日本では古くから「白くて小さい、性格も温和で優しい、耳が立って、ぴょこぴょこしている」という可愛い印象 を持たれているウサギであるが、近年は品種によって体型や性格も大きく異なるものが見られる。ウサギは大き な耳を持つという概念も薄くなりつつあり、耳が垂れているもの、顔が丸いもの、あるいは白色でない毛色をし ているものなど多種にわたる。ウサギは現代医学において、病態や生理機能の解明のために実験動物として大 きく役立ってきた。そして、昔から肉や毛皮目的の産業動物としても扱われていたが、現在では使役目的のもの は一部に過ぎず、産業動物としての地位は低下してきた。一方、愛玩目的で飼われるカイウサギの数は増加した が、飼育環境や食餌内容および個々の性格など、様々な諸要因が複雑に絡んで病因になっている。 1.ウサギの基礎 (1)分類 ウサギ目に分類され、本目はナキウサギ科とウサギ科(ウサギ亜科とムカシウサギ亜科)に細分される。カイウ サギはウサギ科ウサギ亜科アナウサギ類アナウサギ属のヨーロッパアナウサギが起源とされ、あるいはその亜 種ともいわれている。本来ヨーロッパのイベリア半島に限局して棲息していたが、人の手で移入されたのかはと もかく現在は世界中に分布する。 かつてウサギは咀嚼機能が類似していたことから、げっ歯目に帰属する科とされていた。しかし上顎の小切歯 が見られることから、重歯類という名称が使用されていたことがある。現在は特異的な顎と歯列の形態は、げっ 歯目に対する収斂現象と解釈され、ウサギ目 (重歯目) と新たに分類された〔Layne 1967〕。むしろウサギ目は偶 蹄目に近いことも示唆されている〔Nowak1999〕。 本邦では、アナウサギ属のウサギは存在せず、ナキウサギ 科のエゾナキウサギ(北海道の山岳地帯に棲息)、ムカシウサギ亜科・アマミノクロウサギ属のアマミノクロウサ ギ (奄美大島と徳之島に棲息し、1963年に天然記念物に指定される)、ノウサギ属のユキウサギ (北海道に棲息)、 ニホンノウサギ(トウホクノウサギ、キュウシュウノウサギ、サドノウサギ、オキノウサギの4亜種に細分化される)の 2科3属4種のみが棲息している。エゾナキウサギとアマミノクロウサギの分布は限られ、個体数の減少が懸念さ れている。ニホンノウサギとアマミノクロウサギは日本固有種でもある。しかし、近年はアナウサギ(カイウサギ) が野生化した例が本邦の各地で多数報告されている。 <表1:ウサギの分類>〔今泉 1988〕 ウサギ(重歯目)Lagomorpha ナキウサギ科 Ochotonidae ナキウサギ属(キタナキウサギ) ウサギ科 Leporidae ムカシウサギ亜科 アマミノクロウサギ属(アマミノクロウサギ) メキシコウサギ属 アカウサギ属 ウサギ亜科 ノウサギ類 ノウサギ属(ニホンノウサギ) アナウサギ類 アナウサギ属(ヨーロッパアナウサギ) ブッシュマンウサギ属 アラゲウサギ属 ウガンダクサウサギ属 ワタオウサギ属 ピグミーウサギ属 スマトラウサギ属 1 【アナウサギ】Oryctolagus cuniculus〔今泉1988〕 英語名:Rabbit 身体:頭胴長38-50cm、尾長4.5-7.5cm、耳長6.5-8.5cm 原産:イベリア半島とアフリカ北西部(ヨーロッパ西部、オーストラ リア、ニュージーランドへは移入された) 生態:草原や森林、草木のある丘陵地帯に棲息し、1頭ずつ巣穴を 掘り、群集生活を行う。巣穴はワレン(warren) と言われ、多くの入 口と緊急用出口のある複雑な形態をする。巣穴のトンネルは約 15cm、部屋の高さ30-60cmであり 〔本〕、部屋は巣室、トイレなどに 分別されている。年長のメスはメインのトンネルに巣をつくるが、順 位の低いメスは出産のため短い行き止まりの巣穴を掘る。母親は 1日1回授乳のために通い、入口は常に土で塞がれている。基本的 に夜行性であり、成体は植物の葉、茎、根、そして穀類あるいは栽 カイウサギ(アナウサギ) 培食物などを摂取している。 アナウサギ属のように人為的に全世界に持ち込まれ、繁殖力の強さもあり、過剰に大繁殖している種類も いるが、一方では、野生のウサギは世界中で12属78種(うちナキウサギ属は1属25種)ほどしか存在せず、 1996年の国際自然保護連合(IUCN)の新基準によるレッドリストにおいては、絶滅に瀕するウサギとして41種 類が掲載されている。 以下、本稿でウサギと明記されるものは、一般的にアナウサギが起源である飼育下のカイウサギを指す。 (2)形態と生態 ウサギ科のウサギの生態を説明するにあたり、表1のように便宜上、ムカシウサギ類(ムカシウサギ亜科)、ノウ サギ類(ウサギ亜科)、そしてカイウサギが属するアナウサギ類(ウサギ亜科)に分けて解説する。 ムカシウサギ類は本来13属が属していたが、現在、アマミノクロウサギ、メキシコウサギ、アカウサギ3種の他 は全て化石種である。ウサギ科の祖先でもあるムカシウサギの化石に歯や骨格が類似していることから、ムカシ ウサギ亜科と属され、生きた化石とも呼ばれ、原始的なウサギと称されている。耳介と眼は他のウサギ類と比 較しても著しく小さい特徴的な形態を備えている。前後肢ともに短く、爪は強靭で大きい。一方、ウサギ亜科で あるノウサギ類とアナウサギ類の身体はムカシウサギ類と比較して大きい。ノウサギ類の耳介は特に長くて四肢 も長い。迅速性のある跳躍型の走行を行い、運動能力が高い。母親は育仔性を持ち、新生仔は有毛開眼の早成 型で、出生後に自ら行動できる状態にある。成体では冬季になると被毛が白色に変化する種類もいる。アナウ サギ類の体幹はノウサギ類よりは短くて筋肉質で四肢も短い。新生仔は無毛閉眼の状態で出生し(晩成型とい う)、自ら体温調節も行えない。母親は育仔性を持たず、世話や授乳回数が少ない。なお、アナウサギ類とノウ サギ類を外観上明確に区別することは容易ではない。 カイウサギはアナウサギ類に属し、アナウサギ属のウサギは人為的にヨーロッパ、オーストラリア、ニュージー ランド、南アメリカなどに導入されて定着した。一方、ノウサギ類は種類が豊富で、北極から熱帯砂漠地方まで 広範囲に分布し、ウサギ目のなかでも最も成功した種類である。なお、アナウサギ類とノウサギ類は染色体が異 なるために交雑種は存在しない。 ノウサギ類とアナウサギ類は元来、夜行性であり群居する。アナウサギ類は生活範囲が約数ヘクタール、ノウ サギ類は数10へクタールと言われている。アナウサギ類は名前の通り、トンネルを掘り巣穴を作る。トンネルは複 雑な形態をしており、ワレン(warren) といわれる。天敵に襲われないように、通常は巣穴に潜りこんで隠れ、社 会的秩序がある2-8頭の成体と仔からなる群居性を持つ〔McBride 1988〕。ノウサギ類は巣穴を持たないため、 遠方に逃走し植物などの陰に隠れ、単独で生活する。交配期のみ相手を捜し、開けた平野で巣を作り子育てを 行う。行動範囲が広いことも特徴である 〔上野 1992〕。食性は習性完全草食性であり、通常は水分の多い若芽や 葉を好むが、環境が苛酷であると茎、根、樹皮なども菜食する。生活範囲である縄張りの中を移動し探索して食 餌を採る。 ウサギは自然界においては身体の大きさ、および棲息数の多さから、イタチ、キツネ、コヨーテ、オオカミなどの 哺乳類、ワシ、タカなどの猛禽類の餌となる被捕食動物である。生態系の重要な役割を担い、食物連鎖の底辺に 位置する。したがって、多産で繁殖力が高く、天敵から逃避するために多くの特徴をそなえている。視界を広く 2 とるために眼球は頭蓋の横に位置し、耳介も大きく集音の効率を高めるている。跳躍力を得るために骨質を軽 くして体重の軽量化が進み、筋肉を発達させている (走行跳躍型)。これらの特徴は進化の過程でそなわった形 態変化である。 <表2:ノウサギ類とアナウサギ類の比較> (3)歴史 現在のカイウサギはアナウサギを家畜化したもので、古く紀元前25000年頃の旧石器時代に描かれたと思われ る絵画がフランスの洞窟の壁に残されている。初めて飼育されたのは約2000年程前のことで、当時は食用とし て飼育されていた。完全に家畜化されたのは11世紀頃で、当初は地中海付近 (イベリア半島からアフリカ北西部) で飼育されていたが、ウサギは繁殖力が強いために世界各地に広まった。中世の15-16世紀頃にはウサギは修 道院でも飼育されるようにもなり、修道士や修道院に宿泊する人の食料として飼われていた〔鈴木 1970〕 。現在、 オーストラリアやニュージーランドでは、野生化したアナウサギが農地を荒らするために害獣扱いされ、地域に よっては捕獲者に賞金が支払われるところもあった。15-16世紀頃からはヨーロッパ各地に広まり、日本には室町 時代の天文年間にポルトガルから、あるいは16世紀にオランダから渡来してきたと言われている。 本邦でウサギの資料は古代から残されているが、それらの大半がノウサギ類のものであり、アナウサギ類の ものではない。アナウサギは明治時代に中国、アメリカ、そしてイタリア、フランスからも輸入された記録があり 〔稲吉 1952〕、初めは珍重されて愛玩動物として飼育されていたが、当時、あまりにも投機化したために、明治9 年には兎畜税がかけられた。兎畜税はその後廃止され、再び飼育の人気は盛り返した。明治中期から後半にか けては毛皮や毛皮製品化の技術も進歩し、ウサギの実用価値が認識されるようになった。明治以降は日本の軍 事主義が拡大し、日清日露戦争が激化するにつれて、毛皮は衣料用に、肉は食料用に利用され、安価で簡単に 繁殖ができるウサギの飼育が国から奨励されたこともあった。その頃、日本では“白い毛に赤い眼”という日本白 色種が各地で飼育され、一時は600万頭以上が飼育されていた〔鈴木 1972〕。その理由は飼育するスペースも経 費もかからないという利点があったからである。第二次世界大戦後は、家畜として飼われることは激減し、医学 の実験用や愛玩目的でのウサギが多く飼育されている。 3 ★ウサギの数え方 本邦では昔、仏教の教えで動物の肉を食べることは禁止されていた。しかし、鳥肉は問題なかったため、 人々はウサギを摂取する際は鳥と見立てて1羽、2羽と数えたという説がある。また、外観上、肛門と生殖孔が 一つに見えるため、鳥のように1羽、2羽と数えたとも言われている。 (4) 品種〔Official Guidebook.Illinois.The American Rabbit Breeders Ass'n.;1996を参考〕 ウサギは愛玩用に改良され、1800年代オランダなどで品種改良が進み、被毛の長さ、毛並み、毛色などで細 分化され、品種も豊富である。通常は、展覧会(ラビットショー)を主催している欧米の愛好家の団体が、新品 種を認定して詳細なスタンダード種の基準も定めている。小型種から大型種まで、現在約150もの種類が知られ ている。なお、現在本邦で飼育されているカイウサギの多くはミニウサギと言われているが、雑種の小型のウサ ギを指すことが多い。これは品種ではなく、身体の大きさから表した俗称である。本稿に列記した各品種の経 歴については、ARBA(American Rabbit Breeders Association)のガイドブックの論説を参考にした。ARBAと は世界最大規模の非営利団体のウサギの協会であり、展示会を開催し、純血種の地位向上を図る活動を行って いる。 ウサギの各品種は被毛の毛質や色の特徴により大きく分けられ、ウサギの品種の基本的な分類となっている。 【ネザーランド ドワーフ】Netherland Dwarf オランダ(ネザーランド)の小型の野生ウサギとポリッシュ・ラビット (白色被 毛で、赤眼をもつ突然変異の個体)の偶然の交配の結果から作成されたウサ ギである。ドワーフ種の変種の起源であり、本種はイギリスの標準種に改良 が加えられて、1969年ARBAに承認された。 体型は短くコンパクトで、体躯は同幅を保つ。十分発達した後脚と腰部を 備え、身体は丸みを帯びる。頭蓋も丸く頸は短く、尖った耳介も特徴である。 性格は活発で神経質な個体が多く、被毛の色も豊富である。理想体重は雄 雌ともに900gで、カイウサギの中では最小である。 ネザーランド ドワーフ 本種はピーターラビットの原種とされているが、絵本が出版されたのは20世紀初頭であり、本種はまだ確立さ れていなかった。当時からはウサギの理想的な姿はネザーランドドワーフであったのかもしれない。 【ロップ イヤー】Lop Ear 長く下垂した耳介と吻部が短い顔が特徴である。本種の中でも被毛の毛質がウール状であるものはフレンチロ ップ、耳介を長くしたものがイングリッシュ ロップである。本来のロップ イヤーは耳介が長く、その重さで耳が下垂 するが、 ドワーフロップイヤーという品種は、ネザーランド ドワーフが起源であるために、耳自体がかなり小さい。ア メリカン ファジィー ロップやホーランド ロップなどの新種も作成されている。ロップ イヤー種は元来食肉用である ため肥満傾向にあるが、そこがかわいく見えるのが特徴であり、性格も温和であるため人気がある。ARBAでは、 ロップ イヤー種として数種の異なったスタンダードが認められている。 (ホーランド ロップ)Holland Lop フレンチ ロップにネザーランドドワーフを交配して、さらにイングリッシュロ ップと交配させて改良を加えて作成した。ロップ系のウサギの中では最少で あり、体躯は筋肉質で、一般的な外見はコンパクトでどっしりしている。頭部 は適度に大きく、眼の間が特に広い。頭蓋は耳から眼に至るまで丸形で、鼻 にかけては比較的平らであり、頸部にかけては丸々としている。耳介は頭に 接して下垂し、眼の後方あたりで口吻より1- 3cm長く下垂している。理想体 重は雌雄ともに約1.4kgで、性格はおとなしく従順である。1976年にARBAで ホーランド ロップ は初めて見られ、1980年に承認された。 4 (アメリカン ファジィー ロップ)American fuzzy Lop アメリカ西海岸で輸入されたホーランド ロップの毛質を改良するため に、アンゴラをホーランド ロップに交配させて作成した。他種に多く見ら れるような突然変異による品種改良ではなく、品種改良の際にホーランド ロップの中に見られるアンゴラ毛質を持ったウサギ同士を交配して、改 良を加えることにより作成された。ファッジィーとは毛質が柔らかいためで ある。1988年にはじめてARBAに承認された。理想体重はオス約1.6kg、 メス約1.7kgで、オスよりもメスの方が多少大きい傾向にある。体幹は短く 頭部も丸い。耳は頭頂に位置し幅広く垂直に下垂している。体躯のウー アメリカン ファジィー ロップ ルタイプの毛質はかなり密であるが、頭部と耳はウールではない通常の毛 並みで覆われている。性格は好奇心旺盛で、従順である。 【ヒマラヤン】Himalayam ヒマラヤ地方原産で、長い間ヒマラヤ山脈の北部と南部の両方の地域 に生息していると考えられていた。イギリスで改良され、種が確立された ウサギとしては最も古いとされている。1800年代半ばになって遺伝的に は突然変異である品種と証明された。体躯の被毛は白色で、眼は赤色で あり、鼻先、耳、尾、四肢の先は有色である。ネコのヒマラヤンは後に登 場したため、本種から名前を借りた。理想体重は雄雌ともに1.6kgで、小 型種であり、性格はおとなしい。 ヒマラヤン 【カリフォルニアン】Californian 1923年にスタンダードチンチラとヒマラヤンを交配させて作成したオスと、数頭のホワイトのニュージーランド のメスを交配し、1928年までには現在のカリフォルニアンと呼ばれているウサギが作成された。幅の広い肩、肉 付きのよい背中と臀部が特徴であり、本来は食肉用であった。体躯の被毛は白色であり、鼻、耳、四肢、尾は有 色で、有色の部分は黒色が理想である。最初に展覧会に出展されたのは1928年で、1939年には現在のスタンダ ードが作成された。理想体重はオス4.1kg、メス4.3kgで、性格はおとなしい。 【ダッチ】Dutch ダッチはオランダが原産とされ、最も古い品種の一つとされている。 1864年にイギリスで認められ、現在アメリカで最も人気がある。鼻の周り と頸部から前肢にかけてが白色であり、耳と眼の周り、後躯は黒色、茶 褐色、青色、灰色などの有色である。本邦ではパンダウサギと呼ばれて いる。理想体重は雌雄ともに約2kgである。小型種で、体形はしっかりと している。性格は独立心に富んでいるが、その反面人にもよく馴れる。本 種は遺伝的に子宮腺癌が好発するという。 ダッチ 【アンゴラ】Angora 原産地はトルコのアンゴラ地方で、長毛のウサギを神として崇拝する習慣があった。本種は本来毛皮用で、被 毛の長さは最低約8cmである。毛皮といえばアンゴラといわれるほど有名な種類である。被毛は短いアンダーコ ートと長いガードヘアの間に、オーンヘア、オーンフラックという独特の被毛を持つ4重構造である。オスよりメス の方が毛質は上質で1頭から体重1kgあたり0.2kgの毛皮が採取できる。本種の被毛は大変軽くて、羊の被毛と 比較すると1/4程度の重量であり、毛質は断熱と保温に大変優れている。アンゴラ種はイングリッシュ アンゴラ、 フレンチ アンゴラ、サテン アンゴラ、ジャイアントアンゴラに細分され、起源はイングリッシュ アンゴラから来て いる。アメリカでは1930年に毛皮用の繁殖がはじまり、本邦に最初に輸入されたのは大正時代で、イギリスから5 頭が輸入された。軽くて肌触りのよいアンゴラの毛織物は人気があり、昭和7年頃には1万2,000匹のアンゴラウ サギが飼育されるようになり、日本各地で品評会が開かれ、副業として飼育することも流行となった。その後、昭 和15-16年頃の最盛期には120万匹にもなり、日本アンゴラ種という品種も本邦だけで確立された。昭和17年に日 5 本はアンゴラの飼育頭数が世界一になったこともあった。その後、徐々に減少して終戦時には10万匹となった。 流行は昭和30年まで続いたが、現在は毛皮用の飼育はほとんど行われていない。性格はおとなしい。被毛が脱 毛して宙に舞うため、餌容器や給水器の中に被毛が入る。その結果、毛球症を誘発するため、常時ブラッシング を行うことが必要である。また、本種はアイランドスキンというウサギ特有の皮膚現象が起きにくい 〔浅野ら 1990〕 。 (イングリッシュ アンゴラ) 繁殖は何百年も前から、長毛のネコやヒツジ、ヤギのいる土地であるト ルコのアンカラで始まったと考えられている。1765年にすでにフランスの 科学辞典で言及され、1780-1791年にはプロシアの政府にアンゴラウサギ のウールとして珍重された。外観はコンパクトで丸型パンのような体型で、 きちんとした姿勢をとるとウールで覆われた綿毛の丸いボールのような印 象を与える。頭部には厚い前髪や房飾りのような耳が見られ、四肢や尾 は先端までウールの被毛で覆われている。本種のウールは粗いウールで あるフレンチの被毛のようではなく、絹のような光沢がある。理想体重は イングリッシュ アンゴラ オス2.7kg、メス2.9kgである。 【ジャージー ウーリー】Jersey Wooly 1970年代にニュージャージー州で、シルバーマーチンとネザーランドド ワーフを交配させて作成された。1984年にARBAで初めて見られ、1988 年に承認された。本種はドワーフの遺伝子を取り入れた小型のウサギで、 体長は短くコンパクトで、丸型である。頭部は丸く目立ち、頭部の被毛は 短い。耳は理想的には約6cmの長さである。体幹の被毛は密であり、ア ンダーコートよりオーバーコートの方が少し多く密である。理想の被毛の 長さは5-8cmである。本種は非常に性格が穏やかなことでも有名で、攻撃 的な性格は全く見られず、愛玩用としては理想的である。理想体重は雌 ジャージー ウーリー 雄ともに約1.3kgである。 【レッキス】Rex 本種は突然変異であり、1919年にベルベット状の被毛を持った仔ウサ ギを作成したことが起源となった。ビロードのような手触りのある毛皮で ある。本種のオーバーコートは、遺伝的にアンダーコートと同じ長さで成 長が留まるため、密度も濃く見え、刺し毛が退化した綿毛を持つ。体型 は中型種で、腰部の肉付きと丸い臀部は厚みがある。理想体重はオス 3.6kg、メス4.1kgである。遺伝的に肢端皮膚炎が好発するともいう。 レッキス (ミニ レッキス)Mini Rex アメリカで毛皮用に繁殖されていたレッキスとドワーフ種を交配させて小 型のレッキスとして作成された。全体に非常に均質でバランスの取れた体 型のウサギである。柔らかな肉質に包まれ、脚力も強い。体格は短くつま っている感じである。被毛の長さは1.6cmを越えず、ビロードや絹のような よい触感である。性格は温和である個体が多い。遺伝的にレッキスととも に肢端皮膚炎が好発するともいわれている。小型種で、理想体重はオス ミニ レッキス 1.8kg、メス1.9kgである。1988年にARBAに承認された。 【フレミッシュ ジャイアント】Flemish Giant 16-17世紀にオランダ人が、南米のパタゴニア地方に棲息 していたノウサギをヨーロッパへ持ち帰ったものが起源と される。ベルギーのフランドル地方原産で改良され、食肉 用に作成された。体型も大型で力強く、がっしりとして、ウ 6 フレミッシュ ジャイアント サギの中で最大種である。耳介は厚く、先はスプーンのような長い形をし、狭いV字型を描いている。耳介は生 後6ヵ月以降では少なくとも約15cm以上は必要である。性格は非常におとなしくて優しいが、身体的な大きさか ら飼育することは容易ではない。体重を十分に支えることが困難で、肢端皮膚炎等の四肢の障害が出やすく、 暑さにも弱い特徴がある。被毛は黒色、青色、淡黄褐色、灰色、赤黄色、白色などである。登録体重はオス 5.9kg、メス6.3kgである。 【アメリカン チェッカード ジャイアント】American Checkered Giant 本種の現在までの詳細な経緯は、明らかにされていない。当初はドイ ツで全く別個の品種として紹介され、フレミッシュ ジャイアトに由来すると されていた。最初に登場した種は固定されたものではなかった。一般的 な意見として、それらを作製するためにロップイヤーやいくつかのホワイト、 または斑点のある種類をフレミッシュに部分的に引き入れたと考えられて いた。1904年レイニッシュ チェッカーとフレミッシュ ジャイアントと交配さ せ、その後も改良を加え、1905年にスタンダード種が作成されたという。 アメリカン チェッカード ジャイアント 1910年初頭にチェッカード ジャイアントはアメリカに輸入された。その後 アメリカのブリーダー達はヨーロッパで飼育されていた個体とは異なり、 骨太な骨格とボリュームのある体型のアメリカンタイプに作り上げた。チェ カード ジャイアントは独特な体型で、体躯は細長くアーチ型をして弧を描 き、四肢も長く地面から身体を軽快に持ち上げる。ブラックとブルーの2 種類の色だけが承認されている。本種の模様も独特で、眼周囲や頬、鼻 には蝶の形の模様があり、耳介から背中そして尾の先端まで一本の線が 通り、体躯の両側には斑点がある。性格は落ち着きがなく、常に動き回 っていることが多い。体重はオス4.9kg以上、メス5.4kg以上である。 ニュージーランド 【ニュージーランド】New Zealand 当初はニュージーランドからサンフランシスコへ船乗りが持ち込んだとされていたが、詳細は不明である。ア メリカのカリフォルニア州、インディアナ州でレッドの個体が1912年頃に作成された。食肉用、毛皮用、研究用と 多用途である。体型は中型で、理想体重はオスは約4.5kg、メス約5kgである。性格はおとなしい。 【ジャパニーズ ホワイト】Japanese White(日本白色種類) フレミッシュ ジャイアントとニュージーランド ホワイトの交雑種で 明治以降に日本で作成された種類である。地域によって身体の大き さに変化があるが、白色の被毛に赤眼が特徴である。理想体重は 雌雄ともに4-5kgで、元来は毛皮と食肉用である。地域によって大 型のものを「メリケン」、中型を「イタリアン」、小型を「ナンキン」など と呼んでいた。現在はその数は減少している。戦中や戦後の食料 難の時代に、軍事用の毛皮などの目的で繁殖された品種でもあり、 戦後は学校で情操教育の一つとして飼育が推奨された。一般的に ジャパニーズ ホワイト 丈夫で粗食にも耐える。 (秋田改良種〔中仙ジャンボNakasen jyanbo〕) 日本白色種を主に改良した秋田県での改良種である。明治24年香川県 より導入したものにはじまり、その後フレミッシュ ジャイアント種などを導入 し改良された。大型で毛質の優れた品種の基礎が築かれ、第2次世界大 戦では軍部への毛皮や食肉用として大型化が図られた。昭和21年にはこ のウサギを秋田改良種と命名し、当時の農林省に届けられている。昭和25 年以降も秋田県では毎年「中仙ジャンボうさぎフェスティバル」を行い、展覧 会を催している。現在も展覧会以外に食肉用として飼育されている。平成 7年の秋田県の飼育頭数は2267頭である 〔藤本ら1997 藤本②ら1997〕 。 7 中仙ジャンボ 【ベルジアン ヘアー】Belgian Hare 本種はアナウサギであるが「ベルギーのノウサギ」という意味である。 18世紀前半、ベルギー北部のフランダース地方が原産で、野生のアナウサ ギとの交配種である。完璧なベルジアン ヘアーを作成するために行われ た選択交配は、イギリスのブリ−ダ−の功績である。外観は、長くて美し い体躯を持ち、肩から尾にかけて流れるようなアーチを描き、腰部および 後肢と臀部は幅広ではなく丸みを帯びている。突き出た腰骨が目立つこ とも特徴で、長くて細い四肢を持つ。毛色は濃い深みのある赤褐色であ るタンと栗色の濃淡が見られ、光沢のある黒色の被毛で覆われる。耳介 は輝く黒色の被毛で端の部分まで明確に縁取られている。被毛は密で寝 ベルジアン ヘアー ており、粗く 「ごわごわ」とした触感である。理想体重は雌雄ともに3.6kg であり、性格は神経質である。 【ホトト】Hotot フランス原産で、起源の詳細は不明である。フランス産の斑点のあるウ サギが使用されたともいわれている。全身が白色で眼周囲が黒色である ため「アイ サークル」や「アイバンド」といわれ、瞼と睫毛も黒色である。 耳が短く離れており、丸くずんぐりした肉付きの良い中型種である。1978 年に最初にアメリカで輸入され、1978年にARBAに受け入れられ、1979年 にはスタンダードとして承認された。理想体重はオス4.1kg、メス4.5kgで、 性格は穏やかである。 ホトト (ドワーフ ホトトDwarf Hotot) 東西ドイツの繁殖家により1977年まで、全く異なる二つの系統の交配で小型化した。本種のARBAへの初の 公開は1981年である。小型種で丸型であり、肩から尻にかけて同じ幅である。頭部は比較的大きく、幅の広い 額を持ち、短く柔らかい被毛で覆われた耳を持つ。被毛は白色で、模様はホトトと同様である。理想体重は雌 雄ともに約1.1kgで、性格は好奇心旺盛で活発である。 【ハレクイン】Harlequin 本種はフランスが起源であり、長年にわたり、フ ランス全土、中でも特にノルマンディーと北部で広 く普及した。ジャパニーズとマグパイという2品種 が知られている。1887年にパリで公開され、1891 年にはベイビーゼブラの呼称で公表された。ジャ パニーズとマグパイは、ブラック、ブルー、チョコレ ート、ライラックなどの基本的な色の間で交配され ハレクイン た。これらの色はジャパニーズではオレンジか、そ のぼかされた色であり、マグパイの場合には白色のどちらか一方である。身体には、互い違いの色で目立つ縞 があり、頭部は均等に分かれている。それぞれの側で、反対側の色の耳とは互い違いになっている。四肢もま た、互い違いの色である。理想体重はオス3.4kg、メス3.6kgである。ジャパ ニーズ種は一説では昔の日本国旗の太陽が熱を四方に発している形に類似 した模様に所以しているという。 【ライオンドワーフ】Lion Dwarf 頸部に鬣のように長毛がはえ、四肢は短いため、愛くるしい姿をしている。 ARBAではライオンヘッドという名前で申請中である。現在、本邦で流通して いるライオンラビットは本種とは異なる。性格はおとなしく、温和であるが、 怖がりな個体も見られる。 ライオンドワーフ 8 ◎ミニウサギ〔ワールドラビットファンクラブ 2001〕 多くの飼育されている愛玩目的のウサギはミニウサギといわれてい る種類である。ミニウサギとは身体が小さい個体を指す俗称であり、 特定の血統書は付いていない。体重は約1.5-3.0kg、耳長は約7-10cm である。交雑種であるため厳密な規定はないが、いくつかの系統に分 けられている。黒色系、白色系、グレー系、ダッチ系、ブロークン系、 三毛系、チェスナット系、ライオン系などが知られている。 耳介の入墨 ◎個体識別 繁殖場によっては、個体識別のために、耳介に入墨を施している。 多くは耳介内側の血管が少ない場所に、 手動や電動式の印刻式で行う。 あるいは脚輪を施している繁殖場もある。 脚輪 9
© Copyright 2024 Paperzz