機械的性質の試験・評価方法

プラスチッ 砂寄動特性の
誠験法と評価締果
㌔ ノ
〈〉
安田 武夫*
接触等の諸条件によってかなり広範囲に影響され,ま
2.プラスチックの各種試験法(続き)
た長時問にわたって使用した場合には機械的性質の劣
化も現れる。これらのことはプラスチック以外の材料
2−4.機械的性質の試験・評価方法(1)
2−4一ユ. はじめに
においてもみられるが,プラスチック材料では温湿度
物体に外力を加えると,その外力の種類,方向,大
条件に対しては非常に敏感であり,その許容範囲も金
きさ等,外力のかかり方の諸条件に応じて種々の異な
属と比べて狭いことが特徴である1〕。
った反応(状態)を示す。機械的性質とは・このよう
2−4−2.外力のかかり方と時問的な条件
に物体に外力がかかったときに示す状態の変化(変形,
つぎにこれらの外力が物体に加えられる場合,外力
破壊)に関する性質である。プラスチックを使用して
の加えられる速さ(たとえば引張速度(mm/min)等)
ある製品を作る場合,それぞれの目的に適応した物性
あるいは加えられる期間等,外力のかかり方に関する
をもつ材料が選ぱれる。いずれの場合にも,その材料
時間的な条件により,物体に発生する変形(ひずみ)
はある強さをもち,また必要以上の変形をしないこと
や破壊の状態が異なる・〕。時間的な要因に関連して・外
が要求される。そのため,.その材料のもつ機械的性質
力のかかり方を分類するとつぎのとおりとなる。
(mechanical properties)がその使用目的に合ったも
①一定速度でゆっくり外力が加えられる場合
のであることがまず第1条件となる1〕。
外力がほぼ一定の速さで比較的ゆっくりかけられる
プラスチック材料の機械的性質には,図1に示すよ
場合,材料の静的な機械的性質を知ることができる。
うにいろいろな種類の特性と要因がある2〕。
一般の引張,圧縮・せん断・曲げ,ねじり・硬さ等は
このように各種の特性があるが,いずれも周囲の温
この方法で測定された機械的性質である1〕。
度,湿度,光の照射,水や空気あるいは化学薬品との
②衝撃的に外力がかけられる場合
#Takeo YASUDA,安田ポリマーリサーチ研究所所長
外力がきわめて高速度で短時間に(衝撃的に)かけ
られる場合,材料の動的な機械的性質を知ることがで
〒168−0082東京都杉並区久我山4−27−7
きる。たとえぱ,プラスチックの耐
衝撃特性は,曲げ力あるいは引張力
試片の形状と材質
応力(変形)の種類と様式 鰍則対象
:極 類】 一様 式】 【名 称】
画
巨
匝
定(静的〕
一形
状1 1材
質1
等を瞬間的に高速度で材料に加えら
れたときの抵抗度合を示す機械的性
質である1〕。
(雪卑性率)
(耐衝撃)
③一定の外力が長時問かけられる
(クリーブ破壊)
一定の外力が長時問にわたりかけ
場合
(疲労〕
られる場合,材料の長期的な変形を
測定することにより長時間連続使用
に対する耐久性が推定できる。材料
図1力学的試験法と要因
104
に長時問一定荷重(引張力または圧
プラスチックス
縮力)をかけた場合,材料は時間の経過とともに変形
際に示す挙動(ふるまい)として,プラスチックに関
し続けるが,この現象をクリープ(creep)と呼ぶ1〕。
係あるものには次のようなものがあげられる1〕。
この場合,①の試験で破壊されるより低い荷重で破壊
①弾 性
弾性(elasticity)とは,JIS K6900によれば,「変
することに注意する必要がある。
④外力が周期的に繰り返してかけられる場合
外力が長期的にわたって断続して(周期的に)繰り
形させている力を除くと原寸および原型に回復する特
返してかけられる場合,その材料の長期間的な耐久力
ある。.すべての材料は程度の大小の差はあるが,必ず
(寿命)を推定するために行われる。材料に長時間にわ
弾性をもっている。プラスチック材料の場合,一般に
たり一定の外力を周期的に多数回加え,材料が劣化し
弾性とともに粘性を共有する材料なので厳密な意味で
性」と定義されている彗〕。その代表的な応用例がぱねで
破壊に至るまでの現象を疲れ(fatigue)と呼ぶ1〕。
は弾性は示さない(近似的には弾性を示す)。なお,外
この場合も①の試験で破壊されるより低い荷重で破
力による変形が完全に戻る変形を弾性変形と呼び,弾
壊することに注意する必要がある。
性変形を起こす変形の限界を弾性限界と呼んでい
る1〕。
2−4−3.応力とひずみ
物体に種々の形で外力が加えられと変形を起こし,
②塑 性
ひずみ(Strain)を生ずるとともに外力に対抗する応力
塑性(plasticity)とは,弾性の逆の性質ともいえる。
(StreSS)が発生する。応力とひずみの関係を知ること
JIS K6900によれぱ,「変形応力をその降伏点応力ま
は,この物質の機械的な諸特性を把握するうえでもっ
でまたはそれ以下に減少した後変形したままで残る材
とも重要な手がかりとなる1〕。
料の傾向」と定義されている宣〕。プラスチックという言
物体に外カが加えられた際に生ずる応力とひずみと
葉は,元来この材料が塑性を示す傾向が強いことから
の関係は一般には単純ではなく,いろいろな性質のも
生まれたものであ乱材料が弾性限界を超えると材料
のが複合的に現れることが多いが,これらを基本的に
は次第に塑性変形を起こし,ついには破壊に至る。
分類すると図2のような3種類に要約される1〕。
プラスチック材料の成形加工は,この材料に熱や圧
応力とひずみとの関係を引張カの場合について説明
力を加えて塑性変形を起こさせて所望の形状の製品を
する。図2(a)に示すように長さゐ,断面積λの物体
得る操作である1〕。
に引張力P。を加えた場合,物体には引張応力(tenSile
③粘性および粘弾性
StreSS)としてP・μが発生し,このときの引張力によ
粘性(viscocity)とは,JIS K6900によれば,「材料
って〃。だけ変形(伸び)して,引張ひずみ(tenSi1e
の本体内部で示される定常流に対する抵抗特性」,粘弾
strain)〃o〃oを生ずる。引張応力が働いているときの
性(ViSCOelaStiCity)は,「弾性固体と流動性の粘性流
断面積は,実際にはその原断面積Aよりもいくぶん減
体の組み合せであるかのように挙動する材料の時問,
少しており,さらに破壊時には局部的に著しく小さく
温度,荷重および荷重速度に依存する応力の応答」と
なっている。しかし,応力の値としては,外力をかけ
る前の原断面積λをそのまま使って計算されるのが
定義されている引。
すなわち,粘性は流動体に外力(荷重)を加えて流
普通である。したがって,このよう
にして計算した応力は,厳密には, p。
引張力を受けている各瞬間における
真の値(真の応力と呼ぶ)を示すも
断面横λ
D Dl H
のではないため,真の応力と区別す
。、一→ 刀Hl
るときには“見掛けの応力”と呼ば
A
れる1〕。
匁
2−4−4.外力に対して材料が示す
基本的な性質
材料に外力(荷重)をかけた場合,
その材料はまず一定の変形を起こ
し,さらに外カを増していくとつい
pT
には破壊する。このような外力によ
(a)引張ひずみ
る変形や破壊等材料が外カを受けた
Vol.51,No.7
E1。’
/A/
/
人
断面横λ
PC
(b〕圧縮ひずみ (c〕せん断ひずみ
図2応力とひずみ(変形)の基本的なタイプ
105
動(固体における変形に相当)を起こさせようとする
⑤じん性
とき,これに抵抗する度合を示す性質である。水や油
じん性(toughness)とは,JIS K6900によれば,「エ
は常温において粘性を示すが,プラスチックについて
ネルギーを吸収することができ,一般にもろさのない
も,加えられた外力の大きさや温度条件等に応じて粘
ことの意味を暗に含みかつ破断に至る伸びがかなり大
性流体に似た挙動を示す。
きい材料の特性」と定義されている畠〕。
しかし,プラスチックのような高分子の場合は,粘
じん性の大きい材料は破壊するまでのエネルギー
性の他に弾性も合わせもっているので水や油の流動と
(仕事量)が大きく,弾性隈界を超えても容易に破断す
は大分異なっている。たとえば,つきたての餅をゆっ
ることがない。俗に「腰の強い」材料とはじん性の富
くりと力を与えると変形(流動)を示し,急激な力を
む材料のことである1〕。プラスチックではナイロンや
加えると弾性を示すが,このような粘性と弾性との両
方を兼ね備えてもっ性質を“粘弾性”と呼び,このよ
⑥ぜい性
うな特徴を示すものを粘弾性体と呼んでいる。
じん性とは反対に衝撃に対して弱く,いわゆる「脆
ポリアセタール等のエンプラはこの性質が強い。
プラスチックの粘弾性的性質は,クリープ現象や応
い」性質をぜい性(脆性,brittleness)と呼んでいる。
力緩和現象として現れ,プラスチックの物性を論ずる
一般に材料は低温では脆くなるが,プラスチック材料
うえで重要な問題である。粘弾性体の示す挙動の説明
の場合も一部のものを除けぱ低温では・とくに弱くな
には,スプリングとダッシュポットの組み合せが利用
る。この性質を低温ぜい性と呼んでいる1〕。
される。弾性は外力によってすぐ変形を起こすスプリ
⑦硬 さ
ングをもって表し,粘性は常温のグリースのように粘
硬さ(hardness)とは,JIS K6900によれば,「押込
りの大きい流動体を入れたシリンダ(ダッシュボット)
みまたは引っかきに対する材料の抵抗」と定義されて
内をじわじわ摺動するピストンの動きを表している。
いるヨ㌧材料が外力を受けたときに示す性質の一つで
図3は,スプリングとダッシュポットを組み合わせた
ある1〕。
粘弾性モデルの代表例を示すものである1〕。
⑧剛 性
④延 性
剛性(rigidity)とは,JIS K6900によれば,「曲げ
材料に引張荷重をかけて塑性変形を与え,これを線
に対する抵抗」と定義されている冨〕。
状に引き伸ぱすことができる性質を延性(ducti1ity)と
剛性の大きさは,縦弾性係数(ヤング率)もしくは
いっている。針金は鋼のこのような性質を応用した製
横弾性係数の大きさが目安となる。剛性という言葉は,
品である。一般に延性の高い材料,すなわち・伸びの
たとえぱ,ある物体に曲げ荷重が加えられたときの変
大きな材料ほど構成材料としては信頼性が高いといえ
形のしにくさを表す場合等に使われるが,硬さ(固さ)
る。延性によって破壊する状態を延性破壊と呼ぶ。プ
や強さ等と混同されやすい1〕。
ラスチック材料の破壊は,粘りρある破壊状態を示す
⑨強 さ
延性破壊と,脆くて真っ二つにきれいな破断となるぜ
機械的強さ(mechanical strength)は,前述のよう
い性破壊との2種類がある1〕。
な物体が外力を受けたときに種々の諸性質を総合し
て,これを概念的に表したものとい
える。プラスチックでは,短時問荷
重ををかけたときの強さより長時間
荷重ををかけたときに示される強さ
の方がいっそう重要である1〕。
このような外力に対し,プラスチ
ックは以下のような挙動を示す。し
たがって,プラスチックを使用する
際はつぎのような点を考えて設計,
製作しなけれぱならない。
①温度による物性の変化が激し
い4〕。
{a)弾性1モデル (b)粘性モデル (c〕マックスウェル (d) 7オークト
(e)4要素体系
{ぱね〕 {ダッシュポット〕 の粘弾性モデル の粘弾性モテル
の粘弾性モデル
図3粘弾性をモデル化した説明
106
これは,有機材料の宿命とも考え
られるから,プラスチック材料によ
プラスチックス
って便用温度の差異はあるが,温度の高い場所,また
いるものは本章(2〕の①の短時間の試験値であるから,
は発熱を呼ぶような使用方法は避けるべきである。
長時間の連続使用の場合にはその値もかなり異なるも
のであることを十分認識する必要がある1〕。
②クリープが起こりやすい。
荷重を加えて放置すると,クリープが起こりやすい。
②試験片の数値と製品における数値との相違
とくに熱可塑性樹脂は,鎖状高分子であり,クリープ
変形が大きい。誘起双極子で結合されているボリエチ
材料メーカーのカタログや各種文献類に示されてい
る特性値の数値は,前記のような各種規格や試験方法
レン,ポリプロピレンはクリープが激しい。水素結合
に基づいて一定形状寸法の試験片を使用して温度,湿
により結ばれているボリアセタール,ボリカーボネー
度その他の条件を一定にして試験して得たものであ
ト,変性ポリフェニレンエーテル等は熱可塑性樹脂で
る。したがって,これらの設定条件が異なる場合はも
はクリープが少ない。
ちろんのこと,試験する材料の形状寸法が変われば得
③一般に衝撃強度が弱いものが多い。
られる数値はかなり変わってくる。よって,所定の主
衝撃を加えると折れるか曲がりやすいものがある。
題の試験研究発表論文における特性値をみる場合に
ポリエチレン,ポリプロピレンのように曲がりやすい
は,この点には特に注意を要する1〕。これらの測定値は
もの,AS樹脂のように機械的強度は相当強いが,硬質
あくまでも試験片で得られた値であり,実際の製品か
で割れやすいもの等がある。
ら取り出した値とは異なることに注意する必要があ
エンプラと呼ばれるナイロン(ポリアミド),ポリカ
ーボネート,ポリアセタール等は衝撃に強い。
2−4−5.機械的特性値の見方
以前に述べたように,プラスチック材料の特性は温
度,湿度,光の照射等の周囲条件により著しい影響を
受けるが,この他外力のかかり方,成形あるいは加エ
る。
③平均値が示されているか,最低値なのか
材料メーカーのカタログや各種文献類の特性値は,
弓1張荷重測定装置
(ロードセル)
試験片
法の相違やこれに伴なう諸条件の違いによって得られ
た特性値はかなりの開きがある。ことに機械的諸特性
試験片
保持具
においては成形加工法やその他諸条件の影響が大き
(チャック〕
い。したがって,いろいろな特性値を材料メーカーの
クロスヘッドの
上下動用回転ス
クリュ
カタログや文献等でみる場合には,ただそこに示され
ている数値だけですぐに判断せずに,上記のような各
種の条件を十分に頭に入れ,示されている数値の実質
を正しく把握することが大切である1〕。
特性値をみる場合,一般的につぎのようなことを確
クロスヘッド
↓
(…1) 峰)
図4引張試験装置の概念’,
認する必要がある。
①どうレニう規格に基づき試験され
た特性値なのか
試験片の形状,寸法,作り方(成
形加工条件を含めて),試験前の予備
処理(乾燥,調湿あるし)は熱処理),
試験機の種類,荷重のかけ方(荷重
の大きさ,荷重速度),試験前の温湿
?σ月
{
暑
〕σ岬
只σ}
控
誰σE
示σp
度条件等一連の試験条件に違いのあ
る場合には,示された数値だけをも
って簡単に比較することはきわめて
危険である。したがって,どのよう
な規格あるいは試験方法に基づいて
O.2% ひずみ
弾性ひずみ
(a〕軟 鋼 (b〕非鉄金屈
出された数値であるかよく確認する
σp:比例限度, σE:弾性限度, σ,。:上降伏点, σZ:破断強さ
ことが大切である。
σ}11下降伏点, σo.望:O.2%耐力. σ圃:弓1張強さ,
また,一般のカタログに示されて
Vo1.51,No.7
図5金属材料の引張応力一ひずみ曲線(模式図〕引
107
多くの場合その材料で得られる平均値をもって示され
時の強さ(tensi1estrength),あるいはその他の条件下
ることが多い。しかし,場合によっては最低値が示さ
における引張応力(tensilestress),それと対応する伸
れていることもあるので,この点についてどのような
び(e1ongation)等によって表されている。
性質の数値が示されているかを注意する必要があ
この引張特性は熱硬化性樹脂材料のように剛性の大
きく,脆いプラスチックでは引張特性はあまり重要視
る1〕。
2−4−6.引張特性
されていない。これは熱硬化性樹脂では強化ポリエス
①引張特性の概要
テル樹脂材料(FRPと省略)等一部のものを除いて顕
引張特性は,一般に材料の機械的性質のうちもっと
著な弾性的な挙動を示さず,熱可塑性樹脂材料に比べ
も代表的なものの一つであり,図4のように一定の寸
て一般にじん性が少なく,いわゆる粘り気の少ない材
法・形状の試験片の両端に外カ(引張荷重)を加えて,
料で,引張荷重に対しても変形量もきわめて少ないこ
その材料が破壊するまでの応力とひずみの関係によっ
とのよるものである。これに対して,熱可塑性樹脂材
て表される機械的性質である。引張特性は材料の破断
料は,じん性が高く(いわゆるタフな材料)引張特性
700
600
600
500
グレードポリアセタールコボリマー 20℃Ml・
ぐ
昌o 500
「M90(ジュラコン)」
\
協
』〕 400
R
ズ
…400
試験片ASTM1形(3㎜厚)
温 度20℃
、烏
標点間 50mm(エクステンソメータ使用〕
R控
一
遼 度10mmノ㎡n
慢 300終
一
〕茗OO
壁200
肺
12.7
200
口
工oo
{、。。㎜二一十H
ユoo
o
o
O l0 20 30 40 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.O
引張ひずみ〔%〕 引張ひずみ(%〕
(a) (b)
図7
阿ワ ギ1】ア杉々一ルfrギnマー、例…ヨ1顯…床十1一ハギ五曲虫自6〕
ポリアセタール(コポリマー)の引張応力一ひずみ曲線6〕
1,500
ABS樹脂
300
。20℃
5.O
試験片:射出成形シート
(厚さ2mm〕
抜き荷重速度:2.5mm/min
蜆 4.O
昌
冒
セ200
x35℃
一20℃
引張速度11.1㎜/min
x 80℃
X
1oo℃
協
塙
き
当
) 3.O
只
慢
只
僅
誰
壁
巾 2,O
示100
^ 1,OOO
昌
x
(ガ磯維)
協
と
長
摸
壁
血 500
AS樹脂
(ガ潔維)
ユ.O
5 5 5
O 0 5 10 ユ5
永久ひずみ量
図6
O.5 1 1,5
伸び(%〕
0 1 2 3 4
ひずみ〔%〕
ポリプロピレンの引張応力に対する
図8 フェノール樹脂の各温度における
図9ガラス繊維強化スチレン系樹脂の
引張応力一ひずみ曲線1〕
引張応力一ひずみ曲線η
ひずみ回復曲線瑚
108
ひずみ(%)
プラスチックス
応力一ひずみ曲線図を作成し,その曲線の変化により
はかなり重要視されている1〕。
しかし,一般に便われている引張特性はいわゆる常
判断す乱応力一ひずみ曲線の形状は,試験特性の種
温における「短時間特性」であり,きわめて短い時間
類や試験材料によりそれぞれ異なることはもちろんで
に外力をかけた場合の応力や変形量を扱っている1〕。
あるが,温湿度条件や試験速度等の試験条件によって
②引張応力とひずみの関係
物体に外力を加えた際に発生する応力とひずみとの
関係を知るには・一定形状の試験片に外力を加え・各
400
ポりプ〃ンω・
昌
500
倶
控
為
ど
R邊
贈
200
400
100
ABS(B)
ABS
ボリプロピレン(A)
ll (B)
〃 (C〕
試験片1舳成形シー1(厚さ2m)
18(%)
300
200
高密度ポリエチレン
総
12(%〕
實
、夢莞
30皿
島
と
ABS(A)
x(B〕
〆・〕
耐衝撃性ポリスチレン
瞬問におけるひずみとこれに対応する応カを測定し,
600
ポリブロピレン(B)
60(%)
O lO0 200 300 400 700 800
ひずみ(%〕
(超高衝撃性)
図11ボリプロピレンとその他の樹脂の引張応力一
ユoo
ひずみ曲線11〕
ひずみ速度:50mm/min
試験片:ASTMダンベル1号
0123456789工0
ひずみ(%)
図10ABS樹脂の引張応力一
ひずみ曲線図m〕
降伏点強さ670k敏ノcm;
昌
降伏点630kgf/cm…
破断強さ
665山670k敏ノcm…
冒
為
協
ど
只
僅
瞳
寺
(比例限度280k鋲/cm里〕
×
只
娃
幾
(比例限度280kgf/cm2〕
ノリ’レ731(23℃)
l0 20 30 40 50 60
図12ポリカーポネート
0 10 20 30 40 50 60 70 80 g0100 の引張応力一ひずみ
ひ ず み(%〕
曲線帥
ひずみ{%〕
図13変性PPE(ノリル)の引張応カーひず
み曲線帥
昌
豊
R摸
騨
ひずみ(伸ぴ,%)
A 型
B型 C型 D型
E 型
歎らかく
硬くて脆 硬くて強い 軟らかくて強靱
粘リ強い強靱
脆い材料
い材料 材料 な(粘い〕材料
な材料
図14材料の引張応力一ひずみ曲線の代表的なタイプ
Vo1.5ユ,No.7
109
表1引張応力一ひずみ曲線図によるプラスチックの分類
特 徴
分類
A
B
曲線のタイプ
軟らかくて脆い
硬くて脆い
引張
引張
弾性率
強さ
小
小
大
大
あてはまるプラスチックの例
伸 び
その他
〔高分子の軟らかいゲル,チーズ状材料〕
中
降伏点の前で破
小
断する
一般用ポリスチレン
アクリル樹脂
フェノール樹脂(木粉充損)
硬質塩化ビニル樹脂,AS樹脂
C
硬くて強い
大
大
中
降伏点付近で破
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(ポリカーボネ
断する
一ト,スチレン系樹脂など〕
ガラス繊維強化ポリエステル樹脂(FRP)
軟質塩化ビニル樹脂
D
軟らかくてねばり
小
中
強い
中
中・大
大
降伏点が低く,
大
カーブは平堰
低密度ポリエチレン
ABS樹脂,ふっ素樹脂
ポリプロピレン
高密度ポリエチレン
〔軟鋼〕
E
硬くてねぱり強い
(強靭)
大
大
大
降伏強さが大き
ABS樹脂,耐衝撃性ポリスチレン
い
アセタール樹脂,ポリアミド樹脂(ナイロン)
ポリカーボネート,酢酸セルロース
を越えE点は弾性限界で,この点までは引張荷重を取
も異なるユ〕。
a)金属材料の応力一ひずみ曲線
り除くとひずみは完全に回復し残留ひず社は警らな
プラスチック材料の応力一ひずみ曲線について述べ
い。E点を過ぎると以後は塑性変形に移り,荷重の増加
る前に,理解を容易にするため,応力一ひずみ曲線の
とともに急速にひずみ(伸び)が増大し,降伏点(σ洲,
代表的なものである金属材料の引張応力一ひずみ曲線
σ刎)からは材料はずるずると伸び,M点で引張応力が
についてまず説明する。図5(a)は軟鋼の引張応力一
ひずみ曲線の一例である。材料の荷重を上げていくと,
最大となり,Z点で遂に破壊する。M点の応力(σ〃)が
それに対応してひずみ(伸び)が増加するがはじめの
る。図5(b)は,銅,アルミニウム等の非鉄金属に対す
うちは応力とひずみは一定の比例関係を保ち,応力一
る応力一ひずみ曲線で軟鋼のような明らかな降伏点
ひずみ曲線は比例限度P点まで直線状となる。この点
(応力一ひずみ曲線の屈曲点)は認められない1〕。
この材料の引張強さ,Z点の応力(σ互)が破断強さとな
XlO’
X1〇一
●
5
冒
5
冒
昌 4
帥
一
量
只
邊
〕 3
盤
蟻
墜
理
粥替
轄
害ち
2
綾
1
051015202530
ひずみ(%〕
0
竃巷替
滋
畦
塑
融
叢
■30−m m ;O;07090110130 −30−10 10 ;0 50 利 !0 100130
温度{℃〕 温度(℃〕
図15 ボリアセタール(ホモポリマー)と各温
(a) (b)
度における引張応力一ひずみ曲線
図16ナイロン(ポリアミド樹脂〕の縦弾性係数と温度との関係
110
プラスチ’ツクス
b)プラスチック材料の応力一ひずみ曲線の特徴
前述のようにプラスチックは粘弾性挙動の顕著な材
に伸びは次第に増加するが,反対に破断時の引張強さ
は小さくなる。また周囲温度が低い場合には,この逆
料であるため,金属材料とは異なり,ほとんどの場合,
になるが,あまり低い温度では脆くなってすみやかに
荷重を加えた初期の段階においても,その応力一ひず
破断してしまう。温度の上昇により引張強さ,あるい
み曲線は比例関係を示さず,明確な弾性限度(残留ひ
俸降伏強さが低下するとともに弾性率も当然低下す
る。これは高温において外力に対して変形しやすくな
ずみの発生しない限度)は認められない1〕。たとえば,
ポリプロピレンにいろいろな大きさの引張荷重を加え
ることを意味するものである。
てひずみ(伸び)を発生させた後,ただちに荷重を取
このように引張特性は,周囲温度によって著しく影
り去ってひずみ回復線図を描くと,図6のように引張
響を受けるが,ポリアミド樹脂(ナイロン)のように
応力がごく小さく,ひずみが小さい問は,ほぽ全量の
吸湿性が大きい材料ではその吸水率(吸湿率)によっ
ひずみが回復するが,さらに引張応力を増してひずみ
ても影響を受ける。図16に示すように,絶乾状態(含
が大きくなっていくと・次第に回復が困難となり,残
水率:O%)のものと比べると,吸湿したものは大気中
留ひずみが発生する。このような残留ひずみは,金属
平衡水分(周囲の大気と平衡するだけ水分を吸収させ
材料においても発生するが,プラスチックは,応力が
たもの)あるいは水中飽和水分(水中に一定時間浸漬
金属の場合よりはるかに小さい段階においても完全な
して飽和状態まで吸水させたもの)のいずれの場合も,
弾性挙動を示さないので,応力一ひずみ曲線は直線と
試験温度の上昇とともに弾性係数が著しく低下し,変
はならない。図7(a)は・ポリアセタールの引張一応カ
形に対する抵抗が少なくなっていることがわかる。
曲線であるが,荷重を加えた初期の段階においても,
引張特性は,プラスチック材料の機械的性質の代表
図(b)のように,曲線は湾曲している。この傾向はす
的特性項目とみられている。
べてのプラスチック材料に共通であって,図8,9に示
次回は,引張特性の試験法および各種材料の比較等
すようにフェノール樹脂あるいはガラス繊維強化スチ
の機械的性質について述べたい。
レン系プラスチックのような硬く,脆いプラスチック
では・応力一ひずみ曲線の初期段階でほぽ直線状にみ
<参考文献〉
えるものもある。しかし,多くのプラスチックは図10
1)「成形加工技術老のためのプラスチック物性入門」廣恵章利,
∼13に示すように応力の増加とともに急速に伸びが
本吉正信共著,日刊工業新聞社,昭和47年発行
進行する。
図14に各種材料の応力一ひずみ曲線の代表的タイ
プを示す。つぎに,表1に図14に示した曲線の各タイ
プに属するプラスチックの代表例を示す5〕。
図15に示すようにプラスチック材料(ここではポリ
アセタール)は,その周囲温度が高くなるほど,一般
Vo工.51,No.7
2)「高分子材料の試験法と評価」,高分子学会編,培風館,昭和55
隼11月初版発行
3)JIS K6900−1994(プラスチックー用語)
4)桜内雄二郎,「新版プラスチック材料読本」、工業調査会,1998
年4月1日,新版4刷発行
5)「成形加工技術者のためのプラスチック物性入門」廣恵章利,
本吉正信共著,日刊工業新聞社、昭和47年発行
ユ11