KALS 大学院入試対策講座 受講生の皆様 心理系チュートリアル通信 番外編② 大学院入試に役立つ本 村上宣寛 著『心理学で何が分かるか』 前回は「大学院とは何か」 「研究計画とは何か」について概観できるテキストをご紹介しました。 今回はさらに絞り込んで「 (学問としての)心理学とは何か」 「心理学における研究とはどのようなものか」を分かりやすく概説し たテキストをご紹介します。 他領域から心理系大学院を目指す受験生はもちろん、大学で心理学を専攻している受験生にも再度、心理学の目的や研究アプロー チを再確認するためにぜひ読んでほしい一冊です。 村上宣寛 著 『心理学で何が分かるか』ちくま新書 著者は、心理学を「心のサイエンス」 「心の科学」と定義していますが、これは大部分の心理学者が同 意する立場です。心理学がサイエンスであるためには、 「測定」と「検証可能性」の2つの条件が必須で あり、これをクリアするために、心理学の研究では様々な方法(観察法・調査法・実験法・面接法)を 工夫して使用し、研究を行います。 1 章では、心理学がサイエンスであるとはどういうことか、そしてサイエンスであるために用いる方 法には何があり、使用する際の注意点は何かなどが分かりやすく説明してありますので、ここで心理学 研究のアウトラインを知ることができるでしょう。 2 章以降では、一般的に(時には心理学の研究者にも)広く信じられている事柄について、心理学の研究ではどんな結果が得られ てきたのか最新の研究知見を交えて説明しています。 例えば、 「親の養育態度が子どもの性格・気質に永続的な影響を与える」というテーマは、心理系大学院受験生の研究計画書でもし ばしば見かける人気の高い題材です。 著者は、親の養育態度と子どもの性格や情動との関連を研究した心理学論文を分析し、育児態度が子どもに及ぼす影響はほとんど ないと総括します。これは多くの心理学テキストで示されている結果に反した、かなり意外な結論です。この結論をどのように解釈 するかは個々の読者に委ねられています。 著者はこれ以外にも「長子は長子らしく、末っ子は末っ子らしい性格になる」 「暴力的映像は暴力を助長する」 「うつ病には薬物療 法が有効である」といった様々なテーマに関して、心理学の論文を検証し、その信憑性を検討しています。 この実証的なデータに基づいて検証する著者の態度こそ「サイエンス」と言えるでしょう。 「結果だけを信じるのは信仰で、科学は一種の思考的態度である。どのようにして、その知識が得られたのか、そのプロセスに注 目し、確認する必要がある。だから、オリジナルの文献から見直さないといけない。 」 (p.8) 研究計画書を作成する際にも、この態度は非常に重要となります。 巷で広く流布している常識や、自分の主観、本の受け売りをそのまま鵜呑みにするのではなく、その根拠となる文献にあたり、結果 を自らの考え解釈し、自分の研究につなげていくようにしましょう。 またこの中で扱われている数多くのテーマは、心理学領域の広範囲に渡っており、基本的な心理学知識から最新の研究結果まで分 かりやすく解説していますので、心理学の勉強の際の副読本としても有用です。 著者は、 『心理テストはウソでした』 『IQ ってホントは何なんだ』の著書としても有名です。 一貫して実証的な研究知見を元に論を進めるスタイルは、アカデミックな心理学を知っている人にはそれほど抵抗はないはずです が、その主張は常識として認知されている事柄に対して異を唱える結果となるため、辛口批評として受け止める人もいるかもしれま せん。しかし、先行研究を引用しながら、分かりやすくこれまでの研究知見を紹介する著者の手腕は秀逸ですので、ぜひ心理学の読 み物として、そして科学的思考のお手本として読んでみてください。 名駅校:舘有紀子先生
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