14 歳女児にみられた上顎第一,第二大臼歯埋伏の 1 例

口腔衛生会誌
報
J Dent Hlth 59: 141―147, 2009
告
14 歳女児にみられた上顎第一,第二大臼歯埋伏の 1 例
―学校歯科健診の観点から―
原田 祥二1)
藤田 真理2)
本多 丘人3)
森田
学4)
概要:患者は平成 19 年 4 月,中学 2 年の学校歯科健診で上顎大臼歯の未萌出を指摘され同年 6 月当院を初診した.上顎
右側第一,第二大臼歯埋伏および下顎右側第二大臼歯挺出の臨床診断にて大学病院矯正科を紹介した.上下顎マルチブラ
ケット装着,ミニインプラントを用いた右下第二大臼歯の圧下,右上埋伏大臼歯の開窓牽引術施行が個性正常咬合を獲得
する治療法とのことであったが,治療費,本人家族の治療に対する希望の程度などの理由により治療開始にいたっていな
い.学校歯科医は毎年行われる学校歯科健診にて歯および口腔の疾病および異常の有無について検査を行い,その結果に
基づいて学校においてとるべき事後措置を健診票に具体的に記入するとされる.本症例では萌出時期,前年度健診記録と
の照合などから小学 3 年の学校歯科健診には上顎第一大臼歯の未萌出を疑うことが可能と思われたが,それ以降中学 1 年
までの 5 年間,事後措置が講じられないまま健診が繰り返されていたことになる.本症例は早期に専門医の管理下に置か
れていれば現時点での治療内容より簡潔なものであったことが推測され,学校歯科健診での事後措置を確実に実施するこ
との重要性が示された症例であった.学校歯科医は口腔を通し児童生徒などの健康の保持増進に寄与することによって歯
科医師としての社会的責務を果たしているといえる.学校歯科医にはその責務を十分認識し健診を行うことが求められる.
索引用語:学校歯科健診,学校歯科医,事後措置,埋伏歯,大臼歯
口腔衛生会誌 59:141―147, 2009
(受付:平成 21 年 2 月 6 日╱受理:平成 21 年 3 月 9 日)
緒
言
学校保健法では,児童生徒などの健康の保持増進を図
齢 13 歳.
初診:平成 19 年 6 月×日.
主訴:右上の奥歯が生えてこない.
るため,学校において毎年,定期に健康診断を行うこと
家族歴:両親および本人と弟 2 人の 5 人家族.父親に
とし,そのなかの歯科に関わる検査項目として「歯及び
おいては,パノラマ X 線写真で下顎左側前歯部に下顎右
口腔の疾病及び異常の有無」とある.学校歯科医はその
側犬歯と思われる水平埋伏歯と下顎右側犬歯部に歯牙腫
検査を行い,学校に対してはその検査結果に基づいた対
様不透過像を認めるも症状なく経過している.母親,長
応(事後措置)がとれるように具体的に指示しなくては
弟,末弟においては特記事項なし.
ならない1,2).
既往歴:特記事項なし.
今回,中学生にみられた上顎右側第一,第二大臼歯の
現病歴:幼少時よりう歯がなく小学校入学前か低学年
埋伏という稀な症例を経験したのでその概要を報告し,
時に 1,2 度歯科受診したように記憶しているがそれ以
学校歯科健診の観点から未萌出歯への対応について検討
降,治療記憶はない.毎年春の学校歯科健診で永久歯の
する.
未萌出について指摘されたかどうかはよく覚えていな
症
例
患者:平成 5 年 8 月生まれ,中学 2 年女子.初診時年
い.乳歯の脱落,永久歯の萌出に関して気になった覚え
もない.
平成 19 年 4 月に中学校で行われた健康診断後,上顎右
1)
原田歯科
北海道医療大学歯学部口腔生物学系微生物学分野
3)
北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座予防歯科学教室
4)
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野
2)
141
口腔衛生会誌
J Dent Hlth 59
(2)
, 2009
図 1 口腔内写真 初診時
上下顎の正中は一致していない.
図 3 口腔内写真 下顎
左右側第二大臼歯まで萌出している.
図 2 口腔内写真 上顎(ミラー使用)
上顎右側第一大臼歯,第二大臼歯を認めず,表面粘膜には下
顎右側第二大臼歯咬頭による潰瘍を認める.
図 4 顎模型 右側面観
下顎右側第二大臼歯は挺出している.
側咬頭による圧痕が認められた(図 5)
.
側の永久歯が生えていないことを養護教諭より指摘され
X 線所見:パノラマ写真にて上顎右側第一,第二大臼
両親に報告した.両親はこの時点で初めて娘の永久歯未
歯はほぼ正常な萌出方向で埋伏していた(図 6)
.デンタ
萌出を認識し,心配になり当院を初診した.
ル写真では上顎右側第一,第二大臼歯歯冠上に歯槽骨様
現症:
不透過像を部分的に認め歯根は完成しているようであっ
全身所見:体格中程度,栄養状態良好.
た(図 7)
.
口腔外所見:特記事項なし.
口腔内所見:口腔衛生状態は良好であり,上下顎萌出
臨床診断:上顎右側第一,第二大臼歯埋伏および下顎
右側第二大臼歯挺出.
歯はすべて永久歯であった.下顎正中線は顔貌正中線に
処置および経過:専門医での治療が適当と判断し,当
一致し,上顎正中線は下顎正中線に対して 2 mm 右偏し
院では処置を行わず大学病院を紹介,受診を勧めた.平
ていた(図 1)
.上顎では右側第二小臼歯から左側第二大
成 19 年 10 月×日,某大学病院矯正歯科を初診したとこ
臼歯まで萌出しており,右側第一,第二大臼歯はともに
ろ,上下顎マルチブラケット装着,挺出した下顎右側第
認めず(図 2)
,右側大臼歯部歯槽堤頰側にやや膨隆感が
二大臼歯のミニインプラント等の骨接合材を固定源とし
あるも羊皮紙様感なく波動も触れなかった.下顎では左
た圧下,埋伏歯である上顎右側第一大臼歯と第二大臼歯
右側第二大臼歯まで萌出していた(図 3)
.右側第二大臼
の開窓牽引術施行,という治療法が個性正常咬合を獲得
歯は舌側にやや傾斜しかつ著しく挺出しており(図 4)
,
する最も妥当なものとのことであった.しかし,治療費,
上顎右側第一大臼歯相当歯肉には下顎右側第二大臼歯頰
本人家族の治療に対する希望の程度,通院の困難さなど
142
図 7 デンタル写真 初診時
上顎右側第一,第二大臼歯の歯冠上を部分的に被覆する歯
槽骨と思われる不透過像を認める.
いては毎学年 6 月 30 日までに健康診断を行うこととさ
れており,その検査項目の一つとして「歯及び口腔の疾
病及び異常の有無」とある.学校保健法に定める健康診
図 5 顎模型 咬合面観
上顎右側第一,第二大臼歯を認めず.粘膜表面の凹凸は下
顎右側第二大臼歯咬頭による潰瘍痕.
断を行うにあたり,小中学校においては,学校歯科医は
この定期健康診断の歯科に関係する検査(以下,学校歯
科健診とする)に従事し,「児童生徒健康診断票(歯・口
腔)
」
の書式に沿って健診結果等を記載する.学校はその
結果に基づいて児童生徒およびその保護者に健診結果を
通知し,疾病の予防処置を行い,必要な医療を受けるよ
う指示し,適当な保健指導を行うなどの事後措置をとる
こととされている1,2).したがって,本症例においては学
校歯科医は学校歯科健診にて大臼歯の未萌出を認めた時
点で「児童生徒健康診断票(歯・口腔)
」
の「その他の疾
病及び異常」欄に未萌出歯に関しての所見を記載し,精
査のため歯科医療機関を受診するようなどと学校が本人
保護者へ連絡できるように,「事後措置」欄へ「要観察」
,
「要精査」などと具体的に記入することが求められる3).
図 6 パノラマ X線写真 初診時
上顎右側第一,第二大臼歯は埋伏し,下顎右側第二大臼歯は
挺出している.
平成 19 年度学校保健統計調査*1 では,小学校では「む
し歯(う歯)
」
の被患率 65.47% に比し「その他の疾病及び
異常」の被患率 2.56% とわずかである.また,事後措置
についての具体的な対応およびその成果については,う
の理由により,大学病院初診後 6 カ月間経過した現在,
て6)論じた文献は散見されるが,「その他の疾患及び異
治療開始にいたっていない.
考
について4),歯肉炎について5),あるいは顎関節につい
察
常」についての報告はみられない.本症例のような上顎
第一,第二大臼歯の埋伏例は稀であり,咬合誘導の障害
1.学校歯科健診と事後措置
となり顎口腔領域の健全な発育を妨げる恐れがあるため
学校保健法および学校保健法施行規則では,学校にお
早期診断・早期治療が必要とされる7―10).埋伏歯,萌出障
文部科学省:平成 19 年度学校保健統計調査,http:!
!
www.mext.go.jp!
b_menu!
toukei!
001!
h18.htm(2008 年 8 月 1 日アクセス)
*1
143
口腔衛生会誌
J Dent Hlth 59
(2)
, 2009
表 1 学校歯科健診時での年齢と,上顎右側第一,第二大臼歯の萌出率とその時期との比較
右上 6の萌出率とその時期
右上 7の萌出率とその時期
5
0
%
6歳 5か月
9
0
%
7歳 1
0か月
5
0
%
1
2歳 5か月
9
0
%
1
4歳 4か月
7歳 8か月
○
―
―
―
8歳 8か月
9歳 8か月
○
○
○
○
―
―
―
―
小5
(2
0
0
4年)
1
0歳 8か月
○
○
―
―
小6
(2
0
0
5年)
1
1歳 8か月
○
○
―
―
中1
(2
0
0
6年)
1
2歳 8か月
○
○
○
―
中2
(2
0
0
7年)
1
3歳 8か月
○
○
○
―
学年(年度)
学校歯科健診
時での年齢
小2
(2
0
0
1年)
小3
(2
0
0
2年)
小4
(2
0
0
3年)
萌出率とその時期は,吉田
1
3
)
より引用.
本症例小学校 2年生の学校歯科健診時での年齢は 7歳 8か月であり,この時点では上顎右側第一大
臼歯の萌出率 5
0
%となる時期 6歳 5か月を上回っている(○印)が,9
0
%となる時期 7歳 1
0か月
には達していない(―印).上顎右側第二大臼歯についても萌出率 50
%および 9
0
%となる時期に達
していない(―印).
害への対応が遅れるとその後の処置はより複雑になる可
二大臼歯に関しては,同様に中学 1 年生の学校歯科健診
能性があり,児童生徒および保護者への負担が増すため,
時で萌出率が 50% となる時期を過ぎてはいるが,中学 2
頻度は少ないものの「その他の疾病及び異常」に対する
年生の学校歯科健診時でも萌出率 90% となる時期には
事後措置を行うことの意義は大きいと思われる.
いたっていない(表 1)
.
2.本症例を把握すべき時期
学校歯科健診時での永久歯萌出異常,萌出遅延を判断
一方,学校歯科健診ではなく地域の歯科医療を担うか
かりつけ歯科医での診断も可能かと思われたが,本症例
する注意点として,松本10),前田11),山崎ら12)は,萌出時
では定期的に歯科医院へ受診する家庭環境になく,また,
期,隣在歯との萌出順序の比較,乳歯の動揺度,同名歯
本症例の口腔衛生状態が幼少時より良好だったため,治
の萌出状況の左右での比較,前年度健診記録の照合など
療を目的として歯科医院を受診することがほとんどな
を挙げている.
かったことが早期発見の機会を失うことになったと思わ
本症例が何歳のときの学校歯科健診で把握できるか
を,萌出時期の視点から歯種別の萌出率 90% を指標とし
て検討した.全国の歯科大学(歯学部)小児歯科講座が
れた.かかりつけ歯科医での定期健診の必要性を再認識
させる症例であった.
3.前年度健診記録との照合の重要性
中心になって行われた小児の乳歯ならびに永久歯の萌出
前述したように,学校歯科健診で本症例に対する事後
時期についての全国調査13)によれば,上顎第一大臼歯の
措置が実際に行われる,つまり本人が上顎右側第一大臼
萌出率が 50% となる時期は 6 歳 5 か月,90% となる時
歯の未萌出を主訴に歯科医療機関を受診するまでは,
期は 7 歳 10 か月であり,上顎第二大臼歯ではそれぞれ
①学校歯科医が上顎右側第一大臼歯未萌出の所見を得
12 歳 5 か月,14 歳 4 か月である.本症例の学校歯科健診
て「児童生徒健康診断票(歯・口腔)
」
に必要所見および
が 4 月に行われたとして,本症例の小学 2 年生での学校
学校がとるべき事後措置,つまり「精査のため歯科受診
歯科健診時の年齢は 7 歳 8 か月であるので上顎第一大臼
を勧める」など記載する.
歯の萌出率 90% となる時期 7 歳 10 か月に満たず,学校
歯科医はこの学年で本症例に対して上顎右側第一大臼歯
の萌出遅延を積極的に疑うか否かは,他の所見と合わせ
②学校が学校歯科医の記載した結果を受けて,本人お
よびその保護者に事後措置を通知する.
③本人およびその保護者がその通知を受けとり,歯科
た学校歯科医の判断に負うと考えられる.翌年の小学校
医療機関を受診する.
3 年生の際の学校歯科健診時での本症例の年齢は 8 歳 8
以上 3 つの段階を経ることが必要である.本症例では本
か月であり,上顎第一大臼歯の萌出率 90% となる時期 7
人および保護者が学校歯科健診の結果をどこまで認識で
歳 10 か月を過ぎている.本症例はこの時点で上顎第一大
きていたか詳細は不明である.そこで,前述したように
臼歯の萌出遅延を疑うことができたと思われる.上顎第
小学校 3 年生で行われた学校歯科健診の際,学校歯科医
144
が上顎右側第一大臼歯の未萌出を認識し,所見および事
出を疑う所見を得た場合は事後措置が確実に行われるよ
後措置を記入し,その結果をふまえ学校が事後措置を本
う努めるべきであろう.
人および保護者に滞りなく伝えたにもかかわらず,本人
日本学校歯科医会では学校における定期健診に従事す
が上記③の段階で歯科医療機関を受診していなかったと
るなどして積極的に学校歯科保健活動に取り組んでお
する.次年度小学校 4 年の学校歯科健診では,学校歯科
り*2,学校歯科医は口腔を通し児童生徒などの健康の保
医は本症例に対して前年と同様に上顎右側第一大臼歯未
持増進に寄与することによって歯科医師としての社会的
萌出の所見を得てそれを健診票に記載する.これを中学
責務を果たしているといえる.また,兼平ら3)が指摘する
1 年まで 5 年間続けていたことになる.この間,1 度も前
ように,学校歯科健診は歯科医にとって余技ではなく診
年の健診結果と照合していなかったのかが疑われる.臨
療室を離れた地域における重要な責務であり地域住民に
床上,年齢が進むほど第一大臼歯の未萌出から抜歯によ
対する歯科保健管理の一つである.学校歯科健診におい
る喪失の可能性も考えられることから,学校歯科健診の
て大臼歯の未萌出に対し結果として少なくとも 5 年間本
際に口腔内にみられた第一大臼歯欠損が,未萌出による
人および保護者に事後措置が伝わらなかった可能性のあ
ものなのか抜歯によるものなのかで事後措置の記載内容
る本症例や,下顎第一大臼歯の未萌出に対して指摘を受
も異なってくるものと思われる.その確認の手段として
けなかった 9 歳児の症例12)では,歯科医師にその責任の
前年の健診結果を照合すべきであり,また,歯科医であ
一端がないといえるか疑問を感じる.歯科医師をとりま
れば確認したくなるはずである.事後措置が行われてい
く最近の社会情勢を鑑み,学校歯科医としての自覚を改
ないようであれば,学校から本人保護者への通知が行わ
めて問い,また,自戒の意味を込めて報告した.
れていないのか本人保護者が歯科を受診していないの
結
か,問題点を明らかにすることができたと思われる.
4.大臼歯部萌出遅延歯の特徴
論
今回,中学生にみられた稀な上顎右側第一,第二大臼
仁木ら7)の日本人健常児 2,243 名のパノラマ X 線写真
歯の埋伏症例を経験したのでその概要を報告し,学校歯
を用いて第一大臼歯の萌出遅延症例を検討した研究で
科健診の観点から歯科医師の未萌出歯への対応について
は,1 歯以上の萌出遅延歯を有していた児童は 3.7% にみ
文献的に検討し以下の結論を得た.なお,本論文の発表
られ,その臨床所見として 1 歯のみの症例と片顎両側性
に際しては本人および家族の同意を得ていることを付記
の症例で大多数を占め,隣接する第二大臼歯歯胚形成遅
する.
延または先天欠如を有する症例が上顎で多く認められた
8)
1.本症例では,学校歯科健診で小学校 3 年生から 5
と報告している.三富ら は,上下顎第一大臼歯萌出遅延
年間連続して上顎第一大臼歯の萌出障害を疑う所見が得
症例 76 例(96 歯)について,73.7% が上顎にみられ,両
られていたにもかかわらず事後措置が行われていなかっ
側性の症例 19 例中 18 例が上顎であったこと,パノラマ
た.
X 線写真で明らかな原因を認められない萌出遅延歯 51
2.本症例は結果として上顎第一,第二大臼歯の埋伏で
歯中,68.6% に第一大臼歯と第二大臼歯に歯胚形成の遅
あったが,早期に専門医の管理下に置かれていれば現時
れが認められたことを報告している.本症例では,当初
点での治療内容より簡潔なものであったことが推測され
は上顎片側性の第一大臼歯萌出遅延であり,その時点で
た.
隣接第二大臼歯の萌出遅延ないしは先天欠如も疑いうる
3.学校歯科健診では,学校歯科医は上顎第一大臼歯の
ものであった.さらに,上顎第一大臼歯が萌出遅延して
埋伏を疑う所見を得た場合は,両側性の可能性を疑い,
いる児童においては,片側同名歯の萌出状況を確認し,
また,隣接第二大臼歯の萌出状況を経過観察する必要性
隣接する第二大臼歯の萌出状況を計画的に経過観察する
を検討すべきである.
ことを念頭に置いて健診することが重要である.
4.
本症例は学校歯科健診での事後措置を確実に行うこ
5.学校歯科医の社会的責務
との重要性が示された症例であり,学校歯科医にはその
本症例は学校歯科健診で早期発見が可能な症例である
責務を十分認識し健診を行うことが求められる.
と思われた.学校歯科健診は診断する場ではなくあくま
でもスクリーニングであることを考慮すれば,学校歯科
医はその歯科医学的常識に照らし合わせ,永久歯の未萌
謝辞:本症例に関して多くのご教示を賜りました北海道
大学大学院歯学研究科口腔機能学講座歯科矯正学教室准教授
日本学校歯科医会:活動状況,http:!
!
www.nichigakushi.or.jp!
activity.html(2008 年 8 月 1 日アクセス)
*2
145
口腔衛生会誌
J Dent Hlth 59
(2)
, 2009
佐藤嘉晃先生に感謝いたします.
文
献
1)北海道歯科医師会:学校歯科保健ガイド―歯・口腔の健康診
断―,札幌,1995, 31―50 頁.
2)日本学校歯科医会:学校歯科医の活動指針<改定版>,東京,
2007, 4―25 頁.
3)兼平 孝,本多丘人,谷
宏:学校歯科健診の実際―学校保
健法施行規則改正後のガイドとして―.北海道歯誌 19:242―
276, 1998.
4)北田勝浩,日野陽一,濱田静樹ほか:学校歯科健診におけるう
リスク検査の有効性.口腔衛生会誌 56:673―680, 2006.
5)森下真行,徐 淑子,原 久美子ほか:高等学校における学校
歯科保健活動に関する研究 第 2 報 歯科保健指導が健診結
果の認識と受療行動に与える影響.口腔衛生会誌 51:145―
149, 2001.
6)松尾敏信,川崎浩二,飯島洋一:女子中高生の顎関節自覚症状
の実態と学校を基盤とした定期的口腔保健指導の効果―学校
歯科医の立場から―.口腔衛生会誌 56:52―62, 2006.
146
7)仁木昌人,松本敏秀,國武哲治ほか:第一大臼歯の萌出遅延に
関する臨床所見.小児歯誌 32:437―443, 1994.
8)三富知恵,富沢美惠子,野田 忠:第一大臼歯萌出遅延に関す
る研究.小児歯誌 38:1080―1090, 2000.
9)野 田 忠:萌 出 障 害 の 咬 合 誘 導.新 潟 歯 学 会 誌 30:1―13,
2000.
10)松本光彦:歯の萠出の遅れについて.日本学校歯科医会会誌
80:106―111, 1998.
11)前田隆秀:歯の萠出異常.日本学校歯科医会会誌 94:39―44,
2005.
12)山崎博史,小林博昭:学校歯科健診で見落とされた下顎右側第
一大臼歯の萠出障害の一例(抄)
.小児歯誌 39:742, 2001.
13)吉田定宏:わが国における乳歯,永久歯の萠出時期に関する研
究.歯医学誌 5:95―108, 1986.
著者への連絡先:森田 学 〒700-8525 岡山市鹿田町 25-1 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野
TEL:086-235-6710 FAX:086-235-6714
E-mail:[email protected]
A Case of Impacted Maxillary Right First and Second Permanent Molars in a 14-year-old Girl
Shoji HARADA1), Mari FUJITA2), Okahito HONDA3) and Manabu MORITA4)
1)
Harada Dental Clinic
2)
Department of Oral Biology, Division of Microbiology, School of Dentistry,
Health Sciences University of Hokkaido
3)
Department of Preventive Dentistry, Division of Oral Health Science,
Hokkaido University Graduate School of Dental Medicine
4)
Department of Oral Health, Okayama University Graduate School of Medicine,
Dentistry and Pharmaceutical Sciences
Abstract: We encountered a case of impacted maxillary molars in a 14-year-old girl. The mandibular
right second permanent molar was over-erupted. It was a very rare and complicated case requiring
prolonged and costly orthodontic treatment. School children undergo a dental examination every year at
school. A school dentist should have previously suspected a delay in the eruption of the maxillary first
molar when the present patient was 8 years old during school dental examination. However, the patient
visited a dental clinic at the age of 14, indicating that post-examination care was not given. School dental
examination had been conducted for a total period of 5 years without any post-examination care. If the
patient had been referred to a family dentist or an orthodontist promptly, less complicated treatment
would have been possible. This was a typical case that showed the importance of post-examination care
after conducting a school dental examination. It is the social responsibility of dentists to not only treat
patients at dental clinics but also contribute to the promotion of school children s health through schoolbased examinations. School dentists should therefore be strongly requested to conduct oral examinations
carefully based on a sense of duty.
J Dent Hlth 59: 141―147, 2009
Key words: School dental examination, School dentist, Post-examination care, Impacted teeth, Permanent
molars
Reprint requests to M. MORITA, Department of Oral Health, Okayama University Graduate School of
Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, 2-5-1 Shikata-cho, Okayama 700-8525, Japan
TEL: 086-235-6710!
FAX: 086-235-6714!
E-mail: [email protected]
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