトにある(七重唱/A)。
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第 10 曲「戯れの場、ふたりのワルツ」(ハンナとダニロ):Spielszene und
Tanzduett
一同が退場したあと、再びハンナとダニロが登場。意地を張り合う二人に、これ
また有名な「メリー・ウィドウワルツ」がヴァイオリンによって奏でられる。二人
はとうとうハミングからワルツを踊りながら退場するが、まだ完全に打ち解けてい
るわけではない。この場面は、動画Ⅱをご覧下さい。
第 11 曲「二重唱とロマンス」(二重唱:ヴァランシェンヌとカミール):Duett
und Romanze “Mein Freund, Vernunft, Wie eine Rosenknospe“
誰もいなくなったところへ、ヴァランシェンヌとカミールが現れる。
ヴァランシェンヌ「分別をもって、ハンナと結婚してちょうだい。」
カミール「永遠にあなたを諦めろと?バラの蕾が五月の光に花咲くように、僕の心
にも愛の花が咲いた。」
ヴァランシェンヌ「あなたに理性を奪われてしまった。」
カミール「最後のお願いです。お別れのキスを」
ヴァランシェンヌ「ここでは駄目よ」
カミール「ほら、小さな東屋がある。ここなら秘密を守ってくれる。」
ヴァランシェンヌは扇子の裏面に「私は貞淑な人妻です」と書いて、カミールに渡
す。この二重唱も名曲で、特にテナーの聞かせところである。動画は次ぎのサイト
をご覧下さい(バラの蕾/w)。
二人は東屋に入る。それを、公使館のニェグーシ書記が見ていた。ツェータ公使
が現れて、ニェグーシに「東屋で相談しよう」と命令する。ニェグーシは困って
「先客がいます」と言う。ツェータが鍵穴から東屋の中を覗くと、カミールと自分
の妻が中に居るではないか。ツェータは激怒して「扉を開けろ!」叫ぶ。
第 12 曲「第二幕のフィナーレ」(全員):Finale Ⅱ “Ha! Ha! Wir fragen“
騒ぎに一同も登場する。危険を察知したハンナはこっそり、東屋の裏口からヴァ
ランシエンヌだけを逃がし、代わりに自分が中に入り、カミールとともに現れる。
驚くツェータ公使。大ショックのダニロ。追い討ちをかけるように、カミールが
「バラの蕾が五月の光に花咲くように、僕の心にも愛の花が咲いた」と歌い、ハン
ナはカミールとの婚約を発表し「気ままなパリ風の結婚生活がいいわ」と歌う。
心穏やかではないダニロはハンナに「ご結婚のお祝いに、ひとつ物語をさせて下
さい」と、「Es waren zwei Königskinder」を歌う。「自分は今でもハンナを愛してい
る」ということを、「昔の王子と王女の話」に譬えた歌である。ダニロは憤然とマ
キシムに向かう。ハンナは彼の愛情を確信してほくそえむ。「 Königskinder」の歌
から第二幕のフィナーレまでの音声動画は次ぎのサイトにあります(王子と王女
/c)。このサイトの「 王子と王女」の歌は明瞭で一緒に歌いやすい。
(5)第三幕:ハンナ・グラヴァリ邸のサロン
第 13 曲「舞踏の場」(ヴァランシェンヌとグリゼット達):Tanz-Szene
場所は、ハンナ・グラヴァリ邸のサロン。ヴァランシェンヌがグリゼット達を引
き連れて登場し、踊り始める。「メリー・ウィドウ」で一番華やかな見せ場である。
歌と踊りの中心は、ヴァランシェンヌである。彼女を演じるソプラノは本喜歌劇の
7
準主役で、一流のダンサー達を従えて歌い踊る役割で、しかも若くて美人でなけれ
ばならない。
図4.グリゼットの服装
グリゼットは 19 世紀後半のロマン主義時代
のパリの娘達である。グリゼットとは元来
「灰色の粗布」のことを、次いでそういう生
地の衣服をまとった娘を指す語であったけれ
ども、やがて、そんななりをした若い娘たち
の一般的傾向からか、「低い身分の浮薄な素
行の女」の意味を帯びるようになり、ロマン
主義時代には「お針子や縫取りなどの職につ
き、若者に簡単に口説かれてしまう娘」と定
義される特殊な意味合いを持つに至った。若
者とは一般に学生やボエームと呼ばれた自由
奔放な芸術家たちを指す。
第 14 曲「グリゼットの歌」(ヴァランシェンヌとグリゼット達):Chanson
wir sind es, die Grisetten von Pariser Cabaretten.“
“Ja,
ヴァランシェンヌが「ヤー、私達はパリのキャバレーのグリゼットよ」と歌い始
め、彼女と踊り子達がダンスを歌い踊る。動画Ⅱでは、次に、特別サービスとして、
オッフェンバクの「天国と地獄」の音楽に合わせて、「カン、カン」が華やかに踊
られる。スカートを前でたくし上げて足を高く上げるとパンツが丸見えである。後
ろ向きでスカートを跳ね上げると、見事なお尻(勿論、パンツを穿いている)が現
れる。湖上では花火が沢山上がる。
図5.ヴァランシェンヌを中心に、踊り子達が「カン、カン」を歌い踊る。
8
観客はこの場面で、若い美女達の誠に官能的でかつ健康的な歌と踊りを堪能する
ことができる。動画Ⅰにおけるヴァランシェンヌの歌と踊り子達の「カン、カン」
は次ぎのサイトに収録されている(カン、カン/A)。次ぎの動画(メラニー/I)では、
メラニー・ホリディが演奏会で、本曲を歌い、足を高く上げて「カン、カン」を踊
っている。本動画の収録年代は不明であるが、彼女はもうかなりの年増になってい
たはずである。彼女は子供の頃からバレーも習っている。オペレッタの女優は歌と
踊りと芝居をこなさなければならない。勿論、美貌は前提条件の一つである。
第 15 曲「唇は語らずとも」(二重唱:ハンナとダニロ):Duett ” Lippen
schweigen“
ツェータ公使に本国から「ハンナの財産が外国人に渡ると、国が破産する」との
電報がくる。公使はダニロに「夫人の心を探ってくれ」と命令する。一同が行って
しまった後、ハンナが現れる。ダニロはハンナに「カミールとの結婚を禁止する」
と言う。ハンナに「なぜ?」と問われても、ダニロは「君を愛している」と言えな
い。ハンナは「カミールとは結婚しないわ」と言って、他の女性を庇うために、東
屋で二人が入れ替わった経緯を説明する。
ダニロは「唇は黙っていても、ヴァイオリンがささやく。愛しておくれ!」と歌
い出す。二人は「メリー・ウィドウ」で一番有名なこのワルツを歌いながら、手を
取り合って「握る手と手に明らかに感じられる。愛している、それは本当だ!」と
歌いながら踊る。動画Ⅱでは録音技術が下手で、ハンナの高音が聞こえ難い。この
甘いワルツを次ぎのサイトでお楽しみ下さい(ワルツ/E)。Rita Zorn/4も良い。
第 16 曲「大詰の合唱」(全員):Schlussgesang
ダニロとハンナが抱き合っていると、一同が現れる。ダニロはツェータ公使に
「グラヴァリ夫人はカミール殿とは結婚しません」と言う。それを聞いて、公使夫
人のヴァランシェンヌはほっと胸をなでおろす。ニェグーシ書記が「東屋にこの扇
子が落ちていました」と公使に渡す。扇子は公使夫人の物で「Ich liebe dich.」と書
かかれていた。公使は夫人に離婚を申し渡して、即座にハンナに求婚する。
ハンナは「亡夫の遺言によれば、私が再婚すれば財産を総て失うのです」と言う
と、公使は求婚を取り消す。それを聞いてダニロは「ハンナ!愛している」と求婚
する。公使は「一文無しの女性に求婚するとは!」と驚く。ハンナは「遺言には、
『私の夫に全財産を譲る』とありますの」と告げる。公使夫人は公使に「扇子の裏
を読んで下さい」と言う。そこには「私は貞淑な人妻です」と書かれていたので、
公使は妻を疑ったことを謝罪する。最後に、全員が「女達の研究は難しい」と歌い
踊る。大詰めの場面は、全編:英語/8や全編:英語/Uの最後の 10 分間をご覧下さい。
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