市場の環境主義化とグリーンコンシューマー運動 - So-net

市場の環境主義化とグリーンコンシューマー運動
法政大学社会学部社会学科 4 年 L 組 9751258 番
【目次】
はじめに
第一章
グリーンコンシューマー運動の考察
第一節
イギリスでのグリーンコンシューマー運動
1.イギリスでのグリーンコンシューマー運動の流れ
2.
『THE GREENCONSUMER GUIDE 』について
3.イギリスでのグリーンコンシューマー運動の特徴
第二節
アメリカでのグリーンコンシューマー運動
1 . SRI ・SRC
運動からのグリーンコンシューマー運動の位置付け
2 . 環境運動からのグリーンコンシューマー運動の位置付け
3.『Shopping for a Better World 』について
4.アメリカでのグリーンコンシューマー運動の特徴
第三節
日本でのグリーンコンシューマー運動の取り組み
1 . 日本でのグリーンコンシューマー運動の流れ
2 . 『グリーンコンシューマーになる買物ガイド』について
3 . 日本でのグリーンコンシューマー運動の特徴
第四節
グリーンコンシューマー運動の特徴
1.グリーンコンシューマー運動の定義
2.「アダムスミス的」市場感覚
―グリーンコンシューマー運動の背景にある感覚―
3.グリーンコンシューマー運動の特徴
4.買物ガイドの特徴
第五節
グリーンコンシューマー運動の課題
1.「運動」としてのもろさ
2.日本におけるグリーンコンシューマー運動の課題
3.推進主体の違い
4.買物ガイドについて
第 二 章 市場における環境主義化の可能性の考察
第一節
企業と環境主義
1.持続可能な発展の概念
第二節
2.環境主義化にむけた二つの制度的拘束
環境効率とはなにか
1.環境効率概念の成立背景
2.環境効率の定義
1
吉田暁子
3.環境効率の特徴
4.環境効率の課題
第三節
市場の環境主義化に向けた法規制とはなにか
1.環境規制は競争力を高めるか
2.環境規制と環境効率との関係−良い規制と悪い規制−
3.イノベーションのインセンティブとなる規制
4.環境効率を実現するための4タイプの環境政策
5.協定政策の取り組み
第四節
日本企業と環境効率
1.日本産業界の環境問題の取り組み
2.日本型企業モデル
3.日本型企業モデルと環境効率
4.日本における環境規制の成功事例−エネルギー使用の合理化に関する法律−
第五節
5.日本産業界における環境問題の課題
環境効率の可能性と限界
第 三 章 エコロジーとエコノミーの調和―環境制御システムの豊富化―
第一節
社会的ジレンマ論と環境制御システム
1.社会的ジレンマ論
2.環境制御システム
第二節
環境制御システムによるグリーンコンシューマー運動の位置付け
第三節
第四節
環境制御システムによる「環境効率」の位置付け
社会的ジレンマとグリーンコンシューマー運動と企業の環境主義化
第五節
環境制御システムの豊富化の条件
おわりに
【注】
【参考文献】
2
はじめに
80年代後半、地球環境問題が一般化した。大量生産・大量消費・大量廃棄という社会
システムでは地球における人間の生活がいつか破綻することを明らかにした。そして多く
の問いを生み出した。市場経済システムはどのような変革を求められているのか。持続可
能な社会における経済システムとはどのようなものなのか。しかし、今だ具体的に明らか
にされていない。
地球環境問題の一般化から10年経つが、様々な主体からのリアクションが起こり、実
践行動を起こしている。いったいこれらの取組みは何を意味するのだろうか。この論文で
はそれらを取り上げ考察を深めるものである。
この論文は三部構成をとる。第一章では消費者におけるリアクションとして、グリーン
コンシューマー運動を取り上げる。第二章では産業界におけるリアクションとして、「環境
効率」を中心に取り上げる。第三章では、環境問題における消費者の動きと産業界の動き
はどのような意味を持つのか、社会的ジレンマ論と環境制御システムに依拠して把握する。
第一章
グリーンコンシューマー運動の考察
イギリスからはじまったグリーンコンシューマー運動は多くの国に広がった。この章で
は英・米・日におけるグリーンコンシューマー運動の流れと特徴を把握することで、グリ
ーンコンシューマー運動とはいったいどういう運動なのかを把握する。
第一節
イギリスでのグリーンコンシューマー運動
1 .イギリスでのグリーンコンシューマー運動の流れ 1)
イギリスでのグリーンコンシューマー運動の主要な成功は 7 0 年代後半の毛皮の反対キャ
ンペーンからはじまる。ファッション産業に対して絶滅の危機にある動物種への社会的責
任を問うものだった。イギリス政府は虎・豹等の毛皮の輸入を法律で禁止し、ヨーロッパ
社会全体に影響を与え、動物の保護に対する人々の意識が向上し毛皮の需要が下落し、動
物の毛皮の市場はほとんど存在しなくなった。
動物実験の問題は 1 8 0 0 年代の前半から問題となっていた。早い時期からのキャンペーン
は化粧品からコーヒーまで私たちが毎日使う商品のために動物実験することに消費者の態
度を変化させるのを促進した。最近の
15
年間では、” c r u e l t y - f r e e ” ( 動物実験をしていない
という意味 )と言われている商品の販売の増加によって、多国籍企業の大部分が変化してい
る。ヨーロッパや北米を越えて設立されているある店では
70
年代や
80
年代の初めに動物
実験の習慣に対して私たちの注意を引きつけることに成功した。その店の名は「 T H E
BODY
S H O P 」といい、オルタナティヴなビューティコスメティックを目指し、アニータ・ロディ
ック ( A n i t a
R o d d i c k ) によって設立された。この企業は動物実験された商品は売らないのが
基本方針だ。現在、1億ドル企業となっている。
「グリーンコンシューマーリズム」という言葉は1988年に出版された『グリーンコ
ンシューマーガイド』によって造られた。この本は世界的にベストセラーになった。同年
に、フレンドオブアース ( F o E ) U K はフロンガス ( C F C s ) を使用していないスプレー缶を買う
3
ようにキャンペーンを始めた。F o E U K はオゾン層を破壊するフロンガス ( C F C s ) を使用して
いないスプレー缶を製造している数少ない企業を探し出しただけではなく、人々にこの商
品だけ購入を勧めるために、フロンガスを使用したスプレー缶を製造している企業名のリ
ストを公表した。そして主な企業の全てがスプレー缶からフロンを取り除くことを認めた。
悪評による潜勢力が企業を動かした。この消費行動の変化はイギリスだけで生じただけで
はなく、多くのヨーロッパ各国、特にドイツ、スェーデンなどに広がった。
89年に、マーケットリサーチ会社のミンテル ( M i n t e l ) が、急成長しているグリーン革命
の背景を探るためグリーンコンシューマーのレポートを作成した。それから、環境に関わ
る現場で多くの新しい発展し続け、「倫理的な消費者 ( e t h i c a l
c o n s u m e r ) 」という言葉は権
威あるビジネスマンにでさえ知らぬ間に使われ始めるようになった。
消費者が企業や店から商品やサービスを買うのやめようと思うのはどのような問題かと
訊ねられたとき、環境問題は倫理や動物に関する問題よりわずかに上回っている程度だ。
女性は動物問題や環境問題に影響されやすく男性より強く表れている。これらの問題は環
境にやさしい商品を買うもしくは買おうとしている回答者の10分の6近く人の消費習慣
に影響を与えている。そのうちの3分の2が「 d a r k g r e e n ( c o n s u m e r ) 」である。これは積
極的にグリーン商品を探し出して購入している消費者のことを言う。残りの3分の1は
「p a l e
green
( c o n s u m e r ) 」である。グリーン商品やサービスを見かけたときに購入してい
る消費者のことを言う。回答者の25 % は「 a r m c h a i r
g r e e n ( c o n s u m e r ) 」である。環境に
ついて気にかかってはいるがそれに応じて買物習慣が変化していない消費者のことを言う。
回答者の10分の1は「 a n t i - g r e e n
( c o n s u m e r ) 」である。特別な努力をしてどんなグリー
ン商品をも買うのを避けている消費者のことを言う。
オゾン層については消費者の中で最も公共性の高い関心を寄せる環境問題で、地球温暖
化問題、森林破壊などがその後に続く。
世間の3分2の人たちは環境にやさしい商品への非難に対して困惑していることを告白
している。70 % 以上の人が製造業はより高い値段を請求する口実として環境にやさしいと
いう言場を使用していると疑っている。しかし、このような非難に対して、グリーン商品
の購入傾向に大きな影響としては表れていない。
例えば女性環境ネットワーク ( W o m e n ’ s
Environmental
N e t w o r k , W E N ) 2 )が行なった一
つのキャンペーンが、消費者の力によってどのように産業に効果的な影響を与えることが
できるのかという良い事例として利用できるだろう。W E N は様々な観点から環境問題を前
向きに探したいという、イギリスの小さな女性団体によって
1988
年に創立した。男性の参
加を締め出すことはなかったが、フェミニズムの観点から環境問題の解決に取り組んでい
る。消費者運動のキャンペーンは大半がその思想によるものだった。W E N が組織した最初
の大きなキャンペーンは「アンブリーチペーパーキャンペーン」で、 8 9 年の年明けにはじ
まった。製造業社やスーパーマーケットは消費者を、特に女性を責め始めた。例えば、彼
らは女性が白く輝いている紙製品を望んでいるから、紙を白くするために塩素漂白を使用
すのであって、引き起こされる汚染に対して副次的に責任があるのだと批判した。
W E N がキャンペーンを始めたとき、赤ちゃんの紙オムツからナプキンやタンポンまでよ
く買っている生理用品について話し合うことで女性にターゲットを絞った。それらはすべ
て塩素で漂白され不必要に白かった。 B B C テレビによって行なわれた世論調査によると女
4
性は白い紙を購入することで地気球を汚染したくない、ということがわかった。調査で電
話した
1
万人の内98%が、生理用品が何色であるか気にしないと回答した。自分が買っ
てる製品が環境にダメージを与えていると聞き、製造業社に手紙を書いたり、電話をした
り、ボイコットを脅迫したり、議員にコンタクトを取ったり行動を要求した。キャンペー
ンが始まった
6
週間のうちに、どの赤ちゃん用紙オムツや生理用品製造業社も紙製品を白
くさせるための塩素漂白を使用するのをやめるのを認めた。小さいが重要な産業をターゲ
ットにすることは紙業界にドミノ効果を起こした。 1 9 9 0 年までに、イギリスの全紙製造業
社を調査したものによると、製造業社によって輸入された紙の種類のうち大きく 4 0 %の変
化を示した。ヨーロッパの塩素物はパルプ、紙業界のうち、世界の塩素消費量の
1 3 %を占
めていたが、塩素漂白が規則や消費者が取り締まるようなプレッシャーのもとに置かれて
いる。英国のオムツ産業が変化することは、残りの紙産業へ変化を始める必要があるきっ
かけになっていることがわかった。消費者の
9 0 %近くが塩素フリーのパルプを利用して生
産された紙製品や漂白していないリサイクルした紙製品をどのヨーロッパ国でも入手でき
る。
W E N
による「包装はリップオフ(ぼったくり)」というキャンペーンはスーパーマーケ
ットが包装について再考させるのに成功した。政府でさえ消費者の商品に対してミニマム
な包装への呼びかけに賛同した。地方の店での女性による行動はプレッシャーをかけた。
女性たちは地方のスーパーマーケットに行き普段の商品を買う。そしてお金を支払ったと
き過剰包装を考慮していることを伝え、包装を正式な不満とともに店のマネージャーへ戻
す。
環境問題が主要な関心として確立するとき、政府や圧力団体は問題を改善するための最
も良い行動ををとるために製品を評価について調査し始めている。ゆりかごから墓場まで
の完全な分析は、どの製品の種類が最も環境にやさしいのか、消費者が情報によって選別
するのに役立つだろう。ヨーロッパ社会は、環境にやさしい商品のラべリングをもとにラ
イフサイクル分析を採用するだろう。この動きは、消費者にとって何の製品が環境にとっ
てベストであり、どっちの製品が消費量が少ないかについて役立つので、多くの使い捨て
製品や余計な製品に影響を持つようになるだろう。
2 .『T H E G R E E N C O N S U M E R G U I D E 』について
『 T H E G R E E N C O N S U M E R G U I D E 』 3)はサスティナビリティ社によって出版された。
サスティナビリティ社は、ビジネス分野における持続可能な発展の実現を追及するために
1987
年に設立された世界で最初の専門コンサルタント会社である。この
10
年あまりの間
に、持続可能な発展へ向けての企業の行動計画策定、経営戦略、組織運営の指導における
世界的リーダーとして、各世界から認識されるようになった。英国において「人々への投
資家」基準( I n v e s t o r s
i n P e a p l e )の認証を受けるなど、新しい 2 1
世紀型ビジネス実践例
としても注目を集めている。
ロンドン中心部にある本部から、様々な国のクライアント企業が、持続可能な発展の思
想に沿った「トリプルボトムライン」−経済的繁栄・社会的公正・環境の質向上の 3 重の
損益決算−を実現に移すための統合的経営戦略の立案を行なっている。日本では環境庁、
ソニーなどがパートナーや調査研究のスポンサーになっている 4)。
5
『T H E
GREENCONSUMER
GUIDE
』は、ジョン・エルキングトンとジュリア・ヘイ
ルズによって書かれ、 8 8 年に出版された。ジョン・エルキングトン( J o h n
E l k i n g t o n)は
持続可能な発展について産業でその役割を果たしているヨーロッパの権威あるリーダーの
一人であり、英国で一番知られている環境コンサルタントの一人である。ジュリア・へイ
ルズ( J u l i a
H a i l e s)は広告会社やテレビ業界で働いていたことがあり S u s t a i n A b i l i t y
社の
設立当初から関わっている。
『 T H E G R E E N C O N S U M E R G U I D E 』のコンテンツは、ボディショップの創立者であ
るアニータ・ロディック ( A n i t a R o d d i c k ) の序文にはじまり、「グリーンコンシューマーにつ
いて」、「すごい速さで進む消費」、「地球のコスト」の簡単な説明の章のあとに、商品分野
ごとのガイドに入る。「金物と日曜大工用品店」、「ガーデンセンター」、「ガレージ」、「電
子機器店」、「スーパーマーケット」、「薬屋」、「旅行代理店」、「ギフトショップ」という分
類で環境に配慮した商品の見分け方について書いてある。そのあとに、「グリーンラベルの
探し方」、「環境団体のガイド」が続く、という構成になっている。
ガイドの中身がどうなっているのか、スーパーマーケットを参考にまとよう。スーパー
で購入可能な商品を 1 7 の分類に分けている。フルーツと野菜、毎日利用する食品( D a i l y
C o u n t e r)
、清涼飲料水、肉…とある。フルーツと野菜のカウンターはさらに細かく分類さ
れ、各商品を買う際の環境配慮の見極め方や環境配慮している企業名が書いてある。野菜、
りんごと洋ナシ、マッシュルーム、ナッツ、オリーブと別れている。これをよむとスーパ
ーで買物をする際、どのような基準で各商品を見ればいいのかわかる。この章の最後のペ
ージには、この各分類を基準に主なスーパーマーケットを評価している。そしてランク付
けを行なっている。調査したスーパーマーケットの住所と連絡先が明記されている。
3.イギリスでのグリーンコンシューマー運動の特徴
イギリスにおけるグリーンコンシューマー運動の流れをみると、歴史的にねばり強い環
境運動があったことがわかる。 7 0 年代から、環境問題に消費者運動の戦略が取り入れられ
たことがうかがえる。動物毛皮反対運動はキャンペーンと不買運動を駆使し、毛皮産業を
衰退させるまでにいたった。 8 8年は『 T H E
FoEUK
GREENCONSUMER
GUIDE
』の出版と、
のフロンガス撤廃のキャンペーンが重なった時期である。様々な環境団体のキャン
ペーンと本の出版は相乗効果を発揮したといえる。環境団体のキャンペーンも実行力を伴
い、目的を成功させるために多様な戦略を使っている。特にフロンガスの問題のように、
商品の情報を公開する運動は効果的だった。環境問題解決にむけての第一歩として、身近
な商品選択を戦略として行うことで、多くの人の賛同を得ることができた。F o E U K の商品
情報の公開方法は、フロンガスを使用している商品と使用していない商品にわけて公開し
たことで、単なる不買運動を超えて「選択」する方法を与えた。不買運動との違いは、よ
りよい商品を選択するということで、商品の存在を否定するのではなく、基準に則った範
囲内で商品の存在を認めていることだろう。そのことは結果的に環境によい企業を支え、
悪い企業の競争力を失わせるか、改善を求めることになる。「選択」という考えは、多くの
人に受け入れられやすく、誰でも簡単に取り組むことができる。市場機構を利用した運動
が上手く機能している国だといえる。
また、『 T H E
GREENCONSUMER
G U I D E 』を出版したサスティナビリティ社は、コン
6
サルタントである。環境団体ではない。コンサルタントという性質上、情報の収集とその
普及の洗練さを備えている。環境に配慮した商品選択をすることを「グリーンコンシュー
マー」と名づけることをきっかけに、市場機構を通した環境配慮商品選択による社会変革
の輪郭を与えた功績は大きい。
イギリスでのグリーンコンシューマー運動の特徴をまとめると、第
豊富な運動の流れがあること、第
2
1
に環境団体による
にコンサルタントによる情報提供があったことあげら
れる。
第 二 節 アメリカでのグリーンコンシューマー運動
アメリカにおいてグリーンコンシューマー運動を把握するためには環境運動の歴史をた
どるべきか、それとも消費者運動の歴史を辿ればよいのだろうか。アメリカで『 T H E
G R E E N C O N S U M E R
World
GUIDE
』に匹敵するものとしてはよく『 S h o p p i n g
』5)があげられるが、この本を作成している T h e
Council
on
for
Economic
a
Better
Priorities
( C E P ) は S R I ( s o c i a l l y r e s p o n s i b l e i n v e s t i n g )運動の流れを汲むものである。この本では
グリーンコンシューマーという言葉は出てこない。社会に責任のある消費( s o c i a l l y
responsible
consumerism,SRC)という概念が使われている。
1.S R I ・S R C 運動からのグリーンコンシューマー運動の位置付け
アメリカでは70年代に社会に責任を持つ投資( S R I )運動が誕生した。投資とビジネス
に関する意思決定を倫理的・社会的意思決定から隔離するのではなく、投資を通して反映
させていく運動である。 S R I とは利益を提供すると同時に生活の質を高め、福祉と社会関
係を向上するなにものかに金銭を利用することである 6)。
SRI
について論じる場合、社会的責任のある消費( S R C )についても言及する必要があ
る。消費行動も非常に投資と類似している。消費者は当面のまたは長期的な使用のために、
ときには(家族住宅のように)長期評価のための、資産の形成にお金を使用する。ラルフ・
ネーダーが公衆の利益調査グループをはじめて以来、 S R C は経済に変化をもたらすための
重要な力であり、それはまた SRI にとって重要な隣人であった 7)。
は C E P が130企業に関する調査を刊行して以降いちだんと加速された。これらの
企業は日常生活に必要とされるありとあらゆる製品・サービスを供給する、食品から医薬
SRC
品、住宅用品から航空路線、ホテル、ガソリンスタンドまでを網羅した企業であった。『米
国企業の良心の順位付け』の著者たちは、慈善事業への寄付から核兵器関連契約までにお
よぶ七つの社会的範疇にそって企業の順位を決定した。この本によって、消費者は初めて
プログレッソ缶詰の製造企業やホイットマンズ・キャンデーなどの製造企業が武器製造契
約に関係していることを知った。その反対に、ゴディヴァ・キャンディーやフィッシャー
ナッツなどの製造業者が軍事契約と無関係であることも知った。
また、社会的的責任の認識が高い企業に対して市民の注意を喚起するために、 C E P は
1 9 8 6 年から社会活動の諸分野で優良な実績を上げた米国企業を毎年候補に指名する 8)。今
年で
14
回目を迎える「 C o r p o r a t e
C o n s c i e n c e A w a r d( C C A )
」は、地域関係への献身、グ
ローバル倫理賞、雇用促進賞、多様性賞、環境保護賞に分かれている。 C C A は社会や環境
7
政策における発展的な企業のリーダーシップの役割を明らかにするために 1 9 8 7 年に設立さ
れた。 C E P の審査員パネルは企業責任や社会責任や環境責任に関連している分野から横断
的でで本職の専門化が代表している。 1 9 人の独立した審査員が
6
つの企業を選ぶ。審査員
はコロンビア大学人権研究所所長のポール・マーチン氏、N A A C P の経済開発局のリンダ・
へイスコックなどを含む。
2000
年度の
CCA
では環境スチュワードシップ賞にリコー( R i c o h
C o r p o r a t i o n)を含む
社が入選した。リコーが選ばれた理由は、合衆国でのデジタル映像システムのリーダー的
供給者として、デジタルコピー機、ファックスやスキャナーなどオフィス機器へのエネル
3
ギー効率における技術革新や製造を通して著しい貢献をしているからである。
このような経緯を持つ
CEP
は
1988
年に『 S h o p p i n g
for a Better World
』を発行し、現
在まで毎年改訂版を出版している 9)。
以上のように、「社会に責任を持つ消費・投資」という流れに包摂されるかたちでグリー
ンコンシューマー運動を位置付けることも可能である。
2.環境運動からのグリーンコンシューマー運動の位置付け
10)
アメリカの環境運動の流れを簡単に追うと、アメリカでの環境運動の出発点は古く自然
保護運動がはじまりである。 1 9 7 0 年以前と、それ以降の環境運動との違いは後者が扱う問
題関心の全体性と広範性にある。70年代に第1回アースデイが行なわれた。改良主義者
たちは、政府は「ゲーム」のルールを変えることで人々に最大の影響力を行使することが
できる、ということに気づき、政府の活動に焦点を定めた。そして、運動の伝統的な戦術
としてのロビー活動やキャンペーン活動に加えて、この年代を境に法廷闘争がとり入れら
れた。また、70 年代後半には環境運動の同調者を議員として議会へ送り始めた。
8 0 年代、今までの環境運動に理解を示した政権とは違いレーガン政権下になると環境運
動に強い敵対心をもつようになり、そのことが環境運動に大きな衝撃を与えた。環境運動
はレーガン政権と争う過程で主流派の環境団体の共同性を高め、「トップ10」のグループ
が創設された。また、運動の裾野を広げるために、環境運動以外のグループと組織を作る
こともあった。
1980年代末には、従来の環境団体以外にも環境問題を取り上げ、組織全体として取
り組む団体が出現した。消費者グループもこの時期から環境問題に関わり始めた。消費者
グループはラルフ・ネーダーのネットワークや全米消費者連合がエネルギーと環境問題の
専門家を雇用して、環境問題の表舞台に登場した。主流派は政府を介して目的を達成する
という立場から積極的に政府に関わってきたが、官僚は外部のロビー活動には全然責任を
持たないし、自分の関与したプログラムが失敗しても自ら修正することをしない。現実的
な改良主義者は政府の活動に対する信頼の危機に直面している。同時に草の根の人々は、
権力とともにある環境運動から満足のいく結果を受けたことがないので、急進的になって
いる。
主流派は政府への信頼の欠如と直面する出来事が起こった。その具体例として、自然防
衛会議が国営テレビで、りんごに農薬アラーを使用することを非難したことで、消費者は
アラーを使ったりんごを買おうとしなくなり、その結果スーパーマーケットも売らなくな
った。りんご農家はアラーを使わないと約束し、アラー製造業者は、その商品市場がつぶ
8
れたので生産を中止したと発表した。アラーの安全性の問題は環境保護庁の中で15年間
に渡って議論されたが、同庁はそれを回収させるかどうかについては議論を出せなかった。
環境保護庁が禁止するかどうかは問題ではなく、それ以外の手段によって農薬アラーのし
ようは容認できないと、社会が決定したのである。産業界でのアラーの支持者がこの農薬
の安全性について議論しつづけようとしても、その問題はもはや市場で決着がついたので
ある。
環境主義者は消費者が強い対応を示せば、環境規制の分野で政府に頼らなくてもよいこ
とを知った。消費者に被害をもたらす方法で生産され、あるいは危険な成分を含む製品を
買おうとはしない。汚染企業は大きなキャンペーンにさらされて、市場でその罰を受ける
ことになる。不買運動や株主運動は、環境主義者の新しい運動手段となる。
この場合成功するための秘訣は情報である。すなわち、何が生産されているのか、生産
過程で何が起こっているのか、製品が廃棄されるとなにがおこるのか、といった情報が不
可欠である。新スーパーファンド法において情報公開条項が付加されたので、大気中や環
境に大量に有害物質を放出している会社名を明らかにする情報が入手できる。
市場における直接行動は支持者にとってわかりやすい。なぜなら、法的規制や科学的な
専門用語を学ぶ必要がないし、特定の目標とともにその達成のための目的群が明確に示さ
れ、なぜその目的が重要であるのかが公表されるからである。この戦術を採用すれば、政
治過程から疎外されてきた潜在的で若い支持者が動員できるので、環境運動は横断的に全
ての年齢と階級に指示基盤を広げることになる。
環境運動はその責務や決定能力を失ってはいないが、どの方法が最も成果を生むかとい
う観点から見ると岐路に立っている。
3.『S h o p p i n g f o r a B e t t e r W o r l d 』について
『S h o p p i n g
for a Better World
である。 C E P は
1969
』は
11)
T h e C o u n c i l o n E c o n o m i c P r i o r i t i e s ( C E P ) が著者
年に設立され、公共サービス調査非営利組織であり、社会的で環境
的な企業の記録について正確で重要な分析をしている。その調査によって、企業の社会的
な問題への取り組みや環境問題の取り組みについてインセンティヴを高めようとしている。
ニューヨークに本拠地を置き、ロンドンでのプログラムとともに日本、イングランド、フ
ランス、オーストラリア、イタリア、スウェーデン、カナダ、ドイツ、ベルギー、インド、
スイスがパートナーである。 C E P は数百万の消費者や投資家、政策策定者やビジネスマン
にとって企業の社会的責任について利用しやすい情報の提供を行なっている。 C E P の情報
は消費者などに選挙での投票と同じように意識して経済への投票をするのを支援する。
『S h o p p i n g
for a Better World
』( S B W )は社会責任のある買物のためにすばやく検索
できる簡単な手引書である。S B W は
年版の
SBW
は
200
1988
年に初版され累計 1 0 0 万部以上売り上げた。2 0 0 0
の企業、 2 1 0 0 の一般的な商品名、そして
23
の消費者製品のカテゴリ
ーを含んでいる。よく知られているリストされた企業のそれぞれは、環境問題への取り組
み、女性の登用、少数民族の登用、家族への福利公正、労働環境、慈善事業へ寄付、情報
公開の七つの社会的関心分野にランク付けされている。これらのランキングは S B W 使用者
にとって店を比較したり、選挙の投票と同じように意識的な経済への投票をすることがで
きる。 S B W は動物実験、軍需製品の組み立て、海外からの不正労働者は、他の目立つ情報
9
を記述するのと同様に企業について危険マークをつけている。
<ランキングシステムについて>
C E P
はすべての企業の取り組みをランク付けする。企業は完備された企業のサービスや
膨大な二次情報に寄せられる
た企業や
CEP
CEP
のデータベースによってランクがもたらされる。応答し
が二次的情報が十分にえた企業は、C E P によって開発された相対的で量的な
ランキングシステムに基づいて、利害団体によって再調査されて、各関心分野にしたがっ
てアカデミックなランク付け( A から D )を受ける。 F マークは C E P(二次情報を利用で
きないもの)に情報を公開していない企業に与えられる。消費者や投資家に情報を公開す
る重要性を目立たせることによって、結果を知らせることができる。
<評価>
CEP
の質問用紙に回答した企業のだいたい25%が A 、25%が B 、25%が C 、25%
が D である。
<情報公開の評価>
マークは C E P の調査や調査の過程のどの場面においても参加がない企業に情報公開へ
の関心度ということで与える。あなたが買物での意思決定をさせる情報への企業責任を明
F
らかにすることの重要性を目立たせる。
<独立したデータ>
C E P
へ回答しない、もしくは部分的な情報のみ利用可能な企業は上、中、下のランキン
グを割り当てる。
NR
の表示は
CEP
がその企業の特別な関心分野を評価しなかったことと、企業による情
報を公開する取組みや努力を反映していないことを示す。
七つの分野のうち環境分野での詳細な評価方法についてみてみよう。 C E P の環境評価は
企業におけるすべての環境問題の取組み記録を反映している。 C E P は4つのカテゴリーを
基に企業の環境問題への取組みを評価している。4つのカテゴリーとは、環境へのインパ
クト、利害団体への自主的な報告書の作成、規則への対応、環境マネジメントシステムで
ある。環境に対する企業の有毒物質の放出の量が企業の環境へのインパクトを評価し、自
主的なイニシアティブやプログラムへの企業の関与のような他の基準は明らかに目立つも
のや環境問題への取組みにつねにコミットしていることを調べることによって評価する。
基準と比重は変化するものである。
①環境へのインパクト(weight =46%)
環境へのインパクトはすべての環境メディアによる企業の毒性物質の公開に基づいて
いる。C E P は、企業が売上1ドルを生み出すための有害汚染物質平均量に基づいて、3
年以上の企業の平均的取組みを評価する。
②企業の環境報告書(weight =10%)
大企業の大半は定期的に環境への取組みの発展を公表している。普通、そのレポート
は年次レポートの形をとる、インターネットで詳細な情報を載せている企業もある。
最もハイレベルな環境プログラムを実施しているとパンフレットを作成している企業
もある。環境報告書の企画が統一されていないので、その質は多様である。この基準
は公開された環境情報の幅と深さを評価する。
10
③規則追従の歴史(weight =10%)
規則への対応の歴史は、主な環境規則の下で違反による罰則が平均過去3年以上ある
かないかの罰則評価に基づく。
④環境マネジメントシステム(total weight =35%)
8つの基準が企業の環境マネジメントシステムを評価する。
1.企業の環境問題へのコミット(weight =8%)
2.企業の環境政策(weight =4%)
3.環境会計監査(weight =4%)
4.従業員のトレーニング/ 説明責任(weight =4%)
5.廃棄物管理と汚染予防(weight =4%)
6.製品製造責任(weight =4%)
7.供給者との関係(weight =2%)
8.資源/ エネルギーの利用法(weight =2%)
[9.産業による特別問題(weight =4%)]
*C E P は6産業に対して汚染予防機会に焦点を当てて各産業ごとへ特別な質問を
追加している。6産業とは、航空業会社、コンピューター / オフィス機器、電子
機器、半導体、フード・ドラッグストア、製紙産業である。
リストされた比重は、近似値のパーセントであるので、すべてたしても100%にならな
い。
以上のような基準にしたがって評価される。
CEP
のホームページでは、各企業の評価を検索することができる 12)。
4.アメリカでのグリーンコンシューマー運動の特徴
アメリカは市民運動が盛んな土地柄である。それが与えた影響は一重に大きいが、S R I ・
SRC
運動のように「お金の利用の仕方で社会を改善できる」という感覚が強い。言いかえ
ると、自分の使用するお金と引き換えに社会を拘束することができる、という感覚が強い
といえよう。市場機構を利用した運動が根強い。 S R I 運動と
SRC
運動は二重に企業を拘束
するのに有効である。 S R I 運動は、企業の自己活動に必要な形成資源を入手する市場を拘
束し、SRC 運動は商品市場を拘束する。
アメリカにおける環境運動は 7 0 年代以降の訴訟中心のあり方から、その限界を乗り越え
る形で市場機構を利用する運動に着目を始めた。
『S h o p p i n g
for a Better World
』は
SRI
運動の流れから生み出されたものであるが、環
境配慮について、社会に責任のある消費に位置付け包摂されている。多くの企業と商品の
情報を洗練された評価基準に則って網羅している。
アメリカにおけるグリーンコンシューマー運動の特徴は、第
があること、第
2
にお金による社会統制の感覚が強いこと、第
報収集と洗練された情報提供があげられる。
第 三 節 日本でのグリーンコンシューマー運動の取り組み
11
1
に根強い市民運動の土壌
3
に独立専門機関による情
1.日本でのグリーンコンシューマー運動の流れ
欧米でのグリーンコンシューマー運動の流れを受けて、日本のグリーンコンシューマー
運動がはじまった。日本でのグリーンコンシューマー運動の出発点は
題市民会議が京都市内のスーパーを調査した『かいものガイド
91
年に京都のごみ問
この店が環境にいい』、東
京バルディーズ研究会グリーンコンシューマー分科会がスーパーの環境対策を調査した
『グリーンコンシューマー・レポート』を発行したことにはじまる。その後全国各地域に
地域版買物ガイドが広まり、30 冊以上作成されている。
97年には、グリーンコンシューマー活動に取り組む全国のグループ個人が集まり、「グ
リーンコンシューマー全国ネットワーク」が発足した。この団体は、『グリーンコンシュー
マーになる買物ガイド』の作成や、地域版買物ガイドの普及・作成支援、講演会やワーク
ショップへの講師派遣、全国一斉調査の実施、流通業界との意見情報交換などを行ってい
13)。また、同時期に、東京都生活文化局の呼びかけにより、行政・企業・消費者団体の
る
協力の下「グリーンコンシューマー東京ネット(正式名称:循環型社会を目指す消費生活
推進協議会)」が発足し、買物キャンペーン、グリーンコンシューマー地域実験プロジェク
トという企画を行っている。
日本のグリーンコンシューマー運動流れをみると、ごみ問題の団体による取り組みの流
れ、生協運動の流れを含む消費者運動団体の取り組みによる流れに分けることができる。
2.『グリーンコンシューマーになる買物ガイド』について
14)
『グリーンコンシューマーになる買物ガイド』の著者であるグリーンコンシューマー全
国ネットワークとは、日本各地で消費者の消費活動や生活行動をより環境に配慮したもの
にするために、様々な活動を取り組んでいる、52の団体と個人で構成され、 9 7 年に発足
した。主な団体は、「地球とともに歩む会(盛岡)」、「 A C T 53仙台」、「グリーンコンシュ
ーマー研究会(東京)」、「川崎・ごみを考える市民連絡会」、「中部リサイクル運動市民の会
(名古屋)」、「環境市民(京都)」、「西日本リサイクル運動市民の会(福岡)」、「環境ネット
ワークくまもと」である。
『グリーンコンシューマーになる買物ガイド』の内容は、二部構成をとっている。前半は、
グリーンコンシューマーについての記述があり、後半は「全国スーパー・生協・コンビニ
エコロジー度チェック」となっている。
この本ではグリーンコンシューマー 1 0 原則を規定している。1 0 原則とは以下についてで
ある。
①必要なものを必要な量だけ買う
②使い捨て製品ではなく、長く使えるものを選ぶ
③包装はないものを最優先し、次に最小限のもの、容器は再使用できるものを選ぶ
④作るとき、使うとき、捨てるとき、資源とエネルギー消費の少ないものを選ぶ
⑤化学物質による環境汚染と健康への影響を少ないものを選ぶ
⑥自然と生物多様性を損なわないものを選ぶ
⑦近くで生産・製造されたものを選ぶ
⑧作る人に公正な分配が保証されるものを選ぶ
⑨リサイクルされたもの、リサイクルシステムのあるものを選ぶ
12
⑩環境問題に熱心に取り組み、環境情報を公開しているメーカーや店を選ぶ
後半の「全国スーパー・生協・コンビニエコロジー度チェック」は、全国のスーパー、
生協、コンビニエンスストア
80
チェーンの環境への取り組みについて、訪問による調査を
実施して評価したものである。各スーパーには、ランキングのほかに、「買える物アイコン」、
「テーマ別アイコン」が明記されている。
ランキングの項目は
6
つに分かれている。①環境と健康を考えた商品の品揃え、②包装
の削減と素材の見直し、③リターナブル容器・店頭リサイクル、④エネルギー消費・ごみ
削減・物流対策、⑤情報提供・情報公開、⑥本社の環境機能、である。この六つをレーダ
ーチャートで示す。六つを基準に評価してスーパーのランキングを行う。「買える物アイコ
ン」は
16
の項目に分かれていて、古紙
1 0 0 %無漂白トイレットペーパーなどの商品のアイ
コンから「有機農産物の信頼性対策が優秀」、「遺伝子組替え原料不使用」、「レジ袋有料」、
「量り売り」などスーパー経営のソフト面に関わるアイコンも含む。「テーマ別アイコン」
は、「安全な食べ物」、「ダイオキシン対策」、「地球温暖化対策」、「地域との交流」の4つで
ある。これらの情報は各スーパーごと記載される。
3.日本でのグリーンコンシューマー運動の特徴
日本でのグリーンコンシューマー運動は、ごみ問題の流れ、生協運動を含む消費者運動
の流れが中心になって行われた。買物ガイドについて欧米と比較した場合、コンサルタン
トなどのプロの集団ではなく、市民が自ら調査を行いランキングしているのが特徴である。
ごみ問題の流れを汲むので、ランキングにごみ減量に関わるものがあることや、動物事件
2間する記述がないことも特徴の一つだ。買物ガイドのランキングはスーパーに限られ、
他の小売店(電気店、デパート等)や製品別のランキングがないことも特徴の一つと言え
る。
第 四 節 グリーンコンシューマー運動の特徴
1.グリーンコンシューマー運動の定義
グリーンコンシューマー東京ネットによると、グリーンコンシューマー運動とは「環境
に配慮した商品やサービスを意識的に選択することで市場を変え、社会を環境保全型に変
えていくことを目指す消費者のことをグリーンコンシューマーと呼び、このような消費者
の活動をグリーンコンシューマー運動という」15)と定義している。
欧米のグリーンコンシューマー運動の取り組みを踏まえて、より詳しく検討してみよう。
グリーンコンシューマー運動は市場機構を利用して、消費者が企業が提供するモノもしく
はサービスをカネで交換する際に、「環境配慮」の価値基準に照らし合わせて選択する。カ
ネとモノ・サービスとの交換は、企業の行為を制約する。「環境配慮」の価値基準に照らし
てモノ・サービスをカネと交換することは、今までの企業のモノ・サービス提供のあり方
である利潤追求型の市場に対して制約条件の設定を変化させることになる。つまり、市場
のルールを変えるということである。企業はそのルールにあわせて、また消費者の需要に
あわせて行為を変化していく。
グリーンコンシューマー運動を定義すると、「消費者が市場機構を利用して環境に配慮
13
した商品やサービスを選択しカネで交換することで、直接的に企業の行為を評価すること
で、市場おける制約条件の設定を変化させる運動」ということができる。
2.「アダムスミス的」市場感覚―グリーンコンシューマー運動の背景にある感覚―
グリーンコンシューマー運動は市場機構を通すことで、分散している企業を広範囲にわ
たって拘束することが可能である。その背景にある市場感覚とはどのようなものか。
市場におけるカネとモノ・サービスの交換は選挙の投票のようである。消費者は数多く
ある商品の中から特定の商品を選択し購入している。市場での「投票」感覚、「ギブアンド
テイク」感覚をアダムスミス的市場感覚と呼びたい。アダムスミス的市場感覚とは「個人
の自己利益の追求が社会的利益を損なうどころか、むしろそれを促進する」16)というもの
である。つまり自己愛が分業と交換を促し、結果として社会的利益を増進するということ
だ。「私の欲しいものを下さい、そうすればあなたの望むものをあげましょう。市場的取引
は自愛心と自愛心の取引であり、この取引が個人の利益、そしてその総体としての社会的
利益を増進する。」17)
市場機構は購入を通した意志決定の場であり、消費者の意志決定の集積が市場に制約条
件をかける。市場は消費者によって制約条件が形成される場である。市場機構を通すこと
で、分散している企業に直接的に制約をかけることができる。競争メカニズムを通して、
企業は効率よく変革していく。
グリーンコンシューマー運動の背景にあるのはこのアダムスミス的市場感覚で、環境配
慮した商品を何より自分にとって意味があり価値があると納得しているからこそ購入し、
そのような消費者における購入の集積の結果、社会が変革されていく。購入の選択基準が
ポジティブである。それは、「自分にとって意味あることが、社会的にも意味がある」とい
う感覚だ。イギリスやアメリカのように市場経済を前向きに捉えている文化といえよう。
この感覚は日本人には理解しにくい感覚だろう。「環境配慮のため」、「社会のため」とい
うことが、何らかの犠牲的な奉仕という感覚が強いからだ。また、市場経済そのものに対
する悪いイメージが強い。特に、運動に携わっている団体にその傾向が根強い。
もちろん市場原理主義のように、市場を手付かずのまま放置すれば巷で言われている多
くの問題を引き起こすのも事実である。そのため、市場をコントロールするために多くの
規制が必要だろう。しかし、市場をコントロールするのは制度政策だけではないことも事
実である。消費者運動の戦略の一つである不買運動、アメリカで盛んな S R I 運動、また、
グリーンコンシューマー運動のように消費者自身も購入というパワーを持っているのも事
実である。市場機構にはポジティブな側面とネガティブな側面があるが、グリーンコンシ
ューマー運動はポジティブな側面を利用した運動だといえる。
3.グリーンコンシューマー運動の特徴
市場機構を利用した運動とはどのような特徴を持つのだろうか。まず、①情報提供型運
動であること、②「いつでも」「どこでも」「だれにでも」意思決定の場が開かれているこ
と、にまとめることができる。
①情報提供型運動とは、日・英・米のどの国でもガイドを作成しているが、これは重要
なことである。「環境」という価値、「社会に責任のある消費」という価値に基づいて、企
14
業、商品・サービスをわかりやすく紹介することで、消費者に情報を提供し、消費者に購
入の選択肢を変革させることに役立つ。特に商品の評価が重要になってくる。市場におけ
る直接行動は、法律改正や訴訟に関わる運動より、わかりやすい上に、簡単に実践できる。
そのためには、わかりやすい情報提供がなによりも必要だ。
②意思決定の場が開かれているということは、商品を購入する能力がある限り、市場機
構は消費者に開かれているということである。そこでは、男女の差、年齢の差、というも
のは問われない。アメリカの環境運動における最近の流れの例のように、訴訟や行政への
要望では意思決定のパワーに格差があり思うように進まなかったりんごの農薬問題も、マ
スコミを通した情報提供により消費者の不買運動が起こり企業の行動を変えることに成功
した。政治システムにおけるパワー格差を乗り越える役割を市場機構は果たすことが可能
である。市場機構における意思決定は直接的で、購入する場と商品があればいつでも、ど
こでも、誰にでも開かれている。
4.買物ガイドの特徴
グリーンコンシューマー運動は、情報の提供が重要な運動である。よりよい買物ガイド
とはどういうものだろうか。
買物ガイドはガイドの機能として、行動指針はミニマムで、誰でもわかりやすい情報を
満載することである。現在の消費生活において、ありとあらゆる商品があふれているが、
それを複数の基準で評価することで、消費者にわかりやすく情報を提供することが重要に
なってくる。日本ではスーパーのガイドが中心であるが、スーパーは場所が限定され消費
者は選択できない場合がある。商品の情報を載せたガイドが必要である。よりよい買物ガ
イドの条件は、以下の六つといえる。
①実証的(科学的知見に基づいた)で徹底した基準となおかつシンプルであること
②基準の説明を簡潔に明記すること
③商品をランキングしたもの
④企業をランキングしたもの
⑤最高・最低の評価の商品・企業名の公表
⑥企業の連絡先の明記
①は、現在知りうる科学的知見に基づいた情報により評価する必要がある。評価基準の
ガイドの目的によって異なるが、「企業の情報公開」の基準は、重要な基準と思われる。シ
ンプルという点において、日本と英米の買物ガイドと比較するとわかるが、日本の買物ガ
イドにおけるスーパー評価の欄は文字がいっぱいにかきこまれ情報量が多いことがわかる。
見やすさとわかりやすさを考慮すると、一目でわかるようにより洗練する必要があるだろ
う。②は、ガイドの最初にきちんと説明をつける必要がある。③④はともに、ガイドとし
てなければ困るものである。⑤は、公表することで、よりよい企業を支援し、より悪い企
業に変革を求めるために必要である。⑥は、企業の連絡先があれば、消費者はいつでも商
品情報について問い合わせすることが可能である。
よりよい買物ガイドが社会に与える影響は大きい。それは、消費者に情報を与えるとい
うだけではなく、小売店主等の販売に携わる人や企業の行動を変えるきっかけになるもの
である。
15
第 五 節 グリーンコンシューマー運動の課題
1.「運動」としてのもろさ
イギリスからはじまったグリーンコンシューマー運動は、環境団体から出発したもので
はなかった。86年のチェルノブイリの原発事故、地球環境の悪化など80年代終わりの
地球環境問題の一般化が与えた影響は大きい。 F o E や W E N などの根強い環境運動の流れ
を汲み、『 T H E G R E E N C O N S U M E R G U I D E 』は多くの人に共鳴された。身近な消費を変
えることが環境問題解決につながるということで、「グリーンコンシューマーリズム」は一
気に花開いたといえる。ラディカルなライフスタイルの変革ではなく、市場経済を前提と
した「商品選択」による社会変革は多くの人に受け入れられた。そこには、市場を前向き
に捉える文化的な感覚も寄与した。
グリーンコンシューマー運動は、多くの人を取り込むことに成功したが、それは運動「組
織」として成功したのとは違う。消費者が共鳴し、その行為の集積が市場を通して現れた
といえる。グリーンコンシューマー運動を支えているのは個人主義の概念である。地球環
境問題の一般化が個人の消費行動の見直しにつながった。
イギリスやアメリカでは、グリーンコンシューマー運動を専門とした団体はない。「グリ
ーンコンシューマー」という言葉は見かけるが、「グリーンコンシューマー」と名打った団
体はない。それはなぜだろうか。「グリーンコンシューマー」という概念は、あらゆるもの
を包括する概念である。あらゆる商品があふれる現在にあてはまる概念であるが、運動団
体として扱っていくにはより分化する必要がある。例えば、 F o E のフロンガスの場合のよ
うに、ある特定の科学物質をキャンペーンで扱うなど、団体の理念に基づいての商品のグ
リーンコンシューマー運動が展開されることになるのではないだろうか。
グリーンコンシューマーという概念は、多くの団体に一つの道筋を提案することに成功
したが、具体的な運動戦略を取る場合には商品の量が多すぎて網羅的に行なうことができ
ない。環境団体等が、団体の理念に沿ってあらゆる商品の中から商品を「選択」して具体
的な運動を行わざるを得ない。もしくは、アメリカの
CEP
のように第3者情報提供機関と
しての役割が可能だろう。
2.日本におけるグリーンコンシューマー運動の課題
日本におけるグリーンコンシューマー運動の特徴は、ごみ問題と生協運動を含む消費者
運動の流れから取り組まれていることだろう。既存の運動の流れに乗る形で行われている。
イギリスのように、コンサルタントが本を出版し消費者が共鳴を起こし消費行動が変化し
たというのとは違い、「運動」として位置付けられているのが特徴だ。
日本におけるグリーンコンシューマー運動の一番の問題点は「グリーンコンシューマー」
の言葉の多義性である。日本においてグリーンコンシューマー運動は、消費の見直しから
くるライフスタイルの変革を強く意識している。グリーンコンシューマー運動の定義は、
「環境配慮型商品の選択」であるが、日本では「商品選択」の域を超えて、ごみ減量など
あらゆる生活改善の意味を含むものとなった。
日本におけるグリーンコンシューマーの意味の多義性は、生活者の環境配慮行動全般を
16
扱うものになり、曖昧でわかりにくいものとなった。どうしてこのような多義性を生み出
すにあたったのだろうか。推進主体の違いと買い物ガイドの違いがあげられるだろう。
3.推進主体の違い
イギリスやアメリカと日本のグリーンコンシューマー運動を比較すると、イギリスやア
メリカは独立した機関として専門的に情報提供している組織である。市民運動団体ではな
いのが特徴である。活動はもちろん情報提供に専念している。
日本でのグリーンコンシューマー運動における取り組みの背景にはごみ問題がある。日
本で最初に買物ガイドを作成した京都のごみ問題市民会議(現:環境市民)も その名が示
すとおり「ごみ」に関する市民団体である。各地域に地域版の買物ガイドが作成されたが、
そういう意味ではまさに草の根的出発をしている。「ごみ」から出発しているのが日本の環
境問題の特徴である。また、地域版のグリーンコンシューマー作成団体を見ていても生協
運動団体が多い。日本においては、既存の運動団体からグリーンコンシューマー運動に取
り組んでいる。また、グリーンコンシューマー全国ネットワークは、各団体が集まった団
体であって、独立した組織ではない(ホームページがない)。
既存の団体の活動からグリーンコンシューマー運動の取り組みは、ごみ問題や生協運動
の流れから理解されたと言える。「環境配慮型商品選択」ということを超えて、生活者の環
境配慮行動全般を示すようになった。
イギリス・アメリカと比較すると、市場に対する感覚の違い、つまり文化の違いも大き
いだろう。日本では、アダムスミス的市場感覚は弱い。「市場」というメカニズムに対して、
「金と商品を取引するシステム」ということを強く意識した文化がない。アメリカの
SRI
運動のように、「お金を社会にとってよい方向に導く手段」として使用する感覚が希薄であ
る。「お金を社会のために使う」という戦略をもって運動を展開しなければ、「環境配慮方
商品を買う」というだけでは、日本人にはピンとこないのである。「環境配慮方商品を多く
の人が買えば、値段の高い商品が安くなる」というメリット以上に、「お金の使い方で社会
を変える」という意味が、グリーンコンシューマー運動には大切である。
グリーンコンシューマー運動は、市場機構を通して、消費者が購入(=金)によって企
業を評価することができることを明らかにした運動だった。日本では雪印事件が起きたよ
うに、原理的に日本でも市場を通した変革は可能である。そのために、ライフタイル変革
運動と分離した運動が必要となる。そのためには、よりよいガイドが必要だろう。
4.買物ガイドについて
日本の買物ガイドはスーパーのガイドが中心である。スーパーのガイドによって、より
環境に配慮したスーパーの促進に影響を与えるだろう。これからも継続する必要があるだ
ろう。
しかし、消費者はスーパーを選択して買物するには限界がある。自宅近くに選択できる
ほど多くのスーパーは存在しない。『グリーンコンシューマーになる買物ガイド』は、グリ
ーンコンシューマー10原則を明記しているが、どの商品があてはまるのかは明記してい
ない。具体的な商品名がでてこない。グリーンコンシューマー運動でなにより重要なのは
情報の提供だが、やはり商品のガイドが必要だろう。日本のグリーンコンシューマー運動
17
の課題は商品におけるガイドの作成である。商品の評価基準には、日本のグリーンコンシ
ューマー運動の特徴である、容器包装の減量努力を設けるとよいのではないだろうか。
グリーンコンシューマー運動のコアは「誰でも」「何所でも」「いつからでも」簡単に取
り組めることにある。それはバリアの低い運動といえるし不特定多数を動員する事も可能
だ。しかし、取り組みへのバリアが高かったり、理想や理念が強すぎるなど戦略を誤ると
一部の人にしか広がっていかない。中途半端な戦略を取ると「 ~ 運動」として積極的に行っ
ている人には軟弱で物足りない運動になるし、一般の消費者には障壁が高いものとなる。
参加の自由度と基準の選択肢を多く設けることで多くの人の消費行動の関心にこたえる
ことができる。つまり多くの人に開かれた「ガイド」こそグリーンコンシューマー運動の
基本なのである。
第 二 章 市場における環境主義化の可能性の考察
この章では、地球環境問題の一般化が与えた影響を産業界から考察する。特に、産業界
の自主的取組みに注目して、自主的取組みを促進する政策のあり方の考察を深めるもので
ある。まず世界的な流れを追った後に日本の取組みについて考察する。
第 一 節 企業と環境主義
1.持続可能な発展の概念
18)
従来、自然環境はその性格から誰もが自由に利用できる公共的な性格を持つものとして
市場の外に出されていた。つまり、環境という商品は原則として、その利用を制限したり、
排除したりすることが困難であり、環境という商品が無償のものとして扱われた結果とし
て質の低下が生まれた。環境問題は、ビジネスの場面に即していえば、環境という特殊な
商品(準公共財)と経済・市場システムの対立をどのように調整していけばよいのか、と
いうことである。そこでの手がかりとなるのは「持続可能性」という概念とそれを基盤と
した経済発展、すなわち「持続可能な発展」の考え方である。
持続可能性という言葉の意味は以下の通りである。
①一定の生活水準を保持するために必要な全ての自然資源(再生可能資源、枯渇性資源)
の必要量を削減すること。
②枯渇性資源が減少したときには再生可能資源によって、その減少量が保管されること
③経済活動は再生可能資源や生態系が回復・再生する速度より速く、それを消費、破壊し
ないこと。
④人口が急速に増大すれば、そうした効率の増大を吸収してしまうので、人口の増加を抑
制すること。
⑤次の数世代にわたって自然環境を一定に保つことで、世代間の公平性を確保すること
もし、自然環境を無視できるのならば経済は線形のシステムと考えることができる。線形
の経済においては生産から消費への一方向の関係だけが考慮され、消費は美徳だとみなさ
れる。しかし、自然環境からの資源の採取と自然環境への廃棄物の放出との間の熱力学の
関係を考慮にいれると、従来の開放的な線形の経済というイメージは再検討されなければ
18
ならない。
企業の活動が持続可能な発展のレベルに近づくためには、企業を取り巻くさまざまな利
害関係者の拘束(圧力)が重要である。利害関係者のうち企業行動に大きな影響を行使し
うのは、企業活動を直接規制する法的執行機関(国や地方自治体)、企業の提供する商品・
サービスをする顧客、企業に資源を提供する株主や労働者である。これら利害関係者の圧
力は制度的な拘束として企業に知覚され、環境保全行動を導くきっかけになる。
2 .環境主義化に向けた二つの制度的拘束
持続可能な発展を実現する手段の一つとして、外部のルールによって制度的に企業を拘
束する方法が考えられる。制度的な拘束には二つの方法がある。法律のルールと市場のル
ールである。
法律によるルールは企業がクリアすべき下限を確定することになる。その他に、経済的
手法としてチャージとインセンティブがある。法律による規制は不可欠である。一般に、
企業には自己と直接関係のない社会的損失に対する対策費や、公害の予防費を削減しよう
とする経済的誘引が作用するからである。しかし、行政サイドの企業活動の介入にも一定
の限界がある。一つに規定以上のことをしようとはしないこと、もう一つに行政は必ずし
も中立的な政策決定を行なっているわけではない(行政介入の失敗)ということである。
例えば、自然環境の保護をめぐる関係者間の利害対立が錯綜し、発言力が企業・産業が輪
に有利に展開さるとしたら、「行政の介入の失敗」を防止したり是正するのは難しい。また、
日本の環境保全における大きな特徴は、企業を規制する制度的圧力の源泉がほぼ行政側か
らの法的な規制に偏っている。
法律以外の制度的な拘束要因で重要なのは市場のルールである。企業の環境保全行動の
必要性は 2 種類の市場を通じて知覚される。第 1 に企業が自己の活動に必要な形成資源を
入手する市場(証券市場、労働市場、等)、第 2 に商品・サービスの買い手によって構成さ
れる商品市場である。この二つが企業の環境配慮行動を誘導する可能性がある。第
応するものとしてはエコファンドや第1章であげた
SRI
運動がある。第
2
1
に対
に対応するもの
がグリーンコンシューマー運動と言えるだろう。しかし、市場による拘束も万能ではない。
商品市場による制度的な拘束の有効性は、意識の高い満足化原理にしたがって消費者が抑
制のある購買行動を遂行できるかどうかにかかっている。つまり、消費者は購買という行
動を通じて環境保全の意志を表明し、かつそれに対する企業の取り組みが不満なら商品・
サービスの購入を拒否する自由を持っている。しかし、そのような意志を購買で実践する
人が少なければ市場に広まっていかない。
制度的拘束というのは、企業のビジネス活動をより社会性のあるものに高めていく圧力
であり、ビジネスのエコロジー化(環境主義化)の促進剤として捉えることができる。し
かし、どの手段も欠陥をもっている。制度的拘束だけでは不充分であり、より企業を環境
配慮型行動を導くためには企業の自律的な取り組みが求められる 19)。
では具体的に企業はどのように自律的な取り組みをするのだろうか。企業の環境問題へ
の取り組みを表現する「環境効率」という概念にそって説明をする。また、そのような自
律的取り組みを下支えする法規制はどのようなものなのか。
19
第二節
環境効率とはなにか
1.環境効率概念の成立背景
1992
20)
年、リオ地球サミットでは現在のような工業化、人口増加、社会格差のもとでは、
自然環境ばかりではなく長期的な経済および社会の発展にも潜在的なリスクが存在するこ
という点に焦点が当てられた。「アジェンダ21」では、天然資源や生物の種族を保護し、
人口増加に歯止めをかけ、また世界のすべての地域に健全な繁栄した社会を構築するため
には政治、社会、経済、産業などの根本的な変革が必要であることを強調している。
リオ地球サミットに情報として大きな影響を与えた 2 冊の書物がある。一つは持続可能
な開発のための経済人会議(
Business
Council
for
Sustainable
D e v e l o p m e n t , B C S D)
による『チェンジング・コース』、もう一つは世界商工会議所( I n t e r n a t i o n a l
Chamber of
C o m m e r c e )が関係する『 F i n d I d e a s t o A c t i o n』である。これらの書物による多くのケー
ススタディに示されているように持続可能発展への重要性を認識し、既に実際の経営戦略
に組み込まれている先進的な企業リーダーの発言が盛り込まれている。『チェンジング・コ
ース』では、環境効率という言葉を創り出し、環境への影響や資源の使用量を経済的に減
らしつつ、経済的な価値を創出する活動を紹介した。
1991
年、 B C S D は持続可能な発展のためのビジネスのための言葉や概念を探していた。
しかし、辞書にそのような概念が見当たらないため、 B S C D はそれに関わる表現を始めな
ければならないと決意した。十分に悩みぬいたあとに、「環境効率( e c o - e f f i c i e n c y)」とい
う言葉を考え出した。最も単純にいうと、より少ない資源や、消費、汚染でよりよい商品
やサービスを創り出す、という意味である。それから
10
年経ったが、環境効率という言葉
はどこでも見かけるようになった 21)。
持続可能発展のための世界経済人会議( W B C S D )とは、持続可能発展を提唱し、環境効
率という概念を含む政策決定やその有効な実践に助言を与えるために、 1 9 9 5 年に設立され
た地球規模での機関である。それまで各々世界の環境問題を取り組んできた国際的な産業
界の集まりである
W I C E (環境問題に関する世界産業協議会)と B C S D (持続可能な開発
のための経済人会議)が、持続的成長の実現にとって産業界の主導的役割が重要であると
いう共通認識のもとに合併して発足した。
この委員会の目的は二つあり、一つは、経済界、政府、その他の持続可能発展に関わっ
ている機関同士の緊密な協力関係を構築することであり、もう一つは、企業経営の中で高
水準の環境管理の達成を促すことである。現在
種から
120
WBCSD
には
34
カ国、 2 0 以上の主要な業
人を超える個人会員。を登録している。そして、環境効率の原則やその実践方
法を考案するために多大な努力を払いつづけている。
WBCSD
のホームページでは、環境効率のケーススタディの情報を見ることも可能であ
る。
2.環境効率の定義 22)
「環境効率( e c o - e f f i c i e n c y ) 」は企業のために企業によって考え出された概念である。最初
の文字のエコは、エコロジー資源とエコノミー資源を意味し、次の効率は両資源の最適活
用を意味している。環境効率の実践的側面は、資源生産性−より少ない資源で、より多く
20
の製品をつくること−である。廃棄物と汚染の低減、エネルギーと原材料資源使用の削減
は、明らかに環境に対して好影響を及ぼす。投入資源の有効活用は企業利益を生む。環境
効率は持続可能な発展への企業側の挑戦である−すなわち、「将来のニーズを破壊するこ
となく、現在のニーズを満たす」ことである。環境効率で重視することは、より少ないエ
ネルギーと原材料の投入により、より多くが得られるように資源生産性を向上することと、
環境への影響を強めることなく、あるいは軽減しながら、消費者価値を高めた新しい製品
とサービスを創り出すことである。
環境効率を定義すると「人間のニーズを満たすとともに生活の質を高めるモノとサービ
スを、そのライフスタイル全体にわたる環境への影響と資源の使用密度を、地球が耐え得
る限度以下に徐々に引き下げながら、競争力ある価格で提供することにより環境効率は達
成される」23)となる。
3.環境効率の特徴
24)
環境効率には 5 つの中心テーマがある。第 1 に、利用価値の重視である。最近までは、
物的産出量の増大が産業の成功の物差しとされた。石炭や石油化学製品、テキスタイル、
コンピューターなど、産出容量または重量が成功を測定する主要な尺度の一つであった。
しかし現在では、顧客はモノとしての商品を重視しなくなってきている、との認識が高ま
っている。商品は目的を満たす−顧客のニーズを満たす−ための手段にすぎない。つまり、
このような顧客ニーズを完全に満たす利用価値を提供することが、最善のマーケティング
手法となる。例えば、アメリカやその他一部の国での電力供給分野でも製品志向から利用
価値志向が高まっている。国内の顧客に対して、常時電力を必要としない空調などの特定
用途向けの電力供給を短期間一時的に停止する代わりに、低率の料金を選択できるオプシ
ョンを提供している。電力会社側にとっては、一時的なピーク需要にあわせて高価な設備
を備える必要がなくなり、さらに顧客のニーズと電力使用パターンに関する長期的な情報
を得ることができる。このように、現在顧客に提供しているサービス内容を見直し、そし
て顧客ニーズへの対応を改善し、環境影響を軽減しながら、付加価値を生む新しいサービ
スを考え出すところにビジネスチャンスがある。
第
2
にニーズと生活の質の重視である。利用価値の向上の鍵は、顧客の真のニーズを把
握することである。形が大きくてエネルギー集約的で、汚染を生じるような製品は、生活
の質の向上には役立たず、見捨てられていく。真の潜在的なニーズを掘り起こして環境に
やさしい製品用とを開発すれば、そのまま企業の競争力に直結する。それを可能にする方
法は、製品の基本的な機能を理解し、その機能を満たし、顧客の利用価値を高め、環境影
響を和らげることのできる別の方法をないかを考えることである。
第3に製品のライフサイクル全体にわたる取り組みである。すべての企業は、原材料が
消費可能な製品と利用価値に変えられ、最終的に処理されるまでの製品チェーンの一部を
担っている。ライフサイクル全体にわたる取り組みでは、企業はその事業活動が川上部分
と川下部分に与える影響を考慮して、その緩和策をとる責任を持つ。例えば、プロセスや
製品の設計を見なおして、環境影響を最小限に抑え、効率を最大限に高め、付加価値を創
り出すなどである。
第4に環境能力の限界に対する認識である。環境効率の核心部分は、地球の負担能力(環
21
境容量)の範囲内での利益確保である。環境容量の計算は難しいが、環境容量は移動目標
である。つまり一定の閾値以下ならば影響は容易に吸収できるが、それを超えると深刻な
被害が起こり始める。排出物がこの臨界値に接近するに従い対策の緊急性は増す。企業の
事業活動と地球の負担容量との関連を明確にすることは難しいが、何らかの限界があり、
その目標値は変化することを理解することは、有力な行動促進剤となる。緊急意識が生ま
れ、厳しい目標の必要性に対する理解が生まれる。環境効率を追及する企業は、生産単位
あたり環境影響を削減するという厳しい目標を受け入れなければならない。その目標は、
生産施設や各製品について厳しい汚染・廃棄物削減目標を設定することによって実行され
る。
第5にプロセス的思考である。顧客のニーズは変化して止まない。環境ならびに環境容
量の限界に対する理解も同様である。新たなリスクが現われて、既存のリスクの内容がよ
り明確になる。すなわち、環境効率は到達点というよりは、それに向けての過程であり、
一定の技術や「単発的解決」を含むプロセスである。企業は、現在も、将来においても環
境効率を達成したと、本当に言えるようになることはない。言えることは、常により少な
い投入でより多くを産出しつつ、環境効率に向けて前進しているということである。
以上の
5
つのテーマを実施した経験に鑑みると、すべての企業が環境的配慮に基づき製
品を開発し、工程を変更し、その他の対応を行うときに考慮すべき七つの基本的側面があ
る。
①製品、サービスの物質的集約度の低減
専門化の多くは平均的にファクター4以上の物質集約どの低減が必要と考えている
②製品、サービスのエネルギー集約度の低減
③有害物質の拡散の抑制
製品や流通システムから発生する有害物質の排除、その他の有効な活用などによって
達成する
④材料のリサイクルの可能性
⑤再生可能資源の最大限の持続可能な活用
⑥製品の耐久性の向上
⑦製品の利用密度の向上
それぞれの側面での改善・向上が進むほど製品のプロセスの環境効率化が進む。
以上を実施する企業には、繁栄とクリーンで健康な環境に対する全世界の大部分の消費
者の熱い願望を満たす新しい製品とサービス創り出すということ、資源消費・廃棄物・末
端汚染処理などに伴うコストとトラブルを低減できるという点で、利益を生み出す。
また環境効率は、企業の全社的品質管理( T Q M )や戦略的提携など他のビジネス理念と
融合できる経営理念であること、優良企業の必須条件である従業員の目的意識と価値の共
有に資するという点において、利益を獲得する実践的な手段である。
また、企業にしか行なえないことがある。第1に、顧客のニーズを理解し環境パフォー
マンスの飛躍的改善をもたらす環境効率的な製品やサービスを顧客に提供することでその
ニーズを満たすこと、第2に持続可能な発展にとって重要なコア技術を開発すること、第
3に世界にその技術とアイデアを移転すること、第4にマーケティング技術を駆使して持
続可能な生産と消費の緊急性と忘れがちな消費者に環境効率的な製品とプロセスを持つ持
22
続可能性を知らせることがあげられる。
4.環境効率の課題
25)
環境効率は多くの批判を浴びている。それは、環境効率は豊かな北半球の大企業だけの
ものであるとか、革新的な一部企業の事例をあげて誤った印象を全体的に与え低いパフォ
ーマンスを隠蔽するものである、など様々だ。また、現時点では顧客の多くは、「グリーン」
製品やサービスに高い金を出そうとはしない。
しかし、多くの事例の中には、北半球だけではなくアフリカ、アジア、ラテンアメリカ
などがあるし、パイオニア的企業を含む産業界全体としてもほぼ積極的に成功を上げてい
ると考える。高いグリーン製品を顧客が買わないことについては、顧客が環境に無関心で
あるとか、環境を軽視しているという捉え方をするのではなく、むしろコストと環境パフ
ォーマンスのトレードオフを必要としない、あるいはそのギャップを大幅に縮める環境効
率的な製品やサービスを開発する、という課題を企業に課していると考えるべきである。
消費者に対しては、その選択の持つ意味について一層の啓蒙が必要である。
様々な批判があるが、環境効率の課題を上げると以下の5つにまとめることができる。
第
1
に、環境効率実施のための高コストを短期で回収できないことである。第
2
に、資本
市場は、環境効率が長期的には株主にとって有利であることについて認識を深める必要が
ある、である。第
3
に、環境効率を測定するためのさらによい方法の開発である。第4に
環境活動を促進するため法規制の整備、である。このことについては第
3
節で考察する。
第 5 に、持続可能な消費とはなにか、である。
第3 節
市場の環境主義化に向けた法規制とはなにか
今までは、企業への環境対策を取らせる「命令と管理」のための法律が制定されきた。
この方法は、環境改善を促進する有力な原動力であり、環境対応に立ち遅れた企業に最低
基準を守らせるためには今後も必要である。エコロジーとエコノミーとの間にある抜き去
りがたいトレードオフ関係があるという見解は一般的な見解である。このトレードオフの
一面は、厳格な環境基準を遵守することから得られる「社会的」便益であり、もう一面は、
価格値上げと競争力低下につながる汚染防止や浄化のための「私的」コストである。これ
まではこのような枠組みの中で議論が続けられてきた。では、まず、環境規制は環境効率
を高めることは可能なのか、環境効率を促進させる法規制とはどのようなものだろうかを
事例を通して考察したい。次に、環境効率を実現するための環境政策とは何かを考察する。
1.環境規制は競争力を高めるか
26)
イノベーションの中核的な役割と、環境改善と資源の生産性との関係を探求するために
1 99 1
年以来、ポーターとリンデは、 M E B(環境とビジネスに関する経営研究所)と共同研
究を行なっている。この研究は、環境規制が甚大な影響を与える産業セクターの関する国
際的なケーススタディで、紙パルプ、塗料・塗装、電子機器、冷蔵庫、乾電池、印刷イン
クなどの業界を網羅している 27)。
例えば、エコロジーとエコノミーのトレードオフ関係が特に顕著に信じられている化学
23
業界では、 2 9 の化学工場で実施された廃棄物の発生を予防する活動に関する調査で、イノ
ベーションによって資源の非効率が相殺される事実が判明した。181の廃棄物予防活動
において正味コストが増加したのは1例にすぎなかった。生産高が変化した70例におい
て、そのうち68例が増加した。さらに発生源から断つ活動を促す主要なインセンティブ
は、廃棄物処理コストと環境規制の二つであることが判明した。
環境規制に対応するイノベーションのタイプは大きく二つのカテゴリーに分けられる。
第 1 は、1 度起こった汚染の処理コストを最小化する技術や方法である。このアプローチの
鍵は、資源を汚染の中にも見出して、汚染を価値あるものへと変換できるかどうかにかか
っている。第
2
は、資源の生産性を最初の段階で改善することによって、汚染のもともと
原因を処置する方法である。イノベーションによる相殺はいろいろな応用が可能である。
環境規制に応じた製造プロセスのイノベーションは、効率的な製造プロセスと品質の向
上をもたらした。例えば、 9 0 年のモントリオール議定書とアメリカ大気浄化法は、あるエ
レクトロニクス・メーカーに対して、オゾンを減少をさせるクロロフルオロカーボン( C F C )
を排除するように求め、その企業はクローズドループ・システムにおいて利用できる代替
洗浄剤を発見した。また、同じ規制に対応して他の研究者たちは洗浄を一切必要としない
方法を生み出し、いわゆる非洗浄ハンダ付け技術を開発した結果、品質面で妥協する必要
がないばかりか、作業コストが下げられるようになった。環境規制がなかったら、そのよ
うなイノベーションは起こらなかっただろう。
他の例として、日本の
91
年に施行された「リサイクル法」は製品のリサイクルを容易に
させる基準を設定したのだが、日立製作所等の電気メーカーは製品の再設計を行ない製品
の分解時間を減少させた。その過程で、同社は洗濯機の部品数を16%、掃除機では30%
削減した。部品が少なければ製品の組み立てを単純にし、分解が容易になる。
これらの事例は、「企業は環境圧力を軽減するためにいつも低コストでイノベーション
を開発できる」ことの証明ではないが、製品、製造プロセス、作業方法を再設計するとい
うイノベーションによって汚染を減らせる機会が多々あることを示している。
2 .環境規制と環境効率との関係−良い規制と悪い規制− 28)
法規制の問題点は、その厳しさにあるのではない。その核心は、基準設定の方法や、法
規制の施行における非効率にある。厳しい基準は逆に資源の生産性を促進させるし、また
そうでなければならない。悪い規制が競争力を損なうように、良い規制は逆に競争力を高
める。
具体例としてアメリカとスカンジナビアにおける紙パルプ業界を比較すると。アメリカ
では
70
年代はじめの法規制は非常に厳しく、段階的に移行期間もなく施行された。それゆ
え企業はその時点でのベストと考えられる技術をいやおうなく採用せざるをえなかった。
その要求は、パイプ末端処理という規制に適合した技術ではあるが、高コストなシステム
を導入することを意味していた。
一方、スカンジナビアの法規制は柔軟なアプローチを認めており、それゆえ企業は排出
物の二次的処理のみではなく、製造プロセスに改善することが可能であった。スカンジナ
ビアの企業は排出基準に適合させるだけでなく、創業コストも下げるパルプ化・漂白技術
を開発した。
24
アメリカは規制を導入した最初の国であったにもかかわらずアメリカ企業は優位性とい
う先行者利得を手にすることができなかった。その理由は、アメリカの法規制が良い環境
規制が備えている重要な原則、すなわち、「どのように問題解決すべきか」について産業界
自身に考えさせ、イノベーションの機会を創出させることを無視したからである。つまり、
特定の技術や現状に拘泥せずに継続的改善を促すことも無視されてしまった。
スェ−デンの規制官庁のアプローチは効果的なものであった。アメリカが厳格な排出目
標を強制し、非常に困難な目標達成期限を設定したのに対して、スェ−デンは、緩やかな
基準からスタートするが、いずれは厳しい基準を設定することを明確に伝えたのである。
アメリカ企業は、二流の処理システムを設置し、そこでストップしてしまったが、スェ
−デン企業は将来に備えて、生産力向上や技術開発といった通常の活動に、イノベーティ
ブな環境技術を継続的に取り込んでいったのである。
スカンジナビアの紙パルプ産業は、規制圧力への対処というレベルを超えて、イノベー
ションという果実を手に入れた。メーカーは1990年代初期までに、パルプ工場廃液に
からんだ環境問題が一般に認識されていくにつれて、この問題を解決していくという事業
マーケットが創出されていることに気づいた。そして、スカンジナビア企業は完全な非塩
素紙を高値で売ると同時に、急成長しつつあったグリーンコンシューマーの要求を満たす
ことに成功した。
この事例では規制当局のアプローチでアメリカの企業は重荷を背負うことになったが、
あらゆる規制に反して、保身しか考えなかった経営者もまた同様に視野が狭い。その事例
として、アメリカの自動車燃料消費基準の事例がある。日本とドイツの自動車メーカーは
この基準に応えて、より軽量で燃費のよい車を開発したのに対して、アメリカの自動車産
業界はそのような基準と戦いそれで済むだろうと願った。しかし、アメリカの自動車産業
はイノベーションによって競争を学ばない限り、消滅の危機に瀕するかもしれないと最後
に悟った。
企業は「規則に従うこと」にのみ焦点を合わせるのではなく、「何を無駄にしているのか」
「顧客価値をどうやって高めることができるのか」といった問いかけをしなければならな
い。先駆者となることで、チャンスを見つけ、イノベーションによる解決に積極的に取り
組むことができる会社は、ドイツや日本の自動車メーカーのように大きな競争力を手に入
れるだろう。
3.イノベーションのインセンティブとなる規制
29)
企業の多くは環境規制が競争力弱めるのではないか、という不安を払拭できない。しか
し、以上のような具体例では必ずしも規制はコストを吊り上げるわけではないことがわか
る。では、どのような規制の原則が資源の生産性、競争力を高めるのだろうか。
1)技術ではなく結果に焦点を合わせる。
アメリカでの良く見る、「使用可能な最高技術」や「使用可能な最高制御技術」という
言葉はアメリカでの環境規制の慣行に深く根ざしたものである。しかし、これらはかえ
ってイノベーションに水を差すものであった。
① 緩い規制よりも厳しい規制を定める
企業は緩い規制には二次的な対応で解決策を見つけることができる。そのため規
25
制は真剣にイノベーションを考えさせるような厳しいものであるべきである。
② 製造プロセスでの解決を奨励し、同時にエンドユーザーにできるだけ近い規制を行な
う
最終製品と生産および流通のすべての段階におけるイノベーションをより柔軟に
行えるようにすることである。
③ 段階的な期間をとり入れる
企業は、産業−資本−投資のサイクルにつながるような段階的な期間を導入する
ことにより、単に問題を部分的に対処することだけで結果的に高くつく解決策を
性急に実施するのではなく。イノベーティブな省資源技術を開発することができ
る。
④ 市場刺激策を使う
公害課徴金および供託金払い戻し計画などの市場刺激策は、資源の非効率に対す
る注意を喚起することになる。その理由は、環境汚染はしばしば経済的浪費の一
形態だからである。廃棄物や有害物質、未使用エネルギーが汚染物質として環境
に排出されるとすれば、それは資源が、不完全に、非効率的に、不経済に浪費さ
れている兆候である。
さらに、売買可能な許可書を活用することによって、引き続き技術核心への刺激
を与えることになり、現行の基準を超える技術の創造的な使用を奨励することに
つながる。
2)関連分野の規制を調和あるいは集中させる
例えば、オゾン層を破壊する疑いのある冷蔵庫の冷媒を排除するための方法の一つは、
少量のプロパンガスとブタンガスに取り替えることである。しかし、これらのガスに関
する安全規制は、アメリカでの新しい技術開発を疎外した。なぜなら、その間にヨーロ
ッパの先進企業では新しい製品を市場に投入していたからである。
3)他の国と一致させる、あるいはそれより進んだ規制を進展させる
同レベルの水準に達していない外国企業と比べて、競争力の点で相対的に不利があれば
それをできるだけ小さくすることが重要である。他の国よりやや進んだ規制を設けるこ
とは、公害防止のイノベーションに取り組むインセンティブとなり、将来の輸出を最大
にすることになる。しかし、その基準が外国の競合企業に適用されそうなものに比べて
進みすぎていたり、その性質があまりに相違したりすると、イノベーションは間違った
方向へ進むかもしれない。
4)規制のプロセスをより安定的かつ予定可能なものにする
規制のプロセスは基準と同じように重要である。基準に対して段階的投入期間が設定さ
れると、基本的な問題点に関する抜本的な解決に取り組むことができる。
5)基準の最初の段階から産業界の参加を要求する
アメリカ規制がヨーロッパと非常に違う点はそのアプローチが敵対的なところである。
産業界は段階的期間の議論において、規制の内容とその審議プロセスに参加すべきであ
る。
6)規制当局も協力な技術力を開発する
規制当局は産業界の経済状態とその競争力を支えているものを理解しなければならない。
26
7)規制のプロセスに投入される時間と資源を最小化する
認可の遅れは企業にとって常に損失となる。
4.環境効率を実現するための4タイプの環境政策
30)
これまでの企業への環境対策は「命令と管理」のための法律が中心だった。この方法は
環境改善を促進する有力な原動力であった。そして、環境対応に立ち遅れた企業に最低基
準を守らせるためには、今後も必要である。しかし、この方法は、紙・パルプ産業の事例
のように、汚染防止を積極的に活用する機会を失わせたり、最低基準適合以上の対応を行
うためのインセンティブに欠ける末端的対応の強制が環境効率の障害になっている。では、
どのような規制が環境効率を実現させるのだろうか。96年にオランダ政府は持続可能な
産業発展に関する産業発展会議を開いたが、政府により依頼されたコンサルタントのアー
サー・D・リトルは4形態の環境政策を示したのでそれを参考にしたい。
出所:『エコ・エフィシエンシーへの挑戦』、p203
この図は縦軸を政府による管理とし、規制度の高低を軸とする。横軸は企業・政府関係
で、疎遠・対立的、親密・協調的を軸とする。カテゴリー1 は規制政策、カテゴリー 2 は協
定政策、カテゴリー3は誘導政策、カテゴリー4 は自由政策となる。
自由政策は、環境介入と同時に終わりでもある。規制前の状態に相当するがゆえに介入
のはじまりであるといえる。一部の企業は、例えば環境倫理上の理由、環境効率的な必要
27
性、サプライヤーや顧客からの圧力などにより、自主的に対応するかもしれないが、ほと
んどの企業の場合そうではない。
規制政策は、メリットは自主的改善意欲のない環境「フリーライダー」の防止となるが、
デメリットは企業に不必要なまでの高い犠牲を強い、規制を超えた対応を行う意欲をそぐ
場合が多い。
規制から乖離する一つの方向に、協定政策がある。例えば、オランダ政府の環境優先分
野は二酸化炭素の排出削減である。 2 0 を超える産業分野が 1 9 9 0 年代中にエネルギー効率
をほぼ20%改善する契約に署名した。最初の 2 年間の実績分析によると、平均 8 %のエネ
ルギー効率の向上が見られた。契約がなかった場合より 2 倍も高い改善率である。
しかし、規制導入に脅かされて協定政策が受け入れられるという側面も否めない。した
がってこの二つのアプローチは完全に別個のものではなく、相互依存関係にあるといえる。
協定政策の成功は、テーマの分野、国の文化、法的な伝統などの背景的要素に深く関係し
ている。協定政策については次項で詳細に扱う。
誘導政策は、様々な方法で、ネガティブな環境影響に対しては抑制効果を、ポジティブ
な環境対応に対しては促進効果を与えることができる。環境影響の因果関係が単純である
とか、必要な対策範囲の確定が比較的容易であるとか、産業界との協調で導入することに
より全体のビジネスの目的と相乗作用を持つなどの場合には、その機能が最も発揮される。
誘導政策の第
1
の形態は、例えば炭素税とか製品の最終処理への課税といった環境税で
ある。このような税が汚染発生者の意志決定に織り込まれるためには、課税レベルは環境
影響の全コストにみあうことが望ましい。
誘導政策の第
2
の形態は、排出権取引である。アメリカ大気汚染防止法では、例えば発
電所の硫黄酸化物を越えている企業に売ることができる。このレベル以下に排出量えお引
き下げた企業は、残余「排出権」を許容限度を超えている企業に売ることができる。公益
事業は柔軟性のある排出量削減方式を活用して、コスト効率的な事業戦略を展開すること
が可能になる。省エネ計画、再生可能なエネルギー依存度の向上、エネルギー使用の削減、
汚染管理技術の活用、低硫黄炭への切り替え、化石燃料を使用する工場の閉鎖などの選択
が可能になる。基準を達成した公益事業は、排出権を売ることによって増収するという恩
得が受けられる。
誘導政策の第 3 の形態は、環境情報の開示である。例えば「 1 9 8 6 年合衆国緊急時計画と
コミュニティの知る権利に関する法律」では、ほとんどの大企業に対して約 3 3 0 種類の指
定有害化学物質の排出に関する年次有害排出一覧票( T R I )の作成と公開を求めている。当
初は多くの産業で否定的に受けとめられたが、企業の多くで自主的排出削減が見られた。
産業界は有害物質の排出を削減でき、一般市民は排出されている汚染物質について知るこ
とができた。
持続可能な産業発展を達成するには、さまざまな政策ミックスが必要である。そして各
タイプの政策適合は環境状況に応じて決まる。しかし、協議政策と誘導政策が成功したイ
ニシアティブは、環境改善と経済的節約の実現のために産業・規制・地域社会の協調は実
現可能であるこことを示している。
これは
MIT
教授のビギ・ノーバーグ・ボーンの結論と一致する。彼女は、パートナーシ
ップをベースとしたこれまでの環境政策について、技術革新−プロセスや製品の環境影響
28
評価を持続可能なレベルまで引き下げるために接待必要な革新促進効果を分析した。①規
制に基づく基準、②排出権の取引など市場ベースの政策、③有害排出一覧票( T R I )のよう
な強制的情報開示、④緑の証明のような自主参加イニシアティブ、⑤コモンセンス産業協
議会、⑥閉ループ化という六つの選択について調査した。そしてこの選択肢について、企
業からの情報発信・開示を促進する効果、革新投資のための刺激効果、企業の長期的不安
感を軽減する効果、運営に柔軟性を与える効果、企業によるライフサイクル管理とマルチ
メディア・アプローチを促進する効果などを検討した。その結果が以下の図である。上記
の六つの選択肢のうちで、規制規格が最も効果が低く、閉ループ化と強制的情報開示が最
も効果的であるとの結論得ているが、実際には規制の枠組みのし方に大きく依存している。
出所:『エコ・エフィシエンシーへの挑戦』、p210
5.協定政策の取り組み
31)
環境効率を促進する政策としては協定政策が有効だ。この項では協定政策についてより
29
詳しく考察したい。
地球温暖化抑制方策において、欧米諸国では有力な抑制方策の一つとして産業界の自主
協定を行っている。英国では、 M A C C キャンペーン( M a k i n g
a
corporate
commitment
c a m p a i g n )と呼ばれている政府の呼びかけに応える形で、産業界が温暖化抑制に協力して
いる。英国は、産業界が政府と協定を結ぶという経験がなかったために、政府の方針に産
業界・個別企業が応える形をとっている。 M A C C キャンペーンは、産業界全体を対象とし
た削減目標の設定はないが、民間部門と公共部門の経営トップにエネルギー効率改善計画
の促進を求めており、91年に開始された。主務官庁は環境省のエネルギー効率局で、全
国11ヵ所の地域エネルギー効率局が具体的支援プログラムを用意している。英国産業連
盟、経営者協会を含む40以上の業界団体の支持があり、傘下の企業に省エネルギー目標
の設定を推奨している。95年末での参加企業数は各種業界から 1 8 5 0 社以上となっている。
ドイツでは、ドイツ産業連盟は政府との間に環境保全のために各種の自主協定を
結んでいる。この内
19
70
以上
は地球温暖化抑制を目的としたものであるが、これ以外には廃棄物
処理、製品リサイクル、フロンガス利用廃止、水質浄化等を目的としたものである。ドイ
ツ産業連盟は 9 5 年 3 月に環境税導入を防ぐことを目的に、8 7 年を基準として 2 0 0 5 年まで
に
CO2
さらに
排出量、あるいはエネルギー消費量の
96
年の
3
2 0 %を削減するという自主宣言を行ったが、
月に改めて、外部機関による計画のモニタリング・システムを取り入れる
など内容を一段と強化したボランタリー・ベースでのコミットメントを宣言した。これに
対し、ドイツ政府はコミットメントを守る企業に対しては、将来
C O 2税が導入されたとし
ても課税の対象としないことを約束した。96 年の宣言の内容は以下の通りである。
①削減目標:90 年を基準として 2005 年までに 20%、1億 7000 万トンの CO2 を削減
する
②モニタリング:中立機関であるラインウエストファーレン経済研究所によるレビュー
を毎年行う
③参加者業界:96 年 3 月現在で 19 の業界団体が参加。主な参加業界は、鉄鋼、電力、
窯業、セメント、ガラス、化学工業、紙パルプ、化学工業、紙パルプ、
非鉄、繊維、石油精製、ガスである。自動車業界は、ドイツ産業連盟と
は別に自主的な取り組みを行っている。
デンマークでは、温暖化抑制を目的として CO2税が 92 年に導入された(産業界に対し
ては国際競争力低下を防ぐために税の低減措置が講じられていた)。温暖化抑制方策をより
強化させるため、9 6 年
1
に
年レベルより
C O 2の排出量を 8 8
月に税制度を
C O 2税の増税へと移行するとともに、2 0 0 5
年まで
2 0 %削減するという政府の「エネルギー 2 0 0 0
計画」
に沿い、政府と企業との自主協定が導入された。この自主協定とは、企業が予め定められ
ているエネルギー利用技術に応じた省エネルギープログラムを実施することを政府との間
で協定し、政府は企業がプログラムを実施していることが確認されれば、税金を還付する
というものである。この協定は
3
年間ごとに見直しされる。企業との協定内容とその達成
状況は、エネルギー庁が確定した専門家による監査を受ける。
欧州での自主協定の歴史は 7 0 年代に遡り、当時は石油ショックの影響を緩和する目的か
ら自動車産業と政府との間で燃費改善に向けた協定が結ばれていた。 9 0 年代に入ると、環
境保全を目的に自主協定を締結する動きが広まっている。自主協定を導入している国の特
30
徴は、①政府と産業界が協力的である、②政府が安定している、③産業界が環境保全に積
極的である、点を挙げることができる。
自主協定が注目を集める理由は次のような理由がある。まず企業側の観点からは、政府
の環境政策により企業活動を細かな点まで規制されるよりも、より弾力的な対応が可能と
なること、さらに行政との対話を通じて企業側の意向を反映しやすくなること、消費者に
対してよい企業イメージを与えることができることが挙げられる。一方行政側からは、環
境問題が複雑化するに伴い従来の規制的な手段を講ずるには科学的な知見の充実、規制基
準の整備等に益々多くのマンパワーが必要となること、ならびに関係者の増加に伴い、環
境保全対策の実施およびモニタリングに多大な費用がかかるようになり、行政としても自
主協定を締結する方が効率的となりつつあることが挙げられる。
第 四 節 日本企業と環境効率
さて、以上は欧米を中心とした取組みを見てきた。日本において産業界はどのように環
境問題に取組み、環境効率はどのような意味を持つのだろうか。日本において成功した環
境規制はどのように機能したのだろうか。日本産業は環境問題の取組みに対してどのよう
な課題を抱えているのだろうか。日本に焦点を当てて考察を行う。
1.日本産業界と環境問題の取り組み
32)
1992年のリオの地球サミットに向けて、91年は世界各地で地球環境問題に関する
提言やアピールがなされたが、日本の産業界もその重要性を認識して、経団連は90年に
発表した「地球環境問題に対する基本的見解」と「廃棄物対策の課題」を踏まえて「経団
連地球環境憲章」の策定を行った。
「経団連地球環境憲章」は、「基本理念」、環境問題に関する「経営方針」、社内体制など
11
分野
24
項目にわたって環境保全に企業が積極的に取り組む「行動指針」、あわせて「海
外進出に際しての10の環境配慮事項」から構成されている。
「経団連地球環境憲章」発表後、経団連の要請に基づき、多くの所属業界や会員企業を
中心に業界団体による憲章、行動指針の策定が行われた。特に、公害や環境問題に直接関
係の薄い個別企業でも、憲章、行動指針の策定に加えて、環境に関わる地球環境委員会な
どの社内横断組織や地球環境部のような専門担当部署の設置が進んだ。 9 6 年の経団連が会
員企業を対象に行ったアンケート調査によると、「経団連地球環境憲章」と同主旨の社内憲
章・指針等を制定している会員企業は
92
年調査時の
1 9 . 1 %から 5 8 . 9%まで着実に増加し
ている。
その後の経団連の取り組みとしては、92 年に「経団連自然保護基金を設立」、93 年には
BCSD
提唱による国際標準化機構が環境管理・監査の国際規格( I S O 1 4 0 0 0 シリーズ)策定
作業を開始したが、経団連を中心として
ISO14000
に関わる第
遣して策定作業に積極的に参加した。この活動は、 9 6 年
つき、日本では同年 10 月に国内規格(JIS)となった。
また、 9 7 年の
C O P 3京都会議開催に向けて、 9 6
9
1
回総会からメンバーを派
月の国際規格の正式発行に結び
年に「経団連環境アピール− 2 1 世紀の
環境保全に向けた経済界の自主行動宣言−」を発表し、会員団体にその具体的な目標と計
31
画の策定を要請した。
アピールの総論部分では「環境保全とその恵沢の次世代への継承は資源の浪費につなが
る使い捨て文明を見なおし、持続可能な発展を実現しなければならない」としている。そ
のキーワードとして、個人や組織の有り様としての「環境倫理」の再確認、技術力向上な
ど経済性の改善を通じて環境負荷の低減を図る「エコ・エフィシエンシー(環境効率性)」
の実現、「自主的取り組み」の強化の 3 点を挙げている。
具体的取り組みとして、地球環境温暖化対策、循環型経済社会の構築、環境管理システ
ムの構築と環境監査、海外事業展開にあたっての環境配慮の 4 つをあげている。
第
1
の地球温暖化対策については、エネルギー効率・炭素利用効率の改善等を基本方針
とし、世界最高の技術レベルを維持するとともに、利用可能な技術を途上国に移転する方
針の下、「産業毎の自主的行動計画の作成と定期的レビュー」、「化石燃料の利用効率の改
善と原子力利用の促進」等を打ち出している。
第
2
の循環型経済社会の構築では、「クリーナー・プロダクション」に努めるとともに、
旧来の“ごみ”の概念を改め、個別産業の域を超えて廃棄物を貴重な資源として位置付け
るとの方針の下に、「ライフサイクル・アセスメントを活用した製品開発」、「業際間連携に
よる廃棄物処理技術の開発」等に努めることとしている。
第
3
の構築環境管理システムの構築と環境監査では、 I S O の環境管理監査規格を有力な
手段として積極的に活用することこととしている。
第
4
の海外事業展開にあたっての環境配慮事項では、海外における事業活動の多様化・
増大等に応じた環境配慮に一段と積極的に取り組むことを指摘している。
その経団連の要請に呼応して、9 7 年に
37
業種・ 1 3 8 団体が参加して「経団連環境自主行
動計画」を発表し、我が国の全産業レベルにおいて環境対策が着実に実施されることが打
ち出され、その成果を毎年レビューのうえ公表することになった。
以上のように、日本の産業界は経団連を中心に活動を開始し、産業界全体の方向性と考
え方を打ち出している。
「経団連環境アピール」のキーワードでは特に、「環境倫理」と「自主的取り組み」を重
要な点としている。環境倫理については、被害者と加害者が渾然一体となった環境問題へ
の対策は、一人一人のライフスタイルを見直すことを避けてとおれないという視点から、
自主的取り組みは、規制緩和と行動改革によって自己責任原則に基づく自由で活力ある開
かれた社会が目指されている中で、環境問題解決にあたっても自主的取り組みこそ最も効
果的な方法という視点から重要な点とされている 33)。
環境効率に関しては、日本はエネルギー効率が既に世界的にトップレベルに達している
ために、地球温暖化対策のエネルギー消費削減を、エネルギー効率による技術に頼るだけ
では達成されないことを示している。これは、環境効率の限界をモデル的に示していると
いえよう。詳細は次節でまとめる。
エネルギー効率が世界トップレベルに達している日本は、エネルギー効率を徹底化させ
る企業モデルを作り上げた。環境効率の概念の中には、日本型企業の特徴といえるものが
ある。例えば、全社的品質管理( T Q M )は日本が生み出した生産手法である。「環境効率」
という概念が成立する前から、日本の企業は「少ない資源で高い生産性」を目指していた。
日本型企業モデルと環境効率はどの面で親和性があるのだろうか、また、どの面で反発す
32
るのだろうか。また、日本の生活環境がどのように企業を拘束し、その結果が現れている
のかを簡単にまとめたい。
2.日本型企業モデル
34)
日本型企業モデルは、一連の生産手法、人事政策、組織とリーダーシップに対するアプ
ローチ、および多角化の方法等から構成される。日本型モデルの特徴をまとめると以下の
10
点にまとめることができる。
第 1 に、高品質と低コストである。日本型企業モデルは、卓越した品質と競合他社より
低いコストを同時に提供することができれば競争優位を得ることができるという信念に基
づいている。このアプローチの核心は、プロセスの改善であり、欠陥率、再作業、あるい
は部品点数を削減することによって、コストを減少させるだけでなく、品質も同時に向上
させることができるというものである。標準化、大量生産、そして不必要な生産工程の削
除はコスト削減につながるばかりか品質が一定し、迅速な生産が可能であるという観点か
らの非常に高いレベルの品質を実現する最良の方法であるという見識を日本企業は持って
いた。
第
2
に幅広い製品ラインと付帯機能である。日本企業は、多数の機能を持った幅広い製
品ラインを提供することを追及した。通常、一連の標準的製品には幅広いオプションや多
くの付帯機能が組み込まれて販売した。開発の主眼は、多機能性、あるいはいくつもの機
能や特徴を一つの製品結合させることにあった。日本企業は数多くの新製品を次々と提供
し続け、その結果、製品のライフサイクルを劇的に短縮した。
第
3
にリーン生産である。リーン生産システムは、日本型企業モデルの中核的役割を果
たした。トヨタ自動車によって開拓されたリーン生産システムは、製品開発、生産、購買
を一つのトータルなシステムとして捉える。このシステムは他の多くの日本企業に採用さ
れた。リーン生産システムは、内的な整合性を追及するシステムであるが、それを構成す
る要素には以下のものが含まれる。
①全社的品質管理(TQC)
②継続的な改善または、いわゆる「カイゼン」
③ジャスト・イン・タイム(JIT)生産、もしくは在庫でなく需要に応じた生産
④製造工程を考慮した製品設計
⑤供給業者との緊密な関係
⑥フレキシブルな生産
⑦迅速なサイクルタイム
第4に資産としての従業員である、第5に終身雇用制、第6にコンセンサスによるリー
ダーシップ、第7に強固な企業間ネットワーク、第8に長期目標、第9に高成長産業への
企業内多角化、第10に政府との密接な関係である。
3.日本型企業モデルと環境効率
環境効率のなかで特に日本型企業モデルと特に接点を持つのは、ストレッチ目標の設定
と実現に関する点と、ストレッチ目標の設定と実現、全社的品質管理( T Q C )の3点であ
ろう。
33
環境効率は長期トレンドの把握とそれに対する長期的な取り組みを企業に求める。欧米
の資本市場と企業が、ますます短期的視点に立った経営判断を強める中で、日本型企業の
モデルの第8である日本の長期的視野は環境効率の概念と親和性を持ちやすい。つまり、
環境効率を受け入れやすい企業体質である。
環境効率を促進させるための有効な政策は協定政策である。日本の強固な企業間ネット
ワークは協定政策に親和性がある。「経団連環境アピール」の結果、様々な産業が自主行動
計画をたてた。
環境効率は、全社的品質管理( T Q M )と多くの共通点がある。環境効率の具体策の一つ
として「ゼロディフェクト(欠陥ゼロ)」の品質概念がある
35)が、まさに日本の企業が以
前から継続して取り組んできたことである。汚染予防対策は、欠陥の対症的対応よりも原
因追求を行う全社的品質管理の中心原理の環境問題への適応である。この手法は、改善と
その達成手段として測定値と目標値を重視する。以上のように日本型企業モデルは環境効
率との親和性が高い。
しかし、日本型企業モデルの特徴の第2の幅広い製品ラインと付帯機能によって、絶え
間なく新製品を提供することで、製品のライフサイクルを劇的に短縮した。環境効率にお
ける日本企業の課題は、この特徴をどのように解決していくかだろう。この特徴は二つの
問題を提起している。
第
1
に、持続可能な消費とはなにか、ということである。日本は製造ラインにおいて、
製品においてもエネルギー効率は世界トップレベルにある。しかし、いくらエネルギー効
率がよくても、絶え間なく新商品を提供されれば、販売量が常に拡大を目指せば、質は高
くても量が超えていくのである。また、このような販売形態が日本経済を支えている。
第 2 に、ごみ問題をいかに解決するのか、ということである。日本での環境問題で一番
大きな関心はやはりごみ問題である。しかし、日本型企業モデルのこの特徴は、日本での
「環境高負荷随伴的な製品やサービスの氾濫 36)」を社会システムとして引き起こしてきた。
同時に、廃棄物に関する企業の責任は、自ら直接排出する廃棄物に対する部分に限定され、
家庭系一般廃棄物は生産者に及ばないのが原則であり、そのため企業の関心も前者にしか
向けられなかった。現在、リサイクル法、容器リサイクル法、家電リサイクル法と、企業
にも責任が求められてきている。日本型企業モデルも、廃棄まで意識した製品づくり、リ
サイクルを意識した製品づくり、生産システムの改善が要求される。
持続可能な消費とは何かを日本はどのように定義し、生産システムを再構成するのかが
これからの日本産業の課題である。
4.日本における環境規制の成功事例−エネルギー使用の合理化に関する法律−
日本の成功産業において、政府が厳格な基準を設定することにより、イノベーションを
引き起こすきっかけを作った。例えば、家庭用エアコン産業では、1979年制定のエネ
ルギー使用に関する法律(省エネ法)は、エネルギー消費を83年までに平均で17%減
らすという高い目標を設定した。この法律は、エネルギー消費削減に向けた懸命の企業努
力を喚起すると同時に、ロータリー・コンプレッサー3 7)等の技術革新へとつながった。日
本はコンプレッサー技術で世界最先端の地位を構築しただけでなく、冷凍技術、空調技術、
圧縮技術、といったその他の冷凍技術分野においても競争力を獲得した。
34
省エネ法は、1970年代のオイルショックに端を発して成立した法律である。日本は
資源過少国であり、少ない投入資源での生産性を高める必要があった。また、日本は、小
さな住宅が密集した住環境にあり、夏の蒸し暑い気候ということから、小型で静かな製品
を求め、企業は製品性能を高め、新たな機能を付加することによって、製品の高度化をは
かった。エネルギーや住環境の制約は、エアコン産業においては企業の国際競争力に寄与
した。世界市場で家庭用エアコンは80年代初めまで世界リーダーだった 38)。
省エネ法は98年に改正され、99年に実施されているが基準が厳しくなった。法律改
正の目的は、97年に開催された地球温暖化防止京都会議の議論を背景に、二酸化炭素の
約9割の発生源であるエネルギーに関し使用量抑制が求められており、その対応策として
エネルギーの徹底した使用合理化の推進が必要となったからである。
省エネ法とは、内外におけるエネルギーエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応じた
燃料資源の有効な利用の確保を目的として、工場、建築物、機械器具についてのエネルギ
ーの使用の合理化に関する所要の措置の他、エネルギーの使用の合理化を総合的に進める
ために必要な措置等を講じている。
法律改正後の大きな特徴として、トップランナー方式の導入があげられる。改正前の省
エネ基準の設定は、設定した区分内において、平均的なエネルギー消費効率を若干上回る
水準に目標値を設定していたが、改正後は、設定した区分内において、現在商品化されて
いる製品のうち、エネルギー消費効率が最も優れている機器の性能以上の水準を目標値と
するというトップランナー方式の考え方が導入された。その外に、工場・事業場における
エネルギー使用合理化の徹底ということで、エネルギー多消費工場である現行エネルギー
管理指定工場において、計画的なエネルギー使用合理化の取り組みを促すために、合理化
に関する将来の計画を提出する義務をつける措置を創設した。
また、2000年には省エネラべリング制度がスタートした。この制度は、家電製品が
国の省エネ基準を達成しているかどうかをラベルに表示するものであり、製品を選ぶ際の
性能の比較を容易にしたものである。この制度では省エネ法に基づく特定機器のうちのエ
アコン、蛍光灯器具、テレビ、電気冷蔵庫、電気冷凍庫が対象となっている。省エネラベ
ルには、①省エネ性マーク、②省エネ基準達成率、③エネルギー消費効率、④目標年度が
明示されている。省エネ基準を100%達成していない場合のマークは橙色、達成してい
るマークは緑色と一目でわかるようになっている 39)。
35
出所:http://www.enecho.go.jp/
以上のように、日本の環境規制が与えたインパクトの事例を挙げた。省エネ法の規制が
厳しくなり、消費者の購入判断基準となるラべリング制度によって日本の企業がどのよう
に制約され、イノベーションを生み出し、競争力の糧となるのか、それが社会にどのよう
な影響を与えていくのかは、調査が必要だろう。また、日本で過去に成功した政策は今後
も継続していくことが重要だ。
最後に、日本は長年、コンパクトで多機能、音の静かな製品においては世界の最先端市
場であった。日本人は外見、スタイル、パッケージ等に非常に敏感である。それは、需要
条件において、日本の生活環境、文化、などが競争優位性を提供し続け、将来的にもさら
に重要な存在となるだろう。需要条件に基づく競争優位性は、日本の企業と消費者が環境
保護に目覚めた場合、さらに強化されるだろう。また、エネルギー効率においても日本は
世界のリーダーとして地位を占めてきた。これらの分野は、現在でも日本に強みであり、
世界的に重要な分野となりつつある 40)。
5.日本産業界における環境問題の課題
日本はなぜエネルギー効率が世界トップレベルとなったのだろうか。それは日本が資源
過少国であるという立場だからこそ技術革新が進んだと言える。省エネ技術を促進させる
政策も有効に働いた。また、日本型企業モデルは、高品質・低コストの実現によって販売
を拡大させた。絶え間ない新商品開発づくりを社会システムとして構築した。新商品開発
システムは、絶え間ない技術革新を引き起こす原動力となった。そして、日本の経済を支
えた。
まず、エネルギー効率の観点から考えてみたい。
最終エネルギー消費の部門別増加率 41)を見ると、産業部門の全体のシェアは 5 割と高い
が、9 0 年と 9 6 年とを比較してエネルギー増加率は6%、C O 2 増加率は1%となっている。
それと比較すると、民生部門におけるエネルギー効率は20%、 C O 2 増加率は15%(民
生部門の内、家庭部門:19%/ 15%、業務部門:20%/ 15%)運輸部門もエネルギー
効率20%、CO2 増加率19%と高い割合を示している。
36
出所:http://www.eccj.or.jp/law/lawrev01/eng/eng09.html
日本産業界は、製造ラインや製品の省エネ技術は粋を尽くした。製造業においてさらな
るエネルギー効率促進は進むだろうが、いずれ限界がくると予測している。産業界として
は、製造業ではなく、運輸部門、業務部門におけるエネルギー効率をより高めていく必要
があり、そのためのシステムづくりも行う必要がある。
日本において、エネルギー政策は重要な課題である。日本のエネルギー自給率の低さ(石
油輸入依存度80%)は、常に産業界に危機意識をもたらしている。このことは、資源枯
渇という環境問題に密接しているが、日本産業界はエネルギー効率の技術的限界を意識し
ている。そして次の二つのことを産業界は認識している。第
エネルギー消費を押さえられないこと、第
である
2
1
に、産業界の努力だけでは
に、原子力エネルギーは必要だ、ということ
42)。
日本は資源枯渇問題と、経済活動をどのように両立させることができるのか、というこ
とを身にもって体験した国である。資源のある国と比較して、資源枯渇の危機感を常に意
識した国だと言える。そして、エネルギー問題に対して二つの認識をしたが、この二つは
何を意味するのだろうか。
第 1 の認識は、いくらエネルギー効率が高まっても、パイが拡大すれば量が質を横臥し、
エネルギー効率を高めた分のエネルギー量を超えていくということである。そして、産業
界の製造ライン、製品のエネルギー効率は限界にきているが、日本のエネルギー消費量は
増加しつづけている。これは次に述べる日本型企業モデルにおける第
2
の特徴とあいまっ
て、絶え間ない生産と絶え間ない消費の問題とも関連する。産業界へのエネルギー効率だ
けではなく、日本社会全体でエネルギー効率を見直す時期がきている。エネルギー効率の
高い社会システムを構築する必要がある。
第 2 の認識は、資源が枯渇すれば原子力に頼らざるをえない社会が到来するのを予感さ
せる。石油資源が枯渇すれば、原子力に頼らざるを得ない社会がやってくるだろう。原子
力推進は地球温暖化問題の
CO2
削減策という文脈からも促進される。しかし、原子力は持
続可能な社会と相容れない。
経団連のこの二つの認識は、既存の経済システムを前提とした技術革新による変革の限
界を示している。持続可能な社会を達成するためには、どのような社会システムが必要な
のかという認識が重要だ。しかし、「経団連環境アピール」では社会システム改革の視点が
希薄である。
次に、日本型企業モデルから考えたい。
日本型企業モデルの特徴である第2の幅広い製品ラインと付帯機能によって、絶え間な
く新製品を提供することで、製品のライフサイクルを劇的に短縮した。新しい製品開発は、
37
技術革新を促進し、そのことが日本経済を支えている。高い技術力を生み出す反面、「環境
高負荷随伴的な製品やサービスの氾濫」という社会システムを形成した。日本は資源過少
国であり、また、土地(スペース)過少国である。欧米と比較すると日本の人口密度は高
い。日本の産業モデルと土地問題は日本のごみ問題を深刻化させた。
日本の企業は生産から廃棄までを含めた製品づくりを求められている。そのためには、
企業モデルの改善が必要となるだろう。また、社会全体でも廃棄を含めたどのような社会
システム改善が必要なのかを問われている。
以上をまとめると次のことが言える。日本産業界は、既存の経済社会システムを前提と
した範囲内で、エネルギー問題、ごみ問題を中心に社会システム改善が進むだろう。既存
の経済システム範囲内での技術革新論は、エネルギー問題やごみ問題に対して一定の限界
を持つ。エネルギー問題の行きつく先は原子力推進であり、代替可能なエネルギー促進へ
のインセンティヴが働きにくい。ごみ問題も、製品一つ一つが環境配慮型商品となっても
(質の向上)、「環境高負荷随伴的な製品やサービスの氾濫」させる生産システムが改善さ
れなければ、質を量が横臥する。
日本産業の環境問題における課題は、技術論を超えて、持続可能な社会のためにどのよ
うな社会システムを構築するのか、ということだろう。その社会システム構築に向けて産
業界はどのような変革が求められているのかが問われている。そのために乗り越えるべき
問題として、エネルギー問題とごみ問題がある。エネルギー問題は、資源枯渇の可能性と
地球温暖化問題対策における
C O 2削減として、原子力エネルギーを頼ることなく乗り越え
ていくためにはどのような社会システムと技術革新が求められているのかを問う。ごみ問
題は、「環境高負荷随伴的な製品やサービスの氾濫」させる生産システムと消費の構造を乗
り越えていくためにはどのような社会システムと技術革新が求められているのかを問う。
持続可能な社会を考えるにあたって、環境効率の概念は持続可能な生産に焦点を当てた。
しかし、日本を考察するにあたって、持続可能な生産は、それだけでは規定されないこと
がわかる。持続可能な生産は、持続可能な消費を前提に規定される。持続可能な消費を前
提とした上での環境効率は、「持続可能な生産」と言える。その上での環境効率の促進によ
る企業のパイの拡大は社会に恩得をもたらすだろう。しかし、持続可能な消費を前提とし
ない環境効率は、質の向上を量が横臥する可能性があり、社会的ジレンマは回避されない。
第 五 節 環境効率の可能性と限界
環境効率の概念によって、企業が自律的に環境問題にとりくむきっかけをつくった意義
は大きい。競争力と環境問題のトレードオフ関係を取り除く、もしくは減少させることに
成功させた。環境効率は、汚染は資源の無駄から生み出されているということ、無駄を改
善すれば資源の生産性という企業にとってメリットを生むこと、環境問題に対応した技術
革新は競争力の源泉力になることを明らかにした。おそらくこれからは企業の環境効率化
が促進されるだろう。環境効率化した企業の集積は社会に大きなインパクト与えるだろう。
また、促進するための政策技術も磨かれていくだろう。
しかし、環境効率には、第
4
節で述べたように限界があるように思える。日本はエネル
ギー効率の面では世界トップレベルの地位だが、日本全体のエネルギー消費量は減少せず
38
増加している。その他様々な環境問題を引き起こしている。環境効率はあくまでより環境
負荷を軽減することであって、持続可能性を高めているのではない。環境効率はあくまで
現在の経済システムを前提とした企業の自律的な環境負荷軽減策であり、市場の競争に則
った範囲内での環境負荷軽減が進んでいく。
また、持続可能な生産は持続可能な消費と表裏一体である。持続可能な消費とは一体何
か、持続可能な消費にあわせた経済活動は可能なのか、可能ならば生産と消費はどのよう
な関係なのか。それは資本主義経済を再考させるものだろう。
しかし、環境効率は世界産業のメガトレンドとして促進されるだろう。日本は、エネル
ギー効率の先にある問題にどう対応していけるのか、どのような社会システムを生み出し
ていくのか、産業システムを生み出していくのか、が課題である。この課題を乗り越えら
れなければ、環境世紀のなかの経済競争に勝つことはできない。
第三章
80
エコロジーとエコノミーの調和―環境制御システムの豊富化―
年代の終わりから地球環境問題が注目されはじめて
10
年経つが、環境問題は誰でも知
るにいたる身近な問題となった。大量生産・大量消費・大量廃棄型社会が地球環境問題を
引き起こす原因であることも理解され始めている。第一章で取り上げたグリーンコンシュ
ーマー運動は、地球環境が問題化された同時期に起こった運動である。第二章で取り上げ
た環境効率の概念も、地球環境問題による危機意識から産業界を中心に生み出された概念
であった。地球環境問題が一般的に知られるようになって、今までの運動や産業界の取り
組みとは異なった新しい取り組みが行われ始めた。このことは一体どのような意味を持つ
のだろうか。そのむかう先はいったいなんなのか。社会的ジレンマ論と環境システム論に
即して考察したい。
第一節
社会的ジレンマ論と環境制御システム
1.社会的ジレンマ論
43)
地球温暖化問題やごみ問題のように今日の新しい環境問題は①発生原因の拡散性を基盤
とした社会の自己破壊性、並びに、②受益と受苦の階層構造、という二つの特色を持つこ
とを示している。
①
環境負荷の直接的あるいは間接的な発生源が、非常に多数の主体に拡散し、とくに
非倫理的ということもない「通常の個人」が、「構造化された選択肢」に取り囲まれ、
環境負荷の増大過程に巻き込まれている(発生原因の拡散性)。しかも、個々の主体
の発生する環境負荷は、きわめて軽くそれを意識化することも困難なほどである。
②
同時に、環境問題絵をめぐる受益と受苦の格差あるいは階層性が国際的文脈でも各
国の国内的文脈でも至る所で見られる(受益と受苦の階層構造)。この格差は、個々
の受益圏と受苦圏に注目するならば、両者の分離と巨大な時間的、空間的なラグが
存在している。それゆえ、被害者が顕在してからの「事後的対処」では手遅れにな
るのであり、予感力と感受性に裏打ちされた「先を読んだ対処」が不可欠である。
39
今日の環境危機の克服には、その解明が必要である。自己破壊性のメカニズムの核心に
あるのは、「社会的ジレンマ」と「環境負荷の外部転嫁」という二つの相互に絡まり合った
論理という視点に立って、その解明にあたる。
社会的ジレンマの原基的な論理は、個々の主体の短期的・即時的な利益追及が、一定の
条件の下では、長期的・社会的利益と矛盾することであり、その論理の核心は、「集合財を
めぐる合理性の背理」である。社会的ジレンマの原型は「共有地の悲劇」モデルによって
示される。
社会的ジレンマとは、「複数の行為主体が、相互規制なく自分の利益を追求できるという
関係の中で、私的に合理的に行為しており、彼らの行為の集積結果が環境にかかわる集合
財の悪化を引き起こし、各当該行為主体あるいは他の主体にとって、望ましくない帰結を
生み出すとき、そのような構造を持つ状況」のことを言う。
社会的ジレンマの原型は、微少な拡散した形での環境負荷の発生が、環境容量を超過す
るという意味で過剰に累積した場合に集合財として環境を破壊してしまうこと、しかも、
それに至る過程は、個々の主体が自らの利益のためになると考えた即時的には「合理的」
な行為によって推進されており、その意味で「共有地の悲劇」という性格を帯びているこ
とを、明快な形で示している。
今日の環境問題で広範に見られるのは、消費者に対する様々な財やサービスの提供が、
「環境高負荷随伴的な構造化された選択肢」を生み出し、特に非倫理でもない「通常の個
人」が、それに巻き込まれる形で環境悪化に荷担し、社会的ジレンマが生じている。
「環境高負荷随伴的な製品やサービスの氾濫」という事態は、環境保全についての社会
的規範が欠落した状況において、市場の中での生産者(企業)の競争を通して生み出され
る。企業にとって、市場という「構造化された場」の中での合理的行為は、よりよく安く
売れること、より利潤を上げること、同じ性能であればよりコストを安くすることであり、
それを通して競争に勝つことである。この市場メカニズムの論理が社会的ジレンマを加速
する。
社会的ジレンマは受益圏と受苦圏の重なりによって、7 つに分類することができる。
2.環境制御システム
44)
環境問題の解決という文脈においては、社会の自己破壊性を克服するような自己組織性
が求められている。自己組織性の方向は、環境制御システムの形成とその社会に対する介
入、とりわけ、経済システムに対する介入の深化であり、その条件として公共圏の豊富化
である。
「環境制御システム」とは、環境負荷の累積により現在生じている、あるいは将来生じ
るであろう「構造的緊張」を「解決圧力」に転換し、「実効的な解決努力」を生み出すよう
な社会制御システムであり、環境問題の解決に第一義的関心を払う環境運動ならびに環境
行政部局をその制御主体とし、これらの主体の働きかけを受ける社会内の他の主体を被制
御システムとするような社会制御システムである。
環境制御システムの達成すべき課題の意味は、環境制御システムが経営システムと支配
システムという二重の文脈で、それぞれどのような作用を果たすのか明らかにすることで
明確になる。「経営システム」とは行政組織と社会内の他の諸主体の相互作用を、一連の経
40
営課題群が、様々な制約条件のもとで、希少な手段を使ってどのように継続的に達成され
るのかという視点から把握したときに、見出される側面である。また、「支配システム」と
は、社会における意志決定権の配分と正負の財の配分についての不平等な構造を総称する
言葉である。意志決定権の配分の側面を「政治システム」と言い、財の配分についての不
平等な構造を「閉鎖的受益圏の階層システム」と言う。
環境制御システムが経済システムに対する介入を深める場合、第
1
の課題は、社会的ジ
レンマを克服するような社会的規範を設定することである。このことは、新しい社会的規
範によって、経営システムの文脈における「制約条件」と「経営課題群」を再定義するこ
と、つまり、諸主体にとっての「構造化された場」を変革し、消費者や企業にとっての「合
理的な行為」の意味を変化させることを含意しているのである。
環境制御システムから経済システムに対する介入の深さ(あるいは交錯性の程度)は、
経営システムの文脈における制約条件と経営課題の設定のされ方に注目すれば、3 つの段階
に区分できる。
①環境保全という観点からの制約条件が、経済システム内の諸主体(企業、消費者等)
に課せられる段階
②環境保全という経営課題が、経済システム内の諸主体にとって、副次的、周辺的な経
営課題の一つとして設定される段階
③環境保全という経営課題が、経済システムとその中の諸主体にとって主要なあるいは、
中枢的な経営課題群の一つとして設定される段階
環境負荷をより徹底して削減するためには、環境制御システムの経済システムに対する
介入が、①→②→③へと深化し、社会的ジレンマを緩和・回避するために、より大胆な社
会的規範を設定することが必要である。
経営システムの文脈での制約条件や経営課題群の再定義は、支配システム(とりわけ政
治システム)における、解決圧力の表出によってこそ推進される。支配システムにおける
解決圧力の表出については、3つの段階に区分できる。
①環境制御システムの制御主体(環境運動、行政組織の環境部門)が、経済システム内
部の主体(企業、行政組織の経済関連部門)に対して、発言権をもつという形で解決
圧力を及ぼす段階。
②環境制御システムの制御主体が、経済システム内の諸主体に対して対抗力の発揮とい
う形で解決圧力を及ぼす段階。ここで対抗力とは正負の財の与奪によって、相手側の
意思決定に影響を与える能力であって、訴訟はその対抗力の一例である。
③環境制御システムの制御主体が、経済システム内の諸主体に対して決定権を持つ場合。
経営システムの文脈での介入の深化と支配システムの文脈での介入の深化とは、傾向的
には、絡み合う形で進行する。
第2節 環境制御システムによるグリーンコンシューマー運動の位置付け
グリーンコンシューマー運動は環境制御システム論においてどのように位置付けられる
だろうか。グリーンコンシューマー運動は市場機構を利用した運動だが、つまり、市場機
構を利用して環境制御システムが機能したといえる。環境制御システムがどのように機能
41
したかというと、消費者(制御主体)が、商品選択による購入によって企業(経済システ
ム内部の主体)に対して対抗力を発揮するという形によって解決圧力を及ぼしたといえる。
ここでの対抗力とは正負の財の与奪によって、相手側の意思決定に影響を与えるというこ
とである。
グリーンコンシューマー運動の主体である消費者は、環境制御システムにおける主体で
ありながら、経済システムにおいても主体である。というよりも、消費者自身は経済シス
テムに組み込まれているので、消費者の中でグリーンコンシューマー運動に取り組む消費
者が経済システムと環境制御システムの二重の主体となる。
グリーンコンシューマー運動の特徴を示したい。グリーンコンシューマー運動の主体で
ある消費者は、経済システム(市場)に組み込まれているので、商品選択による投票行為
を通じて、環境制御システムと経済システムとの間での交錯性を描いた図2(舩橋、1 9 9 9 、
p 2 0 9 )の A
の制約条件の欠如した段階の企業に対しても、環境制御システムを機動させる
ことが可能である。具体例を挙げると、アメリカのりんごの農薬におけるアラーの件であ
る。アラーの廃止を環境団体が何年も行政に訴えたが実行できなかった。法制度・政策に
おいて制約条件を課すことができなかった。しかし、消費者によるアラーのかかったりん
ごの不買によって、りんご農家はアラー使用をやめ、スーパーマーケットも販売を止めた。
これは、制約条件の設定が法制度によらずに可能だということを示している。ここにグリ
ーンコンシューマー運動の特徴がある。つまり、環境行政部局との協力関係を背景にした
要求提出なくして、市場メカニズムを通して経済システム内部の主体へ環境制御システム
を起動することが可能なことを意味する。
なぜそれを可能にするのだろうか。市場機構における「投票」による消費者の意思決定
は、従来の政治システムを介さない。政治システムは意思決定における配分の格差がある
が、市場機構における消費者と企業の関係は原理的には対等であり、常に開かれている。
商品選択の決定権が消費者にある限り、一企業に対する一消費者の決定権は微少だが、ゼ
ロではない。集積すれば大きな決定力を持つ。もちろん、弱ければ決定権は持たない。そ
こにグリーンコンシューマー運動の限界がある。消費者の共感を得ることがなければ、大
きな決定力を保持することはできない。その不安定さがつきまとう。
環境行政部局との協力関係を背景にした要求提出なくして、市場メカニズムを通して経
済システム内部の主体へ環境制御システムを起動することが可能なことを意味する、市場
機構を利用した運動は、実効的な解決努力を妨げている要因のいくつかを乗り越える。①
政府行政組織内の勢力関係において環境庁が弱体であること、と②行政阻止苦の硬直性と
閉塞性について、原理的に乗り越えることが可能である 45)。
また、グリーンコンシューマー運動は環境制御システムにおける主体の定義の再考を求
めるものである。
第三節 環境制御システムによる「環境効率」の位置付け
環境効率の概念は企業から生まれた概念である。産業界の環境問題に対する自主的取り
組みは、環境制御システム論ではどのように位置付けることが可能なのか。環境効率は、
W B C S D
によって多くの大企業に情報提供を行い、影響力をもっている。経団連の「経団
42
連環境アピール」は、経団連加盟団体に大きな影響力を持つ。まず、 W B C S D や経団連の
ような産業界ネットワークは、環境制御システムの主体といえるのだろうか。
環境制御システムにおける定義の前半である「環境負荷の累積により現在生じている、
あるいは将来生じるだろう構造的緊張を解決圧力に転換し、実効的な解決努力を生み出す
ような社会制御システム」という点においては、妥当するだろう。 W B C S D や経団連の取
り組みは、環境制御システムと経済システムとの間での交錯性を描いた図2(舩橋、1 9 9 9 、
p 2 0 9 )の環境庁にあたる位置と同じである。企業に対して、要求提出による制約条件の設
定を行っている。しかも、法制度に依拠しない自主的な制約条件の設定である。また、こ
こに「環境効率」のような企業の自主的取り組みの限界がある。自主的取り組みである以
上、制約条件を達成しなくてもなんらかの制度的ペナルティがあるわけではない。
しかし、環境制御システムにおける定義の後半である「環境問題に解決に第一義的関心
を払う環境運動ならびに環境行政局をその制御主体とし、これらの主体の働きかけを受け
る社会内の他の主体を被制御主体とするような社会制御システム」という点における、制
御主体の定義には妥当しない。しかし、 W B C S D や経団連の自主的取り組みは、企業を制
御する機能を持つものである。図2の環境庁にあたる位置の役割を果たしている。
企業のこのような動きはいったいどういう意味を持つのだろうか。産業界のトップによ
る環境問題への自主的取り組み、例えば「環境効率」という概念の創出は、社会的規範の
設定と言える。産業ネットワークは、自ら社会的規範の形成を行っている、ということだ。
このことは産業界による経済活動の中心的経営課題群として環境問題への取り組みの価値
内面化といえよう。
第四節 社会的ジレンマとグリーンコンシューマー運動と企業の環境主義化
さて、今日の環境問題で広範に見られるのは、消費者に対する様々な財やサービスの提
供が、「環境高負荷随伴的な構造化された選択肢」を生み出し、特に非倫理でもない「通常
の個人」が、それに巻き込まれる形で環境悪化に荷担し、社会的ジレンマが生じている。
「環境高負荷随伴的な製品やサービスの氾濫」という事態は、環境保全についての社会的
規範が欠落した状況において、市場の中での生産者(企業)の競争を通して生み出される。
企業にとって、市場という「構造化された場」の中での合理的行為は、よりよく安く売れ
ること、より利潤を上げること、同じ性能であればよりコストを安くすることであり、そ
れを通して競争に勝つことである。この市場メカニズムの論理が社会的ジレンマを加速す
る、とあるが、グリーンコンシューマー運動と産業団体の自主的取り組みは、市場に対し
てどのような意味を持つのだろうか。
グリーンコンシューマー運動は、「環境高負荷随伴的な構造化された選択肢」に巻きこま
れている「通常の個人」による、環境悪化への荷担から、より環境配慮へ荷担することで
「環境高負荷随伴的な構造化された選択肢」をより「環境低負荷随伴的な構造化された選
択肢」へ変革する役割を果たしている。その変革は、市場機構を利用した消費者による環
境制御システムによって可能にする。
W B C S D
による「環境効率」の概念は、資源の生産性を高めること、汚染による将来に
対するリスク(訴訟などのコスト面も含む)の回避を、つまり、環境問題の取り組みと企
43
業経営を中心的な経営課題とすることで、市場競争に勝つことを目的としている。「環境効
率」は、環境問題に対応しない企業は将来的に競争力を失うことを示していることに意味
がある。企業による「環境効率」は、「環境高負荷随伴的な製品やサービス」をより「環境
低負荷随伴的な製品やサービス」を生み出す役割を果たしている。「環境低負荷随伴的な」
企業運営の役割を果たしている。その変革は、環境効率が競争力の源泉力となることを社
会規範として示すことによって企業が経営の中心課題に置くことで可能となる。
環境高負荷随伴型の「構造化された選択肢」への「通常の主体」への巻きこみ(生産者
+消費者)の状態は、地球環境問題の一般化によって、産業界や消費者に「再帰性」を与
えた。自己反省的・自己批判的態度を呼び起こした。グリーンコンシューマー運動や産業
界による環境効率の取り組みは、社会的ジレンマにおける受益圏と受苦圏の財の配分水準
を低減しようとする取組みである。より「環境低負荷随伴的な構造化された選択肢」を形
成するためには、市場機構を利用した環境制御システムが有効に機能するだろう。
しかしだからといって、社会的ジレンマが回避されたわけではない。あくまで「回避に
向けた軽減」であって社会的ジレンマが根本的に解決されるわけではない。つまり、「環境
低負荷随伴的な構造化された選択肢」となり、市場において環境配慮の質が高まったとし
ても、量が増大すれば質を超えて環境悪化を引き起こす。「環境低負荷随伴的な構造化され
た選択肢」の質の向上を超えないような量の規制が必要になる。
第五節 環境制御システムの豊富化の条件
以上のように、グリーンコンシューマー運動と産業界による環境問題への価値内面化は
環境制御システムおいてどのような意味を持つのか。環境制御システムと経済システムは
より深く交錯するようになった。特に、市場メカニズムに対する環境制御システムの深ま
りが言えるだろう。グリーンコンシューマー運動はまさにその通りの運動だが、産業界に
おいて、環境問題に取り組むことなくして経済活動を行なうことができない状態になって
いる。「環境効率」の概念は、資源の効率性を高めることで環境に配慮しなおかつ経済競争
力をつけるものとして、環境問題の取り組みと経済競争力のトレードオフを取り除くもし
くは縮減することを示している。
グリーンコンシューマー運動は従来の政治システムではなく、市場メカニズムによって
環境制御システムが機能することを明らかにした。 W B C S D や経団連の環境問題への取り
組みは、多くの企業に制約条件を設定する。これらの取り組みは、環境制御システムの豊
富化ということができる。
環境制御システムの豊富化の条件は何だろうか。まず第1に、地球環境問題の一般化に
よって、あらゆる主体に共鳴作用が働いていることが挙げられる。このことによって、環
境制御システムでの制御主体が豊富化された。特に、経済システムの制御主体からの環境
制御システムにおける制御主体の豊富化がなされた。第2に、市場メカニズムを利用した
「投票」システムによる意志表明の場の機能が挙げられる。第1と第2の条件は切り離す
ことができない。地球環境悪化の改善に向けた深い共鳴があってはじめてグリーンコンシ
ューマー運動のような経済システムに組み込まれた消費者の多くを環境制御システムの制
御システムの主体に変えた。産業界においても自主的取組みを行うようになった。環境制
44
御システムと経済システムの交錯性が深化することによって、経済システムである市場メ
カニズムを有効に利用することが可能になったといえる。そして、市場メカニズムに則っ
て、効率的に環境問題の対処を行なうことが可能になった。
おわりに
21世紀は、環境問題解決に向けて市場経済を利用した取組みが盛んになるだろう。そ
れは、産業の環境主義化といえる。政策は、企業活動を考慮しながら「命令と管理」では
ない政策が豊富化されるだろう。消費者は、産業によって常に与えられる「構造化される
選択肢」を、多くの人へ情報提供発信を行うことによる購買行動の変化によってよりよい
ものに改善することが可能である。環境問題は市場経済の自己調整機能によって行政・企
業・消費者に常にチェックされ改善され効率よく促進する。
しかし、このことは市場経済による環境問題の解決を意味しない。市場経済は常にパイ
の拡大を求めるからである。市場経済は環境問題の解決にあたってあくまで「延命」機能
を効率的に行っているにすぎないのである。
【注】
1)
Vallely,Bernadette,1992, ” THE
GREEN CONSUMER:A EUROPEAN PERSPECTIVE”
Women&Environments,Spring92,Vol.13,P3-4 を参考にまとめる。この論文の著者であ
る Bernadette・Vallely は Women’s Environmental Network(WEN)のディレクターであ
る。彼女は『 1 0 0 1 w a y t o s a v e t h e p l a n e t 』( 1 9 9 0 , P E N G U I N B O O K S ) の著者でもある。
2) WEN に対する詳細な情報は団体のホームページ(http://www.wen.org.uk/ )から得るこ
とができる。
3) John Elkington, Julia Hailes,1988, THE GREENCONSUMER GUIDE,Gollancz
Paperback
4)
ここまでの説明は SustainAbility 社のホームページ(http://www.sustainability.co.uk
/sustainability.htm)による情報をまとめたもの。
5) the Council on Economic Priorities,1991, Shopping for a Better World 1991edition ,
BALLANTINE BOOKS・NEW YORK
6)
『グッド・マネー』(リッチー・ローリー、1992、晶文社)p16‐17 を参考にまとめた。
同上、p250 を参考。
8) 以上の CEP に関する内容は、同上、p22,252‐253 を参考。
9) 以上の CEP に関する情報は団体のホームページ(http://www.cepnyc.org/index.htm)
を参考。
10) 「アメリカ環境運動の分裂とその克服‐活動家から見た 20 年の変化‐」
(ミカエル・
マックロスキー:R.E.ダンラップ/A.G.マーティング編、『現代アメリカの環境主義、
1993、ミネルヴァ書房)を参考にまとめた。
11) この項の内容は CEP のホームページ(http://www.cepnyc.org/index.htm)による情
報から構成した。
12) 各企業の評価は CEP のホームページのなかの「SBW Grades(http://www.cepnyc.
org/sbwgrades.htm」から検索可能である。検索結果は以下の様に表示される。
7)
45
13)『グリーンコンシューマーになる買物ガイド』
(グリーンコンシューマー全国ネットワ
ーク、1999、小学館)を参考にまとめたもの。
14)
グリーンコンシューマー全国ネットワーク、1999『グリーンコンシューマーになる買
物ガイド』、小学館をまとめた。
年度の舩橋研究室によるグリーンコンシューマー東京ネットヒアリングの際にい
ただいた資料(グリーンコンシューマー東京ネットの活動内容)を参照
16) 間宮洋介、 1 9 9 9 、
『市場社会の思想史 「自由」をどう解釈するか』、中公新書、p 4 ・ 1 4
行目の文を引用した
17) 同上、p4‐6 を引用
18) 小林一、
「企業と環境主義」(三上富三郎、1992、『環境主義マーケティング』、日本能
率協会マネジメントセンター)p68‐72 を参考にまとめたもの。
19)以上は、 同上、P73‐80 を参考にまとめたもの。
20) リビノ・デシモン/ フランク・ポポフ/WBCSD、
『エコ・エフィシエンシーへの挑戦』
(1998、日科技連)、p1-9 を参考にまとめたもの。
21) このセンテンスは、WBCSD のホームページ(http://wbcsd.ch/aboutus.htm)による
15) 1999
New reports --Eco-efficiency. Creating more value with less impact (PDF November
22)
23)
24)
25)
26)
2000)の foreword を参考にまとめた。
注 20)と同上、第一章を参考にまとめた。
同上、p119、環境効率の完全な定義を引用。
同上、第三章を参考にまとめた。
同上、第一章と第七章を参考にまとめた。
マイケル・E ・ポーター/ クラース・ヴァン・リンデ、「環境主義がつくる 21 世紀の競争優
位」(『ダイアモンドハーバードレビュー』、1 9 9 6 、 a u g . - s e p t ) p 1 0 3 - 1 1 8 を参考にまと
46
27)
28)
29)
30)
31)
めた。
この調査結果をまとめたものは、同上、p106 の表1参照。
同上、p113-114 を参考にまとめた。
同上、p112-113 を参考にまとめた。
注 20)と同上。第五章を参考にまとめた。
青柳雅、「欧州における産業界の環境問題への自主的取組み」(『月刊 Keidanren』、
1996・10)p29-31 を参照にまとめた。主要国の地球温暖化抑制のための代表的な自主
方策については p30 の表を以下に参照。
47
32)
諸戸孝明、「地球環境時代の循環型社会構築に向けて‐環境ガバナンスと産業界‐」
(財団法人地球環境戦略研究機関編、『民間企業と環境ガバナンス』、2000、中央法規出
版)p224‐228 を参考にまとめた。
33) 以上の「経団連環境アピール」については、加納時男、
「21 世紀の環境保全に向け、
自主行動を宣言 経団連環境アピールと産業ごとの自主的行動計画の策定」(『月刊
Keidanren』
、1996・10)p19‐21 を参考にまとめた。
34) マイケル・ E ・ポーター/ 竹内弘高、
『日本の競争戦略』、2 0 0 0 、ダイアモンド社、p 1 0 0 - 1 1 2
を参考にまとめた。
35) 注 20)同上、p24 を参照
36) 舩橋晴俊、
「環境問題の未来と社会変動」(『講座社会学 12 環境』、東京大学出版、
1998)
p197、21 行目から引用。
37) ロータリー・コンプレッサーとは回転空気圧縮機のこと。転動圧縮機構をもった車両の
空気圧縮機。(日本規格協会、『JIS 工業用語大辞典 第 2 版』、1987、日本規格協会か
ら引用)
38) 注)34 同上、p58、174、204、232、242 を参考にまとめた。
39) 以上の省エネ法および省エネラべリング制度については資源エネルギー庁のホームペ
ージ(http://www.enecho.go.jp/ )の情報を参考にまとめた。
40) 注 34)同上、p298-299 を参考にまとめた。
41) 最終エネルギー消費の部門別増加率の情報は、省エネルギーセンターの「我が国の最
終エネルギー消費状況(http://www.eccj.or.jp/law/lawrev01/eng/eng09.html)」のホ
ームページの情報に依拠する。
42) 経団連のホームページの「経団連の主張」のなかのエネルギー・環境政策の「わが国
のエネルギーをめぐる情勢と課題−省エネルギー型社会の実現に向けて‐」
(http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/pol199/index.html)に依拠する。
43) 注 36)同上、p191‐202 を参考にまとめた。
44) 同上、p203‐215 を参考にまとめた。
45) 同上、p210 での実効的な解決を妨げている要因に即している。①は①、②は⑤に対応
する。
【参考文献】
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高島善哉、1968、『アダム・スミス』、岩波新書
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寺田良一、 1 9 9 9 、「環境運動と環境政策」、『講座社会学
12
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‐
162
マイケル・E ・ポーター/ 竹内弘高、『日本の競争戦略』、2000、ダイアモンド社、
間宮洋介、1999、『市場社会の思想史
「自由」をどう解釈するか』、中公新書
三上富三郎、1992、『環境主義マーケティング』、日本能率協会マネジメントセンター
三井情報開発㈱総合研究所、2000、『産業のグリーン変革』、東洋経済新報社
舩橋晴俊、1999、「環境問題の未来と社会変動」、『講座社会学 12 環境』、東京大学出版
p191‐224
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Vallely,Bernadette,1992, ” THE
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