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2016年2月
『 魔 法の声 』
(2/2・2/22)
私が、今回ご紹介したい本は、
『魔法の声』。
主人公は、本を読むことが大好きな12歳の女の子メギー。本を修繕する仕事をしている父親
モーには、本を朗読するとその物語の登場人物を現実の世界に呼び出してしまう秘密がありま
した。
物語は、過去に呼び出してしまった悪者たちに親子は追われ、
とらわれてしまいます。
さてメ
ギーはその悪にどう立ち向かうのか…!
かなり、読みごたえのある本ですが、読み出したら、先が気になって仕方がありません! ^ ^
はじめまして「ぞろタイ」です!
イラストレーターでもある作者の挿絵も素敵です!
TAKUMIN ARAKI(山の木文庫スタッフ・図書館司書)
著/コルネーリア・フンケ 訳/浅見昇吾 WAVE 出版
『お静かに、父が昼 寝しております ユダヤの民話』
民話というのは、人類の英知が集められたよ
民話には、作られる理由がきっとあり、伝
うで読んでいて楽しい。
このユダヤの民話集は
承され洗練されるにも、理由がある。ユダヤ
38の物語が収められていて、初めて目にするよ
人の民話に、もし歴史的な背景が反映されて
うなお話は、
「なるほど、
これがユダヤっぽいと
いるとしたら、もっとその深いところを知り
いうのかな」などと思うし、反対に、
どこかで耳
たいなと、そんな風に考えながら、読みました。
にしたことがあるようなものもあり、人類の普
遍的な営みを感じたりします。
ヘブライ語文学の翻訳家の母袋夏生さんの
登場する人物や動物にも地域性が感じら
言葉がすっきりと美しく、シンプルに呼吸を
れ、そんな違いも面白いのですが、加えてこの
するように心にしみました。
民話集には、 「ユーモア」が光っているように
思い、
とても面白く読みました。 出久根 育さんの装画・挿絵が、良く知らぬ
ローマ帝国に滅ぼされて以来2千年、
ユダヤ
はるか遠い時代・国を感じられる、空気感ま
人は信仰と伝統を守りながら世界各地に根を
で表現されているような素晴らしさです。挿
おろしてきて、
そこには様々な苦労があり、土地
絵って大切だったんだな……と、改めて思い
の人たちとうまくやっていくのに、何よりもユー
出させてくれるような。
モアが不可欠だったと言われます。
ユーモアは、不思議な魔法です。誰も傷つけ
ブックハウス神保町スタッフH
ることなく、場を和ませてしまう。
とてつもなく、
頭が良くないとできないことかもしれません。
児童文学ぞろ目の日!タイムス 2016 年 2 月 2 日、22 日号
発行:「児童文学ぞろ目の日!」プロジェクト
代表:ほんまちひろ(絵本作家) 編集:田中嘉和 デザイン:角田さつき
E メール:[email protected]
▶「児童文学ぞろ目の日!タイムス」のフェイスブックがあります。
ぜひ、「いいね!」をよろしくお願いします! → https://www.facebook.com/zorome55
▶ この「児童文学ぞろ目の日!タイムス」は、ダウンロードし、
各自で印刷して頂けます。
▶ 各紹介文の無断転用はお控えください。
お問い合せ等につきましては、上記、メールアドレスへお送りください。
毎月ぞろ目の日に、児童書の作り手や届け手、
それは、素敵な本について、みんなで話すこと。
絵本や児童文学を心から愛する人たちが、
児童書文化の豊かな世界に出会う、
イチオシの児童書を紹介する活動が、はじまりました。
ちいさなきっかけとなれば、
みんなで児童書を話題にする日があったら楽しそうだな。
関係者一同、
とてもうれしいです。
それが、この「児童文学ぞろ目の日!」です。
と、かたくならずに、まず1 冊を、ぜひ!
『春のうたが きこえる』
この絵本に出会ったのは
軽井沢に住んでいた頃。
編集・訳/母袋夏生
絵/出久根 育
岩波書店
「良い本が未来へ残っていく」ために、できること。
森の中に
まごめやすこさんという
絵本作家のおばさまが
やっている
ちいさな図書館と本屋さんが
あった。
そこには
近所のこどもたちが
いっぱいいて。
なんか
とってもすてきな
場所だった。
アルバイト代をもって
絵本を買いにゆく。
月に一冊。
ゆっくり吟味して
絵本を買った。
しばらくたつと
まごめさんから
「あなたが買う絵本は
わたしの好きな絵本と
一緒なの」
と
少女のような笑顔で
言われた。
軽井沢の冬は
厳しく長い。
でも
そのぶん
春がきたよろこびは
思わず
駆け出したくなるような
解放感にあふれていた。
思い出の
まごめさんのお店で
買った一冊。
『春のうたがきこえる』
大好きな
ページがある。
さいごに ぼくが ふえを
ふいたら
風が でてきた
花が ゆれる
木が うたう
ぼくは かける
友だちも かける
うつくしい日本語と
緻密でデザイン性
あふれる絵。
これって
本当に
こどものための
本なのか?
と
いうくらいの
傑作。
たからものだー。
高品質珈琲と名曲
私の隠れ家 店主
作/市川里美 偕成社
『はしれ、トト!』
今日、紹介する児童文学は韓国の絵本です。好き
な絵本ですが、
日本でも翻訳されています。
表紙を見るとわかるように、迫力のある絵が印象
的な絵本です。
おじいさんと一緒に競馬場に行った少女の目の前
に、
ダイナミックな風景が広がり、少女の好きな馬人
形トトとは違う本物の馬が現れます。
かっこいい∼!
韓国版と日本版で、表紙が違うのも面白いです。図
書館やインターネットでご覧になれます。
Kim Soojin(図書館司書・韓国)
作/チョ ウンヨン
翻訳/ひろまつ ゆきこ
文化出版局
『ティリーのねがい』
『おむすびにんじゃの おむすび ぽん』
[おむすびの匂い。]
この本に出会ったのはずっと昔、小さな子供の頃のことです。
その当時、毎日のように通ったデパートの中にあったお気に入りの本屋さん。妹と二
海苔のついた
おむすびの匂いをかぐと
人、宝物の山の中から 素敵な一冊を探すのに夢中でした。
周りを見渡せば、同じように夢中になっている子供たちばかり。最高に幸せな空間でし
小学生の時の
お弁当を思い出す。
た。
そんな時、妹がみつけた一冊が
『ティリーのねがい』
でした。
今でも思い返すだけで、
ワクワクして読み返したくなる絵本です。
美しいドールハウスのお家から飛び出した、人形ティリー。小さな体のティリーですが、
夏休み。
大きな勇気と知恵と行動力で、居心地の良いお家探しの旅に出かけます。
友達と
市民プールで
泳いだあと。
お金を出せば、欲しいモノや環境は手に入る事はあるかもしれない。
でもまずは、
自分
の力を信じて、頭をクルクル回転させて、少し面倒でも心にある想いに挑戦したいな! と、勇気をくれる作品です。
長田直美(私の隠れ家スタッフ&絵描き)
作/フェイス・ジェイクス
訳/小林いづみ
こぐま社
「お昼寝前に、
ミニカーのとりっこでけ
と、
このように、押し入れに入れられ
おじいちゃんになった時にも、
この『お
んかをしたさとしとあきらは、先生に叱ら
るというのは、私が子どもの頃にはふ
しいれのぼうけん』は読んであげるだ
れておしいれに入れられてしまいます。
つうにあることだったのですが、最近
ろう、
と思っています。
そこで出会ったのは、地下の世界に住
の家には、押し入れがありません。今
本文はほとんどがモノクロの挿絵な
む恐ろしいねずみばあさんでした。
ふた
の私の家にも、押し入れはありません。
のですが、数点、カラーの挿絵が使わ
りをやっつけようと、追いかけてくるねず
「押し入れに入れられる」
ということ
れています。作り手の意図が実に効果
みばあさん…」
に、子どもたちは実感があるのかな?
的に発揮している、
とうだけでなく、
そ
とも思ったりしたのですが、そんな
れがすごくおしゃれ、
です。
こうして、2人の、手に汗にぎる大冒険
ことには関係なく、押し入れの中のス
でも結局、
「 押し入れ、怖い」
という
が始まります。累計200万部を超える、
リリングさと ファンタジア を、存分に
感情は、今の子、
これからの子が味わ
おなじみのロングセラーです。
楽しんでいました。
たくさん使われてい
うことは無いのかな?
自分の子どもに読み聞かせた本の中
る挿絵も、子ども達の想像力を大きく
でも、人気の1冊でした。約80ページと
助けています。
かなりのボリュームで、寝る時に読むに
1974年の初版ですので、描かれて
ははなはだ長いのですが、
それでも何度
いるねずみの国の情景は、私からする
か完読したように記憶しています。子ど
と子どもの時代の日常感ままの「リア
もたちも好きだったのですが、読んでる
ル」
ですが、今の子たちにとっては明ら
私自身も面白くて、飽きずに繰り返し読
かに古い。
それが逆に、
ファンタジーの
世界をより強固に成立させているのか
もしれません。
さくら保育園で怖いものは2つ。それ
は、
「おしいれ」
と
「ねずみばあさん」。
さと
代性には関係が無いので、
「押し入れ」
に実感があろうと無かろうと、物語と
悪いことをすると
(といっても、おもちゃ
しての構成がしっかりとしていれば、
わ
を片付けない、
とかですけど…)、押し入
くわく・どきどきを子ども達の心にちゃ
れに入れられました。
はい、私は、経験者
んと喚起するのですね。暗い中には、
です。
あの暗い中の心細さと、
じわじわ湧
異世界への扉がたくさん存在している
いてくる恐怖。
のです。
て!!
(涙)」
田中嘉和(ひとえブックストア 店主)
さく/ふるたたるひ たばたせいいち
童心社
最近
「隠れ家」
のお弁当は
おむすびにしている。
本間ちひろという
絵描きの描く絵は
表情がゆたかで
工夫した
つもりだ。
見ているこっちまで
その絵の表情が
うつってしまう。
ディスプレイを見て
お姉さんたちは
わあ、
おむすび!
おいしそう!
よろこび
たのしさ
いとおしさ。
と
笑顔をみせる。
こどもたちに
つたえる。
読むたびに
胸に刻む。
わすれては
いけない。
たくさんのこと。
こどもにも
おとなにも
伝えてくれる。
すばらしい絵本です。
日本の食文化の
すばらしさ。
『おむすびにんじゃの
おむすび ぽん
おむすびをつくろう』
という絵本がある。
高品質珈琲と名曲
私の隠れ家 店主
そして
最後のページ。
にこにこした
おむすび顔の家族が
昔ながらのつくりかたの
おむすびをむすんで
遠足にゆく。
土井善晴さんの文章。
何度読んでも
泣いてしまう。
作/本間ちひろ 監修/土井善晴 リーブル
『ねこのジンジャー』
『 はじめまして ねこのジンジャー』
2 月22 日、
ニャーニャーニャー!の猫の日にちなんで、猫の本を2 冊ご紹介します!
いずれも、今、我が家に来たニャンズと先住猫のこと…、
もろもろの悩みを解決するヒントが隠されていて…、
ストーリーや絵も
大好きなのは、
もちろんの事、今の私のバイブルになっております。
TAKUMIN ARAKI(山の木文庫スタッフ・図書館司書)
悠々自適の猫のジンジャーの暮らしの中に、
ある日…新入りの子猫が加わります!
ジンジャーは、戸惑い家出をしてしまいます!
さて、
ジンジャーは、子猫を受け入れることができるのでしょうか?
作/シャーロット・ヴォーク 訳/小島希里 偕成社
もっとも、
ファンタジーの本質は時
しとあきらのように、
むかしは家庭でも、
「おもちゃ、ちゃんと片付けるから、出し
アルミホイルに
つつまれた
母親がむすんだ
おむすび。
『おしいれのぼうけん』
めた、
ということだと思います。
けだるい空気と
水筒の麦茶。
働いてる
お姉さんたちが
食べやすいように
大人になってから、児童書っていい
なあと、改めて思うことになった1冊。
こちらは、前出のジンジャーがまだ野良猫だった頃のお話。
女の子テレサがジンジャーと仲良くなろうと辛抱強く、
あの手この手で誘います。
さて、
ジンジャーとテレサは、仲良くなれるのでしょうか?
作/シャーロット・ヴォーク 訳/小島希里 偕成社
『ピーターサンドさんのねこ』
たくさんのねこたちと、そしてそれ
を取り巻くいろいろな人たちとのお話
です。
ニューヨーク州ホタル島。本土から
毎年楽しいバカンスにやってくる人た
可愛らしい装丁、そして、人気バツグン
の〝ねこたち のお話、
というと、なんと
なく内容が想像できてしまいそうです
が、実はこの本の内容は、
かなり骨太。
―本当に動物を愛するということが、
ど
たんたんと、ただ、行動をたどっている
だけ。
それなのに、いえ、だからこそ、寡黙
な
(と思われる)
ピーターサンドさんの
想いが、深く読み手に迫ってきます。泣
ちで夏はにぎわいますが、夏以外の時
ういうことなのか。
けてきます。
台守だけになる、
という島です。
すということが日常となってしまってい
書かれたのは、奥付を見ると1950
期は、漁師のピーターサンドさんと灯
ピーターサンドさんはそれでも全然
―何かを手軽に手に入れ、手軽に手放
ないか。
―相手を思いやる(人でも、動物でも)
年代のようです。その時代のアメリカ
の背景をちょっぴり感じる部分もあ
寂しくありませんでした。数えている間
という気持ちは、
どう大切なのか。
り、でも、半世紀以上経った日本でも
の、
たくさんの猫と一緒に住んでいた
する大人の存在とは。
にも、とても魅力を感じました。人間
に
(たくさんすぎて)眠ってしまうほど
からです。
この島にバカンスにくる 別荘の住
人 たちは、
ちょっぴり自分勝手で、夏
の間だけ別 荘で一 緒にいられる猫
(野良猫も含め)
を毎年欲します。
だか
ら、自由に家と外を行き来するピー
ターサンドさんの猫たちは、外を歩い
ている時に、
その人たちに捕獲(!)
さ
―子どもを一人の人間として対等に接
―無知や軽薄は、悪や罪となることが
ある。
このような、現在の日本でも起きてい
るだろう社会的問題を、改めて考えさせ
られるような、
テーマが見え隠れします
(深読みしすぎかもしれませんが)。
また、隅々まできちんと描写されて、
れてしまいます。別荘の住人たちと一
すべての人たちの性 格がきちんと伝
るとピーター サンドさんの 家 に戻
荘の住人たちが、無邪気に夏の間だけ
緒に夏を過ごした猫たちは、夏が終わ
る・・・なんてことが毎年なんとなく恒
例になっていました。
ピーターサンドさ
んは、別荘の住人が夏の間ねこたち
を可愛がってくれていると信じて、
目を
わってくるところは見事です。軽薄な別
ピーターサンドさんのねこをさらってい
文学だから、
ではなく、
ひとえに、作家の
いくことを余儀なく
(突然)
されてしま
いました。
それは、
ピーターサンドさんとその
ねこたちの運命をかえるきっかけと
なったのです。
ルイス・スロボドキンの非常に味の
ある絵が、大好きです。たくさんの猫
が、ユーモラスに、
とっても可愛らしく
描かれています。
ちょんと注したような
たのですから、ねこが好きでたまらな
い! という方には、
もっともっともっ
と違う風に読めるかもしれません。
よい1冊です。
ブックハウス神保町スタッフH
極悪人が登場しないのは子供向けの
才能だと思いました。
ただの、ねこが可愛い本では、全然あ
りませんでした!
・・・なんて、
こういう風に書くと、重く
て読み続けるのが辛い物語だと思われ
てしまうかもしれませんが、でも、文体
はあくまで、
シンプル。
ユーモアたっぷり
ふくまれていて、軽快。文章がさらりと、
心触りがよいのです。
ピーターサンドさんの気持ち
(ねこた
色たち。魅力的なマチエール。一言でい
ちをどんなに愛して大事にしているか
す、
スロボドキンの本は、
どれもこれも。
ど文章では表現されていません。
うと、
「とってもおしゃれ」な本なので
ねこ好きなみなさま、
「まあまあなね
こ好き」
の私が、
こんなにも胸を打たれ
き方がされていないところに、好感を覚
ところが、
ある日、
ピーターサンドさ
間、
ねこたちは自分自身だけで生きて
し、
ねこは、
やっぱり可愛い。
動と思われますが、
ただの悪役という書
えます。
へやむなく入院することになって、
その
は、あんまり進歩していないみたいだ
く、
というのは、ずいぶん自分勝手な行
つぶっていました。
んが足をけがしてしまい、本土の病院
まったく違和感ないお話というところ
も)
は、大切なある場面を除いて、
ほとん
作/ルイス・スロボドキン 訳/清水真砂子
あすなろ書房
作・絵/木村泰子 ポプラ社
『かいぶつに なっちゃった』
2月22日、児童文学ぞろ目の日。
私がご紹介するのは、木村泰子 作・絵、ポプラ社、
『かいぶつに なっちゃった』
です。
子どもの時、何度も読んでもらい、
自分でも何度も読んだ絵本。
どうして怪物になっちゃうのか、
ぜひ読んでみてください。
初版は1974年12月で、
2013年4月に新装版が出ています。
原 正和(お父さん童話作家)
『三 越 左 千 夫 少 年 詩 集
どこかへいきたい』
春はどこから来るのかしら。
なんて思うときにひらく
『三越左千夫少年詩集 どこかへいきたい』
(岩崎書店)
千葉の佐原にうまれた詩人の春に、同じ春だと思うのは私も関
東育ちだからかな。
こちらは
「菜の花」
という詩の一節。
花の不機嫌さなど見たことないが
とりわけきょうの菜の花は
機嫌がいい
ふわふわ上気している
(中略)
そよ風が吹くと
頭をふって惜しみもなくふりこぼす
ふくらむ季節の匂い
黄色い幻想
(中略)
際立った美しさとは言いきれないが
想いを染める花娘
心をともす優しさだ
この詩集を持ち歩いておいて、季節の美しさや、人生の小さな曲
がり角にであった時、
自分や誰かのために、一編選んで朗読した
い。夏には
「そうめん」、秋には
「おちば」
の詩。農業の友人には
「い
なごたちにもこだわって」。
お疲れ気味の珈琲店の主には、
「山ぶ
どうジャム」。心をともす優し い詩の言葉たちをひとつ、
ひとつ。
ほんまちひろ
(絵本作家・詩人)
『美しい日本の詩歌⑱
三越左千夫少年詩集
どこかへいきたい』
著者/三越左千夫
画家/こぐれけんじろう
責任編集/北川幸比古
岩崎書店
『ウラオモテヤマネコ』
イリオモテヤマネコ発見50周年を記念して刊行さ
れた本書。作家の井上奈奈さんは、
「(ネコが)人目に
触れないのは、時に裏の世界にいるんじゃないか」
と
思ったのが、本書の成り立ちだそうです。
ハードカバーの表紙に描かれたウラオモテヤマネ
コは、
おなかの部分がくり抜かれています。
そこから、
焦げ茶色の見返しに印刷された、金の星を見ること
ができます。
ちょうど、
ウラオモテヤマネコのおなかの
中に宇宙が広がるイメージ。
「 裏の世界からみれば、
裏が表で表は裏」
という本書の重要な世界観を見事
に表現しています。
ウラオモテヤマネコの仕事は、裏と表の世界を自
在に行き来すること。
ある日、表の世界で、
ネコは美し
い瞳の少女と出会います。
「戻れなくてもかまわないならば、裏の世界へつれて
いってあげるよ」。
こうして2人は裏の世界へと旅立ちます。
私も西表島に行った時に、
どうにかヤマネコを見
たいと思いましたが、
たった数日の滞在ではかないま
せんでした。一方で、交通事故で命を失うヤマネコは
少なくないという現実もあります。井上さんがイメー
ジしたように、裏の世界に隠れていてくれたらいいの
にと、思わずにいられません。
素晴らしく美しい装丁の、少し悲しくもあるファン
タジーです。
田中嘉和
(ひとえブックストア 店主)
絵と文/井上奈奈
堀之内出版