オスロ市警犯罪心理捜査官のフレデリックと巡査のアンドレアスは政治家

(あらすじ)
オスロ市警犯罪心理捜査官のフレデリックと巡査のアンドレアスは政治家、カリ・リーセ・
ヴェトレとオスロ軍事協会の本部で会った。数日前にカリの娘のアネッテとその 3 歳の息子、
ヴィリアムが行方不明になってしまったという。アネッテは 7 年前から『神の光』というカル
ト教団に入れ込むようになり、大学を中退し教団施設に入り、信者の男、ペール・オルセンの
子を身ごもった。しかし子どもが生まれてすぐにペールは感染症で亡くなってしまった。
その数日後、教団の施設で大量殺人事件が発生。死体の大半は庭で見つかったが、教祖のビ
ョルン・アルフセンの死体だけは寝室で見つかった。書棚からアネッテとヴィリアムの写真と
聖書が見つかった。聖書の扉の部分にはドイツ語で「E.ブリンチ教授へ。心からのお感謝をこ
めて。1936 年、人種学研究、ウィーンの同胞達より」と書かれていた。ビョルン・アルフセン
は至近距離から頭に銃弾を撃ち込まれたようだった。教祖の部屋から催涙スプレーとテーザー
銃が、暗い地下室ではイヴァール・トゥフテという男が重傷を負っているのが発見された。
フレデリックとカファは教団施設の近くに暮らすブリンジャーとシグネ・クヴァーヴィンゲ
ンという老夫妻に聞き込みをし、教団の地下室の建築に当たった会社がモンタージュ・エンバ
イロメントという名前であるという情報を仕入れた。
さらに教会施設の近くの農家で 1 人暮らしをしていたオッター・スカーレンが遺体となって
発見された。農家の屋根裏には携帯電話と地図の入ったカバンがあった。屋根裏には窓がひと
つしかなかった。カファはその窓はイスラム教徒が神に祈りをささげるキブラの方角を向いて
いることに気付いた。
神の光と対立していたイスラム団体の本部をフレデリックが夜中、潜入捜査していると、ナ
イフを持った男が現れた。モハメド・オマールのボディーガード、カンブラーニだ。
カンブラーニを尋問した。三、四週間前の集会以降、モハメド・オマールとは会っていない
という。イスラム団体の本部にいたのは、反イスラム派からの襲撃を恐れ、見張りをしていた
のだそうだ。
モンタージュ・エンバイロメントは教団の地下室を建造した数年後に倒産していたことが分
かった。ヘニングが見せてくれた契約書には、教祖のビョルン・アルフセンと牧師のペール・
オルセンの他にシューアン・プランテンステッドの署名があった。初めて聞く名前だ。
スウェーデンのウップサーラ地方の郊外で育ったシューアンは、12 歳の時に両親を亡くし、
父方の祖母に育てられたということが分かった。祖父とは祖母が亡くなって以来、連絡をとっ
ていないようだ。ペールの国民番号も住民登録も見つからなかった。
農家のオッター・スカーレンの家の屋根裏で発見された携帯電話には指紋が残っていなかっ
た。発着信履歴もメールもインターネットの閲覧履歴も消されていた。ただ専門の捜査員に依
頼して調べたところ、プリンセン通りのホステルとストックホルムと 2 軒のホテルで wifi を使
っていたことが分かった。
カファとフレデリックはホステルに行き、屋根裏部屋のバスルームで死体を発見した。男な
のか女なのか、白人なのか黒人なのか、殺されたのか自殺したのかも分からない程遺体の損傷
は激しかった。その時カファのこめかみのすぐ横を銃弾がかすめた。やがて銃を持ち、サング
ラスをした黒ずくめの男に部屋の隅に追い詰められた。フレデリックはカファを連れ、家具の
陰に隠れた。しかし見つかってしまい、男に首をしめられた。
(第2部)
カファは机の上に写真を置いた。1 枚は 30 歳ぐらいの男性の身分証の写真だ。さらに二枚は
キオスクに設置された防犯カメラに映ったもので、1枚目の写真の男と同じ人物が映っていた。
さらに別の写真には同じ男がスキーをしている姿が収められていた。牧師のペール・オルセン。
彼は生きているのだ。
鑑識の結果、浴槽で死んでいたのはモハメド・オマールで、死因は頭に銃弾を撃ち込まれた
ことだと判明した。死後 1 週間以上が経過していた。手首と足首にロープで縛られた跡があっ
た。拉致され、しばらく拘束されてから殺害されたということだ。ホステルの監視カメラの 4
週間前の映像に、黒い服を着、帽子を目深にかぶった男が映し出されていた。受付のカメラに
は顔がはっきりと映されていて、フレデリックの首に手をかけた男と同一人物であることが分
かった。
地下室で犯人に襲われたが一命をとりとめたイヴァール・トフテの病室をフレデリックとス
ンネが訪ねた。イヴァールはフレデリックから身分証の写真を見せられ、神の光のメンバーの
一人で、その男が自分を殺そうとしたのだと言った。
警察署長のトロンド・アントン・ネメのデスクの周りに捜査官達が集まっている。アンドレ
アスが持ってきた今日の新聞には「アンネベル・ヴィーヘ(34)とベルンハルド・クヌットセ
ン(37)は、神の光について考え方が合わず 1 年前に離婚をしている。旧友が殺されたことか
ら、自分達も犯人に狙われているのではないかと 2 人は不安を訴えていた」と書かれていた。
フレデリックは元夫妻に話を聞きにいった。元妻のベルンハルドが牧師のシューアン・プラン
テンステッドと初めて会ったのは、学生だった 11 年前、カフェでアルバイトをしていた時だそ
うだ。2 人は意気投合し、その数週間後にベルンハルドは教団施設に居を移した。写真を見た元
夫妻は口をそろえてペールだと言った。つまり犯人に命を狙われていたのは、事件前に、既に
病気で亡くなっているはずのペールだったといことだ。元夫妻はさらに一般の信者は教団施設
の地下室への出入りを禁じられていたこと、地下室に入れたのは殺された3牧師と教祖、行方
不明のフリスチョフとポール・エスペン・ヘニーの兄弟と重傷を負ったイヴァール・トフテ、
芝生の上で死んでいたニルスとヴィゴー・ヨハンとブリンジャール、そしてペール・オーラウ
だと言った。また後から入信したアネッテのことをペールが気に入り、地下室のメンバーに引
き入れたことも。ペールとアネッテはすぐに教団施設の庭で結婚式を挙げた。しかし 2 人が結
婚する前アネッテは、教祖のアルフセンの命令に従い、教祖と寝室を一にしていた。ベルンハ
ルドがトイレに行こうと席を立った隙に、アンネベルはベルンハルドとの結婚を認める代わり
に体をささげるよう教祖に言われ応じざるをえなかったと涙ながらに告白した。
政治家カリ・リーセ・ヴェトレの秘書、ティーナ・ホルテンの携帯に非通知で電話が掛かっ
てきた。「アネッテよ。お母さんに必ず戻るから警察や他の誰にも私達がいなくなったことは
言わないでとだけ伝えておいてちょうだい」翌日再びアネッテから電話がかかってきて、2 時間
後に中央駅で落ち合うことになった。しかし約束の時間になってもアネッテは現れなかった。
ティーナの携帯電話に非通知で電話がかかってきた。「25 分後にソールブロータン駅に来て」
言われた通りソールブロータン駅に行くと、駅前のキオスクの前に 2 人がいた。アネッテはテ
ィーナに封筒を預けた。あと少しでカリの家に着くところで、軽トラックが突然飛び出してき
た。もくもくと上がる煙。窓の外には男が立っていた。男は車のドアを突然開け、ティーナの
首をしめた。それからアネッテに銃をつきつけ、軽トラックへと追いやった。
カリ・リーセ・ヴェトレが玄関のドアを開けると、フレデリックがカリの孫を抱え立ってい
た。フレデリックがティーナが預かった封筒の中には切断された指が入っていた。
軽トラックは北の町で乗り捨てられていた。オスロのレンタカー会社で 2 人の男が借りたも
のだった。支払いに使われたクレジット・カードはフレデリックの旧友で TV2のジャーナリス
トのヨルゲン・モストゥのものだった。
カリの元に謎の封筒が送られてきた。その後「娘を生きて返してほしければ、今から 72 時間
以内にペール・オルセンの居場所を調べろ。ペールの本当の名前はビューレ・ドランゲだ」と
電話がかかってきた。封筒の中味を調べると、ビューレ・ドランゲと書かれた男の写真が出て
きた。写真の裏にはメールアドレスが書かれていた。カリは電話を録音していた。その声は TV
2のヨルゲンのものだった。
ヨルゲンの自宅を訪ねると、奥さんがいて、ヨルゲンが 3 日間帰っていないことが分かった。
ビューレ・ドランゲが生きているという情報をつかんだフレデリックは、ビューレの家を訪
ねた。家からは元船乗りの老人が出てきた。老人はビューレの父親で息子がトロンハイムの大
学を出た後、生化学者の職を経て牧師になり、さらにその後自殺したと言った。最後に帰省し
てきたのは 4、5 年前。アメリカ人の恋人がいると話していたそうだ。2 人から送られてきたク
リスマス・カードには、「メリー・クリスマス。リサ&ビューレ」と書かれていた。2 枚ともに
スウェーデンの消印が押されていた。
ビューレ・ドランゲの実家を出た後の住民登録は見つからなかった。
カリが犯人にメールを送ると、オペラハウスに来いと返信がきた。フレデリック達警察はオ
ペラハウスで張り込んだ。1 時間後、大学生かと思う程若い女性がカリに、携帯電話を手渡して
きた。携帯届いたメールには写真が添付されていた。その写真はオペラハウスのそばのホテル
の上の階から周囲の景色を撮影したものだった。屋上の隅に黒ずくめの男が 2 人いた。一方は
オペラハウスに銃口を向け、もう一方は双眼鏡をのぞいていた。オペラハウスの屋上に続く坂
に、アネッテとヨルゲンがうつぶせになっていた。そ
の横にはカバンが置いてあった。「警察だ! 避難す
して!」というフレデリックの声を聞き、逃げ惑う人
達。警察はカリを避難させた。カリの電話にはメール
が届いており、そこには電話番号が書かれていた。番
号を調べると、半年前にその携帯は盗難届が出されて
いたことが分かった。SIM カードは抜かれており、プ
リペードカードを使っているようだった。法務官のセ
バスチアン・コスがフレデリックの制止を振り切り、
その番号に電話をした。大きな爆発音とともに、アネ
ッテとヨルゲンは木っ端みじんになった。
政治家のピオ・オタマンディとその恋人のカール・ヨセフセンが当選祝いに町に出かけて以
来、行方不明になった。2 人が乗ったタクシーは後に森の中で発見され、盗難車であることが分
かった。車からアンプルが発見された。カール・ヨセフセンの DNA と例の封筒に入っていた指
の DNA が一致した。
フレデリックとセバスチアンは、ヨルゲンの妻にお詫びをしに行った。妻がヨルゲンから自
分の身にもしものことがあったら開けるよう言われていた箱に鍵を挿し開けると、中から携帯
電話が出てきた。届いていたショートメッセージには、「ええ、会いましょう。僕からも話が
あります」と書かれていた。番号に電話をすると左派政党の党首、シモン・リーベが出た。
大量殺人事件のあった日、ビューレ・ドランゲは教団の所有する納屋にフリスチョフとポー
ル・エスペン・ヘニーが倒れているのを発見した。銃を構えた男が近づいてきた。その男が誰
なのか分かったビューレは駆けだした。後方から男の銃弾が飛んできたが、当たらなかった。
必死で逃げるビューレ。追いかける男。
教団が古い倉庫を所有しているという情報をつかんだフレデリックは倉庫n潜入した。入り
口には行方不明のフリスチョフが、キッチンの床には弟のポールが倒れていた。倉庫は第二の
実験所になっていた。実験所にはベッドが6つ。6 人で共同生活を送っていたのだろう。アネッ
テと息子のヴィリアムもここで暮らしていたようだ。亡くなった兄弟もシューアン牧師も。血
の流れ方や銃弾を観察したカファは、初めにフリスチョフが背中と頭を撃たれたのではないか
と考えた。カファは壁に残された血を DNA 鑑定することにした。
フレデリックとカファはさらにピオとカールが倒れているのを発見した。実験室の壁には古
い写真が掛けられていた。隅に「ウィーン、1931 年。ウィーン同盟、永遠であれ! あなたの
友エリアス」と書かれていた。カファは写真の中の人物を指差しながら 1 人、1 人名前を読み上
げていった。その中で生きていたのはウルフ・プランテンステッドだけ。牧師のシューアン・
プラテンステッドと同じ苗字だ。血縁関係があるのかもしれない。シューアン・プランテンス
テッドは両親が 12 歳の時交通事故で亡くなり、その後祖父母に育てられ、祖母が亡くなった後、
祖父と没交渉になっていた。
ゲイ・カップルのうちカールは亡くなった。一方ピオは一命をとりとめたものの天然痘に感
染していた。ピオはフレデリックにビューレ・ドランゲの写真を見せられ、自分達を連れ去り
監禁した人物は彼だと言った。ビューレが同性愛者を誘拐し、ウィルスの人体実験を行ってい
たことを知ったアネッテは恐ろしくなって、教団から逃亡をはかり、ビューレに何度も阻止さ
れた。そこで殺されたカールの指を切り取り、教団の悪事を告発しようとしたのだった。
シューアンはあの晩、叫び声がしたと思うと、アネッテが幼い息子のヴィリアムを抱え自分
の部屋に駆け込んできて、「教祖が死んだ。ペールはいなくなってしまった。助けてほしい」
と言いに来たと打ち明けた。
教祖は生前、シューアンに言っていた。「私は君の祖父、ウルフ・プレンテンステッドをよ
く知っているよ」と。フレデリックはビューレ・ドランゲが持っていたウィーンの同胞達と書
かれた写真に、シューアンの祖父が載っていたと話した。ビューレ・ドランゲは教団に入った
際、自分は神の道具と化すため名前を一般的なペール・オルセンに変えた。シューアンはペー
ルがHIVウィルスやサース、エボラ熱などの感染症によって地球を浄化できると言っていた
と話した。実験所でワクチンをつくっていたことも。フレデリックは「実験所はもう1つある
だろう。そこでお前とビューレ、つまりペールは 2 人の男を監禁した。1 人は死んだよ。もう一
人は瀕死の状態だ!」と怒鳴った。「最初の大量虐殺の日の後、お前は教団にいるある人物に
電話をしたんだろう?」シューアンは「弁護士がいないと話せない」と答えた。
カファは軍事歴史家のスタイン・ビュンナルを訪ね、話を聞いた。スタインは「リスタの捕
虜収容所の志望者数が多いことに気付いたノルウェー政府がコールバインにリスタに偵察に行
くよう命じたと言った。しかしある時火事が起き、火事の喧噪に紛れエリアス・ブリンチは姿
を消したと言った。スタインはコールバインの息子、イーメ・モンセンに話を聞いたらいいと
言った。コールバイン・モンセンはセバスチアン・コスの祖父だということも分かった。
カールの死因が肺炭疽だと分かった。さらに鼻疽のウィルスも見つかった。犯人は生物兵器
を使ってテロを起こそうとしたのかもしれない。鑑識はこんな恐ろしいことを企てたのは個人
ではなく、どこかの国の政府なのではないかと言った。
シューアン牧師は精神病棟に入れられた後精神的に落ち着くと、警察に連行された。アンド
レアスとフレデリックが尋問をしようとしたその時、激しい爆発音とともにシューアンの首が
吹き飛んだ。
フレデリックとカファは政治家のシモン・リーベにメールのことで話を聞きに行った。シモ
ンは春に電話を盗まれたこと、自分はヨルゲン・モストゥと一切関係がないと答えた。
ストックホルム警察のハッセ・ハンソンから電話が入り、オスロ市警が鑑定に出している血
液の DNA がスウェーデン人のスタファン・ヘイヘという男の DNA と一致したことが分かった。
スタファンの住所も電話番号も銀行口座も転居歴も全て記録に残っていなかった。
シューアンが教団近くの家に住むブリンジャーとシグネ・クヴァーヴィンゲン夫妻の家に電
話していたことが分かった。フレデリックが再び訪ねると、夫妻は観念したかのように2人を
部屋に招き入れ、大人と子どもそれぞれ 5 人ずつを地下室にかくまっていると打ち明けた。フ
レデリックは署に信者達をミニバスで安全な場所に避難させるよう要請した。トーラという女
性は殺された兄弟のうちの1人、ポール・エスペンの妻だった。子ども達も一緒だった。教祖
ビョルン・アルフセンが亡くなった際、一緒に寝ていたという妻もいて、皆殺人犯に殺される
のではないかと怯えていた。「犯人の顔を見たんですか?」教祖の妻が犯人は背の高い男だと
言った。自分は犯人に手足を縛られ、教祖の前で犯されたとも。その後男は教祖を銃で撃った
と言った。「ペール・オルセンことビューレ・ドランゲがまだ見つからないんです」「ペール
とは事件以来連絡をとっていません。何も知りません」ピオはその後病院で息を引き取った。
フレデリックにストックホルム警察のハッセ・ハンソンから再び電話があり、スタファン・
ヘイヘは 40 歳でスウェーデンのゴットランドに生まれ、兵役を終えた後、奇襲部隊に入り、バ
ルカン戦争でユーゴスラビアに派遣されたと知らされた。スウェーデンは国際支援活動と称し
て軍事活動を行っていた。スタファン・ヘイヘはボスニアのムスリムに捕らえられ、耳と上唇、
鼻をもがれ、プライベートのジェット機でストックホルムに運ばれ治療を受けた。なぜ一般の
FN 機が使われなかったのだろう? 退院したスタファンはストックホルムに暮らし、レイプ・
暴行事件を多数起こしたが、2 ヶ月後アフガニスタンに派遣された。「オスマル・アブダラ・カ
マールを知っているかい? アフガニスタンで恐れられる麻薬取引きの黒幕且つテロリストだ。
カマールは移民の流入や NATO の自国への介入を嫌っており、タリバンとも結びついていると言
われていた。だがこの春にオスマルが NATO の支持者の家で殺されてね。奴は NATO と何か取引
きをするつもりだったんじゃないかと言われている」
カファは夜中にブリンジャーとシグネ・クヴァーヴィンゲン夫妻の家に忍び込み、地下室へ
向かった。地下室にはペールと書かれた寝袋と聖書があった。郵便受けには「K.モンセン」の
文字が。
その頃、フレデリックはコールバインの家を訪れていた。ホームヘルパーの男がドアを開け、
「ご主人は肺炎でお具合がよくないんです」と言った。コールバインはベッドで寝ていた。寝
室には 70 年代に撮られた結婚式の写真が飾られていた。ゲアハルド・モンセン−−コールバイン
の息子である大臣の写真だ。その隣には洗礼式の写真が。セバスチアン・コスだ。その隣には
コスの妹らしき 2 人の少女の写真が。双子だった。コールバインが話すのもままならない状態
だったので、フレデリックは話を聞くのをあきらめ屋敷を出た。
翌日フレデリックがカファと再び屋敷を訪れると寝室の本棚の本は全てなくなり、コールバ
インもいなくなっていた。サイドテーブルにはカール・ヨセフセンとピオ・オタマンディを連
れ去ったタクシー内で発見されたのと同じアンプルが置いてあった。書斎の本棚の壁の隠し戸
棚にはヨーン・アルフレッド・ミューエンの優生思想についての本があったが、金庫は空だっ
た。
夜中カファはフレデリックを老夫妻の地下室へと連れて行った。
地下室の中を探っていると、何者かがドアを開ける音がした。男
を見たフレデリックは写真で見たスタファン・ヘイヘではないか
と思った。カファはその男に捕らえられた。フレデリックは恐ろ
しくて息をするのもやっとだった。カファは男の隙をついて懐中
電灯で後頭部を思い切り殴った。フレデリックに押さえつけられ
た男はズボンに忍ばせていたナイフを彼の肩に突き立てた。カフ
ァが部屋にあった杖で男に殴りかかると、男の耳がもげた。カフ
ァとフレデリックは男を殴り続けた。男はもう1つ隠し持ってい
たナイフでカファを切りつけた。カファは大量に出血をし倒れた。
目は閉じられていた。フレデリックと男はもみ合いになった。男にナイフで刺されそうになっ
たフレデリックがもう終わりだと思ったその時、女性の声がした。「ステファン・ヘイヘ!」
カファだ。名前を呼ばれて驚いたのか、男の動きが止まった。カファは男をおびき寄せ、木蓋
を外してあった地下室の入口に男を突き落とした。
6 月 21 日タリバン麻薬密売組織のオスマル・アブダラ・カ
マールが NATO のエージェント、ハッサン・アリのアフガニ
スタンのカンダールの家で、スナイパーにより銃殺された。
続いて銃弾はアリを捉え、彼の命をも奪った。NATO のアフガ
ニスタンへの介入に強く反対していたオスマルが NATO のエ
ージェントの家にいたとは不可解な話だ。
カファはフレデリックの入院先の病室で署から持ってきた
資料を読み上げた。NATO の資料によるとオスマルとハッサン
が殺されたのはソーロで大量殺人事件が起きるほんの 2 週間
前。NATO はオスマルとハッサンを殺したのはスタファン・ヘイヘではないかとにらんでいると
言った。仮にスタファンがオスマルとハッサンを殺したとしても、動機までは分からなかった。
鑑識が頭を強打し現在意識不明のヘイヘの肌を調べた結果、彼がエタノールや化学物質で日常
的に肌を消毒した上で、石灰の粉末と汗と死人の肌を混ぜ腐敗させたものを塗るまたは塗られ
ていたことが分かった。この物質が汗と混ざって蒸発し粉になり、それが犯人の血液型や DNA、
指紋の鑑定の障害となっていたために、彼が銃撃を受け現場に残った血液を最後ようやく調べ
られるまで彼が犯人であることが分からなかったのだ。モッセ通りでコールバインが死体とな
って発見された。
フレデリックはスタファン・ヘイヘの処置室に向かった。そこにはセバスチアン・コスと PST
から護衛として送られてきたという警官がいた。セバスチアンが翌日スタファン・ヘイヘを他
の患者がいない病棟に移すと言うのを聞いてフレデリックは不可解に思った。セバスチアンは
スウェーデン警察から、スタファン・ヘイヘが 90 年代にスウェーデンの自衛軍に入っており、
ユーゴスラビアに派遣され、その後ストックホルムに短期間暮らしていたが、15 年前行方不明
になったという情報が入ってきたと言った。フレデリックは「あんたの祖父のコールバインは
ビューレに連れ去られた。部屋には隠し金庫があった。中身はビューレが持っていったんじゃ。
中に何が入っていたか知らないんですか?」と聞くと、セバスチアンは「さあ、知らないね」
とだけ答え行ってしまった。その時カリからフレデリックの携帯に電話がかかってきた。フレ
デリックはカリに伝えた。「殺された時アネッテは妊娠していたようです」
カファは今回の件で PST を首になったもののスンネからオスロ市警で働いてはどうかと言わ
れ、応募することにした。
記者発表にはスンネとセバスチアンが出席した。セバスチアンは言った。神の光の牧師シュ
ーアン・プランテンステッドがピオとカールのゲイのカップルを誘拐、拷問し、殺害。シュー
アンはホモセクシャルを忌み嫌っており、それが動機となったと発表した。神の光の他の信者
は今回の事件に関与しておらず、シューアンはオスロ市警で尋問中、スタファン・ヘイヘの仕
掛けた爆弾で殺された。シューアンとステファンはどちらもスウェーデン国籍。スウェーデン
警察からの情報により、シューアンとスタファンが同時期にスウェーデンの軍隊に入っていた
ことが分かった。スタファンがホモセクシャルだと知ったシューアンは彼に嫌悪を抱き、軍人
としての彼のキャリアを傷つけるよう手を回した。それに憎悪を感じたスタファン・ヘイヘは
シューアンの殺害を計画。ソーロの大量殺人事件でスタファンが殺そうとしていたのは本当は
シューアンだけだった。シューアンがゲイのカップルを殺したことを知ったアネッテ・ヴェト
レは施設を飛び出し、そのことを警察に知らせようとした。スタファン・ヘイヘは彼女を誘拐
し、シューアンの居場所を吐かせようとした。スタファンはオペラハウスに爆弾を仕掛け、ア
ネッテとジャーナリストのヨルゲン・モストゥを殺した。教団の納屋にシューアンがいること
を知ったスタファンは、教団の納屋を襲撃。そこにいたフリスチョフとポール・エスペン・ヘ
ニーの兄弟は巻き添えになり殺されてしまった。そして先週病院で爆発があり、ヘイヘは亡く
なった。犯人が亡くなった今、警察は本件に対する捜査を打ち切ることにした。
コールバインの葬儀はスウェーデンで行われた。フレデリック達は葬儀に赴いた。セバスチ
アンに祖父の死を悲しむ様子はなかった。フレデリックは「ステファン・ヘイヘはシューアン
が入隊した時には既にアフガニスタンの戦地に赴いていたはずだ。2 人が同時期にスウェーデン
軍にいたという事実はないはずだが。あのホモの話に私は同意できないがね。シューアンが恐
ろしいヘイヘを殺そうとするとは思えないが」と言ったが、セバスチアンは「あの事件はもう
解決したんだ。確かに私は神の光が生物兵器を使ってテロを起こそうとしていたことは言わな
かった。だが生物兵器の開発に関わった人は皆死んだんだ。もうテロの危険性はない。国民を
無意味に動揺させても仕方ないだろう」
「ビューレ・ドランゲのことにどうして触れなかったんだ? あんたの祖父を殺した人間のこ
とはなかったことかのようにして」「何を勘違いしている。ビューレ・ドランゲは 6 年前に死
んでいる。それにビューレに父を殺す動機などないだろう?」 「謎は過去にあったというウ
ィーン同盟に隠されているんじゃないか?」「捜査結果は科学捜査に基づいている。今時の捜
査はこういうものさ」セバスチアンはほくそ笑んだ。フレデリックはコールバインのところに
いたホームヘルパーがビューレだったのではないかと思った。クヴァルヴィンゲン老夫妻の家
にビューレの聖書と寝袋があったということは奴が生きているということだ。ビューレ・ドラ
ンゲは教団とウィーンの同胞達をつなぐ人物だ。ビューレは生物兵器の開発に大きな役割を担
っていたのではないか。セバスチアンは「ホームヘルパーがビューレ・ドランゲだというのは
お前の勝手な思い込みだろう?」と言った。
ステファン・ヘイヘの死体はこっぱみじんになり、DNA 鑑定不能だった。
秋になりフレデリックはカリと会い、アネッテのお腹に宿っていた胎児は 6 週間で、ソーロ
の大量殺人事件が起きる直前に身ごもったことになると告げた。カリと別れたフレデリックは 3
枚の調査報告書を眺めた。一枚には「胎児は 99.997%の確率でその男性の子どもです」、もう
1枚には「ヴィリアムは 99.997%の確率でその男性の子どもです」と書かれていた。最後の 1
枚はビューレ・ドランゲの出生証明書だった。