口腔衛生会誌 原 J Dent Hlth 58: 95―105, 2008 著 乳幼児歯科健診受診児の母親を対象とした 全国歯科保健実態調査における標本の代表性 安藤 雄一1) 中垣 晴男2) 宮 秀夫3) 葭原 明弘3) 飯島 洋一5) 川崎 浩二6) 井後 純子7) 杉本 智子8) 重政 昭彦10) 鳥山 佳則11) 田口 円裕12) 荒川 浩久4) 渡辺 晃子9) 概要:わが国の成人歯科保健の実態把握を進める一環として,乳幼児歯科健診受診児の母親を対象とした歯科保健実態 調査を 4 県(神奈川・新潟・愛知・長崎県)で行い,市町村・都道府県・全国の各レベルにおける標本の代表性を検討し た.調査地域は 4 県から層化無作為抽出した 33 市町村で,2005 年 11 月∼2006 年 3 月にのべ 138 会場において乳幼児歯科 健診受診児の母親(平均 31.4 歳)を対象に口腔診査(平成 17 年歯科疾患実態調査に準拠)と質問紙調査(主として既存全 国調査の質問を採用:口腔の自覚症状,歯科保健に関する認識・行動,生活習慣,受診行動など) を行った.対象者数は, 口腔診査 2,786 名(受診率 65%) ,質問紙調査 3,301 名(回収率 77%)であった. 既存全国統計との比較では,う ・歯周疾患の有病状況の差はなかったが,未処置う ・喪失歯の保有者率は本調査が 低値を示した.質問紙調査では全般的に既存全国統計との差は少なかったが,飲酒習慣や歯科受診行動で差が認められた. 口腔診査の受診率および質問紙の回収率が各調査項目に及ぼす影響は全般的に小さかった.これらの調査結果は,対象と なった 4 県の特性や乳幼児の母親という対象者の特性に起因する偏りを有することが認められたものの,全般的にみて, ある程度の代表性の高さは確保されていると判断された.したがって本調査結果は,全国的な情報源として活用できると 考えられた. 索引用語:全国調査,成人歯科保健,乳幼児歯科健診,母親,標本の代表性 口腔衛生会誌 58:95―105, 2008 (受付:平成 19 年 9 月 18 日╱受理:平成 19 年 12 月 28 日) 実施され,近年受診率が低下傾向にあること2),また得ら はじめに れる情報が口腔診査中心で歯科保健対策を検討するため わが国における成人の歯科疾患・歯科保健に関する全 1) 国レベルの実態把握は十分とは言いがたい .現在の主 の材料としては情報量が少ない4). 国民健康・栄養調査3)における歯科保健に関する調査 な情報源は厚生労働省による歯科疾患実態調査2)と国民 は 2004 年に開始された(以後 5 年間隔で実施される予 健康・栄養調査3)である. 定)質問紙のみによる調査で,口腔の自覚症状や歯科保 このうち,歯科疾患実態調査は 1957 年から 6 年間隔で 健行動など幅広い情報が得られる反面,口腔状態につい 1) 国立保健医療科学院・口腔保健部 愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座 3) 新潟大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野 4) 神奈川歯科大学健康科学講座口腔保健学分野 5) 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科社会医療科学講座口腔保健管理学分野 6) 長崎大学医学部・歯学部附属病院地域医療連携センター 7) 愛知県健康福祉部健康担当局健康対策課 8) 新潟県福祉保健部健康対策課 9) 神奈川県・秦野保健所 (前・神奈川県保健福祉部健康増進課) 10) 長崎県県央保健所 (前・長崎県福祉保健部国保・健康増進課) 11) 厚生労働省医政局歯科保健課 12) 厚生労働省保険局医療課 (前・厚生労働省医政局歯科保健課) 2) 95
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