平成 27 年度 神奈川県西部地域地熱エネルギー有効利用可能性調査 報

平成 27 年度
神奈川県西部地域地熱エネルギー有効利用可能性調査
報 告 書
平成 28 年 2 月
(一財)かながわ水・エネルギーサービス
(委託先
伴技術士事務所)
目
次
第1章 調査概要
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1-1
1 調査の目的
····················································································
1-1
2 調査項目
·······················································································
1-1
3 調査内容
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1-1
第2章 資料の収集・整理 ········································································
2-1
1 我が国の地熱エネルギー開発
(1) 地熱エネルギーとは
·····························································
2-1
····································································
2-1
(2) 我が国の地熱エネルギーの歴史
·····················································
2-1
(3) 我が国における地熱発電の課題
·····················································
2-3
(4) 日本で最初の地熱発電所及び水力発電所
··········································
2-7
············································································
2-8
················································································
2-8
2 地熱発電のしくみ
(1) 地下の構造
(2) フラッシュ発電
··········································································
(3) ドライスチーム発電
(4) バイナリー発電
····································································
2-9
2-9
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2-10
·········································································
2-14
··········································································
2-14
(2) 概査
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2-14
(3) 精査
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2-16
3 地熱探査技術の概要
(1) 地熱探査の区分
(4) 地熱開発促進調査地点
4 我が国の地熱資源量
(1) 開発可能総出力
·································································
2-16
·········································································
2-19
··········································································
2-19
(2) 全国地熱ポテンシャルマップ
5 神奈川県西部の地熱エネルギー
························································
2-19
··························································
2-23
(1) 活動度指数と地熱発電所の関係
·····················································
2-23
······························································
2-24
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2-25
·········································································
2-26
··········································································
2-26
················································································
2-28
(2) 神奈川西部の活動度指数
(3) 富士山周辺の地熱兆候
6 箱根の地熱利用状況
(1) 大涌谷噴気地域
(2) 箱根の温泉
7 湯河原の温泉状況
············································································
8 神奈川県西部の温泉保護対策
9 自然公園の状況
2-33
·····························································
2-33
···············································································
2-35
10 箱根及び湯河原地域の温泉データ
······················································
2-37
·························
3-1
···············································································
3-1
·············································································
3-1
第3章 神奈川県西部地域地熱エネルギー有効利用可能性調査
1 温泉発電の概要
(1) 発電システム
(2) 発電が可能な湧出量及び温度等
(3) 発電端出力及び送電端出力
·····················································
3-3
···························································
3-4
(4) 資格要件 ···················································································
3-10
(5) 固定価格買い取り制度による買い取り単価
·······································
3-11
················································································
3-12
(7) 発電経費 ···················································································
3-15
(6) 概算工事費
2 神奈川県西部地域における温泉発電の検討
············································
3-16
(1) 箱根地域 ···················································································
3-16
(2) 湯河原地域
3-18
················································································
(3) 箱根地域及び湯河原地域で対象とする温泉,及び発電計画
3-19
··········································
4-1
···············································································
4-1
第4章 上湯地区地熱エネルギー有効利用の検討
1 上湯地区の概要
··················
2 上湯地区地熱エネルギー有効利用の検討
···············································
4-9
(1) 検討条件 ···················································································
4-9
(2) 検討方針 ···················································································
4-9
(3) システム概念図
··········································································
4-10
(4) 検討結果と課題
··········································································
4-11
··································································
5-1
····················································································
5-1
第5章 検討結果の概要と課題
1 調査の目的
2 「第2章 資料の収集・整理」の概要
·················································
3 「第3章 神奈川県西部地域地熱エネルギー有効利用可能性調査」の概要
4 「第4章 上湯地区地熱エネルギー有効利用の検討」の概要
5-1
···
5-3
····················
5-6
第1章 調査概要
1.
調査の目的
本調査は,神奈川県西部地域における地熱エネルギーの有効利用に対し,その可能性調査を行うもの
である。
2.
調査項目
調査項目は,下記のとおりとする。
3.
1)
計画準備
2)
資料収集・整理
3)
現地調査
4)
可能性調査の実施
5)
総合検討
6)
報告書作成
調査内容
(1) 計画準備
調査業務の円滑な遂行のために、目的と内容を把握した上で、実施方針や実施工程計画を調査業務
計画書にとりまとめる。
(2) 資料収集・整理
業務の遂行上必要となる資料について,資料を収集し整理をする。
(3) 現地調査
抽出された設備の適用性を把握する目的で,現地調査を行う。
(4) 可能性調査の実施
現地調査結果を踏まえ,以下の検討を実施する。
(1) 採用可能な設備の選定
(2) 初期費用の検討
(3) ランニングコストの検討
(4) 経済性の検討
(5) 総合検討
1-1
第2章 資料の収集・整理
1
我が国の地熱エネルギー開発
参考文献)地熱エネルギーハンドブック
(1) 地熱エネルギーとは
地熱エネルギーとは,広義には地球内部に蓄えられた熱エネルギーのすべてを指すが,
狭義には,地熱エネルギーの利用という視点から,地下数~10km 程度以浅の人類が利用
可能な熱エネルギーを指すと考えられている。
地球内部の温度は一般に深部ほど高温であることが,18 世紀半ばにはすでに知られて
いた。19 世紀半ばでは,ケルビン等の研究によって,地球表層の温度勾配は 100mにつ
き 3 ℃程度であることが知られていた。
1950 年代に入り,地球内部の熱的研究は飛躍的に進展し,地球内部の温度も各種の方
法に基づいて推定され,火山などの無い通常の地域では,地殻底のおよそ 30km 深で数
百℃程度,マントル内の 100km 深程度で 1,000 ℃,さらに地球の中心部 6,370km は約
6,000 ℃と推定されている。なお,この 6,000 ℃という値は,偶然ではあるが太陽の表
面温度に等しい。
このように,地球には莫大なエネルギーが蓄えられているが,人類が利用できる熱の存
在する深さは 10km 以浅程度と考えられている。
地下 10km の深さでは,地球上のほとんどの地点で 200~300 ℃に到達すると考えら
れている。そして,火山の近くではさらに浅く 2~3kmで 200~300 ℃に到達している
と考えられている。
これは,火山の地下数km深には温度 1,000 ℃前後の溶けた岩石であるマグマが存在
し,ここから上方に主として熱伝導により熱が運ばれ,地下に浸透した雨水を加熱し,軽
くなった熱水は上昇し,地下数百m~3km深度にそれが蓄えられるからである。
蓄えられた場所を地熱貯留層と呼ぶ。この地熱貯留層から漏れ出た熱,あるいは蒸気は,
地上で温泉や自然噴気として見られる場合がある。
地球内部の熱を利用しようと考える場合,その場所の気温(一般的には年平均気温)よ
り高い領域を考える。そして,上限は一般的には 300 ℃程度であろう。この地熱エネル
ギーは,従来から地熱発電として利用されているが,それ以外として,熱を電気的エネル
ギーに変換せず,熱としてそのまま利用する「直接利用」及び火山などのない普通の地域
で利用可能な「地中熱利用」が挙げられる。
(2) 我が国の地熱開発の歴史
我が国は火山列島上にあり,多くの火山が存在し,火山の麓には天然に湧出する温泉も
多く,古来より,入浴に利用されてきた。火山性温泉では無いが,愛媛県の道後温泉は,
8世紀前半に書かれた我が国最古の歴史書である「古事記」(八世紀初頭)にもその記述
がみられる。また,湯河原温泉は万葉集(七世紀後半~八世紀後半)に唯一温泉の歌が収
録されていることからも,おそらく,日本列島に人類が住み着いたころから,入浴用,場
2-1
合によっては調理などにも利用されてきたと推察される。
このような地球の熱を単に熱として使うだけでは無く,それを力学的な仕事に変換し,
されに電気に変換して使うことが考えられたことはそれほど昔のことではない。
今から 100 年ほど前の 1918 年(明治 41 年),海軍中将山内万寿治氏は,将来の石炭の
枯渇に備え,その代替エネルギーとして地熱発電を考え,全国の適地調査を行い,翌 1919
年大分県別府温泉(現在の坊主地獄付近)で口径約 120mm,延長約 30mの掘削を行い,
蒸気噴出に成功したといわれる。これは,世界で最初に天然蒸気を利用した発電が行われ
たイタリア・ラルデレロでのコンティ侯爵の実験(1904 年)から遅れることわずか 15
年のことである。
ちなみに,我が国の水力発電に着目すれは,最初の事業用水力発電所である蹴上発電所
は 1891 年(明治 24 年)に送電を開始している。また,最初の全国水力適地調査である
「第1次発電水力調査」は,明治 43 年~大正 2 年)に行われており,山内中将の地熱発
電適地調査に 2 年の遅れをとっている。
山内中将の死後の 1924 年(大正 13 年)
,大分県の高橋廉一氏は山内中将の噴気孔を譲
り受け,東京電灯㈱(現東京電力㈱)に援助を要請,翌 1925 年(大正 14 年)
,東京電灯
㈱研究所長太刀川平治博士が引き継ぎ,噴気井を「鶴見噴気孔」と命名,これを用いた発
電実験を試み,出力 1.12kW の地熱発電を我が国で初めて成功させた。
その後,太刀川博士の先駆的な調査研究の後,太刀川博士自身が 1927 年(昭和 2 年)
に大分県大岳温泉で深さ 90mの掘削を行い,蒸気噴出に成功している。この調査は発電
に結びつかなかったが,その 40 年後(1967 年:昭和 42 年)の大岳地熱発電所(九州電
力㈱)の運転開始に対する重要な伏線となった。
第二次世界大戦終了後の 1946 年(昭和 21 年)
,GHQが中心となって地熱開発が提唱
され,1947 年(昭和 22 年)には,我が国の地熱調査研究の中心となる地質調査所(現
地質調査総合センター)が開発地域選定のための調査研究を開始した。
地質調査所は,1951 年(昭和 26 年)大岳地区で地熱調査を開始し,1952 年(昭和 27
年)九州電力㈱が大岳地域で地熱開発調査を開始,1955 年(昭和 30 年)地質調査所が
岩手県松川地域で地熱調査を開始,1956 年東化工(現日本重化学工業㈱)が地熱開発調
査を開始した。
我が国で最初の実用化した地熱発電所は,意外と知られていないが,1960 年(昭和 35
年)に発電を開始した箱根小涌園での地熱発電所である。同発電所は,単段ラトー式の蒸
気タービンを利用した背圧式 30kW の地熱発電設備であるが,確認したところ,残念な
がら現在は廃止されているとのことであった。
以上のような調査研究及び実績の成果として,1966 年(昭和 41 年)岩手県松川地熱
発電所(当初認可出力 9,500kW,現在 23,500kW)が,翌年 1967 年(昭和 42 年)には
大分県大岳地熱発電所(当初認可出力 11,000kW,現 12,500kW)が運転を開始した。
松川地熱発電所は,我が国最初の蒸気卓越型の地熱発電所であり,大岳地熱発電所は,
我が国最初の熱水卓越型の地熱発電所である。
松川・大岳両地域以外でも東北地域及び九州地域で地熱発電開発調査が行われ,1974
2-2
年(昭和 49 年)には大沼地熱発電所(当初 6,000kW,現 9,500kW),鬼首地熱発電所(当
初 9,000kW,現 15,000kW)が運転を開始し,1977 年(昭和 52 年)に八丁原地熱発電
所1号機(当初 23,000kW,現 55,000kW),1978 年(昭和 53 年)には葛根田地熱発電
所1号機(50,000kW),森地熱発電所(当初 50,000kW,現 25,000kW)が運転を開始し
た。
1970 年代には2度のオイルショックを経験し,我が国政府も石油代替エネルギーとし
てサンシャイン計画などを通じて地熱開発に積極的に力を入れ,全国地熱基礎調査,地熱
開発精密調査,地熱開発基礎調査,全国地熱資源総合調査,地熱開発促進調査などが行わ
れ,地熱発電所建設に貢献した。
1990 年(平成 2 年)には八丁原地熱発電所2号機(55,000kW),1993 年(平成 5 年)
には上の岱地熱発電所
(30,000kW),1994 年(平成 6 年)には山川地熱発電所
(30,000kW),
澄川地熱発電所(50,000kW),1995 年(平成 7 年)には葛根田地熱発電所2号機
(30,000kW),柳津西山地熱発電所(65,000kW),大霧地熱発電所(30,000kW),1996
年(平成 8 年)には滝上地熱発電所(当初 25,000kW,現 27,500kW),1999 年(平成 11
年)には八丈島地熱発電所(3,300kW)が運転を開始した。
その間,中小規模の地熱発電所(杉乃井地熱発電所:1,900kW,霧島地熱発電所:100kW,
九重地熱発電所:990kW)が運転を開始,2006 年(平成 18 年)には八丁原地熱発電所
にバイナリー発電設備(2,000kW)が増設された。熊本県岳の湯地熱発電所(50kW)は,
1991 年(平成 3 年)に運転を開始したが 2002 年(平成 14 年)に廃止,また,森地熱発
電所は,前述のとおり,当初の認可出力 50,000kW を 2012 年(平成 24 年)に 25,000kW
に下げている。
その結果,2015 年 6 月現在での我が国の地熱発電所は,全国で 17 個所,認可出力は
520,365kW となっている(後述 表 2.1 参照)
。
このように,我が国の地熱発電は 1966 年に運転を開始した松川地熱発電所以来,その
後順調に増加してきたが,1997 年(平成 9 年)以降,10,000kW を超える地熱発電所が
建設されることなく地熱発電所停滞の傾向にあった。しかし,2011 年 3 月に発生した東
日本大震災及び福島第一原子力発電所事故を契機とし,改めて地熱発電が見直されてきて
いる。
(3) 我が国における地熱発電の課題
1966 年に松川地熱発電所(蒸気卓越型)が運転を開始し,翌 1967 年に大岳地熱発電
所(熱水卓越型)が運転を開始した。その後,新規の地熱開発は微増であったが,1989
年以降,とりわけ 1994 年以降急増し,1996 年(平成 8 年)には 500,000kW を超えた。
しかしならが,1999 年の八丈島地熱発電所院展開始以降現在まで,数千 kW 以下のバ
イナリー発電を除き本格的な地熱発電所の建設は行われなかった。
この間,国は,サンシャイン計画のもとで,太陽,石炭,水素と並び,地熱エネルギー
開発が促進された。特に,1980 年(昭和 55 年)~1997 年(平成 9 年)までは,年間 100
億円を超える予算が投入され,その結果,我が国には 20,000,000kW を超えるポテンシ
2-3
ャルがあることが明らかにされるとともに,世界をリードする技術革新も進んだ。
しかし,1990 年代後半以降,国は地熱開発に対し急速に開発意欲を失い,新エネルギ
ーからの地熱発電の除外,RPS法注1)適用から蒸気発電の除外,技術開発の停止,及び
地熱予算の急激な削減が続き,2010 年に民主党政権が導入した「事業仕分け」により,
地熱開発促進調査も終了となり,2011 年には,経済産業省の地熱関係予算はほとんど無
くなった。その結果,地熱発電関係予算としては,温泉バイナリー発電関係の環境省予算
のみとなった。
このような政策の急激な縮退は,国による投資の割に得られた成果が少ない(地熱発電
所の開発が少ない)ことが理由として挙げられているが,一方で原子力発電への傾斜の結
果ともいえる。
さらに,民間事業者においても,電力自由化のもと,高リスク低リターンの地熱発電事
業に対し,何らインセンティブが無い状態での新規開発は,全く困難であったといえる。
しかし,このような中でも 2006 年(平成 18 年)頃から,少しずつ転換の兆しが現れ
2008 年には経済産業省資源エネルギー庁内に「地熱発電に関する研究会」が組織され,
我が国における地熱発電の厳しい現状が総括されるとともに,地熱発電促進の種々の環境
整備が提言され,国の地熱政策転換の期待が持たれたが,大きな転換までには至らず,
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災及び福島第1原子力発電所の事故を迎えることになって
しまった。
東日本大震災は,深刻な福島第1原子力発電所事故を惹起し,我が国のエネルギー政策
は,根底から見直されることになった。
そのような中で,地熱発電に関する政策は大きく変わり始めた。経済産業省資源エネル
ギー庁の中では,新たに資源・燃料部が中心となって,地熱発電促進に動き出すことにな
った。平成 23 年 12 月,経済産業省は,資源・燃料の安定供給のための先行実施対策「地
熱資源の開発」の項の中で,「我が国のエネルギー需給構造の課題や現下のエネルギーを
取り巻く状況を鑑みれば,環境適合性に優れた長期固定電源の開発は喫緊の課題であり,
中でも,安定的な供給が期待され,かつ純国産エネルギー資源である地熱資源の開発を早
急に進める必要がある。」と表明し,明確に地熱開発促進策に転換した。
これらの結果から,平成 24 年度予算では,初期投資コスト負担の軽減として補助金と
して 90.5 億円,その他併せて 150 億円強,環境省も温泉バイナリー発電を中心として 10
億円強,両省併せて 160 億円強の予算要求を行った。これにより,サンシャイン計画以
来の国による地熱開発支援体制が出来上がった。
これらのほか,地熱開発に対する規制の緩和,及び地熱発電による電気を一般電気事業
者が購入する固定価格買い取り制度を導入した。
このように,地熱発電に関する国の支援体制が再構築されたが,我が国の地熱開発の障
壁となる3つの課題,すなわち「発電コスト問題」
,
「国立公園及び自然公園問題」
,
「温泉
問題」が再度浮上した。
さらに,上記の3つの課題に加え,最近は「生産蒸気の減少問題」も新たに浮上してき
た。
2-4
注1)RPS 法
2002 年 6 月に公布された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特
別措置法」(以下「RPS法」という。)は,電気事業者に対して,一定量以上の新エ
ネルギー等を利用して得られる電気の利用を義務付けることにより,新エネルギー
等の利用を 推進していくものである。
電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成 23
年法律第 108 号。以下「再生可能エネルギー特別措置法」という。)が 2012 年 7
月 1 日から施行されたことに伴い,RPS法は廃止された。
ア 発電コスト問題
電力自由化の中,原子力発電や石炭火力発電に比べて発電コストが割高である地熱
発電は,新規電源として採用されることは無く,1999 年運転開始の八丈島地熱発電所
以降,開発されてこなかった。
この問題の解決策として,2012 年 7 月 1 日に施行された再生可能エネルギー特別措
置法により,太陽光,風力,中小水力に加え,地熱発電が固定価格買取制度の対象と
なり,地熱発電は,15,000kW 未満で 40.0 円/15 年間,15,000kW 以上で 26.0 円/
15 年間(2016 年現在)で売電が可能となった。
この固定価格買い取り制度(FIT:Feed-in Tariff)によって,発電コスト問題は,
大きく改善されたといえる。
イ 国立公園及び自然公園問題
発電量に換算して 20,000,000kW 以上と推定される我が国の地熱ポテンシャルのう
ち,80%以上は国立公園特別地域内に存在することが知られていたが,従来は,この
中に,地熱発電所を建設することのみならず,地熱資源調査の実施も許されなかった
(ちなみに,我が国の包蔵水力は,17,800,000kW と見込まれている。出典:電気事
業便覧 平成 26 年版 P229)。
この問題に対し,環境省は平成 23 年度に検討会を作り議論を行い,その結果,最終
的には,一定の条件を満たすならば,特別地域二・三種では地熱発電所を建設するこ
とができるようになり,また,特別保護地域,特別地域一種でも地表調査ができるよ
うになった。
環境省から発報された骨子案によると「現下の情勢に鑑み特に,自然環境の保全と
地熱開発の調和が十分に図られる優良事例の検証を行うこととし,以下に掲げるよう
な特段の取り組みが行われる事例を選択し,掘削や工作物の設置の可能性について個
別に検討する」として,個別ケースに限定したうえ,地熱発電事業者,地方自治体,
地域住民,自然保護団体,及び温泉事業者などの関係者との地域における合意の形成
などを満たす場合に,国立公園特別地域二種,及び国立公園特別地域三種での地熱発
電所の建設を認める方針を打ち出した。
2-5
第一種特別地域の規制の要点
工作物の新増改築のうち建築物
既存の建築物の改築,建替,災害復旧のための新築又は
学術研究,公益上必要と認められる建築以外は許可しない。
ただし,これは一定の前進ではあるが,認可について具体的な基準等を示していな
い。経済産業省と環境省も 2013 年より,非公式ながら優良事例に関する検討を開始
しており,地熱発電事業者などからその成果が期待されている。
自然公園法施行規則
第二章 保護及び利用
(特別地域の区分)
第九条の二
国立公園又は国定公園に関する公園計画のうち,保護のための規制に関する計画を
定めるに当たっては,特別地域(特別保護地区を除く。以下同じ。)を次の各号のいず
れかに掲げる地域に区分するものとする。
一
第一種特別地域
特別保護地区に準ずる景観を有し,特別地域のうちでは風致を維持する必要性が
最も高い地域であって,現在の景観を極力保護することが必要な地域をいう。
二
第二種特別地域
第一種特別地域及び第三種特別地域以外の地域であって,特に農林漁業活動につ
いてはつとめて調整を図ることが必要な地域をいう。
三
第三種特別地域
特別地域のうちでは風致を維持する必要性が比較的低い地域であって,特に通常
の農林漁業活動については原則として風致の維持に影響を及ぼすおそれが少ない
地域をいう。
ウ 温泉問題
この問題は,地熱発電所が建設されると近傍の温泉が枯渇して営業ができなくなる
可能性があるとして,一部温泉関係者が地熱発電所の建設に反対し,調査も拒否され
る問題であり,地熱開発側にとっては大きな障害となっていた。この問題に対し環境
省は平成 23 年度に検討し,
「温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)」
を策定した。ただし,このガイドラインに対し,一部の温泉関係者は反対を表明し,
さらに反対運動を強めている。
我が国では,約 50 年の地熱発電の歴史があるが,温泉が枯渇したとされる例は無い
とされている。既設の地熱発電所とその周辺の温泉地は良好な関係を保っているが,
近年,高温温泉をまず発電に利用し(温泉バイナリー発電)
,一定程度温度の下がった
温泉水を浴用に使うという方法も着実に増加している。
2-6
エ 生産蒸気減少問題(文献 110)
従来から言われてきた発電コスト問題,国立公園及び自然公園問題並びに温泉問題
に加え,近年は生産蒸気の減少問題が新たに浮上してきている。
この対策として,これまでの自然に存在する貯留槽からの蒸気の生産(受動的)だ
けでなく,人工的に貯留槽を改善し(能動的)
,蒸気の安定生産もしくは出力の増加に
つなげようとする高温岩体発電技術が研究されており,この技術が活用されることが
期待されている。
(4) 日本で最初の地熱発電所及び水力発電所
前述のとおり,日本で最初の地熱発電所は箱根小涌園で設置された。
また,我が国で最初の事業用水力発電所は 1891 年(明治 24 年)に運転を開始した蹴
ゆ
ば
上発電所であるが,翌 1892 年には箱根湯本の須雲川に湯本湯端発電所(直流 25kW 箱
根電燈㈱)注2)が運転を開始した。蹴上発電所の水車・発電機は海外製であったが,箱根
湯端発電所は水車・発電機ともに国産第1号である。同発電所は,4年後の 1896 年(明
治 29 年)に 44kW に出力を増強した。その後,馬車鉄道の電化を進めてきた小田原電気
鉄道(現 箱根登山鉄道㈱)に買収されたが,須雲川上流に大型の水力発電所ができたこ
ともあり,1905 年(明治 38 年)に発電を停止し撤去された。
ホテル河鹿荘の横で湯本橋を渡ると,正面が吉池旅館。その玄関前に自然石に刻まれた
発祥碑が建つ。石碑には「日本水力発電発祥地跡」と書かれている。
注2)出典:文献 670
日本水力発電発祥の碑
2-7
2
地熱発電のしくみ
(1) 地下の構造
火山地帯の地下数 km から 10 数 km には約 1,000 ℃のマグマだまりがあり,多量の熱
を放出している。
雨水が地下深部(地下数 km 深程度)に浸透し,地球内部にある高温の岩石で温められ,
軽くなって上昇し(温められた水を熱水と言う),比較的浅部(深さ 1~3km程度)に溜
まったところ(地熱貯留層と呼ぶ)から蒸気・熱水をボーリングによって取り出すことに
よって,利用する。
この熱水が自然に地表にまで出てきているのが温泉である。
火山の近くでは,普通のところに比べ,浅いところで高温になっているが,火山の深部
(地下数~10 数 km 程度)には,高温のマグマ(溶けた岩石)が存在するからである。
したがって,マグマより浅い部分に地熱貯留層ができることになる。
なおマグマが溶けていなくても,今も高温であれば(たとえば 300 ℃以上)
,比較的浅
部に地熱貯留層を作ることが可能である。
図 2.1 には,マグマ溜りに温められた
地熱貯留層(天然のボイラー)に掘削さ
れた生産井及び還元井を示している。
この生産井は,マグマの熱で高温とな
っている地中深く
(地下 1,000~3,000m
程度)の地熱貯留層より地熱流体を取り
出し,熱水と蒸気に分離し,蒸気は地熱
発電所のタービンを回転させて発電す
る。分離された熱水は,還元井に送られ
地熱貯留層
地熱貯留層に戻すことで循環させてい
る。
図 2.1
地熱発電の仕組み
以下に最も一般的なフラッシュ発電,我が国では1地点のみのドライスチーム発電,並
びに近年我が国でも採用事例が増えているバイナリー発電を記す。
2-8
(2) フラッシュ発電
フラッシュ発電では,地熱流体中の蒸気で直接タービンを回す。
主として 200 ℃以上の高温地熱流体での発電に適しており,最も一般的なシングルフ
ラッシュ式は図 2.2 のように発電する。
図 2.2
地熱発電のしくみ
出典)日本地熱協会HP
http://www.chinetsukyokai.com/information/index.htm
l
① 地熱貯留層に 生産井を掘り,地熱流体を取り出す。
② セパレータ(気水(汽水)分離器)で地熱流体を蒸気と熱水に分け,熱水は
還元井から地下に戻す。
③ 蒸気でタービンを回転させ,発電する。
④ 発電し終わった蒸気は復水器で温水にし,さらに冷却塔で冷やしたのち,復
水器に循環して蒸気の冷却に使用する。
我が国では,地熱流体から一度蒸気を取り出して発電するシングルフラッシュ式の発電
所が多いが,セパレータで分離した熱水から再度蒸気を取り出して発電に用いるダブルフ
ラッシュ式の発電所もある。さらに,ニュージーランドにはトリプルフラッシュ式の発電
所がる。
(3) ドライスチーム発電
坑口から蒸気のみが噴出する生産井では,気水分離器が必要なく,そのままタービンを
回す方式をいう。我が国では,松川地熱発電所が該当する。
2-9
(4) バイナリー発電
近年では,内外を問わず,発電方式としてバイナリー式を採用する発電所が増えている。
バイナリー発電の代表的な熱源は温泉であり,バイナリー発電を略して温泉発電という
こともある。
地熱におけるバイナリー発電では,地熱流体に暖められて蒸気化した別の流体(二次媒
体)でタービンを回しており,フラッシュ発電と比較して次の特徴がある(図 2.3 参照)
。
① 地下から取り出された地熱流体は,二次媒体を蒸気化するために利用する。
② 地熱流体,二次媒体とも密閉した中で運転・循環使用を行うため,大気放出を
行わない。
③ 二次媒体には,水より沸点の低い炭化水素,新フロン及びアンモニア等を使用
するため,200 ℃未満の地熱流体,具体的には 150 ℃~70 ℃程度の温泉,及
び沸点の低い二次媒体の蒸気によって発電する。
④ 発電を終え温度の下がった温泉水は,浴用温泉などに利用する。
図 2.3
地熱バイナリー発電のしくみ
出典)日本地熱協会HP
http://www.chinetsukyokai.com/information/index.html
2-10
バイナリー発電は,近年,温泉ホテルなどで設置されてきているが,具体的な例として
牧の戸温泉(大分県玖珠郡九重町)ある九重観光ホテルの自家用地熱発電所を示す。同発
電所は 1998 年(平成 10 年)に運転を開始し,現在の出力は 900kW である。蒸気井か
らの蒸気は,発電のほか,館内の暖房,給湯にも利用されている。
出典)九重観光ホテルHP
①蒸気井
地下の地熱貯留層から蒸気を取り出すための井戸
である。
・ この蒸気をタービンに送り込んで発電する。
・ 九重地熱発電所には蒸気井が2本あり,その深
さは 350m及び 400mである。
②二相流体輸送管
蒸気と熱水が混じっている流体を井戸から発電所
まで送る管である。
2-11
http://igigeothermal.jp/qa.php
③気水分離器
蒸気井から輸送管を通ってきた流体を蒸気と熱
水に分離する装置である。
・分離された蒸気は発電所のタービンへ送られる。
残りの熱水は温泉として利用される。
④タービン,⑤発電機
タービンは発電機を回す為のもので,蒸気の力に
よって回る羽根車である。回転数は 1,800min-1
である。
⑤冷却塔
タービンを回した後の蒸気は冷やされて温水にな
るが,冷却塔はこの温水をさらに空気で冷やす装
置である。
冷やされた温水は,タービンの出力を上げるため
蒸気を冷やす冷却水として再び使用される。
このような優れた特徴を有するバイナリー発電であるが,いくつか考慮すべき課題も挙
げられる。
図 2.4 は小浜温泉バイナリー発電所の発電システムについて,発電実施前に想定された
課題を示すと同時に発電開始後に顕在化した課題を示したものである。温泉発電を実施す
る場合に,以下の課題の解決に注力しなければならない。
・熱水の安定供給
・冷却水の安定供給
・熱水配管は短くなるよう計画する
・メンテナンス頻度の低減
発電規模を大きくするために複数の温泉井を利用したり,地形条件で熱水配管が長くな
ると,コスト増や熱水の温度低下,それに伴いスケールが付着しやすくなるといったこと
が顕在化する。
1次熱交換機のメンテナンス頻度の低減も,スケール除去作業の低減対策が重要である
ことを示唆している。
2-12
出典)平成 25 年度小規模地熱発電のうち温泉発電導入促進のため
の手引書
平成 26 年 2 月 P32
図 2.4 バイナリー発電の課題
2-13
3
地熱探査技術の概要
地熱開発を目指すためには,地熱探査技術について把握しておくことが必要である。本
項では,その概要を整理する。
(1) 地熱探査の区分
地熱探査は,一般に地上調査を主体とした概査,調査井掘削や試験及び評価を実施する
精査に分けられ,概査結果の評価を踏まえて,精査実施の判断,精査の計画と仕様の設定
が行われる。
(2) 概査
概査の主な目的は,次のとおりである。
① 概査の対象となる調査地域の絞り込みと選定を行う。
② 調査地域とその周辺の地質構造と熱源を把握する。
③ 調査地域の地熱資源の賦存量を確認する。
④ 精査への移行判断と精査実施時の仕様設定に必要な情報を得る。
概査において実施する主な検討事項は,以下のとおりである。
ア 文献調査,及び既存情報の分析
文献調査などから候補地域の地熱資源の賦存の可能性を把握し,地権者,
自然公園,
国有林,温泉事業者などの情報を得て,概査の対象となる調査地域を選定する。
イ 地熱探査(概査)の方針及び仕様の決定
文献調査等で得られた情報をもとに,地熱探査(概査)の範囲,内容及び仕様など
を決定する。ここまでの段階で,必要に応じ,現地での状況調査及び予備的な地質調
査を実施する。
ウ 地表調査
地質・変質帯調査,地化学調査,物理探査(MT 法注3)電磁探査注4),重力探査な
ど)を実施し,各調査の結果に基づく総合的な検討を行うことで,調査地域とその周
辺の地質構造と熱源を把握し,調査地域内の地熱資源の賦存状況を確認する。
注3)MT 法とは
MT(Magneto-Telluric:地磁気地電流)法は,磁場センサと電場センサで自
然の地磁気と地電流を観測して地下深部の地下構造を探査する探査法であ
る。探査の対象となる深度は地下数 km であり,人工的な電磁波を利用する
CSAMT 法に比べより深部までの比抵抗分布の把握が可能になる。
2-14
注4)重力探査とは
重力探査の物理学的な基本原理は万有引力の法則で,地下を構成する土や
岩の密度差を利用して地下構造を調査する方法である。
重力探査は,広域の地下構造を安価・迅速に調査するための概査法として,
主に堆積盆地の広がりや堆積層の層厚,地質構造の概要を知るために用いら
れてきた。
また,広域的な地下深部の構造調査においては,屈折法・反射法地震探査,
深部ボーリングなどが用地的・経済的理由で十分な調査密度で行えない場合
に,補完データとして重力探査結果を利用することにより,3次元的な地下
構造モデルを作成することができる。
エ 調査井掘削,坑井調査・試験
調査井掘削と坑井調査(カッティングス調査,物理検層など)を実施し,地質情報,
亀裂と地熱流体の存在,坑内温度などを確認する。
次に,坑井試験(注水試験,短期噴出試験)を実施し,坑井の特性,地熱流体の性
状を確認する。
調査井掘削と試験時には,並行して温泉や河川などの調査を含む環境影響調査を実
施する。
この段階の調査井掘削は,構造試錐とも呼ばれ,坑井の最終坑径は小坑径(100mm
程度),又は中坑径(150mm 程度)が一般的である。
オ 資源量評価
上記の結果に基づく地熱系概念モデルと簡易数値モデルを用いたシミュレーショ
ンによる地熱貯留層評価を行い,調査区域内の予備的な資源量評価を行う。この段階
での資源量評価は事業化を判断するための最終評価ではなく,概査の情報を用いた予
備的な資源量評価で,精査に移行するか否かの判断材料として利用する。
カ 精査実施の判断と仕様の検討
概査の結果を総合的に検討・評価し,精査に移行するか否かの判断を行う。精査に
移行する場合,概査の結果を踏まえて,地熱探査(精査)の方針と仕様を決定する。
2-15
(3) 精査
精査の主な目的は,次のとおりである。
① 調査地域の地熱貯留層の詳細な構造を把握する。
② 調査地域の熱水蒸気の賦存状況と性状を確認する。
③ 資源量評価,経済性評価を行い,事業化への移行判断と事業化計画の策定に必
要な情報を得る。
精査において実施する主な検討事項は,以下のとおりである。
ア 補完的地表調査
概査の結果を踏まえて,補完的な地表調査の必要性を検討し,調査井の掘削ターゲ
ットの選定や地熱系モデルの高精度化に有効と判断された場合に実施する。
イ 調査井掘削,坑井調査及び試験
概査の結果を踏まえて,調査井の仕様と掘削ターゲットを決定する。調査井掘削と
坑井調査(カッティングス調査注5))
,物理検層注6),坑内サンプリングなど)を実施
して,地質情報,亀裂や地熱流体の存在,温度情報などを確認する。次に,注水試験,
短期噴出試験を実施して,坑井の特性,地熱流体の性状を確認する。調査井掘削と試
験時には,並行して温度や河川などの調査を含む環境影響調査を実施する。
この段階の調査井は,将来の生産井,
還元井,モニタリング井への転用を考慮して,
最終径を中坑径(150mm 程度)または大坑径(250mm 程度)とする場合が多い。
注5)カッティングスとは
坑井掘削時に,ビットによって掘り起こされた岩石の小片をいう。
このカッティングスは,坑井の掘進に伴って掘削泥水に混じって地上に運
ばれ,坑井内の各深度に出現する地下の地質の直接の証拠として,その岩石
の種類,鉱物組織,構成粒子の粒度分布,含有微化石の種類,油徴の有無な
どの調査の対象となるとともに,それ以降の掘削作業の段どり(ビットの選
択,泥水の調整,暴噴・逸泥などの対策)などを立てることができる。
注6)物理検層とは
物理探査の一種。試錐によって岩石試料を採取することなく,掘削された
坑井内において,ある種の物理量を深度に対応して連続的に測定し,地層,
坑井内の状態を調査する方法。石油坑井の調査のために発達したもので,油
層,ガス層の検出には,直接コアを採取するよりもこの方法によるほうが有
効である。
ウ 長期噴出試験等
候補地域内に掘削した複数の坑井を用いて,長期の一斉噴出試験(原則として連続
3ヶ月以上)を実施し,蒸気熱水の生産量,還元量,性状など,貯留槽評価に必要な
データを得る。また,坑井スケール注7)の付着状況,温泉をはじめとする周辺環境へ
の影響などを観測して,事業化計画の策定に必要な情報を得る。
2-16
注7)坑井スケールとは
熱水輸送管やボイラーなどに沈積した「付着物」のことで,その沈積形状
が魚の鱗(うろこ)状であることから「スケール」と呼ばれるようになった。
地熱発電所で発生するスケールは,アモルファスシリカ(SiO2)を主体と
するシリカスケールの他,CaCO3(カルサイト,アラゴナイトなど)や CaSO4
(アンハイドライトなど)などのカルシウム系スケール,Fe・Al・Zn・Mn
などの金属硫化物・酸化物系スケールなど様々なスケールが確認されている。
生成するスケールの成分・性質は地熱流体の性状・温度・圧力条件などに
よって大きく異なる。
地熱発電所でスケールの付着障害が発生しやすい箇所は熱水配管・熱交換
器など温度降下が起こる部分である。
これら地上施設では,主としてシリカスケールが生じるが,地熱水の性状
によって金属硫化物や酸化物を含んだ複合スケールが付着したり,生産井
(蒸気井)から同伴された岩砕などの固形物の混入も障害となる。また,生
産井・還元井の減衰原因として,坑井内でのスケール付着あるいは地層内で
のスケール付着が挙げられる。生産井で発生するスケールは通常は CaCO3 ス
ケールであるが,一部の地熱地域では CaSO4 スケールやシリカスケールも発
生している。一方,還元井では,坑井内でのスケール付着よりも坑井周辺で
のシリカスケール生成による地下透水層の目詰まりが問題となっている。
エ 資源量評価等
地方調査,坑井調査,長期噴出試験などの結果を踏まえて地熱系概念モデルの更新
と数値モデルの作成を行い,これらのモデルに基づくシミュレーションによる地熱貯
留層評価を実施して,調査地域内の資源量評価と生産予測を行う。
オ 総合評価
資源量評価,生産予測,蒸気熱水の性状,坑井スケールの付着状況,環境影響調査
などの情報に基づき,生産出力,発電方式,必要な設備などを考慮した経済性評価を
行って,事業化への移行を判断する。
以上のとおり,地熱開発は多岐の調査が行われるが,これは,事業として地熱発電所を
運営していくためにはどのくらいの地熱資源量が賦存しており,かつどのくらいの時間で
地熱資源が再生されるかを見極める必要があることによる。
また,地熱開発は事業者のリスクが大きいという理由により,まず国による調査が行わ
れ,開発を志向する事業者は,この国の調査結果を踏まえ,さらに独自の調査を継続した
のち,地熱発電所が建設される。そのため,調査を開始してから地熱発電所が運転を開始
するまでには,かなりの時間が必要となる。
2-17
(4) 地熱開発促進調査地点
1973 年(昭和 48 年)の第1次オイルショックにより,国は石油代替エネルギーの開
発を目指して通商産業省(現 経済産業省)にサンシャイン計画推進本部を設立して技術
開発に努めるとともに,1985 年(昭和 60 年)に NEDO(現 国立研究開発法人 新エネ
ルギー・産業技術総合開発機構)を設立し,全国的な地熱開発促進調査(以下,促進調査
と記す)を開始した。
この調査は,開始年度によって内容に多少の違いがあるが,全国の地熱兆候のある地域
を対象として実施された。
1992 年(平成 4 年)からは調査内容を明確にした3通り(調査 A,調査 B,及び調査
C)の調査を設定し実施した。
図 2.5 に調査地点を示す。この調査で 28 地点が噴気に成功した(図中朱書きの地点)。
調査A:高温地熱地帯の確認
調査B:地熱貯留層の確認
調査C:地熱資源量の把握
図 2.5
地熱開発促進調査地点
出典)トコトンやさしい地熱発電の本
2-18
日刊工業新聞社
4
我が国の地熱資源量
(1) 開発可能総出力
我が国の地熱資源量は,地熱エネルギーハンドブック P837 に,以下のとおりとりまと
められている。
① 150 ℃以上の熱水系資源量(主に蒸気フラッシュ式発電による資源量)は 2,347
万 kW,150~120 ℃の熱水系資源量(主にバイナリー発電による資源量)は 106
万 kW,120~53 ℃の熱水系資源量(主に温泉発電による資源量)は 833 万 kW,
以上合わせて 3,286 万 kW と見積もられている。
② これらは,いずれも,すでにある技術によって開発可能な資源量である。しかし,
これらの資源をすべて開発しつくしたとしても日本の総発電設備約 2.9 億 kW(平
成 26 年 3 月現在 電気事業便覧 H26 年版)の 11%程度にしかすぎない。
(2) 全国地熱ポテンシャルマップ
① 「全国地熱ポテンシャルマップ」とは,独立行政法人 産業技術総合研究所 地質調
査総合センターが市販しているもので,日本全国の地熱資源(特に熱水系資源)の
ポテンシャル及び特性に関する様々な基礎情報を,全国規模から縮尺 1/20 万分程
度の地形図に表示する地熱資源表示ツールである。
② 「全国地熱ポテンシャルマップ」の最も基礎になるデータは,全国から収集した
7,203 個の温泉化学分析値データと 3,066 個の坑井地温データである。その他とし
て熱水湧出温度,熱水 pH,自然公園区域なども収められている。
③ 図 2.6 は,貯留層温度 100 ℃以上のポテンシャルマップである。日本地図を発電
量別に色分けている。同図から,北海道,東北地方,及び九州地方のポテンシャル
が高いことがわかる。一方,箱根及び湯河原を有する神奈川県のポテンシャルは高
くない。
④ 図 2.7 は,活動度指数と国内の地熱発電所の位置を示したものである。図 2.6 で示
すポテンシャルの高い地域に地熱発電所が建設されていることがわかる。
⑤ 図 2.6 及び図 2.7 に示すとおり,神奈川県は地熱のポテンシャルが高くないことが
わかる。
⑥ 図 2.8 及び図 2.9 は,FIT の創設前と創設後の地熱発電所を記したものである。FIT
の創設によりわずか約3年間で9カ所の地熱発電所が運転を開始している。なお,
当該9地点は,図中の凡例に示すとおり,いずれの地点も 150 ℃以上の地熱貯留
層の存在する地域である。
2-19
凡例
図 2.6 貯留層温度 100 ℃以上の発電量
出典)全国地熱ポテンシャルマップ
図 2.7
活動度指数と地熱発電所位置図
出典)日本地熱協会 HP
http://www.chinetsukyokai.com/information/nihon.html
2-20
図 2.8
FIT 創設前に稼働した地熱発電所
図 2.9
FIT 創設後に稼働した地熱発電所
出典)再生可能エネルギー各電源の導入の動向について
平成 27 年 3 月 資源エネルギー庁
2-21
表 2.1
地熱発電所一覧 (2015 年 6 月現在)
出典)日本地熱協会 HP
http://www.chinetsukyokai.com/information/nihon.html
名称
1 森発電所注1)
2 松川地熱発電所
カッコンダ
所在地
北海道 森町
岩手県 八幡平市
事業者
発電
認可/認定出力
蒸気・熱水供給
(kW)
発電方式 運転開始
北海道電力(株)
25,000
DF
1982/11
東北自然エネルギー(株)
23,500
DS
1966/10
(1号) 50,000
SF
1978/5
(2号) 30,000
SF
1996/3
9,500
SF
1974/6
3 葛根田地熱発電所
岩手県 雫石町
4 大沼地熱発電所
秋田県 鹿角市
5 澄川地熱発電所
秋田県 鹿角市
東北電力(株)
三菱マテリアル(株)
50,000
SF
1995/3
秋田県 湯沢市
東北電力(株)
東北自然エネルギー(株)
28,800
SF
1994/3
15,000
SF
1975/3
65,000
SF
1995/5
20
B
2014/4
3,300
SF
1999/3
40
B
2014/4
1,900
SF
2006/4
(株)瀬戸内自然エナジー
48
B
2013/1
F
ウエ
ダイ
6 上の岱地熱発電所
オニコウベ
東北電力(株)
FIT制度
活用の有無
東北自然エネルギー(株)
三菱マテリアル(株)
電源開発(株)
7 鬼首地熱発電所
宮城県 大崎市
8 柳津西山地熱発電所
福島県 柳津町
七味温泉ホテル渓山亭
9
バイナリー発電所
長野県 高山村
七味温泉ホテル(株)
10 八丈島地熱発電所
東京都 八丈町
東京電力(株)
湯村温泉観光交流センター
11
兵庫県 新温泉町
薬師湯温泉バイナリー発電所
12 杉乃井地熱発電所
大分県 別府市
13 瀬戸内自然エナジー発電所 大分県 別府市
ゴ トウ エン
東北電力(株)
奥会津地熱(株)
新温泉町
(株)杉乃井ホテル
F
14 五湯苑地熱発電所
大分県 別府市
西日本地熱発電(株)
92
B
2014/1
F
15 タタラ第一発電所
大分県 別府市
西日本地熱発電(株)
49
B
2014/7
F
16 湯山地熱発電所
大分県 別府市
西日本地熱発電(株)
100
B
2014/10
F
17 亀の井発電所
大分県 別府市
地熱ワールド工業(株)
11
B
2014/11
F
コスモテック別府
18
バイナリー発電所
大分県 別府市
(株)コスモテック
500
B
2014/11
F
19 滝上発電所
大分県 九重町
27,500
SF
1996/11
990
SF
2000/12
12,500
SF
1967/8
(1号) 55,000
DF
1977/6
(2号) 55,000
DF
1990/6
2,000
B
2006/4
5,000
B
2015/6
F
50
B
2014/4
F
1,995
SF
2014/12
F
30,000
SF
1996/3
100
SF
2010/11
25,960
SF
1995/3
1,410
B
2015/2
クジュウ
20 九重地熱発電所
オオタケ
21 大岳発電所
ハッチョウ
ハル
22 八丁原発電所
23 菅原バイナリー発電所
オグニ
九州電力(株)
出光大分地熱(株)
大分県 九重町
九重観光ホテル
大分県 九重町
九州電力(株)
大分県 九重町
大分県 九重町
九州電力(株)
九電みらいエナジー(株)
九重町
24 小国まつや地熱発電所
熊本県 小国町
(合)小国まつや発電所
25 わいた地熱発電所
熊本県 小国町
合同会社 わいた会
オオギリ
26 大霧発電所
鹿児島県 霧島市
27 霧島国際ホテル地熱発電所 鹿児島県 霧島市
28 山川発電所
イブスキ
29 メディポリス指宿発電所
九州電力(株)
日鉄鉱業(株)
大和紡観光(株)
鹿児島県 指宿市
九州電力(株)
鹿児島県 指宿市
(株)メディポリスエナジー
合計520,365
注1) 森発電所=当初50,000kW,現25,000kW
発電方式 DS:ドライスチーム
SF::シングルフラッシュ
DF:ダブルフラッシュ
B:バイナリー
2-22
F
F
5
神奈川県西部の地熱エネルギー
前項までは,全国的な地熱エネルギーを整理したが,本項では,神奈川県西部に着目し
て整理を行った。
(1) 活動度指数と地熱発電所の関係
前掲「4 我が国の地熱資源量」の項で記した「全国ポテンシャルマップ」に示すとお
り,地熱エネルギーは,北海道,東北地方,及び九州地方が卓越している。
図 2.10 は東北地方の,図 2.11 は九州地方の地熱発電所地点と等活動度指数面を示した
ものである。いずれも活動度指数が 70 以上の地域に地熱発電所が建設されている。
図 2.10
東北地方の地熱発電所位置と等活動度指数面
出典)全国地熱ポテンシャルマップ
2-23
図 2.11
九州地方の地熱発電所位置と等活動度指数面
出典)全国地熱ポテンシャルマップ
(2) 神奈川西部の活動度指数
図 2.12 は,神奈川県西部の等活動度指数面を示すものである。
同図に示すとおり,箱根地区での活動度指数は最大でも 60~70 であり,東北地方や九
州地方の地熱発電所付近の活動度指数(70 以上)より低い値を示している。湯河原地区
はさらに活動度指数が小さく,20 程度以下である。
これは前掲「図 2.5 地熱開発促進調査地点」で示すとおり,神奈川県内での調査は行
われていないため得られたデータ数が僅かであったか,あるいは,そもそも有望な地熱開
発地点ではなかったのか不明であるが,いずれにしても現時点で得られる情報では,神奈
川県西部は地熱発電の適地とはいいがたいといえる。
2-24
図 2.12
神奈川県西部の等活動度指数面
活動度指数とは
下式で表される指数で,地熱帯の活発さを表している。この値が高いほど,地熱帯が活
発である。
AI
=
ここに,
AI
Tb
Tm
Tg
1-
:
:
:
:
Tb - Tm
Tb + Tg
× 100
活動度指数
観測深度における高温条件の密度減少を考慮した純水の静水圧沸騰曲線温度
観測深度における最高の坑井温度
観測深度における平均的な地温勾配3°C/100mで与えられる温度
(3) 富士山周辺の地熱兆候
富士山は日本を代表する火山である。箱根,河口湖,富士川流域などでの大規模な地熱
兆候は見られない。地熱資源が形成されるためには,ある程度の年月が必要とされ,これ
は,地熱の三要素である,熱,水,貯留構造のうち,熱水が溜まる亀裂とともに地熱資源
の上方への拡散を防ぐキャップロックから成る貯留構造ができないためと考えられてい
る。
キャップロックの形成には,ある程度の時間(30~40 万年程度)を必要とし,地下か
らマグマが噴出して火山ができ,その後,ある程度の時間を経て地熱貯留層が形成される
と考えられている(出典:トコトンやさしい地熱発電の本 日刊工業新聞社)
。
2-25
6
箱根の地熱利用状況
(1) 大涌谷噴気地域
参考文献:520
箱根町 HP
https://www.town.hakone.kanagawa.jp/hakone_j/content/00000
5747.gif
箱根温泉供給㈱HP
http://www.hakoneonsen.com/jyoukisei.html
箱根ジオパーク HP
http://www.hakone-geopark.jp/area-guide/001oowakudani.html
大涌谷噴気地域は箱根中央火口丘北部に位置する箱根火山最大の噴気地帯である。この
地域は 1910 年(明治 43 年)に死者 6 名を出す土石流災害が発生したのをはじめとして,
近年に至るまで大小多数の地すべり性の崩壊を引き起こしているほか,12~13 世紀頃に
は水蒸気爆発が発生している。
現在の大涌谷の噴気はいずれも沸点以下のもので,硫化水素を含み,周囲はその臭いに
包まれ,強酸性の土壌が表面を覆っている。
大涌谷の蒸気(温泉)利用は明治時代からで,本格的には箱根温泉供給(株)による造成
温泉注8)の供給事業が開始された 1933 年(昭和8年)からである。
大涌谷は,箱根の最高峰神山の北西に広がる約10万平方米の傾斜地で,標高は 800
~1,070m,その 70%が噴蒸熱源地帯であり放熱量は1×107kcal/sec といわれている。
しかしこの地域より自然に湧出する温泉は少なく,もともと(大正時代~昭和 10 年頃)
は,湧水・降水を利用し造成したものが大半であり季節,天候に大きく左右され一定量を
供給することが大変難しい時代であった。
その後,1930 年(昭和 5 年)に箱根温泉供給㈱が設立され,同時に大涌谷に噴出する
多くの蒸気(火山性ガス)を有効的に利用できるように,仙石原イタリ湿原地帯(現・箱
根カントリー倶楽部地内)に温泉用水を求め,大涌谷まで高低差 350m,総延長 2,600m
の鋼管を布設しポンプ動力として大型ディーゼルエンジンを使用,大涌谷までの間に三つ
の貯水池計画を打ち出した。
これと同時に奥箱根の広大な地域への送湯管(総延長 14,500m)工事も開始し,約6年の
歳月を費やし完成させた。それから,現在までに随時施設を改修・増強し揚水能力も日量
最大 5,000m3 となっている。
このように大涌谷は,当初より蒸気を利用して温泉を造成し現在に至っている。
現在は,箱根温泉供給㈱社有地内の 14 本の蒸気井で,地下から取り出した約 150 ℃の
蒸気に水を混ぜて温泉を作り旅館及び保養所等に供給している。この 14 本の蒸気井は噴
気地域の中~下部にあり,深さ約 100~500mのボーリング孔である。
供給される造成温泉は PH2.9,泉温 64.7 ℃で酸性カルシウム及び硫酸塩を主体とした
温泉である。
2-26
注8)造成温泉とは
造成温泉(ぞうせいおんせん)とは,地中や蒸気に水を通すなど
の手法により人工的に作られた湯で,温泉法の基準を満たしてい
るものをいう。主に,高温の火山性ガスが噴出する火山地域で見
うけられる温泉の形態である。
図 2.13
造成温泉の概念図
なお,大涌谷の地熱のその他の利用として,製造した造成温泉を利用した「黒たまご」
が挙げられる。
「黒たまご」は,生卵を温泉池でゆでると,気孔の多い殻に鉄分(温泉池
の成分)が付着し,これに硫化水素が反応して硫化鉄(黒色)となり,黒い殻のゆで玉子
ができあがり,大涌谷への集客に寄与している。
写真1
大涌谷の黒たまご
出典)http://shop.plaza.rakuten.co.jp/vari/diary/detail/201204030000
http://4travel.jp/travelogue/10946207
2-27
(2) 箱根の温泉
ア 温泉の定義
箱根の温泉を整理する前に,「我が国の温泉の定義」を以下に記す。
我が国の温泉法上の「温泉」は,1948 年(昭和 23 年)に制定され,その後 2001 年
(平成 13 年)において改正された。
『この法律で「温泉」とは,地中から湧出する温水,鉱水及び水蒸気その他のガス(炭
化水素を主成分とする天然ガスを除く)で,別表(第3表)に掲げる温度又は物質を有
する者をいう。』
と定められている。
第3表 温泉法上の温泉の定義
1.温度(源泉から採取されるときの温度)摂氏 25 度以上
2.物質(下記に掲げるもののうち,いずれかひとつ)
出典)環境省HP
https://www.env.go.jp/nature/onsen/point/
これによれば,温泉の定義注9)は,第 3 表の温度 25 ℃以上で定義されるものと,第
3 表の特定成分を一定以上に含む含有成分で定義されるものとに分けられる。
直感的には,前者を狭義の温泉,後者を鉱泉と呼びたいところであるが,“鉱泉分析
法指針(平成 26 年改訂)環境省自然環境局”によれば,これら全体を鉱泉と定義して
おり,温泉や鉱泉という用語についてはその使用法に関して明確に定められていない。
しかし,この温泉法上の温泉という定義は歴史的に永く踏襲されてきた経緯があり,
現行の温泉に関する商業活動も,全てこれに従って行われている。
2-28
注9)鉱泉の定義
1-1 鉱泉の定義
鉱泉とは,地中から湧出する温水および鉱水の泉水で,多量の固形物質,
またはガス状物質,もしくは特殊な物質を含むか,あるいは泉温が,源泉周
囲の年平均気温より常に著しく高いものをいう。
温泉法にいう「温泉」は,鉱泉の他,地中より湧出する水蒸気およびその
他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)を包含する定義である。
(以下,省略)
1-2 鉱泉の分類
(1) 泉温の分類
鉱泉が,地上に湧出したときの温度,または採取したときの温度を泉
温という。鉱泉を泉温により次のとおり分類する。
泉 温
冷鉱泉 25 ℃未満
低温泉 25 ℃以上 34 ℃未満
温泉 温 泉 34 ℃以上 42 ℃未満
高温泉 42 ℃以上
(2) 液性の分類
鉱泉の液性を湧出時の pH 値により次のとおり分類する。
酸性 pH 3 未満
弱酸性 pH 3 以上 6 未満
中性 pH 6 以上 7.5 未満
弱アルカリ性 pH 7.5 以上 8.5 未満
アルカリ性 pH 8.5 以上
出典)鉱泉分析法指針(平成 26 年改訂)環境省自然環境局
また,箱根町には多くの観光客が訪れ,宿泊者数は全国1位であるが,宿泊者1人当た
りの温泉の湧出(揚湯)量は 1.7ℓ/min であり,他の地域より少ない。すなわち,限られた
温泉を最大に有効活用していることがわかる(表 2.2 参照)
。
2-29
表 2.2
温泉地の湧出湧出(揚湯)量と宿泊者数等
都道
府県
温泉の
湧出(揚湯)量
(ℓ/min)
1日当たりの
宿泊者数
(人)
別府温泉郷
大分
83,296
7,055
11.8
湯布院
大分
43,949
1,773
24.8
奥飛騨温泉郷
岐阜
36,908
852
43.3
伊東
静岡
33,873
6,864
4.9
草津
群馬
32,300
4,844
6.7
指宿
鹿児島
25,091
1,323
19.0
箱根温泉郷
神奈川
21,835
12,729
1.7
熱海温泉郷
静岡
17,531
7,904
2.2
東伊豆町温泉郷
静岡
15,386
2,775
5.8
温泉地
出典)箱根温泉熱利用検討報告書
宿泊者1人
当たりの湧出(揚湯)量
(ℓ/min)
平成 26 年 3 月
箱根温泉熱利用検討会
イ 箱根湯本の温泉
(出典)文献
500)
箱根の温泉公式ガイド 箱ピタ
http://www.hakone-ryokan.or.jp/hakopedia/?p=1629
箱根の温泉の開湯は,奈良時代の天平 10 年(738
年)と言われており,この源泉(惣湯)は現在でも
使用されている。惣湯の場所は,現在の箱根湯本に
位置する湯本熊野神社である。
鎌倉時代や室町時代にも箱根湯本温泉で湯治が行
われていたという史料が残されているが,江戸時代
になると湯宿が整備され,関東各地かの湯治客が訪
箱根温泉開湯の碑
(湯本熊野神社)
れるようになった。
明治時代の中頃までは,箱根湯本温泉の源泉は総
湯(惣湯)1 本だけであったが,1890 年代(明治 25 年前後)に湯坂山の麓で横穴が掘
削され,温泉が探し当てられた。
大正末から昭和の初め頃には,竪穴の温泉開発が盛んに行われるようになり,鉄道の
開通と相まって源泉数は急速に増加し,温泉台帳の整備された 1930 年(昭和 5 年)に
は箱根湯本温泉の源泉数は 17 ヶ所となった。
2-30
その後,第二次大戦の影響により新しい温泉の開発はほとんど行われなくなったが,
1950 年代(昭和 25 年以降)にはいると再び活発な開発が始まり,1958 年(昭和 33
年)には源泉の数は 36 所にまで増加した。その後も源泉数は増加を続け,2007 年(平
成 19 年)には,源泉の総数は 77 ヶ所にまで増加した。
箱根湯本温泉の源泉で最も深いものは,地表から約 1,500mである。2006 年(平成
18 年)に箱根湯本温泉の 60 ヶ所を調査した結果から得られた平均値は,温度は 51.2 ℃,
揚湯量は 1 分間に 66 リットルであった。この温泉は,1980 年(昭和 55 年)頃までは,
エアリフト注 10)での揚湯が一般的であった。
エアリフトとは,温泉の井戸に空気を送り込み,温泉を空気と混ぜて汲み上げる方法
で,構造が単純なため壊れにくく,孔井内水位が 10m以上になってもいっこうにかまわ
ない。エアリフトの出現によって,孔内水位の深くなる山の斜面でも温泉井戸の開発が
できるようになったが,温泉開発に威力を発揮したエアリフトのすぐれた性能こそが温
泉枯渇を招く大きな要因となった。
その後,技術の進歩やさらに深い温泉を汲み上げるため,水中ポンプの利用が増加し,
現在ではエアリフトと水中ポンプの使用割合は,ほぼ同数となっている。
注 10)エアリフトとは
地上に設けられた空気圧縮機からの圧縮空気を,空気管を通して
井戸の底部近くまで送り込み,この空気と温泉が混和して軽くな
った部分が,さらに送り込まれた空気圧によって押し上げられ,
揚湯管を通って温泉が地上にあふれ出る機構である(図 2.14 参照)
。
図 2.14 エアリフト概念図
2-31
ウ 小涌谷
第二次大戦後,小涌谷に開設した小涌園で温泉掘削が行われ,昭和 24 年に最初の火
山性水蒸気の噴出に成功して地熱利用が始まった。
前述のとおり,現在は廃止されているが,日本で最初の地熱発電所は小涌園で建設さ
れた。また,小涌園は自前の蒸気井を利用し,現在は,近傍のグループ施設で蒸気熱を
利用した各種設備を保有している。
エ 大平台等
大平台温泉郷は戦国時代からの古い村落で,温泉地になる前は箱根細工の名産地であ
った。昭和 24 年地元の有志たちが温泉を掘り当てた。
昭和 27 年には,強羅でも環翠楼に初めて源泉が掘られた。
昭和 28 年には,二ノ平に共同浴場「亀の湯」の源泉が竣工し,二ノ平温泉が誕生し
た。
昭和 29 年には,大涌谷の造成温泉が本格的に仙石原に供給されるようになった。
昭和 38 年には,それまで宮ノ下からの引湯だった大平台に初めて独自の源泉が掘ら
れた。
昭和 40 年には,木賀や強羅からの引湯だった宮城野で源泉掘削が成功した。
昭和 41 年には,芦ノ湖岸では湖尻にはじめて源泉が開発された。
その後,日本経済の高度成長の鈍化にともない,箱根にあっても新源泉の開発は急激
に減少した。この理由としては,当時の箱根の開発協定ではもはや経済的に掘削可能な
余地が無くなってしまったのと,オイル・ショックによる景気の停滞が挙げられる。
昭和 53 年に芦ノ湖プリンスホテルが開業し蛸川温泉が登録されて以来,新源泉は開
発されていない(造成温泉用の蒸気井は除く)
。
オ 箱根の町営温泉
出典)https://www.town.hakone.kanagawa.jp/hakone_j/kurashi/annai/seikatsukankyo05.html
芦ノ湖畔の箱根と元箱根地区は,箱根町町営温泉の給湯が 1966 年(昭和 41 年)に開
始されるまで,温泉のない地区であった。
箱根町営温泉第一号(芦之湯 10 号泉)の掘削が昭和 37 年 3 月の県温泉審議会で許可
され,昭和 38 年 12 月に摂氏 84 度,毎分 90 リットルの揚湯に成功した。続いて昭和
40 年に 2 号,昭和 42 年に 3 号が掘削され,以上の 3 源泉で毎分約 200 リットルの供給
量を確保することができた。
給湯は 1965 年(昭和 40 年)にまず芦之湯地区から始まり,翌年に元箱根地区に配湯
された。
その後,温泉需要の増加に伴い,昭和 46 年 6 月に硫黄山噴気地帯(湯ノ花沢)の近
くに蒸気井(元箱根 27 号泉)を掘削し,同年 8 月に大量の蒸気(3,400kcal/毎秒)の噴
出に成功し,水道水と阿字ヶ池湧水(芦之湯 7 号泉)を使って毎分約 430 リットルの温
2-32
泉を造成することができた。
この温泉造成によって,供給量は飛躍的に増大したので,大芝地区(昭和 47 年)と
箱根地区(昭和 49 年)に送・配湯管を布設し,給湯を開始した。昭和 46 年に掘削した
第 1 号の蒸気井は,その後徐々に衰退し,10 年後の昭和 56 年には使用を中止した。そ
の後も昭和 57 年から平成 4 年までに 5 本の蒸気井を掘削し温泉造成に使用していたが,
現在は平成 7 年に掘削した第 7 号蒸気井を使用している。
第 7 号蒸気井は,平成 7 年 6 月に工事を着手し,同年 11 月 30 日に完了し,噴気テス
ト後の翌年 2 月から温泉造成を開始した。この蒸気井は蒸気温度 138 ℃,蒸気量 12.7 kg/
毎秒及び熱量 7,522kcal/毎秒を有しており,毎分約 800 リットルの温泉(蒸気に温泉と
水道水を混合した蒸気造成泉)を造成し,旅館,会社の保養所及び個人等に給湯を行な
っている。
以上のとおり,箱根の温泉需要は,戦後の高度成長時代に大きく増加し,ひっ迫した時
代を経て,新たな温泉井の開発や蒸気造成泉の開発によって克服してきた歴史がある。
7
湯河原の温泉状況
湯河原温泉は,箱根湯本以上に非常に歴史が古い温泉地で,万葉集(七世紀後半~八世
紀後半)に唯一温泉の歌が収録されている事からも,温泉として昔から名高かった事が分
かる。
湯河原温泉といえば,古くからの湯河原温泉である「温泉場」エリアを中心に,湯河原
駅周辺までが一般的な意味での湯河原温泉といえる。しかし,最近では温泉地の範囲が拡
大しており,山側の奥湯河原温泉の他,吉浜方面の浜湯河原温泉や藤木川西側の伊豆湯河
原温泉(熱海温泉地区)なども含め湯河原温泉郷と称することもある。
ただし,湯河原温泉自体は神奈川県の温泉なので,実際には静岡県側は分けて紹介され
る場合が多い。
湯河原温泉には源泉が多数あるが,その多くが集中管理され,給湯されている。また,
古くからの湯治専門宿も残っており,湯治客の多くは,湯河原の高温の温泉を目的として
いることが特筆できる。
8
神奈川県西部の温泉保護対策
出典)http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/modules/study/index.php/content0018.html
神奈川県西部は箱根や湯河原などの温泉地を抱えて,明治以後,交通手段の近代化とと
もに温泉開発が盛んになった。
昭和 30 年代にはボーリング技術が発達し,汲み上げポンプの性能が良くなってきたこと
などの技術性能の向上が温泉の過剰な汲み上げに拍車をかけ,全国的に温泉開発が進み,
2-33
加えて温泉の枯渇問題が顕在化してきた。箱根,湯河原ほか県内の既存温泉にも影響が出
始め,そこで,神奈川県は温泉の保全を目的に温泉研究所(現 温泉地学研究所)を 1961
年(昭和 36 年)に設立した。
また,温泉研究所の研究成果をもとに 1967 年(昭和 42 年)
「温泉保護対策要綱」を策
定し,特定の地域における新たな掘削の禁止や,汲み上げ量の上限を定めた。
この要綱では,まず保護地域として「温泉特別保護地域」,「温泉保護地域」
,「温泉準保
護地域」の 3 つのランクを定め,箱根,湯河原の大部分は保護地域となった。
保護地域のうち,温泉特別保護地域及び温泉保護地域は,新規の温泉掘削を禁止した。
保護地域のうち温泉準保護地域の新規掘削井戸については汲み上げ量の上限を定め,箱
根は 70ℓ/min,湯河原は 60ℓ/min とした(ただし,要綱ができる前の井戸を除く)
。
これを定めて以降,水位の低下が緩やかになってきている。
ちなみに,後述の「第3章」で記したが,現時点での技術的要件として温泉バイナリー
発電設備で使用する温泉量は,実用的下限流量として 100 ℓ/min としており,これは,箱
根及び湯河原地域において新規掘削による温泉発電が不可能であるということでもある。
2-34
9
自然公園の状況
神奈川県の西部,とりわけ大涌谷の蒸気の噴出が代表的な箱根地区は,我が国でも有数
な国立公園に位置し,図 2.15 に示すとおり,自然公園特別地域,及び特別保護区に指定さ
れている。
図 2.15 箱根付近の自然公園指定地区
出典)全国地熱ポテンシャルマップ
特別地域は,さらに第一種から第三種まで細分化されているが,その状況を図 2.16 に示
す。従来は特別地域での地熱開発は禁止されていたが,近年の規制緩和により,従来より
も開発がしやすくなってきていることは,前掲「(3)我が国における地熱発電の課題」の項
で記したとおりである。
2-35
図 2.16 富士箱根伊豆国立公園マップ
出典)神奈川県 HP
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f10578/p464081.html
2-36
10 箱根及び湯河原地域の温泉データ
図 2.17 及び表 2.3 は全国地熱ポテンシャルマップで得られる温泉データである。
箱根温泉
湯河原温泉
河原温泉
図 2.17 箱根温泉及び湯河原温泉
出典)全国地熱ポテンシャルマップ
2-37
表 2.3
全国地熱ポテンシャルマップによる温泉データ
名称
泉温
湧出量
PH
① 大涌谷
65.0 ℃
260ℓ/min
上限 2.5
② 小涌谷
90.1 ℃
3,744ℓ/min
上限 8.7
③ 湯ノ花沢
84.5 ℃
90 ℓ/min
上限 2.4
④ 強羅
94.0 ℃
3,434 ℓ/min
上限 8.8
⑤ 二ノ平
92.0 ℃
889 ℓ/min
上限 8.7
⑥ 底蔵
89.5 ℃
845 ℓ/min
上限 8.4
⑦ 芦野湯
71.5 ℃
1,936 ℓ/min
上限 8.1
⑧ 宮ノ下
90.0 ℃
2,075 ℓ/min
上限 8.6
⑨ 大平台
75.0 ℃
502 ℓ/min
上限 9.1
⑩ 塔ノ沢
63.5 ℃
929 ℓ/min
上限 8.9
⑪ 湯本
73.5 ℃
4,751 ℓ/min
上限 9.4
⑫ 門川(湯河原)
45.0 ℃
482 ℓ/min
上限 7.5
備考
なお,表 2.3 で湯河原として⑫門川を挙げているが,奥湯河原温泉は記載されていない。
また,湯河原温泉街で確認した結果,湯河原第 22 号では 81.3 ℃,PH8.4 であった。な
お,湧出量は不明である。
図 2.18 に箱根地域の温泉位置,図 2.19 に湯河原の温泉位置を示す。
2-38
⑥
⑤
①
⑧
⑦
②
⑨
⑩
」
⑪
③
④
図 2.18
箱根の温泉位置図
2-39
⑫
図 2.19
湯河原温泉位置図
2-40
第3章 神奈川県西部地域地熱エネルギー有効利用可能性調査
前掲第2章では,日本全体から俯瞰して神奈川県西部地域の地熱エネルギーの状況を整理し
たが,第3章では,神奈川県西部地域に着目して,地熱エネルギーの有効利用の可能性につい
て検討を行った。
なお,第2章で整理したとおり,神奈川県西部地域では継続的に地熱発電を行うために必要
な有望な貯留層が見当たらず,温泉問題や公園問題以前として,フラッシュ発電などの大出力
の地熱発電を行おうとする場合,現時点での知見ではかなり困難であると推察される。
そこで,本章では,温泉水を利用したバイナリー発電に着目して検討を行った。
また,神奈川県西部地域として着目した地域は,県内でも湯量豊富な「箱根地域」及び「湯
河原地域」とした。
1
温泉発電の概要
(1) 発電システム
前述のとおり,発電システムは温泉バイナリー発電である。前掲「第2章」でも概要を
記載したが,ここでも紹介する。
バイナリー発電のための発電機駆動部は,熱交換機とタービンと凝縮器とが配管で結ば
れた閉鎖系のシステムである(図 3.1 参照)
。
配管の中は非常に低い温度で蒸発する熱媒体が流れていて,蒸発器(一種の熱交換器)
の中で地熱水(温泉水)によって温められ,一気に蒸発し高圧の蒸発気体になる。この気
体がタービンを回し,発電機をまわして発電する仕組みである。
タービンを回した後の気体は圧力が下がり,そのまま凝縮器で気体から液体に戻る。減
圧された液体の熱媒体は再び蒸発器で地熱水によって蒸発し,高圧の気体になりタービン
に送られる。このサイクルが循環する。
凝縮器は一種の冷却器であり,気体を液体に変化させる機能を持つ。冷却には地下水を
利用したり,冷却塔(クーリングタワー)を設置して水を空気中で冷やしながら凝縮器と
の間を循環させる方式がある。両者を併用する場合もある。
3-1
図 3.1 バイナリー発電システム概念図
出典)福島大学 人材育成プログラム
第 17 章 地熱バイナリー発電プランニング実習
http://www.sss.fukushima-u.ac.jp/saiene/
バイナリーは,正確にはバイナリーサイクルといい,バイナリーは「2つ」を意味し,
“蒸発器(熱交換機)を介して地中熱の生産井と還元井を循環させる”ところがひとつの
熱サイクルである。
“熱媒体を蒸発器,タービン,凝縮器間を循環させる”ところが二つ目の熱サイクルで
あり,これを併せてバイナリーサイクルと呼ぶ。
熱媒体は低温で沸騰する性質をもつが,たとえばアンモニアは-33 ℃で蒸発し,ノルマ
ルペンタンは 36 ℃,イソペンタンは 28 ℃で蒸発する。新開発のHFC245fa( ハイドロ・
フルオロ・カーボン)は 15 ℃注1)で蒸発する。
このような性質から,地熱水の利用温度の高低によって利用する熱媒体が異なり,プロ
セスも異なってくる。
大まかには,中低温の地熱水利用の場合,熱媒体はアンモニア水(アンモニア4に対し
て水 1 の割合),中高温の熱媒体の場合には炭化水素(ノルマルペンタン,イソペンタン
等)が用いられ,前者はカリーナサイクル,後者はランキンサイクルと呼ばれている。
最近は不活性ガスのハイドロ・フルオロ・カーボン(HFC-245fa)を利用した新たなシ
ステムが開発され商品化されている。
なお,最近の傾向としては,発電効率が比較的高いものの,熱媒体に有毒のアンモニア
を利用するカリーナサイクルから,無毒の熱媒体を利用するランキンサイクルを利用した
システムへのシフトがみられる。
3-2
注1)ハイドロ・フルオロ・カーボン
ハイドロ・フルオロ・カーボン(HFC-245fa,15 ℃で蒸発)を熱媒体と
するバイナリー発電設備であっても,冷却水温度は 15~30 ℃である(後述
表 3.2 参照)。これが成立する理由は,発電運転中の熱媒体(HFC-245fa)
は高圧下にあり,沸点が 15 ℃以上に上昇していることによる。
(2) 発電が可能な湧出量及び温度等
温泉発電が可能な温泉の条件を現在実用化されている発電機の使用等を参考にすれば,
概ね以下のとおりである。
① 湧出温度が 80 ℃(現在の実用的下限温度)以上の温泉
② 湧出量が 100 ℓ/min(実用的発電規模の下限流量)以上の温泉
出典)文献 030
平成25年度地熱発電に係る導入ポテンシャル精密
調査・分析委託業務報告書平成 26 年 6 月 P120
③ 冷却水として取水可能な水源(地下水,河川水)が近傍にあること(冷却水源が無い
場合は上水の利用を考慮する)
。
さらに,発電に利用した後,浴用に使用する温泉水の温度は,「神奈川県 旅館業法施行
条例 最終改正 平成 22 年 8 月 3 日条例第 48 号」で定められているとおり,貯湯槽内に
おいて 60 ℃以上とする条件を加えなければならない。
旅館業法施行条例
抜粋
(9)原湯を貯留する貯湯槽(以下「貯湯槽」という。)内の湯水の温度は,湯の補
給口,底部等すべての箇所において摂氏 60 度(最大使用時にあつては摂氏 55
度)以上に保つこと。ただし,これにより難い場合には,レジオネラ属菌が繁
殖しないように貯湯槽内の湯水の消毒を行うこと。
3-3
(3) 発電端出力及び送電端出力
温泉発電設備の出力表示は,通常、発電端出力及び送電端出力が記載されている。
発電端出力とは発電機本体から取り出される電力であり、図 3.2 では G に相当する。
この電力から媒体循環ポンプや制御機器などの動力源となる電力(いわゆる所内電力)
を差し引いたものが送電端出力(図 3.2 の E)であり、実際に発電設備外に取り出される
電力である。
発電端出力に対し送電端出力は,所内電力分が控除される。したがって,設備利用率は
発電端出力に対し概ね 70~80%となる。
売電可能電力=E-(P0+P1+P2+P3+e)
ここに,
G:発電端出力
E:送電端出力
P0,P1,P2,P3:ポンプの消費電力
e:冷却塔,その他発電所内部での消費電力
図 3.2
温泉発電における発電端出力,及び送電端出力
3-4
温泉発電の発電出力は,温水量(湧出量),温水温度,冷却水量,及び冷却水温度が影響
する。また,発電設備のメーカーごとによっても異なる。図 3.3 は,メーカーと発電出力
の関係を示すものである。
さらに,同一機種を複数台設置することも行われている。
図 3.3
発電能力別バイナリー発電機メーカーの例
出典)平成 25 年度小規模地熱発電のうち温泉発電導入促進のための手引書
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
3-5
平成 26 年 2 月
表 3.1 は,最近の温泉発電の実例を示したものである。
表 3.1
温泉発電設備既往例
コスモテック別府
バイナリー発電所
プロセス概要
熱源
温泉水
温泉水
温泉蒸気
発電機1台当たり 冷却源
水道水
地下水,水道水
地下水
媒体
HFC-245fa (代替フロン系) HFC-245fa (代替フロン系) HFC-245fa (代替フロン系)
熱源温度
-
97℃~100℃
126℃
熱源流量
-
32 ℓ/min
循環温水温度 95℃
70℃~100℃
循環温水流量 330ℓ/min
830ℓ/min
冷却水温度
20℃
30℃
25℃
冷却水流量
660ℓ/min
2,000ℓ/min
2,900ℓ/min
単機出力
発電端20kW
発電端 72kW
発電端 125kW
発電所概要
発電規模
20kW
約210kW(72kW×3式)
500kW(125kW×4式)
メーカー
IHI
神戸製鋼所
アクセスエナジー(米国)
出典
文献 095
文献 095
文献 095
名 称
試作機
小浜温泉バイナリー発電所
表 3.2 は,㈱神戸製鋼所のマイクロバイナリー発電設備(型式 MB-70H)の予想発電性
能表である。温水量,温水温度,冷却水量,及び冷却水温度と送電端出力(kW)の関係が
見て取れる。
表 3.2
HB-70H 予想発電性能表
(送電端出力)
3-6
表 3.2 を拡大して表 3.3 に利用例を示す。
表 3.3 では,温水量が 75t/ 時間*1)(1,250 ℓ /min)で温水温度が 80 ℃*2),冷却水量
が 120t/ 時間*3)(2,000 ℓ /min)で冷却水温度が 25 ℃*4)のとき,送電端電力は 32kW
*5)
が想定出力となる。
表 3.3 予想発電性能表の利用例
*3)
*2)
*1)
*4)
*5)
上表以外で出力を算定する方法としては,㈱神戸製鋼所は同社のウェブサイトでマイク
ロバイナリー発電設備(型式 MB-70H)での発電力が算定できるアプリケーションを公開
している。
なお,同アプリケーションでは,入力した温水温度が発電後にどの程度の温度に低下す
るかも概略知ることができる。
出典)http://www.kobelco.co.jp/machinery/products/rotation/microbinary/application.html
http://www.kobelco.co.jp/machinery/products/rotation/microbinary/application/index.html
以下に,同アプリケーションでの計算結果を示す。
ここに,試算は1機当たりの値であり,温泉の発電使用可能量が多ければ複数台を設置
することで出力増加を図ることができる。
また,設備利用率は,発電端出力に対し 70%と仮定した。
3-7
試算-1
入口温水量
入口温水温度
出口温水温度
発電端出力
送電端出力
年間可能発電電力量
設備利用率
冷却水温度
冷却水量
=
=
=
=
=
=
=
=
=
75ton / 時間(=1.25ton /分=1,250 ℓ /min)
80 ℃
72 ℃
40 kW
32 kW
245,000 kWh (40 kW×8,760 時間×70%)
70 %(他事例から判断した推定値)
25 ℃
120 ton / 時間(=2.00ton / 分=2,000 ℓ/ min)
=
=
=
=
=
=
=
=
=
25ton / 時間(=0.42ton /分=420 ℓ /min)
80 ℃
63 ℃
25 kW
19 kW
153,000 kWh (25 kW×8,760 時間×70%)
70 %(他事例から判断した推定値)
25 ℃
60 ton / 時間(=1.00ton / 分=1,000 ℓ/ min)
試算-2
入口温水量
入口温水温度
出口温水温度
発電端出力
送電端出力
年間可能発電電力量
設備利用率
冷却水温度
冷却水量
3-8
以上のとおり,温泉の温度あるいは水量の違いによって送電端出力は変わるが,90 ℃~
70 ℃程度まで発電が可能である。なお,ここでは,前掲「(2) 発電が可能な湧出量及び温
度等」の項で記載のとおり,温泉水の温度を 80 ℃以上と仮定した。
なお,前掲「表 3.2 MB-70 予想発電性能表」及び下記の試算-3で示すとおり,入口
温水温度が 70 ℃であっても出口の温水温度は 60 ℃を少し割り込む程度であり,発電後
の温泉を浴用に利用することも可能と思われるが,前述のとおり発電後の湯温を 60℃以上
とすることが定められている条例に抵触するため,本計画では採用できない計画である。
試算-3
入口温水量
入口温水温度
出口温水温度
発電端出力
送電端出力
年間可能発電電力量
設備利用率
冷却水温度
冷却水量
=
=
=
=
=
=
=
=
=
25ton / 時間(=0.42ton /分=420 ℓ /min)
70 ℃
59 ℃
15 kW
11 kW
92,000 kWh (15 kW×8,760 時間×70%)
70 %(他事例から判断した推定値)
25 ℃
60 ton / 時間(=1.00ton / 分=1,000 ℓ/ min)
3-9
(4) 資格要件
温泉発電設置に伴う資格要件は,表 3.4 のとおりである。
表 3.4 温泉発電設備の設置に必要な法的資格要件
出典)小規模地熱発電のうち温泉発電導入促進について 概要版 平成 26 年
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
出典)文献 660
3-10
(5) 固定価格買い取り制度による買い取り単価
平成 28 年 2 月現在における,15,000kW 未満の地熱発電における固定価格買い取り単
価は,表 3.5 に示すとおり,運転開始後 15 年間にわたり 40 円/kWh(消費税を除く)であ
る。
表 3.5
固定価格買取制度における買い取り価格
出典)再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック 2015 版 資源エネルギー庁
3-11
(6) 概算工事費
温泉発電システムとして,㈱神戸製鋼所製 MB-70H を代表として概算工事費を算定する
(表 3.6 参照)。
なお,概算工事費は,参考として,
“文献 610 地域資源を活用した温泉 発電栃木県 平
成 25 年 3 月”
,
“文献 32 小谷村地域新エネルギービジョン H20 年 2 月”
,及び“大分県
別府市 日帰り温泉「五湯苑」での小型バイナリー発電機の稼動開始について
2014 年 3
月 7 日 ㈱神戸製鋼所”を参考とした(参考資料1~参考資料3参照)。
表 3.6
項目
発電設備
敷地造成費
基礎・外構費
建屋
MB-70H を想定した概算工事費
金額 (千円)
備 考
30,000 MB-70H
15,000
0
配管設備
25,000
計
70,000
出典)㈱神戸製鋼所
3-12
MB-70H カタログ
【参考資料1:栃木県資料 文献 610】
【参考資料2:小谷村資料 文献 32】
3-13
【参考資料3:㈱神戸製鋼所資料 文献 32】
文献 32:大分県別府市
日帰り温泉「五湯苑」での小型バイナリー発電機の
稼動開始について
2014 年 3 月 7 日
3-14
(7) 発電経費
発電設備の運転経費は,「平成 25 年度 小規模地熱発電のうち温泉発電導入促進のため
の手引書 平成 26 年 2 月
委託:独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 P14」
を参考として,以下のとおり算定した。
ア 減価償却費
建設費を 15 年間の定額で償却するものとした。
減価償却費=建設費/15 年
イ 金利
金利は,建設費に対し,15 年間元金均等,利率 1.5%/年とした。15 年間を均等化し
た利率 0.83%(3.7 参照)とした。
表 3.7
計算条件
元金
100
経
年
元金
1
100
均等化利率
利率
償還年
据置
年償還
返済方式
1.5%
15年
0年
6.667
元金均等
元金償還
金利
現価係数
現在価値
現価合計
均等化利率
資本
回収係数
(%)
6.667
1.500
0.9852
1.478
1.478
1.0150
2
93.333
6.667
1.400
0.9707
1.359
2.837
0.5113
3
86.666
6.667
1.300
0.9563
1.243
4.080
0.3434
4
79.999
6.667
1.200
0.9422
1.131
5.211
0.2594
5
73.332
6.667
1.100
0.9283
1.021
6.232
0.2091
6
66.665
6.667
1.000
0.9145
0.914
7.146
0.1755
7
59.998
6.667
0.900
0.901
0.811
7.957
0.1516
8
53.331
6.667
0.800
0.8877
0.710
8.667
0.1336
9
46.664
6.667
0.700
0.8746
0.612
9.279
0.1196
10
39.997
6.667
0.600
0.8617
0.517
9.796
0.1084
11
33.330
6.667
0.500
0.8489
0.424
10.221
0.0993
12
26.663
6.667
0.400
0.8364
0.335
10.555
0.0917
13
19.996
6.667
0.300
0.824
0.247
10.802
0.0852
14
13.329
6.667
0.200
0.8118
0.162
10.965
0.0797
15
6.662
6.667
0.100
0.7999
0.080
11.045
0.0749
16
-0.005
合計
100.000
3-15
0.83
ウ 人件費
電気主任技術者を想定し, 600 千円/年を計上した。
エ 修理費
修繕費は,以下のとおり算定した。
修繕費=建設費×(0.27%×年次+0.63%)
上式を用い,割引率=1.5%とした場合の均等化修繕費率は,2.71%と算定される(表 3.8
参照)。
表 3.8 15 年間均等化修繕費率
割引率=
経
年
建設費
1
100
1.5%
修繕費 = 0.27%×年次+0.63%
0.27
年次
0.63
計
現価係数
現在価値
現価合計
資本
回収係数
0.27
1
0.63
0.90
0.985
0.887
0.887
1.0150
2
0.27
2
0.63
1.17
0.971
1.136
2.022
0.5113
3
0.27
3
0.63
1.44
0.956
1.377
3.399
0.3434
4
0.27
4
0.63
1.71
0.942
1.611
5.011
0.2594
5
0.27
5
0.63
1.98
0.928
1.838
6.849
0.2091
6
0.27
6
0.63
2.25
0.915
2.058
8.906
0.1755
7
0.27
7
0.63
2.52
0.901
2.271
11.177
0.1516
8
0.27
8
0.63
2.79
0.888
2.477
13.653
0.1336
9
0.27
9
0.63
3.06
0.875
2.676
16.330
0.1196
10
0.27
10
0.63
3.33
0.862
2.869
19.199
0.1084
11
0.27
11
0.63
3.60
0.849
3.056
22.255
0.0993
12
0.27
12
0.63
3.87
0.836
3.237
25.492
0.0917
13
0.27
13
0.63
4.14
0.824
3.411
28.904
0.0852
14
0.27
14
0.63
4.41
0.812
3.580
32.484
0.0797
15
0.27
15
0.63
4.68
0.800
3.744
36.227
0.0749
16
17
オ 諸経費
諸経費は,以下のとおり算定した。
諸経費=建設費×0.46%
3-16
均等化率
(%)
2.71
2
神奈川県西部地域における温泉発電の検討
本項では,神奈川県西部地域として箱根地域及び湯河原地域に着目して温泉発電を計画
する。
(1) 箱根地域
ア 箱根町の方針
神奈川県西部地域では,多数の温泉に恵まれている箱根町がまず挙げられる。
箱根町は,温泉資源保護,自然及び文化の観点から温泉資源保護,自然及び文化の観点
から無秩序な地熱発電開発には反対であり,発電等のために地熱及び温泉熱を利用するこ
とを目的とした温泉井戸の新規掘削(増掘も含む)は認めないという基本的な考え方を持
ちながらも,地域特性である「温泉」に着目し,再生可能エネルギーとしての「温泉」熱
の有効利用について,その可能性について検討を行っている。
イ 箱根温泉熱利用検討会の概要
箱根温泉熱利用検討会は,神奈川県と連携して平成 24 年に発足した。同検討会は,地
元温泉関係者,学識経験者,行政関係者及び複数のオブサーバーによって温泉熱の有効利
用を検討し,平成 26 年 3 月に「箱根温泉熱利用検討報告書 平成 26 年 3 月 箱根温泉熱
利用検討会」を取りまとめ,公開した。
検討に際しては,
「箱根町における温泉熱利用の基本方針」を定め,検討を行っている。
また,箱根温泉の湯温が「神奈川県 旅館業法施行条例 最終改正 平成 22 年 8 月 3 日条
例第 48 号」で定められていることも十分配慮されて検討がなされている。
箱根町における温泉熱利用の基本方針
○ 箱根町では温泉資源を「温泉」としてすでに有効利用していることを踏まえ,
温泉資源の保護を最優先に考えた上で,発電等のために温泉の採取量を増や
すことなく,「浴用に利用する前後の温泉熱」を発電設備やヒートポンプを
導入することにより有効活用し,本来の「温泉」としての利用に影響を及ぼ
さない範囲において,再生可能エネルギーとしての温泉の「地産(温泉熱)・
「地消(余熱利用)」を図ります。
出典)
「箱根温泉熱利用検討報告書 平成 26 年 3 月 箱根温泉熱利用検討会」
3-17
旅館業法施行条例
抜粋
(9)原湯を貯留する貯湯槽(以下「貯湯槽」という。)内の湯水の温度は,湯の補
給口,底部等すべての箇所において摂氏 60 度(最大使用時にあつては摂氏 55
度)以上に保つこと。ただし,これにより難い場合には,レジオネラ属菌が繁
殖しないように貯湯槽内の湯水の消毒を行うこと。
ウ 検討会で得られた結論
同報告書では,温泉バイナリー発電,熱電発電及びヒートポンプを検討し,『箱根町に
おいては,ヒートポンプよる温泉排湯を利用した温泉熱の有効活用が最も適している』と
の結論を得ている。
なお,本検討では,この結論を踏まえながらも,最近の事例も勘案しながら温泉バイナ
リー発電の可能性について検討を行ったものである。
(2) 湯河原地域
湯河原町において地熱発電に言及されている資料は少ないが,「湯河原ロータリークラブ
WEEKLY REPORT 第 2603 回例会 平成 27 年 10 月 2 日」でその一般論について若干触れ
られているが,それ以外には見当たらない。
3-18
(3) 箱根地域及び湯河原地域で対象とする温泉,及び発電計画
ア 検討対象とする温泉
神奈川県の「温泉保護対策要綱」
,及び「箱根町における温泉熱利用の基本方針」は前述
のとおりであるが,本業務では,当該事項を踏まえながらも,
“全国地熱ポテンシャルマッ
プ”等も参考としつつ,新規に温泉井や蒸気井を掘削することなく,既往の温泉水で発電
を行い,発電後の温泉水を加熱することなく浴用に使用するという観点によって検討を行
った。主な温泉を表 3.9 に示す。
ここに,本検討において温泉発電の対象とする水温が 80 ℃以上となる温泉は,箱根地
域で6地点(小涌谷,湯ノ花沢,強羅,二ノ平,底倉,宮ノ下),及び湯河原地域では温泉
街で1地点とした。
なお,本業務は,温泉発電の可能性を探る初期段階の調査であるため,地元の状況や意
向までは確認していない。したがって,本発電計画では具体的な地点を定めていない。
表 3.9
検討対象とする温泉(箱根地域)
全国地熱ポテンシャルマップによる温泉データ
泉温
湧出量
PH
① 大涌谷
65.0 ℃
260ℓ/min
上限 2.5
② 小涌谷
90.1 ℃
3,744ℓ/min
上限 8.7
③ 湯ノ花沢
84.5 ℃
90 ℓ/min
上限 2.4
④ 強羅
94.0 ℃
3,434 ℓ/min
上限 8.8
⑤ 二ノ平
92.0 ℃
889 ℓ/min
上限 8.7
⑥ 底蔵
89.5 ℃
845 ℓ/min
上限 8.4
⑦ 芦野湯
71.5 ℃
1,936 ℓ/min
上限 8.1
⑧ 宮ノ下
90.0 ℃
2,075 ℓ/min
上限 8.6
⑨ 大平台
75.0 ℃
502 ℓ/min
上限 9.1
⑩ 塔ノ沢
63.5 ℃
929 ℓ/min
上限 8.9
⑪ 湯本
73.5 ℃
4,751 ℓ/min
上限 9.4
⑫ 湯河原
81.3 ℃
名称
不明
3-19
8.4
備考
現地にて確認
イ 計画の前提条件
計画の前提条件を以下に示す。
① 温泉井及び蒸気井は新規に掘削しない。
② 湧出温度は 80 ℃と仮定する。
③ 発電後の温水は,貯湯槽内で 60 ℃以上とする。
④ 発電した後の温泉水は,浴用として配湯する。
⑤ 設備利用率は,発電端出力に対し 70%と仮定する。
⑥ 発電設備は,実施例が多く,かつ情報量も多い㈱神戸製鋼所のマイクロバイナリ
ー発電設備(型式 MB-70H)を代表として検討を行う。
ウ 発電計画
発電計画は,マイクロバイナリー発電設備1基当たりで検討した。なお,開発地点は,
温泉の利用状況や配湯状況が,本業務の範囲では不明であるため,特定の開発地点は設定
していない。
想定する発電規模は,前述の発電設備試算のうち,
「試算-1」の計画を代表とした。
(ア) 計画する発電諸元
計画する1基当たりの発電諸元は,前掲“試算-1”の規模とし,以下のとおりとす
る。
試算-1
入口温水量
入口温水温度
出口温水温度
発電端出力
送電端出力
年間可能発電電力量
設備利用率
冷却水温度
冷却水量
概算工事費
=
=
=
=
=
=
=
=
=
=
75ton / 時間(=1.25ton /分=1,250 ℓ /min)
80 ℃
72 ℃
40 kW
32 kW
245,000 kWh (40 kW×8,760 時間×70%)
70 %(他事例から判断した推定値)
25 ℃
120 ton / 時間(=2.00ton / 分=2,000 ℓ/ min)
70,000 千円(税抜き)
(イ) 発電設備設置のためのスペース
マイクロバイナリー発電設備(型式 MB-70H:㈱神戸製鋼所)の1基当たり設置の
ためのスペースは,補機を含め 15m×15m 程度である。
3-20
(ウ) 経済性の評価
発電原価を表 3.10 に示す。なお,比較のため2式を設置した場合も費用を計上した。
発電経費の内訳は,前述「(7) 発電経費」注2)の項で示すとおり建設費に比例する条件
としているため,複数台を設置したとしても人件費の節減効果しか得られない。
なお,本計画においての冷却水は,井戸水や近傍河川水を汲み上げ循環して利用する
ことを想定したが,冷却水の一部又は全部を水道水とすれば,表 3.10 の直接費におい
て水道料金が追加され,発電原価の押上げ要因となる。
なお,本検討では,複数設備の購入における節減効果について考慮していない。しか
し,実際は,複数台数を設置することで,多少の節減効果は期待できる。
表 3.10 発電原価比較表
設置台数
(1) 建設費
1式
2式
算定式
70,000 千円
140,000 千円
温水量
(80 ℃)
75 t/h (1,250 ℓ/min)
150 t/h (2,500 ℓ/min)
冷却水量
(25 ℃)
120 t/h (2,000 ℓ/min)
240 t/h (4,000 ℓ/min)
4,670 千円/年
減価償却費
(2) 資本費
金利
資本費計
人件費
(3) 直接費
9,330 千円/年
(1)/15年
580
〃
1,160
〃
0.83 % (金利1.5%,15年均等化利率)
5,250
〃
10,490
〃
600 千円/年
600 千円/年
修理費
1,900
〃
3,790
〃
2.71 % 〔(1)×均等化修理費率〕
諸経費
320
〃
640
〃
0.46 % 〔(1)×諸経費率〕
2,820
〃
5,030
〃
0
〃
0
〃
8,070
〃
15,520
〃
直接費計
(4) その他費用
(5) 発電経費合計
12%
(6) 経費率
11%
40 kW
(7) 発電端出力
(9) 設備利用率
(10) 年間可能発電電力量
32 kW
70%
70%
245,280 kWh
490,560 kWh
(11) 売電収入
9,800 千円/年
(12) 発電原価
32.9 円/kWh
(5)/(1)
40 kW
32 kW
(8) 送電端出力
(2)+(3)+(4)
19,600 千円/年
(10)×40円/kWh
31.6 円/kWh
注2)発電設備の運転のための経費は,
「平成 25 年度 小規模地熱発電のうち温泉発電導
入促進のための手引書 平成 26 年 2 月 委託:独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱
物資源機構 P14」を参考として算定した。
表 3.10 に示すとおり,本計画の範囲では,運転開始 15 年間において,収支は概ね一
致する結果が得られた。
3-21
エ 温泉スケール
温泉発電の維持管理において,「第2章 資料の収集・整理
2 地熱発電のしくみ」の項
でも記載したが,温泉スケール対策は重要である。
温泉スケールとは,温泉中に溶け込んでいる成分が不溶性となって析出・沈殿・付着し
たものであり、配管や熱交換器の内面に付着する。一般的には、温泉の成分が多ければ多
いほど温泉スケールは析出しやすくなる。また,温泉水から熱を回収し温泉水の温度が低
下すると,温泉成分が析出してスケールとなりやすい。そのスケール対策の費用は,温泉
発電の経済性に大きな影響を与えるため,計画実施に向けては温泉水の成分についても十
分留意する必要がある(表 3.11 参照)
。
表 3.11
温泉スケールの種類
カルシウム(石灰)
温泉水中でカルシウムは、二酸化炭素(炭酸ガス)と共に加圧され
質のもの
た状態で重炭酸カルシウムとして溶けている。
地上に出てきて二酸化炭素が水中から逃げると重炭酸カルシウム
が分解して炭酸カルシウムとして沈殿する。
多くは灰色~白色で硬く付着するのが普通であるが、時には鉄やマ
ンガンが含まれ赤褐色~黒褐色で縞、層状になっていることもある。
日本の温泉スケールの80%以上がこの炭酸カルシウム質のもの
である。
鉄質のもの
温泉水中に溶けている鉄(化学的にはフェロイオンという)が酸化
されて、不溶性の鉄(化学的には水酸化第二鉄)となって沈殿したも
ので、赤褐色~黄褐色~黒褐色、軟らかく付着する時と硬く付着する
時がある。
鉄を含む微酸性~中性の温泉では、必ず鉄イオン(Ⅰ)の酸化が起
こり温泉水中に酸化鉄が浮遊して浴槽水が茶褐色に濁り、浴槽の縁や
タイルに付着しているのが見受けられる。
また、まれに硫化水素と鉄が結合して、硫化鉄の黒い沈殿を生成す
ることもある。
イオウ質のもの
温泉水中の硫化水素が酸化され、不溶性のイオウとなって析出付着
したもので、硫黄細菌などが関係することがある。
白~黄白~黄色で普通はあまり硬くないが、まれに硬く層状に付着
することがある。
ケイ酸質のもの
地下の高温高圧状態で溶けていたケイ酸が地表へ涌き出ると、低温
低圧の状態で不溶性の二酸化ケイ素として析出付着したもので,一般
的には白色で硬く付着する。
地熱発電の生産井ではよく見受けられるスケールであるが、一般の
温泉ではまれである。
出典)スパライズ株式会社 HP
http://www.sparise.co.jp/scale.htm
3-22
オ 検討結果
神奈川県西部地域における温泉発電についての検討結果は,以下のとおりである。
(ア) 計画の前提条件
① 具体的な発電計画地点は設定していない。
② 温泉井及び蒸気井は新規に掘削しない。
③ 湧出温度は 80 ℃と仮定する。
④ 発電した後の温泉水は,浴用として配湯する。すなわち,具体的には,入浴用とし
て加水を必要とする温泉の源泉と配湯設備の間において,温泉発電設備を設置する。
⑤ ただし,発電後の温泉水温度が貯湯槽で 60 ℃以上でなければならない。
⑥ 設備利用率は,発電端出力に対し 70%と仮定する。
⑦ 発電設備は,実施例が多く,かつ情報量も多い㈱神戸製鋼所のマイクロバイナリー
発電設備(型式 MB-70H)を代表として検討を行う。
(イ) 検討結果及び課題
① 本計画の範囲では,運転開始 15 年間において,収支は概ね一致する結果が得られ
た。
② 仮に2式を設置し,出力を2倍としたときの概略の経済性を検討したが,発電運転
経費は,減価償却費,金利など建設費に比例する費目が多くを占め,複数台設置す
る効果はあまり認められなかった。ただし,複数台設置することによるコスト縮減
効果は,兼務が可能であることから人件費の節減は可能と判断した。
③ 温泉発電の維持管理は,スケール除去も大きな課題のひとつである。したがって,
スケールの付きにくい泉質で発電を行うことも重要である。
④ マイクロバイナリー発電設備(型式 MB-70H:㈱神戸製鋼所)の1基当たりの設
置スペースは,補機を含め 15m×15m 程度である。
⑤ 今回選定した発電設備は,冷却に冷水を用いる。したがって,発電設備の設置場所
は,冷却水が低廉な費用で供給できる場所を選定する必要がある。
⑥ 本発電計画は,温泉発電についての可能性について調査したもので,いくつか の
仮定の条件を設定するなど不確定要素を含むため,計画を継続する場合は,実際の
地点に対して,より具体的な検討を行う必要がある。
⑦ 計画実施に向けては,地元の皆さまのご理解を得ることが極めて重要である。
(ウ) 補助制度
温泉発電事業の事業化検討や事業実施に対する補助金を次ページ以降に示す。
3-23
【環境省事業】
3-24
【経済産業省 資源エネルギー庁事業】
3-25
第4章 上湯地区地熱エネルギー有効利用の検討
1
上湯地区の概要
箱根火山では,2001 年(平成 13 年)以降,2013 年(平成 25 年)までの間で数度の顕著な
群発地震活動が発生している。この群発地震活動の終息後には,それまで噴気活動が認められ
なかった大涌谷北側斜面の数カ所において新たな噴気も出現した。
2015 年(平成 27 年)5月以降活発度を増した大涌谷は,6 月 30 日から噴火警戒レベル
3(入山規制)まで引き上げられ,その後徐々に沈静化し 9 月 11 日にレベル2(火口周辺
規制)11 月 20 日にレベル1(活火山であることに留意)となったものの,2016 年(平成
28 年)2 月現在噴火警戒レベル1は継続中である。噴火警報レベルを表 4.1 に示す。
表 4.1
噴火情報レベル
出典)気象庁 噴火警報レベルの説明
種別
名称
対象範囲
特別警報
噴火警報
(居住地域)
居住地域
又は
それより
火口側
噴火警報
警報
噴火警報
(火口周辺)
又は
予報
レベルとキーワード
レベル5
及び
火口から
居住地域
近くまで
避難
説明
火山活動の状況
住民等の行動
事例
登山者・入山者への対応
居住地域に重大な被害を及ぼ 危険な居住地域からの避難等
す噴火が発生,あるいは切迫し が必要(状況に応じて対象地域
ている状態にある。
や方法等を判断)。
伊豆大島(1986年)
雲仙普賢岳(1991年)
口永良部島(3015年)
レベル4
避難準備 居住地域に重大な被害を及ぼ 警戒が必要な居住地域での避
す噴火が発生すると予想される 難の準備,災害時要援護者の
(可能性が高まってきている)。 避難等が必要(状況に応じて対
象地域を判断)。
レベル3
入山規制 居住地域の近くまで重大な影響
を及ぼす(この範囲に入った場
合には生命に危険が及ぶ)噴火
が発生,あるいは発生と予想さ
れる。
通常の生活(今後の火山活動
の推移に注意。入山規制)。状
況に応じて災害時要援護者の
避難準備等。
三宅島(2000年)
桜島(2015年)
登山禁止・入山規制等,危険な 御嶽山(2014年)
地域への立入規制等(状況に応
桜島(2016年)
じて規制範囲を判断)。
箱根山[2015年)
火口周辺警報
火口周辺
レベル2
火口周辺に影響を及ぼす(この
火口周辺 範囲に入った場合には生命に
規制
危険が及ぶ)噴火が発生,ある
いは発生すると予想される。
通常の生活。
火口周辺への立入規制等(状
況に応じて火口周辺の規制範
囲を判断)。
浅間山(2015年など多数
噴火予報
火口内等
レベル1
活火山で 火山活動は静穏。
あることに 火山活動の状態によって,火口
内で火山灰の噴出等が見られ
留意
る(この範囲に入った場合には
生命に危険が及ぶ)。
特になし(状況に応じて火口内
への立入規制等)。
多数
ところで,箱根には大涌谷,早雲地獄,湯の花沢など,常に噴気の立ち上るエリアが存在して
いる。そんな中, 2011 年(平成 23 年)の東日本大震災以降上湯地区の噴気が活発化し,こ
の噴気の影響で木々を枯らしながらその規模も拡大してきている(写真1参照)。
図 4.1に上湯地区の位置を示す。
4-1
上湯地区の噴気
写真1
上湯地区航空写真
出典)Google map
4-2
上湯地区噴気箇所
図 4.1
上湯地区位置図
出典)地理院地図
上湯地区の現在の状況を以下に示す。
① 山体からは約 100 ℃の温度の噴気が認められ,地表(約 20cm 深)の温度は最大約
96 ℃である(写真2,6参照)。
② 噴気自体の PH はほぼ中性であるが,表土の PH は約1程度の強酸性を呈している
(写真5参照)。
③ 上湯地区直近には狭小な流域を持つ支沢があるが,常時の水は涸れており冷却水と
して沢水は利用できない(写真7参照)。
④ 噴気箇所には硫黄系物質(?)の析出物が認められる(写真 10 参照)。
4-3
上湯状況(平成 27 年 11 月 18 日撮影)
写真2
上湯噴気場所全景
写真3 地温 93 ℃
4-4
写真4
写真5
噴気温度 91 ℃
写真7
写真6
地温 96 ℃
(地表より 20cm 深)
4-5
表層土の PH≒1
上湯地区の沢(涸れた沢)
上湯状況(平成 28 年 1 月 24 日撮影)
写真8
写真9
地温 96℃
上湯噴気場所全景
写真 10
4-6
硫黄系物質(?)の析出物
上湯地区の噴気箇所と周辺の温泉状況を確認するために,上湯地区を中心に半径 2km の
範囲を図 4.2 に示す。同図に示すとおり,域内には大涌谷や姥子温泉が位置している。
2km
図 4.2
上湯地区位置図
図 4.3 は,上湯地区と自然公園指定地区を示したものである。同図に示すとおり,上湯地
区は,伊豆・箱根国立公園第二種特別地域に指定されている。
4-7
上湯地区噴気箇所
図 4.3 上湯地区と富士箱根伊豆国立公園マップ
出典)神奈川県 HP
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f10578/p464081.html
4-8
2
上湯地区地熱エネルギー有効利用の検討
本項では,上湯地区の表層の地熱に対する有効利用を検討した。
(1) 検討条件
① 90~100 ℃の表土の地熱を利用する。
② 新規の蒸気井等の掘削は行わない。
(2) 検討方針
本計画では,20~50cm程度の深さの表土を整正し,その面上に水を通したパイプを敷
設し,さらに当該パイプ上に覆土してパイプ内の水を温水とすることの方策について検討
を行った。
類似の例としては,高温な噴気に水を注ぎこむことで温水を造る造成温泉が挙げられる
が,本業務で調べた範囲内では,表土層内にパイプを敷設して地中の高温熱を取り出した
事例は見当たらなかった。
しかし,このような計画とした理由は,以下のとおりである。
① 新規の蒸気井等を掘削しないこと。
② 高温の土と水を通したパイプを接することで熱交換を行う。
③ このような方法で 70 ℃以上の温水が得られたならば,この温水でバイナリー発
電が可能である。
④ 類似の例としては,以下のシステムの応用として考えた(図 4.4 参照)。
図 4.4
上湯地区で造る温水による発電(概念図)
㈱神戸製鋼所のカタログに追記
4-9
(3) システム概念図
図 4.4 を踏まえ,概念図を図 4.5 に示す。
すなわち,以下のとおり,計画した。
① 補給水槽から循環ポンプを経て約 96 ℃の表土層から熱を回収するパイプを敷設す
る。
② 熱回収パイプは,保温を兼ねた覆土を行いバイナリー発電設備に温水を供給する。
③ 発電後の温度が低下した温水は補給水槽に貯留し,熱回収のための媒体として循環
させる。
④ 発電システムを図 4.6 に示す。
⑤ 熱回収パイプは,
“滑らかな円管内を流れる十分発達した乱流の熱伝達”とみなし,
Dittus-Boelter(ディタス・ベルター)の式を用いて,概略の口径及び延長を算定
した。
⑥ 熱回収パイプは,一様に 85 ℃に加熱されていると仮定し,温度 20 ℃の水が 80 ℃
となるまでの口径及び延長の概略の検討を行った。
⑦ 併せて,発電後の温水温度を 60 ℃と仮定し,これを 80 ℃に加熱されるまでの概
覆土
略の延長を検討した。
バイナリー発電設備
約 96℃
熱回収パイプ
補給水槽
循環ポンプ
図 4.5
システム概念図
4-10
入口温水量
入口温水温度
出口温水温度
発電端出力
送電端出力
温水循環ポンプ
年間可能発電電力量
設備利用率
冷却水温度
冷却水量
=
=
=
=
=
=
=
=
=
=
図 4.6
25ton / 時間(=0.42ton /分=420 ℓ/min)
80 ℃
63 ℃
25 kW
19 kW
3 kW
140,000 kWh (25 kW×8,760 時間×64%)
(19kW-3kW)/25kW=64%
25 ℃
60 ton / 時間(=1.00ton / 分=1,000 ℓ/min)
上湯地点 バイナリー発電システム
(4) 検討結果と課題
ア 検討結果
① 上湯地区におけるバイナリー発電は,概念的には図 4.5 のとおりである。このシ
ステムに類似の例は,調べた範囲内では確認できなかったが,70 ℃以上の温水が
得られるならばバイナリー発電が成立すると判断した。
② 発電諸元は,温水量 420 ℓ/min),温水温度 80 ℃とした場合,発電端出力 25kW,
送電端出力 19kW と見込まれる。
③ 設備利用率は,温水循環のためのポンプ(3kW×1 基)が別途必要となるため 64%
とした。
設備利用率 =(送電端出力-循環ポンプ)/発電端出力
=(19kW-3kW)/25kW=64%
4-11
④ 管体内面の壁面温度を 85℃とした場合,20 ℃の水を 80 ℃まで加熱するために
は,熱伝導率の高い材質のΦ80mm のパイプを約 62m,また,60 ℃の水を 80 ℃
まで加熱するためには,約 37mの延長とする結果が得られた。
イ 課題
本検討の範囲において浮上した今後の課題は,以下のとおりである。
① 温水を導水するパイプは,80℃以上の高温水に耐える必要があり,かつ経過地の
表土は強酸性を呈しているなど,過酷な条件に耐える必要がある。このような耐
久性に勝る材質としてステンレスパイプが想定されるが,温泉環境での耐久性は
全く期待できないことが知られている。また,チタンパイプも想定されるが,ス
テンレスパイプよりは多少耐久性に勝るようであるがその差はわずかなようであ
る注1)。したがって,より耐久性に優れた低廉なパイプを探ることが必要である。
② 熱回収パイプの延長は,長くなれば温水温度が高くなり,結果として発電出力が
増加するが,工事費も嵩む。したがって,計画実施において当該パイプの延長は,
経済性比較を行って設定する必要がある。
③ 熱回収パイプは,“滑らかな円管内を流れる十分発達した乱流の熱伝達”とみな
し,Dittus-Boelter(ディタス・ベルター)の式を用いて,概略の口径及び延長を
算定した。この式は,簡便式であり,計画実施に際しては,精緻な解析及び必要
に応じ現地試験などを行うことも想定される。
④ 以上のとおり,本計画は解決すべき課題は多いが,新たな地熱回収方法として今
後の検討が期待される。
⑤ 検討を計画するうえでも,地元の皆さまのご理解を得ることが極めて重要である。
注1) 出典:温泉水中におけるステンレス鋼の腐食事例解析とチタンによる対策
山手 利博 株式会社竹中工務店 技術研究所 材料と環境,60,491-496
(2011)
次ページ以降に,熱回収パイプの口径,及び延長の計算過程を示す。
4-12
【 ケース1:20 ℃ → 80 ℃ 】
参考文献)例題でわかる伝熱工学 第2版
森北出版㈱
物性値は,算術平均温度(Tb)を用いる。
20 ℃の水が,
80 ℃の温水になるための,管の延長を算定する。
ただし,管体内面の壁面温度は
ここに,パイプの口径は
1.393
80 mm, 流速は,
420
温水量(Q)は,
85 ℃と仮定する。
ℓ/min =
m/s
3
0.007
m /s
と仮定する。
また,使用するパイプは,熱伝導率(λ )の高い材質の物を使用する。
420.00
平均流速(um)の計算
Um
=
Q
=
A
0.007
0.005027
ℓ/min
=
1.393 (m/s)
算術平均温度(Tb)の算定
Tb
=
(20
+ 80)
2
=
50
(℃)
レイノルズ数(Red)の計算
内径 (di)
=
80 mm
断面積(A)
=
動粘性係数(ν ) :水
平均流速
Red
=
at 50℃
(um)
um・di
ν
=
1.39
0.080 (m)
=
0.005027 (m2)
=
0.553 ×10 -6(m2/s)
=
1.393 (m/s)
0.080
×
5.53E-07
=
2.01E+05
>
物性値表より
2,300
≒臨界レイノルズ数
ゆえ乱流
ヌッセルト数(Nu)の計算 (Dittus-Boelter(ディタス・ベルター)の式)
Nu
=
α ・di
λ
=
α
:
熱伝達率
λ
:
水の熱伝導率
0.023・Red0.8 ・Prn
=
=
=
791.34
6.34E+03 (W/(m2・K))
0.641
(W/m・K)
at
50 ℃
物性値表より
4-13
熱伝達率(α )の計算
α
=
0.023・Red0.8 ・Pr0.4 ・λ
di
507.2467
=
0.08
ν /α
Pr
:
プラントル数
=
n
:
流体を加熱する場合は0.4
=
6.34E+03 (W/(m2・K))
=
3.56
at 50℃
物性値表より
流体を冷却する場合は0.3
Red0.8
Red
Pr0.4
Pr
2.01E+05 17,512.753
5.410
1.965
λ
di
(W/m・K)
(m)
0.641
0.08
熱量のつり合いより,
α (Tω -Tb)・π ・di・L =
cp・G(Tout-Tin)
左辺の計算
α (Tω -Tb)・π ・di・L
55,702.025
=
×
L
Tω
:
管内壁面温度 (℃)
Tb
:
管内流体の平均温度 (℃)
L
:
管の長さ(m)
上式より,
6.34E+03
α
35℃
×
0.251
×
×L =
πd
Tω
Tb
Tω -Tb
d
W/(m ・K)
(℃)
(℃)
(℃)
(m)
6.34E+03
85
50
35
0.08
2
55,702.025
0.251
右辺の計算
cp・G(Tout-Tin)
=
4.178
×
6.916
=
28.895
×
60℃
=
1,733.70 (kW)
=
1,733.70
=
cp
G
(KJ/(kg・K))
cp・G
(kg/s)
4.178
6.916
2.89E+01
60℃
1,000
×
1,733,702.88
×
(W)
Tout
Tin
Tout-Tin
(℃)
(℃)
(℃)
80.0
20.0
60.0
:
水の定圧比熱
G
:
質量流量(G)=ρ ・um・(π /4)・di2
Tout
:
管出口温度 (℃)
Tin
:
管入口温度 (℃)
4-14
=
4.178 KJ/(kg・K)
cp
×L
質量流量(G)の計算
G
π
・di2
ρ ・um
×
ρ
:
水の密度
988 (kg/m3)
um
:
水の平均速度
1.39 (m/s)
=
1,375.894
×
=
6.916
=
ρ
um
(kg/m3)
(m/s)
988.0
1.39
4
π
4
×
at 50℃
物性値表より
0.00640
(kg/s)
ρ ・um
di2
di
(m)
1,375.894
0.080
0.00640
すなわち,
α (Tω -Tb)・π ・di・L
=
55,702.025
= cp・G(Tout-Tin)
×
L
=
1,733,702.88
安全率を2として,求める延長は以下のとおりである。
L
=
1,733,702.88
55,702.025
×
2
=
62 m
以上のとおり,20 ℃の水を 80 ℃に加熱させるための熱回収パイプの延長は,62mと算
出される。
4-15
循環ポンプ諸元
熱回収した温水を循環させるためのポンプの概略諸元は,以下のとおりである。
摩擦損失計算結果
項目
循環ポンプ諸元
記号 単位
諸元
実揚程
m
20.000
管径
D
m
0.080
損失水頭
m
8.000
流量
Q
m3/s
0.007
全揚程
m
28.000
0.005
ポンプ効率
1.40
流量
m 3/s
ポンプ出力
kW
断面積
平均流速
A
m
2
V1 m/s
アクセス
m
60.00
熱回収パイプ
m
62.00
管路合計
L
m
122.00
粗度係数
n
-
0.012
摩擦損失係数
f'1
-
0.042
m
6.405
%
1.595
m
8.000
摩擦損失落差
その他損失
合計
10
4-16
0.650
0.007
3.0
【 ケース2:60 ℃ → 80 ℃ 】
物性値は,算術平均温度(Tb)を用いる。
60 ℃の水が,
80 ℃の温水になるための,管の延長を算定する。
ただし,管体内面の壁面温度は
ここに,パイプの口径は
1.393
80 mm, 流速は,
420
温水量(Q)は,
85 ℃と仮定する。
ℓ/min =
m/s
3
0.007
m /s
と仮定する。
また,使用するパイプは,熱伝導率(λ )の高い材質の物を使用する。
420.00
平均流速(um)の計算
Um
=
Q
=
A
0.007
0.005027
ℓ/min
=
1.393 (m/s)
算術平均温度(Tb)の算定
Tb
=
(60
+ 80)
2
=
70
(℃)
レイノルズ数(Red)の計算
内径 (di)
Red
=
80 mm
0.080 (m)
=
0.005027 (m2)
断面積(A)
=
動粘性係数(ν ) :水
=
0.413 ×10 -6(m2/s)
平均流速
=
1.393 (m/s)
=
(um)
um・di
ν
=
1.39
0.080
×
4.13E-07
=
2.70E+05
>
物性値表より
2,300
≒臨界レイノルズ数
ゆえ乱流
ヌッセルト数(Nu)の計算 (Dittus-Boelter(ディタス・ベルター)の式)
Nu
=
α ・di
λ
=
α
:
熱伝達率
λ
:
水の熱伝導率
0.023・Red0.8 ・Prn
=
=
=
999.50
8.25E+03 (W/(m2・K))
0.660
(W/m・K)
at
70 ℃
物性値表より
4-17
熱伝達率(α )の計算
α
=
0.023・Red0.8 ・Pr0.4 ・λ
di
659.6676
=
0.08
ν /α
Pr
:
プラントル数
=
n
:
流体を加熱する場合は0.4
=
8.25E+03 (W/(m2・K))
=
2.56
at 70℃
物性値表より
流体を冷却する場合は0.3
Red0.8
Red
Pr0.4
Pr
2.70E+05 22,119.459
5.410
1.965
λ
di
(W/m・K)
(m)
0.660
0.08
熱量のつり合いより,
α (Tω -Tb)・π ・di・L =
cp・G(Tout-Tin)
左辺の計算
α (Tω -Tb)・π ・di・L
31,045.608
=
×
L
Tω
:
管内壁面温度 (℃)
Tb
:
管内流体の平均温度 (℃)
L
:
管の長さ(m)
上式より,
8.25E+03
α
15℃
×
0.251
×
×L =
πd
Tω
Tb
Tω -Tb
d
W/(m ・K)
(℃)
(℃)
(℃)
(m)
8.25E+03
85
70
15
0.08
2
31,045.608
0.251
右辺の計算
cp・G(Tout-Tin)
=
4.178
×
6.846
=
28.603
×
20℃
=
572.05
(kW)
=
572.05
×
=
cp
G
(KJ/(kg・K))
(kg/s)
4.178
6.846
572,051.76
cp・G
2.86E+01
×
20℃
1,000
(W)
Tout
Tin
Tout-Tin
(℃)
(℃)
(℃)
80.0
60.0
20.0
:
水の定圧比熱
G
:
質量流量(G)=ρ ・um・(π /4)・di2
Tout
:
管出口温度 (℃)
Tin
:
管入口温度 (℃)
4-18
=
4.178 KJ/(kg・K)
cp
×L
質量流量(G)の計算
G
π
・di2
ρ ・um
×
ρ
:
水の密度
978 (kg/m3)
um
:
水の平均速度
1.39 (m/s)
=
1,361.968
×
=
6.846
=
ρ
um
(kg/m3)
(m/s)
978.0
1.39
4
π
4
×
at 70℃
物性値表より
0.00640
(kg/s)
ρ ・um
di2
di
(m)
1,361.968
0.080
0.00640
すなわち,
α (Tω -Tb)・π ・di・L
=
31,045.608
= cp・G(Tout-Tin)
×
L
=
572,051.76
安全率を2として,求める延長は以下のとおりである。
L
=
572,051.76
31,045.608
×
2
=
37 m
以上のとおり,60 ℃の水を 80 ℃に加熱させるための熱回収パイプの延長は,37mと算
出される。
4-19
循環ポンプ諸元
熱回収した温水を循環させるためのポンプの概略諸元は,以下のとおりである。
摩擦損失計算結果
項目
ポンプ諸元
記号 単位
諸元
実揚程
m
20.000
管径
D
m
0.080
損失水頭
m
6.000
流量
Q
m3/s
0.007
全揚程
m
26.000
断面積
A
m2
0.005
ポンプ効率
平均流速
V1 m/s
1.40
流量
m /s
ポンプ出力
kW
アクセス
m
60.00
熱回収パイプ
m
37.00
管路合計
L
m
97.00
粗度係数
n
-
0.012
摩擦損失係数
f'1
-
0.042
m
5.093
%
0.907
m
6.000
摩擦損失落差
その他損失
合計
10
0.650
3
4-20
0.007
2.7
第5章 検討結果の概要と課題
1
調査の目的
本調査は,神奈川県西部地域における地熱エネルギーの有効利用に対し,その可能性調査を行っ
たものである。
検討に当たっては,箱根町の基本方針,すなわち,
“発電等のために地熱及び温泉熱を利用するこ
とを目的とした温泉井戸の新規掘削(増掘も含む)は認めない”という箱根町の基本方針を遵守し
つつ,最近の事例も勘案しながらバイナリー発電の可能性について検討を行ったものである。
2
「第2章 資料の収集・整理」の概要
第2章は,既往の文献等を収集し,その内容を整理したものである。
(1) 「我が国の地熱エネルギー開発」の項では,我が国の地熱開発の黎明期から現在までの経緯に
ついて整理した。
ア 我が国の地熱開発は,世界で初めて天然蒸気を利用した発電実験に遅れること僅か 15
年で蒸気噴出に成功している。
イ 本格的な地熱開発調査は,第二次世界大戦終了後の 1946 年(昭和 21 年)から開始され,
その成果は 1966 年(昭和 41 年)の松川地熱発電所の運転開始となって実現した。
ウ 上記の流れとは別に,我が国で最初に実用化した地熱発電所は,意外と知られていない
が,1960 年(昭和 35 年)に発電した箱根小涌園での地熱発電所である。同発電所は,
単段ラトー式の蒸気タービンを利用した背圧式 30kW の地熱発電設備であるが,確認し
たところ,残念ながら現在は廃止されている。
エ 一方,1990 年代後半以降,国は地熱開発に対し急速に開発意欲を失い,新エネルギーか
らの地熱発電の除外,RPS法適用から蒸気発電の除外,技術開発の停止及び地熱予算
の急激な削減が続き,2010 年に民主党政権が導入した「事業仕分け」により,地熱開発
促進調査も終了となり,2011 年には,経済産業省の地熱関係予算はほとんど無くなり,
地熱発電関係予算としては,温泉バイナリー発電関係の環境省予算のみとなった。
オ このような政策の急激な縮退は,国による投資の割に得られた成果が少ない(ことが理
由として挙げられているが,一方で原子力発電への傾斜の結果ともいえる。さらに,民
間事業者においても,電力自由化のもと,高リスク低リターンの地熱発電事業に対し,
何らインセンティブが無い状態での新規開発は,全く困難であったといえる。
カ 2011 年(平成 23 年)3 月 11 日に東日本を襲った大震災は,深刻な福島第1原子力発電
所事故を惹起し,我が国のエネルギー政策は,根底から見直されることになった。その
ような中で,地熱開発に対する規制の緩和,及び地熱発電による電気を一般電気事業者
が購入する固定価格買い取り制度を導入した。このように,地熱発電に関する国の支援
体制が再構築されたが,我が国の地熱開発の障壁となる3つの課題,すなわち「発電コ
スト問題」,
「国立公園及び自然公園問題」
,
「温泉問題」が再度浮上した。さらに,上記
の3つの課題に加え,最近は「生産蒸気の減少問題」も新たに浮上してきた。
5-1
キ 上記の課題のうち「発電コスト問題」は,固定価格買い取り制度によって大きく改善さ
れた。
ク 「国立公園及び自然公園問題」は,一定の条件を満たすならば,特別地域二・三種では
地熱発電所を建設することができるようになり,また,特別保護地域,特別地域一種で
も地表調査ができるようになった。ただし,これは一定の前進ではあるが,現在のとこ
ろ認可について具体的な基準等を示していないことが課題として残っている。
ケ 「温泉問題」は,高温温泉をまず発電に利用し(温泉バイナリー発電)
,一定程度温度
の下がった温泉水を浴用に使うという方法も着実に増加している。
コ 近年は生産蒸気の減少問題が新たに浮上してきている。この対策として,人工的に貯留
槽を改善し,蒸気の安定生産もしくは出力の増加につなげようとする高温岩体発電技術
が研究されており,この技術が活用されることが期待されている。
(2) 「地熱発電のしくみ」の項では,地熱発電において最も一般的なフラッシュ発電,ドライスチ
ーム発電,及び近年我が国でも採用事例が増えているバイナリー発電についてその概要を整理
した。
(3) 「地熱探査技術の概要」の項では,概査から精査に至る調査の流れを整理した。地熱開発は多
岐の調査が行われるが,これは,事業として地熱発電所を運営していくためにはどのくらいの
地熱資源量が賦存しており,かつどのくらいの時間で地熱資源が再生されるかを見極める必要
がある。また,地熱開発は事業者のリスクが大きいという理由により,まず国による調査が行
われ,開発を志向する事業者は,この国の調査結果を踏まえ,さらに独自の調査を継続したの
ち,地熱発電所が建設される。そのため,調査を開始してから地熱発電所が運転を開始するま
でには,かなりの時間が必要となることを示した。
(4) 「地熱開発促進調査地点」の項では,1985 年(昭和 60 年)に設立された NEDO(現 国立研
究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)で開始された地熱開発促進調査の概要を
記した。なお,この調査で 28 地点が噴気に成功した。
(5) 「我が国の地熱資源量」の項では,独立行政法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
が市販している「全国地熱ポテンシャルマップ」の概要を説明した。同マップからは,地熱開
発地点として神奈川県西部は適地とは言えないことを知ることができた。これは,公園問題な
どの理由で神奈川県内での調査が行われていないため得られたデータ数が僅かであったか,あ
るいは,そもそも有望な地熱開発地点ではなかったのか不明であるが,いずれにしても現時点
で得られる情報では,神奈川県西部は地熱発電の適地とはいいがたいといえる。
(6) 「箱根の温泉」の項では,温泉の開湯(奈良時代:738 年)から現在に至る温泉の開発経緯を
整理した。
5-2
(7) 「箱根の地熱利用状況」の項では,箱根の温泉は我が国でも有数な湧出量を維持しているが,
宿泊者が極めて多く,結果として一人当たりの湯量が他地点より僅かであり,限られた温泉を
最大に有効活用していることを記した。
(8) 箱根近傍で神奈川県西部に位置する湯河原温泉は,箱根湯本以上に非常に歴史が古い温泉地で,
万葉集(七世紀後半~八世紀後半)に唯一温泉の歌が収録されている事からも,温泉として昔
から名高かった事が分かる。湯河原温泉には源泉が多数あるが,その多くが集中管理され,給
湯されている。また,古くからの湯治専門宿も残っており,湯治客の多くは,湯河原の高温の
温泉を目的としていることが特筆できる。
(9) 「神奈川県西部の温泉保護対策」の項では,1967 年(昭和 42 年)に策定された「温泉保護対
策要綱」を整理した。同対策要綱では,特定の地域における新たな掘削の禁止や,汲み上げ量
の上限を定めている。この要綱では,まず保護地域として「温泉特別保護地域」
,
「温泉保護地
域」
,
「温泉準保護地域」の 3 つのランクを定めており,箱根,湯河原の大部分は保護地域とな
った。保護地域のうち,温泉特別保護地域及び温泉保護地域は,新規の温泉掘削を禁止した。
保護地域のうち温泉準保護地域の新規掘削井戸については汲み上げ量の上限を定め,箱根は
70ℓ/min,湯河原は 60ℓ/min とした。ちなみに,後述の「第3章」で記したが,現時点での技
術的要件として温泉バイナリー発電設備で使用する温泉量は,実用的下限流量として 100
ℓ/min としており,これは,箱根及び湯河原地域において新規掘削による温泉発電が不可能で
あるということでもある。
3
「第3章 神奈川県西部地域地熱エネルギー有効利用可能性調査」の概要
前掲第2章では,日本全体から俯瞰して神奈川県西部地域の地熱エネルギーの状況を整理したが,
第3章では,神奈川県西部地域を検討対象とした。
神奈川県西部地域では継続的に地熱発電を行うために必要な有望な貯留層が見当たらず,温泉問
題や公園問題以前として,フラッシュ発電などの大出力の地熱発電を行おうとする場合,現時点で
の知見ではかなり困難であると推察された。そこで,第3章では,温泉水を利用したバイナリー発
電に着目して検討を行った。
(1) 「温泉発電の概要」の項では,発電システム,発電が可能な湧出量及び温度等,発電諸元,資
格要件,概算費用及び発電経費を設定し,経済性の評価を行った。
ア 検討対象とする温泉
本業務は,神奈川県の「温泉保護対策要綱」
,及び「箱根町における温泉熱利用の基本方
針」を踏まえながらも,
“全国地熱ポテンシャルマップ”等も参考としつつ,新規に温泉井
や蒸気井を掘削することなく,既往の温泉水で発電を行い,発電後の温泉水を加熱するこ
となく浴用に使用するという観点によって検討を行ったものである。
イ 発電が可能な湧出量及び温度等
温泉発電が可能な温泉の条件を現在実用化されている発電機の使用等を参考にすれば,
概ね以下のとおりである。
5-3
(ア) 湧出温度が 80 ℃(現在の実用的下限温度)以上の温泉
(イ) 湧出量が 100 ℓ/min(実用的発電規模の下限流量)以上の温泉
(ウ) 冷却水として取水可能な水源(地下水,河川水)が近傍にあること(冷却水源が無い
場合は上水の利用を考慮する)
。
(エ) 発電に利用した後,浴用に使用する温泉水の温度は,「神奈川県 旅館業法施行条例
最終改正 平成 22 年 8 月 3 日条例第 48 号」で定められているとおり,貯湯槽内にお
いて 60 ℃以上とする条件を加えなければならない。
ウ 発電諸元
発電設備は,実施例が多く,かつ情報量も多いマイクロバイナリー発電設備(㈱神戸製
鋼所 型式 MB-70H)を代表として検討を行った。発電出力は,同社のホームページで公
開しているアプリケーションで算定した。その結果,入口温泉量及び温度,冷却水量及び
温度の違いで 15kW~40kW 程度の発電端出力が得られる。
エ 資格要件
不活性ガスを使用した小型バイナリー発電では,電気主任技術者は必要なものの,規制
緩和によってボイラー・タービン主任技術者の選任は不要となった。
オ 概算費用
温泉発電システムとして,㈱神戸製鋼所製 MB-70H を代表として概算工事費を算定した。
概算工事費は,既往例を参考として,1式当たり 70,000 千円を計上した。
カ 発電経費
発電設備の運転経費は,「平成 25 年度 小規模地熱発電のうち温泉発電導入促進のため
の手引書 平成 26 年 2 月
委託:独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 P14」
を参考として,8,070 千円/年を計上した。
(2) 「箱根地域及び湯河原地域で対象とする温泉,及び発電計画」の項では,以下の発電諸元で計
画した。
試算-1
入口温水量
入口温水温度
出口温水温度
発電端出力
送電端出力
年間可能発電電力量
設備利用率
冷却水温度
冷却水量
概算工事費
=
=
=
=
=
=
=
=
=
=
75ton / 時間(=1.25ton /分=1,250 ℓ /min)
80 ℃
72 ℃
40 kW
32 kW
245,000 kWh (40 kW×8,760 時間×70%)
70 %(他事例から判断した推定値)
25 ℃
120 ton / 時間(=2.00ton / 分=2,000 ℓ/ min)
70,000 千円(税抜き)
(3) なお,本業務は,温泉発電の可能性を探る初期段階の調査であるため,地元の状況や意向まで
は確認していない。したがって,本発電計画では具体的な地点を定めていない。
5-4
(4) 検討結果及び課題
神奈川県西部地域における温泉発電についての検討結果は,以下のとおりである。
ア 計画の前提条件
(ア) 温泉井及び蒸気井は新規に掘削しない。
(イ) 湧出温度は 80 ℃と仮定する。
(ウ) 発電した後の温泉水は,浴用として配湯する。すなわち,具体的には,入浴用として
加水を必要とする温泉の源泉と配湯設備の間において,温泉発電設備を設置する。
(エ) ただし,発電後の温泉水温度が貯湯槽で 60 ℃以上でなければならない。
(オ) 設備利用率は,発電端出力に対し 70%と仮定する。
(カ) 発電設備は,実施例が多く,かつ情報量も多い㈱神戸製鋼所のマイクロバイナリー発
電設備(型式 MB-70H)を代表として検討を行う。
イ 検討結果
(ア) 本計画の範囲では,
運転開始 15 年間において,収支は概ね一致する結果が得られた。
(イ) 仮に2式を設置し,出力を2倍としたときの概略の経済性を検討したが,発電運転経
費は,減価償却費,金利など建設費に比例する費目が多くを占め,複数台設置する効
果はあまり認められなかった。ただし,複数台設置することによるコスト縮減効果は,
兼務が可能であることから人件費の節減は可能と判断した。
(ウ) 温泉発電の維持管理は,スケール除去も大きな課題のひとつである。したがって,ス
ケールの付きにくい泉質で発電を行うことも重要である。
(エ) マイクロバイナリー発電設備(型式 MB-70H:㈱神戸製鋼所)の1基当たりの設置
スペースは,補機を含め 15m×15m(225m2)程度である。
ウ 課題
(ア) 今回選定した発電設備は,冷却に冷水を用いる。したがって,発電設備の設置場所は,
冷却水が低廉な費用で供給できる場所を選定する必要がある。
(イ) 本発電計画は,温泉発電についての可能性について調査したもので,いくつかの仮定
の条件を設定するなど不確定要素を含むため,計画を継続する場合は,実際の地点に
対して,より具体的な検討を行う必要がある。
(ウ) 計画実施に向けては,地元の皆さまのご理解を得ることが極めて重要である。
(エ) 地熱エネルギーの有効利用について,以下の補助金の利用が想定される。
① 環境省

地熱・地中熱等の利用による低酸素社会推進事業
例えば,開発済み温泉又は自然湧出温泉を利用する発電設備設置事業(た
だし,固定価格買い取り制度による売電を行わないもの)。補助率は「第3章」
参照のこと。
② 経済産業省 資源エネルギー庁

地熱資源開発調査事業費補助金
例えば,モニタリング調査として,地熱開発に備え,温泉の流量・成分等
のモニタリング等の事業に対する補助(補助率:定額(10/10)。

地熱開発理解促進関連事業支援補助金
5-5
例えば,温泉影響調査等事業として,地熱開発地点の周辺の温泉において,
万が一何らかの理由により温泉の湧出量等が過度に減少した場合に,温泉井
戸の代替掘削に対する補助(補助率:定額(10/10)。
「第4章 上湯地区地熱エネルギー有効利用の検討」の概要
第4章は,現在,地熱活動が活発化している上湯地区の地熱エネルギーの有効利用として,バイ
ナリー発電の可能性を検討したものである。
(1) 上湯地区の現在の状況
ア 山体からは約 100 ℃の温度の噴気が認められ,地表(約 20cm 深)の温度は最大約 96 ℃
である。
イ 噴気自体の PH はほぼ中性であるが,表土の PH は約1程度の強酸性を呈している。
ウ 上湯地区直近には狭小な流域を持つ支沢があるが,常時の水は涸れており冷却水として
沢水は利用できない。
エ 上湯地区は,伊豆・箱根国立公園第二種特別地域に位置している。
(2) 検討条件,及び検討方針
ア 90~100 ℃の表土の地熱を利用する。
イ 新規の蒸気井等の掘削は行わない。
ウ 高温の土と水を通したパイプを接することで熱交換を行う。
エ このような方法で 70 ℃以上の温水が得られたならば,この温水でバイナリー発電を行
うものとする。
(3) 概念図
ア 補給水槽から循環ポンプを経て約 96 ℃の地表から熱を回収するパイプを敷設する。
イ 熱回収パイプは保温を兼ねた覆土を行いバイナリー発電設備に温水を供給する。
ウ 発電後の温度が低下した温水は,補給水槽に貯留し,熱回収のための媒体として循環さ
せる。
覆土
4
発電端出力
25kW
バイナリー発電設備
約 96℃
420ℓ/min
80℃
補給水槽
循環ポンプ
前掲 図 4.5
5-6
システム概念図
60℃
(4) 検討結果
ア 上湯地区におけるバイナリー発電は,概念的には図 4.5 のとおりである。このシステム
に類似の例は,調べた範囲内では確認できなかったが,70 ℃以上の温水が得られるな
らばバイナリー発電が成立すると判断した。
イ 発電諸元は,温水量 420 ℓ/min),温水温度 80 ℃とした場合,発電端出力 25kW,送電
端出力 19kW と見込まれる。
ウ 設備利用率は,温水循環のためのポンプ(3kW×1基)が別途必要となるため 64%と
した。
設備利用率
=
(送電端出力-循環ポンプ)/発電端出力
=
(19kW-3kW)/25kW=64%
エ 管体内面の壁面温度を 85℃とした場合,20 ℃の水を 80 ℃まで加熱するためには,熱
伝導率の高い材質のΦ80mm のパイプを約 62m,また,60 ℃の水を 80 ℃まで加熱す
るためには,約 37mの延長とする結果が得られた。
(5) 課題
本検討の範囲において浮上した今後の課題は,以下のとおりである。
ア 温水を導水するパイプは,80℃以上の高温水に耐える必要があり,かつ経過地の表土は
強酸性を呈しているなど,過酷な条件に耐える必要がある。このような耐久性に勝る材
質としてステンレスパイプが想定されるが,温泉環境での耐久性は全く期待できないこ
とが知られている。また,チタンパイプも想定されるが,ステンレスパイプよりは多少
耐久性に勝るようであるがその差はわずかなようである。したがって,より耐久性に優
れた低廉なパイプを探ることが必要である。
イ 熱回収パイプの延長は,長くなれば加熱温度が高くなり,結果として発電出力が増加す
るが,一方で工事費も嵩む。したがって,計画実施において当該パイプの延長は,経済
性比較を行って設定する必要がある。
ウ 熱回収パイプは,“滑らかな円管内を流れる十分発達した乱流の熱伝達”とみなし,
Dittus-Boelter(ディタス・ベルター)の式を用いて,概略の口径及び延長を算定した。
この式は,簡便式であり,計画実施に際しては,精緻な解析及び必要に応じ現地試験な
どを行うことも想定される。
エ 以上のとおり,本計画は解決すべき課題は多いが,新たな地熱エネルギーの回収方法と
して今後の検討が期待される。
オ 検討を計画するうえでも,地元の皆さまのご理解を得ることが極めて重要である。
以上
5-7
参考文献
参考文献リスト(その1)
整理番号
タイトル
著者
アドレス
日本地熱学会
参-1
005
地熱エネルギーハンドブック
007
トコトンやさしい地熱発電の本
當舎利行,内田洋平 著
日刊工業新聞社
010
エネルギーレビュー 2015.5
ERC出版
015
箱根温泉熱利用検討報告書 平成26年3月
箱根温泉熱利用検討会
http://www.town.hakone.kanagawa.jp/hakone_j/content/000028248.pdf
017
鉱泉分析法指針(平成26年改訂)
環境省自然環境局
http://www.env.go.jp/council/12nature/y123-14/mat04.pdf
020
地熱発電と温泉利用との共生を目指して
日本地熱学会
http://grsj.gr.jp/kyosei/Onsen_kyosei_report(2010.05).pdf
025
「地熱発電技術研究開発事業」事前評価報告書
資源エネルギー庁
http://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/e00/03/h24/457.pdf
030
平成25年度地熱発電に係る導入ポテンシャル精密調査・分析委
託業務報告書 平成26 年6 月
㈱エックス都市研究所,独法_産業技
http://www.env.go.jp/earth/report/h26-04/00cover.pdf
術研究所,アジア航測㈱
032
小谷村地域新エネルギービジョン H20年2月
長野県小谷村
http://www.vill.otari.nagano.jp/mura/information/032_02.pdf
036
地熱発電の現状と課題 2014年9月
日本地熱協会
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/003_01_00.pdf
040
地熱発電の現状と課題 2015.1.6.
国立国会図書館
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8842539_po_0837.pdf?contentNo=1
050
温泉と地熱発電に関わる最近の2 つの動きについて
神奈川県温泉地学研究所観測だより
http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/files/PDF/tayori/63/onkendayori63-04.pdf
板寺 一洋
060
地熱発電と温泉資源との共生について
神奈川県温泉地学研究所
板寺 一洋
http://kyushu.env.go.jp/earth/mat/m_2_1_4/0927ae.pdf
065
地熱発電と温泉資源との共生に関する調査報告書
地熱発電の現状と考察 H25FY
全国旅館ホテル生活衛生同業組合
連合会
http://www.env.go.jp/nature/onsen/council/kadai/04kadai/sanko4.pdf
070
温泉資源の保護のために 神奈川県の事例より H18年
神奈川県温泉地学研究所
板寺 一洋
https://www.env.go.jp/council/12nature/y123-04/mat05.pdf
080
箱根町地下水保全計画 H24年3月
箱根町
http://www.town.hakone.kanagawa.jp/hakone_j/content/000022893.pdf
085
小型バイナリー・タービン発電機に対する電気事業法等の規制緩
和について
独法 産業技術総合研究所
090
平成22年度 伊豆地域地熱発電(バイナリー方式)事業導入可能
性調査 概要版 H23年2月
静岡県企業局
http://www.pref.shizuoka.jp/kigyou/documents/h22gaiyo.pdf
095
平成23年度温泉発電事業化判断調査業務報告書:概要版
静岡県企業局
http://www.pref.shizuoka.jp/kigyou/documents/h23houkokusyogaiyo.pdf
100
我が国地熱政策の転換と開発の展望
一般財団法人日本経済研究所
近藤 浩正
https://www.jeri.or.jp/membership/pdf/research/research_1210.pdf
地熱エネルギーハンドブック刊行委員会
参考文献リスト(その2)
整理番号
タイトル
著者
アドレス
参-2
110
未利用地熱資源の開発に向けて No.49 2003.3
電中研レビュー N0.49 2003.3
(財)電力中央研究所
120
地熱資源開発の現状
電中研
伊藤 久敏,海江田秀志
http://criepi.denken.or.jp/research/review/No49/chap-1.pdf
130
地熱発電と温泉との共生への道
産業技術総合研究所
野田 徹郎
http://www.j-hss.org/journal/back_number/vol61_pdf/vol61no3_161_168.pdf
140
かながわ新エネルギービジョン H15年
神奈川県
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/34985.pdf
150
新型地熱発電 「湯けむり発電」の事業化
株式会社ターボブレード
代表取締役 林 正基
155
新しい地熱発電システムである湯けむり発電について
株式会社ターボブレード
代表取締役 林 正基
http://www.tnst.org.tw/ezcatfiles/cust/img/img/20130628/PDF/20130628_jp22.pdf
160
自然公園法の行為制限と解釈(地熱発電事業に伴う行為を抜粋)
地熱発電事業に係る
自然環境影響検討会(平成23年度)
https://www.env.go.jp/nature/geothermal_power/conf/h2304/ref03.pdf
170
規制改革の要望 地熱発電の導入促進に向けて H27年4月
日本地熱協会
180
未利用エネルギーを有効に活用する熱電発電システム
東芝レビュー Vol63 No.2 (2008)
https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2008/02/63_02pdf/a03.pdf
190
小規模地熱発電のうち温泉発電導入促進について 概要版 H26
独法
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
http://geothermal.jogmec.go.jp/data/file/023.pdf
200
平成25年度 小規模地熱発電のうち温泉発電導入促進のための
手引書
独法
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
210
小規模地熱発電及び地熱水の多段階利用事業の導入課題調査
手引書
独法
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
http://geothermal.jogmec.go.jp/data/file/019.pdf
220
平成25年度 再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報
整備報告書
環境省
地球環境局 地球温暖化対策課
http://www.env.go.jp/earth/report/h26-05/
230
シリーズ「再生可能エネルギー:地熱利用の展望」第4回
温泉バイナリー発電の試み
秋田 涼子
一般財団法人日本経済研究所
https://www.jeri.or.jp/membership/pdf/research/research_1301_01.pdf
240
温泉排熱利用温度差発電
慶応義塾大学
武藤 佳恭
http://www.neuro.sfc.keio.ac.jp/publications/pdf/cleanenergy.pdf
250
温泉発電システム研究の現状とこれから
独法 産業技術総合研究所
地熱資源研究グループ 柳澤教雄
https://unit.aist.go.jp/georesenv/result/green-news/gn36/36-p6.pdf
260
熱電発電(温度差発電)の 現状と応用の可能性について
特定非営利活動法人ReSURE
http://www.tsubame-cci.or.jp/img/netsuden.hatsden.siryou.pdf
270
温度差発電の仕組みと実証事例
慶応義塾大学
武藤 佳恭 他
http://neuro.sfc.keio.ac.jp/publications/pdf/denki.pdf
280
地中熱利用システム
環境省
http://www.env.go.jp/water/jiban/pamph_gh/index.html
285
地中熱ヒートポンプシステム
環境省
https://www.env.go.jp/water/jiban/heatpump-sys_pamph.pdf
http://criepi.denken.or.jp/research/review/No49/No49.pdf
参考文献リスト(その3)
整理番号
タイトル
著者
参-3
290
地中熱利用にあたってのガイドライン 改訂版 H27FY
環境省水・大気局
http://www.env.go.jp/water/jiban/gl-gh201203/main.pdf
300
再生可能エネルギー発電事業支援ガイドブック H26FY
資源エネルギー庁
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/guidebook.pdf
310
NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第7章 地熱発電
NEDO
http://www.nedo.go.jp/content/100544822.pdf
320
地熱複合サイクル発電システムの開発
東芝
http://www.nedo.go.jp/content/100575918.pdf
330
再生可能エネルギー各電源の導入の動向について
資源エネルギー庁
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/004/pdf/00
4_06.pdf
340
地中熱ヒートポンプシステムの導入検討の手引き
栃木県
http://www.pref.tochigi.lg.jp/d02/documents/tityu-tebiki.pdf
350
吉岡町地中熱利用可能性調査報告書 平成26 年2 月
吉岡町(群馬県)
http://www.town.yoshioka.gunma.jp/seisaku/pdf/earth_thermal_houkoku_full.pdf
360
地中熱の利用
地中熱利用促進協会
http://www.geohpaj.org/pdf_pamphlet/pamphlet1.pdf
370
地中熱って何だろう
地中熱利用促進協会
http://www.geohpaj.org/pdf_pamphlet/pamphlet2.pdf
390
我が国の地熱発電の概要
地熱発電事業に係る自然環境影響
検討会(第1回)資料
https://www.env.go.jp/nature/geothermal_power/conf/h2301.html
400
地熱発電システムの取組みと最新技術
富士時報 Vol.83 No.3 2010
http://www.fujielectric.co.jp/about/company/jihou_2010/pdf/83-03/FEJ-83-03-196-2010.pdf
410
動力エネルギーシステム部門ニュースレター第49号
(一社)日本機械学会 動力エネルギー
システム部門
420
地熱発電設備の開発
酒井吉弘 富士電機システムズ㈱
川崎工場
430
地熱バイナリー発電プラニング演習
福島大学 再生可能エネルギー
人材育成プログラム
440
我が国の地熱発電の概要
環境省 地熱発電事業に係る自然環
https://www.env.go.jp/nature/geothermal_power/conf/h2301.html
境影響検討会(第1回)資料 H23年
450
ソーラークーリングシステム
太陽の熱エネルギーを冷暖房に利用する。
川崎市総合教育センター
http://www.keins.city.kawasaki.jp/content/ksw/3/ksw3_013-018.pdf
460
空調用熱源機「温水・蒸気投入型ガス吸収冷温水機」を発売
2012年1月24日
日立アプライアンス㈱
http://www.setsubi-forum.jp/topics/1201/120124_2.html
470
我が国の地熱発電の概要
環境省
https://www.env.go.jp/nature/geothermal_power/conf/h2301/mat02.pdf
490
URBAN KUBOTA NO.22
㈱クボタ
https://www.kubota.co.jp/siryou/pr/urban/pdf/22/pdf/22_1_7.pdf
500
ワクワク はこね温泉 第2 回「箱根湯本温泉」
神奈川県温泉地学研究所観測だより,第59 号,2009.
菊川城司(神奈川県温泉地学研究所)
http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/files/PDF/tayori/59/onkendayori59-7.pdf
http://www.sss.fukushima-u.ac.jp/saiene/lectures
参考文献リスト(その4)
整理番号
タイトル
著者
アドレス
萬年一剛 神奈川県温泉地学研究所
http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/files/PDF/houkoku/41/houkoku41-p23-32.pdf
報告,第41 巻,23-32,2009.
参-4
510
大涌谷噴気地帯における過熱蒸気— その歴史と消滅の理由
520
箱根大涌谷で2001(平成13)年に発生した蒸気井の暴噴事故とそ 神奈川県温泉地学研究所観測だより
http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/files/PDF/tayori/53/onkendayori53-01.pdf
の対策
通巻第53号,1-12,2003
530
温泉事業者の懸念事例
第4回 温泉資源保護に関するガイド
http://www.env.go.jp/nature/onsen/council/kadai/04kadai/siryo21.pdf
ライン(地熱発電関係)検討会資料
550
第6章 地熱発電の賦存量および導入ポテンシャル
環境省 平成22年度 再生可能エネ
https://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/chpt6.pdf
ルギー導入ポテンシャル調査報告書
560
平成26年度「小規模地熱発電プラント 設計ガイドライン」
委託:独立行政法人 石油天然ガス・
http://geothermal.jogmec.go.jp/data/report.html
金属鉱物資源機構
570
温泉排湯利用ヒートポンプシステム
ゼネラルヒートポンプ工業株式会社
http://www.geohpaj.org/old_information/doc/shiba.pdf
580
温度差熱利用(温泉熱利用、地中熱利用ヒートポンプ)
別府市HP
https://www.city.beppu.oita.jp/03gyosei/kankyou/alternative_energy/about/pdf/ondosa.pdf
590
WEEKLY REPORT 第 2603回 例会平成27年10月2日
湯河原ロータリークラブ
http://yugawara-rc.jp/wp/wp-content/uploads/2015/10/20151002syuuhou.pdf
600
再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック 2015版
資源エネルギー庁
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/kaitori/2015_fit.pdf
610
地域資源を活用した温泉発電
栃木県 平成25年3月
620
集熱器 第3章 主な構成機器の構造と特徴
平成21年度 業務用太陽熱利用シス
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/attaka_eco/reference/
テムの設計ガイドライン NEDO
630
地熱熱水利用バイナリー発電システムにおけるシリカスケール対
策技術 富士電機技報 2013 vol.86 no.2
富士電機㈱
640
上湯場新噴気における水蒸気の酸素・水素同位体比
板寺一洋 他 神奈川県温泉地学
http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/files/PDF/houkoku/46/houkoku46_p17-20.pdf
研究所報告, 第46 巻,17-20, 2014
650
箱根湯本温泉・湯本第126号源泉の特徴
菊川城司,萬年一剛
神奈川県温泉地学研究所報告,
第38 巻,83-86,2006
660
(審議)バイナリー発電設備に係るBT主任技術者の選任 及び工事 商務流通保安グループ
計画届出等の 不要化範囲の見直しについて平成26年3月10日
電力安全課
670
湯本湯端発電所
電気ゆかりの地を訪ねて vol.27
(社)日本電気協会 関東支部2012
https://www.kandenkyo.jp/member/pdf/yukari%20vol.27.pdf
680
温泉水中におけるステンレス鋼の腐食事例解析と
チタンによる対策
山手利博
㈱竹中工務店 技術研究所
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcorr/60/11/60_11_491/_pdf
690
例題でわかる伝熱工学 第2版
平田哲夫・田中誠・羽田喜昭
森北出版㈱
http://www.fujielectric.co.jp/about/company/gihou_2013/pdf/86-02/FEJ-86-02-0102-2013.pdf
http://www.onken.odawara.kanagawa.jp/files/PDF/houkoku/houkoku38-13.pdf
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/hoan/denryoku_anzen/pdf/005_04_00.pdf