PDF版 - 食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク

生物多様性とは?
-環境・食・農とどうかかわるのか-
2010 年 4 月
天笠啓祐
食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク共同代表、遺伝子組み換え食品いら
ない!キャンペーン代表、生物多様性条約市民ネットワーク運営委員
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生物多様性を考える 10 のポイント目次
第 1 のポイント 3 ページ
生物多様性とは、自然を包括的に保護する考え方であり、自然環境悪化(改善)の指標
でもある
第2のポイント 3 ページ
生物多様性が崩壊するということは、砂山の崩壊にたとえることができる
第 3 のポイント
4 ページ
生物多様性を守るために生物多様性条約が作られ、そのポイントは予防原則にある
第 4 のポイント 5 ページ
地球温暖化と生物多様性崩壊の間には密接な関係がある
第5のポイント 6 ページ
生物多様性条約締約国会議では、先進国と途上国の間で絶えず対立が起きてきた
第 6 のポイント 7 ページ
生物多様性条約は遺伝子組み換え生物の規制を求めてカルタヘナ議定書を作ること
を求めた
第7のポイント
遺伝子組み換え生物は生物多様性を破壊する
8 ページ
第8のポイント
カルタヘナ国内法では生物多様性を守れない
9 ページ
第9のポイント
10 ページ
有機農業・環境保全型農業が生物多様性を守り、食の安全を守り農薬・化学肥料多量
使用や遺伝子組み換え農業が生物多様性を奪い、食の安全を奪う
第 10 のポイント 11 ページ
今年 10 月に名古屋で開催される COP10、MOP5は、これからの地球を豊かにできるか、
貧しくしてしまうのか、その選択の会議である
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生物多様性を考える 10 のポイント
第 1 のポイント
生物多様性とは、自然を包括的に保護する考え方であり、自然環境悪化(改善)の指標
でもある
色々な自然保護の国際条約があります。有名なのが湿地保護のラムサール条約、世界遺産条約、
希少生物を保護するためのワシントン条約や二国間渡り鳥条約、移動性動物の保護を定めたボン
条約などがあり、それぞれ対象が限定されています。生物多様性条約というのは、そうした分野
ごとに分かれていた自然保護の全体をカバーしようという意図で作られました。元々は、1992 年
にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれました国連環境会議、いわゆる「地球サミット」で、
熱帯雤林の保護を主目的として作られた訳です。しかし、熱帯雤林の保護だけではなく、自然界
全体をカバーしようということで作られた条約です。NGO はこの条約のことを「地球の命を守る
条約」と言っています。
なぜ、多様性ということが、自然全体を保護する考え方なのかというと、多様性があって、初
めて生態系が守られるからです。生物は様々な生物種があって、はじめて成り立っています。そ
の種の違いはとても重要なのです。例えば、人間はみんな顔が違います。これもまさに多様性な
のです。なぜ、多くの生物に両親がいるのでしょうか。ごく当たり前になっていますが、例えば、
画一化していると、病気とか災害が起きたときに、全滅する可能性が高まります。違いがあると、
全体が滅びなくてすむ、ある人達は生き残る可能性がある。これは多様な生物種を形成している
理由でもあり、何か起きたときに生き延びられるような仕組みとして、多様性があるわけです。
生物多様性の基本は種の壁にあります。犬からは犬の子どもしか生まれません。猫からは猫の
子どもしか生まれない。当たり前のようですが、そこには厳然とした種の壁があるわけです。生
殖によって完全に分け隔てられている、これが、重要な多様性の基本になるわけです。遺伝子組
み換え技術がなぜ問題なのかというと、この種の壁を壊してしまうからです。
第2のポイント
生物多様性が崩壊するということは、砂山の崩壊にたとえることができる
円錐形の砂山は、ちょっと下の部分を削ると、上から崩れ落ちてきます。このように、一つの
生物種がいなくなると、連鎖的に他の生物がいなくなることを意味します。多様性喪失の事例と
して、ドードーという、不思議の国のアリスという映画で出てきた鳥がいます。ダチョウみたい
な形をして飛べません。モーリシャス諸島に住んでいて、のんびりしているものですから、オラ
ンダ人がやってきて、ドードーを捕獲して毛皮を売ったり、食べたりして、絶滅してしまいまし
た。その結果、モーリシャス諸島の自然が完全に壊れてしまいました。というのはドードーが好
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んで食べるある木の実は、ドードーの糞と一緒に落ちた種子しか生えてこないのです。ドードー
がいなくなったため、モーリシャス諸島を覆っていた木が生えなくなってしまったのです。これ
が生物多様性崩壊の事例です。
イエローストン公園で、危険な動物だということでオオカミを駆除してしまったのです。その
結果、オオカミが食していた鹿やエルフなどの大型動物がものすごく増えてしまったために、そ
の鹿やエルフが食べていた樹木がものすごく減ってしまったわけです。そのため、その樹木を食
料にしていたビーバーが絶滅寸前になってしまった。このように、オオカミ、鹿、樹木、ビーバ
ーという形で、連鎖反応が起きてしまいます。同時に、オオカミがいなくなった為に、コヨーテ
が異常増殖し、そのコヨーテが食べるネズミが減少してしまい、そのネズミを食べていた猛禽類
が来なくなってしまった。
ラッコの乱獲の例もあります。ラッコが毛皮のために乱獲された結果、ラッコがいなくなった
海でウニが大増殖し、そのため海藻類がほとんど失われてしまい、そしてほとんど魚が来ない、
死んだ海になってしまったのです。こういう連鎖反応が起きます。生物多様性は、一つの生物が
失われることによって、たくさんの生物が連鎖反応的に失われてしまうことが大きな特徴といえ
ます。
第 3 のポイント
生物多様性を守るために生物多様性条約が作られ、そのポイントは予防原則にある
生物多様性条約には、アメリカを除くほとんどの国が加盟しています。アメリカは気候変動枠
組み条約や京都議定書にも入っていませんが、生物多様性条約やカルタヘナ議定書にも入ってい
ません。また、この条約がうたっているのが「予防原則」という大事な原則です。
1992 年にリオ・デ・ジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議」で署名成立した
条約が二つあり、一つが気候変動枠組み条約で、もう一つが生物多様性条約です。日本では気候
枠組み変動条約ばかりが報道され、生物多様性条約にはあまり関心がなかったのが現実です。二
つの条約と同時に、環境及び開発に関するリオ宣言と、アジェンダ 21 というのが打ち出されまし
た。
リオ宣言の中の第 15 原則が、いわゆる予防原則です。予防原則というのは、疑わしい状態で
も対策を講じないと、環境は守れないということであり、そのことを明確に打ち出したのです。
アジェンダ 21 は行動計画で、40 の計画分野が出されています。この中で、生物多様性条約に係
わる重要なポイントが、15 番目の生物多様性の保全と、16 番目のバイオテクノロジーの環境上
健全な管理なのです。
すなわち、この条約の重要なポイントは、生物多様性は予防原則に立たないと守れない、とい
うところにあります。
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第 4 のポイント
地球温暖化と生物多様性崩壊の間には密接な関係がある
今、生物種はどのくらいの数あるかというと、諸説ありますが、1000 万種から 3000 万種と幅
があります。エドワード・ウィルソンが書いた「生物多様性」という方の本によると、昔は 1 年
間で 100 万種に 1 種の割合で種が滅んだと推定されています。100 万種に 1 種ですから、全部で
3000 万種とすると、1 年に 30 種が滅亡していったのではないかと言われています。
ところが、現在は、1 日に約 200 種が滅亡しているといわれています。1時間に約8種です。
種の滅亡のスピードが早まっていることがお分かりいただけると思います。大半の生物が知られ
ないうちに滅亡している状況にあります。ただ、その大半が誰も確認しないまま滅んでいます。
今は温暖化のスピードが速まっていると言われていますが、これによって、生物多様性にどう
いう影響が起きるかといますと、海面の上昇により多くの生命が失われたり、北極や南極の生物
が生きにくくなったりします。それだけではありません。一番大きな問題は、生物の移動だと考
えられています。温暖化が進むと、例えば、マラリアを媒介するようなハマダラカのようなもの
が北上してきて、やがて日本本土にまでやってくるのではないか、と考えられています。
温暖化のペースが早まれば、様々な生物の移動が始まります。ダーウィンは「種の起源」の中
で、気候が変わると、生物が一緒に移動すると考えました。一緒に移動すれば影響は少ないので
すが、最近の科学的調査で、移動するにしても、生物種によってバラバラだということが分かっ
たわけです。一緒に移動すれば、その生物が餌とする生物も一緒に移動しますから、そんなに影
響を受けないわけです。ところが移動するスピードや方向がバラバラですと、餌を失ったり、共
生している生物どうしが引き離されてしまいます。そうやって種がどんどん滅んでいく可能性が
あります。ですから、温暖化が進むと、生物多様性は劇的に影響を受けるだろうと予測されてい
ます。
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第5のポイント
生物多様性条約締約国会議では、先進国と途上国の間で絶えず対立が起きてきた
熱帯雤林の保護など自然保護を先進国は主張しました。これに対して途上国は、自然保護を押
しつけ、経済発展を阻害するのか、と主張し先進国と対立が起きました。先進国は自然保護を押
しつけ、途上国は経済発展を求める。これをどう解決していくか議論されました。
その中で特に問題になったのが、先進国が熱帯雤林から資源を持ち去り、それで医薬品などを
開発して、特許をとり、世界中に売り込んでいることです。勝手に資源を持っていってそれで利
益を得ても、資源国には何の還元もないわけです。先進国は開発努力や知的所有権の権利を主張
しました。それに対して途上国は、先進国が得た利益を還元すべきだと主張したのです。これが
今でも続く対立の機軸です。
先進国のこういう行為をバイオパイラシー、すなわち「生物学的な海賊行為」と言います。例
えば、南太平洋にトリスタン・ダ・クーニャ島という孤島があります。そこでは近親結婚が繰り
返されてきたのです。そして、そこに住んでいる人の半分がぜんそく持ちです。そこで、カナダ
の大学の研究者が来て、その島の人々から血液を採取して、ぜんそくの遺伝子を突き止めました。
その遺伝子を分析しますと、将来ぜんそく持ちになるかが分かるわけです。ところがその研究に
お金を出していた企業があり、そのアメリカのベンチャー企業がぜんそくの遺伝子に関して特許
を押さえ、色々な医薬品開発に使うことができるようにしたのです。その利益は一切、血液を採
取したトリスタン・ダ・クーニャ島の人々には還元されなかったわけです。
アメリカの中でも、カナハン病という難病があり、ある大学の先生がカナハン病の親の会に、
病気の遺伝子を見つけたいので、血液を採取させてくれと申し込みました。そうすると、生まれ
る前に赤ちゃんがカナハン病かどうか分かるわけです。それで親は、カナハン病の子どもたちの
血液を採取し提供し、その先生は病気の遺伝子を見つけることができ、その結果、出生前診断が
可能になりました。しかし、ある病院が出生前診断をおこなったときに、その大学の先生から、
あなたは私の特許を侵害しているので、特許料を支払いなさいという請求書が行ったわけです。
その結果、その病院では高額な特許料を支払ってまで診断できなくなったわけです。これに対し
て、血液を提供した親の会がものすごく怒ったわけです。しかし、知的所有権というものは強く、
いくら言ってもダメです。もう権利として保護されているわけです。
この事例は米国内で起きたものですが、様々な領域において、世界規模でこのような海賊行為
が起きており、それに対して途上国は利益の還元を求めました。それが ABS (Access and Benefit
Shearing)
、遺伝資源から生じる利益の配分問題です。途上国の資源を利用して、医薬品などを開
発して利益を上げたときに、その利益を途上国に還元する仕組みを作ろうというのです。2010 年
の名古屋での生物多様性条約締約国会議では、最大の論争点のひとつです。なるべく大きく還元
させようとする途上国と、小さく押さえようとする先進国の争いと考えて頂ければと思います。
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第 6 のポイント
生物多様性条約は遺伝子組み換え生物の規制を求めてカルタヘナ議定書を作ること
を求めた
遺伝子組み換え生物の規制のために作られたのがカルタヘナ議定書、別名、バイオセーフティ
ー議定書です。なぜ遺伝子組み換え生物が生物多様性を脅かすということで特別に議定書が作ら
れたかといいますと、遺伝子組み換え技術は、種の壁を超えて遺伝子を移すわけです。生物多様
性の基本は、種の壁にあるわけで、その種の壁を壊してしまう技術ですから、これは特別に規制
しなければいけないということで、カルタヘナ議定書が作られたわけです。
カルタヘナ議定書のポイントの一つは、前文で予防原則を求めているわけです。これは、疑わ
しい段階で対応を図らなくてはいけないということです。カルタヘナ議定書は国際条約に基づく
ものですから、国際間の移動に焦点を当てています。遺伝子組み換え食品の輸入のように、国際
間の移動を規制するということになります。
そのために第8条で、輸出国に情報の正確さを確保するための法制定を求めています。それと、
輸入国に国内規制を求めています。
また第 27 条で、遺伝子組み換え作物を輸出した時に、環境などに悪影響を及ぼした時に、責任
のあり方と修復の方法、賠償責任の方法などを、4年以内に確立するよう求めています。本来な
ら 2007 年までに作らなくてはいけないのに、未だにできておりません。これも 2010 年の名古屋
での締約国会議の最大の論争点の1つになっています。
2008 年、ドイツのボンで第 9 回生物多様性条約締約国会議(COP9)
、第4回カルタヘナ議定
書締約国会議(MOP4)が開かれました。この会議の中で、
「次回の開催国の日本は敵対的なホス
ト国である」
「名古屋以外の地で行うべきだ」と書かれた NGO のビラが撒かれました。これは、
遺伝子組み換え作物の責任と修復の問題をめぐり、食料輸出国と輸入国の対立が起きているわけ
ですが、日本は食料輸入国ですから、本来ならば厳しい規制を求めるはずです。
ところが、アメリカの代弁をして、規制を弱めようとする発言をした上に、全体的に大枠が決
まりかけていたのに、その合意を妨げてしまったからです。
このように日本政府が米国政府を擁護して反対したので、決まるものが決まらなかった。結局、
2010 年の名古屋まで持ち越されました。その結果日本は、敵対的ホスト国であるというビラが撒
かれてしまったのです。
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第7のポイント
遺伝子組み換え生物は生物多様性を破壊する
遺伝子組み換え作物は現在、菜種、大豆、トウモロコシ、綿という4種類であり、性質として
は殺虫性と除草剤耐性という2種類です。殺虫性作物というのは、殺虫毒素が作物の中でできて、
害虫が作物を食べると、殺虫毒素も一緒に食べて害虫が死ぬ仕組みにしたものです。そのため、
殺虫剤を撒かなくて済むというのがセールスポイントだったわけです。ところが、殺虫毒素で死
なない害虫がものすごく増え始めています。その結果、殺虫剤の使用量が増えつづけてきている
のです。
除草剤耐性作物は、ラウンドアップのような植物をすべて枯らす除草剤に抵抗力を持たせた作
物です。そうするとラウンドアップを撒いた時に、作物以外の雑草がすべて枯れるので、除草の
手間がかからないというので開発されたのです。ところが、ラウンドアップを撒いても枯れない
雑草が増え始めた。そのため、別の除草剤を使うか、手で刈らなくてはいけなくなりました。抗
生物質と耐性菌の悪循環と似たような状況が生まれはじめています。米国では、農薬の使用量が
どんどん増えています。
アルゼンチンの場合は、ほとんど除草剤耐性大豆になってしまったのですが、そこにラウンド
アップを一斉に撒くものですから、生態系が大きく崩れはじめているのです。同時に、ラウンド
アップが人の住んでいるところに飛散していくわけです。現地の子どもたちにガンや障害が多発
しています。
それから野生植物や原生種への、遺伝子汚染が起きています。メキシコはトウモロコシの原産
国です。ここに遺伝子組み換えのトウモロコシが入ってきて、汚染が広がってきております。汚
染が起きると、原生種自体が影響を受けて滅びる可能性が出て来るのです。
昆虫の寿命等への影響も起きています。殺虫性作物は殺虫毒素を作物の中に作るわけですけど、
花粉の中にも殺虫毒素が入っているわけです。その花粉が飛散した時や花の蜜を吸ったときなど、
影響を受けてしまいます。ミツバチの行動に変化が起きたり、短寿命化などの影響が起きている
ことが分かりました。殺虫毒素が水の中に入ると、水生生物に影響が起きるという研究報告も出
ております。その他、豚を使った実験で、家畜の繁殖力が低下するという例もあります。
インドで、殺虫性の綿を栽培したところに山羊や羊を放牧したときに、大量死するという出来
事が起きています。遺伝子組み換え作物が原因かどうかは分からないのですけれども、インド政
府は調査しようとしません。
それから、多様性と対極にあるのがクローン技術です。クローン技術というのは、遺伝的に同
じ生命体を作るわけですから、多様性に反するわけです。しかも、世界中で作られたクローン家
畜を分析したデータによると、30%以上のクローン家畜は生まれる前後に死んでいます。クロー
ン動物が増えれば多様性が奪われるだけではなく、異常の多い動物も増えていく可能性があると
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いうことです。
今は遺伝子組み換え動物も開発されています。3倍のスピードで成長する鮭が作られておりま
す。すごいスピードで成長するのですけども、すごくどう猛になるそうです。例えば他のオスが
近づいてくるとみんな蹴散らしてしまうらしいです。ところが、遺伝子組み換えで成長を早めて
いるものですから、生殖能力が失われているのです。そのため、次の世代が生まれにくいという
問題が指摘されています。さらには3倍のスピードで成長するために、どんどん環境中の有害物
質を取り込んでしまうので、食べ物の安全性でも問題があるという指摘が出ています。さらに、
成長を早めるために細胞分裂を活発にする、成長ホルモンが作り出すタンパク質が増えるわけで
す。そうすると、それを食べたときに、私たち自身の細胞が刺激を受ける。一番影響を受けやす
いのがガン細胞ですから、ガンの促進効果がある可能性があるのです。
第8のポイント
カルタヘナ国内法では生物多様性を守れない
カルタヘナ議定書に基づいて各国でカルタヘナ国内法が作られており、日本でもつくられまし
た。この国内法が、いわゆる「ザル法」です。生物多様性条約やカルタヘナ議定書では、予防原
則が謳われていたわけです。ところが日本政府は、カルタヘナ国内法を作る際に、予防原則はと
らないということを、明確に言っているのです。それから、基本的には、人の健康については触
れないようにしましょうということで外してしまいました。生物多様性条約では、人間も含めた
あらゆる生物を対象にすると書かれているのに、人間は外しましょうということになりました。
また、食品の安全性についても対象外ということで、これも外しました。生物多様性を実に狭い
範囲に限定してしまったのです。このように、日本政府は一貫して、環境よりも米国政府の顔色
や産業界の意向を大事にしてきました。
さらには、この国内法が作られた時に、遺伝子組み換え作物を認可しやすくするために、生物
多様性影響評価の対象を限定してしまいました。すなわち交雑を起こす野生の植物種に限定した
のです。農作物は対象から外しました。当然のことながら、昆虫や鳥などの動物も外しました。
ですから、遺伝子組み換え大豆の評価の場合は、交雑を起こす野生種は一種類しかないのです。
その評価だけでいいことになり、すごく狭い評価にとどめてしまったわけです。
実際に、生物多様性への影響評価は、どういうことを行わなければならないのでしょうか。例
えば、遺伝子汚染が起きて、遺伝子組み換えのブロッコリーが自生していたと報道されました。
遺伝子組み換え作物として流通しているのは、菜種、大豆、トウモロコシ、綿の四種類で、ブロ
ッコリーはないわけです。どうして遺伝子組み換えのブロッコリーが自生していたかというと、
菜種から交雑を起こしたのです。しかし、ブロッコリーは栽培種ですから、影響評価の対象外に
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なるわけです。汚染が拡大し、交雑種が自生していても対策もとらなくてよいことになってしま
いました。そういう現状なのです。同様の事態が、これからどんどん広がる可能性があるわけで
す。
それから遺伝子組み換え技術は、農法の変更による影響ももたらしました。例えば、除草剤耐
性作物の場合、ラウンドアップを一斉に撒く農法です。そうすると、周辺部分の植物もみんな枯
れてしまうわけです。そうすれば、そこにやってくる鳥や昆虫も来なくなってしまうわけです。
そういう生物多様性への影響評価も対象外になっているのです。それと、遺伝子組み換え作物は、
大規模農法に向いておりますので、同じものを大量に植えるモノカルチャー化による影響も起き
ます。そのような評価も対象外です。このように国内法は生物多様性を守るものになっていない、
ひどいものなのです。
農水省は、カルタヘナ国内法が作られた時に、指針を作りました。遺伝子組み換え作物を栽培
する時に、花粉が飛んで影響を受けますので、隣の畑との隔離距離を設けなさいというのです。
北海道で行われた交雑試験結果で、稲についての 2006 年の試験で、どのぐらい稲の花粉は飛ぶ
か試験しましたところ、300m離れたところでも交雑が起きることが分かったのです。それで 2007
年には、600m離してみたが、それでも交雑が起きました。2008 年には花粉飛散防止用ネットを
用いた実験を行いましたが、ネットをしてもほとんど変わらないことが分かりました。ところが
農水省の指針は、30mなのです。これが、いかに非現実的かがお分かりいただけると思います。
そう考えますと、とても農水省の指針では守れないということが分かります。
第9のポイント
有機農業・環境保全型農業が生物多様性を守り、食の安全を守り農薬・化学肥料多量
使用や遺伝子組み換え農業が生物多様性を奪い、食の安全を奪う
最近でも、農薬の使用がミツバチの群れ崩壊させるなど、相変わらず生物多様性への悪い影響
が報告されています。遺伝子組み換え大豆畑の拡大が、熱帯雤林の消失を加速させています。そ
れに対して、農薬を減らしたり冬水田んぼなどを行い、渡り鳥が増えたり、いったんいなくなっ
た動物が戻ってきたりしています。田んぼの生き物を調査した場合に、農薬を使いますと、一辺
に生物の種類が貧困になります。昆虫も、植物も、生態系も、簡単に貧しくなってしまいます。
有機農業や自然農法農業など環境保全型農業を行いますと、生物種は豊かになります。昆虫も戻
って来ますし、植物や雑草の種類もすごく豊かになって来て、生物多様性を実感します。
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第 10 のポイント
今年 10 月に名古屋で開催される COP10、MOP5は、これからの地球を豊かにできるか、
貧しくしてしまうのか、その選択の会議である
この会議では、3 つの焦点があります。すでに述べた ABS(遺伝資源から得られる利益の途上国
への還元問題)問題、遺伝子組み換え生物がもたらす被害に対する「責任と修復」問題、そしても
うひとつが、ポスト 2010 年目標です。
2002 年にオランダで開かれました COP6で、2010 年目標が設定されました。これは、アバウ
トな目標で、2010 年までに生物多様性の損失速度を顕著に減速させるというものでした。この検
証が名古屋で行われて、新たに、ポスト 2010 年目標というものが設定されます。
「名古屋ロード
マップ」と呼ばれるもので、今度は、アバウトなものではなく、数値目標を含めた、かなり細か
い目標値が設定されることになりそうです。この間、日本政府がまとめた目標を見ますと、あと
40 年後の 2050 年に「生物多様性の状態を現状以上に豊かにする」という設定です。非常にアバ
ウトで、しかも、あまりにも先の目標値の設定なものですから、世界中の環境保護団体からブー
イングが起きているところです。
これら 3 つのテーマは、これからの地球の自然環境を豊かにするのか、貧しくするのか、重大
な岐路を意味しています。
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