局所進行直腸腺癌の術前化学放射線療法がリンパ

論
文
の
内
容
の
要
旨
論文題目「局所進行直腸腺癌の術前化学放射線療法がリンパ節に与える影響
放射線照射野内と照射野外における回収リンパ節の個数とサイズの検討」
学位申請者
キーワード:直腸癌
化学放射線療法
岡田
放射線療法
和丈
検索リンパ節個数 リンパ節のサイズ
【研究の背景】Stage II, III 結腸直腸癌において, 手術で郭清し病理組織検査で検索す
るリンパ節の個数が多い症例は少ない症例に比べて予後が良いと報告され, Stage II の結腸
癌では検索リンパ節個数 12個未満は再発のリスク因子とされ術後補助化学療法の適応を考慮
する条件に挙げられている. そして The National Comprehensive Cancer Network (NCCN)
のガイドラインでは結腸癌において, 正確な病期分類のためには 12個以上のリンパ節を検索
するよう推奨されている. 局所進行直腸癌では術前の化学放射線療法 chemoradiotherapy
(CRT) が手術単独症例に比べ局所再発を約20%から数%に減らすため現在では国際的な標準治
療となっている. 術前に化学放射線療法を行うと回収リンパ節個数が減少すると報告されて
おり, このため術前化学放射線療法を行った局所進行直腸癌症例において, 検索リンパ節個
数としての必要個数は確立していない. 術前化学放射線療法を行うと, 放射線照射野内のリ
ンパ節は放射線および同時に併用する化学療法, 両者の影響を受けるが, 照射野外のリンパ
節は併用する化学療法のみの影響を受ける. しかし, 今までに術前化学放射線療法がリンパ
節に与える影響について, 照射野内, 照射野外に分けて評価した研究はない. そこで本研究
では, 化学放射線療法がリンパ節に与える影響を明らかにすることを目的に, 術前化学放射
線療法を受けた症例における回収リンパ節の個数とサイズを照射野内と照射野外に分けて評
価し, 手術単独治療例と比較した. そして術前化学放射線療法を受けた直腸癌症例において,
回収リンパ節個数の予後予測因子としての意義を検討した.
【研究方法】 1991年から 2010年までの, 術前診断が clinical Stage (cStage) II
or cStage III の中下部直腸腺癌で根治手術を受けた 210例を対象とした. 手術のみでの治
療症例 (S群) が 108例 (S群), 術前に 40または 45Gy の放射線療法と同時に化学療法
(UFT または S-1) を行った症例 (CRT群) が 102例 (CRT群) だった.
リンパ節の分布領域
は照射野内: Inside the radiation field (直腸間膜内: Inside the mesorectum) と照射野
外: outside the radiation field (直腸間膜外: outside the mesorectum) に分けた. 回収
リンパ節の個数, 転移リンパ節個数は 病理組織検査のレポートに従い, リンパ節のサイズ
(長径, 短径, 面積) は hematoxylin - eosin (H-E) 染色標本で computer digitizer
(adobe photoshop) を用いて測定した. CRT群では原発巣の組織学的効果 (Tumor regression
grade (TRG) 分類: TRG 1-2 組織学的効果著明群, TRG 3-5 効果軽度群) とリンパ節の個数,
サイズの関連性を検討した. 生存解析は Relapse free survival (RFS) を評価項目とした.
【結果】 S群, CRT群の2群間で, 性別, 年齢, 直腸癌の組織型に差はなかった. CRT群は S
群に比し, 肛門縁から腫瘍までの距離が有意に短く, リンパ管侵襲, 静脈侵襲が有意に少な
かった. CRT群では術前化学放射線療法によって 40例 (39%) が down stage した. 評価した
リンパ節個数は 総計2052個で, このうち転移リンパ節は 225個 (11%) だった. 平均回収リ
ンパ節個数は S群 11±8個, CRT群 9±6個で CRT群が有意に少なかった (p=0.04). 照射野内
のリンパ節個数は S群 6±6個, CRT群 4±4個で CRT群が有意に少なかった (p<0.01) が, 照
射野外では各々 5±4個, 5±4個で差がなかった. リンパ節の長径は, 照射野内で S群 4.3±
2.3 mm, CRT群 3.5±1.9 mm (p<0.01), 照射野外で各々 4.3±2.5 mm, 3.7±2.1 mm
(p<0.01) で, いずれの領域でも CRT群が有意に小さかった. リンパ節の短径, 面積も同様の
結果であった. CRT群において回収リンパ節個数と原発巣の組織学的効果には関連がなかった
が,
転移陰性リンパ節長径の平均値は TRG 1-2 は TRG 3-5 に比べ有意に小さかった (TRG
1-2 3.3±1.1 mm, TRG 3-5 3.8±1.3 mm p=0.029). 転移陽性リンパ節も同様であった. 生存
解析は S群は Stage II 症例で総回収リンパ節個数と直腸間膜内リンパ節個数が予後因子に
なったが, CRT群では回収リンパ節個数は照射野内, 照射野外いずれも予後と関連は認められ
ず, 組織学的壁深達度と手術術式, TRG が予後因子になった.
【考察】 直腸癌への手術前の化学放射線療法により, 手術単独治療例に比較して回収リン
パ節の総数は減少した. これは照射野内のリンパ節数が減少したためであった.
術前化学放射線療法によってリンパ節のサイズは縮小し, 化学放射線療法に高感受性の症例は
さらに小さくなる. そして化学放射線療法に高感受性の症例は予後が良い. 手術単独治療症例は
回収リンパ節個数が多いと予後がよかったが, 術前化学放射線療法を行った症例では回収リンパ
節個数は予後に関連しなかった. 予後が良い症例はもともとリンパ節個数が多くても化学放射線
療法によって個数が減り予後に寄与しなくなる可能性がある. しかし本研究におけるこれらの結
果は症例数が少ないため, さらに症例数を増やして検討する必要がある. そして術前化学放射線
療法の影響は照射野内と照射野外で異なるため リンパ節の oncological outcomes を検討する
際は照射野内と照射野外とで別々に評価すべきである.
【結論】局所進行直腸腺癌症例における術前化学放射線療法の効果は 放射線照射野の内と
外で異なった. リンパ節の回収個数と oncological outcomes を評価する際は照射野内, 照
射野外に分けて評価する必要がある.