2012 年 9 月 10 日 ICB 第四回『知の磁場・読書を通じ国際的レベルの教養を身につける』勉強会 課題図書:戸部・寺本・鎌田・杉之尾・村井・野中「失敗の本質」ダイヤモンド社 =図書選定理由= o 初版(1984 年)以来約 30 年間読み継がれる組織論の名著。(56 万部超)文庫化もされている。 o『「超」入門 失敗の本質』(2012 年 4 月)という解説本も最近ベストセラーに。 【序章】日本軍の失敗から何を学ぶか 『近代における合理的・階層的官僚組織の最も代表的組織である軍隊。日本軍は大東亜戦争というその組織的 使命を果たすべき状況において、しばしば合理性と効率性とに相反する行動を示した。日本軍の組織的特性 は、その欠陥をも含めて、戦後の日本の組織一般のなかに継承されているのではないか。このような現代日 本の組織一般が、平時的状況のもとでは有効かつ順調に機能しえたとしても、危機が生じたときには、組織 的欠陥を再び表面化させるのではないか。大東亜戦争における日本軍の失敗を現代組織一般にとっての教訓 として生かし、戦史上の失敗の現代的・今日的意義を問う。』⇒出版から 30 年、その後の経緯を踏まえて改 めて議論 【第一章】 失敗の事例研究 『ノモンハン事件 -失敗の序曲』 ・作戦目的があいまい。 ・中央と現地とのコミュニケーションが有効に機能しなかった。 ・情報の受容・解釈に独善性。 ・戦闘では過度に精神主義が強調。 『ミッドウェー海戦 -海戦のターニング・ポイント』 ・作戦目的の二重性・部隊編成の複雑性。 ・不測の事態が発生した時に、瞬時に有効かつ適切に反応でなかった。 『ガダルカナル作戦 -陸戦のターニング・ポイント』 ・情報の貧困。 ・戦力の逐次投入。 ・米軍の水陸両用作戦に有効に対処しえなかった。 ・日本の陸軍と海軍はバラバラの状態。 『インパール作戦 -賭の失敗』 ・しなくてもよかった作戦。 ・戦略合理性を欠いたこの作戦は作戦計画の決定過程において人間関係を過度に重視する情緒主義や強烈な 個人の突出を許容するシステムに起因。 『レイテ海戦 -自己認識の失敗』 ・”日本的”精緻をこらした極めて独創的な作戦計画であったが、参加部隊(艦隊)が、その任務を把握してい なかった。統一的指揮不在。 『沖縄戦 -終局段階での失敗』 ・終局段階でも、米軍の本土上陸を引き延ばす戦略持久か航空決戦か相変わらず作戦目的はあいまい。 ・大本営(中央)と現地軍の間に認識のズレや意思の不統一。 【第二章】 失敗の本質-戦略・組織における日本軍の失敗の分析 =六つの作戦に共通する性格= ① 複数の師団・艦隊が参加した大規模作戦→陸軍参謀本部 or 海軍軍令部という日本軍の作成中枢が 作戦計画策定に関与。 ② 作戦中枢と実施部隊との間に、時間的・空間的に大きな距離。実施部隊間においても同様。 ③ 直接戦闘部隊が高度に機械化。それに加え、補給・情報通信・後方支援などが組み合わされた統合 的近代戦。 ④ 相手の奇襲による突発的な作戦ではなく、日本軍の作戦計画があらかじめ策定され、それに基づい て戦われた組織戦。 =戦略上の失敗要因分析= 項目 1 目 的 2 戦略志向 3 戦略策定 分類 ① あいまいな戦略目的 ② 短期決戦の戦略思考 ③ 主観的で「帰納的」な戦略決定 -空気の支配 ④ 狭くて進化の無い戦略オプション ⑤ アンバランスな戦闘技術体系 戦 略 4 戦略オプション 5 技術体系 6 構 造 =組織上の失敗要因分析= ① 人的ネットワーク偏重の組織構造 ② 属人的な組織の統合 ③ 学習を軽視した組織 ④ プロセスや動機を重視した評価 組 織 7 統 合 8 学 習 9 評 価 日本軍 米軍 不明確 明確 短期決戦 長期決戦 帰納的 演繹的 (インクリメンタル) (グランド・デザイン) 狭い 広い -統合性の欠如一点豪華主義 標準化 集団主義 構造主義 (人的ネットワーク・プ (システム) ロセス) 属人的統合 システムによる統合 (人間関係) (タスクフォース) シングル・ループ ダブル・ループ 動機・プロセス 結果 【第三章】 失敗の教訓-日本軍の失敗の本質と今日的課題 =軍事組織の環境適応の分析枠組み= 組織学習 環 境 国際情勢 国内情勢 軍事技術 国家戦略 作戦環境 戦 略 ●戦略的使命の定義 ●資源蓄積 ●資源展開 戦略実行 組織行動 ●意思決定 ●リーダーシップ ●パワー 組織構造 ●公式的構造 ●非公式的構造 パ フ ォー 資 源 ●人的資源 ●技術 (兵器体系、知識・技能) ●共有された行動様式 (組織文化) 管理システム ●統合システム ●業績評価システム ●教育システム マ ン ス 実線はフィードバック関係を示す =日本軍の環境適用= Ⅰ. 戦略・戦術 (adaptation precludes adaptability) [陸軍]「白兵銃剣主義」 [海軍]「艦隊決戦主義」⇒「適応は適応能力を締め出す」 Ⅱ. 資源 [陸軍]・白兵銃剣主義のための「人的資源の量的充実」 (相対的に物的資源が乏しい) ・戦車への懐疑 [海軍]・艦隊決戦主義のための「個艦優秀主義(ハード)」 「少数精鋭・名人芸の奨励(ソフト)」 ・大艦巨砲主義→「攻撃は最大の防御(先制と集中の強調) 」⇒ 防御の軽視 ・潜水艦利用による通商破壊軽視 Ⅲ. 組織特性 ① 組織構造 日本軍の「分化」⇒「統合」の欠如 環境(仮想敵国) 目的志向性 時間志向性 ソ 連 大陸に展開する白兵戦 時速4~5km 米 国 太平洋に展開する艦隊決戦 時速40~60km 陸軍 海軍 対人志向性 情緒的 合理的 ② 管理システム [人事昇進システム]日本軍:年功序列 米軍:実力主義 [教育システム]海軍(兵学校・海大):理数系能力重視 陸軍(士官学校・陸大):実務能力重視 ⇒オリジナリティよりは暗記能力や記憶力→コンティンジェンシー(不測事態)対応力に限界 ③ 組織行動 日本軍のリーダーの多く:白兵戦と艦隊決戦という戦略原型を何らかの形で具体化した人々 ⇒組織文化・行動規範を形成 Ⅳ. 組織学習 戦略・資源・組織特性・成果の一貫性を通じ、戦略原型を強化したが、「学習棄却」に失敗 Ⅴ. 組織文化 価値、英雄、リーダーシップ、組織・管理システム、儀式、環境特性などの一貫した相互作用の中から「白兵 銃剣主義」「艦隊決戦主義」に象徴される行動様式が確立→「適応しすぎて特殊化した学習しない組織」 =自己革新組織の原則と日本軍の失敗= 組織が継続的に環境に適応:主体的にその戦略・組織を環境の変化に適合するように変化⇒『自己革新組織 (セルフ・オーガニゼーション)』⇒①不均衡の創造②自立性の確保③創造的破壊による突出④異端・偶然との共存⑤知 識の淘汰と蓄積⑥統合的価値の共有……日本軍の失敗の本質とその連続性(戦略・組織) 「思索せず、読書せず、上級者となるに従って反駁する人もなく、批判を受ける機会もなく、式場の御神体となり、権威の うち 偶像となって温室の裡 に保護された。永き平和時代には上官の一言一句は何らの抵抗を受けず実現しても、一旦戦場となれ ば敵軍の意思は最後の段階迄実力を以て抗争することになるのである。政治家が政権を争い、事業家が同業者と勝敗を競う ような闘争的訓練は全然与えられなかった。」(高木惣吉『太平洋開戦史』岩波新書) 【補 論】『 「超」入門 失敗の本質』より Ⅰ. 戦略性 →戦術・戦略を超えるもの ① 戦略の失敗は戦術で補えない ② 「指標」こそが勝敗を決める …ex.インテルと日本電機メーカー ③ 「体験的学習」では勝った理由はわからない ④ 同じ指標ばかり追うといずれ敗北する Ⅱ. 思考法 …ex.ホンダ・スパーカブ …ex.マイクロソフトの世界制覇戦略 →練磨と改善からの脱却 ⑤ ゲームのルールを変えたものだけが勝つ ⇒ビジネスのルールを変える ⑥ 達人も創造的破壊には敗れる …ex. iPod×iTune ⑦ プロセス改善だけでは、問題を解決できなくなる Ⅲ. イノベーション ⇒「売れないのは努力が足りないからだ!」は本当? →既存の指標を覆す視点 ⑧ 新しい戦略の前で古い指標は引っくり返る …ex.失敗としての日本電機メーカー ⑨ 技術進歩だけではイノベーションは生まれない …ex.スティーブ・ジョブズのイノベーション ⑩ 効果を失った指標を追い続ければ必ず敗北する …ex.コダックと富士写真フィルム Ⅳ. 型の伝承 →創造的な組織文化へ ⑪ 成功の法則を「虎の巻」にしてしまう ⑫ 成功体験が勝利を妨げる …ex.インテル vs DRAM に固執した日本企業 ⑬ イノベーションの芽は「組織」が奪う…『プロフェッショナルマネージャー・ノート』プレジデント社 Ⅴ. 組織運営 →勝利につながる現場活用 ⑭ 司令部が「現場の能力」を活かせない ⑮ 現場を活性化する仕組みがない ⑯ 不適切な人事は組織の敗北につながる Ⅵ. リーダーシップ →環境変化に対応するリーダーの役割 ⑰ 自分の目と耳で確認しないと脚色された情報しか入らない ⑱ リーダーこそが組織の限界をつくる …ex.日産リバイバルプラン ⑲ 間違った「勝利の条件」を組織に強要する …ex.コンチネンタル航空の復活:『大逆転!』日経 BP 社 ⑳ 居心地の良さが、問題解決能力を破壊する …高木惣吉『太平洋開戦史』岩波新書 Ⅶ. メンタリティ →「空気」への対応とリスク管理 21 場の「空気」が白を黒に変える ○ …山本七平『「空気」の研究』文春文庫 22 都合の悪い情報を無視しても問題自体は消えない ○ 23 リスクを隠すと被害は拡大する ○ …ex.コンコルドの開発、スペースシャトル・エンデバーの事故 …ex.成功例としての JAXA「はやぶさ」 出典:野中他『失敗の本質』ダイヤモンド社 これは本のカバーであり、ダイヤモンド社様のご厚意に より引用させていただいています。無断での複写・引 用・配布等は法律に反する場合があります。 NPO 法人 国際人材創出支援センター 担当:早坂房次
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