直井森一 - 日本大学理工学部

平成 26 年度
日本大学理工学部
学術講演会論文集
F2-38
ヨーロッパの温泉地における医療観光について −『世界温泉遺産』を事例として− Medical Tourism in the Hot Spring Resorts of Europe
- A Case Study of “Hot Springs Heritage of the World” ○西山孝樹 1, 天野光一 1, 阿部貴弘 1 直井森一 2
*Takaki Nishiyama1, Koichi Amano1, Takahiro Abe1, Moriichi Naoi2
Abstract: In Europe, hot springs have been used for recuperation purposes since the Roman era. More recently, the medical benefits
of hot springs have been exploited in so-called “medical tourism”. However, the hot spring resorts visited by medical tourists, and
how medically beneficial resorts are related to their surrounding areas, have been little investigated.
This paper investigates the type of water treatment administered to customers at medicinal hot spring resorts, and the treatment time.
Medicinal hot spring resorts in 16 European locations were found to be classifiable into three categories.
1.はじめに ら,Table.2 の項目に沿って整理した.その結果,Fig.1
ヨーロッパでは,古代ローマ時代から温泉療養が実
に図化した 3 種類に Table.1 の温泉地を分類すること
施されており,様々な温泉地が各地に点在している.
ができ,次節でそれらの内容を詳述した.
さらに,近年では医療を目的とした旅行,いわゆる医
療観光(医療ツーリズム,メディカルツーリズム,
Table.1 Study results of hot spring resorts
Medical Tourism)も先進的に実施されている.
しかしながら,医療観光として訪れた温泉地および
その周辺地域がどのように関連しているのか,明らか
にされているとは言い難い状況にあるといえる.
そこで本稿では,ヨーロッパの各温泉地を訪れた
人々が,医療を受けている時間以外で,どのような観
光(周辺の観光地も含む)やイベントに参加したり,
施設を利用したりしているのか,基礎情報を得ること
を目的とした.
2.研究方法 日本テレビ系列の BS デジタル放送局「BS 日テレ」
では,毎週火曜日に『世界温泉遺産〜神秘の力を訪ね
て〜』という番組が放映されている.
番組ホームページに記載されている第 1 回〜第 100
回の放送内容紹介で,
「医療」というキーワードが含ま
国 名 温 泉 地 名 温 泉 地 の ⽴立立 地 (1)
【独⽴立立系】独⽴立立して成り⽴立立っている温泉地(9 ヶ所) チェコ エリザベート温泉 カルロヴィ・ヴァリ市内 イタリア テルメ・ディ・サトルニア サトゥルニアから南東へ約 2km イタリア ペトリオーロ温泉 シエナから南へ約 30km フランス アックス・レ・テルメ フォアから南東へ約 40km フランス レンヌ・レ・バン カルカソンヌから南へ約 40km ドイツ バート・リーベンツェル カルフから北北へ約 9km ドイツ バーデン・バーデン カルフから⻄西へ約 30km ドイツ 温泉療療養センター バート・ヴァルツァッハ ドイツ キス・サーリス温泉 バート・キッシンゲン (2)
【付随系】近隣隣のまちに付随して成り⽴立立つ温泉地(3 ヶ所) イタリア テルメ・ディ・パーピ ビテルボから⻄西へ約 5km フランス ラ・ブルブール ル・モンドールから⻄西へ約 7km ハンガリー ハルカーニ ペーチから南へ約 20km (3)
【⼀一要素系】⼀一観光資源として成り⽴立立っている温泉地(4 ヶ所) スイス ハイルバート・サンモリッツ サンモリッツ市内 スイス シュクオル シュクオル村内 スロベニア ピラン リュブリャナから南⻄西へ約 100km ハンガリー キラーイ温泉 ブダペスト市内 れているヨーロッパの温泉地を研究対象とし,Table.1
に示した 16 ヶ所を抽出した.そのうえで,各温泉地お
よび周辺の観光地において,Table.2 に示した観光ツア
ーや諸施設などの存在有無から,考察を行った.
3.研究結果 抽出した 16 ヶ所の温泉地において,訪れた人々が滞
在中に何をしているかを『ミシュランガイド』に代表
される観光ガイドブックおよび各市のホームページか
1:日大理工・教員・まち 2:元日大理工・学部・交通
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Fig. 1 Classifications of hot spring resorts in Europe
平成 26 年度
日本大学理工学部
学術講演会論文集
Table. 2 Study results of hot spring categories
国⽴立立公園・世界遺産 分
分類項⽬目 国⽴立立 スキー 世界 類 温泉地名 公園 リゾート 遺産 カルカソンヌ ○ 独 レンヌ・レ・バン ○ ⽴立立 カルフ 系 バーデン・バーデン ○ ○ バート・リーベンツェル ル・モンドール ○ ○ 付
ラ・ブルブール ○ 随
ペーチ 系 ハルカーニ ⼀一 ブダペスト ○ 要 キラーイ温泉 素
○ ○ 系 シュクオル(村内) 観 光 イベント 施 設 市内 周辺 ハイ スポ 屋内 ⽂文化 カジノ 観光 観光 キング ーツ 施設 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 研究・教育 時 代 学会 教育 古代 中世 近世 近代 研究 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ (1)独立して成り立っている温泉地(9 ヶ所)
ル・モンドールの中心部には,手入れが行き届いた
1 つの温泉地のなかで,
医療観光が成り立っており,
5 つの広大な公園があり,そのうち 2 ヶ所には,ピク
独立している所としては,9 ヶ所が存在した.
ニックテーブルが常設されている.点在する湖のまわ
フランスのレンヌ・レ・バンは,人口が約 170 人ほ
りには,歩道が整備されており,散歩も可能である.
どの小さな村であるが,古代ローマ時代から温泉が湧
温泉地であるラ・ブルブールには,子供を対象とし
く村として知られている.北へ約 40km の所には,世
た治療施設が充実している.1901 年に開校した「喘息
界遺産に登録されているカルカソンヌがあり,この都
の学校」では,18 日の間にわたって,気管支炎や喘息
市に付随して成り立つ温泉地であるとも考えられる.
の治療が行われ,その費用は健康保険で賄われる.ま
しかし,レンヌ・レ・バンでは,職業病等の場合,
た,ル・モンドールには,家族で楽しめるアドベンチ
医療費を全額保障される温泉治療施設(国内に 105 ヶ
ャーパークなども整備されており,リゾート地に付随
所)の 1 つに指定されている.さらに,
「国際民俗フェ
した温泉地であることがわかる.
スティバル」を毎年開催するなど,イベントの実施に
(3)一観光資源として成り立っている温泉地(4 ヶ所)
も積極的である.また,現代アーティストに対して, ア
ハンガリーの首都,ブダペストは,古代ローマ時代
ートスペース(作品の販売も可能)が付随した住宅の
から温泉が湧いていたことで発展してきた.キラーイ
貸し出しも行っている.そのことからも,独立した温
温泉以外にも,市内にはゲッレールト温泉などがある.
泉地に分類することができると考えられる.
現在では,世界遺産に登録されている旧市街をはじめ,
ドイツには,一大温泉地として有名なバーデン・バ
様々な観光資源が点在しており,そのうちの一つとし
ーデンがある.この地を訪れる人々は,温泉地に滞在
て温泉が位置づけられていると考えられる.
して医療を受けることが主目的であるとみられること
から,カジノなどの屋内施設も充実している.市内を
4.まとめ 流れるアレー川沿いには,
「リヒテンターラーアレー」
本稿では,ヨーロッパの温泉地と医療観光(周辺の
と呼ばれる散歩道が約 2km にわたって整備されている.
観光地を含む)が,どのように成り立っているのか,
また,バーデン・バーデンにも近いバート・リーベ
その基礎情報を得ることを目的とし,考察を進めてき
ンツェルでは,ガイド付の電動自転車ツアーや 16 コー
た.これからの課題として,医療観光と温泉地の関係
スに及ぶハイキングコースが整備されている.また,
について,本稿よりも多くの分類項目を加え,体系化
ドイツハイキング協会認定の「健康ハイキングガイド」
を緻密に図って行きたい.
によるハイキングが毎週月曜日に実施されている.
(2)近隣のまちに付随して成り立つ温泉地(3 ヶ所) 5.参考文献 ラ・ブルブールに近接するル・モンドールは,サン
[1] Cynthia Clayton Ochterbeck: “The Green Guide
シー自然保護区に位置し,オーベルニュ火山群,モン・
TUSCANY”, Michelin Travel Partner, 408p, 2012.
ドールの最高峰(標高 1886m)であるビュイ・ド・サ
[2] Martha Burley: “The Green Guide ITALY”, Michelin
ンシーが横たわる.冬季はスキー,夏季はアウトドア
スポーツを楽しめる一大リゾート地である.
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Travel Partner, 612p, 2013. ほか