市場競争と仲介メディア ブライダル業界におけるゼクシィの役割から考察

 市場競争と仲介メディア ~ブライダル業界におけるゼクシィの役割から考察~ 指導教員名:水越康介准教授 氏名:工藤友里恵 枚数:21 枚 1
【目次】 第一章 序論 ......................................................................................................................... 3
第二章 逆転の競争戦略 ....................................................................................................... 3
2-1 リーダーと 3 タイプの競争業者 ............................................................................... 3
2-2 挑戦者の戦略 ............................................................................................................ 4
2-3 侵入者の戦略 ............................................................................................................ 5
2-4 業界破壊者の戦略 ..................................................................................................... 5
2-5 リーダーの戦略 ........................................................................................................ 6
2-6 まとめ ....................................................................................................................... 7
第三章 異業種格闘技 .......................................................................................................... 7
3-1 異業種格闘技とは ..................................................................................................... 7
3-2 異業種格闘技が多発する理由 ................................................................................... 7
3-3 事業連鎖 ................................................................................................................... 8
3-4 ビジネスモデル ....................................................................................................... 11
3-5 まとめ ..................................................................................................................... 12
第四章 問題提起 ............................................................................................................... 12
第五章 事例研究 ............................................................................................................... 13
5-1 ブライダル業界におけるプレイヤー ...................................................................... 13
5-1-1 ホテル .............................................................................................................. 13
5-1-2 専門式場 .......................................................................................................... 14
5-1-3 レストラン ...................................................................................................... 14
5-1-4 ゲストハウス ................................................................................................... 15
5-2 ブライダル業界の歴史的推移 ................................................................................. 15
5-2-1 ブライダル業界成立期 .................................................................................... 15
5-2-2 ゼクシィ登場期 ............................................................................................... 16
5-2-3 ゼクシィ定着後 ............................................................................................... 17
5-2-4 現在 ................................................................................................................. 17
5-3 考察 ........................................................................................................................ 18
第六章 結論 ....................................................................................................................... 20
【参考文献】 ....................................................................................................................... 21
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第一章 序論 近年、事業者と顧客の間にたち、プラットフォームとして両者をつなぐメディアが定着
してきた。事業者には集客力を提供し、顧客には意思決定の際の情報を提供するものであ
る。このメディアのおかげで、顧客は意思決定の際、選択肢が増えた事例も多い。 本論文の目的は、市場競争において、そういった仲介メディアの役割をどう捉えるべき
か、明らかにすることである。そのために、リーダー企業に他プレイヤーが攻撃を仕掛け
る形である山田(2007)による競争戦略と、事業連鎖とビジネスモデルに注目した内田(2009)
による競争戦略についての先行研究を行う。両者の違いをとらえたうえで、ブライダル業
界における結婚情報誌であるゼクシィの役割を事例として取り上げ、考察していく。 第二章 逆転の競争戦略 2-1 リーダーと 3 タイプの競争業者 山田(2007)は、リーダー企業を、「特定の事業において、顧客から相互に競争をしてい
ると認知される企業の中で最大のマーケット・シェアをもつ企業(山田、2007、46 頁)。」
と定義し、リーダー企業は競争業者の追撃の標的にされる運命にあると述べる。そして、
リーダーがその地位から転落したケースを集めて分析し、リーダー企業を脅かす競争業者
を、挑戦者、侵入者、業界破壊者の 3 タイプに分類した(山田、2007、49 頁)。 挑戦者とは、
「当該業界において、リーダー企業を攻撃してくる企業(山田、2007、56 頁)。」
と定義され、トヨタに対する日産、花王に対するライオン、P&G、リーバ・ジャパンなどが
これにあたる(山田、2007、56-57 頁)。 侵入者とは、「他の業界から当該業界に参入して、リーダー企業を攻撃してくる企業(山
田、2007、51 頁)。」と定義される。挑戦の武器として、リーダー企業の属する業界とは異
種の経営資源(マーケティング力、技術力、生産力など)をもって、他業界から参入して
くるケースであり、その企業の本籍である業界から見た場合、異業種企業、元買い手企業、
元供給者、ユーザーの 4 つのうちのどれかである場合が多い(山田、2007、118 頁)。 業界破壊者とは、
「代替品・サービスによって、業界そのものを破壊してくる企業(山田、
2007、51 頁)。」と定義され、その業界に「参入して」リーダー企業を攻撃してくるのでは
なく、その業界の外から、業界そのものを破壊してくる企業のことを指す(山田、2007、
51 頁)。 山田(2007)は、これらの競争業者 4 タイプを、ガン保険のリーダー企業であるアメリ
カンファミリー生命保険会社(以下 AFLAC と略す)を例に取り上げている(山田、2007、
59 頁)。 AFLAC の挑戦者は、同業他社の中にいる。ガン保険は、以前は規制により、日本の大手生
保は単独では販売できなかったため、外資系のチューリッヒ生命やアリコ・ジャパンなど
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が競合企業であった。 次に、侵入者は、2000 年の第三分野(生保でも損保でもない分野。ガン保険はこの範疇
に入る)への日本大手の参入解禁により参入してきた日本生命、東京海上日動あんしん生
命などがあげられる。両者ともに強い営業力を誇るが、日本生命の場合は、生保業界一位
でもあり、国の規制緩和を受けて、「参入せざるをえない」状況であった。 最後に業界破壊者は、医薬品会社や医療検査会社があげられる。ガンの特効薬が生まれ
れば、ガン保険は加入者が減少することに加え、DNA 検査などにより、ガンになる確率が正
確に予想できるようになれば、保険というビジネスが成り立たなくなる。保険は「確率」
だからビジネスになるのであり、それが「確実」になった瞬間、ビジネスではなくなって
しまうのである。 このように、AFLAC を攻撃しようとする競争企業は、単に生命保険業界にとどまらず、思
わぬところからやってくることが理解できる。これら 3 タイプの競争業者は仕掛けてくる
場所が違う以上、攻撃の仕方もそれぞれ違うのである。 2-2 挑戦者の戦略 挑戦者は、
「当該業界において、リーダー企業を攻撃してくる企業(山田、2007、56 頁)。」
と定義されるが、同じ業界において下位企業(挑戦者)がもっている経営資源は、リーダ
ー企業に比べて質・量共に劣る場合が多い。したがってリーダーと全くレベルの違う技術
を開発することは難しく、また以前からその業界にいるため、業界のルールから大幅には
ずれたマーケティング政策も採りにくい。きわだった攻撃の武器がないがゆえに、一層頭
を使ったリーダー攻撃の施策が必要となる(山田、2007、158 頁)。 山田(2007)は、リーダーが追随しにくい戦略について、企業資産の負債化、市場資産
の負債化、論理の自縛化、事業の共喰化、の 4 つをあげている(山田、2007、181-183 頁)。 まず、企業資産の負債化とは、組み換えの難しい企業資産(ヒト、モノ、カネ、情報等)
および企業グループが保有する資産(系列店、代理店、営業職員等)が、競争上、価値を
もたなくなるような製品・サービスやマネジメント・システムを開発することによって、
リーダーを攻撃する戦略である(山田、2007、181 頁)。 次に、市場資産の負債化とは、リーダー企業の製品・サービスを購入してきたユーザー・
サイドに蓄積され、組み換えの難しい資産(ソフトウェア、スペアパーツ等)が競争上、
価値をもたなくなるような製品・サービスやマネジメント・システムを開発することによ
って、リーダーを攻撃する戦略である(山田、2007、181-183 頁)。 そして、論理の自縛化とは、これまでリーダー企業がユーザーに対して発信していた論
理と矛盾するような製品・サービスを出すことによって、安易に追随すると大きなイメー
ジダウンを引き起こすのではないかと、リーダー企業内に不協和を引き起こす戦略である
(山田、2007、183 頁)。 4
最後に、事業の共喰化とは、リーダーが強みとしてきた製品・サービスと共喰い関係に
あるような製品・サービスを出すことによって、リーダー企業内に追随すべきか否かの不
協和を引き起こす戦略である(山田、2007、183 頁)。 山田(2007)によると、以上の 4 つの戦略は、同業内の挑戦者にとっての有効な戦略と
言えるが、先に述べた侵入者にとっても、彼らの競争上の武器と、この 4 つ戦略のいずれ
かが組み合わさった場合には、きわめて鋭い攻撃が可能である。 2-3 侵入者の戦略 侵入者とは、「他の業界から当該業界に参入して、リーダー企業を攻撃してくる企業(山
田、2007、51 頁)。」と定義されており、過去の事例から、川上企業(元供給業者)、川下企
業(元買い手企業)、隣接業界(異業種企業)、ユーザーが参入してくる事例が多い(山田、
2007、118 頁)。 まず、川上企業である原料や材料を供給していた業者は、その工程を完成品に近づける
ことによって侵入者になり得る。このような場合、「お客様の領域に参入する」ことによる
現場への影響を考え断念するケースが多いが、技術等で優位性をもつ企業の場合には参入
する場合がある(山田、2007、118 頁)。 川下企業である元買い手企業は、生産財の場合、利用技術はユーザー側に蓄積され、先
発的なユーザーは生産技術力も高いことから、自ら外販にも参入する事例が多い。一方消
費財の場合では、消費者に最も近い小売業がプライベート・ブランド品を開発し、メーカ
ー品と競合している例が多く見受けられる(山田、2007、119-120 頁)。 市場・技術の各方面で隣接業界の企業は、侵入者になりやすい。特に事業成功の鍵が異
なるような業界から侵入した場合には、当該業界のリーダー企業にとっては、後述する「悪
い競争業者」になる可能性が高い(山田、2007、120 頁)。 最後に、ユーザーはこれまでその製品・サービスを購入・利用してきたこともあり、製
品・サービスの不備な点を熟知している。業界に長くいる企業にとっては当たり前のこと
が、ユーザーにとっては、全く非常識であることも少なくない(山田、2007、122 頁)。 山田(2007)は、業界にある暗黙のルールを無視した価格設定をしたり、ルールをはず
れた超大型投資をして侵入するような、競争ルールをわきまえない「悪い競争業者」にな
るべきだと述べる(山田、2007、125 頁)。 2-4 業界破壊者の戦略 業界破壊者とは、
「代替品・サービスによって、業界そのものを破壊してくる企業(山田、
2007、51 頁)。」と定義されている。その業界に「参入して」リーダー企業を攻撃するので
はなく、その業界の外から、業界そのものを破壊してくる企業である。彼らの戦略は、後
述する、内田(2009)の述べる消費者が何に対してお金を払っているのかを考えて戦略を
とる考えと似ている。 5
例えば、かつてレコード針を購入していた人は、「針」そのものが欲しかったわけではな
く、「レコードを再生する」ために針を買っていたのである。「レコードを再生する」とい
う機能をさらに上位の機能で考えれば、「音楽を聴く」という機能があげられる。より手軽
にいい音で音楽が聴けるのであれば、わざわざ針でレコードを引っ掻く必要はない。より
上位の機能に対応した CD の登場により、レコード針は不要となったのである。さらには、
インターネットによる音楽配信や CS デジタル放送、さらには弦楽四重奏団の出前といった
ビジネスも、CD の敵となりえるのである(山田、2007、104 頁)。 2-5 リーダーの戦略 リーダー企業は、挑戦者、侵入者、業界破壊者という競争業者に攻撃されながらも、長
期的な発展のためには、自ら能動的な戦略を立案・実施していかなくてはならない。山田
(2007)は、ジレンマに陥らないようなリーダーの戦略について、事業ドメインで機能を
定義する、潜在的競合企業を明確にする、先にしかける、自己否定要素の隔離、新たな競
争要因を見つける、の 5 つを示している(山田、2007、222-236 頁)。 まず、事業ドメインを機能で定義する理由は、自社の事業を“モノ”で定義していると、
特に業界破壊者が登場した時に、リーダー企業は自らの首を絞めてしまうからである。例
えば、米国タワーレコードは、自らを「CD 販売業」と考えていたために、音楽配信が普及
するにつれ、売り上げが急減し、倒産を余儀なくされた(山田、2007、222 頁)。 潜在的競合企業を明確にする理由は、目の前に見えている競合企業だけを見ていると、
他業界から突然競争をしかけてくる競合企業に足元をすくわれかねないからである。顕在
的競合は毎日の営業活動を通じてもわかるが、潜在的競合企業は、きちんと意識しておか
ないと、気づいた時には手遅れになってしまう(山田、2007、224 頁)。 競争戦略やマーケティングの分野では、先発優位か後発優位かという議論がなされてき
たが、リーダー企業にとって、自社が追随しにくい戦略を先にチャレンジャーに打たれ、
それに対応するために後手に回ることは望ましいとはいえない。後手に回ると、一般的に
は先発者よりも打ち手に制約が多くなる。そのため、先にしかけることは極めて重要であ
るといえる(山田、2007、225 頁)。 社員間でのコミュニケーションが良い日本において、自分の隣に座っている技術者を“不
要”にしてしまう技術を開発することは、色々な支障もある。そのため、現在の主力事業
を否定するような技術や事業を開発する場合には、当事者同士が直接顔を合わせないよう
な工夫が必要であるということが、自己否定要素の隔離である(山田、2007、229 頁)。 最後に、非連続技術革新、ユーザーの価値観の変化、法律・制度の変化は競争環境を変
えるが、それらを待っているだけでなく、リーダー企業自らが新たな競争要因を作りだし、
見つけ出していくことも必要である、と山田(2007)は述べる。 6
2-6 まとめ 競合企業に対して優位でいるために、競争業者は「持てるものの弱み」「持たざるものの
強み」を生かしたリーダー企業が追随しづらい戦略をたて、リーダーは、そのジレンマに
陥らない戦略をたてなくてはならない。そのために、自分の立ち位置を理解し、立場ごと
に効果的な方法をとらなければならない。本章ではプレイヤーを挑戦者、侵入者、業界破
壊者、リーダーにわけてひもといてきた。 山田(2007)によると、この議論の課題は、「業界」という概念がないがゆえに、プレイ
ヤーを重視して競争を考えている点である。というのも、業界とはもともと過去の区分で
あり、現在および将来を規定する概念ではないからである。例えばリクルート、ぴあ、サ
ンリオ、楽天などは、そもそも「既存業界」がない(山田、2007、44-46 頁)。 「リーダーとは決して安泰な地位ではなく、むしろあらゆる企業から標的とされるリス
キーなポジションである」「リーダーは、その競争優位の源泉から転落が始まる」「リーダ
ーが追随しにくい戦略こそが、逆転を狙うチャレンジャー企業の戦略である」ということ
が、数多くの事例研究から明らかになっており、それをふまえたうえでの戦略をたてるべ
きである(山田、2007、238 頁)。 第三章 異業種格闘技 3-1 異業種格闘技とは 内田(2009)によると、これまで競争相手とは考えられなかった相手と戦う局面が、成
熟する市場のなかで増えてきているという。異なるバックグラウンドを持つ企業が、異な
るルールで、同じ顧客や市場を奪い合う競争を内田(2009)は、「異業種格闘技」と名付け
た。内田(2009)によると、こうした新しいタイプの競争である異業種格闘技は、これま
での競争戦略では説明できない。なぜなら、従来の競争戦略は、「同じ業界内での競争」を
前提としていて、そこで起きる新規参入や取引先との力関係などを説明したものだからで
ある(内田、2009、3 頁)。 内田(2009)は、異業種格闘技を読み解くために、新しいコンセプトとして「事業連鎖」
を取り上げている。事業連鎖は、従来のバリューチェーンの上位概念であるが、製品や事
業をまたがる、より広い事業間のかかわりを記述している。それを考えることで、異業種
格闘技がどこで起こるか、どんな競争相手が登場してくるか、どこに自社のチャンスがあ
るかを理解し、さらに、
「ビジネスモデル」を考えることで、どんな戦いになるのかを示す。 3-2 異業種格闘技が多発する理由 内田(2009)によると、異業種格闘技はこれまでもあったにもかかわらず、ここ 5~10
年ほどで圧倒的に増えている。その背景には、日本経済の成熟化と情報通信技術の発達と
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いう 2 つの環境変化が挙げられる(内田、2009、47 頁) いわゆる生産年齢人口は、2007 年をピークに減少していて、既にその傾向は 10 年以上変
わらない。総人口も、2006 年をピークに下がり続けている。成熟した国には成熟した国な
りの戦いがあるといえるが、現在の日本は、その過渡期であるがゆえに企業がいろいろな
課題に直面しているといえる。成長しない業界で企業が成長するには、
「競争相手をつぶす」
という選択肢もあるが、それは簡単な話ではなく、「新しい事業を始める」あるいは「新し
い市場に進出する」ことを考える企業は多い(内田、2009、48-49 頁)。 栗木・水越・吉田(2013)は、国内市場の伸び悩みを受け、戦略の見直しは避けて通る
ことのできない課題であり、その成長と生き残りをかけて考えうる進路は「拡張型アプロ
ーチ」と「深耕型アプローチ」の 2 つであると述べる(栗木他、2013、14 頁)。 栗木他(2013)は、「拡散型アプローチとは、今ある自社の市場の外部に新たな成長分野
を見いだすというアプローチである(栗木他、2013、14 頁)。」と定義している。海外市場
に進出する例が代表的である。しかし、内田(2009)によると、新たに進出した市場も、
すでに他社が手掛けている事業や市場である場合がほとんどであるという(内田、2009、
48-49 頁)。 栗木他(2013)は、深耕型アプローチを「今ある市場に潜む変化の芽(潜在性)を見い
だす(栗木他、2013、14 頁)。」と定義している。内田(2009)の述べる異業種格闘技はこ
の深耕型アプローチであり、避けて通ることの出来ない道であるといえる。 もうひとつのポイントは、「情報革命の進展」である。インターネットや携帯電話などの
通信技術やコンピューター技術が発達することで、世の中が大きく変わってくると同時に、
企業のあり方や競争のスタイルまでもが変わってきている(内田、2009、54 頁)。 内田(2009)によると、インターネットと携帯電話の発達が、消費者の購買行動を大き
く変えた。楽天やアマゾンが普及することで、これまではネットで買うことのなかったも
のも、どんどんネットで移行している。たとえば、観光地などでしか手に入らなかった地
方の名産品なども、ネット上で購入できるようになった。消費者の行動が変われば、企業
のあり方や戦い方も変わらざるをえない。成功した企業ほど、外圧からの攻撃を受けやす
く、非常に壊れやすい状況になっている。そして、そうした大企業とは異なる生き物であ
るベンチャー企業が台頭し、異なるルール、異なるコスト構造で戦いを仕掛けてくる(内
田、2009、54-55 頁)。 3-3 事業連鎖 異業種格闘技がどこで起こるか、どんな競争相手が登場してくるか、さらにはどのあた
りに自社にとってのチャンスがありそうかを知るために、カメラ業界について時系列で整
理したうえで、事業連鎖の要素の変化を考察する(内田、2009、64 頁)。 「カメラ」といえば、現在ではほとんどがデジタルカメラであるが、かつては多くがフ
ィルムを使ったカメラであった。しかし、カメラで撮ったフィルムそのままでは写真にな
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らず、まず、ネガフィルムをつくる「現像」工程が必要で、次にフィルムの映像を印画紙
に焼き付けて見られるようにする「焼き付け」という処理が必要になる。消費者はこうし
てできた写真を現像所(あるいは、その取次店)で受け取って、アルバムなどにして貼っ
て保存し、鑑賞していた。 内田(2009)によると、カメラ市場で起きた最初の変化は、レンズ付きフィルム、いわ
ゆる「使い捨てカメラ」の登場である。使い捨てカメラの登場によって、フィルムとカメ
ラが一体化した。もっと気軽にたくさんの写真を撮ってもらおうと発案された商品であり、
フィルムメーカーにとって使い捨てカメラは非常に理にかなった戦略である一方で、カメ
ラメーカーにとっては難しい問題であった。使い捨てカメラに需要が移れば、普通のカメ
ラを使う頻度が減り、カメラが売れなくなる、あるいは買い替えのサイクルが長くなるか
らである(内田、2009、65-66 頁)。 次に起きた変化は、ミニラボの登場である。撮影したフィルムを短時間で現像・焼き付
けしてくれるサービスである。かつて、街のたばこ店、菓子店、クリーニング店がフィル
ムを取り次いでくれていたが、そこでは現像をしておらず、取次店からフィルムを回収し、
現像所でまとめて現像、焼き付けまでやっていた。当時は現像機が大きく、街中に置くこ
とができなかったからである(内田、2009、66-67 頁)。 しかし、和歌山県にあるノーリツ鋼機という会社が、現像と焼き付けが同時にできる自
動化マシンを開発した。それにより、現像する値段を 1 桁以上安くすることが出来、機械
のサイズも 2 畳ほどのスペースがあれば設置できる程度で、誰でも簡単に操作することが
できるようになった。こうして、わざわざフィルムを集めて回収しなくても、街中の写真
店にそのマシンを置くことで、その場で現像できるようになった(内田、2009、67 頁)。 そして、次の変化はデジタルカメラの登場である。記録媒体であるフィルムがメモリー
カードになったのだ。カメラは、それまでの光学機械式から光学エレクトロニクスに、つ
まり電気製品になった。デジタルカメラは、撮影した瞬間に液晶画面で画像を確認できる
ため、思い通りの構図で撮れているか、ピントが合っていたか、色調は大丈夫かなどがそ
の場でわかるがゆえに、現像をする必要がなくなったのである。さらに焼き付けも、自宅
のカラープリンターが使われるようになったことで、これまで写真とはまったく関係のな
かった巨大市場が生まれた。最近では、デジタルカメラを使うことであまりにも気軽に写
真が撮ることができ、大量に保存できるようになったため、必ずしもすべてをプリントし
ない消費者も増えてきている。このように、デジタルカメラの登場によって、事業連鎖が
大きく変わった(内田、2009、68-70 頁)。 デジタルカメラの広がりとほぼ並行して、携帯電話で写真を撮るということも当たり前
になった。いまや、デジタルカメラ並みの画素数のカメラ機能が付いた携帯電話も多い。
ここで携帯電話のカメラは、純粋にデジタルカメラに置き換わるというよりは、「メモの変
わりに写真を撮る」といった、これまでのカメラにはなかった使い方を生み出した。この
場合、カメラの画素数はあまり問題ではなく、携帯電話で送るにはかえって大容量ではな
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い方が助かる。また、友達に送ったら、保存さえもせず、その場で画像データを消してし
まうような使い方も増えている。写真は、撮影して、焼き付け、アルバムに保存すること
で価値があるとされてきたが、写真を撮ることの意味も変化してきたのである(内田、2009、
70-71 頁)。 このカメラ市場で起きた変化を、事業連鎖のなかにあるそれぞれの要素において、どの
ような変化が起きたのかといった見方で整理する。 内田(2009)は、以下の 5 パターンを、業界のなかでこれまでに起きた変化や、いま起
きている変化、あるいはこれから起こるかもしれない変化を見極めていくための有用な視
点であると述べる(内田、2009、72-75 頁)。 (1)置き換え ある要素が別の要素に置き換わっていくのが「置き換え」である。 カメラ業界では、記録媒体である「フィルム」が「メモリーカード」に、撮影機器の「カ
メラ」が「デジタルカメラ」や「カメラ付き携帯電話」に置き換わった。また、「取次店と
現像所」が「ミニラボ」に、さらには「家庭用カラープリンター」に置き換わった。 置き換えが起こった場合、置き換える側の企業にとってはチャンスであるが、置き換え
られる側の企業にとっては一大事である。カメラメーカーにとって、フィルムカメラから
デジタルカメラへのきりかえは非常に難しい判断であっただろうと内田(2009)は述べる
(内田、2009、72-73 頁)。 (2)省略 フィルムカメラでは、撮影した画像(写真)を見るために「現像」と「焼き付け」とい
う 2 つのプロセスが必要であったが、デジタルカメラの登場によって「現像」は不要に、
場合によっては「焼き付け」も不要となった。 このように「省略」が起こると、いままで当たり前のようにあった要素が不要となって
しまい、そこで稼いでいた企業は、これまでのビジネスを続けていくことが困難になる(内
田、2009、73 頁)。 (3)束ねる いままで 2 つ以上に別れていた機能が、1 つに束ねられてしまうケースである。 カメラ業界の場合、「レンズ付きフィルム」の登場によって「フィルム」と「カメラ」が
ひとつに束ねられ、「ミニラボ」の登場によって、「取次店」と「現像所」とのやりとりが
「ミニラボのあるお店」一か所で済むようになった。「束ねる」という変化は、消費者にと
っては非常に便利である一方、束ねられる側の企業にとってはたいへんであり、これまで
のビジネスを続けていくことが困難になる。しかし、逆にいえば、そこには新しいビジネ
スチャンスが生まれていることになる(内田、2009、73-74 頁)。 (4)選択肢の広がり これまで 1 つしかなかった機能が、いくつにも分かれていくケースである。 たとえば、かつて、撮影した画像は写真に焼いて保存する、アルバムに貼って鑑賞する
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といった程度であったが、いまではそれに加えて、パソコンやテレビで見たり、ウェブに
載せたりすることもできる。これによって、デジタルフォトフレームという商品が誕生す
るなど、新しい市場の機会が生まれることも多い(内田、2009、74 頁)。 (5)追加 これまでになかった新しい機能が加わることを指す。 写真でいえば、「送付」という機能である。カメラ付き携帯電話機の登場で、撮った画像
データをそのままメールに添付して送るということもできるようになった(内田、2009、
75 頁)。 内田(2009)は、これらの事業連鎖を正しく捉えることで、自社を巻き込んで起こるで
あろう事業再構築や業界融合といった動き、そこから予見される脅威やビジネスチャンス
をつかむことができると述べる(内田、2009、4 頁)。 3-4 ビジネスモデル 内田(2009)は、ビジネスモデルを考えることで、異業種格闘技がどんな戦いになるの
かを知ることが出来ると述べる。ここでは、ビジネスモデルを「顧客に、ある価値を提供
するときの手段と儲けの仕組み(内田、2009、76 頁)。」と定義したうえで、ビジネスモデ
ルの見方を示す。 かつて、競争相手が同業他社であれば、儲けの仕組みはおおよそ同じものであり、いか
にして低コストで運営して利益をだし、売れ残りをなくすかがポイントであった。しかし
今は、同じようなビジネスをやっていても、儲けの仕組みが違うケースが多数ある(内田、
2009、76 頁)。 内田(2009)は、ビジネスモデルの構成要素としては、顧客に提供する価値、儲けの仕
組み、競争優位性の持続、の 3 つであると述べる。これらをふまえ、中古車市場において
のガリバーの活躍を整理していく。 中古車市場は、実は新車市場と比べ遜色ないほどの大きな市場であるにもかかわらず、
規模の大きな会社が存在しなかった(内田、2009、77 頁)。なぜなら、中古車を売る機会は、
多い人でも一生のうちに 2,3 回しかなく、売る側(消費者)がド素人であるのに対し、買
う側(中古車販売会社)は毎日中古車を扱っているプロであり、そこに差があったからで
あると考えられる。そうした市場に参入したのがガリバーである。 ガリバーは、「お客様が車を売るときのお手伝いをします」とかかげ、非常にユニークな
ビジネスモデルを持ちこんでいる。単純に中古車を買い取り、売るのではなく、お客さん
から買い取った中古車を、「他のプロの中古車販売業者に売ってあげる」ことをビジネスに
したのである。 ガリバーが顧客に提供する価値は、透明度の高い価格付け、査定に加え、市場価格での
高額買い取りである。今まで、中古車販売会社に中古車を売る際、価格についての疑問や
不満をもっていた顧客は安心して買い取ってもらうことができるようになった。 11
ガリバーの儲けの仕組みは、他の中古車販売会社に売った価格と買い取り価格の差であ
り、これは手数料に相当する。 従来の中古車販売会社とガイバーのビジネスモデルの比較を表にすると以下のようにな
る。 顧客価値 儲けの仕組み 競争優位性 ガリバーのビジネスモデル 従来のビジネスモデル ・これまでの中古車買い取りに不信・
・不透明な価格付け(業者ごとに、新車購入の
不満を抱く一般消費者がターゲット 有無よりバラバラ) ・透明度の高い価格付け・査定 ・販売価格と買取価格の乖離 ・高額買取 ・店に入りにくい ・利益=市場価格-買取価格 ・利益=販売価格-買取価格-在庫コスト =実質手数料(8 万~12 万) ・買取価格が安いほど儲かる ・市場価格の査定能力 ・経営者の目利き能力 ・ガラス張りの価格付け ・交渉力(規模が効かない) ・全国展開によるスケールメリット 内田 2009 年、81 頁より筆者作成 以上をみると、既存の中古車販売会社に比べ、ガリバーが、いかに消費者にとって受け
入れやすいものであったかがわかる。 3-5 まとめ 内田(2009)は主に、時系列で、業界全体の動きをとらえている。 事業連鎖と言う製品や事業をまたがる、広い意味での事業間の関わりを理解することで、
自社を巻き込んで起こり得る事業再構築や業界融合といった動き、そこから予見される脅
威やビジネスチャンスをつかむことができる。そしてビジネスモデルを考えることで、異
業種格闘技がどんな戦いになるのかを理解することができる。それをふまえて、競争を勝
ち抜くためには、新しい競争のルールを作りだすことが重要である。 第四章 問題提起 第二章、第三章では、山田(2007)と内田(2009)による、2 つの競争戦略の考え方につ
いての先行研究を行った。 ここで注目すべき点は 2 点ある。 1 点目は、時代が違うことある。山田(2007)の理論は情報革命以前に主張されており、
消費者行動が AIDMA モデルであった。石井・廣田(2009)によると、AIDMA モデルとは、製
12
品それ自体を知らない未知な段階から、製品の認知、理解、革新、行為という段階を踏む
仮定において、Attention、Interest、Desire、Memory、Action、の頭文字をとったもので
ある(石井・廣田、2009、122 頁)。一方内田(2009)は、異業種格闘技が起こる原因の 1
つに、情報革命を考慮にいれている。情報革命により、インターネットで簡単に製品の情
報を得られるようになった。ゆえに、消費者は事前に製品情報を調べてから製品購入を検
討しているうえでの競争であると言える。この場合の消費者行動は AISAS モデルであると
考えられる。石井・廣田(2009)によると、AISAS モデルとは、Attention、Interest、Search、
Action、Share、の頭文字で、電通が発表し、追加されたモデルである(石井・廣田、2009、
122 頁)。 もう 1 点は、山田(2007)がプレイヤーに視点をおき競争戦略をとらえている一方で、
内田(2009)は業界全体の変化に視点をおいている点である。 これらの違いをふまえたうえで、仲介メディアの役割は市場競争にどのように影響して
いるのか、ブライダル業界とゼクシィを事例として取り上げ、考察していく。 第五章 事例研究 本章では、まず山田(2007)の理論の考察を見据え、競争業者であるプレイヤーを整理
し、次に内田(2009)の理論の考察のためにブライダル業界の歴史的推移を示す。それら
をふまえて考察を行う。 5-1 ブライダル業界におけるプレイヤー ゼクシィ結婚トレンド調査 2013 において披露宴・披露パーティ会場の上位4つであるホ
テル、専門式場、レストラン、ゲストハウスの 4 プレイヤーについて整理する(『ゼクシィ 結婚トレンド調査 2013 首都圏』2013 年 10 月 17 日、94 頁)。 5-1-1 ホテル 粂(2008)によると、ホテルでの婚礼は、明治時代から上流階級の人々によって行われ
ていたが、一般的になったのは昭和 40 年代のことである。婚礼による売り上げはホテルの
総売り上げのほぼ四分の一を占めると言われており、ホテル経営においてブライダル事業
は非常に重要な位置にあるといえる。近年人気を集めているハウスウエディングに比べ、
堅苦しくどれも同じように見えると言われることが多いため、ウエディング・プランナー
を置いて、オリジナリティに溢れる結婚式を提案するホテルも増えてきた。 ホテルの強みは、さまざまな施設・設備が整っていることである。結婚式の前後に招待
客が寛ぐことのできるカフェやバーがある、トイレや駐車場の数が十分にある、招待客用
の控室や着替え室が確保できる、といった特徴はホテルならではである。さらに、宿泊施
13
設があり、遠方からの招待客が多いカップルには大きなメリットとなる。また、さまざま
な宴会場があり、少人数ウエディングから大規模披露宴にまで対応できる。日取りに関し
ても、希望通りの会場を比較的簡単に押さえることができることも魅力である。さらに、
婚礼のノウハウが蓄積されており、料理や飲み物などのサービスがスムーズであること、
進行にも手落ちが少ないこと、ドアマンやフロントなど宴会に関係ないスタッフも充実し、
行き届いたサービスが受けられることなども魅力としてあげられる(粂、2008、28-29 頁)。 5-1-2 専門式場 粂(2008)によると、専門式場での婚礼は、昭和六年に目黒雅叙園がオープンしたこと
が走りだと言われている。当時上流階級の結婚式で主流であった、神社などで挙式した後
料亭やホテルに移動し食事会をするといったスタイルを見た目黒雅叙園の創設者である細
川力蔵氏が、挙式も食事会も一つの場所で行えるようにと開業した。 専門式場は、その規模や経営母体によっていくつかの種類に分けることができる。1 つは、
レストランやカフェなどを併設し、複数の宴会場を有する総合結婚式場。もう 1 つは、冠
婚葬祭互助会系の会場。冠婚葬祭互助会とは、毎月一定の掛け金を一定期間積み立てるこ
とにより、結婚式や葬式などが格安で行えるシステムで、このシステムを取り扱う会社に
よって式場が運営されている。この他、地域密着の小規模式場もある。 専門式場の魅力は、結婚式に特化しており、結婚式用の内装や小物関係が整えられてい
ること、準備から進行まで一貫して任せることができること、結婚式に関するノウハウが
蓄積されていることである。現在、ゲストハウスに近い専門式場が増えてきており、専門
式場とゲストハウスの境界があやふやになりつつある。そんな中、このままゲストハウス
と同化するのか、専門式場としての存在を示すのか、専門式場は 2 つに分かれていると言
える(粂、2008、30-31 頁)。 5-1-3 レストラン 粂(2008)によると、結婚式の会場としてレストランが注目を集めたのは 1990 年代のこ
とである。それまでのホテルや専門式場で行われる型にはまった結婚式に疑問を持つカッ
プルが、オリジナリティ溢れる結婚式を求めた結果、おしゃれな雰囲気で美味しい料理が
食べられるレストランでのウエディングに目を付けた。料理の美味しさと雰囲気の良さが
魅力のレストランウエディングであるが、レストランの構造が難点になっている。もとも
と結婚式を想定して作られたものではないため、トイレが少なかったり、どの席からも障
害物なしで新郎新婦が見られるレイアウトではなかったり、演出に制限が出る場合がある
など、不都合な点がいくつか存在する。しかし、一度に大きな売り上げが見込める結婚式
は、レストランにとっても魅力的な市場である。そこで、レストランでも結婚式に対応で
きるよう、最近は最初から結婚式を行うことを前提として建設することが多くなった。 レストランウエディングの最大の強みはやはり料理である。結婚式において料理を重視
14
するカップルは多い。また、結婚年齢が上昇するにつれ、新郎新婦や招待客も舌が肥え、
味が自慢のレストランでの結婚式の需要が増えてきている。そのため、最近では、平日や
ランチだけレストランとして営業し、土・日・祝日はゲストハウスとして営業する、レス
トランとゲストハウスの中間に位置する店も出現している。ある程度の規模を持つレスト
ランは、結婚式も見据えた営業展開をしていくことになりそうである(粂、2008、34-35 頁)。 5-1-4 ゲストハウス ゲストハウスウエディングとは、欧米型の庭付き邸宅を建て、そこを結婚するカップル
の自宅に見立てて、貸し切り利用できるスタイルである。1997 年に、東京都立川市に開業
したルーデンス立川ウエディングビレッジがハウスウエディングの先駆けである(週刊東
洋経済、2012 年 8 月 25 日、71 頁)。 大聖堂のチャペルを中心に広がるヨーロッパの街づくりを参考にして、独立したバンケ
ットが建つゲストハウスは、ホテルや専門式場のロビーで複数の花嫁がすれ違うという課
題を解決し、プライベート空間を貸し切ってウエディングを行なうという新しいスタイル
を確立した。その後どんどん支持を得て、現在では地域によってはホテルを逆転し、3 割以
上のシェアを獲得しているケースもみられるほど浸透している(『ウエディングエミィ』、
2012 年 11 月 3 日、2013 年 10 月 16 日閲覧)。 5-2 ブライダル業界の歴史的推移 次に、ブライダル業界の歴史的推移について、ブライダル業界成立期、ゼクシィ登場期、
ゼクシィ定着後、現在の 4 段階にわけて整理していく。 5-2-1 ブライダル業界成立期 ブライダル業界の成立のはしりは、明治時代、西洋の写真撮影技術を学んだ写真館が、
結婚の記念に夫婦を撮影するようになったことが起源とされている。第二次大戦前の 1930
年代には 70%以上がお見合い結婚であり、その時代、釣書と呼ばれる身上書(プロフィール
データ)とお見合い写真しか相手を知る材料がなかったため、特に女性にとってこのお見合
い写真にかける情熱は並々ならぬものがあった(『ウエディングエミィ』、2012 年 11 月 3 日、
2013 年 10 月 16 日閲覧)。 やがて結婚式場には「写場(しゃじょう)」と呼ばれる写真スタジオが併設されるように
なり、1970 年代以降、ホテルでの婚礼が増えたことから、街で人気の写真館が、ホテル内
に写場を構えるようになった。写真館と美容室の提携ビジネスとして始まったブライダル
業界であるが、やがて神社(日比谷大神宮・現在の東京大神宮)で挙式したあと、帝国ホテ
ルで披露パーティを行なうスタイルがセレブの間で流行し、ホテルウエディングの創始と
されている(『ウエディングエミィ』、2012 年 11 月 3 日、2013 年 10 月 16 日閲覧)。 1980 年代の結婚式の形式は「ハデ婚」と言われる、お金をかけて派手な演出をする結婚
15
式が主流であった。というのも、まだ男女雇用機会均等法が出来たばかりであったため、
「女
性の幸せは、いい結婚をすること」という価値感が強かったからであると考えられる(『東
洋経済オンライン』、2013 年 5 月 28 日、2014 年 1 月 16 日閲覧) 当時、結婚の決まったカップルは親に結婚を報告すると、親の指示でホテルか専門の結
婚式場に行かされて、式場選びは両家両親の意向で決められていた。ゆえに、当時は、客
の自由などをまったく聞き入れないホテルや結婚式場の都合優先による婚礼プランをすべ
ての客に押しつけていて、さらにそれらの価格は全て定価で受け入れられていた。どれも
進行が全く同じで、招待された者が「面白くないしもう飽きた」と思うような披露宴にな
ってしまっていた(『週刊東洋経済』、2012 年 8 月 25 日、70-71 頁)。 5-2-2 ゼクシィ登場期 現在でも約 3 割の結婚式シェアを有するホテルが、結婚式に本腰を入れてビジネス展開
するようになったのは 1990 年代前半のことである。そして 1993 年 5 月 24 日、
「ゼクシィ」
が創刊される(『日本経済新聞』、1993 年 3 月 17 日、5 頁)。ゼクシィとは株式会社リクル
ートマーケティングパートナーズが発行する結婚情報誌である。首都圏版から地域を拡大
し、現在では鳥取・島根・沖縄県を除いて全国を制覇している。ゼクシィが発売された 1993
年は、
「ブライダル革命」と言われるほど、業界を激変させた(週刊東洋経済、2012 年 8 月
25 日、70 頁)。 バブル崩壊により結婚するカップルが以前のように来なくなり、ホテルや結婚専門式場
は困り果てていた。そんな時、ゼクシィは結婚式と披露宴の料金見積もり“比較表”の提
出を義務付けた。結婚式が高額商品として貢献率の高かったホテルは、一斉に掲載を拒否
し、創刊直後の業界評価は大変低かった(週刊東洋経済、2012 年 8 月 25 日、70 頁)。 しかしゼクシィはゲストにじわじわ支持されていく。従来、結婚式場を決めるためには、
わざわざ駅前や百貨店にある婚礼専用カウンターに出かけ、エージェントから接客を受け
ながら比べなければならなかった。それが、自宅で誰にも会わず、好きな時間に式場を比
較検討できるようになったからである。また、ゼクシィはゲスト側で一番気になる「おカ
ネ」の問題を公にしただけではなく、式をあげるためのノウハウを雑誌に掲載したことも、
部数を上げることにつながった。最後までゼクシィへの広告掲載を拒否していたホテル各
社も、しだいに「ゼクシィに広告を出さねば客は来ない」との印象を持つようになった。
なぜなら、旧来のブライダル業界といえば、各地、ローカルでそれぞれすみ分けていたた
め、外のノウハウを持つ企業が参入するとは夢にも思わなかったからである。ゆえに、リ
クルートの戦略に対する免疫がなく、受け入れざるを得ない環境であった(週刊東洋経済、
2012 年 8 月 25 日、70 頁)。 ゼクシィが定着すると同時に、結婚式のスタイルが劇的に変化する。 16
5-2-3 ゼクシィ定着後 テレビ番組「料理の鉄人」の影響もあり、結婚式の料理にこだわる新郎新婦が増え、自
由度の高いオリジナルウエディングを行なえるレストランウエディングブームが到来した。
そしてこのレストランウエディングの自由度、プライベート性と、専門式場のノウハウを
結集したゲストハウスウエディングが生まれた(『ウエディングエミィ』、2012 年 11 月 3 日、
2013 年 10 月 16 日閲覧)。 ゲストハウスウエディングは、1997 年に誕生してから10年間で全国へ瞬く間に広がっ
た。ハ ウ ス ウ エ デ ィ ン グ の 普 及 と と も に 頭 角 を 現 し た の が 、テ イ ク ア ン ド ギ ヴ・ニ
ーズをはじめとする、新興のブライダル勢力である。テイクアンドギヴ・ニーズ
は 現 在 で も ゼ ク シ ィ 最 大 の 広 告 主 で あ る(週刊東洋経済、2012 年 8 月 25 日、71 頁)。 5-2-4 現在 費用をつぎこみ大勢のゲストを招待していた 1980 年代の「ハデ婚」、演出を控えたり披
露宴を開かなかったりという 1990 年代の「ジミ婚」のブームを経て、2000 年代に入るとゲ
ストハウスウエディングが伸長し、現在では志向が二極化している。女性の社会進出など
で初婚年齢が高まり、演出や料理の細部にこだわって費用をかけるカップルが増加してい
る一方、結婚式をあげない「なし婚」層も増加しているのである(『日本経済新聞朝刊』、
2010 年 9 月 18 日、13 頁)。 また、ゼクシィに限らずブライダル情報を提供する媒体が増え、さらにはインターネッ
トの普及により、利用者のニーズが実店舗での結婚式場選びに移行をする動きもある(『日
経産業新聞』、2013 年 4 月 23 日、15 頁)。 顧客の絶対数が減少しているブライダル市場で、今後どういった戦略をとって
い く か は 、 ブ ラ イ ダ ル 業 界 で の 避 け ら れ な い 課 題 で あ る 。 最後に、首都圏における披露宴・披露パーティ会場について、ホテル、専門式場、レス
トラン、ゲストハウスの割合の推移を示したグラフが以下のものである。 50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
専門式場 ゲストハウス レストラン 1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
%
ホテル 『ゼクシィ結婚トレンド調査』2008-2013 より筆者作成 17
グラフより、ゼクシィが定着してきたと思われる 2002-2003 年頃からゲストハウスが勢
力を大きくのばしていて、ホテルは減少傾向にあることがわかる。 近年専門式場の割合が増えているが、これは、専門式場がゲストハウスのノウハウを取
り入れ、同化しつつあることが関係していると筆者は考える(粂、2008、30-31 頁)。晩婚
化が進み、多少高くてもこだわりを重視する傾向の強い、経済的に余裕のある三十代の「こ
だわり婚」層が、ゲストハウスやホテルから専門式場へシフトしているのではないだろう
か。 いずれにせよ、ブライダル業界の競争において、ゼクシィが影響を与えていることは間
違いない。 5-3 考察 ブライダル業界の歴史を辿ると、ゼクシィ登場以前と登場後において、業界で大きな変
化が起きているといえる。ゼクシィ登場以前は、歴史あるホテルや専門式場が会場主体の
結婚式を提案していたが、ゼクシィ登場によって、ブライダル業界において「人を集める
ために広告を出す」という概念と、「自分たちだけのオリジナルな結婚式」という概念が誕
生した。 ある程度知られたホテルや専門式場なら、わざわざゼクシィの広告を見なくても、顧客
は直接ホテルや式場に行く。しかし、新規開拓のゲストハウスは知名度が全くなく、広告
を出さなければほとんど顧客は来ない状況であった。そこで彼らは、「ゼクシィを利用し
て結婚するカップルを集めるにはどうすればいいか」を徹底研究した。ホテルや結婚式場
では出せない、青い緑のガーデン、白い大邸宅、プールの写真を撮影し、ゼクシィに広告
を出したのである(週刊東洋経済、2012 年 8 月 25 日、71 頁)。ゼクシィのような集客の
手段が生まれていなければ、ゲストハウスはここまで広がっていなかったといえる。 また、ブライダルジュエリー事業を行う株式会社シーマでは、事業のリスクのうちの 1
つにおいて、単一の結婚情報誌による集客が全体の半分を占めているため、同媒体の動向
によっては業績に影響を受ける可能性があると公言している(『株式会社シーマ有価証券報
告書』、2013 年、19 期、11 頁)。ゆえに、ブライダル関連の事業を行う企業にとって、いか
にゼクシィが影響を及ぼしているかがわかる。 ここで、山田(2007)が提唱する 4 つの競争業者のタイプに、ブライダル業界をあては
めて考える。ホテルはリーダー、専門式場は挑戦者、レストランは侵入者、そしてゲスト
ハウスは挑戦者であるといえる。ホテルの強みである、結婚式の前後に招待客が寛ぐこと
のできるカフェやバーがあり、招待客用の控室や着替え室が確保できるという、設備が整
っているが故の、他の客もいるという点を弱みとして、ゲストハウスは「貸し切りで行う
ことができる」ことを生かし、リーダーであるホテルを攻撃した。 近年増えている「なし婚」層をすくいあげるのが、「写真だけの結婚式」施設を展開する
BUA 東京である(『日経流通新聞』、2005 年 8 月 22 日、11 頁)。BUA 東京の運営する BlessUsAll
18
では、1 万円で、正装をしてヘアメイクと記念写真を撮ることができる(BlessUsAll HP、
2013 年 1 月 22 日閲覧)。このように、
「結婚式を挙げない」層を支援する企業は、業界破壊
者といえるだろう。 ここで、ゼクシィは業界に大きな影響を与えたにもかかわらず、山田(2007)の提唱す
る競争戦略の理論に考慮されていないことが問題であると筆者は考える。 沼上(2008)は、ポーター(1995)が提唱した 5 つの競争要因である、新規参入の脅威、
代替製品の脅威、顧客の交渉力、供給業者の交渉力、競争業者間の敵対関係に、補完財の
支援と脅威を加えた 6 つの競争要因を考えるべきだと述べている(沼上、2008、216-217 頁)。
補完財とは、競争相手とは対極にあり、自社の製品の価値を高めてくれる企業や人をさす。 ゆえに、ゼクシィはブライダル業界において補完財の役割を果たしていると考え、山田
(2007)の議論では、補完財が足りないと考えられる。 続いて、内田(2009)が述べる、事業連鎖の要素の変化とビジネスモデルに沿ってブラ
イダル業界を考察する。 まず、事業連鎖について、ブライダル業界を、内田(2009)の述べる置き換え、省略、
束ねる、選択肢の広がり、追加、の 5 つの視点によってひもとくと、あてはまる事業連鎖
の変化は、置き換え、省略、選択肢の広がりである。 ゼクシィの登場によって、結婚式駅前や百貨店にある婚礼専用カウンターに出かけ、エ
ージェントから接客を受けながら式場を比べることから、自宅でゼクシィを見ながら比較
検討する、といったように置き換わった。 省略については、近年「結婚式での周囲への結婚報告」をしないなし婚層が増加してい
ることが挙げられる。BUA 東京に代表されるような、「式を挙げずにすませる」サービスを
提供する企業も現れている。 ゼクシィ結婚トレンド調査 2013 によると、「親や親族、友人などに感謝の気持ちを伝え
たい」という理由で披露宴をあげる割合が年々増加傾向にあることから、貸し切りのゲス
トハウスにおいて、ゲストへおもてなしやサプライズをするオリジナルな結婚式が増加し
ていることは、選択肢の広がりといえるだろう(『ゼクシィ 結婚トレンド調査 2013 首都
圏』、2013 年 10 月 17 日、479 頁)。 次に、ビジネスモデルの変化を考える。 顧客価値 儲けの仕組み 競争優位性 ゲストハウスウエディングの 従来のホテル・専門式場の ビジネスモデル ビジネスモデル ・
「貸し切り結婚式」という形で結婚の報
・ホテルや専門式場の都合優先による婚礼プ
告ができる。 ラン、進行が同じような披露宴。 ・挙式費用-広告量 ・挙式費用 ・貸切であるがゆえのオリジナルな結婚
・顧客は親の指示で式場を選ぶため、歴史の
式を挙げることが可能。 あるところに人は集まる。 内田 2009 年、81 頁より筆者作成 19
ブライダル業界を、ゼクシィ創刊後のゲストハウスウエディング、創刊前のホテル・専
門式場ウエディングのビジネスモデルを比較すると上図のようになる。 注目したいところは、儲けの仕組みについてであり、ゼクシィ登場以前は結婚式を挙げ
る費用がそのまま利益であったと言える。しかしゼクシィ登場によって、ブライダル業界
の企業も広告で集客するようになったため、挙式費用から広告収入をひいたものが利益に
なったと考えられる。 沼上(2008)は、補完財までを含めた分析において、補完財とセットにした製品規格と
して他の製品規格とどのような競争関係にあるのかを分析するべきと述べている(沼上、
2008、218 頁)。ブライダル業界の儲けの仕組みが広告ありきになったことは、この理論と
も合致して考えることができている。 以上のように事業連鎖にブライダル業界の変化をあてはめると、ゼクシィ登場によって
の業界の変化を読み解くことが出来、矛盾は生じない。 第六章 結論 先行研究をもとに、考察では、ブライダル業界の競争においての両社の見解を確認した
ところ、山田(2007)の理論においては、リーダー企業、挑戦者、侵入者、業界破壊者加
え、補完財の存在も考慮に入れて考えるべきだという結論が導かれた。内田(2009)の理
論では、補完財の存在を考慮に入れても事業連鎖の変化とビジネスモデルについて合致し
ていた。 では、なぜ補完財であるゼクシィはここまで業界に定着したのであろうか。それは、ゼ
クシィは「ブライダル業界全体」に貢献しているからであると考えられる。ゼクシィのビ
ジネスモデルが広告収入であり、「ゼクシィに広告をだしてくれている企業の集客」をする
ために注力している。2013 年 2 月からは、結婚式場の社員などの接客レベルを「覆面調査」
するサービスを始めた。式場の経営者などから依頼を受けた上で調査し、顧客サービス向
上を支援する。そして調査リポートをもとに式場の強みや改善点を分析している(『日経流
通新聞』、2013 年 1 月 21 日、11 頁)。これは結婚式場の接客サービス向上につながり、結
婚式場に貢献している。このように、ゼクシィは、ブライダル業界の競争者に支援してい
るため、業界全体と共存できているのである。 ブライダル業界においてのゼクシィのように、業界にとっては補完財に成りえるメディ
アは数多く存在している。昨今、競争業者は、いかにして補完財を利用し、使いこなせる
かが業績を伸ばすカギとなっていると言える。補完財の存在は、競争業者、消費者、両者
にとって有益なものであってほしい。 20
【参考文献】 石井淳蔵・廣田章光(2009)『1からのマーケティング』碩学舎。 内田和成(2009)『異業種競争戦略』日本経済新聞出版社。 粂美奈子(2008)『図解入門業界研究最新ブライダル業界の動向とカラクリがよーくわかる
本』秀和システム。 栗木契・水越康介・吉田満梨(2013)『マ―ケティング・リフレーミング』有斐閣。 沼上幹(2008)『わかりやすいマーケティング戦略』有斐閣アルマ。 ポーター,M.E.(1995)『競争の戦略』ダイヤモンド社。 山田英夫(2007)『逆転の競争戦略』生産性出版。 柳信幸(2012)「独り勝ち『ゼクシィ』商法の光と影」『週刊東洋経済』第 6410 号、70-72
頁。 『株式会社シーマ有価証券報告書』2013 年、19 期、11 頁。 『ゼクシィ 結婚トレンド調査 2008』2008 年 10 月 29 日、3 頁。 『ゼクシィ 結婚トレンド調査 2013 首都圏』2013 年 10 月 17 日、94 頁、479 頁。 『日経産業新聞』1993 年 3 月 17 日、5 頁。 『日経流通新聞』2013 年 1 月 21 日、11 頁。 『日経流通新聞』2005 年 8 月 22 日、11 頁。 『日本経済新聞朝刊』2010 年 9 月 18 日、13 頁。 『日経産業新聞』2013 年 4 月 23 日、15 頁。 『ウエディングエミィ』http://emmy.wedding-job.com/ 、2013 年 10 月 16 日閲覧。 『東洋経済オンライン』http://toyokeizai.net/articles/-/14084 、2013 年 1 月 16 日閲
覧。 『BlessUsAll』http://www.chapel-blessusall.com/、2013 年 1 月 21 日閲覧。 21