様式第2号 平成23年度 独 創 的 研 究 助 成 費 実 績 報 告 書 平成24

様式第2号
平成23年度
独 創 的 研 究 助 成 費 実 績 報 告 書
平成24年
申
請
者
調査研究課題
学科名
職 名
教 授
氏 名
沖 本
克 子 印
アメリカにおける「成熟した未成年者」と医療に関する自己決定
氏
代
表
調査研究組織
看護学科
3月30日
名
沖本克子
所属・職
専門分野
保 健 福 祉 学 部 看 護 学 看護学
科・教授
医事法
役割分担
全部
分
担
者
調査研究実績
の概要○○○
はじめに
わが国では、未成年者が同意能力ないしは判断能力を有する場合に、医療に関する決
定、つまり、同意または拒否を有効になしうるかどうかについて争いがある。日本輸血学
会等が作成した「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」等は、判断能力のある未成年者
は輸血拒否を有効になしうるとする見解である。海外に目を転じると、アメリカでは、
「成熟した未成年者」は医療に対する同意を有効になしうるとされている。また、イリノ
イ州には、成人間近であった白血病の未成年者に「成熟した未成年者」であるとして、輸
血を拒否する権利を認めた判例などが存在する。この「成熟した未成年者」に関しては、
「成熟性」には明確な基準がないことから、裁判所の恣意的な決定が行われる危険性が指
摘されている。そこで、同意能力ないしは判断能力を重要視する日本と異なり、アメリカ
では「成熟性」をなぜ重要視するのかという問題意識に基づき、未成年者の信仰に基づい
た輸血拒否の判例をとおして「成熟性」について検討した。
1.親の同意原則と成熟した未成年者
アメリカの多くの州では18歳が成人年齢であり、未成年者は法的に無能力であると推定
される。そのため、医師が未成年者に医療を提供する時には、親または後見人の同意を必
要とすることが、コモンロー上の一般原則である。しかし、成熟していると認められた未
成年者は、親の同意がなくても自ら医療に同意できることを、例外として認めた判例が積
み重ねられ、成文化されている州もある。成熟した未成年者は医療に関する同意だけでは
なく、拒否もできるのかという問題が浮上してくる。そうした中、上述した
次頁に続く
ように、イリノイ州の判例が現れる。
調査研究実績
の概要○○○
2.判例の動向
ここで取り扱う判例は、未成年者が輸血を拒否することにより、生命が危険な状態に陥
る可能性のあるものである。現在、検索と収集が可能な判例は6件であり、その判例を用
いて「成熟性」について検討した。
裁判年 拒否時年齢 病 名 治療拒否等に対する裁判所の判断 A 1989
17歳6か月
白血病
医療への同意または拒否するコモンロー上
の権利を有している
B 1990
17歳
スノーボート 子どもの生命保護という州の利益が常に維
事故による脾 持されるという判決を下してこなかったの
臓損傷
で、通常このケースは事実審裁判所に差し
戻すところであるが、Bはすでに退院してし
まっているのでムート(争訟性がない)
C 1990
17歳10か月 横紋筋肉腫
Cは成熟していない
成熟した未成年者の法理の成文化を希望
D 1996
16歳
列車事故によ 成熟した未成年者の基準を採用していない
る右腕損傷
E 1999
17歳
自動車事故に 望んでいない治療を拒否する「成熟した未
よる重症損傷
成年者」の権利を認めていない
F 2006
17歳8か月
白血病
成熟した未成年者の法理の採用を拒否
未成年者が成熟しているならば、輸血の拒否を認めるとした判例はAとBの2つのケース
であり、残りの4つのケースは未成年者に輸血の拒否を認めなかったケースである。しか
し、Cケースでは、Cの成熟性を判断した上での結論であり、成熟した未成年者の法理の成
文化を希望していることから、「成熟した未成年者の法理」を採用していると考えられ
る。
3.「成熟性」の検討
裁判所は、事実審裁判所で未成年者の「成熟性」を判断する際には、手続きとして、臨
床の複数の専門家による証言、両親の証言、本人の証言を求めている。
未成年者が、医療に関して自分自身で決定できるようになるのはいつなのか? 判例
は、イギリスのコモンローに由来した7の原則を援用しており、14歳以上の子どもは医療
に同意する能力をもっていると推定されることになる。14歳以上の子どもに、推定ではな
く、同意する能力があるというためには、能力があることを証明する必要がある。
「成熟性」とは、Aケースに引用されている判例によれば、「未成年者が医療に同意す
る能力を有しているかどうかは、年齢、能力、経験、教育、しつけ、成熟の程度、判断
力、行為時の未成年の行為と態度によって決定される。さらに、全体の状況、治療の本
質、治療の危険性とその結果、危険と結果を評価する未成年者の能力」である。
まとめ
「成熟性」のきわめて重要な判断要素は、十分な情報を与えられ、治療の本質、治療の
危険性と治療の結果などを理解したうえで、自らが意思決定をする能力があることであ
り、それを補強するものとして、教育や経験などが存在する。これは、日本における同意
能力ないしは判断能力より広い概念である。
成果資料目録
1)沖本(久藤)克子(2011):アメリカにおける「成熟した未成年者」と医療に関する
自己決定.日本生命倫理学会第23回年次大会.東京.