6 第 3 章 本論 3-1 調査・研究方法 本研究では以下のような流れに沿っ

第 3 章 本論
3-1 調査・研究方法
本研究では以下のような流れに沿って調査・研究を行った。
1.既存の環境ゲームソフトの収集
2.既存のゲームソフト分類に関する調査
3.既存のゲームソフト評価基準に関する調査
4.ゲームソフトの新しい分類方法の提案
5.環境ゲームソフトに適したゲームシステムの提案
順に解説していくと、本研究ではまず、既存の環境ゲームソフトを収集する事から始め
た。収集方法としては主に文献やインターネット上のホームページを利用し、入手可能な
環境ゲームソフトをできるだけ多数収集するように努めた。ホームページからの収集では、
サ ー チ エ ン ジ ン の “ Yahoo!JAPAN ( http://www.yahoo.co.jp/ )” や “ goo
(http://www.goo.ne.jp/)
”
、
“infoseek Japan(http://www.infoseek.co.jp/)”を使用した。
これらのサーチエンジンで、
「環境ゲーム or 環境問題ゲーム or 環境ソフト or 環境クイ
ズ」をキーワードとして検索を行い、検索の結果、該当したホームページからダウンロー
ドできるソフトはすべてダウンロードした。そして収集できた環境ゲームソフトおよび収
集できなくても存在とその内容が確認できたソフトについてデータベースを作成した。結
果、23 個 1)~12)の環境ゲームソフトを収集することができた。
次に既存のゲーム分類を家庭用ゲーム機器会社のホームページで調査した。調査のため
に「株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント」のプレイステーション公式ホー
ムページ(http://www.scei.co.jp/index-s.html)を使用した。分類データーは、同ホーム
ページの(オールソフトウェア:全体タイトルと最新情報)内のものとした。
また、既存ゲームソフトの評価基準(ソフトの優劣を評価するための基準)を調べるた
めにもサーチエンジンを使い、ゲームソフトに関する評価・レビューを行っているホーム
ページの調査を行った。サーチエンジンは、“Yahoo!Japan”と「CSJ インデックス
(http://www.csj.co.jp/csjindex/)
」を使用し、検索方法は Yahoo!Japan ではデレクトリ検
索を使用、
「趣味とスポーツ:ゲーム:コンピュータ:評論レビュー」内のホームページを調査
し、CSJ インデックスにおいては、キーワード「ゲーム and 評価 or レビュー」によっ
て確認できたホームページについて調べた。この結果を表にまとめ既存分類における評価
基準項目についての分析を行い、この分析に基づき独自に新しいゲームソフトの分類方法
を提案した。
最後に提案した分類方法を既存のゲーム分類方法と比較し、新規分類の特徴を明らかに
するとともに、環境問題をゲームソフト化するのに適したゲームシステムの考察を行った。
以下に、研究・調査の結果を述べる。
6
3-2 ゲーム定義
最初に、本論文において混乱を招く恐れのある基本的な用語について定義を行っておく。
1.「ゲーム」
:本論文でゲームと呼ぶものの中にはコンピュータソフト、「ボード」ゲー
ム、カードゲームなどのすべてのゲームが含まれる。
2.「ゲームソフト」:本論文で言うゲームソフトとは、コンピュータでプレイできるゲ
ームのことであり、
「コンピュータゲーム」や「テレビゲーム」と同義である。
3.「シミュレーション」:シミュレーションはこの論文において、補足的用語を用いて
いないかぎりはコンピュータ・シミュレーションのことを指す。
本章で対象とする「ゲーム」は先に定義したような「ゲームソフト」のことではなくゲ
ームと呼ばれているものすべてである。簡単にゲームといっても多種多様である。近年ゲ
ームといえばテレビゲームなどのコンピュータゲーム(ゲームソフト)が中心であるが、
本来ゲームと呼ばれているものの中には「モノポリー」や「将棋」、
「囲碁」といった「ボ
ード」ゲームやトランプなどカードを使った「カードゲーム」などの昔からあるゲームか
ら、学術的なゲーミング・シミュレーションまでさまざまである。しかし、見かけはどの
ように違ってもゲームとして成り立つために共通した要素を持っている。ゲームと呼ばれ
ているものを詳細に見ていくと、以下の 7 つの共通した要素を備えていることがわかる(図
3-1 参照)
。
1. プレイヤー
2. 操作因子
3. ゲームシステム
4. 不確定要素(ブラックボックス)
5. 戦略
6. アウトプット(結果)
7. 利得(勝敗)
以下にそれぞれの説明を行う。
1.プレイヤー:ゲームはプレイするプレイヤーがいなければならない。プレイヤーはゲ
ームを進行させる主体であり、下記のゲームシステムに「インプット」をする存在で
ある。コンピュータがチェスの世界チャンピオンと戦ったり、コンピュータ同士の「将
棋」の大会が開かれたりしているように、一方のプレイヤーがコンピュータであるこ
ともある。
2.操作因子:プレイヤーの「インプット」(入力)に与えられた選択肢の幅のことであ
り、プレイヤーが入力を行うために必要なもの、入力するためのデバイス及び、その
デバイスを通じてプレイヤーが操作することのできるものの総称である。
3.ゲームシステム:ゲームの基本となるソフトとしてのルールと、ゲームの外観を形作
るハード的構成要素の総体のことである。ただしここでいうゲームシステムとは、ゲ
ームのテーマとは別のものである。例をあげると、スゴロクというサイコロをふって
7
コマを動かし、止まったマス目の指示に従うというゲームシステムは同じでも、人生
をテーマとした「人生ゲーム」や不動産売買をテーマとした「モノポリー」などのよ
うに様々なテーマを持つことになる。
4.不確定要素:ゲームシステム中に組み込まれた確率的な要素であったり、プレイヤー
が明示的に知ることのできない部分のことである。プレイヤーの「インプット」付随
して「アウトプット」を決定する要素である。
5.戦略:プレイヤーが下記の利得を最大化させるために、どのような選択肢(インプッ
ト)をとるかを規定する考え方である。
6.アウトプット:プレイヤーの「インプット」(選択)に対し、ゲームシステムから返
されるものである。これらの総和が次の「利得」に結びつく。
7.利得:ゲームの得点や勝敗のことである。プレイヤーのプレイ結果に対し、客観的に
与えられる評価であり、「アウトプット」の総和としてゲームの目標はこの利得を最
大化することにある。
図 3-1 ゲーム構成要素の相互関連
以上の定義を、摸式化したものが図 3-1 である。ゲーム定義をこの図を用いて説明しな
おすと、まず「インプット」を行う主体としての「プレイヤー」が存在する。ゲームにお
ける「プレイヤー」の目標は「利得」を最大化することである。「ゲームシステム」には
「不確定要素」が存在し、どの「インプット」(選択肢)が最適であるか「プレイヤー」
は明示的に知ることは普通ない。そこで「プレイヤー」はどの「インプット」(選択肢)
を選べば「利得」を最大化できるか、そのための「戦略」を考える。
「プレイヤー」は「戦
8
略」に基づいた「インプット」を行うために、「操作因子」によって最適であると思われ
る「インプット」を行う。その「インプット」に対しゲームのルールを内包している「ゲ
ームシステム」が、「プレイヤー」には直接見ることのできない「不確定要素」と「プレ
イヤー」の「インプット」との結果として「アウトプット」を返す。「アウトプット」の
累計が一般的に「利得」となる。
以上のゲーム要素の定義に従ってゲームの「面白さ」とは何かについて考えてみる。ゲ
ームソフトは娯楽目的で使用されることが一般的であることからわかるように、なにより
も「面白さ」というものが求められる。ゲームソフトの「面白さ」とは、簡単にいうとそ
のゲームの「奥の深さ」であり、そしてゲームの「奥の深さ」とは、「戦略」の幅の広さ
ではないだろうか。「戦略」の幅が広ければプレイヤーは独自の「戦略」を立てることが
可能になる。プレイヤーは試行錯誤を繰り返して「戦略」を立て、自分の「戦略」によっ
て利得が高まっていくことに「面白さ」を感じるのではないのだろうか。「戦略」の幅が
狭いと、プレイヤーが選ぶことのできる「戦略」が限られてしまうため、プレイヤーは安
易にあるいは自分の意志とは関係なく「戦略」を選択することになってしまう。これでは、
自分の努力によって「戦略」を立てるという面白味がなくなってしまう。
「戦略」の幅の広さには、
「インプット」と「アウトプット」の多様性と「不確定要素」
が重要な要素であると考えられる。プレイヤーの「インプット」に対して、「アウトプッ
ト」が多様であればあるほどプレイヤーが選択できる選択肢は増加する。選択肢の増加は、
ゲームの局面の増加を意味する。プレイヤーは、それぞれの局面において新たな「戦略」
を求められることから、「戦略」の幅が広がることにつながる。また、「インプット」から
の「アウトプット」をあらかじめプレイヤーが知ることができる、もしくは安易に予測で
きるものであれば「戦略」を立てる必要性がなくなる。そのために「不確定要素」が存在
する。「不確定要素」はプレイヤーに簡単に見破られるようなものであってはならない。
この意味で「不確定要素」自体にも「奥の深さ」が要求されるだろう。「奥の深い」ゲー
ムとは、プレイヤーが色々な「戦略」を試すことができるゲームのことである。プレイヤ
ーは自分が思い描く「戦略」を色々と試し、返ってくる「アウトプット」から「不確定要
素」の構造を推定し「戦略」を立てていく。この一連の動作と、自らの努力が高利得にむ
すびつくことに、プレイヤーは「面白さ」を感じるのではないだろうか。
以上を満たしているものがゲームであるが、本章の終わりとして一般にゲームと考えら
れているが本論文では対象としないゲームを明らかにしておく。本論文ではコンピュータ
ゲーム(ゲームソフト)を対象として調査・研究を行っていく。そのため本論文では「将
棋」や「囲碁」
、
「モノポリー」やポーカーゲームなどの一般に言うテーブルゲームは調査
の対象であるゲームソフトから除外している。これらテーブルゲームをコンピュータゲー
ム化しているものがあるが、これらについてはコンピュータでなければ表現できないゲー
ムではないと考えるからである。また、純粋なクイズは上記のゲーム定義で考えてみると、
「知っているか、知っていないか」という選択肢しかプレイヤーに用意されておらず、そ
9
の意味で「不確定要素」がなく、かつ「戦略」が成り立たないため本論文ではゲームとは
考えない。またクイズをゲームの一部として用いているものもあるが、これらについても
テーブルゲームと同様に本論文ではゲームソフトと考えないこととする。
10
3-3 シミュレーション定義
この論文では、「シミュレーション」という言葉が非常に重要な意味を持ってくる。そ
のためここでは一般的な「シミュレーション」の意味について解説しておく。
「シミュレーション」とは「模擬する」という意味を持っており、現実には実現不可能
な事象をかわりのもの(モデル)を使って「まね」することである。モデル実験の総称と
して使われる。実際に実験やテストをすると莫大な費用がかかったり、危険が伴ったり、
何度も反復して実験しなければならない時や、実験が難しく成功率が低い場合などにシミ
ュレーションが用いられる。縮尺模型などを使ったシミュレーションもあるが、現在では
シミュレーションといえば数式モデルを構築し、そのモデルをコンピュータによって数値
解析することを指すことが多い 12)。
「シミュレーション」の定義にはいろいろあるが、一般的なものをまとめたものとして
本論文では次のように定義する。
「シミュレーションとは、対象となる現実の事象の構成要素と、それら構成要素間の相
互依存関係を抽出し、それらを他のもの(例えば物理模型や数式)に置き換えてモデル化
すること。そしてモデル化したものを操作することによって、安全かつ少ない費用によっ
てシステムの生起する現実の事象を擬似的に再現し、その事象の理解や予測に役立てるも
のである。
」
3-3-1 シミュレーションの目的と利用方法
シミュレーションは、実際に利用されているだけでも、電力、原子力、鉄鋼などの工学
分野や経済や経営などのビジネスの分野、社会システムの分析など幅広い分野で使われて
いる。また学習や訓練の目的に用いられることも多い。学習や訓練では、認識学習や知覚
学習などの能力を向上させる目的でシミュレーションが使用される
13)
。擬似的なモデル操
作を通じて操作方法などを学ぶ代表例として、フライトシミュレーターなどがある
14)
。シ
ミュレーションの目的としては、以下のものが一般的である。
(1)現実世界の現象やシステムをモデル化し、モデルの入力やパラメーターの値を感
度分析することにより、定量的に理解を深め、課題の解決策を模索する。この場
合、シミュレーションは意思決定や判断業務を支援する目的で使われる。
(2)システム開発は、分析、計画、運用の段階を経て完成するが、それぞれの段階に
おいて、システムの機能、性能を定量的に分析、把握のために使用する。
(3)システムの機能、性能を把握するだけではなく、最終的なシステム計画全般全般
の良否を判断する。システム開発では、システム開発が及ぼすシステム外への影
響についても評価する事が必要となる。例えば環境アセスメントなど。
(4)教育、訓練目的。
11
3-3-2 環境分野でのシミュレーションの利用
環境分野においても、シミュレーションは幅広く使われている。シミュレーションを利
用した有名なものとして 1972 年にローマクラブが発表した「成長の限界」がある。この
本は世界の資源,人口,食糧,汚染,経済活動を、システムダイナミックスというモデル
手法によってシミュレーションし、その結果をまとめたものである。その他にも、海洋汚
染や大気汚染、騒音、地球温暖化、オゾン層の破壊、環境アセスメントなどにも使われて
いる。また「シムシティ」や「シムアース」「バランス・オブ・プラネット」などは、シ
ミュレーションの手法を用いたゲームソフトの代表例である。
環境破壊が急速に進行する現代においては、環境問題の実態を正確に把握することが難
しくなってきている。このようなことからも、シミュレーションによる地球規模の定量的
実態把握、及び未来の予測はきわめて有効かつ重要な方法である。
12
3-4 ゲーミング・シミュレーション定義
ここでは、問題解決支援ツールとして確立された手法であるゲーミング・シミュレーシ
ョンについて解説する。ただし最初に断っておかなければならないが、この手法としての
ゲーミング・シミュレーションはその名前から一般の人々が想像するものとは、かなりか
け離れたものである。
「ゲーミング・シミュレーション」は簡単にいうと、ゲーム的側面を持ったシミュレー
ションのことである
17)
。またプレイヤーの意思決定を積極的に取り入れ、それにもとづい
て進行するシミュレーションのことである。つまりゲーミング・シミュレーションにおい
てもプレイヤーには、ゲーム定義で行ったような利得や「操作因子」が与えられており、
「操作因子」を用いて利得を最大化するようにプレイヤーが行動を選択する。その行為そ
のものがゲーミング・シミュレーションである。
ゲーミング・シミュレーションの定義も文献によって多少の違いがあるが、要約すると
次のようになる。シミュレーションの中でも特に確率モデルを対象としたシミュレーショ
ンであり、確率的要素が二人以上のプレイヤー(人間)であり
18)
、それらのプレイヤーが
互いに競合的関係の状態を模擬しているときに特にゲーミング・シミュレーションという。
ゲーミング・シミュレーションではプレイヤーにゲーム内での役割、最終的な目標、「操
作因子」、ゲームシステム、不確定性(確率要素)、利得や最終的な勝ち負けなど、3-2 の
「ゲーム定義」で行ったゲーム要素がすべて与えられる。これらのものは現実世界から抽
出され、ゲーミング・シミュレーションのためのゲームシステムとして再構成されたもの
である。つまり、ゲーミング・シミュレーションは現実世界のシステム(特に競合的な人
間関係)をモデル化するものであり、一般の人々がゲームと聞いて思い浮かべるような空
想的な世界を対象としているわけではない。
3-4-1 ゲーミング・シミュレーションの目的と利用 18)
ゲーミング・シミュレーションは特に、教育や学習、訓練目的で利用されることが多い
が、それ以外の目的で利用されることも少なくない。ゲーミング・シミュレーションの一
般的な目的と利用方法は、次のようなものである。
(1)学習、教育、訓練目的:この目的で使われるゲーミング・シミュレーションはゲ
ーミング・シミュレーションのプレイを通してプレイヤーが対象となるモデルの
システムの理解を深めたり、現実においてすぐに役に立つ技能の修得を目指すの
ために使われる。このような目的で作られるゲーミング・シミュレーションは最
終的に出てくる結果を重視しているわけではなく、プレイ過程を重視する。
(2)集団の意思決定、合意形成といった問題解決を志向する目的:このゲーミング・
シミュレーションは「政策ゲーム」や「作戦ゲーム」などと呼ばれ、社会や企業
などの、組織や集団が抱える問題の解決のために使われる。この場合、教育や学
習目的で使われるよりも、具体的な問題解決法を導き出すことを目指している
13
(3)将来予測などの新しい情報を得ることを目的とするもの:この目的のためのゲー
ミング・シミュレーションは、幅広い範囲を対象としており、要約することが難
しいが、あえて言うと、ある政策が地域に及ぼす影響を、調査するときなどに使
われるものである。
(4)ゲーム的状況における人間の行動様式を対象とした研究を目的とするもの:非協
力的もしくは協力的なゲーム状況に置かれた人間が、どのような意思決定を行っ
ているのか、調査するために使われる。
このような分類には、きちんとした線引きがあるわけではなく、複数の目的にまたがっ
たゲーミング・シミュレーションも数多くある。企業の意思決定支援目的で作られゲーミ
ング・シミュレーションが、学校の教育目的で使用されることも十分に考えられる。この
ように考えれば娯楽ゲームソフトを、教育目的で使用することもできるだろう。例えば「モ
ノポリー」は娯楽目的に作られたゲームであるが、経営要素を強く含んでおり、使い方に
よってはゲーミング・シミュレーションと同じような教育効果があるかもしれない。つま
り一つのゲーミング・シミュレーションであっても、利用方法が異なればゲーミング・シ
ミュレーションの目的も違ってくるのである。
3-4-2 ゲーミング・シミュレーションの具体例
ゲーミング・シミュレーションでは定義でも述べたが、確率要素が二人以上のプレイヤ
ー(人間)でなければならない。すなわちゲーミング・シミュレーションをプレイするプ
レイヤーの人数は二人以上となる。コンピュータを使ったゲーミング・シミュレーション
において、一人でプレイするソロプレイ型
22)
のものもあるが、これは他のプレイヤーの役
割をコンピュータが代役しているだけのことである。人間がプレイすると時間がかかり過
ぎたり、プレイするために多くのプレイヤーを必要として実際にそれだけの人数を集めて
プレイすることが事実上不可能であるような場合などに、コンピュータを使用することで
今までプレイすることが不可能だったゲームや時間がかかりすぎたゲームを短時間に行う
ことができるようになったのである。
「ボード」ゲームやコンピュータゲームなどでは、単純にせよ複雑にせよプレイヤーし
か存在しない場合が多いが、ゲーミング・シミュレーションでは、ゲームを進行させる役
割をもつ第三者のファシリテーター
19)
(オペレーターやゲームディレクターともいう)の
存在が不可欠である。コンピュータがこの役を補助的に、もしくは全面的に受け持つこと
もある。
一般の娯楽目的のゲームでは、プレイヤーはゲームがしたいときに始めることができ、
おわりたいときに終了することができる。それに対しゲーミング・シミュレーションでは
プレイするために、
「ファシリテーション」20)という行為が必要となる。ファシリテーショ
ンとは簡単に言うと、準備、運営、進行のことである。ファシリテーションは上記のファ
14
シリテーターの手によって行われ、他のゲームと違いゲーミング・シミュレーションでは
非常に重要とされている。もう一つゲーミング・シミュレーションで重要とされているも
のに「ディブリーフリング」21)がある。ディブリーフリングとはファシリテーターによっ
てゲーミング・シミュレーション終了後に行われる、報告、討論、分析、検討が一体にな
ったようなものである。ディブリーフリングは、ゲーミング・シミュレーションの学習効
果を高めるために行われる。また、ディブリーフリングがなければゲーミング・シミュレ
ーションは学習効果を上げることができないとまでいわれ
21)
、ファシリテーターがゲーミ
ング・シミュレーションの進行と同じくらい力を入れなければならない部分である。
ゲーミング・シミュレーションをプレイの形態別にまとめると次のようになる 22)。
(1)ソロプレイ型:一人でゲーミング・シミュレーションを行う形態。前述したように、
ゲームをプレイするプレイヤーは一人だが、実際はほかのプレイヤーやファシリテ
ーターの役割をコンピュータが代役している。
(2)グループ対コンピュータ型:プレイするプレイヤーは複数で、ファシリテーター役
をコンピュータが受け持つ形態。この形態は、人間のファシリテーターでは難しい
計算や時間のかかる処理をコンピュータがすばやく処理してくれる。
(3)マルチプレイヤー対面型:プレイヤーやファシリテーターをすべてを人間で行う形
態。ゲーミング・シミュレーションの基本である。この形態にもコンピューターが
使用されることがあるが、これはファシリテーターの計算作業などを補助するため
である。また、プレイヤーが自分の意思決定をコンピュータに入力することでゲー
ムを進行させるものもある。この場合も、実際にプレイヤーが紙に書いたり計算し
たりする行為を、コンピューターが補助代行しているだけである。
マルチプレイ対面型のゲーミング・シミュレーションでは、「ボード」ゲームの形態を
取っていたり、部屋全体をフィールドとして使用するゲームや、いくつもの部屋を使用し
たりするものなどがある。ゲーミング・シミュレーションにとってのコンピュータとは、
あくまでも補助的なものにすぎない。
15
3-5 ゲーミング・シミュレーションとシミュレーション、ゲームの違い 18),23)
ゲーミング・シミュレーションとシミュレーション、ゲームのこれらの三者を区別する
ことは難しく、時として同じものとしてあつかわれることがある。確かにそれぞれにオー
バーラップする部分が多く、厳密に分けることが非常に難しいのだが、この論文ではこれ
らを以下のように区別するものとする。
図 3-2 ゲーミング・シミュレーションとシミュレーション、ゲームの関係
ゲーミング・シミュレーションとゲームおよびシミュレーション、シミュレーションゲ
ームの関係を図にすると図 3-2 のようになる。通常大きな集合としてシミュレーションと
ゲームが存在し、その重なりの中にシミュレーションゲームがある。さらにシミュレーシ
ョンゲームの中の一部としてゲーミング・シミュレーションが存在すると言えるだろう。
この中で特に問題になるのがゲーミング・シミュレーションとシミュレーションゲームと
の違いである。本論文ではコンピュータシミュレーションゲームを対象として話を進めて
いくつもりであるが、ここでゲーミング・シミュレーションとの違いを明らかにしておこ
う。
前節ですでに述べているが、ゲーミング・シミュレーションとは、プレイヤーがその意
思決定にもとづいて動作するその行為によって実社会の人間関係をシミュレートするもの
である。一方シミュレーションゲームとはシミュレーションの手法を用いたゲーム全般の
ことを指す。ゲーミング・シミュレーションではプレイヤーが常に複数存在し、それぞれ
のプレイヤーの「インプット」が他のプレイヤーに対し常に重大な影響を与える。だがシ
ミュレーションゲームでは、プレイヤーは一人でもよく、また一人のプレイヤーの「イン
プット」が他のプレイヤーに影響を及ぼすことがなくてもよい。
また、そもそもゲーミング・シミュレーションは娯楽目的というよりは学術、教育、訓
練目的のために主に使用されるものである。これは、ゲーミング・シミュレーションがフ
16
ァシリテーションやディブリーフリングを重要視していることでもわかる。これに対して
シミュレーションゲームのほとんどは娯楽目的のものである。つまりシミュレーションゲ
ームはゲーミング・シミュレーションよりも手軽にプレイすることのできるものと言える
だろう。そのためかゲーミング・シミュレーションはまだまだ一般的ではなく、研究者や
学生などがプレイする場合が多い。
本論文で単に「シミュレーション」と呼ぶ場合はゲーミング・シミュレーションを除外
するものではないが、特にその存在を意識するものでもない。
17
3-6 ゲームの分類と評価
環境ゲームソフトに最適なゲームシステムを考えるにあたり、既存のゲームシステムが
どのようなものがあるのかをまず知らなければならない。既存のゲームソフトは一般に言
う「ジャンル」によって分類されている。この分類ごとに要求されているシステム要素の
調査、分析を行うことで、既存のゲームシステムの特徴やどのような視点で分類されてい
るのかを知ることができるだろう。
調査の対象としては、家庭用ゲーム機のゲームソフトのみをとりあげた。これは現在最
も多くのゲームソフトが販売されているのは家庭用ゲーム機であり、ゲームソフトの本数
が多いほど、色々なゲームシステムを持ったゲームソフトが存在すると考えられるからだ。
また本調査では、家庭用ゲーム機の中でも最もシェアの高い機種を対象として調査を行っ
た。
3-6-1 既存のゲーム分類
既存のゲーム分類はゲーム機器によって若干の違いがある。今回使用した分類は 1997
年度において最も販売台数が多かったプレイステーション
28)
のものである。1997 年度の
家庭用ゲーム機器の販売台数は日経ビジネス EX-PRESS のホームページによると、ソ
27)
ニーの「プレイーステーション」が 650 万台、セガの「サターン」が 480 万台、任天堂「N
64」が 204 万台であった。プレイステーションが家庭用ゲーム機器の中で最もシェアが
高い。
プレイステーション
サターン
N64
2,040,000
6,500,000
4,800,000
図 3-3 1997年度家庭用ゲーム機器販売台数
以下の分類はプレイステーションの公式ホームページで調査したものである。
「プレイステーションが使用しているゲームの分類」
l
ロールプレイングゲーム(RPG)
l
アクション
l
アドベンチャー
l
シミュレーション
l
シューティング
18
l
スポーツ
l
パズル
l
ボード
l
レース
l
格闘アクション
l
その他
以下にそれぞれの分類について簡単に説明する 29),30)。
1)「ロールプレイングゲーム」とは、プレイヤーがゲームにおいて何か役割を演じるこ
とでゲームが進行するものである。よく似た言葉で「ロールプレイ」があるが、この
二つのゲームは異なったものである。ロールプレイも「ロールプレイング」ゲームも
プレイヤーが役割を与えられ、その役割を演じることでゲームが進行するという部分
は同じであるが、ロールプレイではプレイヤーに役割が与えられているだけで、プレ
イ中のプレイヤーの行動や発言は自由である。これに対して「ロールプレイング」ゲ
ームではあらかじめプレイヤーの行動や発言が選択肢という形で製作者によって定め
られており、プレイヤーはそれらの選択肢を選ぶことでゲームが進行する。社会現象
にもなった「ドラゴンクエスト」などが「ロールプレイング」ゲームの代表作である。
2)「アクションゲーム」とは、プレイヤーの「巧緻性」を必要とするゲームソフトのこ
とである(巧緻性については 3-6-4 で詳細を述べる)
。簡単に説明するとゲームを進行
させる上で、操作スピード、正確性、タイミングが要求されるゲームソフトのことを
指す。ゲームはリアルタイムで進行する。テレビゲームを有名にした「スーパーマリ
オブラザーズ」などがこのタイプのゲームソフトである。
3)「アドベンチャーゲーム」は、「ロールプレイング」ゲームと同じくプレイヤーが何
かの役割を演じることでゲームが進行する。しかし「ロールプレイング」ゲームとの
違いは、よりシナリオを重視して作られている点である。そのため、シナリオを効果
的に見せるための演出効果にこだわったゲームソフトが多い。シナリオ重視の作りの
ためプレイヤーが選択できる選択肢の幅はせまい。このタイプのコンピューターゲー
ムとして有名なのが「ポートピア連続殺人事件」や「ZORK」などである。
4)「シミュレーションゲーム」は、「シミュレーション」の手法をゲームにとり入れた
ゲームソフトのことである。「シミュレーション」ゲームは現実のシステムや現象を
モデル化して、ゲームにしているものが多い。例えば、歴史をモデルとしたものや市
長の仕事をモデルにしたもの、会社経営をモデルにしたものなど、様々なものがモデ
ルの題材となっている。「シミュレーション」ゲームでは「信長の野望」や、「シムシ
ティ」などが有名である。
5)「シューティング」とは、基本的には「アクション」ゲームと同じものである。「シ
ューティング」ゲームは、「射的」的要素を強く持ったゲームソフトのことを指す。
19
コンピューターゲーム初期のヒット作品である「インベーダーゲーム」や「ゼビウス」
などが「シューティング」ゲームの代表である。
6)「スポーツ」は、スポーツをテーマとしたゲームソフトのことである。その名前から、
スポーツ競技をシミュレートした、「シミュレーション」ゲームのようなものと考え
られることが多いが、テーマとしてスポーツ競技をあつかっているゲームソフト全般
を指すものであり、
「アクション」ゲーム的要素の強いものと、
「シミュレーション」
的要素の強いものとに別けられる。「スポーツ」ゲームとして有名なものには任天堂
の「ベースボール」などがある。
7)「パズル」ゲームは、ある一定の規則に沿って幾何学的問題を解いていくゲームソフ
トである。クロスワードパズルなど、言葉の配置を用いたものもある。最近のパズル
ゲームソフトのほとんどは、「アクション」ゲーム的要素との複合となっている。逆
に「パズル」ゲーム以外のゲームソフトでも、パズルゲーム的要素を組み入れたもの
もある。このタイプのゲームソフトとして有名なものに「テトリス」がある。
8)「ボード」は、
「将棋」や「囲碁」、「モノポリー」や「人生ゲーム」など昔からの「ボ
ード」ゲームをパソコンに移植したものである。トランプなどのカードゲームを移植
したものも「ボード」として分類されている。
9)「レース」は、カーレースをテーマとしたゲームソフトのことをいう。車の運転をシ
ミュレートした、ドライビングシミュレータータイプのゲームソフトが多い。教習所
などで使われている本格的なシミュレーターとは違い、ゲームとしての性格を強める
ために、現実の車の複雑な「操作因子」や「アウトプット」に、単純化をほどこしプ
レイヤーが簡単にプレイできるようにしているゲームソフトがほとんどである。その
他、カーレースチーム運営「シミュレーション」などもこの「レース」に分類される。
有名なゲームとして「グランツーリスモ」や「ファミリーサーキット」などがある。
10)
「格闘アクション」とは、
「アクション」ゲームの中でもさらに、「格闘技」をテ
ーマとしたゲームソフトのことを指す。このジャンルを確立したゲームソフトとして
「ストリートファイター」がある。
現在、ゲームソフトの分類は上記のような分類方法が用いられているが、特に最近のゲ
ームソフトは、複数の分類にまたがったものが増えてきている。そのため、11番目の「そ
の他」という項目が存在する。
以上述べてきたように、既存のゲームソフト分類には、ゲームのテーマに基づく分類(例
えば、スポーツや「レース」
)と、ゲームシステムによる分類(例えば、
「アクション」ゲ
ームや「シミュレーション」ゲーム)が混在している。また、分類に使われている言葉の
定義自体があいまいである。つまり、まったく違った種類のゲームソフトが同じジャンル
の元に分類されており、厳密な意味で分類間のゲームソフトの違いを明らかにすることが
難しいのである。
20
3-6-2 評価項目から見た既存のゲーム分類
次にゲームソフトの既存の分類別に、要求されるゲーム要素について考えてみる。ゲー
ムは分類されている以上、その分類ごとに要求される内容が異なることが予想される。そ
こで、プレイヤーがそれぞれゲームソフトに対しどのような評価をどのような評価基準で
行っているのか調査することで、それぞれのゲーム分類にプレイヤーが要求しているであ
ろうゲーム要素を明らかにし、既存のゲームソフト分類の意味を再度確認してみる。その
上で、なぜ既存のゲーム分類が環境ゲームソフトを分類する上で不適切であるのかを考察
する。
調査方法の概要
対象サンプル:インターネット上のホームページ計 86 サイト
調査方法:サーチエンジンでの検索と対象ホームページの調査
サーチエンジンによる調査概要:
検索内容
ゲーム and (評価 or レビュー or ランキング)
1.YAHOO !Japan 趣味とスポーツ:ゲーム:コンピュータ:評論レビュー
http://www.yahoo.co.jp/Recreation/Games/Computer_Games/Reviews/
98/10/28(水)
2.CSJ インデックス
http://www.csj.co.jp/csjindex/
98/11/23(月)
ホームページ調査期間:1998 年 10 月 28 日∼1998 年 11 月 23 日
調査項目:ゲームの評価基準項目
表 3-1 が調査結果すなわちゲーム分類別の評価基準となっている項目を、表にまとめた
ものである。この表は市販のゲームソフトを評価、順位付けを行っている関連ホームペー
ジにおいて、それら評価や順位付けがどのような評価基準(項目)によって行われている
のかを調査したものである。表の各列の先頭が既存のゲーム分類名であり、分類目の下に
列記したものがそれぞれのゲームソフトについて評価の基準になっていた項目である。
表から明らかなように、「システム」から「キャラクター」までは、すべての分類に共
通した評価基準であり、かろうじて分類間の違いがでたのは「ストーリー」、
「自由度」
、
「リ
アリティ」
、
「育成」と呼ばれる項目名だけであった。
21
表 3-1 既存ゲームの評価基準からみた分
類
アクション アドベンチ シミュレー
RPG
ャー
ション
システム システム システム システム
グラフィッ グラフィッ グラフィッ グラフィッ
ク
ク
ク
ク
操作性
操作性
操作性
操作性
音楽
音楽
音楽
音楽
バランス バランス バランス バランス
熱中度
熱中度
熱中度
熱中度
難易度
難易度
難易度
難易度
演出
演出
演出
演出
斬新
斬新
斬新
斬新
快適性
快適性
快適性
快適性
データ量 データ量 データ量 データ量
ゲーム動 ゲーム動 ゲーム動 ゲーム動
作
作
作
作
画面デザ 画面デザ 画面デザ 画面デザ
イン
イン
イン
イン
戦略
戦略
戦略
戦略
キャラクタ キャラクタ キャラクタ キャラクタ
ー
ー
ー
ー
ストーリー ストーリー ストーリー ストーリー
自由度
自由度
自由度
自由度
リアリティ リアリティ リアリティ リアリティ
育成
育成
シューティ
ング
システム
グラフィッ
ク
操作性
音楽
バランス
熱中度
難易度
演出
斬新
快適性
データ量
ゲーム動
作
画面デザ
イン
戦略
キャラクタ
ー
ストーリー
自由度
リアリティ
スポーツ
パズル
ボード
レース
システム
グラフィッ
ク
操作性
音楽
バランス
熱中度
難易度
演出
斬新
快適性
データ量
ゲーム動
作
画面デザ
イン
戦略
キャラクタ
ー
ストーリー
システム
グラフィッ
ク
操作性
音楽
バランス
熱中度
難易度
演出
斬新
快適性
データ量
ゲーム動
作
画面デザ
イン
戦略
キャラクタ
ー
システム
グラフィッ
ク
操作性
音楽
バランス
熱中度
難易度
演出
斬新
快適性
データ量
ゲーム動
作
画面デザ
イン
戦略
キャラクタ
ー
ストーリー
システム
グラフィッ
ク
操作性
音楽
バランス
熱中度
難易度
演出
斬新
快適性
データ量
ゲーム動
作
画面デザ
イン
戦略
キャラクタ
ー
リアリティ
22
リアリティ
格闘アク
ション
システム
グラフィッ
ク
操作性
音楽
バランス
熱中度
難易度
演出
斬新
快適性
データ量
ゲーム動
作
画面デザ
イン
戦略
キャラクタ
ー
ストーリー
自由度
リアリティ
その他
システム
グラフィッ
ク
操作性
音楽
バランス
熱中度
難易度
演出
斬新
快適性
データ量
ゲーム動
作
画面デザ
イン
戦略
キャラクタ
ー
ストーリー
以下それぞれの評価基準項目について簡単な説明を与える。先ず表 3-2 にまとめた評価
基準は環境ゲームソフトのためのゲームシステムを考えるという本研究の目的から見て重
要でないと考えた項目である。もちろん市販ゲームソフトにとってはどれも重要な要素な
のであろうが以下の考察の段階ではこれは無視する。なぜなら、表 3-2 の評価基準項目は、
プレイヤーの感性にうったえかけるものであり、ゲームシステムの選定とはあまり関係の
ないものとして考えられるからである。
表3-2 評価項目の説明1
グラフィック
いわゆるコンピューターグラフィックのこと。
音楽
音楽はゲーム中に流れる効果音を含めたBGMのこと
熱中度
プレイヤーがゲームにどれだけ真剣になってプレイできるかどうか
難易度
ゲームの難しさ、易しさ
演出
舞台や映画などの演出効果とおなじようなもの
斬新性
従来のゲームとの違い、その新規性の度合い
快適性
プレイヤーがスムーズにゲームを楽しむことができるかどうか
データ量
ゲームで使用されるデータの量
画面デザイン
画面の見やすさや画面の構成など
キャラクター
ゲームに登場するキャラクターの魅力
育成
ゲーム内でキャラクターを育てる楽しみ
これ以降の考察は、表 3-3 にまとめた評価基準のみで行うものとする。
表3-3 評価項目の説明2
ゲームシステム ゲームのルールなど、ゲームを成立させている骨格部分(本論文の
「ゲームシステムより」やや狭義)
操作性
プレイヤーの選択を入力するインターフェースを含めた入力方法の
容易さ
バランス
プレイヤーの取る戦略とプレイヤーが直接操作することのできない
確率的要素およびプレイヤーが選択する事のできない、非選択肢の
バランスのこと
ゲーム動作
ゲームの進行スピードのこと
ストーリー
ゲームにあらかじめ用意されているシナリオのこと
自由度
プレイヤーのとることのできる戦略や選択肢の数幅
リアリティ
ゲームのモデルが、現実のモデル化の対象にどれだけ近いのか
既存のゲーム分類は先に上げたとおり「その他」を含めて 11 通りあったが、表 3-1 の
分類別評価基準項目を見てもわかるように、分類による評価基準項目の違いは小さかった。
この最大の理由は現在市販され一般的にプレイされているゲームの多くが、既存の分類本
来の意味での分類にまたがったゲームシステム用いているためと考えられる。たとえば役
割を演じてシナリオを進めていく「RPG」に「アクション」ゲームの要素を組み合わせた
ゲームソフトであれば、「RPG」と「アクション」というそれぞれの分類に必要となる評
23
価基準項目の「和集合」が設定されることになる。「アクション」ゲームに「RPG」要素
を組み込んだものも結果は同じである。つまりこのような境界線上のゲームが増えると
「RPG」と「アクション」ゲームの分類間の評価項目がほとんど一致したものとなってく
る。複数のゲームシステムが絡み合った結果、既存の分類では評価項目の違いが見えなく
なってしまうのである。
このように既存のゲームソフト分類に基づいて評価基準を見ていったのでは、ゲームソ
フトの違い(つまり要求されるゲーム要素の違い)が明確にならないことがわかったが、
本来は分類ごとに求められるゲーム要素は異なるはずである。そこで本来の意味として、
各々のゲームソフトに必要となるゲーム要素を分類的に考えてみたい。
「RPG」と「アドベンチャー」は、ストーリーを重視したゲームソフトである。そのた
め、ストーリーを魅力的に見せるための本来「演出面」に力を入れたゲームが多いはずで
ある。
「アクション」や「シューティング」
、
「格闘アクション」、
「レース」といった分類のゲ
ームは、
「ゲーム動作」や「操作性」が重要なはずである。この分類におけるゲームは、
「巧
緻性」という運動能力を必要とするゲームであるために、ゲーム動作もすばやいものが求
められ、すばやい操作が可能な「操作性」が求められるわけである。「レース」では、実
際の競技をモデルとしているため、「リアリティ」が重視されなければならない。
「シミュレーション」では、「システム」や「戦略性」が重視されるべきである。これ
は、シミュレーションの項目で説明したように、シミュレーションの利用方法として意志
決定や、判断業務を支援する手段としての要素をもっているためである。「ボード」ゲー
ムも「システム」や「戦略」が重視されているが、これは「将棋」や「囲碁」といった伝
統的「ボード」ゲームが、コンピューターがまだ発達していなかった、もしくはなかった
時代においてシミュレーション的な利用目的で使用されていたからであろう。現在有名な
「モノポリー」なども経営シミュレーション的要素を多く含んでいる。
「パズル」も、「シミュレーション」や「ボード」ゲームと同じような性質を持ってい
るが、先にも述べたように、
「パズル」は数学的推理ゲームとしての性格が強いため、「戦
略」や「難易度」がより重視されるべきである。
「スポーツ」ゲームは、アクション的な要素をもったものと、シミュレーション的な要
素をもったもの、二つの要素が混合されているため、これらの二つの要素が交じり合って
いるはずである。
繰り返しとなるが、既存ゲーム分類は、分類段階で「シミュレーション」や「アクショ
ン」といったシステム的な分類のものと、
「レース」やスポーツといった、現実モデル(ゲ
ームテーマ)の違いという二つの基軸を混ぜて使用している。このように、異なった基軸
の分類を混ぜることは、厳密な分類をおこなう上で適切な分類方法とはいえない。
また、既存のゲーム分類の項で述べたように、現在のゲームの多くは、既存のゲーム分
類にまたがったゲームが多いので、分類ごとの評価基準に違いが現れにくくなっている。
24
また、評価項目の言葉の定義があいまいなことも、評価項目の差異をなくしている大きな
原因である。
調査したサイトにおいて、「ゲームシステム」という言葉が多用されているが、この言
葉が厳密な定義のもとに使われているわけではなかった。「ゲームシステム」の意味はゲ
ームの形態によって様々であった。分類ごとに「ゲームシステム」という言葉のニュアン
スが違っているのである。
「ロールプレイング」ゲームでいう「ゲームシステム」と、「ア
クション」ゲームの「ゲームシステム」は同じ「ゲームシステム」という言葉を使っては
いるが、実際は異なるものであった。「ロールプレイング」ゲームにおける「ゲームシス
テム」とは、基本的なルールであったり、プレイヤーがゲーム内で操るキャラクターのパ
ラメータであったり、プレイヤーの攻撃方法、用意されているアイテムなどを指すことが
多い。
「アクション」ゲームや「シューティング」などにおける「ゲームシステム」とは、
敵キャラクターのプログラムされた動作パターンであったり、出現ポイントや出現数であ
ったり、プレイヤーキャラクターの動作パターンが主なものである。この考え方は「格闘
アクション」ゲームでもほとんど変わらないが、この分類のゲームの多くが、「敵キャラ」
と、プレイヤーキャラクターとの一対一でゲームが進行するため、「敵キャラ」の出現ポ
イントや、出現数などは必要とされない違いがある。
「シミュレーション」の「ゲームシステム」としては、モデルの構築方法や、モデルの
抽象化の度合い、モデル構造の選択などが挙げられる。「シミュレーション」には、疑似
しようとする対象が現実にあるので、この現実の対象をいかにゲームに作りかえることが
できるかという点が「シミュレーション」の「ゲームシステム」の最重要点となる。
その他のゲーム分類においても、「アドベンチャー」ゲームなら、プレイヤーの行動選
択方法が「ゲームシステム」に包括され、「ゲームシステム」と一口に言っても、その内
容は多種多様なわけである。
「操作性」に関しても、「アクション」ゲームや「シューティング」、「レース」ゲーム
などでは、すばやい操作、プレイヤーが思ったとおりに操作できるのかどうかが重視され
る。それに対して「RPG」や「シミュレーション」、「アドベンチャー」などの場合は、「ア
クション」ゲームのような、すばやい操作が求められるわけではない。この場合で言う「操
作性」とは、パラメーターの操作や、プレイヤーの意思決定を入力するときにおける操作
のしやすさのこと、いわゆるオペレーター的な「操作性」のことを指している。このよう
に他の評価基準項目においても、言葉は同じでもゲームによってニュアンスが異なってい
るのである。
このようなことから、環境ゲームを分類し、環境ゲームとして最適なゲームシステムを
模索するためには、既存の分類では不十分であるという結論に達した。
3-6-3 新規ゲーム分類の提案
これまで説明したように既存の市販ゲームソフトに関する分類では、分類ごとのゲーム
25
ソフトの性格や特徴を把握することに限界があった。つまり問題解決支援ツールとしての
環境ゲームソフトに最適なゲームシステムを考えるのにあたり、既存の分類では不十分で
あった。そこで新しい分類を考案し、混乱を招く恐れのない厳密な分類方法の提案を行う
こととした。
新しい分類を考案するにあたり、
(1)視点(基軸)の違う分類を同時に用いない、
(2)
オーバラップする分類は避ける、(3)あいまいな定義を避け、すべてのゲームが厳密に
分類できるようにする、以上 3 点に特に留意した。
新規に作成したゲーム分類は、二つの独立した基軸による 2×2=4の四分類である。
以下にそれぞれの基軸の考え方を説明する。
3-6-4 ゲーム分類基軸1
最初に分類基軸として使用する言葉の定義を明らかにしておく。
巧緻性 31),32),33)とは(運動学による定義)
「形成された運動条件反射のことで、複雑な協応性を持つ運動を正確にすばやくこなす
ことができる能力。空間と時間とに適合した運動の正確性能力のこと。運動能力、工芸・
工作技能の一要素。運動(作業・操作)を素早く正確におこなうための能力のことをあら
わすときも使われる。」
3-6-4-1 巧緻性ゲーム
プレイヤーが直接操作・運動をおこなうことが、プレイヤーがそのゲームソフトを楽し
む必須要素であるもの。スピード、反射神経、正確な操作等の「巧緻性」を必要とする。
野球やサッカー(いわゆるスポーツゲーム)においては、ボールを正確に同じところに投
げたり、飛んでくるボールを正確に打ったり蹴ったりするといったような動作が求められ
る。これが「巧緻性」であり、スポーツの最も重要な要素の一つである。スポーツのよう
な全身運動のほかにも、工作、工芸などの作業でも、くぎ打ちや穴あけ、組み立て作業や
手作業などにおいて「巧緻性」が要求される。コンピュータゲームでも、インベーダーゲ
ームやスーパーマリオブラザーズ等は画面上のキャラクターをすばやく正確に操作するこ
とがゲームの重要な要素となっている。このようなゲームソフトを「巧緻性ゲーム」と呼
ぶ。
3-6-4-2 非巧緻性ゲーム
プレイヤーにあたえられる選択肢の形態が「巧緻性」をもとめないゲームソフト。よっ
て、プレイヤーが直接操作・運動をおこなうことがなくてもよい思考中心のゲームソフト
を指す。「モノポリー」や「人生ゲーム」といった「ボード」ゲームは、サイコロやルー
レット、カード等に従いプレイヤーが行動し、場面場面で現れる選択肢を選びながらゲー
ムが進行する。また伝統的なゲームとしての「将棋」や「囲碁」
、
「麻雀」なども、ルール
26
に定められた中で、プレイヤーがとることのできる選択肢を選ぶことでゲームが進行する。
しかし、これら選択行為に「巧緻性」が必要なわけではない。極端な話、プレイヤーが判
断だけを下し、実際の選択行為を他人に代行してもらうことでもこれらのゲームは成立す
るのである。コンピュータゲームの中では、「シムシティー」や「バランス・オブ・ザ・
プラネット」などの「シミュレーション」ゲームや、「ドラゴンクエスト」や「ファイナ
ルファンタジー」といった「ロールプレイング」ゲーム等がコンピュータを用いてはいる
ものの、中心的なシステムとしては上記にあげた「ボード」ゲームと同じ形態をしている。
このようなゲームソフトを「非巧緻性ゲーム」と呼ぶ。
3-6-5 ゲーム分類基軸2(乗積関数・逆関数)
プレイヤーに与えられる選択肢あるいはその結果としての「アウトプット」の分岐(そ
の広がり)に着目し、分類する方法。
3-6-5-1 選択肢乗積関数ゲーム
場面場面でのプレイヤーの選択肢の幅は有限だが、プレイ進行とともに選択可能な選択
肢とその結果としての「アウトプット」の幅が乗積の形で指数的に増加する、よって結果
が多様に変化するゲーム。ただし「アウトプット」はあくまで選択肢と「不確定要素」の
関数である。
27
n
アウトプット = f (∏ p i,不確定要素)
i =1
p i = 場面場面でプレーヤー のとる選択肢
n
∏ p i = p1 × p 2 × L p n
i =1
図 3-4 乗積関数ゲーム
図 3-5 選択肢(アウトプット)の乗積的増加
図 3-5 のように、例えば絶えず 2 個づつの選択肢がプレイヤーに与えられている場合、
それらの選択肢に対応し必ず2つ(以上)の結果がある。この場合プレイヤーが 2 回目の
選択を行った結果は掛け算され4個となる。このようにして選択肢を選んでいくごとに「ア
ウトプット」(結果)が多様化していく。ゲーム中プレイヤーのおかれている状況(前回
の「インプット」に対する「アウトプット」)は、プレイヤーの選択が乗積された関数結
果としての一場面である。「将棋」や「囲碁」などの伝統的「ボード」ゲームから、市販
コンピュータ「シミュレーション」ゲームのすべてがこの形態である。環境ゲームソフト
として有名な、「シムアース」や「バランス・オブ・プラネット」もこの選択肢乗積関数
形態をとったコンピュータ「シミュレーション」ゲームである。
3-6-5-2 選択肢逆関数ゲーム
あらかじめ選択肢はゲームシステム(制作者)によって定められており、プレイヤーが
その選択肢を探し出すことによってストーリーが進行するゲーム、つまりプレイヤーの最
終的選択肢があらかじめ設計されているゲームである。
28
pi = f
−1
(ゲームシステム(制作者)が定めたアウトプット)
pi = 場面場面でのプレーヤーのとる選択肢
図 3-6 逆関数ゲーム
図 3-7 逆関数的選択肢の分岐
選択肢逆関数ゲームは図 3-6 のように、プレイヤーが次に与えられる「アウトプット」
はあらかじめゲームシステムによって決まっている(もちろんそれがどんな「アウトプッ
ト」かの情報はプレイヤーには与えられていない)。場面場面においてプレイヤーがとり
うる幅が有限である点では先の乗積関数と同じであるが、重要な点はプレイヤーの目標の
違いである。プレイヤーに求められるのは、これらの選択肢の中からゲームシステムの意
図した「アウトプット」を導き出す選択肢を選びだすこと、つまり逆関数ゲームなのであ
る。ストーリー性の強い「ロールプレイング」ゲームや「アドベンチャー」ゲームなどが
この形態のゲームソフトである。
29
3-6-6 新規分類による既存ゲームソフトの再分類
次にここで提案した新規分類と既存の分類との相違を明らかにするために、新規分類で
既存のゲームソフトを再度分類し直してみる。
図 3-8 新規分類による既存ゲーム分類の再分類
図 3-8 は新規分類方法によって既存のゲームソフトを再分類し直したものである。図に
おける、第1象限の「巧緻性・選択肢乗積関数」分類にあたるものは、ゲームを進行させ
る上で「巧緻性」を必要とし、なおかつプレイヤーがとるべき選択肢があらかじめ設計さ
れていないものである。この分類に入るのは、既存のゲーム分類でいう「アクション」
、
「シ
ューティング」、「レース」と、「シミュレーション」の中でもフライトシミュレーターや
ドライビングシミュレーターなどの「巧緻性」を必要とするものである。また、これら以
外の既存のゲームソフトについても、
「巧緻性」をゲーム進行のために全般的に必要とし、
なおかつプレイヤーの選択肢があらかじめ決められていないゲームソフトはこの分類に入
る。
「非巧緻性・選択肢逆関数」分類(図の第3象限)では、既存のゲーム分類でいう「ロ
ールプレイング」ゲームや「アドベンチャー」ゲームなど、ゲームを進行させる上で「巧
緻性」を必要とせず、さらにプレイヤーの選択肢があらかじめ設計されているゲームソフ
30
トがこの分類に入る。
「非巧緻性・選択肢乗積」分類(図の第2象限)には、既存のゲーム分類でいう「シミ
ュレーション」がこの範疇に入る。この分類の「シミュレーション」は、同じ「シミュレ
ーション」でもフライトシミュレーターやドライビングシミュレーターと異なり、「バラ
ンス・オブ・ザ・プラネット」や「シムアース」のように「巧緻性」を要求されないゲー
ムソフトである。
「巧緻性・選択肢逆関数」分類(図の第4象限)には、「巧緻性」を必要とする「パズ
ル」ゲーム(「テトリス」など)がこの範疇に入る。プレイヤーの取るべき選択肢は(パ
ズルの正解)は限定されているが、その正解となる選択肢を選ぶために「巧緻性」が必要
となるゲームソフトのことである。
31
3-7 環境ゲームソフトの定義 35)
環境ゲームソフトとは簡単にいうと、環境問題をテーマとしてあつかっているゲームソ
フトのことである。現在市販されている環境ゲームソフトとして有名なものとしては「バ
ランス・オブ・ザ・プラネット」や「シムアース」などがある。しかし環境問題をテーマ
とするゲームソフトの本数は極端に少なく、環境分野のゲームソフトの開発はなお発展途
上中にあるといえるだろう。しかし一方で近年のインターネットの爆発的発達により、環
境問題をあつかったホームページが増えてきており、自らのページにおいて、個人的に作
成した環境ゲームソフトを公開しているサイトも増えてきている。
直接環境問題をテーマとはしていないが、ゲームシステムの一部として環境問題を内包
しているゲームソフトも存在する。有名なのものとして「シムシティ」がある。「シムシ
ティ」のゲームとしての目標は、いかに自分の街(シティ)の人口を増やすかということ
であるが、無計画なまちづくりをしていると、交通渋滞が起きたり、大気汚染が進行する
など、公害が発生することになる。この種の環境問題を解決していかないと街の人口は増
加せず、街の発展はない。「シムシティ」はまちづくりというプロセス(過程)の中に環
境問題を取り込んでいるのである。「シムシティ」のように、ゲームの主テーマとして「環
境問題」をあげていなくとも、環境問題がゲームシステムの中に重要な要素として組み込
まれている場合には、これらのゲームソフトを環境ゲームソフトと呼んでもいいのではな
いだろうか。
また、ゲームソフトではないが環境問題をテーマとしたコンピュータソフトがいくつか
市販されている。有名なところでは、富士通エフ・アイ・ビーの出した「cocodiet 環境家
計簿」がある。このソフトは普通に家計簿をつけながら、日常の暮らしにおいて、地球環
境に影響をおよぼす行動を自己採点することができる。自分がいかに「地球にやさしい暮
らし」を実践しているのかどうか、客観的に知ることができるものである。このソフトは、
家計簿を毎日つけることによって、環境に配慮した日常的な行動を身につけさせることを
狙いとしている。このようなソフトは環境ゲームソフトとは呼べないが、ゲーム性を組み
込むことですぐにでも環境ゲームソフトとなりうるものである。
3-7-1 環境ゲームの種類と目的
環境ゲームの形態は、ゲーミング・シミュレーションやコンピュータゲーム、「ボード」
ゲームなど様々である。さらにコンピュータゲームの中にも、市販ソフトもあれば、個人
や企業などが商業を目的とせずに作成し、インターネット上で公開しているソフトなども
ある。市販ゲームとして作られた環境ゲームソフトは、環境問題という堅苦しいテーマを
あつかっているため発売当初において商業的な成功を収めることはほとんどないだろうと
考えられていた。「バランス・オブ・ザ・プラネット」の作者クリス・クロフォードも商
業的に成功するとは考えておらず、このゲームを自費で開発している
36)
(多摩豊編著 バ
ランス・オブ・ザ・プラネットとシムアース 1991)。しかし商業目的で成功を収めないこ
32
とを予測しながらも市販ゲームであるゆえに「バランス・オブ・ザ・プラネット」や「シ
ムアース」といったゲームソフトは規模が大きく、メディアへの露出も大きかった。
これに対し、インターネット上で公開されているゲームソフトの多くは、環境問題に関
心のある個人や企業が、ホームページに訪れた人に「楽しみながら環境問題に関心を持っ
てもらい学習してもらおう」という目的で作られている場合がほとんどである。そのため、
これらのゲームソフトの規模は小さく、ゲームシステムも環境ゲームソフトのために新し
く設計したというより、既存のゲームシステムに少しだけ手を加え、環境問題をあてはめ
たものが多い。プレイ時間も短いものが多く、認知度も市販のゲームソフトに比べるとは
るかに低い。環境問題に関心があり、なおかつインターネットを使って環境問題のホーム
ページを探している人でないと、まずこのようなゲームソフトの存在に気がつく人はいな
いのではないだろうか。だが、インターネットの爆発的普及、発達を考えたとき、「バラ
ンス・オブ・ザ・プラネット」と「シムアース」に続く環境ゲームソフトは、ひょっとす
るとインターネット上に生まれるかもしれない。
「バランス・オブ・ザ・プラネット」や「シムアース」は、1990 年 4 月 22 日のアース
ディにあわせて作られたゲームである。この日、環境保護をテーマとした数多くの集会や
イベントが世界中で開かれていた。「バランス・オブ・ザ・プラネット」と「シムアース」
は、このアースディにゲームソフトとして参加し、環境問題を訴えるために作られたもの
である
37)
。またこの二つのゲームは、ゲームというシステムを用いて地球環境および地球
環境問題を表現しようとしたはじめてのゲームでもあった。
環境問題を対象としたゲーミング・シミュレーションのほとんどは、教育目的や研究目
的のために作られており、一般の環境問題に興味を持たない人がプレイする可能性は極め
て低い。ゲーミング・シミュレーションは、「バランス・オブ・ザ・プラネット」や「シ
ムアース」のように個人的に楽しむものではなく、授業の一環として行われたり、研究を
補助する目的で使われたりする。有名なものとして、小幡範雄の「環境コンフリクト実践
ゲーム」24)では、環境におけるコンフリクトを解析するために、ゲーミング・シミュレー
ションが使われている。このゲーミング・シミュレーションは、研究者レベルの人間を対
象としているため、非常に難解なものであり、一般の人が前知識なしにプレイするように
は作られていない。もちろん教育目的のゲーミング・シミュレーションには、前知識をあ
まり必要としないゲームもあるが、しかしこのようなゲーミング・シミュレーションにお
いても、その殆どでディブリーフリングが行われており、ゲーミング・シミュレーション
だけをプレイすることが目的ではないことがわかる。ゲーミング・シミュレーションは環
境問題に興味を持つ個人が、なんの前知識もなくいきなりプレイすることができないもの
である。それに対して「バランス・オブ・ザ・プラネット」や「シムアース」といった環
境ゲームソフトは、ゲームをする意志を持っている人なら誰でもプレイすることができる
ものである。
33
3-8 環境ゲームソフトの特徴 35)
環境問題をテーマとして、ある程度リアリティのあるゲームを作ろうとしたとき、どう
してもゲーム性という娯楽要素をいかに取り込むかという問題に突きあたることになる。
インターネット上にあるゲームソフトの多くは、ホームページを訪れた人に、楽しみなが
ら環境問題に興味を持ってもらい、学習してもらおうという意図を持っている。これらの
ゲームソフトが難解なものならば、一握りの人しか楽しめないゲームとなるだろう。だが、
今度は面白いゲームにしようとして、あまりに娯楽的な要素を強めてしまうと、逆に環境
問題の本質をプレイヤーに伝えることができなくなるというジレンマを抱えることになる。
ゲームソフトとして完成度が高くても、プレイしてくれるプレイヤーがいなくてははじま
らない。一般のプレイヤーの多くは「ゲームは娯楽のためにやるもの」と信じているので
はないだろうか。このようなプレイヤーを惹きつけるような環境ゲームソフトを作ること
は難しい。本論文で対象とするような問題解決支援ツールとしての環境ゲームソフトにお
いても、ゲームがまったく面白くなければ環境問題に関心のある人といえど簡単にはプレ
イしてくれないだろう。また一般の人を対象とするのなら、なおさらゲームは面白いもの
でなければならないだろうし、一般の人にもわかってもらえるように難解な環境問題をわ
かりやすく提示しなければならないだろう。ゲームとしての面白さを実現しつつ、環境問
題という難解なテーマをゲーム上で表現し、さらにゲームのプレイを通して環境問題の本
質をわかりやすくプレイヤーに伝えたい。このことが環境ゲームソフトにとって最大の難
関となる。環境ゲームソフトはこのように、大きな問題を抱えている。そのため現在環境
ゲームソフトの本数が少ないのではないだろうか。
環境ゲームソフトはまた、目標の幅広さが特徴となる。経済を対象としたゲームソフト
は環境ゲームソフトよりも多く存在する。しかし経済ゲームソフトのほとんどは、見た目
こそ違え根本的な部分はみな「いかに利潤を最大化するか」である。家庭用ゲーム機器に
おいても、会社経営をモデルとしたゲームソフトは多く販売されている。これらのゲーム
ソフトは、対象とする会社の規模や業種などは異なるものの、最終的な目標はいかにその
会社を大きくするかということである。またゲームシステムも大きく異なることはないだ
ろう。しかし環境ゲームソフトでは、経済ゲームソフトのように統一した目標設定がある
わけではない。もちろん環境ゲームソフトの大きな意味での目標設定は「地球環境をいか
に守るか」である。だが環境ゲームソフトにおいては、環境問題のどの側面をゲーム化す
るかによって、ゲームの目標やゲームシステムが異なってくる。「バランス・オブ・ザ・
プラネット」と「シムアース」がわかりやすい例であろう。「バランス・オブ・ザ・プラ
ネット」は環境問題の社会的な側面をゲーム化したものである。ゲーム内でのプレイヤー
の役割は国連の環境問題高等弁務官であり、プレイヤーは各種産業に対して課税を行い、
そこで得た資金をいろいろな分野の補助金として分配することができる権限を持つ。プレ
イヤーはこの権限を最大限に利用して環境に対する悪影響を減らし、地球環境の改善を行
っていく。つまり「バランス・オブ・ザ・プラネット」は、環境問題の社会的な構成をシ
34
ミュレートしようとしたものである。「バランス・オブ・ザ・プラネット」は、環境問題
を 150 あまりのカードで表現している。カード一枚一枚には環境問題に関連する要因が文
章によって説明されている。カードの右側に Causes(原因)と Effects(影響)という二
つの欄があり、このカードに関連する原因と影響についての要因(つまり別のカード)を
たどることができるようになっている。このようにして 150 あまりのカードすべてが複雑
に関連付けられている。このカードの複雑な関連付けで、複雑に錯綜する地球の環境問題
をあらわしているのだ。プレイヤーはこのカードをたどりながら、政策を決定していく。
「バランス・オブ・ザ・プラネット」のゲームシステムはこのカードとカードとの関連付
け、いわゆる「ハイパーカード」がメインとなっている。(もちろん、カード間の相互関
連性はコンピュータプログラムとしては数式で表現されている。
)
「シムアース」は、地球という惑星のシステムがどのような仕組みになっているのかを
表現しようとしたゲームソフトである。つまり「シムアース」は、地球の生態系をマクロ
な視点でゲーム化している。「シムアース」は人間を中心においたゲームではない。プレ
イの仕方によっては、現在でいう人類が生まれないこともある。プレイヤーには地球の環
境を変化させることのできる様々なツールが与えられている。これらは、Geosphere(岩
石圏)、Hydrosphere(水圏)、Atmosphere(気圏)、Bio(生物)、Civ(文明)にわかれて
おり、プレイヤーはこれらを使いこなしながら生命を誕生させ、生命を進化させていくこ
とを目標とする。「シムアース」では隕石の衝突率から降水量まで、地球に関するありと
あらゆるパラメーターを変化させることができる。文明を持った生命は最終的に地球間移
民を行うまでに進化するが、これ以後もゲームが続くことでもわかるように、このゲーム
においては明確な最終的目標は存在しない。プレイヤー次第でどうにでもなるのである。
また、「バランス・オブ・ザ・プラネット」ではプレイヤーに環境問題高等弁務官という
明確な役割が与えられていたが、「シムアース」では明確な役割が用意されていない。プ
レイヤーはコンピュータの中に用意された惑星を、あたかも自分が神になったかのように
色々と作り替えることができる。しかし、生命はそう簡単には進化しない。プレイヤーは
生命の星、地球がいかに微妙なバランスの上に成り立っているのかを体験することになる
のだ。
「シムアース」と「バランス・オブ・ザ・プラネット」、同じ地球環境をテーマとしな
がらも、見た目はもちろんのこと、ゲームシステムまでもまったく異なっている。すなわ
ち、環境ゲームソフトといっても取り上げる現実の対象や、取り上げ方が違えばまったく
異なったゲームになる。これは環境ゲームソフトの大きな特徴である。
3-8-1 環境ゲームソフトに要求されること 35)
環境問題解決支援ツールとしての環境ゲームソフトは、娯楽ゲームソフトとは違い、た
だ面白いだけのゲームであってはならない。娯楽ゲームは何よりプレイヤーが楽しい、面
白いということを優先する。「バランス・オブ・ザ・プラネット」と「シムアース」は娯
35
楽目的のゲームソフトと同じように商業ゲームソフトとして発売された。だが娯楽目的の
ゲームソフトとは一線を画している。お世辞にもこの二つのゲームソフトは他の娯楽を追
求して作られたゲームと比べて面白いとは言えない。しかし、この二つのゲームはそれだ
けで評価されるべきものではない。環境ゲームソフトということを意識してプレイするプ
レイヤーは、娯楽目的のゲームと同じものを要求しているわけではないだろう。環境ゲー
ムソフトには娯楽ゲームソフトとはまた違ったものが要求されているのである。
環境ゲームソフトには、モデル化の対象となる現実の世界があるはずである。モデル化
というとすぐ「シミュレーション」を思い浮かべるが、「シミュレーション」以外のゲー
ムソフトにおいても環境ゲームソフトを作ろうとしたとき、環境問題が現実世界の問題で
ある限り、環境問題のどこかしらの側面をモデル化してゲーム内で表現しなければならな
い。「バランス・オブ・ザ・プラネット」は先に延べたように環境問題のなかでも社会問
題という側面をモデル化していた。「シムアース」は、地球というグローバルな視点でモ
デル化を行っている。このモデル化された仮想の世界がどのように振る舞うかが、環境ゲ
ームソフトにとって非常に重大である。「バランス・オブ・ザ・プラネット」でうまくい
った策を実際の社会で応用しても、うまく行くことはないだろう。かといって「バランス・
オブ・ザ・プラネット」のモデルが悪いわけではない。環境ゲームソフトは、厳密な結果
を求められるシミュレーション実験ではない。結果として出てくるものはそれほど重大で
はないのだ。「バランス・オブ・ザ・プラネット」は、社会問題としての環境問題(その
複雑な相互関連性)をハイパーテキストという新技術で上手く表現している。現実と結果
は異なるかもしれないが、モデル化の方向性は間違ってはいない。たとえば二酸化炭素が
増加すれば地球温暖化現象が発現することになっているが、これは精度こそ違え現実で問
題となっていることと同じである。「バランス・オブ・ザ・プラネット」では環境問題の
原因となる要因は何か、その要因がほかのどの要因に影響を与え(あるいは与えられ)、
どのような問題を引き起こしているのか、という環境問題の相互関連性をモデル化してい
る点が重要である。「シムアース」は地球がどのようなメカニズムで生命を育んでいるの
か、現在の地球環境がいかにあやういバランスの上に成り立っているのか、ということを
地球のモデルを通して教えてくれる。プレイヤーも「バランス・オブ・ザ・プラネット」
を用いて、現実の政策決定を支援してくれることを期待しているわけではない。「バラン
ス・オブ・ザ・プラネット」は、我々の社会がどのような問題を抱えているのか、またそ
の問題の構造はどのようなものなのかをプレイヤーに提示しているのである。「バラン
ス・オブ・ザ・プラネット」の目的は高得点をあげることではない。環境問題に関する理
解を深めることこそ、このゲームソフトの真の目的である。これは「シムアース」でも同
じことである。このように環境ゲームソフトは、環境問題に対する理解を深めるためのツ
ールとしての性格が強い。環境問題解決支援ツールとしての環境ゲームソフトに最も求め
られる機能の一つであろう。
「バランス・オブ・ザ・プラネット」や「シムアース」のマニュアルは大変厚く、中身
36
も現実の環境問題に関する科学的な解説でしめられている。内容も難解なものが多い。し
かし、これらを読み通せば確実にゲームの利得を高めることができる。このように、現実
世界に関する知識がゲームにおいても有効に働くことは、環境ゲームソフトに必要なこと
である。ゲーム世界においてだけしか有効でない知識ばかりを必要とするゲームは、現実
世界へのフィードバックがなく、ゲームの世界だけで完結してしまう。娯楽用ゲームソフ
トにはこの手のものがほとんどである。また環境問題解決支援ツールとしての使用法を考
えれば、逆にゲームプレイを通して、現実世界で有効な知識を得ることも環境ゲームソフ
トに要求されるものの一つであろう。実験的ゲーミング・シミュレーションは、ゲームプ
レイを通して新しい知識を得ることを目的としている。同様にプレイヤーがゲームを実験
的に行い、その結果を分析し、現実世界に応用できることも環境ゲームソフトに求められ
る重要な役割である。
環境ゲームソフトに求められている要求をまとめると
(1)プレイヤーが面白くプレイでき
(2)現実とゲームの間で知識の共有がはかれ
(3)ゲームプレイ後に新しい知識を得ることができる
ゲームということになる。そして本論文の役割としてはこのような環境ゲームソフトに最
も適したゲームシステムを導き出すことになる。
3-8-2 コンピュータゲームによる新たな環境問題表現方法
コンピュータゲームとして世に出た「バランス・オブ・ザ・プラネット」と「シムアー
ス」の、二つのゲームの特徴はなによりも、既存のメディアでは完全に表現することがで
きなかった、複雑に錯綜する環境問題をコンピュータ上で再現したことであろう。この二
つのソフトは、プレーヤーの関与によって結果が多様に変化する、インターアクティブメ
ディア
38)
という新しい手法をによって、堅苦しく複雑な環境問題をゲームソフトとして表
現することに成功したのである。また、インターアクティブという手法を用いることで、
地球環境にあまり詳しくない一般の人々でも環境ゲームソフトを容易にプレイできるよう
になったのである。
「バランス・オブ・ザ・プラネット」では、前述したように「ハイパーカード」39)とい
う新しい技術を用いて社会問題の視点から、環境問題を表現している。「ハイパーカード」
は環境問題の複雑な相互関連性を表現するためには格好の技術であった。「ハイパーカー
ド」の機能は大まかに説明すると「二つの異なる事項を結び付けることができる」40)とい
うことになる。現在インターネットでおなじみとなっているリンクとは、この「ハイパー
カード」と同じく二つの事項を関連付けるという機能を指している。リンクされたカード
は相互参照関係にあり、行き来できるようになっている。この「ハイパーカード」を使う
ことによって「バランス・オブ・ザ・プラネット」の核である 150 あまりのカードが相互
に関連付けされ、それによって地球環境問題を表現しているわけである。もちろん関連付
37
けはできるかぎり科学的な根拠に基づいて行われている。この「ハイパーカード」を用い
ることによって、環境問題に詳しくないプレイヤーでも、カードのリンクをたどっていく
ことで、環境問題の複雑な相互関連性を学ぶことができるのである。
「バランス・オブ・ザ・プラネット」がカードとカードに書かれた文章(カードの裏に
ある数式モデル)によって地球環境を表現しているのに対し、「シムアース」は地球をグ
ラフィックとアニメーションによって表現している。文章では難解になりがちな概念を、
グラフィックとアニメーションの変化によってプレイヤーは直感的に、今地球に何が起こ
っているかを知ることができるようになっている。たとえば、太陽からの放射量や温室効
果を下げると、たちまち画面上に表示されている地球の気温や海水温度が低下し、あちこ
ちで大陸や海が凍り始める。これらはすべて視覚的なグラフィック情報としてプレイヤー
に伝えられる。このようなことを通じてプレイヤーは、太陽からの放射量や温室効果の仕
組みを知ることができるわけである。「シムアース」には数多くのパラメーターが用意さ
れており、実際にプレイヤーはそれらを自由に変更することができる。パラメーターを変
更すると、画面上の地球は刻々とその影響を受けて変化していく。これらの過程を通じて
プレイヤーは、直感的に地球という大きなシステムとそれを構成する各々の要素の役割を
学習する事ができるわけである。
「シムアース」で用意されている数多くのパラメーターは、「バランス・オブ・ザ・プ
ラネット」のカードのように相互関連している。「シムアース」ではこの相互関連を「ハ
イパーカード」ではなく、
「セルラーオートマトン風のオートマトンの手法」41)によって表
している。これは簡単に説明すると、「シムアース」の世界は碁盤の目のように細かな四
角形のマス目でしきられており、これがいくつもの層に重なってできている。この一マス
一マスは周囲のマス目の数値状態をみながら一定のルールにしたがい、自分の数値を変え
ていく。また多層構造となっている碁盤のそれぞれの層は、特定のフェーズの計算をおこ
なっている。たとえば海水の温度を計算している図では、一枚の碁盤の図が地球の海水面
をあらわしており、マス目の一つ一つにその場所の海水温度が計算されているわけである。
別の碁盤の図では大気温や大気流、降雨量などをあらわしており、それぞれが相互に影響
を及ぼしあっているのである。このようなシステムを用いて、地球のパラメーター間の相
互関連を表現しているのである。これがまさに 3-6-5 で定義した「選択肢乗積関数」ゲー
ムの特徴そのものである。
「バランス・オブ・ザ・プラネット」と「シムアース」がコンピュータによって得たも
のとしてインターアクティブ機能がある。インターアクティブとは「相互に作用する」と
いう意味であった。プレイヤーがゲームで表現された世界に対し、何らかの影響をおよぼ
すことができ、その影響を受けて、表現された世界の状況が変化することである。「バラ
ンス・オブ・ザ・プラネット」と「シムアース」では、プレイヤーがゲームのパラメータ
ーの数値を変化させることにより、ゲームの世界に影響を与えることができる。またゲー
ムの世界は、この影響を受けてその状況を刻々と変化させていく。このことにより、プレ
38
イヤーはどのような影響(インプット)を与えれば、どのよな結果(アウトプット)がか
えってくるのかを把握することができるのである。
これまで見てきたように、
「シムアース」と「バランス・オブ・ザ・プラネット」とは、
どちらも複数の要因の相互関連性を非常に重視していたゲームシステムであった。これは
現実環境問題の持つ、複数の要因が複雑にからみ合っている姿を表現しようとする試みで
ある。またこのことこそ、既存のメディアがどうしても表現することのできなかったこと
なのである。たとえば「ボード」ゲームにおいては、「ボード」という一面だけにおいて
すべてを表現しなければならない。「ボード」の一面だけでは、
「シムアース」のような多
層構造を構築することはできない。活字だけでは、複数の要因が互いに影響し合う状態を
表現することができない。活字は個々の要因について詳しく説明をおこなうことはできる
が、そこから全体象を把握するためには、高度な能力(理解力)を人々に求める。活字で
は読み手に一方通行的にしか、ものを伝えることができない。「シムアース」と「バラン
ス・オブ・ザ・プラネット」のマニュアルが非常に太いのはこのためなのだ。マニュアル
は、ゲームに関連する個々の要因について詳しく説明をしている。しかし、マニュアルを
読んだだけではゲームを上手く進行させることはできないのである。
環境ゲームソフトはコンピュータによって、「インターアクティブ」という相互関連性
を表現する手段を得た。これによって、ようやく環境ゲームソフトは環境問題の性質を表
現できるようになったのである。
39
3-9 環境ゲームソフトに求められる評価項目
前述したように、環境ゲームソフトを評価するためには環境ゲーム独自の特徴的構成要
素の優劣を見なければならない。娯楽目的の既存のゲームソフトは、面白い、面白くない
という観点でのみ、評価されていた。娯楽目的でない環境ゲームソフトを評価するために
既存の評価基準項目を使用することは本質的には誤りである。既存の環境ゲームソフトを
先に延べた環境ゲームに要求される要素と照らしあわせて評価するために、環境ゲームソ
フト固有の評価基準項目を考えなければならない。
第一に環境ゲームソフトは現実の環境問題をゲーム上に表現するわけだが、この表現手
法を評価する必要がある。なぜなら現実の環境問題をそのままゲーム上でまったく同じよ
うに表現することは不可能である。ゲームの世界はあくまでも現実世界のモデル(抽象)
化の結果である。ゲーム上に環境問題を表現するためには、ゲームシステム中の別の要素
に置き換えて表現しなくてはならない。「バランス・オブ・ザ・プラネット」では、社会
問題としての環境問題を、相互関連という視点からゲームとして表現しようとした。その
相互関連性を表現するために選ばれたのが「ハイパーカード」である。また「シムアース」
は、「セルラーオトマトン風のオートマトン手法」という表現方法を用いることで、惑星
の生態系をゲーム上で表現することに成功した。このように、現実の環境問題をゲーム上
でいかに表現することができるのか、その表現手法は環境ゲームソフトの成否のカギを握
る重要な要素である。
第二点目として環境ゲームソフト内で表現されている環境問題は、ゲームをプレイする
プレイヤーにわかりやすいものでなければならない。ゲームの目標やテーマがはっきりし
ないと、プレイする側は何をしたらいいのか、何が問題なのかわからなくなり、プレイそ
のものに支障をきたす。この意味から現実の環境問題をそのまま忠実にコンピュータ上に
再現することは、プレイヤーの混乱を招くだけである。必要なことは現実世界の単純化を
行い、対象となるプレイヤーにゲームの目標やゲームが取り上げている問題をわかりやす
く提示することである。「バランス・オブ・ザ・プラネット」と「シムアース」は普通に
扱うには複雑すぎて難解な現実世界を、抽象化(単純化)することでプレイヤーが環境問
題では何が一番問題なのか、ゲームをプレイする過程でわかるようにしてある。抽象化は
問題の本質的な部分をプレイヤーに伝わりやすいように誇張することである。それは決し
てねじ曲げることではない。現実世界の理解を助けるために作られるゲームソフトが、現
実と同じくらい複雑な構造を持っていても意味はないのである。
40
3-10.環境ゲームソフトに適したゲームシステムのあり方
コンピュータゲームとしての環境ゲームソフトはまだまだ数が少なく、さらに問題解決
ツールとしての環境ゲームは、ゲーミング・シミュレーションの分野ではいくつか開発さ
れているようだが、コンピュータゲームとなると一般にはほとんど知られていない。しか
し先に 3-8-2 で述べたように、我々はコンピュータを使うことで現実の環境問題に内在す
る複雑な相互関連性をゲームソフトでより的確に表現できるようになった。相互関連性を
知ることが、環境問題の解決に向けた第一歩となるのであろう。したがって、コンピュー
タを使うことで環境ゲームソフトは解決ツールとしての機能を持つことができると考えら
れる。コンピュータを使った環境ゲームソフトは今後より積極的に開発されていくべきだ
ろう。そこで今まで調査してきた結論として、コンピュータを使った環境ゲームソフトに
最も適したゲームシステムの形態を提案したい。
3-8-2 で述べた通り環境ゲームソフトには、独特の特徴や表現手法が存在する。これら
と現実の環境問題の問題点とを合わせて考えなければならない。ゲームシステムについて
はすでに新規のゲーム分類に従い分類を行い、それぞれの分類におけるゲームシステムの
特徴を明らかにしているが、ここでもう一度以下にのようにまとめておく。
巧緻性
非巧緻性
表 3-4 新規ゲーム分類一覧
選択肢乗積関数
選択肢逆関数
巧緻性・選択肢乗積関数
巧緻性・選択肢逆関数
非巧緻性・選択肢乗積関数
非巧緻性・選択肢逆関数
既存のゲームソフトは表 3-4 で示している四分類によってすべて分類することができ
ると考えられる。この四分類の中で環境ゲームソフトに最も適したゲームシステムを考
えるわけである。
最初に「巧緻性」ゲームであるが、このゲームシステムは 3-6-4.で定義をしたように
ゲームを進行させる上で「巧緻性」を必要とする。だが、現実の環境問題解決のために
「巧緻性」は必要であろうか? そうは考えられない。また同じように、環境ゲームソ
フトにおいても「巧緻性」は必要ではないのではないだろうか。なぜなら、環境ゲーム
ソフトでは問題の全体像や環境問題の複雑な相互関連性を把握することに重点がおかれ
るべきである。このためプレイヤーはプレイ中に考えるための時間を必要とする。「巧
緻性」は一瞬の判断や運動スピードを求めるものであり、環境ゲームソフトにとっては
逆に害となるものではないだろうか。このことから、環境ゲームソフトに「巧緻性」は
必要ではないと考え、「巧緻性」をゲームシステム要素とする、
「巧緻性・選択肢乗積関
数」ゲームと「巧緻性・選択肢逆関数」ゲームは今後の議論から除外する。
残る問題は、「選択肢乗積関数」ゲームと「選択肢逆関数」ゲームのいずれを取るか
である。「選択肢逆関数」ゲームはゲームシステムによってプレイヤーの選択範囲が最
初から最後まであらかじめ決められている。このゲームシステムの場合、プレイヤーの
41
選択肢の範囲は狭い。なぜならその制限を設けておかないと、ゲームシステムがプレイ
ヤーの選択肢とそれに対するすべての結果に関する膨大なシナリオをあらかじめ用意し
ておかなければならなくなるからである。選択肢の範囲が少ないということは、プレイ
ヤーは自分の意志とは関係のない選択肢の選定を迫られることになる。ただし、このこ
とは逆にゲーム製作者が望む方向および結果にプレイヤーを導くことができるという利
点にもつながる。
「選択肢乗積関数」ゲームは、プレイヤーの「インプット」の乗積に対して「アウト
プット」が多様に変化し、その「アウトプット」を受けてプレイヤーはいかに利得を最
大化させるか、そのための「戦略」を練るわけである。この流れでゲームが進行するた
め、プレイヤーに与えられる選択肢の幅はいちじるしく広くなる。このため「選択肢逆
関数」ゲームのようにゲームシステムがすべての「アウトプット」に対しシナリオを用
意しているわけではなく、「アウトプット」に関するシナリオは存在せず、その解釈は
すべてプレイヤーに委ねられる。この意味で「選択肢逆関数」ゲームのようなストーリ
ー性は存在し得ない。このため「選択肢乗積関数」ゲームでは、プレイヤーは自由に意
思決定を行うことができる反面、何をすればいいのかわからなくなることがあるという
欠点がある。しかし一方このゲームシステムでは、「インプット」や「アウトプット」
に制限がないことからインターアクティブ機能を実現することが可能になるという利点
がある。プレイヤーは様々な「インプット」に対して「アウトプット」を求め、その変
化から、自分が行った「インプット」が「アウトプット」に及ぼす影響を直接確かめる
ことができるようになる。
以上が、「選択肢逆関数」ゲームと「選択肢乗積関数」ゲームの特徴である。まず、
ストーリー性の必要性であるが、現実の環境問題にストーリー性は存在するのだろう
か? ストーリー性が存在するのならば問題に対する特定の解とそれにいたる特定の道
すじがなければならない。ストーリー性の存在は、物事が直線的シナリオに沿って進行
していることを意味する。つまり、何らかの問題が生じるのなら、それに対する解とそ
れにいたる道すじがあらかじめ存在することでストーリーが完結するわけである。環境
問題にストーリー性が存在するのならば、すべての人々が納得できるようなシナリオを
作ることができるだろう。
しかし現実に起こっている環境問題を考えたとき、この政策を行えば必ず問題は解決
するといった、模範解答は環境問題には存在しない。環境問題に模範解答があれば、こ
こまで環境問題が全世界的な問題になることはなかったはずである。環境問題について
は、環境問題解決までの過程を綴ったシナリオを書くことができないと言えるだろう。
なぜなら環境問題は、特定の要因だけによって引き起こされる問題ではなく、複数の要
因が複雑に相互関連する中で問題が生じるからである。いわゆる「風が吹けば桶屋が儲
かる」式の相互関連性が地球環境問題を構成している。具体的には、フロンガスを大量
に使用すればオゾン層が破壊され、大量の紫外線が降り注ぎ、皮膚ガンの発生率を高め
42
るといったようなものである。これらの相互関連性は複雑に錯綜しており、一つの要因
が他の複数の要因に影響を与える関係にある。このように複雑な相互関連性にストーリ
ー性を持たせることはできない。むしろ環境問題をストーリーに沿って考えることは環
境問題の本質である相互関連性を無視することであり、問題の全体像を見失なわせる弊
害のほうが大きいといえるだろう。
以上の議論から環境ゲームソフトとして最適なゲームシステムのあり方を考える。環
境問題では先ほどから何度も述べているように、内在する相互関連性が非常に重要であ
る。相互関連性はストーリー性と相反している。相互関連性の、あちらを立てれば、こ
ちらが立たずという問題こそ環境問題が抱えるジレンマであり、複雑な相互関連性が生
み出す最大の問題なのである。このジレンマを既存のメディアでは表現しきれていなか
ったと考える。このジレンマをゲームとして表現するためには、「選択肢乗積関数」ゲ
ームでなければならない。なぜなら、プレイヤーが良かれと思って「インプット」した
結果、その「インプット」が複雑な相互関連性の結果、他の要因に悪影響を与えるとい
う状況においてこそはじめてジレンマが発生する。「選択肢逆関数」ゲームでは、プレ
イヤーの選択が、他の要因に影響を及ぼす状況を作りだすことができない。つまり、あ
ちら立てればこちらが立たずという状況をゲームシステムが作り出すことができない。
そのため、プレイヤーはこのようなジレンマがどのような過程を経て生まれるのか、自
分で確かめることができないのである。
どんなにすぐれた環境ゲームソフトも、プレイヤーに環境問題に対する模範解答を与
えることはできないし、またそれを目的とすべきではない。問題解決のためには環境問
題の本質を先ず知らなければならない。環境問題の本質とは相互関連性の中に巣くうジ
レンマであった。環境問題の相互関連性は、「非巧緻性・選択肢乗積関数」というゲー
ムシステムを持つ環境ゲームソフトによってはじめて表現することができるだろう。
環境ゲームソフトにも面白さが要求されることは 3-8-1 で述べた通りであるが、
「非巧
緻性・選択肢乗積関数」ゲームは、3-2 で述べたゲームの面白さ、すなわち「ゲームの
奥の深さ」を備えたゲームシステムであるといえるのではないだろうか。「非巧緻性・
選択肢乗積関数」ゲームとは、プレイヤーの選択肢は乗積の形で指数的に増加するもの
であり、選択肢の幅が広いゲームシステムである。選択肢の幅が広いことで、プレイヤ
ーは「戦略」を立てるために数々の試行錯誤を繰り返すことになる。さらに、プレイヤ
ーの「インプット」から返ってくる「不確定要素」を含めた「アウトプット」も多様な
ものとなるだろう。
「非巧緻性・選択肢乗積関数」ゲームはプレイヤーが色々な「戦略」
を試すことができるゲームシステムである。このことがゲームとしての「奥の深さ」、
つまりゲームの「面白さ」につながるものだと考える。
ちなみに「非巧緻性・選択肢乗積関数」のゲームソフトを、既存の分類でいえば「シ
ミュレーション」ゲームソフトの一部ということになり、その代表が「バランス・オブ・
ザ・プラネット」や「シムアース」であった。
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