1.はじめに 2.「水性浸透プライマーW」の特長 ヤブ原産業 ! 技術部

ヤブ原産業 !
1.はじめに
技術部 次長 水性浸透プライマーWの分散粒子
(粒子径35nm)
v野 兼一
一般的なモルタル接着増強材の
分散粒子
(粒子径800nm)
コンクリート・モルタルなどの無機質系下地の表面が
乾燥で一体化
力を期待できず、砂上の楼閣のように、浮きや剥離の危
キャピラリー空隙
険性をはらむことになる。この脆弱化した層を強化する
乾燥で
一体化
ため、かつては溶剤タイプの浸透強化剤「浸透プライ
マー」が用いられたが、近年の有機溶剤の問題により、環
脆弱下地
脆弱下地
脆弱であると、その上に仕上材を施しても、本来の付着
図1 ポリマー粒子の大きさによる浸透性の違い
境によっては使用が難しくなり、水性タイプが待望され
ていた。
「水性浸透プライマーW」は、水性分散液(エマルジョ
ン)
でありながら、脆弱化した無機質系下地に浸透し、表
面を強化することで、仕上材の施工を可能にする浸透強
化剤である。
2.
「水性浸透プライマーW」の特長
今までの水性分散液(エマルジョン)のプライマーは、
写真 1 水性浸透プライマー W の透明性
分散するポリマー粒子径が200∼800nmと大きく、無機
質系脆弱層への浸透は不可能であった。しかし、近年の
このような特長を持った「水性浸透プライマーW」は、
ナノテクノロジーの発達により、ポリマー粒子径を30∼
以下のような脆弱化した下地の強化に有効である。
50nmとナノサイズまで小さくすることが可能になっ
○施工直後の雨うたれ、凍害、ドライアウトのような原
た。この技術を用いた「水性浸透プライマーW」は、コン
クリート、モルタルなどの無機質系下地の脆弱層への浸
透強化が可能である
(図1)。
この粒子径の差は、液体の外観にもあらわれる。一般
的なエマルジョンタイプのモルタル接着増強材は乳白
因で、脆弱化したモルタル・コンクリート表層。
○無機質系セルフレベリング材の硬化不良による脆弱
層。
○経年の風化・中性化によるモルタル・コンクリートな
どの脆弱層。
色で不透明だが、水性浸透プライマーWは半透明であ
○チョーキングした仕上材の表面。
る。ガラスシャーレーに入れると、一般的なモルタル接
○劣化した内装材表面(京壁、砂壁、せんい壁、しっくい
着増強材は下の文字が見えない(写真1右)が、水性浸透
等)
。
プライマーWは透けて見えるほどである
(写真1左)。こ
れは分散するポリマー粒子径が小さく、光が透過するた
3.性能
めであり、粒子径が大きいと光は粒子で反射され、白く
濁って見えるのである。
1)浸透度、強化層強度比較
浸透強化効果を確認するため、擬似的に脆弱化させた
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表1 比較製品性状
各試料塗布
浸透深さ
強 化 層
脆弱モルタル
脆 弱 層
2)養 生
1)試料塗布
引張試験
強 化 層
3)脆弱層除去
エポキシ樹脂
接着剤
各試料塗布
強 化 層
コンクリート平板
4)強度試験
図2 浸透強化試験概要
g/f
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
水性浸透
プライマーW
モルタル
接着
増強材
図3 浸透度比較
一般的な
一般的なモルタル
水性
水性浸透強化材
接着増強材
浸透プライマーW
試 料
水性浸透
強化材
N/e
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
脆弱層
アクリル系
主成分
アクリル系
EVA系
平均粒径(nm)
35
800
100
外観
半透明
不透明
不透明
表2 付着強さ試験結果
上塗材
複層仕上塗材
E
1:2
モルタル
(10a厚)
エポキシ
塗床材
(厚膜)
ウレタン
防水材
付着強さ
(N/e)
1.4
1.6
2.7
1.1
g/1000回転
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
水性浸透
プライマーW
図4 強化層強度比較
無処理
プレーンモルタル
水性浸透
プライマーW
図5 耐摩耗性試験結果
モルタル
(セメント量を通常より少なくしたモルタル)を
2)耐摩耗性
用いて試験を行った。試験用脆弱モルタル板(40a 角、
1:2プレーンモルタル板に水性浸透プライマーWを
10a 厚)
に各試料1o/g の割合で塗布、硬化後、強化
500g/g の割合で塗布し、3週間養生後、テーバー摩耗
層の下の脆弱層を除去し、浸透度と強化層の引張強度を
試験機により摩耗減量を測定した。条件:摩耗輪GC150
測定した
(図2)。強化層下面は凹凸があり、浸透深さは
H、
1000回。結果を図5に示す。水性浸透プライマーWを
一様でないため、強化層のf当たりの重量を測定し、
「浸
塗布したものは、プレーンモルタルに比べ、摩耗減量は
透度」
とした。つまり、強化層の重量が大きいほど浸透深
約1/3である。
さが大きいことを示す。この強化層下面の凹凸を研磨し
3)各種上塗材との付着強さ
平らにして、コンクリート平板に接着、表面にアタッチ
コンクリート平板に水性浸透プライマーWを塗布(300
メントを接着して建研式接着力試験機で「強化層強度」
を
g/g)
し、翌日各上塗材を塗布して14日間養生後、付着
測定した。水性浸透プライマーWのほか、2種類の一般
強さを測定した結果を表2に示す。各仕上材の水性浸透
的エマルジョン製品の浸透度を比較した結果が、図3で
プライマーWへの付着性は極めて良好である。
ある。水性浸透プライマーWの浸透度は、他の一般的製
品に比べ、4∼8倍と大きくなっている。なお、各製品
4.おわりに
の性状は表1に示すとおりである。また、強化層の強度
を図4に示す。無処理の脆弱層に比べ、約4倍の強度
「水性浸透プライマーW」は有機溶剤規制など、多様化
アップとなっている。
したニーズ、施工環境などに応えるべく、開発した製品
なお、試験用に全体を脆弱化させたモルタル
(セメント
であり、既に改修工事の必需品となっている。
量を通常より少なくした)
のため、実際のモルタル・コン
今後も当社は、顧客ニーズの探求に心がけた製品開発
クリートに使用した場合と結果は異なる。
を進めていく。
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