小さな白い猫と月の光、僕、そして父の記憶

小さな白い猫と月の光、僕、そして父の記憶
2011年11月の展覧会が終わって
Lasahの石川豪さんや鹿嶋さんに慰
めていただいたおかげで、僕は自然と絵の
制作に向き合うようになりました。Las
ahは鹿嶋さんに教えていただいたお店
なのですが、石川さんと、彼のお茶には何
度も助けてもらいました。そして、この頃
から毎晩のように月と猫の夢を見るよう
になりました。ある夜は、小さくて白い猫
のような自分が、大きくてあたたかい月の
光に抱かれているような感覚。そして次の
夜は、自分が大きな月の光となって、小さな白い猫を抱いているような感覚でした。
それがなんなのか、次第にわかってきました。父の記憶と僕の記憶。それが、大
人になった僕にやってきたのだと感じました。僕は一生子どもを育てることはない
と思ってきましたが、この我が子を抱いているような感覚はあまりにリアルで、不
思議でたまりませんでした。
その夢の記憶をなんとか残したくて、僕は正月休みの間に一気に5枚もの絵を描
きあげ、2月の横浜での個展には10枚の月と猫の絵を展示しました。さらにそれ
から2年たち、23枚の絵を完成させました。1枚目の「月と猫」を展示した自然
食のカフェ「ナチュラル・クルー」を主宰する朝日ゆかりさんが、僕が絵に込めた
思いをことばにして添えてくださって「月と猫」の本ができました。それに今回、
鹿嶋敏行さんが曲をつけて、組曲として仕上げてくださいました。この「月と猫」
の世界を鹿嶋さんが歌い、井料瑠美さんが朗読する。そして、鹿嶋さんが子守唄を
歌い、瑠美さんがそれに重なるように歌う。まさに僕の夢でした。
いのちと向き合う、30 代~40 代の女性たちへ
─朝日ゆかりさんは、もともとマスコミや広告のお仕事をバリバリされていたそう
ですが、30代を迎えた頃に親友が病気で亡くなられたのを
きっかけに、食の大切さに目覚めた、とのことですね。
そう伺っています。その朝日さんのお店に、井料瑠美さん
が通っていらして。瑠美さん自身もお忙しい日々を送る中で
「ナチュラル・クルー」に出会って、玄米と野菜を中心にし
たメニューに感動したそうです。
─井料瑠美さんは、劇団四季を退団された後も、
ミュージカルやコンサートに出演したり、歌を
教えたり、多忙な毎日のようですね。
瑠美さんご自身も多忙ですが、瑠美さんのも
「田川さんの作品を眺めていると心
が静まり、過去の記憶や創造の世界
から言葉や物語、メロディーを感じ
て…『月と猫』の言葉づくりでは、
私は実際に飼っていた 21 年生きた
愛猫と再会することができました。
形はどうしても消えてゆくもの。で
も命とはいつでも会えるんですね。」
と語る朝日ゆかりさん。
とにレッスンに通う30代~40代の女性た
ちは、本当に毎日一生懸命、職場や家庭で頑張っている。20代のときはミュージ
カルを見たり、好きな習い事をしていても、30代になると仕事が忙しくなったり、
子育てや介護でできない女性も多い。そういう女性たちが、レッスンの間は本当に
輝いている、とおっしゃっていました。
─田川さんも、井料さんも、朝日さんも、
「30代~40代女性」を強く意識されて
います。
この世代って、僕のように親との別れがあったり、女性であれば、妊娠・出産を
して「いのち」と向き合う世代だと思うんです。一方で、仕事でも中堅になって、
夜遅くまで一生懸命働く人も少なくない。これからの人生どう生きていこうか、と
考える世代でもあります。そんな日々頑張っている女性たちの心に、少しでも寄り
添うことができたら・・・という思いです。コンサートのあいだは、日常から離れた別
世界に迷い込んでほしいですね。