営業秘密による発明の保護とその限界

営業秘密による発明の保護とその限界
-特許法との対比において-
岩 坪
哲
1.緒言
本テーマは2006年12月に甲南大学法科大学院併設企業法務研究所による連続研
究講義の一環として著者が担当した研究報告テーマである。不正競争防止法による発明
の保護と特許法によるそれとを対比し、要件論、効果論の実践的分析を踏まえて両者の
功罪について探ることを目的に、上記の連続研究講義が実施された。
従って、本稿においては、不正競争防止法上の営業秘密保護法制を俯瞰した後、その
要件論、効果論、更に研究されるべき理論的実務的問題点を明らかにしたい。
2.保護対象
不正競争防止法は「発明」の定義規定を持たない。唯、
「この法律において『営業秘密』
とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上
の情報又は営業上の情報であって、公然知られていないものをいう。」との2条6項を
有するのみである。
これに対し、特許法上、発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度
なもの」と定義されている(2条1項)
。
両者の保護対象にはズレがあることが分かる。不正競争防止法は技術上の営業秘密の
保護対象を「生産方法その他の事業活動に有用な技術上の情報」という大きな括りで措
定しており、必ずしも特許法の「発明」として完成に至らないものであってもよい。一
般に、特許法における「発明」の成立過程は課題の着想、解決手段の着想、実施化(解
決手段の具体化)という過程を踏んで成立するものであるが、「解決手段の着想」の段
階に止まるものであってもそれが「事業活動に有用な技術上の情報」といいうる限り、
不正競争防止法によって保護されるのである。
この、保護対象の微妙なズレが実務上解決困難な問題を提起する。
企業において社命を受けて発明の開発に携わっていた者が特許法上の「発明」の完成
の寸前で他社に引き抜かれた場合を想定する。その者が完成寸前に達していた未完成発
明、例えば、消しゴムで消せるボールペンのインクにおいて「紙に染み込まない物質」
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であること(課題解決の基本原理)が必要であることを解明し、これからそのような物
質の探索と合成に取り掛かるという段階で他社に引き抜かれた場合、「紙に染み込まな
いインクであれば消しゴムで消せる可能性がある」という技術上の情報は元就業してい
た企業に帰属するのか、当該従業員自身に帰属するのか。特許法は発明者主義を採用し
ているため(29条1項柱書)
、発明行為が従業員の職務に属する場合であっても当該
発明についての特許を受ける権利は原始的に当該従業員に帰属し、元就業していた企業
(使用者等)はその発明について通常実施権を有するに止まり(特許法35条1項)、
唯、職務発明を承継する就業規則、契約等の定めがある場合に職務発明に係る特許を受
ける権利或いは特許権を承継することができるにすぎない(35条2項の反対解釈)。
ということは、況してや未完成発明の場合、具体的には職務発明規程等で定められた届
出を会社に対し行なう以前の状況で、他社に引き抜かれた時点での、未完成発明(
「紙
に染み込まないインクであれば消しゴムで消せる可能性がある」という技術上の情報)
が使用者等に帰属していると解することは特許法の解釈上困難である。その結果、当該
開発の過程で得た技術上の情報を他者に開示しないという内容の秘密保持合意等の特
段の措置を講じていなかった場合には、従業員は転籍先において発明を完成させ(候補
物質の決定及び合成を完成し)
、該発明完成行為が転籍先における従業員の職務に属す
る場合には、転籍先においてされた職務発明ということになり、転籍先における職務発
明等に従って転籍先が特許を受ける権利の承継を受け実施権を専有することになると
いうのが一つの結論である。
しかし、この結論は、転籍元(元就業していた企業)にとって納得の行く結論とは言
い難いであろう。社命により新規なボールペン用インクの開発に従事させ、解決原理に
想到するまでの従業員の人件費、物件費を負担するという資本投下をしていながら、後
一歩で発明が完成していなかったために、転籍先に開発成果を独占されてしまうという
のでは資本投下が全て無に帰するからである。
この問題を解決するためには、未完成発明に係る「技術上の情報」は従業員を発明に
従事させ人件費等を負担していた元就業先企業に帰属するという論理を不正競争防止
法2条6項の解釈として導かねばならないが、前記したとおり、特許法の解釈上当該技
術上の情報(未完成発明)は従業員に原始的に帰属するという結論は動かし難く、不正
競争防止法の解釈によって元就業先企業の利益、例えば完成した発明に係る特許を受け
る権利の共有持分を確保させることは難しいように思われる。
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勿論、実務上は、上記のような事態が生じないために元就業先企業を退職するに当た
って秘密保持契約等の処理をすることになるが、そのような処理が採られなかった場合
には元就業先企業の利益を適切に確保させる法律構成は容易に構築し難い。複数の従業
員による開発プロジェクトの進行中に、複数の従業員が創作行為に積極的に加担して未
完成発明の段階に達していた場合であれば、そのプロジェクトの一部従業員が転籍して
転籍先の企業で発明を完成させた場合、転籍しなかった従業員との共同発明と認定する
ことにより特許を受ける権利の共有という結論を導くことが出来ようが、従業員が単独
で職務発明の完成に向けて研究開発を行なっていた場合には、上記のとおり、発明完成
寸前までコストを負担した元就業先企業にはその成果についての利益確保が困難にな
るという結論が避けられないのである。「発明」成立の過程が課題の着想を起点とする
継続的な試行錯誤の過程であるにも関わらず、「発明完成」の時点で発明者たる自然人
に特許を受ける権利が原始的に帰属する制度が採用されている結果、このような結論に
至ってしまうのである。元就業先企業における該企業(使用者)と従業員との間での「技
術上の情報」
(未完成発明)の帰属に関する黙示の合意(未完成発明の段階においてそ
の技術情報は使用者に帰属するという合意)を観念する等の解釈論によって、元就業先
企業の利益と転籍先の利益との調整を図る必要があるケースであろう。
以上のケーススタディは机上の空論ではなく現実の実務において生起しうる事態であ
るために問題点の提起と若干の検討を試みたが、以下、本稿においては、特許法との対
比における営業秘密による「発明」の保護というテーマに即し、不正競争防止法上の「技
術上の情報」と特許法上の「発明」とを同等視して論を進める。
3.営業秘密保護法制の沿革
不正競争防止法は平成2年改正によって営業秘密の保護に関する条文を置いた。本稿
執筆時点で20年弱という「若い」法律である。しかし、明治44年の農商務省不正競
争法案において、既に営業秘密の保護についての萌芽が認められる。同草案においては
被用者が使用者の秘密を漏洩した場合には使用者が損害賠償を請求できるという条文
が置かれていたが、当時、そもそも、「公正競争」という概念及び公正競争の必要性そ
のものが社会通念として一般化していなかったため、不正競争法の制定自体が見送られ
た経緯がある。
その後、平成9年に日本のヘーグ条約加盟を受けて片かな書きの旧不正競争防止法が
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制定されたが、営業秘密の保護に関する制度の導入は見送られた。
そして、ガットウルグアイラウンドにおける協議を受け、平成2年、旧不正競争防止
法に営業秘密保護に関する条文が盛り込まれるに至り、これが現行法2条1項4~9号
の不正競争行為として受け継がれている。
平成2年以前において営業秘密の保護は契約法或いは一般不法行為法によって行われ
ていた。例えば、東京地裁昭和62年3月10日判決(アイシーエス事件)においては、
ノウハウの開発者と原告との間の契約終了後5年間はノウハウを漏洩しないとの誓約
書を差し入れていた従業員(被告1)が他社に引き抜かれ当該他社(被告2)の顧客に
ノウハウを開示したという事案であって、引抜先代表者は被告の誓約書の存在を知って
おり、また、引抜先がノウハウ技術を自社開発したとの虚偽のセールストークをしてい
たという事実関係のもと、被告2の行為は被告1の秘密保持義務につき悪意のうえ虚偽
のセールストークを行った点で不法行為責任を免れないとの判断が示されている。
しかしながら、一般不法行為による保護は加害者に故意過失が必要であるうえ(民法
709条)
、金銭賠償が原則で(同722条1項、417条)
、使用或いは開示の差止請
求が認められないため、営業秘密の保有者の保護としては不十分なものであった。
しかるに、不正競争防止法の改正によって不正競争行為の類型に取り入れられること
により、現在では同法3条を根拠とする差止請求を認めるに至っている。
4.営業秘密保護法制
不正競争防止法2条1項4~9号は、2条6項で定義された営業秘密即ち「秘密とし
て管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情
報であって、公然と知られていないもの」について、これを不正に取得する行為、不正
取得した情報を使用又は開示する行為(4号)、開示の際に不正取得情報であることに
ついて悪意又は重過失で取得する行為、該取得した情報を使用又は開示する行為(5号)
、
取得後に悪意となった不正取得情報の取得者が該情報を使用又は開示する行為(6号)
、
正当に取得した情報を加害目的で使用又は開示する行為(7号)、加害目的もしくは守
秘義務違反による開示(不正開示行為)情報であることについて悪意又は重過失で取得
する行為、該取得した情報を使用又は開示する行為(8号)、取得後に悪意となった不
正取得情報の取得者が該情報を使用又は開示する行為(9号)を不正競争行為とし、不
正競争によって営業上の利益を侵害されるおそれのある者に、不正競争行為者の過失の
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有無を問わない差止請求権(3条)及び、故意過失を要件とする損害賠償請求権(4条)
を認める。
救済手段としての差止請求権は特許法100条にならう。その他、損害額の推定規程
(5条)は特許法102条に、被告が侵害態様を否認する場合の具体的態様の明示義務
(6条)は特許法104条の2に、損害額の認定のための計算鑑定(8条)或いは裁判
所の裁量による相当な額の認定規定(9条)はそれぞれ特許法105条の2、105条
の3に、当事者が営業秘密を訴訟に提出する場合の相手方当事者等に対する秘密保持命
令(10条)は特許法105条の4にならうものである。
即ち、被侵害者(権利者・営業秘密保有者)の救済に係る法律上の仕組みは特許法と
基本的に変わらない。
以下は、営業秘密に関する不正競争行為の類型を、保有者を起点として図示したもの
である。

営業秘密に関する不正競争行為の体系
(二次取得者)
(一次取得者)
使用
④
不正取得
保有者
④
正当取得
悪意重過失取得
開示
⑤
使用
⑤
開示
⑤
使用
⑥
開示
⑥
取得後悪意
④
加害目的使用
⑦
加害目的開示
⑦
義務違反開示
※丸付き数字は不競法2条1項の号数
悪意重過失取得
⑧
取得後悪意
使用
⑧
開示
⑧
使用
⑨
開示
⑨
特許法において特許権者は、2条3項1乃至3号で定義される「実施」を業としてす
る権利を専有する。
「実施」とは、物の発明及び物の生産方法の発明については、その
物又は方法の使用、物の譲渡、生産、輸入、輸出、貸し渡し、譲渡又は貸し渡しの申出
であり(1号、2号)
、方法の発明においてはその「使用」である。生産方法の発明で
は該生産方法によって生産された物の譲渡や輸出が明文上特許権者の独占に帰するの
に対し、不正競争防止法では営業秘密たる生産方法によって生産された物の譲渡や輸出
という川下の行為を直接規制する条文がない。川上の「使用」が不正競争行為として差
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止等請求の対象となるのみである。この点で、不正競争防止法は川下規制に薄さがある
ことは否定できない。
5.営業秘密
不正競争防止法2条6項で定義される営業秘密は無方式で発生する法律上の利益であ
り、特許性に関する特許庁の実体審査を経た登録を発生要件とする(登録主義)特許権
と異なるところである。
即ち、営業秘密は、新規性を有する必要があること(
「公然と知られていないもの」で
なければならないこと)は特許法29条1項1号と同じであるが、進歩性はもとより発
明として完成していること(特許法29条1項柱書)も問わない。よく引き合いに出さ
れる例として、事業上有用な技術上、営業上の情報であれば、例えば新薬開発の際の失
敗データのようなネガティブ情報であっても、これを第三者が知ることによって予め失
敗物質を候補物質(パイプライン)から排除することにより研究開発投資の節約に役立
つから、営業秘密として保護される。
ここで、特許法35条の相当対価の報償に関する問題点を指摘する。上例のような新
規物質(新薬)の開発は無数の候補物質の中から生理活性、毒性等の有無をしらみつぶ
しに調査し、近時は利用可能なリサーチツールが開発され候補物質の絞込みに役立てら
ているものの、結局は、新薬開発プロジェクトに参加する複数の研究者のうち最終的に
利用可能な有効物質に辿り着いた者のみが特許を受ける権利の承継と引き換えに35
条3項によって相当な対価の処遇を受けることができる。ネガティブデータの基になっ
た死屍累々たるボツ物質の調査研究に携わった者は「産業上利用することができる発
明」を職務発明としてした者に該当しないから35条3項による処遇を受けることがで
きない。
ネガティブ情報の保有者は、これを営業秘密として保有し第三者(競合企業)に開示
しないことで、競合企業に研究開発コストを掛けさせることができ、市場において有利
な立場に立ち得るという意見で、
「事業活動に有用」な情報であると解釈されているが、
その情報の生成に携わった者には法律上の根拠がないため情報生成の報償というもの
を観念できず、処遇を受けることもできない。このことは、相当な対価の処遇を受ける
ことが出来るか否かが偶然性に支配されることを意味し、開発者全体のインセンティブ
を削ぐことにならないかという懸念を生ずるが、コーポレートガバナンスとしては止む
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を得ないことであろう。最終的な候補物質に辿り着いて発明譲渡対価の処遇を受けるこ
とを目指すことが、全ての研究者(従業者)のインセンティブの源泉となっていると考
えれば、ネガティブ情報となってしまった不成功物質の研究行為に対して成功物質の研
究行為と同様の処遇を行なわない方が社内における研究者間の競争政策としては正し
いともいえるからである。
営業秘密の成立要件で最も問題となるのは、秘密管理性である。一般に、秘密管理性
の要件には二つの側面があるとされている。一つは、当該情報にアクセスした者が秘密
であると認識できるようにされていること、即ち客観的認識可能性であり、今一つは当
該情報へアクセスできる者が制限されていることである。前者は、他の一般情報と区別
できる標識を付することにより営業秘密の外延を画する要件であり、「部外秘」等の記
載が典型例である。後者は、
「管理」性の評価根拠事実であり、サーバへのアクセス権
の制限、第三者への開示制限(秘密保持誓約書の提出を受けること)などを例として挙
げることができる。
裁判例は、営業秘密性を否定することで営業秘密使用差止等訴訟において請求を棄却
する例が多い。民事訴訟法92条1項2号による訴訟記録上の閲覧制限が可能な営業秘
密性は実務上、比較的緩やかに認められているのに対し、営業秘密使用差止等訴訟では
本要件の不適合を理由に請求棄却例が多いのは、訴訟になるケースが営業秘密保有者の
元従業員乃至その転籍先を被告とするケースを典型とする(不競法2条1項7号、8号
事案)ことが起因していよう。技術情報の管理体制を就業時に現に見聞きし熟知してい
る元従業員が、原告である元就業先が主張立証すべき請求原因事実である秘密管理性を
争い、自らの記憶に基づき管理体制に関する具体的事情を種々反証するために、この要
件の存在を認定するに至らない多くの判決に繋がるものと思われる。
例えば、東京地裁平成14年1月22日判決(健康食品顧客データ事件)では、原告
(営業秘密保有者)では、顧客データを他のデータと一応識別できる形で保管してあっ
たが、アクセスできる者は特に制限されておらず、コピーも禁じられておらず、パスワ
ード等による保護もされていなかったため、事務所にいる者であれば見ることができ、
これらの者との間に秘密保持契約も締結されていなかった等の事実関係のもとで秘密
管理性が否定されている。また、東京地裁平成12年9月28日判決(治療器具事件)
では、前立腺肥大治療器具の承認申請データ(治験データを含む)が元従業員により転
職先持ち出された事案において、就業規則には「秘密は外部に持ち出してはならない」
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との記載がある事実関係のもと、転職先に対する不正競争防止法2条1項8号、4条に
基づく損害賠償が、関係書類はかぎ付きキャビネットに保管されていたが勤務時間中は
施錠されていなかった、また一部の書類に「マル秘」という表示をする扱いもなかった、
承認申請書のファイルを格納したFDも取り扱える社員を特に限定していなかったと
の認定のもとで秘密管理性を否定され、請求棄却となっている。更に、アクセス制限に
関連する秘密保持合意に関しても保有者に厳しい判断を目にする。例えば、東京地裁平
成17年2月25日判決においては、「社員は,業務上機密とされる事項および会社に
不利益となる事項を他に漏らし,または漏らそうとしてはならない。社員でなくなった
後においても同様とする」との就業規則による秘密管理性を否定している。同義反復的
な表現では秘密管理性が不十分であるとの戒めを示した裁判例であって、就業規則の一
般規定では適切に開示制限を行っているとはいえないというものである。実務において
は研究プロジェクト等を立ち上げるたびにプロジェクト名及び目的を特定した秘密保
持合意書や誓約書を従業員から徴しておくことの必要性が示唆される。
なお、大阪地裁平成10年12月22日(フッ素樹脂シートライニング)は数尐ない
営業秘密使用差止請求の認容例の一つである。同事件は、退職後競業会社を立ち上げた
元専務と競業会社対する不正競争防止法に基づく営業秘密(樹脂シートライニングを施
すショットガンの口金ノズル)の使用差止請求の事案であるところ、原告は、役員、従
業員から誓約書を徴して営業秘密の保持義務を課し、在庫管理を製造課長が行い、製造
課の部室のロッカーにノズル等冶工具を保管し、技術を管理していた。この事実関係の
もとでは秘密管理性を認めることができるとしたものである。
6.営業秘密保護に関する小括
このように見ていくと、営業秘密の保護を求めるのには進歩性等の実体要件と専門機
関により審査がなく、当然のこととして、特許法における開示強制(出願公開 特許法
64条1項)もないことから、特に第三者に知られることで情報としての価値が減殺さ
れ且つ侵害行為の捕捉も困難な、会社の生産部門(工場)の内部でのみ用いられる方法
発明については有力な武器となりうることが分かる。
しかしながら、営業秘密保護には高度な秘密管理性のレベルが要求される。即ち、文
書管理規則等の管理規程の制定のみならず日常の厳格な運用が求められる。一
例として、特許権を行使しようとする場合、出願前実施(いわゆるフライング販売)は
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無効理由となるが、出願前販売の内部構造図面が極秘扱いでないと裁判所からの開示命
令を拒めず(民事訴訟法220条4項ハ、197条1項3号)
、
「不当訴訟」のカウンタ
ーを受けかねない。
また、おざなりの秘密保持規定は効力を否定される。研究職には部門移転毎に一筆と
るくらいの運用が求められる。
7.結語
審査期間或いは審査コストの削減を意識してか、特許庁は2005年頃以降、先使用
権による発明の保護を強調し、公証人の事実実験公正証書の活用などを宣伝している。
先使用権は、特許権行使に対する抗弁であるから、防御方法としては使うことができる。
但し、その目的は一定の技術を独占的に保護するというものではない。
不正競争防止法による営業秘密の保護は侵害訴訟での当事者限りの相対的保護に止ま
るものの、秘密管理が十分であれば絶対権に変わらない保護を受けることが可能で、保
護期間の制限もない。管理コストは高いが権利維持コストは無いのである。
これらのコストや第三者の行為の捕捉可能性等のファクターを総合考慮して、
「発明」
の特許法による保護と営業秘密による保護が使い分けられているというのが現状であ
ろう。
以 上
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