ドイツの陶磁器デザインの研究と陶磁器製造技術習得研修 1、研修概要 ・研修の目的 ヨーロッパ特にドイツの陶磁器デザインの考え方、アプローチ方法、製造技術を学び、これから の製品作りに活かす。 スマートで機能美溢れるデザインセンスを吸収して東洋と西洋の陶磁器に対する捉え方の違い や共通点を考え、自身の作品への糧とする。 ・研修期間 2003 年 8月 19 日 — 2004 年 2月 23 日 ・研修先 国・都市名 施設 : 2、研修日程 : ドイツ・ハレ市 Burg Giebichenstein school of Art and Design Halle 年月日 滞在先 研修先及び視察先 研修内容及び視察目的 H15 . Aug.19 マイセン マイセン マイセン製陶所 マイセン製陶所内博物館等の視察 ドレスデン ツヴィンガー宮殿 ツヴィンガー宮内の陶磁器美術館視察 デッサウ バウハウス デッサウのバウハウス視察 ベルリン , 国立美術館、装飾芸術美術館等視察 マイセン製陶所 マイセン製陶所1week 研修プログラム ドレスデン 陶器市視察 ハレ大学 寮見学及び大学視察 15.Sep ハレ学生管理局 留学手続き及び入寮手続き 22.Sep プラハ ミュシャ美術館 ミュシャ美術館や市内視察 etc, (第 1 週) 25.Aug ハレ (第 2 週) 1.Sep マイセン (第 3 週) 8.Sep ハレ (第 4 週) (第 5 週) (第 6 週) マイセン 29.Sep ハレ マイセンワインフェスタ参加 市庁舎 外国人登録局 住民登録 入寮 授業準備 ハレ大学 授業開始 各ガイダンス ワイマール バウハウス大学 バウハウス大学視察 学生証交付 (第 7 週) 6.Oct ハレ (第 8 週) 13.Oct (第 9 週) 20.Oct ゲッティンゲン (第 10 週) マイセン 27.Oct ハレ フュルステンベルグ製陶所 プロジェクト開始 製陶所視察 ライプチヒ 手工芸美術館 陶磁器等工芸品展覧会「グラスィメッセ」視察 マイセン製陶所 製陶所感謝祭視察 イベント参加 ハレ大学 プロジェクト資料収集モチーフコラージュ製作 (第 11 週) プロジェクト内ミーティング 3.Nov ハレ大学 (第 12 週) 個人毎のコラージュに関するプレゼン発表 ○ 成形方法等のレクチャ 及び石膏ろくろ 成型方法の習得 10.Nov (第 13 週) コペンハーゲン 17.Nov 陶磁器人形製陶所(チューリンゲン) フォルクシュタット製陶所視察 現代アート美術館 ルイジアナ美術館視察 ロイヤルコペンハーゲン製陶所 製陶所内博物館視察 ハレ大学 プロジェクト配色プランニング (第 14 週) 及びアイデアの具体化 24.Nov ○ 陶磁器デザインについての研究及びそれ (第 15 週) を踏まえてデザインした磁器の成型法習得 プロジェクト デザイン図面製作開始 1.Dec (第 16 週) ミュンヘン 8.Dec ライプチヒ 手工芸美術館 展覧会視察 ハレ外国人局 滞在許可証交付 美術館視察 アルテ、ノイエ、モデルネ各美術館視察 ハレ大学 ○最終制作に向けての習作の製作及び焼成 (第 17 週) 転写デザインをパソコンで作成 15.Dec (第 18 週) デザインを原寸大で紙にプリント フランス パリ 22.Dec パリ市内美術館 ルーブル、オルセー、ポンピドー美術館等視察 ハレ大学 最終制作に入る (第 19 週) デザイン画→図面 及び成形方法の検討 29.Dec 石膏型による試作型製作 (第 20 週) 5.Jan ゼルプ 陶磁器美術学校研修 (第 21 週) パソコンで出力したデザイン画のシルクスクリーン印 刷研修 ゼルプ陶磁器美術館視察 12.Jan 陶磁器美術館 試作品のテスト焼成及び修正 ハレ大学 作成した転写紙のテスト焼成 (第 22 週) 最終作品の成形開始 19.Jan (第 23 週) ハレ大学 最終制作品の素焼き焼成 転写デザイン構成終了後最終焼成 26.Jan 本焼き焼成と再度素焼き焼成 1.Feb プレゼンと展示の準備 構成 (第 24 週) (第 25 週) 展示用モデルの最終チェック プレゼンボード作成 8.Feb (第 26 週) プレゼンテーション参加 発表 帰国の準備 荷造→発送 15.Feb (第 27 週) フランクフルト 22.Feb ドイツ出国 (第 28 週) 日本帰国 フランクフルトメッセ 国際商品見本市「アンビエンテ」視察 Feb.22 フランクフルト発 Feb.23 福岡着 3、研修報告 3-1. この研修にあたり まず始めに私が今回の研修先にドイツを選んだ理由についてお話します。私が有田にある佐賀県立有 田窯業大学校(以下窯大)に在学していた時に講師としてドイツから来日されていたカイ・レオンハルト先 生から陶磁器デザインの考え方について学びました。また、彼の母校であるハレ美術大学の先生、生徒が 来日し交流会が窯大で開かれ、良い刺激を受けました。機会があれば是非ドイツで陶磁器の勉強をして みたいという気持ちが高まり、ドイツの陶磁器デザインについて学び多くの事を吸収する事を目的として、 この研修制度に応募しました。 幸運にも研修の機会を頂く事が出来、ハレ美術大学で一学期間留学生として研修する機会を得ました 。この場をお借りして恐縮ですが九州電力株式会社様にお礼を申し上げます。本当にありがとうございま した。 3-2. ドイツ ハレ市にあるブルグ・ギービヒェンシュタイン美術大学について この学校のあるハレ市は旧東ドイツ時代にはライプチヒに次ぐ大きさで今でこそ、ベルリン、ドレスデン などと比較すると知名度は低いですが、ドイツではかなり大きな都市です。駅も立派で最初はマイセン市と 同じくらいかと思っていましたが全然大きくて驚きました。 (写真 halle01.jpg) Halle 中央駅 (写真 halle02.jpg) Halle 中央広場 (中央の像はヘンデル。ハレはヘンデル生誕の地) 私が留学を受け入れて頂いた学校は、Burg Giebichenstein Hoch schule kunst und Design Halle とい う名称で直訳すると上のような表記になります。この大学のインダストリアルデザイン学部 、 Keramic/Glass Design(陶磁器とガラスデザイン)学科の Hubert Kittel 教授に留学許可を頂き、 1Semester(1学期=6ヶ月)の期間の短期留学生として勉強しました。 この大学はドイツ国内でも数少ないインダストリアルの陶磁器デザインを学ぶ事の出来る所であり、バ ウハウス時代からのデザイン理論を継承している有名な歴史ある学校です。ただ、インダストリアルといって も、工業的大量生産を前提としているのではなく、くり返し生産出来るという事を主眼としたデザインを教え る所です。 また、私が卒業した有田にある佐賀県立有田窯業大学校で学んだ事と多くの類似、比較点があり、 比較的スムーズに入っていく事が出来ました。ただ、学習習慣について相違点も多く徹底した個人主義の プログラム進行に戸惑う事が多くありました。そのような時にはいつも周りの学生や先生に質問しながら理 解していく事が多かったように感じます。コミュニケーションは学校内の先生や学生は大体英語が通じます が、お互いに外国語なので通じる時と通じない時の差が大きくて誤解も多くて会話でストレスがたまる事も ありました。 ですが先生、学生もみんな親切丁寧に対応してもらったので良い勉強と経験を積む事が出来ました。 (写真 kittel00.jpg) フーバート キッテル先生 (写真 friend00.jpg) ハイケ先生とセラミック科の学生 3-3. ドイツの陶磁器について ドイツにはヨーロッパで初めて磁器の製造を可能にしたマイセン製陶所があります。もともとは中国や日 本の磁器を模倣するために研究が始められましたが、磁器製造技術確立後、目覚ましい技術革新と発展 を遂げ、明治時代にはその工業化技術が逆に輸入される程までになりました。その磁器の特徴は、原材 料の違いから日本の磁器と比べてもかなりの高温度で焼成され、強度も高く高品質です。また伝統的技術 、技法の伝承と量産体制を維持しています。美しい描写やデザインの釉上彩が多く施され、色鮮やかな上 絵による色絵付けによる繊細で華麗な陶磁器は世界中で認められ今日に至っています。 (写真 meissenGmbH.jpg) マイセン製陶所入口(この時はたまたま日本の旗もあった) マイセン製陶所では工場見学ではなく博物館内に実演見学施設があり、ここでマイセン磁器の製造行 程をダイジェストで見学しました。 成形方法に関しても伝統的な技法を堅持しており他の製陶所で多く見られる機械化、オートメーション 化された作業行程とは大きく異なっていました。特にろくろ職人がろくろ台で水引きで土殺し、トカンまでや ってから型に仕込む作業を実演していた事は驚きました。さらに別のの実演では人形の成形行程の実演 があり、手や足の接着、花ビラを手のひらでつくり出しバラを成形する所などは繊細で驚きました。 絵付けは釉下彩と釉上彩の実演があり、釉下彩ではブルーオニオンと呼ばれる有名なデコレーションを 、釉上彩では色とりどりの花や金彩の実演がありました。どれも手仕事で成り立っていて大変興味深い見 学体験でした。 マイセン製陶所はドイツ国内でも特別な存在であり、世界中でも1、2を競う高級陶磁器であるため他の ドイツ国内の製陶所とは大きく違います。一般の製陶所は機械化、省力化が積極的に行われており成形 方法も手でのろくろ成形は皆無であり、機械でのローラーマシン成形、湿式プレス成形、排泥鋳込み成形 で食器を成形していました。各工程は1人から3人程度で少人数化されていました。 (写真 working.jpg) ドイツの一般的な食器製造メーカーでの成形作業 絵付け行程もほとんど釉下彩は無く、真っ白で焼成した後に転写紙でプリントして低温焼成するか再度 高温焼成でイングレイズさせるかでした。手書きは金彩や特殊なものだけで一般の食器の製造行程では 見る事は少なく、高級な食器や人形などの調度品のみに使用される技法のようでした。 ただ、品質管理は徹底していて、学校や学生の友人を通じて数カ所のドイツ国内の製陶所を見学させ てもらいましたが、みな徹底したチェック体制を持っていました。ヨーロッパ人にとって工業製品に対する目 は厳しく食器等の磁器製品は歪みや欠点を嫌い完璧を求めます。陶磁器メーカーはそれに対応する為 にきめ細かなチェック体制を持っていました。これは先生や学生の中にもデザインの基本的な所でしっかり と守られていて、最終的なデザインに反映されていました。 3‑4. 研修内容と授業について 私は8月の後半に渡独し、実際の授業が始まる10月までの1ヶ月間を準備期間にあてました。そのお陰 で授業に入る前に教授や学生と少しづつですが事前に会話する機会を作る事も出来、生活環境も整える 事が出来ました。この時に親身になってくれたのが、助手の先生や学生課の方、そして寮に住む他大学 のドイツ人学生や日本人留学生でした。彼等はドイツ語の喋れない私に本当に親切に手助けしてくれまし た。 あっという間に9月は終わり、10月はすぐにやってきて慌ただしくガイダンスが行われました。私は留学生 という事もあり、他の必須授業もないので2つのプロジェクトを同時進行させる事にしました。 このプロジェクトと呼ばれる授業は、毎学期始めに各先生が出す課題で、学生は内容をガイダンスで把 握し、参加する場合は直接参加表明します。これは必須ではなく参加しても学期に1つとれば大忙しという くらい濃い内容のものでした。 私は今学期2つ出題されたプロジェクトを、先生のすすめもあり両方とる事にしました。キッテル教授の「 スタッカビリティ」とハイケ先生の「デコールプロジェクト フュルステンベルグ」という題目でした。 「スタッカビリティ」とは「積み重ねられる特性」を考えるプロジェクトで、学生から聞いた話ではキッテル教 授はよくこの課題を出していると言っていました。確かに陶磁器にとってとても重要な機能であり、食器に は必要な特性です。 しかし、キッテル教授は「Stackability – Form , Fan, Function」という題目と下に注釈として「毎日の生活 の中から如何にこの機能的要素を陶磁器に付加出来るかを考えよう。毎日の生活を捉え、その中で沸き 上がるアイデアをノートし、その例をまとめる。また、歴史的なデザインワークの中から、同時代のデザイン 、アート、プロダクト、ありとあらゆるものにアンテナを巡らせてみよう。そして今までと違った独自の、スペー スを活用出来る、積み重なる、覆う、閉じるといった題目に沿った方法での新しい提案を見つけよう。もちろ ん如何にスペースを節約するかということを楽しむ事でね!」と付け加えていました。 これには多くの学生が悩んで取り組んでいました。私もかなり悩みました。食器作りにはとても基本的で 重要な要素であり、真新しい要素がどこにもないように思えてしまっていました。 キッテルさんはイントロダクションも兼ねて最初の授業をスライド上映会にしました。暗い方がいいので7時 くらいから始めました。歴史的なデザインスライドのアーカイブを2時間くらい説明しながら見せてもらいまし た。後日キッテル教授はスライドで見た陶磁器のサンプルも見せて下さいました。 (写真 kittel01.jpg) キッテル先生の陶磁器資料棚 (写真 teacher01.jpg) 大学成型作業室にて成型担当教官のヘニン先生と ハイケ先生の「デコールプロジェクト フュルステンベルグ」では、ガイダンスで加飾する2種類のテーブ ルセットについての説明があり、これからのスケジュール表が配られました。 翌週には実際にゲッティンゲンの近くにあるフュルステンベルグ製陶所に出向いてリサーチをする事に なりました。 (写真 furstenberg.jpg) 工場内スクリーンプリント工房でのリサーチ風景 リサーチを終えた翌週からは、ほぼ毎週、水曜日の10時からハイケ先生のプロジェクトのミーティングが、 全体の時は一日中、また個人別の時は1人に対して1 2時間くらいとってあり、内容はアイデアからデザ インへの移行についての進行状況やアドバイスに関した事でした。 同じように毎週木曜日にはキッテル先生のミーティングが全体であり、水曜日と同様にそれぞれのアイデ アや進行状況を説明しながら他の生徒の意見を聞いたり、先生のアドバイスから自分のアイデアを整理し 、方向性を決めていきました。 毎週毎に内容の異なる2つのプロジェクトのために、それぞれアイデアについての検討材料や試作をくり 返すというのは想像以上に大変で、一週間の中で自分の頭の中をプロジェクト毎に切り替えながら上手く 時間を割り振り、成果を形にしていく事は容易ではありませんでした。みんなで先生の限られた空き時間を 取り合いするような日もあって、とてもエキサイティングな一日を経験する事もあれば、一日中待たされてし まうという日もありました。しかし、ドイツ人はとても時間に忠実で甘えが少なく、しっかりとアポイントをとって いれば、みんな約束を守ってくれて時間を割いてくれました。この事は他の外国人と比べ、ドイツ人は良い 意味で気質が日本人との共通意識を感じました。 (写真 heikemeeting.jpg) ハイケ先生との個別ミーティング 最終的には2月にあるプレゼンテーションに向けて作品を準備していきました。キッテル先生の方はデザ イン画、試作、アドバイスを受けての改良をくり返しました。私は2デザインを平行してすすめていきました。 このようなアイデアと立体物、サンプル重視の方法は形状を把握し、具体的な問題が早い段階から認識 できる事を痛感させられました。また、手っ取り早く形にする方法も学ぶ事が出来ました。それは私の今ま でのものづくりに対する考え方に関して衝撃的な事でもありました。 (gypsum.jpg) 石膏型製作作業 (slipcasting.jpg) 鋳込み成形作業 (brennen.jpg) 試作品焼成作業 ハイケ先生のプロジェクトは4つのアイデアに絞り、それぞれ要素を抽出し、パソコンでデザイン画を起こ し、原寸大で紙にプリントし形状の曲線に合わせて加工、調整をくり返し、デザインが完成したものは最終 的なバランスを見るために OHP 用紙にプリントして貼りました。そこで OK が出たデザインのうち、2つをチ ューリンゲン地方ゼルプにある提携校でスクリーンプリントさせてもらい、転写紙にして、大学の窯で焼成し 、温度を細かく別けて焼成したものの中から最適の温度帯を選択しました。日本では転写紙についてあま り勉強出来ていなかったのでいろいろな製作方法を学ぶ事が出来ました。 (sikcolor.jpg) 転写用の絵の具調整 (silkscreen01.jpg) 転写スクリーン補修 (silkscreen.jpg) 転写紙プリント作業 (decor.jpg) 焼成完成品 そして2月の第1週までになんとか最終完成作品を焼成する事が出来、それぞれのプレゼンテーション に間に合わせる事が出来ました。 キッテル先生のプロジェクトでは、参加学生のうち私を含めた2人が照明に関する作品を作ったので、プ レゼン会場を暗くして構成しました。そのため会場写真がピンぼけになってしまいました。 (presen00.jpg) 「スタッカビリティ」プレゼンテーション ハイケ先生のプロジェクトのでは、陶磁器を提供して頂いた製陶所のマネージャーとチーフデザイナー に大学にきてもらってその2人に対してプレゼンテーションしました。 (presen01.jpg) 「デコールプロジェクト フュルステンベルグ」プレゼンテーション
© Copyright 2024 Paperzz