JMPを活用した住民意識調査データに基づく行政課題の 構造に関する計量的抽出法の検討 ○繆 青† 有馬 昌宏‡ 川向 肇‡ † 兵庫県立大学 応用情報科学研究科応用情報科学専攻 ‡ 兵庫県立大学 応用情報科学研究科 修士課程 How to Use JMP in Revealing Issue Structure from a Questionnaire Survey in a Local Community ○ Qing Miao† Masahiro Arima‡ Hajime Kawamukai‡ † Graduate School of Applied Informatics, University of Hyogo ‡ Graduate Faculty of Applied Informatics, University of Hyogo 「平成の大合併」と言われる市町村合併がピークを迎える中、行政と住民の間はもとより、これまで異なる市町 村で暮らしてきた新住民間での問題意識や情報の共有が重要な課題となってきている。住民意識を把握するた めには、アンケート調査が行われることが多い。本稿では、住民意識調査などのアンケート調査を住民間での問 題意識や情報の共有に活用していく方法について論じた上で、JMPの高度な統計処理機能やグラフ化機能を 活用して多様な住民意識を可視化する具体的方法を示す。本稿で提案・検討する多様な住民意識の可視化作 業により、住民が自発的に地域社会に潜在する行政課題に気付き、課題解決へと向けての住民間あるいは住 民と行政の協働という実際のアクションへとつながっていくことが期待される。 JMP、地域経営、CS ポートフォリオ分析、主成分分析、対応分析 1.はじめに 自治体経営を巡って、今、大きな変化が生じている。明治期以来の中央集権型行政システムでは地域社会が 抱える多種多様な諸問題には対応できなくなり、特に1980年代以降に地方分権制度への移行が喫緊の政治的 課題として議論されるようになった。1999年7月には「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する 法律」(地方分権一括法)が成立し、2000年4月1日付けで地方自治法をはじめとする関連法の改正が施行され、 「地域の行政は、地域の住民が自分たちで決定し(自己決定)、その責任も自分たちが負う(自己責任)という行政 システムを構築」するとともに、「全国的な統一性や公平性を重視する「画一と集積」の行政システムから住民や 地域の視点に立った「多様と分権」の行政システムに変革」することを目的として、新しい制度のもとでの地方自 治が始まった。この新しい制度のもとで自治を担うのは、それぞれの地域に住んでいる住民にほかならない。 この地方分権の推進の背景としては、1)地方分権を推進して個性ある多様な行政施策を展開するためには、一 定の規模・能力(権限、財源、人材)が必要であること、2)少子高齢化の進展のもとで市町村が提供するサービス の水準を確保するためには、ある程度の人口の集積が必要であること、3)人々の日常生活圏が拡大するに伴っ て市町村の区域を越えた広域的な行政需要が増大しており、新たな市町村経営の単位が求められていること、 4)国・地方を通じて極めて厳しい財政状況にある中で国・地方とも構造改革の推進への対処としてより一層簡素 で効率的な行財政運営が求められること、5)「昭和の大合併」から50年が経過し、時代の変化の中で交通・通信 手段の飛躍的発展などに対応して新たな市町村経営の単位が求められていること、などが指摘されている。 1965年に制定後、2度の延長改正を経て、1995年に大幅に改正された「市町村の合併の特例に関する法律」 (旧合併特例法)ならびにこの「平成の大合併」を推進すべく2005年4月に施行された「市町村の合併の特例等 に関する法律」(新合併特例法)のもと、基礎的地方公共団体である市町村はいわゆる「平成の大合併」の大きな 流れに巻き込まれ、多くの地域で合併特例を目指す市町村合併が一挙に進み、自治体の行政区域が一挙に 拡大した。今まで交流機会の少なかった別々の自治体の住民から構成される新自治体の中で、新制度のもと、 自治体内に生じる多種多様な諸問題を共通の問題として認識し、自らが解決策を決定するという意識を地域住 民が本当に持てるのかどうか、今、この地方分権および住民自治の本旨に直結する問題が問われている。 ところで、地域社会に存在する問題を明らかにしたり、限られた予算の中で政策の優先順位を検討するため の基礎資料を得るための手段として、多くの自治体で住民意識調査などの名称でアンケート調査が実施され、 行政課題の抽出に利用しているとされている。しかし、住民の選好構造は、年齢、世代、性別、職業、家族構成、 世帯収入、ライフステージなどの人口統計学上の属性や社会経済的な属性によって異なっているだけではなく、 市役所や町村役場、公民会や文化ホールや図書館、病院や保健所などの住民サービス提供施設へのアクセ シビリティや道路ならびに鉄道・バスなどの公共交通網の整備状況などが、同じ自治体内でも、町内会・自治会 レベルあるいは小学校区レベルでの地域で異なっているため、これらの地域構造や地域特性を無視した回答 データの単純集計やクロス集計では、地域が抱える行政課題を正しく捉えることはできない状況にある。しかし ながら、従来のアンケート調査に基づく行政課題抽出過程では、これらの地域の社会構造や地域特性は無視さ れることが多く、個々の質問項目についての単純集計や性別や年齢などの基本属性との間のクロス集計のみが 行われ、その結果は分かりやすい形で住民に公開・提示されることは少なく、集計結果に対する住民の反応を フィードバックさせることはほとんどないままに、審議会・委員会や行政の幹部会などで政策が策定され、議会審 議を経た上で政策の実施が行われてきたというのが実情である。政策評価に至っては、近年になってようやくそ の重要性が認識されはじめてはきたが、具体的な評価方法が確立されていないために、その実施は一部の自 治体で試行錯誤的に行われているという状況である。 そこで、本稿では、多くの自治体で実施されている住民意識調査などのアンケート調査結果をJMPの高度な 統計処理機能とグラフ化機能を利用して地域の行政課題の抽出や政策評価に活用するための方法について、 さらには抽出された行政課題や政策評価の結果を住民が関心を持つとともに理解しやすいように地理情報シス テムを利用して可視化して提示する方法について、その可能性および課題に触れながら、JMPによる操作方法 も織り込みながら紹介する。 2.住民による住民のための地域社会マネジメントのための方法論 我々の研究グループは、今後の地方自治には住民自治の本旨に基づく「21世紀型自治体経営」とも、あるい は阪神淡路大震災からの復興経験に基づき兵庫県が提唱する「人間サイズのまちづくり」とも名づけられうる新 たな枠組みが必要であり、この枠組みを特徴づけるキーワードは、 Informed Decision by Informed Citizens(知 識を十分に備えた公民による情報を十分に得た上での決定) と「行政の効率化および成果改善」であると考え ている。民間企業と同様、自治体も一つの組織として意思決定と決定の執行という2つの機能を担っているが、 地域住民の負託に基づいて形成される自治組織であるがゆえに、自治体では多様な価値観を持つ地域住民 の意思を公平に反映した集団意思決定が必要となる。また、決定の執行の面では、民間企業と同様に、効率性 と有効性の観点からの事業や業務の見直しや組織の再編成が必要となる。 行政の効率化と成果改善に関しては、市場メカニズムの導入と成果に基づくマネジメントを柱として、行政サ ービス分野の執行部門を独立させるエージェンシー化、公的部門を民間企業との潜在的な競争状態に置く市 場化テスト、TQM(Tota1 Qua1ity Management)やベンチマーキングといった民間企業で培われてきた経営手法 の導入などから成るNPM(New Pub1ic Management)の概念が注目を集めている。しかし、効率化や成果改善の 対象となる事業や業務は予め設定されていた行政目標を達成すべく執行されるものであり、行政目標としての 政策を本来的に立案・決定するのは地域住民に他ならない。そして、政策の立案・決定の過程に関わるために は、自治体への権利と義務を有する公民(Citizen)としての意識を地域住民が持つとともに、地域住民が自らの 居住する地域における問題を認識でき、また場合によっては問題解決のための代替案を設計しうるだけの必要 十分な情報と知識を得ている必要があり、決定に際しては政策の評価・選択のための情報と知識も必要になる。 Simon[8]は意思決定過程を情報(Inte11igence)、設計(Design)、選択(Choice)の3つの局面に分類しているが、 住民自治を地域住民による地域的集団意思決定過程と捉えるならば、決定過程への参加の公平性に加えて、 3つの局面全てにおいて意思決定過程への参加者である地域住民への情報提供と地域住民サイドでの知識の 蓄積が必要となる。このような視点から、地方自治体を構成する地域住民、地域住民の代表者としての地方議 会議員と首長、地域住民からの付託を受けて事業・業務を執行するとともに首長をサポートして政策立案にも関 与する自治体職員が、地域の現状を客観的かつ定量的に認識し、共通の問題意識を持ち、共通認識された問 題に対する解決策を共同で探って合意に達するための手段としての地理情報システム(Geographic Information System:GIS)の活用を、換言するならば「21世紀型自治体経営」あるいは「人間サイズのまちづくり」を実現する ための地域的集団意思決定機構としての Informed Decision by Informed Citizens through GIS を提案する。 情報については様々の定義があるが、経済・経営学の観点からMcDonough[7]は、「データは特定の状況にお いてそれらの持つ価値が評価されていないメッセージであるが、情報は特定の状況における評価されたデータ に対する表示」であると定義しており、さらに知識を「情報の概念のより一般的な表現で、知っていることによって 役立つ事柄の全般的貯蔵あるいは蓄積を意味する」と定義している。この定義によれば、我々の情報活動とは、 時々刻々と五感を通じて外界から入ってくる多種多様で膨大な量のデータを、意識的にせよ無意識的にせよ、 場所や情況や知識水準などで規定される問題意識に応じてその一部を評価し、評価しなかった残りの大部分 のデータを棄却していく過程であると説明できよう。問題意識がなければデータは情報とはならないし、フローで ある情報とストックである知識の蓄積水準によって問題意識は変化する。そして、問題意識が共有されていない かぎり、個人間での情報の共有はありえないことになる。一方、問題とは、川瀬[3]によれば、現在の状態あるい は「このまま進めばこうなる」という将来の状態(現実)と「こうありたい」とか「こうあって欲しい」という望ましい状態 (目標や理想)との間に横たわるギャップであると定義される。住民は、意識的にせよ無意識的にせよ、自らが住 む地域についての理想を頭の中に描いている。ただし、住民の描く理想は、情報活動を通じて認識・把握される 現状との相対的な関係によって決まるものである。 一般に住民が認識する現実は、日常の地域での生活空間が自治会・町内会レベルから小学校区レベルに限 定されることが多く、住民が日常生活から獲得する情報は具体的でリッチではあるものの、きわめて狭い空間的 現象に関するものになりがちである。しかも、住民間では価値観や問題意識や活動範囲に差があって獲得され る情報に偏りが生じ、現実の認識・把握も主観に強く影響されたものとなる。さらに、育児、教育、雇用、高齢者 福祉、産業振興、環境保全などの住民生活に関連する政策分野についての住民の関心領域も、住民の年齢、 性別、職業、家族構成などによって特定の政策領域に限定されがちになる。そのため、個々の住民が設定する 地域社会の目標や理想、あるいは自治体への要望・要求(行政ニーズ)は、空間と政策領域の両面で狭域的か つ主観的なものとなりがちとなり、その結果として住民問での情報共有が阻まれ、このことが住民自治を展開・推 進していく上での障害となりうるのである。 我々の提案する住民主体のまちづくりが有効に機能するには、第一に、地域住民が現実を的確かつ客観的 狭域的で主観的になりがちである。一方で、自治体の保有する情報は、空間と政策領域の両面で広域的かつ 客観的ではあるが、セクショナリズムの弊害や情報のリッチさに欠けることなどから自治体職員の総合的な問題 意識の形成にはつながりにくい。また、住民起点の地方自治を考える際には、地域エゴや利害集団間の対立と いった住民自治を阻む問題が発生しやすく、この問題に対して、解決のための有効なアプローチや枠組みを検 討しておかなくてはならない。 我々は、この解決のための有効なアプローチあるいは枠組みとして、地理情報システムの技術と「公共」の概 念が鍵となると考えている。「公共」の概念に関しては、さまざまな概念が示されているが、我々は、NPOに典型 的に見られる市民が自らの力で作り上げる公益的な活動を理論的に支えるハーバーマス[6]の説く公開性と共 同性を組織化原理とする意味空間としての「公共圏(public sphere)」概念に注目している。「公共圏」では、情報 を共有し、そして問題意識を共有するためのコミュニケーションが必要となる。このコミュニケーション活動を可能 にするもととして我々が注目するのが地理情報システムである。すなわち、何らかの意味での公共の存在を明確 に意識した公民(Citizen)としての住民が、地域社会における問題を共通認識できうるだけの必要十分な情報と 知識を持つこと、換言するならば「GISによる地域情報と判断に必要な知識を十分に有した公民(Informed Citizen)」の存在が、住民起点の地方自治の前提条件となるのである。 3.パイロットスタディの概要 我々は、 Informed Decision by Informed Citizens through GIS の可能性を検証すべく、2004年度に兵庫県 立大学「人間サイズのまちづくり研究会」を編成し、兵庫県揖保郡新宮町(2005年4月1日現在で人口16,948人、 5,224世帯)をフィールドに選定し、新宮町役場ならびに新宮町連合自治会の協力を得て新宮町住民意思調査 を2004年度に実施した。性別、年齢、居住地域(47の自治会別)、職業、家族構成、居住年数の基本属性を問う 質問の他に、日本全国のさまざまな自治体で実施されてきた住民意識調査を参考にしながら、一般の質問紙に よる住民意識調査でのAHP(Analytical Hierarchy Process:階層意思決定法)、CVM(Contingent Valuation Method:仮想市場法)、およびコンジョイント分析の適用可能性も検証すべく、①住民生活やまちづくりへの参 加などに関する6分野の55にわたる評価項目に対する満足度と重要度、②6つの評価分野の重要度の相対評 価と絶対評価、③通勤・通学・通院・買物などの行き先、④JR姫新線の利用状況と利便性向上策ならびに便数 増の金銭評価、⑤仮想的な政策の組合せの順位付けによる評価、を問う質問から構成されるA4サイズ8ページ の調査票を設計し、2004年12月第1週に自治会を経由して自治会に加入する4,810世帯に調査票を配布し、郵 送で調査票を回収する方法で調査を実施した。2005年1月中旬で回収を締め切り、最終的に1,105世帯からの 回答が得られ、有効回収率は22.97%であった。地方の町村で自治会を経由してアンケート調査を行う場合に は一般的に回収率は高くなると予想されるが、今回の調査は12月中旬に回覧板による督促を行ったにもかかわ らず回収率が低く、原因として年末年始の繁忙期に調査を行ったことに加えて、回答に手間取るAHP、CVM、 コンジョイント分析といった住民意識調査では馴染みの薄い調査手法による質問を入れたことが考えられる。 4.行政課題の抽出 4.1 単純集計とクロス集計 表1には、住民生活やまちづくりへの参加などに関する 6 分野の 55 にわたる評価項目に関する有効回答率と 満足度・重要度の平均スコアを全町ならびに町内5地区別に示している。町内5地区とは、1952 年に現在の新 図1 GISによる住民意識調査結果の地区別表示例 宮町が合併で誕生する前の行政区域に対応するもので、中地区が旧新宮町、西地区が旧西栗栖村、東地区が 旧東栗栖村、北地区が旧香島村、南地区が旧越部村に対応しており、播磨科学公園都市の開発が続けられて いる西地区の一部を除き、小学校区もこれらの地区に対応している。今回の調査では、満足度と重要度につい ては、リッカートの評定尺度(満足度については「5.満足」・「4.やや満足」・「3.普通」・「2.やや不満」・「1.不満」、 重要度については「5.重要」・「4.やや重要」・「3.どちらとも言えない」・「2.あまり重視しない」・「1.重視しない」)に 基づいて評価しようと試みたが、全ての項目を評価した回答者は全回答者のうちの 47.2%とほぼ半数で、満足 度については最高の「ごみ収集・ごみ処理体制の充実」(95.0%)と最低の「中小企業の育成や起業の支援」 (81.4%)の間で 13.6 ポイントの回答率の差が、重要度については最高の「鉄道(JR姫新線の)の充実(便数増 加)」(90.0%)と最低の「中学校の教育内容の充実」(80.5%)の間で 9.5 ポイントの回答率の差が認められてい る。これらの評価項目間での満足度と重要度の回答率の違いは、ある意味で評価項目に対する回答者の関心 のレベルを反映しているものと考えることができよう。 ところで、表1には、町内5地区別に評価 55 項目と「総合的な満足度」について、評定尺度の平均スコアを計 算して表示してあるが、評価項目に影響を及ぼす施設からの距離や評価項目が示すサービスを家族が享受し ているかどうかなどの違いを反映して、地区間でかなりのばらつきが認められる。そこで、 GIS(ESRI社のArc GIS及び3D Analyst)を利用して、図1に示すように、地区別に平均スコアを色分けして表示するとともに、3D 化して表現してみると、地区別の特徴が一目瞭然で理解することができる。 GISでの表現方法については紙幅の都合で省略するが、地区別に平均スコアを計算するには、JMPで「テー ブル」→「要約」と選択し、変数リストから 55 の満足度ならびに重要度に対応する変数を選択した上で、「統計 量」ボタンをクリックして表示されるドロップダウンメニューの中から「平均」を選択し、最後に変数リストで地区名 が入力された変数を選択した上で、「グループ化」ボタンをクリックすればよい。この操作で地区別に 55 の評価 項目ごとの満足度と重要度の平均値が計算されてテーブルが作成されるので、これをGISソフトに統計データと して引き渡すことにより、図1に示すように満足度と重要度の地区別の違いが住民にとって分かりやすい図として 簡単に表現することが可能になる。 また、図2には、55 の評価項目について、満足度と重要度の各評定尺度値の相対度数をグラフ化した図を示 している。この図を作成するには、次のような手順に従って作業を進めればよい。 ①相対度数分布表の作成 データテーブルを開き、「テーブル(T)」→「列の積み重ね」を選択し、列のリストから相対度数分布表の作成 の対象となる変数(ここでは 55 項目の満足度について満足度 01 から満足度 55 として変数名をつけているの 図2 55 の評価項目に対する満足度と重要度の相対度数の折れ線グラフ で、満足度 01 から満足度 55 までの 55 変数)を選択し、「追加」ボタンをクリックして「積み重ねる列」に設定した 上で、「出力テーブル名」に適当な名前を入力し、「列の積み重ね」ボタンをクリックする。この操作によって、[元 のテー5列を追加し、それぞれの列に、「満足」から「不満」までの列名を付けるものとする)。その上で、追加した 各列、「積み重ね」列の値がその列の回答選択肢番号に該当すれば1、そうでなければ0 となるように計算式を入力する。例えば、回答選択肢番号が5の「満足」の列の計算式は、 右のようになる。また、他の回答選択肢に対応する計算式は、この計算式をコピーして複写の上で、計算式の中 の回答選択肢番号だけを変更すればよい。ここまでの準備作業を終えた上で、このテーブルに対して、「テーブ ル(T)」→「要約」を選択し、列のリストから回答選択肢に対応して追加した列(ここでは「満足」から「不満」までの 5つの列)を選択の上で、「統計量」ボタンをクリックし、ドロップダウンメニューの中から「合計」を選択する。次に、 変数リストの中から「ID(「元の列のラベル」で設定した名前)」を選択して、「グループ化」ボタンをクリックし、「O K」ボタンをクリックする。この操作によって「(対象となったテーブルの名前)の要約(ID)」という名前で新しいテ ーブルが作成され、このテーブルに、相対度数分布表の作成の対象となる変数(ここでは満足度 01 から満足度 55 までの 55 変数)に対して、度数分布表が作成される。相対度数分布表を作成するには、列を追加して、計算 式で「ID」の列の隣の「N」の列を分母として相対度数を計算する式を定義して、この計算式を適用すればよい。 ②折れ線グラフの作成 相対度数が計算されているテーブルを開き、必要に応じて凡例に使用される列名を変更しておいた後、「グラ フ(G)」→「チャート」を選択し、列名のリストから回答選択肢に対応 する列名(ここでは「満足」から「不満」まで の5列)を選択した上で「統計量」ボタンをクリックし、ドロップダウンメニューの中から「データ」を選択する。オプ ションで「折れ線」を選択の上、「OK」ボタンをクリックすればよい。図2では、満足度 01 から満足度 55 までの変 数名を「路線バス」から「ボランティア」のように分かりやすい表記に変更の上、ラベル表示をさせて分かりやすい 図にしている。 以上の手順で図2のような折れ線グラフが作成でき、55 の評価項目に対する満足度と重要度の住民評価の 状況を視覚的に分かりやすく理解することができる。ちなみに、図2の満足度の折れ線グラフからは、「姫新線」、 「交通安全」、「防犯」、「ごみ」、「医療」、「高大通学」、「企業誘致」、「雇用確保」、「商業」などを除いた評価項 目は「普通」という回答が多く、「不満」や「満足」に偏った極端な回答パターンは見られないことが分かる。 4.2 CSポートフォリオ分析 ここまでの分析では、満足度と重要度の関係を明らかにすることはできないので、マーケティングの分野でよく 使われている「CSポートフォリオ分析(ベネフィット・ポートフォリオ分析)」を適用し、行政課題の抽出を試みた。 今回は、55 の評価項目の全てに対して満足度と重要度の評価を行った回答者(539 人)のみを対象に分析を 行った。まず、各評価項目の「満足」・「重要」に5点、「やや満足」・「やや重要」に4点、「普通」・「どちらとも言え ない」に3点、「やや不満」・「あまり重視しない」に2点、「不満」・「重視しない」に1点を与え、55 の評価項目につ いて偏差値を求め、図3のようにグラフ化すればCSポートフォリオ図が完成する。なお、満足度と重要度の両方 を評価している回答者のみを選別するには、満足度 01 と重要度 01 を例にとると、2列を追加し、新満足度 01 お よび新重要度 01 という列名を付けた上で、それぞれの列に以下のような計算式を入力して適用すればよい。 次に、評価項目ごとに満足度と重要度の偏差値を計算するには、各回答選択肢に付与する得点と同じコード を振ってデータ入力をしているので、前項で述べたように、「テーブル(T)」→「要約」の機能を活用すればよい。 具体的には、表示される「要約」ダイアログボックスにおいて、55 の評価項目の満足度評価に対応する列名を選 択し、「統計量」ボタンをクリックしてドロップダウンメニューから「合計」を選択する。この操作により、新しいテーブ ルに 55 の評価項目ごとのスコアの合計点が計算されて行方向に入力されるので、「テーブル(T)」→「転置」を 選択して列方向に合計スコアが入力されたテーブルへ変換する。同じ操作を重要度評価に関する 55 の列を対 象にして行う。その上で、満足度評価の合計スコアテーブルと重要度評価の合計スコアテーブルを「テーブル( T)」→「結合」で結合させ、偏差値を計算するための列を追加し、満足 度と重要度のそれぞれについて右に示す計算式を入力して偏差値を 求める。 CSポートフォリオを表示させるには、「二変量の関係」を選択し、満足度偏差値を縦軸(Y,目的変数)に、重 要度偏差値を横軸(X,説明変数)にして「OK」ボタンをクリックする。最後に、補助線を入れたり、ラベルをつけ たりなどして、図を見やすく整えればよい。 図3のCSポートフォリオに示すように、55 の評価項目は、重要度は高いが満足度が低い「重点改善分野」、重 要度も満足度も低い「改善分野」、重要度は低いが満足度が高い「維持分野」、重要度も満足度も高い「重点維 持分野」に分けて行政課題の抽出や政策立案に資することができる。また、紙幅の関係で割愛しているが、地区 別にCSポートフォリオを作成してみると、地域特性を反映した地域固有の課題が浮かび上がってくる。 4.3 主成分分析 55 の評価項目について、評価項目間の内部関連も考慮に入れて行政課題の構造を抽出することを目的に、 満足度評価に対して主成分分析を試みた。主成分分析を適用するにあたっては、廣野・林[5]で解説されている 手順に従ったが、分析結果の全体のイメージを掴み、行政課題の抽出が容易になるように、分野ごとに色とマー カーを変更した上で結果を表示させた。 図3 CSポートフォリオ図による行政課題の抽出 図4に示したのは、「主成分スコア(第 1 から第 3 主成分)の回転プロット」と「主成分1と主成分2 の二変量関係」である。図4から分かるように、評価項目は分野ごとに互いに近い位置に集まる傾向が 見られるが、各主成分の意味を解釈することが難しく、主成分分析による行政課題の構造の抽出は今後 の課題となっている。各主成分の意味の解釈が難しいことの背景には、5段階の評定尺度で満足度評価 を実施したが、図2に示すように、中間・中庸的な評価である「普通」に回答が集中していることが考 えられる。この点の評価・分析についても、今後の課題としたい。 4.4 対応分析 主成分分析で地域の行政課題の抽出を行うことが困難であったため、対応分析(Correspondence Analysis) を適用して行政課題の抽出を試みた。対応分析とは、測定項目と対象を同一空間に位置づける分析方法であ り、変量の関係を視覚的・数量的に評価したり、知覚マップなどを作成して構造の解釈を支援することができる。 ここでは、各評価項目の満足度評価について、「満足」と「やや満足」の回答を満足と見なして、 1 の値を与 え、その他の回答はすべて「不満」と見なして 0 の値を与えて分析している。 ところで、JMPで対応分析を行う場合には、データ集計表を図5の右のようなデータ行列に変換しなければな らない。今回、対応分析の対象となったのは 55 項目の満足度をすべて評価した 607 世帯からの回答であ るので、55 項目の満足度評価に対して対応分析を適用しようとすると、607 行×55 列=33,385 行のデータを 加工しなければならない。当初、JMPの機能をよく理解していなかった筆者の一人は、表計算ソフトを活用して 手作業でデータ加工作業を行っていた。しかし、データ量が膨大であるため、数時間を費やしても作業を完了 することができず、多数の作業ミスも犯してしまうこととなった。このため、手作業では対応分析のためのデータ加 工作業はほぼ不可能であると判断し、試みとしてJMPの「列の積み重ね」機能を使用してみたところ、わずか数 秒で対応分析用のデータに加工することができた。この方法は既に満足度と重要度の相対度数の折れ線グラフ を作成する際に紹介しているが、改めて説明すると次のようになる。 ①55 の評価項目に関する満足度評価の元データを読み込む。 ②「テーブル(T)」→「列の積み重ね」コマンドをクリックする。 ③ダイアログボックスが表示されるので、元データの列から「満足度 01」から「満足度 55」までの満足度評価に 関する 55 の変数を選択し、「追加」ボタンをクリックする。 図4 満足度 55 項目の主成分分析結果 図 5 対応分析のためのデータ形式 ④「出力テーブル名」、「積み重ねたデータ列」、「元の列のラベル」などに適切な名前を入力し、「列の積み重 ね」ボタンをクリックする。「度数」列を追加し、5段階の満足度評価(「積み重ねたデータ列」)に対して、「満 足」(5)と「やや満足」(4)= 1 、その他の回答= 0 の値を計算式により変換させる。 以上の操作で作成された新しいデータテーブルは、まさしくJMPの対応分析用のデータ形式に対応したもの に他ならない。上記の手法によるデータの準備が完了した後に、以下の手順で対応分析を行う。 ①「分析(A)」メニューの「二変量の関係」をクリックする。 ②「列の選択」から「地域名(地区名が入力された列)」、「満足度調査項目(「元の列のラベル」の名前)」、「度 数」(追加された列)それぞれダイアログボックスの「X,説明変数」、「Y,目的変数」、「度数」に割り当てて 「OK」ボタンをクリックする。 ③出力ウインドウが表示されるが、出力タイトル(「地域名と満足度調査項目の分割表」)の横の赤い▼をクリッ クし、「対応分析」をクリックすると、対応分析の結果が表示される。さらに、「詳細」の青い▼をクリックすると、 比率、累積、スコアなどが表示される。 ④「対応分析」プロットの赤い▼をクリックし、「テーブルの作成」コマンドをクリックすると、スコアのデータテー ブルが作成される。 ⑤特異値、慣性、比率、累積値などの各種の指標をデータテーブルに保存する場合には、それらの値が表示 されている領域で右クリックを行い、表示されるメニューから「テーブルの作成」をクリックする。 ⑥「地域名」および「満足度調査項目」に関するスコアをそれぞれ保存する場合、詳細のところで、保存する対 象を右クリックし、表示されるメニューから「テーブルの作成」をクリックする。 以上が対応分析の手順であるが、手順③で表示させた「対応分析」プロットを用いて、各スコアの解釈・意味 付けや、地域のイメージ測定が可能になる。しかし、今回のパイロットスタディの場合、取り扱う変数が非常に多 いため、結果の表示は割愛するが、クラスター分析を利用して潜在的なグループを抽出し、解釈を試みた。その 図6 対応分析のスコアの散布図(地域名と満足度調査項目表示) 手順は次のようになる。 ①上の手順④で作成されたスコアデータテーブルを開き、「満足度調査項目」に対応する 55 の行を選択した 上で、選択した領域上で右クリックを実行し、表示されるメニューから「除外する」および「表示しない」の設 定を行う。この操作によって、地域だけをクラスター分析の対象とすることができる。 ②「分析(A)」メニューから「多変量」の下位コマンドである「クラスター分析」を選択し、表示されるダイアログボ ックスで、スコアの「C1」と「C2」を「Y,列」に、地域名が入っている列である「ラベル」を「ラベル」変数に割り 当て、「OK」ボタンをクリックする。クラスター分析が実行され、「階層型クラスター分析」プラットフォームのレ ポートに、「樹形図」、「クラスター分析の履歴」表、クラスター間の距離のプロットが表示される。 クラスターの数は樹形図の上下に表示される菱形ハンドルをドラッグすることで調整できる。対応分析スコアの 散布図の作成や、回転プロットを用いてグループ化された地域の特徴を分析する際には、視覚的に分かりやす くするため、「階層型クラスター分析」タイトルの左にある赤い▼をクリックし、クラスターの色分けとマーカー分け を選択すればよい。このように作成した対応分析スコアC1とC2の散布図を図6として示してある。このような図か ら、地域の類似性や行政課題の構造の分析が可能となると考えているが、詳細については今後の課題である。 5.おわりに これまでの兵庫県揖保郡新宮町をフィールドにしたパイロットスタディから、同じ町内でありながら、住んでいる 地区(自治会)によって住民生活上の満足度や重要度の評価が大きく異なることが分かるが、2005年3月に実施 した新宮町長ならびに幹部職員に対する説明会においては、「日常の行政活動を通じて感じている地区別の行 政ニーズや行政評価の違い、あるいは施設等の偏在が評価項目の満足度と重要度の平均スコアの違いに表れ て納得できる」との感想を得ている。また、2005年4月に実施した連合自治会役員会での説明では、自治会長の 方々から、「地域差がこのようにあるとは思わなかった」とか「納得できる結果になっている」とか「同じような課題 を抱えている自治会が他にもあることが分かったので、行政に要望を上げる際には同じ課題を抱える自治会で 連携していきたい」といったような感想が得られている。現在、新宮町の全世帯に調査結果を図1のように地図化 して要約したパンフレット(A3版両面印刷)を配布すべく準備を進めているところであるが、次のステップとして、 住民から新宮町のまちづくりにどのような反応が生まれるかに期待しているところである。 1950 年代の昭和の大合併は「合併で市町村域が自転車で 30 分の範囲」に広がったとされるのに対して、現 在進められている平成の大合併では、「市町村域は自動車で 30 分の範囲」に大きく拡大しようとしている。このよ うに広域化した自治体での行政課題の抽出には、住民意識調査結果を小学校区レベルなどの地区別に集計し、 地図を使って分かりやすく表示させるなどの工夫が必要になる。 阪神淡路大震災を経験し、完全復興へと向けて住民主体のまちづくりを進めている兵庫県では、住民主役の まちづくりの仕組みとしての「人間サイズのまちづくり」概念が提唱されている。「人間サイズのまちづくり」が目指 すのは、自治会・老人会・婦人会・商工会など、従来からの地域を基盤とする組織が機能することを前提とし、こ れらの組織の代表を住民代表として参加させる旧来型の「まちづくり」ではない。我々が本研究で強調するのは、 以 下 の 4 点 で あ る 。 1) 生 活 者 で あ る と と も に 地 域 お よ び 自 治 体 の 構 成 員 と し て 、 地 域 の マ ネ ジ メ ン ト の Plan-Do-Seeのすべての局面に関わる必要がある個々の住民にダイレクトに注目する。2)地域の住民の多様性 を前提に、地域社会の現状に関して共通の認識をし、地域社会の将来の望ましい姿を共創していくプロセスを 通じて、住民をPlanの局面に関与させる。3)地域の現状と望ましい姿との間のギャップを地域の問題として理解 し、地域社会の中に蓄積されてきた「地域知」とでも呼ぶべき問題解決のための住民の知識や知恵を「まちづく り」のプロセスに動員・展開させ、Doの局面での行政と住民の協働を育む。4)さまざまな住民のニーズと住民の 主体的な活動を合致させ、その成果がより豊かな地域社会の再生・確立につながることをSeeの局面でタウンミ ーティングなどを通じて住民自らが確認する。本研究の今後の課題として、これら4つの特徴を持つ「人間サイズ のまちづくり」のために不可欠な地域情報の共有のための仕組みを、具体的には地理情報システムと住民意識 調査によって現状認識の共有を支援するためのシステムを構築し、その有効性を検証していきたい。 謝辞 本研究は、平成 16 年度兵庫県立大学特別教育研究助成金の助成を受けて行ったものである。新宮町住民 意識調査の実施にあたり、新宮町民の皆様にご協力をいただくとともに、調査票の配布や督促状の回覧に際し て新宮町ならびに新宮町連合自治会から格別のご配慮をいただいた。この場を借りて深く感謝申し上げます。 参考文献 [1] 有馬昌宏,「分権型社会における情報技術を活用した住民自治の可能性−Informed Decision by Informed Citizens through GISの提案−」,神戸商科大学創立七十周年記念論文集,pp.201-212,2000. [2] 有馬昌宏・川向肇・黒田佳代・田中有紀・藤尾俊幸・繆青,「GISを活用した地域マネジメントシステムの構 築」,経営情報学会2005年春季全国研究発表大会予稿集,pp.314−317,2005. [3] 川瀬武志,『IE問題の解決』,日刊工業新聞社,1995. [4] 川向肇・有馬昌宏,「生活者支援ツールとしてのGISの活用」,地理情報システム学会講演論文集,Vo1.7, pp.153-158,1998. [5] 廣野元久・林俊克,『JMPによる多変量データ活用術』,海文堂出版,2004. [6] ユルゲン・ハーバーマス(細谷貞雄・山田正行訳),『公共性の構造転換(新版)』,未来社,1994. [7] McDonough, A.M., Information Economics and Management Systems, McGraw-Hill,1963(松田武彦・横山保 監修,長坂精三郎訳,『情報の経済学と経営システム』,好学社,1965). [8] Simon, H.A., The New Science of Management Decision, Harper & Row, 1960.
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