第10章 低コストな小規模向け農業集落排水処理施設

第10章 低コストな小規模向け農業集落排水処理施設
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第10章
低コストな小規模向け農業集落排水処理施設
新 技 術 名
低コストな小規模向け農業集落排水処理施設
新技術番号
H16-K5
新技術担当
官民連携開発
((社)地域資源循環技術センター他)
都道府県名
-
新技術の区分
実 施 局 の
総 合 評 価
10.1
10.1.1
○
先進的技術
無
従来技術改良
その他
特許・実用新案の有無
農村地域の汚水処理施設の整備の重点が中山間地域等の小規模な集落
へ移行することが予想されるが、建設コストが、従来の実績では、汚水処
理施設の処理対象人口の規模が小さくなるほど割高になっていた。したが
って、本研究開発では、処理対象戸数が 10 戸~数百戸程度までの小規模
な農業集落排水処理施設について、低コストで処理機能に優れた処理方式
の開発を行った。採用した処理方式は、膜分離活性汚泥方式であり、最も
水槽がコンパクトとなるほか、安定した固液分離性能を有し高度な処理水
を得ることができる。経済性に関しては、FRP 槽を用いること、かつ、そ
の容量が最も小さくなることから、コスト縮減の可能性が最も高いと判断
した。
新技術の概要
新技術導入のポイント
農村地域における汚水処理施設の整備は、都市部に比べて依然として遅れている。また、今
後の整備の重点は、中山間地域等の小規模な集落へ移行することが予想されている。こうし
た中、処理対象戸数が少ない汚水処理施設の整備では、相対的に一戸当たりの整備コストが
割高となっており、より一層の低コスト化が課題となっている。
また、中山間地域等における汚水処理施設は、水源地に隣接又は上流に位置するため、BOD
除去のみならず、窒素、リンの除去を含むより高度な処理性能が求められている場合が多い。
そこで本技術開発では、開発目標を表-10.1 のとおりとした。処理施設に係る建設コスト
は、個別処理の FRP(繊維強化プラスチック)製浄化槽の一般的なコストよりも下回ること
とした。また、処理性能は、今後の排水基準の強化にも対応できる脱窒・脱リン性能を有す
る高度処理性能(BOD:5、COD:10、SS:5、T-N:15、T-P:1mg/L 以下)とした。また、BOD:
20mg/L の一般地区への適応も可能なように建設コストが安価となる処理方式を目標とした。
表-10.1 目標とする成果
開発の背景
開発目標
●農村地域の汚水処理施設整備の重点は、よ
●10 戸~数百戸規模を対象とした小型の処
り小規模な中山間地域等に移行
理施設(FRP 製)の実現
●小規模施設ほど整備コストが割高
●FRP 製浄化槽と同程度の建設コスト(管
路施設を除く)の実現
●処理施設が水源地に隣接又は上流に位置
●今後の排水基準の強化にも対応できる高
度な処理性能(BOD:5、COD:10、SS:5、
T-N:15、T-P:1mg/L 以下)の実現
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本技術開発では、①処理水槽の工場製品化(FRP 製化)及び構成機器類の少ない単純な処理
方式を開発することにより、どの程度、機器費の低減、仮設工の簡略化や工期の短縮化によ
る建設コストの縮減が可能か明らかにすること、②FRP 材料を農業集落排水施設に用いた新
しい汚水処理方式についての処理性能の検証を主眼とした。
処理方式の比較検討の結果、コスト縮減の可能性(水槽のコンパクト化、構成機器の簡略化
など)及び放流水質規制の今後の動向等から、開発する処理方式を膜分離活性汚泥方式に絞り
込んだ。
また、この処理方式について実証試験機の設計製作を行った。実証試験機は、実用機の最
小規模である 51 人槽とし、実汚水を用いて処理性能の確認を行った。
10.1.2
新技術の概要
本技術開発では、小規模集落向けの安価で処理性能に優れた FRP 製汚水処理システムを構
築した。その概要は次のとおりである。
- 日本農業集落排水協会-S96 型 -
- 地域資源循環技術センター-FM型 -
・安価(建設コスト)
・高性能
・コンパクト
図-10.1 低コストな小規模向け農業集落排水処理施設の概要
① 理対象人口
51 人~700 人
② 理方式及び処理性能
《処理方式》
鉄液添加脱リン法及び循環脱窒法を組み合わせた膜分離活性汚泥方式
《処理性能》
高度処理型であり、排水基準の上乗せ規制地区等にも適用可能である。
(表-10.2)
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表-10.2 流入水質及び処理水質(計画)
(単位:mg/L)
項
目
流入汚水
処理水
BOD
200
5 以下
COD
100
10 以下
SS
200
5 以下
T-N
43
15 以下
T-P
5
1 以下
《処理フロー》
図-10.2 フローシート図
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10.1.3
新技術の特徴
従来の技術と比較した本工法の特徴は以下のとおりである。
(1)建設コストの縮減
表-10.3 従来の処理方式における施設の建設コスト
規
模
100人
200人
400人
700人
一般処理地区(連続流入間欠ばっ気方式:協会-ⅩⅣ 96型)
戸当たりの建設費
(千円)
4,040
2,150
1,210
810
高度処理地区(膜分離活性汚泥方式:協会型膜方式)
4,160
2,230
1,290
880
表-10.4 新処理方式における施設の建設コスト
規
模
100人
戸当たりの建設費
200人
1,600
(千円)
400人
1,010
700人
780
560
注1.建設費は、1戸当たり3.5人として算出。(従来方式も同じ)
2.缶体の運搬上の制約から最大規模は350人/系列。また、維持管理上、汚水の均等分
配に支障のないのは2系列分配まで。したがって、本工法の最大規模は350人/系列
×2系列=700人となる。
3.建設費は、用地費を含んでいない。
(2)高性能な処理方式の実現
表-10.5 実証試験(平成 16 年 8 月~17 年 3 月)における処理性能実績値(平均値)
(mg/L)
実証試験におけ
実証試験におけ
る原水濃度
る処理水実績値
BOD
159
2
5 以下
20 以下
COD
101
7
10 以下
-
SS
117
1
5 以下
50 以下
T-N
40
13
15 以下
-
T-P
3.1
0.3
1 以下
-
項
目
本開発の目標値
従来工法の一般
的処理性能
注:T-P については、浄化槽性能評価試験を 0.5mg/L 以下をクリアしたことから、大臣認
定では、計画処理水質が 0.5mg/L 以下とされた。
(3)品質の向上
水槽を FRP 工場製品化したことにより、従来方式(現場打ちコンクリート造り)より高
い出来形精度を実現。
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10.2
新技術に適合する現場条件
本技術は、処理施設が水源地に隣接又は上流に位置し、高度処理が必要となる中山間地域
等の小規模な農業集落向けに開発されたシステムであるため、下記の条件に適合する農業集
落排水施設に適用が可能である。
・処理対象人口:51 人~700 人
・要求放流水質:BOD
5mg/L 以下
COD 10mg/L 以下
SS
5mg/L 以下
T-N 15mg/L 以下
T-P 0.5mg/L 以下
また、建設コストについても低減を図ったことで、上記水質より緩やかな BOD20mg/L、
SS50mg/L の地区にも適用可能である。
10.3
設計の考え方
本技術を活用した汚水処理施設の設計に当たっては、汚水及び汚泥に係る所定の処理機能
を十分に発揮させることを目的として、安全かつ経済的な施設であって維持管理の容易性に
配慮したものとする。
実際に本技術を農業集落排水施設の設計に適用する場合には、関連する設計指針等を遵守
することが求められる。この設計指針として、「農業集落排水施設設計指針
平成 14 年度改
訂版」(農業集落排水事業諸基準等作成全国検討委員会)、及び国土交通大臣の認定を受けた
浄化槽の型式の設計指針としてまとめた「地域資源循環技術センター-F M 型設計指針」等
が用いられている。
特に、
「地域資源循環技術センター-F M 型設計指針」は本技術を適用した汚水処理施設に
係る設計について原則的な技術基準が定められており、この指針に盛り込まれた設計の考え
方に則して設計をする必要がある。
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10.4
設計のフローチャート
本技術を活用した汚水処理施設の具体的な設計のフローチャートを図-10.3 に示した。
スタート
①汚水処理施設の設計
②機械設備の設計
③建屋の設計
④電気設備の設計
⑤場内整備施設・環境対策等の設計
エンド
図-10.3 設計のフローチャート
10.5 設計に当たっての留意事項
各設計段階における留意事項は以下のとおりである。
(1)汚水処理施設の設計
汚水処理施設そのものについては、対象人口規模ごとに FRP 製品として容量、形状が決
められているので、特に設計の必要性はない。ただし、処理系列が複数となる場合には、
維持管理性に考慮したレイアウトが必要である。
(2)機械設備の設計
(ア)硝化槽ブロアの設計
硝化槽ブロアの設計は膜分離装置における必要空気量により決定される。この必要空
気量は、膜分離装置の膜洗浄に必要な空気量と硝化槽内の生物処理に必要な空気量を検
討し、空気量の多い方を採用することが必要である。
(イ)機械設備における部材及び材質の仕様
本技術に用いる機械設備等の部材及び材質は、工場製品については、標準仕様を定め
ている。その他に FRP 槽周辺設備等については、原則として、「日本農業集落排水協会
型施設機器等標準仕様(案)」を参考にして、適切な選定が必要である。
(3)建屋の設計
(ア)鋼板製ボックスの適用
建家は、これまでの RC 建築物の他に、コスト縮減の観点から工場製品の鋼板製ボッ
クスも適用可能とした。このため、設計時に両者の選択を検討しなければならない。
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(イ)豪雪地帯における処理施設の設計
1mを超えるような積雪が想定される豪雪地帯等に本技術による汚水処理施設を設け
る場合には、缶体上部への積雪荷重や、除雪車の輪荷重を考慮した構造設計とする。ま
た、立地条件等により、除雪が困難な場合には、簡易な上屋の設置も検討する必要があ
る。
(4)電気設備の設計
コスト縮減の観点から、計装機器については必要最小限の適用を設計の基本とした。こ
のため、必要以上に計装機器を設置するような設計は避けるべきである。
(5)場内整備施設・環境対策等の設計
特に留意すべき事項はない。
10.6 設計に必要な各種設計数値の考え方
表-10.6 に設計諸元を示す。この設計諸元については、これらに基づき浄化槽としての大
臣認定を受けているため、実施設における適用に当たっては、遵守することが必要である。
表-10.6 設計諸元と検討結果
設計諸元
処理対象人員(人)
設計数値の考え方
51人~700人
日平均汚水量
270L/人・日
時間最大汚水量
780L/人・日
流入BOD量
60g/人・日
流入COD量
30g/人・日
流入SS量
60g/人・日
流入T-N量
13g/人・日
流入T-P量
1.5g/人・日
農業集落排水事業により整備する農業集落排水施設の
設計に当たって、遵守すべき一般的な事項を定めている
農業集落排水処理施設設計指針(平成14年度改訂版)に
よる。
ばっ気沈砂槽
時間最大汚水量の5分間分以上
必要容量
し渣貯留槽
必要容量
ばっ気式
水中スク スクリーン目幅
リーン
スクリーン
必要面積
し渣発生量の90日分以上
バンチング2mm目径
浄化槽の性能評価試験に基づく、大臣認定の内容。
2
スクリーン1m 当たり、
時間最大汚水量に対し、12m3/m2・時以下
スクリーン洗浄
3
必要空気量 スクリーン底辺部長さ1m当たり6m /m・時以上
必要容量
脱窒反応を効率的に促進させるために必要な容量(5時間
分)と流量調整機能に相当する容量(4時間分)の合計
日平均汚水量の9時間分以上
脱窒槽
処理水のT-N濃度を15mg/L以下にするために必要な循
環比4を保つために必要な量。
循環液ポンプ
日平均汚水量の1/24の5倍
必要移送量
必要容量
硝化槽
硝化槽ブロワ
膜分離装置の散気装置に供給する空気量
必要空気量
生物処理に必要な空気量と膜洗浄に必要な空気量の大
きい方
処理水ポンプ
日平均汚水量の1/24の3倍
必要移送量
想定される汚水の異常流入に対して、十分に対応するた
め。
膜分離装置
消毒槽
放流ポン
プ槽
汚泥濃縮
貯留槽
日平均汚水量の3倍量に対し、
単位膜面積処理水量1.2m3/m2・日以下
-
膜ユニット
1槽に2基以上の膜分離装置を設置
膜分離装置は、定期的に洗浄が必要であり、施設停止す
ることなく、膜洗浄を行えるようにする。
必要容量
日平均汚水量の15分間分以上
浄化槽の性能評価試験に基づく、大臣認定の内容。
必要容量
日平均汚水量の15分間分以上
浄化槽の性能評価試験に基づく、大臣認定の内容。
必要容量
必要注入量
鉄溶液注
入装置
硝化反応を効率的に促進させるために必要な容量(6時間
分)
日平均汚水量の6時間分以上
鉄溶液貯
留槽容量
濃縮汚泥量の7日分に相当する容量の2倍以上
浄化槽の性能評価試験に基づく、大臣認定の内容。
鉄とリンのモル比(Fe/P)=1.0
浄化槽の性能評価試験に基づく、大臣認定の内容。
設計注入量の14日分以上
浄化槽の性能評価試験に基づく、大臣認定の内容。
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10.7 積算の考え方
処理槽本体は FRP 工場製品であり、メーカーの見積りによる。その他については、
「農業集
落排水施設標準積算指針」
(農業集落排水事業諸基準等作成全国検討委員会)等を用いて積算
する。
10.8
参考歩掛・積算
処理槽本体は FRP 工場製品であり、メーカーの見積りによる。その他については、
「農業集
落排水施設標準積算指針」
(農業集落排水事業諸基準等作成全国検討委員会)等を用いて積算
する。
10.9
施工段階の留意事項
FRP はプラスチックの持つ耐食性、軽量性、加工性の良さを残して、同時にガラス繊維を
用いることにより、十分な強度の保持を図ったものである。その反面、衝撃や局部的な集中
荷重に対しては、鉄筋コンクリートと異なり、はるかに弱いので、施工に当たってはその特
質を考慮し、注意深く作業を進めなければならない。
(1)搬入時の検査
FRP 製処理槽は工場で成形し組み立てられたものを、現場に搬入し設置することから、
現場受け入れ時においては入念な検査が必要である。
① 国土交通大臣認可品であること
② 配管等のゆるみ、変形、破損についてチェックを行うこと
③ 隔壁、散気装置、撹拌装置の変形、破損についてチェックを行うこと
④ ねじ類の締め直しを行うこと
⑤ マンホール等付属品についてチェックを行うこと
⑥ 外部の亀裂、厚さの不均等、気泡の発生等製品についてチェックを行うこと
(2)施工
FRP 構造の処理施設については、現場打ちの鉄筋コンクリート構造に比べ工期が短く、
工事も比較的簡易であるが、現地での据付け、配管、埋め戻し等の工事において、槽の
水平の確保や破損等が生じないよう施工管理を十分に行う必要がある。
10.10
設計Q&A
該当なし。
【参考文献】
1)三木秀一、持田悦夫、佐藤進、秋田倫成:低コストな小規模処理方式(センター-FM型)
の開発報告、季刊 JARUS
No.82、平成 17 年 10 月、P.20-25
2)三木秀一、持田悦夫、佐藤進、秋田倫成など:低コストで小規模な FRP 製農業集落排水処
理施設の開発、農業土木学会資源循環研究部会論文集、平成 17 年 12 月、P.69-80
3)社団法人地域資源循環技術センター編集発行:地域資源循環技術センター-FM型設計指
針、平成 17 年 12 月
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