平成28年6月9日 越前市武生東小学校 校長室だより№8 校長のひとり言 共感力を伸ばす 昨日の学校公開日には、たくさんの皆様に学校に来ていただき、マラソン大会の応援や 授業参観をしていただきました。本校児童の日頃の学校での様子を知っていただくよい機 会になったのではないかと思います。子どもたちは本当に一生懸命学習に取り組んでいた のではないかと思います。 火災、地震を想定した避難訓練(6月1日実施) さて、ゴリラやチンパンジー、サルは、私たち人間と同じ霊長類に属していますが、社 会の有り様はそれぞれ異なっています。ゴリラを主たる研究対象として人類の起源を探る 研究をしている、人類学者であり霊長類学者である山極寿一(やまぎわ じゅいち)さん は、その著書『「サル化」する人間社会』(山極寿一著 集英社インターナショナル出版) の中で、今の人間社会は、サルそっくりの社会に変わりつつあると述べています。 山極さんは、人類とサル、チンパンジーの中間としてゴリラを見ています。ゴリラは、 荒くれ者だと思われがちですが、実は人間よりずっと平和主義なのだそうです。ゴリラは 群れの中で序列を作らず、けんかしても勝ち負けを決めずに、お互いに目をじっと見るこ とで争いを避け、相手の気持ちを読むことに長けているとのことです。けんかをしても必 ず仲裁者がいて、オス同士のけんかにメスや子どもが堂々と中に割って入ることもあるそ うです。ゴリラは、「空気を読む名人」であり、共感・共存能力が優れているのです。 一方、サルの社会は勝ち負けの社会であり、力の優劣で上下が決まるピラミッド型で、 強者を頂点に序列を作ります。サルはお互いの気持ちを通じ合わせることはないそうです。 注目すべきことは、ゴリラが食べ物を分け合い、みんなで一緒に食べるのに対して、サル は分け合わず1匹で食べることです。ゴリラの社会基盤が家族であるのに対して、サルは 家族に縛られず、自分の欲求が最優先される個人主義であることです。厳しい自然界の中 では単純にどちらが良い悪いというような言い方はできませんが、考えさせられることが たくさん含まれているのではないかと思います。 図書ボランティアによる読み聞かせ風景(6月3日) ところで、私たち人間の社会はどのような形で成り立っているのでしょうか。人間社会 は、 「家族」と「共同体」の両方に属し、それらを両立させて暮らしてきたという特性があ ります。この2つの集団を上手に使いながら進化してきた点が、人間と他の霊長類を分け る決定的な違いだと思われます。 「家族」は身内を一番に考える集団で、多くを犠牲にし、見返りを期待せずに奉仕する 場です。人間は自分を愛してくれる家族に守られることで、他者に共感し、他の人に何か 役に立つことをしてあげたいという気持ちが育つと言われています。一方、 「共同体」とい う場は、何かをだれかにしてもらったら必ずお返しをするというルールで成り立っていま す。 人間は、家族の中で自分が愛され、大事に育てられたことが基盤となって、他者に共感 し、分かち合い、共生していける社会を作り出してきたと言えるのではないかと思われま す。ゴリラは自分の家族は大切にしても、群れ同士が協力する社会は作れないのです。山 極さんは、この著書で家族機能の崩壊に触れ、今の人間社会が個人の利益と効率性を最優 先し、所属する集団に愛着を持たないサル社会に近づいているのではないかという“警鐘” を鳴らしているのです。 確かに食事を家族と共にしない“孤食”が多くなりコミュニケーション能力の低下が指 摘されるなど危惧される現象が表面化してきている兆しがあることも事実です。家族の機 能が弱体化すれば、共同体機能も弱体化すると思われます。それは人間社会の危機と言え るかも知れません。 2-1授業風景(6月8日) 給食試食会風景(6月8日) しかし、山極さんは次のようにも言っています。 共感能力が発達することで、人間の子どもは他の類人猿にはない「憧れる」と いう能力を持つようになりました。「将来あんな大人になりたい」「社会で、こん なことをしたい」といった気持ちを持って、人間の子どもたちは成長します。 霊長類の中で、人間の子どもだけが憧れを持ち、将来の希望を持つことができるのです。 そう考えると「共感する力」が人間社会を成立させる最も重要なものではないかと考えら れます。それでは、 「共感する力」を子どもたちにつけるにはどうすればいいのでしょうか。 それは、2つあると思っています。1つ目は、家族や身近な人に愛される経験を子どもの うちに持つこと、2つ目は、子ども同士の群れの中で遊びを含む様々な体験をし、やり取 りを伴った活動を繰り返すことなのではないかと考えます。 *引用文献 ○「サル化」する人間社会(山極寿一著 集英社インターナショナル出版) より抜粋引用 ○大豆生田 啓友 (おおまめうだ ひろとも)氏の『「共感力」を伸ばし防 ぐ(日本教育新聞H26.10.20号掲載)』の記事より抜粋引用
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