第27回 - 日本イーラーニングコンソシアム

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├ ニュースリリース
2009年12月3日
elcについて
第27回 上流から見たeラーニング9「ソーシャルラーニング前編」
├ 活動主旨と沿革
├ 会員一覧
├ 会員メリット
米国では、2008年は、「Web2.0」の言葉とともに、「ラーニング2.0」がホットな言葉であったが、2009年は「ソーシャル・メデ
ィア」を使った「ソーシャル・ラーニング」という言葉がしきりに教育専門家の間で使われるようになった。しかし今までのラーニン
├ 入会方法
グ用語と同様言葉が勝手に走り出し、皆がそれぞれ勝手に使っているので、イメージがなかなか掴みにくい言葉である。なぜ今
企業は教育からソーシャル・ラーニングにシフトしようとしているのだろうか?「ソーシャル・ラーニングは不況に強い」と言われる
初めてのeラーニング
├ 導入ガイド
├ 導入事例
├ 海外事情
がどう言う意味なのだろうか?
そこで、本レポートでは、言葉の説明をする前に、経済不況の真っ只中でニュービジネスをスタートした小さな企業をご紹介し、
「ソーシャル・ラーニング」が企業にとってどのようなメリットがありどのように活用されているのかについてまずイメージを掴んで
いただいてから、後編ではGoogle社と比較しながらさらに考察を深めてみたいと思う。
1.カスタマーの夢を実現するビジネスモデル
├ 用語集
低い投資で高い付加価値のある車を個人に提供
2009年9月11日のPBSニュース(アメリカのNHK版)で、マサチューセッツ州にあるローカル・モーターズ社(以下、LM社)の特
└ 書籍案内
集があった。クラウド・コンピューティングを使った革新的なビジネスモデルで自動車製造をする会社である。会社と言っても規模
は小さな町の修理工場レベルである。小さな「地ビール」の地元製造所と同じコンセプトで、地元工場「マイクロ・ファクトリー」で
データ・資料
├ カンファレンス資料
├ 映像アーカイブ集
「地車」を製造するのである。地元工場の場所は、車のデザインが決まってからニーズに合わせて決められる。
「地車」のメニューとなる車のデザインは、賞金つきのコンテストでWeb上のコミュニティーメンバーが投票し決め、決まったデザ
インがLM社の地元工場で製造されるというビジネスモデルである。カスタマーのニーズに合わせてローカルに製造していくので、
在庫の場所の心配もない。同社のCEOは年間500台売れれば何とか元がとれるという。このモデルが話題になったのは、カス
タム・デザインの車を安価に所有できるという顧客満足が高いだけではなく、ローカル産業の活性につながり、地球環境保護に
├ AEN
└ ALIC報告書
もつながっているからである。
このモデルが成功すれば、低い投資で高い付加価値のある車を個人に提供できるというビジネスがたくさん生まれる起爆剤にな
る。今まで、自動車つくりは膨大な基礎研究、設計、開発、設備、製造とアイデアから製品化するまでに時間と大きな投資金額が
eLP資格制度
必要であった。さらに製品化された後も販売店とのチェーンを通してようやくカスタマーの手に入るという大掛かりなしくみが必要
なビジネスモデルであった。小さな地元の修理工場規模の会社ができるなんてことはまず無理なことと考えられていた。このよう
├ 資格について
├ 資格認定コース
└ 資格更新案内
な考え方を一掃したのが、CEOのジョン・ロージャー氏である。
イノベーションは社外とのコラボレーションから
ロージャー氏は、機械工学を大学で専攻してから、ハーバード大学のMBAで、Web2.0の活用が自分の夢の実現に大事であ
ることを確信し、コミュニティーサイトを使って社内と社外のコラボレーションと共有を基本とした今のB2Cビジネス・モデルを作り
上げたのである。
SCORM
├ ニュースリリース
├ SCORMとは
LM社のホームページからDesignのセクションをあけると、コンテストのサイトがある。応募されたデザインを選ぶのは自分の夢
の車がほしいと思っている(将来の)カスタマー達である。「雪の多いところに住んでいるが、燃費を食うSUVのような大型車でな
くもっと環境に優しく、かつスマートなルックスでかつ安全であるような車がほしい」と、既存の車にはないものを求めている人達
がカスタマーの対象である。コンテストに投票するのは、必ずしも今買える余力のある人達ばかりではなく、「このような車が地域
にあれば」とアイデアのある人達も、LM社のコミュニティー・メンバーとなって投票できる。
└ SCORM技術者資格制度
└ SCORM技術者講習会テキスト
ただ単に一人のカスタマーの夢の車を作るというビジネスモデルは、高価で一般人には手の届かない商品となってしまう。LM社
は、このような高級車ではなく、この地域だからこそ役立つとかいう「ローカルなニーズ」を考慮した車を出したいと思っている。投
票によってカスタマーが一番求めているデザインを選ぶということは、最低500台は売れるような一般人でも手の届くような「夢
├ SCORM技術者一覧
の車」のデザインを選ぶことにつながるからである。では、なぜ大きな投資がなくてもこのようなビジネスが成立していくのだろう
└ SCORM適合LMS
か?
クラウドのおかげで大きな設備投資をする必要がない
LM社の(小さな)本社はマサチューセッツ州の郊外にあるが、同社にとってWebサイトはバーチャルオフィスのようなもので、本
├ SCORM適合コンテンツ
├ 各種ダウンロード
└ SCORM技術者コミュニティ
├ アセッサ向け移行プログラム
├ AEN
社より大きな機能をもっている。ホームページは会社のロビーのようなもので、コンテストの場、ブログ、コミュニティー、フォーラ
ム、Twitter、 「カーチャット」というチャットルーム、「The Wall」と呼ばれるデザイン展示会場、車予約の場、新車案内の場があり、
それぞれは、透明になっておりどこにでも入っていき、YouTubeで案内説明を受けたり、カスタマーの声を聞いたり、デザイン関係
者の話し合いの様子を見たり、開発関係者の話し合いに参加したりすることができる。
LM社のバーチャル・オフィスでは、多くのオープンソースの「ソーシャル・メディア」が活用されているが、これらは、検索エンジン
のグーグルと同じように、インターネットにさえつながれば、どれだけ使っても利用が無料というクラウドコンピューティングを使っ
たツールの種類である。現在は、無償の一般用と有償の企業用のツールがあるが、従来のネットワーク用システム投資を考える
メールマガジン
と有償でも桁違いにコストが違う。LM社のような小さな会社が、他のシステムのように大きな投資をして構築することはまず無理
であった。しかし、社内と社外をネットワーク化した透明でオープンなビジネスモデルという特徴のあるLM社にとって、低コストで
リンク集
高品質のサービスを安心して使えるクラウドはまたとない結婚相手がみつかったようなものである。また、このネットワークのお
サイトマップ
かげで、ネット上が会議室、デザインルーム、社交の場として使えるので、このための物理的なオフィス・スペースを所有する必
アクセスマップ
要がないというのもクラウドを使う大きな魅力である。
クラウドを使うことで維持費と人件費がかからない
従来の大きなシステムの導入の場合、社外のカスタマーや開発仲間とのコラボレーションをしたくても機種とかシステムによって
お問い合わせ
使えたり使えなかったりするという心配があった。ましてや、LM社のように社外と結ばれたコミュニティーでコラボレーションをし
なければビジネスが成り立たないようなビジネスモデルには、社内社外関係なくインターネットにさえ接続していれば、システム
やパソコンの機種の互換性の心配なく、簡単に使えることは大事なことである。また、セキュリティー、更新、維持に関しても、クラ
ウドサービスの提供側が全部やってくれるので、今までのようにシステム導入及び管理維持にコンサルタントを雇ったり、ITスタ
ッフがいるという心配が全くなかったのである。
システムを保有してしまうと、ビジネス環境に合わせて大きくしたり小さくしたりしようと思ってもそう簡単に買い換えることはでき
ない。「クラウド・コンピューティング・サービス」だと、いるときだけ使うことができ、プロジェクトの大小にあわせることができるの
で、極端な場合は利用者を1人から2万人というようにすぐに変えることができる。「システムを保有するということは、その段階か
らシステムの陳腐化が始まり、システムの価値が下がっていく。別荘を買うより、必要なときだけ一番いい貸し別荘やホテルを利
用し、利用した分だけ払うというのがクラウドの利用方法」という説明は、従来のシステムとクラウドとの違いをよく表している。
従業員を抱え込む必要がない
工場で実際に組み立て作業をしたり、事務的な仕事をする従業員は抱え込まなければならないが、デザイナー、多くの営業関連
の人材を社員として抱え込む必要がないのは、社外と社内のコラボレーションを基本としたビジネスモデルの特徴の一つであ
る。デザイナーはコンテストの入賞者、営業は会社のWebサイトが代わりをやってくれ、コミュニティーのメンバー達が口コミで広
がげてくれるからである。デザイン、開発過程においても、向上に向けてカスタマー、多くのコミュニティーメンバーがいろいろと意
見交換をしているので、「コンサルタント」、「専門家」を雇う必要がない。ある専門知識をもった専門家を抱え込んでしまうより、カ
スタマーの夢の車が新しく出てくる度にそれに賛同する人達で、デザイン、開発チームを作っていくほうが、新しいアイデアを出し
新たなイノベーションにつながっていくからである。
透明なビジネスプロセスとコミュニケーションで人間関係を強化
LM社のホームページをあけると、デザインから開発製造工程に誰が参加していて、誰が何を言って、どのように進んでいるかが
誰がみてもわかるようになっている。開発過程をオープンにし、社外の開発関係者が参加しやすく、コラボレーションしやすいよう
にしてある。また、カスタマーとも双方向でコミュニケーションしながら開発を進めるので、カスタマーとの人間関係が密になって
いる。
次の車のデザインコンテストの受付は9月9日から15日までである。前回選ばれたのはロサンジェルスの大学で設計エンジニア
リングを専攻している韓国の学生キムさんのデザインであった。一旦選ばれたデザインは「オープン・開発」で、コラボレーション
をしながらオープンに開発され、出来上がった車「ラリー・ファイター」は販売中で、Webで注文をうけつけている。このようなカス
タマーの「夢の車」実現は、金さんのような学生の「夢」の実現にも貢献している。次のコンテストで優勝したデザインはどれだけ
の人達の「夢」を実現することに貢献していくのか楽しみである。
2.LM社のビジネスモデルを支える「ソーシャル・ラーニング」とは?
筆者がLM社のニュースに何よりも関心をもったのは、「ソーシャル・ラーニング」が仕事の中で自然体で生かされているいい例だ
ったからである。同社のビジネスモデルは、「ソーシャル・ラーニング」無しには機能しないと言っても過言ではない。
デザイン・コンテストサイト
LM社の「夢の車」のデザインは、コミュニティー・メンバー達が投票で決めるしくみになっているが、デザイン用のキットがあり、応
募者にはキットの利用のしかた等についてコミュニケーションをとりながらいくつかのコンテスト用のデザイン候補ができあがって
いく。従って、応募者達は、LM社のことを全く何も知らないで一匹狼としてデザインをするのではなく、LM社のコミュニティーメン
バー達(開発チームメンバー、カスタマー達)のアドバイスや意見をもらいながら最終のデザインを提出するのである。基本的に
は外から応募しているデザイナーのアイデアが主となるが、イノベーションとして活用できるようなデザインになるまでには、LM
社のコミュニティーメンバー達とのコラボレーションが必要で、その過程で皆がそれぞれに学びながら、コンテスト用デザインを完
成しているのである。
フォーラムで開発プロセスをオープンに
LM社では、開発プロセスはオープンにしてあるので、場所が離れていても開発に関与している人達の話し合いに参加でき、話し
あった結果を後で見たりすることができる。
コラボレーションしながら「夢の車」実現に向かうことが「ソーシャル・ラーニング」
このようにロージャー氏を始め従業員達にとって、Webサイトは毎日が一番自分にとって必要な最新の情報を得られる学習の場
となっている。カスタマーと共同で車をデザインするための場、コミュニティー・メンバー達が投票できるコンテストの場、さまざま
なトピックについて社外と社内のメンバー達が話し合う場、車のデザイン、Twitterでアイデア、乗り心地等について意見交換する
場, ビデオブログ、ブログ、YouTube等は、社内と社外が一緒に「夢の車」つくりのためのコラボレーションに利用されている。
勿論、従業員達は、特に学習をしているという意識はない、ただ、カスタマーの求める「夢の車」実現に向けて、これに関心のあ
る人達(コミュニティーメンバー)と話し合ったり、情報交換したりしながら、共同設計、共同開発をしているだけである。やりたい
人達だけが集まって、やりたいことをしながら、目的達成の過程で、いつのまにか知識と知恵を得、コラボレーション力、コミュニ
ケーション力等を身に付けているのである。さらに、その結果として顧客との信頼関係が深まり高いロイヤルティーにつながって
いる。このような学び方が「ソーシャル・ラーニング」である。
企業トップは「教育」に対する考え方を変える必要がある
ここまで読まれていて、読者の方々の中には、「何だ、ただやるべき仕事をしているだけじゃないか、どこが学習になっているん
だ?」と疑問を感じられるかもわからない。そこで、「ラーニングとは?」について読者の皆様と考えてみたいと思う。筆者も含め
て、40代後半から団塊世代はどうしても学校教育時代、自分達がうけてきた教育を想像して「ラーニング」という言葉を使ってい
るのではないだろうか?「先生という誰か権威のある人間が、ある知識について教えてあげる」という上から下に向けての知識の
伝達が一般的な「教育」に対するイメージである。従って、研修、講義ではなく、Twitter やブログで一見ただおしゃべりをしている
ように見える学び方に対しては、「ちゃんとしたラーニングではない」というマインドセットから抜け切れないでいる人達が多いよう
に思う。
しかし、ここでご紹介したLM社のようにネットワーク上にコンテストの場、共同開発をする場を提供することによって、LM社の従
業員は、カスタマー、同僚と一緒に「夢の車」を開発していく過程で多くのことを学んでいることは確かである。ここには、講師もテ
キストもないが、トレーニングに1週間参加するよりもっと最先端で実践的なことを学びとっているのである。
「学びは変革していますよ!」については、さまざまな教育専門家がオンラインのラーニング・コミュニティーで共有してくれている
が、筆者にとって一番分かりやすいのは、2005年3月の筆者のレポートの中でご紹介した教育コンサルタントのジェイ・クロス氏で
ある。当時、まだトレーニングを主としていた教育人材開発の世界で、「日常の会話を通して学ぶようなインフォーマル・ラーニン
グは、集合研修、講義というようなフォーマル・ラーニングより重要である」という考え方を広めようとしていたクロス氏は浮き出た
存在であったが、今ではCLO誌の主幹コラムニストとして広く世界中のCLO達の間で尊敬される存在となり、クロス氏の考え方
は広く受け入れられている。
ジェイ・クロス氏が長年訴えてきたことが間違っていないことを更に裏づけするように、2009年には、教育コンサルタント会社であ
るBersin & Association社が「企業はフォーマルなラーニングからインフォーマルなラーニングに重要性をシフトしていることを10
0%断定できる」という調査結果を発表をした。この調査は、教育と人材開発関係のマネージャー1100人以上を対象に2008
年の後半に実施されたものでとしてこの調査で、「企業内の学習の80%は仕事をしながら同僚、上司、専門知識のある人との
対話で行われていること」が判明し、かつ「25歳以下の従業員はグーグル、YouTube、Twitterのような『オンデマンドのラーニン
グポータル』が職場にあることを当然と思っている」ということも明らかになった。
次回の後編では、ソーシャルラーニングとは何かを改めて振り返り、Google社の取り組みも参考に、取り組む上のポイントや興
味はあっても企業に取り入れられない原因は何故か、成功するにはどういったことが必要か、などについて考察する。
著者紹介
きよみ・山崎・ハッチングスさん
シリコンバレー在住、1992年に自らCrossTech社を設立。 日米ビジネ
スに関連したコンサルテ―ションの他、ハイテク業界でグローバル・カン
パニーとして成功するためのノウハウ、情報、コミュニケーション・スキ
ル等を入れた企業向け研修プログラム、ビジネスセミナー等を日米で
開催している。 小松会長を団長とした「海外e-ラーニング調査団」の通
訳としても活躍し、アメリカでの先端的なe-Learning活用状況について
調査・研究を続けている。
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